説明

車両の制御装置及び車両の制御方法

【課題】車両に搭載されるバッテリの負荷の低減を図りつつ、車両の安全性を確保した状態でエンジンを再始動させることができる車両の制御装置及び車両の制御方法を提供する。
【解決手段】ブレーキ用ECUは、エンジンの再始動の許可後(第2のタイミングt2)においてエンジンの始動不調を検知した場合に、エンジンの再始動を禁止すると共に、車輪に対する制動力を増大させる制御を開始する(第4のタイミングt4)。その後、ブレーキ用ECUは、車両が停車した場合に、車輪に対する制動力を保持させる制御を開始すると共に、エンジンの再始動を許可する(第5のタイミングt5)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のエンジンの停止条件が成立した場合に該エンジンの自動的な停止を許可すると共に、エンジンの再始動条件が成立した場合に該エンジンの再始動を許可する車両の制御装置及び車両の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の燃費向上などを目的として、車両の停止中又は停止直前にエンジンを自動的に停止させると共に、運転者による発進操作を契機にエンジンを自動的に再始動させる所謂アイドルストップ機能を有する車両の制御装置の開発が進められている。例えば、特許文献1に記載の車両の制御装置では、エンジンが自動的に停止された状態で、運転手による制動操作を助勢するためのブースタ内の負圧が所定の閾値未満になるような制動操作が行われたことを検知した場合に、エンジンの再始動を許可している。なお、ブースタは、エンジンの駆動時に負圧が発生するインテークマニホールドに接続されている。そして、ブースタは、インテークマニホールド内に発生する負圧と大気圧との圧力差を利用し、運転手によるブレーキペダルの操作力を倍力している。
【0003】
ところで、車両に搭載されるバッテリの蓄電量が少ない場合、及びエンジンを始動させる際に作動するスタータモータが不調である場合などには、エンジンの再始動が完了するまでに時間を要したり、エンジンを再始動させることができなかったりすることがある。このような状態を、「エンジンの始動不調状態」ともいう。
【0004】
エンジンが始動不調状態である場合、運転手は、ブレーキペダルの踏込み動作・解放動作を繰り返し行い、エンジンの再始動を促すことがある。すると、ブレーキペダルの踏込み動作・解放動作の繰り返しによってブースタ内の負圧が低下し、該ブースタ内の負圧不足に起因して車輪に対する制動力が減少する。その結果、車両が坂路上に位置する場合には、運転手の意図に反して車両が移動し始めることがある。
【0005】
また、車両の減速中にエンジンを自動的に停止させる場合には、エンジン停止後における車体減速度の調整を目的とした運転手によるブレーキペダルの操作量の調整によって、ブースタ内の負圧が低下することがある。この場合、車両の停車直前でブースタ内の負圧が低下していることがある。そのため、車両が坂路上に位置する場合には、ブースタ内の負圧不足に起因した車輪に対する制動力不足によって、運転手の意図に反して車両を停車させることができないおそれがある。
【0006】
そこで、特許文献1に記載の制御装置では、エンジンの始動不調状態を検知した場合には、ブレーキアクチュエータのポンプを作動させて車輪に対する制動力を増大させる。その結果、運転手の意図に反した車両の移動が抑制される。そして、このように車両の安全性が確保された状態で、エンジンを再始動させるための制御が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−13768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1に記載の車両の制御装置では、エンジンの始動不調状態を検知した場合、車輪に対する制動力を増大させる間でも、エンジンの再始動を許可している。そのため、車輪に対する制動力を増大させるための制動制御と、エンジンを再始動させるための制御とが時間的に重複する可能性がある。この場合、バッテリからは、車輪に対する制動力を増大させるために作動するブレーキアクチュエータのポンプと、エンジンを始動させるために作動するスタータモータとに電力が供給されることになり、バッテリの負荷が増大するおそれがあった。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものである。その目的は、車両に搭載されるバッテリの負荷の低減を図りつつ、車両の安全性を確保した状態でエンジンを再始動させることができる車両の制御装置及び車両の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の車両の制御装置は、車両のエンジン(12)の停止条件が成立した場合に該エンジン(12)の自動的な停止を許可すると共に、前記エンジン(12)の再始動条件が成立した場合に該エンジン(12)の再始動を許可する第1の制御手段(55、S12,S13)と、車両に設けられる車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力を調整する第2の制御手段(55)と、を備えた車両の制御装置において、前記第2の制御手段(55、S32,S33)は、前記エンジン(12)の再始動の許可後において該エンジン(12)の始動不調を検知した場合には、車両を停車させるべく前記車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力を増大させる第1の制動制御を行い、その後、前記車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力を保持させる第2の制動制御を行い、前記第1の制御手段(55、S12,S13,S31,S34)は、前記第1の制動制御の実行中には前記エンジン(12)の再始動を禁止し、前記第2の制動制御の実行中には前記エンジン(12)の再始動を許可することを要旨とする。
【0011】
上記構成によれば、エンジンの始動不調が検知された場合には、エンジンの再始動を禁止すると共に、車輪に対する制動力を増大させて車両を停車させる。その後、車輪に対する制動力が保持されるようになると、エンジンの再始動が許可される。すなわち、車輪に対する制動力を増大させるための制動制御と、エンジンを再始動させるための制御との時間的な重複が回避される。また、ブースタ内の負圧が低下した状態であっても、車両を停車させることができるような制動力が車輪に付与された状態で、エンジンの再始動が行われることになる。したがって、車両に搭載されるバッテリの負荷の低減を図りつつ、車両の安全性を確保した状態でエンジンを再始動させることができる。
【0012】
本発明の車両の制御装置において、前記第2の制御手段(55、S32,S33,S37)は、前記第2の制動制御の実行中において、車両に設けられるブレーキペダル(15)の操作量が減少されたこと、又は該ブレーキペダル(15)が非操作状態になったことを検知した場合に、前記車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力を減少させて車両の移動を許可する第3の制動制御を行うことが好ましい。
【0013】
ブレーキペダルの操作量が減少されたり、ブレーキペダルが操作されなくなったりする場合とは、惰性による車両の移動を運転手が許可した場合であると考えられる。そこで、本発明では、第2の制動制御によって車両の停車が維持された状態で、ブレーキペダルの操作量が減少されたこと又はブレーキペダルが操作されなくなったことを検知した場合には、車輪に対する制動力を減少させ、惰性による車両の移動が許可される。すると、例えば車両が坂路上に位置する場合には、車両が傾斜方向における下方側に移動する。すなわち、エンジンの始動不調状態であっても、車両の挙動を、運転手の意図に沿ったものとすることができる。
【0014】
本発明の車両の制御装置において、前記第3の制動制御は、車両の車体速度(VS)が、予め設定された許可基準値(VSth)未満となるように前記車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力を調整する制御であることが好ましい。
【0015】
エンジンの始動不調状態である場合には、ブースタ内の負圧が低下している可能性が高い。この場合、運転手によるブレーキペダルの操作によって車輪に十分に大きな制動力を付与できない。そこで、本発明では、第3の制動制御時には、車体速度が許可基準値未満となるように、車輪に対する制動力が調整される。そのため、車両の車体速度が高速になり過ぎることを抑制できる分、車両の安全性を確保した状態で、エンジンの再始動を行わせることができる。
【0016】
本発明の車両の制御装置において、前記第2の制御手段(55、S32,S33,S37)は、前記第3の制動制御の実行中において、前記ブレーキペダル(15)の操作量が増大されたことを検知した場合に、前記第1の制動制御を行うことが好ましい。
【0017】
上記構成によれば、第3の制動制御中であっても、ブレーキペダルの操作量が増大されたことが検知された場合には、車輪に対する制動力を増大させて車両を停車させる。これは、ブレーキペダルの操作量が増大されたということは、車両を停車させる意志が運転手にあると判断されるためである。しかも、車輪に対する制動力を増大させるべく第1の制動制御が実行される間は、エンジンの再始動が禁止される。したがって、車両に搭載されるバッテリの負荷の低減を図りつつ、運転手の意図に沿って車両を停車させることができる。
【0018】
本発明の車両の制御方法は、車両のエンジン(12)の停止条件が成立した場合に該エンジン(12)の自動的な停止を許可させる停止ステップ(S12)と、前記エンジン(12)の再始動条件が成立した場合に該エンジン(12)の再始動を許可させる再始動ステップ(S13)と、を有した車両の制御方法において、前記再始動ステップ(S13)は、前記エンジン(12)の再始動の許可後において該エンジン(12)の始動不調が検知された場合に、前記エンジン(12)の再始動を禁止させると共に、車両を停車させるべく車両に設けられた車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力を増大させる第1のステップ(S31,S32)と、前記第1のステップ(S31,S32)の実行後、前記車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力を保持させると共に、前記エンジン(12)の再始動を許可させる第2のステップ(S33,S34)と、を含むことを要旨とする。
【0019】
上記構成によれば、上記車両の制御装置と同等の作用・効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態の制御装置を搭載する車両の一例を示すブロック図。
【図2】制動装置の一例を示すブロック図。
【図3】回数基準値と勾配相当値との関係の一例を示すマップ。
【図4】アイドルストップ処理ルーチンを説明するフローチャート。
【図5】エンジン再始動処理ルーチンを説明するフローチャート(前半部分)。
【図6】エンジン再始動処理ルーチンを説明するフローチャート(後半部分)。
【図7】エンジン回転数、車体速度、回数カウンタ値及び目標油圧の変化を示すタイミングチャート。
【図8】別の実施形態における時間基準値と勾配相当値との関係の一例を示すマップ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図7に従って説明する。なお、以下における本明細書中の説明においては、車両の進行方向(前進方向)を前方(車両前方)として説明する。
【0022】
本実施形態の車両は、燃費性能やエミッション性能を向上させるべく、車両走行中に所定の停止条件の成立に応じてエンジンを自動的に停止させ、その後、所定の始動条件の成立に応じてエンジンを自動的に再始動させる所謂アイドルストップ機能を有している。そのため、この車両では、運転手によるブレーキ操作による減速中又は停車中に、エンジンが自動的に停止される。
【0023】
次に、アイドルストップ機能を有する車両の一例について説明する。
図1に示すように、車両は、複数(本実施形態では4つ)ある車輪(右前輪FR、左前輪FL、右後輪RR及び左後輪RL)のうち、前輪FR,FLが駆動輪として機能する所謂前輪駆動車である。こうした車両には、運転手によるアクセルペダル11の操作量に応じた駆動力を発生するエンジン12を有する駆動力発生装置13と、該駆動力発生装置13で発生した駆動力を前輪FR,FLに伝達する駆動力伝達装置14とを備えている。また、車両には、運転手によるブレーキペダル15の操作量に応じた制動力を各車輪FR,FL,RR,RLに付与するための制動装置16が設けられている。
【0024】
駆動力発生装置13は、エンジン12の吸気ポート(図示略)近傍に配置され、且つ該エンジン12に燃料を噴射するインジェクタを有する燃料噴射装置(図示略)を備えている。こうした駆動力発生装置13は、図示しないCPU、ROM及びRAMなどを有するエンジン用ECU17(「エンジン用電子制御装置」ともいう。)の制御に基づき駆動する。このエンジン用ECU17には、アクセルペダル11の近傍に配置され、且つ運転手によるアクセルペダル11の操作量、即ちアクセル開度を検出するためのアクセル開度センサSE1が電気的に接続されている。そして、エンジン用ECU17は、アクセル開度センサSE1からの検出信号に基づきアクセル開度を演算し、該演算したアクセル開度などに基づき駆動力発生装置13を制御する。
【0025】
駆動力伝達装置14は、自動変速機18と、該自動変速機18の出力軸から伝達された駆動力を適宜配分して前輪FR,FLに伝達するディファレンシャルギヤ19と、自動変速機18を制御する図示しないAT用ECUとを備えている。自動変速機18は、流体継手の一例としてトルクコンバータ20aを有する流体式駆動力伝達機構20と、変速機構21とを備えている。
【0026】
なお、本実施形態の車両においてエンジン12から駆動輪(前輪FR,FL)へのトルク伝達経路には、トルクコンバータ20aが設けられているため、クリープ現象が発生する。このクリープ現象とは、自動変速機18を有する車両において、シフトレバーが走行位置にあるときにアクセルペダル11を踏み込まなくても車両がゆっくりと前進する現象であり、この現象は、エンジン12のアイドル時にも、トルクコンバータ20aが若干の駆動力を前輪FR,FL側に伝達するために発生する。そして、前輪FR,FL側に伝達される若干の動力のことを、「クリープトルク」という。
【0027】
制動装置16は、図1及び図2に示すように、マスタシリンダ25、ブースタ26及びリザーバ27を有する液圧発生装置28と、2つの液圧回路29,30を有するブレーキアクチュエータ31(図2では二点鎖線で示す。)とを備えている。各液圧回路29,30は、液圧発生装置28のマスタシリンダ25にそれぞれ接続されている。そして、第1液圧回路29には、右前輪FR用のホイールシリンダ32a及び左後輪RL用のホイールシリンダ32dが接続されると共に、第2液圧回路30には、左前輪FL用のホイールシリンダ32b及び右後輪RR用のホイールシリンダ32cが接続されている。
【0028】
液圧発生装置28においてブースタ26は、エンジン12の駆動時に負圧が発生する図示しないインテークマニホールドに接続されている。そして、ブースタ26は、インテークマニホールド内に発生する負圧と大気圧との圧力差を利用し、運転手によるブレーキペダル15の操作力を倍力する。
【0029】
マスタシリンダ25は、運転手によるブレーキペダル15の操作(以下、「ブレーキ操作」ともいう。)に応じた流体圧としてのマスタシリンダ圧(以下、「MC圧」ともいう。)を発生する。その結果、マスタシリンダ25からは、液圧回路29,30を介してホイールシリンダ32a〜32d内に流体の一例としてのブレーキ液が供給される。すると、車輪FR,FL,RR,RLには、ホイールシリンダ32a〜32d内のホイールシリンダ圧(「WC圧」ともいう。)に応じた制動力が付与される。
【0030】
ブレーキアクチュエータ31において各液圧回路29,30は、連結経路33,34を介してマスタシリンダ25にそれぞれ接続されており、該各連結経路33,34には、常開型のリニア電磁弁(調整弁)35a,35bがそれぞれ設けられている。リニア電磁弁35a,35bは、弁座、弁体、電磁コイル及び弁体を弁座から離間する方向に付勢する付勢部材(例えば、コイルスプリング)を備えており、弁体は、後述するブレーキ用ECU55から電磁コイルに供給される電流の大きさ、即ち電流値に応じて変位する。すなわち、ホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧は、リニア電磁弁35a,35bに対する電流値に応じた液圧で維持される。
【0031】
また、各連結経路33,34の何れか一方(本実施形態では、連結経路33)において、リニア電磁弁35aよりもマスタシリンダ25側には、マスタシリンダ25内のMC圧を検出するための圧力センサSE8が設けられている。この圧力センサSE8からは、MC圧に応じた検出信号がブレーキ用ECU55に出力される。
【0032】
第1液圧回路29には、ホイールシリンダ32aに接続される右前輪用経路36aと、ホイールシリンダ32dに接続される左後輪用経路36dとが形成されている。また、第2液圧回路30には、ホイールシリンダ32bに接続される左前輪用経路36bと、ホイールシリンダ32cに接続される右後輪用経路36cとが形成されている。また、経路36a〜36dには、ホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧の増圧を規制する際に作動する常開型の電磁弁である増圧弁37a,37b,37c,37dと、WC圧を減圧させる際に作動する常閉型の電磁弁である減圧弁38a,38b,38c,38dとが設けられている。
【0033】
また、液圧回路29,30には、ホイールシリンダ32a〜32dから減圧弁38a〜38dを介して流出したブレーキ液を一時貯留するためのリザーバ39,40と、モータ41の回転に基づき作動するポンプ42,43とが接続されている。リザーバ39,40は、吸入用流路44,45を介してポンプ42,43に接続されると共に、マスタ側流路46,47を介して連結経路33,34においてリニア電磁弁35a,35bよりもマスタシリンダ25側に接続されている。また、ポンプ42,43は、供給用流路48,49を介して液圧回路29,30における増圧弁37a〜37dとリニア電磁弁35a,35bとの間の接続部位50,51に接続されている。そして、ポンプ42,43は、モータ41が回転した場合に、リザーバ39,40及びマスタシリンダ25側から吸入用流路44,45及びマスタ側流路46,47を介してブレーキ液を吸引し、該ブレーキ液を供給用流路48,49内に吐出する。
【0034】
次に、ブレーキアクチュエータ31の駆動を制御するブレーキ用ECU55(「ブレーキ用電子制御装置」ともいう。)について説明する。
図2に示すように、ブレーキ用ECU55の入力側インターフェースには、各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度を検出するための車輪速度センサSE3,SE4,SE5,SE6、及び車両の前後方向における加速度を検出するための加速度センサ(「Gセンサ」ともいう。)SE7が電気的に接続されている。また、ブレーキ用ECU55の入力側インターフェースには、ブレーキペダル15の近傍に配置され、且つブレーキペダル15が操作されているか否かを検出するためのブレーキスイッチSW1、及び圧力センサSE8が電気的に接続されている。ブレーキ用ECU55の出力側インターフェースには、各弁35a,35b,37a〜37d,38a〜38d及びモータ41などが電気的に接続されている。なお、加速度センサSE7からは、車両の重心が後方に移動する際に正の値となるような信号が出力される一方、車両の重心が前方に移動する際に負の値となるような信号が出力される。
【0035】
また、ブレーキ用ECU55は、図示しないCPU、ROM及びRAMなどから構成されるデジタルコンピュータ、各弁35a,35b,37a〜37d,38a〜38dを作動させるための図示しない弁用ドライバ回路、及びモータ41を作動させるための図示しないモータ用ドライバ回路を有している。デジタルコンピュータのROMには、各種制御処理(後述するアイドルストップ処理等)、各種マップ(図3に示すマップ等)及び各種閾値などが予め記憶されている。また、RAMには、車両の図示しないイグニッションスイッチがオンである間、適宜書き換えられる各種の情報などがそれぞれ記憶される。
【0036】
本実施形態の車両において、エンジン用ECU17及びブレーキ用ECU55を含むECU同士は、図1に示すように、各種情報及び各種制御指令を送受信できるようにバス56を介してそれぞれ接続されている。例えば、エンジン用ECU17からは、アクセルペダル11のアクセル開度に関する情報、エンジン12の再始動の成功・失敗に関する情報などがブレーキ用ECU55に適宜送信される。一方、ブレーキ用ECU55からは、エンジン12の自動的な停止を許可する旨の停止許可指令、エンジン12の自動的な再始動を許可する旨の再始動許可指令及び再始動を禁止する旨の再始動禁止指令などがエンジン用ECU17に送信される。
【0037】
次に、ブレーキ用ECU55のROMに記憶される各種マップについて図3に基づき説明する。
エンジン12を自動的に再始動させようとしても、車両に搭載されるバッテリ(図示略)の蓄電量不足やスタータモータ(図示略)の不調などによって、エンジン12を再始動させることができないことがある。こうした場合、エンジン12を再始動させるための制御が繰り返し実行される。そして、エンジン12を再始動させるための制御を連続して行っても、エンジン12を再始動させることができない場合には、エンジン12が始動不調状態であると判断される。
【0038】
図3に示すマップは、エンジン12が始動不調状態であるか否かを判断するための基準値の一例である回数基準値CTthを、車両の位置する路面の勾配に応じた値に設定するためのマップの一例である。回数基準値CTthとは、エンジン12を再始動させるためのエンジン用ECU17側での制御処理を連続して実行させる回数の上限値である。また、勾配相当値Agとは、車両の位置する路面の勾配に応じた値である。すなわち、勾配相当値Agがほぼ「0(零)」である場合、車両の位置する路面は、水平面にほぼ平行な路面である。また、勾配相当値Agが正の値である場合における路面は登坂路であり、勾配相当値Agが負の値である場合における路面は降坂路である。
【0039】
本実施形態では、図3に示すように、回数基準値CTthは、路面の勾配が緩勾配である場合のほうが、勾配が急勾配である場合よりも大きな値に設定される。例えば、勾配相当値Agが「0」である場合、回数基準値CTthは、最大値CTmax(例えば5回)に設定される。そして、勾配相当値Agが「0」未満であって且つ第1の値Ag1(<0(零))よりも大きい場合、回数基準値CTthは、勾配相当値Agが小さくなるほど小さい値に設定される。同様に、勾配相当値Agが「0」よりも大きく且つ第2の値Ag2(>0(零))未満である場合、回数基準値CTthは、勾配相当値Agが大きくなるほど小さい値に設定される。そして、勾配相当値Agが第1の値Ag1以下である場合、及び勾配相当値Agが第2の値Ag2以上である場合、回数基準値CTthは、最低値CTmin(例えば2回)に設定される。なお、第2の値Ag2の絶対値は、第1の値Ag1の絶対値に等しい。
【0040】
次に、本実施形態のブレーキ用ECU55が実行するアイドルストップ処理ルーチンについて、図4に示すフローチャートに基づき説明する。このアイドルストップ処理ルーチンは、エンジン12の自動的な停止を許可するタイミングやエンジン12の自動的な再始動を許可するタイミングなどを設定する処理ルーチンである。
【0041】
さて、ブレーキ用ECU55は、予め設定された所定周期(例えば、0.01秒周期)毎にアイドルストップ処理ルーチンを実行する。このアイドルストップ処理ルーチンにおいて、ブレーキ用ECU55は、圧力センサSE8からの検出信号に基づき、マスタシリンダ25内のMC圧Pmcを取得する(ステップS10)。続いて、ブレーキ用ECU55は、エンジン用ECU17から受信する情報に基づき、エンジン12が停止中であるか否かを判定する(ステップS11)。
【0042】
この判定結果が否定である場合、ブレーキ用ECU55は、エンジン12が駆動中であるため、エンジン停止処理を実行する(ステップS12)。すなわち、ブレーキ用ECU55は、車両の車体速度が予め設定された所定速度(例えば20km/h)以下であって、且つステップS10で取得したMC圧Pmcが、エンジン12の自動的な停止を許可するか否かを判断するための判断値以上である場合に、運転手が車両を停車させる意志があると判断する。そして、ブレーキ用ECU55は、停止許可指令をエンジン用ECU17に送信する。したがって、本実施形態では、ステップS12が、エンジン12の停止条件が成立した場合にエンジン12の自動的な停止を許可する停止ステップに相当する。その後、ブレーキ用ECU55は、アイドルストップ処理ルーチンを一旦終了する。
【0043】
一方、ステップS11の判定結果が肯定である場合、ブレーキ用ECU55は、エンジン12が停止しているため、エンジン再始動処理を行う(ステップS13)。このエンジン再始動処理では、詳しくは後述するが、車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力が調整されたり、再始動許可指令や再始動禁止指令がエンジン用ECU17に送信されたりする。この点で、本実施形態では、ステップS13が、エンジン12の再始動条件が成立した場合にエンジン12の自動的な再始動を許可する再始動ステップに相当する。また、ブレーキ用ECU55が、第1の制御手段として機能する。そして、ブレーキ用ECU55は、エンジン再始動処理の実行後、アイドルストップ処理ルーチンを一旦終了する。
【0044】
次に、上記エンジン再始動処理(エンジン再始動処理ルーチン)について、図5及び図6に示すフローチャートと、図7に示すタイミングチャートとに基づき説明する。なお、図7は、車両が坂路を走行する場合のタイミングチャートである。
【0045】
さて、エンジン再始動処理ルーチンにおいて、ブレーキ用ECU55は、上記ステップS10で取得したMC圧Pmcが予め設定されたMC圧基準値Pmcth未満であるか否かを判定する(ステップS20)。このMC圧基準値Pmcthは、エンジン12の再始動を許可するか否かを判断するための判断値であって、エンジン12の自動的な停止を許可するか否かを判断するための判断値よりも小さな値に設定される。なお、MC圧基準値Pmcthは、車両の位置する路面の勾配に応じた値に設定してもよい。
【0046】
ステップS20の判定結果が否定(Pmc≧Pmcth)である場合、ブレーキ用ECU55は、エンジン12の再始動条件が成立していないため、後述する回数カウンタ値CTを「0(零)」にリセットし(ステップS21)、エンジン再始動処理ルーチンを終了する。一方、ステップS20の判定結果が肯定(Pmc<Pmcth)である場合、ブレーキ用ECU55は、エンジン12の再始動条件が成立したため、再始動許可指令をエンジン用ECU17に送信する(ステップS22)。再始動許可指令を受信したエンジン用ECU17は、エンジン12を始動させるための制御を行う。そして、エンジン用ECU17は、エンジン12の再始動の成功・失敗に関する情報をブレーキ用ECU55に出力する。
【0047】
続いて、ブレーキ用ECU55は、再始動許可指令の送信後にエンジン用ECU17から受信した情報に基づき、エンジン12の再始動が失敗したか否かを判定する(ステップS23)。この判定結果が否定である場合、ブレーキ用ECU55は、エンジン12の再始動が成功したため、その処理を前述したステップS21に移行する。一方、ステップS23の判定結果が肯定である場合、ブレーキ用ECU55は、エンジン12の再始動が失敗したため、車両の車体速度VSを取得する(ステップS24)。具体的には、ブレーキ用ECU55は、各車輪速度センサSE3〜SE6からの検出信号に基づき各車輪FL,FR,RL,RRの車輪速度を演算し、該各車輪FL,FR,RL,RRの車輪速度のうち少なくとも一つの車輪速度を時間微分して車輪加速度を取得する。そして、ブレーキ用ECU55は、前回のタイミングで取得した車体速度に対して車輪加速度を積算し、該積算結果を車体速度VSとする。したがって、本実施形態では、ブレーキ用ECU55が、車体速度取得手段としても機能する。
【0048】
そして、ブレーキ用ECU55は、ステップS24で取得した車体速度VSが予め設定された車体速度閾値及び制御閾値としての車体速度基準値VSth(例えば7km/h)未満であるか否かを判定する(ステップS25)。この車体速度基準値VSthは、ブレーキアクチュエータ31のポンプ42,43が作動するような制動制御の実行が許可されるか否かを判断するための基準値である。なお、ポンプ42,43の作動が伴う制動制御の一例としては、アンチロックブレーキ制御や横滑り防止制御(ESC:Electronic Stability Control)などが挙げられる。
【0049】
ステップS25の判定結果が否定(VS≧VSth)である場合、ブレーキ用ECU55は、その処理を後述するステップS31に移行する。一方、ステップS25の判定結果が肯定(VS<VSth)である場合、ブレーキ用ECU55は、エンジン12の再始動が連続して失敗した回数の計測値である回数カウンタ値CTを「1」だけインクリメントする(ステップS26)。続いて、ブレーキ用ECU55は、加速度センサSE7からの検出信号に基づき、車両の前後方向における加速度(以下、単に「車体加速度」ともいう。)Gを取得する(ステップS27)。そして、ブレーキ用ECU55は、ステップS24で取得した車体速度VSを時間微分して車体速度微分値(車両の実際の加速度)DVSを取得する(ステップS28)。なお、ブレーキ用ECU55は、ステップS24での処理時に取得した車輪加速度を車体速度微分値DVSとしてもよい。
【0050】
続いて、ブレーキ用ECU55は、ステップS27で演算した車体加速度GからステップS28で演算した車体速度微分値DVSを減算し、該減算結果を勾配相当値Agとする(ステップS29)。ここで、加速度センサSE7からの検出信号に基づき演算された車体加速度Gには、車両の実際の加速度成分と、車両の走行する路面の勾配に対応する加速度成分とが含まれている。そして、「車両の実際の加速度成分」は、車体速度VSの微分値である車体速度微分値DVSであり、勾配相当値Agは、車体加速度Gから車両の実際の加速度成分を取り除くことにより取得される。したがって、本実施形態では、ブレーキ用ECU55が、勾配相当値取得手段としても機能する。
【0051】
そして、ブレーキ用ECU55は、ステップS29で取得した勾配相当値Agに応じた回数基準値CTthを図3に示すマップに基づき設定する。そして、ブレーキ用ECU55は、ステップS26で更新した回数カウンタ値CTが、設定した回収基準値CTth以上であるか否かを判定する(ステップS30)。この判定結果が否定(CT<CTth)である場合、ブレーキ用ECU55は、その処理を前述したステップS22に移行する。一方、ステップS30の判定結果が肯定(CT≧CTth)である場合、ブレーキ用ECU55は、エンジン12が始動不調状態であると判断し、その処理を後述するステップS31に移行する。
【0052】
ステップS31において、ブレーキ用ECU55は、再始動禁止指令をエンジン用ECU17に送信する。再始動禁止指令を受信したエンジン用ECU17は、エンジン12を再始動するための制御を行わない。続いて、ブレーキ用ECU55は、車両を停車させるために、ブレーキアクチュエータ31のポンプ42,43(即ち、モータ41)とリニア電磁弁35a,35bとを作動させる第1の制動制御処理を行う(ステップS32)。したがって、本実施形態では、ステップS31,32により、第1のステップが構成される。また、車両を停車させるべく車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力を増大させる第1の制動制御を行うブレーキ用ECU55が、第2の制御手段としても機能する。
【0053】
第1の制動制御処理が終了すると、ブレーキ用ECU55は、各ホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧Pwcを保圧させるための第2の制動制御処理を行う(ステップS33)。具体的には、ブレーキ用ECU55は、ブレーキアクチュエータ31のポンプ42,43を停止させると共に、リニア電磁弁35a,35bを作動させて各ホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧Pwcを保圧させる。続いて、ブレーキ用ECU55は、ポンプ42,43の作動を停止させたため、再始動許可指令をエンジン用ECU17に送信する(ステップS34)。再始動許可指令を受信したエンジン用ECU17は、エンジン12を再始動させるための制御を適宜行う。したがって、本実施形態では、ステップS33,34により、第2のステップが構成される。
【0054】
ここで、図7のタイミングチャートに示すように、第1のタイミングt1でエンジン12が自動的に停止されると、エンジン回転数Neが急激に低下する。また、駆動輪である前輪FR,FLには、クリープトルクが伝達されなくなるため、車体速度VSの変化率も大きくなる。そして、車体速度VSが車体速度基準値VSth未満になった(より具体的には、車両が停車する)第2のタイミングt2でエンジン12の再始動条件が成立すると、エンジン12を再始動させるための制御が行われる。
【0055】
しかし、エンジン12の再始動が失敗すると、回数カウンタ値CTは「1」だけインクリメントされる。そして、第2のタイミングt2よりも後の第3のタイミングt3では、車体速度VSが車体速度基準値VSth未満であるため、エンジン12を再始動させるための制御が再び行われる。今回でもエンジン12の再始動が失敗すると、回数カウンタ値CTは再び「1」だけインクリメントされる。このとき、回数カウンタ値CTが回数基準値Ctth以上になると、エンジン12が始動不調状態であると判定され、エンジン12の再始動が禁止される。一方、回数カウンタ値CTが回数基準値Ctth未満である場合には、このタイミングでエンジン12が始動不調状態であると判定されない。
【0056】
エンジン12を再始動させるための制御が繰り返し行われるということは、マスタシリンダ25内のMC圧Pmcが低下していること、即ち車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力が減少していることを意味している。これは、エンジン12の再始動を許可するための条件に、MC圧PmcがMC圧基準値Pmcth(図5参照)未満であることが含まれているためである。そのため、車両の位置する路面が降坂路である場合には、MC圧Pmcの低下に起因した車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力不足によって、車両が前方に移動する可能性がある。また、車両の位置する路面が登坂路である場合には、車両が後方に移動する可能性がある。
【0057】
こうした惰性による車両の移動によって、車両の車体速度VSが車体速度基準値VSth以上になると、エンジン12の再始動が禁止される(第4のタイミングt4)。これは、車体速度VSが車体速度基準値VSth以上になると、ブレーキアクチュエータ31のポンプ42,43が作動するような制動制御の実行が許可されるためである。すなわち、エンジン12を再始動させるための制御と、ポンプ42,43の作動が伴う制動制御とが時間的に重複する可能性があるためである。
【0058】
そして、エンジン12の再始動が禁止されると、各車輪FR,FL,RR,RL用のホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧Pwc(図7では破線で示す。)が目標油圧Pwcthとなるように、ブレーキアクチュエータ31のポンプ42,43及びリニア電磁弁35a,35bが作動する(第1の制動制御)。すなわち、車両を停車させるべく車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力が増大される。
【0059】
その後、ホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧Pwcが目標油圧Pwcthと同程度となった第5のタイミングt5で、制動制御が、第1の制動制御から第2の制動制御に切り替る。すると、ブレーキアクチュエータ31では、ポンプ42,43の作動が停止されると共に、リニア電磁弁35a,35bの作動によって車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力が保持される(第2の制動制御)。そして、エンジン12の再始動が許可される。この状態でエンジン12の再始動条件が成立すると、エンジン12を再始動させるための制御が行われる(第6のタイミングt6)。
【0060】
図6のフローチャートに戻り、ブレーキ用ECU55は、再始動許可指令の送信(ステップS34)後にエンジン用ECU17から受信した情報に基づき、エンジン12の再始動が成功したか否かを判定する(ステップS35)。この判定結果が肯定である場合、ブレーキ用ECU55は、エンジン12が再始動されたため、その処理を前述したステップS21に移行する。一方、ステップS35の判定結果が否定である場合、ブレーキ用ECU55は、エンジン12が未だ再始動していないため、ブレーキスイッチSW1がオフになったか否か、即ちブレーキペダル15の操作が解消されたか否かを判定する(ステップS36)。この判定結果が否定(SW1=オン)である場合、ブレーキ用ECU55は、その処理を前述したステップS35に移行する。
【0061】
一方、ステップS36の判定結果が肯定(SW1=オフ)である場合、ブレーキ用ECU55は、惰性による車両の移動を運転手が許可したと判定し、第3の制動制御処理を行う(ステップS37)。具体的には、ブレーキ用ECU55は、惰性により車両が移動するとしても、該車両の車体速度VSが車体速度基準値VSth以上にならないように、ホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧Pwcを調整する。すなわち、ブレーキ用ECU55は、ポンプ42,43を作動させない一方で、リニア電磁弁35a,35bに対する電流値を調整する。このとき、リニア電磁弁35a,35bに対する電流値は、車両の位置する路面の勾配が急勾配であるほど大きな値に設定される。つまり、第3の制動制御では、車輪に対する制動力は、減少されることはあっても増加されることはない。したがって、本実施形態では、車体速度基準値VSthが、許可基準値でもある。なお、このように車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力を減少させても、路面の勾配によっては、車両が移動しないこともある。
【0062】
そして、ブレーキ用ECU55は、ステップS37の処理後にエンジン用ECU17から受信した情報に基づき、エンジン12の再始動が成功したか否かを判定する(ステップS38)。この判定結果が肯定である場合、ブレーキ用ECU55は、エンジン12が再始動されたため、その処理を前述したステップS21に移行する。一方、ステップS38の判定結果が否定である場合、ブレーキ用ECU55は、エンジン12が未だ再始動していないため、ブレーキスイッチSW1がオンになったか否か、即ちブレーキペダル15が再び操作されたか否かを判定する(ステップS39)。この判定結果が否定(SW1=オフ)である場合、ブレーキ用ECU55は、その処理を前述したステップS38に移行する。一方、ステップS39の判定結果が肯定(SW1=オン)になった場合、ブレーキ用ECU55は、その処理を前述したステップS31に移行する。すなわち、エンジン12の再始動が禁止され(ステップS31)、その後、車両を停車させるための第1の制動制御処理が実行される(ステップS32)。そして、車両が停車すると、第2の制動制御処理が実行される(ステップS33)と共に、エンジン12の再始動が許可される(ステップS34)。
【0063】
なお、第2の制動制御又は第3の制動制御によって車輪FR,FL,RR,RLに対して制動力が付与された状態で、エンジン12が再始動した場合、ブレーキ用ECU55は、リニア電磁弁35a,35bに対する電流値を徐々に小さくする(図7参照)。
【0064】
したがって、本実施形態では、以下に示す効果を得ることができる。
(1)エンジン12の始動不調が検知された場合には、エンジン12の再始動を禁止すると共に、車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力を増大させて車両を停車させる。その後、車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力が保持されるようになると、エンジン12の再始動が許可される。すなわち、車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力を増大させるためのブレーキアクチュエータ31の制動制御と、エンジン12を再始動させるための駆動力発生装置13側での駆動制御との時間的な重複が回避される。また、ブースタ26内の負圧が低下した状態であっても、車両を停車させることができるような制動力が車輪FR,FL,RR,RLに付与された状態で、エンジン12の再始動が行われることになる。したがって、車両に搭載されるバッテリ(図示略)の負荷の低減を図りつつ、車両の安全性を確保した状態でエンジン12を再始動させることができる。
【0065】
(2)ブレーキアクチュエータ31を用いて車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力を増大させるためには、ポンプ42,43(即ち、モータ41)を作動させる必要がある。ポンプ42,43を作動させると、ブレーキアクチュエータ31での電力消費量が多くなる。この状態でエンジン12を再始動させようとすると、車両のバッテリの負荷が非常に大きくなる。特にエンジン12が不調状態となる原因の一つとしては、バッテリの蓄電量が少なくなっていることが挙げられる。そのため、ポンプ42,43を作動させるような制動制御中にエンジン12を再始動させるための駆動力発生装置13側での駆動制御が行われると、エンジン12を始動させるために作動するスタータモータ(図示略)に対する電力供給量を十分に確保できないおそれがある。すなわち、バッテリの蓄電量をいたずらに消費するだけで、エンジン12をなかなか再始動させることができないことになる。
【0066】
この点、本実施形態では、ポンプ42,43を作動させるような制動制御中にエンジン12を再始動させるための制御が行われない。そのため、バッテリの負荷を低減させることができる。また、エンジン12を再始動させる場合には、スタータモータに対して十分に電力を供給することができ、ひいてはエンジン12を速やかに再始動させることができる。
【0067】
(3)第2の制動制御によって車両の停車が維持された状態で、ブレーキペダル15が操作されなくなったことを検知した場合には、惰性による車両の移動を運転手が許可したと判断される。そして、車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力が減少される。すると、車両が坂路上に位置する場合には、車両が傾斜方向における下方側に移動する。すなわち、エンジン12の始動不調状態であっても、車両の挙動を、運転手の意図に沿ったものとすることができる。
【0068】
(4)エンジン12の始動不調状態である場合には、ブースタ26内の負圧が低下している可能性が高い。この場合、マスタシリンダ25内のMC圧Pmcを十分に高圧にできないため、運転手によるブレーキペダル15の操作によって車輪FR,FL,RR,RLに十分に大きな制動力を付与できない。そこで、本実施形態では、第3の制動制御時には、車体速度VSが車体速度基準値VSth以上とならないように、車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力が調整される。そのため、車両の車体速度VSが高速になり過ぎることを抑制できる分、車両の安全性を確保した状態で、エンジン12を再始動させるための制御を行わせることができる。
【0069】
なお、車両の位置する路面によっては、第3の制動制御が実行されても車両が移動しないこともあり得る。また、本実施形態でいう「車両の惰性による移動」とは、坂路に位置する車両に対して勾配に応じた力(「勾配加速度」ともいう。)が付与されることに起因した車両の移動を含んだ概念である。
【0070】
(5)本実施形態では、第3の制動制御時には、ポンプ42,43が作動しないため、エンジン12の再始動が許可されている。そのため、運転手によるブレーキペダル15の操作の解消を契機に、エンジン12が再始動する可能性がある。すなわち、運転手に違和感を感じさせないタイミングで、エンジン12を再始動させることができる。
【0071】
(6)第3の制動制御中であっても、運転手によるブレーキペダル15の操作が検知された場合には、車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力を増大させて車両を停車させる。これは、ブレーキペダル15が操作されたということは、車両を停車させる意志が運転手にあると判断されるためである。そのため、運転手の意図に沿って車両を停車させることができる。
【0072】
(7)また、このように車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力を増大させる場合には、エンジン12の再始動が禁止される。そのため、バッテリの負荷の増大を抑制できる。
【0073】
(8)回数基準値CTthは、車両の位置する路面の勾配が緩勾配である場合には勾配が急勾配である場合よりも大きな値に設定される。そのため、車両が加速しにくい場合、即ち勾配相当値Agが「0(零)」に近い場合には、エンジン12の再始動のリトライ回数が多くなる。これは、ブースタ26内の負圧の低下に起因して車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力が小さくなっても、勾配相当値Agが「0(零)」に近い場合には、車体速度VSが高速になりにくいためである。このように車両の安全性を確保できる場合には、エンジン12が始動不調状態であるか否かの判定を極力遅らせることができる。すなわち、第1の制動制御の実行前に、エンジン12を再始動させることができる可能性を高くすることができる。
【0074】
(9)本実施形態では、回数カウンタ値CTが回収基準値CTth未満であっても、車両の車体速度VSが車体速度基準値VSth以上になった場合には、エンジン12の再始動が禁止されると共に、車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力を増大させるべくブレーキアクチュエータ31が駆動する。これは、車両の車体速度VSが車体速度基準値VSth以上になると、ポンプ42,43の作動を伴う制動制御の実行が許可されることから、該制動制御とエンジン12を再始動させるための制御とが時間的に重複する可能性があるためである。そのため、本実施形態では、ポンプ42,43の作動を伴う制動制御とエンジン12を再始動させるための制御とが時間的に重複する可能性の低減に貢献できる。
【0075】
なお、実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・実施形態において、回数基準値CTthは、勾配相当値Agの大きさに関係なく、予め設定された値(例えば、3)であってもよい。
【0076】
また、エンジン12の再始動の失敗回数、即ち回数カウンタ値CTを計数しなくてもよい。この場合、エンジン12の再始動の失敗を繰り返している間に、車体速度VSが車体速度基準値VSth以上となった場合には、エンジン12が始動不調状態であると判定される。
【0077】
・実施形態において、車両に搭載されるナビゲーション装置に、路面の勾配に関する勾配情報(即ち、勾配相当値Agに関する情報)が記憶される場合には、ナビゲーション装置から勾配相当値Agを取得してもよい。
【0078】
・実施形態において、エンジン12の再始動条件が成立してから(上記実施形態では、ステップS20が肯定になってから)の経過時間を計測し、該経過時間が時間基準値以上になっても、エンジン12が再始動されていない場合に、エンジン12が始動不調状態であると判定されてもよい。この場合、図8に示すマップを用意することが好ましい。このマップは、時間基準値Tthを、勾配相当値Agに応じた値に設定するためのマップである。すなわち、時間基準値Tthは、路面の勾配が緩勾配である場合のほうが、勾配が急勾配である場合よりも大きな値に設定される。
【0079】
・車両が後退している場合には、一般的に、ブレーキアクチュエータ31を用いた制動制御が行われない。こうした車両では、車両が後退する場合には、ステップS25の判定処理を省略してもよい。このように構成しても、ブレーキアクチュエータ31のポンプ42,43の作動が伴う制動制御と、エンジン12を再始動させるための駆動力発生装置13側での駆動制御とが時間的に重複することを回避できる。
【0080】
・実施形態において、ステップS36では、ブレーキペダル15の操作量が少なくなったか否かを判定してもよい。ブレーキペダル15の操作量は、圧力センサSE8からの検出信号に基づき演算されるMC圧Pmcの変動に基づき推定される。
【0081】
同様に、ステップS39では、ブレーキペダル15の操作量が多くなったか否かを判定してもよい。
・実施形態において、第3の制動制御では、車両の車体速度VSが、車体速度基準値(制御閾値)VSthよりも小さい値に設定された許可基準値以下となるように、車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力を調整してもよい。
【0082】
・第3の制動制御の実行中に、車両の走行する路面の勾配が変化することがあり得る。特に、路面の勾配が、第3の制動制御の開始時点の勾配よりも急勾配になった場合には、車両の車体速度VSが高速になる。これは、リニア電磁弁35a,35bに対する電流値が第3の制動制御の開始時点における路面の勾配によって設定されるためである。このように第3の制動制御の実行中に、車体速度VSが車体速度基準値VSth以上になった場合には、運転手のブレーキペダル15の操作の有無に関係なく、再始動禁止指令をエンジン用ECU17に送信すると共に、第1の制動制御処理を行ってもよい。このように構成すると、ブレーキアクチュエータ31のポンプ42,43の作動が伴う制動制御と、エンジン12を再始動させるための駆動力発生装置13側での駆動制御とが時間的に重複することを回避できる。
【0083】
また、第3の制動制御の実行中に、車体速度VSが車体速度基準値VSth以上になった場合には、車体速度VSが車体速度基準値VSth未満となるように、ブレーキアクチュエータ31を駆動させてもよい。ただし、ブレーキアクチュエータ31の駆動中には、エンジン12の再始動を禁止することが好ましい。
【0084】
・実施形態において、第2の制動制御中に運転手によるブレーキペダル15の操作が解消された場合には、車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力を「0(零)」としてもよい。その後、車体速度VSが車体速度基準値VSth以上になった場合には、第1の制動制御を行ってもよい。なお、車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力が「0(零)」となる間では、エンジン12の再始動を許可してもよい。
【0085】
・実施形態において、車体速度VSを、車両に搭載されるナビゲーション装置から取得してもよい。
・実施形態において、第1の制動制御処理では、目標油圧Pwcthを、勾配相当値Agが大きい場合のほうが、勾配相当値Agが小さい場合よりも高圧に設定してもよい。
【0086】
・実施形態において、ステップS39の判定結果が肯定(SW1=オン)になったことを契機に第1の制動制御処理及び第2の制動制御処理が実行された場合には、第2の制動制御が開始されてからの経過時間が予め設定された所定時間(例えば10秒)以上となってから、再始動許可指令をエンジン用ECU17に送信させてもよい。この場合、第2の制動制御が実行されてから所定時間の間は、エンジン12を再始動させるためにバッテリに蓄電される電力が消費されず、バッテリの蓄電量を少しだけ増やすことができる。このようにバッテリの蓄電量が増加することにより、バッテリの蓄電量不足に起因したエンジン12の始動不調状態を解消できる可能性が高くなる。
【0087】
・車両に、車両が電動パーキングブレーキ装置を備えている場合、第1〜第3の各制動制御処理では、ブレーキアクチュエータ31の代わりに、電動パーキングブレーキ装置を用いてもよいし、ブレーキアクチュエータ31と電動パーキングブレーキ装置とを共に用いてもよい。
【0088】
次に、上記実施形態及び別の実施形態から把握できる技術的思想を以下に追記する。
(イ)前記第1の制御手段(55、S12,S13,S31,S34)は、
前記エンジン(12)の再始動を許可してからの該エンジン(12)の再始動の実行回数、又は前記エンジン(12)の再始動を許可してからの経過時間が、設定された回数基準値(CTth)又は時間基準値(Tth)以上になっても前記エンジン(12)が再始動されない場合に、前記エンジン(12)の始動不調を検知することを特徴とする車両の制御装置。
【0089】
(ロ)車両の車体速度(VS)を取得する車体速度取得手段(55、S24)をさらに備え、
前記第1の制御手段(55、S12,S13,S31,S34)は、
前記エンジン(12)の再始動の許可後において前記車体速度取得手段(55、S24)によって取得された車体速度(VS)が予め設定された車体速度閾値(VSth)以上になっても前記エンジン(12)が再始動されない場合に、前記エンジン(12)の始動不調を検知することを特徴とする車両の制御装置。
【0090】
(ハ)車両は、内部に発生した流体圧に応じた制動力を前記車輪(FR,FL,RR,RL)に付与するホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)と、該ホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)内の流体圧を調整するブレーキアクチュエータ(31)と、を備え、
前記ブレーキアクチュエータ(31)は、前記ホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)内の流体圧を増圧させるべく作動するポンプ(42,43)と、前記ホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)内の流体圧を調整すべく作動する調整弁(35a,35b)とを有しており、
前記許可基準値は、前記ポンプ(42,43)の作動を伴う制動制御の実行を許可するための制御閾値(VSth)以下の値に設定されることを特徴とする車両の制御装置。
【符号の説明】
【0091】
12…エンジン、15…ブレーキペダル、31…ブレーキアクチュエータ、32a〜32d…ホイールシリンダ、35a,35b…調整弁としてのリニア電磁弁、42,43…ポンプ、55…第1の制御手段、第2の制御手段、車体速度取得手段としてのブレーキ用ECU、FR,FL,RR,RL…車輪、CT…実行回数としての回数カウンタ値、CTth…回数基準値、Tth…時間基準値、VS…車体速度、VSth…許可基準値、車体速度閾値、制御閾値としての車体速度基準値。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のエンジン(12)の停止条件が成立した場合に該エンジン(12)の自動的な停止を許可すると共に、前記エンジン(12)の再始動条件が成立した場合に該エンジン(12)の再始動を許可する第1の制御手段(55、S12,S13)と、
車両に設けられる車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力を調整する第2の制御手段(55)と、を備えた車両の制御装置において、
前記第2の制御手段(55、S32,S33)は、
前記エンジン(12)の再始動の許可後において該エンジン(12)の始動不調を検知した場合には、
車両を停車させるべく前記車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力を増大させる第1の制動制御を行い、その後、前記車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力を保持させる第2の制動制御を行い、
前記第1の制御手段(55、S12,S13,S31,S34)は、
前記第1の制動制御の実行中には前記エンジン(12)の再始動を禁止し、
前記第2の制動制御の実行中には前記エンジン(12)の再始動を許可することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記第2の制御手段(55、S32,S33,S37)は、
前記第2の制動制御の実行中において、車両に設けられるブレーキペダル(15)の操作量が減少されたこと、又は該ブレーキペダル(15)が非操作状態になったことを検知した場合に、
前記車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力を減少させて車両の移動を許可する第3の制動制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記第3の制動制御は、車両の車体速度(VS)が、予め設定された許可基準値(VSth)未満となるように前記車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力を調整する制御であることを特徴とする請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記第2の制御手段(55、S32,S33,S37)は、前記第3の制動制御の実行中において、前記ブレーキペダル(15)の操作量が増大されたことを検知した場合に、前記第1の制動制御を行うことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
車両のエンジン(12)の停止条件が成立した場合に該エンジン(12)の自動的な停止を許可させる停止ステップ(S12)と、
前記エンジン(12)の再始動条件が成立した場合に該エンジン(12)の再始動を許可させる再始動ステップ(S13)と、を有した車両の制御方法において、
前記再始動ステップ(S13)は、
前記エンジン(12)の再始動の許可後において該エンジン(12)の始動不調が検知された場合に、前記エンジン(12)の再始動を禁止させると共に、車両を停車させるべく車両に設けられた車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力を増大させる第1のステップ(S31,S32)と、
前記第1のステップ(S31,S32)の実行後、前記車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力を保持させると共に、前記エンジン(12)の再始動を許可させる第2のステップ(S33,S34)と、を含むことを特徴とする車両の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−47153(P2012−47153A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192331(P2010−192331)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】