説明

識別センサ

本発明の課題は、対象物の表面構成のズレや変形等に影響されること無く、対象物の真贋や精度等を正確に判別することが可能な優れた識別機能を有する識別センサを提供する。本発明において、識別センサ(2)は、走査方向(S1)に直交する方向のセンシング領域(E1)を幅広に確保したセンシング光(L)を対象物[紙幣](4)の表面に向けて発光する発光素子(8)と、センシング光が発光された際に紙幣の表面構成(6)から生じる光(R)を受光するように、走査方向に直交する方向の受光領域(E2)を幅広に確保した受光素子(10)とを備えている。発光素子と受光素子とは識別センサ内に一体化されており、発光素子は、互いに異なる波長帯域の複数のセンシング光を個別に発光することが可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、対象物に対する高い識別機能を確保した識別センサに関する。
【背景技術】
従来から、例えば特許2896288号(段落番号0007〜0009)に示されているように、対象物の表面構成(例えば、紙幣や集積回路等の表面に施された複雑なパターン)を認識して、対象物の真贋や精度等を判別する識別センサが知られている。この種の識別センサは、通常、対象物の特徴を最も良く反映した表面構成(パターン)の特徴部分に配置され、対象物と識別センサとを相対的に移動させることによって識別センサを表面構成の特徴部分に沿って走査している。そして、走査中に得られたセンシングデータ(表面構成の特徴部分をプロットしたデータ)と元データと比較することによって対象物の真贋や精度等を判別している。
ところで、大量生産される例えば紙幣や集積回路等の複雑なパターンは、対象物表面の全く同一位置に同一形状で施されることは無く、パターン印刷中における印刷精度や機械精度の影響によって若干のズレや変形等を伴う。従来の識別センサは、センシング領域が極めて狭いピンスポット状態で走査されるため、特徴部分のパターンに若干でもズレや変形等があると、その特徴部分のセンシングデータに大きな違いが生じてしまう。
具体的に説明すると、識別センサは一定箇所に位置決め固定されており、対象物表面のパターンのズレや変形等に合わせて位置調整されることは無く、常に特定の走査ライン上のセンシングデータをプロットするようになっている。このため、例えばパターンにズレや変形等が無い場合には、特定の走査ライン上のパターンから得られるセンシングデータは元データと常に一致する。これに対して、その特定の走査ライン上のパターンに若干でもズレや変形等があると、同一の走査ラインを走査しているにも関わらず、識別センサから得られるセンシングデータは元データとは相違したものとなる。これは、従来の識別センサのセンシング領域が極めて狭いピンスポット状態であるため、パターンに若干でもズレや変形があると、その特徴部分のパターンがセンシング領域から外れてしまう。この場合、識別センサは異なるパターン部分を走査しているのと同じ状態になるが、そこから得られるセンシングデータは同一の走査ライン上のデータとして元データと比較されてしまう。異なるパターン部分からのセンシングデータは元データとは相違したものとなるため、例えば紙幣の真贋では真正紙幣を贋物として誤って判別されたり、集積回路の精度では完成品を欠陥品として誤って判別されてしまうといった問題があった。
【発明の開示】
本発明は、このような問題を解決するために成されており、その目的は、対象物の表面構成のズレや変形等に影響されること無く、対象物の真贋や精度等を正確に判別することが可能な優れた識別機能を有する識別センサを提供することにある。
このような目的を達成するために、本発明は、対象物4の表面に沿って走査することによって、その対象物の表面構成6を光学的にセンシングする識別センサ2であって、センシング領域E1が走査方向S1に直交する方向に幅広となるセンシング光Lを対象物の表面に向けて発光する発光素子8と、センシング光Lが発光された際に対象物の表面構成から生じる光Rを受光する受光領域E2が走査方向に直交する方向に幅広となるよう設定された受光素子10とを備えている。特に本発明において、発光素子は、互いに異なる波長帯域の複数のセンシング光(近赤外光、可視光)を個別に発光することが可能に構成されており、受光素子は、発光素子から互いに異なる波長帯域のセンシング光が個別に発光された際に対象物の表面構成から生じる光をそれぞれ独立して受光することが可能に構成されている。そして、識別センサには、対象物の表面構成から生じる光を受光した際に受光素子から出力される識別信号に演算処理を施して、識別信号が所定の許容範囲内にあるか否かを判定する演算判定部12が設けられている。
このような識別センサによれば、対象物の表面構成を走査している間、発光素子から互いに異なる波長帯域の複数のセンシング光が個別に発光され、そのとき対象物の表面構成から生じる光は、受光素子によって識別信号に変換されて演算処理部に入力される。そして、その識別信号が所定の許容範囲内にあるか否かが判定される。
また、本発明は、対象物4の表面に沿って走査することによって、その対象物4の表面構成を光学的にセンシングする識別センサであって、走査方向S1に直交する方向に幅広開口した光路用開口部14aを有するセンサユニット14と、センサユニット内に設置され、所定の光を発光する発光体(例えば8a´,8b´)と、センサユニット内に設置され、所定の光を受光する受光体10´と、発光体から発光した光を光路用開口部に向けて集光すると共に、光路用開口部を介してセンサユニット内に入射した光を受光体に向けて集光する集光光学系(例えば16a,16b,16c)とを備えている。
このような識別センサによれば、発光体から発光した光は、集光光学系によって光路用開口部に集光した後、走査方向に直交する方向のセンシング領域が幅広に確保されたセンシング光となって光路用開口部から対象物の表面に集光し、このとき対象物の表面構成から生じる光は、光路用開口部を通ってセンサユニット内に入射した後、集光光学系によって受光体に向けて集光する。
【図面の簡単な説明】
図1において、(a)は、本発明の識別センサの使用状態を示す斜視図、(b)は、本発明の第1の実施の形態に係る識別センサの発光素子からセンシング領域を幅広に確保したセンシング光が発光している状態を示す斜視図、(c)は、識別センサが走査方向に沿って移動している状態を示す斜視図、(d)は、一体化された発光素子と受光素子とが一体化された識別センサの平面図、(e)及び(f)は、識別センサの変形例を示す平面図であり、発光素子が2つの発光部から構成されている状態を示す図であり、
図2において、(a)は、識別センサの演算判定部に蓄積されたサンプルデータの許容範囲を示す図、(b)は、対象物として微細な集積回路がパターン印刷された半導体基板を適用した変形例を示す斜視図、(c)及び(d)は、透過光を用いた場合における識別センサの構成例を示す図であり、
図3において、(a)は、本発明の第2の実施の形態に係る識別センサの構成を示す斜視図、(b)〜(e)は、(a)のb−b線に沿う断面図であって、各発光体からの光が集光光学系により光路用開口部から対象物に集光され、そのとき対象物から光路用開口部に入射した光が集光光学系により受光体に集光される一連の走査状態を示す図であり、
図4は、図3(a)のc−c線に沿う断面図であって、対象物から光路用開口部に入射した光が集光光学系(集光レンズ部)により受光体に集光される状態を示す図であり、
図5において、(a)及び(b)は、識別センサの変形例を示す図であり、単体の発光部からの光が集光光学系により光路用開口部から対象物に集光され、そのとき対象物から光路用開口部に入射した光が集光光学系により受光体に集光される状態を示す図であり、
図6において、(a)及び(b)は、透過光を用いた場合における識別センサの構成例を示す図である。
なお、図中の符号、2は識別センサであり、4は対象物であり、6は表面構成であり、8は発光素子であり、10は受光素子であり、E1はセンシング領域であり、E2は受光領域であり、Lはセンシング光であり、Rは表面構成から生じる光であり、S1は走査方向である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の識別センサについて、添付図面を参照して説明する。
図1(a)に示すように、本発明の識別センサ2は、対象物4の表面に沿って走査することによって、その対象物4の表面構成6を光学的にセンシングすることができるようになっている。なお、下記の各実施の形態の説明では、対象物4として紙幣を適用し、紙幣4の表面に印刷されている文字や図形等のデザインを表面構成6と規定する。
識別センサ2は、対象物である紙幣4の特徴部分に沿って走査してセンシングできるように複数箇所に配列される。図1(a)には、紙幣4の長手方向を横断する方向(短手方向)に沿って複数の識別センサ2を所定間隔に配列し、紙幣4の長手方向に走査してセンシングする構成例が示されているが、これ以外に、紙幣4の長手方向に沿って複数の識別センサ2を所定間隔に配列し、紙幣4の短手方向に走査してセンシングするように構成してもよい。なお、識別センサ2の配列間隔や個数は、紙幣4の特徴部分の形状や位置等に合わせて任意に設定されるため、識別センサ2の配列間隔や個数については特に限定しない。また、対象物である紙幣4の特徴部分とは、その対象物(紙幣)4を特定或いは判別するのに有効な部分を指す。
また、複数の識別センサ2を紙幣4の特徴部分に沿って走査する方法として、各識別センサ2を矢印S1で示す走査方向に沿って移動させる方法や、紙幣4を矢印S2で示す走査方向に沿って移動させる方法が考えられるが、下記の各実施の形態の説明では、その一例として、各識別センサ2を走査方向S1に移動させる方法を採用する(図1(c)参照)。なお、いずれの方法においても、各々の識別センサ2や紙幣4を移動させるための手段として既存の移動装置を利用することができるため、その説明は省略する。この場合、各々の識別センサ2を移動させるタイミングとしては、各識別センサ2を同時に移動させる方法が一般的であるが、これに限定されることは無く、各識別センサ2の移動タイミングを個別に制御して相対的にずらして移動させる方法を適用しても良い。
図1(b),(c)には、本発明の第1の実施の形態に係る識別センサ2の構成が示されており、かかる識別センサ2は、走査方向S1に直交する方向のセンシング領域E1を幅広に確保したセンシング光Lを対象物(紙幣)4の表面に向けて発光する発光素子8と、センシング光Lが発光された際に紙幣4の表面構成6から生じる光Rを受光するように、走査方向S1に直交する方向の受光領域E2を幅広に確保した受光素子10とを備えており、発光素子8と受光素子10とは識別センサ2内に一体化されている(図1(d)参照)。
本実施の形態において、紙幣4の表面構成6から生じる光Rとは、センシング光Lが発光された際に紙幣4の表面から反射した反射光を想定しており、その反射光は、表面構成6の形状や位置、或いは、表面構成6の印刷に使用するインクの種類(例えば磁気インク)や濃淡に応じて異なる光学的特性(光強度の変化、散乱、波長変化など)を有する。
また、発光素子8は、互いに異なる波長帯域の複数のセンシング光Lを個別に発光することが可能に構成されており、受光素子10は、発光素子8から互いに異なる波長帯域のセンシング光Lが個別に発光された際に紙幣4の表面構成6から生じる光Rを順次受光することが可能に構成されている。なお、発光素子8から互いに異なる波長帯域の複数のセンシング光Lを個別に発光させる方法としては、例えば発光素子8に印加する電圧値を切り換えることによって、発光素子8の発振波長を変化させる方法を適用することができる。
この場合、互いに異なる波長帯域のセンシング光Lのうち、その一方は略700nmから1600nmの波長帯域に設定し、その他方は略380nmから700nmの波長帯域に設定することが好ましい。更に好ましくは、互いに異なる波長帯域のセンシング光Lのうち、その一方は略800nmから1000nmの波長帯域に設定し、その他方は略550nmから650nmの波長帯域に設定することが好ましい。なお、本実施の形態では、一例として、互いに異なる波長帯域のセンシング光Lのうち、その一方を略940nmの波長帯域に設定し、その他方を略640nmの波長帯域に設定している。なお、説明の都合上、略700nmから1600nmの波長帯域に含まれるセンシング光Lを近赤外光と呼び、略380nmから700nmの波長帯域に含まれるセンシング光Lを可視光と呼ぶことにする。
このような波長帯域を実現するための発光素子8としては、例えば発光ダイオード(LED)や半導体レーザ等を適用することができるが、それ以外のものであっても、上述したような波長帯域を実現できれば特に種類は問わない。
ここで、互いに異なる波長帯域のセンシング光L(近赤外光、可視光)を発光素子8から発光させる方法としては、例えば近赤外光と可視光とを所定のタイミングで交互に発光させる方法が好ましい。この場合、近赤外光と可視光との発光タイミングは、各識別センサ2の移動速度や対象物(紙幣)4の種類に合わせて任意に設定されるため、ここでは特に限定しない。本実施の形態では、その一例として、近赤外光と可視光とを所定のタイミングで交互に発光させているが、対象物(紙幣)4の表面構成6を光学的にセンシングすることができれば、これ以外の方法であっても良い。
上述したような識別センサ2によれば、各識別センサ2を走査方向S1に沿って紙幣4上を移動させながら同時に、発光素子8から近赤外光と可視光とを所定のタイミングで交互に発光させる。このとき受光素子10は、紙幣4の表面構成6から生じる光Rを順次受光し、その受光量に対応した電圧値(電流値)の電気信号即ち識別信号を出力する。
識別センサ2には演算判定部12が設けられているため、受光素子10から出力された識別信号は、演算判定部12において所定の演算処理が施され、その識別信号が所定の許容範囲内にあるか否かが判定される。
演算判定部12には、予め検出したサンプルデータが蓄積されている。サンプルデータは、識別センサ2によって走査する対象物(紙幣)4と同一種類のサンプル対象物(紙幣であれば真正紙幣)の表面構成を光学的にセンシングしたデータで構成されている。具体的には、サンプル対象物を多数(例えば数百個)用意し、それぞれのサンプル対象物のセンシングデータを検出する。このとき得られたサンプルデータは、例えば図2(a)に示すように、表面構成のズレや変形等によりある程度の幅を持ったデータとして検出される。なお、かかるサンプルデータは、受光素子10から出力される電気信号(デジタル信号)を全てプロットしたものである。この場合、サンプルデータの最大値を結んで形成した最大ラインM1と、最小値を結んで形成した最小ラインM2との間の領域を許容範囲と規定する。
演算判定部12での実際の演算処理では、受光素子10から出力された識別信号が最大ラインM1と最小ラインM2との間の領域にあるか否かが判定される。具体的には、対象物である紙幣4が真正なものであれば、受光素子10からの識別信号は、最大ラインM1と最小ラインM2との間の領域(許容範囲)に沿ってプロットされる。これに対して、受光素子10からの識別信号が許容範囲を逸脱していれば、その紙幣4は贋物であると判定される。この場合、紙幣4の表面構成6から生じる反射光Rは、新札と旧札とでは異なる光学的特性(光量変化)となって現われるが、反射光Rの光量差(即ち、識別信号の強度差)は新札と旧札とでは、それほど大きな違いはない。従って、予め検出したサンプルデータの最大ラインM1と最小ラインM2との間の幅を大きくする必要がないため、判定精度を向上させることができる。
以上、第1の実施の形態の識別センサ2によれば、走査方向S1に直交する方向のセンシング領域E1を幅広に確保したセンシング光Lを適用したことによって、対象物(紙幣)4の表面構成のズレや変形等に影響されること無く、紙幣4の真贋を正確に判別することができる。更に、互いに異なる波長帯域の複数のセンシング光Lを個別に発光してセンシングを行うようにしたことによって、高い識別力で対象物の表面構成6を判別することができる。
なお、上述した実施の形態では、対象物として紙幣4を適用しているが、これに限定されることは無く、例えば図2(b)に示すように、微細な集積回路がパターン印刷された半導体基板を対象物4として適用することも可能である。この場合の表面構成6は、パターン印刷された集積回路となる。このような構成によれば、集積回路6の精度を判別することができるため、製品の歩留まりを向上させることが可能となる。
また、上述した実施の形態において、発光素子8は、それ単体で互いに異なる波長帯域のセンシング光L(近赤外光、可視光)を個別に発光(所定のタイミングで交互に発光)するように構成したが、これに限定されることは無く、例えば図1(e),(f)に示すように、互いに異なる波長帯域のセンシング光L(近赤外光、可視光)を個別に発光する複数(2つ)の発光部8a,8bによって発光素子8を構成しても良い。例えば一方の発光部8aからは近赤外光が発光され、他方の発光部8bからは可視光が発光される。
更に、上述した実施の形態では、反射光Rを用いた識別センサ2の例を示したが、これに限定されることは無く、例えば図2(c),(d)に示すように、透過光を用いた識別センサ2とすることもできる。この場合、一対の識別センサ2を対象物4を挟んで対向配置させ、いずれか一方の識別センサ2の受光素子10の受光機能を停止させ、他方の識別センサ2の発光素子8(発光部8a,8b)の発光機能を停止させる。これにより一方の識別センサ2の発光素子8(発光部8a,8b)からのセンシング光L(近赤外光、可視光)は、対象物4を透過した後、他方の識別センサ2の受光素子10に受光される。なお、このような透過型の場合には、対象物4は光透過性を有するものに限定されることになる。
次に、本発明の第2の実施の形態に係る識別センサについて、添付図面を参照して説明する。なお、上述した第1の実施の形態では、走査方向S1に直交する方向のセンシング領域E1を幅広に確保したセンシング光Lを発光するように、発光素子8を幅広の矩形状に構成し、また、このようなセンシング光Lが発光された際に紙幣4の表面構成6から生じる光Rを受光するように、受光素子10の受光領域E2を走査方向S1に直交する方向に幅広に確保した。これに対して、本実施の形態では、後述するように市販の発光体(8a´,8b´)及び受光体10´をそのまま用いており、発光体(8a´,8b´)から放射状に発光した光を集光光学系(16a,16b)によって走査方向S1に直交する方向のセンシング領域E1を幅広に確保したセンシング光Lにし、紙幣4の表面構成6から生じる光Rを集光光学系(16c)によって受光体10´に向けて集光させている。
図3(a)〜(e)に示すように、本実施の形態の識別センサ2は、走査方向S1に直交する方向に幅広開口した光路用開口部14aを有するセンサユニット14を備えている。センサユニット14内には、所定の光を発光する発光体(例えば8a´,8b´)と、所定の光を受光する受光体10´と、センサユニット14と共に一体成形された集光光学系(例えば16a,16b,16c)とが設けられており、集光光学系(16a,16b,16c)は、発光体(8a´,8b´)から発光した光を光路用開口部14aに向けて集光すると共に、光路用開口部14aを通ってセンサユニット14内に入射した光を受光体10´に向けて集光するようになっている。
この場合、発光体(8a´,8b´)から発光した光は、集光光学系(16a,16b,16c)によって光路用開口部14aに集光した後、走査方向S1に直交する方向のセンシング領域(例えば図1(b)の符号E1で示すようなセンシング領域)が幅広に確保されたセンシング光(L1,L2)となって光路用開口部14aから対象物(紙幣)4の表面に集光する。このとき紙幣4の表面構成6(図1(a)参照)から生じる光(R1,R2)は、光路用開口部14aを通ってセンサユニット14内に入射した後、集光光学系(16a,16b,16c)によって受光体10´に向けて集光する。
本実施の形態において、発光体(8a´,8b´)から発光する所定の光とは、後述するような互いに異なる波長帯域のセンシング光(近赤外光L1、可視光L2)を想定している。また、受光体10´が受光する所定の光とは、紙幣4の表面構成から生じる光(R1,R2)を想定している。
この場合、紙幣4の表面構成から生じる光(R1,R2)とは、センシング光(L1,L2)が発光された際に紙幣4の表面から反射した反射光を想定しており、その反射光は、表面構成の形状や位置、或いは、表面構成の印刷に使用するインクの種類(例えば磁気インク)や濃淡に応じて異なる光学的特性(光強度の変化、散乱、波長変化など)を有する。
センサユニット14は、図面上では略矩形状を成しているが、走査に支障が無い形状であれば、これ以外の形状を成していても良い。このような形状のセンサユニット14には、その一部に光路用開口部14aが形成されており、光路用開口部14aを除いたセンサユニット14の表面には、遮光処理が施されている。
遮光処理の一例として、本実施の形態のセンサユニット14には、光路用開口部14aを除いた表面に遮光部18が形成(一体成形)されている。遮光部18には、例えば、外光(外乱光)を反射する反射鏡や偏光板を配置したり、外光がセンサユニット14内に入射しないような特性を有する黒色部材を配置する等の構成を施すことが可能である。なお、これ以外の構成であっても、外光がセンサユニット14内に入射しないような構成であれば、任意の遮光処理を適用することが可能である。
センサユニット14は、集光光学系(16a,16b,16c)と共に透明部材(例えば、透明樹脂等のプラスチック、透明ガラス等)によって一体成形されており、発光体(8a´,8b´)と受光体10´は、集光光学系(16a,16b,16c)に対向して設置されている。具体的には、センサユニット14には、その内部を一部くり抜いて形成した空洞部20が設けられており、発光体(8a´,8b´)と受光体10´は、この空洞部20に集光光学系(16a,16b,16c)に対向して設置されている。
本実施の形態において、発光体(8a´,8b´)は、互いに異なる波長帯域のセンシング光(近赤外光L1、可視光L2)を個別に発光する複数(本実施の形態では2つ)の発光部8a´,8b´から構成されている。例えば一方の発光部8a´からは近赤外光L1が発光し、他方の発光部8b´からは可視光L2が発光する。
このような構成を有する各発光部8a´,8b´としては、例えば発光ダイオード(LED)や半導体レーザ等の市販のものを適用することができるが、それ以外のものであっても、上述したような波長帯域を実現できれば特に種類は問わない。
なお、センシング光(近赤外光L1、可視光L2)の波長帯域の設定条件や発光タイミングは、上述した第1の実施の形態と同様であるため、その説明は省略する。
また、受光体10´としては、例えばフォトダイオード、フォトトランジスタやフォトサイリスタ等の市販のものを適用することができる。
また、集光光学系は、2つの発光部8a´,8b´と受光体10´に対向した側面(即ち、空洞部20側の表面)に形成された集光レンズ部16a,16b,16cから構成されている。これら各集光レンズ部16a,16b,16cは、共に走査方向S1に直交する方向(光路用開口部14aと並行する方向)に延出しており、その断面形状は、それぞれ対向する発光部8a´,8b´及び受光体10´に向かって凸状に湾曲している。例えば、集光レンズ部16aの曲率は、発光部8a´から発光した近赤外光L1が光路用開口部14aを通って紙幣4に集光するように設定され、一方、集光レンズ部16bの曲率は、発光部8b´から発光した可視光L2が光路用開口部14aを通って紙幣4に集光するように設定されている。
また、集光レンズ部16cの曲率は、光路用開口部14aを通って入射した光(紙幣4の表面構成から生じる光(R1,R2))が受光体10´に集光するように設定されている。具体的には、集光レンズ部16cは、走査方向S1に沿った方向においてフラットなレンズ面(図3参照)となっていると共に、走査方向S1に直交する方向において受光体10´に向かって凸状に湾曲したレンズ面(図4参照)となっている。これにより、光路用開口部14aを通って入射した幅広の光(紙幣4の表面構成から生じる光(R1,R2))は、集光レンズ部16cによって受光体10´に向けて集束され、受光体10´の受光面(図示しない)に集光する(図3(c),(e)、図4参照)。
上述したような識別センサ2によれば、各識別センサ2を走査方向S1に沿って紙幣4上を移動させながら同時に、発光部8a´,8b´から近赤外光L1と可視光L2を所定のタイミングで交互に発光させる。
この場合、まず発光部8a´から発光した近赤外光L1は、集光光学系(集光レンズ部)16aによって光路用開口部14aに集光し、更に光路用開口部14aを通過することによって、走査方向S1に直交する方向のセンシング領域(例えば図1(b)の符号E1で示すようなセンシング領域)が幅広に確保されたセンシング光L1となって紙幣4に集光する(図3(b)参照)。このとき紙幣4から反射した光(紙幣4の表面構成から生じる光R1)は、光路用開口部14aを通過した後、集光光学系(集光レンズ部)16cによって受光体10´に集光する(図3(c)参照)。受光体10´は、紙幣4の表面構成から生じる光R1を受光すると、その受光量に対応した電圧値(電流値)の電気信号即ち識別信号を演算判定部12(図1(a)参照)に出力する。
続いて、発光部8b´から発光した近赤外光L2は、集光光学系(集光レンズ部)16bによって光路用開口部14aに集光し、更に光路用開口部14aを通過することによって、走査方向S1に直交する方向のセンシング領域が幅広に確保されたセンシング光L2となって紙幣4に集光する(図3(d)参照)。このとき紙幣4から反射した光(紙幣4の表面構成から生じる光R2)は、光路用開口部14aを通過した後、集光光学系(集光レンズ部)16cによって受光体10´に集光する(図3(e)参照)。受光体10´は、紙幣4の表面構成から生じる光R2を受光すると、その受光量に対応した電圧値(電流値)の電気信号即ち識別信号を演算判定部12(図1(a)参照)に出力する。
演算判定部12では、受光体10´から出力された識別信号に所定の演算処理を施して、その識別信号が所定の許容範囲内にあるか否かが判定される。即ち、図2(a)に示すようなサンプルデータの最大ラインM1と最小ラインM2との間の領域にあるか否かが判定される。具体的には、受光体10´からの識別信号が最大ラインM1と最小ラインM2との間の領域(許容範囲)に沿ってプロットされていれば、その紙幣4は真正なものであると判定され、これに対して、受光体10´からの識別信号が最大ラインM1と最小ラインM2との間の領域(許容範囲)に沿ってプロットされていなければ、その紙幣4は贋物であると判定される。
なお、演算判定部12の他の構成作用は、上述した第1の実施の形態と同様であるため、その説明は省略する。
以上、第2の実施の形態の識別センサ2によれば、市販の安価な発光体(8a´,8b´)と受光体10´を用いて第1の実施の形態と同様のセンシング光(走査方向S1に直交する方向のセンシング領域を幅広に確保したセンシング光)を得ることができるため、センサ構成の簡略化と共に製造コストの大幅な削減を実現することができる。なお、その他の効果は、上記第1の実施の形態の効果と同様であるため、その説明は省略する。
なお、上述した実施の形態では、対象物として紙幣4を適用しているが、これに限定されることは無く、例えば図2(b)に示すように、微細な集積回路がパターン印刷された半導体基板を対象物4として適用することも可能である。この場合の表面構成は、パターン印刷された集積回路となる。このような構成によれば、集積回路の精度を判別することができるため、製品の歩留まりを向上させることが可能となる。
また、上述した実施の形態において、発光体は、互いに異なる波長帯域のセンシング光(近赤外光L1、可視光L2)を個別に発光する複数(本実施の形態では2つ)の発光部8a´,8b´から構成したが、これに限定されることは無く、例えば図5(a),(b)に示すように、互いに異なる波長帯域のセンシング光(近赤外光L1、可視光L2)を個別に発光(所定のタイミングで交互に発光)することが可能な単体の発光体8´としても良い。
この場合、発光体8´から互いに異なる波長帯域の複数のセンシング光を個別に発光させる方法としては、例えば発光体8´に印加する電圧値を切り換えることによって、発光体8´の発振波長を変化させる方法を適用することができる。
更に、図3〜図5に示す実施の形態では、反射光(R1,R2)を用いた識別センサ2の例を示したが、これに限定されることは無く、例えば図6(a),(b)に示すように、透過光を用いた識別センサ2とすることもできる。この場合、一対の識別センサ2を対象物4を挟んで対向配置させ、いずれか一方の識別センサ2の受光体10´の受光機能を停止させ、他方の識別センサ2の発光体8´(発光部8a´,8b´)の発光機能を停止させる。これにより一方の識別センサ2の発光体8´(発光部8a´,8b´)からのセンシング光(近赤外光、可視光)は、対象物4を透過した後、他方の識別センサ2の受光体10´に受光される。なお、このような透過型の場合には、対象物4は光透過性を有するものに限定されることになる。
また、図3〜図5に示す実施の形態において、集光レンズ部16cは、走査方向S1に沿った方向においてフラットなレンズ面(図3参照)となっているが、このレンズ面を走査方向S1に沿った方向において受光体10´に向かって凸状に湾曲させても良い。この場合、光路用開口部14aを通って入射した幅広の光(紙幣4の表面構成から生じる光(R1,R2))は、その全てが洩れなく集光レンズ部16cによって受光体10´に向けて集束され、受光体10´の受光面(図示しない)に集光する。
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2003年01月23日出願の日本特許出願(特願2003−014703)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、走査方向に直交する方向のセンシング領域を幅広に確保したセンシング光を適用したことによって、対象物の表面構成のズレや変形等に影響されること無く、対象物の真贋や精度等を正確に判別することができる。更に、互いに異なる波長帯域の複数のセンシング光を個別に発光してセンシングを行うようにしたことによって、高い識別力で対象物の表面構成を判別することができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の表面に沿って走査することによって、その対象物の表面構成を光学的にセンシングする識別センサであって、
センシング領域が走査方向に直交する方向に幅広となるセンシング光を前記対象物の表面に向けて発光する発光素子と、
前記センシング光が発光された際に前記対象物の表面構成から生じる光を受光する受光領域が前記走査方向に直交する方向に幅広となるよう設定された受光素子と、を備えていることを特徴とする識別センサ。
【請求項2】
前記発光素子と前記受光素子とは一体に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の識別センサ。
【請求項3】
前記発光素子は、互いに異なる波長帯域を有する複数のセンシング光を個別に発光し、
前記受光素子は、前記複数のセンシング光が個別に発光された際に前記対象物の表面構成から生じる光をそれぞれ独立して受光することを特徴とする請求項1に記載の識別センサ。
【請求項4】
前記受光素子は、前記複数のセンシング光が個別に発光された際に前記対象物の表面構成から生じる光を順次受光することを特徴とする請求項3に記載の識別センサ。
【請求項5】
前記発光素子は、互いに異なる波長帯域を有する複数のセンシング光を個別に発光する複数の発光部を有し、
前記受光素子は、前記複数の発光部から前記複数のセンシング光が個別に発光された際に前記対象物の表面構成から生じる光をそれぞれ独立して受光することを特徴とする請求項1に記載の識別センサ。
【請求項6】
前記受光素子は、前記複数の発光部から前記複数のセンシング光が個別に発光された際に前記対象物の表面構成から生じる光を順次受光することを特徴とする請求項5に記載の識別センサ。
【請求項7】
前記複数のセンシング光は、略700nmから1600nmの波長帯域に設定されたセンシング光と、略380nmから700nmの波長帯域に設定されてたセンシング光とを含むことを特徴とする請求項3又は5に記載の識別センサ。
【請求項8】
前記複数のセンシング光は、略800nmから1000nmの波長帯域に設定されたセンシング光と、略550nmから650nmの波長帯域に設定されたセンシング光とを含むことを特徴とする請求項3又は5に記載の識別センサ。
【請求項9】
前記複数のセンシング光は、略940nmの波長帯域に設定されたセンシング光と、略640nmの波長帯域に設定されたセンシング光とを含むことを特徴とする請求項3又は5に記載の識別センサ。
【請求項10】
前記対象物の表面構成から生じる光を受光した際に前記受光素子から出力される識別信号に演算処理を施して、前記識別信号が所定の許容範囲内にあるか否かを判定する演算判定部をさらに備えることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1に記載の識別センサ。
【請求項11】
対象物の表面に沿って走査することによって、その対象物の表面構成を光学的にセンシングする識別センサであって、
走査方向に直交する方向に幅広開口した光路用開口部を有するセンサユニットと、
前記センサユニット内に設置され、所定の光を発光する発光体と、
前記センサユニット内に設置され、所定の光を受光する受光体と、
前記発光体から発光した光を前記光路用開口部に向けて集光すると共に、前記光路用開口部を介して前記センサユニット内に入射した光を前記受光体に向けて集光する集光光学系とを備えており、
前記集光光学系は、前記発光体から発光された光を前記光路用開口部に集光させた後、センシング領域が走査方向に直交する方向に幅広となるセンシング光を前記光路用開口部から前記対象物の表面に集光すると共に、前記光路用開口部を通って前記センサユニット内に入射した前記対象物の表面構成から生じる光を前記受光体に向けて集光することを特徴とする識別センサ。
【請求項12】
前記集光光学系は、前記センサユニットに対して一体成形されていることを特徴とする請求項11に記載の識別センサ。
【請求項13】
前記発光体は、互いに異なる波長帯域を有する複数の光を個別に発光し、
前記受光体は、前記複数の光が個別に発光された際に前記対象物の表面構成から生じる光をそれぞれ独立して受光することがを特徴とする請求項11に記載の識別センサ。
【請求項14】
前記受光体は、前記複数の光が個別に発光された際に前記対象物の表面構成から生じる光を順次受光することを特徴とする請求項13に記載の識別センサ。
【請求項15】
前記発光体は、互いに異なる波長帯域を有する複数の光を個別に発光する複数の発光部を有し、
前記受光体は、前記複数の発光部から前記複数の光が個別に発光された際に前記対象物の表面構成から生じる光をそれぞれ独立して受光することを特徴とする請求項11に記載の識別センサ。
【請求項16】
前記受光体は、前記複数の発光部から前記複数の光が個別に発光された際に前記対象物の表面構成から生じる光を順次受光することを特徴とする請求項15に記載の識別センサ。
【請求項17】
前記複数の光は、略700nmから1600nmの波長帯域に設定された光と、略380nmから700nmの波長帯域に設定された光とを含むことを特徴とする請求項11又は13に記載の識別センサ。
【請求項18】
前記複数の光は、略800nmから1000nmの波長帯域に設定された光と、略550nmから650nmの波長帯域に設定された光とを含むことを特徴とする請求項11又は13に記載の識別センサ。
【請求項19】
前記複数の光は、略940nmの波長帯域に設定された光と、略640nmの波長帯域に設定された光とを含むことを特徴とする請求項11又は13に記載の識別センサ。
【請求項20】
前記対象物の表面構成から生じる光を受光した際に前記受光体から出力される識別信号に演算処理を施して、前記識別信号が所定の許容範囲内にあるか否かを判定する演算判定部をさらに備えることを特徴とする請求項11〜19のいずれか1に記載の識別センサ。
【請求項21】
前記センサユニットと前記集光光学系とは、透明材料により一体に成形されており、
前記発光体と前記受光体とは、前記集光光学系に対向して設置され、
前記光路用開口部を除いた前記センサユニットの表面には、遮光処理が施されていることを特徴とする請求項11〜20のいずれか1に記載の識別センサ。

【国際公開番号】WO2004/066207
【国際公開日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【発行日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−508103(P2005−508103)
【国際出願番号】PCT/JP2004/000487
【国際出願日】平成16年1月21日(2004.1.21)
【出願人】(598098526)アルゼ株式会社 (7,628)
【出願人】(391065769)株式会社セタ (89)
【Fターム(参考)】