説明

表面処理銅箔並びに回路基板

【課題】 表面粗さを抑えながら絶縁基板との密着性を維持し、高周波特性、ファインパターン化に最適な表面処理銅箔を提供し、並びに該表面処理銅箔を用い、高周波特性、ファインパターン化に優れた回路基板を提供する。
【解決手段】本発明は、未処理銅箔の少なくとも片面に粗化粒子を付着させ、表面の粗さRzが0.6〜2.0μm、明度値が35以下とした、粗化処理面を有する表面処理銅箔であり、該表面処理銅箔を使用した回路基板である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面粗さを抑えながら絶縁基板との密着性を維持し、高周波特性、ファインパターン化に適する表面処理銅箔に関するものであり、更に、該表面処理銅箔を用いた回路基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化、軽量化に伴い、最近の各種電子部品は高度に集積化されている。
これらに使用されるフレキシブル基板、高密度実装用多層基板、高周波回路基板等(以下これらを総称して回路基板またはプリント配線板と言うこともある)を製作する基板用複合材は、導体(銅箔)とそれを支持する絶縁基板(フィルムを含む)から構成されており、絶縁基板は、導体間の絶縁を確保し、部品を支持する強度を有している。
【0003】
また、回路基板を伝わる信号の速度が速くなるに従い、回路基板を構成する絶縁材料の特性インピーダンスや信号伝搬速度などが重要となり、絶縁材料の誘電率、誘電体損失などの特性向上が要求される。
これらの条件を満足させる絶縁材料として提供されている基板用の材料としてはフェノール樹脂材が多く、めっきスルーホールには、エポキシ樹脂材が多い。また、近年では信号の高速伝搬から誘電率が小さく、誘電体損失も小さい絶縁材料が要求され、それに対する材料も開発されている。
また、耐熱性を必要とする回路基板用絶縁材料として、耐熱性エポキシ樹脂、ポリイミドなどが使われている。この他、寸法安定性のよい材料、反り、ねじれの少ない材料、熱収縮の少ない材料などが開発されている。
【0004】
更に、フレキシブルな回路基板用絶縁材料で耐熱性を必要とする場合、或いは半田付けを必要とする場合などにはポリイミドフィルムが用いられる。一方、カーボンインクなどの印刷で、半田を使わない用途ではポリエステルフィルムが用いられている。近年、フレキシブル基板等も複雑になり、多くの場合、ポリイミドフィルムが使われるようになってきている。
【0005】
しかし、ポリイミドフィルムは吸水により誘電特性が大きく変化し、吸水環境下では高周波特性が大きく低下する問題がある。また、高度な耐熱性を有する反面、熱溶融性がないので、導体である銅箔との複合には、銅箔上に前駆体であるポリアミック酸をキャスティングした後イミド化したり、ポリイミドフィルム上に接着層を設けた後銅箔とラミネートするなどの方法をとる必要があり工程が複雑になる問題がある。
【0006】
そこで、ポリイミドに比べ、吸湿性が著しく低いために誘電特性の変化が少なく、半田付けに耐えられる耐熱性を有する熱可塑性材料として、液晶ポリマー及びポリエーテルエーテルケトンが注目されている。しかし、この液晶ポリマーやポリエーテルエーテルケトン系樹脂からなるフィルムは、銅箔との接着性が低く、銅箔とのピール強度がポリイミドに比較すると弱い傾向にある。
【0007】
これらの絶縁フィルムに張り合わせて導電層として使用される銅箔は主に電解銅箔である。電解銅箔は、通常、図4に示すような電解製箔装置により製箔され、図5に示す表面処理装置により密着性向上のための粗化処理や防錆処理等が施される。
図4に示す電解製箔装置は、回転するドラム状のカソード2(表面はSUS又はチタン製)と該カソードに対して同心円状に配置されたアノード1(鉛又は貴金属酸化物被覆チタン電極)からなり、電解液3を流通させつつ両極間に電流を流して、該カソード表面に所定の厚さに銅を析出させ、その後該カソード表面から銅を箔状に剥ぎ取る。この段階の銅箔4が未処理銅箔である。また該未処理銅箔4の電解液3と接していた面がマット面、回転するドラム状のカソード2と接していた面が光沢面(シャイニー面)である。
【0008】
製箔された未処理銅箔4は、絶縁基板と積層し銅張積層板(回路基板)を製造するのに必要とされる接着強度(ピール強度)を高めるために、図5に示すような表面処理装置により未処理銅箔4に、電気化学的或いは化学的な表面処理を連続的に行う。図は電気化学的に表面処理を連続的に行う装置を示すもので、未処理銅箔4を電解液5が充填された電解層、電解液6が充填された電解層を連続的に通過させ、電極7をアノードとし、銅箔自体をカソードとして表面処理を施し、絶縁(樹脂)基板と接着させるときの密着性を高めるために、粒状の銅を未処理銅箔4の表面に析出させる。この工程が粗化処理工程であり、粗化処理は、通常、未処理銅箔4のマット面またはシャイニー面に施される。これらの表面処理を施した後の銅箔が表面処理銅箔8であり、絶縁基板と積層されて回路基板となる。
【0009】
しかし、エポキシ樹脂、ポリイミド、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂のうち、特に液晶ポリマーは銅箔との接着強度(ピール強度)がだし難い樹脂として知られている。一般的に、これらの樹脂等と銅箔とのピール強度は銅箔の表面粗さRz(ここで表面粗さRzは、JISB 0601−1994「表面粗さの定義と表示」の5.1
十点平均粗さの定義に規定されたRzを言う。)に大きく影響される。銅箔の表面粗さを考える場合は、未処理銅箔の表面粗さRzと、銅箔表面を粗化処理した表面粗化銅箔のRzが挙げられる。従来より平滑な未処理銅箔において、特にピール強度がだし難い樹脂に対するピール強度を高める場合には、粗化処理時に流す電流を大きくし、粗化処理時の粒伏銅の付着量を多くし表面粗さRzを増やして対処する方法が行なわれてきている。確かにこの方法は、ピール強度を上げるための目的には適しているが、高周波特性を考慮した用途においては表皮効果の関係上、表面粗さRzが大きく、或いは粗化粒子の量が多くなることは好ましいことではない。
【0010】
また、液晶ポリマーフィルムの種類によっては、表面処理銅箔の表面粗さRz値をあげてもピール強度に相関が得られないフィルムの種類がある。このようなフィルムについては、粗化粒子によって形成される銅箔表面の突起物の形状が深く関係していることが分かってきている。
また、回路基板における回路パターンについても高密度化が要求され、配線は微細な線幅と配線ピッチから成る回路パターンで形成されるいわゆるファインパターンのプリント配線板が要求されるようになってきている。最近では、配線ピッチが50μm〜100μm程度で線幅が20μm前後の高密度極細配線からなるプリント配線板(回路基板)が要求されている。ピール強度を上げるための粗化粒子における表面粗さRzを大きくしたり、付着量を多くすることは、これらのファインパターン化の場合にも不適である。
一方、未処理銅箔の表面を粗くし、粗化粒子付着量を減らすことでピール強度を上げることも可能であるが、高周波特性を損なう上から、また、ファインパターンを作製する上でも不適当である。
【0011】
現在、液晶ポリマーフィルムとの接着性を改良した銅箔として特定の元素を含み、特定厚さの表面酸化層、防錆層を設けた銅合金箔が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、液晶ポリマーをフィルム化すると、棒状分子が面方向に配向するために、厚み方向の強度が極端に低下するので、この様な銅箔では、液晶ポリマーフィルムが銅箔界面との極近傍で容易に破壊してしまうために、結果として十分なピール強度が得られていない。
【0012】
また、液晶ポリマーフィルムとの接着性を改善するために、銅箔表面にプラズマ処理(例えば特許文献2参照)、UV処理(例えば特許文献3参照)などの表面処理を施す方法も提案されているが、これらの方法を用いても、表面粗さの低い銅箔では十分なピール強度が得られていない。
【0013】
【特許文献1】特開2003−064431号公報
【特許文献2】特開2001−049002号公報
【特許文献3】特開2000−233448号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
発明が解決しようとする課題は、高周波特性が良く、ファインパターンが作成でき、ピール強度が充分な表面処理銅箔、並びに回路基板を提供することである
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、高周波特性が良く、ファインパターンが作成でき、ピール強度が充分な表面処理銅箔、並びに回路基板を提供するためになされたものであり、絶縁基板として一般的に使用されているエポキシ樹脂基板、ポリイミドフィルム及び吸湿性が著しく低いために誘電特性の変化が少なく、半田付けに耐えられる耐熱性を有しながらピール強度が得られにくい液晶ポリマーフィルム、ポリエーテルエーテルケトン系基板に対し、銅箔表面の粗さを大きくすることなくピール強度が充分で、ファインパターン化を可能とした表面処理銅箔、並びに該表面処理銅箔を使用した回路基板の開発に成功したものである。
【0016】
本発明の表面粗化銅箔は、未処理銅箔の少なくとも片面に粗化粒子を付着させて粗化した粗化処理面の表面粗さRzが0.6〜2.0μm、明度値が35以下である表面処理銅箔である。
【0017】
本発明において、前記粗化処理面は銅または銅合金粒子を付着させて粗化することが好ましく、付着させる銅または銅合金の量は、1mg/dm2以上160mg/dm2以下であることが特に好ましい。
本発明の前記粗化処理面は、粗化粒子の突起物で形成されており、該突起物の高さは0.3〜3.0μmであり、観察断面25μmの範囲に突起物が10〜100個の範囲で略均等に分布しているが望ましい。
本発明の表面処理銅箔における前記各突起物は、その最大幅が、0.05μm以上で、25μmの範囲に存在する突起物の個数で25μmを割った長さの5倍以下であることが好ましい。
【0018】
本発明の表面処理銅箔は、粗化処理前の銅箔(未処理銅箔)が電解銅箔であり、また、未処理銅箔の電解銅箔が粒状の結晶であることが望ましい。
本発明の表面処理銅箔は、未処理銅箔の少なくとも表面処理を行う面の粗さがRzで2.0μm以下であることが好ましく、特に、未処理銅箔の粗化処理を施す方の表面の表面粗さRzが2.0μm以下のマット面であることが更に好ましい。
【0019】
本発明の表面処理銅箔における前記突起物は、Cuからなる粒子若しくはCuとMoの合金粒子、またはCuとNi、Co、Fe、Cr、V、Wの群から選ばれる少なくとも1種の元素からなる合金粒子によって形成されていることが望ましい。
【0020】
本発明の表面処理銅箔は、少なくとも粗化粒子で形成した突起物の面にNi、 Ni合金からなる皮膜が形成され、或いは、少なくとも粗化粒子で形成した突起物の面に亜鉛層または亜鉛合金層または/及びCr金属層またはクロメート層からなる防錆層が設けられていることが好ましい。
本発明の表面処理銅箔は、少なくとも粗化粒子で形成された突起物の面または/及び防錆層の上にシランカップリング層を形成することが好ましい。
【0021】
本発明の回路基板は、前記本発明の表面処理銅箔を用いて作成されている。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、表面処理銅箔の表面粗さがRz:0.6〜2.0μmであり、明度値が35以下であり、絶縁基板に対するピール強度を充分で、ファインパターン化が可能である。
本発明表面処理銅箔を用いた回路基板は、特にファインパターンで高周波特性に優れた配線を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明では、表面処理前の銅箔(未処理銅箔)は、電解もしくは圧延によって製造された銅箔である。現在ファインパターン化が進む中で銅箔も薄箔が望まれているが、圧延箔は薄くするほど加工費が高くなることから電解銅箔が好ましい。
銅箔の厚さは、1μm〜200μmであり、少なくとも片面の表面粗さが、Rz:0.01μm〜2.0μmの銅もしくは銅合金箔であることが好ましい。
銅箔の厚みについては、厚さが1μm以下の銅箔に対し、その表面上に粗化処理を行なうことは、非常に難しく、また、高周波プリント配線板用に使用する銅箔としては、200μm以上の箔は現実的でないと考えられるためである。
【0024】
未処理銅箔の表面粗さについては、Rz:0.01μm以下の箔は、現実的に製造も困難であり、もし製造できても製造コストが高騰することから現実的に不適であり、また、Rz:2.0μm以上の未処理銅箔も使用可能ではあるが、高周波特性及びファインパターン化を考えると未処理銅箔の表面粗さが2μm以下であることが好ましい。2μm以下の粗さの銅箔を得るためには、柱状結晶でも得られるが、粒状晶の方が粗さを抑えるには適している。また、ファインパターンをきる上でも粒状結晶の方が好ましい。
なお、下記本発明の実施例はすべて粒状結晶を持つ銅箔を使用している。
【0025】
未処理銅箔表面の粗化処理は、未処理銅箔の表面に粗化粒子を付着させ、その表面粗さがRz:0.6〜2.0μmの粗化面とする。
未処理銅箔の表面に粗化粒子を付着させた表面の粗さRzが0.6μm未満では、ピール強度が低いため本発明の目的を果たす表面処理銅箔としては満足でなく、また、Rzが2.0μmより大きいと、高周波特性が低下するうえにファインパターン化に不向きとなる。
また、本発明において、未処理銅箔上に付着させる銅もしくは銅合金の付着量は、1mg/dm〜160mg/dmが好ましい。付着量が1mg/dm未満ではピール強度が低いため本発明の目的を果たす表面処理銅箔としては満足でなく、また160mg/dmより大きいと、高周波特性が低下するうえにファインパターン化に不向きとなるためである。
【0026】
本発明において、未処理銅箔の表面を粗化処理した表面粗化銅箔は、明度値が35以下である。本発明において明度とは、表面の粗さを見る指標として使用されている明度であり、測定方法としては、測定サンプル表面に光をあて光の反射量を測定し明度値として表す方法で測定する。この方法により表面処理銅箔における処理面の明度を測定すると、表面粗さのRzが大きいかまたは粗化粒子間の深さが深い時は、光の反射量が少なくなるため明度値が低くなり、平滑だと光の反射量が大きくなり明度値が高くなる傾向がある。絶縁基板、特に液晶ポリマーフィルムとのピール強度を向上させるためには明度値を35以下とする必要がある。即ち、明度値が35以上では、粗化面のRzを大きくしても表面に形成される粗化粒子の表面凹凸がなだらかな凹凸となるため表面処理銅箔と絶縁基板(特に、液晶ポリマーフィルム)との食いつきが悪く、ピール強度が向上しないためである。
なお、明度値の測定は、被測定銅箔に
Ni: 0.01〜0.5mg/dm2
Zn: 0.01〜0.5mg/dm2
Cr: 0.01〜0.3mg/dm2
の範囲内の防錆処理を施した後、明度計(スガ試験機株式会社 機種名:SMカラーコンピューター:型番SM−4)を使用して明度を測定した。
【0027】
以上のような表面粗さ(Rz)および明度値を兼ね備えた本発明の表面処理銅箔は、特に接着性に難点のある液晶ポリマーフィルムに対し、後記する実施例・比較例から明らかなように、優れたピール強度およびファインパターン特性を有する。
本発明においては、上記したように、未処理銅箔の表面を粗化処理したものであるが、さらに優れたピール強度およびファインパターン特性を得るために粗化粒子で形成される突起物を略均等に存在(分布)させることが好ましい。また、前記突起物の高さは、0.3μm乃至3.0μmのものがよい。突起物の高さが、0.3μm以下では、高さが低いためピール強度を上げる効果が得られず、3.0μm以上では、高周波特性が低下するうえにファインパターン化に不向きとなるためである。なお、ここでいう高さとは、未処理銅箔の表面と突起物の頂点との距離をいう。
【0028】
また、突起物の個数は、数が少なければ、ピール強度が出せず、また個数が多過ぎると銅箔表面と突起物との密着性が弱く数が多くてもその効果は逆に減少することから、観察断面25μm内に10個〜100個が好適であり、特に20個〜75個が最適である。
【0029】
ここで、本発明でいう突起物の概念について説明すると、隣接する突起物の間に形成される溝部の底と突起物の頂点との距離(以下、溝深さということがある。)が0.01μm未満の場合、このような隣接する突起物は1つの突起物として把握し、また、溝深さが0.01μm以上の場合、このような隣接する突起物は2つの突起物として把握する。この溝深さは、前記した突起物の高さが未処理銅箔の表面と突起物の頂点との距離をいうのに対し、表面粗化処理を行った後の溝部の底と突起物の頂点との距離である。
【0030】
突起物の数を数える方法としては、表面処理銅箔を樹脂で埋め、研磨を行った後断面をSEM観察し、観察写真にて、25μmの長さで上記定義する突起物の数が何個あるかを数える方法が挙げられる。本発明は、この方法を用いて実施例、比較例で作成した銅箔の突起物の数を測定し下記の表1に記載した。また、断面観察の概略図を図1(好適な実施形態)、図2、3(欠陥個所のある実施形態)に記載する。
【0031】
本発明の好適な例において、突起物の高さが、0.3μm〜3.0μmである突起物の個数が、25μm内に10個〜100個存在し、該突起物間に深さが0.2μm以上の溝を存在させて略均等に分布させるのは、突起物が25μm以内で部分的に集中することを避けるためであり、銅箔の幅方向・長手方向でピール強度の安定化を図るためである。
なお、本明細書で記載している「略均等に分布している」とは、観察幅を25μmとした時に、突起物の頂点と銅箔表面の間の高さが0.3μm〜3.0μmである突起物の個数をn(個)とし、該「n」を断面観察の幅25μmで割った、25/n(μm)の幅の領域に、少なくとも突起物の1つの一部分がその領域に存在している、ことをいう。
【0032】
また、ピール強度の安定化を図るためには、形成する突起物の幅に均一性があることが望ましく、各突起物の最大幅が、0.01μm以上で、25μmの範囲内に存在する突起物の個数で25μmを割った長さの5倍以下の幅であることが好ましい。
なお、ここでいう最大幅とは、前記した断面のSEM観察において、突起物の高さ方向に対して垂直な方向の距離の最大値をいう。また、突起物間の溝深さにおいては、突起物間の平均溝深さが、0.2μm以上であると更に好ましい。
突起物間の平均溝深さは、溝の深さが0.2μm以上の突起物n個に対して、各突起物の両サイドの溝深さを測定し、その時の値を A1(μm) B1(μm)・・・・・・・An(μm) Bn(μm)とした時、次式により求めた値である。
((A1+B1)+・・・・・・+(An+Bn))/2/n
【0033】
図1は本発明の実施形態に適合した表面処理銅箔の観察断面の図であり、突起物の数は25μm以内に10個以上存在し、その高さは0.3〜3.0μmの範囲に入っており、溝深さは0.2μm以上であり、突起物の最大幅は0.01μm以上、観察断面25μmの範囲内に存在する突起物の個数で25μmを割った長さの5倍以下の幅となっている。
【0034】
図2は突起物の最大幅が0.01μm以上、観察断面25μmの範囲内に存在する突起物の個数で25μmを割った長さの幅が5倍以上の突起物が存在し、図3は突起物が均等に分布していない断面を示している。
このように、図1に示す断面形状の表面処理銅箔は絶縁基板、特に液晶ポリマーフィルムとの密着性が良く、ファインパターンの回路構成が可能であるが、図2、3に示すように、突起物が均等に分布されていない場合には液晶ポリマーフィルムとの密着性に支障が生じたり、ファインパターンの回路構成ができない恐れが生じることがある。
【0035】
本発明の基板複合材を構成する表面処理銅箔の突起物を形成する粗化粒子は、Cu粒子またはCuとMoの合金粒子、あるいはCuまたはCuとMoの組成に更にNi、Co、Fe、Cr、V及びWの群から選ばれる少なくとも1種の元素を含んでいる合金粒子である。
Cu粒子またはCuとMoの合金粒子で所望の突起物は得られるが、Cu粒子またはCuとMoの組成に更にNi、Co、Fe、Cr、V及びWの群から選ばれる少なくとも1種の元素を含んでいる2種類以上の合金粗化粒子で形成された突起物は更に均一性のある突起物を形成できるためより効果的である。
【0036】
これらの突起物を形成する粗化粒子は、化学結合を基板やフィルムを構成する樹脂と行うため、ピール強度を増大させると考えられる。樹脂種にもよるが、ピール強度を化学結合で増大させる粒子としてCu−Mo合金、Cu−Ni合金、Cu−Co合金、Cu−Fe合金、Cu−Cr合金、Cu−Mo−Ni合金、Cu−Mo−Cr合金、Cu−Mo−Co合金、Cu−Mo−Fe合金などである。
【0037】
前記突起物を形成する合金粒子に含まれるMo、Ni、Co、Fe、Cr、V及びWの元素は、Cuの存在量に対し0.01ppm〜20%を占めることが好ましい。存在量が20%を越える合金組成では、後工程で回路パターンをエッチングする際に、溶解しにくくなるためである。
本発明において、均一な突起物を得るためには、各種電解液により、電流密度、液温、処理時間を最適に調整することが必要である。
【0038】
また、突起物を設けた表面に、粉落ち性、耐塩酸性、耐熱性、導電性を向上させることを目的にNi、Ni合金、Zn、Zn合金、Agの群から選ばれる少なくとも1種の金属めっき層を設けると良い。更に、突起物を設けなかった方の表面にも耐塩酸性、耐熱性、導電性を向上させることを目的にNi、Ni合金、Zn、Zn合金、Agの少なくとも1種の金属めっき層を付着させると良い。これらの目的を果たす付着金属の量は、0.05mg/dm2以上、10mg/dm2以下であることが望ましい。
特に液晶ポリマー樹脂等に対してはNiまたはNi合金がピール強度を高める効果があり、有効である。
【0039】
上記構成からなる粗化処理面上にCrおよび/またはクロメート被膜を形成し、防錆処理を行ない、必要に応じシランカップリング処理または防錆処理+シランカップリング処理を施す。
絶縁基板と表面粗化銅箔を貼り合わせる方法としては、熱プレス方式、連続ロールラミネート方式、連続ベルトプレス方式などが用いられ、接着剤等を介さずに熱圧着する。
【0040】
以下に、本発明を実施形態に基づいて更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0041】
本実施例においては、銅箔、粗化処理用めっき液として、以下に記載したものを用いた。
(イ)銅箔:
(i)原箔1
厚さ:12μmで、マット面粗度:Rz=0.86μm、光沢面粗度:Rz=1.62μmの未処理電解銅箔、及び未処理圧延銅箔を用意した。
(ii)原箔2
厚さ:12μmで、マット面粗度:Rz=1.26μm、光沢面粗度:Rz=1.53μmの未処理電解銅箔を用意した。
(iii)原箔3
厚さ:12μmで、マット面粗度:Rz=1.09μm、光沢面粗度:Rz=1.24μmの未処理電解銅箔を用意した。
【0042】
(ロ)表面粗化処理用めっき液およびめっき条件:
(i)電気めっきA
・めっき浴1
硫酸銅(Cu金属として) 1〜10g/dm3
硫酸 30〜100g/dm3
モリブデン酸アンモニウム(Mo金属として) 0.1〜5.0g/dm3
電流密度 10〜60A/dm
通電時間 1秒〜45秒
浴温 20〜60℃
・めっき浴2
硫酸銅(Cu金属として) 20〜70g/dm3
硫酸 30〜100g/dm3
電流密度 5〜45A/dm2
通電時間 1秒〜1分
浴温 20℃〜60℃
【0043】
(ii)電気めっきB
・めっき浴1
硫酸銅(Cu金属として) 1〜50g/dm3
硫酸ニッケル(Ni金属として) 3〜25g/dm3
メタパナジン酸アンモニウム(V金属として) 0.1〜15g/dm3
pH 1.0〜4.5
電流密度 10〜60A/dm2
通電時間 5秒〜60秒
浴温 20℃〜60℃
・めっき浴2
硫酸銅(Cu金属として) 10〜70g/dm3
硫酸 30〜120g/dm3
電流密度 20〜50A/dm2
通電時間 5秒〜1分
浴温 20℃〜65℃
【0044】
(iii)電気めっきC
・めっき浴1
硫酸銅(Cu金属として) 1〜50/dm3
硫酸コバルト(Co金属として) 1〜50g/dm3
モリブデン酸アンモニウム(Mo金属として) 0.1〜10g/dm3
pH 0.5〜4.0
電流密度 10〜60A/dm2
通電時間 5秒〜1分
浴温 20℃〜60℃
・めっき浴2
硫酸銅(Cu金属として) 10〜70g/dm3
硫酸 30〜120g/dm3
電流密度 5〜60A/dm2
通電時間 1秒〜1分
浴温 20℃〜65℃
【0045】
(本発明例)
本発明例1〜12として、上記原箔1〜3を上記めっき条件A、B、Cの液組成、浴温度、電流条件の範囲内にてめっき浴1→めっき浴2の順番で少なくとも1回のめっき(粗化処理)を行い、表1に示す表面形状を得た。
更に、その粗化処理面に、Niめっき(0.3mg/dm2)亜鉛めっき(0.1mg/dm2)を施し、その上にクロメート処理を施した。
【0046】
(比較例)
電気めっきA’、B’、C’
比較例1〜12として、上記本発明例における電気めっきA、B、Cのめっき浴2の電流密度、時間、温度条件を下記のめっき浴3に変更し(これらをそれぞれ「電気めっきA’、B’、C’」という)、電気めっきA’、B’、C’のめっき浴1→めっき浴3の順番で少なくとも1回のめっき(粗化処理)を行い比較例の箔を作成した。そして本発明例と同様、粗化処理面に、Niめっき(0.3mg/dm2)亜鉛めっき(0.1mg/dm2)を施し、その上にクロめっきメート処理を施し、比較例試料とした。比較例の表面形状を表1に併記した。
・めっき浴3
硫酸銅(Cu金属として) 20〜70g/dm3
硫酸 30〜120g/dm
電流密度 3A/dm2
通電時間 2分以上(表面粗さにおいて時間を変更)
浴温 15℃
【0047】
表面処理銅箔のピール強度の評価
〔液晶ポリマーフィルム〕
本発明例及び比較例で作成した表面処理銅箔に、液晶ポリマーフィルム1(以下フィルム1という)を下記ラミネート方法で貼り付け、ピール強度を測定した。その結果を表1に示す。
〔液晶ポリマーフィルムと表面処理銅箔のラミネート方法〕
表面処理銅箔と液晶ポリマーフィルム1を積層し、280℃で一定圧力をかけ、10分間保持した後冷却し、基板用複合材とした。
【0048】
〔ポリイミドフィルム〕
本発明例及び比較例で作成した表面処理銅箔を、縦250mm、横250mmに切断したのち、銅箔表面(粗化面の側の面)上に厚さ50μmのポリイミドフィルム(宇部興産製UPILEX−VT)を置き、全体を2枚の平滑なステンレス鋼板で挟み、20torrの真空プレスにより、温度330℃、圧力2kg/cmで10分間熱圧着し、その後、温度330℃、50kg/cmで5分間熱圧着して基板用複合材を作成し、ピール強度を測定した。測定結果を表1及び表2に示す。
【0049】
〔エポキシ樹脂基板〕
本発明例及び比較例で作成した表面処理銅箔を、縦250mm、横250mmに切断したのち、その粗化処理面の側の面を、熱圧着後に厚さ1mmとなる枚数のガラス繊維エポキシプレプリグシート(FR−4)の上におき、全体を2枚の平滑なステンレス鋼板で挟み、温度170℃、圧力50kg/cmで60分間熱圧着し、キャリア箔付きのFR−4キャリアピール用片面銅張積層板を作成し、ピール強度を測定した。得られた結果を表1及び表2に示す。
【0050】
なお、基板用複合材(銅張積層板)のピール強度の測定は、JIS C6471に準じ、180度方向に引き剥がして行った。
【0051】
高周波伝送ロスの評価
本発明例及び比較例で作成した表面粗化銅箔上に、高周波基板用樹脂を含浸させたガラス布プリプレグを置いて加熱プレスし銅張積層板を作成した。次いで銅箔表面にドライフィルムエッチングレジストを貼りエッチングし、高周波プリント配線板を作成した。この高周波プリント配線板回路の直線性は頗る良く、幅100μm、導体間100μmパターンの高周波プリント配線板が完成した。この高周波プリント配線板で5GHzの信号を500mm送ったときの伝送ロスを測定した。本発明例、比較例の銅箔で伝送ロスの減少率を求めた結果を表1及び表2に示す。
【0052】
【数1】

【0053】
ファインパターン特性評価
作成した箔をFR4樹脂に貼り付け図6に断面概略図を示すようにライン幅:L・スペース幅:Sにてレジストした銅箔を、塩化鉄浴にてエッチングし、ライン幅のトップの幅がレジスト幅と同じになるエッチング時間を決定し、各ライン幅及び各スペース幅でレジシトした基盤を各n=10作成(基板1枚に形成するラインを10本とする)し、塩化鉄浴で上記決定した時間、エッチングを行い、各基板において、ライン間にブリッジが発生していないこと、根残りがないこと、ラインのトップの幅がレジストと同じになっていること、を観察し、n=10作成した各基板にそれらが観察されなかったものの中で最小のL・Sの値を表1及び表2に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
表1及び表2から明らかなように、本発明例における表面処理銅箔と比較例における表面処理銅箔を比較検討すると、本発明例の表面処理銅箔は、処理表面粗さが2μm以下と小さいにもかかわらず粗化粒子から形成される突起物の数及びそれに依存する明度(値)によってピール強度が比較例の銅箔(処理表面粗さが2μm以上と大きい)と同程度であり、表面粗さが低い分伝送ロスが比較例にくらべ減少している。また、ファインパターンも20μm/20μm以下にまできることが可能である。
今回表1及び表2には記載しなかったが、ポリエーテルエーテルケトン系の樹脂においても同じような傾向が得られた。
【0057】
本発明は、粗化粒子で形成される粗化処理面の形状を表面粗さと明度値を適正に調整し表面粗さが低くても、粗さの粗い表面処理箔と同等のピール強度が得られ、かつ、ファインな配線パターンを作成することがでる表面処理銅箔である。本発明の表面処理銅箔は一般に銅箔との接着強度が出し難いポリイミドフィルム、液晶ポリマーフィルム等の基板に対しても充分なピール強度が得られ、高周波特性に優れた表面処理銅箔であり、この銅箔を使用することで高周波特性に優れ、ファインパターン化が可能な回路基板を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、熱可塑性液晶ポリマーを主体としたフィルム、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂等との密着性において表面粗さを抑えながら現状と同程度またはそれ以上にピール強度を向上させるとともに高周波特性が良く、ファインパターン化にも適する表面処理銅箔を提供でき、更に、該表面処理銅箔と前記基板(フィルム)とを積層したフレキシブル基板、高密度実装用多層基板、高周波回路用基板用の表面処理銅箔並びに該表面処理銅箔を用いて形成した回路基板に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明表面処理銅箔の一実施形態の断面を示す概略図である。
【図2】本発明の規格から外れる表面処理銅箔の断面概略図である。
【図3】本発明の規格から外れる表面処理銅箔の他の例を示す断面概略図である。
【図4】電解製箔装置の構造を示す説明図である。
【図5】表面処理装置の構成を示す説明図である。
【図6】エッチング後の断面の概略を示す模試模試図である。
【符号の説明】
【0060】
1 電解製箔装置のアノード
2 電解製箔装置のカソード
3 電解製箔装置の電解液
4 未処理銅箔
5 表面処理装置の電解液
6 表面処理装置の電解液
7 表面処理装置のアノード
8 電解銅箔(表面処理銅箔)





【特許請求の範囲】
【請求項1】
未処理銅箔の少なくとも片面に粗化粒子を付着させて粗化した粗化処理面の表面粗さRzが0.6〜2.0μm、明度値が35以下であることを特徴とする表面処理銅箔。
【請求項2】
未処理銅箔の少なくとも片面に銅または銅合金の粗化粒子を、1mg/dm2以上、160mg/dm2以下付着させて粗化したことを特徴とする請求項1に記載の表面処理銅箔。
【請求項3】
前記表面処理銅箔は、未処理銅箔表面から粗化粒子の突起物が形成されており、該突起物は、高さが0.3〜3.0μmで、観察断面25μmの範囲に10〜100個が略均等に分布していることを特徴とする請求項1または2に記載の表面処理銅箔。
【請求項4】
前記表面処理銅箔の各突起物の最大幅は、0.05μm以上で、観察断面25μmの範囲に存在する突起物の個数で25μmを割った長さの5倍以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の表面処理銅箔。
【請求項5】
未処理銅箔が電解銅箔であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の表面処理銅箔。
【請求項6】
未処理銅箔の電解銅箔が粒状の結晶からなることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の表面処理銅箔。
【請求項7】
未処理銅箔の粗化処理を施す面の表面粗さRzが、2.0μm以下であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の表面処理銅箔。
【請求項8】
未処理銅箔の粗化処理を施す面が、表面粗さRzが2.0μm以下のマット面であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の表面処理銅箔。
【請求項9】
前記表面処理銅箔の突起物は、Cuからなる粒子若しくはCuとMoの合金またはCuとNi、Co、Fe、Cr、V、Wの群から選ばれる少なくとも1種の元素からなる合金粒子によって形成されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の表面処理銅箔。
【請求項10】
前記表面処理銅箔の突起物の面にNi、 Ni合金からなる皮膜を形成したことを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の表面処理銅箔。
【請求項11】
少なくとも前記表面処理銅箔の突起物の面に亜鉛層または亜鉛合金層または/及びCr金属層またはクロメート層からなる防錆層を設けたことを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の表面処理銅箔。
【請求項12】
少なくとも前記表面処理銅箔の突起物の面または/及び防錆層の上にシランカップリング層を形成したことを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の表面処理銅箔。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれかに記載の表面処理銅箔により配線パターンを形成することを特徴とする回路基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−103189(P2006−103189A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−293785(P2004−293785)
【出願日】平成16年10月6日(2004.10.6)
【出願人】(591056710)古河サーキットフォイル株式会社 (43)
【Fターム(参考)】