説明

表面金属膜材料の作製方法、表面金属膜材料、金属パターン材料の作製方法、金属パターン材料、及びポリマー層形成用組成物

【課題】金属膜の密着性に優れ、湿度変化による密着力の変動が少なく、耐熱性及びフレキシブル性に優れた表面金属膜材料を簡易な方法で得ることができる作製方法、金属パターンの非形成領域の絶縁信頼性に優れ、耐熱性及びフレキシブル性に優れた金属パターン材料を簡易な方法で得ることができる作製方法を提供すること。
【解決手段】(a1)ポリイミドフィルム上に、シアノ基を有し、且つ、該ポリイミドフィルムと直接化学結合したポリマーからなるポリマー層を形成する工程と、(a2)該ポリマー層にめっき触媒又はその前駆体を付与する工程と、(a3)該めっき触媒又はその前駆体に対してめっきを行う工程と、を有することを特徴とする表面金属膜材料の作製方法、該表面金属膜材料の作製方法により得られた表面金属膜材料のめっき膜をパターン状にエッチングする工程を有することを特徴とする金属パターン材料の作製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面金属膜材料の作製方法、表面金属膜材料、金属パターン材料の作製方法、金属パターン材料、及びポリマー層形成用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、絶縁性基板の表面に金属パターンによる配線を形成した金属配線基板が、電子部品や半導体素子に広く用いられている。
かかる金属パターン材料の作製方法としては、主に、「サブトラクティブ法」が使用される。このサブトラクティブ法とは、基板表面に形成された金属膜上に、活性光線の照射により感光する感光層を設け、この感光層を像様露光し、その後現像してレジスト像を形成し、次いで、金属膜をエッチングして金属パターンを形成し、最後にレジストを剥離する方法である。
【0003】
この方法により得られる金属パターンにおいては、基板表面に凹凸を設けることにより生じるアンカー効果により、基板と金属膜との間の密着性を発現させている。そのため、得られた金属パターンの基板界面部の凹凸に起因して、金属配線として使用する際の高周波特性が悪くなるという問題点があった。また、基板表面に凹凸化処理するためには、クロム酸などの強酸で基板表面を処理するが必要であるため、金属膜と基板との密着性に優れた金属パターンを得るためには、煩雑な工程が必要であるという問題点があった。
【0004】
この問題を解決するため、基板の表面にプラズマ処理を行い、基板表面に重合開始基を導入し、その重合開始基からモノマーを重合させて、基板表面に極性基を有する表面グラフトポリマーを生成させるという表面処理を行うことで、基板の表面を粗面化することなく、基板と金属膜との密着性を改良させる方法が提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。しかしながら、この方法によれば、グラフトポリマーが極性基を有することから、温度や湿度変化により水分の吸収や脱離が生じ易く、その結果、形成された金属膜や基板が変形してしまうという問題を有していた。
また、この方法を利用して得られた金属パターンを金属配線基板の配線として使用する際には、基板界面部分に極性基を有するグラフトポリマーが残存し、水分やイオン等を保持しやすくなるため、温・湿度依存性や配線間の耐イオンマイグレーション性や、形状の変化に懸念があった。特に、プリント配線板などの微細配線に適用した際には、配線(金属パターン)間における高い絶縁性が必要であり、配線間の絶縁信頼性のより一層の向上が要求されているのが現状である。
特に、ポリイミドフィルムからなる基板を用いたフレキシブル配線基板においては、折り曲げて使用されることから、基板と金属膜との密着性の更なる向上が望まれており、また、配線間の絶縁信頼性の向上も求められているものである。
【非特許文献1】Advanced Materials 2000年 20号 1481−1494
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来の技術の欠点を考慮してなされたものであり、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明の第1の目的は、金属膜の密着性に優れ、湿度変化による密着力の変動が少なく、耐熱性及びフレキシブル性に優れた表面金属膜材料、及び該表面金属膜材料を簡易な方法で得ることができる表面金属膜材料の作製方法を提供することにある。
また、本発明の第2の目的は、金属パターンの非形成領域の絶縁信頼性に優れ、耐熱性及びフレキシブル性に優れた金属パターン材料、及び該金属パターン材料を簡易な方法で得ることができる金属パターン材料の作製方法を提供することにある。
更に、本発明の第3の目的は、吸水性が低く、疎水性が高く、更に、めっき触媒又はその前駆体に対する吸着性に優れたポリマー層を形成し得るポリマー層形成用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題に鑑みて鋭意検討した結果、以下に示す手段により上記目的を達成しうることを見出した。
本発明の表面金属膜材料の作製方法は、
(a1)ポリイミドフィルム上に、シアノ基を有し、且つ、該ポリイミドフィルムと直接化学結合したポリマーからなるポリマー層を形成する工程と、
(a2)該ポリマー層にめっき触媒又はその前駆体を付与する工程と、
(a3)該めっき触媒又はその前駆体に対してめっきを行う工程と、
を有することを特徴とする。
【0007】
本発明において、(a1)工程が、ポリイミドフィルム上に、シアノ基及び重合性基を有するポリマーを直接化学結合させることにより行われることが好ましい。
また、より好ましくは、シアノ基及び重合性基を有するポリマーが、下記式(1)で表されるユニット、及び、下記式(2)で表されるユニットを含む共重合体であることである。
【0008】
【化1】

【0009】
上記式(1)及び式(2)中、R〜Rは、夫々独立して、水素原子、又は置換若しくは無置換のアルキル基を表し、X、Y及びZは、夫々独立して、単結合、又は置換若しく無置換の二価の有機基、エステル基、アミド基、又はエーテル基を表し、L及びLは、夫々独立して、置換若しくは無置換の二価の有機基を表す。
【0010】
本発明において、シアノ基及び重合性基を有するポリマーの重量平均分子量が20000以上であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の表面金属膜材料の作製方法において、(a3)工程では、無電解めっきが行われることが好ましく、また、無電解めっきの後に、更に電気めっきが行われることがより好ましい。
更に、(a2)工程で用いられるめっき触媒がパラジウムであることが好ましい態様である。
【0012】
本発明の表面金属膜材料の作製方法において、(a1)工程が、ポリイミドフィルムの両面に対して、シアノ基を有し、且つ、該ポリイミドフィルムと直接化学結合したポリマーからなるポリマー層を形成する工程であることが好ましい態様の1つである。
また、この態様の場合、(a1)工程、(a2)工程、及び(a3)工程は、各工程毎に、前記ポリイミドフィルムの両面に対して逐次又は同時に行われることが好ましい。
【0013】
本発明の表面金属膜材料は、本発明の表面金属膜材料の作製方法により得られたモノである。
また、ポリマー層形成用組成物は、シアノ基及び重合性基を有するポリマーと、該ポリマーを溶解しうる溶剤と、を含有し、本発明の表面金属膜材料の作製方法に用いられることを特徴とする。
【0014】
本発明の金属パターン材料の作製方法は、(a4)本発明の表面金属膜材料の作製方法により得られた表面金属膜材料のめっき膜をパターン状にエッチングする工程を有することを特徴とする。
つまり、本発明の金属パターン材料の作製方法は、前述の表面金属膜材料の作製方法における(a1)、(a2)、(a3)工程を行った後、形成されためっき膜をパターン状にエッチングする工程〔(a4)工程〕を行うものである。
本発明の金属パターン材料は、本発明の金属パターン材料の作製方法により得られたものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、金属膜の密着性に優れ、湿度変化による密着力の変動が少なく、耐熱性及びフレキシブル性に優れた表面金属膜材料、及び該表面金属膜材料を簡易な方法で得ることができる表面金属膜材料の作製方法を提供することができる。
また、本発明によれば、金属パターンの非形成領域の絶縁信頼性に優れ、耐熱性及びフレキシブル性に優れた金属パターン材料、及び該金属パターン材料を簡易な方法で得ることができる金属パターン材料の作製方法を提供することができる。
更に、本発明によれば、吸水性が低く、疎水性が高く、更に、めっき触媒又はその前駆体に対する吸着性に優れたポリマー層を形成し得るポリマー層形成用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
<表面金属膜材料の作製方法、金属パターン材料の作製方法>
本発明の金属膜付基板の作製方法は、(a1)ポリイミドフィルム上に、シアノ基を有し、且つ、該ポリイミドフィルムと直接化学結合したポリマーからなるポリマー層を形成する工程と、(a2)該ポリマー層にめっき触媒又はその前駆体を付与する工程と、(a3)該めっき触媒又はその前駆体に対してめっきを行う工程と、を有することを特徴とする。
【0017】
本発明の金属パターン材料の作製方法は、(a4)本発明の表面金属膜材料の作製方法により得られた表面金属膜材料のめっき膜をパターン状にエッチングする工程を有することを特徴とする。
つまり、金属パターン材料の作製方法は、前述の表面金属膜材料の作製方法における(a1)、(a2)、(a3)工程を行った後、形成されためっき膜をパターン状にエッチングする工程〔(a4)工程〕を行うものである。
【0018】
本発明の表面金属膜材料の作製方法、及び金属パターン材料の作製方法において、ポリイミドフィルム上に形成されたポリマー層は、(a2)工程で付与されるめっき触媒又はその前駆体に対して相互作用を形成しうる基でありつつも、吸水性が低く、また、疎水性が高いものである。また、ポリイミドフィルムに結合したポリマーからなるポリマー層にめっき触媒等を付与した後、これを用いてめっきを行うことでポリマー層との密着性に優れた金属膜を得ることができる。
これらの点から、得られた表面金属膜材料は、ポリイミドフィルムとの密着性に優れた金属膜を有し、更に、ポリマー層が湿度変化に応じて変化することがないため、湿度変化による密着力の変動が少ないものとなる。このような表面金属膜材料は、後述の金属パターン材料の作製方法等に適用されて、電気配線用材料として用いられる他にも、電磁波防止膜、シールド材料等に用いることができる。特に、得られた表面金属膜材料は、フレキシブル性を有することから、フレキシブル配線基板など、折り曲げて使用する種々の用途に適用することができる。
また、金属パターン材料の作製方法であれば、(a4)工程にて、ポリイミドフィルム全面に形成されためっき膜をパターン状にエッチングして金属パターンを得ることで、該金属パターンの非形成領域にこのポリマー層が露出した状態が形成されても、この露出した部分は吸水することがなく、これに起因する絶縁性の低下が起こらない。その結果、本発明の金属パターン材料の作製方法において形成された金属パターン材料は、フレキシブル性を有すると共に、金属パターンの非形成領域の絶縁信頼性に優れたものとなる。
【0019】
まず、本発明の表面金属膜材料の作製方法における(a1)〜(a3)の各工程について説明する。
【0020】
〔(a1)工程〕
本発明の表面金属膜材料の作製方法における(a1)工程では、ポリイミドフィルム上に、シアノ基を有し、且つ、該ポリイミドフィルムと直接化学結合したポリマーからなるポリマー層を形成する。
(a1)工程は、ポリイミドフィルム上に、シアノ基及び重合性基を有するポリマーを直接化学結合させることにより行われることが好ましい。
本発明においては、ポリイミドフィルムとポリマー層を構成するポリマーとが直接化学結合していることを必須とする。
【0021】
(表面グラフト)
ポリイミドフィルム上におけるポリマー層の形成は、一般的な表面グラフト重合と呼ばれる手段を用いる。グラフト重合とは、高分子化合物鎖上に活性種を与え、これによって重合を開始する別の単量体を更に重合させ、グラフト(接ぎ木)重合体を合成する方法である。特に、活性種を与える高分子化合物が固体表面を形成する時には、表面グラフト重合と呼ばれる。
【0022】
本発明に適用される表面グラフト重合法としては、文献記載の公知の方法をいずれも使用することができる。例えば、新高分子実験学10、高分子学会編、1994年、共立出版(株)発行、p135には表面グラフト重合法として光グラフト重合法、プラズマ照射グラフト重合法が記載されている。また、吸着技術便覧、NTS(株)、竹内監修、1999.2発行、p203、p695には、γ線、電子線などの放射線照射グラフト重合法が記載されている。
光グラフト重合法の具体的方法としては、特開昭63−92658号公報、特開平10−296895号公報及び特開平11−119413号公報に記載の方法を使用することができる。
【0023】
本発明におけるポリマー層を形成する際には、上記の表面グラフト法以外にも、高分子化合物鎖の末端に、トリアルコキシシリル基、イソシアネート基、アミノ基、水酸基、カルボキシル基などの反応性官能基を付与し、これとポリイミドフィルム表面に存在する官能基とのカップリング反応により結合させる方法を適用することもできる。
これらの方法の中でも、より多くのグラフトポリマーを生成する観点からは、光グラフト重合法、特に、UV光による光グラフト重合法を用いてポリマー層を形成することが好ましい。
【0024】
〔ポリイミドフィルム〕
一般に、ポリイミドは、主鎖中に熱的・化学的に安定なイミド環(複素環)や芳香環等の分子構造を有する高分子化合物であり、耐熱性や機械強度、電気絶縁性、耐薬品性に優れるものである。
そのため、本発明においては、このポリイミドをフィルム状としてポリイミドフィルムを用いることで、得られた表面金属膜材料に対し、優れた耐熱性及びフレキシブル性を付与することが可能となる。
【0025】
本発明におけるポリイミドフィルムは、上記のような基本物性に加え、少なくとも、その表面が、シアノ基を有するポリマーが直接化学結合した状態を形成しうる機能を有するものである。具体的には、ポリイミドフィルム表面に、シアノ基を有するポリマーと直接結合しうる官能基や、シアノ基を有するポリマーと直接結合した状態を形成するための活性点を付与したもの、更には、ポリイミドフィルム自体が重合開始能を有するものが好ましく用いられる。
【0026】
本発明に用いられるポリイミドフィルムとしては、如何なるものを使用してもよい。具体的には、例えば、カプトンH、カプトンEN、カプトンV、(東レ・デュポン(株)社製)、ユーピレックス−S(宇部興産(株)社製)、アピカル−AH,アピカル−NPI((株)カネカ社製)等が好適なものとして挙げられる。
【0027】
また、本発明におけるポリイミドフィルムとして、特開2005−281350号公報の段落番号[0028]〜[0088]に記載の重合開始部位を骨格中に有するポリイミドを含む基材を用いることもできる。
【0028】
本発明に用いられるポリイミドフィルムは、半導体パッケージ、各種電気配線ポリイミドフィルム等への用途を考慮すると、表面凹凸が500nm以下であることが好ましく、より好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下、最も好ましくは20nm以下である。このポリイミドフィルムの表面凹凸が小さくなるほど、得られた金属パターン材料を配線等に適用した場合に、高周波送電時の電気損失が少なくなり好ましい。
【0029】
本発明におけるポリイミドフィルムの厚みは、作製された表面金属膜材料(金属パターン材料)の用途に応じて、適宜、決定されればよいが、可撓性及びハンドリングの点から、3μm〜150μmが好ましく、5μm〜125μmがより好ましく、7.5μm〜75μmが更に好ましい。
【0030】
(a1)工程においては、ポリイミドフィルムの両面にポリマー層を形成することができる。
このようにポリイミドフィルムの両面にポリマー層が形成された場合には、更に、後述する(a2)工程、及び(a3)工程を行うことで、両面に金属膜が形成された表面金属膜材料を得ることができる。
【0031】
本発明において、ポリイミドフィルム表面に活性種を与え、それを起点としてグラフトポリマーを生成させる表面グラフト重合法を用いる場合、グラフトポリマーの生成に際しては、表面に活性点が付与されたポリイミドフィルム、又は、上述のような重合開始部位を有するポリイミドフィルムを用いることが好ましい。このようなポリイミドフィルムを用いることで、活性点が効果的に使用され、より多くのグラフトポリマーを生成させることができる。
【0032】
ここで、ポリイミドフィルム表面に活性点を付与する方法としては、UVオゾン処理、真空プラズマ処理、大気圧プラズマ処理、コロナ処理、イオンビーム処理、火炎処理、プラズマ重合処理、エキシマーレーザー処理、アルカリ処理、電子線処理、ポリイミドエッチングなどが用いられる。
特に、活性点を付与するための処理条件の多様性及び処理の簡便さの点から、UVオゾン処理、又はプラズマ処理が好ましい。
【0033】
上記のような各種の処理は、ポリイミドフィルム表面の濡れ性をも制御することができる。特に、ポリイミドフィルム表面の親水性を処理前に比べ高めるためには、上記の各種の表面処理が好適に用いられる。
ポリイミドフィルム表面の濡れ性を制御することで、この表面と、後述する、シアノ基及び重合性基を有する化合物を含有する液状組成物との親和性を高めることができることから、該液状組成物の塗布性や、得られた塗膜の面状を向上させることが可能となる。
上記のような各種の処理は、目的に応じて、適宜、組み合わせて行ってもよい。
【0034】
(ポリマー層の形成)
(a1)工程におけるポリマー層の形成態様としては、前述した如く、ポリイミドフィルム表面に存在する官能基と、高分子化合物がその末端又は側鎖に有する反応性官能基とのカップリング反応を利用する方法や、以下のような表面グラフト重合法(光グラフト重合法)を用いることができる。
本発明においては、ポリイミドフィルムに対し、シアノ基及び重合性基を有する化合物を接触させた後、エネルギーを付与することにより、前記ポリイミドフィルム表面全体に当該ポリマーを直接化学結合させる態様であることが好ましい。即ち、シアノ基及び重合性基を有する化合物を含有する組成物を、ポリイミドフィルム表面に接触させながら、当該ポリイミドフィルム表面に生成する活性種により直接結合させるものである。
【0035】
上記接触は、ポリイミドフィルムを、シアノ基及び重合性基を有する化合物を含有する液状の組成物中に浸漬することで行ってもよいが、取り扱い性や製造効率の観点からは、後述するように、シアノ基及び重合性基を有する化合物を含有する組成物からなる層をポリイミドフィルム表面に、塗布法により形成することが好ましい。
なお、ポリイミドフィルムの両面に対してポリマー層を形成する場合にも、ポリマー層を両面に逐次又は同時に形成し易いといった観点から、塗布法を用いることが好ましい。
【0036】
以下、表面グラフト重合法(光グラフト重合法)により、グラフトポリマーを生成させる場合に用いられる、シアノ基及び重合性基を有する化合物について説明する。
本発明におけるシアノ基及び重合性基を有する化合物中のシアノ基は、めっき触媒又はその前駆体と相互作用を形成する機能はあっても、解離性の極性基(親水性基)のように高い吸水性、親水性を有するものではないため、この官能基を有するグラフトポリマーからなるポリマー層は、例えば、後述する条件1及び2を満たすことが可能になる。
【0037】
シアノ基及び重合性基を有する化合物中の重合性基は、エネルギー付与により、シアノ基及び重合性基を有する化合物同士、又は、シアノ基及び重合性基を有する化合物とポリイミドフィルムとが結合する官能基であり、具体的には、ビニル基、ビニルオキシ基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、オキセタン基、エポキシ基、イソシアネート基、活性水素を含む官能基、アゾ化合物における活性基などが挙げられる。
【0038】
一般的に、高極性になるほど吸水率が高くなる傾向であるが、シアノ基はポリマー層中にて互いに極性を打ち消しあうように相互作用しあうため、膜が緻密になり、且つ、ポリマー層全体としての極性が下がるため、吸水性が低くなる。また、後述する(a2)工程において、ポリマー層の良溶剤にて触媒を吸着させることで、シアノ基が溶媒和されてシアノ基間の相互作用がなくなり、めっき触媒と相互作用できるようになる。以上のことから、シアノ基を有するポリマー層は低吸湿でありながら、めっき触媒とはよく相互作用をする、相反する性能を発揮する点で、好ましい。
また、本発明におけるシアノ基としては、アルキルシアノ基であることが更に好ましい。これは、芳香族シアノ基は芳香環に電子を吸引されており、めっき触媒等への吸着性として重要な不対電子の供与性が低めになるが、アルキルシアノ基はこの芳香環が結合していないため、めっき触媒等への吸着性の点で好ましい。
【0039】
本発明において、シアノ基及び重合性基を有する化合物は、モノマー、マクロモノマー、ポリマーのいずれの形態あってもよく、中でも、ポリマー層の形成性と、制御の容易性の観点から、ポリマー(シアノ基及び重合性基を有するポリマー)を用いることが好ましい。
シアノ基及び重合性基を有するポリマーとしては、シアノ基を有するモノマーを用いて得られるホモポリマーやコポリマーに、重合性基として、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリル基などのエチレン付加重合性不飽和基(重合性基)を導入したポリマーであることが好ましく、このシアノ基及び重合性基を有するポリマーは、少なくとも主鎖末端又は側鎖に重合性基を有するものであり、側鎖に重合性基を有するものが好ましい。
【0040】
前記シアノ基及び重合性基を有するポリマーを得る際に用いられるシアノ基を有するモノマーとしては、シアノ基を有するモノマーであればいかなるモノマーも使用可能であるが、例えば、具体的には、以下に示すものが挙げられる。
これらは1種を単独で使用してもよい、2種以上を併用してもよい。
【0041】
【化2】

【0042】
シアノ基及び重合性基を有するポリマーにおいて、シアノ基を有するモノマーに由来するユニットは、めっき触媒又はその前駆体との相互作用形成性の観点から、シアノ基及び重合性基を有するポリマー中に、30モル%〜95モル%の範囲で含有されることが好ましく、40モル%〜80モル%の範囲で含有されることがより好ましい。
【0043】
また、シアノ基及び重合性基を有するポリマーを得る際には、吸水性を低下させるため、また、疎水性を向上させるために、上記シアノ基を有するモノマー以外に他のモノマーを用いてもよい。他のモノマーとしては、一般的な重合性モノマーを用いてよく、ジエン系モノマー、アクリル系モノマー等が挙げられる。中でも、無置換アルキルのアクリル系モノマーが好ましい。具体的には、ターシャリーブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ベンジルメタクリレートなどが好ましく使用できる。
【0044】
このようなシアノ基及び重合性基を有するポリマーは、以下のように合成できる。
合成方法としては、i)シアノ基を有するモノマーと重合性基を有するモノマーとを共重合する方法、ii)シアノ基を有するモノマーと二重結合前駆体を有するモノマーとを共重合させ、次に塩基などの処理により二重結合を導入する方法、iii)シアノ基を有するポリマーと重合性基を有するモノマーとを反応させ、二重結合を導入(重合性基を導入する)方法が挙げられる。好ましいのは、合成適性の観点から、ii)シアノ基を有するモノマーと二重結合前駆体を有するモノマーとを共重合させ、次に塩基などの処理により二重結合を導入する方法、iii)シアノ基を有するポリマーと重合性基を有するモノマーとを反応させ、重合性基を導入する方法である。
【0045】
シアノ基及び重合性基を有するポリマーの合成に用いられる、シアノ基を有するモノマーとしては、上記のシアノ基を有するモノマーと同様のモノマーを用いることができる。モノマーは、一種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0046】
シアノ基を有するモノマーと共重合させる重合性基を有するモノマーとしては、アリル(メタ)アクリレート、2−アリルオキシエチルメタクリレートなどが挙げられる。
また、二重結合前駆体を有するモノマーとしては2−(3−クロロ−1−オキソプロポキシ)エチルメタクリレー卜、2−(3−ブロモ−1−オキソプロポキシ)エチルメタクリレート、などが挙げられる。
【0047】
更に、シアノ基を有するポリマー中の、カルボキシル基、アミノ基若しくはそれらの塩、水酸基、及びエポキシ基などの官能基との反応を利用して不飽和基を導入するために用いられる重合性基を有するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、2−イソシアナトエチル(メタ)アクリレートなどがある。
【0048】
以下、本発明において好適に用いられるシアノ基及び重合性基を有するポリマーの具体例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0049】
【化3】

【0050】
本発明において、シアノ基及び重合性基を有するポリマーとしては、以下に示されるポリマー(以下、「シアノ基含有重合性ポリマー」と称する。)が好ましく用いられる。
本発明におけるシアノ基含有重合性ポリマーは、例えば、下記式(1)で表されるユニット、及び、下記式(2)で表されるユニットを含む共重合体であることが好ましい。
【0051】
【化4】

【0052】
上記式(1)及び式(2)中、R〜Rは、夫々独立して、水素原子、又は置換若しくは無置換のアルキル基を表し、X、Y及びZは、夫々独立して、単結合、置換若しく無置換の二価の有機基、エステル基、アミド基、又はエーテル基を表し、L及びLは、夫々独立して、置換若しくは無置換の二価の有機基を表す。
【0053】
〜Rが、置換若しくは無置換のアルキル基である場合、無置換のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられ、また、置換アルキル基としては、メトキシ基、ヒドロキシ基、塩素原子、臭素原子、フッ素原子等で置換された、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられる。
なお、Rとしては、水素原子、メチル基、或いは、ヒドロキシ基又は臭素原子で置換されたメチル基が好ましい。
としては、水素原子、メチル基、或いは、ヒドロキシ基又は臭素原子で置換されたメチル基が好ましい。
としては、水素原子が好ましい。
としては、水素原子が好ましい。
としては、水素原子、メチル基、或いは、ヒドロキシ基又は臭素原子で置換されたメチル基が好ましい。
【0054】
X、Y及びZが、置換若しくは無置換の二価の有機基の場合、該二価の有機基としては、置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基が挙げられる。
置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、又はこれらの基が、メトキシ基、ヒドロキシ基、塩素原子、臭素原子、フッ素原子等で置換されたものが好ましい。
置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基としては、無置換のフェニル基、若しくは、メトキシ基、ヒドロキシ基、塩素原子、臭素原子、フッ素原子等で置換されたフェニル基が好ましい。
中でも、−(CH−(nは1〜3の整数)が好ましく、更に好ましくは−CH−である。
【0055】
は、ウレタン結合又はウレア結合を有する二価の有機基が好ましく、ウレタン結合を有する二価の有機基がより好ましく、中でも、総炭素数1〜9であるものが好ましい。なお、ここで、Lの総炭素数とは、Lで表される置換若しくは無置換の二価の有機基に含まれる総炭素原子数を意味する。
の構造として、より具体的には、下記式(1−1)、又は、式(1−2)で表される構造であることが好ましい。
【0056】
【化5】

【0057】
上記式(1−1)及び式(1−2)中、R及びRは、夫々独立して、炭素原子、水素原子、及び酸素原子からなる群より選択される2つ以上の原子を用いて形成される2価の有機基であり、好ましくは、置換若しくは無置換の、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、又はブチレン基、エチレンオキシド基、ジエチレンオキシド基、トリエチレンオキシド基、テトラエチレンオキシド基、ジプロピレンオキシド基、トリプロピレンオキシド基、テトラプロピレンオキシド基が挙げられる。
【0058】
また、Lは、直鎖、分岐、若しくは環状のアルキレン基、芳香族基、又はこれらを組み合わせた基であることが好ましい。該アルキレン基と芳香族基とを組み合わせた基は、更に、エーテル基、エステル基、アミド基、ウレタン基、ウレア基を介していてもよい。中でも、Lは総炭素数が1〜15であることが好ましく、特に無置換であることが好ましい。なお、ここで、Lの総炭素数とは、Lで表される置換若しくは無置換の二価の有機基に含まれる総炭素原子数を意味する。
具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、フェニレン基、及びこれらの基が、メトキシ基、ヒドロキシ基、塩素原子、臭素原子、フッ素原子等で置換されたもの、更には、これらを組み合わせた基が挙げられる。
【0059】
本発明におけるシアノ基含有重合性ポリマーとしては、前記式(1)で表されるユニットが、下記式(3)で表されるユニットであることが好ましい。
【0060】
【化6】

【0061】
上記式(3)中、R及びRは、夫々独立して、水素原子、又は置換若しく無置換のアルキル基を表し、Zは、単結合、置換若しくは無置換の二価の有機基、エステル基、アミド基、又はエーテル基を表し、Wは、酸素原子、又はNR(Rは、水素原子、又はアルキル基を表し、好ましくは、水素原子、又は炭素数1〜5の無置換のアルキル基である。)を表し、Lは、置換若しくは無置換の二価の有機基を表す。
【0062】
式(3)におけるR及びRは、前記式(1)におけるR及びRと同義であり、好ましい例も同様である。
【0063】
式(3)におけるZは、前記式(1)におけるZと同義であり、好ましい例も同様である。
また、式(3)におけるLも、前記式(1)におけるLと同義であり、好ましい例も同様である。
【0064】
本発明におけるシアノ基含有重合性ポリマーとしては、前記式(3)で表されるユニットが、下記式(4)で表されるユニットであることが好ましい。
【0065】
【化7】

【0066】
式(4)中、R及びRは、夫々独立して、水素原子、又は置換若しく無置換のアルキル基を表し、V及びWは、夫々独立して、酸素原子、又はNR(Rは、水素原子、又はアルキル基を表し、好ましくは、水素原子、又は炭素数1〜5の無置換のアルキル基である。)を表し、Lは、置換若しくは無置換の二価の有機基を表す。
【0067】
式(4)におけるR及びRは、前記式(1)におけるR及びRと同義であり、好ましい例も同様である。
【0068】
式(4)におけるLは、前記式(1)におけるLと同義であり、好ましい例も同様である。
【0069】
前記式(3)及び式(4)において、Wは、酸素原子であることが好ましい。
また、前記式(3)及び式(4)において、Lは、無置換のアルキレン基、或いは、ウレタン結合又はウレア結合を有する二価の有機基が好ましく、ウレタン結合を有する二価の有機基がより好ましく、これら中でも、総炭素数1〜9であるものが特に好ましい。
【0070】
また、本発明におけるシアノ基含有重合性ポリマーとしては、前記式(2)で表されるユニットが、下記式(5)で表されるユニットであることが好ましい。
【0071】
【化8】

【0072】
上記式(5)中、Rは、水素原子、又は置換若しく無置換のアルキル基を表し、Uは、酸素原子、又はNR’(R’は、水素原子、又はアルキル基を表し、好ましくは、水素原子、又は炭素数1〜5の無置換のアルキル基である。)を表し、Lは、置換若しくは無置換の二価の有機基を表す。
【0073】
式(5)におけるRは、前記式(1)におけるR及びRと同義であり、水素原子であることが好ましい。
【0074】
また、式(5)におけるLは、前記式(2)におけるLと同義であり、直鎖、分岐、若しくは環状のアルキレン基、芳香族基、又はこれらを組み合わせた基であることが好ましい。
特に、式(5)においては、L中のシアノ基との連結部位が、直鎖、分岐、若しくは環状のアルキレン基を有する二価の有機基であることが好ましく、中でも、この二価の有機基が総炭素数1〜10であることが好ましい。
また、別の好ましい態様としては、式(5)におけるL中のシアノ基との連結部位が、芳香族基を有する二価の有機基であることが好ましく、中でも、該二価の有機基が、総炭素数6〜15であることが好ましい。
【0075】
本発明におけるシアノ基含有重合性ポリマーは、前記式(1)〜式(5)で表されるユニットを含んで構成されるものであり、重合性基とシアノ基とを側鎖に有するポリマーである。
このシアノ基含有重合性ポリマーは、例えば、以下のように合成することができる。
【0076】
本発明におけるシアノ基含有重合性ポリマーを合成する際の重合反応の種類としては、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合が挙げられる。反応制御の観点から、ラジカル重合、カチオン重合を用いることが好ましい。
本発明におけるシアノ基含有重合性ポリマーは、1)ポリマー主鎖を形成する重合形態と側鎖に導入される重合性基の重合形態とが異なる場合と、2)ポリマー主鎖を形成する重合形態と側鎖に導入される重合性基の重合形態とが同一の場合と、でその合成方法が異なる。
【0077】
1)ポリマー主鎖を形成する重合形態と側鎖に導入される重合性基の重合形態が異なる場合
ポリマー主鎖を形成する重合形態と側鎖に導入される重合性基の重合形態が異なる場合は、1−1)ポリマー主鎖形成がカチオン重合で行われ、側鎖に導入される重合性基の重合形態がラジカル重合である態様と、1−2)ポリマー主鎖形成がラジカル重合で行われ、側鎖に導入される重合性基の重合形態がカチオン重合である態様と、がある。
【0078】
1−1)ポリマー主鎖形成がカチオン重合で行われ、側鎖に導入される重合性基の重合形態がラジカル重合である態様
本発明において、ポリマー主鎖形成がカチオン重合で行われ、側鎖に導入される重合性基の重合形態がラジカル重合である態様で用いられるモノマーとしては、以下の化合物が挙げられる。
【0079】
・重合性基含有ユニットを形成するために用いられるモノマー
本態様に用いられる重合性基含有ユニットを形成するために用いられるモノマーとしては、ビニル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、4−(メタ)アクリロイルブタンビニルエーテル、2−(メタ)アクリロイルエタンビニルエーテル、3−(メタ)アクリロイルプロパンビニルエーテル、(メタ)アクリロイロキシジエチレングリコールビニルエーテル、(メタ)アクリロイロキシトリエチレングリコールビニルエーテル、(メタ)アクリロイル1stテルピオネール、1−(メタ)アクリロイロキシ−2−メチル−2−プロペン、1−(メタ)アクリロイロキシ−3−メチル−3−ブテン、3−メチレン−2−(メタ)アクリロイロキシ−ノルボルナン、4,4’−エチリデンジフェノールジ(メタ)アクリレート、メタクロレインジ(メタ)アクリロイルアセタール、p−((メタ)アクリロイルメチル)スチレン、アリル(メタ)アクリレート、2−(ブロモメチル)アクリル酸ビニル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸アリル等が挙げられる。
【0080】
・シアノ基含有ユニット形成するために用いられるモノマー
本態様に用いられるシアノ基含有ユニット形成するために用いられるモノマーとしては、2−シアノエチルビニルエーテル、シアノメチルビニルエーテル、3−シアノプロピルビニルエーテル、4−シアノブチルビニルエーテル、1−(p−シアノフェノキシ)−2−ビニロキシ−エタン、1−(o−シアノフェノキシ)−2−ビニロキシ−エタン、1−(m−シアノフェノキシ)−2−ビニロキシ−エタン、1−(p−シアノフェノキシ)−3−ビニロキシ−プロパン、1−(p−シアノフェノキシ)−4−ビニロキシ−ブタン、o−シアノベンジルビニルエーテル、m―シアノベンジルビニルエーテル、p―シアノベンジルビニルエーテル、アリルシアニド、アリルシアノ酢酸や、以下の化合物等が挙げられる。
【0081】
【化9】

【0082】
重合方法は、実験化学講座「高分子化学」2章−4(p74)に記載の方法や、「高分子合成の実験方法」大津隆行著 7章(p195)に記載の一般的なカチオン重合法が使用できる。なお、カチオン重合には、プロトン酸、ハロゲン化金属、有機金属化合物、有機塩、金属酸化物及び固体酸、ハロゲンが開始剤として用いることができるが、この中で、活性が大きく高分子量が合成可能な開始剤として、ハロゲン化金属と有機金属化合物の使用が好ましい。
具体的には、3フッ化ホウ素、3塩化ホウ素、塩化アルミ、臭化アルミ、四塩化チタン、四塩化スズ、臭化スズ、5フッ化リン、塩化アンチモン、塩化モリブデン、塩化タングステン、塩化鉄、ジクロロエチルアルミニウム、クロロジエチルアルミニウム、ジクロロメチルアルミニウム、クロロジメチルアルミニウム、トリメチルアルミニウム、トリメチル亜鉛、メチルグリニアが挙げられる。
【0083】
1−2)ポリマー主鎖形成がラジカル重合で行われ、側鎖に導入される重合性基の重合形態がカチオン重合である態様
本発明において、ポリマー主鎖形成がラジカル重合で行われ、側鎖に導入される重合性基の重合形態がカチオン重合である態様用いられるモノマーとしては、以下の化合物が挙げられる。
【0084】
・重合性基含有ユニット形成するために用いられるモノマー
上記1−1)の態様で挙げた重合性基含有ユニット形成するために用いられるモノマーと同じものを用いることができる。
【0085】
・シアノ基含有ユニット形成するために用いられるモノマー
本態様に用いられるシアノ基含有ユニット形成するために用いられるモノマーとしては、シアノメチル(メタ)アクリレート、2−シアノエチル(メタ)アクリレート、3−シアノプロピル(メタ)アクリレート、2−シアノプロピル(メタ)アクリレート、1−シアノエチル(メタ)アクリレート、4−シアノブチル(メタ)アクリレート、5−シアノペンチル(メタ)アクリレート、6−シアノヘキシル(メタ)アクリレート、7−シアノヘキシル(メタ)アクリレート、8−シアノヘキシル(メタ)アクリレート、2−シアノエチル−(3−(ブロモメチル)アクリルレート)、2−シアノエチル−(3−(ヒドロキシメチル)アクリルレート)、p−シアノフェニル(メタ)アクリレート、o−シアノフェニル(メタ)アクリレート、m−シアノフェニル(メタ)アクリレート、5−(メタ)アクリロイル−2−カルボニトリロ−ノルボルネン、6−(メタ)アクリロイル−2−カルボニトリロ−ノルボルネン、1−シアノ−1−(メタ)アクリロイル−シクロヘキサン、1,1−ジメチル−1−シアノ−(メタ)アクリレート、1−ジメチル−1−エチル−1−シアノ−(メタ)アクリレート、o−シアノベンジル(メタ)アクリレート、m−シアノベンジル(メタ)アクリレート、p−シアノベンジル(メタ)アクリレート、1―シアノシクロヘプチルアクリレート、2―シアノフェニルアクリレート、3―シアノフェニルアクリレート、シアノ酢酸ビニル、1―シアノ−1―シクロプロパンカルボン酸ビニル、シアノ酢酸アリル、1―シアノ−1―シクロプロパンカルボン酸アリル、N,N―ジシアノメチル(メタ)アクリルアミド、N−シアノフェニル(メタ)アクリルアミド、アリルシアノメチルエーテル、アリル−o―シアノエチルエーテル、アリル−m―シアノベンジルエーテル、アリル−p―シアノベンジルエーテルなどが挙げられる。
また、上記モノマーの水素の一部を、ヒドロキシル基、アルコキシ基、ハロゲン、シアノ基などで置換した構造を持つモノマーも使用可能である。
【0086】
重合方法は、実験化学講座「高分子化学」2章−2(p34)に記載の方法や、「高分子合成の実験方法」大津隆行著 5章(p125)に記載の一般的なラジカル重合法が使用できる。なお、ラジカル重合の開始剤には、100℃以上の加熱が必要な高温開始剤、40℃〜100℃の加熱で開始する通常開始剤、極低温で開始するレドックス開始剤などが知られているが、開始剤の安定性、重合反応のハンドリングのし易さから、通常開始剤が好ましい。
通常開始剤としては、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、ペルオキソ2硫酸塩、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビル−2,4−ジメチルバレロニトリルが挙げられる。
【0087】
2)ポリマー主鎖を形成する重合形態と側鎖に導入される重合性基の重合形態とが同一の場合
ポリマー主鎖を形成する重合形態と側鎖に導入される重合性基の重合形態とが同一の場合は、2−1)両者がカチオン重合の態様と、2−2)両者がラジカル重合である態様と、がある。
【0088】
2−1)両者がカチオン重合の態様
両者がカチオン重合の態様には、シアノ基を有するモノマーとして、前記1−1)の態様で挙げたシアノ基含有ユニット形成するために用いられるモノマーと同じものを用いることができる。
なお、重合中のゲル化を防止する観点から、シアノ基を有するポリマーを予め合成した後、該ポリマーと、カチオン重合性の重合性基を有する化合物(以下、適宜、「反応性化合物」と称する。)と、を反応させ、側鎖にカチオン重合性の重合性基を導入する方法を用いることが好ましい。
【0089】
なお、シアノ基を有するポリマーは、反応性化合物との反応のために、下記に示すような反応性基を有することが好ましい。
また、シアノ基を有するポリマーと反応性化合物とは、以下のような官能基の組み合わせとなるように、適宜、選択されることが好ましい。
具体的な組み合わせとしては、(ポリマーの反応性基、反応性化合物の官能基)=(カルボキシル基、カルボキシル基)、(カルボキシル基、エポキシ基)、(カルボキシル基、イソシアネート基)、(カルボキシル基、ハロゲン化ベンジル)、(水酸基、カルボキシル基)、(水酸基、エポキシ基)、(水酸基、イソシアネート基)、(水酸基、ハロゲン化ベンジル)(イソシアネート基、水酸基)、(イソシアネート基、カルキシル基)等を挙げることができる。
【0090】
ここで、反応性化合物として、具体的には、以下に示す化合物を用いることができる。
即ち、アリルアルコール、4−ヒドロキシブタンビニルエーテル、2−ヒドロキシエタンビニルエーテル、3−ヒドロキシプロパンビニルエーテル、ヒドロキシトリエチレングリコールビニルエーテル、1stテルピオネール、2−メチル−2−プロペノール、3−メチル−3−ブテノール、3−メチレン−2−ヒドロキシ−ノルボルナン、p−(クロロメチル)スチレンである。
【0091】
2−2)両者がラジカル重合である態様
両者がラジカル重合である態様では、合成方法としては、i)シアノ基を有するモノマーと重合性基を有するモノマーとを共重合する方法、ii)シアノ基を有するモノマーと二重結合前駆体を有するモノマーとを共重合させ、次に塩基などの処理により二重結合を導入する方法、iii)シアノ基を有するポリマーと重合性基を有するモノマーとを反応させ、二重結合を導入(重合性基を導入する)方法が挙げられる。好ましいのは、合成適性の観点から、ii)シアノ基を有するモノマーと二重結合前駆体を有するモノマーとを共重合させ、次に塩基などの処理により二重結合を導入する方法、iii)シアノ基を有するポリマーと重合性基を有するモノマーとを反応させ、重合性基を導入する方法である。
【0092】
前記i)の合成方法で用いられる重合性基を有するモノマーとしては、アリル(メタ)アクリレートや、以下の化合物などが挙げられる。
【0093】
【化10】

【0094】
前記ii)の合成方法で用いられる二重結合前駆体を有するモノマーとしては、下記式(a)で表される化合物などが挙げられる。
【0095】
【化11】

【0096】
上記式(a)中、Aは重合性基を有する有機原子団、R〜Rは、夫々独立して、水素原子又は1価の有機基、B及びCは脱離反応により除去される脱離基であり、ここでいう脱離反応とは、塩基の作用によりCが引き抜かれ、Bが脱離するものである。Bはアニオンとして、Cはカチオンとして脱離するものが好ましい。
式(a)で表される化合物としては、具体的には以下の化合物を挙げることができる。
【0097】
【化12】

【0098】
【化13】

【0099】
また、前記ii)の合成方法において、二重結合前駆体を二重結合に変換するには、下記に示すように、B、Cで表される脱離基を脱離反応により除去する方法、つまり、塩基の作用によりCを引き抜き、Bが脱離する反応を使用する。
【0100】
【化14】

【0101】
上記の脱離反応において用いられる塩基としては、アルカリ金属類の水素化物、水酸化物又は炭酸塩、有機アミ化合物、金属アルコキシド化合物が好ましい例として挙げられる。アルカリ金属類の水素化物、水酸化物、又は炭酸塩の好ましい例としては、水素化ナトリウム、水素化カルシウム、水素化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウムなどが挙げられる。有機アミン化合物の好ましい例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジエチルメチルアミン、トリブチルアミン、トリイソブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジエチルシクロヘキシルアミン、N−メチルジシクロヘキシルアミン、N−エチルジシクロヘキシルアミン、ピロリジン、1−メチルピロリジン、2,5−ジメチルピロリジン、ピペリジン、1−メチルピペリジン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ピペラジン、1,4−ジメチルピペラジン、キヌクリジン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]−オクタン、ヘキサメチレンテトラミン、モルホリン、4−メチルモルホリン、ピリジン、ピコリン、4−ジメチルアミノピリジン、ルチジン、1,8−ジアザビシクロ〔5,4,0〕−7−ウンデセン(DBU)、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、ジイソプロピルエチルアミン、Schiff塩基などが挙げられる。金属アルコキシド化合物の好ましい例としては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt−ブトキシドなどが挙げられる。これらの塩基は、1種或いは2種以上の混合であってもよい。
【0102】
また、前記脱離反応において、塩基を付与(添加)する際に用いられる溶媒としては、例えば、エチレンジクロリド、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、2−メトキシエチルアセテート、1−メトキシ−2−プロパノール、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、トルエン、酢酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル、水などが挙げられる。これらの溶媒は単独或いは2種以上混合してもよい。
【0103】
使用される塩基の量は、化合物中の特定官能基(B、Cで表される脱離基)の量に対して、当量以下であってもよく、また、当量以上であってもよい。また、過剰の塩基を使用した場合、脱離反応後、余剰の塩基を除去する目的で酸などを添加することも好ましい形態である。
【0104】
前記iii)の合成方法において用いられるシアノ基を有するポリマーは、上記1−2)の態様で挙げたシアノ基含有ユニット形成するために用いられるモノマーと、二重結合導入のための反応性基を有するモノマーと、をラジカル重合することにより合成される。
二重結合導入のための反応性基を有するモノマーとしては、反応性基としてカルボキシル基、水酸基、エポキシ基、又はイソシアネート基を有するモノマーが挙げられる。
【0105】
カルボキシル基含有のモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、安息香酸ビニル、東亞合成製のアロニクスM−5300、M−5400、M−5600、三菱レーション製のアクリルエステルPA、HH、共栄社化学製のライトアクリレート HOA−HH、中村化学製のNKエステルSA、A−SAなどが挙げられる。
水酸基含有のモノマーとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1−(メタ)アクリロイル−3−ヒドロキシ−アダマンタン、ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、2−(ヒドロキシメチル)−(メタ)アクリレート、2−(ヒドロキシメチル)−(メタ)アクリレートのメチルエステル、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3,5−ジヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、1−ヒドロキシメチル−4−(メタ)アクリロイルメチル−シクロヘキサン、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、1−メチル−2−アクリロイロキシプロピルフタル酸、2−アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸、1−メチル−2−アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタル酸、2−アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシ−3−クロロプロピルフタル酸、東亞合成(株)製のアロニクスM−554、M−154、M−555、M−155、M−158、日本油脂(株)製のブレンマーPE−200、PE−350、PP−500、PP−800、PP−1000、70PEP−350B、55PET800、以下の構造を有するラクトン変性アクリレートが使用できる。
CH=CRCOOCHCH[OC(=O)C10OH
(R=H又はMe、n=1〜5)
【0106】
エポキシ基を有するモノマーとしては、グリシジル(メタ)アクリレート、ダイセル化学製のサイクロマーA、Mなどが使用できる。
イソシアネート基を有するモノマーとしては、昭和電工製のカレンズAOI、MOIが使用できる。
なお、iii)の合成方法において用いられるシアノ基を有するポリマーは、更に第3の共重合成分を含んでいてもよい。
【0107】
前記iii)の合成方法において、シアノ基を有するポリマーと反応させる重合性基を有するモノマーとしては、シアノ基を有するポリマー中の反応性基の種類によって異なるが、以下の組合せの官能基を有するモノマーを使用することができる。
即ち、(ポリマーの反応性基、モノマーの官能基)=(カルボキシル基、カルボキシル基)、(カルボキシル基、エポキシ基)、(カルボキシル基、イソシアネート基)、(カルボキシル基、ハロゲン化ベンジル)、(水酸基、カルボキシル基)、(水酸基、エポキシ基)、(水酸基、イソシアネート基)、(水酸基、ハロゲン化ベンジル)(イソシアネート基、水酸基)、(イソシアネート基、カルボキシル基)、(エポキシ基、カルボキシル基)等を挙げることができる。
具体的には以下のモノマーを使用することができる。
【0108】
【化15】

【0109】
本発明におけるシアノ基含有重合性ポリマーにおいて、前記式(1)、式(3)、又は式(4)におけるLがウレタン結合を有する二価の有機基である構造の場合には、下記の合成方法(以下、合成方法Aと称する。)で合成することが好ましい。
即ち、本発明における合成方法Aは、少なくとも溶媒中で、側鎖にヒドロキシル基を有するポリマー、及び、イソシアネート基と重合性基とを有する化合物を用い、該ヒドロキシル基に該イソシアネート基を付加させることによりL中のウレタン結合を形成することを特徴とする。
【0110】
ここで、合成方法Aに用いられる側鎖にヒドロキシル基を有するポリマーとしては、上記1−2)の態様で挙げたシアノ基含有ユニット形成するために用いられるモノマーと、以下に示す挙げるヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートと、の共重合体が好ましい。 ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートとしては、前述の二重結合導入のための反応性基を有するモノマーの一つとして挙げられている水酸基含有のモノマーと同種のものを使用することができる。
なお、合成方法Aに用いられる側鎖にヒドロキシル基を有するポリマーは、更に第3の共重合成分を含んでいてもよい。
【0111】
上述のような側鎖にヒドロキシル基を有するポリマーの中でも、高分子量体のポリマーを合成する観点から、原料として、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートを合成する際に副生する2官能アクリレートを除去した原料を用いて合成したポリマーを使用してもよい。精製の方法としては、蒸留、カラム精製が好ましい。更に好ましくは、下記(I)〜(IV)の工程を順次経ることで得られたヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートを用いて合成されたものであることが好ましい。
(I)ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートと、該ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートを合成する際に副生する2官能アクリレートと、を含む混合物を、水に溶解する工程
(II)得られた水溶液に、水と分離する第1の有機溶剤を加えた後、該第1の有機溶剤と前記2官能アクリレートとを含む層を水層から分離する工程
(III)前記水層に、前記ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートよりも水溶解性の高い化合物を溶解する工程
(IV)前記水層に第2の有機溶剤を加えて、前記ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートを抽出した後、濃縮する工程
【0112】
前記(I)の工程において用いられる混合物は、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートと、該ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートを合成する際に副生する不純物である2官能アクリレートと、を含んでおり、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートの一般的な市販品に相当する。
前記(I)の工程では、この市販品(混合物)を水に溶解して、水溶液を得る。
【0113】
前記(II)の工程では、(I)の工程で得られた水溶液に対し、水と分離する第1の有機溶剤を加える。ここで用いられる、第1の有機溶剤としては、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ベンゼン、トルエン等が挙げられる。
その後、水溶液(水層)から、この第1の有機溶剤と2官能アクリレートとを含む層(油層)を分離する。
【0114】
前記(III)の工程では、(II)の工程で油層と分離された水層に、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートよりも水溶解性の高い化合物を溶解する。
ここで用いられるヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートよりも水溶解性の高い化合物としては、塩化ナトリウム、塩化カリウムなどのアルカリ金属塩、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウムなどのアルカリ土類金属塩などの無機塩等が用いられる。
【0115】
前記(IV)の工程では、水層に第2の有機溶剤を加えて、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートを抽出した後、濃縮する。
ここで用いられる第2の有機溶剤としては、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ベンゼン、トルエン等が挙げられる。この第2の有機溶剤は、前述の第1の有機溶剤と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
(IV)の工程における濃縮には、無水硫酸マグネシウムによる乾燥や、減圧留去等が用いられる。
【0116】
前記(I)〜(IV)の工程を順次経ることで得られたヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートを含む単離物は、その全質量中に2官能アクリレートを0.1質量%以下の範囲で含むことが好ましい。つまり、前記(I)〜(IV)の工程を経ることで、混合物から不純物である2官能アクリレートが除去され、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートが精製される。
2官能アクリレートの含有量のより好ましい範囲は、単離物の全質量中に0.05質量%以下であり、少なければ少ないほどよい。
このように精製されたヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートを用いることで、不純物である2官能アクリレートが重合反応に影響を及ぼし難くなるため、重量平均分子量が20000以上のニトリル基含有重合性ポリマーを合成することができる。
【0117】
前記(I)の工程において用いられるヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートとしては、前述の合成方法Aに用いられる側鎖にヒドロキシル基を有するポリマーを合成する際に用いられるヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートとして挙げられたものを用いることができる。中でも、イソシアネートへの反応性の観点から、第1級水酸基を有するモノマーが好ましく、更には、ポリマーの単位重量当たりの重合性基比率を高める観点から、分子量が100〜250のヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートが好ましい。
【0118】
また、合成方法Aに用いられるイソシアネート基と重合性基とを有する化合物としては、2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート(カレンズAOI、昭和電工(株)製)、2−メタクリルオキシイソシアネート(カレンズMOI、昭和電工(株)製)等が挙げられる。
【0119】
また、合成方法Aに用いられる溶媒としては、SP値(沖津法により算出)が20MPa1/2〜23MPa1/2であるものが好ましく、具体的には、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、1,2,3−トリアセトキシ−プロパン、シクロヘキサノン、2−(1−シクロヘキセニル)シクロヘキサノン、プロピオニトリル、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、アセチルアセトン、アセトフェノン、トリアセチン、1,4−ジオキサン、ジメチルカーボネート等が挙げられる。
中でも、高分子量体を合成する観点から、エステル系溶媒であることがより好ましく、特に、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジアセテート等のジアセテート系溶媒や、ジメチルカーボネートが更に好ましい。
ここで、本発明における溶媒のSP値は、沖津法(沖津俊直著「日本接着学会誌」29(3)(1993))によって算出したものである。具体的には、SP値は以下の式で計算されるものである。なお、ΔFは文献記載の値である。
SP値(δ)=ΣΔF(Molar Attraction Constants)/V(モル容積)
【0120】
以上のようにして合成された本発明におけるシアノ基含有重合性ポリマーは、共重合成分全体に対し、重合性基含有ユニット、シアノ基含有ユニットの割合が以下の範囲であることが好ましい。
即ち、重合性基含有ユニットが、共重合成分全体に対し5mol%〜50mol%で含まれることが好ましく、更に好ましくは5mol%〜40mol%である。5mol%以下では反応性(硬化性、重合性)が落ち、50mol%以上では合成の際にゲル化しやすく合成しにくい。
また、シアノ基含有ユニットは、めっき触媒に対する吸着性の観点から、共重合成分全体に対し5mol%〜95mol%で含まれることが好ましく、更に好ましくは10mol%〜95mol%である。
【0121】
なお、本発明におけるシアノ基含有重合性ポリマーは、シアノ基含有ユニット、重合性基含有ユニット以外に、他のユニットを含んでいてもよい。この他のユニットを形成するために用いられるモノマーとしては、本発明の効果を損なわないものであれば、いかなるモノマーも使用することができる。
他のユニットを形成するために用いられるモノマーとしては、具体的には、アクリル樹脂骨格、スチレン樹脂骨格、フェノール樹脂(フェノール−ホルムアルデヒド樹脂)骨格、メラミン樹脂(メラミンとホルムアルデヒドの重縮合体)骨格、ユリア樹脂(尿素とホルムアルデヒドの重縮合体)骨格、ポリエステル樹脂骨格、ポリウレタン骨格、ポリイミド骨格、ポリオレフィン骨格、ポリシクロオレフィン骨格、ポリスチレン骨格、ポリアクリル骨格、ABS樹脂(アクリロニトリル、ブタジエン、スチレンの重合体)骨格、ポリアミド骨格、ポリアセタール骨格、ポリカーボネート骨格、ポリフェニレンエーテル骨格、ポリフェニレンスルファイド骨格、ポリスルホン骨格、ポリエーテールスルホン骨格、ポリアリレート骨格、ポリエーテルエーテルケトン骨格、ポリアミドイミド骨格などの主鎖骨格を形成しうるモノマーが挙げられる。
また、これらの主鎖骨格は、シアノ基含有ユニットや、重合性基含有ユニットの主鎖骨格であってもよい。
【0122】
ただし、前述のように重合性基をポリマーに反応させて導入する場合は、100%導入することが困難な際には少量の反応性部分が残ってしまうことから、これが第3のユニットとなる可能性もある。
具体的には、ラジカル重合でポリマー主鎖を形成する場合は、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどの無置換(メタ)アクリル酸エステル類、2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、3,3,3−トリフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2−クロロエチル(メタ)アクリレートなどのハロゲン置換(メタ)アクリル酸エステル類、2−(メタ)アクリルロイロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドなどのアンモニウム基置換(メタ)アクリル酸エステル類、ブチル(メタ)アクリルアミド、イソプロピル(メタ)アクリルアミド、オクチル(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド類、スチレン、ビニル安息香酸、p−ビニルベンジルアンモニウムクロライドなどのスチレン類、N−ビニルカルバゾール、酢酸ビニル、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルカプロラクタムなどのビニル化合物類や、その他にジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−エチルチオ−エチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどが使用できる。
また、上記記載のモノマーを用いて得られたマクロモノマーも使用できる。
【0123】
カチオン重合でポリマー主鎖を形成する場合は、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、エチレングリコールビニルエーテル、ジ(エチレングリコール)ビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテル、2−クロロエチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、酢酸ビニル、2−ビニルオキシテトラヒドロピラン、ビニルベンゾエート、ビニルブチレートなどのビニルエーテル類、スチレン、p−クロロスチレン、p−メトキシスチレンなどのスチレン類、アリルアルコール、4−ヒドロキシ−1−ブテンなどの末端エチレン類を使用することができる。
【0124】
本発明におけるシアノ基含有重合性ポリマーの重量平均分子量は、1000以上70万以下が好ましく、更に好ましくは2000以上20万以下である。特に、重合感度の観点から、本発明におけるシアノ基含有重合性ポリマーの重量平均分子量は、20000以上であることが好ましい。
また、本発明におけるシアノ基含有重合性ポリマーの重合度としては、10量体以上のものを使用することが好ましく、更に好ましくは20量体以上のものである。また、7000量体以下が好ましく、3000量体以下がより好ましく、2000量体以下が更に好ましく、1000量体以下が特に好ましい。
ここに記載されている分子量及び重合度の好ましい範囲は、本発明において用いられるシアノ基含有重合性ポリマー以外のシアノ基及び重合性基を有するポリマーに関しても好適な範囲である。
【0125】
本発明におけるシアノ基含有重合性ポリマーの具体例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
なお、これらの具体例の重量平均分子量は、いずれも、3000〜100000の範囲である。
【0126】
【化16】

【0127】
【化17】

【0128】
【化18】

【0129】
【化19】

【0130】
【化20】



【0131】
【化21】



【0132】
【化22】

【0133】
ここで、例えば、前記具体例の化合物2−2−11は、アクリル酸と2−シアノエチルアクリレートを、例えば、N−メチルピロリドンに溶解させ、重合開始剤として、例えば、アゾイソブチロニトリル(AIBN)を用いてラジカル重合を行い、その後、グリシジルメタクリレートをベンジルトリエチルアンモニウムクロライドのような触媒を用い、ターシャリーブチルハイドロキノンのような重合禁止剤を添加した状態で付加反応することで合成することができる。
また、例えば、前記具体例の化合物2−2−19は、以下のモノマーと、p−シアノベンジルアクリレートを、N、N−ジメチルアクリルアミドのような溶媒に溶解させ、アゾイソ酪酸ジメチルのような重合開始剤を用いてラジカル重合を行い、その後、トリエチルアミンのような塩基を用いて脱塩酸を行うことで合成することができる。
【0134】
【化23】

【0135】
本発明におけるシアノ基含有重合性ポリマー等のシアノ基及び重合性基を有する化合物は、重合性基とシアノ基の他に、形成されたポリマー層が後述する条件1及び2を満たす範囲であれば、極性基を有していてもよい。
極性基を有していることによって、後述の工程により金属膜が形成された後、例えば、保護層を設ける場合には、ポリマー層と保護層との接触領域において密着力を向上させることができる。
【0136】
また、本発明におけるシアノ基及び重合性基を有する化合物は、重合性基とシアノ基の他に、形成されたポリマー層が後述する条件1及び2を満たす範囲であれば、めっき触媒又はその前駆体に対して相互作用を形成する官能基を有していてもよい。
この官能基としては、具体的には、金属イオンと配位形成可能な基、含窒素官能基、含硫黄官能基、含酸素官能基などが好ましい。より具体的には、イミド基、ピリジン基、3級のアミノ基、アンモニウム基、ピロリドン基、アミジノ基、トリアジン環、トリアゾール環、ベンゾトリアゾール基、ベンズイミダゾール基、キノリン基、ピリミジン基、ピラジン基、ナゾリン基、キノキサリン基、プリン基、トリアジン基、ピペリジン基、ピペラジン基、ピロリジン基、ピラゾール基、アニリン基、アルキルアミン基構造を含む基、イソシアヌル構造を含む基、ニトロ基、ニトロソ基、アゾ基、ジアゾ基、アジド基、シアノ基、シアネート基(R−O−CN)などの含窒素官能基、フェノール性水酸基、水酸基、カーボネート基、エーテル基、カルボニル基、エステル基、N−オキシド構造を含む基、S−オキシド構造を含む基、N−ヒドロキシ構造を含む基などの含酸素官能基、チオフェン基、チオール基、チオシアヌール酸基、ベンズチアゾール基、メルカプトトリアジン基、チオエーテル基、チオキシ基、スルホキシド基、スルホン基、サルファイト基、スルホキシイミン構造を含む基、スルホキシニウム塩構造を含む基、スルホン酸エステル構造を含む基などの含硫黄官能基、ホスフォート基、ホスフォロアミド基、ホスフィン基などの含リン官能基、塩素、臭素などのハロゲン原子を含む基、及び不飽和エチレン基などが挙げられる。また、隣接する原子又は原子団との関係により非解離性を示す態様であれば、イミダゾール基、ウレア基、チオウレア基を用いてもよい。更に、包接化合物、シクロデキストリンやクラウンエーテルなどの錯形成能を有する構造を、めっき触媒又はその前駆体に対して相互作用を形成する官能基としてもよい。
中でも、極性が高く、めっき触媒又はその前駆体などへの吸着能が高いことから、エーテル基(より具体的には、−O−(CH−O−(nは1〜5の整数)で表される構造)が好ましい。
【0137】
前述のように、本発明におけるポリマー層を形成するためには、シアノ基及び重合性基を有するポリマー等のシアノ基及び重合性基を有する化合物を含有する液状組成物、即ち、シアノ基及び重合性基を有する化合物と、該化合物を溶解しうる溶剤と、を含有する組成物(好ましくは、シアノ基及び重合性基を有するポリマーと、該ポリマーを溶解しうる溶剤と、を含有する本発明のポリマー層形成用組成物)を用いることが好ましい。
なお、シアノ基及び重合性基を有する化合物(例えば、シアノ基含有重合性ポリマー)の組成物中の含有量は、組成物全体に対して、2質量%〜50質量%であることが好ましい。
【0138】
上記組成物に使用する溶剤は、組成物の主成分である、シアノ基及び重合性基を有する化合物が溶解可能ならば特に制限はない。溶剤には、更に界面活性剤を添加してもよい。
使用できる溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールモノメチルエーテルの如きアルコール系溶剤、酢酸の如き酸、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンの如きケトン系溶剤、ホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンの如きアミド系溶剤、アセトニトリル、プロピロニトリルの如きニトリル系溶剤、酢酸メチル、酢酸エチルの如きエステル系溶剤、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートの如きカーボネート系溶剤などが挙げられる。
この中でも、シアノ基含有重合性ポリマーを用いた組成物とする場合には、アミド系、ケトン系、ニトリル系溶剤、カーボネート系溶剤が好ましく、具体的には、アセトン、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、アセトニトリル、プロピオニトリル、N−メチルピロリドン、ジメチルカーボネートが好ましい。
また、シアノ基含有重合性ポリマーを含有する組成物を塗布する場合は、取り扱い安さから沸点が50℃〜150℃の溶剤が好ましい。なお、これらの溶剤は単一で使用してもよいし、混合して使用してもよい。
【0139】
また、本発明において、シアノ基及び重合性基を有する化合物を含有する組成物を、ポリイミドフィルム上に塗布する場合、ポリイミドフィルムの吸溶媒率が5%〜25%となる溶剤を選択することができる。この吸溶媒率は、ポリイミドフィルムを形成した基材を溶剤中に浸漬し、1000分後に引き上げた場合の質量の変化から求めることができる。
また、シアノ基及び重合性基を有する化合物を含有する組成物を、ポリイミドフィルム上に塗布する場合、ポリイミドフィルムの膨潤率が10%〜45%となる溶剤を選択してもよい。この膨潤率は、ポリイミドフィルムを形成した基材を溶剤中に浸漬し、1000分後に引き上げた場合の厚さの変化から求めることができる。
【0140】
必要に応じて溶剤に添加することのできる界面活性剤は、溶剤に溶解するものであればよく、そのような界面活性剤としては、例えば、n−ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの如きアニオン性界面活性剤や、n−ドデシルトリメチルアンモニウムクロライドの如きカチオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンノニルフェノールエーテル(市販品としては、例えば、エマルゲン910、花王(株)製など)、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(市販品としては、例えば、商品名「ツイーン20」など)、ポリオキシエチレンラウリルエーテルの如き非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0141】
シアノ基及び重合性基を有する化合物を含有する液状組成物は、エネルギー付与により重合開始能を発現させるための重合開始剤を含有してもよい。
ここで用いられる重合開始剤は、所定のエネルギー、例えば、活性光線の照射、加熱、電子線の照射などにより、重合開始能を発現し得る公知の熱重合開始剤、光重合開始剤などを、目的に応じて、適宜選択して用いることができる。中でも、光重合を利用することが製造適性の観点から好適であり、このため、光重合開始剤を用いることが好ましい。
光重合開始剤は、照射される活性光線に対して活性であり、重合開始能を発現し得るものであれば、特に制限はなく、例えば、ラジカル重合開始剤、アニオン重合開始剤、カチオン重合開始剤などを用いることができるが、扱い易さ、反応性の観点からは、ラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤が好ましく、更に、ラジカル重合開始剤が好ましい。
【0142】
そのような光重合開始剤としては、具体的には、例えば、p−tert−ブチルトリクロロアセトフェノン、2,2’−ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンの如きアセトフェノン類;ベンゾフェノン(4,4’−ビスジメチルアミノベンゾフェノン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、の如きケトン類;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルの如きベンゾインエーテル類;ベンジルジメチルケタール、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの如きベンジルケタール類;トリフェニルスルホニウムクロライド、トリフェニルスルホニウムペンタフルオロフォスフェートなどのスルホニウム塩、ジフェニルヨードニウムクロライド、ジフェニルヨードニウムサルフェートなどのヨードニウム塩などが挙げられる。
【0143】
重合開始剤の添加量は、シアノ基及び重合性基を有する化合物を含有する液状組成物中のシアノ基及び重合性基を有する化合物に対し0.1質量%〜70質量%が好ましく、より好ましくは1質量%〜40質量%である。
【0144】
また、必要に応じて可塑剤を添加することもできる。使用できる可塑剤としては、一般的な可塑剤が使用でき、フタル酸エステル類(ジメチルエステル、ジエチルエステル、ジブチルエステル、ジ−2−エチルヘキシルエステル、ジノルマルオクチルエステル、ジイソノニルエステル、ジノニルエステル、ジイソデシルエステル、ブチルベンジルエステル)、アジピン酸エステル類(ジオクチルエステル、ジイソノニルエステル)、アゼラインサンジオクチル、セバシンサンエステル類(ジブチルエステル、ジオクチルエステル)リン酸トリクレシル、アセチルクエン酸トリブチル、エポキシ化大豆油、トリメリット酸トリオクチル、塩素化パラフィンやジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンのような高沸点溶媒も使用することができる。
【0145】
シアノ基及び重合性基を有する化合物を含有する組成物には、必要に応じて、重合禁止剤を添加することもできる。使用できる重合禁止剤としては、ハイドロキノン、ジターシャリーブチルハイドロキノン、2,5−ビス(1,1,3,3−テトラメチルブチル)ハイドロキノンなどのハイドロキノン類、p−メトキシフェノール、フェノールなどのフェノール類、ベンゾキノン類、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニロキシ フリーラジカル)、4−ヒドロキシTEMPOなどのフリーラジカル類、フェノチアジン類、N−ニトロソフェニルヒドロキシアミン、そのアルミニウム塩などのニトロソアミン類、カテコール類を使用することができる。
【0146】
また、シアノ基及び重合性基を有する化合物を含有する組成物には、必要に応じて、ポリマー層の効果を早めるために、硬化剤及び/又は硬化促進剤を添加することができる。
硬化剤及び/又は硬化促進剤として、重付加型では、脂肪族ポリアミン、脂環族ポリアミン、芳香族ポリアミン、ポリアミド、酸無水物、フェノール、フェノールノボラック、ポリメルカプタン、活性水素を2個以上持つ化合物等、触媒型としては、脂肪族第三アミン、芳香族第三アミン、イミダゾール化合物、ルイス酸錯体などが挙げられる。
また、熱、光、湿気、圧力、酸、塩基などにより硬化開始するものとしては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ポリアミドアミン、メンセンジアミン、イソホロンジアミン、N−アミノエチルピペラジン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキシスピロ(5,5)ウンデカンアダクト、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、m−キシレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、m−フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン、ジシアンジアミド、アジピン酸ジヒラジド、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ドデシル無水コハク酸、無水クロレンディック酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメート)、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸無水物、無水トリメリット酸、ポリアゼライン酸無水物、フェノールノボラック、キシリレンノボラック、ビスAノボラック、トリフェニルメタンノボラック、ビフェニルノボラック、ジシクロペンタジエンフェノールノボラック、テルペンフェノールノボラック、ポリメルカプタン、ポリサルファイド、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール−トリ−2−エチルヘキシル酸塩、ベンジルジメチルアミン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、2,4−ジアミノ−6−(2−メチルイミダゾリル−(1))−エチルS−トリアジン、BFモノエチルアミン錯体、ルイス酸錯体、有機酸ヒドラジド、ジアミノマレオニトリル、メラミン誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアミン塩、アミンイミド化合物、芳香族ジアゾニウム塩、ジアリルヨードニウム塩、トリアリルスルホニウム塩、トリアリルセレニウム塩、ケチミン化合物などが挙げられる。
【0147】
これらの硬化剤及び/又は効果促進剤は、溶液の塗布性、基板やめっき膜との密着性などの観点から、溶剤を除去した残りの不揮発成分の0〜50質量%程度まで添加することが好ましい。
【0148】
また、シアノ基及び重合性基を有する化合物を含有する組成物には、更に、ゴム成分(例えば、CTBN)、難燃化剤(例えば、りん系難燃化剤)、希釈剤やチキソトロピー化剤、顔料、消泡剤、レべリング剤、カップリング剤などを添加してもよい。
【0149】
これらのシアノ基及び重合性基を有する化合物と各種の添加剤とを適宜混合した組成物を用いることで、形成されたポリマー層の物性、例えば、熱膨張係数、ガラス転移温度、ヤング率、ポアソン比、破断応力、降伏応力、熱分解温度などを最適に設定することができる。特に、破断応力、降伏応力、熱分解温度については、より高い方が好ましい。
得られたポリマー層は、温度サイクル試験や熱経時試験、リフロー試験などで熱耐久性を測定することができる。
【0150】
シアノ基及び重合性基を有する化合物を含有する組成物を接触させる場合には、その塗布量は、めっき触媒又はその前駆体との充分な相互作用形成性の観点からは、固形分換算で、0.1g/m〜10g/mが好ましく、特に0.5g/m〜5g/mが好ましい。
なお、ポリイミドフィルム上に、シアノ基及び重合性基を有する化合物を含有する組成物を塗布し、乾燥させて、シアノ基及び重合性基を有する化合物を含有する層を形成する場合、塗布と乾燥との間に、20℃〜60℃で0.5時間〜2時間放置させて、残存する溶剤を除去してもよい。
【0151】
(エネルギーの付与)
ポリイミドフィルム表面へのエネルギー付与方法としては、例えば、加熱や露光等の輻射線照射を用いることができる。例えば、UVランプ、可視光線などによる光照射、ホットプレートなどでの加熱等が可能である。光源としては、例えば、水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ケミカルランプ、カーボンアーク灯、等がある。放射線としては、電子線、X線、イオンビーム、遠赤外線などがある。また、g線、i線、Deep−UV光、高密度エネルギービーム(レーザービーム)も使用される。
一般的に用いられる具体的な態様としては、熱記録ヘッド等による直接画像様記録、赤外線レーザーによる走査露光、キセノン放電灯などの高照度フラッシュ露光や赤外線ランプ露光などが好適に挙げられる。
エネルギー付与に要する時間としては、目的とするグラフトポリマーの生成量及び光源により異なるが、通常、5秒〜5時間の間である。
【0152】
なお、エネルギーの付与を露光にて行う場合、その露光パワーは、グラフト重合を容易に進行させるため、また、生成されたグラフトポリマーの分解を抑制するため、10mJ/cm〜5000mJ/cmの範囲であることが好ましく、より好ましくは、50mJ/cm〜3000mJ/cmの範囲である。
また、シアノ基及び重合性基を有する化合物として、平均分子量2万以上、重合度200量体以上のポリマーを使用すると、低エネルギーの露光でグラフト重合が容易に進行するため、生成したグラフトポリマーの分解を更に抑制することができる。
【0153】
以上説明した(a1)工程により、ポリイミドフィルム上には、シアノ基を有するグラフトポリマーからなるポリマー層(グラフトポリマー層)を形成することができる。
【0154】
得られたポリマー層が、例えば、pH12のアルカリ性溶液に添加し、1時間攪拌したときの重合性基部位の分解が50%以下である場合は、該ポリマー層に対して高アルカリ性溶液による洗浄を行うことができる。
【0155】
本発明において、ポリマー層が下記条件1及び2を満たすことが好ましい。
条件1:25℃−50%相対湿度環境下における飽和吸水率が0.01質量%〜10質量%
条件2:25℃−95%相対湿度環境下における飽和吸水率が0.05質量%〜20質量%
【0156】
条件1及び2における飽和吸水率は、以下の方法にて測定することができる。
まず、基板を減圧乾燥機内に放置し、基板内に含まれる水分を除去した後、所望の温度及び湿度に設定された恒温恒湿槽内に放置し、質量変化の測定によって飽和吸水率を測定する。ここで、条件1及び2における飽和吸水率は、質量が24時間経過後も変化しなくなった時の吸水率を示している。別途、予め質量変化が既知であるポリイミドフィルム上にポリマー層を形成したものについても、同様の操作により積層体の飽和吸水率を測定することにより、ポリイミドフィルムの吸水率と積層体の吸水率との差分によりポリマー層の吸水率を測定することができる。また、ポリマー層をポリイミドフィルム上に付与せずに、シャーレなどを用いて、ポリマー層を構成するポリマーの単独膜を作製し、得られたポリマー単独膜を、上記の方法によって直接吸水率を測定してもよい。
【0157】
また、本発明においては、(a1)工程で得られたポリマー層が、下記条件1’及び2’を満たすことが好ましい態様である。
条件1’:25℃−50%相対湿度環境下における飽和吸水率が0.01質量%〜5質量%
条件2’:25℃−95%相対湿度環境下における飽和吸水率が0.05質量%〜10質量%
【0158】
ここで、上記条件1及び2(好ましくは1’及び2’)を満たすポリマー層を得るためには、吸水性や疎水性の制御の容易性の観点から、このポリマー層を構成するポリマーとして、前述の如き、シアノ基を有するポリマーのような吸水性が低いものや、疎水性のもの(親水性が低いもの)を用いる方法が好ましく用いられる。なお、他にも、ポリマー層中に、吸水性を低下させる物質や、疎水性を向上させるような物質を添加する方法、更には、ポリマー層を形成した後、該ポリマー層を形成するポリマー分子を疎水化する反応性物質を含む溶液などに浸漬させて、ポリマーとその反応性物質を反応させて疎水化するなど方法も用いることができる。これらの方法は、組み合わせて用いてもよい。
【0159】
〔(a2)工程〕
(a2)工程では、上記(a1)工程において形成されたポリマー層に、めっき触媒又はその前駆体を付与する。本工程においては、ポリマー層を構成するポリマーが有するシアノ基が、その機能に応じて、付与されためっき触媒又はその前駆体を付着(吸着)する。
ここで、めっき触媒又はその前駆体としては、後述する(a3)めっき工程における、めっきの触媒や電極として機能するものが挙げられる。そのため、めっき触媒又はその前駆体は、(a3)めっき工程におけるめっきの種類により決定される。
なお、ここで、本工程において用いられるめっき触媒又はその前駆体は、無電解めっき触媒又はその前駆体であることが好ましい。
【0160】
(無電解めっき触媒)
本発明において用いられる無電解めっき触媒は、無電解めっき時の活性核となるものであれば、如何なるものも用いることができ、具体的には、ものであり、自己触媒還元反応の触媒能を有する金属(Niよりイオン化傾向の低い無電解めっきできる金属として知られるもの)などが挙げられ、具体的には、Pd、Ag、Cu、Ni、Al、Fe、Coなどが挙げられる。中でも、多座配位可能なものが好ましく、特に、配位可能な官能基の種類数、触媒能の高さから、Pdが特に好ましい。
【0161】
この無電解めっき触媒は、金属コロイドとして用いてもよい。一般に、金属コロイドは、荷電を持った界面活性剤又は荷電を持った保護剤(金属も含む)が存在する溶液中において、金属イオンを還元することにより作製することができる。金属コロイドの荷電は、ここで使用される界面活性剤又は保護剤により調節することができる。
【0162】
(無電解めっき触媒前駆体)
本工程において用いられる無電解めっき触媒前駆体とは、化学反応により無電解めっき触媒となりうるものであれば、特に制限なく使用することができる。主には、上記無電解めっき触媒として挙げた金属の金属イオンが用いられる。無電解めっき触媒前駆体である金属イオンは、還元反応により無電解めっき触媒である0価金属になる。無電解めっき触媒前駆体である金属イオンは、ポリマー層へ付与した後、無電解めっき浴への浸漬前に、別途還元反応により0価金属に変化させて無電解めっき触媒としてもよいし、無電解めっき触媒前駆体のまま無電解めっき浴に浸漬し、無電解めっき浴中の還元剤により金属(無電解めっき触媒)に変化させてもよい。
【0163】
実際には、無電解めっき前駆体である金属イオンは、金属塩を用いてポリマー層上に付与する。使用される金属塩としては、適切な溶媒に溶解して金属イオンと塩基(陰イオン)とに解離されるものであれば特に制限はなく、M(NO、MCln、M2/n(SO)、M3/n(PO)(Mは、n価の金属原子を表す)などが挙げられる。金属イオンとしては、上記の金属塩が解離したものを好適に用いることができる。具体例としては、例えば、Agイオン、Cuイオン、Alイオン、Niイオン、Coイオン、Feイオン、Pdイオンが挙げられ、中でも、多座配位可能なものが好ましく、特に、配位可能な官能基の種類数、及び触媒能の点で、Pdイオンが好ましい。
【0164】
本発明で用いられる無電解めっき触媒又はその前駆体の好ましい例の一つとして、パラジウム化合物が挙げられる。このパラジウム化合物は、めっき処理時に活性核となり金属を析出させる役割を果たす、めっき触媒(パラジウム)又はその前駆体(パラジウムイオン)として作用する。パラジウム化合物としては、パラジウムを含み、めっき処理の際に核として作用すれば、特に限定されないが、例えば、パラジウム(II)塩、パラジウム(0)錯体、パラジウムコロイドなどが挙げられる。
【0165】
パラジウム塩としては、例えば、酢酸パラジウム、塩化パラジウム、硝酸パラジウム、臭化パラジウム、炭酸パラジウム、硫酸パラジウム、ビス(ベンゾニトリル)ジクロロパラジウム(II)、ビス(アセトニトリル)ジクロロパラジウム(II)、ビス(エチレンジアミン)パラジウム(II)塩化物などが挙げられる。なかでも、取り扱いやすさと溶解性の点で、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム、硫酸パラジウム、ビス(アセトニトリル)ジクロロパラジウム(II)が好ましい。
パラジウム錯体としては、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム錯体、ジパラジウムトリスベンジリデンアセトン錯体などが挙げられる。
パラジウムコロイドは、パラジウム(0)から構成される粒子で、その大きさは特に制限されないが、液中での安定性の観点から、5nm〜300nmが好ましく、10nm〜100nmがより好ましい。パラジウムコロイドは、必要に応じて、他の金属を含んでいてもよく、他の金属としては、例えば、スズなどが挙げられる。パラジウムコロイドとしては、例えば、スズ−パラジウムコロイドなどが挙げられる。なお、パラジウムコロイドは、公知の方法で合成してもよいし、市販品を使用してもよい。例えば、荷電を持った界面活性剤又は荷電を持った保護剤が存在する溶液中において、パラジウムイオンを還元することによりパラジウムコロイドを作製することができる。
【0166】
無電解めっき触媒である金属、或いは、無電解めっき前駆体である金属塩をポリマー層に付与する方法としては、金属を適当な分散媒に分散した分散液、或いは、金属塩を適切な溶媒で溶解し、解離した金属イオンを含む溶液を調製し、その分散液又は溶液をポリマー層上に塗布するか、或いは、その分散液又は溶液中にポリマー層が形成されたポリイミドフィルムを浸漬すればよい。
この金属を適当な分散媒に分散した分散液、及び、金属塩を適切な溶媒で溶解し、解離した金属イオンを含む溶液を、適宜、めっき触媒液と称する。
【0167】
また、(a1)工程において、表面グラフト重合法を用いる場合、ポリイミドフィルム上に、シアノ基及び重合性基を有する化合物を含有する組成物を接触させるが、この組成物中に、無電解めっき触媒又はその前駆体を添加する方法を用いてもよい。シアノ基及び重合性基を有する化合物と、無電解めっき触媒又はその前駆体と、を含有する組成物を、ポリイミドフィルム上に接触させて、表面グラフト重合法を適用することにより、シアノ基を有し、且つ、ポリイミドフィルムと直接化学結合したポリマーと、めっき触媒又はその前駆体と、を含有するポリマー層を形成することができる。なお、この方法を用いれば、本発明における(a1)工程と(a2)工程とが1工程で行えることになる。
【0168】
なお、(a1)工程において、ポリイミドフィルムの両面に対してポリマー層が形成されている場合には、その両面のポリマー層に対して逐次又は同時に無電解めっき触媒又はその前駆体を接触させるために、上記の浸漬法を用いることが好ましい。
【0169】
上記のように無電解めっき触媒又はその前駆体を接触させることで、ポリマー層中のシアノ基に、ファンデルワールス力のような分子間力による相互作用、又は、孤立電子対による配位結合による相互作用を利用して、無電解めっき触媒又はその前駆体を吸着させることができる。
このような吸着を充分に行なわせるという観点からは、めっき触媒液(分散液、又は溶液)、また、組成物中の金属濃度、又は溶液中の金属イオン濃度は、0.001質量%〜50質量%の範囲であることが好ましく、0.005質量%〜30質量%の範囲であることが更に好ましい。
また、めっき触媒液のポリマー層への接触時間としては、30秒〜24時間程度であることが好ましく、1分〜1時間程度であることがより好ましい。
【0170】
また、無電解めっき触媒又はその前駆体としてパラジウム化合物を用いる場合、そのめっき触媒液中の含有量は、触媒液全量に対して、0.001質量%〜10質量%が好ましく、0.05質量%〜5質量%がより好ましく、更に0.10質量%〜1質量%が好ましい。含有量が少なすぎると後述するめっきの析出がしにくくなり、含有量が多すぎると、後述するフルアディティブ工法などにて金属パターンを形成する際、所望とされない領域までめっきが析出してしまったり、エッチング残渣除去性が損なわれることがある。
【0171】
ここで、めっき触媒液(無電解めっき触媒又はその前駆体を含む分散液、又は溶液)を構成する溶剤としては、触媒金属及びその前駆体の溶解性・分散性の観点より、水、水溶性有機溶剤が好ましく用いられる。
水溶性有機溶媒として、より具体的には、アセトン、ジオキサン、N−メチルピロリドン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコール、グリセリン、アセトニトリル、酢酸、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルなどが挙げられる。
また、めっき触媒液には、必要に応じて、非水溶性有機溶媒を用いることができ、該非水溶性有機溶媒としては、アセト酢酸エチル、エチレングリコールジアセテート、酢酸エチル、酢酸プロピルといったエステル系溶剤、燐酸エステル系溶剤、パラフィン系溶剤、芳香族系溶剤などが挙げられる。
【0172】
本発明で用いるめっき触媒液において、水と水溶性有機溶剤とを併用する場合、ポリマー層への浸透性などの観点から、水溶性有機溶剤はめっき触媒液全量に対して、0.1質量%〜40質量%が好ましく、5質量%〜40質量%がより好ましい。
このような溶剤を用いることで、ポリマー層に触媒を適切量付与することができる。
また、無電解めっき触媒又はその前駆体の溶解性の点から、硝酸などをめっき触媒液に添加してもよい。
【0173】
(その他の触媒)
本発明において、後述の(a3)工程において、ポリマー層に対して、無電解めっきを行わず直接電気めっきを行うために用いられる触媒としては、0価金属を使用することができる。この0価金属としては、Pd、Ag、Cu、Ni、Al、Fe、Coなどが挙げられ、中でも、多座配位可能なものが好ましく、特に、特に、シアノ基に対する吸着(付着)性、触媒能の高さから、Pd、Ag、Cuが好ましい。
【0174】
以上説明した(a2)工程を経ることで、ポリマー層中のシアノ基とめっき触媒又はその前駆体との間に相互作用を形成することができる。
【0175】
〔(a3)工程〕
(a3)工程では、無電解めっき触媒又はその前駆体が付与されたポリマー層に対し、めっきを行うことで、めっき膜が形成される。形成されためっき膜は、優れた導電性、密着性を有する。
本工程において行われるめっきの種類は、無電解めっき、電気めっき等が挙げられ、前記(a2)工程において、ポリマー層との間に相互作用を形成しためっき触媒又はその前駆体の機能によって、選択することができる。
つまり、本工程では、めっき触媒又はその前駆体が付与されたポリマー層に対し、電気めっきを行ってもよいし、無電解めっきを行ってもよい。
中でも、本発明においては、ポリマー層中に発現するハイブリッド構造の形成性及び密着性向上の点から、無電解めっきを行うことが好ましい。また、所望の膜厚のめっき層を得るために、無電解めっきの後に、更に電気めっきを行うことがより好ましい態様である。
以下、本工程において好適に行われるめっきについて説明する。
【0176】
(無電解めっき)
無電解めっきとは、めっきとして析出させたい金属イオンを溶かした溶液を用いて、化学反応によって金属を析出させる操作のことをいう。
本工程における無電解めっきは、例えば、無電解めっき触媒が付与されたポリイミドフィルムを、水洗して余分な無電解めっき触媒(金属)を除去した後、無電解めっき浴に浸漬して行なう。使用される無電解めっき浴としては一般的に知られている無電解めっき浴を使用することができる。
また、無電解めっき触媒前駆体が付与されたポリイミドフィルムを、無電解めっき触媒前駆体がポリマー層に吸着又は含浸した状態で無電解めっき浴に浸漬する場合には、ポリイミドフィルムを水洗して余分な前駆体(金属塩など)を除去した後、無電解めっき浴中へ浸漬される。この場合には、無電解めっき浴中において、めっき触媒前駆体の還元とこれに引き続き無電解めっきが行われる。ここで使用される無電解めっき浴としても、上記同様、一般的に知られている無電解めっき浴を使用することができる。
なお、無電解めっき触媒前駆体の還元は、上記のような無電解めっき液を用いる態様とは別に、触媒活性化液(還元液)を準備し、無電解めっき前の別工程として行うことも可能である。触媒活性化液は、無電解めっき触媒前駆体(主に金属イオン)を0価金属に還元できる還元剤を溶解した液で、該還元剤の濃度は0.1質量%〜50質量%が好ましく、より好ましくは1質量%〜30質量%である。還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウム、ヂメチルアミンボランのようなホウ素系還元剤、ホルムアルデヒド、次亜リン酸などの還元剤を使用することが可能である。
【0177】
一般的な無電解めっき浴の組成としては、溶剤の他に、1.めっき用の金属イオン、2.還元剤、3.金属イオンの安定性を向上させる添加剤(安定剤)が主に含まれている。このめっき浴には、これらに加えて、めっき浴の安定剤など公知の添加物が含まれていてもよい。
【0178】
このめっき浴に用いられる溶剤には、吸水性が低く、疎水性の高いポリマー層(好ましくは、前記1及び2の条件を全て満たすポリマー層)に対して、親和性の高い有機溶剤を含有させることが好ましい。有機溶剤の種類の選択や、含有量は、ポリマー層の物性に応じて調製すればよい。特に、ポリマー層の条件1における飽和吸水率が大きければ大きいほど、有機溶剤の含有率を小さくすることが好ましい。具体的には、以下の通りである。
即ち、条件1における飽和吸水率が0.01質量%〜0.5質量%の場合、めっき浴の全溶剤中の有機溶剤の含有量は20質量%〜80質量%であることが好ましく、同飽和吸水率が0.5質量%〜5質量%の場合、めっき浴の全溶剤中の有機溶剤の含有量は10質量%〜80質量%であることが好ましく、同飽和吸水率が5〜10質量%の場合、めっき浴の全溶剤中の有機溶剤の含有量は0〜60質量%であることが好ましく、同飽和吸水率が10質量%〜20質量%の場合、めっき浴の全溶剤中の有機溶剤の含有量は0〜45質量%であることが好ましい。
めっき浴に用いられる有機溶剤としては、水に可能な溶媒である必要があり、その点から、アセトンなどのケトン類、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類が好ましく用いられる。
【0179】
無電解めっき浴に用いられる金属の種類としては、銅、すず、鉛、ニッケル、金、パラジウム、ロジウムが知られており、中でも、導電性の観点からは、銅、金が特に好ましい。
また、上記金属に合わせて最適な還元剤、添加物がある。例えば、銅の無電解めっきの浴は、銅塩としてCuSO、還元剤としてHCOH、添加剤として銅イオンの安定剤であるEDTAやロッシェル塩などのキレート剤、トリアルカノールアミンなどが含まれている。また、CoNiPの無電解めっきに使用されるめっき浴には、その金属塩として硫酸コバルト、硫酸ニッケル、還元剤として次亜リン酸ナトリウム、錯化剤としてマロン酸ナトリウム、りんご酸ナトリウム、こはく酸ナトリウムが含まれている。また、パラジウムの無電解めっき浴は、金属イオンとして(Pd(NH)Cl、還元剤としてNH、HNNH、安定化剤としてEDTAが含まれている。これらのめっき浴には、上記成分以外の成分が入っていてもよい。
【0180】
このようにして形成される無電解めっきによるめっき膜の膜厚は、めっき浴の金属イオン濃度、めっき浴への浸漬時間、或いは、めっき浴の温度などにより制御することができるが、導電性の観点からは、0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましい。
また、めっき浴への浸漬時間としては、1分〜6時間程度であることが好ましく、1分〜3時間程度であることがより好ましい。
【0181】
以上のようにして得られた無電解めっきによるめっき膜は、SEMによる断面観察及びTEM−EDXによる元素分布の解析により、ポリマー層中に無電解めっき触媒やめっき金属が析出されていることが確認でき、更にポリマー層上にめっき金属が析出していることが確認された。ポリイミドフィルムとめっき膜との界面は、ポリマーと金属とのハイブリッド状態であるため、ポリイミドフィルム(有機成分)と無機物(触媒金属又はめっき金属)との界面が平滑(例えば、凹凸差が500nm以下)であっても、密着性が良好となる。
【0182】
(電気めっき)
本工程おいては、(a2)工程において付与されためっき触媒又はその前駆体が電極としての機能を有する場合、その触媒又はその前駆体が付与されたポリマー層に対して、電気めっきを行うことができる。
また、前述の無電解めっきの後、形成されためっき膜を電極とし、更に、電気めっきを行ってもよい。これによりポリイミドフィルムとの密着性に優れた無電解めっき膜をベースとして、そこに新たに任意の厚みをもつ金属膜を容易に形成することができる。このように、無電解めっきの後に、電気めっきを行うことで、金属膜を目的に応じた厚みに形成しうるため、本発明の金属膜を種々の応用に適用するのに好適である。
【0183】
本発明における電気めっきの方法としては、従来公知の方法を用いることができる。なお、本工程の電気めっきに用いられる金属としては、銅、クロム、鉛、ニッケル、金、銀、すず、亜鉛などが挙げられ、導電性の観点から、銅、金、銀が好ましく、銅がより好ましい。
【0184】
また、電気めっきにより得られる金属膜の膜厚については、用途に応じて異なるものであり、めっき浴中に含まれる金属濃度、或いは、電流密度などを調整することでコントロールすることができる。なお、一般的な電気配線などに用いる場合の膜厚は、導電性の観点から、0.5μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましい。
【0185】
本発明において、前述のめっき触媒、めっき触媒前駆体に由来する金属や金属塩、及び/又は、無電解めっきにより、ポリマー層中に析出した金属が、該層中でフラクタル状の微細構造体として形成されていることによって、金属膜とポリマー層との密着性を更に向上させることができる。
ポリマー層中に存在する金属量は、ポリイミドフィルム断面を金属顕微鏡にて写真撮影したとき、ポリマー層の最表面から深さ0.5μmまでの領域に占める金属の割合が5面積%〜50面積%であり、ポリマー層と金属膜との界面の算術平均粗さRa(JIS B0633−2001)が0.05μm〜0.5μmである場合に、更に強い密着力が発現される。
【0186】
<表面金属膜材料>
本発明の表面金属膜材料の作製方法の各工程を経ることで、本発明の表面金属膜材料を得ることができる。
本発明の表面金属膜材料の作製方法により得られた表面金属膜材料は、高温高湿下であっても、金属膜の密着力の変動が少ないといった効果を有する。この表面金属膜材料は、例えば、電磁波防止膜、コーティング膜、2層CCL材料、電気配線用材料等の種々の用途に適用することができる。
【0187】
本発明の金属パターン材料の作製方法は、(a1)〜(a3)の工程を経て得られた本発明の表面金属膜材料のめっき膜をパターン状にエッチングする工程を有する。
この(a4)エッチング工程について以下に説明する。
【0188】
〔(a4)工程〕
(a4)工程では、上記(a3)工程で形成されためっき膜(金属膜)をパターン状にエッチングする。即ち、本工程では、ポリイミドフィルム表面全体に形成されためっき膜の不要部分をエッチングで取り除くことで、所望の金属パターンを形成することができる。
この金属パターンの形成には、如何なる手法も使用することができ、具体的には一般的に知られているサブトラクティブ法、セミアディティブ法が用いられる。
【0189】
サブトラクティブ法とは、形成されためっき膜上にドライフィルムレジスト層を設けパターン露光、現像により金属パターン部と同じパターンを形成し、ドライフィルムレジストパターンをマスクとしてエッチング液でめっき膜を除去し、金属パターンを形成する方法である。ドライフィルムレジストとしては如何なる材料も使用でき、ネガ型、ポジ型、液状、フィルム状のものが使用できる。また、エッチング方法としては、プリント配線基板の製造時に使用されている方法が何れも使用可能であり、湿式エッチング、ドライエッチング等が使用可能であり、任意に選択すればよい。作業の操作上、湿式エッチングが装置などが簡便で好ましい。エッチング液として、例えば、塩化第二銅、塩化第二鉄等の水溶液を使用することができる。
【0190】
また、セミアディティブ法とは、形成された無電解めっき膜上にドライフィルムレジスト層を設け、パターン露光、現像により非金属パターン部と同じパターンを形成し、ドライフィルムレジソトパターンをマスクとして電気めっきを行い、ドライフィルムレジソトパターンを除去した後に非金属パターン部の無電解めっき膜に対しクイックエッチングを実施し、無電解めっき膜を除去することで、金属パターンを形成する方法である。ドライフィルムレジソト、エッチング液等はサブトラクティブ法と同様な材料が使用できる。また、電気めっき手法としては前記記載の手法が使用できる。
【0191】
以上の(a1)〜(a4)工程を経ることにより、所望の金属パターンを有する金属パターン材料が作製される。
【0192】
一方、(a1)の工程で得られるポリマー層をパターン状に形成し、パターン状のポリマー層に対し(a2)、及び(a3)工程を行うことで、金属パターン材料を作製することもできる(フルアディティブ工法)。
(a1)の工程で得られるポリマー層をパターン状に形成する方法としては、具体的には、ポリマー層を形成する際に付与されるエネルギーをパターン状とすればよく、また、エネルギーを付与しない部分を現像で除去することでパターン状のポリマー層を形成することができる。
なお、現像方法としては、シアノ基及び重合性基を有する化合物などのポリマー層を形成するために用いられる材料を溶解しうる溶剤に浸漬或いは溶解しうる溶剤をスプレー法などによって吹き付けることで行われる。現像時間は1分〜30分が好ましい。
また、(a1)で形成されるポリマー層は、グラビア印刷法、インクジェット法、マスクを用いたスプレーコート法など公知の塗布方法で直接パターニングした後、エネルギー付与し、その後、現像することで形成してもよい。
パターン形成したポリマー層上にめっき膜を形成するための(a2)、及び(a3)工程は、前述の方法と同じである。
【0193】
<金属パターン材料>
本発明の金属パターン材料は、前述の本発明の金属パターン材料の作製方法により得られたものである。
得られた金属パターン材料を構成するポリマー層は、前述のように、吸水性が低く、疎水性が高いため、このポリマー層の露出部(金属パターンの非形成領域)は、絶縁信頼性に優れる。
【0194】
本発明の金属パターン材料は、表面の凹凸が500nm以下(より好ましくは100nm以下)のポリイミドフィルム上の全面又は局所的に、金属膜(めっき膜)を設けたものであることが好ましい。また、ポリイミドフィルムと金属パターンとの密着性が0.2kN/m以上であることが好ましい。即ち、ポリイミドフィルム表面が平滑でありながら、ポリイミドフィルムと金属パターンとの密着性に優れることを特徴とする。
【0195】
なお、ポリイミドフィルム表面の凹凸は、ポリイミドフィルムをその表面に対して垂直に切断し、その断面をSEMにより観察することにより測定した値である。
より詳細には、JIS B 0601に準じて測定したRz、即ち、「指定面における、最大から5番目までの山頂のZデータの平均値と、最小から5番目までの谷底の平均値との差」で、500nm以下であることが好ましい。
また、ポリイミドフィルムと金属膜との密着性の値は、金属膜(金属パターン)の表面に、銅板(厚さ:0.1mm)をエポキシ系接着剤(アラルダイト、チバガイギー製)で接着し、140℃で4時間乾燥した後、JIS C 6481に基づき90度剥離実験を行うか、又は、金属膜自体の端部を直接剥ぎ取り、JIS C 6481に基づき90度剥離実験を行って得られた値である。
【0196】
本発明の金属パターン材料の作製方法により得られた金属パターン材料は、例えば、半導体チップ、各種電気配線板、FPC、COF、TAB、アンテナ、多層配線基板、マザーボード、等の種々の用途に適用することができる。
【実施例】
【0197】
以下、実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」「部」は質量基準である。
【0198】
(シアノ基及び重合性基を有するポリマーAの合成)
まず、下記のようにして、シアノ基及び重合性基を有するポリマーAを合成した。
1000mlの三口フラスコに、N,N−ジメチルアセトアミド35gを入れ、窒素気流下、75℃まで加熱した。そこへ、2−ヒドロキシエチルアクリレート(市販品、東京化成製)6.60g、2−シアノエチルアクリレート28.4g、V−601(和光純薬工業製)0.65gのN,N−ジメチルアセトアミド35g溶液を、2.5時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃まで加熱し、更に3時間撹拌した。その後、室温まで、反応溶液を冷却した。
上記の反応溶液に、ジターシャリーブチルハイドロキノン0.29g、ジブチルチンジラウレート0.29g、カレンズAOI(昭和電工(株)製)18.56g、N,N−ジメチルアセトアミド19gを加え、55℃、4時間反応を行った。その後、反応液にメタノールを3.6g加え、更に1.5時間反応を行った。反応終了後、酢酸エチル:ヘキサン=1:1で再沈を行い、固形物を取り出し、シアノ基及び重合性基を有するポリマーA(重量平均分子量6.2万)を32g得た。
【0199】
(相互作用性基(親水性基)及び重合性基を有するポリマーBの合成)
下記のようにして、相互作用性基(親水性基)及び重合性基を有するポリマーBを合成した。
1000mlの三口フラスコに、N,N−ジメチルアセトアミド15gを入れ、窒素気流下、75℃まで加熱した。そこへ、アクリル酸9.80g、45g、V−601(和光純薬工業製)0.391gのN,N−ジメチルアセトアミド15g溶液を、2.5時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃まで加熱し、更に3時間撹拌した。その後、室温まで、反応溶液を冷却した。上記の反応溶液に、N,N−ジメチルアセトアミド40g、ジターシャリーペンチルハイドロキノン0.03g、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド2.0g、サイクロマーA(ダイセル化学工業(株)製)17.06gを加え、100℃、2時間反応を行った。反応終了後、アセトニトリルにて再沈を行い、固形物を濾取し、アセトニトリルで洗浄、乾燥して、相互作用性基(親水性基)及び重合性基を有するポリマーBを8.3g得た。なお、「サイクロマーA」は、重合性基を有するモノマーの1つであり、エポキシ基を有する。
【0200】
〔実施例1〕
[ポリマー層の形成]
まず、前記シアノ基及び重合性基を有するポリマーA:10.5質量部、アセトン73.3質量部、メタノール33.9質量部、及びN,Nジメチルアセトアミド4.8質量部を混合攪拌し、塗布溶液Aを調製した。
また、ポリイミドフィルムとして、東レデュポン社製カプトン500H(厚み125μm)を用いた。
このポリイミドフィルムに、NIPPON LASER & ELECTRONICS LAB製UVオゾンクリーナーNL−UV42を用いてオゾン処理を行った。処理時間は5秒であった。
【0201】
上記のようにしてオゾン処理されたポリイミドフィルム表面に、上記の調製された塗布溶液Aをスピンコータ(300rpmで5秒回転後、750rpmで20秒回転)にて塗布し、その後、80℃で乾燥した。
その後、三永電機製のUV露光機(型番:UVF−502S、ランプ:UXM−501MD)を用い、10mW/cmの照射パワー(ウシオ電機製紫外線積算光量計UIT150−受光センサーUVD−S254で照射パワー測定)にて、100秒間照射露光した。
【0202】
その後、攪拌した状態のアセトニトリル中にポリマー層が形成されたポリイミドフィルムを5分間浸漬し、続いて、蒸留水にて洗浄した。
この時、形成されたポリマー層の厚みは0.6μmであった。
【0203】
(ポリマー層の飽和吸水率測定)
得られたポリマー層の飽和吸水率について前述の方法で測定した。結果は以下の通りである。
・条件1:25℃−50%相対湿度環境下における飽和吸水率:1.1質量%
・条件2:25℃−95%相対湿度環境下における飽和吸水率:3.2質量%
【0204】
[めっき触媒の付与]
アセトンに対して0.05質量%の硝酸パラジウム(和光純薬工業製)を溶解し、未溶解物をろ紙にて除去したものに、ポリマー層を有するポリイミドフィルムを、30分間浸漬した後、アセトンで1分間、更には、蒸留水で1分間洗浄した。
【0205】
[無電解めっき]
上村工業(株)製のスルカップPGTを用い、下記の建浴条件の浴を無電解めっき浴として使用した。
【0206】
【表1】

【0207】
なお、無電解めっき浴の温度を26℃、pHを水酸化ナトリウム及び硫酸で12.6に調整し、これを用いて10分間無電解めっきを行った。得られた無電解銅めっき膜の厚みは0.2μmであった。
【0208】
[電気めっき]
続いて、無電解銅めっき膜を給電層として、下記組成の電気銅めっき浴を用い、3A/dmの条件で、電気めっきを30分間行った。得られた電気銅めっき膜の厚みは19.5μmであった。
【0209】
(電気めっき浴の組成)
・硫酸銅 38g
・硫酸 95g
・塩酸 1mL
・カッパーグリームPCM(メルテックス(株)製) 3mL
・水 500g
【0210】
以上のようにして、実施例1の表面金属膜材料を得た。
【0211】
(密着性評価)
上記のようにして得られた表面金属膜材料に対して、100℃−30分間、170℃−1時間ベーク処理を行った。その後、表面金属膜材料のめっき膜の5mm幅について、島津製作所社製 オートグラフAGS−Jを使用して、引張速度10mm/mimにて、90°ピール強度の測定を行ったところ、0.77kN/mであった。
【0212】
[金属パターンの形成、及び絶縁信頼性試験]
得られた表面金属膜材料のめっき膜表面に、金属パターン(配線パターン)として残すべき領域にエッチングレジストを形成し、レジストのない領域のめっき膜を、FeCl/HClからなるエッチング液により除去した。その後、エッチングレジストを3%NaOH液からなるアルカリ剥離液にて除去し、ライン・アンド・スペース=100μm/100μmの線間絶縁信頼性を測定するための櫛形配線(金属パターン材料)を形成した。
この櫛形配線を、ESPEC製HAST試験機(AMI−150S−25)にて、125℃−85%相対湿度(未飽和)、印加電圧10V、2気圧下で200時間放置させた所、配線間の絶縁不良は見られなかった。
【0213】
〔実施例2〕
実施例1において、[めっき触媒の付与]を以下の方法に変えた以外は、実施例1と同様にして、表面金属膜材料を作製した。
【0214】
[めっき触媒の付与]
アセトン:水=8:2(質量比)に対して0.05質量%の硝酸パラジウム(和光純薬工業製)を溶解し、未溶解物をろ紙にて除去したものに、ポリマー層を有するポリイミドフィルムを、30分間浸漬した後、アセトンで1分間、更には、蒸留水で1分間洗浄した。
【0215】
得られた表面金属膜材料に対し、実施例1と同様にして、密着性試験及び絶縁信頼性試験を行ったところ、90°ピール強度の測定結果が0.72kN/mであり、また、配線間の絶縁不良は見られなかった。
【0216】
〔実施例3〕
実施例1において、ポリイミドフィルムを「東レデュポン社製カプトン500H」から「宇部興産(株)社製ユーピレックス125S(厚さ125μm)」に代えた以外は、実施例1と同様にして、表面金属膜材料を作製した。
【0217】
得られた表面金属膜材料に対し、実施例1と同様にして、密着性試験及び絶縁信頼性試験を行ったところ、90°ピール強度の測定結果が0.71kN/mであり、また、配線間の絶縁不良は見られなかった。
【0218】
〔実施例4〕
実施例1において、[めっき触媒の付与]を以下の方法に変えた以外は、実施例1と同様にして、表面金属膜材料を作製した。
【0219】
[めっき触媒の付与]
アセトンに対して0.5質量%の酢酸パラジウム(和光純薬工業製)を溶解し、未溶解物をろ紙にて除去したものに、ポリマー層を有するポリイミドフィルムを、30分間浸漬した後、アセトンで1分間、更には、蒸留水で1分間洗浄した。
【0220】
得られた表面金属膜材料に対し、実施例1と同様にして、密着性試験及び絶縁信頼性試験を行ったところ、90°ピール強度の測定結果が0.75kN/mであり、また、配線間の絶縁不良は見られなかった。
【0221】
〔実施例5〕
実施例1において、[めっき触媒の付与]を以下の方法に変えた以外は、実施例1と同様にして、表面金属膜材料を作製した。
【0222】
[めっき触媒の付与]
蒸留水/硝酸(和光純薬工業製、特級/密度1.38)/ジエチレングリコールジエチルエーテル(和光純薬工業製)=2/1/2の質量比率で混合した溶液200質量部に対し、0.25質量部の酢酸パラジウム(和光純薬工業製)を均一溶解させたものに、ポリマー層を有するポリイミドフィルムを、5分間浸漬した後、蒸留水で2分間、更に、蒸留水で1分間洗浄した。
【0223】
得られた表面金属膜材料に対し、実施例1と同様にして、密着性試験及び絶縁信頼性試験を行ったところ、90°ピール強度の測定結果が0.74kN/mであり、また、配線間の絶縁不良は見られなかった
【0224】
〔実施例6〕
実施例1において、[ポリマー層の形成]を以下の方法に変えた以外は、実施例1と同様にして、表面金属膜材料を作製した。
【0225】
[ポリマー層の形成]
まず、前記シアノ基及び重合性基を有するポリマーAの10質量%アセトン溶液:28質量部に、重合開始剤であるイルガキュア(R)2959(チバ・スペシャリティ・ケミカル社製)を、アセトン溶液中のポリマー(シアノ基及び重合性基を有するポリマーA)固形分に対し4質量%となる量を混合攪拌して、塗布溶液Bを調製した。
この塗布溶液Bを、実施例1と同様にしてオゾン処理されたポリイミド表面に、スピンコータ(300rpmで5秒回転後、750rpmで20秒回転)にて塗布し、その後、80℃で乾燥した。
その後、三永電機製のUV露光機(型番:UVF−502S、ランプ:UXM−501MD)を用い、10mW/cmの照射パワー(ウシオ電機製紫外線積算光量計UIT150−受光センサーUVD−S254で照射パワー測定)にて、50秒間照射露光した。 なお、露光後の洗浄は行わなかった。
これにより、厚み0.70μmのポリマー層を得た。
【0226】
(ポリマー層の飽和吸水率測定)
得られたポリマー層の飽和吸水率について前述の方法で測定した。結果は以下の通りである。
・条件1:25℃−50%相対湿度環境下における飽和吸水率:1.2質量%
・条件2:25℃−95%相対湿度環境下における飽和吸水率:3.1質量%
【0227】
得られた表面金属膜材料に対し、実施例1と同様にして、密着性試験及び絶縁信頼性試験を行ったところ、90°ピール強度の測定結果が0.70kN/mであり、また、配線間の絶縁不良は見られなかった。
【0228】
〔参考例1〕
実施例1の[ポリマー層の形成]において、下記のようにポリイミドフィルム上に重合開始層を形成し、この重合開始層付きポリイミドフィルムを用いた以外は、実施例1と同様にして、表面金属膜材料を作製した。
【0229】
[重合開始層の形成]
jER806(ビスフェノールF型エポキシ樹脂:ジャパンエポキシレジン製)11.9質量部、LA7052(フェノライト、硬化剤:大日本インキ化学工業製)4.7質量部、YP50−35EK(フェノキシ樹脂、東都化成製)21.7質量部、シクロヘキサノン61.6質量部、及び2−エチル−4−メチルイミダゾール(硬化促進剤)0.1質量部を混合した混合溶液を、ろ布(メッシュ#200)にて濾過し、塗布液を調製した。
この塗布液を、東レデュポン社製カプトン500H(厚み125μm)からなるポリイミドフィルムに、スピンコータ(300rpmで5秒回転後、1500rpmで25秒回転)にて塗布し、その後、170℃で乾燥して硬化させた。硬化した重合開始層の厚みは1.3μmであった。
【0230】
得られた表面金属膜材料に対し、実施例1と同様にして、密着性試験及び絶縁信頼性試験を行ったところ、90°ピール強度の測定結果が0.79kN/mであり、また、配線間の絶縁不良は見られなかった。
【0231】
また、実施例1〜6におけるポリマー層形成工程に対し、参考例1におけるポリマー層形成工程は約10倍の工程時間が必要であり、製造性の観点からは、実施例1〜6に記載の方法が非常に優れていることが分かる。
【0232】
〔比較例1〕
実施例1の[ポリマー層の形成]において、塗布溶液Aを、下記のようにして調製された塗布溶液C(ポリイミドフィルム上に相互作用性基(親水性基)及び重合性基を有するポリマーBを含有する塗布溶液)に代えた以外は、実施例1と同様にして、表面金属膜材料を作製した。
【0233】
前記相互作用性基(親水性基)及び重合性基を有するポリマーB:11.7質量部、イソプルパノール76.0質量部、メタノール33.9質量部、及びN,Nジメチルアセトアミド4.81質量部を混合攪拌し、塗布溶液Cを調製した。
【0234】
得られた表面金属膜材料に対し、実施例1と同様にして、密着性試験及び絶縁信頼性試験を行った。その結果、90°ピール強度の測定結果は0.65kN/mであった。また、信頼性試験において配線間の絶縁不良が見られた。
これにより、比較例1で得られた表面金属膜材料は、めっき膜とポリイミドフィルムとの密着性が高いものの、配線間(金属パターン間)の絶縁信頼性は低いことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a1)ポリイミドフィルム上に、シアノ基を有し、且つ、該ポリイミドフィルムと直接化学結合したポリマーからなるポリマー層を形成する工程と、
(a2)該ポリマー層にめっき触媒又はその前駆体を付与する工程と、
(a3)該めっき触媒又はその前駆体に対してめっきを行う工程と、
を有することを特徴とする表面金属膜材料の作製方法。
【請求項2】
前記(a1)工程が、ポリイミドフィルム上に、シアノ基及び重合性基を有するポリマーを直接化学結合させることにより行われることを特徴とする請求項1に記載の表面金属膜材料の作製方法。
【請求項3】
前記シアノ基及び重合性基を有するポリマーが、下記式(1)で表されるユニット、及び、下記式(2)で表されるユニットを含む共重合体であることを特徴とする請求項2に記載の表面金属膜材料の作製方法。
【化1】


(上記式(1)及び式(2)中、R〜Rは、夫々独立して、水素原子、又は置換若しくは無置換のアルキル基を表し、X、Y及びZは、夫々独立して、単結合、又は置換若しく無置換の二価の有機基、エステル基、アミド基、又はエーテル基を表し、L及びLは、夫々独立して、置換若しくは無置換の二価の有機基を表す。)
【請求項4】
前記シアノ基及び重合性基を有するポリマーの重量平均分子量が20000以上であることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の表面金属膜材料の作製方法。
【請求項5】
前記(a3)工程では、無電解めっきが行われることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の表面金属膜材料の作製方法。
【請求項6】
前記無電解めっきの後に、更に電気めっきが行われることを特徴とする請求項5に記載の表面金属膜材料の作製方法。
【請求項7】
前記めっき触媒がパラジウムであることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の表面金属膜材料の作製方法。
【請求項8】
前記(a1)工程が、ポリイミドフィルムの両面に対して、シアノ基を有し、且つ、該ポリイミドフィルムと直接化学結合したポリマーからなるポリマー層を形成する工程であることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の表面金属膜材料の作製方法。
【請求項9】
前記(a1)工程、前記(a2)工程、及び前記(a3)工程は、各工程毎に、前記樹脂フィルムの両面に対して逐次又は同時に行われることを特徴とする請求項8に記載の表面金属膜材料の作製方法。
【請求項10】
請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の表面金属膜材料の作製方法により得られた表面金属膜材料。
【請求項11】
シアノ基及び重合性基を有するポリマーと、該ポリマーを溶解しうる溶剤と、を含有し、請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の表面金属膜材料の作製方法に用いられることを特徴とするポリマー層形成用組成物。
【請求項12】
(a4)請求項1〜請求項9のいずれか1項に表面金属膜材料の作製方法により得られた表面金属膜材料のめっき膜をパターン状にエッチングする工程を有することを特徴とする金属パターン材料の作製方法。
【請求項13】
請求項12に記載の金属パターン材料の作製方法により得られた金属パターン材料。

【公開番号】特開2009−164575(P2009−164575A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−244280(P2008−244280)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】