説明

粉末状イオン性水溶性高分子およびその用途

【課題】 不純物が少なく、輸送コストや環境負荷が小さい特定のイオン性を有する粉末状イオン性水溶性高分子を提供することであって、凝集剤用途詳しくは汚泥の脱水処理用途、製紙スラッジの脱水処理用途と製紙原料に添加して抄紙する方法に対して優れた機能を発揮する粉末状イオン性水溶性高分子およびその用途を提供する。
【解決手段】 分散剤および疎水性分散媒を含有する連続相と、カチオン性単量体および複数の不飽和二重結合を有する多官能性単量体を必須として含有する分散相とからなる分散液を逆相懸濁重合させた後、得られる重合体を乾燥した電荷内包率が35%以上90%以下であることを特徴とする粉末からなるイオン性水溶性高分子と、カチオン性基を有する電荷内包率が5%以上35%未満の水溶性高分子の粉末から選択される一種あるいは二種との混合物からなるイオン性水溶性高分子を提供することで本課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末状イオン性水溶性高分子とその用途に関するものであり、さらに詳しくは、特定の異なったイオン性を発現する水溶性高分子を有する粉末およびその用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、イオン性の水溶性高分子は水分散性スラリーや水溶液の増粘剤、分散剤、紙力増強剤、汚泥脱水剤、製紙原料の歩留向上剤、抄紙時の濾水性向上剤などさまざまな分野で使用されており、その形態は、粉末、ペースト状水溶液、油中水型エマルジョンあるいは水性分散液など様々である。
【0003】
汚泥の脱水処理の分野においては、汚泥の発生量の増加、汚泥性状の悪化による難脱水化が進んでおり、汚泥脱水性の改善、脱水ケーキの含水率の低下が強く求められており、製紙工業の分野では、古紙配合量の増加による原料事情の悪化、抄紙速度の増大による生産性の向上などが求められている。
【0004】
このような要望に対し、イオン性の水溶性高分子は様々な改良が進められてきた。
【0005】
特許文献1には、架橋されたカチオン性の油中重合性分散体の汚泥への適用が例示されている。
【0006】
特許文献2には、電荷内包率35%以上のイオン性水溶性高分子と、電荷内包率5%以上35%未満のイオン性水溶性高分子を組み合わせた汚泥脱水剤としての適用が例示されている。
【0007】
特許文献3には、架橋された水溶性カチオン性の単量体重合物の油中水型エマルジョンを歩留向上剤および濾水性向上剤として抄紙工程に適用する方法が例示されている。
【0008】
上記に例示される改良方法は、いずれも高分子そのものを自由に設計できるといった特徴がある油中水型エマルジョン状の重合物液体である。
【0009】
一方で、粉末状のイオン性水溶性高分子は、その他の形態のものと比較し疎水性溶媒、水あるいは分散剤といった不純物が少ない特徴があり、輸送コストや環境負荷の面で優位性がある。
【0010】
粉末状のイオン性水溶性高分子を得る方法としては水溶液重合法、薄膜重合法、逆相懸濁重合法等が挙げられ、これらのうち逆相懸濁重合法によるポリマーは粒子が球状となるため供給時に目詰まり等のトラブルを起こしにくいことが知られている。
【0011】
特許文献4及び特許文献5には、カチオン性水溶性高分子の逆相懸濁重合法について記載されており、特許文献6には、逆相懸濁重合法により得られた架橋されたカチオン性水溶性高分子と凝集剤としての適用が例示されている。
【0012】
これらの逆相懸濁重合法で得られる粉末状のイオン性水溶性高分子について電荷内包率についての記載は無く、考慮の範疇外であることが明白である。
【特許文献1】特公平08−164号公報
【特許文献2】特開2005−144346号公報
【特許文献3】特開平10−140496号公報
【特許文献4】特開昭54−56690号公報
【特許文献5】特開2004−181449号公報
【特許文献6】特開2004−255378号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、不純物が少なく、輸送コストや環境負荷が小さい特定のイオン性を有する粉末状イオン性水溶性高分子を提供することであって、凝集剤用途詳しくは汚泥の脱水処理用途、製紙スラッジの脱水処理用途と製紙原料に添加して抄紙する方法に対して優れた機能を発揮する粉末状イオン性水溶性高分子およびその用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは鋭意検討の結果、驚くべきことに分散剤および疎水性分散媒を含有する連続相と、カチオン性単量体および複数の不飽和二重結合を有する多官能性単量体を必須として含有する分散相とからなる分散液を逆相懸濁重合させた後、得られる重合体を乾燥した電荷内包率が35%以上90%以下であることを特徴とする粉末からなるイオン性水溶性高分子と、カチオン性基を有する電荷内包率が5%以上35%未満である粉末のイオン性水溶性高分子の混合物からなる粉末状イオン性水溶性高分子が上記課題を解決するものであることを見出した。
【0015】
すなわち請求項1の発明は、分散剤および疎水性分散媒を含有する連続相と、カチオン性単量体および複数の不飽和二重結合を有する多官能性単量体を必須として含有する水溶液の分散相からなる分散液を逆相懸濁重合させた後、得られる重合体を乾燥したイオン性高分子の粉末であって、イオン性高分子の電荷内包率が35%以上90%以下である粉末からなるイオン性水溶性高分子(A)と、カチオン性基を有する電荷内包率が5%以上35%未満である粉末のイオン性水溶性高分子(B)から選択された一種あるいは二種との混合物からなる粉末状イオン性水溶性高分子である。
【0016】
請求項2の発明は、前記粉末からなるイオン性水溶性高分子(A)が、下記一般式(1)及び/または(2)であらわされる単量体5〜100mol%、下記一般式(3)であらわされる単量体0〜50mol%および水溶性の非イオン性単量体0〜95mol%および多官能性単量体の共重合物であり、前記粉末からなるイオン性水溶性高分子(B)が、下記一般式(1)及び/または(2)であらわされる単量体5〜100mol%、下記一般式(3)であらわされる単量体0〜50mol%および水溶性の非イオン性単量体0〜95mol%の共重合物であることを特徴とする請求項1に記載の粉末状イオン性水溶性高分子である。
【化1】

一般式(1)
は水素又はメチル基、R、Rは炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシル基あるいはベンジル基、Rは水素、炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシル基あるいはベンジル基であり、同種でも異種でも良い。AはOまたはNH、Bは炭素数2〜4のアルキレン基またはアルコキシレン基、Xは陰イオンをそれぞれ表す。
【化2】

一般式(2)
、Rは水素又はメチル基、R、Rは炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基、Xは陰イオンをそれぞれ表す。
【化3】

は水素またはCHCOOY、R10は水素、メチル基またはCOOY、QはSO、CSO、CONHC(CHCHSO、CCOOあるいはCOOであり、Y、Yは水素または陽イオンをそれぞれ表す。
【0017】
請求項3の発明は、前記粉末からなるイオン性水溶性高分子(C)が、下記一般式(4)及び/または又は一般式(5)であらわされる構造を有することを特徴とする請求項1に記載の粉末状イオン性水溶性高分子である。

【化4】

一般式(4)
11は水素またはメチル基、Hは無機酸および/または有機酸を表し、
未中和時H=0である。
【化5】

一般式(5)
12、13は水素またはメチル基、Hは無機酸および/または有機酸を表し、
未中和時H=0である。
【0018】
請求項4の発明は、前記粉末からなるイオン性水溶性高分子(C)が、(メタ)アクリルアミドおよび(メタ)アクリロニトリルの共重合物をホフマン反応後、変性して得られたものであることを特徴とする請求項3に記載の粉末状イオン性水溶性高分子である。
【0019】
請求項5の発明は、前記粉末からなるイオン性水溶性高分子(B)が、塩水中あるいは水に非混和性有機液体中にて分散重合した重合物か油中水型エマルジョン重合による重合物および水溶液重合による重合物を乾燥し造粒した、カチオン性基を有する水溶性高分子の粉末から選択される一種あるいは二種であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の粉末状イオン性水溶性高分子である。
【0020】
請求項6の発明は、請求項1〜5に記載の粉末状イオン性水溶性高分子を水に溶解した後、汚泥に添加し凝集させ脱水機により脱水することを特徴とした汚泥の脱水方法である。
【0021】
請求項7の発明は、請求項1〜5に記載の粉末状イオン性水溶性高分子を水に溶解した後、製紙スラッジに添加し凝集させ脱水機により脱水することを特徴とした製紙スラッジの脱水方法である。
【0022】
請求項8の発明は、請求項1〜5に記載の粉末状イオン性水溶性高分子を水に溶解した後、抄紙前の製紙原料中に添加し使用することを特徴とした製紙方法である。
【0023】
請求項9の発明は、無機及び/または有機のアニオン性物質と組み合わせて使うことを特徴とした請求項8記載の製紙方法である。
【0024】
請求項10の発明は、前記アニオン性物質がコロイダルシリカあるいはベントナイトであることを特徴とする請求項8記載の製紙方法である。
【0025】
請求項11の発明は、前記アニオン性物質が、下記一般式(3)で表せる単量体3〜100mol%と水溶性の非イオン性単量体の重合物であることを特徴とする請求項8記載の製紙方法である。
【化3】

は水素またはCHCOOY、R10は水素、メチル基またはCOOY、QはSO、CSO、CONHC(CHCHSO、CCOOあるいはCOOであり、Y、Yは水素または陽イオンをそれぞれ表す。
【発明の効果】
【0026】
本発明の粉末状イオン性水溶性高分子は、不純物の少ない粉末状の水溶性高分子であるため、輸送コストを低減することが可能であり、さらには輸送で生じる二酸化炭素の排出を低減することも可能であり、電荷内包率が35%以上90%以下であることを特徴とする粉末からなるイオン性水溶性高分子と、カチオン性基を有する電荷内包率が5%以上35%未満である粉末のイオン性水溶性高分子の混合物であることから、凝集剤用途、詳しくは汚泥の脱水処理用途、製紙スラッジの脱水処理用途と製紙原料に添加して抄紙する方法に対して優れた機能を発揮する。
【0027】
さらには、分散剤および疎水性分散媒を含有する連続相と、カチオン性単量体および複数の不飽和二重結合を有する多官能性単量体を必須として含有する分散相とからなる分散液を逆相懸濁重合させた後、得られる重合体を乾燥したものであることから、球状の粉末を得ることができるため、粉末供給時に目詰まり等のトラブルを起こしにくい効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明におけるイオン性水溶性高分子の電荷内包率は、イオン性の発現効率に関するパラメーターであり、イオン性物質のポリビニルスルホン酸カリウムによる正滴定と逆滴定との間に大きな差が生じることが汚泥、製紙スラッジおよび製紙原料に添加した場合、効果との間に明確な相関が生じるものである。
【0029】
本発明の粉末からなるイオン性水溶性高分子は、電荷内包率が35%以上90%以下であるイオン性水溶性高分子及び電荷内包率が5%以上35%未満であるイオン性水溶性高分子の混合物からなる粉末状イオン性水溶性高分子である。
【0030】
本発明において、カチオン性水溶性高分子および両性でかつカチオン性単量体とアニオン性単量体のモル濃度の差が正である水溶性イオン性高分子の電荷内包率とは以下のように計算される。
電荷内包率[%]=(1−α/β)×100
αは酢酸にてpH4.0に調整したカチオン性水溶性高分子0.01%水溶液をミューテック社製PCD滴定装置(Muetek PCD 03、Muetek PCD−Two Titrator Version2)により、滴下液:1/1000N ポリビニルスルホン酸カリウム水溶液、滴下速度:0.05ml/10秒、終点判定:0mVにて滴定し、求めた滴定量である。βは酢酸にてpH4.0に調整したカチオン性水溶性高分子0.01%水溶液に1/400N ポリビニルスルホン酸カリウム水溶液を電荷の中和を行うに十分な量加え、十分に攪拌し、同様にPCD滴定装置により、滴下液:1/1000N ジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液、滴下速度:0.05ml/10秒、終点判定:0mVにて滴定し、ブランク値とこの滴定量との差である。ブランク値とは酢酸にてpH4.0に調整した前記1/400N ポリビニルスルホン酸カリウム水溶液と同量のポリビニルスルホン酸カリウム水溶液を、同様にPCD滴定装置により滴下液:1/1000N ジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液、滴下速度:0.05ml/10秒、終点判定:0mVにて滴定し、求めた滴定量である。
【0031】
本発明において、両性でかつカチオン性単量体とアニオン性単量体のモル濃度の差が負である水溶性イオン性高分子では、電荷内包率とは以下のように計算される。
電荷内包率[%]=(1−α/β)×100
αはアンモニアにてpH10.0に調整した水溶性イオン性高分子0.01%水溶液をミューテック社製PCD滴定装置(Muetek PCD 03、Muetek PCD−Two Titrator Version2)により、滴下液:1/1000N
ジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液、滴下速度:0.05ml/10sec、終点判定:0mvにて 滴定し、求めた滴定量である。βはアンモニアにてpH10.0に調整したイオン性水溶性高分子0.01%水溶液に1/400N
ジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液を電荷の中和を行うに十分な量加え、十分に攪拌し、同様にPCD滴定装置により、滴下液:1/1000N ポリビニルスルホン酸カリウム水溶液、滴下速度:0.05ml/10sec、終点判定:0mVにて滴定し、この滴定量をブランク値から差し引いた値とする。ブランク値とはアンモニアにてpH10.0に調整した前記サンプルと同濃度のジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液を同様にPCD滴定装置により、滴下液:1/1000N ポリビニルスルホン酸カリウム水溶液、滴下速度:0.05ml/10sec、終点判定:0mVにて滴定し、求めた滴定量である。
【0032】
電荷内包率5%以上35%未満のイオン性水溶性高分子を汚泥あるいは製紙スラッジに単独で添加した場合、比較的低い添加量で凝集し含水率は低下するが、添加量の増大とともに汚泥あるいは製紙スラッジが再分散し、粘性を帯び、汚泥含水率が増大する。
【0033】
電荷内包率35%以上90%以下のイオン性水溶性高分子を添加した場合、幅広い添加量範囲で添加の増大とともに巨大で強固なフロックを形成し、著しく汚泥あるいは製紙スラッジの含水率を低下させる一方で、薬品の添加量が電荷内包率5%以上35%未満のイオン性水溶性高分子を添加した場合と比較し多量となる。
【0034】
同様に、電荷内包率5%以上35%未満のイオン性水溶性高分子を製紙原料に添加し抄紙した場合、比較的低い添加量で緩やかに凝集し製紙原料の歩留率、濾水性は向上するが添加量の増大ともに製紙原料が再分散し、粘性を帯び、歩留率の低下のみならず、湿紙の乾燥性の低下や抄紙機のトラブルを引き起こす。
【0035】
一方で、電荷内包率35%以上90%以下のイオン性水溶性高分子を添加し抄紙した場合、より高シェアの混合条件で強固で緻密なフロックを形成し、特に製紙原料中の填料歩留率を向上させるが、好適な添加量範囲が電荷内包率5%以上35%未満のイオン性水溶性高分子を製紙原料に添加し抄紙した場合と比較し数倍必要となる。
【0036】
電荷内包率5%以上35%未満のイオン性水溶性高分子および35%以上90%以下のイオン性水溶性高分子を組合せることで、添加量の削減を達成しつつ、著しく汚泥、製紙スラッジの含水率を低下させることや製紙原料の歩留率を向上することが可能であり、それぞれの組み合わせは、0.05≦(a)電荷内包率5%以上35%未満のイオン性水溶性高分子の質量/(b)全イオン性水溶性高分子の質量≦0.95の範囲で好適に使用でき、さらには0.1≦(a)/(b)≦0.5の範囲で使用することが好ましい。
【0037】
本発明の分散剤および疎水性分散媒を含有する連続相と、カチオン性単量体および複数の不飽和二重結合を有する多官能性単量体を必須として含有する分散相とからなる分散液を逆相懸濁重合させた後、得られる重合体を乾燥したイオン性水溶性高分子の粉末であって、イオン性水溶性高分子の電荷内包率が35%以上90%以下であることを特徴とする粉末からなるイオン性水溶性高分子(A)は、分散剤および疎水性分散媒を含有する連続相と、カチオン性単量体および複数の不飽和二重結合を有する多官能性単量体を含有する分散相とからなる分散体を逆相懸濁重合させた後、得られる重合体を乾燥し得ることが出来る。
【0038】
一般式(1)で表されるカチオン性単量体の例としては、例えばジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドやこれらのハロゲン化水素、硫酸、硝酸、有機酸等による中和塩、ハロゲン化アルキル、ベンジルハライド、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸等による四級化物が挙げられる。
【0039】
一般式(2)で表されるカチオン性単量体の例としては、ジメチルジ(メタ)アリルアンモニウム塩化物、ジ(メタ)アリルメチルベンジルアンモニウム塩化物等が挙げられ、単独で使用することも複数を同時に使用することも可能である。
【0040】
一般式(1)および(2)で表されるカチオン性単量体の量は、重合後の水溶性高分子がカチオン性を有する範囲であれば特に制限は無いが、前記多官能性単量体を除く全単量体に対して5〜100mol%の範囲であることが好ましい。
【0041】
前記多官能性単量体は複数の不飽和二重結合を複数有していれば特に制限はないが、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、トリアリルアミン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、N−ビニル(メタ)アクリルアミド等が挙げられ、多官能性単量体の量としては、多官能性単量体を除く全単量体質量に対して0.1〜100ppmの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは、0.2〜50ppmの範囲である。
【0042】
本発明における単量体水溶液混合物は、上記単量体のほかに共重合可能なアニオン性単量体および/または非イオン性単量体を含むことが可能である。
【0043】
一般式(3)で表されるアニオン性単量体の例としては、ビニルスルホン酸、ビニルベンゼンスルホン酸、2−アクリルアミド2−メチルプロパンスルホン酸、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸あるいはp−カルボキシスチレンなどが挙げられ、アニオン性単量体の量としては、前記多官能性単量体を除く全単量体に対して0〜50mol%の範囲であることが好ましい。
【0044】
非イオン性単量体の例としては、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、酢酸ビニル、アクリロニトリル、アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、ジアセトンアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、アクリロイルモルホリン、アクリロイルピペラジンなどが挙げられ、その量としては前記多官能性単量体を除く全単量体に対して0〜95mol%の範囲であることが好ましい。
【0045】
単量体水溶液混合物には前記単量体の他に、目的とする重合物の組成、重合速度および分子量に応じて適宜連鎖移動性を有する化合物を含むことが可能であり、2−プパノール、2−メルカプトエタノール、メタリルスルホン酸ナトリウム、ギ酸ナトリウムなどが例示できる。
【0046】
重合開始はラジカル重合開始剤を使用することができるが、これら開始剤は水溶性あるいは油溶性のどちらでも良く、アゾ系、過酸化物系、レドックス系いずれでも重合することが可能である。
【0047】
水溶性アゾ系開始剤の例としては、2、2’−アゾビス(アミジノプロパン)二塩化水素化物、2、2’−アゾビス〔2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕二塩化水素化物、4、4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)などがあげられ、油溶性アゾ系開始剤の例としては、2、2’−アゾビスイソブチロニトリル、1、1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2、2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2、2’−アゾビス(2−メチルプロピオネ−ト)、4、4−アゾビス(4−メトキシ−2、4ジメチル)バレロニトリルなどがあげられる。
【0048】
またペルオクソ二硫酸アンモニウムと亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、トリメチルアミン、テトラメチルエチレンジアミンなどとの組み合わせによるレドックス系、さらにはペルオクソ二硫酸アンモニウムあるいはカリウム、過酸化水素,ベンゾイルペルオキサイド、ラウロイルペルオキサイド、オクタノイルペルオキサイド、サクシニックペルオキサイド、t-ブチルペルオキシ2−エチルヘキサノエ−トなどの過酸化物系重合開始剤を例としてあげることができる。
【0049】
本発明の単量体混合物水溶液合計濃度(質量%)としては、該水溶液の質量に基づいて通常50以上、好ましくは55以上、最も好ましくは65以上であり、通常90以下、好ましくは85以下、最も好ましくは80以下である。
【0050】
合計濃度(質量%)が50未満では生産性が悪いだけでなく、重合槽や撹拌羽根へゲルが付着し易いため収率が低下し、また90を越えると開始剤や連鎖移動剤が充分に拡散しないため、重合が完結せずに途中で停止するといった問題がある。
【0051】
これらの単量体を重合して得られる水溶性高分子の重量平均分子量は、好ましくは300万〜2000万の範囲である。
【0052】
本発明の疎水性分散媒としては、脂肪族炭化水素(炭素数5〜12、例えば、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン等)
、脂環式炭化水素(炭素数5〜12、例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、メチルシクロヘキサン、シクロオクタン等)、芳香族炭化水素(炭素数6〜12、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等)、脂肪族ケトン(炭素数3〜10例えばメチル−n−プロピルケトン、ジエチルケトン等)、脂環式ケトン(炭素数5〜10、例えばシクロペンタノン、シクロヘキサノン等)、芳香族ケトン(炭素数8〜13、例えばアセトフェノン、ベンゾフェノン等)、脂肪族エーテル(炭素数4〜8、例えば、ジ−n−プロピルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル等)、芳香族エーテル(炭素数7〜12、例えば、アニソール等)、脂肪族エステル(炭素数3〜10、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等)、脂環式エステル(炭素数7〜12、例えば、酢酸シクロヘキシル、シクロヘキサンカルボン酸メチル等)、芳香族エステル(炭素数8〜13、例えば、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸n−ブチル、酢酸ベンジル、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート等)が挙げられるが、これらの内、比較的高分子量体が得やすい点、又は製造時の取り扱い上の点から、好ましいものは脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素であり、より好ましくはシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−デカンであり、1種又は2種以上の混合物として使用することが可能である。
【0053】
分散媒の使用量(質量%)は、分散系の安定化の観点から単量体水溶液混合物の重量に対して、好ましくは25以上、さらに好ましくは40以上、特に好ましくは65以上であり、好ましくは1,000以下、さらに好ましくは400以下、特に好ましくは200以下である。
【0054】
本発明で用いる分散剤としては、アルケンとα,β−不飽和多価カルボン酸(無水物)との共重合体又はその誘導体が用いられる。アルケンとしては、炭素数が10
以上100以下の炭化水素が使用できる。アルケンとしては、分散安定性の観点から、炭素数が好ましくは12以上、より好ましくは16以上、特に好ましくは18以上、最も好ましくは20以上であり、好ましくは60以下、より好ましくは50以下、特に好ましくは45以下、最も好ましくは40以下である。これらは単独でも良いが、混合物となっていても良い。具体的な好ましい例としては、炭素数20以上40以下の1−オレフィン、及びそれらの混合物が挙げられる。
【0055】
α,β−不飽和多価カルボン酸(無水物)としては、(無水)マレイン酸、(無水)シトラコン酸、(無水)イタコン酸等が挙げられる。これらの内で、分散安定性の観点から、好ましくは(無水)マレイン酸である。これらは単独で用いても良いが、2種以上の併用でも良い。
【0056】
上記共重合体の誘導体としては、共重合体の部分エステル化物、部分アミド化物、部分中和物が挙げられる。部分エステル化物としては、共重合体のモノメチルエステル、モノエチルエステル、モノブチルエステル等が挙げられる。部分アミド化物としては、モノエチルアミド、モノプロピルアミド、モノブチルアミド等が挙げられる。部分中和物としてはアルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウム等)、アンモニウム等の中和物が挙げられる。これらの誘導体は1
種又は2 種以上併用しても良い。部分エステル化、部分アミド化又は部分中和の割合(モル%)としては、分散剤中のα,β−不飽和多価カルボン酸(無水物)のモル数に対して、好ましくは5以上、より好ましくは10以上であり、好ましくは70以下、より好ましくは50以下である。
【0057】
共重合体のアルケンとα,β−不飽和多価カルボン酸(無水物)との共重合体組成比(質量比)は、好ましくは10〜99以/1〜90、より好ましくは20〜99/1〜80、特に好ましくは30〜99/1〜70、最も好ましくは50〜99/1〜50である。
【0058】
分散剤の重量平均分子量は、分散安定性の観点から、好ましくは1,000以上、より好ましくは2,000以上、特に好ましくは3,000以上、最も好ましくは5,000以上であり、好ましくは100,000以下、より好ましくは50,000以下、特に好ましくは30,000以下、最も好ましくは10,000以下である。
【0059】
分散剤の使用量(質量%)は、疎水性分散媒の質量に対して、分散安定性及び粒径制御の観点から、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.1以上、特に好ましくは0.5以上、最も好ましくは1以上であり、好ましくは10以下、より好ましくは8以下、特に好ましくは5以下、最も好ましくは3以下である。
【0060】
分散剤は、必要により公知の油溶性高分子物質と併用してもよく、その場合油溶性高分子物質の割合(質量%)は、分散剤に対して、通常0以上、好ましくは1以上、さらに好ましくは5以上であり、通常100以下、好ましくは80以下、さらに好ましくは60以下、特に好ましくは40以下である。
【0061】
油溶性高分子物質としては、セルロースエーテル(例えば、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロースなど)、ショ糖脂肪酸エステル(例えば、ショ糖ジステアレート、ショ糖トリステアレートなど)、ソルビタン脂肪酸エステル(例えば、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレートなど)、ポリグリセリン脂肪酸エステル(例えば、モノステアリン酸グリセリンなど)、などが挙げられる。これらの内で、製造時における装置への粒子付着防止の観点から、好ましくはショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルであり、特に好ましくはショ糖脂肪酸エステルである。
【0062】
本発明の逆相懸濁重合方法としては、上記単量体水溶液混合物、疎水性分散媒及び分散剤を用いる以外は公知の方法(例えば、特許文献4参照)が利用できる。具体的には、上述の疎水性分散媒と分散剤を重合槽に加え、必要に応じて加熱しながら予め溶解せしめ、所定の重合温度に調整し槽内を不活性ガス(例えば窒素等)で十分置換する。予め調製した上述の単量体水溶液混合物および重合開始剤を不活性ガスで十分置換した後、撹拌下で重合槽内に加え、油中水型で懸濁させながら重合する。この時単量体水溶液混合物および重合開始剤の投入は、一括で投入しても滴下しながら徐々に投入しても良い。また単量体水溶液混合物および重合開始剤はあらかじめ均一に混合してもよいし、直前に混合してもよいし、別々に同時滴下しても良い。滴下時間はモノマー濃度、及び重合反応発熱量により異なるが、通常0.5〜20時間、好ましくは1〜10時間である。
【0063】
逆相懸濁重合の重合温度(℃ )は、分子量又は粒子安定性の点から、好ましくは10以上、より好ましくは30以上、特に好ましくは40以上、最も好ましくは50以上であり、好ましくは95以下、より好ましくは80以下、特に好ましくは70以下、最も好ましくは60以下である。また、重合中は所定重合温度を一定(例えば、所定重合温度±5℃)に保つ様、適宜加熱、冷却して調節することが好ましい。
【0064】
重合後のポリマーは、通常直径0.1〜3.0mmの真球状又は真球状の一次粒子が凝集した形態(
例えば、葡萄房状)になった含水ゲルとして得られる。得られた含水ゲルは通常ろ過又は遠心分離により固液分離した後、乾燥させる。但し、重合時において分散媒の水との共沸により脱水が可能な場合は、重合終了後、還流下で所定量の含水率(例えば、10重量%
以下)まで水を留去し、固液分離後における溶剤除去のための乾燥を行うだけで乾燥ポリマーを得ることができる。
【0065】
含水ゲルの乾燥法としては、熱風乾燥、赤外線乾燥、間接加熱乾燥(真空乾燥、攪拌型の乾燥機、ドラムドライヤー)等が挙げられ、乾燥速度の観点から好ましいのは攪拌型の乾燥機である。
【0066】
乾燥機内の設定温度(℃)は、乾燥速度の観点から、40℃以上が好ましく、さらに好ましくは50℃以上、特に好ましくは70℃以上であり、高分子凝集剤の水に対する溶解性の観点から150℃以下が好ましく、さらに好ましくは12
0℃以下、特に好ましくは100℃以下である。
【0067】
乾燥中の乾燥機内の圧力(kPa)は、特に制限はないが、10kPa以上が好ましく、さらに好ましくは65kPa以上、特に好ましくは90kPa以上であり、110kPa以下が好ましく、さらに好ましくは105kPa以下、特に好ましくは102kPa以下である。乾燥時間は乾燥能力にもよるが、1分以上が好ましく、さらに好ましくは3分以上、特に好ましくは5分以上であり、5時間以下が好ましく、さらに好ましくは4時間以下、特に好ましくは3時間以下である。
【0068】
本発明の高分子凝集剤の平均粒径(μm)は、重合時の粒子安定性又は製品のハンドリングの点から、好ましくは50以上、より好ましくは100以上、特に好ましくは200以上、最も好ましくは300 以上であり、好ましくは2,00 0以下、より好ましくは1,500以下、特に好ましくは1,000以下、最も好ましくは800以下である。また、これらの粒子は真球状となっていても良く、真球状の一次粒子が凝集した形態( 例えば、葡萄房状)となっていても良い。
【0069】
本発明における、カチオン性基を有する電荷内包率が5%以上35%未満のイオン性水溶性高分子の粉末から選択される一種以上である粉末からなるイオン性水溶性高分子(B)は、電荷内包率が5%以上35%未満のイオン性水溶性高分子の粉末であれば特に制限はないが、粉末からなるイオン性水溶性高分子(A)と同様なカチオン性単量体、アニオン性単量体及び/または非イオン性単量体(の混合物)を(共)重合して得ることができる。
【0070】
その製造方法については特に制限は無く、粉末からなるイオン性水溶性高分子(A)と同様な逆相懸濁重合方法以外に、単量体混合物溶液を溶液重合した後、溶媒を加熱及び/または減圧除去して粉砕する方法、油中水滴型エマルジョン重合した後、シート状に乾燥し粉砕する方法、油中水滴型エマルジョン重合した後噴霧乾燥する方法等が例示できる。
【0071】
更に本発明における、カチオン性基を有する電荷内包率が5%以上35%未満のイオン性水溶性高分子の粉末から選択される一種以上である粉末からなるイオン性水溶性高分子(B)の組成として、下記一般式(4)及び/または下記一般式(5)で表される構造を有する粉末からなるイオン性水溶性高分子であることも好ましい。下記一般式(4)で表されるビニルアミン構造単位を有するイオン性水溶性高分子としては、N−ビニルホルムアミドやN−ビニルアセトアミドの加水分解物や、ポリアクリルアミドのホフマン変性物が例示できる。
【化4】

一般式(4)
11は水素またはメチル基、Hは無機酸および/または有機酸を表し、
未中和時H=0である。
【化5】

一般式(5)
12、13は水素またはメチル基、Hは無機酸および/または有機酸を表し、
未中和時H=0である。
【0072】
また電荷内包率5%以上35%未満の粉末からなる前記一般式(5)で表されるアミジン構造を有するイオン性水溶性高分子としては、N−ビニルホルムアミドないしN−ビニルアセトアミドと(メタ)アクリロニトリル共重合物の加水分解物を変性したものや、(メタ)アクリルアミドおよび(メタ)アクリロニトリルの共重合物をホフマン分解後変性して得ることができ、電荷内包率5%以上35%未満の粉末からなるイオン性水溶性高分子は、これらを組み合わせて使用することも可能である。
【0073】
(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリロニトリルの共重合物をホフマン反応により変性する方法では、重合中の(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリロニトリルの存在比を、単量体分割添加や連続滴下等の方法により適宜変化させて重合することが好ましく、粉末からなるイオン性水溶性高分子(B)の前記一般式(5)で表されるアミジン構造の量を調整することが可能である。
【0074】
また、ホフマン変性後0.5〜4.0の範囲にpHを調整することが好ましく、粉末からなるイオン性水溶性高分子(B)における前記一般式(5)で表されるアミジン構造の量を調整することが可能である。
【0075】
本発明の汚泥の脱水方法は、請求項1〜5に記載の粉末状イオン性水溶性高分子を水に溶解した後、汚泥に添加し凝集させ脱水機により脱水する方法であるが、汚泥の種類としては特に制限はなく、製紙排水、化学工業排水、食品工業排水などの生物処理したときに発生する余剰汚泥、あるいは都市下水の生汚泥、混合生汚泥、余剰汚泥、消化汚泥などの有機汚泥に使用することができる。
【0076】
本発明の粉末からなるイオン性水溶性高分子は、水に溶解した後、汚泥脱水および製紙スラッジに添加し凝集させ脱水機により脱水する方法であるが、汚泥脱水および製紙スラッジの脱水に用いる脱水機の種類としては特に制限はなく、ベルトプレス、スクリュープレス、ロータリープレス、フィルタープレスなどの圧搾脱水装置、または遠心分離機、真空濾過機などの圧力脱水装置が例として挙げられる。
【0077】
本発明の汚泥の脱水方法および製紙スラッジの脱水方法において、特に好適に使用できる脱水機としては特に制限はないが、請求項1〜5に記載の粉末からなるイオン性水溶性高分子の電荷内包率と脱水効果の挙動を考慮すると、巨大で強固なフロックを形成する特徴があり、それに伴って脱水の初期濾水量が増大することから、強固なフロックや初期脱水性能が要求されるスクリュープレス脱水機およびロータリープレス脱水機が好適である。
【0078】
本発明の汚泥の脱水方法および製紙スラッジの脱水方法は、請求項1〜5に記載の粉末からなるイオン性水溶性高分子の他に有機もしくは無機の凝結剤を併用することが可能であり、有機凝結剤としてはとしてはカチオン性を有する高分子が挙げられ(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリドといった、(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリアルキルアンモニウムハライド類やジアリルジメチルアンモニウムクロリドといったジアリルアミン化合物等、無機凝結剤の例としては、ポリ塩化アルミニウムや塩化第二鉄、硫酸第二鉄といった金属塩が例示できる。
【0079】
本発明の製紙方法は、請求項1〜5に記載の粉末からなるイオン性水溶性高分子を水に溶解した後、抄紙前の製紙原料中に添加し使用する方法であるが、製紙原料の種類に特に制限はなく、クラフトパルプ、BKP、TMP、DIPもしくはこれらの二種以上の混合物を用いることができ、DIPなどの短繊維分を多いパルプ、TMPなどのアニオン性物質を多く含有するパルプ、あるいはパルプの他に填料を多く含む原料を用いる場合、特に好適である。
【0080】
填料の種類は特に制限は無く、炭酸カルシウム、タルク、カオリン、酸化チタンもしくはこれらの2種以上の混合物などが挙げられ、抄紙時のpHにも制限はなく酸性、中性条件での抄紙も可能であるが、本発明のイオン性水溶性高分子を用いる場合、特に炭酸カルシウムを多く使用する中性抄紙条件での填料歩留率の向上に用いることが好適である。
【0081】
本発明の粉末状イオン性水溶性高分子の水溶液をパルプスラリーに添加して抄造し、紙を製造することができ、添加場所は特に制限されないが、種箱、マシンチェスト、スクリーンの入り口あるいは出口等が想定され、イオン性水溶性高分子をパルプ重量に対し10〜500ppmの範囲で添加して使用することが好ましい。
【0082】
本発明の粉末状イオン性水溶性高分子の水溶液を用いた製紙方法は、無機及び/または有機のアニオン性物質と組み合わせて使うことが可能であり、無機のアニオン性物質の例としては、コロイダルシリカあるいはベントナイトが例示され、有機のアニオン性物質としては、下記一般式(3)で表せるアニオン性単量体3〜100mol%と水溶性の非イオン性単量体の共重合物が例示できる。
【化3】

は水素またはCHCOOY、R10は水素、メチル基またはCOOY、QはSO、CSO、CONHC(CHCHSO、CCOOあるいはCOOであり、Y、Yは水素または陽イオンをそれぞれ表す。
【0083】
前記一般式(3)で表されるアニオン性単量体3〜100mol%と水溶性の非イオン性単量体の共重合物の形態に特に制限は無く、ペースト状水溶液、油中水型エマルジョン、水性分散液等が挙げられ、いずれも水に溶解した水溶液として添加できる。
【0084】
添加場所については特に制限はなく、カチオン性水溶性高分子の添加前あるいは添加後あるいは同時に添加することが可能であるし、両者の水溶液もしくは分散液を混合して用いることも可能である。
【0085】
(実施例)以下、実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に制約されるものではない。
【実施例1】
【0086】
(電荷内包率5%以上35%未満の粉末からなるイオン性水溶性高分子試作例)(製造例1)十字攪拌ペラを取り付けた攪拌機、還流冷却管、温度計、窒素導入管および冷却装置を備えた四つ口セパラブルフラスコに50重量%アクリルアミド水溶液29.74g、80重量%アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド水溶液12.66gおよびイオン交換水206.85gを仕込み、フラスコ内部を十分に窒素置換した後、1重量%2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロリド水溶液0.75gを仕込み、35℃の条件下15時間反応を行った。このものを、厚さ0.07mmのポリエチレンフィルム上に、厚さが10mm以下になるよう塗布し、80℃の送風乾燥機内で20時間静置乾燥した後、得られたシート状共重合物を、破断粉砕し粉末からなるイオン性水溶性高分子を得た。このものを製造例1とし物性を表1に示す。
【0087】
(製造例2)50重量%アクリルアミド水溶液9.83g、80重量%アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド水溶液25.11g、イオン交換水213.56gおよび1重量%2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロリド水溶液1.50gとしたこと以外は製造例1と同様な方法で粉末からなるイオン性水溶性高分子を得た。このものを製造例2とし物性を表1に示す。
【0088】
(製造例3)50重量%アクリルアミド水溶液4.20g、80重量%アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド水溶液28.62g、イオン交換水213.43gおよび1重量%2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロリド水溶液3.75gとしたこと以外は製造例1と同様な方法で粉末からなるイオン性水溶性高分子を得た。このものを製造例3とし物性を表1に示す。
【0089】
(製造例4)イオン交換水1.29g、50重量%アクリルアミド水溶液67.80g、80重量%アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド水溶液28.87g、0.1重量%メチレンビスアクリルアミド水溶液0.03gおよび10重量%ギ酸ナトリウム水溶液0.86gを仕込んだ単量体水溶液混合物に、10重量%2、2’−アゾビス(アミジノプロパン)二塩化水素化物水溶液1.14gを加えて均一溶液とした。別に攪拌翼、還流冷却管、温度計、窒素導入管、滴下配管を備えた四つ口セパラブルフラスコにシクロヘキサン200.00gを仕込み、これにアルカンと無水マレイン酸の共重合物(三菱化学製:商品名「PA30」)2.00gを仕込み回転数200rpmで攪拌しながらフラスコ内を窒素置換した後、55℃まで昇温した。55℃到達後、前述の水溶液混合物を滴下配管より120分間かけて全量滴下した。滴下完了後60分間70℃で攪拌を継続し、重合を完結させた。重合後の樹脂スラリーをデカンテーションにより固液分離した後、真空乾燥機内で50℃、4時間乾燥し粉末からなるイオン性水溶性高分子を得た。このものを製造例4とし物性を表1に示す。
【0090】
(製造例5)イオン交換水1.12g、50重量%アクリルアミド水溶液27.12g、80重量%アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド水溶液69.30g、0.1重量%メチレンビスアクリルアミド水溶液0.04g、10重量%ギ酸ナトリウム水溶液1.04g及び10重量%2、2’−アゾビス(アミジノプロパン)二塩化水素化物水溶液1.38gとしたこと以外は製造例4と同様な方法で粉末からなるイオン性水溶性高分子を得た。このものを製造例5とし物性を表1に示す。
【0091】
(製造例6)イオン交換水2.89g、50重量%アクリルアミド水溶液12.10g、80重量%アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド水溶液82.44g、0.1重量%メチレンビスアクリルアミド水溶液0.04g、10重量%ギ酸ナトリウム水溶液1.08g及び10重量%2、2’−アゾビス(アミジノプロパン)二塩化水素化物水溶液を1.44gとしたこと以外は製造例4と同様な方法で粉末からなるイオン性水溶性高分子を得た。このものを製造例6とし物性を表1に示す。
【0092】
(製造例7)
92重量%N−ビニルホルムアミド水溶液49.4g、アクリロニトリル(関東化学株式会社、特級試薬)35.3g、イオン交換水179.3gを仕込んだ水溶液混合物に、ソルビタンモノオレート4.00gおよび沸点190℃ないし230℃のイソパラフィン132.00gからなる混合物を加え、モノジナイザーにて1000rpmの回転数のもとで15分間強攪拌しモノマー乳化液を得た。このモノマー乳化液を、十字攪拌ペラを取り付けた攪拌機、還流冷却管、温度計、窒素導入管および冷却装置を備えた四つ口セパラブルフラスコに仕込み、十字攪拌ペラで400prmの攪拌条件下窒素置換を行った。窒素置換が完了した後、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)を0.40g加え窒素雰囲気下30℃で20時間保持し重合を行い、イオン性水溶性高分子の油中水型エマルジョンを得た。
【0093】
この重合体を室温にまで冷却後、ソルビタンモノオレート4.00g追加し、無水塩化水素25.4gを吸収させ、85℃にて24時間加水分解を行った。その後アンモニアガス吹き込みによりPH5.0に中和した。そして
この油中水型エマルジョンを造粒乾燥装置内に噴霧し、造粒した粉末の水分が5質量%以下になるまで乾燥造粒し、粉末からなるイオン性水溶性高分子を得た。このものを製造例7とし物性を表1に示す。
【0094】
(製造例8)十字攪拌ペラを取り付けた攪拌機、還流冷却管、温度計、窒素導入管および冷却装置を備えた四つ口セパラブルフラスコに50重量%アクリルアミド水溶液を80.1g、アクリロニトリル(関東化学株式会社、特級試薬)を19.9g、イオン交換水200.0gを仕込み、十字攪拌ペラで120prmの攪拌条件下窒素置換を行った。窒素置換が完了した後、10重量%2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロリド水溶液1.20gを加え窒素雰囲気下35℃で20時間保持し重合を行った。このものを50.0g採取し、イオン交換水150gを加えた後5℃以下に冷却し、次亜塩素酸ナトリウム(有効塩素12%)79.3g及び48重量%水酸化ナトリウム水溶液20.0gの混合溶液を加え、15℃以下で1時間ホフマン反応を行った。このものに35重量%塩酸水溶液を55.0g加え中和し、分離した沈殿物を、厚さ0.07mmのポリエチレンフィルム上に、厚さが10mm以下になるよう塗布し、80℃の送風乾燥機内で20時間静置乾燥した後、得られたシート状共重合物を、破断粉砕し粉末からなるイオン性水溶性高分子を得た。このものを製造例8とし物性を表1に示す。
【0095】
(電荷内包率35%以上90%以下の粉末からなるイオン性水溶性高分子試作例)(製造例9)イオン交換水を1.21g、0.1重量%メチレンビスアクリルアミド水溶液を0.11gに変えたこと以外は、水溶性高分子粉末の製造例4と同様な方法で粉末からなるイオン性水溶性高分子を得た。このものを製造例9とし物性を表1に示す。
【0096】
(製造例10)イオン交換水を0.26g、0.1重量%メチレンビスアクリルアミド水溶液を0.90gに変えたこと以外は、製造例5と同様な方法で粉末からなるイオン性水溶性高分子を得た。このものを製造例10とし物性を表1に示す。
【0097】
(製造例11)イオン交換水を2.00g、0.1重量%メチレンビスアクリルアミド水溶液を0.94gに変えたこと以外は、製造例6と同様な方法で粉末からなるイオン性水溶性高分子を得た。このものを製造例11とし物性を表1に示す。
【0098】
(比較製造例1)イオン交換水を206.83gとし、0.1重量%N,N’−メチレンビスアクリルアミド水溶液を0.025g加えたこと以外は、製造例1と同様な方法で単量体共重合物を得た。このものを比較製造例1とし物性を表1に示す。
【0099】
(比較製造例2)イオン交換水を213.19gとし、0.1重量%N,N’−メチレンビスアクリルアミド水溶液を0.375g加えたこと以外は、製造例2と同様な方法で単量体共重合物を得た。このものを比較製造例2とし物性を表1に示す。
【0100】
(比較製造例3)イオン交換水を212.93gとし、0.1重量%N,N’−メチレンビスアクリルアミド水溶液を0.500g加えたこと以外は、製造例3と同様な方法で単量体共重合物を得た。このものを比較製造例3とし物性を表1に示す。



【0101】
(表1)

【0102】
製造例1、2及び3では、水溶液を粉砕して電荷内包率5%以上35%未満の粉末からなるイオン性水溶性高分子を製造し、製造例4、5、6、9、10及び11では逆相懸濁重合により電荷内包率5%以上90%以下の粉末からなるイオン性水溶性高分子を製造しているが、比較実施例で示したとおり、水溶液を粉砕して電荷内包率35%以上90%未満の粉末からなるイオン性水溶性高分子を製造することは困難であり、本発明の逆相懸濁重合によるイオン性水溶性高分子の製造の面からも優位性があることが明白である。
【0103】
(電荷内包率5%以上35%未満の粉末からなるイオン性水溶性高分子と電荷内包率35%以上90%以下の粉末からなるイオン性水溶性高分子とを組み合わせてなる粉末状イオン性水溶性高分子製造例)(製造例12)製造例3および製造例11で製造した粉末からなるイオン性水溶性高分子を重量で製造例3:製造例11=2:8となるよう均一になるまで混合し、粉末状イオン性水溶性高分子を得た。このものを製造例12とし組み合わせの比率を表2に示す。
【0104】
(製造例13)製造例3と製造例11をそれぞれ製造例6と製造例11とした事以外は製造例12と同様な方法で、粉末状イオン性水溶性高分子を得た。このものを製造例13とし組み合わせの比率を表2に示す。
【0105】
(製造例14)製造例3と製造例11をそれぞれ製造例2と製造例10とした事以外は製造例12と同様な方法で、粉末状イオン性水溶性高分子を得た。このものを製造例14とし組み合わせの比率を表2に示す。
【0106】
(製造例15)製造例3と製造例11をそれぞれ製造例5と製造例10とした事以外は製造例12と同様な方法で、粉末状イオン性水溶性高分子を得た。このものを製造例15とし組み合わせの比率を表2に示す。
【0107】
(製造例16)製造例5、製造例7および製造例10で製造した粉末からなるイオン性水溶性高分子を重量で製造例5:製造例7:製造例10=2:3:5となるよう、見た目が均一になるまで混合し、粉末状イオン性水溶性高分子を製造した。このものを製造例16とし組み合わせの比率を表2に示す。
【0108】
(製造例17)製造例7を製造例8としたこと以外は、製造例16と同様な方法で、粉末状イオン性水溶性高分子を製造した。このものを製造例17とし組み合わせの比率を表2に示す。
【0109】
(製造例18)製造例3と製造例11をそれぞれ製造例1と製造例9とした事以外は製造例12と同様な方法で、粉末状イオン性水溶性高分子を得た。このものを製造例18とし組み合わせの比率を表2に示す。
【0110】
(製造例19)製造例3と製造例11をそれぞれ製造例4と製造例9とした事以外は製造例12と同様な方法で、粉末状イオン性水溶性高分子を得た。このものを製造例19とし組み合わせの比率を表2に示す。







【0111】
(表2)

【実施例2】
【0112】
(汚泥脱水試験1)製造例12及び13で製造した粉末状イオン性水溶性高分子を水で溶解し0.2重量%の水溶液を調製し汚泥の脱水試験を行った。食肉余剰汚泥(pH6.64、全ss分24,000mg/L)を200mLポリビーカーに採取し、前記の粉末状イオン性水溶性高分子の溶解液を汚泥に対する高分子の重量で400ppm、500ppmおよび600ppm添加し、それぞれCST1000rpmで30秒間攪拌混合を行った後#202のナイロン濾布で濾過し、45秒後の濾液量を測定した。また濾過した汚泥のケーキ支持性(脱水ケーキの硬さ)を観察した後、プレス圧3kg/mで30秒間脱水し濾布剥離性を確認し、ケーキ含水率(105℃、20時間乾燥)を測定した。結果を表3に示す。
【0113】
(比較汚泥脱水試験1)粉末状イオン性水溶性高分子をそれぞれ製造例3、6および11としたこと以外は、汚泥脱水試験1と同様な方法で汚泥の脱水試験を行った。結果を表3に示す。



【0114】
(表3)

【0115】
表3の結果から明白なように、電荷内包率5%以上35%未満のイオン性水溶性高分子と35%以上90%以下のイオン性水溶性高分子を組み合わせた製造例を用いた汚泥脱水試験1では低添加量から、45秒後濾水量が高く初期濾水性が良好であることが推察でき、脱水ケーキ含水率が良好で、脱水ケーキの支持性、濾布剥離性ともに優れていることがわかる。
【実施例3】
【0116】
(汚泥脱水試験2)製造例14、15、16および17で製造した粉末状イオン性水溶性高分子を水で溶解し0.2重量%の水溶液を調製し汚泥の脱水試験を行った。し尿余剰汚泥(pH7.06、全ss分46,250mg/L)を200mLポリビーカーに採取し、前記粉末からなるイオン性水溶性高分子の溶解液を汚泥重量に対して370ppm、400ppmおよび430ppm添加し、それぞれビーカー移し変え攪拌20回行った後、T−1178Lのナイロン濾布で濾過し、45秒後の濾液量を測定した。また濾過した汚泥のケーキ支持性(脱水ケーキの硬さ)を観察した後、プレス圧2kg/mで1分間脱水し濾布剥離性を確認し、ケーキ含水率(105℃、20時間乾燥)を測定した。結果を表4に示す。
【0117】
(比較汚泥脱水試験2)粉末状イオン性水溶性高分子をそれぞれ製造例2、5、7、8及び10としたこと以外は、汚泥脱水試験2と同様な方法で汚泥の脱水試験を行った。結果を表4に示す。
【0118】
(表4)

【0119】
表4の結果から明白なように、電荷内包率5%以上35%未満のイオン性水溶性高分子と35%以上90%以下のイオン性水溶性高分子を組み合わせた製造例を用いた汚泥脱水試験2では低添加量から、45秒後濾水量が高く初期濾水性が良好であることが推察でき、脱水ケーキ含水率が良好で、脱水ケーキの支持性、濾布剥離性ともに優れていることがわかる。
【0120】
製造例7および製造例8について、ビニルアミン構造およびアミジン構造を有する粉末からなるイオン性水溶性高分子に関しても、汚泥含水率の著しい低下が確認できるが、電荷内包率35%以上90%以下のイオン性水溶性高分子との組み合わせによる製造例16及び17のとおり、更なる汚泥含水率低減効果の向上が確認できる。
【実施例4】
【0121】
(製紙スラッジ脱水試験)製造例18及び19で製造した粉末状イオン性水溶性高分子を水で溶解し0.2重量%の水溶液を調製し製紙スラッジの脱水試験を行った。製紙スラッジ(pH6.90、全ss分11,750mg/L)を200mLポリビーカーに採取し、アニオン性高分子凝集剤(ハイモロックV−320)の0.1重量%水溶液を汚泥に対して高分子の重量で5ppm、10ppmおよび20ppm添加した後、前記の粉末からなるイオン性水溶性高分子の溶解液を汚泥に対する高分子の重量でそれぞれ10ppm、20ppm、40ppm添加し、それぞれスパチュラで50回攪拌しさらにビーカー移し変え6回行った後#202のナイロン濾布で濾過し、45秒後の濾液量を測定した。また濾過した汚泥のケーキ支持性(脱水ケーキの硬さ)を観察した後、プレス圧4kg/mで60秒間脱水し濾布剥離性を確認し、ケーキ含水率(105℃、20時間乾燥)を測定した。結果を表5に示す。
【0122】
(比較製紙スラッジ脱水試験)粉末からなるイオン性水溶性高分子をそれぞれ製造例1,4および9としたこと以外は、製紙スラッジ脱水試験と同様な方法で脱水試験を行った。結果を表5に示す。









【0123】
(表5)

【0124】
表5の結果にから明白なように、電荷内包率5%以上35%未満のものと35%以上90%以下のものを組み合わせた粉末状イオン性水溶性高分子は、低添加量の領域から脱水ケーキ支持性、濾布剥離性に関して有効であり、脱水ケーキの含水率の低下が明らかである。
【実施例5】
【0125】
(製紙試験1)製造例18及び19で製造した粉末からなるイオン性水溶性高分子を水で溶解し0.2重量%の水溶液を調製し、カナディアンスタンダードフリーネス400mlに叩解したLBKPを用いて抄紙試験およびブリット式ダイナミックジャーテスターによる歩留試験を行った。LBKPを1.0%濃度とした後、市販の炭酸カルシウムをパルプ重量に対して20%、硫酸アルミニウム(Al分として8.0%)を対パルプ重量1.2%添加して硫酸でpH7.5に調整した。この製紙原料に前記の粉末状イオン性水溶性高分子溶解液をパルプ重量に対して高分子の重量で200ppmになるように添加した後30秒攪拌した。その後、タッピスタンダードシートマシンで坪量80g/mとなるように抄紙し、得られた湿紙を4Kg/cmで5分間プレス後、105℃回転式ドライヤーで3分間乾燥し手抄き紙を得た。この手抄き紙を20℃、65% HRの条件下に24時間調湿した後、成紙の地合いの様子、不透明度およびISO白色度を評価した。結果を表6に示す。
【0126】
LBKPを0.5%濃度とした後、市販の炭酸カルシウムをパルプ重量に対して20%、硫酸アルミニウム(Al2O3分として8.0%)を対パルプ重量1.2%添加して硫酸でpH7.5に調整した。この製紙原料をブリット式ダイナミックジャーテスターに投入し、前記製造例12、15および16の粉末からなるイオン性水溶性高分子溶解液をパルプ重量に対して高分子の重量で200ppmになるように添加した。2000rpmで30秒攪拌した後、攪拌回転数を800rpmに落とし白水を10秒間排出し、その後、30秒間白水を回収した。回収した白水のSS濃度および525℃で2時間灰化して得られた灰分量から、製紙原料の総歩留率および灰分歩留率を求めた。結果を表6に示す。
【0127】
(比較製紙試験1) 粉末からなるイオン性水溶性高分子をそれぞれ製造例1,4および9としたこと以外は、製紙試験1と同様な方法で抄紙試験および歩留試験を行い、成紙の地合いの様子、不透明度、ISO白色度、製紙原料の総歩留率および灰分歩留率を求めた。結果を表6に示す。










【0128】
(表6)

【0129】
表6で示したように、電荷内包率5%以上35%未満のものと35%以上90%以下のものを組み合わせた粉末状イオン性水溶性高分子は、総歩留率、灰分歩留率を大きく向上する効果が得られることが明白である。特に、灰分の歩留向上効果が高い。
【実施例6】
【0130】
(製紙試験2)イオン交換水で2.0重量%に調整したベントナイト分散液および製造例19で合成した粉末状イオン性水溶性高分子を水で溶解し0.2重量%とした水溶液を調製し、カナディアンスタンダードフリーネス400mlに叩解したLBKPを用いて抄紙試験およびブリット式ダイナミックジャーテスターによる歩留試験を行った。LBKPを1.0%濃度とした後、市販の炭酸カルシウムをパルプ重量に対して20%、硫酸アルミニウム(Al分として8.0%)を対パルプ重量1.2%添加して硫酸でpH7.5に調整した。この製紙原料に前記ベントナイト分散液をパルプ重量に対してベントナイト1000ppmとなるように添加した後15秒攪拌し、次に製造例19の粉末状イオン性水溶性高分子溶解液をパルプ重量に対して高分子の重量でそれぞれ100ppmおよび200ppmになるように添加した後さらに2000rpmで30秒攪拌した。その後、タッピスタンダードシートマシンで坪量80g/mとなるように抄紙し、得られた湿紙を4Kg/cmで5分間プレス後、105℃回転式ドライヤーで3分間乾燥し手抄き紙を得た。この手抄き紙を20℃、65% HRの条件下に24時間調湿した後、成紙の地合いの様子、不透明度およびISO白色度を評価した。結果を表7に示す。
【0131】
(比較製紙試験2)ベントナイトを添加しないこと以外は、製紙試験2と同様な方法で抄紙試験および歩留試験を行い、成紙の地合いの様子、不透明度、ISO白色度、製紙原料の総歩留率および灰分歩留率を求めた。結果を表7に示す。
【0132】
(表7)

【0133】
表7で示したように、ベントナイトを使用することにより総歩留率と灰分歩留率、不透明度およびISO白色度は良好になる一方で、成紙の地合いが良好になるといった効果が明確に確認できる。
【実施例7】
【0134】
(製紙試験3)イオン交換水で0.2重量%に調整したアニオン性高分子(アクリル酸ナトリウム20mol%−アクリルアミド80mol%共重合物、0.5重量%食塩水溶液粘度120.0(mPa・s)(食塩濃度4重量%、B型粘度計2号ローター、60rpm、25℃測定))および、製造例19で合成した粉末状イオン性水溶性高分子を水で溶解し0.2重量%とした水溶液を調製し、カナディアンスタンダードフリーネス400mlに叩解したLBKPを用いて抄紙試験およびブリット式ダイナミックジャーテスターによる歩留試験を行った。LBKPを1.0%濃度とした後、市販の炭酸カルシウムをパルプ重量に対して20%、硫酸アルミニウム(Al分として8.0%)を対パルプ重量1.2%添加して硫酸でpH7.5に調整した。この製紙原料に前記アニオン性高分子水溶液をパルプ重量に対してアニオン性高分子100ppmとなるように添加した後15秒攪拌し、次に製造例19の粉末状イオン性水溶性高分子溶解液をパルプ重量に対して高分子の重量でそれぞれ100ppmおよび200ppmになるように添加した後さらに2000rpmで30秒攪拌した。その後、タッピスタンダードシートマシンで坪量80g/mとなるように抄紙し、得られた湿紙を4Kg/cmで5分間プレス後、105℃回転式ドライヤーで3分間乾燥し手抄き紙を得た。この手抄き紙を20℃、65% HRの条件下に24時間調湿した後、成紙の地合いの様子、不透明度およびISO白色度を評価した。結果を表8に示す。
【0135】
LBKPを0.5%濃度とした後、市販の炭酸カルシウムをパルプ重量に対して20%、硫酸アルミニウム(Al2O3分として8.0%)を対パルプ重量1.2%添加して硫酸でpH7.5に調整した。この製紙原料をブリット式ダイナミックジャーテスターに投入し、前記アニオン性高分子溶解液をパルプ重量に対してアニオン性高分子を重量で100ppmとなるように添加した後2000rpmで15秒攪拌し、次に製造例19の粉末状イオン性水溶性高分子溶解液をパルプ重量に対して高分子の重量でそれぞれ100ppmおよび200ppmになるように添加した。次に、2000rpmで30秒攪拌した後、攪拌回転数を800rpmに落とし白水を10秒間排出し、その後、30秒間白水を回収した。回収した白水のSS濃度および525℃で2時間灰化して得られた灰分量から、製紙原料の総歩留率および灰分歩留率を求めた。結果を表8に示す。
【0136】
(比較製紙試験3)アニオン性高分子を添加しないこと以外は、製紙試験3と同様な方法で抄紙試験および歩留試験を行い、成紙の地合いの様子、不透明度、ISO白色度、製紙原料の総歩留率および灰分歩留率を求めた。結果を表8に示す。


【0137】
(表8)

【0138】
表8で示したように、アニオン性高分子を使用することにより総歩留率と灰分歩留率、不透明度およびISO白色度は良好になる一方で、成紙の地合いが良好になるといった効果が明白に確認できる。
















【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散剤および疎水性分散媒を含有する連続相と、カチオン性単量体および複数の不飽和二重結合を有する多官能性単量体を必須として含有する水溶液の分散相からなる分散液を逆相懸濁重合させた後、得られる重合体を乾燥したイオン性高分子の粉末であって、イオン性高分子の電荷内包率が35%以上90%以下である粉末からなるイオン性水溶性高分子(A)と、カチオン性基を有する電荷内包率が5%以上35%未満である粉末のイオン性水溶性高分子(B)から選択された一種あるいは二種との混合物からなる粉末状イオン性水溶性高分子。
【請求項2】
前記粉末からなるイオン性水溶性高分子(A)が、下記一般式(1)及び/または(2)であらわされる単量体5〜100mol%、下記一般式(3)であらわされる単量体0〜50mol%および水溶性の非イオン性単量体0〜95mol%および多官能性単量体の共重合物であり、前記粉末からなるイオン性水溶性高分子(B)が、下記一般式(1)及び/または(2)であらわされる単量体5〜100mol%、下記一般式(3)であらわされる単量体0〜50mol%および水溶性の非イオン性単量体0〜95mol%の共重合物であることを特徴とする請求項1に記載の粉末状イオン性水溶性高分子。
【化1】

一般式(1)
は水素又はメチル基、R、Rは炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシル基あるいはベンジル基、Rは水素、炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシル基あるいはベンジル基であり、同種でも異種でも良い。AはOまたはNH、Bは炭素数2〜4のアルキレン基またはアルコキシレン基、Xは陰イオンをそれぞれ表す。
【化2】

一般式(2)
、Rは水素又はメチル基、R、Rは炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基、Xは陰イオンをそれぞれ表す。
【化3】

は水素またはCHCOOY、R10は水素、メチル基またはCOOY、QはSO、CSO、CONHC(CHCHSO、CCOOあるいはCOOであり、Y、Yは水素または陽イオンをそれぞれ表す。
【請求項3】
前記粉末からなるイオン性水溶性高分子(B)が、下記一般式(4)及び/または又は一般式(5)であらわされる構造を有することを特徴とする請求項1に記載の粉末状イオン性水溶性高分子。
【化4】


一般式(4)
11は水素またはメチル基、Hは無機酸および/または有機酸を表し、
未中和時H=0である。
【化5】

一般式(5)
12、13は水素またはメチル基、Hは無機酸および/または有機酸を表し、
未中和時H=0である。
【請求項4】
前記粉末からなるイオン性水溶性高分子(B)が、(メタ)アクリルアミドおよび(メタ)アクリロニトリルの共重合物をホフマン反応後、変性して得られたものであることを特徴とする請求項3に記載の粉末状イオン性水溶性高分子。
【請求項5】
前記粉末からなるイオン性水溶性高分子(B)が、塩水中あるいは水に非混和性有機液体中にて分散重合した重合物か油中水型エマルジョン重合による重合物および水溶液重合による重合物を乾燥し造粒した、カチオン性基を有する水溶性高分子の粉末から選択される一種あるいは二種であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の粉末状イオン性水溶性高分子。
【請求項6】
請求項1〜5に記載の粉末状イオン性水溶性高分子を水に溶解した後、汚泥に添加し凝集させ脱水機により脱水することを特徴とした汚泥の脱水方法。
【請求項7】
請求項1〜5に記載の粉末状イオン性水溶性高分子を水に溶解した後、製紙スラッジに添加し凝集させ脱水機により脱水することを特徴とした製紙スラッジの脱水方法。
【請求項8】
請求項1〜5に記載の粉末状イオン性水溶性高分子を水に溶解した後、抄紙前の製紙原料中に添加し使用することを特徴とした製紙方法。
【請求項9】
無機及び/または有機のアニオン性物質と組み合わせて使うことを特徴とした請求項8記載の製紙方法。
【請求項10】
前記アニオン性物質がコロイダルシリカあるいはベントナイトであることを特徴とする請求項8記載の製紙方法。
【請求項11】
前記アニオン性物質が、下記一般式(3)で表せる単量体3〜100mol%と水溶性の非イオン性単量体の重合物であることを特徴とする請求項8記載の製紙方法。
【化3】

は水素またはCHCOOY、R10は水素、メチル基またはCOOY、QはSO、CSO、CONHC(CHCHSO、CCOOあるいはCOOであり、Y、Yは水素または陽イオンをそれぞれ表す。














【公開番号】特開2010−53234(P2010−53234A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−218898(P2008−218898)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000142148)ハイモ株式会社 (151)
【Fターム(参考)】