説明

膜の製造方法

【課題】 高密度なダイヤモンドライクカーボン膜、シリコン膜、ゲルマニウム膜等の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 14族元素を含む化合物、及び超臨界状態とした物質の混合系でプラズマ放電を行うことにより基材上に膜を形成する膜の製造方法である。ここで、14族元素が炭素であり、形成される膜がダイヤモンドライクカーボン膜であることが好ましい。また、14族元素がケイ素であり、形成される膜がシリコン膜であることが好ましい。さらに、14族元素がゲルマニウム原子であり、形成される膜がゲルマニウム膜であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は膜の製造方法に関する。具体的には炭素、ケイ素、ゲルマニウムの14族元素からなる膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドライクカーボン(DLC)はダイヤモンドと似た物性を持ち、水素を含む表面が平滑なアモルファスカーボン膜のことである。炭素を主成分とする非晶質炭素薄膜のうち、高強度、低摩擦係数を有するものを指す。高硬度、耐摩耗性、低摩擦係数という機械的強度に優れ、電気的、化学的特性に優れているので高機能膜として注目されている。これまで機械部品の摺動部などに利用されてきたが、近年、その適用分野を大きく広げている。絶縁性や低誘電率を利用したLSI層間絶縁膜やPDP(Plasma Display Panel)電子放出デバイスへの応用、耐食性や低付着性を利用した金型へのコーティング材への応用、ガスバリア性を利用したPETボトルへのコーティング材への応用などが挙げられる。また、炭素材料であることから生体適合性が良くメディカル分野の応用研究も盛んに行われている。
【0003】
従来、ダイヤモンドライクカーボン膜の製造方法としては、例えば(特許文献1)に示すような化学蒸着法の一種であるプラズマCVD法が知られている。しかしながら、プラズマCVD法では高密度で緻密な膜を形成できないという問題点があった。このため、各種用途に応じてダイヤモンドライクカーボン膜の特性を変えることが困難であった。
【0004】
また、シリコン膜、ゲルマニウム膜等の製造方法としてプラズマCVD法が使われているが、ダイヤモンドライクカーボン膜を製造する場合と同様に高密度で緻密な膜を形成できないという問題点があった。
【0005】
【特許文献1】特開平08−217596号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明では、上記従来の状況に鑑み、高密度なダイヤモンドライクカーボン膜、シリコン膜、ゲルマニウム膜等を形成する膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の膜の製造方法は、請求項1として、14族元素を含む化合物、及び超臨界状態とした反応溶媒の混合系でプラズマ放電を行うことにより基材上に膜を形成することを特徴とする。
【0008】
上記手段によれば、高濃度・高溶解性という液体の性質と高拡散性・低粘性という気体の性質を併せ持つ超臨界流体中に、原料化合物を供給することで均一な混合系が形成され、緻密で高密度な膜を形成することが可能となる。
【0009】
また、上記課題を解決するため、本発明の膜の製造方法は、請求項2として、14族元素を含む化合物、及び反応溶媒の混合系を超臨界状態とし、超臨界状態とした混合系でプラズマ放電を行うことにより基材上に膜を形成することを特徴とする。
【0010】
上記手段によれば、反応溶媒と、14族元素を含む化合物との混合系を、高濃度・高溶解性という液体の性質と高拡散性・低粘性という気体の性質を併せ持つ超臨界状態とするため、高濃度かつ均一に原料化合物を供給することが可能となり、高密度な膜を形成することが可能となる。
【0011】
また、請求項3は、請求項1又は2記載の膜の製造方法において14族元素が炭素であり、形成される膜がダイヤモンドライクカーボン膜であることを特徴とする。
【0012】
上記手段によれば、高強度、低摩擦係数等の特性を有するダイヤモンドライクカーボンの薄膜が得られる。
【0013】
さらに、請求項4は、請求項3記載の膜の製造方法において、炭素元素を含む化合物が、飽和脂肪族炭化水素、不飽和脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、アルコール、エーテルから選択される1種又は2種以上であることを特徴とする。
【0014】
さらに、請求項5は、請求項3記載の膜の製造方法において、炭素元素を含む化合物が、飽和脂肪族炭化水素、不飽和脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする。
【0015】
さらに、請求項6は、請求項5記載の膜の製造方法において、飽和脂肪族炭化水素が、炭素数1〜20の化合物から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする。
【0016】
さらに、請求項7は、請求項5記載の膜の製造方法において、不飽和脂肪族炭化水素が、炭素数1〜20の化合物から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする。
【0017】
上記手段によれば、ダイヤモンドライクカーボン膜を形成するのに最適な化合物が選択される。
【0018】
また、請求項8は、請求項1又は2記載の膜の製造方法において、14族元素がケイ素であり、形成される膜がシリコン膜であることを特徴とする。
【0019】
上記手段によれば、集積回路用シリコンウエハー等に利用されるシリコンの薄膜が得られる。
【0020】
さらに、請求項9は、請求項8記載の膜の製造方法において、化合物が、少なくともSiH、Siから選択される一種以上であることを特徴とする。
【0021】
上記手段によれば、シリコン膜を形成するのに最適な化合物が選択される。
【0022】
また、請求項10は、請求項1又は2記載の膜の製造方法において、14族元素がゲルマニウム元素であり、形成される膜がゲルマニウム膜であることを特徴とする。
【0023】
上記手段によれば、集積回路用ゲルマニウムウエハー等に利用されるゲルマニウムの薄膜が得られる。
【0024】
また、請求項11は、請求項10記載の膜の製造方法において、化合物が、少なくともGeH、Geから選択される一種以上であることを特徴とする。
【0025】
上記手段によれば、ゲルマニウム膜を形成するのに最適な化合物が選択される。
【0026】
また、請求項12は、請求項1〜11のいずれか記載の膜の製造方法において、反応溶媒が二酸化炭素であることを特徴とする。
【0027】
上記手段によれば、超臨界流体として二酸化炭素を選択したので、安価、無毒、消炎性、臨界温度が室温に近いという利点が得られる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、高濃度・高溶解性という液体の性質と高拡散性・低粘性という気体の性質を併せ持つ超臨界流体を用いるため、原料化合物を高濃度で供給することが可能となる。そして、原料化合物の濃度を低濃度から高濃度まで幅広く選択することができるため、各種用途に応じた特性を有するダイヤモンドライクカーボン、シリコン、ゲルマニウム膜を作成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明を発明を実施するための最良の形態に基づき詳細に説明する。
【0030】
まず、実施の形態(1)について説明する。実施の形態(1)に係る膜の製造方法では、炭素元素を含む化合物Bを炭素原料として用い、炭素原料及び反応溶媒Aの混合系でプラズマ放電を行う。プラズマ放電を起こすことで、炭素元素を含む化合物Bを分解し、基材上にダイヤモンドライクカーボン膜が析出する。
【0031】
図1には、本発明の膜の製造方法に用いられる膜の製造装置の一実施形態を示す。図1の製造装置1は、恒温槽21中に耐圧性の反応器10が備えられ、反応器10の内部には板状の電極11、12が対向するように配置されている。そして、ボンベ22に封入された物質が送液ポンプ24、圧力調整弁25を介して反応器10の内部に導入されるように構成されている。反応器10は、恒温槽21により温度が一定温度に保たれるようになっている。なお、送液ポンプ24は、冷却器23を用いて冷却されている。また、排圧調整弁26により反応器10内の圧力を調整している。さらに、電極11、12には、プラズマ放電を行なうための電力を供給するための高周波電源27が整合器28を介して接続されている。
【0032】
電極11、12としては、プラズマ放電が可能な材質であれば適用可能であり、具体的には、白金、金、亜鉛めっき鉄、鉄、真鍮電極等を用いることができる。また、電極間距離は、反応器10内の温度、圧力、又は放電条件によっても異なるため特に限定されるものではないが、通常0.1〜1.0mm程度に設定される。
【0033】
続いて、上記膜の製造装置を用いて膜を製造する方法について説明する。
【0034】
まず、反応溶媒Aが、送液ポンプ24を用いて臨界圧力以上に加圧され、反応器10に供給される。この際、供給する物質の圧力を圧力調整弁25及び排圧調整弁26を用いて調整する。なお、反応溶媒Aを供給する際には、冷却器23を用いて送液ポンプ24を冷却する。これにより、目的とする圧力まで速やかに加圧し、圧力を安定させることができる。そして、反応器10内部の温度を恒温槽21を用いて上昇させ、臨界温度以上とする。
【0035】
反応溶媒Aは、膜を形成する際の反応物を溶解させる物質のことをいう。反応溶媒Aとしては、特に限定されるものではなく、その物質に固有の臨界温度、臨界圧力を考慮して、従来知られた気体、液体物質の中から適宜選択して用いることができる。具体例として、二酸化炭素、3フッ化メタン(フルオロホルム)、エタン、プロパン、ブタン、ベンゼン、メチルエーテル、クロロホルム等を挙げることができる。その中でも二酸化炭素が、コスト、安全性、臨界条件などの点で最も好ましく用いられる。例えば、二酸化炭素は、臨界温度304.5K、臨界圧力7.38MPaであり、それ以上の範囲で超臨界状態に移行する。また、二酸化炭素を用いた場合、ダイヤモンドライクカーボン膜を形成する炭素原料としての役割も担う。
【0036】
また、炭素元素を含む化合物Bは、反応器10の内部に予め導入しておくか、反応溶媒Aと混合させる等して反応器10の内部に供給する。そして、反応器10の内部は、炭素元素を含む化合物Bと反応溶媒Aとの混合系となる。
【0037】
炭素を含む化合物は、反応溶媒Aに対して溶解性があれば特に限定されるものではなく、飽和脂肪族炭化水素、不飽和脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、アルコール、エーテル等の種々の有機化合物を用いることができる。
【0038】
飽和脂肪族炭化水素は、鎖状飽和脂肪族炭化水素、環状飽和脂肪族炭化水素が挙げられる。鎖状飽和脂肪族炭化水素としては、炭素数が1〜20のものが好ましく用いられる。具体的には、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、イコサン、イソブタン、イソペンタン、から選択される1種又は2種以上の化合物である。この中でも、安価で、取り扱いが容易であるエタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサンは特に好ましく用いられる。炭素数が21以上の場合には、臨界温度以下で熱分解を生じてしまい、ダイヤモンドライクカーボン膜を形成するのが困難となる場合がある。
【0039】
また、環状飽和脂肪族炭化水素としては、炭素数が1〜20のものが好ましく用いられる。具体的には、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロデカン、あるいはそれを構造として含む脂肪族炭化水素であるメチルシクロプロパン、エチルシクロプロパン、ジメチルシクロプロパン、トリメチルシクロプロパン、プロピルシクロプロパン、ブチルシクロプロパン、メチルエチルシクロプロパン、トリエチルシクロプロパン、トリプロピルルシクロプロパン、トリブチルシクロプロパン、メチルシクロブタン、エチルシクロブタン、ジメチルシクロブタン、トリメチルシクロブタン、テトラメチルシクロブタン、ジエチルシクロブタン、トリエチルシクロブタン、テトラエチルシクロブタン、ジプロピルシクロブタン、トリプロピルシクロブタン、テトラプロピルシクロブタン、プロピルシクロブタン、ブチルシクロブタンメチルエチルシクロブタン、メチルシクロペンタン、エチルシクロペンタン、ジメチルシクロペンタン、トリメチルシクロペンタン、テトラメチルシクロペンタン、ペンタメチルシクロペンタン、ジエチルシクロペンタン、トリエチルシクロペンタン、テトラエチルシクロペンタン、ペンタエチルシクロペンタン、ジプロピルシクロペンタン、トリプロピルルシクロペンタン、テトラプロピルシクロペンタン、ペンタプロピルシクロペンタン、プロピルシクロペンタン、ブチルシクロペンタン、メチルエチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、テトラメチルシクロヘキサン、ペンタメチルシクロヘキサン、ヘキサメチルシクロヘキサン、プロピルシクロヘキサン、ブチルシクロヘキサン、メチルエチルシクロヘキサンから選択される1種又は2種以上の化合物である。この中でも、特に好ましくはシクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサンである。炭素数が21以上の場合には、臨界温度以下で熱分解を生じてしまい、ダイヤモンドライクカーボン膜を形成するのが困難となる場合がある。
【0040】
また、不飽和脂肪族炭化水素としては、炭素数が1〜20のものが好ましく、具体的には、エテン、プロペン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デケン、ブタジエン、ペンタジエン、ヘキサジエン、ヘプタジエン、オクタジエン、ノナジエン、ヘキサトリエン、ヘプタトリエン、オクタトリエン、ノナトリエンから選択される1種又は2種以上が用いられる。炭素数が21以上の場合には、臨界温度以下で熱分解及び副反応を生じてしまい、ダイヤモンドライクカーボン膜を形成するのが困難となる場合がある。
【0041】
反応溶媒Aと炭素元素を含む化合物Bとの混合比は、特に限定されるものではなく、目的とするダイヤモンドライクカーボン膜の特性に応じて適宜設定できる。
【0042】
温度及び圧力の条件は、反応溶媒Aを超臨界状態として、炭素元素を含む化合物Bとを混合させ、反応させることを必須条件とする以外は適宜設定できるが、反応溶媒A及び炭素元素を含む化合物Bの混合系を超臨界状態として反応させることが特に好ましい。図2に反応溶媒A及び炭素元素を含む化合物Bの気液平衡曲線の一例を示す。図2中のc.p.(A)は反応溶媒Aの臨界点、c.p.(B)は炭素元素を含む化合物Bの臨界点を表す。曲線は混合系の相図を表し、低温側の曲線は沸点曲線、高温側の曲線は露点曲線を示す。また、VLは反応溶媒A及び炭素元素を含む化合物Bの混合系臨界曲線を表す。この場合、反応溶媒A及び炭素元素を含む化合物Bからなる二成分系での混合系臨界点は、二成分の混合比に応じて変化する。したがって、これらの混合系では、図2に示す混合系臨界曲線以上の温度、圧力において反応溶媒Aと炭素元素を含む化合物Bがともに超臨界状態となり、均一に混合する。
【0043】
例えば、反応溶媒Aと炭素元素を含む化合物Bとして、それぞれ二酸化炭素とヘプタンを選択した場合について説明する。なお、二酸化炭素の臨界点は温度304.5K(31.1℃)かつ圧力7.387MPaであり、ペンタンの臨界点は、470K(196.7℃)、かつ圧力3.36MPaである。こららの混合系は図2に示すような相図を示し、混合系臨界曲線よりも高温、高圧側において、二酸化炭素とペンタンが超臨界状態となり均一に混合する。
【0044】
続いて、高周波電源27により電極11、12間に電力を印加し、プラズマ放電を行う。その際の放電条件は、電極間距離や圧力によって異なるが、例えば電源の周波数を1〜50MPa、電力を100〜200W程度に設定する。また、反応時間も反応器のスケールや放電条件に応じて適宜設定できるが、一般には数分間程度とすることが適当である。
【0045】
プラズマ放電を行ない、炭素元素を含む化合物Bと反応溶媒Aとの混合系でプラズマを発生させることで、炭素元素を含む化合物Bは分解・反応し、電極11、12上にダイヤモンドライクカーボン膜が形成される。本実施形態では、電極11がダイヤモンドライクカーボン膜が形成される基材となる。
【0046】
さらに、反応終了後は、減圧する又は温度を下げることにより、超臨界状態の物質を、再び臨界点以下の状態へ移行させる。この過程で、超臨界状態の物質が急激に気化又は液化するため系に激しい流れが生じ、それに伴い基材上の不純物が吹き飛ばされて洗浄される。したがって、反応を行なった後に従来行なっていた水等による洗浄が不要となり、洗浄に用いた水等の廃液が生じない。
【0047】
上記実施の形態(1)によれば、超臨界状態とした反応溶媒Aと炭素元素を含む化合物Bとの混合系で反応が行なわれるので、高濃度の原料を供給することができ、高密度のダイヤモンドライクカーボン膜を形成することが可能となる。特に、超臨界状態とした反応溶媒は溶解性が高いため、原料として炭素元素を含む様々な化合物を用いることが可能となる。また、超臨界状態とした物質は、高い拡散性を有するため基材上に原料を効率よく供給することが可能となる。また、さらに反応溶媒Aと炭素元素を含む化合物Bとの混合系を超臨界状態とするため、反応系内が均一濃度に保たれるため、生成するダイヤモンドライクカーボン膜の緻密性が向上する。
【0048】
実施の形態(1)に係るダイヤモンドライクカーボン膜の製造方法は、機械部品の摺動部への膜の形成、LSI層間絶縁膜の形成、PDP(Plasma Display Panel)電子放出デバイスの作成、金型へのコーティング、PETボトルへのコーティング等に用いることができる。
【0049】
なお、上記実施の形態(1)では、電極11、12を基材としてダイヤモンドライクカーボン膜を形成したが、膜形成の対象となる基材を電極11、12に設けて基材上に膜を形成することも可能である。
【0050】
また、上述の例では、プラズマ放電を行なう際に高周波電源を用いる場合について説明したが、これに代えて直流電源を用いることもできる。高周波電源の場合には、目的のダイヤモンドライクカーボン膜が両方の電極あるいは両方の電極に設けられた基材上に生成するが、直流電源を用いると片方の電極(陰極)、あるいは片方の電極側の基材上に効率良くダイヤモンドライクカーボン膜を生成させることができる。
【0051】
続いて、実施の形態(2)について説明する。実施の形態(2)では、実施の形態(1)において、炭素元素を含む化合物Bの代わりにケイ素原子を含む化合物を用いて、シリコン膜を形成することを特徴とする。
【0052】
ケイ素原子を含む化合物を用いてシリコン膜を形成する場合も、ケイ素原子が炭素元素と同様に原子が四面体的に配意される構造を採る物質であるため、ダイヤモンドライクカーボン膜を形成する方法と同様に行うことができる。ケイ素原原子を含む化合物としては、化学式Siで表され、xが1〜10の整数、yが2〜2x+2である化合物が好ましく用いられる。この中でも特にSiH、Siが好ましく用いられる。なお、反応溶媒、放電条件等は実施の形態(1)に準ずる。
【0053】
上記実施の形態(2)によれば、上記実施の形態(1)と同様の効果を奏し、高密度で均一なシリコン膜が基材上に形成される。得られたシリコン膜は、不純物をドーピングするなどして太陽電池素子や薄膜トランジスタに用いられる。
【0054】
続いて、実施の形態(3)について説明する。実施の形態(3)では、実施の形態(1)において、炭素元素を含む化合物Bの代わりにゲルマニウム元素を含む化合物を用いて、ゲルマニウム膜を形成することを特徴とする。
【0055】
ゲルマニウム元素を含む化合物を用いて、ゲルマニウム膜を形成する場合も、ゲルマニウム元素が炭素元素と同様に原子が四面体的に配意される構造を採る物質であるため、、ダイヤモンドライクカーボン膜を形成する方法と同様に行うことができる。ゲルマニウムを含む化合物としては、好ましくは化学式Geで表され、xが1〜10の整数、yが2〜2x+2である。そして、この中でも特にGeH、Geが好ましく用いられる。なお、反応溶媒、放電条件等は実施の形態(1)に準ずる。
【0056】
上記実施の形態(3)によれば、上記実施の形態(1)と同様の効果を奏し、高密度で均一なゲルマニウム膜が基材上に形成される。得られたゲルマニウム膜は、不純物をドーピングするなどして高速電子デバイスなどにおける半導体に用いられる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、請求項に記載した範囲内において、反応溶媒等を適宜変更することができる。
【0058】
(実施例)
膜の製造装置として図1に示す装置を用いた。ポンプ、及び圧力調整弁には、日本分光製の二酸化炭素送液ポンプ、全自動圧力調整弁、全自動排圧調整弁を用いた。電極材質は10mm×20mmの白金を使用した。反応器はSUS316L製の通電可能な6穴式セルを使用した。高周波電源と整合器は東京ハイパワー社製PSG−1301(交流発生器)、PA−150(高周波発生器)、PS−330(直流変換器)、HC−2000(整合器)を用いた。流体源は純度99.99%の液化炭酸ガスを使用した。そして、プラズマ化学的気相成長法(プラズマCVD)を基に平行平板電極付耐圧セルを用いた装置を組み、電極間距離は0.5mmに設定した。
【0059】
耐圧セル(100ml)中の雰囲気ガスを二酸化炭素で置換した。その後加圧(7.5MPa)、昇温(313K)した。約60分放置した後、高周波電源(13.56MHz)を用いて約3分間120Wの電力を極板間に印加し、プラズマ放電を行った。その後、氷水で60分冷却し、減圧操作を0.1MPa/minで行った。
【0060】
電極板上の生成物を反射型光学顕微鏡(キーエンス社製 デジタルHFマイクロスコープVH−8000)を用いて表面観察を行なった。また、走査型電子顕微鏡(日立製作所製 FE−SEM S−4500型)を用いて表面観察を行った。SEM観察用の試料を作製するにあたっては、イオンスパッタ(日立製作所製 イオンスパッター E−1030型)を用いて白金−パラジウム合金を電極にコーティングした。なお、白金−パラジウム合金の成長速度は6.7nm/minに設定し、2分間行った。
【0061】
また、電極板上に析出した生成物の結晶構造を、レーザーラマン分光光度計(日本分光社製 NRS−1000)を用いて測定した。なお、測定は励起光の波長647nmで行なった。分解能は0.54cm−1とした。
【0062】
反応後の電極板上には放電腐食による跡が観察され、超臨界流体中で放電が起きたと考えられる。放電腐食跡は円形が連続的に重なって連なったものであった。各電極板上に同じ放電腐食跡が観察されたことから円柱状のプラズマが発生していると推察される。また、図3〜図7は、電極表面を走査型電子顕微鏡により観察した写真を示したものである。図3、4に示すように、領域に応じて異なる大きさの微粒子が生成していることが分かる。各々の領域をそれぞれ領域P、領域Qした。図5、6に示すように、領域Pにおいては10nm〜50nm程度のナノスケールの微粒子が生成しており、領域Qにおいては0.1μm〜1.0μm程度の微粒子が生成していることが分かる。また、図7に示すように、電極上にはダイヤモンドライクカーボンの薄膜が形成されていることが分かる。
【0063】
図8は、10nm〜50nm程度のナノスケールの微粒子が生成している領域Pにおけるラマンスペクトルを示したものである。また、図9は、0.1μm〜1.0μm程度の微粒子が生成している領域Qにおけるラマンスペクトルを示したものである。図8及び図9に示すように、ダイヤモンドのsp3炭素に特有の1350cm−1付近と、グラファイトのsp2炭素に特有の1600cm−1付近にピークが現れている。このことから、領域P、Bに生成した微粒子はダイヤモンドライクカーボンであることがわかる。
【0064】
また、図8及び図9に示すラマンスペクトルを比較すると、領域Pにおける1350cm−1付近と、1600cm−1付近のピークは、半値幅が小さくシャープである。したがって、領域Pにおける10nm〜50nm程度の微粒子は、グラファイトとダイヤモンドの結晶性が高いことがわかる。また、プラズマ放電の条件を変えることで、所望のダイヤモンドライクカーボン膜を得ることができる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施の形態(1)の膜の製造方法に用いる膜の製造装置を示す図である。
【図2】反応溶媒A及び炭素元素を含む化合物Bの気液平衡曲線の一例を示す図である。
【図3】電極板上における走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
【図4】電極板上における走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
【図5】領域Pにおける走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
【図6】領域Qにおける走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
【図7】電極板上における走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
【図8】領域Pにおける生成物のラマンスペクトルを示す図である。
【図9】領域Qにおける生成物のラマンスペクトルを示す図である。
【符号の説明】
【0066】
10 反応器
11、12 電極
21 恒温槽
22 ボンベ
23 冷却器
24 送液ポンプ
25 圧力調整弁
26 排圧調整弁
27 高周波電源
28 整合器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
14族元素を含む化合物、及び超臨界状態とした物質の混合系でプラズマ放電を行うことにより基材上に膜を形成する膜の製造方法。
【請求項2】
14族元素を含む化合物、及び反応溶媒の混合系を超臨界状態とし、超臨界状態とした混合系でプラズマ放電を行うことにより基材上に膜を形成する膜の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の膜の製造方法において、14族元素が炭素であり、形成される膜がダイヤモンドライクカーボン膜であることを特徴とする膜の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の膜の製造方法において、炭素元素を含む化合物が、飽和脂肪族炭化水素、不飽和脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、アルコール、エーテルから選択される1種又は2種以上であることを特徴とする膜の製造方法。
【請求項5】
請求項3記載の膜の製造方法において、炭素元素を含む化合物が、飽和脂肪族炭化水素、不飽和脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする膜の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の膜の製造方法において、飽和脂肪族炭化水素が、炭素数1〜20の化合物から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする膜の製造方法。
【請求項7】
請求項5記載の膜の製造方法において、不飽和脂肪族炭化水素が、炭素数1〜20の化合物から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする膜の製造方法。
【請求項8】
請求項1又は2記載の膜の製造方法において、14族元素がケイ素であり、形成される膜がシリコン膜であることを特徴とする膜の製造方法。
【請求項9】
請求項8記載の膜の製造方法において、ケイ素元素を含む化合物が、少なくともSiH、Siから選択される1種又は2種以上であることを特徴とする膜の製造方法。
【請求項10】
請求項1又は2記載の膜の製造方法において、14族元素がゲルマニウムであり、形成される膜がゲルマニウム膜であることを特徴とする膜の製造方法。
【請求項11】
請求項10記載の膜の製造方法において、ゲルマニウム元素を含む化合物が、少なくともGeH、Geから選択される1種又は2種以上であることを特徴とする膜の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか記載の膜の製造方法において、反応溶媒が二酸化炭素であることを特徴とする膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図8】
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【図9】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−249566(P2006−249566A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−72030(P2005−72030)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】