説明

自動変速機の制御装置

【課題】所定車速以下で走行中にエアコンがONした時のショックを低減する車両の制御装置を提供する。
【解決手段】エアコンON状態でのロックアップを解除する最低車速VA 以下でアクセル全閉での減速走行中に、燃料カット状態かつロックアップクラッチが締結している状態で、エアコンの作動要求があった場合、エアコンの作動を許容してからエンジントルクが安定する所定時間ΔT経過後に、ロックアップクラッチ解除と燃料カット解除とエアコン停止とを同時に実施する。つまり、エンジントルクの不安定期間が経過してから、ロックアップクラッチ解除と燃料カット解除とエアコン停止とを同時に実施するため、エンジントルクの不安定な領域でロックアップクラッチが急に解放されることがなく、ショックの発生を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の制御装置、特にロックアップクラッチを有する自動変速機を搭載し、エンジンの駆動力で駆動されるエアコン(エアコンディショナ)を備えた車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、エンジンと変速機との間に、ロックアップクラッチ付きのトルクコンバータを設けた車両が広く使用されている。このような車両では、燃費低減のために、走行中にロックアップクラッチを締結させると同時に、燃料カットを実施している。特に、無段変速機(CVT)を用いた車両の場合、連続的に変速できるという特性を生かして、ロックアップクラッチの締結領域をできるだけ低車速域まで拡大している。しかし、LOWギヤまでロックアップを継続すると、ギヤ比の兼ね合いから減速度が増大し、運転者に不快感を与えてしまう。減速度は変速機のギヤ比のほかにエンジン単体のメカロスが作用し、エアコンが作動すると、さらにメカロスが増大し、減速度が大きくなる。この状態からロックアップを解放すると、減速度が大きいため、ロックアップ解放時のショックが大きくなるという問題がある。
【0003】
図4は、Dレンジのアクセル全閉状態で、ロックアップクラッチを作動(燃料カット状態)させ、かつエアコンON状態のまま減速走行を行った時の制御を示す。時刻t1で車速が規定車速VA まで低下すると、ロックアップクラッチを自動的に解除(燃料カット復帰)すると同時にエアコンを自動的にOFFし、エンジン停止に至るのを防止している。ロックアップクラッチの作動圧は、ロックアップ解除信号に比べて遅れて低下する。また、エアコン作動用のマグネットクラッチはエアコン指令信号(OFF)に対して少し遅れて作動する。規定車速VA はエアコンON状態でのロックアップを解除する最低車速であり、規定車速VB はエアコンOFF状態でのロックアップを解除する最低車速である。
【0004】
図5は、同じくDレンジのアクセル全閉状態で、ロックアップクラッチを作動(燃料カット状態)させ、かつエアコンをOFF状態として減速走行を行っている最中に、エアコンの作動指令(ON)が入った時の制御を示す。時刻t1で車速が規定車速VA 以下に低下するが、エアコンがOFF状態であるため、ロックアップの解除(燃料カット復帰)を行わない。さらに車速が低下して、規定車速VA とVB の中間車速の時刻t2でエアコンに作動指令(ON)が入ると、既に規定車速VA 以下となっているため、直後の時刻t3でロックアップを解除(燃料カット復帰)させると同時にエアコンを自動的にOFFする。しかし、本来であればエアコンONできない領域(規定車速VA とVB の間)でエアコンがONするため、メカロスが増大して負の減速度が大きくなり、そのようなエンジントルクが不安定な状態でロックアップクラッチが解放されるため、大きなショックが発生してしまう。
【0005】
特許文献1には、車両減速中にエアコンの作動要求がなされた場合、ロックアップクラッチの解除指令を行うと共に、解除指令に基づいてロックアップクラッチの解除完了までの期間、エアコンの作動を遅延するものが提案されている。特許文献1の場合も、図5と同様に、エアコンが非作動状態でロックアップクラッチが作動している低車速域でのエアコン作動指令があった場合の制御であり、エアコンの作動指令が入ってもロックアップが解除するまでエアコンの作動を待つものである。
【0006】
しかしながら、エアコンの作動指令がいつ入るか予想できないので、作動指令(ON信号)が入ってもエアコン作動を遅延させる制御を実施するには、エアコン作動の前に瞬時に信号を遅延させる必要があり、制御レスポンスをかなり向上させないと実現は困難である。実際は、前述の図5のようにエアコンの作動指令と共にエアコン作動状態に突入してしまい、ショックが発生する。さらに、ロックアップ解除(燃料カット復帰)を実施するものの、エアコンの作動を続けるため、エンジンブレーキが過大になる懸念がある。
【特許文献1】特開2001−200927号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、規定車速VA 以下で走行中にエアコンがONした時のショックを低減する車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明は、ロックアップクラッチを有する自動変速機を搭載し、エンジンの駆動力で駆動されるエアコンを備えた車両において、所定車速以下のアクセル全閉での減速走行中に、燃料カット状態かつ前記ロックアップクラッチが締結している状態で、前記エアコンの作動要求があった場合、前記エアコンの作動を許容してからエンジントルクが安定する所定時間経過後に、前記ロックアップクラッチ解除と燃料カット解除とエアコン停止とを同時に実施する制御手段を備えたことを特徴とする車両の制御装置を提供する。
【0009】
本発明では、規定車速VA 以下での減速走行中、つまり燃料カット状態かつロックアップクラッチが締結している状態で、エアコンに突然作動要求が入った時、一旦エアコンの作動を許容する。つまり、エアコンの作動を遅延させるのではなく、一旦エアコンを作動させる。このタイミングはエンジントルクが不安定な期間であるため、直ぐにエアコンを停止させず、エアコンを作動状態で維持する。やがて、エンジンの吸入空気量等が制御されてエンジン回転数が安定し、エンジントルクも安定するので、このエンジントルクの不安定期間が経過してから、ロックアップクラッチ解除と燃料カット解除とエアコン停止とを同時に実施する。そのため、エンジントルクの不安定な領域でロックアップクラッチが急に解放されることがなく、ショックの発生を防止できる。また、ロックアップクラッチ解除と燃料カット解除だけでなく、エアコンを停止させるので、エンジンブレーキが過大になる懸念もない。しかも、従来のエアコン作動を遅延させる場合のような高い制御レスポンスを必要とせず、既存の制御装置でも簡単に実施できる。
【0010】
エアコンの作動要求から停止までの所定時間は、エアコン作動要求に対応してエンジンへの吸入空気量の制御が開始されてから、エンジン回転数が安定するまでの時間とするのが望ましい。エアコンの作動に伴い負の減速度が大きくなるが、エンジンへの吸入空気量を制御することで、エンジン回転数及びエンジントルクが安定するので、その安定するまでの時間とすればよい。具体的には、エアコン作動要求と共にISC(アイドル回転数制御装置)による吸入空気の制御が開始され、エンジン回転数を目標値とする吸入空気量のフィードバック制御に入るまでの時間とすることができる。この所定時間としては、例えば500ms〜700ms程度が望ましい。
【0011】
エアコンには、運転者の操作に応じてON/OFFする手動式エアコンのほか、車内温度を検知して自動的にON/OFFを行うオートエアコンもある。本発明におけるエアコンOFFは、ロックアップクラッチ及び燃料カットの制御と統合的に実施される。エアコンの作動/停止は、一般にエンジンとエアコン駆動用コンプレッサとの間に設けられたマグネットクラッチを断接することによって実行できる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、燃料カット状態かつロックアップクラッチが締結している状態で、エアコンをONできない低車速状態でエアコンに作動要求が入った時、一旦エアコンの作動を許容し、エンジントルクが安定するまでエアコンを作動状態で維持した後、ロックアップクラッチ解除と燃料カット解除とエアコン停止とを同時に実施するため、エンジントルクの不安定な領域でロックアップクラッチが急に解放されることがなく、ショックの発生を防止できる。また、ロックアップクラッチ解除、燃料カット解除、エアコン停止はすべてエンジントルクを増大させる方向に働くので、低車速であってもエンジン停止や過大なエンジンブレーキが生じるのを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を、実施例を参照して説明する。
【0014】
図1は本発明にかかる車両のシステムの一例を示す。エンジン1の出力軸11はトルクコンバータ3を経て自動変速機2の入力軸(タービン軸)20に接続されている。トルクコンバータ3は、エンジン1の出力軸11と自動変速機2の入力軸20とを直結するロックアップクラッチ30を備えている。入力軸20は無段変速機構21を介して出力軸(ドライブシャフト)25と接続されている。なお、前後進切替機構など他の機構は図示を省略してある。無段変速機構21は周知のように駆動プーリ22と従動プーリ23との間にベルト24を巻き掛け、両プーリ22,23のベルト巻き掛け径を相互に変化させることにより、変速比を無段階に変化させるものである。自動変速機2にはプーリ22,24の作動用、およびロックアップクラッチ30の制御用の油圧制御装置26が設けられている。油圧制御装置26は複数のソレノイド弁を備えており、これらソレノイド弁をコントロールユニット40で制御することにより、無段変速機構21を所望の変速比に制御すると共に、ロックアップクラッチ30を断接制御している。
【0015】
エンジン1の近傍にはエアコン用冷媒を圧縮するコンプレッサ15が設けられ、このコンプレッサ15は、エンジン1の出力軸11によりベルト16を介して駆動される。エンジン出力軸11とコンプレッサ15との間には、動力伝達を断接するマグネットクラッチ17が設けられ、このマグネットクラッチ17はコントロールユニット40によって制御される。
【0016】
コントロールユニット40は、車速、アクセル開度、P,R,N,D,Lなどのシフト位置、エンジン回転数、吸入空気量、エンジン水温、車室内温度等の走行状態やエンジン1の状態を検出する各種センサ41〜47から信号が入力され、エンジン1及び自動変速機2を統合的に制御すると共に、エアコンを制御する機能も備えている。エアコンの作動指令はコントロールユニット40から出力され、それによってマグネットクラッチ17が締結される。その結果、エンジン動力がコンプレッサ15に伝達され、冷媒が圧縮されてエアコンが作動する。一方、エアコンの停止指令は、車室内温度が設定温度以下になった時、あるいは後述するような種々の条件に基づいてコントロールユニット40から出力され、マグネットクラッチ17が解放される。コントロールユニット40のメモリには、エンジン制御用プログラム、自動変速機制御用プログラム、エアコン制御用プログラム、及び各種データが格納されている。
【0017】
エンジン1は燃料噴射を行うインジェクタ12と、スロットルバルブをバイパスする空気量を調整するISCバルブ13とを備えており、コントロールユニット40はインジェクタ12を制御して燃料噴射制御を実施し、所定の条件を満足した場合に燃料カットを実施する。また、ISCバルブ13によりスロットルバルブをバイパスする空気量を制御することで、最適なアイドル回転数になるように制御している。エンジン制御や自動変速機制御はそれ自体公知であるため、詳しい説明を省略する。
【0018】
ここで、本発明に係る車両の制御方法を図2を参照しながら説明する。図2は、Dレンジのアクセル全閉状態で、ロックアップクラッチを作動(燃料カット状態)させ、かつエアコンをOFF状態として減速走行を行っている最中に、エアコンの作動指令(ON)が入った時のタイムチャートを示す。車速が規定車速VA 以下の時刻t1でエアコンの作動指令(エアコン信号ON)が出ると、微小時間後のt2でマグネットクラッチ17が締結され、エアコンが作動を開始する。エアコンの作動により、メカロスが増大するので、エンジントルクは低下し、負の減速度が増大する。エアコンが作動を開始した当初はエンジントルクが不安定な状態であるため、ロックアップを直ぐに解除せず、作動状態を維持する。その間、エンジン1はISC13を制御してアイドル回転数を所定値に維持すべくフィードバック制御を開始する。
【0019】
やがて、時刻t1から時間ΔT後の時刻t3になると、エンジントルクが安定したと推定し、ロックアップ信号のOFF(解除)と燃料カットのOFF(復帰)とを実施すると共に、エアコンの停止指令(エアコン信号OFF)を出力する。時刻t1からt3までの時間ΔTは、エンジンにもよるが約500ms〜700ms程度である。時刻t3でロックアップ信号をOFFすると、油圧制御装置26のソレノイドバルブが作動され、ロックアップクラッチ30の作動圧がドレーンされるが、完全にドレーンされるまでに時間遅れが生じる。一方、燃料カットの復帰はインジェクタ12への指令により即座に開始される。さらに、エアコンのOFF信号により、マグネットクラッチ17が解放される。ロックアップの解除と燃料カットの復帰とエアコン停止とを実行することにより、エンジントルクが上昇し、時刻t4でエンジントルクは通常状態に復帰する。上述のようにエンジントルクが安定してからロックアップ解除、燃料カット復帰、エアコン停止とを実施するので、ショックの発生を抑制できると共に、エンジン停止という事態を回避できる。
【0020】
図3は、本発明に係る車両の制御方法の一例のフローチャートを示す。まず、制御がスタートすると、アクセルオフ、車速が規定車速VA 以下、かつ燃料カット中であるかどうかを判定する(ステップS1)。規定車速VA とはエアコンON状態でのロックアップを解除する最低車速のことである。アクセルオフ、車速が規定車速VA 以下、かつ燃料カット中である場合には、次にエアコン作動要求があったかどうかを判定する(ステップS2)。エアコン作動要求があった時には、エアコンを作動させ(ステップS3)、続いてエアコン作動要求から所定時間ΔTが経過したかどうかを判定する(ステップS4)。所定時間ΔTが経過すれば、ロックアップ解除、燃料カット復帰、及びエアコン停止指令を出す(ステップS5)。
【0021】
一方、ステップS2において、エアコン作動要求がなかった場合には、次に、車速がVB (エアコンOFF状態でのロックアップを解除する最低車速)以下になったかどうかを判定し(ステップS6)、もし車速がVB 以下であれば、ロックアップ解除、燃料カット復帰指令を出す(ステップS7)。
【0022】
前記実施例では、ロックアップ信号のOFF(解除)と燃料カットのOFF(復帰)とを同期させたが、燃料カットのOFFをロックアップのOFF信号より遅らせてもよい。例えば、燃料カットがロックアップ作動圧がOFFになる時期と同期させてもよい。
【0023】
前記実施例では、自動変速機としてVベルト式無段変速機の例を示したが、トロイダル型などの他の無段変速機でもよく、さらに複数の摩擦係合要素と遊星歯車機構とを持つ有段式の自動変速機であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る車両のシステム図である。
【図2】本発明に係る制御方法の一例のタイムチャート図である。
【図3】本発明に係る制御方法の一例のフローチャート図である。
【図4】従来の減速走行時における制御方法の一例のタイムチャート図である。
【図5】従来の減速走行時における制御方法の他の例のタイムチャート図である。
【符号の説明】
【0025】
1 エンジン
2 自動変速機
3 トルクコンバータ
11 エンジン出力軸
12 インジェクタ
13 ISCバルブ
15 コンプレッサ
17 マグネットクラッチ
20 入力軸
21 無段変速機構
22 駆動プーリ
23 従動プーリ
24 ベルト
25 出力軸(ドライブシャフト)
26 油圧制御装置
30 ロックアップクラッチ
40 コントロールユニット
41 車速センサ
42 アクセル開度センサ
43 シフト位置センサ
44 エンジン回転数センサ
45 吸入空気量センサ
46 エンジン水温センサ
47 車室内温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロックアップクラッチを有する自動変速機を搭載し、エンジンの駆動力で駆動されるエアコンを備えた車両において、
所定車速以下のアクセル全閉での減速走行中に、燃料カット状態かつ前記ロックアップクラッチが締結している状態で、前記エアコンの作動要求があった場合、前記エアコンの作動を許容してからエンジントルクが安定する所定時間経過後に、前記ロックアップクラッチ解除と燃料カット解除とエアコン停止とを同時に実施する制御手段を備えたことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記所定時間は、エアコン作動要求に対応してエンジンへの吸入空気量の制御が開始されてから、エンジン回転数が安定するまでの時間であることを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−71306(P2010−71306A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−236180(P2008−236180)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】