説明

蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルム、それからなる蓄電素子用電極およびそれらからなる蓄電素子

【課題】従来品よりも高い体積・重量エネルギー密度を可能とする厚みの薄いポリエステルフィルムでありながら、蓄電素子電極用途に適した高い耐突刺し性、耐折り曲げ性および難燃性を有する蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とするポリエステル層Aを少なくとも1層有する難燃ポリエステルフィルムであり、該ポリエステル層Aはカルボキシホスフィン酸化合物またはカルボキシ亜ホスフィン酸化合物の少なくともいずれか1種を該ポリエステル層Aに対しリン原子として0.01重量%以上3重量%以下の範囲で含み、かつ該ポリエステルフィルムにおける広角X線回折測定で得られるブラッグ角25°〜29°の回折ピークに相当する結晶面法線のフィルム面法線に対する一致度が0.95以上であり、フィルム厚みが0.2μm以上30μm以下である蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルム、それからなる蓄電素子用電極およびそれらからなる蓄電素子に関する。更に詳しくは、従来の金属製電極の代わりにポリエステルフィルムを基材材料として用いた、短絡による発火などの安全性に優れた蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルム、それからなる蓄電素子用電極およびそれらからなる蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光、風力などの自然エネルギーによる発電、HV、EV、FCVなどの次世代自動車の普及、携帯型電子機器の普及、などにより、ローカルな電気エネルギーの使用場面が増えてきており、それに伴い、蓄電システムの必要性が高まっている。
具体的には、変動が激しい自然エネルギーから供給される電力を消費に合せて一時貯蔵したり、変動する消費電力に燃料電池などの電力供給源を追随させるべく電力貯蔵により補助するなど、入出力の大変動に追随できる蓄電システムや、ローカル使用の利便性を高めるために大容量の貯蔵電力を運搬可能とするような蓄電システムの必要性が高まっている。
【0003】
このような蓄電システムの中心となる構成要素は、二次電池やキャパシタなどの蓄電素子であり、特にリチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタなどが、今後有望なものとして上げられる。
これら蓄電素子は、正負電極表面におけるイオンの酸化還元反応や電気二重層生成などにより、電気エネルギーを貯蔵・放出(充放電)するものであるが、該電極には充放電過程において電気エネルギーを取込み、取出しするための集電体としての機能が必要であり、従来10〜30μm程度の厚みの金属箔が電極の基材として用いられている。
【0004】
近年、蓄電システムに求められる大容量化、小型化の要求に応えるため、体積エネルギー密度の向上や、可搬化の要求に応えるための重量エネルギー密度の向上を目的として、電極基材の薄膜化が進められている。しかしながら、電極の工程取扱い性、耐折曲げ性、さらにはくぎなどにより電極が突き抜けて導通につながらないよう、耐突刺し性などの特性を保ったままの薄膜化には限度がある。
そこで、金属に代わる新たな素材として、本発明者は機械特性や耐熱寸法安定性に優れる二軸延伸ポリエステル薄膜フィルムの表面に金属薄膜層を設けた構成を有する素材を、集電体機能を持った電極基材として用いることを提案している(特許文献1,2)が、金属板に代わる実用化レベルの諸特性の検討はまだ十分に行われていない。
【0005】
また、きわめて高いエネルギー密度の次世代蓄電システムにおいては、万一の短絡時における発火のリスクが懸念され、次世代蓄電システムに用いられる構成部材には難燃性が求められている。ポリエステルフィルムを電極基材層とする場合も高い難燃性が求められるが、ポリエステル自体は難燃素材とはいえない。近年、ハロゲンを含まない難燃剤を用いてポリエステルフィルムに難燃性を付与するべく種々の検討がなされているものの、難燃性と他特性との両立が難しいことが指摘されている。その中で、難燃性と機械特性などを両立できる難燃剤として、カルボキシホスフィン酸化合物をポリエチレンナフタレートフィルムに用いることが提案されている(特許文献3)。しかしながら、特許文献3に開示されるフィルムでは、蓄電素子の電極基材として求められる特性、例えば耐突刺し性などがまだ十分とはいえない。
【0006】
さらに、ポリエステルフィルムを集電体機能を持つ電極基材に用いて蓄電素子の体積・重量エネルギー密度を従来品よりも高くするためには、フィルム厚みが薄いほど効果が高いものの、反面、薄肉化により耐突刺し性、耐折曲げ性は低下しやすくなる。
このように、金属箔に代わる蓄電素子の電極基材として金属箔よりも比重の小さいポリエステルフィルムを用い、その厚みを薄くして用いるにあたり、従来品よりも高い体積・重量エネルギー密度を有しつつ、しかも優れた耐突刺し性、耐折り曲げ性により導通による短絡を防止でき、また万一の短絡による発火に際して難燃機能を具備した蓄電素子電極用のフィルムが求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−40919号公報
【特許文献2】特開平10−40920号公報
【特許文献3】特開2007−9111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、かかる従来技術の課題を解消し、従来品よりも高い体積・重量エネルギー密度を可能とするフィルム厚みの薄いポリエステルフィルムでありながら、蓄電素子電極用途に適した高い耐突刺し性、耐折り曲げ性および難燃性を有する蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレート基材フィルムにリン系難燃剤としてカルボキシホスフィン酸化合物またはカルボキシ亜ホスフィン酸化合物の少なくともいずれか1種を添加した場合に、ポリエステルフィルムの有する高い耐折り曲げ性を阻害することなく難燃性を付与することができ、同時にフィルム面と平行なナフタレン環の割合が極めて高くなるよう配列させることにより、蓄電素子の電極基材用フィルムに求められる高い耐突刺し性が得られ、その結果、蓄電素子電極用途に適した薄膜化が可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明の目的は、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とするポリエステル層Aを少なくとも1層有する難燃ポリエステルフィルムであり、該ポリエステル層Aはカルボキシホスフィン酸化合物またはカルボキシ亜ホスフィン酸化合物の少なくともいずれか1種に由来する成分を該ポリエステル層Aに対しリン原子として0.01重量%以上3重量%以下の範囲で含み、かつ該ポリエステルフィルムにおける広角X線回折測定で得られるブラッグ角25°〜29°の回折ピークに相当する結晶面法線のフィルム面法線に対する一致度が0.95以上であり、フィルム厚みが0.2μm以上30μm以下である蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルムによって達成される。
【0011】
本発明の蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルムは、その好ましい態様として、該カルボキシホスフィン酸化合物が下記式(I)で表わされる化合物であること、
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜18のアリール基、RおよびRは炭素数1〜18のアルキル基、アリール基、モノヒドロキシアルキル基または水素原子、Xは炭素数1〜18の2価の炭化水素基をそれぞれ表わし、R〜Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい)
該カルボキシ亜ホスフィン酸化合物が下記式(II)で表わされる化合物であること、
【化2】

(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜18のアリール基、RおよびRは炭素数1〜18のアルキル基、アリール基、モノヒドロキシアルキル基または水素原子、Xは炭素数1〜18の2価の炭化水素基をそれぞれ表わし、R〜Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい)
該難燃ポリエステルフィルムが該ポリエステル層Aの少なくとも片面にさらにポリエステル層Bが積層された積層構成であり、該ポリエステル層Bの主たる成分がポリエチレンナフタレンジカルボキシレートであって、さらに層Bにおけるカルボキシホスフィン酸化合物またはカルボキシ亜ホスフィン酸化合物の少なくともいずれか1種に由来する成分のリン原子としての含有量が層Bを基準として0重量%以上1重量%以下かつ層Aのリン原子含有量以下であること、ポリエステル層Aとポリエステル層Bとが交互に3層以上積層された積層構成であること、の少なくともいずれか一つを具備するものを包含する。
【0012】
さらに、本発明の蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルムの好ましい態様として、該難燃ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に導電性薄膜が形成されてなること、導電性薄膜が金属薄膜であること、金属薄膜がアルミニウム元素を主たる成分とするものであること、金属薄膜が銅元素を主たる成分とするものであること、金属薄膜が該難燃ポリエステルフィルムの両面に形成され、一方の面に形成される金属薄膜がアルミニウム元素を主たる成分とするものであり、他方の面に形成される金属薄膜が銅元素を主たる成分とするものであること、の少なくともいずれか一つを具備するものを包含する。
【0013】
本発明はまた、本発明の蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルムの導電性薄膜の面上にさらに電極剤を積層してなる蓄電素子用電極に関するものであり、その好ましい態様として、蓄電素子用電極における電極剤の主たる成分がリチウム・遷移金属複合酸化物であること、蓄電素子用電極における電極剤の主たる成分がアモルファスカーボン構造を有する炭素であること、蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルムのアルミニウム元素を主たる成分とする金属薄膜の面上にリチウム・遷移金属複合酸化物を主たる成分とする電極剤が積層され、銅元素を主たる成分とする金属薄膜の面上にアモルファスカーボン構造を有する炭素を主たる成分とする電極剤が積層されること、リチウムイオン二次電池または電気二重層キャパシタに用いられること、の少なくともいずれか一つを具備するものを包含する。
本発明はさらに、本発明の蓄電素子用電極が組み込まれてなる蓄電素子に関するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルムは、従来品よりも高い体積・重量エネルギー密度を可能とする薄肉ポリエステルフィルムでありながら、蓄電素子電極用途に適した高い耐突刺し性、耐折り曲げ性および難燃性を有することから、蓄電素子用、特にリチウムイオン二次電池用、電気二重層キャパシタ用、リチウムイオンキャパシタ用の電極に好適なフィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】測定方法(10−1)におけるリチウムイオン電池の構成の断面図を図1に示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0017】
<ポリエステル層A>
本発明の難燃ポリエステルフィルムは、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とするポリエステル層A(以下、層Aと称することがある)を少なくとも1層有し、該ポリエステル層Aはカルボキシホスフィン酸化合物またはカルボキシ亜ホスフィン酸化合物の少なくともいずれか1種に由来する成分(以下、リン系成分Pと称することがある)を該ポリエステル層Aに対しリン原子として0.01重量%以上3重量%以下の範囲で含む。
ここで「主たる」とは、層Aの重量に対して65重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、特に好ましくは85重量%以上を意味する。
本発明のポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートであることが好ましい。
【0018】
層Aにおいてリン系化合物由来の難燃成分として含むカルボキシホスフィン酸化合物として、具体的に下記式(I)で表わされる化合物が挙げられる。
【化3】

(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜18のアリール基、RおよびRは炭素数1〜18のアルキル基、アリール基、モノヒドロキシアルキル基または水素原子、Xは炭素数1〜18の2価の炭化水素基をそれぞれ表わし、R〜Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい)
【0019】
また、カルボキシ亜ホスフィン酸化合物として、具体的に下記式(II)で表わされる化合物が挙げられる。
【化4】

(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜18のアリール基、RおよびRは炭素数1〜18のアルキル基、アリール基、モノヒドロキシアルキル基または水素原子、Xは炭素数1〜18の2価の炭化水素基をそれぞれ表わし、R〜Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい)
【0020】
難燃成分としてかかるリン系化合物を用いることにより、他のリン化合物を併用しなくても高い難燃性が発現し、しかもポリエチレンナフタレンジカルボキシレートが本来有する耐折り曲げ性の低下が少ないという特徴を有する。一方、カルボキシホスフィン酸化合物またはカルボキシ亜ホスフィン酸化合物以外のリン化合物を用いた場合、難燃剤によるポリエステルフィルムの機械特性低下が生じたり十分な難燃性が得られないなど、耐折り曲げ性と難燃性の両立が難しい。
【0021】
式(I)で表わされるカルボキシホスフィン酸化合物としては、カルボキシメチルフェニルホスフィン酸、(2−カルボキシエチル)フェニルホスフィン酸、(2−カルボキシエチル)トルイルホスフィン酸、(2−カルボキシエチル)2,5−ジメチルフェニルホスフィン酸、(2−カルボキシエチル)シクロヘキシルホスフィン酸、(3−カルボキシプロピル)フェニルホスフィン酸、(4−カルボキシフェニル)フェニルホスフィン酸、(3−カルボキシフェニル)フェニルホスフィン酸、およびそれらの低級アルコールエステル、低級アルコールジエステルなど挙げられる。これらの中でも特に好ましい化合物として、下記式(III)で表わされる(2−カルボキシエチル)フェニルホスフィン酸、下記式(IV)で表わされる(3−カルボキシプロピル)フェニルホスフィン酸、2−カルボキシエチルメチルホスフィン酸エチレングリコールエステルが挙げられる。これらのカルボキシホスフィン酸化合物は少なくとも1種を用いることが好ましく、2種以上併用してもよい。
【0022】
【化5】

【化6】

【0023】
また、式(II)で表わされるカルボキシ亜ホスフィン酸化合物として、カルボキシメチルフェニル亜ホスフィン酸、(2−カルボキシエチル)フェニル亜ホスフィン酸、(2−カルボキシエチル)トルイル亜ホスフィン酸、(2−カルボキシエチル)2,5−ジメチルフェニル亜ホスフィン酸、(2−カルボキシエチル)シクロヘキシル亜ホスフィン酸、(3−カルボキシプロピル)フェニル亜ホスフィン酸、(4−カルボキシフェニル)フェニル亜ホスフィン酸、(3−カルボキシフェニル)フェニル亜ホスフィン酸およびそれらの低級アルコールエステル、低級アルコールジエステルなど挙げられる。
【0024】
これらリン系成分Pは、ポリエステル層Aの重量に対し、リン原子として0.01重量%以上3重量%以下の範囲で含有される。かかるリン系成分Pの含有量の下限値は、好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは0.5重量%以上、特に好ましくは0.7重量%以上である。また該成分の含有量の上限値は、好ましくは2.0重量%以下、より好ましくは1.5重量%以下、特に好ましくは1.0重量%以下である。
これらリン系成分Pの含有量が下限値に満たない場合にはフィルムとして充分な難燃性能が発現せず、一方、上限値を超える場合、ポリエチレンナフタレンカルボキシレートが本来有する耐折り曲げ性の低下につながる。
【0025】
また、本発明の難燃ポリエステルフィルムにおいて、リン系成分Pは、層A中に含有する全量に対して30〜100モル%の範囲でポリエステルの共重合成分として共重合化していることが好ましく、より好ましくは60〜100モル%、特に好ましくは80〜100モル%である。リン系成分Pが上述の範囲内でポリエステルに共重合化されることにより、該リン系成分のブリードアウトを抑制しつつ高い難燃性が得られる。
【0026】
ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、従来公知の方法、例えばジカルボン酸とグリコールの反応で直接低重合度ポリエステルを得る方法や、ジカルボン酸の低級アルキルエステルとグリコールとを従来公知のエステル交換触媒を用いて反応させた後、重合触媒の存在下で重合反応を行う方法で得ることができる。重合触媒としては、アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物など公知の触媒を用いることができる。
前記リン系成分Pは、ポリエステルの製造時の任意の時期に添加されるが、より好ましい添加時期はエステル化反応あるいはエステル交換反応により低重合体を生成する第1段階の反応の終了後から、得られた低重合体を重縮合反応させる第2段階の開始までの間である。かかる時期にリン系成分Pを添加することにより、ポリエステル共重合成分として存在させやすくなる。
なお、エステル交換触媒を失活させる目的で、重縮合工程でエステル交換触媒の失活剤として通常用いられるリン化合物をリン元素として100ppm以下のごく少量の範囲内で使用してもよいが、その量は極めて少量であって、難燃性能を付与する目的で添加されるものではない。
【0027】
層Aに用いるポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、全ジカルボン酸成分を基準として10モル%以下の範囲内でリン系成分P以外の共重合成分をさらに有することができる。共重合体を構成する共重合成分として、分子内に2つのエステル形成性官能基を有する化合物を用いることができ、蓚酸、アジピン酸、フタル酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸などのジカルボン酸、p−オキシ安息香酸、p−オキシエトキシ安息香酸などのオキシカルボン酸、あるいはエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールスルホンのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ジエチレングリコール、ポリエチレンオキシドグリコールなどのジオールを好ましく用いることができる。これらの共重合成分は、1種または2種以上用いてもよい。
これらの共重合成分の中で、好ましい酸成分としては、イソフタル酸、テレフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、p−オキシ安息香酸であり、好ましいジオール成分としては、トリメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールスルホンのエチレンオキサイド付加物である。これらの共重合成分は、モノマー成分として共重合化されたものでもよく、また他のポリエステルとのエステル交換反応により共重合化されたものでもよい。
【0028】
ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートの固有粘度は、o−クロロフェノール中、35℃において、0.40dl/g以上であることが好ましく、0.40〜0.90dl/gであることがさらに好ましい。固有粘度が0.40dl/g未満では、工程切断が多発したり、耐折曲げ性、耐突刺し性などを具備しながら電極基材用フィルムとして求められる薄膜化が困難となることがある。また固有粘度が0.9dl/gより高いと溶融押出が困難であるうえ、重合時間が長く不経済である。
【0029】
難燃ポリステルフィルムを構成する層Aには、上記のポリエチレンナフタレンジカルボキシレート以外の樹脂成分が更に含まれていてもよく、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンエーテルおよびフェノキシ樹脂が挙げられる。かかる樹脂は、層Aの重量に対して好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下の範囲内で用いることができる。かかる樹脂を上限を超えて用いた場合、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートが本来有する物理的特性を損なうことがある。
【0030】
<ポリエステル層B>
本発明の難燃ポリエステルフィルムは積層構成であってもよく、積層構成の場合には層Aの少なくとも片面に、さらにポリエステル層B(以下、層Bと称することがある)が積層され、該ポリエステル層Bの主たる成分がポリエチレンナフタレンジカルボキシレートであって、さらに層Bにおけるカルボキシホスフィン酸化合物またはカルボキシ亜ホスフィン酸化合物の少なくともいずれか1種に由来する成分のリン原子としての含有量が層Bを基準として0重量%以上1重量%以下かつ層Aのリン原子含有量以下であることが好ましい。
ここで「主たる」とは、該層Bの重量に対しポリエチレンナフタレンジカルボキシレートの含有量が80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、特に好ましくは95重量%以上を意味する。
リン系成分Pを含まないかその含有量の少ない層Bをさらに有することにより、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレート本来の耐折り曲げ特性をさらに維持することができる。
【0031】
層Bを構成するポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートであることが好ましい。該ポリエステルのリン系成分P以外の共重合成分、製造方法などは層Aのポリエチレンナフタレンジカルボキシレートに準じる。
【0032】
また、リン系成分Pの具体的な種類は層Aのリン系成分Pの記載に準じる。リン系成分Pの含有量は、層Bの重量を基準として0重量%以上1重量%以下かつ層Aのリン原子含有量以下であることが好ましい。また該含有量は、より好ましくは、0.5重量%以下、さらに好ましくは0.4重量%以下、特に好ましくは0.2重量%以下である。
ポリエステル層Bは、該層Bの重量に対し20重量%以下、より好ましくは10重量%以下、特に好ましくは5重量%以下の範囲で、不活性粒子、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレート以外の熱可塑性樹脂、その他添加剤を含有してもよい。
【0033】
<その他成分>
本発明の難燃ポリステルフィルムには、フィルムの取り扱い性を向上させるため、発明の効果を損なわない範囲で不活性粒子などが添加されていても良い。不活性粒子としては、例えば、周期律表第IIA、第IIB、第IVA、第IVBの元素を含有する無機粒子(例えば、カオリン、アルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム、二酸化ケイ素など)、架橋シリコーン樹脂、架橋ポリスチレン、架橋アクリル樹脂粒子等の耐熱性の高いポリマーよりなる粒子が挙げられる。
不活性粒子を含有させる場合、不活性粒子の平均粒径は、0.001〜5μmの範囲が好ましく、フィルム全重量に対して0.01〜10重量%の範囲で含有されることが好ましく、さらに好ましくは0.05〜5重量%、特に好ましくは0.05〜3重量%である。
また難燃ポリエステルフィルムが2層以上の積層構造を有する場合、不活性粒子はいずれの層に配合されても構わない。
【0034】
<結晶配向度>
本発明の難燃ポリエステルフィルムは、広角X線回折測定で得られるブラッグ角25°〜29°の回折ピークに相当する結晶面法線のフィルム面法線に対する一致度(結晶配向度と称することがある)が0.95以上である。
本発明で規定するブラッグ角25〜29°の回折ピークに相当する結晶面は、結晶面間隔に換算すると0.31〜0.36nmであり、本発明のポリエステルを構成するエチレンナフタレンジカルボキシレート成分の結晶構造における、積層したナフタレン環同士の間隔に相当する。すなわち、該結晶面(エチレンナフタレンジカルボキシレート成分の結晶格子における(−110)面、ブラッグ角=約27°)は、ポリエステル分子鎖中のナフタレン環にほぼ平行である。
【0035】
かかる結晶配向度は、具体的にはポリエステル分子鎖中のナフタレン環の結晶面の法線と、z軸と呼ばれることの多いフィルム面に垂直な方向との一致度を数値化したものである。この結晶面の法線のフィルム面法線(z方向)に対する一致度が0.95以上であるということは、本発明のポリエステルフィルムにおける分子鎖中のナフタレン環がフィルム面に平行に位置している結晶成分が多い、ということを意味する(以下、このような分子配向状態を「面配向度が高い」などと表現することがある)。
該結晶配向度は、広角X線回折測定により、観察したい結晶面に対応するブラッグ角に固定したサンプルを全球にわたり回転させてX線回折ポールフィギュアを測定し、得られた結晶配向方向の全球中の分布挙動から、評価したいフィルムの軸(本発明においてはフィルム面法線(z方向))に対する一致度を算出して求められる。
算出される結晶配向度は、−0.5〜1の値をとり、結晶配向度が1に近いほど測定結晶面の法線ベクトルと評価している方向が平行なものが多く分布し、結晶配向度が−0.5に近いほど測定結晶面の法線ベクトルと評価方向が直交しているものが多く分布する。
【0036】
ナフタレン環は剛直な分子構造を持つため、該結晶配向度が0.95以上である面配向度の高いフィルムは、突刺しなどのフィルム面方向へのダメージに強く、薄膜化された電極用基材として十分な耐突刺し性が発現する。特に本発明のような難燃化されたフィルムの場合は機械強度が低下しやすいが、本発明のリン系成分Pを難燃成分として用い、しかもフィルムの該結晶配向度を極めて高くすることにより、薄膜化された電極用基材として十分な耐突刺し性が発現する。該結晶配向度が下限値に満たないと十分な耐突刺し性が得られない。
該結晶配向度の好ましい範囲は、0.975以上、さらに好ましくは0.985以上である。
【0037】
かかる結晶配向度のフィルムを得るためには、フィルム製造方法において詳述するように、フィルム長手方向(以下、フィルム連続製膜方向、縦方向またはMD方向と称することがある)およびフィルム幅方向(以下、フィルム長手方向と直交する方向、横方向またはTD方向と称することがある)の延伸倍率がいずれも3.6倍を超え8.0以下となる範囲、好ましくは3.8倍以上7.0倍以下、さらに好ましくは3.9倍以上6.0倍以下の範囲で延伸処理を行うことによって達成される。
【0038】
<面外複屈折>
本発明の難燃ポリエステルフィルムは、面外複屈折が0.25以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.27以上である。また、面外複屈折の上限値は、結晶化度が100%のα型単結晶の値に制限され、0.42以下の範囲内である。
前述の結晶配向度は結晶領域に着目した分子配向であるのに対し、面外複屈折は結晶領域に加え、非晶領域も含めた全体的な分子配向を規定した特性であり、下記式(1)で定義される。
Ns=(nMD+nTD)/2−n ・・・(1)
(上式中、Nsは面外複屈折、nMDはMD方向の屈折率、nTDはTD方向の屈折率、nはフィルム厚み方向の屈折率をそれぞれ表す)
【0039】
面外複屈折がかかる範囲内であることにより、薄膜化された電極基材として用いた場合に優れた耐突刺し性を有する。かかる面外複屈折率特性を得るための具体的手段は、結晶配向度と同じ方法を用いることができ、エチレンナフタレンジカルボキシレート成分のナフタレン環は、環平面方向への大きな分極率、環法線方向への小さな分極率を持つため、延伸による分子配向によりナフタレン環が結晶・非晶部分問わずフィルム面に平行に配向することで、面外複屈折の値は大きくなる。
【0040】
<フィルム厚み>
本発明の難燃ポリエステルフィルムは、フィルム厚みが0.2μm以上30μm以下である。上限値をこえる厚いフィルムを電極基材とするのでは従来の金属箔より厚くなってしまい、蓄電素子のエネルギー密度、特に体積エネルギー密度の向上につながらない。一方、フィルム厚みが下限値に満たないほど薄い場合、フィルムの製造が極めて困難となる。より好ましいフィルム厚みとしては、0.2μm以上20μm以下、さらに好ましくは0.2μm以上12μm以下、特に好ましくは0.5μm以上10μm以下である。本発明の難燃ポリエステルフィルムが積層構成を有する場合も、かかるフィルム厚みの範囲であることが好ましい。
【0041】
<熱収縮率>
本発明の難燃ポリエステルフィルムは、150℃×30分の非拘束熱処理後のフィルム収縮率が、フィルムMD方向、フィルムTD方向のいずれにおいても5%以下であることが、後工程における加工の精度、短絡の防止などのために好ましく、また反応面積を安定化させることができる。かかる熱収縮率は、さらに好ましくは3%以下であり、特に好ましくは2%以下である。
これらの熱収縮率特性を得るための手段として、延伸後のフィルムに該ポリエステルのガラス転移点以上、(融点−15℃)以下の範囲で熱固定処理を行うことが好ましい。また、ボーイング現象によりフィルム両端部の光軸安定性が損なわれない範囲内でトーインをつけてもよい。
【0042】
<層構成>
本発明の難燃ポリエステルフィルムは、難燃成分にあたるリン系成分Pを所定量含み、一定の結晶配向度を有するポリエステル層Aを少なくとも1層有することを特徴とする。かかる層を有することにより、蓄電素子電極の基板フィルムとして用いたときに、万一の短絡による発火に際して難燃機能が発現すると同時に蓄電素子電極用途に適した高い耐突刺し性、耐折り曲げ性も具備する。
【0043】
本発明の難燃ポリエステルフィルムは、前記層Aの少なくとも片面に該リン系成分Pの含有量が0重量%以上1重量%以下でかつ層Aのリン原子含有量以下であり、主たる成分がポリエチレンナフタレンジカルボキシレートである層Bがさらに積層された積層構成であることが好ましい。
また、本発明の難燃ポリエステルフィルムは、さらに層Bを有する場合、層A|層Bのような2層構成や、層Aと層Bとが交互に3層以上積層された積層構成であってもよい。例えば3層の場合は、層A|層B|層A、層B|層A|層Bが例示される。
【0044】
3層以上の交互積層構成の場合、層数はさらに11層以上であってもよい。層数が多いほど優れた耐折曲げ性や耐突刺し性が得られる。
かかる層数の上限は特にないが、耐折曲げ性や耐突刺し性効果は一定の層数を超えると更なる効果の発現に乏しく、また層A用、層B用の両樹脂の合流装置のサイズの観点で2001層以下に制限される。積層数は、さらには1001層以下、通常は201層以下に制限される。
【0045】
また層Aと層Bの層厚み比は特に制限されないが、層Aの合計厚みと層Bの合計厚みの比が1:5〜5:1の範囲であることが、難燃性と突刺し強度特性のバランスの点から好ましい。
層Bを有する積層構成の場合には、層Aが主に難燃性を発現する機能を有し、層Bにより耐折り曲げ性や加工性をさらに高めることができる。
【0046】
<フィルム表面加工>
本発明の難燃ポリエステルフィルムは、後述する導電性薄膜との接着性を向上させる目的で表面加工されていてもよい。表面加工の方法は特に限定されないが、易接剤層の塗布、コロナ処理、プラズマ処理などが好ましく例示される。これらの表面加工は、フィルムを製膜する工程中で行っても、また製膜工程とは別の工程で行ってもよい。
【0047】
<導電性薄膜>
本発明の難燃ポリエステルフィルムは、少なくとも一方の面に導電性薄膜が形成されることが好ましい。本発明のポリエステルフィルムを蓄電素子における集電体としての機能を持つ電極用基材フィルムとして使用するために、フィルム上に電極剤を塗布などにより設けて使用される。しかしながら、かかる電極剤層は電極剤化合物の微粒子をバインダー樹脂でつなぎ合わせて形成されるケースが多く、該層の一端から集電するのでは内部抵抗が大きくなるため、望まない発熱が生じたり電池としての電圧のロスが生じることがある。
そのため、電極剤層を設けるにあたり、難燃ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面にまず導電性薄膜を設けて導電性を持たせ、該導電性薄膜上に電極剤層を設けることにより、電極表面全体から集電することが可能となり、内部抵抗によるロスを少なくすることができる。すなわち、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に導電性薄膜が形成されることにより、導電性薄膜を介して電極剤とポリエステルフィルムとの電気的接続を高めることができ、蓄電素子の電極として十分に機能させることができる。
【0048】
導電性薄膜は十分な導電性を得るため、金属薄膜であることが好ましい。薄膜を形成する金属としては、本発明の目的から導電性のものであれば特に限定はされない。例えばアルミニウム、ニッケル、金、銀、銅、カドミウムなどが挙げられる。導電度の高さ、成膜容易性、取扱い性、さらには安定性、すなわち電極剤化合物に好ましくない反応を起こさせないための正負両極の電位差(「電位窓」と呼ばれる)などの観点から、蓄電素子がリチウムイオン二次電池である場合は、正極用電極にはアルミニウム元素を主たる成分とするもの、負極用電極には銅元素を主たる成分とするものを用いることが好ましい。また、蓄電素子が電気二重層キャパシタの場合、電気化学反応は起こさないため、例示した金属薄膜のいずれを用いてもよく、また両極とも同じ種類の金属薄膜を用いてもよい。
【0049】
導電性薄膜の厚みは、1nm以上5000nm以下の範囲であることが好ましく、電池の内部抵抗発熱を抑える目的から、10nm以上5000nm以下であることがさらに好ましい。また、軽量化への寄与、薄膜の耐折曲げ性の観点からは10nm以上3000nm以下であることがさらに好ましい。
導電性薄膜の作成方法は限定されないが、めっき、真空蒸着、エレクトロプレーティング、スパッタリングなどの方法を例示できる。
金属薄膜以外の導電性薄膜の具体例として、金属酸化物のような無機導電体や、有機導電体などであってもよい。
【0050】
また本発明の導電性薄膜は、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に形成されていてもよく、両面に積層されていてもよい。フィルムの両面に導電性薄膜を積層する場合は、同種の材料を用いてもよく、異なる材料を用いてもよい。
例えばポリエステルフィルムの片面または両面に銅元素を主たる成分とする金属薄膜を形成することができ、さらにその上に後述する負極用の電極剤を積層することにより負極用電極として用いることができる。
また、例えばポリエステルフィルムの片面または両面にアルミニウム元素を主たる成分とする金属薄膜を形成することができ、さらにその上に後述する正極用の電極剤を積層することにより正極用電極として用いることができる。
【0051】
さらに、ポリエステルフィルムの両面に金属薄膜を形成し、両面が異種の材料である具体例として、一方の面に形成される金属薄膜がアルミニウム元素を主たる成分とするものであり、他方の面に形成される金属薄膜が銅元素を主たる成分とするものである態様が挙げられる。この場合は、アルミニウム元素を主たる成分とする金属薄膜の上に正極用の電極剤を積層することにより、一方の面は正極用電極として機能させ、他方、銅元素を主たる成分とする金属薄膜の上に負極用の電極剤を積層することにより、反対面は負極用電極として機能させることができる。
このような異種の金属薄膜を両面に形成する構成の場合、特に、リチウムイオン二次電池の電極基材として用いる際、正極集電体であるアルミニウム層と負極集電体である銅層が、絶縁体であるポリエステルフィルムにより隔てられるため、短絡の可能性が少なくなる利点がある。また、セパレータや電解質層などと積層した後、巻回や積層により電池を製造する際にも、構成要素の種類が従来品より少なくなるため、生産性にも優れ、きわめて好ましい。
【0052】
<蓄電素子用電極および蓄電素子>
本発明の蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に導電性薄膜を形成し、さらにその面上に電極剤を積層することにより、蓄電素子用電極として用いることができる。
本発明の蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルムを電極用基材層として用いることにより、従来品の金属基材に対し、基材の薄膜化による蓄電素子の体積エネルギー密度の向上が可能となる。また、金属基材に代えてポリエステルフィルムを用いることにより、電極基材の軽量化による蓄電素子の重量エネルギー密度の向上が可能となる。
さらに、本発明の蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルムを電極用基材層として用いることにより、厚みの薄い樹脂基材でありながら優れた耐突刺し性、耐折り曲げ性を有するため導通による短絡を防止でき、また万一の短絡による発火に際しても難燃機能を発現することができる。
【0053】
リチウムイオン二次電池の電極として用いる場合には、リチウムイオンに対するインターカレーション機能を持つ電極剤を積層することが好ましい。かかる電極剤の具体例として、従来から知られているもの、例えば正極用にはコバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウムなどのリチウム・遷移金属複合酸化物を主たる成分とする電極剤、また負極用には黒鉛、カーボンナノチューブなどのアモルファスカーボン構造を有する炭素を主たる成分とする電極剤を用いることができる。
【0054】
正極用電極剤は、アルミニウム金属薄膜などの導電性薄膜の面上に形成される。また、負極用電極剤は、銅金属薄膜などの導電性薄膜の面上に形成される。具体的には、蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルムのアルミニウム元素を主たる成分とする金属薄膜の面上にリチウム・遷移金属複合酸化物を主たる成分とする電極剤が積層され、銅元素を主たる成分とする金属薄膜の面上にアモルファスカーボン構造を有する炭素を主たる成分とする電極剤が積層された二次電池用電極が例示される。
電極剤をかかる導電性薄膜上に積層する方法は特に制限されないが、例えば電極剤の原料をポリフッ化ビニリデンやスチレンブタジエンゴムと混ぜて塗布する方法が挙げられる。
【0055】
また、本発明はかかる蓄電素子用電極が組み込まれた蓄電素子も包含するものであり、かかる蓄電素子用電極を少なくとも1つ有し、その片面または両面にセパレータや電解質層などを積層し、巻回や積層により製造した蓄電素子が例示される。
蓄電素子用電極の具体的構成として、本発明の蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルムの片面に導電性薄膜を形成し、その上に電極剤を積層した構成、または該ポリエステルフィルムの両面に同種の導電性薄膜を形成し、その上に両面とも同種の電極剤を積層した構成の場合は、1つの電極部材で1つの極として機能する。かかる場合、正極用に作成した電極部材と負極用に作成した電極部材をそれぞれ少なくとも1つ用い、さらに少なくともセパレータを1層有することにより、蓄電素子としての機能を奏する。
【0056】
また、蓄電素子用電極の別の具体的構成として、本発明の蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルムの両面にそれぞれ異種の導電性薄膜を形成し、さらにそれぞれの極に適した電極剤を積層して一方を正極、他方と負極とした場合、かかる電極部材を少なくとも1つ用い、さらに少なくともセパレータを1層有することにより、蓄電素子としての機能を奏する。
【0057】
リチウムイオンキャパシタ用の電極として用いる場合には、リチウムイオン二次電池負極用と同様な電極と組合せて、リチウム塩の電解質を用いることで、リチウムイオンキャパシタを作成することができる。
電気二重層キャパシタの電極として用いる場合には、電極に接触した電解質界面の電気二重層を十分な量発生させるため、本発明のフィルムの導電性薄膜面に活性炭素を主たる成分とする導電性かつ表面積の大きな物質(多孔質のカーボンなど)を電極剤として積層させることが好ましい。
【0058】
本発明の蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルムを電極基材層とする蓄電素子用電極を用いて得られた蓄電素子は、従来品よりも高い体積・重量エネルギー密度が可能であり、しかも従来よりも薄い基材層でありながら、高い耐突刺し性、耐折り曲げ性を有するため、導通による短絡を防止でき、また万一の短絡による発火に際しても難燃機能を発現することができ、電池の安全性に優れるものである。蓄電素子の具体例として、二次電池、キャパシタなどが挙げられ、さらに詳しくは、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタが挙げられる。
【0059】
<フィルムの製造方法>
本発明のポリエステルフィルムを製造する方法として、ポリエステルを溶融押出し固化成形したシートをフィルム長手方向、幅方向の二方向に延伸する二軸延伸のフィルム製造方法が挙げられる。
フィルム製膜方法は公知の製膜方法を用いて製造することができ、例えば層A用に調整したリン系成分Pを含む共重合ポリエステルを十分に乾燥させた後、融点〜(融点+70)℃の温度で押出機内で溶融させる。また、層Bを積層した積層フィルムの場合は、層B用に調整したポリエステルを十分に乾燥させた後、他の押出機に供給し、融点〜(融点+70)℃の温度で溶融させる。
【0060】
溶融樹脂をTダイを通じてシート状に成形し、冷却ドラムで冷却して未延伸フィルムを製造する。積層フィルムの場合は、両方の溶融樹脂をダイ内部で積層する方法、例えばマルチマニホールドダイを用いた同時積層押出法により、積層された未延伸フィルムが製造される。かかる同時積層押出法によると、一つの層を形成する樹脂の溶融物と別の層を形成する樹脂の溶融物はダイ内部で積層され、積層形態を維持した状態でTダイよりシート状に成形される。
【0061】
次いで該未延伸フィルムを逐次二軸延伸または同時二軸延伸し、熱固定する方法で製造することができる。逐次二軸延伸により製膜する場合、フィルム延伸温度はポリエステルのガラス転移点(Tg)〜(Tg+40℃)の温度とすることが好ましい。また延伸倍率は、フィルム長手方向およびフィルム幅方向のいずれも3.6倍を超え8.0以下となる範囲で延伸処理を行うことが必要である。二方向に高度に延伸することにより、本発明の結晶配向度を達成することができる。かかる延伸倍率は、好ましくは3.8倍以上7.0倍以下であり、さらに好ましくは3.9倍以上6.0倍以下である。
【0062】
また、延伸を行うに際し、下記式(2)で表わされるフィルム長手方向およびフィルム幅方向の延伸倍率比が0.75を超え1.33以下であると、分子鎖の方向が一方向に偏ることによる突刺し強度の低下を防止することができ好ましい。
フィルム延伸倍率比=RTD/RMD ・・・(2)
(上式中、RTDはフィルム幅方向の延伸倍率、RMDはフィルム長手方向の延伸倍率をそれぞれ表わす)
【0063】
延伸後、さらに熱固定処理を行うことが好ましく、熱固定温度の下限値はポリエステルのガラス転移点、熱固定温度の上限値はポリエステルの融点より15℃低い温度であることが好ましい。熱固定温度は、さらに好ましくは180℃以上240℃以下である。かかる熱固定処理を行うことによって、本発明に規定する熱収縮率特性を得ることができる。
延伸したフィルムは、他部材との貼合時の接着性向上などの必要に応じて、表面活性化処理(コーティング、コロナ放電、プラズマ処理など)などの後加工を施してもよい。この後加工は、フィルム延伸工程中に行ってもよく、また別工程で行ってもよい。
【実施例】
【0064】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各特性値は以下の方法で測定した。また、実施例中の部および%は、特に断らない限り、それぞれ重量部および重量%を意味する。
【0065】
(1)ポリエステル成分
フィルムサンプルの各層について、H−NMR測定よりポリエステルの成分および共重合成分を特定した。
【0066】
(2)リン量の測定方法
得られたポリエステルのリン原子含有量を蛍光X線により測定した。
【0067】
(3)フィルム厚み
フィルムサンプルをスピンドル検出器(安立電気(株)製K107C)にはさみ、デジタル差動電子マイクロメーター(安立電気(株)製K351)にて、異なる位置で厚みを10点測定し、平均値を求めフィルム厚みとした。
【0068】
(4)結晶配向度
X線回折装置(理学電機製ROTAFLEX RINT2500HL)および極点試料台(理学電機製多目的試料台)を用いた広角X線回折極点測定により、フィルムサンプルについて、評価する結晶面の法線ベクトルのフィルム厚み方向における方向余弦の積分平均値である<cosΦ>を求め、次式(3)より結晶配向度(−110)を求めた。
fc=2/3<cosΦ>−1/2 ・・・(3)
評価すべき結晶面は、以下の方法で求めた。得られたフィルムについて、粉末X線回折装置(理学電機RINT2500HL)を用いた広角X線回折2θ−θスキャン(反射法)(X線源CuK−α、発散スリット1/2°、散乱スリット1/2°、受光スリット0.15mm、スキャンスピード1.000°/分)により回折強度の2θ依存性を測定し、ブラッグ角25°〜29°の間のもっとも大きな回折ピークについてPseudo Voightピークモデルを用いた多重ピーク分離法により、結晶面由来の回折ピークと、アモルファス由来のハロー、バックグラウンドを分離した上で、ピーク位置を検出し、上述の極点測定においては該角度に光学系を固定して測定した。なお、本発明の実施例における該結晶面は、多くはポリ(エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート)の結晶格子における(−110)面に由来するものと考えられ、ブラッグ角は約27°である。
【0069】
(5)面外複屈折
得られたフィルムについて、以下の方法でNaD線(589.3nm)に対する屈折率を測定し、面外複屈折の算出に供した。すなわち、波長473nm、633nm、830nmの3種のレーザー光にて、屈折率計(Metricon社製、プリズムカプラ)を用いて測定された、フィルムの3方向における屈折率nx、ny、nzを、下記のCauchyの屈折率波長分散フィッティング式
(λ)=a/λ+b/λ+c
(ここで、n(λ):波長λ(nm)における各方向の屈折率(i=MD、TD、Z)、a、b、c:定数、をそれぞれ示す)
に代入し、得られた3つの式からa、b、cの定数を求め、しかる後に589.3nmにおける屈折率(nMD(589.3)、nTD(589.3)、n(589.3))を算出した。得られた屈折率から、下記式に従い、面外複屈折Nsを算出した。
Ns=(nMD+nTD)/2−n
(上式中、Nsは面外複屈折、nMDはMD方向の屈折率、nTDはTD方向の屈折率、nはフィルム厚み方向の屈折率をそれぞれ表す)
【0070】
(6)熱収縮率
温度150℃に設定されたオーブン中に、フィルムの縦方向(MD方向)および横方向(TD方向)がマーキングされ、あらかじめ正確な長さを測定した長さ30cm四方のフィルムを無荷重で入れ、30分間保持処理した後取り出し、室温に戻してからその寸法の変化を読み取る。熱処理前の長さ(L)と熱処理による寸法変化量(ΔL)より、下記式(4)からMD方向およびTD方向の熱収縮率(%)をそれぞれ求めた。
熱収縮率=(ΔL/L)×100 ・・・(4)
【0071】
(7)突刺し強度
JAS P1019に準じて測定した。得られたフィルムサンプルを面状に固定し、サンプル面に垂直に、直径1.0mm、先端形状半径0.5mmの半円形の針を毎分50±0.5mmの速度で突刺し、針が貫通するまでの最大荷重を測定し、突刺し強度とした。
【0072】
(8)耐折り曲げ強度
MIT耐折度試験機を用い、JIS C5016に準じて、折り曲げ部極率半径0.38mm、荷重10N、折り曲げ速度175cpmにてフィルムサンプルが破断するまでの折り曲げ回数を測定した。
【0073】
(9)難燃性
UL−94VTM法に準拠して評価した。得られたフィルムを20cm×5cmにカットし、23±2℃、50±5%RH中で48時間放置し、その後、試料下端をバーナーから10mm上方に離し垂直に保持した。該試料の下端を内径9.5mm、炎長19mmのブンゼンバーナーを加熱源とし、3秒間接炎した。VTM−0,VTM−1,VTM−2の評価基準に沿って難燃性を評価した。
【0074】
(10)リチウムイオン電池の評価
(10−1)リチウムイオン電池の作製
実施例、比較例で得られたフィルムの両面に、真空蒸着法にて500nm厚のアルミニウム薄膜を成膜した。乾燥後のコバルト酸リチウム含有量が95wt%となるよう、コバルト酸リチウム粉末をポリフッ化ビニリデンのN−メチルピロリドン溶液と混合して製造したスラリーを用い、乾燥後厚みが100μmとなるようアルミニウム薄膜表面に塗布し、乾燥、カレンダリングした後、21cm×30cmの大きさに裁断し、正極を作成した。
また、負極用サンプルとして、実施例、比較例で得られたフィルムの両面に、スパッタリング法にて250nm厚の銅薄膜を成膜した。乾燥後の黒鉛含有量が95wt%となるよう、黒鉛粉末をスチレンブタジエンゴムラテックス水分散液と混合して製造したスラリーを用い、乾燥後厚みが100μmとなるよう銅薄膜表面に塗布し、乾燥、カレンダリングした後、21cm×30cmの大きさに裁断し、負極を作成した。
多孔質ポリエチレンフィルムからなるセパレータ(20cm×30cm)を、正極/セパレータ/負極/セパレータ・・・となるよう、図1に示すように20組積層し、リードを取付け、ポリエチレン製ラミネート型容器に格納した後、電解液(6フッ化リン酸リチウムの有機溶媒(炭酸エチレン+炭酸ジエチル=1:1)溶液(濃度1mol/L))を充填、容器を封止し、試験用電池を作成した。
【0075】
(10−2)長期耐久性
(10−1)の手順で作成した電池50個について100℃の条件下で繰返し充/放電試験を行い、電池総数の10%に短絡が発生するまでの劣化サイクルが500回以上のものを良好(表1において「○」と記載)、劣化サイクルが500回に満たないものを不良(×)とする。
【0076】
(10−3)耐突刺し性
(10−1)の手順で作成した電池について、電圧計を取り付けた満充電状態の電池サンプルを面状に固定し、サンプル面に垂直に、直径2.5mmの鉄製の釘の針を毎分50±0.5mmの速度で突刺し、電圧をモニターしながら釘刺しに伴う荷重を測定した。釘の貫通に起因する電圧の大きな変化が観測されるときの荷重が20kg以上のものを良好(表1において「○」)、荷重が20kg未満のものを不良(表1において「×」)とする。
【0077】
[実施例1]
ナフタレン−2,6−ジカルボン酸ジメチルエステル100重量部、エチレングリコール60重量部を、エステル交換触媒として酢酸マンガン四水塩0.03重量部を使用して常法に従ってエステル交換反応させた後、エチレングリコールに分散させた平均粒径0.3μmの球状シリカ粒子0.07重量部を添加した。ついで、下記式(III)で表わされる2−カルボキシエチルフェニルホスフィン酸を6重量部添加し、三酸化アンチモン0.024重量部を添加して、引き続き高温高真空下で常法にて重縮合反応を行い、固有粘度0.61dl/gのポリエステルを得た。ポリエステル中のリン原子濃度は、表1に示すとおりであった。
【0078】
【化7】

【0079】
得られたポリエステルを180℃ドライヤーで6時間乾燥後、押出機に投入し、295℃で溶融混練し、290℃のダイスよりシート状に成形した。この溶融物を表面温度60℃の回転冷却ドラム上に押出し、厚み88μmの未延伸フィルムを得た。
得られた未延伸フィルムを140℃に加熱したロール群に導き、長手方向(縦方向)に4.1倍で延伸し、60℃のロール群で冷却した。続いて、縦延伸したフィルムの両端をクリップで保持しながらテンターに導き、150℃に加熱された雰囲気中で長手方向に垂直な方向(横方向)に4.3倍で延伸した。その後テンタ−内で230℃の熱固定を行い、180℃で3%の弛緩後、均一に除冷して室温まで冷やし、4.5μm厚みの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0080】
[実施例2]
実施例1と同様の方法によって得られたポリエステルを180℃ドライヤーで6時間乾燥後、押出機に投入し、295℃で溶融混練した(層A)。
一方、層B用ポリエステルを次の方法により得た。ナフタレン−2,6−ジカルボン酸ジメチルエステル100重量部、エチレングリコール60重量部を、エステル交換触媒として酢酸マンガン四水塩0.03重量部を使用して常法に従ってエステル交換反応させた後、トリメチルフォスフェート0.023重量部を添加し実質的にエステル交換反応を停止した。ついで、三酸化アンチモン0.024重量部を添加し、引き続き高温高真空下で常法にて重縮合反応を行い、固有粘度0.61dl/g、ジエチレングリコール共重合量1.3モル%のポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(PEN)を得た。得られたポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを180℃ドライヤーで6時間乾燥後、他方の押出機に投入し(層B)、それぞれ溶融した状態で3層に積層し(厚み比率 層A:層B:層A=1:8:1)、かかる積層構造を維持した状態でダイスよりシート状に成形したのち、実施例1と同様にして未延伸フィルムを得た。フィルム厚みは80μmであった。
延伸倍率を縦方向3.9倍、横方向4.1倍とした以外は、実施例1と同様の条件で延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0081】
[実施例3]
層Aのポリエステル用に用いたリン化合物として、リン化合物(III)に代えて下記式(V)で表わされる2−カルボキシエチルメチルホスフィン酸エチレングリコールエステルを用い、表1のリン原子量に変更した以外は実施例2と同様の方法によって延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。なお、層A用のポリエスエルの固有粘度は0.61dl/gであった。
【0082】
【化8】

【0083】
[実施例4]
層Aのポリエステル用に用いたリン化合物として、リン化合物(III)に代えて下記式(VI)で表わされる2−カルボキシエチルフェニル亜ホスフィン酸を用い、表1のリン原子量に変更した以外は実施例2と同様の方法によって延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。なお、層A用のポリエスエルの固有粘度は0.61dl/gであった。
【0084】
【化9】

【0085】
[実施例5]
層Aのリン化合物の添加量を変更し、表1に示すリン原子量に変更した以外は実施例2と同様の方法によって延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。なお、層A用のポリエスエルの固有粘度は0.61dl/gであった。
【0086】
[実施例6]
未延伸フィルムの厚みを65μmとし、延伸倍率を縦方向3.7倍、横方向3.9倍とした以外は、実施例2と同様の方法によって延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0087】
[比較例1]
実施例1で用いたポリエステルに代えて実施例2の層B用のポリエステルを用いた以外は実施例1と同様の方法で延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。リン系成分を含有していないため、難燃性に劣っていた。
【0088】
[比較例2]
未延伸フィルムの厚みを36.5μmとし、延伸倍率を縦方向2.8倍、横方向2.9倍とした以外は、実施例2と同様の方法で延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。結晶配向度が十分ではなく、十分な突刺し特性が得られなかった。
【0089】
[比較例3]
ナフタレン−2,6−ジカルボン酸ジメチルエステルに換え、テレフタル酸ジメチルエステルを用いた以外は、実施例2と同様の条件で延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。なお、本比較例における測定結晶面は、ポリエチレンテレフタレートの結晶格子における(100)面に由来すると考えられ、ブラッグ角は約26°であった。本発明に規定するようにナフタレン−2,6−ジカルボキシレート成分を主たる構成成分として含有しないため、耐突刺し性が十分ではなかった。
【0090】
[比較例4]
金属膜を積層した延伸フィルムの代わりに、表1に示す金属箔を正負の電極集電体として、上記(10)の方法で電池を作成し、同様の評価を行った。本発明に規定するようなポリエステルフィルムを用いていないため、耐突刺し性が十分ではなかった。
【0091】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルムは、従来品よりも高い体積・重量エネルギー密度を可能とする薄肉ポリエステルフィルムでありながら、蓄電素子電極用途に適した高い耐突刺し性、耐折り曲げ性および難燃性を有することから、蓄電素子用、特にリチウムイオン二次電池用、電気二重層キャパシタ用、リチウムイオンキャパシタ用の電極に好適なフィルムを提供することができる。
【符号の説明】
【0093】
1: ポリエステルフィルム
2: アルミニウム薄膜
3: 正極
4: 銅薄膜
5: 負極
6: セパレーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とするポリエステル層Aを少なくとも1層有する難燃ポリエステルフィルムであり、該ポリエステル層Aはカルボキシホスフィン酸化合物またはカルボキシ亜ホスフィン酸化合物の少なくともいずれか1種に由来する成分を該ポリエステル層Aに対しリン原子として0.01重量%以上3重量%以下の範囲で含み、かつ該ポリエステルフィルムにおける広角X線回折測定で得られるブラッグ角25°〜29°の回折ピークに相当する結晶面法線のフィルム面法線に対する一致度が0.95以上であり、フィルム厚みが0.2μm以上30μm以下であることを特徴とする蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルム。
【請求項2】
該カルボキシホスフィン酸化合物が下記式(I)で表わされる化合物である請求項1に記載の蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルム。
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜18のアリール基、RおよびRは炭素数1〜18のアルキル基、アリール基、モノヒドロキシアルキル基または水素原子、Xは炭素数1〜18の2価の炭化水素基をそれぞれ表わし、R〜Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい)
【請求項3】
該カルボキシ亜ホスフィン酸化合物が下記式(II)で表わされる化合物である請求項1に記載の蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルム。
【化2】

(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜18のアリール基、RおよびRは炭素数1〜18のアルキル基、アリール基、モノヒドロキシアルキル基または水素原子、Xは炭素数1〜18の2価の炭化水素基をそれぞれ表わし、R〜Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい)
【請求項4】
該難燃ポリエステルフィルムが該ポリエステル層Aの少なくとも片面にさらにポリエステル層Bが積層された積層構成であり、該ポリエステル層Bの主たる成分がポリエチレンナフタレンジカルボキシレートであって、さらに層Bにおけるカルボキシホスフィン酸化合物またはカルボキシ亜ホスフィン酸化合物の少なくともいずれか1種に由来する成分のリン原子としての含有量が層Bを基準として0重量%以上1重量%以下かつ層Aのリン原子含有量以下である請求項1〜3のいずれかに記載の蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルム。
【請求項5】
ポリエステル層Aとポリエステル層Bとが交互に3層以上積層された積層構成である請求項4に記載の蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルム。
【請求項6】
該難燃ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に導電性薄膜が形成されてなる請求項1〜5のいずれかに記載の蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルム。
【請求項7】
導電性薄膜が金属薄膜である請求項6に記載の蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルム。
【請求項8】
金属薄膜がアルミニウム元素を主たる成分とするものである請求項7に記載の蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルム。
【請求項9】
金属薄膜が銅元素を主たる成分とするものである請求項7に記載の蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルム。
【請求項10】
金属薄膜が該難燃ポリエステルフィルムの両面に形成され、一方の面に形成される金属薄膜がアルミニウム元素を主たる成分とするものであり、他方の面に形成される金属薄膜が銅元素を主たる成分とするものである請求項7に記載の蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルム。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルムの導電性薄膜の面上にさらに電極剤を積層してなる蓄電素子用電極。
【請求項12】
請求項11に記載の蓄電素子用電極における電極剤の主たる成分がリチウム・遷移金属複合酸化物である蓄電素子用電極。
【請求項13】
請求項11に記載の蓄電素子用電極における電極剤の主たる成分がアモルファスカーボン構造を有する炭素である蓄電素子用電極。
【請求項14】
請求項10に記載の蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルムのアルミニウム元素を主たる成分とする金属薄膜の面上にリチウム・遷移金属複合酸化物を主たる成分とする電極剤が積層され、銅元素を主たる成分とする金属薄膜の面上にアモルファスカーボン構造を有する炭素を主たる成分とする電極剤が積層された蓄電素子用電極。
【請求項15】
リチウムイオン二次電池または電気二重層キャパシタに用いられる請求項11〜14のいずれかに記載の蓄電素子用電極。
【請求項16】
請求項11〜15のいずれかに記載の蓄電素子用電極が組み込まれてなる蓄電素子。

【図1】
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【公開番号】特開2011−174009(P2011−174009A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40319(P2010−40319)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】