説明

薬液処理槽及びそれを用いた薬液処理装置

【課題】処理槽に温度制御部を必要としない薬液処理槽及びそれを用いた薬液処理装置を提供することにある。
【解決手段】断熱材12で覆われた処理槽10の内部において、被処理物19を単品又はバッチで処理を行う処理部60と、所定の温度に設定された液33を貯える低熱伝導材11で形成された貯液部14−1とを有し、処理槽10の内部及び被処理物19を、貯液部14−1に蓄えられた液の熱放射により加熱又は冷却して、所定の温度に維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン、ガラス、ハードディスク、プリント基板といった各種基板や、金属部品や電子機器部品といった各種部品の被処理物を、加熱又は冷却した水又は薬液により処理を行う薬液処理槽において、被処理物を単品又はバッチで処理を行う、薬液処理槽及び装置に係り、詳しくは、処理槽内に貯液部を配し、貯液部に供給する液の温度をコントロールすることにより処理槽内部及び被処理物を所定の温度に維持することを目的とした、薬液処理槽及び薬液処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
温度調節された薬液により被処理物の処理を行う場合、処理槽内の周囲の環境により薬液の温度が変化してしまい、意図した温度での薬液処理が困難となる。そのため従来の装置では、温度調整されたガスを供給し槽内の温度調整を行うか、槽内にヒーターを配備し槽内の温度調整を行うといった方法が取られていた。
【0003】
しかし温度調整されたガスにより槽内温度を調整する場合、ガスは比熱が小さいため槽に熱が吸収されたり、排気により熱がそのまま槽外に排出されたりして槽内の温度を安定させることは困難であった。
【0004】
また、ヒーターにより槽内の温度を調整する場合には、ヒーターからの熱放射により被処理物や薬液が加熱されてしまい、被処理物や薬液の温度コントロールが困難であった。
【0005】
図5は、従来の装置の構成図である。図5において、装置の液槽20には、液供給管28からバルブ29−1を介して液33が供給される。供給される液33は、液槽20のヒーター23により加熱され、液供給口24からポンプ25により処理槽10に送られ、ノズル13により処理部60内の被処理物19に供給され被処理物19を処理し排出口17より排液される。
【0006】
処理において処理槽10内の処理部60の温度を所定の温度に保つため、エア供給部70より供給されたエアは、バルブ74を通過後、エアヒーター73において所定の温度に設定されて供給される。処理部60の温度は、温度センサー72で検出された温度信号が温度制御部(図示されず)へ送信され、この温度制御部が受信した温度信号に基づきエアヒーター73及び処理槽10内のヒーター71を制御することにより所定の温度値に維持される。
【0007】
また液槽20は、排液管30を有し、液槽20の底部に設置された排液口31からバルブ29−4の開閉により液33が排出される。
【0008】
このように、処理における処理部60の温度を所定の温度に保つためには、液槽20の温度設定部21とは別に温度制御部を必要とするため、これに要する設備負担が無視できないという問題がある。また、エアは比熱が小さいため安定した温度の連続供給が難しいことや、周囲の環境による温度変化が激しく、安定した温度の大量なエアを連続して供給しなければならないなど、温度コントロールが難しいという問題がある。さらには、エアが直接被処理物19を加熱したり、ヒーター71の放射熱により、被処理物19の温度が必要とされる温度以上に加熱されてしまうといった問題もある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、その目的は、ガスより比熱の大きい液体を加熱源に使用し温度コントロールを容易にし、かつ処理槽に温度制御部を必要としない薬液処理槽及びそれを用いた薬液処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の薬液処理槽は、シリコン、ガラス、ハードディスク、プリント基板といった各種基板や、金属部品や電子機器部品といった各種部品の被処理物を、加熱又は冷却した水、又は薬液により処理を行う薬液処理槽であって、熱伝導率の低い材料で作られた処理槽の内部に、被処理物を単品又はバッチで処理する処理部と、所定の温度に設定された液を貯える貯液部とを有し、処理槽の内部及び被処理物を、貯液部に貯えられた液の熱放射により加熱又は冷却し所定の温度に維持することを特徴とする。
【0011】
本発明の薬液処理槽の処理槽が断熱材で覆われ処理槽表面から熱交換により処理槽の温度変化を防止することを特徴とする。
【0012】
本発明の薬液処理槽の貯液部は、上部が開放された構造を有し、貯液部の液面からの熱放射により処理槽の内部及び被処理物を所定の温度に維持ことを特徴とする。
【0013】
本発明の薬液処理槽の貯液部は、オーバーフローした液を受ける液受け部を有し、処理槽の温度維持に使用した液を、単独で回収することを特徴とする。
【0014】
本発明の薬液処理装置において、薬液処理槽の処理部と貯液部とに供給される液は、所定の温度に調整する1つの液供給ユニットから供給され、被処理物を処理する液と貯液部に供給する液とは同じものとし、被処理物を処理する液と処理槽の内部の温度とを同じ温度に維持することを特徴とする。
【0015】
本発明の薬液処理装置において、薬液処理槽の処理部と貯液部とに供給される液は、所定の温度に調整する独立した液供給ユニットからそれぞれ供給され、被処理物を処理する液と貯液部に供給する液とは独立して温度調整され、被処理物を処理する液と処理槽の内部の温度とを同じ温度に維持することを特徴とする。
【0016】
本発明の薬液処理装置は、薬液処理槽の処理部と貯液部とに供給された液を、再度、液供給ユニットに戻し、循環使用することにより、薬液の使用量、及び加熱又は冷却するエネルギーを省力化することを特徴とする。
【0017】
本発明の薬液処理装置は、薬液処理槽の処理部と貯液部とに供給する液を、ポンプ又はガス圧により供給する機能を有することを特徴とする。
【0018】
本発明の薬液処理装置は、薬液処理槽の処理部と貯液部とに供給する液が、配管中で変化することを防止するために、前記配管中に前記液を再加熱または再冷却する機能を有することを特徴とする。
【0019】
本発明の薬液処理装置は、薬液処理槽の処理部と貯液部とに供給する液を管理するために、配管中に流量計を有することを特徴とする。
【0020】
本発明の薬液処理装置は、薬液処理槽の処理部と貯液部とに供給する液を管理するために、配管中にフィルターを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ガスより比熱の大きい液体を加熱源に使用し、処理槽に温度制御部を必要としないため、設備負担の少ない薬液処理槽及びそれを用いた薬液処理装置を提供することが可能となる。さらには、薬液処理槽を一定の温度に保つ液や被処理物の処理を行う液を循環利用することで、初期段階で薬液処理槽を一定の温度に調節するエネルギー以外のエネルギーはほとんど必要としないため、液の温度を調節するためのランニングコストをおさえた薬液処理槽及びそれを用いた薬液処理装置を提供することも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施の形態について、図を用いて説明する。図1は、本発明による薬液処理槽及びそれを用いた薬液処理槽装置の第1の実施例を示す構成図である。図1において、薬液処理槽装置100−1は、薬液処理槽40及び液供給ユニット50から成る。薬液処理槽40は、処理槽10と、処理槽10の内部に設置された貯液部14−1と処理部60とを有する。処理槽10は、低熱伝導材11とそれを覆う断熱材12とから成るユニットボックスで、液回収口18を具備し被処理物19を処理した液33を液槽20に回収を行う。貯液部14−1は、上部が開放された構造を有し、オーバーフローした液33を受ける液受け部15を具備している。また、貯液部14−1は供給口16を具備し、液受け部15は排出口17を具備し使用した液を液槽20に回収、循環できる機能を有している。
【0023】
液供給ユニット50は、液槽20、液供給部28、温度設定部21及び排液管30とを有している。液槽20は、液供給口24を有し、ポンプ25、フィルター26、流量計34及びバルブ29−2、3を介して供給口16及びノズル13−1に接続されている。また液槽20は、排液口31及びオーバーフロー液処理口32を具備し、排液口31はバルブ29−4を介して、オーバーフロー液処理口32は直接、排液管30へ接続されている。液供給管28は、バルブ29−1を介して液槽20に接続されている。温度設定部21は、温度センサー22及びヒーター23と配線接続されている。
【0024】
液33は、液供給管28からバルブ29−1を介して液槽20へ供給される。温度設定部21は、温度センサー22が検出した液槽20の液33の温度信号を基にヒーター23を制御し、液33の設定温度まで加熱・維持する。液33は、液槽20の液供給口24から、ポンプ25、フィルター26、流量計34及びバルブ29−2、3を介して供給口16及び処理部60のバルブ13−1に供給される。液槽20の液33が、ポンプ25、フィルター26、流量計34及びバルブ29−2、3を介して、処理槽10内の貯液部14−1及び処理部60に供給される過程において、パイプ等の影響により温度変化が著しい場合は、熱交換器27により液33を再加熱又は再冷却して供給しても良い。またポンプ25による液33の供給は、ガス圧による供給手段に代えても良い。
【0025】
処理槽10および処理部60の温度調整を行う際には、バルブ29−2は開かれて貯液部14−1に液33を供給する。このときバルブ29−3は閉じられていても良いし、配管内の温度変化防止のために開けられていても良い。液33が貯液部14−1を満たし、溢れた液33は液受け部15に溜まり、排出口17を介して液槽20に回収され再度温度調整され、循環再利用される。この貯液部14−1を通過する液33の熱伝導および放射熱により、処理槽10および処理部60の温度は液33の温度とほぼ同温となり安定する。被処理物19の処理工程を経た液33は、処理槽10の液回収口18を介して液槽20に回収し再度温度調整・循環再利用してもそのまま排液されても良い。
【0026】
このように液33により処理槽10および処理部60を加熱又は冷却し循環利用すると処理後の液33の温度はほとんど変化することなく循環利用できるため、薬液の使用量、及び加熱又は冷却に要するエネルギーが省力化される。また液33を処理槽10および処理部60の温度調整に使用することにより、別途温度の管理のための温度制御部を持たない薬液処理槽40が可能となる。これにより、薬液処理槽40と液供給ユニット50とを組み合わせた小型軽量の薬液処理装置100−1を提供することが可能となる。
【0027】
図2は、本発明による薬液処理槽及びそれを用いた薬液処理装置の第2の実施例を示す構成図である。図2において、図1のノズル13−1に対して、ノズル13−1、2、3が設置されているところが異なっている。このようにノズルを複数個設けることにより、単品式の洗浄に代わり、複数の被処理物を同時に処理するバッチ式の装置として提供することが可能となる。
【0028】
図3は、本発明による薬液処理槽及びそれを用いた薬液処理装置の第3の実施例を示す構成図である。図3において、図1の液供給ユニット50が1つの液槽20であるのに対して、液槽20−1、2が設置されているところが異なっている。このため、動作は図1の場合と同じであるが、ノズル13−1及び供給口16には、それぞれ独立した液槽20−1、2からそれぞれ液33−1、液33−2が供給されている。このとき液33−1と液33−2は同じ液でも良いしそれぞれ異なった液でも良い。このように液33−1、液33−2をそれぞれ独立して供給することにより、より細かい処理条件の制御が可能となる。またこれにより、貯液部14−1へは、ことが可能となる。処理液ではなくコストの低い液を供給することが可能となり、ランニングコストを軽減する。
【0029】
図4は、本発明による薬液処理槽及びそれを用いた薬液処理装置の第4の実施例を示す構成図である。図4において、図3のノズル13−1に対して、ノズル13−1、2、3が設置されているところが異なっている。図2の場合と同様に、処理部60の処理手段を複数個設けることにより、単品式の処理を、複数の被処理物を同時に処理するバッチ式の処理装置として提供することが可能となる。
【0030】
以上説明したように本発明は、ガスより比熱の大きい液体を加熱源に使用することにより、処理槽に温度制御部を必要としないため、設備負担の少ない単品式又はバッチ式の薬液処理槽及びそれを用いた薬液処理装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明による薬液処理槽及びそれを用いた薬液処理装置の第1の実施例を示す構成図。
【図2】本発明による薬液処理槽及びそれを用いた薬液処理装置の第2の実施例を示す構成図。
【図3】本発明による薬液処理槽及びそれを用いた薬液処理装置の第3の実施例を示す構成図。
【図4】本発明による薬液処理槽及びそれを用いた薬液処理装置の第4の実施例を示す構成図。
【図5】従来装置の構成図。
【符号の説明】
【0032】
10 処理槽
11 低熱伝導材
12 断熱材
13、13−1、2、3 ノズル
14−1、2 貯液部
15 液受け部
16 供給口
17 排出口
18 液回収口
19 被処理物
20、20−1、2 液槽
21、21−1、2 温度設定部
22、22−1、2 温度センサー
23、23−1、2 ヒーター
24、24−1、2 液供給口
25、25−1、2 ポンプ
26、26−1、2 フィルター
27、27−1、2 熱交換器
28、28−1、2 液供給管
29−1、2、3、4 バルブ
30、30−1、2 排液管
31、31−1、2 排液口
32、32−1、2 オーバーフロー液処理口
33、33−1、2 液
34 流量計
40 薬液処理槽
50 液供給ユニット
60 処理部
70 エア供給部
71 ヒーター
72 温度センサー
73 エアヒーター
74 バルブ
100−1〜6 第1〜4の実施例による薬液処理槽及びそれを用いた薬液処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン、ガラス、ハードディスク、プリント基板といった各種基板や、金属部品や電子機器部品といった各種部品の被処理物を、加熱又は冷却した水、又は薬液により処理を行う薬液処理槽であって、
熱伝導率の低い材料で作られた処理槽の内部に、前記被処理物を単品又はバッチで処理する処理部と、所定の温度に設定された液を貯える貯液部とを有し、
前記処理槽の内部及び前記被処理物を、前記貯液部に貯えられた前記液の熱放射により加熱又は冷却し所定の温度に維持することを特徴とする薬液処理槽。
【請求項2】
前記処理槽が断熱材で覆われ処理槽表面から熱交換により処理槽の温度変化を防止することを特徴とする請求項1に記載の薬液処理槽。
【請求項3】
前記貯液部は、上部が開放された構造を有し、前記貯液部の液面からの熱放射により前記処理槽の内部及び前記被処理物を所定の温度に維持ことを特徴とする請求項1又は2に記載の薬液処理槽。
【請求項4】
前記貯液部は、オーバーフローした液を受ける液受け部を有し、前記処理槽の温度維持に使用した前記液を、単独で回収することを特徴とする請求項1乃至3に記載の薬液処理槽。
【請求項5】
請求項1乃至3に記載の薬液処理槽の処理部と貯液部とに供給される液は、所定の温度に調整する1つの液供給ユニットから供給され、前記被処理物を処理する液と前記貯液部に供給する液とは同じものとし、前記被処理物を処理する液と前記処理槽の内部の温度とを同じ温度に維持することを特徴とする薬液処理装置。
【請求項6】
請求項1乃至3に記載の薬液処理槽の処理部と貯液部とに供給される液は、所定の温度に調整する独立した液供給ユニットからそれぞれ供給され、前記被処理物を処理する液と前記貯液部に供給する液とは独立して温度調整され、前記被処理物を処理する液と前記処理槽の内部の温度とを同じ温度に維持することを特徴とする薬液処理装置。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の薬液処理槽の処理部と貯液部とに供給された液を、再度、前記液供給ユニットに戻し、循環使用することにより、薬液の使用量、及び加熱又は冷却するエネルギーを省力化することを特徴とする薬液処理装置。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれかに記載の薬液処理槽の処理部と貯液部とに供給する液を、ポンプ又はガス圧により供給する機能を有することを特徴とする薬液処理装置。
【請求項9】
請求項5乃至7のいずれかに記載の薬液処理槽の処理部と貯液部とに供給する液が、配管中で変化することを防止するために、前記配管中に前記液を再加熱または再冷却する機能を有することを特徴とする薬液処理装置。
【請求項10】
請求項5乃至7のいずれかに記載の薬液処理槽の処理部と貯液部とに供給する液を管理するために、配管中に流量計を有することを特徴とする薬液処理装置。
【請求項11】
請求項5乃至7のいずれかに記載の薬液処理槽の処理部と貯液部とに供給する液を管理するために、配管中にフィルターを有することを特徴とする薬液処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−135218(P2009−135218A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−309120(P2007−309120)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(000219004)島田理化工業株式会社 (205)
【Fターム(参考)】