説明

複合パネルのボルト取付構造、及び、斯かるボルト取付構造を有する車両

【課題】大きな衝撃力のかかる場合においても、複合パネルに大きな損傷を与えることなく、複合パネルを他の部材に取り付けることのできる複合パネルのボルト取付構造、及び、斯かるボルト取付構造を有する車両を提供する。
【解決手段】複合パネル1の表面層3a、3bに対して垂直方向に形成されたブッシュ取付穴11と、ブッシュ取付穴11に取り付けられたブッシュ部材20とを備え、複合パネル1の中間層2に位置した円筒状部21の外周囲には、フランジ部23が複合パネル1の表面層3a、3bに当接する領域より大きな範囲で軽量樹脂Rで補強された補強部30が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば列車やモノレールなどの車両用として使用可能な複合パネルをボルトを利用して他の部材、例えば、車体などに取り付けるための複合パネルのボルト取付構造、及び、斯かるボルト取付構造を有する車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、列車などの車両用の複合パネルとしては、鉄、アルミニウム、ステンレススチールなどの金属材料が一般に使用されている。最近では、軽量化のニーズから、一部、内装用などとして、ガラス繊維或いは炭素繊維を強化繊維として使用した繊維強化複合材、即ち、ガラス繊維強化プラスチック或いは炭素繊維強化プラスチックが使用されている。
【0003】
本発明者らは、特許文献1にて、また、図8及び図9に示すように、基材2としてのハニカム構造体或いは発泡構造体の少なくとも一側の面に表面層として、炭素繊維にマトリックス樹脂を含浸させて形成した繊維強化複合材3(3a、3b)を配置した構成の車両用複合パネル1を提案した。
【0004】
このような複合パネル1を、車体200に取り付ける場合には、図9に示すように、単に、複合パネル1にボルト取り付け用の穴11を開け、そこにボルト軸100bを挿通し、車体200にボルト100を螺入することにより行われていた。
【0005】
しかしながら、このような取付方法では、ボルト頭100aが複合パネル1の表面より突出することとなる。車体表面上に突起形状物を存在させることは、騒音の元となり、好ましいことではない。
【0006】
また、従来の上記取付方法では、ボルト100の締め付け力が、直接、複合パネル1の厚み方向の圧縮力となり、複合パネル1が凹んだり、或いは、表面層3aの繊維強化複合材が割れるなどの、複合パネル1の損傷の原因となっていた。延いては、複合パネル1の強度に悪影響をもたらすこととなる。
【0007】
よって、本発明者らは、特許文献2にて、また、図10に示すように、ブッシュ部材20を用いた複合パネル1のボルト取付構造10を提案した。
【0008】
つまり、ボルト取付構造10を構成する複合パネル1は、図8、図9に示す構成と同様に、ハニカム構造体又は発泡構造体とされる基材、即ち、中間層2と、中間層2の両面に配置された表面層を形成する繊維強化複合材3(3a、3b)とを有している。複合パネル1には、表面層3a、3bに対して垂直方向にブッシュ取付穴11が形成され、このブッシュ取付穴11に円筒状のブッシュ部材20が取り付けられ、接着剤で固定される。
【0009】
ブッシュ部材20は、その一端に、ボルト100のボルト頭100aを受けると共にボルト軸100bが貫通可能なボルト孔25が形成されたボルト座面部22を備えている。
【0010】
従って、複合パネル1は、このブッシュ部材20を介して、ボルト100により、車体200に取り付けられる。
【0011】
このボルト取付構造10による方法では、ブッシュ部材20の中にボルト100の頭100aを沈め、また必要により、ボルト頭100aの上部空間部には充填材27を充填することができることから騒音の発生を防止でき、また、ブッシュ部材20と複合パネル1との間を、接着剤による接着で一義的に固定することから、複合パネル1への損傷を少なくすることができる。
【特許文献1】特開2005−14449号公報
【特許文献2】特開2006−76035号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記特許文献2に記載するボルト取付構造は、車両用部材において、通常使用時は何の支障もないが、鳥や石等の大きな障害物が衝突するような箇所、つまり大きな衝撃力のかかる箇所においては、接着力を固定方法の主な手段としていることから、剥離を起こし易いという問題点を持っている。
【0013】
従って、本発明の目的は、大きな衝撃力のかかる場合においても、複合パネルに大きな損傷を与えることなく、複合パネルを他の部材に取り付けることのできる複合パネルのボルト取付構造、及び、斯かるボルト取付構造を有する車両を提供することである。
【0014】
本発明の他の目的は、車両用複合パネルにおいては、表面に出る突出部をなるべく小さくし、滑らかな表面に近づけ、走行時の騒音を抑制することのできる複合パネルのボルト取付構造、及び、斯かるボルト取付構造を有する車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的は本発明に係る複合パネルのボルト取付構造、及び、斯かるボルト取付構造を有する車両にて達成される。要約すれば、第1の本発明によれば、ハニカム構造体又は発泡構造体とされる中間層と、前記中間層の両面に配置された表面層を形成する繊維強化複合材とを有する複合パネルのボルト取付構造であって、
前記複合パネルの表面層に対して垂直方向に形成されたブッシュ取付穴と、前記ブッシュ取付穴に取り付けられたブッシュ部材とを備え、
前記ブッシュ部材は、前記ブッシュ取付穴に挿入されてその外面が前記ブッシュ取付穴に接着される円筒形状の円筒状部と、前記円筒状部の軸線方向一端に一体に形成され、前記複合パネルの表面層に当接するフランジ部と、を有し、
前記円筒状部は、前記フランジ部が形成された側から挿入されたボルトのボルト頭が挿入可能な大きさの内径を有した中心孔と、前記中心孔の前記フランジ部が形成された側とは反対側端部に形成され、ボルト頭を受けると共にボルト軸が貫通可能なボルト孔が形成されたボルト座面部と、を備え、
前記複合パネルの前記中間層に位置した前記円筒状部の外周囲には、前記フランジ部が前記複合パネルの表面層に当接する領域より大きな範囲で軽量樹脂で補強された補強部が形成されている、
ことを特徴とする複合パネルのボルト取付構造が提供される。
【0016】
第2の本発明によれば、ハニカム構造体又は発泡構造体とされる中間層と、前記中間層の両面に配置された表面層を形成する繊維強化複合材とを有する複合パネルのボルト取付構造であって、
前記複合パネルの表面層に対して垂直方向に形成されたブッシュ取付穴と、前記ブッシュ取付穴に取り付けられたブッシュ部材とを備え、
前記ブッシュ部材は、前記ブッシュ取付穴に挿入されてその外面が前記ブッシュ取付穴に接着される円筒形状の円筒状部と、前記円筒状部の軸線方向一端に一体に形成され、前記複合パネルの表面層に当接するフランジ部と、を有し、
前記円筒状部は、その円筒状内面に、前記フランジ部とは反対の側から挿入されたボルトのボルト軸と螺合するネジ部を有し、
前記複合パネルの前記中間層に位置した前記円筒状部の外周囲には、前記フランジ部が前記複合パネルの表面層に当接する領域より大きな範囲で軽量樹脂で補強された補強部が形成されている、
ことを特徴とする複合パネルのボルト取付構造が提供される。一実施態様によると、前記円筒状部の前記フランジが形成された端部は、閉鎖端とされる。
【0017】
第3の本発明によれば、ハニカム構造体又は発泡構造体とされる中間層と、前記中間層の両面に配置された表面層を形成する繊維強化複合材とを有する複合パネルのボルト取付構造であって、
前記複合パネルの表面層に対して垂直方向に形成されたブッシュ取付穴と、前記ブッシュ取付穴に取り付けられた第1のブッシュ部材と、前記第1のブッシュ部材に取り付けられた第2のブッシュ部材と、を備え、
前記第1のブッシュ部材は、前記ブッシュ取付穴に挿入されてその外面が前記ブッシュ取付穴に接着され、その内面にネジ部が形成された円筒形状の円筒状部と、前記円筒状部の軸線方向一端に一体に形成され、前記複合パネルの一側の表面層に当接するフランジ部と、を有し、
前記第2のブッシュ部材は、その外面には、前記第1のブッシュ部材の前記フランジ部とは反対側から挿入されて前記第1のブッシュ部材の前記円筒状内面ネジ部に螺合されるネジ部が形成された円筒形状の円筒状部と、前記円筒状部の軸線方向一端に一体に形成され、前記複合パネルの他側の表面層に当接するフランジ部と、を有し、
前記第2のブッシュ部材の前記円筒状部は、その円筒状内面に、前記第2のブッシュ部材へと挿入されたボルトのボルト軸と螺合するネジ部を有し、
前記第1のブッシュ部材の前記複合パネルの前記中間層に位置した前記円筒状部の外周囲には、前記第1及び第2のブッシュ部材の前記フランジ部が前記複合パネルの表面層に当接する領域より大きな範囲で軽量樹脂で補強された補強部が形成されている、
ことを特徴とする複合パネルのボルト取付構造が提供される。一実施態様によれば、前記第1のブッシュ部材の前記円筒状部の前記フランジが形成された端部は、閉鎖端とされる。
【0018】
上記各本発明にて、一実施態様によれば、前記ブッシュ取付穴の穴径(D4)と、前記ブッシュ取付穴に接着される前記ブッシュ部材の円筒状部の外径(D1)との径差(D4−D1)が、0.1mm〜1.0mmの範囲にあり、前記ブッシュ取付穴の穴径(D4)が前記ブッシュ部材の円筒状部の外径(D1)よりも大きい(D4>D1)。
【0019】
本発明の他の実施態様によれば、前記複合パネルの前記中間層は、ハニカム構造体であり、前記補強部は、前記円筒状部の外周囲のハニカム構造体の孔部に軽量樹脂を詰め込み、硬化することにより形成する。又は、他の実施態様によれば、前記複合パネルの前記中間層の、前記円筒状部の外周囲に位置する部分を取り除き、そこに軽量樹脂を詰め込み、硬化することにより形成する。
【0020】
本発明の他の実施態様によれば、前記補強部の領域(D6)は、前記ブッシュ部材のフランジ部の外径(D5)より、5mm〜20mmの範囲で大きい。
【0021】
本発明の他の実施態様によれば、前記軽量樹脂は、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニールエステル樹脂、MMA樹脂、又はウレタン樹脂のいずれかである。又は、他の実施態様によれば、前記軽量樹脂は、炭素繊維の短繊維、ガラス繊維の短繊維、カーボンブラック、炭酸カルシュウム、水酸化アルミニウム、ガラスバルーン、エポキシ発泡バルーン、ウレタン発泡バルーン、アクリル発泡バルーンのいずれか1種又は複数種を強化材として混入したエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニールエステル樹脂、MMA樹脂、又はウレタン樹脂のいずれかである。
【0022】
本発明の他の実施態様によれば、前記表面層を形成する繊維強化複合材の強化繊維は、長繊維の炭素繊維、アラミド繊維PBO繊維、ガラス繊維又はこれらの複合体である。又、他の実施態様によれば、前記表面層を形成する繊維強化複合材のマトリックス樹脂は、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニールエステル樹脂、MMA樹脂、又はフェノール樹脂のいずれかである。
【0023】
第4の本発明によれば、第1乃至第3の本発明に記載された複合パネルのボルト取付構造を有することを特徴とする車両が提供される。
【発明の効果】
【0024】
本発明の複合パネルのボルト取付構造によれば、
(1)複合パネルに大きな損傷を与えることなく、複合パネルを他の部材に取り付けることができる。
(2)複合パネルの強度に悪影響をもたらすことがない。
(3)車両用複合パネルにおいては、表面にフランジ部のみが出ることになるが、このフランジ部を薄く、且つ端面をテーパー加工することにより、平滑表面に近づけることができ、騒音の発生を抑制することができる。
(4)車両用複合パネルにおいて、ブッシュ部材のフランジ部の座面が、軽量樹脂で補強されることから、複合パネルに鳥や石等の衝突による大きな衝撃が与えられても、ボルト取付部への損傷が軽減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明に係る複合パネルのボルト取付構造を図面に即して更に詳しく説明する。
【0026】
実施例1
本実施例では、本発明のボルト取付構造は、図7、図8及び図9を参照して説明した車両用の複合パネル1に具現化されるものとして説明する。
【0027】
つまり、本実施例によると、図1をも参照すると、車両用として有効な複合パネル1は、平らな板状部材とされ、中間層、即ち、芯材2としてのハニカム構造体又は発泡構造体と、この芯材2の両面に配置された表面層を形成する繊維強化複合材3(3a、3b)とを有する。
【0028】
上記構成の複合パネル1は、限定されるものではないが次の製造方法により好適に作製される。
【0029】
一実施例によれば、先ず、複合パネル1は、強化繊維にマトリックス樹脂を含浸或いは加熱浸透させてプリプレグ形態の表面層繊維強化複合材3を形成し、次いで、このプリプレグ状表面層繊維強化複合材3を、芯材2として準備されたハニカム構造体若しくはウレタンフォームなどの発泡構造体の両表面に一体に成形される。
【0030】
勿論、表面層繊維強化複合材3は、プリプレグ形態ではなく、完全に硬化した後、芯材2の表面に接着剤を介して一体に接着しても良い。
【0031】
更に説明すると、表面層繊維強化複合材3は、強化繊維として、炭素繊維、アラミド繊維、PBO繊維、ガラス繊維又はこれらの複合体を使用することができる。これら強化繊維は、長繊維を一方向に揃えたものが好ましく、場合によってはクロス、或いは、短繊維による不織布、などの種々の形態とすることができる。
【0032】
また、マトリックス樹脂としては、エポキシ樹脂、ビニールエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、MMA樹脂、又は、フェノール樹脂を使用することができる。このとき、繊維強化複合材3の繊維体積含有率は30%〜70%とされ、通常、50%〜60%とされる。
【0033】
上記構成の表面層繊維強化複合材3を、複合パネル1の表面に、通常、厚さ(T3)=1.0mm〜5.0mmにて設けることができる。
【0034】
複合パネル1の全体の厚さ(T1)は、任意に設計することができるが、通常10〜20mmとされる。
【0035】
芯材2としては、例えば、通常使用されるアルミニウム或いはアラミド樹脂などで作製したハニカム構造体、例えば、ディーアイシーヘクセル株式会社製の「ノーメックスハニカムコア(HRH−78)」(商品名)などを使用することができる。場合によっては、ウレタンフォームなどの発泡構造体なども使用可能である。
【0036】
次に、本発明の特徴部をなす複合パネル1のボルト取付構造10について説明する。図1に本発明の複合パネル1のボルト取付構造10の一実施例を示す。
【0037】
本実施例にて、ボルト取付構造10は、複合パネル1に形成されたブッシュ取付穴11と、この取付穴11に取り付けられたブッシュ部材20と、ブッシュ部材周囲の補強部30とにより構成される。
【0038】
つまり、ボルト取付構造10にて、ブッシュ取付穴11は、複合パネル1の一側の表面層3aから他側の表面層3bを貫通し、複合パネル1の表面層3に対して略垂直方向に形成され、このブッシュ取付穴11にブッシュ部材20が取り付けられる。
【0039】
ブッシュ部材20は、円筒形状の円筒状部21を備え、この円筒状部21がブッシュ取付穴11に挿入されてその外面がブッシュ取付穴11に接着剤にて接着される。また、円筒状部の軸線方向一端に一体にフランジ部23が形成される。フランジ部23は、複合パネル1の表面層3aに当接する。また、フランジ部23の外周辺端面は、テーパ加工、即ち、面取り28が施される。これにより、騒音の発生を抑制することができる。
【0040】
円筒状部21は、その内面に、フランジ部23が形成された側から挿入されたボルト100のボルト頭100aが挿入可能な大きさの内径を有した中心孔24を有し、中心孔24のフランジ部23が形成された側とは反対側端部にボルト座面部22が形成される。座面部22は、ボルト頭100aを受けると共にボルト軸100bが貫通可能なボルト孔25が形成される。
【0041】
つまり、本実施例では、円筒状部21は、ブッシュ取付穴11に嵌合する大きさの外径D1の外周面と、ボルト頭100aの挿入を許容する大きさの内径D2の中心孔24とを有し、円筒状部21の内面部に凹部26が形成される。
【0042】
円筒状部21の厚み(t1)、座面部22の厚み(t2)及びフランジ部23の厚み(t3)は、2.0〜3.0mmとされる。円筒状部21の厚み(t1)と座面部22の厚み(t2)とフランジ部23の厚み(t3)は、同じとすることもできるし、異なるものとすることもできる。座面部22の貫通ボルト孔25は、上述のように、ボルト軸100bより若干大きくされるが、通常、ボルト100としてはM6〜M12のものが使用されるので、ボルト軸100bの直径6〜12mmより僅かに大きくされる。
【0043】
本実施例では、ブッシュ部材20は、その円筒状部21の軸線方向の長さ(H)が複合パネル1の厚さ(T1)と略一致するようにされる。
【0044】
一方、本実施例によれば、円筒状部21の外周囲に相当する複合パネル1における中間層2の部分は、軽量樹脂Rで補強された補強部30とされる。
【0045】
補強部30を構成する軽量樹脂Rとしては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニールエステル樹脂、MMA樹脂、又はウレタン樹脂のいずれかを使用することができる。
【0046】
更に、軽量樹脂Rは、上記樹脂に強化材を混入したものとすることもできる。即ち、軽量樹脂Rは、炭素繊維の短繊維、ガラス繊維の短繊維、カーボンブラック、炭酸カルシュウム、水酸化アルミニウム、ガラスバルーン、エポキシ発泡バルーン、ウレタン発泡バルーン、アクリル発泡バルーンのいずれか1種類、又は複数種を強化材を、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニールエステル樹脂、MMA樹脂、又はウレタン樹脂のいずれかに混入したものとすることができる。
【0047】
この補強部30は、フランジ部23が複合パネル1の表面層3aに当接する領域、即ち、フランジ部23の外径D5より大きな直径D6の範囲を有する。この径差(D6−D5)は通常5mm〜20mmの範囲であり、5mmより小さいとボルトを締め付けた際、フランジ部23からの力が中間層(芯材)2のハニカム部又は発泡材部に入り強度が弱くなり、径差が20mmを超えると補強効果に差がなくなり単に重量が重くなるだけで軽量化のメリットが少なくなる。通常、10mm程度が好ましい径差である。
【0048】
補強部30を形成する方法としては、種々の方法が採用されるが、例えば、次の方法であっても良い。
【0049】
つまり、先ず、ハニカム構造体の芯材2の両表面に表面層繊維強化複合材3(3a、3b)を接着、硬化させ、ブッシュ取付穴11を開ける。その後、引っかき棒を、ブッシュ取付穴11から表面層3a、3bの間に突っ込み、フッシュ取付穴11周辺の中間層、即ち、ハニカム構造体又は発泡構造体2を掻き出し、除去する。次いで、ハニカム構造体又は発泡構造体2が除去された空間に軽量樹脂Rを詰め込んだ後、樹脂を硬化させる。これにより、補強部30が形成される。
【0050】
このような製造法における軽量樹脂Rとしては、炭素繊維を用いたSMC材料が好適である。なお、芯材2として発泡構造体を使用した場合にも、上記製造法が好適に採用される。
【0051】
別法として、複合パネル1の製造時に同時に補強部30を形成することも可能である。
【0052】
つまり、中間層2としてハニカム構造体を使用した場合には、このハニカム構造体2に表面層繊維強化複合材3を接着する前に、ブッシュ取付位置の周囲のハニカム構造体の孔部に軽量樹脂Rを充填し、樹脂硬化と接着を同時に実施することにより、効率的に軽量樹脂で補強された補強部30を得ることができる。
【0053】
例えば、上述のように、複合パネル1を製造するに際して、強化繊維にマトリックス樹脂を含浸或いは加熱浸透させてプリプレグ形態の表面層繊維強化複合材3を形成し、次いで、このプリプレグ状表面層繊維強化複合材3を、芯材2として準備されたハニカム構造体の一方の表面に一体に接着する。次いで、未だ複合材3が接着されていないハニカム構造体の他方の側から、予め決定されているブッシュ取付穴形成領域において、ハニカム構造体2の孔部に直径D6の範囲にて軽量樹脂Rを充填し、補強部30を形成する。その後、ハニカム構造体2のこの表面にプリプレグ形態の表面層繊維強化複合材3を接着剤にて接着する。
【0054】
樹脂が硬化した補強部30を備えた領域にて、ドリルなどを用いて直径D4の穴を開け、複合パネル1にブッシュ取付穴11を形成する。
【0055】
通常、ブッシュ部材20の円筒状部21の外径D1と、ブッシュ取付穴11の内径D4との径差は、0.1mm〜1.0mmの範囲にあり、ブッシュ取付穴11の穴径D4はブッシュ部材20の外径D1より大きく、即ち、D4>D1とされる。ブッシュ取付穴11の穴径D4とブッシュ部材20の外径D1との径差(D4−D1)が0.1mmより小さいと、ブッシュ部材20とブッシュ取付穴11との嵌合が好適にできず、接着剤切れを生じさせる恐れがでてくる。また、ブッシュ取付穴11の内径D4とブッシュ部材20の外径D1との径差(D4−D1)が1.0mmを超えると、接着時の量が増え、好ましくない。
【0056】
上記構成にて、ブッシュ部材20をブッシュ取付穴11に挿入設置したときに、ブッシュ取付穴11の内径D4と、ブッシュ部材20の外径D1との径差により生じる空隙部には、樹脂を入れることができる。また、別法として、複合パネル1のブッシュ取付穴11の内周面に、及び/又は、ブッシュ部材20の円筒状部21の外周領域に、接着剤を塗布し、その後、ブッシュ部材20をブッシュ取付穴11に押入設置することにより、複合パネル1のブッシュ取付穴11に一体的にブッシュ部材20が取り付けられる。接着剤としては、エポキシ樹脂接着剤を好適に使用し得る。
【0057】
ブッシュ部材20は、本実施例では、鋼材にて作製したが、これに限定されるものではなく、他の金属、例えば、ステンレススチール、アルミニウムなどでも良い。
【0058】
上記構成とされる本実施例の複合パネル1のボルト取付構造10によれば、ブッシュ部材20を採用することにより、ブッシュ部材20と複合パネル1との接着力を利用し、ボルト100の締め付け力を一義的にはこの接着力で受けることから、複合パネル1に損傷を与えることなく、複合パネル1を車体200に極めて容易に、かつ、強固に取り付けることができる。
【0059】
また、車両の走行中に起こる石や鳥等との衝突による、大きな衝撃力を本複合パネル1が受け、接着剤が剥離し、強度を直接フランジ部で受けるような状態になった時、中間層2のハニカム構造体や発泡構造体では、座屈や引き抜けが起こり、ブッシュ部材20と複合パネル1が外れることも考えられる。そのような状況は、避けなければいけない。
【0060】
本実施例では、ブッシュ取付穴11の周囲を軽量樹脂Rで補強する補強部30を設けた構造とすることにより、ブッシュ部材20の周りの複合パネル1が強化され、大きな衝撃力を複合パネル1が受けた場合でも、ブッシュ部材20と複合パネル1が外れるような状況を回避し得る。
【0061】
また、ボルト頭100aを完全にブッシュ部材20の円筒形状21の凹部26内に沈めることができる。又、車両などにおいては、ボルト頭100aなどが表面から飛び出ることと同様に、表面に穴形状の凹部が形成されることも嫌われるために、このような場合には、ボルト100が取り付けられた後のブッシュ部材20の凹部26内にパテなどの充填材27(図4参照)を充填してブッシュ部材20のフランジ部23と同一表面とし、平滑化することができる。また、フランジ部23は、その厚さ(t3)がなるべく薄くされ、表面層3aからの飛び出しを押えた形状が好ましく、更には、周囲の端面も面取り28が施され、角部が除去されたものが好適である。
【0062】
つまり、車両用複合パネル1に本実施例のボルト取付構造10を実現した場合には、表面に突出部或いは凹部が抑制され、準平滑表面を達成し、騒音の発生を抑制することができる。
【0063】
(実験例1)
次に、本実施例の複合パネルのボルト取付構造10の作用効果を立証するために行った実験例について説明する。
【0064】
図2に、本実施例の複合パネル1のボルト取付構造10の強度を試験するための試験方法を示す。
【0065】
本実験例1によると、上記実施例に従って構成される図1に示すボルト取付構造10を備えた複合パネル1を、直径(D0)が100mmの穴211が形成された固定台210の上に設置した。複合パネル1には、ブッシュ取付穴11として穴径(D4)が30mmの穴を形成した。
【0066】
次いで、引っかき棒を用いて、表面層繊維強化複合材3aと3b間の中間層2のハニカム構造体を、ブッシュ部材20のフランジ部23より少し大きな径(D6)90mmの範囲で掻き出した。その後、軽量樹脂Rとして、短繊維の炭素繊維を含有したSMC材を使用し、このSMC材を上記空間に詰め込み、樹脂を加熱・硬化して、補強部30を製作した。
【0067】
次いで、上記ブッシュ取付穴11より僅かに小さい外形寸法(D1)を有したブッシュ部材20を作製し、このブッシュ部材20の外周部を複合パネル1の取付穴11に接着剤にて接着して取り付けた。その後、ブッシュ部材20の座面部22にボルト頭100aが座着するようにして、ボルト100をブッシュ部材20に挿入し、ボルト軸100bにナット101を螺合することによって、ブッシュ部材20にボルト100を固定した。
【0068】
次いで、ボルト軸100bを矢印方向に荷重Pにて引っ張り、ブッシュ部材20が複合パネル1から剥離、即ち、破壊するときの荷重(即ち、ブッシュ部材取付部の破壊強度)を求めた。
【0069】
比較例1として、図3に示すように、ブッシュ部材20を複合パネル1に接着で取り付けた。その際、ブッシュ取付穴11の周りの中間層2の補強は実施せず、穴あけ後、そのまま接着剤を用いて接着した。その後、実施例1と同様にブッシュ部材20にボルト100を挿入し、ナット101で固定した。
【0070】
次いで、ボルト軸100bを矢印方向に荷重Pにて引っ張り、ブッシュ部材20が複合パネル1から剥離、即ち、破壊するときの荷重を求めた。
【0071】
本実施例の評価試験において、使用した車両用複合パネル1の全体寸法は、図8にて、W(W1、W2)が300mmであった。
【0072】
また、図1を参照して記載すると、その他の具体的寸法は、次の通りであった。
【0073】
車両用複合パネル1の表面層繊維強化複合材3の厚さ(T3)は、2.5mmの一定とした。芯材2は、ディーアイシーヘクセル株式会社製の「ノーメックスハニカムコア(HRH−78)」(商品名)を使用した。厚さ(T2)は、10mmであった。従って、複合パネル1の全体の厚さ(T1)は、15mmであった。
【0074】
また、ブッシュ部材20は、本実験例1では、鋼にて作製し、その円筒状部21の軸線方向の長さ(H)は、複合パネル1の厚さ(T1)と同じとした。また、ブッシュ部材20の円筒状部21の外径(D1)は30mm、内径(D2)は26mm(即ち、厚さt1は2mm)であり、座面部22の厚み(t2)は3mmであった。座面部22の中心の貫通ボルト孔25は、直径D3が13mmであった。
【0075】
また、ブッシュ部材20のフランジ部23の外径(D5)は、40mmとし、厚み(t3)は2mmとした。中間層2の補強部30の外径(D6)は、概略50mmで作製した。
【0076】
尚、使用した繊維強化複合材3、即ち、繊維強化プラスチックは、PAN系炭素繊維に、マトリックス樹脂として、エポキシ樹脂を繊維体積含有率で50%含浸させたものであった。
【0077】
表1から、本実施例(実験例1)の複合パネル1のボルト取付構造10が、比較例1と同等以上の破壊強度を有していることが分かる。
【0078】
つまり、本実施例の複合パネル1のボルト取付構造10によれば、1次破壊強度ではそれ程差はないが、構造破壊(最終破壊)の強度が向上したことが分かる。
【0079】
【表1】

【0080】
(実験例2)
次に、本実施例の複合パネルのボルト取付構造の作用効果を立証するために行った、他の実験例について説明する。
【0081】
図4に、本実施例の複合パネル1のボルト取付構造10の衝撃強度を試験するための試験方法を示す。
【0082】
本実験例2の試験サンプルは、実験例1と同じ方法で製作した。但し、ブッシュ部材20にボルト100を固定した後、ブッシュの凹部26(図1)に短繊維の炭素繊維を含有したSMC材を充填材27として詰め込み、表面を平滑にした後、樹脂を加熱・硬化させて最終の試験サンプルを作製した。
【0083】
次いで、ブッシュ部材20のほぼ中央付近に向けて、高さ1.2mから重さ30kgの重りをエネルギー352KJを目安として落とし、ブッシュ部材20と複合パネル1との接合部近傍の破壊状況を観察した。
【0084】
比較例2として、図5に示すように、ブッシュ部材20を複合パネル1に接着で取り付けた。その際、ブッシュ取付穴11の周りの中間層2に補強部30は設けることなく、穴あけ後、そのまま接着剤を用いて接着した。その後、実験例2と同様にブッシュ部材20にボルト100を挿入し、ナット101で固定した。また、ブッシュ部材20の上部の凹部26(図1)を短繊維の炭素繊維を含有したSMC材を充填材27として詰め込み、表面を平滑にした後、樹脂を加熱・効果させ試験サンプルを製作した。
【0085】
次いで、ブッシュ部材20のほぼ中央付近に向けて、高さ1.2mから重さ30kgの重りをエネルギー352KJを目安として落とし、ブッシュ部材20と複合パネル1との接合部近傍の破壊状況を観察した。
【0086】
本実験例2の評価試験において、使用した車両用複合パネル1の全体寸法、構成、使用材料は、すべて、実験例1と同一とした。
【0087】
実験結果は、比較例2では、ブッシュ部材20が複合パネル1から突き抜けて飛び出したのに対し、本実験例2ではブッシュ部材20の周りが変形はするが、ブッシュ部材20が、複合パネル1から飛び出すような状況は見られなかった。
【0088】
つまり、本実験例2の複合パネル1のボルト取付構造10によれば、ボルト100を、複合パネル1に取り付けられたブッシュ部材20のボルト軸貫通ボルト孔25を介して挿入し、複合パネル1に損傷を与えることなく、複合パネル1を車体に極めて容易に取り付けることができ、且つ、複合パネル1の強度に悪影響をもたらすこともなく、しかも、外部からの衝撃力等の大きな力が加わっても、複合パネル1がブッシュ部材20から飛び出し、車体から外れることもない。
【0089】
実施例2
図6(a)、(b)に、本発明に従った複合パネルのボルト取付構造10の他の実施例を示す。
【0090】
先ず、図6(a)について説明する。
【0091】
本実施例においても、実施例1と同様に、ボルト取付構造10は、複合パネル1に形成されたブッシュ取付穴11と、ブッシュ取付穴11に取り付けられたブッシュ部材20と、ブッシュ取付穴11近傍の中間層2が軽量樹脂Rで補強された補強部30とにより構成される。これらの構成及び機能は、実施例1で説明したボルト取付構造10と同様とされるので、同じ構成及び機能をなす部材には同じ参照番号を付し、実施例1の説明を援用し、再度の詳しい説明は省略する。
【0092】
つまり、本実施例のボルト取付構造10にて、ブッシュ取付穴11は、複合パネル1の一側の表面層3aから他側の表面層3bを貫通し、複合パネル1の表面層3に対して略垂直方向に形成され、このブッシュ取付穴11にブッシュ部材20が取り付けられる。
【0093】
ブッシュ部材20は、円筒形状の円筒状部21を備え、この円筒状部21がブッシュ取付穴11に挿入されてその外面がブッシュ取付穴11に接着剤にて接着される。また、円筒状部21の軸線方向一端に一体にフランジ部23が形成される。フランジ部23は、複合パネル1の表面層3aに当接する。また、フランジ部23の外周辺端面は、テーパ加工、即ち、面取り28が施される。これにより、騒音の発生を抑制することができる。
【0094】
ただ、本実施例では、実施例1と異なり、ブッシュ部材20のフランジ部23とは反対側の端部にボルト頭100aを受ける座面部22(図1)は設けられていない。
【0095】
本実施例によれば、ブッシュ部材21は、円筒状部21の円筒状内面にネジ溝(ネジ部)29が形成される。このネジ部29は、フランジ部23とは反対の側から挿入されたボルト100のボルト軸100bと螺合可能とされる。
【0096】
本実施例の場合は、ボルト頭100aは、車体200の、複合パネル1と反対側にあり、実施例1と違い、車体200の側から複合パネル1を取り付ける場合に対応する構造となっている。
【0097】
図6(b)に、本実施例の変形例を示す。先に説明した図6(a)の実施例では、ブッシュ部材20の円筒状部21には、その内面に軸線方向に貫通するネジ部29が形成されていたが、この変形実施例によればと、円筒状部21のフランジ部23側は閉鎖端とされる。
【0098】
つまり、この変形実施例では、ブッシュ部材20の円筒状部21に形成されるネジ穴29が貫通していない構造となっている。その他の構造は、図6(a)の実施例と同じである。
【0099】
図6(a)、(b)に示す本実施例の構成にて、実施例1で説明したと同様に、ブッシュ部材20をブッシュ取付穴11に挿入設置したときに、ブッシュ取付穴11の内径D4と、ブッシュ部材20の外径D1との径差により生じる空隙部には、樹脂を充填し、両者を接着することできる。また、別法として、複合パネル1のブッシュ取付穴11の内周面に、及び/又は、ブッシュ部材20の円筒状部21の外周領域に接着剤を塗布し、その後、ブッシュ部材20をブッシュ取付穴11に挿入設置することにより、複合パネル1のブッシュ取付穴11に一体的にブッシュ部材20が取り付けられる。接着剤としてはエポキシ樹脂系接着剤を好適に使用し得る。
【0100】
また、必要に応じて、フランジ23と複合パネル表面層3aとの間も接着剤で接合することもできる。
【0101】
図6(a)、(b)に記載する構成のブッシュ部材20(実験例3、4)を、それぞれ、実施例1で説明した実験例1と同様の材料、即ち、鋼にて作製し、実施例1で説明した実験例1と同様の試験方法にて、本実施例の複合パネルのボルト取付構造(実験例3、4)の作用効果を立証する試験を行った。
【0102】
実験結果を上記表1に示す。
【0103】
一方、図6(a)、(b)に記載する構成のブッシュ部材20を、それぞれ実施例1で説明した実験例2と同様の材料、即ち、鋼にて作製し、実施例1で説明した実験例2と同様の試験方法にて、本実施例の複合パネルのボルト取付構造(実験例5、6)の作用効果を立証する試験を行った。
【0104】
実験結果は、実施例1の場合と同様に、図6(a)、(b)両方とも、ブッシュ部材20周りが変形しただけで、ブッシュ部材20が複合パネル1から飛び出すような状況は見られなかった。
【0105】
本実施例においても、強度面、衝撃対応力の両方で、実施例1と同様な作用効果を達成することが判明した。
【0106】
実施例3
図7(a)、(b)に、本発明に従った複合パネルのボルト取付構造10の他の実施例を示す。
【0107】
先ず、図7(a)について説明する。
【0108】
本実施例によると、複合パネルのボルト取付構造10は、複合パネル1の表面層2に対して垂直方向に形成されたブッシュ取付穴11と、ブッシュ取付穴11に取り付けられた第1のブッシュ部材20Aと、第1のブッシュ部材20Aに取り付けられた第2のブッシュ部材20Bと、を備えている。
【0109】
本実施例においても、実施例1及び実施例2と同様に、第1のブッシュ部材20Aが取り付けられたブッシュ取付穴11近傍の中間層2は、軽量樹脂Rで補強された補強部30を有している。これらの構成及び機能は、実施例1、実施例2で説明したボルト取付構造10と同様とされるので、同じ構成及び機能をなす部材には同じ参照番号を付し、実施例1の説明を援用し、再度の詳しい説明は省略する。
【0110】
又、特に第1のブッシュ部材20Aは、実施例2のブッシュ部材20と同様の構成とされる。つまり、第1のブッシュ部材20Aは、円筒形状の円筒状部21aを備え、この円筒状部21aがブッシュ取付穴11に挿入されてその外面がブッシュ取付穴11に接着剤にて接着される。また、円筒状部21aの軸線方向一端に一体にフランジ部23aが形成される。フランジ部23aは、複合パネル1の表面層3aに当接する。また、フランジ部23aの外周辺端面は、テーパ加工、即ち、面取り28aが施される。これにより、騒音の発生を抑制することができる。
【0111】
また、本実施例によれば、第1のブッシュ部材20Aは、円筒状部21aの円筒状内面にネジ溝(ネジ部)29aが形成される。このネジ部29aは、実施例2では図6に示すように、ボルト100のボルト軸100bが螺合する構成とされたが、本実施例では、フランジ部23aとは反対の側から挿入された第2のブッシュ部材20Bのネジ部29bと螺合可能とされる。この点で実施例2と異なる。
【0112】
本実施例にて、第2のブッシュ部材20Bは、その外面には、第1のブッシュ部材20Aの円筒状内面ネジ部29aに螺合されるネジ山(ネジ部)29bが形成された円筒形状の円筒状部21bを有する。
【0113】
第2のブッシュ部材20Bは、第1のブッシュ部材20Aのフランジ部23aとは反対側から挿入されて、そのネジ部29bが、第1のブッシュ部材20Aの円筒状内面ネジ部29aに螺合する。
【0114】
第2のブッシュ部材20Bは、円筒状部21bの軸線方向一端に一体にフランジ部23bが形成され、このフランジ部23bは、複合パネル1の他側の表面層3bに当接する。
【0115】
更に、第2のブッシュ部材20Bの円筒状部21bの円筒状内面には、ネジ溝(ネジ部)29cが形成される。このネジ部29cは、図示するように、フランジ部23b側から、または、フランジ部23a側から挿入されたボルト100のボルト軸100bと螺合可能とされる。
【0116】
本実施例の場合は、好ましくは、ボルト頭100aは、車体200の、複合パネル1と反対側にあり、実施例2と同様に、車体200の側から複合パネル1を取り付ける場合に対応する構造となっている。場合によっては、車体200とは反対側から取り付けることも可能である。
【0117】
図7(b)に、本実施例の変形例を示す。先に説明した図7(a)の実施例では、第1のブッシュ部材20Aの円筒状部21aには、その内面に軸線方向に貫通するネジ部29aが形成されていたが、この変形実施例によればと、円筒状部21aのフランジ部23a側は閉鎖端とされる。
【0118】
つまり、この変形実施例では、第1のブッシュ部材20Aの円筒状部21aに形成されるネジ穴29aが貫通していない構造となっている。その他の構造は、図7(a)の実施例と同じである。
【0119】
本実施例のボルト取付構造10の場合は、上記説明にて理解されるように、複合パネル1の両面(3a、3b)を挟みつけるような、フランジ構造をもった組合せのブッシュ部材20A、20Bとなっている。この構造では、車体に複合パネル1を取り付ける時、ボルト100の締付力が直接、複合パネル1に入らない形状となっており、組立の際、ボルト100を締め切り、複合パネル1を潰すといった間違いを、無くすることができる。
【0120】
図7(a)、(b)に示す本実施例の構成にて、実施例1、実施例2で説明したと同様に、第1のブッシュ部材20Aをブッシュ取付穴11に挿入設置したときに、ブッシュ取付穴11の内径D4と、第1のブッシュ部材20Aの外径D1との径差により生じる空隙部には、樹脂を充填し、両者を接着することできる。また、別法として、複合パネル1のブッシュ取付穴11の内周面に、及び/又は、第1のブッシュ部材20Aの円筒状部21aの外周領域に接着剤を塗布し、その後、第1のブッシュ部材20aをブッシュ取付穴11に挿入設置することにより、複合パネル1のブッシュ取付穴11に一体的に第1のブッシュ部材20Aが取り付けられる。接着剤としてはエポキシ樹脂系接着剤を好適に使用し得る。
【0121】
また、必要に応じて、フランジ23a、23bと複合パネル表面層3a、3bとの間も接着剤で接合することもできる。
【0122】
図7(a)、(b)に記載する構成のブッシュ部材20A、20B(実験例7、8)を、それぞれ、実施例1で説明したと同様の材料、即ち、鋼にて作製し、実施例1で説明した実験例1と同様の試験方法にて、本実施例の複合パネルのボルト取付構造(実験例7、8)の作用効果を立証する試験を行った。
【0123】
実験結果を上記表1に示す。
【0124】
一方、図7(a)、(b)に記載する構成のブッシュ部材20A、20Bを、それぞれ実施例1で説明した実験例2と同様の材料、即ち、鋼にて作製し、実施例1で説明した実験例2と同様の試験方法にて、本実施例の複合パネルのボルト取付構造の作用効果を立証する試験を行った。
【0125】
実験結果は、実施例1の場合と同様に、図7(a)、(b)両方とも、ブッシュ部材20A、20Bの周りが変形しただけで、ブッシュ部材20A、20Bが複合パネル1から飛び出すような状況は見られなかった。
【0126】
本実施例においても、強度面、衝撃対応力の両方で、実施例1と同様な作用効果を達成することが判明した。
【0127】
以上、実施例1〜3の複合パネルのボルト取付構造を適用した車両においても、実施例1と同様な作用効果を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】本発明に係る複合パネルのボルト取付構造の一実施例を示す断面図である。
【図2】本発明に係る複合パネルのボルト取付構造の実験方法を説明する図である。
【図3】比較例としての複合パネルのボルト取付構造の実験方法を説明する図である。
【図4】本発明に係る複合パネルのボルト取付構造の他の実験方法を説明する図である。
【図5】比較例としての複合パネルのボルト取付構造の他の実験方法を説明する図である。
【図6】本発明に係る複合パネルのボルト取付構造の他の実施例を示す断面図である。
【図7】本発明に係る複合パネルのボルト取付構造の他の実施例を示す断面図である。
【図8】複合パネルの断面図である。
【図9】従来の複合パネルのボルト取付構造の例を示す断面図である。
【図10】従来の複合パネルのボルト取付構造の例を示す他の断面図である。
【符号の説明】
【0129】
1 複合パネル
2 芯材(中間層)
3(3a、3b) 繊維強化複合材(表面層)
10 ボルト取付構造
11 ブッシュ取付穴
20(20A、20B) ブッシュ部材
21(21a、21b) 円筒状部
22 ボルト座面部
23(23a、23b) フランジ部
24 中心孔
25 ボルト孔
25 ボルト軸貫通孔
26 凹部
27 充填材
29(29a、29b、29c) ネジ部
30 補強部
100 ボルト
100a ボルト頭
100b ボルト軸
200 車体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハニカム構造体又は発泡構造体とされる中間層と、前記中間層の両面に配置された表面層を形成する繊維強化複合材とを有する複合パネルのボルト取付構造であって、
前記複合パネルの表面層に対して垂直方向に形成されたブッシュ取付穴と、前記ブッシュ取付穴に取り付けられたブッシュ部材とを備え、
前記ブッシュ部材は、前記ブッシュ取付穴に挿入されてその外面が前記ブッシュ取付穴に接着される円筒形状の円筒状部と、前記円筒状部の軸線方向一端に一体に形成され、前記複合パネルの表面層に当接するフランジ部と、を有し、
前記円筒状部は、前記フランジ部が形成された側から挿入されたボルトのボルト頭が挿入可能な大きさの内径を有した中心孔と、前記中心孔の前記フランジ部が形成された側とは反対側端部に形成され、ボルト頭を受けると共にボルト軸が貫通可能なボルト孔が形成されたボルト座面部と、を備え、
前記複合パネルの前記中間層に位置した前記円筒状部の外周囲には、前記フランジ部が前記複合パネルの表面層に当接する領域より大きな範囲で軽量樹脂で補強された補強部が形成されている、
ことを特徴とする複合パネルのボルト取付構造。
【請求項2】
ハニカム構造体又は発泡構造体とされる中間層と、前記中間層の両面に配置された表面層を形成する繊維強化複合材とを有する複合パネルのボルト取付構造であって、
前記複合パネルの表面層に対して垂直方向に形成されたブッシュ取付穴と、前記ブッシュ取付穴に取り付けられたブッシュ部材とを備え、
前記ブッシュ部材は、前記ブッシュ取付穴に挿入されてその外面が前記ブッシュ取付穴に接着される円筒形状の円筒状部と、前記円筒状部の軸線方向一端に一体に形成され、前記複合パネルの表面層に当接するフランジ部と、を有し、
前記円筒状部は、その円筒状内面に、前記フランジ部とは反対の側から挿入されたボルトのボルト軸と螺合するネジ部を有し、
前記複合パネルの前記中間層に位置した前記円筒状部の外周囲には、前記フランジ部が前記複合パネルの表面層に当接する領域より大きな範囲で軽量樹脂で補強された補強部が形成されている、
ことを特徴とする複合パネルのボルト取付構造。
【請求項3】
前記円筒状部の前記フランジが形成された端部は、閉鎖端とされることを特徴とする請求項2の複合パネルのボルト取付構造。
【請求項4】
ハニカム構造体又は発泡構造体とされる中間層と、前記中間層の両面に配置された表面層を形成する繊維強化複合材とを有する複合パネルのボルト取付構造であって、
前記複合パネルの表面層に対して垂直方向に形成されたブッシュ取付穴と、前記ブッシュ取付穴に取り付けられた第1のブッシュ部材と、前記第1のブッシュ部材に取り付けられた第2のブッシュ部材と、を備え、
前記第1のブッシュ部材は、前記ブッシュ取付穴に挿入されてその外面が前記ブッシュ取付穴に接着され、その内面にネジ部が形成された円筒形状の円筒状部と、前記円筒状部の軸線方向一端に一体に形成され、前記複合パネルの一側の表面層に当接するフランジ部と、を有し、
前記第2のブッシュ部材は、その外面には、前記第1のブッシュ部材の前記フランジ部とは反対側から挿入されて前記第1のブッシュ部材の前記円筒状内面ネジ部に螺合されるネジ部が形成された円筒形状の円筒状部と、前記円筒状部の軸線方向一端に一体に形成され、前記複合パネルの他側の表面層に当接するフランジ部と、を有し、
前記第2のブッシュ部材の前記円筒状部は、その円筒状内面に、前記第2のブッシュ部材へと挿入されたボルトのボルト軸と螺合するネジ部を有し、
前記第1のブッシュ部材の前記複合パネルの前記中間層に位置した前記円筒状部の外周囲には、前記第1及び第2のブッシュ部材の前記フランジ部が前記複合パネルの表面層に当接する領域より大きな範囲で軽量樹脂で補強された補強部が形成されている、
ことを特徴とする複合パネルのボルト取付構造。
【請求項5】
前記第1のブッシュ部材の前記円筒状部の前記フランジが形成された端部は、閉鎖端とされることを特徴とする請求項4の複合パネルのボルト取付構造。
【請求項6】
前記ブッシュ取付穴の穴径(D4)と、前記ブッシュ取付穴に接着される前記ブッシュ部材の円筒状部の外径(D1)との径差(D4−D1)が、0.1mm〜1.0mmの範囲にあり、前記ブッシュ取付穴の穴径(D4)が前記ブッシュ部材の円筒状部の外径(D1)よりも大きい(D4>D1)ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかの項に記載の複合パネルのボルト取付構造。
【請求項7】
前記複合パネルの前記中間層は、ハニカム構造体であり、前記補強部は、前記円筒状部の外周囲のハニカム構造体の孔部に軽量樹脂を詰め込み、硬化することにより形成することを特徴とする請求項1〜6のいずれかの項に記載の複合パネルのボルト取付構造。
【請求項8】
前記複合パネルの前記中間層の、前記円筒状部の外周囲に位置する部分を取り除き、そこに軽量樹脂を詰め込み、硬化することにより形成することを特徴とする請求項1〜6のいずれかの項に記載の複合パネルのボルト取付構造。
【請求項9】
前記補強部の領域(D6)は、前記ブッシュ部材のフランジ部の外径(D5)より、5mm〜20mmの範囲で大きいことを特徴とする請求項1〜8のいずれかの項に記載の複合パネルのボルト取付構造。
【請求項10】
前記軽量樹脂は、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニールエステル樹脂、MMA樹脂、又はウレタン樹脂のいずれかであることを特徴とする請求項1〜9のいずれかの項に記載の複合パネルのボルト取付構造。
【請求項11】
前記軽量樹脂は、炭素繊維の短繊維、ガラス繊維の短繊維、カーボンブラック、炭酸カルシュウム、水酸化アルミニウム、ガラスバルーン、エポキシ発泡バルーン、ウレタン発泡バルーン、アクリル発泡バルーンのいずれか1種又は複数種を強化材として混入したエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニールエステル樹脂、MMA樹脂、又はウレタン樹脂のいずれかであることを特徴とする請求項1〜9のいずれかの項に記載の複合パネルのボルト取付構造。
【請求項12】
前記表面層を形成する繊維強化複合材の強化繊維は、長繊維の炭素繊維、アラミド繊維PBO繊維、ガラス繊維又はこれらの複合体であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかの項に記載の複合パネルのボルト取付構造。
【請求項13】
前記表面層を形成する繊維強化複合材のマトリックス樹脂は、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニールエステル樹脂、MMA樹脂、又はフェノール樹脂のいずれかであることを特徴とする請求項1〜12のいずれかの項に記載の複合パネルのボルト取付構造。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかの項に記載の複合パネルのボルト取付構造を有することを特徴とする車両。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2008−51224(P2008−51224A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−228122(P2006−228122)
【出願日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(599104369)日鉄コンポジット株式会社 (51)
【出願人】(000004617)日本車輌製造株式会社 (722)
【Fターム(参考)】