説明

経路情報管理システム

【課題】 目的地まで他人の経路を辿ることができ、付加価値の高い経路情報を提供することができる経路情報管理システムを提供する。
【解決手段】 経路の途中に固定された複数の位置標識機と、通行者携帯用の端末機との間で経路情報を伝達して記録する経路情報管理システムにおいて、屋内又は屋外の通行路Sの通行方向全長に亘って間隔を存して多数の位置標識機2を設置するとともに、これら位置標識機2又は端末機10を電気通信回線Nを通じて中継装置28に接続して、この中継装置に、通行者が通過した位置標識機2の順序を経路として記憶し、更に他の通行者が残した経路の軌跡を示す案内手段を各端末機10に設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経路情報管理システム、特に屋内外の歩行者用通路や道路、歩道橋など、公共施設などを通過する通行者をガイドする経路情報管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】

近年、インターネットと接続した携帯電話機などを通じて一定地域の主要施設や交通機関の所在を含む地理情報を提供することが行われている(特許文献1)。しかしながら、これらの情報は一般向けの公共情報であり、各ユーザーが本当に必要とする情報は現地に行かないと判らないことが多く、結局は自分の仲間(同好者・同業者のグループなど)に電話をした方が必要な情報を早く得られることが多い。例えば地図で判り難い店舗などを訪問するときには既にそこに行ったことのある誰かの道順を辿れば徒に道に迷うこともない。又、自転車や車椅子を利用するユーザーにとっては、路面の凹凸や段差の少ない経路を選択するニーズがあるが、他のユーザーが推薦する経路を辿ることができれば楽に現地に到達することができる。更に、そうした経路の中でも目立ち難い段差などの危険個所の情報を、後から来るユーザーへの警告としてネットワーク上のサーバー装置に蓄積し供給するようにすれば通行の安全も確保できる。
【0003】
ここで従来、他人の移動経路を記録するシステムとしては、鉄道などの交通機関の入口及び乗換点などに設置された送信機から発信した位置情報を、利用者が携帯するカードで受信して記録し、その記録を出口に置かれた受信機で読み出す経路情報管理装置が知られている(特許文献2)。
【0004】
又、移動体の経路を案内する手段として、全地球測位システム(GPS)を利用して目的地への最短経路を地図に示すカーナビゲーションシステムがある(特許文献3)。
【0005】
又、経路の案内や記録の前提として移動体の位置を測定する手段として、短距離無線(ブルートゥースなど)を利用して三点測位を行う装置(特許文献4)や慣性センサを使用した慣性航法装置(特許文献5)が知られている。更に、靴の中に慣性センサを装着して人の位置を測定する装置も提案されている(非特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−310717号
【特許文献2】特開平5−334593号
【特許文献3】特開2003−130678号
【特許文献4】特開2005−005962号
【特許文献5】特開平5−133762号
【特許文献6】特開2002−333339号
【非特許文献1】「加速度積分による3次元歩行移動両の無拘束計測」佐川貢一 計測自動制御学会東北支部第202回研究集会(2002.07.02)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2のシステムは、交通機関を利用した場合の経路を記録するものに過ぎず、市街を通行する場合の経路を記録することはできない。特許文献3のシステムは、市街を通る経路を案内することはできるが、停止状態で数mの誤差があって、危険な段差を避けた精度の高い経路の再現は困難であり、又、屋内の経路には適用できない。更に特許文献4乃至5の装置は、屋内を移動する物や人の位置も測定できるが、移動体の経路を記録して管理するという着想はない。
【0007】
そこで本発明は、目的地まで他人の経路を容易に辿ることができ、付加価値の高い経路情報を提供することができるシステムとして、分岐点を含む通行路の全長に亘って間隔を存して多数の位置標識機を設けて、通行者が通過した位置標識機から定めた経路を中継装置に記憶して、他の通行者に供給できるシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の手段は、経路の途中に固定された複数の位置標識機と、通行者携帯用の端末機との間で経路情報を伝達して記録する経路情報管理システムにおいて、屋内又は屋外の通行路Sの通行方向全長に亘って間隔を存して多数の位置標識機2を設置するとともに、これら位置標識機2又は端末機10を電気通信回線Nを通じて中継装置28に接続して、この中継装置に、通行者が通過した位置標識機2の順序を経路として記憶し、更に他の通行者が残した経路の軌跡を示す案内手段を各端末機10に設けている。
【0009】
「通行路」とは、例えば車道の両側の歩行者道、地下街の通路、デパートや図書館・オフィスビルなどの建物内部の廊下やロビーなど、人が通行する全ての通路をいう。通行者を案内するという本システムの機能から、この通行路は少なくとも一つの分岐点を有するものである場合が多いが、必ずしもこれに限定される訳ではない。たとえ一本道の歩道であっても、例えば視覚障害を持つユーザー(特に中途失明者)にとっては、その歩道からそれないようにガイドするシステムがあれば安心であるし、又、後述の如く路面の段差など危険個所を注意するシステムがあれば尚更便利である。尚、通行方向とは、その路が延びている方向をいう。
【0010】
「位置標識機」は、電波や赤外線を発振して、少なくとも通行者が位置標識機の傍らを通過したことを記録できるように設ける。各発信器は無線ICタグとすることができる。通信技術としては、従来公知のブルートゥース(Bluetooth)やジグピー(ZigBee)、更にはIrDA(Infrared Date Association)を使用することができる。ブルートゥースとは、形態情報機器向けの無線通信技術であって、ノートパソコンや携帯電話などをケーブルを使わずに接続し、音声やデータのやりとりをするものである。免許なしで自由に使用できる周波数帯(2.45GHz)を利用すること、機器間の距離が10m以内であれば障害物があっても利用できること、0.5インチ四方の小型トランシーバーを利用するため消費電力が小さく、製造コストが安いことなど、本システムに適した特性を備えている。又、ジグピーは、ブルートゥースと同種の技術であるが、これよりも転送速度が低くて電送距離も短い代わりに更に省電力で低コストのものである。IrDAは赤外線を利用した近距離用通信の規格であり、通信可能距離は1m程度である。
【0011】
又、位置標識機は、街のインフラとして街の道路に沿って設ける。例えば電信柱や街灯、ガードレールなど既存の設備を設置場所とすると、これらの設備に単にICタグを張り付けるだけなので、合理的な費用の範囲で街の主要道路に位置標識機を付設することができる。
【0012】
「中継装置」とは、例えばインターネットのサーバー装置とすることができる。
【0013】
「通行者」とは、主として歩行者、又は車椅子或いは自転車の利用者をいう。
【0014】
「案内手段」としては、従来公知の音声又は視覚による案内手段を用いればよい。例えばカーナビゲーション装置で周知の如く、装置の位置及び方位を自動的に認識して、現実の地理的方位と画面上の方位とを一致するように、換言すればユーザーの進行方向と例えば画面上方とが一致するように構成したものが携帯電話機に既に採用されている(特許文献6)。又、案内手段は、必ずしも先発の通行者の経路の出発点から案内するものに限られず、その経路の任意の途中点から案内をするものとすることができる。これにより、人の経路を辿る過程でトイレに行くなどしても案内を中断したときでも、中断した地点より随時案内機能を再開することができる。
【0015】
第2の手段は、上記第1の手段を有し、かつ上記位置標識機2の位置を予め測定しておくとともに、各位置標識機2と端末機10との何れか一方に位置標識機2に対する端末機10の相対位置を決定する測位手段を設けて、通行路Sの路面上での通行者の位置を決定できるように構成している。
【0016】
「測位手段」とは、目標物の方位や距離から従来公知の3点測位法などを用いて路面上での目標物(端末機)の位置を正確に計測する。例えば中継装置は一定間隔を存して少なくとも一対の発信器により形成され、発信器間の距離と各発信器から目標までの距離とで、これら発信機に対する目標物の相対位置を決定するようにすると良い。距離を測定する手段としては、例えば各発信器と端末機との一方から送信した電波を他方で受信すると同時に一方へ返信して、その往復に要する時間で距離を測定することが一般的である。こうした測位手段を用いることで通行路の路面上のユーザーの位置を、例えば1m単位程度の精度で正確に把握できる。尚、測位手段として相互に間隔を置いて配置した3つの発信器を使用すると、目標物の3次元座標を一義的に決定することができ、更に好都合である。
【0017】
尚、発信機及び端末機の各座標は、経度と緯度のような絶対座標で特定してもよいが、一定エリア内で適用する相対座標で特定しても良い。後者は、例えば一つの建物のフロアなど特別のエリア内で適用することができる。又、例えば建物の内と外とで相対座標と絶対座標とを組み合わせて用いることもできる。
【0018】
第3の手段は、第1の手段又は第2の手段を有し、かつ通行者がマーキングした経路上の通行者自身の位置情報を通行者の端末機10を通じて中継装置28に記憶し、その位置情報を他の通行者の端末機10を介して取り出すことができるように構成している。
【0019】
「マーキング」とは、端末機の操作により路上に段差などがある場所の座標を中継装置に記録することをいう。尚、その座標情報とともに「段差有り」などのコメントを付することができるように構成することができる。
【0020】
第4の手段は、上記第3の手段を有し、かつ経路上において一つの位置標識機2付近の測位点から他の位置標識機2付近の測位点に至るまでの通行者の位置を、端末機10に内蔵した慣性センサ22で決定するように構成している。
【0021】
位置標識機の間での位置測定をするために慣性センサを併用するのは、通行路に設置する位置標識機の数を節約するためである。
【0022】
慣性センサを使用すると、歩行距離の10%程度の誤差があるので、1mの精度で位置を決定するためには、約10m間隔(第5の手段による補正手段を用いるときには約20m間隔)で位置標識機を設置すれば良い。逆に言えばこの程度の間隔で位置標識機を設置すれば、GPSに比べて十分な精度が得られる。
【0023】
第5の手段は、上記第4の手段を有し、かつ一つの位置標識機2から隣接する位置標識機2へ至るまでに通行者がマーキングした位置情報を、両位置標識機2に対して測位した地点の座標に基づいて補正することが可能に構成している。
【0024】
具体的には、一つの位置標識機から他の位置標識機へ至るまでの移動時間をT、一つの位置標識機からマーキング箇所までの移動時間をT1とするとき、他の位置標識における慣性センサでの位置の誤差をΔe=(X,Y,Z)とし、マーキング箇所での誤差をΔe×(T1/T)とすれば良い。
【0025】
移動時間をもとに計算をするのは、慣性センサを使用して通行人の位置を測定する測位システムでの誤差は、出発点からの移動に要した時間がもっとも支配的だからである。歩く速度や距離が誤差に与える影響よりも単位時間当たりに蓄積される加速度の測定誤差の方が大きいからである。本明細書において「移動時間」とは、一定の地点から他の地点に移動するのに使った時間全体をいい、途中で立ち止まっていた時間もカウントされる。より具体的には、システム全体として各位置標識機に内蔵したマイクロコンピュータのプログラムルーチンの処理速度を同じとして、このルーチンの処理回数で移動時間の長短を判定しても良い。
【0026】
第6の手段は、上記第5の手段を有し、かつ一つの位置標識機2の近傍を通過した通行者と他の位置標識機2の近傍を通過した通行者とが遭遇したときに、位置標識機2からの移動時間の長い方の通行人の位置座標を、位置標識機2からの移動時間の短い方の通行人の位置座標に基づいて補正するように構成している。
【0027】
本手段は、位置標識機の間隔を密とすることができないときに、すれ違うユーザー相互の位置情報のうち、より信頼性の高い方のデータを他方へ送信して正しい位置情報を採用するものである。尚、すれ違うユーザーは他人同士であっても良い。
【0028】
第7の手段は、上記第3の手段乃至第6の手段を有し、かつ上記端末機10は通行者が通行路上の危険箇所などの近づくべきでない箇所に接近したときに警告を発する警報手段を備えている。
【0029】
道路や駅の構内など人が通行する場所の安全性を確保することは、ユーザーはもちろん、これらの施設の管理責任者にとっても重要である。前述の如く本システムによれば、位置標識機の間隔次第で1m程度の精度で路面上の通行人の位置を把握できるので、例えば車道と歩道とがガードレールで仕切られていない道で、視覚障害者や子供が道の中央付近にはみ出して歩いているときには、「車道側にはみ出しています。」と、又、駅のプラットホームなどの縁に近づいているときには、「白線の内側に入って下さい。」と言う如く音声などで警告を発するようにすると良い。又、耳の遠い高齢者や聴覚障害者などのために、端末機が振動して危険を知らせるように構成しても良い。
【発明の効果】
【0030】
第1の手段に係る発明によれば、次の効果を奏する。
○ある通行者が残した経路を中継装置28に記憶して、別の通行者の端末機10へ出力するように構成したから、目的地まで容易かつ確実に到達することができる。
○一般の地図に載せることができない小さな店舗や路地などの経路情報を提供することができ、情報の多様性を確保できる。
○道路工事や天候による路面状態の悪化などの経路情報を逐次提供することができ、情報の速報性を担保することができる。
○GPSと異なり、屋内(自宅のあるマンションや駅の構内など)の通行路にも適用することができ、例えば自宅から職場まできめ細かく経路の案内をすることができる。
【0031】
第2の手段に係る発明によれば、位置標識機2に対する端末機10の相対位置を決定する測位手段を設けて、通行路Sの路面上での通行者の位置を決定できるようにしたから、路面上の段差のある箇所を避けた経路を中継装置28に記録することができる。
【0032】
第3の手段に係る発明によれば、通行者が経路上の任意の点をマーキングすることができるように設けたから、経路上の危険箇所などを他のユーザーに警告することができる。
【0033】
第4の手段に係る発明によれば、一つの位置標識機2から他の位置標識機2に至るまでの通行者の位置を、端末機10に内蔵した慣性センサ22で決定するように構成したから、位置標識機2の数を節約してイニシャルコストを軽減することができる。
【0034】
第5の手段に係る発明によれば、一つの位置標識機2から隣接する位置標識機2へ至るまでに通行者がマーキングした位置情報を、両位置標識機2に対して測位した地点の座標に基づいて補正するから、位置標識機の間の距離をある程度大きくとりながら、マーキング箇所の位置を正確に計測することができる。
【0035】
第6の手段に係る発明によれば、一つの位置標識機2の近傍を通過した通行者と他の位置標識機2の近傍を通過した通行者とが遭遇したときに、位置標識機2からの移動時間の長い方の通行人の位置座標を、位置標識機2からの移動時間の短い方の通行人の位置座標に基づいて補正するように構成したから、更に人通りが多くかつ位置標識機の設置間隔が広くなる場所を設置するための間隔が広くなる場所(例えば交差点や広場など)でも通行人の位置座標を利用して測位の精度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
図1乃至図6は、本発明の第1の実施形態に係る経路情報管理システムを示している。
【0037】
このシステムは、位置標識機2と、利用者用の端末機10と、中継装置28とで構成されている。
【0038】
位置標識機2は、ブルートゥースなどの通信技術を利用した一対の発信器4、4を一定距離を存して設置したものである。これらの発信器は、目的面への貼着用のラベル・シールなどの基板6の表面に予め一定距離を離して付設しておくと便利である。各発信器4は、端末機10からの電波を受信して、返信の電波信号を送り返すように構成している。
【0039】
これら位置標識機2は、本システムの適用対象とするエリア内の屋外又は屋内の通行路Sの通路方向全長にわたり、適当な間隔を存して設置する。例えば一定の市街地の道路、駅や地下街の通路、オフィスビルなど各種建物の通路やロビー、公園などに設置することができる。尚、位置標識機2は、図2の如く電柱や街路灯、ガードレールなど既存の設備の一部に貼付することが望ましい。しかしながら、路面の一部に固定標識として埋め込むことも可能である。位置標識機2は、後述の端末機から送信された信号を受信して同時に返信するように構成しても良い。
【0040】
端末機10は、本体12と計測部20とで形成している。図1に示す如く複数の端末機10が電気通信回線Nであるインターネットに接続されている。
【0041】
上記端末機本体12は携帯電話機のように入力ボタン14と操作画面16とを有しており、好ましくは携帯電話の機能を兼備するものとすることが望ましい。上記操作画面16は他人の経路を地図に重ねて表示させること、更に自分の現在位置を重ねて表示することが可能に形成する。更に端末機本体12は、ユーザーが危険な箇所に接近したときに音声乃至は振動で知らせる警告手段(図示せず)を具備している。更に端末機本体は、携帯電話機と同様の通信機能により、この機体を携帯しているユーザーの個人識別番号とともに、経路に関する諸情報(経路自体や経路に関するコメント及び経路上の各点を通過した時間など)を送信することができ、更に他のユーザーの経路を受信することができるように構成する。
【0042】
上記計測部20は、本体12から切離して、身体のうち動きの少ない部分に装着することが可能に設けている。計測部20は、慣性センサ22と短距離通信ユニット24とを有しており、慣性センサにより特定の基準点からの移動の経路を計測するとともに、短距離通信ユニット24により計測部と位置標識機の各発信器4との間の距離を測定してそれぞれ計測値を端末機本体12へ出力するように構成している。
【0043】
中継装置28は、上記電気通信回線Nに接続されており、その回線を通じて各ユーザーの経路データ及びマークデータを中継装置28のデータバンクへアップロード(入力)し、又、ダウンロード(出力)することができるように構成している。更に、そのデータバンクには、識別番号などの個人情報や、地図データ・施設情報・位置標識機の位置情報などの他、各ユーザーから集まった経路に関する情報が記憶されている。経路に関する情報は、メンバーを登録した特定のグループ内で交換することができる。又、情報の内容に応じて、例えば、高齢者にとって有利な情報、車椅子利用者に有利な情報の如く分類して、特定のエリアごとに取り出すことができる。
【0044】
中継装置では、経路データおよびマーキングデータを、次の表に示す如く非常に細かいピッチで並ぶ離散するポイントデータとして蓄積している。
【0045】
【表1】


【0046】
同表中Sign-aは相対座標Xn,Yn,Znの基準となる位置標識機の名称である。又、時間は100分の1秒の単位まで表示している。
【0047】
又、各位置標識機の絶対座標は、サーバのSignテーブルに蓄積する。又、同表中の「Q」はマーキング情報であり、この要素が0の場合は経路にマーキングがされていないという意味である。マーク“Q”の意味(例えば「凹凸有り」などといった警告の内容)は、サーバーのマークテーブルに蓄積される。
【0048】
上記構成において、自分の経路をシステムの中継装置に記憶させるときには、端末機の電源を入れて、システムの中継装置とリンクさせる。このとき周囲の地図情報をダウンロードして、その地図を操作画面させること、及び、このシステムのサポートが受けられる通行路S、即ち一定間隔で位置表示装置2が付設されている通行路を確認する。もっとも自分がいる地域の全ての道がこのシステムでサポートされている場合には、この確認は不要である。そしてユーザーが上記通行路Sに入ると、システムは、下記の手順でユーザーの位置を測定し、経路を記録する。即ち、図2に示す如く歩道を通行しているユーザーAが、街路灯に付設された位置標識機2の傍らを横切るとき、ユーザーAが携帯している端末機10と位置標識機2の発信器4,4との間で電波信号を発信及び返信し、その往復時間より、各発信機4と端末機10との間の各距離を計測し、この計測距離と、中継装置28からダウンロードした位置標識機の各発信器の座標情報とから、三点測位法により端末機10を所持するユーザーの場所Pを正確に決定できるように設けている。更にこの場所Pからの次の位置標識機2の傍らを通過するまでの間の通行者の経路は慣性センサ22により加速度を測定することで計測される。この途中で図示の如く歩道の路面に窪みなどがあったときには、この窪みを迂回して歩くとともに、この迂回箇所Pを端末機本体12のボタン操作によりマーキングし、後からくるユーザーにコメントを中継装置28に記憶しておく。
【0049】
尚、位置標識装置を設置していない地点から出発するときには、絶対座標未定のままでその地点からの経路を慣性センサにより記録し、通行路Sに入って最初の位置標識機2の傍らを通った時点で、それまでの経路の座標を遡って確定することができる。
【0050】
次に、この本発明のシステムを使用して他人の経路を辿るときには、端末機本体12を操作して、目的地を検索、指示して、この目的地までの経路情報及びマーキング情報をダウンロードする。このとき目的地までの経路とユーザーの現在位置とが操作画面に表示されるようにすると良い。現在位置と、目的地を含む経路とが離れており、経路情報によりサポートされていない場合には、その経路途中の任意の点まで、操作画面の地図を利用するなど、既存のナビゲーション手法に移動すれば良い。尚、目的地へ至る一の経路と交差する別の経路があり、この別の経路の近くに自分がいるときには、その交差点までは他の経路を辿り、交差点で上記一の経路へ乗り換えることもできる。
【0051】
このように、中継装置に記録された先のユーザーの経路を辿って確実に目的地に到達することができ、更にコメントを参考に安全に通行することができる。
【0052】
次に図5及び図6を用いて、本発明の使用例を、より具体的に説明する。
【0053】
図5は、先発のユーザーAが目的地40に到達するまでの経路を、端末機本体12の操作画面16に表示したものである。Aは、地下鉄駅Cの改札42を出て、地下道44を通って地上に出ようとするが、最寄の出入口46は階段を上らなければならない。Aは、足を怪我した後発ユーザーBが杖歩行し易いように、地下道44を通って、やや遠回りではあるがリフト(エレベーター)のある出入口48を利用することとした。ここで昇降口48の前で端末機10のボタンを操作してマーキングをするとともに、「出入口・リフトあり」というコメントを中継装置28に送信した。更に出入口48を出て2つ目の角の路面に大きな窪み50があったので、Aはここで再びマーキングして、「T字路・くぼみあり。」などとコメントを残した。更にAは、その先の道では曲がるべき角を曲がらずに往き過ぎたため、その角から入った小路地をマーキングして、「小路地・往き過ぎ」とコメントを残し、この小路地52を通過して目的地40に到達した。
【0054】
図6は、後発のユーザーBがAの経路を参考に辿りながら、目的地40に到達する行程を描いている。Bは、地下鉄駅Dの改札54を出たところで端末機10を作動させ、現在位置付近の地図情報と、Aの経路情報とをダウンロードする。そしてAの経路の上に移動して案内機能を作動させると、Aの経路の途中からでも、そこから先の経路が操作画面16に表示される。図6では出発点から目的地までの道のり全体を表示しているが、従来公知の如くその道のりの一部を拡大してユーザーBの歩みに応じて画面上の地理環境が目的地側へ進んで行くように構成することができる。そしてBは出入口48を介して地上に出て、更にコメントに従って窪み50を迂回する。更に小路地52の手前の角では、BがAの経路を無視して小路地52の方へ入ると、端末機10は自動的にそこから先の経路への案内を開始する。これにより先行者Aの道のりのうち無駄な部分を省略して最短の経路を辿ることができる。
【0055】
図7は、本発明の第2の実施形態を示しており、位置標識機2−1,2−2間の経路部分にマーキングをしたときに、そのマークα、βの位置を補正することが出来るようにしたものである。
【0056】
ここで本システムにおいて慣性センサ22を用いた経路を計算するプログラムルーチンの計算速度を一定とすると、慣性センサを利用した位置測定の誤差はプログラムルーチンの計算回数におおよそ比例しているものと考えられる。そこで位置標識機2−1から位置標識機2−2への移動において、総計算回数を出発点からN回、Mark−αまでの計算回数をN回、Mark−βまでの計算回数をN回とする。
【0057】
そして位置標識機2−2におけるユーザーの正確な座標を(X2t,Y2t,Z2t)で表し、更に位置標識機2−2の測定された座標を(X,Y,Z)とすると、位置標識機2−2における誤差(e,e,e)=(X−X2t,Y−Y2t,Z−Z2t)となる。
【0058】
そうすると、Mark−αの位置補正は次式の通りとなる。
(Xat,Yat,Zat)=(X−e×(N/N),Y−e×(N/N),Z−e×(N/N))
又、Mark−βの位置補正は次式の通りとなる。
(Xbt,Ybt,Zbt)=(X−e×(N/N),Y−e×(N/N),Z−e×(N/N))
図8及び図9は、本発明の第3の実施形態を示しており、通行路に適当な間隔で位置標識機2を設置することができない場合に、位置標識機に基づく測位の代わりに、異なる位置標識機を出発して遭遇したユーザの間で各端末機に記録された座標を利用して、位置の補正を行うものである。
【0059】
例えば大きな広場などであって、広場の周辺部分ではその広場を囲う柵などがあって適当な間隔で位置標識機を設置することができるが、中心部分では適当数の位置標識機の設置箇所を確保できないような場合である。その他駅前のローター広場や神社の参道なども同様である。このような場合、位置標識機を適当な保護ケースに収納して路面に埋め込むようなことも考えられるが、そうすると電柱などに単に貼付する場合と比べてかなりコスト高になってしまう。
【0060】
本実施形態は、こうした位置標識を設置し難い空間(特に広い空間)であっても人通りが多い場所では本システムを利用した他のユーザー(知り合いか否かは問わない)と遭遇する可能性が高いことに着目して、相互の座標データを授受すること、具体的には、両者のうち位置標識機からの移動時間が短い方の座標を、より正確な座標として他方の座標として採用することを内容とするものである。
【0061】
位置標識機2−1を出発したユーザーAと位置標識機2−2を出発したユーザーBとが遭遇した場合、遭遇までの計算回数がNa>=Nbであるとき、Bの位置(Xb2,Yb2,Zb2)を正として、Aの位置(Xa2,Ya2,Za2)を補正する。
【0062】
ここで、ユーザーA、Bの各端末機がお互いを認識して、位置情報を交換しあうために利用する近距離無線通信が、指向性をもたない電波(球状に拡散する電波)であり、その最大到達距離(球体の半径)をRとする。
【0063】
図8及び図9は、ユーザーA及びBの各端末機がお互いを認識したときの各ユーザーA、Bの慣性センサで計測された位置関係を示している。図面上はユーザーAは、ユーザーBを中心とする半径Rの円から離れた位置にあるが、現実にはこの時点でA、Bの端末機がお互いを認識したのであるから、本当はユーザーAはこの円上に居なければならない。即ち、ユーザーAの補正位置(Xa2t,Ya2t,Za2t)は、(Xb2,Yb2,Zb2)を中心として半径をRとする球体と、(Xb2,Yb2,Zb2)と(Xa2,Ya2,Za2)とを通る直線との交点のうち、(Xa2,Ya2,Za2)に近い点である。
【0064】
ここでL=[((Xa2−Xb2+(Ya2−Yb2+(Za2−Zb2)]1/2
とすると、Aの補正位置[Xa2t,Ya2t,Za2t]は次式で与えられる。
【0065】
[Xa2t,Ya2t,Za2t]=[((X2b+(X2a−X2b)×R/L),(Y2b+(Y2a−Y2b)×R/L),(Z2b+(Z2a−Z2b)×R/L)]
尚、本実施形態は、基本的にユーザーの意思と無関係に情報を交換するものであるので、遭遇場所の位置座標以外の経路情報(出発点や目的地)は伝達しないようにすることが望ましい。
【実施例】
【0066】
図10は本発明の実施例を示している。この実施例は、車椅子利用者Bが目的地へ行くルートを確保するために、先行者Aの経路情報及び本システムにおいて開放された当該エリアの地理情報を利用するものである。
【0067】
まず、Aは、Bの自宅58から目的地である駅60までの地理を確認するために、端末機10で当該エリアの地理情報を呼び出す。この地理情報は、地図データに駅前及びその周辺の交通の便や治安情報などを書き込んだもの(図中の二重枠で囲んだコメント)で、町内会などの団体が駅前商店街へのアクセスの提供などによる地域の活性化と市民サービスとのために集めて一般に公開しているものである。これらのデータをみると、自宅から駅までの地理上の最短コースには、待ち時間の長い踏み切りがあり、更に路面の状態も凹凸が多いことが判る。そこでAは、多少遠くなってもスロープ付きの歩道橋やバリアフリーのトイレなどがあって比較的安全・快適に通行できる迂回路を選択した。そしてAは、この迂回路を、Bがこの経路を利用する通勤時間帯に合わせて通行してみることとした。そうすると、交通量の少ない迂回路であっても通学路と交差して自転車との接触に注意すべきポイントや小さな段差があるポイントが見つかり、これに対してはBのためにマーキングをして注意事項をコメントした。更に駅60では、スロープ付きの昇降リフト62の位置を確認した。更にAは、トイレについても車椅子ごと入ることができるスペースがあることを確認した。このようにAが確認した経路を辿ることでBは快適に駅まで通行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る経路情報管理システムの概念図である。
【図2】図1のシステムの街道への適用例を示す図である。
【図3】図1のシステムの端末機の正面図である。
【図4】図1のシステムの位置標識機の正面図である。
【図5】図1のシステムを使用して目的地へ到達した先行者の経路表示図である。
【図6】図5の経路を辿った利用した後発者の目的地への行程図である。
【図7】本発明の第2実施形態の原理説明図である
【図8】本発明の第3実施形態の原理説明図である。
【図9】図8と異なるケースに基づく原理説明図である。
【図10】本発明の実施例説明図である。
【符号の説明】
【0069】
2…位置標識機 4…発信器 6…基板
10…端末機 12…本体 14…入力ボタン 16…操作画面 20…計測部
22…慣性センサ 24…短距離通信ユニット 28…中継装置
40…目的地 42…改札 44…地下道 46、48…出入口 50…窪み 52…小路地
54…改札 58…自宅 60…駅 62…昇降リフト
N…電気通信回線 S…通行路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経路の途中に固定された複数の位置標識機と、通行者携帯用の端末機との間で経路情報を伝達して記録する経路情報管理システムにおいて、屋内又は屋外の通行路Sの通行方向全長に亘って間隔を存して多数の位置標識機2を設置するとともに、これら位置標識機2又は端末機10を電気通信回線Nを通じて中継装置28に接続して、この中継装置に、通行者が通過した位置標識機2の順序を経路として記憶し、更に他の通行者が残した経路の軌跡を示す案内手段を各端末機10に設けたことを特徴とする、経路情報管理システム。
【請求項2】
上記位置標識機2の位置を予め測定しておくとともに、各位置標識機2と端末機10との何れか一方に位置標識機2に対する端末機10の相対位置を決定する測位手段を設けて、通行路Sの路面上での通行者の位置を決定できるように構成したことを特徴とする、請求項1記載の経路情報管理システム。
【請求項3】
通行者がマーキングした経路上の通行者自身の位置情報を通行者の端末機10を通じて中継装置28に記憶し、その位置情報を他の通行者の端末機10を介して取り出すことができるように構成したことを特徴とする、請求項1又は請求項2記載の経路情報管理システム。
【請求項4】
経路上において一つの位置標識機2付近の測位点から他の位置標識機2付近の測位点に至るまでの通行者の位置を、端末機10に内蔵した慣性センサ22で決定するように構成したことを特徴とする、請求項3記載の経路情報管理システム。
【請求項5】
一つの位置標識機2から隣接する位置標識機2へ至るまでに通行者がマーキングした位置情報を、両位置標識機2に対して測位した地点の座標に基づいて補正することが可能に構成したことを特徴とする、請求項4記載の経路情報管理システム。
【請求項6】
一つの位置標識機2の近傍を通過した通行者と他の位置標識機2の近傍を通過した通行者とが遭遇したときに、位置標識機2からの移動時間の長い方の通行人の位置座標を、位置標識機2からの移動時間の短い方の通行人の位置座標に基づいて補正するように構成したことを特徴とする、請求項5記載の経路情報管理システム。
【請求項7】
上記端末機10は通行者が通行路上の危険箇所などの近づくべきでない箇所に接近したときに警告を発する警報手段を備えていることを特徴とする、請求項3乃至請求項6の何れかに記載の経路情報管理システム。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−250792(P2006−250792A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−69267(P2005−69267)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】