説明

超音波洗浄装置及び超音波洗浄方法

【課題】被洗浄基板へのダメージの発生を抑えることができ、また、エレクトロニクス産業等で使用される高精密度の基板等に対して高清浄度の洗浄を行うことが可能な超音波洗浄装置及び超音波洗浄方法を提供すること。
【解決手段】被洗浄物を超音波振動子の振動面から延びた垂線の液面までの成す領域(超音波照射領域)外の洗浄液の液面下の近傍に位置するように保持して、超音波によって洗浄液の表面に表面張力波を励起させ、被洗浄物に超音波を直接照射することなしに、表面張力波による音圧によって被洗浄物の微粒子汚染物を剥離するようにして、被洗浄基板へのダメージの発生を抑える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波洗浄装置及び超音波洗浄方法に関し、特に、被洗浄物にダメージを与えることなく、高清浄度の洗浄が可能な超音波洗浄装置及び超音波洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロニクス産業における硝子基板やシリコンウェーハの基板洗浄においては、高い清浄度が要求される。このような基板等の被洗浄物を洗浄する方法としては、洗浄液中に複数枚の基板を浸漬するディップ方式や基板に洗浄液を噴射して一枚ずつ洗浄処理する枚葉方式があり、近年では高い清浄度の洗浄が可能であり、コスト的にも有利な枚葉方式が多く採用されている。ディップ方式、枚葉方式ともに洗浄液中に超音波振動を印加して、その振動作用によって被洗浄物から微粒子汚染物を除去する洗浄方式であり、超音波洗浄として実用化されている。
【0003】
例えば、ディップ方式の超音波洗浄では、洗浄液を満たした容器内に浸漬した基板等の被洗浄物に向けて超音波振動を印加する。超音波振動が液体中を伝搬する際に発生する微小な気泡(キャビテーション気泡)が超音波振動の正負のサイクル応じて振動し、その周囲に存在する微粒子汚染物を除去する。しかしながら、超音波振動の振幅が大きくなると、正のサイクルにおいて気泡が消滅し、その際に発生する衝撃波が被洗浄物にダメージを与える。特に100kHz以下の低周波超音波においては超音波振動の振幅が大きく、被洗浄物にダメージを与え易い。このため、エレクトロニクス産業における硝子基板やシリコンウェーハの洗浄においては、超音波振動の振幅の小さい400kHz以上の高周波の超音波が用いられている。
【0004】
また、特許文献1乃至特許文献4には、枚葉方式の超音波洗浄が開示されている。特許文献1の超音波洗浄は、超音波発振体を内蔵したヘッド内に洗浄液が導入され、ヘッドの出口側から洗浄液が被洗浄物側に供給されて洗浄液槽に落下し、また、被洗浄物は、洗浄液槽から垂直に上方に向かって引き上げられながら移動する。ヘッドによる洗浄液の供給及び超音波の印加により被洗浄物に弾性表面波または板波が励振され、被洗浄物の表面に接する洗浄液に流動力が生じ、その水流分布は表面近傍で大きな流速なる。このように、被洗浄物の上面に付着した微粒子汚染物を弾性表面波または板波によって剥離するものである。
【0005】
特許文献2は、上部が開口した容器内に供給された洗浄液に超音波振動を印加することで、洗浄液を水平面上から押し上げる。水平面上から押し上げられた洗浄液に基板等の被洗浄物の下面が接触する状態で被洗浄物を水平方向に移動する。同時に被洗浄物の上面から洗浄液を供給する。被洗浄物の下面から印加された超音波の一部が被洗浄物の上面へ透過し、被洗浄物の上面に付着した微粒子汚染物に作用して、洗浄処理を行うものである。
【0006】
特許文献3は、洗浄液を満たした容器内に浸漬した被洗浄物と同程度の放射面積を有する振動子を平行に配置し、被洗浄物の下面へ向けて超音波振動を印加するようにしたものである。このとき、超音波振動の一部は被洗浄物を透過し、被洗浄基板の上面に付着した微粒子汚染物に作用して被洗浄基板の両面を同時に洗浄するものである。これにより、被洗浄物の洗浄時間が短縮される。
【0007】
また、特許文献4には、図16に示す処理装置が開示されている。図16に示すように、室300の上部の両端に液面に対して傾斜するようにメガソニック変換器304を配し、基板Sを基板支持ノッチ302で垂直方向移動させるようにする。また、洗浄液を室300の底部より供給して、室300の上部のせきで洗浄液を落下させるようにする。基板Sを基板支持ノッチ302で垂直方向移動させながら、メガソニック変換器304のエネルギーEを直接照射するようにして、基板の洗浄を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−309548号公報
【特許文献2】特開平10−106998号公報
【特許文献3】国際公開WO00/21692号公報
【特許文献4】特表2005−512340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の複数枚の基板を同時に洗浄処理するディップ方式の超音波洗浄では、洗浄液が被洗浄物の表面に沿って流動するが、数ミクロン以下の殆ど流動しない層が界面に沿って存在する。このため、被洗浄物の表面に付着している汚染物が十分に除去されない問題点がある。超音波の印加は被洗浄物の表面近傍の洗浄液層を撹乱する手段として有効であるが、超音波振動の振幅の小さい1MHz程度の超音波では、十分な洗浄ができない問題点がある。
【0010】
更に、微細化が進んだ半導体デバイスでは、超音波振動の振幅の小さい1MHz程度の超音波であってもダメージの発生が報告されている。特許文献1乃至特許文献4に開示された従来の枚葉洗浄方法では、いずれも、微細パターンのない被洗浄物の裏面側へ直接超音波印加するようにして、被洗浄物自体を振動させて、基板表面の微細デバイスへも超音波エネルギーが伝搬される。このため、微細化が進んだ半導体デバイスでは、超音波振動の振幅の小さい1MHz程度の超音波であっても超音波振動の影響を受けて、ダメージが発生する恐れがある。
【0011】
そこで、本発明は、被洗浄物を超音波振動子の振動面から延びた垂線の液面までの成す領域(超音波照射領域)外の洗浄液の液面下の近傍に位置するように保持して、超音波によって洗浄液の表面に表面張力波を励起させ、被洗浄物に超音波を直接照射することなしに、表面張力波による音圧によって被洗浄物の微粒子汚染物を剥離するようにしたことにより、被洗浄基板へのダメージの発生を抑えることができ、また、エレクトロニクス産業等で使用される高精密度の基板等に対して高清浄度の洗浄を行うことが可能な超音波洗浄装置及び超音波洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目標達成のため、本発明の超音波洗浄装置は、洗浄液を貯留し、被洗浄物を浸漬した洗浄槽と、超音波振動を発する超音波振動子と、前記超音波振動子の超音波振動を前記洗浄液に付与する振動板と、前記超音波振動子を駆動する超音波発振器と、を有し、前記被洗浄物は、前記超音波振動子の振動面から延びた垂線の液面までの成す領域外に位置するように保持されて、被洗浄物の洗浄を行うことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の超音波洗浄装置における前記被洗浄物は、前記超音波振動子からの超音波の平面波が直接当たらない位置に保持されていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の超音波洗浄装置は、前記超音波振動子を駆動して前記振動板により前記洗浄槽の洗浄液の液面に向けて超音波を印加して、前記洗浄液の液面に表面張力波を発生させるようにしたことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の超音波洗浄装置は、前記洗浄液の液面における前記表面張力波によって被洗浄物の洗浄を行うことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の超音波洗浄装置は、前記表面張力波の伝搬方向と同一方向に、前記洗浄液が流動するように洗浄液を供給するようにしたことを特徴とする。
【0017】
また、本発明の超音波洗浄装置は、前記被洗浄物から前記洗浄液の液面までの距離は、10mm(ミリメートル)以下であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の超音波洗浄装置における前記被洗浄物は、前記洗浄槽の洗浄液の液面と平行となるように、前記洗浄液の液面の近傍に位置するように保持されていることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の超音波洗浄装置における前記超音波振動子及び前記振動板は、前記洗浄液の液面と平行を成すように設けられていることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の超音波洗浄装置における前記超音波振動子及び前記振動板は、洗浄液の液面に対して傾きを有するように設けられていることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の超音波洗浄装置は、前記振動板を前記洗浄槽の底部全面に配し、前記超音波振動子を駆動する前記超音波発振器は、発振回路、振幅変調回路及び周波数変調回路を備え、前記発振回路による400KHz以上の周波数を有する信号を、前記振幅変調回路及び前記周波数変調回路の少なくとも1つの変調回路によって変調した信号で前記超音波振動子を励振して、前記洗浄液中に超音波を照射して洗浄を行うことを特徴とする。
【0022】
また、本発明の超音波洗浄装置における前記超音波振動子は、平面視において、前記被洗浄物を囲むように単数又は複数配置されていることを特徴とする。
【0023】
また、本発明の超音波洗浄方法は、超音波振動により被洗浄物を洗浄する超音波洗浄方法であって、超音波振動を発する超音波振動子を有する超音波振動発生手段と、前記超音波振動発生手段が装着され、洗浄液を貯留し、被洗浄物を浸漬した洗浄槽とを備え、前記被洗浄物は、前記超音波振動発生手段の前記超音波振動子の振動面から延びた垂線の液面までの成す領域外に位置するように保持されて、被洗浄物の洗浄を行うことを特徴とする。
【0024】
また、本発明の超音波洗浄方法における前記被洗浄物は、前記超音波振動発生手段の前記超音波振動子からの超音波の平面波が直接当たらない位置に保持されていることを特徴とする。
【0025】
また、本発明の超音波洗浄方法は、前記超音波振動発生手段の前記超音波振動子を駆動して前記洗浄槽の洗浄液の液面に向けて超音波を印加して、前記洗浄液の液面に表面張力波を発生させるようにしたことを特徴とする。
【0026】
また、本発明の超音波洗浄方法は、前記洗浄液の液面における前記表面張力波によって被洗浄物の洗浄を行うことを特徴とする。
【0027】
また、本発明の超音波洗浄方法は、前記表面張力波の伝搬方向と同一方向に、前記洗浄液が流動するように洗浄液を供給するようにしたことを特徴とする。
【0028】
また、本発明の超音波洗浄方法における前記超音波振動子は、平面視において、前記被洗浄物を囲むように単数又は複数配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明は、被洗浄物は、超音波振動子の洗浄槽内の超音波照射領域外に位置するように保持して、被洗浄物に超音波を直接照射することなしに、洗浄を行うことにより、被洗浄基板へのダメージの発生を抑えることができる。
【0030】
また、被洗浄物の表面に近接する洗浄液表面に超音波を印加して表面張力波を励起させ、表面張力波による音圧により、被洗浄物から微粒子汚染物を剥離するようにしたことにより、高精密度の基板等に対して高清浄度の洗浄を行うことができる。
【0031】
また、表面張力波の伝搬方向と同一方向に、洗浄液が流動するように洗浄液を供給するようにしたことにより、被洗浄物から剥離した微粒子汚染物の再付着を防止することができる。
【0032】
また、被洗浄物は、洗浄槽の洗浄液の液面と平行となるように、前記洗浄液の液面の近傍に位置するように保持し、被洗浄物から前記洗浄液の液面までの距離を、10mm(ミリメートル)以下としたことにより、洗浄槽の深さが浅くてよいため、小量の洗浄液で洗浄が可能となる。
【0033】
また、本発明は、表面張力波が被洗浄物の表面に沿って被洗浄物の全域に伝搬するため、洗浄中に被洗浄物を移動させる移動手段が必要ないため、超音波洗浄装置を簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1実施形態に係る超音波洗浄装置の構成を示す図であり、(a)は、超音波洗浄装置の正面から見た一部拡大図を含む断面図であり、(b)は、超音波洗浄装置の構成を示す平面図である。
【図2】振動板の振動面から液面方向に距離20mmの位置における、音圧振幅レベルの分布を数値計算により求めた結果を示す図である。
【図3】超音波発振器の構成を示すブロック図である。
【図4】(a)は、振幅変調用信号の波形を示す図、(b)は、発振回路から出力される信号の波形を示す図、(c)は、発振回路から出力される信号を振幅変調用信号で振幅変調した高周波信号の波形を示す図である。
【図5】(a)は、周波数変調用信号の波形を示す図、(b)は、発振回路から出力される信号の波形を示す図、(c)は、発振回路から出力される信号を周波数変調用信号で周波数変調した高周波信号の波形を示す図である。
【図6】(a)は、発振回路から出力される信号を周波数変調用信号で周波数変調した高周波信号の波形を示す図、(b)は、(a)に示す周波数変調した高周波信号を振幅変調した高周波信号の波形を示す図である。
【図7】本発明の第1実施形態に係る他の超音波洗浄装置の構成を示す一部拡大図を含む断面図である。
【図8】振動板を底部全面に配置した超音波洗浄装置の構成を示す一部拡大図を含む断面図である。
【図9】(a)は、超音波洗浄装置における超音波音圧の測定箇所を示す図、(b)は、洗浄槽内の水平方向における超音波音圧における振動速度振幅の測定結果を示す図である。
【図10】(a)は、超音波洗浄装置における超音波音圧の測定箇所を示す図、(b)は、洗浄槽内の垂直方向における超音波音圧における振動速度振幅の測定結果を示す図である。
【図11】振動板の左右の両端に超音波振動子を配した超音波洗浄装置の構成を示す図である。
【図12】図11に示す超音波洗浄装置の超音波振動子を駆動する超音波発振器の構成を示すブロック図である。
【図13】(a)は、振動板の左側に位置する超音波振動子を駆動した場合の超音波の伝搬を示す図であり、(b)は、振動板の右側に位置する超音波振動子を駆動した場合の超音波の伝搬を示す図である。
【図14】洗浄前後の微粒子分布を示す図であり、(a)は、洗浄前の半導体ウェーハの微粒子の分布を示す図、(b)は、洗浄後の半導体ウェーハの微粒子の分布を示す図である。
【図15】本発明の第2実施形態に係る超音波洗浄装置の構成を示す断面図である。
【図16】特許文献4に開示された処理装置の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照して、本発明による超音波洗浄装置及び超音波洗浄方法を実施するための形態について説明する。
【0036】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る超音波洗浄装置の構成を示す図であり、図1(a)は、音波洗浄装置の正面から見た一部拡大図を含む断面図であり、図1(b)は、超音波洗浄装置の構成を示す平面図である。尚、図1に示す超音波洗浄装置は、シリコンウェーハを1枚ずつ処理する枚葉式のものである。図1(a)、(b)に示すように、超音波洗浄装置1は、洗浄液10を貯留する洗浄槽4と、洗浄槽4の側面に設けられた洗浄液供給口7(図1(a)に示す)と、洗浄液供給口7を有する洗浄槽4の側面と対向する側面に設けられた洗浄液排出口8(図1(a)に示す)と、洗浄槽4の洗浄液供給口7側の底部に設けられた振動板3と、振動板3の下面に設けられた超音波振動子2と、被洗浄物16を保持する保持部17(図1(a)に示す)とを有している。また、超音波振動子2に高周波電力を供給する超音波発振器40(図1(b)に示す)を有している。
【0037】
被洗浄物16として、例えばシリコンウェーハ等の半導体ウェーハを洗浄する際には、半導体ウェーハの裏面と洗浄槽4の底面とが平行となるように配置し、半導体ウェーハの表面が洗浄液10の液面側に位置するように保持部17に載置する。図1(b)に示すように、被洗浄物16としての半導体ウェーハが保持部17に載置された状態で、上面視において、半導体ウェーハは、振動板3上に位置しないように、保持されている。即ち、図1(a)に示すように、側面視において、振動板3と半導体ウェーハの先端部とが水平方向に離れた状態で保持するようにする。このため、洗浄槽4の内部の縦横の大きさは、図1(b)に示すように、被洗浄物16としての半導体ウェーハを浸漬するのに十分な長さを有し、且つ、振動板3の大きさを加えた長さを有している。また、洗浄槽4の深さは、例えば、20mm以上を有するようにする。
【0038】
洗浄槽4の底部に設けられた振動板3は、長方形の板状に形成されており、その縦の長さは、例えば半導体ウェーハの大きさ(直径)とほぼ同じであり、その横の長さは、40mmである。振動板3の表面(振動面)は洗浄槽4の洗浄液10に接している。また、振動板3の裏面には、接着により超音波振動子2が取り付けられている。振動板3の裏面の大きさと超音波振動子2の振動面の大きさは、ほぼ同一であり、超音波伝達部材としての振動板3と超音波振動子2とが一体に形成されている。尚、洗浄槽の大きさ及び振動板の大きさ等は、被洗浄物の大きさに基づいて決めるようにする。
【0039】
図1(a)に示す保持部17は、洗浄槽4の底部に設けられており、被洗浄物16としての半導体ウェーハを洗浄液10中で保持するものであり、開閉機構等により半導体ウェーハを保持するようになっている。図1(a)に示す洗浄槽4の側面に設けられた洗浄液供給口7は、矢印cの実線で示す新たな洗浄液10を洗浄槽4内に供給するためのものであり、外部に設けられた洗浄液用タンク(図示せず)等から洗浄液供給口7に洗浄液10が供給される。また、洗浄液排出口8は、洗浄液供給口7から供給された洗浄液10を回収するためのものであり、洗浄液排出口8から矢印dの実線で示す洗浄液10が外部に設けられた貯留タンク(図示せず)等に回収される。
【0040】
次に、上記構成から成る超音波洗浄装置1における、振動板3を介して超音波振動子2から発せられる超音波の照射領域について図2を用いて説明する。図2は、振動板の振動面から液面方向に距離20mmの位置における、音圧振幅レベルの分布を数値計算により求めた結果を示す図である。図2に示す横軸は、振動板3の幅方向における一方の端から他方の端までの間の距離を表す。尚、音圧振幅レベルの数値計算では、振動板3の幅を40mmとし、超音波振動子2から照射される超音波周波数を740kHzとした。図2に示すように、超音波周波数740kHzにおける音圧振幅レベルは、振動板3の中心から左右の長さ15mmで最大値となり、振動板3の端面に近づくにつれて低下していく。これにより、振動板3から照射される超音波は、液中で拡散することがなく、また、超音波が照射される範囲は、超音波振動子2の振動面に一体に形成された振動板3の振動面から延びた垂線の液面までの成す領域である。
【0041】
このように、超音波振動子2による超音波振動は、洗浄槽4の底部の振動板3を介して洗浄液10の液面に垂直方向(図1(a)に示す振動板からの矢印で示す。)に発せられる。このため、図1に示す実施形態における超音波洗浄装置1では、超音波振動子2による超音波の照射領域(超音波照射領域)は、洗浄槽4の底部における超音波振動子2の面積と振動板3から洗浄液10表面までの距離からなる直方体を形成する範囲内である。即ち、図1(a)に示す拡大図において、超音波照射領域は、超音波振動子2の振動面の端部から延びた液面までの点線で囲まれた領域である。尚、超音波振動子2による超音波の照射領域は、超音波振動子2の振動面の大きさ、形状及び超音波振動子2の取付角度(液面に対する超音波振動子2の振動面の成す角度)によって決まる。
【0042】
図1(a)に示す振動板3から照射された平面超音波は、洗浄液10表面で反射し、振動板3と洗浄液10表面との間に定在波音場を形成する。振動板3と洗浄液10表面との間に形成される定在波音場は、音圧の腹の位置でキャビテーション気泡が捕らえられ、成長するため、キャビテーション気泡の消滅と衝撃波が生じ易くなる。このため、被洗浄物としての半導体ウェーハが定在波音場内に位置している場合には、キャビテーション気泡の消滅による衝撃波を受けて、半導体ウェーハの微細パターンにダメージが生じ易くなる。更に、半導体ウェーハが直接的に超音波振動を受けて振動して、半導体ウェーハに板波が発生してしまい、半導体ウェーハの微細パターンにダメージが生じ易くなる。このように、平面超音波は定在波音場を形成し、衝撃波を伴うキャビテーション気泡の消滅を起こすため、本発明では、定在波音場の影響を排除すべく、被洗浄物が定在波音場内に位置しないようにする。
【0043】
一方で、振動板3から照射された平面超音波によって、洗浄液10の表面が自由端となって洗浄液10が上下に振動して表面張力波20(図1(a)の液面上の波で示す)が発生し、表面張力波20は洗浄液10の液面を伝搬し(図1の矢印a、bで示す)、進行波音場を形成する。尚、表面張力波とは、液体の表面張力を復元力として液体表面を伝搬する波をいう。表面張力波は、反射波が存在しないため、定在波音場は形成されない。
【0044】
本発明は、被洗浄物16が定在波音場内に位置しないように、超音波が直接照射されない洗浄液10の液面近傍の液中に保持するようにして、洗浄液10の表面に超音波を印加することで表面張力波20を励起させ、表面張力波20による音圧により、被洗浄物16から微粒子汚染物を剥離するものである。表面張力波は進行波音場を形成し、また、微粒子除去に有効なキャビテーション気泡を生成する。このため、従来のように、振動板3から照射された平面超音波より振動板3と洗浄液10表面との間に形成される定在波音場に、被洗浄物16が位置しないため、被洗浄物16としての半導体ウェーハ上に形成されている微細パターンがダメージを受けることがない。
【0045】
次に、超音波洗浄装置の底部に位置する超音波振動子を駆動する超音波発振器について図3乃至図6を用いて説明する。超音波振動子は、超音波発振器により高周波電力が印加されて、超音波振動を発生する。図3は、超音波発振器の構成を示すブロック図である。図3に示すように、超音波発振器40は、400kHz以上の周波数を有する信号を発振する発振回路41に加えて、発振回路41からの高周波信号を変調する振幅変調回路42および周波数変調回路43を内蔵している。更に、400kHz以上の単一周波数から成る高周波信号、又は変調された高周波信号のいずれかの信号を選択して出力する切換回路44と、切換回路44からの信号を増幅するパワーアンプ45を有している。高周波信号は、パワーアンプ45により電力増幅され、駆動信号として超音波振動子2に印加される。また、発振回路41の発振開始及び停止の制御、振幅変調回路42の入力信号の切り換え、切換回路44の制御を行う制御回路46を有している。尚、発振回路41は、400kHz以上の周波数を有する信号を発振することが可能であり、設定によって所定の周波数を有する信号を発振するように構成されている。
【0046】
上記構成からなる超音波発振器40は、400kHz以上の単一周波数から成る高周波信号以外に、振幅変調を行った高周波信号、周波数変調を行った高周波信号、周波数変調と振幅変調を併用した高周波信号のいずれかを選択することができるようになっている。超音波発振器40は、図1に示す超音波洗浄装置1の振動子2に、単一周波数から成る高周波信号又は変調した高周波信号のいずれかを電力増幅して印加するようにする。更に、超音波発振器40における振幅変調を行った高周波信号、周波数変調を行った高周波信号又は周波数変調と振幅変調を併用した高周波信号のいずれかの高周波信号を、後述する超音波洗浄機(図8に示す超音波洗浄機30)に用いるようにして、超音波発振器40からの変調した高周波信号によって超音波洗浄機30の振動板17(図8に示す)に板波を励起するようにする。
【0047】
最初に、高周波の信号の振幅変調について図4を用いて説明する。図4(a)は、振幅変調用信号の波形を示す図、図4(b)は、発振回路から出力される信号の波形を示す図、図4(c)は、発振回路から出力される信号を振幅変調用信号で振幅変調した高周波信号の波形を示す図である。振幅変調は、振幅変調用信号の振幅に応じて高周波の信号の強さ(振幅)を変えるものである。図3に示す超音波発振器40において、制御回路46は、発振回路41から出力される信号を振幅変調回路42に入力するように設定し、また、切換回路44を振幅変調回路42からの高周波信号を出力するように制御する。超音波発振器40は、振幅変調された高周波信号をパワーアンプ45で電力増幅して、超音波振動子2を励振する。
【0048】
図4(a)に示す振幅変調用信号の周波数をfaとすると、振幅変調用信号の周期は、1/fa(図4(a)に示す)であり、図4(b)に示す発振回路41から出力される信号の周波数をfcとすると、信号の周期は、1/fc(図4(b)に示す)である。図4(c)に示す振幅変調した高周波信号は、二つの周波数成分から成っている。すなわち、超音波振動子を駆動する高周波信号の周波数は、発振回路41から出力される信号の周波数fcと振幅変調用信号の周波数faの周波数成分を有している。
【0049】
次に、高周波信号の周波数変調について図5を用いて説明する。図5(a)は、周波数変調用信号の波形を示す図、図5(b)は、発振回路から出力される信号の波形を示す図、図5(c)は、発振回路から出力される信号を周波数変調用信号で周波数変調した高周波信号の波形を示す図である。図5(a)に示す周波数変調用信号の周期は、周波数変調用信号の周波数をfbとすると、1/fbであり、周期内で時間と共に出力レベルが増加し、その後減少する三角波となっている。周波数変調回路43は、周波数変調用信号のレベルの大きさに応じて発振回路から出力される信号の周波数を制御して出力するようになっている。発振回路41から出力される信号の周波数をfcとしたときに、周波数変調によって信号が変動する周波数変調幅を±fdとすると、図5(c)に示す周波数変調用信号で周波数変調した高周波信号は、周波数変調用信号のレベルの大きさが最大の時には、fc+fdの周波数からなり、周波数変調用信号のレベルの大きさが最小の時には、fc−fdの周波数からなる。また、周波数変調用信号のレベルの大きさが中間値の時には、fcの周波数である。
【0050】
次に、周波数変調と振幅変調を併用した変調について図6を用いて説明する。図6(a)は、発振回路から出力される信号を周波数変調用信号で周波数変調した高周波信号の波形を示す図、図6(b)は、図6(a)に示す周波数変調した高周波信号を振幅変調した高周波信号の波形を示す図である。図3に示す超音波発振器40において、制御回路46は、振幅変調回路42の入力信号を周波数変調回路43からの出力信号に切り換え、また、切換回路44を振幅変調回路42からの高周波信号を出力するように制御する。超音波発振器40は、周波数変調及び振幅変調された高周波信号をパワーアンプ45で電力増幅して、超音波振動子2を励振する。
【0051】
図6(a)に示すように、発振回路から出力される信号は、周波数変調回路43により周波数変調された高周波信号が出力される。尚、周波数変調回路43から出力される高周波信号は、図5(c)に示すものと同一である。周波数変調された高周波信号は、振幅変調回路42で振幅変調される。図6(b)に示すように、切換回路44から出力される高周波信号は、周波数変調した高周波信号が更に振幅変調されたものとなっている。これにより、周波数変調された高周波信号が、更に、振幅変調され、振幅変調された高周波信号を電力増幅して、超音波振動子2を励振することが可能となる。
【0052】
このように、超音波発振器40は、400kHz以上の単一周波数から成る高周波信号以外に、振幅変調を行った高周波信号、周波数変調を行った高周波信号、周波数変調と振幅変調を併用した高周波信号のいずれかを出力することができるようになっている。
【0053】
次に、図1に示す超音波洗浄装置1による被洗浄物の洗浄について説明する。図1に示すように、洗浄液10を満たした洗浄槽4内に被洗浄物16を浸漬し、保持部17によって被洗浄物16を洗浄液10表面に近接して平行に配置して保持する。洗浄槽4の底面に位置する振動板3に接着された超音波振動子2に、超音波発振器40から電力増幅した高周波信号を印加する。超音波発振器40の高周波信号の周波数は、400kHz以上であり、例えば、740kHzの単一周波数の高周波信号を使用する。超音波振動子2が励振されることにより、超音波振動子2から洗浄槽4内の洗浄液10に平面超音波が発生する。また、図1に示すように、新たな洗浄液10は洗浄液供給口7より洗浄槽4内に供給して、被洗浄物16表面を流れた後、洗浄液排出口8より排出するようにする。平面超音波は洗浄液10面へ向けて印加され、平面超音波の伝搬経路には、被洗浄物16が配置されていない。これにより、平面超音波は被洗浄物16に遮られることなく直接洗浄液10表面に到達し、洗浄液10表面には表面張力波が励振され、図1に示すように、振動板3の直上の液面から左右の2方向(矢印a、bで示す)に進行波として伝搬する。更に、表面張力波の伝搬方向(図1に示す矢印a)と洗浄液供給口7からの洗浄液10の供給方向を同一方向にすることで、微粒子汚染物が新たな洗浄液10によって流され、被洗浄物16表面への再付着が防止される。また、洗浄液10面と超音波振動子2とを可能な限り近接させることで、洗浄槽中の洗浄液10の量を減らすことができる。尚、超音波発振器40における単一周波数の高周波信号に代えて、振幅変調を行った高周波信号、周波数変調を行った高周波信号又は周波数変調と振幅変調を併用した高周波信号のいずれかの高周波信号を使用するようにしてもよい。変調した高周波信号によって、平面超音波の音圧に強弱が発生し、これにより励振される表面張力波の音圧にも強弱が生じて、洗浄効果を高めることができる。
【0054】
このように、本発明の超音波洗浄装置は、被洗浄物は、前記超音波振動子の前記洗浄槽内の超音波照射領域外に位置するように保持して、被洗浄物に超音波を直接照射することなしに、洗浄液の液面に超音波を印加して表面張力波を励起させ、表面張力波による音圧により、被洗浄物から微粒子汚染物を剥離するようにしたものであり、被洗浄基板へのダメージを抑えることができ、また、高清浄度の洗浄を行うことができる。
【0055】
次に、本発明の第1実施形態に係る他の超音波洗浄装置について図7を用いて説明する。
図7は、本発明の第1実施形態に係る他の超音波洗浄装置の構成を示す一部拡大図を含む断面図である。尚、図1と同一のものに関しては、同一の符号を用い、構成に関する詳細な説明は省略する。図1に示す超音波洗浄装置1は、振動板3及び超音波振動子2が洗浄液10の液面と平行となるように配されているが、図7に示す超音波洗浄装置1は、振動板3及び超音波振動子2を液面に対して傾けて配置したものである。
【0056】
図7に示すように、振動板3及び超音波振動子2を液面に対して傾けて配置したことにより、振動板3から液面に照射される超音波は、振動板3の表面から直角を成す方向に伝搬する。このため、超音波振動子2による超音波の照射領域(超音波照射領域)は、振動板3の振動面から直角に液面まで成す領域である。即ち、図7に示す拡大図において、超音波の照射領域は、超音波振動子2の振動面の端部から延びた液面までの点線で囲まれた領域である。図7に示す超音波洗浄装置1は、図1に示す超音波洗浄装置1と同様に、被洗浄物16が、超音波照射領域に位置しないようにする。これにより、被洗浄物16は、直接的に超音波振動を受けないため、被洗浄物16自体に板波が発生することがなく、被洗浄物16としての半導体ウェーの微細パターンがダメージを受けない。また、図7に示すように、振動板3及び超音波振動子2を液面に対して傾けて配置したことにより、表面張力波の伝搬方向が矢印eで示す一方向であり、表面張力波が全周に伝搬することがないため、効率よく表面張力波を発生することができる。このように、図7に示す超音波の入射角度θを、超音波振動子からの平面超音波が直接被洗浄物に当たらない角度に設定することで、表面張力波の伝搬方向を一方向に限定することができ、超音波エネルギーを有効に利用することができる。
【0057】
次に、超音波洗浄装置の底部の振動板を底部全面に配置して、被洗浄物の裏面に洗浄液の流れを形成する超音波洗浄装置について図8を用いて説明する。図8は、振動板を底部全面に配置した超音波洗浄装置の構成を示す一部拡大図を含む断面図である。尚、図1と同一のものに関しては、同一の符号を用い、構成に関する詳細な説明は省略する。図8に示すように、超音波洗浄装置30は、洗浄液10を貯留する洗浄槽4と、洗浄槽4の側面に設けられた洗浄液供給口7と、洗浄液供給口7を有する洗浄槽4の側面と対向する側面に設けられた洗浄液排出口8と、洗浄槽4の洗浄液供給口7側の底部に設けられた振動板31と、振動板31の下面に設けられた超音波振動子2と、被洗浄物16を保持する保持部17とを有している。振動板31は、底部全面に配置されており、振動板31の背面に位置する超音波振動子2は、洗浄槽4の洗浄液供給口7側の底部に設けられている。これにより、図1に示す超音波洗浄装置1とは、洗浄槽4の底部に設けられた振動板3の大きさが異なっている。尚、図8に示す超音波振動子2は、図1に示す超音波振動子2と同一形状、大きさであり、洗浄槽4における取付位置も同一である。また、超音波振動子2による超音波の照射領域(超音波照射領域)は、超音波振動子2の振動面31から延びた垂線の液面までの成す領域である。即ち、図8に示す拡大図において、超音波照射領域は、超音波振動子2の振動面の端部から延びた液面までの点線で囲まれた領域である。
【0058】
図8に示す超音波洗浄装置30において、洗浄槽4の底部全面に配置した振動板31に設けられた超音波振動子2を、図3に示す超音波発振器40により変調を行った高周波信号で駆動する。即ち、超音波発振器40において、振幅変調を行った高周波信号、周波数変調を行った高周波信号、周波数変調と振幅変調を併用した高周波信号のいずれかを出力するようにする。尚、変調を行った高周波信号の高周波信号成分は、超音波振動子2の振動面31から延びた垂線の液面までの成す領域に超音波を照射するように作用し、一方、変調を行った高周波信号の低周波成分(振幅変調用信号の周波数、周波数変調用信号の周波数)は、振動面31に板波を励起するように作用する。
【0059】
超音波振動子2を変調を行った高周波信号で駆動することにより、被洗浄物16表面および裏面への微粒子汚染物の再付着を防止することができる。即ち、超音波振動子2を被洗浄基板と同程度の面積を有する振動板31の端部に配置して、例えば、740kHzの高周波信号を、740kHzの高周波信号よりも十分に低い周波数、例えば、2kHzの振幅変調用信号で振幅変調を行うことにより、振幅変調用信号の周波数と同一の周波数で振動板31に板波22が励起され、図8に示す進行波(図8の振動板上に示す波の形)として伝搬する。このとき、振動板31の表面に接する洗浄液10に流動力が生じる。板波22による進行波の伝搬方向(図8に示す矢印f)と洗浄液10の供給方向を同じにすることで、微粒子汚染物が新たな洗浄液10によって流され、被洗浄物16の表面のみでなく、裏面への再付着も防止される。
【0060】
図8に示す超音波洗浄装置30のように、被洗浄物である半導体ウェーハの裏面を全面カバーするように振動板31を設けることにより、半導体ウェーハに接する洗浄液10全体に流動力を与えることができる。これにより、被洗浄物である半導体ウェーハから剥離した微粒子汚染物の再付着を防止することができ、洗浄処理の効率化が図られる。
【0061】
尚、図8に示す超音波洗浄装置30においても、図1に示す超音波洗浄装置1と同様に、被洗浄物16は、超音波振動子2の洗浄槽4内の超音波照射領域外に位置するように保持されているため、被洗浄物16に超音波を直接照射されることがないので、被洗浄基板へのダメージの発生を抑えることができる。
【0062】
次に、超音波洗浄装置における表面張力波の超音波音圧の測定について説明する。尚、表面張力波の超音波音圧の測定は、レーザードップラ振動速度計(LDV)を用いて、洗浄槽内の水平方向および垂直方向に対して行ったものである。図9(a)は、超音波洗浄装置における超音波音圧の測定箇所を示す図、図9(b)は、洗浄槽内の水平方向における超音波音圧における振動速度振幅の測定結果を示す図である。図9(a)に示すように、超音波洗浄装置30の洗浄槽4内における水平方向の測定は、振動素子の端部の位置を0mmとし、洗浄液10面近傍において水平方向に図9(a)に示す水平移動距離wを変化させて240mmまでの範囲で行ったものである。図9(b)に示す測定結果より、洗浄液10表面近傍では、水平距離240mmまでの範囲で振動速度振幅値が0.15m/s以上であり、これにより表面張力波による超音波音圧が存在し、被洗浄物16の大きさが200mm程度の範囲まで十分に伝搬することがわかる。
【0063】
次に、洗浄槽内の垂直方向における超音波音圧の測定について図10を用いて説明する。図10(a)は、超音波洗浄装置における超音波音圧の測定箇所を示す図、図10(b)は、洗浄槽内の垂直方向における超音波音圧における振動速度振幅の測定結果を示す図である。図10(a)に示すように、超音波洗浄装置30の洗浄槽4内の垂直方向における超音波音圧の測定では、振動板表面の位置を0mmとして、垂直方向に図10(a)に示す水平方向へ水平距離Lが70mmの位置において、垂直移動距離dを変化させて液面までの20mmの範囲で行った。図10(b)は、垂直方向における超音波音圧の振動速度振幅の測定結果を示す図である。図10(b)に示すように、振動板31の表面から液面表面へ向けて超音波音圧の振動速度振幅は上昇し、液面から10mm程度の範囲において振動速度振幅は、ほぼ一定値となる。これにより、表面張力波による超音波音圧は液面より少なくとも20mm程度の範囲に存在し、この範囲内に被洗浄物を配置することで高い洗浄効果が得られる。
【0064】
また、本発明の超音波洗浄装置は、振動板の左右の両端に超音波振動子を設けるようにして、半導体ウェーハ等の基板の大型化にも対応可能となっている。以下に、図11乃至図13を用いて大型の半導体ウェーハ等の洗浄が可能な超音波洗浄装置について説明する。
【0065】
図9(b)に示すように、振動速度振幅の測定結果より、超音波振動子の端面から基板等の被洗浄物が存在する200mm程度の範囲まで微粒子除去に十分な振動速度振幅が得られた。しかしながら、振動速度振幅は水平方向距離が長くなるに従って、緩やかに減少している。そのため、直径450mmウェーハ基板など、より大きな半導体ウェーハ等の基板に対しては微粒子除去に十分な振動速度振幅が得られない可能性がある。そこで、振動板の左右の両端に超音波振動子を設けるようにして、サイズの大きな基板に対しても十分な洗浄が行えるようにする。
【0066】
図11は、振動板の左右の両端に超音波振動子を配した超音波洗浄装置の構成を示す図である。尚、図8と同一のものに関しては、同一の符号を用い、構成に関する詳細な説明は省略する。図11に示すように、超音波洗浄装置31における振動板31の左右の両端には、超音波振動子2L、2Rが設けられている。また、洗浄槽4は、直径450mm半導体ウェーハなどの大口径基板を洗浄することができる大きさを有している。また、洗浄槽4の一方の側面に洗浄液供給口7が設けられており、洗浄槽4の他方の側面に洗浄液排出口8が設けられている。尚、振動板31の左端に位置する超音波振動子2Lが、駆動される際には、洗浄槽4の左側面が洗浄液供給口7となり、洗浄槽4の右側面が洗浄液排出口8となる。また、振動板31の右端に位置する超音波振動子2Rが、駆動される際には、洗浄槽4の右側面が洗浄液供給口7となり、洗浄槽4の左側面が洗浄液排出口8となる。
【0067】
図12は、図11に示す超音波洗浄装置の超音波振動子を駆動する超音波発振器の構成を示すブロック図である。尚、図3の超音波発振器と同一のものに関しては、同一の符号を用い、構成に関する詳細な説明は省略する。図12に示すように、超音波発振器50は、パワーアンプ45の出力を入力とし、2系統の出力を有する選択回路51を設けるようにする。選択回路から2系統の一方の出力に振動板31の左端の超音波振動子2Lを接続し、選択回路の他方の出力に振動板31の右端の超音波振動子2Rを接続するようにする。制御回路46は、選択回路51を制御するようにして、選択回路51の2系統の出力の一方をパワーアンプ45からの高周波電力を超音波振動子に供給するようになっている。
【0068】
図13(a)は、振動板の左側に位置する超音波振動子を駆動した場合の超音波の伝搬を示す図である。超音波発振器50で振動板31の左側に位置する超音波振動子2Lを駆動することにより、図13(a)に示すように、超音波洗浄装置31で発生する表面張力波20および板波22は、矢印で示す左から右方向へ伝搬する。このとき、洗浄槽4の左側面が洗浄液供給口7とし、洗浄槽4の右側面が洗浄液排出口8となるようにして、洗浄液10の流れを表面張力波20および板波22の伝搬方向と同一にすることで、微粒子の再付着を防止することができる。
【0069】
図13(b)は、振動板の右側に位置する超音波振動子を駆動した場合の超音波の伝搬を示す図である。超音波発振器50で振動板31の右側に位置する超音波振動子2Rを駆動することにより、図13(b)に示すように、超音波洗浄装置31で発生する表面張力波20および板波22は、矢印で示す左から左方向へ伝搬する。このとき、洗浄槽4の右側面が洗浄液供給口7とし、洗浄槽4の左側面が洗浄液排出口8となるようにして、洗浄液10の流れを表面張力波20および板波22の伝搬方向と同一にすることで、微粒子の再付着を防止することができる。
【0070】
このように、超音波発振器によって超音波振動子の駆動を左右交互に切り替えることで、振動速度振幅の減少をお互いに補うことができる。また、洗浄液の流れも同様に左右交互に切り替えることで、微粒子の再付着防止が図れる。これにより、大型基板等に対しても十分な微粒子の除去洗浄を行うことができる。
【0071】
図11に示す超音波洗浄装置は、振動板の左右の両端に超音波振動子を配した構成となっているが、超音波振動子を振動板の左右の両端に配した構成のみならず、例えば、リング状の形状を成す超音波振動子を配した構成、超音波振動子を振動板の前後左右の端に配した構成、U字形状を成す超音波振動子を配した構成にすることもできる。このように、超音波振動子は、平面視において、前記被洗浄物を囲むように単数又は複数配置することも可能である。尚、これらの超音波振動子に於いても、被洗浄物は、超音波振動子の振動面から延びた垂線の液面までの成す領域外に位置するように保持されるようにする。
【0072】
次に、図8で示した超音波洗浄装置において、超音波により発生する表面張力波による超音波洗浄の有効性を確認すべく、洗浄処理を行った結果について説明する。超音波洗浄では、被洗浄物16として直径200mmのシリコンからなる半導体ウェーハを使用し、洗浄液10として純水を使用した。超音波振動子2は幅40mmで長さ160mmのセラミック製平面板であり、周波数740kHzで150Wの超音波を出力する。また、超音波発振器の設定は、周波数変調と振幅変調を併用した高周波信号を選択し、周波数変調幅は±5kHz、振幅変調周波数は2kHz、高周波信号の周波数は740kHz±5kHzである。純水の流量は3l(リットル)/minとした。
【0073】
最初に、洗浄前の半導体ウェーハの表面に汚染物質として微粒子状の窒化珪素(Si3N4)を塗布する。微粒子の大きさは直径0.12μm以上であり、微粒子数は、25、000個程度である。汚染物質の塗布後の半導体ウェーハは、図14(a)に示すように、微粒子が黒点で示される。この状態の半導体ウェーハを超音波洗浄装置30の保持部17にセットして、超音波発振器40により超音波振動子2を励振して、30秒の超音波洗浄を行う。超音波洗浄後、半導体ウェーハ上に残留した微粒子を計数する。
【0074】
図14は、洗浄前後の微粒子分布を示す図であり、図14(a)は、洗浄前の半導体ウェーハの微粒子の分布を示す図、図14(b)は、30秒の超音波洗浄を行った洗浄後の半導体ウェーハの微粒子の分布を示す図である。尚、微粒子は黒点で示されている。超音波洗浄後の微粒子の計数結果から、92%の微粒子が除去されていた。
【0075】
以上の結果から、洗浄前に半導体ウェーハ上に塗布した微粒子の90%以上が除去されており、これにより、本発明による表面張力波を用いた超音波洗浄装置及び超音波洗浄方法の有効性を確認した。
【0076】
[第2実施形態]
次に、被洗浄物を移動しながら洗浄を行う第2実施形態に係る超音波洗浄装置について述べる。図15は、本発明の第2実施形態に係る超音波洗浄装置の構成を示す断面図である。図1及び図3に示す超音波洗浄装置1は、洗浄槽4に浸漬して被洗浄物16を固定して洗浄を行うが、図15に示す超音波洗浄装置33は、被洗浄物16を移動させながら洗浄を行うものである。尚、図1と同一のものに関しては、同一の符号を用い、構成に関する詳細な説明は省略する。
【0077】
図15に示すように、超音波洗浄装置33は、洗浄液10を貯留する洗浄槽36と、洗浄槽4の下部に設けられた被洗浄物16を収納する収納部34と、収納部34の底部に設けられた洗浄液供給口37と、高温の窒素ガスを噴出するノズル35を有している。図15に示すように、洗浄槽36の底部は、略V字形状を成し、底部の中心は、収納部34と一体に形成されている。洗浄槽36の左右に位置する底部は、底部の中心に向かって傾斜を成し、傾斜した両面には振動板3が設けられている。振動板3の背面には超音波振動子2が接着により取り付けられている。これにより、超音波振動子2及び振動板から照射される超音波は、液面に対して入射角度を有している。超音波振動子2を駆動することにより、振動板3から液面に超音波が放射され、液面で表面張力波が発生する。図15に示す超音波の入射角度θは、超音波振動子からの平面超音波が直接被洗浄物に当たらない角度に設定することで、表面張力波の伝搬方向を一方向、即ち、被洗浄物16が位置する方向に伝搬させることができるため、表面張力波を効果的に活用することができる。
【0078】
図15に示す超音波洗浄装置は、超音波振動子からの平面超音波は全て液面に照射され、被洗浄物は、超音波振動子の表面から延びた垂線の液面までの成す領域外に位置するように保持される。このため、液面の表面張力波のみが被洗浄物の表面に作用する。
【0079】
尚、図16に示す処理装置の構成においても、室300の上部の両端に液面に対して傾斜するようにメガソニック変換器304が配されている。しかしながら、図16に示す処理装置では、メガソニック変換器304から照射されるエネルギー(超音波エネルギー)が液中で直接被洗浄物に接触し、平面超音波によって洗浄が行われるものである。このため、本発明の超音波洗浄装置と図16に示す処理装置とは、その構成及び作用が異なるものである。
【0080】
図15に示す超音波洗浄装置33において、被洗浄物16である半導体ウェーハは、図示しない搬送装置によって収納部34及び洗浄槽36に浸静し、超音波を印加しながら搬送装置により徐々に引き上げられる。また、引き上げと同時にノズル35より高温の窒素ガスを半導体ウェーハの面に供給し、液切り乾燥する。これにより、収納部34の洗浄液供給口37から供給される洗浄液10は、洗浄槽36の上部の縁からオーバーフローして外部に流れる。
【0081】
このように、図15に示す超音波洗浄装置33は、洗浄槽36の下部に設けられた収納部34により被洗浄物を垂直に収納するため、設置スペースが少なくて済む。また、被洗浄物16を移動しながら洗浄するため、被洗浄物16の大きさに影響されないため、大型の半導体ウェーハに対しても洗浄することができる。
【0082】
以上述べたように本発明によれば、被洗浄物は、前記超音波振動子の前記洗浄槽内の超音波照射領域外に位置するように保持して、被洗浄物に超音波を直接照射することなしに、洗浄を行うことにより、被洗浄基板へのダメージを抑えることができる。
【0083】
また、被洗浄物の表面に近接する洗浄液表面に超音波を印加して表面張力波を励起させ、表面張力波による音圧により、被洗浄物から微粒子汚染物を剥離するようにしたことにより、高精密度の基板等に対して高清浄度の洗浄を行うことができる。
【0084】
また、表面張力波の伝搬方向と同一方向に洗浄液を供給するようにしたことにより、被洗浄物から剥離した微粒子の再付着を防止することができる。
【0085】
また、被洗浄物は、洗浄槽の洗浄液の液面と平行となるように、前記洗浄液の液面の近傍に位置するように保持し、被洗浄物から前記洗浄液の液面までの距離を、10mm(ミリメートル)以下としたことにより、洗浄槽の深さが浅くてよいため、小量の洗浄液で洗浄が可能である。
【0086】
また、本発明は、表面張力波が被洗浄物の表面に沿って被洗浄物の全域に伝搬するため、洗浄中に被洗浄物を移動させる移動手段が必要ないため、超音波洗浄装置を簡素化することができる。
【0087】
この発明は、その本質的特性から逸脱することなく数多くの形式のものとして具体化することができる。よって、上述した実施形態は専ら説明上のものであり、本発明を制限するものではないことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0088】
1、30、31、33 超音波洗浄装置
2、2L、2R 超音波振動子
3、31 振動板
4、36 洗浄槽
7、37 洗浄液供給口
8 洗浄液排出口
10 洗浄液
16 被洗浄物(半導体ウェーハ)
17 保持部
20 表面張力波
22 板波
34 収納部
35 ノズル
40、50 超音波発振器
41 発振回路
42 振幅変調回路
43 周波数変調回路
44 切換回路
45 パワーアンプ
46 制御回路
51 選択回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄液を貯留し、被洗浄物を浸漬した洗浄槽と、超音波振動を発する超音波振動子と、前記超音波振動子の超音波振動を前記洗浄液に付与する振動板と、前記超音波振動子を駆動する超音波発振器と、を有し、
前記被洗浄物は、前記超音波振動子の振動面から延びた垂線の液面までの成す領域外に位置するように保持されて、被洗浄物の洗浄を行うことを特徴とする超音波洗浄装置。
【請求項2】
前記被洗浄物は、前記超音波振動子からの超音波の平面波が直接当たらない位置に保持されていることを特徴とする請求項1に記載の超音波洗浄装置。
【請求項3】
前記超音波振動子を駆動して前記振動板により前記洗浄槽の洗浄液の液面に向けて超音波を印加して、前記洗浄液の液面に表面張力波を発生させるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の超音波洗浄装置。
【請求項4】
前記洗浄液の液面における前記表面張力波によって被洗浄物の洗浄を行うことを特徴とする請求項3に記載の超音波洗浄装置。
【請求項5】
前記表面張力波の伝搬方向と同一方向に、前記洗浄液が流動するように洗浄液を供給するようにしたことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の超音波洗浄装置。
【請求項6】
前記被洗浄物から前記洗浄液の液面までの距離は、10mm(ミリメートル)以下であることを特徴とする請求項1に記載の超音波洗浄装置。
【請求項7】
前記被洗浄物は、前記洗浄槽の洗浄液の液面と平行となるように、前記洗浄液の液面の近傍に位置するように保持されていることを特徴とする請求項1に記載の超音波洗浄装置。
【請求項8】
前記超音波振動子及び前記振動板は、前記洗浄液の液面と平行を成すように設けられていることを特徴とする請求項1に記載の超音波洗浄装置。
【請求項9】
前記超音波振動子及び前記振動板は、洗浄液の液面に対して傾きを有するように設けられていることを特徴とする請求項1に記載の超音波洗浄装置。
【請求項10】
前記振動板を前記洗浄槽の底部全面に配し、前記超音波振動子を駆動する前記超音波発振器は、発振回路、振幅変調回路及び周波数変調回路を備え、前記発振回路による400KHz以上の周波数を有する信号を、前記振幅変調回路及び前記周波数変調回路の少なくとも1つの変調回路によって変調した信号で前記超音波振動子を励振して、前記洗浄液中に超音波を照射して洗浄を行うことを特徴とする請求項1に記載の超音波洗浄装置。
【請求項11】
前記超音波振動子は、平面視において、前記被洗浄物を囲むように単数又は複数配置されていることを特徴とする請求項1に記載の超音波洗浄装置。
【請求項12】
超音波振動により被洗物を洗浄する超音波洗浄方法であって、
超音波振動を発する超音波振動子を有する超音波振動発生手段と、前記超音波振動発生手段が装着され、洗浄液を貯留し、被洗浄物を浸漬した洗浄槽とを備え、
前記被洗浄物は、前記超音波振動発生手段の前記超音波振動子の振動面から延びた垂線の液面までの成す領域外に位置するように保持されて、被洗浄物の洗浄を行うことを特徴とする超音波洗浄方法。
【請求項13】
前記被洗浄物は、前記超音波振動発生手段の前記超音波振動子からの超音波の平面波が直接当たらない位置に保持されていることを特徴とする請求項12に記載の超音波洗浄方法。
【請求項14】
前記超音波振動発生手段の前記超音波振動子を駆動して前記洗浄槽の洗浄液の液面に向けて超音波を印加して、前記洗浄液の液面に表面張力波を発生させるようにしたことを特徴とする請求項12に記載の超音波洗浄方法。
【請求項15】
前記洗浄液の液面における前記表面張力波によって被洗浄物の洗浄を行うことを特徴とする請求項14に記載の超音波洗浄方法。
【請求項16】
前記表面張力波の伝搬方向と同一方向に、前記洗浄液が流動するように洗浄液を供給するようにしたことを特徴とする請求項14又は請求項15に記載の超音波洗浄方法。
【請求項17】
前記超音波振動子は、平面視において、前記被洗浄物を囲むように単数又は複数配置されていることを特徴とする請求項12に記載の超音波洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−21160(P2013−21160A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153803(P2011−153803)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000124959)株式会社カイジョー (83)
【Fターム(参考)】