薄膜デバイスの製造方法および薄膜デバイス
【課題】基板上に薄膜層が形成されてなる薄膜デバイスにおいて、基板薄型化が進行しても、基板分断の際に意図せぬ割れが発生したり、分断後の強度低下が著しくなってしまうのを抑制する。
【解決手段】基板上に薄膜層が形成されてなる薄膜デバイスを、前記基板となる板材101で当該基板の所望厚さよりも大きな厚さを有するものに対して、前記所望厚さよりも深いスクライブ溝102を形成する工程と、前記板材101の前記スクライブ溝102の形成面側に当該板材の厚さが前記所望厚さとなるまでエッチングを行う工程と、を経て製造する。
【解決手段】基板上に薄膜層が形成されてなる薄膜デバイスを、前記基板となる板材101で当該基板の所望厚さよりも大きな厚さを有するものに対して、前記所望厚さよりも深いスクライブ溝102を形成する工程と、前記板材101の前記スクライブ溝102の形成面側に当該板材の厚さが前記所望厚さとなるまでエッチングを行う工程と、を経て製造する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば液晶表示装置や有機EL表示装置を構成するもののように、基板(デバイス支持層)上に薄膜層が形成されてなる薄膜デバイスの製造方法および薄膜デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話や携帯情報端末(PDA)等における表示ディスプレイとして、液晶表示装置や有機EL表示装置等が広く用いられている。液晶表示装置や有機EL表示装置等は、一般に、ガラス基板(デバイス支持板)上に薄膜層が形成されてなる薄膜デバイスを具備して構成される。そのため、薄膜デバイスを用いて液晶表示装置や有機EL表示装置等を構成する場合には、その製造過程において、ガラス基板となる板材を、そのガラス基板となる大きさ(液晶表示装置または有機EL表示装置の表示パネルとなる大きさ)のパネル状に切り出す工程が不可避である。
【0003】
ガラス基板の切り出しは、例えば、ガラス基板に機械的にスクライブ溝を刻んで、その後にスクライブ溝の部分を機械的または熱的応力によって割断分離する、いわゆるスクライブ・ブレーク法を用いて行うことが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、このスクライブ・ブレーク法においては、スクライブライン形成時に生じたガラスのひび割れを、エッチング等のケミカル処理を行って除去することも提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
さらには、例えば、ガラス面内の一部に機械的にスクライブ溝を刻んで、炭酸ガスレーザ等からのパワービームを走査し、スクライブ溝の一部を含むように照射スポットを維持、走査することで、ガラス面内に刻んだスクライブ溝を所望のパターンで延伸し、これによりガラス基板を割断する方法も提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
【特許文献1】特許第3577492号公報
【特許文献2】特開2003−316280号公報
【特許文献3】特表2003−514673号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、液晶表示装置や有機EL表示装置等を構成する薄膜デバイスに対しては、薄型化および軽量化の要請が高まっている。そのため、薄膜デバイスにおけるガラス基板については、その薄型化が進行しており、具体的にはその厚さが0.2mm以下のものも用いられつつある。
【0006】
しかしながら、ガラス基板の薄型化が進行すると、従来の方法でそのガラス基板の割断を行った場合に、以下に述べるような問題が生じるおそれがある。
例えば、スクライブ溝を刻んだ後にそのスクライブ溝の部分を機械的または熱的応力によって割断分離すると、スクライブ溝の形成時に生じたひび割れをケミカル処理によって除去した場合であっても、その後に行うガラス割断の際に意図せぬ割れが多発してしまう可能性がある。
また、ガラス面内の一部に機械的に刻んだスクライブ溝を炭酸ガスレーザ等からのパワービームを走査して延伸することにより割断する方法は、ガラス板の厚さが例えば0.1〜0.2mm以下の場合、スクライブ溝の延伸時に炭酸ガスレーザの走査方向とは異なる、意図せぬ方向に溝が走ってしまう、すなわち、ガラス板が割れてしまうことが多くなり、実用上の問題が残されている。
【0007】
そこで、本発明は、基板薄型化が進行しても、基板分断の際に意図せぬ割れが発生したり、分断後の強度低下が著しくなってしまうのを抑制することのできる薄膜デバイスの製造方法および薄膜デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために案出された薄膜デバイスの製造方法である。すなわち、基板上に薄膜層が形成されてなる薄膜デバイスの製造方法であって、前記基板となる板材で当該基板の所望厚さよりも大きな厚さを有するものに対して、前記所望厚さよりも深いスクライブ溝を形成する工程と、前記板材の前記スクライブ溝の形成面側に当該板材の厚さが前記所望厚さとなるまでエッチングを行う工程とを含むことを特徴とする。
【0009】
上記手順の薄膜デバイスの製造方法では、先ず、基板となる板材にスクライブ溝を形成する。「基板」は、代表的なものとしてガラス基板が挙げられるが、その他にも、例えばガラス層を有した積層構造基板のように、薄膜デバイスを構成し得るものの全てを含む。「板材」は、基板の形成材料となるものである。また、「スクライブ溝」は、板材を分断するために形成する加工溝であり、例えばレーザビームを照射してその照射スポット内の部分を蒸発、噴出あるいは流出させることで形成したり、ダイアモンド刃等を用いて機械的に傷(スクラッチ)を入れて形成することが考えられる。ただし、スクライブ溝は、基板の所望厚さ、すなわち薄膜デバイス構成時における基板厚よりも深く形成する。当該基板の所望厚さよりも板材が大きな厚さを有しているので、スクライブ溝を基板の所望厚さより深く形成可能である。
そして、スクライブ溝の形成後は、次いで、板材のスクライブ溝形成面側にエッチングを行う。「エッチング」は、板材表面に対する化学的または電気化学的な除去処理であり、その代表的なものとしては、例えば板材がガラス基板を構成するものであれば弗化水素酸を含む溶液を用いて行うエッチングのように、方向によらず等速度で均一に行われる等方性エッチングが挙げられる。ただし、ここでいう「エッチング」には、等方性を有さない非等方的な異方性エッチングも含まれる。このエッチング(等方性エッチングまたは異方性エッチング)は、板材の厚さが基板の所望厚さとなるまで行う。したがって、エッチングが進行して板材が均一に薄くなっても、見かけ上におけるスクライブ溝の深さは変わらないため、スクライブ溝が基板の所望厚さよりも深く形成されていれば、板材の厚さが基板の所望厚さになったときには、その板材がスクライブ溝の形成箇所の部分で分断されることになる。
また、この間、エッチングが等方性を有する場合であれば、スクライブ溝の側壁部分も等方的なエッチングを受けるため、そのスクライブ溝の形成時に側壁周辺にマイクロクラックが生じていても、そのマイクロクラックを含む領域がエッチング除去され消失することになる。一方、エッチングが非等方的な異方性のものであっても、そのエッチングにより、スクライブ溝周辺のマイクロクラック領域を含む板材表面近傍部分は、その板材の元の厚さと所望厚さとの差分だけ削られて除去されることになる。つまり、いずれの場合であっても、板材の分断後は、その分断箇所にマイクロクラックが存在することなく、そのマイクロクラックに起因する機械的または熱的な強度低下を招いてしまうこともない。
【発明の効果】
【0010】
本発明の薄膜デバイスの製造方法、およびその製造方法を経て得られる薄膜デバイス、すなわち本発明の薄膜デバイスによれば、エッチングを利用してスクライブ溝の形成部分で板材を分断して基板を構成することになるので、その分断箇所にマイクロクラックが存在することなく、そのマイクロクラックに起因する機械的または熱的な強度低下を招いてしまうこともない。つまり、基板薄型化が進行しても、基板分断の際に意図せぬ割れが発生したり、分断後の強度低下が著しくなってしまうのを抑制できる。したがって、薄膜デバイスとしての信頼性を高く維持しつつ、液晶表示装置や有機EL表示装置等を構成した場合の薄型化および軽量化の要請にも十分に応えることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面に基づき本発明に係る薄膜デバイスの製造方法および薄膜デバイスについて説明する。
【0012】
ここで説明する薄膜デバイスは、液晶表示装置または有機EL表示装置を構成するためのもので、ガラス基板上にTFTからなる駆動回路層や発光層等に代表される薄膜層が形成されてなるものである。ただし、同様の構成を有するものであれば、液晶表示装置または有機EL表示装置を構成するもの以外にも適用可能であることは勿論である。
【0013】
一般に、薄膜デバイスを用いて液晶表示装置や有機EL表示装置等を構成する場合には、その製造効率向上を図るべく、ガラス基板の形成材料である一つの板材から複数のデバイスを得る、いわゆる多面取りが行われる。そのため、液晶表示装置や有機EL表示装置等を構成する薄膜デバイスの製造過程においては、ガラス基板となる板材を、そのガラス基板となる大きさ(液晶表示装置または有機EL表示装置の表示パネルとなる大きさ)、さらに具体的にはガラス基板上に形成される薄膜層の形成領域に対応した大きさのパネル状に切り出す工程が不可避である。ここで、「薄膜層の形成領域」とは、薄膜デバイスの表示領域(=画素領域)と外周駆動回路領域とを合わせた領域を意味している。以下、この領域のことを「有効薄膜領域」というものとする。
【0014】
ただし、薄膜デバイスにおけるガラス基板については、その厚さが0.2mm以下であるという薄型化が進行している。このことから、ここで説明する薄膜デバイスでは、以下に述べるような手順を経て、ガラス基板の切り出しが行われる。
【0015】
〔第1の実施の形態〕
図1は、本発明に係る薄膜デバイスの製造方法の第1実施形態の概要を示す説明図である。図例は、薄膜層の形成に先立ってガラス基板の切り出しを行う場合に適用して好適な実施形態を示している。
【0016】
図1(a)に示すように、ガラス基板の切り出しにあたっては、そのガラス基板となる板材で、そのガラス基板の所望厚さよりも大きな厚さを有するものを用いる。例えば、ガラス基板の所望厚さが0.2mm以下、さらに具体的には50μm程度であれば、板厚が0.3mm程度のガラスからなる板材101を用いる。
【0017】
このとき、板材101は、薄板化するための研磨処理を経て得たものであってもよい。すなわち、0.3mmを超える厚さのものに対して研磨処理を行い、これにより0.3mm程度の厚さを得るようにしてもよい。研磨処理は、機械的研磨であっても、あるいはエッチング等の化学的研磨であってもよいが、公知技術を利用して行えばよいため、ここではその詳細な説明を省略する。
【0018】
そして、板材101の面上に対しては、板材101を分断するための加工溝であるスクライブ溝102を形成する。スクライブ溝102は、ガラス基板の所望厚さよりも深く形成する。例えば、ガラス基板の所望厚さが50μm程度であれば、スクライブ溝102を60μm程度の深さで形成する。
【0019】
スクライブ溝102の形成は、炭酸ガス(CO2)レーザ、YAGレーザ、YLFレーザ、YVO4等の固体レーザの基本波出力、第3高調波出力若しくは第4高調波出力、またはエキシマレーザ出力のパワービームを照射して、その照射スポット内の部分のガラス材を蒸発、噴出あるいは流出させることで行うことが考えられる。このとき、レーザの発振波長が短ければ、集光スポットの面積が小さくなるため、スクライブ溝102の形成幅を狭くすることができる。また、レーザの発振モード(空間モード)がTEM00モードならば、ビームの集光性が良くなる。また、連続発振(CW)レーザよりは、パルスレーザのほうが、スクライブ溝102の形成に適している。ただし、スクライブ溝102の形成は、必ずしもレーザ照射によって行う必要はなく、ダイアモンド刃等を用いて機械的にスクラッチを入れて形成するようにしてもよい。
【0020】
スクライブ溝102の形成位置は、板材101上に形成すべき薄膜層(ただし不図示)の位置、すなわち有効薄膜領域となる領域に対応しているものとする。具体的には、図1(b)に示すように、有効薄膜領域となる領域を囲うように方形状に形成する、といったことが考えられる。なお、スクライブ溝102を形成した時点では、そのスクライブ溝102の側壁周辺にマイクロクラックが生じていても構わない。
【0021】
スクライブ溝102の形成後は、次いで、板材101におけるスクライブ溝102の形成面側に、等方性エッチングを行う。等方性エッチングは、方向によらず等速度で均一に行われるエッチングであり、例えばガラス材に対するものであれば、弗化水素酸を含む溶液を用いて行うエッチングがこれに相当する。図1(a)に示す例では、板材101におけるスクライブ溝102の形成面上に、濃度20%の弗化水素酸溶液103を、表面張力を利用して盛り付けている場合を示している。このようにすれば、エッチングが不要な箇所(例えば、スクライブ溝102の非形成面)に弗化水素酸溶液103が悪影響を及ぼすのを抑制することができる。ただし、弗化水素酸溶液中に板材101を浸すことで、等方性エッチングを行うようにしてもよいことは勿論である。
【0022】
このような等方性エッチングは、板材101の厚さがガラス基板の所望厚さとなるまで行う。上述したように、表面張力を利用して弗化水素酸溶液103を板材101上に盛り付けている場合には、エッチングの進行に伴い、弗化水素酸溶液103を適時新たなものと交換し、エッチング速度(レート)を維持するものとする。
【0023】
その後、図1(c),(d)に示すようにエッチングが進行すると、当該エッチングが等方性エッチングであることから、板材101が均一に薄くなるのに伴い、スクライブ溝102の部分も掘り進められる。つまり、見かけ上におけるスクライブ溝102の深さは、エッチング前と変わらない。
【0024】
したがって、図1(e)に示すように、エッチングが進行し、板材101の厚さがガラス基板の所望厚さである50μm程度となったときには、スクライブ溝102の深さが60μm程度であることから、板材101がスクライブ溝102の形成箇所の部分で分断されることになる。
この分断後の板材101が、薄膜デバイスを構成するガラス基板となるのである。つまり、薄膜デバイスを構成するガラス基板は、機械的もしくは熱的応力による割断、またはレーザ等のパワービームを利用した割断によって切り出されるのではなく、スクライブ溝102および等方性エッチングを利用した分断によって切り出されるのである。
【0025】
また、板材101の分断に際しては、スクライブ溝102の側壁部分も等方的なエッチングを受ける。そのため、スクライブ溝102の形成時に、その側壁周辺にマイクロクラックが生じていた場合であっても、そのマイクロクラックを含む領域がエッチング除去され消失することになる。つまり、板材101の分断後は、その分断箇所にマイクロクラックが存在することなく、そのマイクロクラックに起因する機械的または熱的な強度低下を招いてしまうこともない。
【0026】
以上のような手順で各工程を行う製造方法、およびその製造方法を経て得られる薄膜デバイスによれば、等方性エッチングを利用してスクライブ溝102の形成部分で板材101を分断して、これにより薄膜デバイスを構成するガラス基板を得ることになるので、その分断箇所にマイクロクラックが存在することなく、そのマイクロクラックに起因する機械的または熱的な強度低下を招いてしまうこともない。つまり、ガラス基板の薄型化が進行しても、分断の際に意図せぬ割れが発生したり、分断後の強度低下が著しくなってしまうのを抑制できる。したがって、薄膜デバイスとしての信頼性を高く維持しつつ、液晶表示装置や有機EL表示装置等を構成した場合の薄型化および軽量化の要請にも十分に応えることが可能となるのである。
【0027】
また、ガラス基板の基となる板材101が研磨処理を経て得たものである場合、すなわちスクライブ溝102を形成する工程に先立って板材101を薄板化するための研磨処理を行う場合には、使用する板材101の厚さに依らずにガラス基板の薄板化が容易になるとともに、スクライブ溝102の形成後に行う等方性エッチングの処理時間を短縮することができ、さらには当該等方性エッチングの後におけるスクライブ溝102の幅の拡がりを極力抑制することができ、製造効率の向上を図る上で非常に好適なものとなる。
【0028】
〔第2の実施の形態〕
図2は、本発明に係る薄膜デバイスの製造方法の第2実施形態の概要を示す説明図である。図例は、薄膜層の形成後にガラス基板の切り出しを行う場合に適用して好適な実施形態を示している。
【0029】
図2(a)に示すように、第2実施形態では、板材101の片面に、薄膜層104が形成済みである点で、上述した第1実施形態の場合とは異なる。薄膜層104としては、液晶表示装置または有機EL表示装置を構成するためのTFTからなる駆動回路層や発光層等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、薄膜層104の形成については、公知技術を利用して行えばよいため、ここではその説明を省略する。
【0030】
薄膜層104は、その形成後、耐弗酸性のワックス105によって覆われているものとする。耐弗酸性のワックス105としては、例えば、融点200℃以下の熱可塑性接着剤が好ましく、エチレン−酢酸ビニル熱可塑性エラストマー、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−エチレン−ブチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、エチレン−塩化ビニル共重合体、酢酸塩アセテート樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、熱可塑性ポリブタジエン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリテトラフロロエチレン、エチレン-テトラフロロエチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS樹脂)、アイオノマー、AAS樹脂、ACS樹脂、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリオキシベンゾイル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、液晶ポリエステル、セルロース系プラスチック(酢酸セルロース、酢酪酸セルロース、エチルセルロース、セルロイドセロファン)、ポリオレフィン、ポリウレタン、若しくは以上の共重合体またはポリマーアロイ、あるいはパラフィン、コールタール、ロジン、天然ゴム、フッ素ゴム等を用いることが考えられる。このような耐弗酸性のワックス105は、板材101の片面(薄膜層104の形成面)側に、例えばバーコーターを利用して、1μm〜3000μm程度の厚さで均一に塗布すればよい。
【0031】
そして、板材101の他の片面、すなわち薄膜層104の形成面と反対側の面には、上述した第1実施形態の場合と同様に、深さ約60μmのスクライブ溝102が形成されている。したがって、スクライブ溝102の形成面側に、第1実施形態の場合と同様に等方性エッチングを行い、そのエッチングが図2(b),(c)に示すように進行し、図2(d)に示すように板材101の厚さがガラス基板の所望厚さである50μm程度となったときには、板材101がスクライブ溝102の形成箇所の部分で分断されることになる。
【0032】
このような手順により板材101を分断することで、第2実施形態においても、その分断箇所にマイクロクラックが存在することなく、そのマイクロクラックに起因する機械的または熱的な強度低下を招いてしまうこともない。つまり、ガラス基板の薄型化が進行しても、分断の際に意図せぬ割れが発生したり、分断後の強度低下が著しくなってしまうのを抑制できる。
しかも、第2実施形態では、薄膜層104の形成面側に耐弗酸性のワックス105を塗布しているので、等方性エッチングに用いる溶液103が薄膜層104の形成面側に侵入して当該薄膜層104に悪影響を及ぼすのを回避することができ、さらには等方性エッチングが進行して板材101が分断された後にも、その分断後の板材101(分断によって得られるガラス基板)がばらばらにならないという利点が得られる。
【0033】
〔第3の実施の形態〕
図3〜5は、本発明に係る薄膜デバイスの製造方法の第3実施形態の概要を示す説明図である。
【0034】
図3(a)に示すように、第3実施形態では、第1実施形態または第2実施形態で説明した板材101と同様の構成である第1板材201の片面に、第2実施形態の場合と同様の薄膜層202が形成されているとともに、その第1板材201の薄膜層202が形成された面側に、第1接着剤203を介して第2板材204が接着されており、これにより薄膜層202が封止されている。
【0035】
第1接着剤203としては、例えば第2実施形態で説明した耐弗酸性のワックス105と同様のものを用いることが考えられる。
また、第2板材204としては、好ましくは、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ステンレス、インコネル(例えば、インコネル625(組成はNi>58%、Cr20%〜23%、Fe<5%、Mo8%〜10%、Nb3.1%〜4.2%))等の耐酸性の金属板またはこれらの積層板、これらの耐酸性金属膜で被覆された金属板若しくはガラス板またはセラミックス板、またはこれらの積層板を用いることが考えられる。あるいは、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリオレフィン、ポリイミド等の樹脂板を用いてもよい。このような第2板材204の第1板材201への貼り合わせは、使用する第1接着剤203の特性に応じて行えばよい。例えば、第1接着剤203が熱可塑性接着剤(ホットメルト接着剤)であれば、加熱装置(例えばホットプレート)による加熱処理により行うことができる。
【0036】
なお、第1板材201については、薄板化するための研磨処理を経て得たものであってもよい。すなわち、例えば初期に0.7mm厚さであるものに対して、濃度20%の弗化水素酸溶液205でエッチングを行い、これにより0.3mm程度の厚さを得るようにしてもよい。このとき、面内を均一にエッチングするためには、空気または窒素で弗化水素酸溶液205をバブリングすることが有効である。ただし、エッチング等の化学的研磨ではなく、機械的研磨処理によって第1板材201を薄板化してもよいことは勿論である。
【0037】
その後は、図3(b)に示すように、第1板材201の他の片面、すなわち薄膜層202の形成面と反対側の面に、スクライブ溝206を形成する。例えば、エッチング等の化学的研磨によって第1板材201を薄板化した場合であれば、第1板材201、薄膜層202、第1接着剤203および第2板材204からなる積層体を弗化水素酸溶液205の中から取り出して水洗し乾燥させてから、薄膜層202の形成面と反対側の面に、炭酸ガスレーザのパルス出力(波長9.4μmまたは10.6μm)またはQスイッチYAGレーザの第3高調波出力(波長355nm)等を、平面的に見た場合の薄膜層202の外周端縁よりも外方の位置に所定のパターン(例えば、薄膜層202の形成位置を囲う方形状)で照射し、ガラス基板の所望厚さよりも深く、具体的にはガラス基板の所望厚さが50μm程度であれば60μm程度の深さで、スクライブ溝206を形成する。なお、スクライブ溝206は、ダイアモンド刃等を用いて機械的に形成してもよい。
【0038】
スクライブ溝206の形成後は、次いで、少なくとも第1板材201におけるスクライブ溝206の形成面側に、等方性エッチングを行う。この等方性エッチングは、第1実施形態または第2実施形態で説明したように弗化水素酸溶液をその表面張力を利用して盛り付けて行ってもよいが、薄膜層202が第1接着剤203および第2板材204によって封止されていることから、その積層体を濃度20%の弗化水素酸溶液205に浸すことで行い、溶液塗布作業の簡略化やエッチングレート維持の容易化等を図るようにしてもよい。このような等方性エッチングを、図4(a),(b)に示すように、第1板材201の厚さがガラス基板の所望厚さ(例えば、50μm)となるまで行う。
【0039】
これにより、第1板材201は、スクライブ溝206の形成箇所の部分で分断されることになる。ただし、第1板材201には第1接着剤203を介して第2板材204が貼り付けられているので、スクライブ溝206の形成箇所の部分で分断されても、その第1板材201が第2板材204に支持されて撓みを防止できる上、分断後に第1板材201がばらばらにならないという利点が得られる。このことは、特に、エッチング後の第1板材201の厚さ、すなわちガラス基板の所望厚さに比して、その第1板材201の面積が大きい場合に非常に有効である。
また、このとき、第1板材201では、スクライブ溝206の側壁部分も等方的なエッチングを受ける。そのため、スクライブ溝206の形成時に、その側壁周辺にマイクロクラックが生じていた場合であっても、そのマイクロクラックを含む領域がエッチング除去され消失することになる。
【0040】
このような等方性エッチングの後は、第1板材201、薄膜層202、第1接着剤203および第2板材204からなる積層体を弗化水素酸溶液205の中から取り出して水洗し乾燥させてから、図5(a)に示すように、その等方性エッチングを行ったスクライブ溝206の形成面側に、第2接着剤207を介して、例えば厚さ0.2mm程度の第3板材208を接着する。
【0041】
第2接着剤207としては、例えば紫外線硬化型接着剤を用いることが考えられる。紫外線硬化型接着剤を用いる場合には、スピンコートによって第1板材201の面上への塗布を行えばよい。ただし、必ずしも紫外線硬化型接着剤に限定されることはなく、熱硬化型接着剤を用いてもよい。さらには、粘着剤または粘着シートを用いることも可能である。
また、第3板材208は、耐熱温度100℃以上の基材が好ましく、具体的にはポリイミドを例示できるが、その他にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエーテルサルフォン、ポリオレフィン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリアセタール、ポリメチルペンテン、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、液晶プラスチック、ポリベンゾイミダゾール、熱硬化性ポリブタジエン等からなる基板、またはこれらの材料からなるポリマーアロイ、ファイバー強化された単体材料基板、シリカ等のフィラーで強化された単体材料基板、または同一材料の積層基板、またはこれらのうち少なくとも一つを含む積層基板でもよく、ステンレス、アルミニウム等の金属板、またはアルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)、シリコンカーバイド(SiC)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)等を成分とするセラミックス板の単体材料基板、またはこれらのうち少なくとも一つを含む積層基板を用いることが考えられる。特に、第3板材208としては、金属板またはセラミックス板の単体材料基板、または同一材料の積層基板、またはこれらのうち少なくとも一つを含む積層基板が好ましい。このような積層基板は、接着剤による接着または熱融着のうち少なくとも一方により製造することができる。さらに、第3板材208は、反射型液晶表示装置におけるTFT基板、有機EL表示装置におけるTFT/発光層基板等のように、偏光特性が問題とならない場合には、ポリマー基板製造時に、一般に広く知られている2軸延伸法によって、例えば室温から100℃〜120℃までの低温領域における線膨張係数を見掛け上低減した基板を用いることもできる。なお、2軸延伸法が既に実用化されている材料としては、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンナフレートを挙げることができる。
【0042】
第2接着剤207を介して第3板材208を接着した後は、続いて、図5(b)に示すように、第1板材201から第1接着剤203および第2板材204を除去する。この除去は、第1接着剤203および第2板材204の材質等に応じて適宜選択した手法を用いて行えばよく、具体的には第1接着剤203をアルコールやアセトン等の溶剤に浸漬して溶解または接着力を低下させるといったように、加熱、冷却、光照射または薬液浸漬のうち少なくとも一つにより第1接着剤203を溶解除去したり、その接着強度を低下させたりすることで行えばよい。
このようにして第1接着剤203および第2板材204を除去しても、第1板材201に第2接着剤207を介して第3板材208を接着した後であれば、第1板材201がばらばらにならないという利点が得られる。
【0043】
そして、第2接着剤207を介して第3板材208を接着したら、次いで、薄膜層202、第1板材201、第2接着剤207および第3板材208からなる積層体に対して、第1板材201を分断しているスクライブ溝206の形成箇所またはその外方の位置、すなわち薄膜層202の外周端縁よりも外方に位置するスクライブ溝206の形成位置または当該スクライブ溝206よりもさらに外方の位置で、炭酸ガスレーザ出力やYAGレーザ出力等によるレーザ切断を行う。ただし、必ずしもレーザ切断である必要はなく、ダイアモンド刃等を用いて機械的に切断しても構わない。
【0044】
この切断により、図5(c)に示すような構成の薄膜デバイスが得られるのである。なお、この薄膜デバイスでは、上述したように薄膜層202、第1板材201、第2接着剤207および第3板材208からなる積層体の端縁をレーザ切断または機械的切断によって形成しているため、その切断をスクライブ溝206より外方の位置で行うと、その切断により第1板材201の切断端縁周辺にマイクロクラックが生じる可能性がある。しかしながら、第1板材201は、スクライブ溝206によって分断されている。そのため、マイクロクラックが生じた場合であっても、そのマイクロクラックが第1板材201における薄膜層202の搭載領域まで延伸してしまうことはない。つまり、第1板材201の切断端縁に生じたマイクロクラックが薄膜層202に対して破損等の悪影響を及ぼすのを防止できる。
【0045】
以上のような手順で各工程を行う製造方法、およびその製造方法を経て得られる薄膜デバイスによれば、等方性エッチングを利用してスクライブ溝206の形成部分で第1板材201を分断するとともに、そのスクライブ溝206の形成箇所またはその外方の位置で第1板材201を含む積層体を切断して、これにより薄膜デバイスを得ることになるので、その切断箇所にマイクロクラックが存在しても、そのマイクロクラックが薄膜層202に悪影響を及ぼすことがなく、薄膜デバイスの機械的または熱的な強度がそのマイクロクラックに起因して低下してしまうのを回避し得る。したがって、薄膜デバイスとしての信頼性を高く維持しつつ、液晶表示装置や有機EL表示装置等を構成した場合の薄型化および軽量化の要請にも十分に応えることが可能となるのである。
【0046】
しかも、第3実施形態においては、少なくともスクライブ溝206の形成箇所よりも外方の位置で第1板材201を含む積層体を切断すれば、第1板材201の切断端縁に生じたマイクロクラックが薄膜層202に対して悪影響を及ぼすのを防止できるので、その切断箇所についての自由度や汎用性等を十分に確保することができるという利点も得られる。
【0047】
なお、第3実施形態においても、ガラス基板の基となる第1板材201が研磨処理を経て得たものである場合、すなわちスクライブ溝206を形成する工程に先立って第1板材201を薄板化するための研磨処理を行う場合には、使用する第1板材201の厚さに依らずにガラス基板の薄板化が容易になるとともに、スクライブ溝206の形成後に行う等方性エッチングの処理時間を短縮することができ、さらには当該等方性エッチングの後におけるスクライブ溝206の幅の拡がりを極力抑制することができ、製造効率の向上を図る上で非常に好適なものとなる。
【0048】
また、第3実施形態では、ガラス基板の厚さが50μmと非常に薄いため、そのガラス基板の基となる第1板材201に対して第3板材208を貼り付けて補強しているが、薄膜デバイスとしての用途によっては、第3板材208を貼らないでガラス基板のみの薄膜デバイスとして使用することももちろん可能である。
【0049】
〔第4の実施の形態〕
図6〜8は、本発明に係る薄膜デバイスの製造方法の第4実施形態の概要を示す説明図である。
【0050】
第4実施形態では、先ず、対向する2枚の基板の間に薄膜層が封止されてなるセル構造体を形成する。具体的には、図6(a)に示すように、例えば液晶表示装置を構成する場合であれば、そのTFT駆動基板となる厚さ0.7mmのガラス板材(以下、単に「第1板材」という)301に、薄膜層302および外部との接続電極303を形成するとともに、液晶シール304のパターンを印刷またはディスペンスにより描画し、対向基板となる厚さ0.7mmのガラス板材(以下、単に「第2板材」という)305を貼り合わせてガラスセル構造体とした後、加熱や紫外線硬化等により液晶シール304を硬化させる。さらには、貼り合せた2枚の第1板材301および第2板材305の最外周端の近傍部分に、弗化水素酸溶液306に対する耐性を有する外周シール307を形成し、その外周シール307を紫外線照射や加熱等により硬化させる。
【0051】
そして、このようなガラスセル構造体に対して、濃度20%の弗化水素酸溶液306でエッチングを行う。このエッチングは、第1板材301および第2板材305の厚さがそれぞれ0.2mmとなるまで行う。すなわち、第1板材301および第2板材305を薄板化するために行う。なお、第1板材301および第2板材305における面内を均一にエッチングするためには、空気または窒素で弗化水素酸溶液306をバブリングすることが有効である。ただし、エッチング等の化学的研磨ではなく、機械的研磨処理によって第1板材301および第2板材305を薄板化してもよいことは勿論である。
【0052】
その後は、ガラスセル構造体を弗化水素酸溶液306から取り出して水洗し乾燥させてから、図6(b)に示すように、第1板材301および第2板材305におけるそれぞれの外面側(ガラスセル構造体を構成した場合の外面側)に、スクライブ溝308を形成する。スクライブ溝308の形成は、炭酸ガスレーザのパルス出力(波長9.4μmまたは10.6μm)またはQスイッチYAGレーザの第3高調波出力(波長355nm)等を、第1板材301および第2板材305におけるそれぞれの外面側に対して、平面的に見た場合に所定パターン(有効薄膜領域を囲う方形状や接続電極303の形成位置を露出させるための形状等)で照射することによって行う。このとき、スクライブ溝308の形成深さは、TFT駆動基板および対向基板それぞれの所望厚さよりも、後述する許容割断厚さの分だけ浅く、具体的にはTFT駆動基板および対向基板の所望厚さが50μm程度であれば40μm程度の深さとする。なお、スクライブ溝308は、ダイアモンド刃等を用いて機械的に形成してもよい。
【0053】
スクライブ溝308の形成後は、図6(b)および図7(a)に示すように、ガラスセル構造体の外面側に等方性エッチングを行う。この等方性エッチングは、第1実施形態または第2実施形態で説明したように弗化水素酸溶液をその表面張力を利用して盛り付けて行ってもよいが、ガラスセル構造体に外周シール307が形成されていることから、第3実施形態の場合と同様に、そのガラスセル構造体を濃度20%の弗化水素酸溶液306に浸すことで行い、溶液塗布作業の簡略化やエッチングレート維持の容易化等を図るようにしてもよい。
【0054】
等方性エッチングは、第1板材301および第2板材305の厚さがTFT駆動基板および対向基板の所望厚さ(例えば、50μm)となり、かつ、第1板材301および第2板材305のそれぞれにおけるスクライブ溝308の残厚さが予め設定された許容割断厚さとなるまで行う。
【0055】
「許容割断厚さ」とは、第1板材301または第2板材305について機械的割断を行っても、その割断箇所にマイクロクラックが発生しない程度まで、その第1板材301または第2板材305を薄くした厚さのことをいう。具体的には、第1板材301または第2板材305の板厚(スクライブ溝308以外の部分の厚さ)の2〜3割程度の厚さであることが、実験等の結果から分かっている。したがって、第1板材301および第2板材305の厚さが50μmであれば、許容割断厚さは例えば10μm程度となる。
【0056】
その後は、ガラスセル構造体を弗化水素酸溶液306の中から取り出して水洗し乾燥させてから、図7(b)に示すように、第1板材301および第2板材におけるスクライブ溝308の部分に対する割断処理を行う。割断処理は、ダイアモンド刃等を用いて機械的に行えばよい。また、レーザ照射等を利用して行ってもよい。
【0057】
この割断処理により、図8(a),(b)に示すような構成のガラスセル構造体が得られるのである。なお、図例において、303は外部との接続電極、309は接続電極303とTFT駆動基板上のTFT回路を結ぶ配線パターンを示している。
【0058】
以上のような手順で各工程を行う製造方法、およびその製造方法を経て得られる薄膜デバイスによれば、スクライブ溝308を形成するとともに、そのスクライブ溝308の形成箇所が許容割断厚さとなるまで等方性エッチングを行い、その後にスクライブ溝308の形成箇所に対して割断処理を行い、これにより薄膜デバイスを得ることになるので、機械的な割断処理を行っても、その割断箇所にマイクロクラックが発生するのを抑制できる。つまり、マイクロクラックが薄膜層302に悪影響を及ぼすことがなく、薄膜デバイスの機械的または熱的な強度がそのマイクロクラックに起因して低下してしまうのを回避し得る。したがって、薄膜デバイスとしての信頼性を高く維持しつつ、液晶表示装置や有機EL表示装置等を構成した場合の薄型化および軽量化の要請にも十分に応えることが可能となるのである。
【0059】
しかも、第4実施形態においては、スクライブ溝308の形成箇所が許容割断厚さとなるまで等方性エッチングを行い、その後ガラスセル構造体を弗化水素酸溶液306の中から取り出してスクライブ溝308の形成箇所に対する割断処理を行うので、その割断時に弗化水素酸溶液306がガラスセル構造体における薄膜層302に悪影響を及ぼすのを防止することができる。したがって、割断箇所についての自由度や汎用性等を十分に確保しつつ、その場合であっても弗化水素酸溶液306に対する封止等が考慮せずに済み、結果として割断処理の容易化が図れることになる。
【0060】
なお、第4実施形態においても、TFT駆動基板となる第1板材301および対向基板となる第2板材305のそれぞれに対し、スクライブ溝308を形成する工程に先立ってこれらを薄板化するための研磨処理を行っているので、使用する第1板材301および第2板材305の厚さに依らずにTFT駆動基板および対向基板の薄板化が容易になるとともに、スクライブ溝308の形成後に行う等方性エッチングの処理時間を短縮することができ、さらには当該等方性エッチングの後におけるスクライブ溝308の幅の拡がりを極力抑制することができ、製造効率の向上を図る上で非常に好適なものとなる。
【0061】
〔第5の実施の形態〕
上述した第1〜第4実施形態は、例えば液晶表示装置に適用することが考えられる。液晶表示装置への適用は、第1〜第4実施形態で説明した内容のいずれであってもよいが、ここでは第3実施形態で説明した基板分断を適用して構成した液晶表示装置を例に挙げて説明する。
【0062】
図9は、本発明が適用された液晶表示装置の一具体例を示す断面図である。図例の液晶表示装置は、第3実施形態を適用して形成されたTFT基板を用いて製造される、プラスチック基板透過型液晶表示装置で、カラーフィルタがTFT基板側に形成されている、いわゆるオンチップ・カラーフィルター構造を採用したものである。詳しくは、プラスチック基板401上に、紫外線硬化型接着剤層402、ガラス残留層403、TFT404、カラーフィルタ層405、外周回路および配線406、パッシベーション層407、画素電極408、ポリイミド配向膜409、液晶層410、柱状スペーサ411、ポリイミド配向膜412、液晶シール413、ITO414、ブラック415、水蒸気バリア層416およびプラスチック基板417が、順に積層されて構成されている。このうち、ガラス残留層403には、スクライブ溝418が形成されており、そのスクライブ溝418の形成箇所よりも外方の位置で、ガラス残留層403を含む積層構造体が切断されている。
【0063】
図10は、本発明が適用された液晶表示装置の他の具体例を示す断面図である。図例の液晶表示装置は、第3実施形態を適用して形成されたTFT基板を用いて製造される、プラスチック基板反射型液晶表示装置で、カラーフィルタが対向基板側に形成されている構造のものである。詳しくは、プラスチック基板501上に、紫外線硬化型接着剤層502、ガラス残留層503、TFT504、光散乱層505、外周回路および配線506、画素電極507、ポリイミド配向膜508、パッシベーション層509、液晶層510、柱状スペーサ511、ポリイミド配向膜512、液晶シール513、ITO514、オーバーコート膜515、カラーフィルタ層516、ブラック517、水蒸気バリア層518およびプラスチック基板519が、順に積層されて構成されている。このうち、ガラス残留層503にはスクライブ溝520が形成されており、そのスクライブ溝520の形成箇所よりも外方の位置で、ガラス残留層503を含む積層構造体が切断されている。
【0064】
以上のように、図9または図10に示した液晶表示装置は、いずれも、等方性エッチングを利用してスクライブ溝418,520の形成部分でガラス残留層403,503を分断するとともに、そのスクライブ溝418,520の形成箇所よりも外方の位置でガラス残留層403,503を含む積層体を切断して、これにより液晶表示装置を得ることになるので、その切断箇所にマイクロクラックが存在しても、そのマイクロクラックがTFT404,504や液晶層410,510等の直下部分におけるガラス残留層403,503に悪影響を及ぼすことがない。したがって、液晶表示装置としての信頼性を高く維持しつつ、薄型化および軽量化の要請にも十分に応えることが可能となるのである。
【0065】
〔第6の実施の形態〕
上述した第5実施形態では、本発明を液晶表示装置に適用した場合を例に挙げたが、これと同様に、本発明は有機EL表示装置にも適用することが考えられる。有機EL表示装置への適用は、第1〜第4実施形態で説明した内容のいずれであってもよいが、ここでは第3実施形態で説明した基板分断を適用して構成した液晶表示装置を例に挙げて説明する。
【0066】
図11は、本発明が適用された有機EL表示装置の一具体例を示す断面図である。図例では、図示を容易にするため、1個の画素とこれを駆動する1個の薄膜トランジスタTFTのみを表しているが、画素はマトリクス状に配されており画面を構成しているものとする。
【0067】
各画素は、有機EL発光素子(Organic Light Emitting Diode;以下「OLED」と略す)からなり、透明電極601、有機EL層602および金属電極603を順に重ねたものである。透明電極601は画素毎に分離しておりOLEDのアノードAとして機能し、例えばITOなどの透明導電膜からなる。金属電極603は画素間で共通接続されており、OLEDのカソードKとして機能する。有機EL層602は例えば正孔輸送層と電子輸送層とを重ねた複合膜となっている。
【0068】
一方、TFTは、ガラス基板611の上に形成されたゲート電極612と、その上に重ねられたゲート絶縁膜613と、このゲート絶縁膜613を介してゲート電極612の上方に重ねられた多結晶シリコン薄膜614とからなる。さらに、TFTは、OLEDに供給する電流の通路となるソースS、チャネルCh及びドレインDを備えている。チャネルChはちょうどゲート電極612の直上に位置する。このボトムゲート構造のTFTは、層間絶縁膜615により被覆されており、その上にはソース電極616およびドレイン電極617が形成されている。これらの上には、別の層間絶縁膜618を介して、上述したOLEDが成膜されている。層間絶縁膜618にはコンタクトホールが開口しており、OLEDの透明電極601はこのコンタクトホールを介してTFTのドレイン電極617に電気接続している。
【0069】
有機EL表示装置では、このような構成のOLEDおよびTFTを、厚さ0.7mmのガラス基板611上に作製した後、上述した第3実施形態の場合と同様の手順で、そのガラス基板611を50μm厚まで薄くし、接着剤621により厚さ100μmのプラスチック基板622に貼り付けた構造としている。すなわち、ガラス基板611にはスクライブ溝623が形成されており、そのスクライブ溝623の形成箇所よりも外方の位置で、ガラス基板611を含む積層構造体が切断されているのである。
【0070】
以上のように、図11に示した有機EL表示装置は、いずれも、等方性エッチングを利用してスクライブ溝623の形成部分でガラス基板611を分断するとともに、そのスクライブ溝623の形成箇所よりも外方の位置でガラス基板611を含む積層体を切断して、これにより有機EL表示装置を得ることになるので、その切断箇所にマイクロクラックが存在しても、そのマイクロクラックがOLEDやTFT等の直下部分におけるガラス基板611に悪影響を及ぼすことがない。したがって、有機EL表示装置としての信頼性を高く維持しつつ、薄型化および軽量化の要請にも十分に応えることが可能となるのである。
【0071】
なお、上述した第1〜第6実施形態では、それぞれ本発明の好適な実施具体例を説明したが、本発明はその内容に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、各実施形態では、「基板」としてガラス基板を例に挙げたが、薄膜デバイスを構成し得るものであれば、他のもの(例えばガラス層を有した積層構造基板)であっても構わない。また、各実施形態では、「薄膜デバイス」として、液晶表示装置や有機EL表示装置等を例に挙げたが、これらに限定されないことは勿論である。
【0072】
また、第1〜第6実施形態では、いずれも、スクライブ溝102,206,308,418,520,623の形成面側に行う「エッチング」が、方向性のない非晶質であるエッチング対象に対して水溶液を用いて行うウエット・エッチング、すなわち方向によらず等速度で均一に行われる等方性エッチングである場合を例に挙げて説明している。等方性エッチングであれば、スクライブ溝102,206,308,418,520,623の側壁部分も等方的なエッチングを受けるため、例えば当該スクライブ溝102,206,308,418,520,623の深さよりもエッチングで除去される厚さの方が薄い場合であっても、確実にマイクロクラックを除去することができ、ガラス基板の薄板化への対応が容易かつ適切に、しかも効率よく行えるという利点が得られるからである。
ただし、この「エッチング」は、必ずしも第1〜第6実施形態で説明したような等方性エッチングに限定されることはなく、等方性を有さない非等方的な異方性エッチングであってもよい。エッチングが非等方的な異方性のものであっても、例えば図12に示すように、そのエッチングをスクライブ溝の形成面側に対して行えば、そのエッチングにより、スクライブ溝周辺のマイクロクラック領域を含む板材表面近傍部分は、その板材の元の厚さと所望厚さとの差分だけ削られて除去されるので、結果としてスクライブ溝周辺に生じているマイクロクラックも除去されるからである。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明に係る薄膜デバイスの製造方法の第1実施形態の概要を示す説明図である。
【図2】本発明に係る薄膜デバイスの製造方法の第2実施形態の概要を示す説明図である。
【図3】本発明に係る薄膜デバイスの製造方法の第3実施形態の概要を示す説明図(その1)である。
【図4】本発明に係る薄膜デバイスの製造方法の第3実施形態の概要を示す説明図(その2)である。
【図5】本発明に係る薄膜デバイスの製造方法の第3実施形態の概要を示す説明図(その3)である。
【図6】本発明に係る薄膜デバイスの製造方法の第4実施形態の概要を示す説明図(その1)である。
【図7】本発明に係る薄膜デバイスの製造方法の第4実施形態の概要を示す説明図(その2)である。
【図8】本発明に係る薄膜デバイスの製造方法の第4実施形態の概要を示す説明図(その3)である。
【図9】本発明が適用された液晶表示装置の一具体例を示す断面図である。
【図10】本発明が適用された液晶表示装置の他の具体例を示す断面図である。
【図11】本発明が適用された有機EL表示装置の一具体例を示す断面図である。
【図12】エッチングによるマイクロクラック除去の一具体例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0074】
101…板材、102…スクライブ溝、103…弗化水素酸溶液、104…薄膜層、105…ワックス、201…第1板材、202…薄膜層、203…第1接着剤、204…第2板材、205…弗化水素酸溶液、206…スクライブ溝、207…第2接着剤、208…第3板材、301…第1板材、302…薄膜層、303…接続電極、304…液晶シール、305…第2板材、306…弗化水素酸溶液、307…外周シール、308…スクライブ溝、401…プラスチック基板、402…紫外線硬化型接着剤層、403…ガラス残留層、404…TFT、405…カラーフィルタ層、406…外周回路および配線、407…パッシベーション層、408…画素電極、409…ポリイミド配向膜、410…液晶層、411…柱状スペーサ、412…ポリイミド配向膜、413…液晶シール、414…ITO、415…ブラック、416…水蒸気バリア層、417…プラスチック基板、418…スクライブ溝、501…プラスチック基板、502…紫外線硬化型接着剤層、503…ガラス残留層、504…TFT、505…光散乱層、506…外周回路および配線、507…画素電極、508…ポリイミド配向膜、509…パッシベーション層、510…液晶層、511…柱状スペーサ、512…ポリイミド配向膜、513…液晶シール、514…ITO、515…オーバーコート膜、516…カラーフィルタ層、517…ブラック、518…水蒸気バリア層、519…プラスチック基板、520…スクライブ溝、601…透明電極、602…有機EL層、603…金属電極、611…ガラス基板、612…ゲート電極、613…ゲート絶縁膜、614…多結晶シリコン薄膜、615…層間絶縁膜、616…ソース電極、617…ドレイン電極、618…層間絶縁膜、621…接着剤、622…プラスチック基板、623…スクライブ溝、S…ソース、Ch…チャネル、D…ドレイン
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば液晶表示装置や有機EL表示装置を構成するもののように、基板(デバイス支持層)上に薄膜層が形成されてなる薄膜デバイスの製造方法および薄膜デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話や携帯情報端末(PDA)等における表示ディスプレイとして、液晶表示装置や有機EL表示装置等が広く用いられている。液晶表示装置や有機EL表示装置等は、一般に、ガラス基板(デバイス支持板)上に薄膜層が形成されてなる薄膜デバイスを具備して構成される。そのため、薄膜デバイスを用いて液晶表示装置や有機EL表示装置等を構成する場合には、その製造過程において、ガラス基板となる板材を、そのガラス基板となる大きさ(液晶表示装置または有機EL表示装置の表示パネルとなる大きさ)のパネル状に切り出す工程が不可避である。
【0003】
ガラス基板の切り出しは、例えば、ガラス基板に機械的にスクライブ溝を刻んで、その後にスクライブ溝の部分を機械的または熱的応力によって割断分離する、いわゆるスクライブ・ブレーク法を用いて行うことが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、このスクライブ・ブレーク法においては、スクライブライン形成時に生じたガラスのひび割れを、エッチング等のケミカル処理を行って除去することも提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
さらには、例えば、ガラス面内の一部に機械的にスクライブ溝を刻んで、炭酸ガスレーザ等からのパワービームを走査し、スクライブ溝の一部を含むように照射スポットを維持、走査することで、ガラス面内に刻んだスクライブ溝を所望のパターンで延伸し、これによりガラス基板を割断する方法も提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
【特許文献1】特許第3577492号公報
【特許文献2】特開2003−316280号公報
【特許文献3】特表2003−514673号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、液晶表示装置や有機EL表示装置等を構成する薄膜デバイスに対しては、薄型化および軽量化の要請が高まっている。そのため、薄膜デバイスにおけるガラス基板については、その薄型化が進行しており、具体的にはその厚さが0.2mm以下のものも用いられつつある。
【0006】
しかしながら、ガラス基板の薄型化が進行すると、従来の方法でそのガラス基板の割断を行った場合に、以下に述べるような問題が生じるおそれがある。
例えば、スクライブ溝を刻んだ後にそのスクライブ溝の部分を機械的または熱的応力によって割断分離すると、スクライブ溝の形成時に生じたひび割れをケミカル処理によって除去した場合であっても、その後に行うガラス割断の際に意図せぬ割れが多発してしまう可能性がある。
また、ガラス面内の一部に機械的に刻んだスクライブ溝を炭酸ガスレーザ等からのパワービームを走査して延伸することにより割断する方法は、ガラス板の厚さが例えば0.1〜0.2mm以下の場合、スクライブ溝の延伸時に炭酸ガスレーザの走査方向とは異なる、意図せぬ方向に溝が走ってしまう、すなわち、ガラス板が割れてしまうことが多くなり、実用上の問題が残されている。
【0007】
そこで、本発明は、基板薄型化が進行しても、基板分断の際に意図せぬ割れが発生したり、分断後の強度低下が著しくなってしまうのを抑制することのできる薄膜デバイスの製造方法および薄膜デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために案出された薄膜デバイスの製造方法である。すなわち、基板上に薄膜層が形成されてなる薄膜デバイスの製造方法であって、前記基板となる板材で当該基板の所望厚さよりも大きな厚さを有するものに対して、前記所望厚さよりも深いスクライブ溝を形成する工程と、前記板材の前記スクライブ溝の形成面側に当該板材の厚さが前記所望厚さとなるまでエッチングを行う工程とを含むことを特徴とする。
【0009】
上記手順の薄膜デバイスの製造方法では、先ず、基板となる板材にスクライブ溝を形成する。「基板」は、代表的なものとしてガラス基板が挙げられるが、その他にも、例えばガラス層を有した積層構造基板のように、薄膜デバイスを構成し得るものの全てを含む。「板材」は、基板の形成材料となるものである。また、「スクライブ溝」は、板材を分断するために形成する加工溝であり、例えばレーザビームを照射してその照射スポット内の部分を蒸発、噴出あるいは流出させることで形成したり、ダイアモンド刃等を用いて機械的に傷(スクラッチ)を入れて形成することが考えられる。ただし、スクライブ溝は、基板の所望厚さ、すなわち薄膜デバイス構成時における基板厚よりも深く形成する。当該基板の所望厚さよりも板材が大きな厚さを有しているので、スクライブ溝を基板の所望厚さより深く形成可能である。
そして、スクライブ溝の形成後は、次いで、板材のスクライブ溝形成面側にエッチングを行う。「エッチング」は、板材表面に対する化学的または電気化学的な除去処理であり、その代表的なものとしては、例えば板材がガラス基板を構成するものであれば弗化水素酸を含む溶液を用いて行うエッチングのように、方向によらず等速度で均一に行われる等方性エッチングが挙げられる。ただし、ここでいう「エッチング」には、等方性を有さない非等方的な異方性エッチングも含まれる。このエッチング(等方性エッチングまたは異方性エッチング)は、板材の厚さが基板の所望厚さとなるまで行う。したがって、エッチングが進行して板材が均一に薄くなっても、見かけ上におけるスクライブ溝の深さは変わらないため、スクライブ溝が基板の所望厚さよりも深く形成されていれば、板材の厚さが基板の所望厚さになったときには、その板材がスクライブ溝の形成箇所の部分で分断されることになる。
また、この間、エッチングが等方性を有する場合であれば、スクライブ溝の側壁部分も等方的なエッチングを受けるため、そのスクライブ溝の形成時に側壁周辺にマイクロクラックが生じていても、そのマイクロクラックを含む領域がエッチング除去され消失することになる。一方、エッチングが非等方的な異方性のものであっても、そのエッチングにより、スクライブ溝周辺のマイクロクラック領域を含む板材表面近傍部分は、その板材の元の厚さと所望厚さとの差分だけ削られて除去されることになる。つまり、いずれの場合であっても、板材の分断後は、その分断箇所にマイクロクラックが存在することなく、そのマイクロクラックに起因する機械的または熱的な強度低下を招いてしまうこともない。
【発明の効果】
【0010】
本発明の薄膜デバイスの製造方法、およびその製造方法を経て得られる薄膜デバイス、すなわち本発明の薄膜デバイスによれば、エッチングを利用してスクライブ溝の形成部分で板材を分断して基板を構成することになるので、その分断箇所にマイクロクラックが存在することなく、そのマイクロクラックに起因する機械的または熱的な強度低下を招いてしまうこともない。つまり、基板薄型化が進行しても、基板分断の際に意図せぬ割れが発生したり、分断後の強度低下が著しくなってしまうのを抑制できる。したがって、薄膜デバイスとしての信頼性を高く維持しつつ、液晶表示装置や有機EL表示装置等を構成した場合の薄型化および軽量化の要請にも十分に応えることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面に基づき本発明に係る薄膜デバイスの製造方法および薄膜デバイスについて説明する。
【0012】
ここで説明する薄膜デバイスは、液晶表示装置または有機EL表示装置を構成するためのもので、ガラス基板上にTFTからなる駆動回路層や発光層等に代表される薄膜層が形成されてなるものである。ただし、同様の構成を有するものであれば、液晶表示装置または有機EL表示装置を構成するもの以外にも適用可能であることは勿論である。
【0013】
一般に、薄膜デバイスを用いて液晶表示装置や有機EL表示装置等を構成する場合には、その製造効率向上を図るべく、ガラス基板の形成材料である一つの板材から複数のデバイスを得る、いわゆる多面取りが行われる。そのため、液晶表示装置や有機EL表示装置等を構成する薄膜デバイスの製造過程においては、ガラス基板となる板材を、そのガラス基板となる大きさ(液晶表示装置または有機EL表示装置の表示パネルとなる大きさ)、さらに具体的にはガラス基板上に形成される薄膜層の形成領域に対応した大きさのパネル状に切り出す工程が不可避である。ここで、「薄膜層の形成領域」とは、薄膜デバイスの表示領域(=画素領域)と外周駆動回路領域とを合わせた領域を意味している。以下、この領域のことを「有効薄膜領域」というものとする。
【0014】
ただし、薄膜デバイスにおけるガラス基板については、その厚さが0.2mm以下であるという薄型化が進行している。このことから、ここで説明する薄膜デバイスでは、以下に述べるような手順を経て、ガラス基板の切り出しが行われる。
【0015】
〔第1の実施の形態〕
図1は、本発明に係る薄膜デバイスの製造方法の第1実施形態の概要を示す説明図である。図例は、薄膜層の形成に先立ってガラス基板の切り出しを行う場合に適用して好適な実施形態を示している。
【0016】
図1(a)に示すように、ガラス基板の切り出しにあたっては、そのガラス基板となる板材で、そのガラス基板の所望厚さよりも大きな厚さを有するものを用いる。例えば、ガラス基板の所望厚さが0.2mm以下、さらに具体的には50μm程度であれば、板厚が0.3mm程度のガラスからなる板材101を用いる。
【0017】
このとき、板材101は、薄板化するための研磨処理を経て得たものであってもよい。すなわち、0.3mmを超える厚さのものに対して研磨処理を行い、これにより0.3mm程度の厚さを得るようにしてもよい。研磨処理は、機械的研磨であっても、あるいはエッチング等の化学的研磨であってもよいが、公知技術を利用して行えばよいため、ここではその詳細な説明を省略する。
【0018】
そして、板材101の面上に対しては、板材101を分断するための加工溝であるスクライブ溝102を形成する。スクライブ溝102は、ガラス基板の所望厚さよりも深く形成する。例えば、ガラス基板の所望厚さが50μm程度であれば、スクライブ溝102を60μm程度の深さで形成する。
【0019】
スクライブ溝102の形成は、炭酸ガス(CO2)レーザ、YAGレーザ、YLFレーザ、YVO4等の固体レーザの基本波出力、第3高調波出力若しくは第4高調波出力、またはエキシマレーザ出力のパワービームを照射して、その照射スポット内の部分のガラス材を蒸発、噴出あるいは流出させることで行うことが考えられる。このとき、レーザの発振波長が短ければ、集光スポットの面積が小さくなるため、スクライブ溝102の形成幅を狭くすることができる。また、レーザの発振モード(空間モード)がTEM00モードならば、ビームの集光性が良くなる。また、連続発振(CW)レーザよりは、パルスレーザのほうが、スクライブ溝102の形成に適している。ただし、スクライブ溝102の形成は、必ずしもレーザ照射によって行う必要はなく、ダイアモンド刃等を用いて機械的にスクラッチを入れて形成するようにしてもよい。
【0020】
スクライブ溝102の形成位置は、板材101上に形成すべき薄膜層(ただし不図示)の位置、すなわち有効薄膜領域となる領域に対応しているものとする。具体的には、図1(b)に示すように、有効薄膜領域となる領域を囲うように方形状に形成する、といったことが考えられる。なお、スクライブ溝102を形成した時点では、そのスクライブ溝102の側壁周辺にマイクロクラックが生じていても構わない。
【0021】
スクライブ溝102の形成後は、次いで、板材101におけるスクライブ溝102の形成面側に、等方性エッチングを行う。等方性エッチングは、方向によらず等速度で均一に行われるエッチングであり、例えばガラス材に対するものであれば、弗化水素酸を含む溶液を用いて行うエッチングがこれに相当する。図1(a)に示す例では、板材101におけるスクライブ溝102の形成面上に、濃度20%の弗化水素酸溶液103を、表面張力を利用して盛り付けている場合を示している。このようにすれば、エッチングが不要な箇所(例えば、スクライブ溝102の非形成面)に弗化水素酸溶液103が悪影響を及ぼすのを抑制することができる。ただし、弗化水素酸溶液中に板材101を浸すことで、等方性エッチングを行うようにしてもよいことは勿論である。
【0022】
このような等方性エッチングは、板材101の厚さがガラス基板の所望厚さとなるまで行う。上述したように、表面張力を利用して弗化水素酸溶液103を板材101上に盛り付けている場合には、エッチングの進行に伴い、弗化水素酸溶液103を適時新たなものと交換し、エッチング速度(レート)を維持するものとする。
【0023】
その後、図1(c),(d)に示すようにエッチングが進行すると、当該エッチングが等方性エッチングであることから、板材101が均一に薄くなるのに伴い、スクライブ溝102の部分も掘り進められる。つまり、見かけ上におけるスクライブ溝102の深さは、エッチング前と変わらない。
【0024】
したがって、図1(e)に示すように、エッチングが進行し、板材101の厚さがガラス基板の所望厚さである50μm程度となったときには、スクライブ溝102の深さが60μm程度であることから、板材101がスクライブ溝102の形成箇所の部分で分断されることになる。
この分断後の板材101が、薄膜デバイスを構成するガラス基板となるのである。つまり、薄膜デバイスを構成するガラス基板は、機械的もしくは熱的応力による割断、またはレーザ等のパワービームを利用した割断によって切り出されるのではなく、スクライブ溝102および等方性エッチングを利用した分断によって切り出されるのである。
【0025】
また、板材101の分断に際しては、スクライブ溝102の側壁部分も等方的なエッチングを受ける。そのため、スクライブ溝102の形成時に、その側壁周辺にマイクロクラックが生じていた場合であっても、そのマイクロクラックを含む領域がエッチング除去され消失することになる。つまり、板材101の分断後は、その分断箇所にマイクロクラックが存在することなく、そのマイクロクラックに起因する機械的または熱的な強度低下を招いてしまうこともない。
【0026】
以上のような手順で各工程を行う製造方法、およびその製造方法を経て得られる薄膜デバイスによれば、等方性エッチングを利用してスクライブ溝102の形成部分で板材101を分断して、これにより薄膜デバイスを構成するガラス基板を得ることになるので、その分断箇所にマイクロクラックが存在することなく、そのマイクロクラックに起因する機械的または熱的な強度低下を招いてしまうこともない。つまり、ガラス基板の薄型化が進行しても、分断の際に意図せぬ割れが発生したり、分断後の強度低下が著しくなってしまうのを抑制できる。したがって、薄膜デバイスとしての信頼性を高く維持しつつ、液晶表示装置や有機EL表示装置等を構成した場合の薄型化および軽量化の要請にも十分に応えることが可能となるのである。
【0027】
また、ガラス基板の基となる板材101が研磨処理を経て得たものである場合、すなわちスクライブ溝102を形成する工程に先立って板材101を薄板化するための研磨処理を行う場合には、使用する板材101の厚さに依らずにガラス基板の薄板化が容易になるとともに、スクライブ溝102の形成後に行う等方性エッチングの処理時間を短縮することができ、さらには当該等方性エッチングの後におけるスクライブ溝102の幅の拡がりを極力抑制することができ、製造効率の向上を図る上で非常に好適なものとなる。
【0028】
〔第2の実施の形態〕
図2は、本発明に係る薄膜デバイスの製造方法の第2実施形態の概要を示す説明図である。図例は、薄膜層の形成後にガラス基板の切り出しを行う場合に適用して好適な実施形態を示している。
【0029】
図2(a)に示すように、第2実施形態では、板材101の片面に、薄膜層104が形成済みである点で、上述した第1実施形態の場合とは異なる。薄膜層104としては、液晶表示装置または有機EL表示装置を構成するためのTFTからなる駆動回路層や発光層等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、薄膜層104の形成については、公知技術を利用して行えばよいため、ここではその説明を省略する。
【0030】
薄膜層104は、その形成後、耐弗酸性のワックス105によって覆われているものとする。耐弗酸性のワックス105としては、例えば、融点200℃以下の熱可塑性接着剤が好ましく、エチレン−酢酸ビニル熱可塑性エラストマー、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−エチレン−ブチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、エチレン−塩化ビニル共重合体、酢酸塩アセテート樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、熱可塑性ポリブタジエン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリテトラフロロエチレン、エチレン-テトラフロロエチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS樹脂)、アイオノマー、AAS樹脂、ACS樹脂、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリオキシベンゾイル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、液晶ポリエステル、セルロース系プラスチック(酢酸セルロース、酢酪酸セルロース、エチルセルロース、セルロイドセロファン)、ポリオレフィン、ポリウレタン、若しくは以上の共重合体またはポリマーアロイ、あるいはパラフィン、コールタール、ロジン、天然ゴム、フッ素ゴム等を用いることが考えられる。このような耐弗酸性のワックス105は、板材101の片面(薄膜層104の形成面)側に、例えばバーコーターを利用して、1μm〜3000μm程度の厚さで均一に塗布すればよい。
【0031】
そして、板材101の他の片面、すなわち薄膜層104の形成面と反対側の面には、上述した第1実施形態の場合と同様に、深さ約60μmのスクライブ溝102が形成されている。したがって、スクライブ溝102の形成面側に、第1実施形態の場合と同様に等方性エッチングを行い、そのエッチングが図2(b),(c)に示すように進行し、図2(d)に示すように板材101の厚さがガラス基板の所望厚さである50μm程度となったときには、板材101がスクライブ溝102の形成箇所の部分で分断されることになる。
【0032】
このような手順により板材101を分断することで、第2実施形態においても、その分断箇所にマイクロクラックが存在することなく、そのマイクロクラックに起因する機械的または熱的な強度低下を招いてしまうこともない。つまり、ガラス基板の薄型化が進行しても、分断の際に意図せぬ割れが発生したり、分断後の強度低下が著しくなってしまうのを抑制できる。
しかも、第2実施形態では、薄膜層104の形成面側に耐弗酸性のワックス105を塗布しているので、等方性エッチングに用いる溶液103が薄膜層104の形成面側に侵入して当該薄膜層104に悪影響を及ぼすのを回避することができ、さらには等方性エッチングが進行して板材101が分断された後にも、その分断後の板材101(分断によって得られるガラス基板)がばらばらにならないという利点が得られる。
【0033】
〔第3の実施の形態〕
図3〜5は、本発明に係る薄膜デバイスの製造方法の第3実施形態の概要を示す説明図である。
【0034】
図3(a)に示すように、第3実施形態では、第1実施形態または第2実施形態で説明した板材101と同様の構成である第1板材201の片面に、第2実施形態の場合と同様の薄膜層202が形成されているとともに、その第1板材201の薄膜層202が形成された面側に、第1接着剤203を介して第2板材204が接着されており、これにより薄膜層202が封止されている。
【0035】
第1接着剤203としては、例えば第2実施形態で説明した耐弗酸性のワックス105と同様のものを用いることが考えられる。
また、第2板材204としては、好ましくは、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ステンレス、インコネル(例えば、インコネル625(組成はNi>58%、Cr20%〜23%、Fe<5%、Mo8%〜10%、Nb3.1%〜4.2%))等の耐酸性の金属板またはこれらの積層板、これらの耐酸性金属膜で被覆された金属板若しくはガラス板またはセラミックス板、またはこれらの積層板を用いることが考えられる。あるいは、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリオレフィン、ポリイミド等の樹脂板を用いてもよい。このような第2板材204の第1板材201への貼り合わせは、使用する第1接着剤203の特性に応じて行えばよい。例えば、第1接着剤203が熱可塑性接着剤(ホットメルト接着剤)であれば、加熱装置(例えばホットプレート)による加熱処理により行うことができる。
【0036】
なお、第1板材201については、薄板化するための研磨処理を経て得たものであってもよい。すなわち、例えば初期に0.7mm厚さであるものに対して、濃度20%の弗化水素酸溶液205でエッチングを行い、これにより0.3mm程度の厚さを得るようにしてもよい。このとき、面内を均一にエッチングするためには、空気または窒素で弗化水素酸溶液205をバブリングすることが有効である。ただし、エッチング等の化学的研磨ではなく、機械的研磨処理によって第1板材201を薄板化してもよいことは勿論である。
【0037】
その後は、図3(b)に示すように、第1板材201の他の片面、すなわち薄膜層202の形成面と反対側の面に、スクライブ溝206を形成する。例えば、エッチング等の化学的研磨によって第1板材201を薄板化した場合であれば、第1板材201、薄膜層202、第1接着剤203および第2板材204からなる積層体を弗化水素酸溶液205の中から取り出して水洗し乾燥させてから、薄膜層202の形成面と反対側の面に、炭酸ガスレーザのパルス出力(波長9.4μmまたは10.6μm)またはQスイッチYAGレーザの第3高調波出力(波長355nm)等を、平面的に見た場合の薄膜層202の外周端縁よりも外方の位置に所定のパターン(例えば、薄膜層202の形成位置を囲う方形状)で照射し、ガラス基板の所望厚さよりも深く、具体的にはガラス基板の所望厚さが50μm程度であれば60μm程度の深さで、スクライブ溝206を形成する。なお、スクライブ溝206は、ダイアモンド刃等を用いて機械的に形成してもよい。
【0038】
スクライブ溝206の形成後は、次いで、少なくとも第1板材201におけるスクライブ溝206の形成面側に、等方性エッチングを行う。この等方性エッチングは、第1実施形態または第2実施形態で説明したように弗化水素酸溶液をその表面張力を利用して盛り付けて行ってもよいが、薄膜層202が第1接着剤203および第2板材204によって封止されていることから、その積層体を濃度20%の弗化水素酸溶液205に浸すことで行い、溶液塗布作業の簡略化やエッチングレート維持の容易化等を図るようにしてもよい。このような等方性エッチングを、図4(a),(b)に示すように、第1板材201の厚さがガラス基板の所望厚さ(例えば、50μm)となるまで行う。
【0039】
これにより、第1板材201は、スクライブ溝206の形成箇所の部分で分断されることになる。ただし、第1板材201には第1接着剤203を介して第2板材204が貼り付けられているので、スクライブ溝206の形成箇所の部分で分断されても、その第1板材201が第2板材204に支持されて撓みを防止できる上、分断後に第1板材201がばらばらにならないという利点が得られる。このことは、特に、エッチング後の第1板材201の厚さ、すなわちガラス基板の所望厚さに比して、その第1板材201の面積が大きい場合に非常に有効である。
また、このとき、第1板材201では、スクライブ溝206の側壁部分も等方的なエッチングを受ける。そのため、スクライブ溝206の形成時に、その側壁周辺にマイクロクラックが生じていた場合であっても、そのマイクロクラックを含む領域がエッチング除去され消失することになる。
【0040】
このような等方性エッチングの後は、第1板材201、薄膜層202、第1接着剤203および第2板材204からなる積層体を弗化水素酸溶液205の中から取り出して水洗し乾燥させてから、図5(a)に示すように、その等方性エッチングを行ったスクライブ溝206の形成面側に、第2接着剤207を介して、例えば厚さ0.2mm程度の第3板材208を接着する。
【0041】
第2接着剤207としては、例えば紫外線硬化型接着剤を用いることが考えられる。紫外線硬化型接着剤を用いる場合には、スピンコートによって第1板材201の面上への塗布を行えばよい。ただし、必ずしも紫外線硬化型接着剤に限定されることはなく、熱硬化型接着剤を用いてもよい。さらには、粘着剤または粘着シートを用いることも可能である。
また、第3板材208は、耐熱温度100℃以上の基材が好ましく、具体的にはポリイミドを例示できるが、その他にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエーテルサルフォン、ポリオレフィン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリアセタール、ポリメチルペンテン、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、液晶プラスチック、ポリベンゾイミダゾール、熱硬化性ポリブタジエン等からなる基板、またはこれらの材料からなるポリマーアロイ、ファイバー強化された単体材料基板、シリカ等のフィラーで強化された単体材料基板、または同一材料の積層基板、またはこれらのうち少なくとも一つを含む積層基板でもよく、ステンレス、アルミニウム等の金属板、またはアルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)、シリコンカーバイド(SiC)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)等を成分とするセラミックス板の単体材料基板、またはこれらのうち少なくとも一つを含む積層基板を用いることが考えられる。特に、第3板材208としては、金属板またはセラミックス板の単体材料基板、または同一材料の積層基板、またはこれらのうち少なくとも一つを含む積層基板が好ましい。このような積層基板は、接着剤による接着または熱融着のうち少なくとも一方により製造することができる。さらに、第3板材208は、反射型液晶表示装置におけるTFT基板、有機EL表示装置におけるTFT/発光層基板等のように、偏光特性が問題とならない場合には、ポリマー基板製造時に、一般に広く知られている2軸延伸法によって、例えば室温から100℃〜120℃までの低温領域における線膨張係数を見掛け上低減した基板を用いることもできる。なお、2軸延伸法が既に実用化されている材料としては、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンナフレートを挙げることができる。
【0042】
第2接着剤207を介して第3板材208を接着した後は、続いて、図5(b)に示すように、第1板材201から第1接着剤203および第2板材204を除去する。この除去は、第1接着剤203および第2板材204の材質等に応じて適宜選択した手法を用いて行えばよく、具体的には第1接着剤203をアルコールやアセトン等の溶剤に浸漬して溶解または接着力を低下させるといったように、加熱、冷却、光照射または薬液浸漬のうち少なくとも一つにより第1接着剤203を溶解除去したり、その接着強度を低下させたりすることで行えばよい。
このようにして第1接着剤203および第2板材204を除去しても、第1板材201に第2接着剤207を介して第3板材208を接着した後であれば、第1板材201がばらばらにならないという利点が得られる。
【0043】
そして、第2接着剤207を介して第3板材208を接着したら、次いで、薄膜層202、第1板材201、第2接着剤207および第3板材208からなる積層体に対して、第1板材201を分断しているスクライブ溝206の形成箇所またはその外方の位置、すなわち薄膜層202の外周端縁よりも外方に位置するスクライブ溝206の形成位置または当該スクライブ溝206よりもさらに外方の位置で、炭酸ガスレーザ出力やYAGレーザ出力等によるレーザ切断を行う。ただし、必ずしもレーザ切断である必要はなく、ダイアモンド刃等を用いて機械的に切断しても構わない。
【0044】
この切断により、図5(c)に示すような構成の薄膜デバイスが得られるのである。なお、この薄膜デバイスでは、上述したように薄膜層202、第1板材201、第2接着剤207および第3板材208からなる積層体の端縁をレーザ切断または機械的切断によって形成しているため、その切断をスクライブ溝206より外方の位置で行うと、その切断により第1板材201の切断端縁周辺にマイクロクラックが生じる可能性がある。しかしながら、第1板材201は、スクライブ溝206によって分断されている。そのため、マイクロクラックが生じた場合であっても、そのマイクロクラックが第1板材201における薄膜層202の搭載領域まで延伸してしまうことはない。つまり、第1板材201の切断端縁に生じたマイクロクラックが薄膜層202に対して破損等の悪影響を及ぼすのを防止できる。
【0045】
以上のような手順で各工程を行う製造方法、およびその製造方法を経て得られる薄膜デバイスによれば、等方性エッチングを利用してスクライブ溝206の形成部分で第1板材201を分断するとともに、そのスクライブ溝206の形成箇所またはその外方の位置で第1板材201を含む積層体を切断して、これにより薄膜デバイスを得ることになるので、その切断箇所にマイクロクラックが存在しても、そのマイクロクラックが薄膜層202に悪影響を及ぼすことがなく、薄膜デバイスの機械的または熱的な強度がそのマイクロクラックに起因して低下してしまうのを回避し得る。したがって、薄膜デバイスとしての信頼性を高く維持しつつ、液晶表示装置や有機EL表示装置等を構成した場合の薄型化および軽量化の要請にも十分に応えることが可能となるのである。
【0046】
しかも、第3実施形態においては、少なくともスクライブ溝206の形成箇所よりも外方の位置で第1板材201を含む積層体を切断すれば、第1板材201の切断端縁に生じたマイクロクラックが薄膜層202に対して悪影響を及ぼすのを防止できるので、その切断箇所についての自由度や汎用性等を十分に確保することができるという利点も得られる。
【0047】
なお、第3実施形態においても、ガラス基板の基となる第1板材201が研磨処理を経て得たものである場合、すなわちスクライブ溝206を形成する工程に先立って第1板材201を薄板化するための研磨処理を行う場合には、使用する第1板材201の厚さに依らずにガラス基板の薄板化が容易になるとともに、スクライブ溝206の形成後に行う等方性エッチングの処理時間を短縮することができ、さらには当該等方性エッチングの後におけるスクライブ溝206の幅の拡がりを極力抑制することができ、製造効率の向上を図る上で非常に好適なものとなる。
【0048】
また、第3実施形態では、ガラス基板の厚さが50μmと非常に薄いため、そのガラス基板の基となる第1板材201に対して第3板材208を貼り付けて補強しているが、薄膜デバイスとしての用途によっては、第3板材208を貼らないでガラス基板のみの薄膜デバイスとして使用することももちろん可能である。
【0049】
〔第4の実施の形態〕
図6〜8は、本発明に係る薄膜デバイスの製造方法の第4実施形態の概要を示す説明図である。
【0050】
第4実施形態では、先ず、対向する2枚の基板の間に薄膜層が封止されてなるセル構造体を形成する。具体的には、図6(a)に示すように、例えば液晶表示装置を構成する場合であれば、そのTFT駆動基板となる厚さ0.7mmのガラス板材(以下、単に「第1板材」という)301に、薄膜層302および外部との接続電極303を形成するとともに、液晶シール304のパターンを印刷またはディスペンスにより描画し、対向基板となる厚さ0.7mmのガラス板材(以下、単に「第2板材」という)305を貼り合わせてガラスセル構造体とした後、加熱や紫外線硬化等により液晶シール304を硬化させる。さらには、貼り合せた2枚の第1板材301および第2板材305の最外周端の近傍部分に、弗化水素酸溶液306に対する耐性を有する外周シール307を形成し、その外周シール307を紫外線照射や加熱等により硬化させる。
【0051】
そして、このようなガラスセル構造体に対して、濃度20%の弗化水素酸溶液306でエッチングを行う。このエッチングは、第1板材301および第2板材305の厚さがそれぞれ0.2mmとなるまで行う。すなわち、第1板材301および第2板材305を薄板化するために行う。なお、第1板材301および第2板材305における面内を均一にエッチングするためには、空気または窒素で弗化水素酸溶液306をバブリングすることが有効である。ただし、エッチング等の化学的研磨ではなく、機械的研磨処理によって第1板材301および第2板材305を薄板化してもよいことは勿論である。
【0052】
その後は、ガラスセル構造体を弗化水素酸溶液306から取り出して水洗し乾燥させてから、図6(b)に示すように、第1板材301および第2板材305におけるそれぞれの外面側(ガラスセル構造体を構成した場合の外面側)に、スクライブ溝308を形成する。スクライブ溝308の形成は、炭酸ガスレーザのパルス出力(波長9.4μmまたは10.6μm)またはQスイッチYAGレーザの第3高調波出力(波長355nm)等を、第1板材301および第2板材305におけるそれぞれの外面側に対して、平面的に見た場合に所定パターン(有効薄膜領域を囲う方形状や接続電極303の形成位置を露出させるための形状等)で照射することによって行う。このとき、スクライブ溝308の形成深さは、TFT駆動基板および対向基板それぞれの所望厚さよりも、後述する許容割断厚さの分だけ浅く、具体的にはTFT駆動基板および対向基板の所望厚さが50μm程度であれば40μm程度の深さとする。なお、スクライブ溝308は、ダイアモンド刃等を用いて機械的に形成してもよい。
【0053】
スクライブ溝308の形成後は、図6(b)および図7(a)に示すように、ガラスセル構造体の外面側に等方性エッチングを行う。この等方性エッチングは、第1実施形態または第2実施形態で説明したように弗化水素酸溶液をその表面張力を利用して盛り付けて行ってもよいが、ガラスセル構造体に外周シール307が形成されていることから、第3実施形態の場合と同様に、そのガラスセル構造体を濃度20%の弗化水素酸溶液306に浸すことで行い、溶液塗布作業の簡略化やエッチングレート維持の容易化等を図るようにしてもよい。
【0054】
等方性エッチングは、第1板材301および第2板材305の厚さがTFT駆動基板および対向基板の所望厚さ(例えば、50μm)となり、かつ、第1板材301および第2板材305のそれぞれにおけるスクライブ溝308の残厚さが予め設定された許容割断厚さとなるまで行う。
【0055】
「許容割断厚さ」とは、第1板材301または第2板材305について機械的割断を行っても、その割断箇所にマイクロクラックが発生しない程度まで、その第1板材301または第2板材305を薄くした厚さのことをいう。具体的には、第1板材301または第2板材305の板厚(スクライブ溝308以外の部分の厚さ)の2〜3割程度の厚さであることが、実験等の結果から分かっている。したがって、第1板材301および第2板材305の厚さが50μmであれば、許容割断厚さは例えば10μm程度となる。
【0056】
その後は、ガラスセル構造体を弗化水素酸溶液306の中から取り出して水洗し乾燥させてから、図7(b)に示すように、第1板材301および第2板材におけるスクライブ溝308の部分に対する割断処理を行う。割断処理は、ダイアモンド刃等を用いて機械的に行えばよい。また、レーザ照射等を利用して行ってもよい。
【0057】
この割断処理により、図8(a),(b)に示すような構成のガラスセル構造体が得られるのである。なお、図例において、303は外部との接続電極、309は接続電極303とTFT駆動基板上のTFT回路を結ぶ配線パターンを示している。
【0058】
以上のような手順で各工程を行う製造方法、およびその製造方法を経て得られる薄膜デバイスによれば、スクライブ溝308を形成するとともに、そのスクライブ溝308の形成箇所が許容割断厚さとなるまで等方性エッチングを行い、その後にスクライブ溝308の形成箇所に対して割断処理を行い、これにより薄膜デバイスを得ることになるので、機械的な割断処理を行っても、その割断箇所にマイクロクラックが発生するのを抑制できる。つまり、マイクロクラックが薄膜層302に悪影響を及ぼすことがなく、薄膜デバイスの機械的または熱的な強度がそのマイクロクラックに起因して低下してしまうのを回避し得る。したがって、薄膜デバイスとしての信頼性を高く維持しつつ、液晶表示装置や有機EL表示装置等を構成した場合の薄型化および軽量化の要請にも十分に応えることが可能となるのである。
【0059】
しかも、第4実施形態においては、スクライブ溝308の形成箇所が許容割断厚さとなるまで等方性エッチングを行い、その後ガラスセル構造体を弗化水素酸溶液306の中から取り出してスクライブ溝308の形成箇所に対する割断処理を行うので、その割断時に弗化水素酸溶液306がガラスセル構造体における薄膜層302に悪影響を及ぼすのを防止することができる。したがって、割断箇所についての自由度や汎用性等を十分に確保しつつ、その場合であっても弗化水素酸溶液306に対する封止等が考慮せずに済み、結果として割断処理の容易化が図れることになる。
【0060】
なお、第4実施形態においても、TFT駆動基板となる第1板材301および対向基板となる第2板材305のそれぞれに対し、スクライブ溝308を形成する工程に先立ってこれらを薄板化するための研磨処理を行っているので、使用する第1板材301および第2板材305の厚さに依らずにTFT駆動基板および対向基板の薄板化が容易になるとともに、スクライブ溝308の形成後に行う等方性エッチングの処理時間を短縮することができ、さらには当該等方性エッチングの後におけるスクライブ溝308の幅の拡がりを極力抑制することができ、製造効率の向上を図る上で非常に好適なものとなる。
【0061】
〔第5の実施の形態〕
上述した第1〜第4実施形態は、例えば液晶表示装置に適用することが考えられる。液晶表示装置への適用は、第1〜第4実施形態で説明した内容のいずれであってもよいが、ここでは第3実施形態で説明した基板分断を適用して構成した液晶表示装置を例に挙げて説明する。
【0062】
図9は、本発明が適用された液晶表示装置の一具体例を示す断面図である。図例の液晶表示装置は、第3実施形態を適用して形成されたTFT基板を用いて製造される、プラスチック基板透過型液晶表示装置で、カラーフィルタがTFT基板側に形成されている、いわゆるオンチップ・カラーフィルター構造を採用したものである。詳しくは、プラスチック基板401上に、紫外線硬化型接着剤層402、ガラス残留層403、TFT404、カラーフィルタ層405、外周回路および配線406、パッシベーション層407、画素電極408、ポリイミド配向膜409、液晶層410、柱状スペーサ411、ポリイミド配向膜412、液晶シール413、ITO414、ブラック415、水蒸気バリア層416およびプラスチック基板417が、順に積層されて構成されている。このうち、ガラス残留層403には、スクライブ溝418が形成されており、そのスクライブ溝418の形成箇所よりも外方の位置で、ガラス残留層403を含む積層構造体が切断されている。
【0063】
図10は、本発明が適用された液晶表示装置の他の具体例を示す断面図である。図例の液晶表示装置は、第3実施形態を適用して形成されたTFT基板を用いて製造される、プラスチック基板反射型液晶表示装置で、カラーフィルタが対向基板側に形成されている構造のものである。詳しくは、プラスチック基板501上に、紫外線硬化型接着剤層502、ガラス残留層503、TFT504、光散乱層505、外周回路および配線506、画素電極507、ポリイミド配向膜508、パッシベーション層509、液晶層510、柱状スペーサ511、ポリイミド配向膜512、液晶シール513、ITO514、オーバーコート膜515、カラーフィルタ層516、ブラック517、水蒸気バリア層518およびプラスチック基板519が、順に積層されて構成されている。このうち、ガラス残留層503にはスクライブ溝520が形成されており、そのスクライブ溝520の形成箇所よりも外方の位置で、ガラス残留層503を含む積層構造体が切断されている。
【0064】
以上のように、図9または図10に示した液晶表示装置は、いずれも、等方性エッチングを利用してスクライブ溝418,520の形成部分でガラス残留層403,503を分断するとともに、そのスクライブ溝418,520の形成箇所よりも外方の位置でガラス残留層403,503を含む積層体を切断して、これにより液晶表示装置を得ることになるので、その切断箇所にマイクロクラックが存在しても、そのマイクロクラックがTFT404,504や液晶層410,510等の直下部分におけるガラス残留層403,503に悪影響を及ぼすことがない。したがって、液晶表示装置としての信頼性を高く維持しつつ、薄型化および軽量化の要請にも十分に応えることが可能となるのである。
【0065】
〔第6の実施の形態〕
上述した第5実施形態では、本発明を液晶表示装置に適用した場合を例に挙げたが、これと同様に、本発明は有機EL表示装置にも適用することが考えられる。有機EL表示装置への適用は、第1〜第4実施形態で説明した内容のいずれであってもよいが、ここでは第3実施形態で説明した基板分断を適用して構成した液晶表示装置を例に挙げて説明する。
【0066】
図11は、本発明が適用された有機EL表示装置の一具体例を示す断面図である。図例では、図示を容易にするため、1個の画素とこれを駆動する1個の薄膜トランジスタTFTのみを表しているが、画素はマトリクス状に配されており画面を構成しているものとする。
【0067】
各画素は、有機EL発光素子(Organic Light Emitting Diode;以下「OLED」と略す)からなり、透明電極601、有機EL層602および金属電極603を順に重ねたものである。透明電極601は画素毎に分離しておりOLEDのアノードAとして機能し、例えばITOなどの透明導電膜からなる。金属電極603は画素間で共通接続されており、OLEDのカソードKとして機能する。有機EL層602は例えば正孔輸送層と電子輸送層とを重ねた複合膜となっている。
【0068】
一方、TFTは、ガラス基板611の上に形成されたゲート電極612と、その上に重ねられたゲート絶縁膜613と、このゲート絶縁膜613を介してゲート電極612の上方に重ねられた多結晶シリコン薄膜614とからなる。さらに、TFTは、OLEDに供給する電流の通路となるソースS、チャネルCh及びドレインDを備えている。チャネルChはちょうどゲート電極612の直上に位置する。このボトムゲート構造のTFTは、層間絶縁膜615により被覆されており、その上にはソース電極616およびドレイン電極617が形成されている。これらの上には、別の層間絶縁膜618を介して、上述したOLEDが成膜されている。層間絶縁膜618にはコンタクトホールが開口しており、OLEDの透明電極601はこのコンタクトホールを介してTFTのドレイン電極617に電気接続している。
【0069】
有機EL表示装置では、このような構成のOLEDおよびTFTを、厚さ0.7mmのガラス基板611上に作製した後、上述した第3実施形態の場合と同様の手順で、そのガラス基板611を50μm厚まで薄くし、接着剤621により厚さ100μmのプラスチック基板622に貼り付けた構造としている。すなわち、ガラス基板611にはスクライブ溝623が形成されており、そのスクライブ溝623の形成箇所よりも外方の位置で、ガラス基板611を含む積層構造体が切断されているのである。
【0070】
以上のように、図11に示した有機EL表示装置は、いずれも、等方性エッチングを利用してスクライブ溝623の形成部分でガラス基板611を分断するとともに、そのスクライブ溝623の形成箇所よりも外方の位置でガラス基板611を含む積層体を切断して、これにより有機EL表示装置を得ることになるので、その切断箇所にマイクロクラックが存在しても、そのマイクロクラックがOLEDやTFT等の直下部分におけるガラス基板611に悪影響を及ぼすことがない。したがって、有機EL表示装置としての信頼性を高く維持しつつ、薄型化および軽量化の要請にも十分に応えることが可能となるのである。
【0071】
なお、上述した第1〜第6実施形態では、それぞれ本発明の好適な実施具体例を説明したが、本発明はその内容に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、各実施形態では、「基板」としてガラス基板を例に挙げたが、薄膜デバイスを構成し得るものであれば、他のもの(例えばガラス層を有した積層構造基板)であっても構わない。また、各実施形態では、「薄膜デバイス」として、液晶表示装置や有機EL表示装置等を例に挙げたが、これらに限定されないことは勿論である。
【0072】
また、第1〜第6実施形態では、いずれも、スクライブ溝102,206,308,418,520,623の形成面側に行う「エッチング」が、方向性のない非晶質であるエッチング対象に対して水溶液を用いて行うウエット・エッチング、すなわち方向によらず等速度で均一に行われる等方性エッチングである場合を例に挙げて説明している。等方性エッチングであれば、スクライブ溝102,206,308,418,520,623の側壁部分も等方的なエッチングを受けるため、例えば当該スクライブ溝102,206,308,418,520,623の深さよりもエッチングで除去される厚さの方が薄い場合であっても、確実にマイクロクラックを除去することができ、ガラス基板の薄板化への対応が容易かつ適切に、しかも効率よく行えるという利点が得られるからである。
ただし、この「エッチング」は、必ずしも第1〜第6実施形態で説明したような等方性エッチングに限定されることはなく、等方性を有さない非等方的な異方性エッチングであってもよい。エッチングが非等方的な異方性のものであっても、例えば図12に示すように、そのエッチングをスクライブ溝の形成面側に対して行えば、そのエッチングにより、スクライブ溝周辺のマイクロクラック領域を含む板材表面近傍部分は、その板材の元の厚さと所望厚さとの差分だけ削られて除去されるので、結果としてスクライブ溝周辺に生じているマイクロクラックも除去されるからである。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明に係る薄膜デバイスの製造方法の第1実施形態の概要を示す説明図である。
【図2】本発明に係る薄膜デバイスの製造方法の第2実施形態の概要を示す説明図である。
【図3】本発明に係る薄膜デバイスの製造方法の第3実施形態の概要を示す説明図(その1)である。
【図4】本発明に係る薄膜デバイスの製造方法の第3実施形態の概要を示す説明図(その2)である。
【図5】本発明に係る薄膜デバイスの製造方法の第3実施形態の概要を示す説明図(その3)である。
【図6】本発明に係る薄膜デバイスの製造方法の第4実施形態の概要を示す説明図(その1)である。
【図7】本発明に係る薄膜デバイスの製造方法の第4実施形態の概要を示す説明図(その2)である。
【図8】本発明に係る薄膜デバイスの製造方法の第4実施形態の概要を示す説明図(その3)である。
【図9】本発明が適用された液晶表示装置の一具体例を示す断面図である。
【図10】本発明が適用された液晶表示装置の他の具体例を示す断面図である。
【図11】本発明が適用された有機EL表示装置の一具体例を示す断面図である。
【図12】エッチングによるマイクロクラック除去の一具体例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0074】
101…板材、102…スクライブ溝、103…弗化水素酸溶液、104…薄膜層、105…ワックス、201…第1板材、202…薄膜層、203…第1接着剤、204…第2板材、205…弗化水素酸溶液、206…スクライブ溝、207…第2接着剤、208…第3板材、301…第1板材、302…薄膜層、303…接続電極、304…液晶シール、305…第2板材、306…弗化水素酸溶液、307…外周シール、308…スクライブ溝、401…プラスチック基板、402…紫外線硬化型接着剤層、403…ガラス残留層、404…TFT、405…カラーフィルタ層、406…外周回路および配線、407…パッシベーション層、408…画素電極、409…ポリイミド配向膜、410…液晶層、411…柱状スペーサ、412…ポリイミド配向膜、413…液晶シール、414…ITO、415…ブラック、416…水蒸気バリア層、417…プラスチック基板、418…スクライブ溝、501…プラスチック基板、502…紫外線硬化型接着剤層、503…ガラス残留層、504…TFT、505…光散乱層、506…外周回路および配線、507…画素電極、508…ポリイミド配向膜、509…パッシベーション層、510…液晶層、511…柱状スペーサ、512…ポリイミド配向膜、513…液晶シール、514…ITO、515…オーバーコート膜、516…カラーフィルタ層、517…ブラック、518…水蒸気バリア層、519…プラスチック基板、520…スクライブ溝、601…透明電極、602…有機EL層、603…金属電極、611…ガラス基板、612…ゲート電極、613…ゲート絶縁膜、614…多結晶シリコン薄膜、615…層間絶縁膜、616…ソース電極、617…ドレイン電極、618…層間絶縁膜、621…接着剤、622…プラスチック基板、623…スクライブ溝、S…ソース、Ch…チャネル、D…ドレイン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に薄膜層が形成されてなる薄膜デバイスの製造方法であって、
前記基板となる板材で当該基板の所望厚さよりも大きな厚さを有するものに対して、前記所望厚さよりも深いスクライブ溝を形成する工程と、
前記板材の前記スクライブ溝の形成面側に当該板材の厚さが前記所望厚さとなるまでエッチングを行う工程と
を含むことを特徴とする薄膜デバイスの製造方法。
【請求項2】
前記スクライブ溝を形成する工程に先立ち、前記板材を薄板化するための研磨処理の工程を行う
ことを特徴とする請求項1記載の薄膜デバイスの製造方法。
【請求項3】
基板上に薄膜層が形成されてなる薄膜デバイスの製造方法であって、
前記基板となる第1板材で当該基板の所望厚さよりも大きな厚さを有するものの片面に前記薄膜層を形成する工程と、
前記第1板材の前記薄膜層が形成された面側に第1接着剤を介して第2板材を接着し当該薄膜層を封止する工程と、
前記第1板材の他の片面上で前記薄膜層の外周端縁よりも外方の位置に前記所望厚さよりも深いスクライブ溝を形成する工程と、
前記第1板材の前記スクライブ溝の形成面側に当該第1板材の厚さが前記所望厚さとなるまでエッチングを行う工程と、
前記エッチングの後における前記第1板材の前記スクライブ溝の形成面側に第2接着剤を介して第3板材を接着するとともに、前記第1接着剤および前記第2板材を除去する工程と、
前記薄膜層の外周端縁よりも外方に位置する前記スクライブ溝の形成位置または当該スクライブ溝よりもさらに外方の位置で前記第1板材、前記第2接着剤および前記第3板材を切断する工程と
を含むことを特徴とする薄膜デバイスの製造方法。
【請求項4】
前記スクライブ溝を形成する工程に先立ち、前記第1板材を薄板化するための研磨処理の工程を行う
ことを特徴とする請求項3記載の薄膜デバイスの製造方法。
【請求項5】
対向する2枚の基板の間に薄膜層が形成されてなる薄膜デバイスの製造方法であって、
前記基板となる板材で当該基板の所望厚さよりも大きな厚さを有するものを2枚用いて当該板材の間に薄膜層が封止されてなるセル構造体を形成する工程と、
前記セル構造体を構成する前記板材の外面側にスクライブ溝を形成する工程と、
前記板材の前記スクライブ溝の形成面側にエッチングを行うとともに、当該エッチングを当該板材の厚さが前記所望厚さとなり、かつ、前記スクライブ溝の底部における残厚さが予め設定された許容割断厚さとなるまで行う工程と、
前記エッチングの後における前記板材の前記スクライブ溝の部分に対する割断処理を行う工程と
を含むことを特徴とする薄膜デバイスの製造方法。
【請求項6】
前記スクライブ溝を形成する工程に先立ち、前記板材を薄板化するための研磨処理の工程を行う
ことを特徴とする請求項5記載の薄膜デバイスの製造方法。
【請求項7】
基板上に薄膜層が形成されてなる薄膜デバイスであって、
前記基板の端縁が、当該基板となる板材で当該基板の所望厚さよりも大きな厚さを有するものに対して前記所望厚さよりも深いスクライブ溝を形成した後、前記板材の前記スクライブ溝の形成面側に当該板材の厚さが前記所望厚さとなるまでエッチングを行うことで形成されている
ことを特徴とする薄膜デバイス。
【請求項8】
基板上に薄膜層が形成されてなる薄膜デバイスであって、
前記基板の端縁が、
前記基板となる第1板材で当該基板の所望厚さよりも大きな厚さを有するものの片面に前記薄膜層を形成し、
前記第1板材の前記薄膜層が形成された面側に第1接着剤を介して第2板材を接着し当該薄膜層を封止し、
前記第1板材の他の片面上で前記薄膜層の外周端縁よりも外方の位置に前記所望厚さよりも深いスクライブ溝を形成し、
前記第1板材の前記スクライブ溝の形成面側に当該第1板材の厚さが前記所望厚さとなるまでエッチングを行い、
前記エッチングの後における前記第1板材の前記スクライブ溝の形成面側に第2接着剤を介して第3板材を接着するとともに、前記第1接着剤および前記第2板材を除去した後に、
前記薄膜層の外周端縁よりも外方に位置する前記スクライブ溝の形成位置または当該スクライブ溝よりもさらに外方の位置で前記第1板材、前記第2接着剤および前記第3板材を切断することで形成されている
ことを特徴とする薄膜デバイス。
【請求項9】
対向する2枚の基板の間に薄膜層が形成されてなる薄膜デバイスであって、
前記基板となる板材で当該基板の所望厚さよりも大きな厚さを有するものを2枚用いて当該板材の間に薄膜層が封止されてなるセル構造体を形成し、
前記セル構造体を構成する前記板材の外面側で前記薄膜層の外周端縁よりも外方の位置にスクライブ溝を形成し、
前記板材の前記スクライブ溝の形成面側にエッチングを行うとともに、当該エッチングを当該板材の厚さが前記所望厚さとなり、かつ、前記スクライブ溝の底部における残厚さが予め設定された許容割断厚さとなるまで行い、
前記エッチングの後における前記板材の前記スクライブ溝の部分に対する割断処理を行うことで形成されている
ことを特徴とする薄膜デバイス。
【請求項10】
液晶表示装置を構成することを特徴とする請求項9記載の薄膜デバイス。
【請求項11】
有機EL表示装置を構成することを特徴とする請求項9記載の薄膜デバイス。
【請求項1】
基板上に薄膜層が形成されてなる薄膜デバイスの製造方法であって、
前記基板となる板材で当該基板の所望厚さよりも大きな厚さを有するものに対して、前記所望厚さよりも深いスクライブ溝を形成する工程と、
前記板材の前記スクライブ溝の形成面側に当該板材の厚さが前記所望厚さとなるまでエッチングを行う工程と
を含むことを特徴とする薄膜デバイスの製造方法。
【請求項2】
前記スクライブ溝を形成する工程に先立ち、前記板材を薄板化するための研磨処理の工程を行う
ことを特徴とする請求項1記載の薄膜デバイスの製造方法。
【請求項3】
基板上に薄膜層が形成されてなる薄膜デバイスの製造方法であって、
前記基板となる第1板材で当該基板の所望厚さよりも大きな厚さを有するものの片面に前記薄膜層を形成する工程と、
前記第1板材の前記薄膜層が形成された面側に第1接着剤を介して第2板材を接着し当該薄膜層を封止する工程と、
前記第1板材の他の片面上で前記薄膜層の外周端縁よりも外方の位置に前記所望厚さよりも深いスクライブ溝を形成する工程と、
前記第1板材の前記スクライブ溝の形成面側に当該第1板材の厚さが前記所望厚さとなるまでエッチングを行う工程と、
前記エッチングの後における前記第1板材の前記スクライブ溝の形成面側に第2接着剤を介して第3板材を接着するとともに、前記第1接着剤および前記第2板材を除去する工程と、
前記薄膜層の外周端縁よりも外方に位置する前記スクライブ溝の形成位置または当該スクライブ溝よりもさらに外方の位置で前記第1板材、前記第2接着剤および前記第3板材を切断する工程と
を含むことを特徴とする薄膜デバイスの製造方法。
【請求項4】
前記スクライブ溝を形成する工程に先立ち、前記第1板材を薄板化するための研磨処理の工程を行う
ことを特徴とする請求項3記載の薄膜デバイスの製造方法。
【請求項5】
対向する2枚の基板の間に薄膜層が形成されてなる薄膜デバイスの製造方法であって、
前記基板となる板材で当該基板の所望厚さよりも大きな厚さを有するものを2枚用いて当該板材の間に薄膜層が封止されてなるセル構造体を形成する工程と、
前記セル構造体を構成する前記板材の外面側にスクライブ溝を形成する工程と、
前記板材の前記スクライブ溝の形成面側にエッチングを行うとともに、当該エッチングを当該板材の厚さが前記所望厚さとなり、かつ、前記スクライブ溝の底部における残厚さが予め設定された許容割断厚さとなるまで行う工程と、
前記エッチングの後における前記板材の前記スクライブ溝の部分に対する割断処理を行う工程と
を含むことを特徴とする薄膜デバイスの製造方法。
【請求項6】
前記スクライブ溝を形成する工程に先立ち、前記板材を薄板化するための研磨処理の工程を行う
ことを特徴とする請求項5記載の薄膜デバイスの製造方法。
【請求項7】
基板上に薄膜層が形成されてなる薄膜デバイスであって、
前記基板の端縁が、当該基板となる板材で当該基板の所望厚さよりも大きな厚さを有するものに対して前記所望厚さよりも深いスクライブ溝を形成した後、前記板材の前記スクライブ溝の形成面側に当該板材の厚さが前記所望厚さとなるまでエッチングを行うことで形成されている
ことを特徴とする薄膜デバイス。
【請求項8】
基板上に薄膜層が形成されてなる薄膜デバイスであって、
前記基板の端縁が、
前記基板となる第1板材で当該基板の所望厚さよりも大きな厚さを有するものの片面に前記薄膜層を形成し、
前記第1板材の前記薄膜層が形成された面側に第1接着剤を介して第2板材を接着し当該薄膜層を封止し、
前記第1板材の他の片面上で前記薄膜層の外周端縁よりも外方の位置に前記所望厚さよりも深いスクライブ溝を形成し、
前記第1板材の前記スクライブ溝の形成面側に当該第1板材の厚さが前記所望厚さとなるまでエッチングを行い、
前記エッチングの後における前記第1板材の前記スクライブ溝の形成面側に第2接着剤を介して第3板材を接着するとともに、前記第1接着剤および前記第2板材を除去した後に、
前記薄膜層の外周端縁よりも外方に位置する前記スクライブ溝の形成位置または当該スクライブ溝よりもさらに外方の位置で前記第1板材、前記第2接着剤および前記第3板材を切断することで形成されている
ことを特徴とする薄膜デバイス。
【請求項9】
対向する2枚の基板の間に薄膜層が形成されてなる薄膜デバイスであって、
前記基板となる板材で当該基板の所望厚さよりも大きな厚さを有するものを2枚用いて当該板材の間に薄膜層が封止されてなるセル構造体を形成し、
前記セル構造体を構成する前記板材の外面側で前記薄膜層の外周端縁よりも外方の位置にスクライブ溝を形成し、
前記板材の前記スクライブ溝の形成面側にエッチングを行うとともに、当該エッチングを当該板材の厚さが前記所望厚さとなり、かつ、前記スクライブ溝の底部における残厚さが予め設定された許容割断厚さとなるまで行い、
前記エッチングの後における前記板材の前記スクライブ溝の部分に対する割断処理を行うことで形成されている
ことを特徴とする薄膜デバイス。
【請求項10】
液晶表示装置を構成することを特徴とする請求項9記載の薄膜デバイス。
【請求項11】
有機EL表示装置を構成することを特徴とする請求項9記載の薄膜デバイス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−321674(P2006−321674A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−145065(P2005−145065)
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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