説明

試料の微細加工方法

【課題】導電性・絶縁性試料を問わず試料に損傷を与えることなくナノメートルオーダー精度での加工を実現することができ、かつ従来手法に比べ効率に優れ、加工時間の短縮・簡便化を図ることができる試料の微細加工方法を提供する。
【解決手段】超高真空下において、試料多層膜構造を有する試料の被加工部に、高電界を形成すると共に、レーザー光13を照射して、光励起電界蒸発を行わせることによりその原子構造に損傷を与えることなく微細加工する。このとき、高電界を形成するための電極11aとして、レーザー光の行路となるピンホール12が設けられた電極を用いることが好ましい。光ファイバーを通してパルスレーザー光を照射することが好ましい。また、レーザー光として、パルスレーザー光を用いることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層膜構造を有する試料を微細加工する方法に関するものである。より詳細には、薄膜太陽電池や半導体素子の分析評価のためにその分析対象となる表面を清浄にする表面処理や、あるいはナノメートルオーダーの空間分解能での微細パターン加工などに利用できる、試料の微細加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の技術を図1〜3を参照して説明する。
【0003】
図1には、シリコン基板101上に薄膜102〜106の5層の薄膜が成膜された分析試料の断面を表している。こうして積層された膜の表面から深さ方向に成分分析または構造分析をする場合、アルゴンイオンなどのイオンビーム107を照射することで表面をエッチングしながら表面を低速で削り、順次現れてくる面にX線や電子線、または可視光レーザーを照射することで分析する手法が知られている。X線を照射することで飛び出してくる電子のエネルギーを計測する方法としてはX線光電子分光法、電子線を照射することで飛び出してくるオージェ電子を計測する方法としてはオージェ電子分光法、そして可視光レーザーを照射による散乱光を分光する方法としてはラマン散乱分光法が知られている。
【0004】
また、積層薄膜や上部の薄膜に覆われた表面から深い部分を分析する方法として、砥粒を用いて斜め面に削り出す研磨法が知られている。すなわち、図2に示すように、表面109に対して角度θの研磨面108を削りだす方法である。この方法はθを1度〜0.1度程度にすることで厚さの50倍〜500倍程度の領域を研磨面108に露出させることができるため、分析領域を拡大して分析するのに有用な方法として知られている。
【0005】
一方、表面に印加された電界によって原子が吸い出されることを利用して表面を加工する方法も知られている(例えば、特許文献1参照。)。すなわち、図3に示すように、分析対象となる表面上に先端径が数100nmオーダーの針状プローブ112を配置し、試料表面に対して針状プローブ112側を正の電圧を印加させることで、試料表面を構成する原子113を針状プローブ112側へ放出させて表面を加工する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−255870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、イオンビームを照射することによって表面から垂直方向にエッチングしていく方法では、ビーム照射による分析対象へのダメージの問題があった。すなわち、分析対象が単結晶である場合に運動量を持つイオンが入射することによって結晶がアモルファス化してしまい、結晶構造などの物性情報を消失させてしまうという問題があった。また、研磨法でも、研磨傷や局所的な歪みなど、分析対象へ機械的な損傷が避けられないという問題があった。
【0008】
この点、上記特許文献1にあるような針状プローブを用いる方法では、表面に印加された電界によって原子が針状プローブ側へ放出されることを利用しているため、イオンビーム照射法や研磨法に比べ、表面に機械的な損傷を与えることなしに表面を加工し、新鮮な分析面を出すことが可能である。しかしながら、針状プローブ側に試料面を構成する原子を移動させているため、加工を繰り返すうちに移動した原子が針状プローブの先端に堆積して、所望の電界強度あるいは分布を維持できなくなるという問題があった。また、効率が悪く、一度に加工できる面積が極微小範囲に限られてしまうという問題があった。更に、針状プローブと試料間に流れるトンネル電流を利用するため、絶縁性試料の加工には適さないという問題があった。
【0009】
したがって、本発明の目的は、導電性・絶縁性試料を問わず試料に損傷を与えることなくナノメートルオーダー精度での加工を実現することができ、かつ従来手法に比べ効率に優れ、加工時間の短縮・簡便化を図ることができる試料の微細加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の第1は、多層膜構造を有する試料を、その原子構造に損傷を与えることなく、微細加工する方法において、超高真空下において、前記試料の被加工部に、高電界を形成すると共に、レーザー光を照射して、光励起電界蒸発を行わせることを特徴とする試料の微細加工方法を提供するものである。
【0011】
上記発明によれば、多層膜構造を有する試料の被加工部に、高電界を形成すると共に、レーザー光を照射して、光励起電界蒸発を行わせるので、これにより、被加工部を構成する原子を被加工部から原子レベルで放出させて、多層膜構造を有する試料の深さ方向にナノメートルオーダー精度で加工することができる。
【0012】
この方法について更に説明すると、超高真空下において、試料の被加工部に高電界による電場を与えると共に、レーザー光を照射して光励起エネルギーを与えると、被加工部を構成する原子に被加工部から飛び出すエネルギーを与えることができる。すなわち、光励起電界蒸発を行わせることができる。このとき、高電界とレーザー光によるエネルギーは原子レベルで付与されるので、付与されない部分の原子構造に影響を与えることがない。また、この光励起電界蒸発は、高電界の作用に加えてレーザー光により誘導されるので、絶縁性試料にも行わせることができ、その加工が可能である。更に、この光励起電界蒸発は、高電界のみによって原子を電界蒸発させる場合に比べて電界強度を低く抑えることができる。これにより、例えば、針状の電極で高電界を形成する場合にも、加工を繰り返すうちに移動した原子が針状の電極の先端に堆積して、所望の電界強度あるいは分布を維持できなくなることなどを防げる。
【0013】
本発明の第2は、前記第1の発明において、前記試料の被加工部を含む領域に対向して、ピンホールが設けられた電極を配置し、この電極と試料との間で電圧を印加して高電界を形成すると共に、前記ピンホールを通してレーザー光を照射するようにし、前記ピンホール及びレーザー光の光路を整合させて、両者を前記試料に対して相対移動させながら加工を行う試料の微細加工方法を提供するものである。
【0014】
上記発明によれば、前記試料の被加工部を含む領域に対向して、ピンホールが設けられた電極を配置し、この電極と試料との間で電圧を印加して高電界を形成すると共に、前記ピンホールを通してレーザー光を照射するようにし、前記ピンホール及びレーザー光の光路を整合させて、両者を前記試料に対して相対移動させながら加工を行うので、光励起電界蒸発を行わせる位置、範囲を制御するのが容易であり、前記試料の平面方向に位置精度よく加工することができる。また、そのピンホールを通してレーザー光を照射するようにしたので、前記試料の被加工部から放出した原子が電極に付着しても、その原子付着によるレーザー出力低下を防止することができる。
【0015】
本発明の第3は、前記第2の発明において、前記加工の過程で、前記試料の被加工部ではない部分と電極間に前記とは逆方向の電圧を印加して、電極に堆積した試料原子を除去する試料の微細加工方法を提供するものである。
【0016】
上記発明によれば、前記試料の被加工部から放出した原子が電極に付着しても、その付着原子を被加工部ではない部分で逆方向の電圧を印加して除去して、所望の電界強度あるいは分布を維持することができる。これにより、より広い範囲を安定して長時間加工することが可能となる。
【0017】
本発明の第4は、前記第2の発明において、試料以外に導電性ダミー板を併設し、前記加工の過程で、ダミー板と電極間に前記とは逆方向の電圧を印加して、電極に堆積した試料原子を除去する試料の微細加工方法を提供するものである。
【0018】
上記発明によれば、前記試料の被加工部から放出した原子が電極に付着しても、その付着原子を導電性ダミー板で逆方向の電圧を印加して除去して、所望の電界強度あるいは分布を維持することができる。これにより、より広い範囲を安定して長時間加工することが可能となる。
【0019】
本発明の第5は、前記第1〜4のいずれか1つの発明において、試料と電極間に高電界を形成し、試料の被加工部にパルスレーザー光を照射して、光励起電界蒸発を行わせる試料の微細加工方法を提供するものである。
【0020】
上記発明によれば、試料の被加工部にパルスレーザー光を照射して、光励起電界蒸発を行わせるので、より強い光励起エネルギーを付与することができる。これにより、試料が絶縁性であっても光励起電界蒸発を行わせて、加工することができる。また、光励起電界蒸発を行わせるための電界強度を低く抑えることができる。これにより、例えば、針状の電極で高電界を形成する場合にも、加工を繰り返すうちに移動した原子が針状の電極の先端に堆積して、所望の電界強度あるいは分布を維持できなくなることなどを防げる。
【0021】
本発明の第6は、前記第5の発明において、前記パルスレーザーの光路上に光学素子を導入し、パルスレーザーの偏光特性及び偏光方向を操作して試料の被加工部に照射する試料の微細加工方法を提供するものである。
【0022】
上記発明によれば、例えば直線偏光のパルスレーザーの偏光方向を操作することにより、電極−試料間に電気的に印加された電場の方向と、レーザー光の偏光方向とが揃うようにして、加工効率を高めることができる。また、パルスレーザーの偏光特性、例えば直線偏光や円偏光を操作することにより、試料の加工部位や、加工形状を操作できる。
【0023】
本発明の第7は、前記第5又は6の発明において、前記電極が、パルスレーザー光の波長付近に吸収をもたない透明な材料で構成されており、前記パルスレーザー光を、前記電極を通して照射する試料の微細加工方法を提供するものである。
【0024】
上記発明によれば、透明な材料で構成された電極を通して、電極の外側からレーザー光を照射することができるので、レーザー光照射手段の設置箇所に自由度がもたらされると共に、レーザーの照射位置の制御が容易になる。
【0025】
本発明の第8は、前記第7の発明において、試料に電圧を印加するための電極を、試料の複数の被加工面に対向して複数設置し、試料を固定したまま、試料の複数の被加工面に対して加工する試料の微細加工方法を提供するものである。
【0026】
上記発明によれば、電圧を印加する電極を変更し、レーザー照射源の位置を操作することで、試料を固定したまま異なる複数の試料面を加工することができる。
【0027】
本発明の第9は、前記第5〜8のいずれか1つの発明において、パルスレーザー光の照射位置を走査して所定パターンに加工する試料の微細加工方法を提供するものである。
【0028】
上記発明によれば、パルスレーザー光の照射位置を走査して加工するので、試料の平面方向に位置精度よく加工することができる。これにより、試料表面のクリーニングや微細パターンの形成を、試料の深さ方向にナノメートルオーダーの精度で行うことができるとともに、試料の表面形成方向にマイクロメートルオーダーの精度で行うことが可能となる。
【0029】
本発明の第10は、前記第5〜9のいずれか1つの発明において、光ファイバーを通してパルスレーザー光を照射する試料の微細加工方法を提供するものである。
【0030】
上記発明によれば、光ファイバーを通してパルスレーザー光を照射するので、レーザー照射源の位置を操作しやすく、試料を固定したまま異なる複数の試料面を加工することがより容易となる。
【0031】
本発明の第11は、前記第10の発明において、前記光ファイバーにコーティングされた電極を用いて、試料と該電極間に高電界を形成する試料の微細加工方法を提供するものである。
【0032】
上記発明によれば、前記光ファイバーにコーティングされた電極を用いて、試料と該電極間に高電界を形成するので、電界範囲とパルスレーザー光の照射位置を整合させやすく、光励起電界蒸発を行わせる位置、範囲を制御するのが容易となり、前記試料の平面方向に位置精度よく加工することができる。
【0033】
本発明の第12は、前記第10又は11の発明において、光ファイバーを複数本用いて、複数箇所を同時に加工する試料の微細加工方法を提供するものである。
【0034】
上記発明によれば、試料の複数箇所を同時に加工することができる。
【0035】
本発明の第13は、前記第1〜12のいずれか1つの発明において、試料を加工しつつ、加工用レーザー、又は加工用レーザーと同軸上に照射される別のレーザーによって、被加工部のラマンスペクトルを測定する試料の微細加工方法を提供するものである。
【0036】
上記発明によれば、試料の新鮮な分析面を顕出させつつラマン散乱スペクトル測定により試料の分析評価を行うことができる。
【0037】
本発明の第14は、前記第1〜13のいずれか1つの発明において、試料の被加工部と電極との間に高電圧パルスを印加して高電界を形成すると同時に、該被加工部にレーザー光を照射して、光励起電界蒸発を行わせる試料の微細加工方法を提供するものである。
【0038】
上記発明によれば、試料の被加工部と電極との間に高電圧パルスを印加して高電界を形成すると同時に、該被加工部にレーザー光を照射して、光励起電界蒸発を行わせるので、これにより、被加工部を構成する原子を被加工部から原子レベルで放出させて、多層膜構造を有する試料の深さ方向にナノメートルオーダー精度で加工することができる。
【0039】
本発明の第15は、前記第14の発明において、被加工部のサイズ及び加工速度に応じて、前記レーザー光のビーム径を変化させて照射する試料の微細加工方法を提供するものである。
【0040】
上記発明によれば、被加工部のサイズ及び加工速度を調整するのが容易となる。
【0041】
本発明の第16は、前記第14又は15の発明において、前記電極が平板状又は針状をなす試料の微細加工方法を提供するものである。
【0042】
上記発明によれば、前記電極が平板状をなす場合には、その平板状の電極に相応して比較的広範囲にわたり高電界が形成されるので、高電界の形成された範囲でレーザー光の照射位置を順次移動させていくことで試料表面上の任意の位置の加工を行うことができる。また、前記電極が針状をなす場合には、その針状の電極に相応して比較的狭小の範囲に強い高電界が形成されるので、高電圧パルスを効率的に印加できる。
【0043】
本発明の第17は、前記第1の発明において、前記試料の被加工部を含む領域に対向して、複数本のものからなる針状の電極を配置し、試料の被加工部にレーザー光を照射すると共に、前記針状の電極と試料との間に高電界を形成して、光励起電界蒸発を行わせて試料の被加工部を凹凸状に加工した後、前記試料に高電圧を印加して、凹凸状に加工された試料の凸部に電界蒸発を行わせる試料の微細加工方法を提供するものである。
【0044】
上記発明によれば、光励起電界蒸発を行わせて試料の被加工部を凹凸状に加工したうえで、前記試料に高電圧を印加して、形成した凸部においてその凸部を構成する原子を電界蒸発させることにより、その凸部を除去して平坦化し、試料表面を薄膜化することができる。
【0045】
本発明の第18は、前記第1の発明において、前記試料の被加工部を含む領域に対向して、複数本のものからなる針状の電極を配置し、試料の被加工部にレーザー光を照射すると共に、前記針状の電極と試料との間に高電界を形成して、光励起電界蒸発を行わせて試料の被加工部を凹凸状に加工した後、前記試料に高電圧を印加すると共に、レーザー光を照射して、凹凸状に加工された試料の凸部に光励起電界蒸発を行わせる試料の微細加工方法を提供するものである。
【0046】
上記発明によれば、光励起電界蒸発を行わせて試料の被加工部を凹凸状に加工したうえで、前記試料に高電圧を印加すると共に、前記被加工部にレーザー光を照射して、形成した凸部においてその凸部を構成する原子を光励起電界蒸発させることにより、その凸部を除去して平坦化し、試料表面を薄膜化することができる。また、レーザー光により誘起される光励起電界蒸発を行わせるので、導電性・絶縁性試料を問わずその試料表面を薄膜化することができる。
【0047】
本発明の第19は、前記第17又は18の発明において、試料の被加工部を凹凸状に加工した後、針状の電極を前記被加工部の凸部の側面に指向させて配置し、前記試料と前記電極との間に高電界を形成して、前記凸部の側面にて電界蒸発を行わせる試料の微細加工方法を提供するものである。
【0048】
上記発明によれば、光励起電界蒸発を行わせて試料の被加工部を凹凸状に加工したうえで、形成した凸部の側面に高電界を指向させて、その凸部の側面を構成する原子を電界蒸発させるので、その凸部のボリュームを側面から縮減することができ、凸部を除去して平坦化するのが容易となる。
【0049】
本発明の第20は、前記第17又は18の発明において、試料の被加工部を凹凸状に加工した後、針状の電極を前記被加工部の凸部の側面に指向させて配置し、前記試料と前記電極との間に高電界を形成すると共に、レーザー光を前記凸部の側面に照射することにより、前記凸部の側面にて光励起電界蒸発を行わせる試料の微細加工方法を提供するものである。
【0050】
上記発明によれば、光励起電界蒸発を行わせて試料の被加工部を凹凸状に加工したうえで、形成した凸部の側面に高電界とレーザー光とを指向させて、その凸部の側面を構成する原子を光励起電界蒸発させるので、その凸部のボリュームを側面から縮減することができ、凸部を除去して平坦化するのが容易となる。また、レーザー光により誘起される光励起電界蒸発を行わせるので、導電性・絶縁性試料を問わずその試料表面を薄膜化することができる。
【発明の効果】
【0051】
本発明によれば、多層膜構造を有する試料の被加工部に、高電界を形成すると共に、レーザー光を照射して、光励起電界蒸発を行わせるので、これにより、被加工部を構成する原子を被加工部から原子レベルで放出させて、多層膜構造を有する試料の深さ方向にナノメートルオーダー精度で加工することができる。このとき、高電界とレーザー光によるエネルギーは原子レベルで付与されるので、付与されない部分の原子構造に影響を与えることがない。また、この光励起電界蒸発は、高電界の作用に加えてレーザー光により誘導されるので、絶縁性試料にも行わせることができ、その加工が可能である。更に、この光励起電界蒸発は、高電界のみによって原子を電界蒸発させる場合に比べて電界強度を低く抑えることができる。これにより、例えば、針状の電極で高電界を形成する場合にも、加工を繰り返すうちに移動した原子が針状の電極の先端に堆積して、所望の電界強度あるいは分布を維持できなくなることなどを防げる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】従来技術として、イオンビームを照射することによって表面から垂直方向にエッチングしていく方法を説明する説明図である。
【図2】従来技術として、砥粒を用いて斜め面に削り出す研磨法を説明する説明図である。
【図3】従来技術として、表面に印加された電界によって原子が吸い出されることを利用して表面を加工する方法を説明する説明図である。
【図4】本発明の実施形態の第1を示す図であり、ピンホールが設けられた針状をなす電極が配置され、(a)は光励起電界蒸発により試料面の原子が電極側に放出される状態の説明図、(b)は電極に堆積した試料原子を除去する状態の説明図である。
【図5】本発明の実施形態の第2を示す図であり、平板状をなす電極に複数のピンホールが設けられたものが配置され、(a)は光励起電界蒸発により試料面の原子が電極側に放出される状態の説明図、(b)は電極に堆積した試料原子を除去する状態の説明図である。
【図6】本発明の実施形態の第3を示す図であり、試料の複数の被加工面に対向して複数設置された電極の配置図である。
【図7】本発明の実施形態の第3を示す図であり、試料に電圧を印加するための電極が、試料の複数の被加工面に対向して複数設置され、(a)は一の試料面が光励起電界蒸発により加工される加工前の状態の説明図、(b)は(a)の加工後の状態の説明図、(c)は他の試料面が光励起電界蒸発により加工される加工前の状態の説明図、(d)は(c)の加工後の状態の説明図である。
【図8】同第3の実施形態の他の状態を示す図であり、試料全体を囲うように電極を配置した状態の説明図である。
【図9】本発明の実施形態の第4を示す図であり、パルスレーザー光の照射位置を走査して所定パターンに加工する状態において、(a)は加工前の状態の説明図、(b)は加工後の状態の説明図である。
【図10】本発明の実施形態の第5を示す図であり、光ファイバーにコーティングされた電極を用いて、試料を光励起電界蒸発により加工する状態において、(a)は加工前の状態の説明図、(b)は加工後の状態の説明図である。
【図11】本発明の実施形態の第6を示す図であり、平板状をなす電極を用いて、試料を光励起電界蒸発により加工する状態の説明図である。
【図12】本発明の実施形態の第7を示す図であり、針状をなす電極を用いて、試料を光励起電界蒸発により加工する状態の説明図である。
【図13】本発明の実施形態の第8を示す図であり、試料の被加工部を含む領域に対向して、複数本のものからなる針状の電極を配置し、試料の被加工部にレーザー光を照射して光励起電界蒸発により被加工部を凹凸状に加工する状態の説明図である。
【図14】同第8の実施形態において、複数本のものからなる針状の電極の形状に沿って試料の被加工部を凹凸状に加工する(a)加工前及び(b)加工後の状態の説明図である。
【図15】同第8の実施形態において、凹凸状に加工された試料に高電解を印加して凸部に電界蒸発が発生するようにしている状態の説明図である。
【図16】同第8の実施形態において、加工された後の試料の状態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下、図4〜15を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の実施形態ではその説明を省略するが、本発明は、ロータリーポンプ、スクロールポンプ、ターボ分子ポンプ、イオンポンプなどの減圧手段を備えた加工室において行うようにし、10−8Paオーダー以下の超高真空下において行うことを要する。また、本発明における「高電界」とは、レーザー光と併用して目的する加工が可能な程度の高電界を意味し、加工対象や用いるレーザー光の特性によっても異なるが、数V/nm程度の高電界を意味する。
【0054】
まず、図4(a)を参照して本発明の実施形態の第1を説明する。
【0055】
この第1の実施形態では、図4(a)に示すように、多層膜構造を有する試料として、シリコン基板101上に薄膜102〜106の5層の薄膜が成膜された試料を用いる。多層膜構造を有する試料としては、具体的には薄膜太陽電池や半導体素子などが挙げられる。
【0056】
図4(a)では、多層膜構造を有する試料の試料面は薄膜106により形成されており、これが試料の被加工部とされている。そして、その被加工部を含む領域に対向して、ピンホール12が設けられた針状をなす電極11aを配置し、この電極11aと上記試料との間で電圧を印加して高電界を形成するようになっている。また、ピンホール12を通してレーザー光13を照射するようになっている。このピンホール12(電極11a)とレーザー光13の光路を整合させ、両者を上記試料に対して相対移動させることにより、上記試料の被加工部の任意の位置に、高電界を形成すると共に、レーザー光を照射することができ、上述した光励起電界蒸発を行わせることができる。すなわち、電圧を印加し、電極側を負、試料側を正に帯電させると、電極試料間に電場が形成され、光励起電界蒸発により試料面の薄膜106を構成する原子が電極側に放出され、加工を行うことができる。このとき、加工深さは、電圧値あるいはレーザー照射時間や電圧印加時間で変更することができる。よって、電圧を変えながら、あるいはレーザー移動速度を変えながら、上記ピンホール12(電極11a)とレーザー光13の光路を整合させ、両者を上記試料に対して相対移動させることで、清浄かつダメージの無い分析面を任意の形状で露出させることが可能となる。なお、ピンホール12は、レーザー光の絞り手段ともなり得るので、それを利用して、試料の被加工部へのレーザー照射の強度、分布を調節することに寄与することができる。また、別途、レーザー光の行路のピンホール12を通る前又は後にレンズを設けてレーザー光のビーム径を調節することもできる。
【0057】
図4(b)には、第1の実施形態において、電極に堆積した試料原子を除去する場合の実施形態を示す。例えば、電極として針状のものを用いた場合などには、図4(a)に示すように、加工を繰り返すうちに移動した原子が針状プローブの先端に堆積して、所望の電界強度あるいは分布を維持できなくなる場合がある。このようなときは、加工の過程で、上記とは逆方向の電圧を印加して、電極に堆積した試料原子を除去することができる。すなわち、電極11aを試料面以外の非加工面に移動させてから、電極側を正、試料側を負に帯電させると、電極試料間に、試料の加工を行うときとは逆の電場が形成される。これにより、電極11aの表面に付着した原子が試料側に移動する。この場合、図示しないレーザー照射手段からレーザー光13aをグレージング入射して電極に広く照射させれば、光励起電界蒸発により、電極11aの表面に付着した原子を試料側に、より効率よく移動させることができる。この場合、図4(b)に示すように、試料以外に導電性ダミー板14を併設し、前記加工の過程で、ダミー板と電極間に加工時とは逆方向の電圧を印加して、電極に堆積した試料原子を除去するようにしてもよい。以上のように、電極に堆積した試料原子の除去・洗浄を行うことによって、より広い範囲を安定して長時間加工することが可能となる。
【0058】
次に、図5(a)を参照して本発明の実施形態の第2を説明する。
【0059】
この第2の実施形態では、電7極として平板状をなす電極11bに複数のピンホール12が設けられたものが配置されている。そして、その複数設けられたピンホール12を通ってレーザー光が複数、上記試料の被加工部に照射されるようになっている。そして、平板状をなす電極11bの形状に沿って高電界を分布させることができ、加えて、レーザー光を複数、同時に照射することにより、試料面の広範囲にわたって光励起電界蒸発を行わせることができる。このような態様により、一度に試料面の広範囲にわたって加工することが可能となる。また、必要に応じて、図5(b)に示すように、上記図4(b)で説明した実施形態と同様の態様により、電極に堆積した試料原子の除去・洗浄を行うこともできる。
【0060】
次に、図6〜9を参照して本発明の実施形態の第3を説明する。
【0061】
この第3の実施形態では、図6に示すように、直方体形状の試料21が高真空に調整された加工室(図示しない。)にセットされている。加工室内には、更に、その試料の一の側面に対向して平板状をなす電極22が配置され、他の側面に対向して平板状をなす電極23が配置されている。なお、試料の形状に制限はないが、予めμmオーダーのサイズに加工した単層または積層薄膜状の試料であることが好ましい。
【0062】
図7(a)に示すように、上記電極22と試料21との間に電圧を印加して、試料21の対向する面間に高電界Eを形成する。その状態で、図7(b)に示すように、図示しないレーザー光照射手段により、被加工部22aにパルスレーザー光を照射して、光励起電界蒸発を行わせ、その部分から原子を放出させることにより、試料表面を凹形に加工することができる。
【0063】
また、図7(c)に示すように、上記電極23と試料21との間に電圧を印加して、試料21の対向する面間に高電界Eを形成する。その状態で、図示しないレーザー光照射手段により、被加工部23aにパルスレーザー光を照射して、光励起電界蒸発を行わせ、その部分から原子を放出させることにより、試料表面を凹形に加工することができる。
【0064】
このように、電圧を印加する電極を電極22から電極23に変更することで、試料21を固定したまま、試料の複数の被加工面に対して加工することが可能となる。このとき、図示しないレーザー光照射手段によるレーザー照射源の位置を操作するか、あるいは図示しない別のレーザー照射源を用いて、パルスレーザー光の照射源の位置を任意に変更できることは言うまでもない。また、電圧を印加する際には、試料といずれかの電極にのみ電圧が印加され、電圧が印加されていない電極は全て接地することが好ましい。これにより、電圧を印加する電極の変更を確実に行うことができる。
【0065】
使用するパルスレーザー光の種類としては、ナノ秒、ピコ秒、又はフェムト秒のパルス幅を有するものなどを、試料や付与する高電界の特性に応じて適宜選択することができる。また、パルスレーザーの光路上に光学素子又は偏光板を導入し、パルスレーザーの偏光特性及び偏光方向を操作して試料の被加工部に照射してもよい。これによれば、例えば直線偏光のパルスレーザーの偏光方向を操作することにより、電極−試料間に電気的に印加された電場の方向と、レーザー光の偏光方向とが揃うようにして、加工効率を高めることができる。また、パルスレーザーの偏光特性、例えば直線偏光や円偏光を操作することにより、試料の加工部位や、加工形状を操作できる。
【0066】
また、図8に示すように、試料21の全体を囲うように電極24を配置してもよい。この場合、レーザー光の光路が電極によって遮られてしまい、目的とする箇所の加工を行うことが困難である。したがって、電極24を、パルスレーザー光の波長付近に吸収をもたない透明な材料で構成しておき、その電極を通してパルスレーザー光を照射することが好ましい。これによれば、レーザー光の光路からみて電極の陰となる部分の加工を行うことができる。パルスレーザー光の波長付近に吸収をもたない透明な材料としては、ITO(酸化インジウムスズ;スズドープ酸化インジウム)や有機高分子材料等が挙げられる。
【0067】
次に、図9を参照して本発明の実施形態の第4を説明する。
【0068】
この第4の実施形態では、パルスレーザー光の照射位置を走査して所定パターンに加工するようになっている。すなわち、光ファイバー26がレーザー光照射手段となっており、平板状をなす電極27に囲まれた試料25に対して走査可能に設置されている。光ファイバー26の位置は、例えば、光ファイバーを保持するホルダーにピエゾ素子を取り付けたxyzステージを取り付けることで、精密に制御できるようになっており、試料と電極27との間に高電界を形成し、光ファイバー26からパルスレーザー光を照射して光励起電界蒸発を行わせることによって、試料表面のクリーニングや微細パターンの形成を、試料の深さ方向にナノメートルオーダーの精度で行うことができるとともに、試料の表面形成方向にマイクロメートルオーダーの精度で行うことが可能となる。なお、上述したように、光ファイバー26によるレーザー照射源の位置を操作するか、あるいは図示しない別のレーザー照射源を用いて、パルスレーザー光の照射源の位置を任意に変更できることは言うまでもない。この場合、光ファイバー26を通してパルスレーザー光を照射するので、レーザー照射源の位置を操作しやすい。また、電極27の材料としては、金属のみならず、パルスレーザー光の波長付近に吸収をもたない透明な材料として、ITO(酸化インジウムスズ;スズドープ酸化インジウム)や有機高分子材料などを用いることができる。
【0069】
また、光ファイバー26に相当する光ファイバーを複数本用いて、複数箇所を同時に加工することもできる。
【0070】
また、図9には、試料の角部を凹状に加工する例が示されているが、この場合、上述したようにパルスレーザーの光路上に光学素子又は偏光板を導入し、パルスレーザーの偏光特性及び偏光方向を操作して、例えば、直線偏光パルスレーザーの偏光方向が加工面に相対する電極に対し直交するように光ファイバー26の角度、位置を調整することで、加工により掘削された部分のエッジ形状が、球面状となるので、試料の角部分を傾斜加工しやすい。
【0071】
次に、図10を参照して本発明の実施形態の第5を説明する。
【0072】
この第5の実施形態では、光ファイバー28にコーティングされた電極29を用いて、試料と該電極間に高電界を形成するようになっている。すなわち、電極29をコーティングされた光ファイバー28が、試料25に対して走査可能に設置されており、レーザー光照射手段となっており、電極にもなっている。電極29はコーティング可能な導電性物質によって構成される。例えば、有機導電性高分子膜、金属蒸着膜等を例示できる。電極29をコーティングされた光ファイバー28の位置は、例えば、光ファイバーを保持するホルダーにピエゾ素子を取り付けたxyzステージを取り付けることで、精密に制御できるようになっており、試料と電極29との間に高電界を形成し、光ファイバー28からパルスレーザー光を照射して光励起電界蒸発を行わせることによって、試料表面のクリーニングや微細パターンの形成を、試料の深さ方向にナノメートルオーダーの精度で行うことができるとともに、試料の表面形成方向にマイクロメートルオーダーの精度で行うことが可能となる。なお、上述したように、光ファイバー28によるレーザー照射源の位置を操作するか、あるいは図示しない別のレーザー照射源を用いて、パルスレーザー光の照射源の位置を任意に変更できることは言うまでもない。この場合、光ファイバーを通してパルスレーザー光を照射するので、レーザー照射源の位置を操作しやすい。また、電極29の材料としては、金属のみならず、パルスレーザー光の波長付近に吸収をもたない透明な材料として、ITO(酸化インジウムスズ;スズドープ酸化インジウム)や有機高分子材料などを用いることができる。
【0073】
また、電極29をコーティングされた光ファイバー28に相当する光ファイバーを複数本用いて、複数箇所を同時に加工することもできる。
【0074】
また、図10には、試料の角部を斜め加工する例が示されているが、この場合、上述したようにパルスレーザーの光路上に光学素子又は偏光板を導入し、パルスレーザーの偏光特性及び偏光方向を操作して、例えば、円偏光入射するように光ファイバー28の角度、位置を調整することで、加工により掘削された部分のエッジ形状が面状となるので、試料の角部分を傾斜加工しやすい。
【0075】
次に、図11を参照して本発明の実施形態の第6を説明する。
【0076】
この第6の実施形態では、図11に示すように、薄板形状の試料31が超高真空に調整された加工室(図示しない。)にセットされている。加工室内には、更に、その試料の一の側面に対向して平板状をなす電極32aが配置されている。また、試料31と電極32aの間に電圧を印加する高電圧パルス電源33が配置され、試料31と電極32aとの間に接続されている。図11(a)はその側面からみた状態であり、図11(b)はその上面からみた状態である。
【0077】
ここで、高電圧パルス電源33により、電極32aに、試料31が電界蒸発しない程度の負の高電圧パルスを印加する。そして、この高電圧パルスの印加と同時に、図示しないレーザー光照射手段から、レーザー光34を試料表面に照射する。すると、レーザーが照射された試料表面35のみがレーザー光の光電場により蒸発電界に達し、試料表面が電界蒸発により加工される。以降、レーザー光の照射位置を順次移動させていくことで試料表面上の任意の位置の加工を行うことが可能である。図11(c)はその加工部の形状を上面からみた状態である。
【0078】
なお、レーザー光34はそのビーム径を変化させて照射するようにしてもよい。これにより、被加工部のサイズ及び加工速度を調整するのが容易となる。
【0079】
次に、図12を参照して本発明の実施形態の第7を説明する。
【0080】
この第7の実施形態では、図12に示すように、薄板形状の試料31が超高真空に調整された加工室(図示しない。)にセットされている状態を示す。加工室内には、更に、その試料の一の側面に対向して針状をなす電極32bが配置されている。また、試料31と電極32bの間に電圧を印加する高電圧パルス電源33が配置され、試料31と電極32bとの間に接続されている。図12(a)はその側面からみた状態であり、図12(b)はその上面からみた状態である。
【0081】
ここで、高電圧パルス電源33により、電極32bに、試料31が電界蒸発しない程度の負の高電圧パルスを印加する。そして、この高電圧パルスの印加と同時に、図示しないレーザー光照射手段から、レーザー光34を試料表面に照射する。すると、レーザーが照射された試料表面35のみがレーザー光の光電場により蒸発電界に達し、試料表面が電界蒸発により加工される。以降、針状をなす電極32bとレーザー光の照射位置を同期させつつ順次移動させていくことで試料表面上の任意の位置の加工を行うことが可能である。図12(c)はその加工部の形状を上面からみた状態である。
【0082】
なお、レーザー光34はそのビーム径を変化させて照射するようにしてもよい。これにより、被加工部のサイズ及び加工速度を調整するのが容易となる。
【0083】
上記第6又は第7の実施形態に説明したように、本発明においては、従来のSTM探針を利用した加工方法など、電圧の印加による電界蒸発そのものを利用して表面を加工する方法とは異なり、レーザー光の光電場で誘起して原子を被加工部から放出させる。このため、導電性・絶縁性試料を問わず試料に損傷を与えることなく原子レベルで加工を行うことができる。また、電極の形状変化による加工性の低下が起きにくい。
【0084】
次に、図13〜16を参照して本発明の実施形態の第8を説明する。
【0085】
この第8の実施形態では、図13に示すように、薄板状の試料41が超高真空に調整された加工室(図示しない。)にセットされ、加工室内には、更に、その試料41に対向して複数本のものからなる針状の電極45が配置されている。また、レーザー光照射手段をなす光ファイバー42からは、試料41の被加工部を含む領域にはレーザー光43が照射されている。
【0086】
図14(a)には、電極45に電圧を印加していない加工前の状態を示す。また、図14(b)には、電圧を印加した加工後の状態を示す。なお、これらの図では、上記電極45が、薄板状の試料41の両面に近接して配置され、その両面を加工できるようになっている。すなわち、図14(a)に示す状態で、電極45に電圧を印加し、対向する試料表面との間に高電界を形成すると、その高電界が、電極45のくし型の形状に沿って分布するので、上記図13に示すレーザー光43が更に照射されることにより、上述した光励起電界蒸発を行わせて、電極45のくし型の形状に沿って試料41の表面から原子を放出させることができる。これにより、原子が放出された箇所が凹に、原子が放出されていない箇所が凸になる。このとき、この形状を試料の被加工部に均一に形成させるために、電極45を試料方向に対して上下させてもよい。また、電極45のその針状電極ごとに印加する電圧を変更させてもよい。この操作を試料の平面方向に繰り返し行うことで、試料の被加工部を凹凸状に加工することができる。
【0087】
次に、図15に示すように、凹凸状に加工された試料41aに、高電圧パルス電源46を接続し、試料に数V/nm程度の高電圧パルス46aを印加する。これにより、凹凸状に加工された試料の凸部において、電界蒸発により、その凸部の原子がイオン化し試料1から放出される。その結果、図16に示すように、表面が平坦化した試料41bとなる。このようにして試料を薄膜化することができる。
【0088】
この第8の実施形態の別の態様においては、凹凸状に加工された試料41a(図15)に、上記高電圧パルスを印加すると共に、レーザー光を照射して、凹凸状に加工された試料の凸部に光励起電界蒸発を行わせることもできる。この場合、凹凸状に加工された試料の凸部において、光励起電界蒸発により、その凸部の原子がイオン化し試料41aから放出される。これにより、その凸部を除去して平坦化し、試料表面を薄膜化することができる。また、レーザー光により誘起される光励起電界蒸発を行わせるので、導電性・絶縁性試料を問わずその試料表面を薄膜化することができる。
【0089】
この第8の実施形態の更に別の態様においては、針状の電極を、凹凸状に加工された試料41a(図15)の凸部の側面に指向させて配置し、試料と電極との間に高電界を形成して、その凸部の側面にて電界蒸発を行わせるようにすることもできる。これによれば、その凸部のボリュームを側面から縮減することができ、凸部を除去して平坦化するのが容易となる。また、針状の電極を、凹凸状に加工された試料41a(図15)の凸部の側面に指向させて配置し、試料と電極との間に高電界を形成すると共にレーザー光を照射して、その凸部の側面にて光励起電界蒸発を行わせるようにすることもできる。これによれば、レーザー光により誘起される光励起電界蒸発を行わせるので、導電性・絶縁性試料を問わずその試料表面を薄膜化することができる。
【0090】
以上のような方法によって試料の薄膜化を行えば、薄膜化に際して汚染の原因となる他元素を使用する方法や物理的な手段を用いる方法に比べ、清浄な薄膜表面を形成するのが容易となる。また、試料表面のクリーニングや微細パターンの形成を、試料の深さ方向にナノメートルオーダーの精度で行うことができるとともに、試料の表面形成方向にマイクロメートルオーダーの精度で行うことが可能となる。
【0091】
一方、本発明の別の態様においては、試料を加工しつつ、加工用レーザー、又は加工用レーザーと同軸上に照射される別のレーザーによって、被加工部のラマンスペクトルを測定するようにしてもよい。そのためのレーザー光としては、上記加工用のナノ秒、ピコ秒、又はフェムト秒のパルス幅を有するパルスレーザーのほか、He-Neレーザーや、Ar+レーザーなど、紫外〜近赤外領域のcwレーザーなどを用いることができる。また、その散乱光を観測するために配置する光学測定系としては、公知のものを用いればよい。これによれば、試料の新鮮な分析面を顕出させつつラマン散乱スペクトル測定により試料の分析評価を行うことができる。
【符号の説明】
【0092】
11a、11b、 電極
12 ピンホール
13、13a レーザー光
14 導電性ダミー板
21、25 試料
22、23、24、27、29 電極
22a、23a 被加工部
26 光ファイバー
28 電極をコーティングされた光ファイバー
31 試料
32a、32b 電極
33 高電圧パルス電源
34 レーザー光
35 レーザーが照射された試料表面
41、41a、41b 試料
42 光ファイバー
43 レーザー光
45 電極
46 高電圧パルス電源
46a 高電圧パルス
101 シリコン基板
102〜106 薄膜
107 イオンビーム
108 研磨面
109 研磨前の試料表面
112 針状プローブ
113 試料表面を構成する原子
E 高電界

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層膜構造を有する試料を、その原子構造に損傷を与えることなく、微細加工する方法において、超高真空下において、前記試料の被加工部に、高電界を形成すると共に、レーザー光を照射して、光励起電界蒸発を行わせることを特徴とする試料の微細加工方法。
【請求項2】
前記試料の被加工部を含む領域に対向して、ピンホールが設けられた電極を配置し、この電極と試料との間で電圧を印加して高電界を形成すると共に、前記ピンホールを通してレーザー光を照射するようにし、前記ピンホール及びレーザー光の光路を整合させて、両者を前記試料に対して相対移動させながら加工を行う請求項1記載の試料の微細加工方法。
【請求項3】
前記加工の過程で、前記試料の被加工部ではない部分と電極間に前記とは逆方向の電圧を印加して、電極に堆積した試料原子を除去する請求項2記載の試料の微細加工方法。
【請求項4】
試料以外に導電性ダミー板を併設し、前記加工の過程で、ダミー板と電極間に前記とは逆方向の電圧を印加して、電極に堆積した試料原子を除去する請求項2記載の試料の微細加工方法。
【請求項5】
試料と電極間に高電界を形成し、試料の被加工部にパルスレーザー光を照射して、光励起電界蒸発を行わせる請求項1〜4のいずれか1つに記載の試料の微細加工方法。
【請求項6】
前記パルスレーザーの光路上に光学素子を導入し、パルスレーザーの偏光特性及び偏光方向を操作して試料の被加工部に照射する請求項5記載の試料の微細加工方法。
【請求項7】
前記電極が、パルスレーザー光の波長付近に吸収をもたない透明な材料で構成されており、前記パルスレーザー光を、前記電極を通して照射する請求項5又は6記載の試料の微細加工方法。
【請求項8】
試料に電圧を印加するための電極を、試料の複数の被加工面に対向して複数設置し、試料を固定したまま、試料の複数の被加工面に対して加工する請求項7記載の試料の微細加工方法。
【請求項9】
パルスレーザー光の照射位置を走査して所定パターンに加工する請求項5〜8のいずれか1つに記載の試料の微細加工方法。
【請求項10】
光ファイバーを通してパルスレーザー光を照射する請求項5〜9のいずれか1つに記載の試料の微細加工方法。
【請求項11】
前記光ファイバーにコーティングされた電極を用いて、試料と該電極間に高電界を形成する請求項10記載の試料の微細加工方法。
【請求項12】
光ファイバーを複数本用いて、複数箇所を同時に加工する請求項10又は11記載の試料の微細加工方法。
【請求項13】
試料を加工しつつ、加工用レーザー、又は加工用レーザーと同軸上に照射される別のレーザーによって、被加工部のラマンスペクトルを測定する請求項1〜12のいずれか1つに記載の試料の微細加工方法。
【請求項14】
試料の被加工部と電極との間に高電圧パルスを印加して高電界を形成すると同時に、該被加工部にレーザー光を照射して、光励起電界蒸発を行わせる請求項1〜13のいずれか1つに記載の試料の微細加工方法。
【請求項15】
被加工部のサイズ及び加工速度に応じて、前記レーザー光のビーム径を変化させて照射する請求項14記載の試料の微細加工方法。
【請求項16】
前記電極が平板状又は針状をなす請求項14又は15記載の試料の微細加工方法。
【請求項17】
前記試料の被加工部を含む領域に対向して、複数本のものからなる針状の電極を配置し、試料の被加工部にレーザー光を照射すると共に、前記針状の電極と試料との間に高電界を形成して、光励起電界蒸発を行わせて試料の被加工部を凹凸状に加工した後、前記試料に高電圧を印加して、凹凸状に加工された試料の凸部に電界蒸発を行わせる請求項1記載の試料の微細加工方法。
【請求項18】
前記試料の被加工部を含む領域に対向して、複数本のものからなる針状の電極を配置し、試料の被加工部にレーザー光を照射すると共に、前記針状の電極と試料との間に高電界を形成して、光励起電界蒸発を行わせて試料の被加工部を凹凸状に加工した後、前記試料に高電圧を印加すると共に、レーザー光を照射して、凹凸状に加工された試料の凸部に光励起電界蒸発を行わせる請求項1記載の試料の微細加工方法。
【請求項19】
試料の被加工部を凹凸状に加工した後、針状の電極を前記被加工部の凸部の側面に指向させて配置し、前記試料と前記電極との間に高電界を形成して、前記凸部の側面にて電界蒸発を行わせる請求項17又は18記載の試料の微細加工方法。
【請求項20】
試料の被加工部を凹凸状に加工した後、針状の電極を前記被加工部の凸部の側面に指向させて配置し、前記試料と前記電極との間に高電界を形成すると共に、レーザー光を前記凸部の側面に照射することにより、前記凸部の側面にて光励起電界蒸発を行わせる請求項17又は18記載の試料の微細加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−40573(P2012−40573A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181491(P2010−181491)
【出願日】平成22年8月16日(2010.8.16)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】