説明

表面検査方法および表面検査装置

【課題】フォーカス異常とドーズ量異常を区別して検出することが可能な表面検査方法を提供する。
【解決手段】所定の繰り返しパターンを有するウェハの表面に直線偏光を照射する照射ステップ(S104)と、直線偏光が照射されたウェハの表面からの反射光を受光する受光ステップ(S105)と、対物レンズの瞳面と共役な面において、反射光のうち直線偏光の偏光方向と垂直な偏光成分を検出する検出ステップ(S106)と、検出した偏光成分の階調値から繰り返しパターンの線幅および露光時のフォーカス状態を求める演算ステップ(S107)とを有し、演算ステップでは、瞳面において線幅との相関が高い瞳内位置での階調値から線幅を求めるとともに、フォーカス状態との相関が高い瞳内位置での階調値からフォーカス状態を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造工程においてウェハの繰り返しパターンにおける線幅の変動や断面形状の変動を検出可能な表面検査方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体装置は、処理の高速化や低消費電力化、記憶容量増加を図るために、パターンが微細化する傾向にある。また同時に、半導体装置の製造工程で発生する欠陥の検出性能や、線幅(以下、CD(クリティカル・ディメンジョンの略)と称する)の管理要求も厳しくなってきている。露光工程で発生したウェハの欠陥やCD値変動が許容値を超えるものであった場合、該当するウェハまたはロットをリワーク工程に回し、且つ、問題の発生箇所を修正することで、良品の半導体ウェハを生産できるようにする。
【0003】
露光工程で発生する問題は大別すると、露光時のフォーカスに起因するものと、照明光量(とくにウェハ上の照射光量をドーズ量と言う)に起因するものがある。露光装置のフォーカス精度に問題があったときは、ウェハ表面に形成されるフォトレジストパターンの断面形状が変化する。例えば、ベストフォーカス時には矩形断面であったものが、デフォーカス時には断面の裾が広がる。すなわち、パターン断面の側壁角度(サイドウォール・アングルと言う)が大きくなる。その結果、エッチング後のCD値に影響して、線状パターン(ライン・アンド・スペース・パターン)の場合にはエッチング後に隣接したパターンと接合(ブリッジと称し、電気回路的なショートとなる)し、コンタクト・ホールの場合にはエッチング後に穴が下層まで達しない等といった、重大な不具合が発生する。
【0004】
一方、ドーズ量の変動を引き起こす原因としては、スキャン方式の露光装置におけるスキャン速度のブレがある。ウェハとレチクルの双方の移動速度の同期ずれ等により、スキャン速度が相対的に速い場合にドーズ量は小さくなり、スキャン速度が相対的に遅い場合にドーズ量は大きくなる。その結果、ドーズ量が小さければフォトレジストパターンは太くなり、ドーズ量が大きければフォトレジストパターンは細くなり、フォトレジストパターンのCD値に直接影響を与える。また、スキャン方式の露光装置に限らず、露光装置の投影レンズの曇り等によりドーズ量の変動が発生すれば、同様のCD値変動が発生することは言うまでもない。これらの結果、エッチング後、CD値が規格外になったり、断線の原因となったりする。これらの問題を早期に発見し、問題解消できなければ、多数のロットが不良となり、大きな損失を被ることになる。
【0005】
したがって、CD値管理は重要であり、特に、露光工程後のフォトレジストパターンのCD値管理は、CD値が規格外であった場合にリワーク工程に回して、レジスト除去後、再度レジスト塗布と露光を行うので、非常に重要である。
【0006】
CD値管理には、CD−SEM(走査型電子顕微鏡)が広く使われ、CD値を定量的に計測し出力することができる。しかし、CD−SEMは、ウェハに電子線を照射するため、電子線によりフォトレジストが縮小化(シュリンク)する等のダメージを受ける。測定精度を上げようと電子線の加速電圧を上げるほど、そのダメージを大きくなる。また、計測時間は1視野あたり数秒を要するため、1ロット内で数枚の抜き取り測定となる。しかも、抜き取ったウェハの全面ではなく、抜き取った各ウェハの数ショット分について、露光ショット内の数点を計測しているにすぎない。
【0007】
また、欠陥検査装置として、半導体ウェハに照明光を照射してウェハ上の繰り返しパターンからの回折光を受光する装置がある。この装置では、ウェハに照明光を照射してウェハ上の繰り返しパターンからの回折光を受光し、欠陥からの回折光はCD値が異なるため回折光量が変化することを利用して、欠陥検出を行う。マクロ検査装置と呼ばれるこのような欠陥検査装置は、ウェハ全面一括撮像による高いスループットを有するので、生産ラインで大いに活躍している。ただし、繰り返しパターンからの回折光は、繰り返し周期が小さくなるほど回折角が大きくなるので、照明波長や光学系配置等といった装置構成上の制限を受け、140nm程度の繰り返しピッチより小さい繰り返しパターンからの回折光を受光するのは事実上不可能である。
【0008】
そのため、新たな手法として、繰り返しパターンの構造性複屈折効果を利用した欠陥検査装置が実用化されている(例えば、特許文献1を参照)。これらのマクロ検査装置では、装置の性質上、微小領域の高分解の検査やCD値変動量の定量的出力には限界がある。例えば、回折光を受光する場合、回折光強度の大小はパターンのCD値と一義的関係にないため、回折光強度からCD値を換算するには無理がある。また、構造性複屈折効果を利用する場合、パターンの形状・線幅等の状態によっては、欠陥検出感度が劣る場合がある等の制約がある。
【0009】
CD−SEMにしろ、自動マクロ検査装置にしろ、最大の問題は、異常を検出したときの原因遡及力である。CD−SEMにおいてCD値が規格外の数値として計測されたときは、そのロットをホールドし、露光した露光装置がどれであったかを特定し、露光装置の何が問題であったのか、フォーカス異常かドーズ量異常かを切り分ける必要がある。しかし、計測されたCD値だけで判断することは極めて難しい。CD−SEMは、パターン上方から電子線を照射して計測しているので、デフォーカス時にはCD値は殆ど変化しないからである。なお、CD−SEMの計測時に得たCD−SEM画像を目視して、パターンの形状から間接的に判断するのは可能である。デフォーカス異常の場合、コンタクト・ホールではフォトレジストの最上面と底面が二重の円形として見えたり、円がひしゃげていたりといった形になる。線状パターン(ライン・アンド・スペース・パターン)では上面からは直線性が乱れて見えるので、この乱れ具合から判断する。
【0010】
近年、直線性の乱れをLWR(Line Width Roughness:線幅の荒れ・乱れ)やLER(Line Edge Roughness:線の片側の荒れであり、通常パターンの右側と左側で分けて扱う)として定量化されるようになった。LWEやLERは、10nm程度の間隔をあけて多数点のCD値を計測し、その計測値の標準偏差として定義するが、CD計測と同時にLWRやLERを計測する場合には多大な時間が掛かり、前述したようにフォトレジストパターンへダメージを与える。
【0011】
そのため、CD−SEMでは、フォレジスト段階でのフォーカス異常の発見は諦め、CD計測とCD管理だけに徹する運用が行われる。フォーカス異常は、エッチング後に顕微鏡型ミクロ検査装置を使って、コンタクト・ホールの場合は穴が開いていなければエラーとし、線状パターンの場合はショートしていればエラーとして欠陥検出する。ただし、フォトレジストではないため、リワークすることはできない。しかし、フォトレジストにダメージを与えてまで異常検出するよりも、また、決して高くない信頼性でLWEやLERなどから間接的にフォーカス異常を発見するよりも、得策だからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−343102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このように、露光後のフォトレジストの段階で、複合的に発生するフォーカス異常とドーズ量異常を区別して検出することが重要となってきている。
【0014】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、フォーカス異常とドーズ量異常を区別して検出することが可能な表面検査方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
このような目的達成のため、本発明に係る表面検査方法は、所定の繰り返しパターンを有する基板の表面に直線偏光を照射する照射ステップと、前記直線偏光が照射された前記基板の表面からの反射光を受光光学系により受光する受光ステップと、前記受光光学系の瞳面もしくは瞳面と共役な面において、前記受光ステップで受光した前記反射光のうち前記直線偏光の偏光方向と略垂直な偏光成分を検出する検出ステップと、前記検出ステップで検出した前記偏光成分の情報から、前記繰り返しパターンの線幅と、前記繰り返しパターンの露光の際のフォーカス状態との少なくとも一方を求める演算ステップとを有し、前記演算ステップにおいて、前記瞳面もしくは前記瞳面と共役な面において前記線幅との相関が高い第1特定位置での前記偏光成分の情報から前記線幅を求めるとともに、前記瞳面もしくは前記瞳面と共役な面において前記フォーカス状態との相関が高い前記第1特定位置とは異なる第2特定位置での前記偏光成分の情報から前記フォーカス状態を求める。
【0016】
なお、上述の表面検査方法では、前記線幅が既知である第1の基準基板を用いて、前記瞳面もしくは前記瞳面と共役な面内に設定した複数の瞳内位置における、前記偏光成分の情報と前記線幅との相関をそれぞれ求める線幅相関算出ステップと、前記フォーカス状態が既知である第2の基準基板を用いて、前記設定した複数の瞳内位置における、前記偏光成分の情報と前記フォーカス状態との相関をそれぞれ求めるフォーカス相関算出ステップと、前記複数の瞳内位置のうち、前記偏光成分の情報と前記線幅との相関が高くて前記フォーカス状態との相関が低い瞳内位置を前記第1特定位置として特定するとともに、前記偏光成分の情報と前記線幅との相関が低くて前記フォーカス状態との相関が高い瞳内位置を前記第2特定位置として特定する特定ステップとを有し、前記演算ステップにおいて、前記特定ステップで特定した前記第1特定位置での前記偏光成分の情報から前記線幅を求めるとともに、前記特定ステップで特定した前記第2特定位置での前記偏光成分の情報から前記フォーカス状態を求めることが好ましい。
【0017】
また、上述の表面検査方法では、前記線幅相関算出ステップおよび前記フォーカス相関算出ステップの少なくとも一方において、前記瞳面もしくは瞳面と共役な面内全体を複数の区画に分割して前記複数の瞳内位置を設定し、前記区画毎にそれぞれ前記相関を求めることが好ましい。
【0018】
また、上述の表面検査方法では、前記特定ステップにおける前記第1特定位置および前記第2特定位置の少なくとも一方は、線形性を有する相関を示す瞳内位置であることが好ましい。
【0019】
また、上述の表面検査方法では、前記特定ステップにおける前記第1特定位置は、前記直線偏光の照射方向が前記直線偏光の偏光方向に対して45度近傍に傾いた照射条件に対応する瞳内位置であることが好ましい。
【0020】
また、本発明に係る表面検査装置は、所定の繰り返しパターンを有する基板の表面に直線偏光を照射する照射部と、前記直線偏光が照射された前記基板の表面からの反射光を受光する受光光学系と、前記受光光学系の瞳面もしくは瞳面と共役な面において、前記受光光学系に受光された前記反射光のうち前記直線偏光の偏光方向と略垂直な偏光成分を検出する検出部と、前記検出部に検出された前記偏光成分の情報から、前記繰り返しパターンの線幅と、前記繰り返しパターンの露光の際のフォーカス状態との少なくとも一方を求める演算部とを備え、前記演算部は、前記瞳面もしくは前記瞳面と共役な面において前記線幅との相関が高い第1特定位置での前記偏光成分の情報から前記線幅を求めるとともに、前記瞳面もしくは前記瞳面と共役な面において前記フォーカス状態との相関が高い前記第1特定位置とは異なる第2特定位置での前記偏光成分の情報から前記フォーカス状態を求める。
【0021】
なお、上述の表面検査装置において、前記受光光学系の瞳面もしくは瞳面と共役な面に配設された撮像素子を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、線幅を定量的に計測することができるとともに、フォーカス異常とドーズ量異常を区別して検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】表面検査方法を示すフローチャートである。
【図2】表面検査装置の全体構成を示す図である。
【図3】(a)は繰り返しパターンの斜視図であり、(b)は繰り返しパターンの平面図である。
【図4】露光条件を変化させた線状パターンの断面図である。
【図5】(a)、(b)ともに偏光状態の一例を示す図である。
【図6】対物レンズの瞳像を示す図である。
【図7】図6中の点Aに対応した反射光を得る照射条件を示す図である。
【図8】図6中の点Bに対応した反射光を得る照射条件を示す図である。
【図9】図6中の点Cに対応した反射光を得る照射条件を示す図である。
【図10】図6中の点Dに対応した反射光を得る照射条件を示す図である。
【図11】図6中の点Eに対応した反射光を得る照射条件を示す図である。
【図12】図6中の点Fに対応した反射光を得る照射条件を示す図である。
【図13】図9においてフォーカス異常が発生した場合を示す図である。
【図14】図13においてパターンが荒れた場合を示す図である。
【図15】撮像素子で検出した実際の瞳像を示す図である。
【図16】瞳像を領域分割した状態を示す図である。
【図17】瞳CDマップを示す図である。
【図18】CD基準ウェハを示す図である。
【図19】表面検査装置で計測したCD基準ウェハの階調値の一例を示す図である。
【図20】換算CD値とCD計測値との相関を示す図である。
【図21】表面検査装置で計測したCD基準ウェハの階調値の一例を示す図である。
【図22】フォーカス基準ウェハを示す図である。
【図23】瞳フォーカスマップを示す図である。
【図24】瞳内位置における感応の有無をまとめた表である。
【図25】表面検査装置で計測したフォーカス基準ウェハの階調値の一例を示す図である。
【図26】表面検査装置で計測したフォーカス基準ウェハの階調値の一例を示す図である。
【図27】サイド・ウォール・アングルの測定値と表面検査装置で計測した階調値との相関を示す図である。
【図28】表面検査装置から得られた階調値のヒストグラムおよび電子顕微鏡から得られた荒れ程度のヒストグラムを示す図である。
【図29】(a)は照明波長を変えた場合の瞳CDマップを示す図であり、(b)は照明波長を変えた場合の瞳フォーカスマップを示す図である。
【図30】照明波長を変えた場合の瞳内位置における感応の有無をまとめた表である。
【図31】(a)はパターン方位角を変えた場合の瞳CDマップを示す図であり、(b)はパターン方位角を変えた場合の瞳フォーカスマップを示す図であり、(c)は図17の瞳CDマップの一部を切り取った図であり、(d)は図23の瞳フォーカスマップの一部を切り取った図である。
【図32】表面検査装置の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。本実施形態の表面検査装置を図2に示しており、この表面検査装置1は、ステージ6と、対物レンズ7と、プリズム8と、照明光学系10と、検出光学系15と、演算処理部20とを主体に構成される。半導体ウェハ5(以下適宜、単にウェハ5と称する)は、露光装置(図示せず)によるフォトレジストへの露光・現像後、不図示の搬送系により、不図示のウェハカセットまたは現像装置から運ばれ、パターン(繰り返しパターン)の形成面を上にした状態でステージ6に載置される。
【0025】
ステージ6は、真空吸着等によりステージ6上に載置されたウェハ5を確実に保持する。また、ステージ6は、ウェハ5の表面に沿ってXY方向に移動可能に構成されるとともに、Z軸を中心軸として回転可能に構成されている。なお、図2の紙面と垂直な方向をX軸とし、図2における左右方向をY軸とし、図2における上下方向をZ軸とする。また、XY平面内でZ軸を中心とした回転角を方位角と称する。
【0026】
照明光学系10は、図2の右側から左側へ向けて配置順に、光源11と、集光レンズ12と、波長選択フィルター13と、第1の偏光フィルター14とを有して構成される。光源11には、水銀ランプ等が用いられる。水銀ランプは、複数の波長(以下、λと略す場合がある)の光、例えば、e線(λ=546nm)、g線(λ=436nm)、h線(λ=405nm)、j線(λ=313nm)、さらにはλ=250nm付近の光などを発生させる。これら複数の波長の光のうち、特定の波長の光のみを選択するために、波長選択フィルター13を用いる。
【0027】
なお、光源11は、ハロゲンランプや青色励起型LED等の波長帯域に広い光源であってもよい。また、ハロゲンランプや青色励起型LEDからの光は広い波長域にわたっているため、波長選択フィルター13は、例えば、青色、緑色、赤色を透過させるようなフィルターであってもよい。したがって、波長選択フィルター13は、透過波長帯域の異なる複数のフィルターとして、光路中に挿脱することで選択的に波長や波長帯域を変更可能な構成とすることが好ましい。
【0028】
光源11から放出された光は、集光レンズ12および波長選択フィルター13を透過したのち、第1の偏光フィルター14を透過する。第1の偏光フィルター14は、透過光がX方向に偏光するように、すなわち、第1の偏光フィルター14を透過して得られる直線偏光の偏光方向PがX方向となるよう配置する。
【0029】
第1の偏光フィルター14を透過した光は、プリズム8で下方へ反射して、ウェハ5の方向へ向かう平行な入射光Iとなり、対物レンズ7を通してウェハ5に照射される。ウェハ5からの反射光は、対物レンズ7を通して平行な反射光Jとなり、プリズム8を透過して検出光学系15に達する。検出光学系15は、図2の下側から上側へ向けて配置順に、第2の偏光フィルター16と、リレーレンズ17と、2次元CCD等の撮像素子18とを有して構成される。プリズム8を透過した反射光は、第2の偏光フィルター16を透過し、リレーレンズ17によって光路延長・拡大(ないし縮小)された後、撮像素子18に入射する。撮像素子18に入射した反射光は撮像素子18により電気信号に光電変換され、反射光の検出信号が演算処理部20に出力される。
【0030】
第2の偏光フィルター16は、透過光がY方向に偏光するように、すなわち、第2の偏光フィルター16を透過して得られる直線偏光の偏光方向QがY方向となるよう配置する。このように偏光方向が直交している状態は、クロスニコルと呼ばれ、対物レンズ7およびプリズム8を透過した反射光Jのうち、入射光I(直線偏光)の偏光方向と垂直な偏光成分を撮像素子18(検出光学系15)で検出することになる。なお、入射側の第1の偏光フィルター14をポラライザと称し、受光側の第2の偏光フィルター16をアナライザと称することもある。
【0031】
撮像素子18は、対物レンズ7の瞳面(不図示)と共役な位置に設けられる。なお、撮像素子18にカラーCCDを用いて、赤(R)、緑(G)、青(B)のそれぞれの出力を使うことにより、波長選択フィルター13を不要とすることも可能である。
【0032】
また、入射光Iと反射光Jは同一光軸上であるが、入射光Iのうちの一部の入射光束I1に着目すれば、入射角Kでウェハ5に入射し、反射光束J1として撮像素子18に達する。換言すれば、撮像素子18上の位置19は、入射光束I1による反射光情報だけを受光していることになる。
【0033】
ここで、繰り返しパターンにおける構造性複屈折効果について図3を用いて説明する。構造性複屈折の詳細は、M, Boron & E. Wolf 著の『光学の原理』の詳しいが、ここでは、特開平9−145921号公報から引用する。ウェハ5の表面には、図3(a)に示すように、線状パターン(ライン・アンド・スペース・パターン)である繰り返しパターン30が形成されている。
【0034】
図3(a)に示すような繰り返しパターン30において、ライン部分31の線幅をt1とし、ライン部分31の屈折率をn1とし、スペース部分32の線幅をt2とし、スペース部分32の屈折率をn2とする。そうすると、パターンピッチはt1+t2である。この繰り返しパターン30は、互いに異なる第1の物質(ライン部分)31と第2の物質(スペース部分)32を有する一軸性結晶とみなすことができ、図3(b)に示すように、境界面に平行に振動する光に対する屈折率をn0とし、境界面に垂直に振動する光に対する屈折率をneとして、複屈折を扱うことができる。図3(a)の繰り返しパターン30に対して垂直に光33が入射し、図2の構成に従い、光33の偏光方向(振動方向)が図3(b)において方向R(X軸と平行)であり、繰り返しパターン30がX軸に対してパターン方位角θ(方位角θはX軸とライン部分31とのなす角度)で傾いているとき、方向Rは、境界面平行方向成分R0と境界面垂直方向成分Reに分解することができるので、屈折率n0および屈折率neはそれぞれ、次の(1)式および(2)式で与えられる。
【0035】
【数1】

【0036】
【数2】

【0037】
ただし、(1)式および(2)式におけるf1およびf2はそれぞれ、次の(3)式および(4)式で与えられる。
【0038】
【数3】

【0039】
【数4】

【0040】
また、構造性複屈折による入射光に対する反射光の位相差をδとし、ライン部分31の高さをhとしたとき、位相差δは、屈折率n0および屈折率neを用いて次の(5)式で与えられる。
【0041】
【数5】

【0042】
露光後のウェハ5においては、ライン部分31がフォトレジストであり、スペース部分32が下地(たとえば、酸化膜)である。フォトレジストの厚さは、露光装置の光源波長にもよるが、最先端の露光装置に用いられるArF光源用のレジストでは、厚さが100nmないしそれ以下である。
【0043】
直線偏光を入射したとき、位相差δが(m+1/4)λの条件を満たす場合(m=0,1,2…)には、1/4波長板のように作用するので反射光は円偏光となり、位相差δが(m+1/2)λの条件を満たす場合(m=0,1,2…)には、1/2波長板のように作用するので反射光は偏光方向が90度回転した直線偏光となる。また、この2つの場合の中間の条件では、反射光は楕円偏光となる。
【0044】
正常な条件で露光された繰り返しパターン40の断面を図4(a)に示す。図4(b)に示すように、ドーズ量が多い場合のライン部分43の線幅は、正常のライン部分41よりも細くなる。一方、図4(c)に示すように、ドーズ量が少ない場合のライン部分45の線幅は、正常のライン部分41よりも太くなる。図4(d)に示すように、デフォーカス状態で露光された場合のライン部分47の形状は、裾を引いた(台形の)断面形状となって、ライン部分47の側壁の傾斜角度であるサイド・ウォール・アングルαが増加する。
【0045】
前述の(5)式によれば、反射光の偏光状態を決定するのは、繰り返しパターンの線幅であり、高さである。半導体ウェハの露光工程においては、繰り返しパターンの周期(ピッチ)は厳密に一定である。図4(b)に示すようにドーズ量が過多の場合、パターンの高さは変わらず、ライン部分43の線幅t1が大きくなり、スペース部分44の線幅t2が小さくなる。その結果、屈折率n0および屈折率neがそれぞれ変化し、反射光には位相差が発生する。一方、図4(d)に示すようなデフォーカス露光時のパターン断面状態では、線幅が高さ方向に対し一定ではなく、ライン部分47の高さに比例してその線幅が小さくなるので、(5)式においては、ライン部分43の線幅t1およびスペース部分44の線幅t2が高さhの関数となっていると考えればよい。
【0046】
図4(a)の正常なパターンに対するパターン断面状態の変化が、図4(b)もしくは図4(c)、または図4(d)のようなものであったとき、パターン断面状態変化に伴う反射光の偏光状態変化は、Y方向の偏光方向Qのみ透過するようなクロスニコルに配置された第2の偏光フィルター16(図2を参照)によって、Y方向の偏光成分のみの変化として抽出される。例えば、図5(a)に示すように、パターン断面状態変化に伴う反射光の偏光状態が、第1の偏光状態50、第2の偏光状態51、および第3の偏光状態52であったとする。各偏光状態50,51,52は、いずれも楕円偏光であり、長軸の方向と楕円率が変化しているが、第2の偏光フィルター16を透過して得られる透過光はそれぞれ、Y方向成分の第1の光量50a、第2の光量51b、および第3の光量52cだけ撮像素子18で受光される(正確には、図5(a)のY方向成分は振幅であるから、光量は振幅の二乗に対応するが、ここでは簡略化した図で示した)。
【0047】
また例えば、図5(b)に示すように、パターン断面状態変化に伴う反射光の偏光状態が、第4の偏光状態53、第5の偏光状態54、および第6の偏光状態55のようなものであったとする。各偏光状態53,54,55は、いずれも円偏光に近い楕円偏光である。入射した直線偏光に対して繰り返しパターン30(図3を参照)が1/4波長板のように位相差δを与えたことにより、円偏光に近くなった結果であるが、それぞれの楕円の長軸方向は大きく異なっているものの、第2の偏光フィルター16を透過して得られる透過光は、各偏光状態53,54,55のいずれであっても、Y方向成分の第4の光量53aとなって大きな変化はなく、偏光状態が変化しているようにはとらえられない。
【0048】
なお、図5(a)および図5(b)は一例に過ぎず、線幅、高さ、形状等といったパターン断面状態が変化したときの繰り返しパターン30からの反射光の偏光状態は、楕円偏光の楕円率、長軸方向、大きさが変わり、しかも照射条件によって偏光状態の変化の仕方が変わる。図3〜図5を用いて行った説明は、繰り返しパターン30に対して垂直に光が入射した場合であるが、斜めに入射した場合も含めて、一般的な説明を次に行う。
【0049】
図2に示すように、対物レンズ7を通して照射される入射光Iは、色々な入射角および方向から入射する光の束であるので、対物レンズ7の瞳面と共役な位置に設けられている撮像素子18は、これら色々な入射条件に基づいた反射光の集まりを検出していることになる。図6に、撮像素子18で検出した対物レンズ7の瞳像60を示す。瞳面上の座標PxおよびPyは、図2〜図3のXYZ座標系と同じである。また、Px軸とPy軸の交点Oは、対物レンズ7の光軸である。
【0050】
ここで、本実施形態における照射条件について説明する。照射条件とは、入射光の入射角、入射面に対する偏光方向、入射面の方位角、入射面と繰り返しパターン方向とのなす方位角等のことである。図6に示す瞳面座標系(Px,Py)において、光軸Oを中心とした半径rの円61の円周上の点B、点C、点D、点E、および点Fは、全て同一の入射角(これを入射角iとする)で入射した光による反射光を示す。
【0051】
図7は、図6の瞳像60における光軸上の点Aに対応した反射光を得る照射条件を示す。なお、図7〜図14では、図3に示す部材と同一部材に同一番号を付しており、線状パターン(ライン・アンド・スペース・パターン)である繰り返しパターン30は、フォトレジストであるライン部分31と、酸化膜等の下地層であるスペース部分32とからなる。また、ライン部分31(およびスペース部分32)は、図3(b)と同様に、X軸に対して方位角θだけ傾いている。図7において、直線偏光である入射光70aは、繰り返しパターン30に対して垂直(Z軸方向)に、偏光方向71aをもって入射している。一方、反射光72aは、繰り返しパターン30に対して垂直に、例えば偏光状態73aをもって反射している。
【0052】
図8は、図6の瞳像60における点Bに対応した反射光を得る照射条件を示す。なお、ライン部分31(およびスペース部分32)のX軸に対する方位角θは、図7と同一である。図8における入射光70bは、入射角iで入射している。入射面(繰り返しパターン30の法線Zと入射光70bとがはる平面)74bは、YZ平面と一致する。入射光70bの偏光方向71bは、入射面74bに含まれ入射光70bと垂直な直線75bに対して角度φB(以下、本実施形態において偏光角φと呼ぶ)だけ傾いており、この偏光角φBの大きさは90度である。すなわち、S偏光状態で入射している。これは、偏光方向71bがX軸と平行であることから容易に理解できる。なお、反射光72bも入射面74bに含まれることは言うまでもない。
【0053】
図9は、図6の瞳像60における点Cに対応した反射光を得る照射条件を示す。なお、ライン部分31(およびスペース部分32)のX軸に対する方位角θは、図7と同一である。図9における入射光70cは、入射角iで入射しており、入射面(繰り返しパターン30の法線Zと入射光70cとがはる平面)74cを形成する。入射光70cの偏光方向71cは、入射面74cに含まれ入射光70cと垂直な直線75cに対して角度φCだけ傾いており、この偏光角φCの大きさは0度と90度の間である。
【0054】
図10は、図6の瞳像60における点Dに対応した反射光を得る照射条件を示す。なお、ライン部分31(およびスペース部分32)のX軸に対する方位角θは、図7と同一である。図10における入射光70dは、入射角iで入射しており、入射面(繰り返しパターン30の法線Zと入射光70dとがはる平面)74dを形成する。入射光70dの偏光方向71dは、入射面74dに含まれ入射光70dと垂直な直線75dに対して角度φDだけ傾いており、この偏光角φDの大きさは0度と90度の間である。なお、図10の偏光角φDは、図9の偏光角φCに比べ、より0度に近く、0度<φD<φC<90度である。
【0055】
図11は、図6の瞳像60における点Eに対応した反射光を得る照射条件を示す。なお、ライン部分31(およびスペース部分32)のX軸に対する方位角θは、図7と同一である。図11における入射光70eは、入射角iで入射している。入射面(繰り返しパターン30の法線Zと入射光70eとがはる平面)74eは、XZ平面と一致する。入射光70eの偏光方向71eは、入射面74eに含まれ入射光70eと垂直な直線75eに対する偏光角φEが0度となる方向である。すなわち、P偏光状態で入射している。これは、偏光方向71eがX軸と平行であることから容易に理解できる。
【0056】
図12は、図6の瞳像60における点Fに対応した反射光を得る照射条件を示す。なお、ライン部分31(およびスペース部分32)のX軸に対する方位角θは、図7と同一である。図11における入射光70fは、入射角iで入射しており、入射面(繰り返しパターン30の法線Zと入射光70fとがはる平面)74fを形成する。入射光70fの偏光方向71fは、入射面74fに含まれ入射光70fと垂直な直線75fに対して角度φFだけ傾いており、この偏光角φFの大きさは90度と180度の間である。
【0057】
図6の瞳像60における各点A,B,C,D,E,Fはそれぞれ、図7〜図12に示す照射条件でそれぞれ得られた反射光72a,72b,72c,72d,72e,72fである。そこで、図9に示す照射条件を例としてさらに詳細に説明する。同じ入射角iであっても、入射面74cとXZ平面とのなす方位角(これを入射面方位角ωと称する)が異なれば、直線偏光で入射する入射光70cの偏光角φCは異なる。また、同じ偏向角φCであっても、繰り返しパターン30のライン部分31(およびスペース部分32)のX軸に対する方位角θ(これをパターン方位角θと称する)が異なれば、ライン部分31(およびスペース部分32)に対する偏光方向71cの角度は異なる。
【0058】
(5)式における高さhは、光の進行方向でのライン部分31の高さである。垂直入射では、図7で示す高さhがそのまま、(5)式の高さhと同一である。ところが、図8〜図12に示す斜入射条件では、斜入射による各入射光70b,70c,70d,70e,70fの向きが光の進行方向であるので、(5)式における高さhは、例えば図9では、入射光70cをベクトルとしたときのベクトル79cに対応した高さとなる。このベクトル79cに対応した高さを、本実施形態では、パターン実効高さhiと称することにする。すなわち、パターン実効高さhiが(5)式における高さhに相当する。したがって、同じZ軸方向の高さhであっても、入射角iと入射面方位角ωとパターン方位角θが異なれば、(5)式で表される位相差δは異なる。
【0059】
一般に、屈折率は波長に依存するので、入射光の波長λによって、(1)式および(2)式におけるライン部分31の屈折率n1およびスペース部分32の屈折率n2は異なる。すなわち、線状パターン(ライン・アンド・スペース・パターン)に光を照射したとき、構造性複屈折により、(1)式〜(5)式で与えられる位相差δは、入射角i、入射面方位角ω、パターン方位角θで決定される。すなわち、位相差δは、偏光角φで代表される偏光方向と、入射角i、入射面方位角ω、パターン方位角θで決定されるパターン実効高さhiと、波長λで決定されるライン部分31の屈折率n1およびスペース部分32の屈折率n2によって変わる。これらのパラメータが、(5)式に関わることになる。
【0060】
次に、図4(d)のようにサイド・ウォール・アングルαが増加したパターン断面状態における位相状態を、図13を用いて考察する。なお、図13において、入射角i等のパラメータは図9と同一であり、図9と同一部材には同じ符号を付した。図13に示すように、ライン部分31が台形断面である場合には、垂直入射のときに、ライン部分31の線幅t1およびスペース部分32の線幅t2が高さhの関数であると考えたのと同じように、パターン実効高さhiの関数としてライン部分31の線幅t1およびスペース部分32の線幅t2を扱えばよい。
【0061】
露光工程でフォーカス異常が発生した場合には、既述したように裾を引いた(台形の)断面形状となって、サイド・ウォール・アングルαが増加すると同時に、パターン形状が図14のように荒れることがある。荒れたライン部分31からの反射光72cの偏光状態は、デフォーカス量に応じて少なからず変化する。なお、図14において、入射角i等のパラメータは図9と同一であり、図9と同一部材には同じ符号を付した。
【0062】
以上説明してきたように、線状パターン(ライン・アンド・スペース・パターン)に光を照射したときの反射光の偏光状態は、1)入射角i、入射面方位角ω、パターン方位角θで決定され、偏光角φで代表される入射光の偏光方向、2)入射角i、入射面方位角ω、パターン方位角θで決定されるパターン実効高さhi、3)波長λ等といった、照射条件によって変わる。さらに、4)波長λで決定されるライン部分31の屈折率n1およびスペース部分32の屈折率n2、5)ライン部分31の線幅t1およびスペース部分32の線幅t2、6)サイド・ウォール・アングルα等といった、パターン状態条件や物質条件によって変わる。
【0063】
したがって、上記照射条件を選択することにより、ライン部分31の線幅t1の変動とサイド・ウォール・アングルαの変動を検出することができ、さらに、最適に照射条件と決定すれば、ライン部分31の線幅t1の変動とサイド・ウォール・アングルαの変動を区別して検出することができる。ライン部分31の線幅t1とサイド・ウォール・アングルαはそれぞれ、ウェハ露光時のドーズ量変化とフォーカス変化に直結するものであるから、本実施形態によれば、ドーズ量変化とフォーカス変化を切り分けて検出することが可能になる。
【0064】
最適な照射条件の選択と決定は、瞳内の解析によって行われる。図15は、撮像素子18で検出した実際の瞳像150を、瞳座標系で示している。この図15は、瞳面における光の強度分布を示し、第2の偏光フィルター16を透過してきた光の光量を示している。図15において、撮像素子18で検出した光信号の強い部分(階調値の高い部分)を濃い色(黒系)に設定し、光信号の弱い部分(階調値の低い部分)を淡い色(白系)に設定して、階調凡例151として表示した。図15の瞳座標系は、図6と同じ瞳座標系(Px,Py)であり、座標軸Pxと座標軸Pyとの交点Oが光軸である。図6の瞳像60における点C、すなわち、図9、図13、および図14で示した照射状態およびパターン状態を与える瞳位置で反射光を得る場所は、図15の瞳像150(瞳面内)における瞳内位置150cである。
【0065】
図16の瞳像160は、図15の瞳像150と同じである。図16において、瞳像160をM列×N行に分割したときの一つの区画を瞳内位置と称し、図16では例として瞳内位置161を示す。MおよびNは自然数で、10程度〜100が好ましい。通常は、M=Nとする。瞳内位置における階調値は、撮像素子18の画素を選択することによって抽出して得ることができる。
【0066】
図17(f)は、瞳CDマップと称するマップである。図16の瞳像160に対応する瞳像を円170として示す。瞳CDマップの横方向と縦方向は、それぞれ瞳座標(Px,Py)に対応し、円170の中心は、瞳座標(Px,Py)=(0,0)に対応する。瞳CDマップは、瞳内の階調を示すものではなく、図16においてM列×N行に分割したそれぞれの瞳内位置において、その瞳内位置での階調値を縦軸に、別計測したCD値を横軸に表した二変量相関図の集合体である。例えば、瞳CDマップの5個の瞳内位置171a,171b,171c,171d,171eにおける二変量相関図をそれぞれ拡大表示したものが、図17(a)、図17(b)、図17(c)、図17(d)、図17(e)である。図17(a)、図17(b)、図17(c)、図17(d)、図17(e)の縦軸はそれぞれ、図16の瞳内位置161a,161b,161c,161d,161eにおける撮像素子18の階調値である。図17(f)に示す瞳CDマップは、CD値が既知のCD基準ウェハを計測することによって得られるが、その方法について次に述べる。
【0067】
まず、CD値計測について説明する。図17(a)、図17(b)、図17(c)、図17(d)、図17(e)の横軸(すなわちCD値計測値)は、ウェハ面内で異なるCD値(CD値は既知)を有するウェハ(CD基準ウェハ)を計測することによって得ることができる。
【0068】
図18は、瞳CDマップを得るためのCD基準ウェハ180を示している。CD基準ウェハ180の表面に形成された5行8列の計40ショットは、それぞれドーズ量を変えて線状パターン(ライン・アンド・スペース・パターン)を露光したものである。図18においてそれぞれのショットに示した数字は、ドーズ量の大小を表し、数字「0」は標準ドーズ量で露光したショットであり、数字「+1」は1段階多く、数字「−1」は1段階少ないドーズ量で露光したショットである。例えば、右端の数字「+3」ショット181は、3段階多いドーズ量で露光したショットであるので、ネガタイプのレジストを用いた場合パターンのライン部分の線幅は最も細くなっているはずである。このように、CD基準ウェハ180は、多種のCD値を含んだウェハである。
【0069】
CD値計測においては、本実施形態の表面検査装置1とは別に、図示しないCD−SEM等のCD測定機によって、CD基準ウェハ180における線状パターン(ライン・アンド・スペース・パターン)のCD値を計測する。なお、統計的処理に好ましいデータ数とするため、CD−SEM等ではショット内を多数点計測することが好ましく、例えば、ショット内の25点を計測することにより、25点×40ショット=1000個の計測データを得る。
【0070】
続いて、階調値計測について説明する。CD−SEM等で計測したCD基準ウェハ180の計測点と同一箇所を、本実施形態の表面検査装置1を用いて計測する。上記の例で言えば、ショット内25点×40ショット=1000点に対し、1000個の瞳像を撮像素子18によって撮像取得する。このようにして得られた1000個の瞳像から、演算処理部20を用いて、M列×N行に分割した瞳内位置ごとに階調値を得る。
【0071】
そして、CD基準ウェハ180の全ての計測点(上記例では、1000点)に対し、M列×N行(本実施形態においては、47列×47列)の瞳内位置(区画)ごとに、二変量相関図(横軸=CD値計測値、縦軸=その瞳内位置における階調値)を瞳座標(Px,Py)に従った配列で並べる。これにより、図17に示すような瞳CDマップ(瞳像の位置毎のCD変化と輝度変化の関係を示すマップ)を得ることができる。
【0072】
図17(a)〜(e)の横軸のスケールは共通目盛である。一方、図17(a)〜(e)の縦軸は、階調値が瞳内位置によって異なるので、オート・スケール(最小から最大の値範囲で自動的に目盛を振ること)で表示している。そのため、図17(c)では、CD値に対して階調値が山型傾向を示しているが、CD変動に対する階調値の変化量は小さく、CD値に対しほとんど感応していないと言える。図17(f)の瞳CDマップでは、瞳内位置ごとの二変量相関図はすべてオート・スケールで表示している。CD変化に対する階調変化の少ない瞳内位置では、図17(c)に示すように、縦軸方向に二変量相関図のプロットが拡大したもの(縦軸方向に幅をもったグラフ)となる。そのような場所は、図17(f)の瞳CDマップから、瞳内のPx軸付近およびPy軸付近、並びに瞳中心付近に分布していることがわかる。一方、左上側の瞳内位置171a,171bでは、CD値が大きくなると階調値が増加する傾向を示し、逆に、左下側の瞳内位置171d,171eでは、CD値が大きくなると階調値が減少する傾向を示す。
【0073】
図7〜図12を用いて説明したように、瞳内位置に応じて照射条件が異なる。そのため、図5(a)および図5(b)で説明したように、瞳内位置に応じて反射光の偏光状態も異なる。例えば、CD値が大きくなったときに、撮像素子18が検出する階調値(楕円偏光のY方向成分(第2の偏光フィルター16を透過する成分)に対応するもの)が大きくなるような偏光状態変化を与える瞳内位置(瞳内位置は、照射条件の一部である)があれば、逆に、階調値が小さくなるような偏光状態変化を与える瞳内位置も存在する。また、CD値が大きくなったときに階調値が大きくなるような偏光状態変化を与える瞳内位置(これをプラス変化位置と称する)と、階調値が小さくなるような偏光状態変化を与える瞳内位置(これをマイナス変化位置と称する)との間には、CD値が変化しても階調値が変わらないような領域が存在する。
【0074】
このように、図15の瞳像150、すなわち図16の瞳像160のなかには、左側上下の瞳内位置171a,171b,171d,171eのようなCD値変化に感応する場所と、左側中央付近(Px軸付近)の瞳内位置171cのようなCD値変化に対する感応が弱い場所が存在することが、図17の(f)の瞳CDマップで明らかにされる。理論的にも、高NAの対物レンズを使用した場合に、対物レンズの瞳内位置には、プラス変化位置(正の相関)とマイナス変化位置(負の相関)が存在することがわかっており、その間は、CD値変化に対する感応が弱い瞳内位置となる。本実施形態において、対物レンズ7のNA(開口数)は、NA=0.9もしくは、それに近い高NAである。なお、M列×N行に分割された一つの瞳内位置では、NA=0.01〜0.1程度で受光していることになる。
【0075】
CD値変化に対して、階調値(楕円偏光のY方向成分(第2の偏光フィルター16を透過する成分)に対応するもの)は常に線形で変化するというものではない(これは、図5(a)で説明したことから明らかである)。図17(f)の瞳CDマップにおける瞳内位置171a,171eでは、図17(a)および図17(e)に示すように、CD値変化に対して階調値は非線形で変化している。プラス変化位置とマイナス変化位置を得る瞳内の場所の多くは非線形変化を示し、線形変化を示す方が少ない。図17(f)の瞳CDマップにおける瞳内位置171b,171dでは、図17(b)および図17(d)に示すように、CD値変化(横軸)に対して階調値(縦軸)が、ほぼ線形に変化している。
【0076】
図19は、図18のCD基準ウェハ180を本実施形態の表面検査装置1で計測したときの、図17(f)の瞳内位置171bにおける階調値を示したもので、図18と同じウェハ表面上の座標で示している。図19において、階調値の高い部分を濃い色(黒系)に設定し、階調値の低い部分を淡い色(白系)に設定して、階調凡例191として表示した。図19からわかるように、CD基準ウェハ180においてドーズ量を変化させて露光したショット、すなわち線幅の異なるショットを、階調差のあるショットとして明瞭に検出している。
【0077】
図17(b)からわかるように、左上側の瞳内位置171bにおけるCD計測値と階調値は高い相関がある。この瞳内位置171bの階調値をGLBとし、階調値GLBから換算した換算CD値をCDGLBとしたとき、換算CD値CDGLBは次の(6)式で表される。
【0078】
【数6】

【0079】
上述したように、CD計測値と階調値の関係は基本的に非線形であるので、(6)式を3次式の多項式とした。図20は、(6)式を用いて得られた換算CD値CDGLBと、CD−SEM等のCD測定機で計測したCD計測値(図20においてCDSと表す)との相関を示したものである。図20における換算CD値CDGLBの誤差は0.01であり、ライン部分のCD値の標準値を1に規格化しているので、0.01の誤差は1%の誤差であることを示す。
【0080】
図21は、図18のCD基準ウェハ180を本実施形態の表面検査装置1で計測したときの、図17(f)の瞳内位置171cにおける階調値を示したもので、図18と同じウェハ表面上の座標で示している。図21において、階調値の高い部分を濃い色(黒系)に設定し、階調値の低い部分を淡い色(白系)に設定して、階調凡例211として表示した。図21からわかるように、CD基準ウェハ180においてドーズ量を変化させて露光したショット、すなわち線幅の異なるショットを、階調差のあるショットとして検出できていない。すなわち、CD値に対しほとんど感応していない。
【0081】
次に、ショット毎にフォーカス条件を変えて露光したフォーカス基準ウェハを用いて、サイド・ウォール・アングルαに代表されるパターン断面状態に対する瞳内位置の傾向を見てみる。
【0082】
図22は、フォーカス基準ウェハ220を示している。フォーカス基準ウェハ220の表面に形成された5行8列の計40ショットは、それぞれフォーカス量を変えて線状パターン(ライン・アンド・スペース・パターン)を露光したものである。図22においてそれぞれのショットに示した数字は、フォーカス量の大小を表し、数字「0」はベストフォーカス付近の中央のフォーカス値で露光したショットであり、数字「+1」は1段階プラス側にデフォーカス(わざとフォーカスをずらすこと)させて露光したショットであり、数字「−1」は1段階マイナス側にデフォーカスさせて露光したショットである。例えば、右端の数字「+3」ショット221は、3段階プラス側にデフォーカスさせて露光したショットであるので、パターンのライン部分の断面形状は、最も裾を引いた状態(図4(d)のサイド・ウォール・アングルαが大きい状態)になっているはずである。また同時に、パターン形状も、図14に示すように荒れていることが多い。このように、フォーカス基準ウェハ220は、多種のライン部分の断面形状・パターン状態を含んだウェハである。なお、フォーカス基準ウェハ220は、図18に示したCD基準ウェハ180と同一のショット配列としているが、同一配列である理由は特になく、同一工程(例えば、ゲート線の露光工程や配線の露光工程等)であればよい。
【0083】
図23(f)は、瞳フォーカスマップと称するマップである。図16の瞳像160に対応する瞳像を円230として示す。瞳フォーカスマップの横方向と縦方向は、それぞれ瞳座標(Px,Py)に対応し、円230の中心は、瞳座標(Px,Py)=(0,0)に対応する。瞳フォーカスマップは、瞳内の階調を示すものではなく、図16においてM列×N行に分割したそれぞれの瞳内位置において、その瞳内位置での階調値を縦軸に、露光時のフォーカス量を横軸に表した二変量相関図の集合体である。例えば、瞳フォーカスマップの5個の瞳内位置231a,231b,231c,231d,231eにおける二変量相関図をそれぞれ拡大表示したものが、図23(a)、図23(b)、図23(c)、図23(d)、図23(e)である。図23(a)、図23(b)、図23(c)、図23(d)、図23(e)の縦軸はそれぞれ、図16の瞳内位置161a,161b,161c,161d,161eにおける撮像素子18の階調値である。図23(f)に示す瞳フォーカスマップは、露光時にフォーカス量を振ったフォーカス基準ウェハ220を計測することによって得られる。なお、パターン方位角θは、図17(f)の瞳CDマップを得たときと同一の方位角である。
【0084】
図23(a)〜(e)の横軸のスケールは共通目盛である。一方、図23(a)〜(e)の縦軸は、階調値が瞳内位置によって異なるので、オート・スケール(最小から最大の値範囲で自動的に目盛を振ること)で表示している。そのため、図23(b)および図23(d)では、フォーカス量変化に対する階調値の変化量は小さく、フォーカス量に対しほとんど感応していないと言える。図23(f)の瞳フォーカスマップでは、瞳内位置ごとの二変量相関図はすべてオート・スケールで表示している。フォーカス量変化に対する階調変化の少ない瞳内位置231b,231dでは、図23(b)および図23(d)に示すように、縦軸方向に二変量相関図のプロットが拡大したもの(縦軸方向に幅をもったグラフ)となる。そのような場所は、図23(f)の瞳フォーカスマップから、瞳内の外周部にカテナリー状に分布していることがわかる。カテナリー状分布の内側の瞳内位置231cでは、フォーカス量=0で最大階調値となり、フォーカス量がプラスであってもマイナスであっても、デフォーカスするほど階調値が下がる傾向(フォーカス量変化に対し山型の階調値変化のグラフとなる傾向)となる。一方、カテナリー状分布の外側の瞳内位置231a,231eでは、フォーカス量=0で最小階調値となり、フォーカス量がプラスであってもマイナスであっても、デフォーカスするほど階調値が上がる傾向(フォーカス量変化に対し谷型の階調値変化のグラフとなる傾向)となる。
【0085】
図23(f)の瞳フォーカスマップにおける瞳内位置231a,231b,231c,231d,231eと、図17(f)の瞳CDマップにおける瞳内位置171a,171b,171c,171d,171eは、いずれも、図16の瞳像160の瞳内位置161a,161b,161c,161d,161eにおける撮像素子18の階調値である。同じ瞳内位置でありながら、CD基準ウェハに対する感応とフォーカス基準ウェハに対する感応とは、それぞれ図17(f)と図23(f)のように異なる。この傾向を図24にまとめる。図24によれば、図16の瞳像160における瞳内位置161b,161dは、CD基準ウェハ180には感応するが、フォーカス基準ウェハ220には感応しない(ほとんど感応しない)照射条件である。また、瞳内位置161cは、フォーカス基準ウェハ220には感応するが、CD基準ウェハ180には感応しない(ほとんど感応しない)照射条件である。なお、図24中の「+」はCD値が大きくなるときに階調値も大きくなることを表し、図24中の「−」はCD値が大きくなるときに階調値が小さくなることを表す。
【0086】
図25は、図22のフォーカス基準ウェハ220を本実施形態の表面検査装置1で計測したときの、図16の瞳内位置161bにおける階調値を示したもので、図22と同じウェハ表面上の座標で示している。図25において、階調値の高い部分を濃い色(黒系)に設定し、階調値の低い部分を淡い色(白系)に設定して、階調凡例251として表示した。図25からわかるように、フォーカス基準ウェハ220においてフォーカス量を変化させて露光したショットを、階調差のあるショットとして明瞭に検出できていない。すなわち、フォーカス変化に伴うパターンのライン部分の断面形状変化に対しほとんど感応していない。なお、図25は、CD基準ウェハ180の階調値が図19のように計測されたときの瞳内位置161bと同一の照射条件であるので、図25の階調凡例251を図19の階調凡例191と同一とした。そのため、図24にまとめた瞳内位置161bにおける傾向差は容易に見てとれる。
【0087】
図26は、図22のフォーカス基準ウェハ220を本実施形態の表面検査装置1で計測したときの、図16の瞳内位置161cにおける階調値を示したもので、図22と同じウェハ表面上の座標で示している。図25において、階調値の高い部分を濃い色(黒系)に設定し、階調値の低い部分を淡い色(白系)に設定して、階調凡例261として表示した。図25からわかるように、フォーカス基準ウェハ220においてフォーカス量を変化させて露光したショット、すなわち、パターンのライン部分の断面形状が異なり、裾を引いた状態(図4(d)のサイド・ウォール・アングルαが大きい状態)になっているショットを、階調差のあるショットとして明瞭に検出している。なお、図26は、CD基準ウェハ180の階調値が図21のように計測されたときの瞳内位置161cと同一の照射条件であるので、図26の階調凡例261を図21の階調凡例211と同一とした。そのため、図24にまとめた瞳内位置161cにおける傾向差は容易に見てとれる。
【0088】
フォーカス量を変化させたときの物理量の変化を定量化するのは容易ではないが、いくつかの例により、本発明の効果を実際に検証した結果を示す。
【0089】
サイド・ウォール・アングルの計測は極めて難しく、CD値計測を目的としたCD−SEMでは不可能である。実際には、フォーカス・イオン・ビーム等で断面を削り取って、断面をSEMでレビューして計測する方法がとられる。これは、破壊測定であり多数点の測定には不向きであるが、この方法により、フォーカス基準ウェハ220のフォーカス量を変化させたショットを選び、数箇所のサイド・ウォール・アングルを測定した。この方法によるサイド・ウォール・アングルの測定値を縦軸(所定角度からの任意目盛として表示し、数字の大きいほど、裾が広がっていることを示す)に、同じ箇所を本実施形態の表面検査装置1で計測したときの瞳内位置161cにおける階調値を横軸にして示したものが、図27である。図27より、瞳内位置161cにおいては、サイド・ウォール・アングルの変化を階調値の変化として相関良く捉えていることがわかる。すなわち、本実施形態によれば、破壊測定により多大なる時間をかけて測定していたサイド・ウォール・アングルを、容易に知ることができる。
【0090】
デフォーカスして露光したときには、サイド・ウォール・アングルが大きくなるのと同時に、パターン形状も図14のように荒れていることが多い。フォーカス基準ウェハ220を対象として、SEM等の電子顕微鏡で得られたデータからパターンの荒れ具合を数値化した荒れ程度を、図28の縦軸に示している。なお、荒れ程度は、上方から観察したライン部分の微小点ごとの、ライン部分を直線としたときの偏差を数値化したもので、数字が大きいほど、パターンの直線性が乱れ、荒れているとみなす。一方、荒れ程度を測定した箇所を本実施形態の表面検査装置1で計測したときの瞳内位置161cにおける階調値を、図28の横軸に示している。図28において、異なるマーカ(例えば、・,×,+,Y,□,Zなど)は、図22に示す異なるフォーカス量を表す。図28の中に示した横向きのヒストグラム280は瞳内位置161cにおける階調値の分布を示し、縦向きのヒストグラム281は荒れ程度の分布を示す。フォーカス量を段階的に変化させて露光したフォーカス基準ウェハ220では、フォーカス量=0から段階的に荒れ程度も変化するはずであるが、荒れ程度の分布を示すヒストグラム281では、段階的変化は示していない。一方、階調値の分布を示すヒストグラム280では、階調値が、第1の分布280a、第2の分布280b、第3の分布280c、および第4の分布280dのように段階的分布を示している。すなわち、本実施形態によれば、パターンの荒れ具合の差をこれまで以上に高い弁別能力によって検出することができる。
【0091】
露光時にデフォーカスエラーが発生した場合は、「膜べり」と言われる現象も誘発する。膜べりとは、フォトレジスト厚が減ることである。既述したように、構造性複屈折では、パターン高さが偏光状態を決定する式に含まれるので、高さの変動は無視することができない。フォーカス基準ウェハ220のデフォーカスショットでは、裾だれ、荒れ、膜べり等が複合的に含まれているので、図27に示す関係からサイド・ウォール・アングルを計算する場合、計算精度には限界がある。本実施形態の効果を最大限に発揮するのは、既存の物理量(サイド・ウォール・アングルや、LER・LWR等に代表される荒れ具合といったもの)との関係式を得ることではなく、デフォーカス時に発生するトータルな物理量変化を、瞳内位置161cの階調値変化として検出し、その変化量を露光装置のフォーカス量と対応させることである。これにより、露光時のフォーカスエラーを早期に発見することができる。
【0092】
なお、図24にまとめた結果と、図19、図21、図25、および図26に示した結果は、最適な照射条件での結果である。最適な照射条件とは、その瞳内位置では、パターンの線幅とパターンの断面状態の2つの変数のうち、一方には感度良く感応し、他方には感応しない照射条件のことである。すなわち、特定の波長λとパターン方位角θによって、瞳内位置161bのように断面状態の影響を受けずに線幅を計測できる瞳内位置が存在し、かつ、瞳内位置161cのように線幅の影響を受けずに断面状態を知ることのできる瞳内位置が存在することである。換言すれば、波長λとパターン方位角θを変えると、最適な照射条件が瞳内位置の存在しなくなるか、あるいは、瞳内位置にごく限られた領域にしか存在しなくなる。
【0093】
図29(a)は、波長λ2(例えば、600〜700nm程度)の光をCD基準ウェハ180に照射したときの瞳CDマップを示す。図29(b)は、波長λ2の光をフォーカス基準ウェハ220に照射したときの瞳フォーカスマップを示す。なお、図17(f)の瞳CDマップと図23(f)の瞳フォーカスマップを得たときの波長(すなわち、最適な照射条件での波長)を波長λ1としたとき、波長λ1は波長λ2とは異なる波長(例えば、400〜500nm程度)である。パターン方位角θは、図17(f)、図23(f)、図29(a)、および図29(b)において、全て同一条件でパターン方位角θ1である。
【0094】
図29(a)および図29(b)に示した瞳内位置290a,290b,290c,290d,290e,290fにおける、CD基準ウェハ180およびフォーカス基準ウェハ220に対する感応を、相関誤差を含めてまとめたのが、図30である。断面状態の影響を受けずに線幅を計測できる瞳内位置や、線幅の影響を受けずに断面状態を知ることのできる瞳内位置は、いずれも、かなり狭い範囲となる。瞳内位置290eが断面状態の影響を受けずに線幅を計測できる瞳内位置となり、瞳内位置290dが線幅の影響を受けずに断面状態を知ることのできる瞳内位置となりうる。瞳内位置290bは、断面状態の感応力がないだけはなく、線幅に対する感応力も弱く、いわゆる不感帯位置である。なお、図29(a)では、瞳内位置290aのように、外乱の下地やパターン断面状態等の線幅以外の条件や、サイド・ウォール・アングル以外の条件の影響を受けることにより、線幅に対する感応はあっても、誤差の大きい位置が瞳内にはある。
【0095】
このように、波長によって、断面状態の影響を受けずに線幅を計測できるような良好な瞳内位置がなくなったり、狭くなったり、また、線幅の影響を受けずに断面状態を知ることのできるような良好な瞳内位置がなくなったり、狭くなったりすることがあるので、波長の選択は重要である。なぜなら、波長は、構造性複屈折による偏光状態変化を決定する式に含まれるからである。すなわち、波長を含めて前記最適照射条件は決定されるべきである。
【0096】
図31(a)は、波長λ1の光をパターン方位角θ2(例えば、20度程度)でCD基準ウェハ180に照射したときの瞳CDマップを示す。図31(b)は、波長λ1の光をパターン方位角θ2でフォーカス基準ウェハ220に照射したときの瞳フォーカスマップを示す。なお、図17(f)の瞳CDマップと図23(f)の瞳フォーカスマップを得たときのパターン方位角θ1(すなわち、最適な照射条件でのパターン方位角)は、パターン方位角θ2とは異なるパターン方位角(例えば、45度程度)である。波長λ1は、図17(f)、図23(f)、図29(a)、および図29(b)において、全て同一条件である。
【0097】
比較のため、波長λ1の光をパターン方位角θ1で照射したときの瞳CDマップおよび瞳フォーカスマップをそれぞれ、図31(c)と図31(d)に示す。図31(c)および図31(d)は、図17(f)および図23(f)の瞳内同一領域をそれぞれ切り出して示したものである。なお、図31(c)の瞳内位置171bと図31(d)の瞳内位置231bは、図31(a)および図31(b)の瞳内位置310bと同一瞳座標である。また、図31(c)の瞳内位置171cと図31(d)の瞳内位置231cは、図31(a)および図31(b)の瞳内位置310cと同一瞳座標である。パターン方位角θ2の図31(a)とパターン方位角θ1の図31(c)とを比較すると、瞳CDマップでは、パターン方位角が変わっても、線幅に感応しない瞳内位置はほぼ同一場所であることがわかる。
【0098】
一方、パターン方位角θ2の図31(b)とパターン方位角θ1の図31(d)とを比較すると、瞳フォーカスマップでは、パターン方位角が変わると、フォーカスに感応しない瞳内位置は変化することがわかる。図31(b)においてフォーカスに感応しない瞳内位置を線311,312で示し、図31(d)においてフォーカスに感応しない瞳内位置を線313,314で示す。そうすると、フォーカスに感応しない瞳内位置の変化がわかりやすくなり、パターン方位角θ2の図31(b)の方が、パターン方位角θ1の図31(d)よりも、フォーカスに感応しない領域が瞳の外側に移動していることがわかる(すなわち、図31(b)の線311,312が図31(d)の線313,314よりも瞳の外側に移動している)。その結果、パターン方位角θ2の図31(b)で明らかなように、瞳内位置310bは、もはやフォーカスに感応しない照射条件ではなくなる。この場合には、最適照射条件とするために、瞳内位置310bをずらせば最適となる場合があるが、瞳CDマップでのCDとの誤差等から最適かどうかを判断する必要がある。
【0099】
このように、パターン方位角によって、断面状態の影響を受けずに線幅を計測できるような良好な瞳内位置が移動したりすることがあるので、パターン方位角の選択は重要である。これらのことから、波長のみならず、パターン方位角を含めて前記最適照射条件は決定されるべきである。以上のように、パターン方位角、波長、瞳内位置を最適選択することにより、高精度でのCD計測と同時に、パターン状態検査を行うことができる。
【0100】
ここで、本実施形態による表面検査方法の一例について、図1に示すフローチャートを参照しながら説明する。まず、CD基準ウェハ180を用いて、前述した方法で図17(f)に示す瞳CDマップを求める(ステップS101)。また、フォーカス基準ウェハ220を用いて、前述した方法で図23(f)に示す瞳フォーカスマップを求める(ステップS102)。
【0101】
図17(f)の瞳CDマップおよび図23(f)の瞳フォーカスマップを求めると、これらを用いて、例えば、図16の瞳像160に対して設定した複数の瞳内位置の中から、CD基準ウェハ180には感応するが、フォーカス基準ウェハ220には感応しない瞳内位置161b(第1特定位置)を特定するとともに、フォーカス基準ウェハ220には感応するが、CD基準ウェハ180には感応しない瞳内位置161c(第2特定位置)を特定する(ステップS103)。なおこのとき、他の適切な照射条件(波長λ1やパターン方位角θ1)も決定される。なお、CD基準ウェハ180には感応するが、フォーカス基準ウェハ220には感応しない瞳内位置は、上述の瞳内位置161bのように、図16の瞳像160において左上から右下へ45度方向に延びる直線上に並ぶ瞳内位置、すなわち、Px軸方向である直線偏光(入射光I)の偏光方向に対して直線偏光の照射方向が(図16における反時計回りに)45度近傍に傾いた照射条件に対応する瞳内位置であることが好ましい。この瞳内位置は、繰り返しパターン30の下地の影響を受けない位置であるため、瞳内位置での階調値からCD値を精度よく求めることができる。
【0102】
このようにして照射条件を求めると、当該照射条件により、表面検査装置1を用いてウェハ5の表面検査を精度よく行うことができる。そこで、求めた照射条件により、照明光学系10を用いてウェハ5の表面に直線偏光を照射する(ステップS104)。このとき、図2に示すように、光源11から放出された光は、集光レンズ12、波長選択フィルター13、および第1の偏光フィルター14を透過したのち、プリズム8で下方へ反射して平行な入射光I(直線偏光)となり、対物レンズ7を通してウェハ5に照射される。
【0103】
ウェハ5からの反射光は、対物レンズ7で受光される(ステップS105)。このとき、ウェハ5からの反射光は、対物レンズ7を通して平行な反射光Jとなり、プリズム8、第2の偏光フィルター16、およびリレーレンズ17を透過して、撮像素子18に入射する。そこで、対物レンズ7の瞳面(不図示)と共役な位置に設けられた撮像素子18を用いて、入射光I(直線偏光)の偏光方向と垂直な偏光成分を検出する(ステップS106)。このとき、撮像素子18に入射した反射光は撮像素子18により電気信号に光電変換され、第2の偏光フィルター16を透過した反射光の検出信号が演算処理部20に出力される。
【0104】
そして、演算処理部20は、撮像素子18から入力された検出信号に基づいて、繰り返しパターン30のライン部分31のCD値および露光時のフォーカス量を求める(ステップS107)。このとき、演算処理部20は、図17(f)の瞳CDマップおよび図23(f)の瞳フォーカスマップを用いて、ステップS103で特定した瞳内位置161b(第1特定位置)での階調値からCD値を求めるとともに、瞳内位置161c(第2特定位置)での階調値からフォーカス量を求める。なお、求めたCD値が所定の閾値から外れた場合、ドーズ量異常と判定してその旨を画像表示装置(図示せず)等に表示することができる。また、求めたフォーカス量が所定の閾値から外れた場合、フォーカス異常と判定してその旨を画像表示装置等に表示することができる。
【0105】
以上のようにして、本実施形態によれば、ウェハ5のCD値(線幅)を精度良く計測できるだけではなく、CD計測と同時にパターンの断面状態変化を検出可能である。そのため、露光後のウェハ5に適用すれば、露光工程で発生するフォーカス異常とドーズ量異常を区別して検出することができるので、露光装置の問題を解決し、不良ウェハをリワーク工程に回して再生することができる。従来はエッチング後に多大な時間をかけて検査していたフォーカス異常をフォトレジスト段階で検査することができれば、問題の早期発見・解決に絶大な効果があり、チップあたりの製造単価が高くなりつつある最先端半導体デバイスに対しては、チップあたりの製造単価を低減させることも期待できる。
【0106】
なお、上述の実施形態においては、NAの高い対物レンズ7を用いて照明光を照射・反射光を受光し、対物レンズ7の瞳面内の位置を選択受光することにより、特定の照射条件を選んでいるが、その特定の照射条件は、既述したようにNA=0.01〜0.1程度と小さい。そのため、特定の照射条件を決定した後、NAの高い対物レンズを用いずに、特定の照射条件に設定したNAの低い光学系を用いて照射・受光するようにしてもよい。例えば、図32に示すように、断面状態の影響を受けずに線幅を計測できるような、入射角i1、入射面方位角ω1、パターン方位角θ1で決定されるとともに、偏光角φ1に代表される入射光の偏光方向、波長λ1で決定される第1の照射条件を構成する第1の光学系321と、線幅の影響を受けずに断面状態を知ることのできるような、入射角i2、入射面方位角ω2、パターン方位角θ2で決定されるとともに、偏光角φ2に代表される入射光の偏光方向、波長λ2で決定される第2の照射条件を構成する第2の光学系322とを有するものであってもよい。したがって、同一対物レンズの同一瞳を使う構成に限られるものではない。
【0107】
また、上述の実施形態において、最適照射条件を決定するために用いたCD基準ウェハ180およびフォーカス基準ウェハ220は別のウェハである必要はなく、CD基準ウェハ180の構成とフォーカス基準ウェハ220の構成とを併せ持った構成の1枚のウェハとしてもよい。
【符号の説明】
【0108】
1 表面検査装置
5 ウェハ(基板) 7 対物レンズ(受光光学系)
10 照明光学系(照射部) 15 検出光学系(検出部)
20 演算処理部(演算部)
30 繰り返しパターン(線状パターン)
161b 瞳内位置(第1の特定位置)
161c 瞳内位置(第2の特定位置)
180 CD基準ウェハ(第1の基準基板)
220 フォーカス基準ウェハ(第2の基準基板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の繰り返しパターンを有する基板の表面に直線偏光を照射する照射ステップと、
前記直線偏光が照射された前記基板の表面からの反射光を受光光学系により受光する受光ステップと、
前記受光光学系の瞳面もしくは瞳面と共役な面において、前記受光ステップで受光した前記反射光のうち前記直線偏光の偏光方向と略垂直な偏光成分を検出する検出ステップと、
前記検出ステップで検出した前記偏光成分の情報から、前記繰り返しパターンの線幅と、前記繰り返しパターンの露光の際のフォーカス状態との少なくとも一方を求める演算ステップとを有し、
前記演算ステップにおいて、前記瞳面もしくは前記瞳面と共役な面において前記線幅との相関が高い第1特定位置での前記偏光成分の情報から前記線幅を求めるとともに、前記瞳面もしくは前記瞳面と共役な面において前記フォーカス状態との相関が高い前記第1特定位置とは異なる第2特定位置での前記偏光成分の情報から前記フォーカス状態を求めることを特徴とする表面検査方法。
【請求項2】
前記線幅が既知である第1の基準基板を用いて、前記瞳面もしくは前記瞳面と共役な面内に設定した複数の瞳内位置における、前記偏光成分の情報と前記線幅との相関をそれぞれ求める線幅相関算出ステップと、
前記フォーカス状態が既知である第2の基準基板を用いて、前記設定した複数の瞳内位置における、前記偏光成分の情報と前記フォーカス状態との相関をそれぞれ求めるフォーカス相関算出ステップと、
前記複数の瞳内位置のうち、前記偏光成分の情報と前記線幅との相関が高くて前記フォーカス状態との相関が低い瞳内位置を前記第1特定位置として特定するとともに、前記偏光成分の情報と前記線幅との相関が低くて前記フォーカス状態との相関が高い瞳内位置を前記第2特定位置として特定する特定ステップとを有し、
前記演算ステップにおいて、前記特定ステップで特定した前記第1特定位置での前記偏光成分の情報から前記線幅を求めるとともに、前記特定ステップで特定した前記第2特定位置での前記偏光成分の情報から前記フォーカス状態を求めることを特徴とする請求項1に記載の表面検査方法。
【請求項3】
前記線幅相関算出ステップおよび前記フォーカス相関算出ステップの少なくとも一方において、前記瞳面もしくは瞳面と共役な面内全体を複数の区画に分割して前記複数の瞳内位置を設定し、前記区画毎にそれぞれ前記相関を求めることを特徴とする請求項1または2に記載の表面検査方法。
【請求項4】
前記特定ステップにおける前記第1特定位置および前記第2特定位置の少なくとも一方は、線形性を有する相関を示す瞳内位置であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の表面検査方法。
【請求項5】
前記特定ステップにおける前記第1特定位置は、前記直線偏光の照射方向が前記直線偏光の偏光方向に対して45度近傍に傾いた照射条件に対応する瞳内位置であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の表面検査方法。
【請求項6】
所定の繰り返しパターンを有する基板の表面に直線偏光を照射する照射部と、
前記直線偏光が照射された前記基板の表面からの反射光を受光する受光光学系と、
前記受光光学系の瞳面もしくは瞳面と共役な面において、前記受光光学系に受光された前記反射光のうち前記直線偏光の偏光方向と略垂直な偏光成分を検出する検出部と、
前記検出部に検出された前記偏光成分の情報から、前記繰り返しパターンの線幅と、前記繰り返しパターンの露光の際のフォーカス状態との少なくとも一方を求める演算部とを備え、
前記演算部は、前記瞳面もしくは前記瞳面と共役な面において前記線幅との相関が高い第1特定位置での前記偏光成分の情報から前記線幅を求めるとともに、前記瞳面もしくは前記瞳面と共役な面において前記フォーカス状態との相関が高い前記第1特定位置とは異なる第2特定位置での前記偏光成分の情報から前記フォーカス状態を求めることを特徴とする表面検査装置。
【請求項7】
前記受光光学系の瞳面もしくは瞳面と共役な面に配設された撮像素子を備えることを特徴とする請求項6に記載の表面検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図24】
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【図27】
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【図28】
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【図30】
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【図32】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図25】
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【図26】
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【図29】
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【図31】
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【公開番号】特開2011−99822(P2011−99822A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256285(P2009−256285)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】