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蛋白修飾物生成抑制剤
説明

蛋白修飾物生成抑制剤

【課題】 降圧作用を有さず、ビタミンB6欠乏症を惹起しない蛋白修飾物生成抑制剤を提供すること。
【解決手段】 遊離形または塩形のβ-ラクタム構造を有する化合物を有効成分として使用する。β−ラクラム構造を有する化合物には、ペニシリン系(アモキシシリン、アンピシリン、オキサシリンなど)、セフェム系(セファゾリン、セファマンドール、セファレキシンなど)、カルバペネム系(チェナマイシン、イミペネム、カルペチマイシンAなど)、単環β-ラクタム系(ノカルジン、スルファゼシン、アズスレオナムなど)、天然セフェム系およびその他のβ-ラクタム系(セファロスポリンC、デアセチルセファロスポリンC、セファマイシンAなど)が包含される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、蛋白修飾物生成抑制剤、特に非酵素的条件下にカルボニル化合物と反応することによって生じる糖化最終産物(Advanced Glycation End Products、以下、「AGEs」と称する)、脂質過酸化最終産物(Advanced Lipoxidation End Products、以下、「ALEs」と称する)等の蛋白修飾物の生成を抑制する薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ペプチドや蛋白質等のアミノ基と還元糖等のカルボニル基との非酵素的反応から始まる一連の反応(メイラード反応(非特許文献1参照))は、糖化反応(グリケーション)と呼ばれ、初期段階と後期段階に大別することができる。初期段階は糖の濃度と反応時間とに依存する可逆反応であり、前記アミノ基と前記カルボニル基とが非酵素的に反応してシッフ塩基を生成し、さらにアマドリ転位によりアマドリ化合物を形成する。
【0003】
後期段階では初期段階で生成したアマドリ化合物が非可逆的に脱水、縮合、環状化、酸化、断片化、重合、転位等を受け、最終的にAGEsと呼ばれる蛋白修飾物を形成する。糖の自動酸化等により、3-デオキシグルコソン(以下、「3-DG」と称する)、グリオキサール(以下、「GO」と称する)およびメチルグリオキサール(以下、「MGO」と称する)等の反応性の高いジカルボニル化合物が生成するが、これらのカルボニル化合物も蛋白と反応し、多くの場合蛋白質のリジン残基やアルギニン残基等が修飾されたAGEsを生成する。
【0004】
また、酸化ストレス下では、生体内に豊富に存在する糖、脂質、アミノ酸等は酸化反応等により、反応性の高いカルボニル化合物へと変化する。その結果生じる、GO、MGO、アラビノース、グリコールアルデヒドなどの化合物はAGEsの前駆物質となる。また、アスコルビン酸の酸化により生成するデヒドロアスコルビン酸もAGEsの前駆物質となる。これらの前駆物質はいずれもカルボニル基を有しており、蛋白質のアミノ基と非酵素的に反応してシッフ塩基を生成してAGEsを形成する(非特許文献2参照)。
【0005】
一方、酸化ストレス下では脂質過酸化も進行し、マロンジアルデヒド、ヒドロキシノネナールおよびアクロレインのような、様々なカルボニル化合物が形成される(非特許文献3参照)。これらのカルボニル化合物も蛋白質のアミノ基等と反応し、マロンジアルデヒド修飾リジンやヒドロキシノネナール修飾物等のALEsと呼ばれる蛋白修飾物を形成する(非特許文献2参照)。
【0006】
更に、セリンやスレオニンなどのアミノ酸も酸化によりアクロレイン、GOなどのカルボニル化合物が生成し、蛋白修飾物を形成する(非特許文献4参照)。多くのカルボニル化合物は酸化的経路で生成されるが、3-DGのように非酸化的経路を経て生成されるカルボニル化合物も存在する。
【0007】
公知のAGEs生成経路として、1)シッフ塩基、アマドリ化合物から3-DGを経由する経路、2)シッフ塩基が酸化的にグリコールアルデヒド−アルキルイミンへ変化し、アルドアミンを経てAGEsに至る経路、3)アルドアミンがグリオキサールモノアルキルイミンを経てAGEsに至る経路、4)アマドリ化合物から2,3-エンジオールを経て生成されるMGOを中間体とする経路、5)その他等がある。
【0008】
最近、AGEsのひとつであるカルボキシメチルリジンが不飽和脂肪酸の脂質酸化反応の結果生じるGOによっても生成することが明らかになり、糖化・酸化反応と脂質酸化反応が共通の基盤で起こっていると考えられる。
【0009】
以上のように、糖、脂質、アミノ酸およびアスコルビン酸から酸化的、非酸化的経路により生成されたカルボニル化合物は、蛋白を非酵素的に修飾して最終的にAGEsやALEs等の蛋白修飾物を形成するに至る。特に、複数の反応経路を経て生成されたカルボニル化合物により蛋白修飾反応が亢進している状態をカルボニル過剰による蛋白修飾、すなわち、カルボニルストレスと呼んでいる。
【0010】
公知のAGEsとしては、ペントシジン(非特許文献5参照)、クロスリン(非特許文献6参照)、X1(フルオロリンク)、ピロピリジン(非特許文献7参照)、ピラリン(非特許文献8参照)、カルボキシメチルリジン(非特許文献9参照)、イミダゾロン化合物(非特許文献10参照)、カルボキシエチルリジン(非特許文献11参照)、MGOダイマー(非特許文献12参照)、GOダイマー(非特許文献13参照)、イミダゾリジン(非特許文献14参照)およびアルグピリミジン(非特許文献15参照)等が知られている。
【0011】
現在クローニングされているAGEs受容体として、RAGE(非特許文献16参照)、マクロファージスカベンジャー受容体クラスA(非特許文献17参照)、ガレクチン3(非特許文献18参照)、OST-48および80K-H等がある(非特許文献17参照)。
【0012】
血管組織においてAGEsがRAGE(免疫グロブリンスーパーファミリーに属する細胞膜貫通型蛋白質)に結合すると、細胞内で活性酸素が生成し、p21ras/MAPK経路が活性化され(非特許文献19参照)、これにより転写因子NF-κB活性化が誘導され、VCAM-1等の血管障害関連因子の発現が誘導されることが報告されている(非特許文献20参照)。また、AGEsはRAGEを介して、微小血管の内皮細胞の増殖を制御し、恒常性維持に重要な役割を果たしている周皮細胞の増殖を抑制するとともに、毒性効果を発揮することが報告されている(非特許文献21参照)。
【0013】
さらに、AGEsはRAGEを介して、微小血管の内皮細胞に直接的に作用し血管新生を促進すること、PGI2の産生を阻害して血栓傾向となること(非特許文献22参照)が報告されている。その他、AGEsやALEs等の生理活性として、メサンギウム細胞の基質産生の亢進、単球遊走能の亢進、マクロファージからの炎症性サイトカインの放出、滑膜細胞のコラゲナーゼ産生促進、破骨細胞の活性化、血管平滑筋の増殖作用、血小板凝集の促進、NO活性とその平滑筋弛緩反応の抑制が報告されている(非特許文献23参照)。
【0014】
AGEsが関与する疾患として、1)糖尿病合併症である腎症(非特許文献24参照)、神経障害(非特許文献25参照)、網膜症(非特許文献21参照)および白内障、2)動脈硬化(非特許文献26参照)、3)透析合併症である透析アミロイドーシス(非特許文献27参照)および腹膜透析患者における腹膜硬化症、4)中枢神経疾患であるアルツハイマー病(非特許文献28参照)、ピック病およびパーキンソン病、5)リウマチ性関節炎(非特許文献29参照)、6)日光弾性線維症、7)老化、8)腎不全(非特許文献30参照)等が知られている。その他、糖尿病の場合、血管内皮由来の血管拡張がAGEsによって障害されること(非特許文献31参照)、AGEsが腎硬化を促進させること(非特許文献32参照)等が報告されている。
【0015】
以上のことから、AGEsを初めとする蛋白修飾物は、直接的にまたは受容体を介して生体に悪影響を与えることが明らかとなっている。
【0016】
一方、腎機能が低下するに従って、血中のAGEsの濃度が上昇することが知られている。腎機能低下により、分子量5kDa以下と考えられるカルボニル化合物は体内に蓄積する。ペントシジンやピラリン等の場合、遊離型も存在するが、血清アルブミン等の蛋白結合型が大部分を占めている(非特許文献33参照)。また、血中ペントシジン濃度は糸球体濾過機能の影響を強く受けるという報告がある(非特許文献34参照)。
【0017】
この様に、AGEsはその大部分が腎において処理され、健康時には血中濃度は低く保たれているが、腎機能が低下すると尿毒症毒素(uremic toxin)として慢性の生物活性をもたらすようになる。
【0018】
AGEsは、透析療法によって遊離型のものは除去されるが、蛋白結合型のものや分子内架橋を形成するものは除去することは困難である(非特許文献35参照)。従って、腎不全期間の経過と共に蛋白修飾物の生体内蓄積量は増加する。また、生体内で糖が反応する基本的な過程以外に食品中から供給される遊離型AGEsや、生体内で既に形成されたアマドリ化合物などから形成される活性の強い3-DG、GO、MGOなどの中間体が次々に蛋白と反応し、AGEsの産生を促進することが認められている。また、血液は透析膜と接触することによって、補体系や白血球の活性化などの様々な影響を受け、フリーラジカルの産生亢進へとつながる等、透析療法そのものによる酸化の亢進も存在し、AGEs生成の一因となっている。
【0019】
ゆえに、透析療法での対策としては透析導入の初期からこれらの遊離型物質の除去を図り、結合型のAGEs形成を極力抑制することが重要であり、上記のように結合型のAGEsを透析療法によって除去することは困難であるので、透析療法では蛋白修飾物の生成を抑制する薬物の開発が希求されている。
【0020】
また、腎機能に起因するばかりではなく、腎不全に伴う抗酸化防御機構の低下も蛋白修飾物の蓄積に関与していると考えられる。腎不全患者では、血中還元型グルタチオンに対する酸化型グルタチオンの上昇(非特許文献36参照)、グルタチオン依存酵素群の活性低下、保存期腎不全血漿グルタチオンペルオキシダーゼの低下(非特許文献37参照)、全血中グルタチオンの低下(非特許文献38参照)、ならびに血漿セレン濃度の低下に対する血漿スーパーオキサイドジスムターゼの活性上昇(非特許文献39参照)といった抗酸化能の不均衡が示唆されている(非特許文献40参照)。
【0021】
また、一般に慢性腎不全の患者では、高血糖の有無に関わらず血中や組織中に反応性の高いカルボニル化合物やAGEsが著しく蓄積していることが報告されている(非特許文献41参照)。腎不全においては、非酵素的化学反応によりカルボニル化合物が高負荷の状態(カルボニルストレス)となり、蛋白質修飾が亢進される病態が存在しており、糖・脂質からカルボニル化合物が生成され蛋白質を修飾するためであると考えられる(非特許文献42参照)。
【0022】
ゆえに、様々な要因によって生じる蛋白修飾物の生成を抑制することが、組織障害の軽減につながり、AGEs等の蛋白修飾物質が関与する病態を予防および治療することができる。
【0023】
慢性腎不全患者に行われる透析には、血液透析と腹膜透析がある。腹膜透析の場合、血中の老廃物は腹膜を通して腹膜透析液中に排泄される。高浸透圧の腹膜透析液(グルコース、イコデキストリンまたはアミノ酸等を含有する)は、腎不全患者の血中に蓄積した反応性の高いカルボニル化合物(例えば腎不全患者の血中に酸化ストレスに伴って蓄積する、炭水化物に由来するカルボニル化合物(アラビノース、GO、MGO、3-DG)、アスコルビン酸に由来するカルボニル化合物(デヒドロアスコルビン酸)、脂質に由来するカルボニル化合物(ヒドロキシノネナール、マロンジアルデヒド、アクロレイン))を、腹膜を介して腹腔内の腹膜透析液中に集める作用がある。
【0024】
また、腹膜透析液の滅菌や保存中に、反応性の高いカルボニル化合物(3-DG、5-ヒドロキシメチルフルフラール、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、GO、MGO、レプリン酸、フルフラール、アラビノースなどのカルボニル化合物)が腹膜透析液中に生成することが知られている(非特許文献43参照)。
【0025】
そのため腹膜透析液中の前記カルボニル化合物濃度は上昇し、蛋白修飾物質の生成が亢進する。その結果、腹膜の機能が低下し、除水能の低下や腹膜硬化症への進展に関与すると考えられる。(非特許文献44参照)。
【0026】
実際に腹膜透析患者においては、導入されたグルコースによって腹腔内がカルボニルストレス状態となっていることは、内皮および中皮の免疫組織学的検討から証明されている(非特許文献45参照)。
【0027】
この様に、透析患者においてもカルボニル化合物による蛋白修飾物の生成が腹膜の形態学的変化およびこれに伴う機能(除水能)の低下の原因となっていることが推測されており、その改善方法の提供が求められている。
【0028】
以上の事実と腎不全をはじめとする種々の病態を考え合わせると、カルボニル化合物蓄積がAGEs産生亢進の原因のひとつであると考えられ(非特許文献46参照)、AGEsの産生を抑制することが、AGEsが関連する病態に対し有効であると考えられる。
【0029】
代表的なAGEs生成阻害薬としてアミノグアニジンがある。アミノグアニジンはグルコース、シッフ塩基やアマドリ生成物から生成される3-DGなどのジカルボニル化合物と反応してチアゾリンを形成することによってAGEs生成を阻害すると考えられている。糖尿病モデル動物を用いた解析では、糖尿病性腎症(非特許文献47参照)、網膜症(非特許文献48参照)および白内障(非特許文献49参照)の進展を遅延させる効果が確認されている。
【0030】
他に、この種に属する化合物としてピリドキサミン誘導体(ピリドリン)がある。また、OPB-9195((±) 2-イソプロピリデンヒドラゾノ-4-オキソ-チアゾリジン-5-イルアセトアニリド)はヒドラジンの窒素原子がカルボニル基と反応して安定な構造を形成し、遊離または蛋白に結合した反応性カルボニルを捕捉することにより(非特許文献50参照)、in vitroでAGEsのみならずALEsの生成も抑制する。メトホルミンやブホルミン等のビグアナイド化合物もカルボニル化合物を捕捉できるため、(非特許文献51参照)AGEs生成阻害薬として利用できる可能性がある。さらに、AGEsの特徴である架橋を切断するタイプのAGEs阻害剤、アマドリ化合物を分解する酵素(amadoriase)等の提案もされている。
【0031】
一方、カルボニル化合物を消去することにより、AGEsやALEsの生成を阻害する可能性も検討されている。カルボニル化合物の消去にはいくつかの酵素や酵素的経路が存在し、例えばアルドース還元酵素、アルデヒドデヒドロゲナーゼやグリオキサラーゼ経路が挙げられるが(非特許文献52参照)還元型グルタチオン(GSH)やNAD(P)Hなどのレドックス補酵素はこれらの経路の活性に重要な要素である。
【0032】
これらの消去系の低下は同時に多数のカルボニル化合物の上昇につながる。MGO、GOなどのカルボニル化合物はGSHのチオール基と反応し、結果的に酵素グリオキサラーゼにより代謝される。NAD(P)Hはグルタチオン還元酵素を活性化し、GSHレベルを上昇させる。すなわち、細胞内レドックス機構の不均衡によるGSHおよびNAD(P)Hの低下によりカルボニル化合物の消去系が阻害され、AGEsやALEsの蓄積につながると考えられる。また、糖尿病においては、高血糖によりポリオール経路が活性化され、NAD(P)HやGSHが低下し、結果的にカルボニル化合物の消去系が低下することが示唆される。
【0033】
前述したようにGSHおよびNAD(P)Hなどのチオール濃度の低下がカルボニル化合物消去の低下につながり、結果としてAGEsやALEsを形成する原因のひとつとなっているとすれば、チオールレベルを上昇させることによりカルボニル化合物を減少できる可能性がある。これには、GSH、システイン、アセチルシステイン等によりチオール基を補充する方法、ビタミンEやユビキノール等によりGSH需要を低下させる方法、アルドース還元酵素阻害薬等によりポリオール系を阻害する方法が提案されている。さらに、アミノグアニジン、ピリドキサミン、ヒドラジン、ビグアナイド化合物およびSH基含有化合物を用いて、カルボニル化合物をトラップさせる方法も提案されている(特許文献1参照)。
【0034】
以上詳細に述べたように、AGEsおよびALEsの生成を阻害し、蛋白修飾を抑制することが、これらに関連する病態を予防または治療できる方法である。
【0035】
本発明者らは、上記従来技術に基づく知見を前提として、非酵素的条件下、カルボニル化合物と反応することによって生じる蛋白修飾物(AGEsおよび/またはALEs)が関与する病態を予防および/または治療するための薬剤を開発すべく鋭意研究を行った結果、先に、3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オンまたは薬理学的に許容されるその塩が効果的にAGEs、ALEs等の蛋白修飾物の生成を抑制する事実を発見し、この発見事実に基づいて、当該物質を有効成分とする蛋白修飾物生成抑制剤の発明を完成した(特願2003−076955号明細書)。
【0036】
本発明者らは、その後さらに研究を続け、上記3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オンの1位フェニル基および3位メチル基を他の置換基に変化させた類縁体についても同様の活性を有することを見出したが、同時に、それら3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オンやその類縁体は、これを生体に投与した場合、ビタミンB6欠乏症を起こすことが判明した。また、従来AGEs阻害剤として知られているアミノグアニジンやOPB-9195等も同様のビタミンB6欠乏症を起こすことが判明した。
【0037】
糖尿病性腎症では、病変部において高血糖や酸化ストレスに伴い形成された反応性カルボニル化合物が非酵素的に蛋白を修飾し、AGEsやALEs等の蛋白修飾物を形成し、病態に深く関与することが知られている。
【0038】
糖尿病性腎症の治療には、腎保護作用(蛋白尿抑制・腎機能低下抑制)を有する薬剤が試みられてきたが、そのような薬剤の中で大規模臨床試験で薬効が示されたのは、降圧剤であるアンジオテンシンII受容体括抗薬(ARB)やアンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACEI)のみである(たとえば、非特許文献53)。
【0039】
近年、ARBやACEIの中の数種の薬剤がAGEsの産生を阻害すること、また、ARBやACEIの腎保護作用が降圧作用とは独立して発揮されることが証明された。さらに、腎障害が血圧よりもむしろ腎臓組織内AGEs量に依存すること、従って、生体内AGEs量が腎障害のマーカーとなり得ること、ARBの投与により腎保護作用とともにAGEs量が著明に低下することも明らかとなってきている(特許文献2)。
【0040】
しかし、ARBやACEIは降圧作用を有することから、高血庄を伴わないような患者への有用性は未だ解明されておらず、また現状の薬剤だけで糖尿病性腎症の進展を抑制していくのは困難とされている。そのため、降圧作用を伴わない強力な腎保護薬の開発が現在強く望まれている。
【特許文献1】国際公開第 00/10606 号
【特許文献2】国際公開第 02/83127 号
【非特許文献1】メイラード, エル, シー(Maillard, L. C.)ら著, 「コンプテス・レンダス・ヘブドマダイレス・デス・シンシズ・デ・ラ・ソサイエテ・デ・バイオロジー(Compt. Rend. Soc. Biol.)」, (フランス), 1912年, 第72巻, p599
【非特許文献2】ミヤタ, ティー(Miyata, T. )ら著, 「キドニー・インターナショナル(Kidney Int.)」, (アメリカ), 1999年, 第55巻, p389-399
【非特許文献3】エステルバウアー, エイチ(Esterbauer, H.)ら著, 「フリーラジカル・バイオロジー・アンド・メディスン(Free Radic. Biol. Med.)」, (アメリカ), 1991年, 第11巻, p81-128
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【非特許文献34】スギヤマ, エス(Sugiyama, S.)ら著, 「ジャーナル・オブ・ザ・アメリカン・ソサエティー・オブ・ネフロロジー(J. Am. Soc. Nephrol.)」, (アメリカ), 1998年, 第9巻, p1681-1688
【非特許文献35】ミヤタ・ティー(Miyata, T.)ら著, 「キドニー・インターナショナル(Kidney Int.)」, (アメリカ), 1996年, 第49巻, p1304-1313
【非特許文献36】カネストラリ, エフ(Canestrari, F.)ら著, 「アクタ・ヘマトロジカ(Acta Haematol.)」, (スイス), 1994年, 第91巻, p187-193
【非特許文献37】ウエダ, ワイ(Ueda, Y.)ら著, 「バイオケミカル・アンド・バイオフィジカル・リサーチ・コミュニケーションズ(Biochem. Biophys. Res. Commun.), (アメリカ), 1998年, 第245巻, p785-790
【非特許文献38】カネストラリ, エフ(Canestrari, F.)ら著, 「アクタ・ヘマトロジカ(Acta Haematol.)」, (スイス), 1994年, 第91巻, p187-193
【非特許文献39】リチャード, エム, ジェイ(Richard, M. J.)ら著, 「ネフロン(Nephron)」, (スイス), 1991年, 第57巻, p10-15
【非特許文献40】ヤドウル, エム(Jadoul, M.)ら著, 「キドニー・インターナショナル(Kidney Int.)」, (アメリカ), 1999年, 第55巻, p2487-2492
【非特許文献41】ミヤタ, ティー(Miyata, T.)ら著, 「キドニー・インターナショナル(Kidney Int.)」, (アメリカ)1997年, 第51巻, p1170-1181
【非特許文献42】ミヤタ, ティー(Miyata, T.)ら著, 「キドニー・インターナショナル(Kidney Int.)」, (アメリカ), 1999年, 第55巻, p389-399
【非特許文献43】リチャード, ジェイ, ユー(Richard, J. U.)ら著, 「ファンダメンタル・アンド・アプライド・トキシコロジー(Fund. Appl. Toxic.)」, (アメリカ), 1984年, 第4巻, p843-853
【非特許文献44】ミヤタ, ティー(Miyata, T.)ら著, 「キドニー・インターナショナル(Kidney Int.)」, (アメリカ), 2000年, 第58巻, p425-435
【非特許文献45】ヤマダ, ケイ(Yamada, K.)ら著, 「クリニカル・ネフロロジー(Clin. Nephrol.)」, (ドイツ), 1994年, 第42巻, p354-361
【非特許文献46】ミヤタ, ティー(Miyata, T.)ら著, 「ネフロロジー・ダイアリシス・トランスプランテーション(Nephrol. Dial. Transplant.)」, (イギリス), 1997年, 第12巻, p255-258
【非特許文献47】エデルステイン, ディー(Edelstein, D.)ら著, 「ダイアベートロジア(Diabetologia), (ドイツ), 1992年, 第35巻, p96-101
【非特許文献48】ハメス, エイチ, ピー(Hammes, H. P.)ら著, 「プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ・オブ・ユー・エス・エー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)」, (アメリカ), 1991年, 第88巻, p11555-11561
【非特許文献49】マツモト, ケイ(Matsumoto, K.)ら著, 「バイオケミカル・アンド・バイオフィジカル・リサーチ・コミュニケーションズ(Biochem. Biophys. Res. Commun.)」, (アメリカ), 1997年 第241巻, p352-354
【非特許文献50】ナカムラ, エス(Nakamura, S.)ら著, 「ダイアベーツ(Diabetes)」, (アメリカ), 1997年, 第46巻, p895-899
【非特許文献51】ベイスウェンゲル, ピー, ジェイ(Beisswenger, P. J.)ら著, 「ダイアベーツ(Diabetes), (アメリカ), 1999年, 第48巻, p198-202
【非特許文献52】ソマリー, ピー, ジェイ(Thornalley, P. J.)ら著, 「エンドクリノロジー・アンド・メタボリズム(Endocrinol. Metab.)」, (アメリカ), 1996年, 第3巻, p149-166
【非特許文献53】ルイス,イー、ジェイ(Lewis, E. J.)ら著,「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディスン(New Eng. J. Med.),(イギリス),1993年,第329巻,p1456-1462
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0041】
本発明者らは、降圧作用を有さず、ビタミンB6欠乏症のない優れた蛋白修飾物生成抑制剤の開発を目的として鋭意研究を行い、AGEs生成阻害効果を指標として既存の薬物を再評価した。その結果、β-ラクタム系化合物が優れたAGEs産生抑制効果を有し、糖尿病性腎症をはじめとするAGEs過剰産生に起因する病態を改善することを見出し、本発明を完成した。
【0042】
「β-ラクタム系化合物」とは、分子内に-NH-CO-を含む環状化合物のうち、4員環構造を有しているものをいう。β-ラクタム系化合物は、ペニシリン、セファロスポリン系抗生物質の重要な活性中心として知られているが、本発明においては、抗生物質としての作用を持たないβ-ラクタム系化合物も使用することができる。このようなβ-ラクタム系化合物が、AGEsの産生を阻害し、蛋白修飾物の生成を抑制する効果を有しているということは、全く知られていなかった。
【0043】
β-ラクタム系化合物として、以下のような化合物が知られている。
(1)ペニシリン系として、6-アミノペニシラン酸、アモキシシリン、アンピシリン、アンピシリンエトキシカルボニルオキシエチル、アンピシリンフタリジル、オキサシリン、カルベニシリン、カルベニシリンインダリル、カルベニシリンフェニル、クロキサシリン、シクラシリン、ジクロキサシリン、スルベニシリン、チカルシリン、ナフシリン、ピブメシリナム、ピペラシリン、フェネチシリン、フェノキシメチルペニシリン、フルクロキサシリン、プロピシリン、ヘタシリン、ベンジルペニシリン、メチシリン、アパルシリン、メズロシリン等が挙げられる。
【0044】
(2)セフェム系として、7-アミノセファロスポラン酸、セファセトリル、セファゾリン、セファトリジン、セファドロキシル、セファマンドール、セファピリン、セファレキシン、セファログリシン、セファロチン、セファロリジン、セフォキシチン、セフォタキシム、セフォチアム、セホテタン、セホペラゾン、セフスロジン、セフタジダイム、セフテゾール、セフトリアキソン、セフピラミド、セフブペラゾン、セフメタゾール、セフメノキシム、セフラジン、セフロキサジン、セフロキシム、セファクロル、セフチゾキシム等が挙げられる。
【0045】
(3)カルバペネム系としては、チエナマイシン、ホルムイミドイルチエナマイシン、PS-6、PS-7、PS-8、オリバン酸MM4550、オリバン酸MM13902、オリバン酸MM17780、オリバン酸MM22381、オリバン酸MM22385、イミペネム、カルペチマイシンA、カルペチマイシンB等が挙げられる。
(4)単環β-ラクタム系として、ノカルジシン、スルファゼシン、アズスレオナム等が挙げられる。
(5)天然セフェム系およびその他のβ-ラクタム系化合物として、セファロスポリンC、デアセチルセファロスポリンC、デアセトキシセファロスポリンC、7-メトキシセファロスポリンC、セファマイシンA、セファマイシンB、セファマイシンC、オガノマイシンA、オガノマイシンG、ラタモキセフ、クラブラン酸、スルバクタム等を挙げることができる。
【発明の効果】
【0046】
すなわち、本発明は、蛋白修飾物生成抑制作用を有し、かつ、副作用としてのビタミンB6欠乏症が抑制され、なおかつ、降圧作用を有しない化合物を有効成分とする、蛋白修飾物生成抑制剤を提供するものである。有効成分は、β-ラクタム系化合物で示される化合物である。当該有効成分は、蛋白修飾物生成抑制作用を有する一方、副作用としてのビタミンB6欠乏症が抑制されているので、薬剤としての使用に適している。また、当該有効成分は、従来蛋白修飾物生成抑制剤(腎保護剤)として知られていたARBやACEIと異なり、降圧作用を有しないので、正常血圧や低血圧患者のような、降圧作用が不要または禁忌である患者にも使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
ここに「蛋白修飾物」とは、非酵素的条件下にカルボニル化合物と反応することによって生じる蛋白修飾物(たとえば、AGEs、ALEsなど)をいい、特記しない限りAGEsとALEsの両者を含むものとする。蛋白修飾物はAGEs、ALEsまたはこれらの組合せであってもよく、AGEsには、ペントシジン、クロスリン、X1(フルオロリンク)、ピロピリジン、ピラリン、カルボキシメチルリジン、イミダゾロン化合物、カルボキシエチルリジン、MGOダイマー、GOダイマー、イミダゾリジン、アルグピリミジンなどが含まれ、ALEsには、たとえばマロンジアルデヒドリジン、ヒドロキシノネナール修飾物などが含まれる。
【0048】
「カルボニル化合物」とは、生体由来または非生体由来に関係なく、蛋白修飾の原因となるカルボニル基を有する化合物であればよく、ジカルボニル化合物も含まれる。従って、カルボニル化合物の具体例としては、アラビノース、GO、MGO、3-DG、グリコールアルデヒド、デヒドロアスコルビン酸、ヒドロキシノネナール、マロンジアルデヒド、アクロレイン、5-ヒドロキシメチルフルフラール、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、レプリン酸、フルフラールなどを挙げることができる。
【0049】
「ビタミンB6欠乏症」とは、ビタミンB6の欠乏に基因する諸疾患をいい、口角炎、口内炎、舌炎、口唇炎、急性および慢性湿疹、接触性皮膚炎、末梢神経炎、貧血、リンパ球減少症、神経障害などが例示される。「ビタミンB6(分子)」には、ピリドキシン、ピロドキサール、ピリドキサミンや、それらのリン酸エステルが包含される。
【0050】
「蛋白修飾物生成抑制剤」の有効成分であるβ-ラクタム系化合物は、in vivo、ex vivoまたは/およびin vitroに拘わらず、蛋白修飾物の生成を結果的に抑制することができる。「結果的に抑制する」とは、カルボニル化合物をトラップする作用を有することによるものであってもよく、蛋白修飾物を生成する反応を抑制することによるものであってもよく、最終的に蛋白修飾物の生成を抑制すればよく、その作用機序には限定されない。なお、「抑制剤」または「保護剤」の語には、予防または/および治療のために使用する薬剤が包含される。
【0051】
上記したとおり、β-ラクタム系化合物は、生体内において、副作用としてのビタミンB6欠乏症を示すことなく、それ自体で蛋白修飾物生成抑制作用を示すものである。この事実は、次の試験によって確認することができる。
【0052】
(A)β-ラクタム系化合物がそれ自体で蛋白修飾物生成抑制作用を示す事実を証明する試験:
(1)代表的なAGEsであるペントシジンを指標として、血液透析患者から血漿を採取し、本発明の化合物を加え、一定時間後のペントシジン生成量を測定した。
(2)ヒドロキシラジカルによるフェニルアラニンのヒドロキシル化反応抑制効果を指標として、フェニルアラニンと過酸化水素の混合物に本発明の化合物を加え、一定時間後のo-またはm-チロシンの生成率を測定した。
(3)パーオキシナイトライトによるチロシンのニトロ化反応の抑制効果を指標として、チロシンとパーオキシナイトライトの混合物に本発明の化合物を加え、一定時間後のニトロチロシンの生成率を測定した。
【0053】
(B)β-ラクタム系化合物がビタミンB6欠乏症を惹起しないことを証明する試験:ビタミンB6水溶液に本発明の化合物を加え、一定時間後のビタミンB6残存量を測定した。
【0054】
β-ラクタム系化合物を有効成分として含有する本発明の蛋白修飾物生成抑制剤は、以下に例示する病態の予防および/または治療に有用である:腎障害、糖尿病合併症(腎症、神経障害、網膜症、白内障など)、動脈硬化、透析合併症である透析アミロイドーシス、腹膜透析患者における腹膜硬化症、中枢神経疾患であるアルツハイマー病、ピック病およびパーキンソン病、リウマチ性関節炎、日光弾性線維症、老化など。当該抑制剤は、特に腎障害、糖尿病性腎症の予防および/または治療に有用である。
【0055】
予防剤または治療剤として用いる場合、β-ラクタム系化合物を、そのままあるいは水に希釈する等の各種処理を施して使用することができ、医薬品、医薬部外品などに配合して使用することができる。この場合の配合量は、病態や製品に応じて適宜選択されるが、通常全身投与製剤の場合には、0.001〜50重量%、特に0.01〜10重量%とすることができ、0.001重量%より少ないと満足する予防または治療作用が認められない可能性があり、また、5重量%を越えると製品そのものの安定性や香味等の特性が損なわれる可能性があるので好ましくない。
【0056】
β-ラクタム系化合物は、遊離形または塩形で製剤中に含有されてよい。塩形としては、通常、薬剤学的に許容されているもの、たとえば無機塩基や有機塩基との塩、無機酸、有機酸、塩基性または酸性アミノ酸などの酸付加塩などが挙げられる。無機塩基との塩としては、たとえば、アルカリ金属(ナトリウム、カリウムなど)塩、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウムなど)塩、アルミニウム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。有機塩基との塩としては、たとえば、第1級アミン(エタノールアミンなど)、第2級アミン(ジエチルアミン、ジエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N'-ジベンジルエチレンジアミンなど)、第3級アミン(トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、トリエタノールアミンなど)との塩が挙げられる。
【0057】
無機酸との塩としては、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などとの塩が例示され、有機酸との塩としては、ギ酸、酢酸、乳酸、トリフルオロ酢酸、フマール酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、安息香酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸などとの塩が例示される。さらに、塩基性アミノ酸との塩としては、アルギニン、リジン、オルニチンなどとの塩が例示され、酸性アミノ酸との塩としては、アスパラギン酸、グルタミン酸などとの塩が例示される。
【0058】
また、β-ラクタム系化合物は、必要に応じて、アミノグアニジン、ピリドキサミン誘導体、OPB-9195、ビグアナイド化合物、AGEs架橋形成阻害薬、アマドリ化合物を分解する酵素、GSH、システイン、アセチルシステイン、ビタミンE、ユビキノール、アルドース還元酵素阻害薬、カルボニル化合物トラップ剤など、公知の薬物と共に使用されてもよく、これにより蛋白修飾物生成抑制剤としての作用の持続性を高めることができる。また、β-ラクタム系化合物を失活化または分解する物質を同定し、これを阻害する物質を選択し、これを併用あるいは配合し、組成物中の有効成分の安定化を図ることができる。
【0059】
本発明の薬剤の投与方法として、経口投与や静脈内投与以外に、経粘膜投与、経皮投与、筋肉内投与、皮下投与、直腸内投与などが適宜選択でき、その投与方法に応じて、種々の製剤として用いることができる。以下に、各製剤について記載するが、本発明において用いられる剤型はこれらに限定されるものではなく、医薬製剤分野において通常用いられる各種製剤として用いることができる。
【0060】
蛋白修飾物が関与する病態に対する予防薬または治療薬として用いる場合には、β-ラクタム系化合物の経口投与量は、0.03mg/kg〜30mg/kgの範囲が好ましく、より好ましくは0.1mg/kg〜10mg/kgである。全身投与を行う場合、特に静脈内投与の場合には老若男女または体型などにより変動があるが、有効血中濃度が0.2μg/mL〜20μg/mL、より好ましくは0.5μg/mL〜10μg/mLの範囲となるように投与する。
【0061】
経口投与を行う場合の剤型として、散剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、錠剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤およびシロップ剤などがあり、適宜選択することができる。また、それら製剤について徐放化、安定化、易崩壊化、難崩壊化、腸溶性化、易吸収化等の修飾を施すことができる。また、口腔内局所投与を行う場合の剤型として、咀嚼剤、舌下剤、バッカル剤、トローチ剤、軟膏剤、貼布剤、液剤などがあり、適宜選択することができる。なお、上記製剤について徐放化、安定化、易崩壊化、難崩壊化、腸溶性化、易吸収化などの修飾を施してもよい。
【0062】
上記の各剤型について、公知のドラッグデリバリーシステム(DDS)の技術を採用することができる。本明細書にいうDDS製剤とは、徐放化製剤、局所適用製剤(トローチ、バッカル錠、舌下錠など)、薬物放出制御製剤、腸溶性製剤および胃溶性製剤などのような、投与経路、バイオアベイラビリティー、副作用などを勘案して、最適の製剤形態にした製剤をいう。
【0063】
DDSの構成要素には、基本的に薬物、薬物放出モジュール、被包体および治療プログラムが含まれ、各々の構成要素について、特に放出を停止させた時に速やかに血中濃度が低下する半減期の短い薬物が好ましく、投与部位の生体組織と反応しない被包体が好ましく、さらに、設定された期間において最良の薬物濃度を維持する治療プログラムを有するのが好ましい。薬物放出モジュールは、基本的に薬物貯蔵庫、放出制御部、エネルギー源および放出孔または放出表面を有している。これら基本的構成要素は全て揃っている必要はなく、適宜追加あるいは削除などを行い、最良の形態を選択することができる。
【0064】
DDSに使用できる材料としては、高分子、シクロデキストリン誘導体、レシチン等がある。高分子には不溶性高分子(シリコーン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチルセルロース、セルロースアセテートなど)、水溶性高分子およびヒドロキシルゲル形成高分子(ポリアクリルアミド、ポリヒドロキシエチルメタクリレート架橋体、ポリアクリル架橋体、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、水溶性セルロース誘導体、架橋ポロキサマー、キチン、キトサンなど)、徐溶解性高分子(エチルセルロース、メチルビニルエーテル・無水マレイン酸共重合体の部分エステルなど)、胃溶性高分子(ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースナトリウム、マクロゴール、ポリビニルピロリドン、メタアクリル酸ジメチルアミノエチル・メタアクリル酸メチルコポリマーなど)、腸溶性高分子(ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、酢酸フタルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシメチルエチルセルロース、アクリル酸系ポリマーなど)、生分解性高分子(熱凝固または架橋アルブミン、架橋ゼラチン、コラーゲン、フィブリン、ポリシアノアクリレート、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリβヒドロキシ酢酸、ポリカプロラクトンなど)があり、剤型によって適宜選択することができる。
【0065】
特に、シリコン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体およびメチルビニルエーテル・無水マレイン酸共重合体の部分エステルは薬物の放出制御に使用でき、セルロースアセテートは浸透圧ポンプの材料として使用でき、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびメチルセルロースは、徐放性製剤の膜素材として使用でき、ポリアクリル架橋体は口腔粘膜あるいは眼粘膜付着剤として使用できる。
【0066】
また、製剤中には、その剤形(経口投与剤、注射剤、座剤など)に応じて、溶剤、賦形剤、コーティング剤、基剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、溶解補助剤、懸濁化剤、粘稠剤、乳化剤、安定剤、緩衝剤、等張化剤、無痛化剤、保存剤、矯味剤、芳香剤、着色剤など適宜の添加剤を配合して製造することができる。これら各添加剤について、以下にそれぞれの具体例を挙げるが、これらに特に限定されるものではない。
【0067】
溶剤としては、精製水、注射用水、生理食塩液、ラッカセイ油、エタノール、グリセリンなどを挙げることができる。賦形剤としては、デンプン類、乳糖、ブドウ糖、白糖、結晶セルロース、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、酸化チタン、トレハロース、キシリトールなどを挙げることができる。コーティング剤としては、白糖、ゼラチン、酢酸フタル酸セルロースおよび上記記載した高分子などを挙げることができる。基剤としては、ワセリン、植物油、マクロゴール、水中油型乳剤性基剤、油中水型乳剤性基剤などを挙げることができる。
【0068】
結合剤としては、デンプンおよびその誘導体、セルロースおよびその誘導体、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、トラガント、アラビアゴムなどの天然高分子化合物、ポリビニルピロリドンなどの合成高分子化合物、デキストリン、ヒドロキシプロピルスターチなどを挙げることができる。滑沢剤としては、ステアリン酸およびその塩類、タルク、ワックス類、小麦デンプン、マクロゴール、水素添加植物油、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールなどを挙げることができる。崩壊剤としては、デンプンおよびその誘導体、寒天、ゼラチン末、炭酸水素ナトリウム、セルロースおよびその誘導体、カルメロースカルシウム、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースおよびその塩類ならびにその架橋体、低置換型ヒドロキシプロピルセルロースなどを挙げることができる。
【0069】
溶解補助剤としては、シクロデキストリン、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。懸濁化剤としては、アラビアゴム、トラガント、アルギン酸ナトリウム、モノステアリン酸アルミニウム、クエン酸、各種界面活性剤などが挙げられる。粘稠剤としては、カルメロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、トラガント、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウムなどが挙げられる。乳化剤としては、アラビアゴム、コレステロール、トラガント、メチルセルロース、各種界面活性剤、レシチンなどが挙げられる。
【0070】
安定剤としては、亜硫酸水素ナトリウム、アスコルビン酸、トコフェロール、キレート剤、不活性ガス、還元性物質などがある。緩衝剤としては、リン酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、ホウ酸などがある。等張化剤としては、塩化ナトリウム、ブドウ糖などがある。無痛化剤としては、塩酸プロカイン、リドカイン、ベンジルアルコールなどがある。保存剤としては、安息香酸およびその塩類、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、逆性石けん、ベンジルアルコール、フェノール、チロメサールなどがある。矯味剤としては、白糖、サッカリン、カンゾウエキス、ソルビトール、キシリトール、グリセリンなどがある。芳香剤としては、トウヒチンキ、ローズ油などがある。着色剤としては、水溶性食用色素、レーキ色素などがある。
【0071】
上記したように、医薬品を徐放化製剤、腸溶性製剤または薬物放出制御製剤のようなDDS製剤化することにより、薬物の有効血中濃度の持続化、バイオアベイラビリティーの向上等の効果が期待できる。しかし、β-ラクタム系化合物は生体内で失活化または分解され、その結果、所望の効果が低下または消失する可能性がある。従って、β-ラクタム系化合物を失活化または分解する物質を阻害する物質を本発明の蛋白修飾物に関与する病態の予防または治療組成物と併用することにより、成分の効果をさらに持続化させ得る。これらは製剤中に配合してもよく、または別々に投与してもよい。当業者は適切に、β-ラクタム系化合物を失活化または分解する物質を同定し、これを阻害する物質を選択し、配合あるいは併用することができる。
【0072】
製剤中には、上記以外の添加物として通常の組成物に使用されている成分を用いることができ、これらの成分の添加量は、本発明の効果を妨げない範囲で通常量とすることができる。
【0073】
β-ラクタム系化合物は、また、腹膜透析や血液透析における蛋白修飾物質による障害を抑制するために使用することができる。すなわち、蛋白修飾物生成抑制剤としてのβ-ラクタム系化合物を、常套の腹膜透析液や血液透析液中に配合すればよい。
【0074】
本発明による液体試料中のカルボニル化合物含有量を低減させる方法は、蛋白修飾物生成抑制剤としてのβ-ラクタム系化合物と当該液体試料とを接触させる工程を含むものである。
【0075】
また、本発明の蛋白修飾物の生成抑制方法は、蛋白修飾物生成抑制剤としてのβ-ラクタム系化合物を、患者血液または腹膜透析液と接触させる工程を含むものである。透析における蛋白修飾物とは、腹膜透析または血液透析を受ける患者に由来するカルボニル化合物により生成される蛋白修飾物および腹膜透析液または血液透析液自体に由来するカルボニル化合物により生成される蛋白修飾物などが含まれる。
【0076】
β-ラクタム系化合物を添加する腹膜透析液または血液透析液の組成は、公知のものでよい。一般的な腹膜透析液は、浸透圧調節剤(グルコースなど)、緩衝剤(乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酢酸、ピルビン酸、コハク酸等の有機酸、炭酸水素ナトリウムなど)、無機塩類(ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、塩素イオンなど)などで構成されている。β-ラクタム系化合物を添加した腹膜透析液または血液透析液は、そのまま密封して加熱滅菌することができる。そうすることによって、加熱滅菌処理時または保存時に伴う、これら主成分からの蛋白修飾物の生成を抑制することができる。
【0077】
また、第一室および第二室からなる分画された容器に腹膜透析などの液を収容し、第一室に還元糖を収容し、第二室にβ-ラクタム系化合物を収容し、使用直前に混合しても良い。アミノ酸が含まれる場合には、当業者は適宜第三室を設ける等、最良の形態をとることができる。
【0078】
腹腔内または血管内に投与された後は、β-ラクタム系化合物が蛋白修飾物の生成を抑制するため、腹膜硬化のような副作用を軽減できる。さらに、その他の病態(糖尿病合併症など)の予防・治療にも効果を発揮することが期待できる。透析液には、β-ラクタム系化合物の他に、公知のアミノグアニジンなどの薬物を混合して用いることができる。また、粉末型透析剤にも応用可能である。
【0079】
適当な混注用コネクターを装備した透析回路に、β-ラクタム系化合物を注入することもできる。また、β-ラクタム系化合物を直接腹腔内に注入して、腹腔内で腹膜透析液と混合することもできる。また、腹膜透析液を患者へ注入する前、または腹腔内貯留中に、β-ラクタム系化合物を静脈内注射することにより、蛋白修飾物の生成を効果的に抑制することもできる。
【0080】
透析液などは、適当な密閉容器に充填し、滅菌処理する。滅菌処理には高圧蒸気滅菌や熱水滅菌などの加熱滅菌が有効である。この場合、高温で有害物質を溶出せず、滅菌後も輸送に耐える強度を備えた容器を用いる。具体的には、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、エチレン酢酸ビニル共重合体などからなる可撓性プラスチックバッグが挙げられる。また、外気の影響による液の劣化を避けるために、透析液などを充填した容器をさらにガスバリアー性の高い包装材で包装しても良い。
【0081】
高圧加熱滅菌を含む加熱滅菌により滅菌処理を行う場合、用いられるβ-ラクタム系化合物が加熱などの処理に対して十分安定であるならば、透析液配合時にβ-ラクタム系化合物を予め添加してから、加熱滅菌操作を行うこともできる。用いるβ-ラクタム系化合物が加熱滅菌に安定でない場合は、加熱を要しない滅菌法を用いることもできる。この様な滅菌法には、例えば濾過滅菌などがある。
【0082】
たとえば、孔径0.2μm程度のメンブランフィルターを備えた精密濾過器を用いて濾過することにより滅菌することができる。濾過滅菌された透析液は、可撓性プラスチックバックなどの容器に充填された後、密封される。また、予め加熱滅菌した腹膜透析液などに、後でβ-ラクタム系化合物を添加しても良い。
【0083】
添加する時期は特に限定されない。液を滅菌後あるいは滅菌前にβ-ラクタム系化合物を添加しても良いし、透析直前または同時に添加しても良いし、透析液を注した後に直接腹膜に注入しても良い。
【0084】
本発明の腹膜透析液は、現行の腹膜透析液や血液透析液と同様の透析処理に利用される。すなわち、腹膜透析の場合にあっては、透析患者の腹腔内に本発明による腹膜透析液を適量注入し、腹膜を通過して生体内の低分子量成分を腹膜透析液内に移行させる。腹膜透析液は間欠的に循環させ、患者の症状に応じて透析を継続する。このとき、β-ラクタム系化合物は透析液内または生体内での蛋白修飾物の生成を抑制する。クレアチニンや無機塩類、あるいは塩素イオンなどの透析成分とともに、カルボニル化合物も血中や腹膜内から腹膜透析液中へ移行する。ゆえに、蛋白修飾物による生体への悪影響が減少される。
【0085】
β-ラクタム系化合物は、透析液のみに使用できるのではなく、栄養輸液、電解質輸液、経腸・経管栄養剤など、あらゆる液剤に利用できる。
【実施例】
【0086】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
[試験例1]ペントシジン生成抑制効果
セファレキシン、セファゾリン、セファゾリンナトリウム、セファマンドールベンジルペニシリンカリウム、オキサシリンナトリウム一水和物、アンピシリンナトリウム、アモキシシリン三水和物、セファレキシン一水和物、7-アミノセファロスポラン酸、ラタモキセフナトリウム、セファクロルおよびセフジニルについて、代表的なAGEsであるペントシジンの生成抑制効果を調べた。
【0087】
血液透析患者の透析前の血漿を同意の下に透析前に採取し、濾過滅菌し用いた。血漿450μLに各化合物のジメチルスルホキシド溶液50μLを加え(最終濃度:0.8、2.0、5 mM)、37℃で1週間反応を行い、ペントシジンの生成量を測定した。
【0088】
ペントシジンの測定は、以下のようにして行った。インキュベーション後の各サンプル50μLに等容積の10%トリクロロ酢酸を加えた後、5000gで5分間遠心分離した。上清を除去後、ペレットを300μLの5%トリクロロ酢酸で洗浄した。ペレットを減圧下乾燥後、窒素雰囲気下で100μLの6N HCl溶液中にて110℃で16時間加水分解を行った。次いで酸加水分解物に100μLの5N NaOHおよび200μLの0.5Mリン酸緩衝液(pH7.4)を添加した後、0.5μm孔のポアフィルタを通して濾過し、PBSで希釈した。ペントシジンの濃度は蛍光検出器(RF-10A、島津製作所)を用いた逆相HPLCを用いて測定したMiyata, T.ら著 「プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ・オブ・ユー・エス・エー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)」,(アメリカ), 1996年, 第93巻, p2353-2358)。流出液を335/385nmの励起/蛍光波長でモニターした。合成ペントシジンを標準物質として使用した。ペントシジンの検出限界は、0.1pmol/mgタンパク質であった。
【0089】
抑制効果は、各化合物と同様にして反応させた陽性対照(アミノグアニジン、ピリドキサミン:シグマ、OPB-9195:大塚製薬、オルメサルタン:三共)と比較することにより評価した。結果(ペントシジン量nmol/mL)を、図1(図中、対照とあるのは、溶媒のみを使用した陰性対照を意味する。以下、同じ。)に示す。この結果から、本発明の各化合物が陽性対照に比較して優れたペントシジン生成抑制効果を有することが理解される。
【0090】
[試験例2]ヒドロキシラジカルによるフェニルアラニンのヒドロキシル化反応抑制効果
フェニルアラニン(最終濃度:1 mM)、試験化合物(セファレキシン、セファゾリンおよびセファマンドール、最終濃度:0.1、 0.5、 2.5 mM)、過酸化水素(最終濃度:5 mM)、硫酸銅(最終濃度:0.1 mM)を200 mMの リン酸緩衝液(pH 7.4)に溶解し(全量500μL)、37℃で4時間インキュベートした。インキュベート終了後、DTPA(最終濃度:1mM)、260 unitのカタラーゼを添加して反応を停止させた。o-チロシン および m-チロシンの生成量をHPLCで分析した。すなわち、一定時間後、反応液を100倍希釈し20μL をHPLCにインジェクトし、C18カラム(4.6 x 250mm、5μm:野村化学製)で分離後、励起波長275nm、蛍光波長305nmの条件で蛍光検出器(RF-10A:島津製)を用いて検出した。移動相は、0.6mL/分の流速で、バッファB濃度を6.5%から10%まで25分間で変化させた(バッファA:0.10%トリフルオロ酢酸、バッファB:0.08%トリフルオロ酢酸を含む80%アセトニトリル)。結果をアミノグアニジン、ピリドキサミンおよびオルメサルタンについて得られた結果とともに、図2および3に示す。
【0091】
[試験例3]パーオキシナイトライトによるチロシンのニトロ化反応抑制効果
試験は、Pannala ASらの方法(Free Radic Biol Med 24: 594-606, 1998 )に準じて実施した。すなわち、L-チロシン(最終濃度:100 μM)、試験化合物(セファレキシン、セファゾリンおよびセファマンドール、最終濃度: 0.1、 0.5、 2.5 mM)、パーオキシナイトライト(同仁化学製)(最終濃度:500 μM)を200 mMの リン酸緩衝液(pH 7.4)に溶解し(液量500μL)、37℃で15分間インキュベートさせた。インキュベート終了後、ニトロチロシンの生成量をHPLCで分析した。すなわち、一定時間後、20μLの反応液をHPLCにインジェクトし、C18カラム(4.6 x 250mm、5μm:ウォーターズ製)で分離後、紫外検出器(RF-10A:島津製)を用い280 nmの波長で検出した。移動相は、0.6mL/分の流速で、バッファB濃度を5.0%から30%まで30分間で変化させた(バッファA:0.10%トリフルオロ酢酸、バッファB:0.08%トリフルオロ酢酸を含む80%アセトニトリル)。4-hydroxy-3-nitrobenzoic acid (100μM)を内部標準として使用した。結果をアミノグアニジン、ピリドキサミンおよびオルメサルタンについて得られた結果とともに、図4に示す。
【0092】
[試験例4]
ベンジルペニシリン、オキサシリン、アンピシリン、アモキシシリン、セファレキシン、セファゾリン、およびセファマンドールについて、ビタミンB6との反応性を検討した。ビタミンB6(ピリドキサール-5'-リン酸塩)(50μM)と本発明の各化合物(0.5mM)をリン酸塩緩衝食塩水(PBS)中、37℃でインキュベートした。0〜20時間の間でカイネティックスを測定するために、残存するピリドキサール-5'-リン酸濃度をHPLCで分析した。すなわち、一定時間後、10μLの反応液をHPLCにインジェクトし、Purecil C18カラム(4.6×250mm、5μm:ウォーターズ製)で分離後、励起波長300nm、蛍光波長400nmの条件で蛍光検出器(RF-10A:島津製)を用いて検出した。移動相は、0.6mL/分の流速で、バッファB濃度を0%から3%まで25分間で変化させた(バッファA:0.10%トリフルオロ酢酸、バッファB:0.08%トリフルオロ酢酸を含む80%アセトニトリル)。対照として、ビタミンB6捕捉作用が知られているアミノグアニジンを用いた。
【0093】
10時間後、本発明の化合物のピリドキサール-5'-リン酸残存率は平均97%であったのに対し、陰性対照のアミノグアニジン群のピリドキサール-5'-リン酸残存率はわずか0.2%であり、本発明の化合物がビタミンB6と反応しないことが示された(図5)。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】図1−1と1−2は、陰性対照、陽性対照(アミノグアニジン、ピリドキサミン、OPB-9195、オルメサルタン)およびβ-ラクタム系化合物(セファレキシン、セファゾリン、セファゾリンNa、セファマンドール、ベンジルペニシリン、オキサシリンNa、アンピシリン、アモキシリン、セファレキシン一水和物、7−アミノセファロスポラン酸、ラタモキセフ、セファクロル、セフジニル)について、ペントシジン生成量の比較による抑制効果の評価を示す(試験例1)。
【図2】図2は、陰性対照(アミノグアニジン)、陽性対照(ピリドキサミン、オルメサルタン)およびβ-ラクタム系化合物(セファレキシン、セファゾリン、セファマンドール)のo−チロシン生成比(%)の比較による、ヒドロキシラジカルによるフェニルアラニンのヒドロキシル化反応抑制効果の評価を示す(試験例2)。
【図3】図3は、陰性対照(アミノグアニジン)、陽性対照(ピリドキサミン、オルメサルタン)およびβ-ラクタム系化合物(セファレキシン、セファゾリン、セファマンドール)のm−チロシン生成比(%)の比較による、ヒドロキシラジカルによるフェニルアラニンのヒドロキシル化反応抑制効果の評価を示す(試験例2)。
【図4】図4は、陰性対照(アミノグアニジン)、陽性対照(ピリドキサミン、オルメサルタン)およびβ-ラクタム系化合物(セファレキシン、セファゾリン、セファマンドール)のニトロチロシン生成量の比較による、パーオキシナイトライトによるチロシンのニトロ化反応の抑制効果を示す(試験例3)。
【図5】図5は、陰性対照(アミノグアニジン)およびβ-ラクタム系化合物(セファレキシン、セファゾリン、セファマンドール、ベンジルペニシリン、オキサシリン、アンピシリン、アモキシリン)について、ピリドキサールリン酸残存量(%)の比較によるビタミンB6との反応性を評価したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離形または塩形のβ-ラクタム構造を有する化合物を有効成分とする、蛋白修飾物生成抑制剤。
【請求項2】
β-ラクタムがセフェム系化合物である、請求項1記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
【請求項3】
蛋白修飾物が、AGEs、ALEsおよびこれらの組合せよりなる群から選択されるものである、請求項1および2のいずれか記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
【請求項4】
蛋白修飾物がAGEsである、請求項3記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
【請求項5】
AGEsがペントシジンである、請求項4記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか記載の蛋白修飾物生成抑制剤を含む、腎組織保護剤。
【請求項7】
請求項1〜5いずれか記載の蛋白修飾物生成抑制剤を含む、糖尿病性腎症治療剤。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか記載の蛋白修飾物生成抑制剤を含む、腹膜透析液。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか記載の蛋白修飾物生成抑制剤を含む、血液透析液。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか記載の蛋白修飾物生成抑制剤を液体試料と接触させる工程を含む、液体試料のカルボニル化合物含有量を低減させる方法。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれか記載の蛋白修飾物生成抑制剤を患者の血液または腹膜透析液と接触させる工程を含む、蛋白修飾物の生成抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−131535(P2007−131535A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−434051(P2003−434051)
【出願日】平成15年12月26日(2003.12.26)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【出願人】(597142376)
【出願人】(597142387)
【Fターム(参考)】