説明

素子製造装置

【課題】 新規素子の開発リードタイムを短縮するとともに、さまざまな種類の材料を用いて開発・製造コストを低減し、かつ、素子の小型化・微細化を図ることができる素子製造装置を提供する。
【解決手段】 基板2を内部に収容する容器3と、基板2上に成膜される所定膜種の膜の材料となる原料ガスGを、容器3内に供給するガス供給手段11と、基板2に励起線Eを照射する複数の励起線源4と、基板2と励起線Eとを相対移動させる移動手段6と、所定膜種の膜の成膜位置および成膜状態を検出する成膜検出手段12と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、素子製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、LSI(Large Scale Integration)やTFT(Thin Film Transistor)の半導体装置や半導体素子などの素子を製造する方法としてフォトリソ法が知られている。このフォトリソ法においては、成膜工程、レジスト塗布工程、露光工程、エッチング工程、レジスト剥離工程の繰り返しにより素子を製造している。
【0003】
しかしながら、上記露光工程において用いるフォトマスクは、開発リードタイムが長く、その開発にコストがかかっていた。さらに、素子の小型化、微細化に伴いフォトマスクの微細化が求められ、フォトマスクの開発に莫大なコストがかかっていた。
また、フォトリソ法は多くの工程からなるため、素子の製造装置が大型化し、その設備投資が大きくなっていた。さらに、フォトリソ法では高温となる工程を含むため、耐熱性の低いPET(ポリエチレンテレフタレート)等のコストの低い材料を基板およびその周辺に使用できなかった。そのため、半導体装置や半導体素子などの素子のコスト低減を図ることができなかった。
【0004】
また、素子を製造する他の方法として、電子線選択成膜法が提案されている。電子線選択成膜法は、成膜する膜種に応じた原料ガスを、電子線の照射により基板から発生した二次電子により励起し、基板上に所定膜種の膜を形成することにより、素子を製造している(例えば、特許文献1から3参照。)。
【特許文献1】特開平9−59013号公報
【特許文献2】特開平9−64030号公報
【特許文献3】特開平9−306905号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献1から3においては、電子銃から照射される電子ビームを走査することにより所定パターンの膜を成膜し、所定パターンの異なる膜種の膜を積み重ねることにより素子を製造している。そのため、フォトリソ法のように開発リードタイムが長く、高価なフォトマスクを用いる必要がなく、製造コストの低下を図ることができる。また、電子ビームの径を細くすることにより素子の小型化、微細化にも対応することができるため、フォトリソ法と比較して素子を小型化、微細化に容易に対応することができる。
【0006】
しかしながら、特許文献1から3においては、電子ビーム走査による一筆書き描画により膜形状を形成していたため、膜の成膜速度が遅くなっていた。そのため、素子の製造速度も遅くなり、素子の製造コスト低減が図りにくいという問題があった。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、新規素子の開発リードタイムを短縮するとともに、さまざまな種類の材料を用いて開発・製造コストを低減し、かつ、素子の小型化・微細化を図ることができる素子製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明の素子製造装置は、基板を内部に収容する容器と、前記基板上に成膜される所定膜種の膜の材料となる原料ガスを、前記容器内に供給するガス供給手段と、前記基板に励起線を照射する複数の励起線源と、前記基板と前記励起線とを相対移動させる移動手段と、前記所定膜種の膜の成膜位置および成膜状態を検出する成膜検出手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、励起線を基板に照射することにより、基板から二次電子を発生させることができる。原料ガスは発生した二次電子により励起され、基板上に所定膜種の膜を形成することができる。
上述のように原料ガスを二次電子により励起するため、フォトリソ法を用いた成膜方法と比較して、基板の温度を低く抑えることができる。そのため、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリイミドおよびポリ4フッ化エチレン(テフロン(登録商標))など、熱に弱い樹脂からなる基板を用いことができる。
【0010】
基板と励起線とは、移動手段により相対移動させることができるため、励起線の照射領域を移動させることができる。上記所定膜種の膜は励起線の照射領域のみに形成されるため、基板と励起線とを相対移動させることにより、上記所定膜種の膜を所定形状に形成することができる。
励起線源を複数備えることにより、励起線照射領域を増やすことができる。そのため、所定膜種の膜を複数個所で同時に成膜することができ、所定面積の所定膜種の膜を短い時間で成膜することができる。
【0011】
また、ガス供給手段から異なる種類の原料ガスを供給することにより、基板上に異なる膜種の膜を成膜することができる。そのため、異なる種類の膜を所定形状に成膜し、積み上げることにより、TFTなどの半導体素子や配線など、さまざまな素子を基板上に製造することができる。
【0012】
成膜検出手段を備えることにより、上記所定膜種の膜の成膜位置を検出することができる。そのため、成膜位置のズレの発生を検出することができ、成膜不良の発生を防止することができる。また、上記所定膜種の膜の成膜状態を検出することができる。そのため、成膜時の異常の発生を検出することができ、成膜不良の発生を防止することができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記成膜検出手段の出力に基づいて、前記励起線源から照射される励起線を制御することが望ましい。
本発明によれば、成膜検出手段の出力に基づいて、励起線の状態を制御することができる。そのため、成膜状態の状態に応じて励起線を制御することができ、成膜異常の発生を防止することができる。なお、励起線の制御する項目としては、加速電圧や、電流密度等を上げることができる。
【0014】
さらに、上記発明においては、前記成膜検出手段の出力に基づいて、前記移動手段を制御することが望ましい。
本発明によれば、成膜検出手段の出力に基づいて、移動手段を制御することができる。そのため、実際の成膜位置を設計上の所定位置との間にズレが発生しても、移動手段により基板と励起線との相対位置を制御し、ズレを修正することができる。
【0015】
上記発明においては、前記移動手段が、移動範囲および位置決め精度の異なる複数のステージを備え、前記複数のステージに前記複数の励起線源または前記基板が配置されていることが望ましい。
本発明によれば、例えば、移動範囲が広くかつ位置決め精度が低いステージと、移動範囲が狭くかつ位置決め精度が高いステージと、を備えることにより、基板と励起線との相対位置を広い範囲で、高い精度で制御することができる。そのため、所定膜種の膜を広い範囲に高い形状精度で成膜することができ、素子の小型化・微細化を図りやすくすることができる。
【0016】
上記発明においては、前記移動手段が、前記励起線の照射方向を偏向させる偏向部を有し、前記偏向部が、前記複数の励起線源に配置されていることが望ましい。
本発明によれば、偏向部により励起線の照射領域を制御することができるため、上述のステージを用いる方法と比較して、基板と励起線との相対位置をより細かく制御することができる。そのため、所定膜種の膜をより微細な所定の形状に成膜することができ、素子の小型化・微細化を図りやすくすることができる。
【0017】
上記発明においては、前記複数の励起線源が、それぞれ照射された励起線の照射領域面積を制御するレンズ手段を備えることが望ましい。
本発明によれば、レンズ手段により励起線の照射領域面積を制御することができるため、所定膜種の膜をより微細な所定の形状に成膜することができる。その結果、素子の小型化・微細化を図りやすくすることができる。
【0018】
上記発明においては、前記ガス供給手段が、少なくとも1つのノズルを有し、前記ノズルが、前記複数の励起線源と同一面上に配置されていることが望ましい。
本発明によれば、ガス供給手段のノズルを、複数の励起線源と同一面上に配置することにより、原料ガスを基板と励起線源との間のみに供給することができる。そのため、原料ガスの供給量を削減することができ、素子の製造コスト削減を図ることができる。
【0019】
上記発明においては、前記基板上に形成された被検出部の位置を検出する位置検出手段を備え、前記位置検出手段の出力に基づき、前記移動手段を制御することが望ましい。
本発明によれば、位置検出手段の出力に基づいて移動手段を制御するため、基板と電子線照射領域との相対位置関係を常に一定に保つことができる。例えば、基板を一度容器から取り出し、その後再び容器内に設置した場合でも、基板と電子線照射領域との相対位置関係を一定に保つことができる。また、一の素子製造装置で成膜された基板を他の素子製造装置に設置した場合でも、基板と電子線照射領域との相対位置関係を一定に保つことができる。その結果、異なる膜種の膜が積み重ねられても、他の膜との相対位置関係を正確に保った状態で、各膜を成膜することができる。
【0020】
上記発明においては、前記基板に成膜された前記所定膜種の膜の形状を検査する検査手段を備えることが望ましい。
本発明によれば、検査手段により成膜された上記所定膜種の膜の形状を検査することができる。そのため、上記所定膜種の膜を形成した段階において不良を直ちに発見することができ、素子の不良率低下を図ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の素子製造装置によれば、励起線の照射により基板から二次電子を発生させることにより、原料ガスを励起させて上記所定膜種の膜を形成することができる。そのため、二次電子を発生させる材料であれば、さまざまな材料を基板に用いることができるという効果を奏する。特に、プロセス中の基板温度を低く抑えることができるため、例えば樹脂など、耐熱性が低くコストのかからない材料を基板の材料に用いることができ、素子の製造コストを低減することができるという効果を奏する。
【0022】
基板と励起線とを相対移動させることができるため、所定形状の上記所定膜種の膜を形成することができる。そのため、開発リードタイムの長いフォトマスク等を用いることなく所定形状の上記所定膜種の膜を形成することができ、新規素子の開発リードタイムを短縮することができるとともに開発コストを低減することができるという効果を奏する。
【0023】
励起線の照射領域のみに上記所定膜種の膜を成膜することができるため、膜形状の小型化・微細化を図りやすくすることができ、例えばULSI等のような素子の小型化・薄型化を図りやすくすることができるという効果を奏する。
また、フォトマスク等の用いた場合の微細化限界よりもさらに微細な膜形状を形成することができるという効果を奏する。
【0024】
ガス供給手段から供給される原料ガスの種類を切り替えることにより、基板に異なる膜種の膜を成膜することができる。そのため、所定形状の異なる膜種の膜を積み上げることにより、TFTなどの半導体素子や配線など、さまざまな素子を製造することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
〔第1の実施の形態〕
以下、本発明の第1の実施の形態について図1から図4を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る素子製造装置1の概略を説明する図である。
素子製造装置1は、図1に示すように、基板2を内部に収容する真空容器(容器)3と、基板2に電子線(励起線)Eを照射する電子銃(励起線源)4をアレイ状に配置した電子銃アレイ(複数の励起線源)5と、基板2を電子銃アレイ5に対して移動させるステージ部(移動手段)6と、真空容器3内の気体を排気する排気系(図示せず)と、から概略構成されている。
基板2は、シリコンなどの半導体材料から形成されていてもよいし、ガラスから形成されていてもよいし、樹脂から形成されていてもよい。
【0026】
図2は、図1の電子銃アレイの構成を説明する図である。図2(a)は、電子銃アレイを電子線照射側から見た図であり、図2(b)は、図2(a)の電子銃アレイのA−A´断面図である。
電子銃アレイ5は、図2(a)に示すように、電子線Eを照射する電子銃4と、原料ガスGを基板2と電子銃アレイ5との間に導入するノズル(ガス供給手段)11と、基板2から発生する二次電子を検出する二次電子検出器(成膜検出手段)12と、後述する基板2上のマーカ(被検出部)Mを検出するSPM(走査型プローブ顕微鏡;位置検出手段)13と、が概略円板状に形成されたアレイ基板14に配置されることにより構成されている。
【0027】
なお、電子銃4とノズル11とは、交互に並んで配置されていてもよいし、必要に応じて電子銃4の割合を増やして配置したり、ノズル11の割合を増やして配置したりしてもよい。さらには、電子銃アレイ5を電子銃4と二次電子検出器12とSPM13とから構成し、ノズル11を電子銃アレイ5とは別に設けてもよい。
なお、電子銃アレイ5は、MEMS(Micro
Electro Mechanical System)技術を用いて、LSIやTFTなどの素子を製造することができるサイズの電子銃アレイを製造することができる。
【0028】
電子銃4はアレイ基板14上の略全面に配置されているとともに、図中のX軸方向およびY軸方向に略等間隔に配置されている。また、電子銃4は、図2(b)に示すように、アレイ基板14に形成された凹部16の底面に形成された略円錐形状の電子放出部17と、電子の引き出し電圧を印加するゲート電極18と、凹部16の開口部近傍に形成された電子レンズ(偏向部、レンズ手段)19と、から形成されている。電子レンズ19は互いに直交する電極対から形成され、それぞれ図中のX軸、Y軸と略平行な電界を形成するように配置されている。
SPM13は、アレイ基板14のX軸方向およびY軸方向の両端の4箇所に配置されている。
【0029】
図3は、電子銃4とステージ部6との制御を説明するブロック図である。
二次電子検出器12は、図2(a),(b)に示すように、アレイ基板14上の電子銃4間に配置されている。また、二次電子検出器12には、図3に示すように、二次電子検出器12の出力信号を演算処理する信号処理部21が接続されている。信号処理部21には、電子銃4を制御する電子銃制御部22と、ステージ部6を駆動制御するステージ制御部23と、が接続されている。
【0030】
ステージ部6は、図1に示すように、粗動ステージ(ステージ)31と、微動(ステージ)ステージ32と、基板2を保持する静電チャック33と、から概略構成されている。
粗動ステージ31および微動ステージ32は、図中のX軸方向、Y軸方向に移動可能なXYステージである。粗動ステージ31は、微動ステージ32よりも移動範囲が広いステージであって、位置決め精度は微動ステージ32よりも低いステージである。微動ステージ32は、逆に粗動ステージ31よりも位置決め精度が高く、移動範囲が粗動ステージ31よりも狭いステージである。
【0031】
次に、上記の構成からなる素子製造装置1における素子製造方法について説明する。
まず、図1に示すように、真空容器3内に基板2を設置して真空容器3を密封し、真空容器3内を高真空に吸引する。
その後、原料ガスGがノズル11から真空容器3内に導入される。電子銃アレイ5を構成する各電子銃4の電子放出部17からは、電子線が基板2に向けて放出され、電子レンズ19にて電子線のビーム径が制御される。
電子線Eが照射された領域の基板2からは二次電子が発生し、発生した二次電子は原料ガスGを励起する。励起した原料ガスGは基板2の電子線照射領域に堆積し、所定膜種の膜を成膜する。
【0032】
電子銃アレイ5は、粗動ステージ31および微動ステージ32により図中のX軸方向およびY軸方向に駆動制御される。具体的には、粗動ステージ31により微動ステージ32および電子銃アレイ5が移動目標地点の近傍領域であって、微動ステージ32の移動範囲内の地点に移動される。そして、微動ステージ32により電子銃アレイ5が移動目標地点に移動される。
また、電子放出部17から放出された電子線Eは、電子レンズ19により図中のX軸方向およびY軸方向に偏向制御される。
【0033】
上述のように粗動ステージ31と、微動ステージ32と、電子レンズ19とにより、基板2と電子線Eの照射領域とを相対移動させることにより、マスク等を用いることなく、所定形状の上記所定膜種の膜が直接成膜される。
さらに、同様の工程を繰り返して、例えば半導体膜、酸化膜、金属膜等の膜を積み上げて成膜し、マスク等を用いることなく、TFT等の半導体素子や配線、その他の素子が基板2の上に製造される。
【0034】
次に、電子銃4とステージ部6との駆動制御方法について説明する。
電子線Eの照射により基板2から発生した二次電子の一部は、図1に示すように、電子銃アレイ5に向かって飛び出し、二次電子検出器12に検知される。二次電子検出器12の検出信号は、図3に示すように、信号処理部21に入力され、二次電子の発生量や発生位置が推定される。
【0035】
二次電子の発生量が設計値から外れていると、信号処理部21は電子銃制御部22に信号を出力し、二次電子の発生量が設計値と等しくなるように電子銃4から照射される電子線Eを制御する。制御する項目としては、電子の加速電圧や、電流密度、電子線Eのビーム径などを挙げることができる。
また、二次電子の発生位置が設計値から外れていると、信号処理部21はステージ制御部23に信号を出力し、二次電子の発生位置が設計値と等しくなるようにステージ部6の粗動ステージ31および微動ステージ32を制御する。なお、上述のようにステージ部6のみを制御して二次電子の発生位置を修正してもよいし、電子レンズ19による電子線Eの偏向制御も含めて二次電子の発生位置を修正してもよい。
【0036】
次に、基板2と電子銃アレイ5との相対位置合わせ方法について説明する。
基板2が真空容器3内に配置され、最初の所定形状の膜を成膜するときに、図1に示すように、基板2に図中のX軸方向およびY軸方向の両端の4箇所に、電子銃アレイ5のSPM13と対向するようにマーカMが形成される。
マーカMは、例えば円錐状や角錐状などの形状に形成され、SPM13によりその位置および電子銃アレイ5との距離が計測される。この計測された各マーカMの位置および距離は記憶される。
その後、基板2の上に異なる膜を形成する際に、各マーカMの位置および距離を計測し、その計測位置および距離が記憶されたマーカMの位置および距離と一致するように基板2と電子銃アレイ5との相対位置および距離が制御される。
【0037】
なお、上述のように最初の所定形状の膜を成膜するときにマーカMを同時に形成してもよいし、マーカMのみを最初に形成してもよい。
なお、上述のようにマーカMの位置を計測するのにSPM13を用いてもよいし、SPM13の代わりにSTM(走査型トンネル顕微鏡)を用いて計測してもよい。
【0038】
次に、素子製造装置1と同じ成膜原理を用いて成膜を行う実験装置による成膜実験について説明する。
図4は、素子製造装置1と同じ成膜原理を用いた実験装置の概略を説明する図である。
実験装置51は、図4に示すように、ポリイミド等の樹脂から形成された基板52が収納される真空容器53と、基板52に向けて電子線を照射する電子銃54と、真空容器53内に原料ガスGを供給する原料ガス供給部55と、から概略構成されている。
真空容器53内には基板52を支持する台56が配置され、真空容器53は真空排気系(図示せず)と接続されている。
電子銃54は差動排気系(図示せず)と接続され、その内部が真空になるように構成されている。
原料ガス供給部55は、Si基板57と、Si基板57を加熱するヒータ58と、Clガスが導入される導入部(図示せず)と、から構成されている。
【0039】
次に、実験装置51による成膜方法について説明する。
まず、基板52を真空容器53内の台56に配置し、真空容器53内を高真空(例えば略2.7×10−8Pa(2.0×10−10Torr))に真空引きする。
その後、Si基板57をヒータ58により加熱しながら、原料ガス供給部55にClガスを導入する。Clガスは加熱されたSi基板57と反応して、SiClガス(原料ガスG)となり、真空容器53に導入される。
【0040】
真空容器53に原料ガスGが導入されるときの圧力は、略1.3×10−3Paから略1.3×10−2Pa(1×10−5Torrから1×10−4Torr)、好ましくは、略6.7×10−4Paから略6.7×10−3Pa(5×10−6Torrから5×10−5Torr)の範囲内となることが望ましい。この範囲内の圧力とすることにより、成膜速度を速くし、良質の膜を形成することができる。
また、基板52の温度は室温から略150℃の範囲とされることが望ましい。この範囲の温度とすることにより、成膜速度が速く、良質の膜を得ることができる。
【0041】
真空容器53内に原料ガスGが導入されると、電子銃54から電子線Eが基板52に照射される。基板52の電子線照射領域からは二次電子が発生し、原料ガスGが二次電子により励起される。励起された原料ガスGは、基板52上に堆積し、電子線照射領域にSi膜が形成される。
【0042】
また、原料ガスとして、シリコン原料ガス(SiH,SI,SICl等)と、酸素含有ガス(O,N0,N0等)とを用いて、基板上にシリコン酸化膜を所定形状に形成することもできる。
さらに、原料ガスとして、金属ハロゲン化物(WF,MoF,WCl,MoCl等)と、シリコン水素化物(SiH,Si,SiCl等)とを用いて、基板上にシリサイド膜を所定形状に形成することもできる。
【0043】
上記の構成によれば、電子線Eの照射により基板2から二次電子を発生させ、原料ガスGを二次電子により励起させ、電子線照射領域に原料ガスGに対応する所定膜種の膜を形成することができる。
上述のように原料ガスGを二次電子により励起するため、基板2の温度を室温から150℃の範囲に抑えることができる。また、室温から150℃の範囲とすることで、基板2の上に良質の所定膜種の膜を形成することができる。その結果、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリイミドおよびポリ4フッ化エチレン(テフロン(登録商標))など、熱に弱い樹脂等さまざまな材料からなる基板を用いることができる。
【0044】
基板2と電子線Eとを相対移動させることができるため、所定形状の上記所定膜種の膜を形成することができる。そのため、開発リードタイムの長いフォトマスク等を用いることなく所定形状の上記所定膜種の膜を形成することができ、新規素子の開発リードタイムを短縮することができるとともに開発コストを低減することができるという効果を奏する。
【0045】
移動範囲が広くかつ移動精度が低い粗動ステージ31と、移動範囲が狭くかつ移動精度が高い微動ステージ32と、組み合わせて備えることにより、基板2と電子線照射領域との相対位置を広い範囲で、高い精度で制御することができる。そのため、所定膜種の膜を広い範囲に高い形状精度で成膜することができる。
【0046】
電子銃4を複数備えた電子銃アレイ5を用いることにより、電子線照射領域を増やすことができる。そのため、所定膜種の膜を複数個所で同時に成膜することができ、所定面積の所定膜種の膜を短い時間で成膜することができる。
【0047】
二次電子検出器12を備えることにより、上記所定膜種の膜の成膜位置を検出することができる。そのため、検出した成膜位置のズレの情報に基づき、ステージ制御部23によりステージ部6を制御し、成膜位置のズレを修正することができる。
また、上記所定膜種の膜の成膜状態を検出することができる。そのため、検出した成膜時の異常の除法に基づき、電子銃制御部22により電子線Eを制御し、成膜不良の発生を防止することができる。
【0048】
SPM13によりマーカMの位置を検出し、その出力に基づいてステージ部6を制御するため、基板2と電子線照射領域との相対位置関係を常に一定に保つことができる。例えば、基板2を一度真空容器3から取り出し、その後再び真空容器3内に設置した場合でも、基板2と電子線照射領域との相対位置関係を一定に保つことができる。
また、一の素子製造装置で成膜された基板2を他の素子製造装置に設置して成膜する場合でも、基板2と電子線照射領域との相対位置関係を一定に保つことができる。その結果、複数の膜の相対位置関係が正確なTFTなどの素子を製造することができる。
【0049】
なお、原料ガスGを変更することにより、さまざまな種類の膜を成膜することができ、上述のシリコン膜や、シリコン酸化膜、SiGe,C,Cu,Ta等を挙げることができ、これらの膜の積み重ねによりTFTなどの半導体素子を製造することができる。
【0050】
なお、上述のように基板2から二次電子を発生させ、原料ガスGを励起するのに電子線を照射する電子銃を用いてもよいし、ラジカルを照射するラジカルガンを用いてもよく、基板2から二次電子を発生させ、原料ガスGを励起できるものを用いることができる。
【0051】
〔第2の実施の形態〕
次に、本発明の第2の実施形態について図5および図6を参照して説明する。
本実施の形態の素子製造装置の基本構成は、第1の実施形態と同様であるが、第1の実施形態とは、電子銃アレイの構成等が異なっている。よって、本実施の形態においては、図5および図6を用いて電子銃アレイの構成等の異なる部分のみを説明し、構成要素等の同一部分の説明を省略する。
図5は、本実施形態に係る素子製造装置101の概略を説明する図である。
第1の実施形態と同一の構成要素には、同一の符号を付し、その説明を省略する。
素子製造装置101は、図5に示すように、基板2を内部に収容する真空容器(容器)103と、基板2に電子線Eを照射する電子銃4を直線状に配置した電子銃アレイ(複数の励起線源)105と、電子銃アレイ105を基板2に対して移動させるステージ部(移動手段)106と、真空容器103内の気体を排気する排気系(図示せず)と、基板2を搬送する搬送部107と、から概略構成されている。
【0052】
図6は、図5の電子銃アレイの構成を説明する図である。図6(a)は、電子銃アレイを電子線照射側から見た図であり、図6(b)は、図6(a)の電子銃アレイのB−B´断面図である。
電子銃アレイ105は、図6(a)に示すように、電子線Eを照射する電子銃4と、原料ガスGを基板2と電子銃アレイ5との間に導入するノズル11と、基板2から発生する二次電子を検出する二次電子検出器12と、が略角柱状に形成されたアレイ基板114に配置されることにより構成されている。
電子銃4はアレイ基板114に図中のY軸に平行な直線上に等間隔に並んで配置されている。電子銃4は、図6(b)に示すように、アレイ基板114に形成された凹部16の底面に形成された略円錐形状の電子放出部17と、電子の引き出し電圧を印加するゲート電極18と、凹部16の開口部近傍に形成された電子レンズ19と、から形成されている。
【0053】
ステージ部106は、図5に示すように、粗動ステージ(ステージ)131と、微動ステージ(ステージ)132と、から概略構成されている。
粗動ステージ131および微動ステージ132は、図中のX軸方向、Y軸方向に移動可能なXYステージである。粗動ステージ131は、微動ステージ132よりも移動範囲が広いステージであって、位置決め精度は微動ステージ132よりも低いステージである。微動ステージ132は、逆に粗動ステージ131よりも位置決め精度が高く、移動範囲が粗動ステージ131よりも狭いステージである。
【0054】
搬送部107は、基板2をその上面に保持して、真空容器103の入口103aから出口103bに向けて搬送する搬送システムである。搬送部107は、図5に示すように、1つの真空容器103について基板2を搬送するように設置されていてもよいし、複数の真空容器103を直列につなぐように搬送部107が設置されていてもよい。
【0055】
次に、上記の構成からなる素子製造装置101における素子製造方法について説明する。
まず、図5に示すように、真空容器103内を高真空に吸引するとともに、搬送部107によりX軸方向に基板2を搬送し、真空容器103内に搬入する。
その後、原料ガスGがノズル11から真空容器103内に導入される。電子銃アレイ105を構成する各電子銃4の電子放出部17からは、電子線Eが基板2に向けて放出され、電子レンズ19にて電子線のビーム径が制御される。
電子線Eが照射された領域の基板2からは二次電子が発生し、発生した二次電子は原料ガスGを励起する。励起した原料ガスGは基板2の電子線照射領域に堆積し、所定膜種の膜を成膜する。
【0056】
電子銃アレイ105は、粗動ステージ31および微動ステージ32により図中のX軸方向およびY軸方向に駆動制御される。具体的には、粗動ステージ31により微動ステージ32および電子銃アレイ105が移動目標地点の近傍領域であって、微動ステージ32の移動範囲内の地点に移動される。そして、微動ステージ32により電子銃アレイ105が移動目標地点に移動される。
また、電子放出部17から放出された電子線Eは、電子レンズ19により図中のX軸方向およびY軸方向に偏向制御される。
【0057】
上述のように粗動ステージ31、微動ステージ32および電子レンズ19により、基板2と電子線Eの照射領域との相対位置を制御することができる。そのため、基板2が搬送部107によりX軸方向に搬送されていても、所定形状の上記所定膜種の膜を成膜することができる。
【0058】
上記の構成によれば、搬送部107によって基板2を搬送させながら、基板2の上にTFTなどの素子等を製造することができる。そのため、例えばフラットパネルディスプレイなどの大面積のガラス基板にTFTや、表示電極、蓄積容量などの素子を製造することができる。
【0059】
〔第3の実施の形態〕
次に、本発明の第3の実施形態について図7を参照して説明する。
本実施の形態の素子製造装置の基本構成は、第2の実施形態と同様であるが、第2の実施形態とは、電子銃アレイの形状が異なっている。よって、本実施の形態においては、図7を用いて素子製造装置全体構成について説明し、電子銃アレイ等の個々の構成要素の説明を省略する。
図7は、本実施形態に係る素子製造装置201の概略を説明する図である。
第2の実施形態と同一の構成要素には、同一の符号を付し、その説明を省略する。
素子製造装置201は、電子銃アレイ105を内部に備える筐体(容器)202と、TFTなどが製造される基板となるフィルム(基板)203を搬送する搬送部204とから概略構成されている。
フィルム203は、PET(ポリエチレンテレフタレート)などの樹脂等から形成されてもよいし、金属箔から形成されていてもよい。
【0060】
筐体202は、フィルム203が筐体202に出入りする出入り口部205と、出入り口部205と後述する成膜部208との間の中間部206と、複数の成膜室207が配置された成膜部208と、フィルム203が折り返される折り返し部209と、から構成されている。
出入り口部205、中間部206および折り返し部209には、フィルム203を所定の位置に誘導する誘導ローラ210が備えられている。
【0061】
成膜部208には、成膜室207がフィルム203の搬送方向に直列に並んで配置されている。具体的には、中間部206から折り返し部209に向かうフィルム203が通過する成膜室207の列と、折り返し部209から中間部206に向かうフィルム203が通過する成膜室207の列とが形成されている。また、成膜室207内には、電子銃アレイ105がフィルム203と対向するように配置され、電子銃アレイ105をフィルム203に対して移動させるステージ部106が配置されている。
【0062】
また、出入り口部205、中間部206、成膜部208および折り返し部209には真空ポンプ211がそれぞれ配置されている。これら真空ポンプ211は、大気に開放されている出入り口部205から成膜室207が配置されている成膜部208に向けて真空度が段階的に高くなる、差動排気系を構成している。
【0063】
搬送部204は、一対のローラ212と、ローラ212を回転駆動するモータ等の駆動部(図示せず)と、から構成されている。一対のローラ212の一方には、成膜がされる前のフィルム203が巻かれていて、他方のローラ212には素子等が製造されたフィルムしが巻き取られる。フィルム203の搬送速度は駆動部によって駆動されるローラ212の回転速度により制御される。
【0064】
次に、上記の構成からなる素子製造装置201における素子製造方法について説明する。
まず、図7に示すように、フィルム203を成膜室207に通すように配置し、真空ポンプ211により、成膜室207内を高真空に吸引する。
その後、搬送部204によりフィルム203を搬送しながら、各電子銃アレイ105から所定の原料ガスGが成膜室207内に導入されるとともに、電子線Eがフィルム203に向けて照射される。
電子線Eが照射された領域のフィルム203からは二次電子が発生し、発生した二次電子は原料ガスGを励起する。励起した原料ガスGはフィルム203の電子線照射領域に堆積し、所定膜種の膜を成膜する。
【0065】
上述のような成膜工程が、成膜室ごとに繰り返されて異なる膜が積み上げられ素子が形成される。成膜される膜の種類としては、Si,SiGe,C,Cu,Ta等を挙げることができ、これらの膜の積み重ねによりTFTなどの半導体素子を製造することができる。
【0066】
なお、フィルム203に所定膜種の膜を成膜した後に、SPMをアレイ化したSPMアレイ(検査手段)により、成膜した所定膜種の膜の形状を検査しても良い。SPMアレイの配置位置としては、各成膜室207内の電子銃アレイ105より下流側であることが望ましい。
このようにSPMアレイを配置することにより、素子の生産性を低下させることなく、検査を行うことができる。また、検査により検知された不良個所を、局所的に修正することができる。
【0067】
上記の構成によれば、フィルム203が連続して複数の成膜室207を通過するように構成されている。そのため、フィルム203上に異なる膜を連続して大量に形成することができ、素子等を効率よく製造することができる。
【0068】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記の実施の形態においては、TFT等を製造する方法に適用して説明したが、TFT等を製造する方法に限られることなく、能動素子や受動素子、多層配線等、その他各種の素子の製造に適応することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る素子製造装置の概略を示す図である。
【図2】図1の電子銃アレイの構成を示す図である。
【図3】図1の電子銃とステージ部との制御を示すブロック図である。
【図4】図1の素子製造装置と同じ成膜原理を用いた実験装置の概略を示す図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る素子製造装置の概略を示す図である。
【図6】図5の電子銃アレイの構成を示す図である。
【図7】本発明の第3の実施形態に係る素子製造装置の概略を示す図である。
【符号の説明】
【0070】
1,101,201 素子製造装置
2 基板
3,103 真空容器(容器)
4 電子銃(励起線源)
5,105 電子銃アレイ(複数の励起線源)
6,106 ステージ部(移動手段)
11 ノズル(ガス供給手段)
12 二次電子検出器(成膜検出手段)
13 SPM(位置検出手段)
19 電子レンズ(偏向部、レンズ手段)
31,131 粗動ステージ(ステージ)
32,132 微動ステージ(ステージ)
202 筐体(容器)
203 フィルム(基板)
E 電子線(励起線)
G 原料ガス
M マーカ(被検出部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を内部に収容する容器と、
前記基板上に成膜される所定膜種の膜の材料となる原料ガスを、前記容器内に供給するガス供給手段と、
前記基板に励起線を照射する複数の励起線源と、
前記基板と前記励起線とを相対移動させる移動手段と、
前記所定膜種の膜の成膜位置および成膜状態を検出する成膜検出手段と、
を備えることを特徴とする素子製造装置。
【請求項2】
前記成膜検出手段の出力に基づいて、前記励起線源から照射される励起線を制御することを特徴とする請求項1記載の素子製造装置。
【請求項3】
前記成膜検出手段の出力に基づいて、前記移動手段を制御することを特徴とする請求項1または2に記載の素子製造装置。
【請求項4】
前記移動手段が、移動範囲および位置決め精度の異なる複数のステージを備え、
前記複数のステージに前記複数の励起線源または前記基板が配置されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の素子製造装置。
【請求項5】
前記移動手段が、前記励起線の照射方向を偏向させる偏向部を有し、
前記偏向部が、前記複数の励起線源に配置されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の素子製造装置。
【請求項6】
前記複数の励起線源が、それぞれ照射された励起線の照射領域面積を制御するレンズ手段を備えることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の素子製造装置。
【請求項7】
前記ガス供給手段が、少なくとも1つのノズルを有し、
前記ノズルが、前記複数の励起線源と同一面上に配置されていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の素子製造装置。
【請求項8】
前記基板上に形成された被検出部の位置を検出する位置検出手段を備え、
前記位置検出手段の出力に基づき、前記移動手段を制御することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の素子製造装置。
【請求項9】
前記基板に成膜された前記所定膜種の膜の形状を検査する検査手段を備えることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の素子製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−100707(P2006−100707A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−287271(P2004−287271)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】