説明

車両の制御装置

【課題】吸入空気量を増大させてF/Cを行っていた状態から復帰する場合におけるショックを防止することできる制御装置を提供する。
【解決手段】燃料が供給されずに回転している状態における吸入空気量の増大に応じて動力損失が低減するエンジンの出力側に変速比が連続的に変化する変速機が連結され、減速時のエンジン回転数が予め定めた復帰回転数以上の場合に前記エンジンに対する燃料の供給を停止し、かつ燃料の供給を停止している減速時の車速の低下に伴って前記変速比を増大させ、その変速比の増大に応じて前記吸入空気量を増大させる車両の制御装置において、前記エンジンに対する燃料の供給を再開する場合に、前記増大させた吸入空気量を減少させる制御(ステップS14)を行うように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関とその内燃機関の出力側に連結された変速機とを搭載した車両の制御装置に関し、特に減速中における内燃機関に対する燃料の供給停止と変速比とを連携させて制御する制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関を動力源とする車両の燃費を向上させるために、フューエルカット(F/C)を行うことが知られている。フューエルカット制御は、アクセルペダルが踏み込まれていないなど駆動要求量が実質的にゼロの減速時に、内燃機関の回転数が、燃料の供給を再開すれば、自律回転に復帰できるいわゆる復帰回転数以上の場合に、内燃機関に対する燃料の供給を停止する制御である。したがって、フューエルカットは内燃機関の回転数が復帰回転数以上の場合に限られるから、燃料の供給停止期間を可及的に長くするためには、車速の低下に伴って変速比を増大させることにより内燃機関の回転数を復帰回転数以上の回転数に維持することが望ましい。変速機として自動変速機を搭載した車両では、フューエルカット時におけるそのような変速比の制御が可能であり、特にベルト式あるいはトロイダル型の無段変速機を搭載した車両では、変速比を連続的に増大させることが可能であるから、車速の低下に伴う内燃機関の回転数の維持を比較的容易に行うことができる。
【0003】
一方、車両の駆動力(減速力)は内燃機関の出力(もしくは損失動力)に変速比を掛けたものとなる。したがって、フューエルカット制御を継続するために変速比を上記のように次第に増大させると、変速比の増大に応じて減速力(あるいはエンジンブレーキ力)が増大する。このような減速力の増大は、運転者の操作に起因するものではないので、運転者が体感するほど減速力が増大すると、運転者に違和感を与える可能性がある。そこで従来、フューエルカット時の変速比の増大に伴う減速力の増大を緩和もしくは防止するように構成された装置が、特許文献1によって提案されている。
【0004】
内燃機関によって生じる減速力は、主として、内燃機関のポンピングロスによる損失動力であり、これは、内燃機関に対する吸入空気量を絞るほど大きくなる。また、内燃機関に連結されている空調用コンプレッサーやオルタネータなどの補機類の負荷も減速力として作用する。したがって、特許文献1に記載された装置は、フューエルカット時に無段変速機のロー側へのシフトに起因する減速力の増加を打ち消すようにスロットル開度を調整し、またエアコンによるエンジンに対する負荷を低減するように構成されている。
【0005】
また、フューエルカット制御に関する発明として、フューエルカット復帰時に点火時期の遅角制御を実行して、駆動トルクを滑らかに変化させるように構成された発明が特許文献2に記載されている。この特許文献2に記載された発明では、フューエルカット復帰直後ほど、点火時期の遅角変化の勾配が緩やかになるように構成されている。
【0006】
一方、内燃機関のスロットル開度の変化と実際の吸入空気量の変化とには時間的な遅れが生じるので、そのような遅れを考慮した発明が特許文献3に記載されている。具体的には、この特許文献3に記載された発明は、目標吸気圧と検出された吸気管内絶対圧とが一致するようにスロットル弁の目標開度が算出されるように構成されている。
【0007】
さらに、フューエルカット復帰時の制御として、上記の特許文献2に記載された発明とは異なり、吸入空気量を制御するパラメータを変化させるように構成された発明が特許文献4によって提案されている。すなわち、特許文献4に記載された発明は、ハイブリッド車の制御装置であって、フューエルカットから復帰する場合のエンジン出力の変化を滑らかにするために、フューエルカットから復帰するときに、エンジンの吸入空気量に関連するパラメータを一旦、目標値より低減させた後に目標値に近づけ、こうすることにより、フューエルカットからの復帰時における駆動軸トルクの変動が抑制される。
【0008】
フューエルカット復帰時は、内燃機関が出力するトルクが変化し、特にその変化は加速要求があることによりフューエルカット状態から復帰する場合に顕著になる。そこで、特許文献5に記載された発明は、フューエルカット中にアクセル要求(加速要求)があった場合、ショックを回避もしくは抑制するために、ロックアップクラッチを所定時間の間、解放するように構成されている。
【0009】
なお、ロックアップクラッチは、エンジンとその出力側に設けられている変速機などの伝動機構とを機械的に連結し、またその連結を解くクラッチであるから、減速時にロックアップクラッチが係合していると、エンジンの損失動力がそのまま制動力として作用することになる。そこで、特許文献6に記載された発明は、路面摩擦係数が小さい低μ路では、スリップを防止もしくは抑制するために、フューエルカット中のロックアップクラッチを解放状態に制御するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−272381号公報
【特許文献2】特開2007−146781号公報
【特許文献3】特開平08−165947号公報
【特許文献4】特開2003−065124号公報
【特許文献5】特開平05−099327号公報
【特許文献6】特開平10−037777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に記載されているように、変速比の増大に応じて、内燃機関のポンピングロスを低減するようにスロットル開度を増大させると、フューエルカット復帰時には変速比が大きくなっているから、スロットル開度も大きくなっている。そのため、フューエルカット制御中のスロットル開度を上記のように増大させると、フューエルカット復帰時の空気量がいわゆるアイドル開度での量より多くなる。したがって、燃料の供給を再開することに伴って内燃機関が発生するトルクが、アクセルペダルの操作量あるいは駆動要求量より大きくなってしまう可能性がある。
【0012】
この発明は、上記の技術的課題に着目してなされたものであり、吸入空気量を増大させる制御を伴うフューエルカット制御から復帰する際にエンジン出力トルクが増大することを防止もしくは抑制することのできる制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、燃料が供給されずに回転している状態における吸入空気量の増大に応じて動力損失が低減するエンジンの出力側に変速比が連続的に変化する変速機が連結され、前記エンジンおよび変速機を搭載した車両の走行中に予め定めた所定の条件が成立することにより前記エンジンに対する燃料の供給を停止し、その燃料の供給停止中に前記吸入空気量を増大させる車両の制御装置において、前記エンジンに対する燃料の供給を再開する場合に、前記増大させた吸入空気量を減少させる制御を行うように構成されていることを特徴とするものである。
【0014】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記増大させた吸入空気量を減少させる制御は、前記燃料供給の再開に先行して行うように構成されていることを特徴とする車両の制御装置である。
【0015】
請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記エンジンは、前記吸入空気量を制御するためのスロットルバルブを備え、前記増大させた吸入空気量を減少させる制御は、前記スロットルバルブの開度を減少させる制御を含み、かつ前記吸入空気量が前記減少させたスロットルバルブの開度に対応した量になった際に燃料の供給が再開されるようにスロットルバルブの開度の減少を指示する制御を含むことを特徴とする車両の制御装置である。
【0016】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記エンジンは、前記吸入空気量を制御するためのスロットルバルブを備え、前記増大させた吸入空気量を減少させる制御は、前記スロットルバルブを一旦閉じ側に動作させる制御を含むことを特徴とする車両の制御装置である。
【0017】
請求項5の発明は、請求項4の発明において、前記スロットルバルブを一旦閉じ側に制御した後、前記エンジンの吸気管圧が予め定めた圧力まで低下した場合、あるいは予め設定したガード時間が経過した場合に、前記燃料の供給を再開するように構成されていることを特徴とする車両の制御装置である。
【0018】
請求項6の発明は、請求項4の発明において、前記スロットルバルブは、エンジン回転数をアイドリング回転数に維持するアイドル開度および該アイドル開度より小さい開度に設定可能なスロットルバルブを含み、前記スロットルバルブを一旦閉じ側に動作させる制御は、前記スロットルバルブの開度を前記アイドル開度より小さい開度に絞った後に前記アイドル開度に設定する制御を含むことを特徴とする車両の制御装置である。
【0019】
請求項7の発明は、請求項6の発明において、前記アイドル開度より小さい開度は、前記エンジンのアイドリング状態を判定可能な開度であることを特徴とする車両の制御装置である。
【0020】
請求項8の発明は、請求項4の発明において、前記エンジンに対する燃料の供給を停止している際に前記スロットルバルブを開いて前記吸入空気量を増大させている状態で前記スロットルバルブを開く加速要求があることにより前記燃料の供給を再開する場合、前記スロットルバルブを前記加速要求になる開度より小さい開度に一旦動作させる制御を行うように構成されていることを特徴とする車両の制御装置である。
【0021】
請求項9の発明は、請求項8の発明において、前記スロットルバルブを前記加速要求になる開度より小さい開度に一旦動作させる制御に続けて前記スロットルバルブの開度を加速要求に応じた開度に向けて増大させる制御を行うように構成されていることを特徴とする車両の制御装置である。
【0022】
請求項10の発明は、請求項1ないし9の発明において、前記エンジンは、点火時期を遅角することにより出力トルクが低下するエンジンを含み、そのエンジンに対する燃料の供給を再開する際に前記点火時期を遅角する制御を実行するように構成されていることを特徴とする車両の制御装置である。
【0023】
請求項11の発明は、請求項10の発明において、前記点火時期の遅角量を少なくする遅角減少割合は、前記エンジンに対する燃料の供給再開直後で相違的に小さく、その後に相対的に大きくすることを特徴とする車両の制御装置である。
【0024】
請求項12の発明は、請求項1ないし11のいずれかの発明において、前記変速機は、流体継手と、その流体継手における入力側の部材と出力側の部材とを直接連結する直結クラッチとを備え、前記エンジンに対する燃料の供給を停止している際に前記スロットルバルブを開いて前記吸入空気量を増大させかつ前記直結クラッチを係合させている状態で前記車両の加速要求があった場合に、前記直結クラッチを解放させるように構成されていることを特徴とする車両の制御装置である。
【0025】
請求項13の発明は、請求項12の発明において、前記エンジンに対する燃料の供給を停止している際に前記スロットルバルブを開いて前記吸入空気量を増大させかつ前記直結クラッチを係合させている状態で前記車両の駆動輪の路面に対するスリップ率が大きいことが判定された場合に、前記直結クラッチを解放させるように構成されていることを特徴とする車両の制御装置である。
【発明の効果】
【0026】
この発明によれば、車両の減速時におけるエンジンの回転数がいわゆる復帰回転数以上であれば、エンジンに対する燃料の供給を停止するフューエルカットが実行される。そして、フューエルカット中の車速の低下に伴って、変速比が増大させられ、その結果、エンジンの回転数が維持され、あるいはその回転数の低下が抑制される。さらに、フューエルカット中の変速比の増大に伴う減速力の増大を抑制もしくは回避するように、すなわち減速力を維持するように、エンジンの吸入空気量が増大させられる。そして、フューエルカットの終了によってエンジンに対する燃料の供給を再開する場合、前記増大させた吸入空気量が減少させられる。特に請求項2の発明では、燃料の供給に先行して吸入空気量が減少させられる。したがって、燃料が供給されてエンジンが出力するトルクは、空気量が過剰もしくは余分でないことにより、特には大きくなることがなく、ショックや乗り心地が悪化するなどのことが防止もしくは抑制される。
【0027】
請求項3の発明によれば、吸入空気量はスロットルバルブの開度を減少させることにより実行され、その開度の減少の指示は、吸入空気量が、減少させたスロットル開度に対応する量に低下した時点に燃料の供給が再開されるように実行される。したがって、実際の吸入空気量の変化の遅れを反映した制御が実行され、その結果、燃料の供給を再開した時点に空気が過剰もしくは余分になることを、より確実に防止もしくは抑制することができる。
【0028】
請求項4の発明によれば、吸入空気量を減少させる場合、スロットルバルブを一旦閉じ側に制御するので、エンジンが回転しているにも拘わらず、吸気がより積極的に制限されることになり、したがって空気をより積極的にエンジンから追い出すことができる。
【0029】
上記の請求項4の発明によるように制御する場合、請求項5に記載されているように、燃料の供給の再開は、吸気管圧力が所定の圧力に低下するまで、あるいは予め定めたガード時間が経過した時点まで、遅延させられる。このように制御することにより、空気が過剰もしくは余分な状態で燃料の供給が再開されることを防止もしくは抑制することができる。
【0030】
請求項6の発明によれば、燃料の供給を再開するのに先立って、スロットル開度をいわゆるアイドル開度より小さい開度に一旦絞り、その後にアイドル開度に設定するから、アイドル開度に設定するまえに、吸気をより積極的に制限した状態でエンジンが回転しているので、空気がより積極的に追い出される。そのため、アイドル開度になって燃料の供給を再開した際に、空気が過剰もしくは余分になっている事態を回避することができる。
【0031】
なお、スロットル開度を絞るとしても、請求項7に記載してあるように、アイドル判定が可能な範囲で絞ることにより、アイドル判定に支障を来すことを未然に防止することができる。
【0032】
また、請求項8あるいは請求項9の発明によれば、吸入空気量を変速比の増大に伴って増大させているいわゆるフューエルカット状態で、スロットルバルブを開く加速要求があった場合、スロットル開度を直ちに加速要求に応じた開度に設定せずに、一旦、加速要求に応じた開度より小さい開度に減少させる。したがって、エンジントルクをフューエルカットを伴う減速状態でのトルクもしくはそれに近いトルクから次第に増大させることができる。
【0033】
さらに、請求項10あるいは請求項11の発明によれば、燃料の供給を再開する際に点火時期の遅角制御が実行されるので、車両の駆動トルクが急激に増大することを防止もしくは抑制することができる。
【0034】
また、請求項12の発明によれば、エンジンに対する燃料の供給を再開してエンジンの出力トルクが増大するとしても、エンジントルクを伝達する直結クラッチが解放されて、流体継手を介してエンジントルクが伝達されるので、エンジントルクの変化が流体継手によって緩和され、駆動トルクが急激に変化することを防止もしくは抑制することができる。
【0035】
そして、いわゆる低μ路などで駆動輪が滑り易い状態では、請求項13に記載されているように、エンジンに対する燃料の供給を停止した減速時にロックアップクラッチが解放させられて、エンジンの動力損失に伴う制動力が駆動輪に伝達されにくくなるので、車両の挙動を安定させ易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】ポンピングロスを低減するために吸入空気量を増大させるタイミングおよびその吸入空気量を求めるための制御例を示すフローチャートである。
【図2】図1の制御例で求められる吸入空気量の増大開始タイミングを示す線図である。
【図3】図1の制御例で求められるスロットル開度の一例を示す線図である。
【図4】図1に示す制御を行った場合のロックアップ、フューエルカット、車速、スロットル開度、吸気管圧、エンジン軸トルク、変速比、前後Gの変化を模式的に示すタイムチャートである。
【図5】スロットルバルブを閉じる制御をいわゆる前出しする制御例を説明するためのフローチャートである。
【図6】その前出しのためのいわゆる不足時間を説明するための線図である。
【図7】図5に示す制御を行った場合のロックアップ、フューエルカット、車速、スロットル開度、吸気管圧、エンジン軸トルク、変速比、前後Gの変化を模式的に示すタイムチャートである。
【図8】ポンピングロスの低減制御を行っている際に駆動要求があってフューエルカット復帰を行い、その際にスロットル開度に運転者の加速意図を反映させる制御の一例を説明するためのフローチャートである。
【図9】図8に示す制御例で採用するドライバー要求反映係数の一例を示す線図である。
【図10】図9に示す制御を行った場合のロックアップ、フューエルカット、アクセル開度、アイドルスイッチ、車速、スロットル開度、吸気管圧、エンジン軸トルク、変速比、前後Gの変化を模式的に示すタイムチャートである。
【図11】フューエルカット復帰の際に空気の追い出しを促進するべくスロットル開度を機構上可能な低開度にまで絞る制御例を説明するためのフローチャートである。
【図12】図11に示す制御を行った場合のスロットル開度および吸気管圧の変化を模式的に示すタイムチャートである。
【図13】図11に示す制御を行った場合のロックアップ、フューエルカット、車速、スロットル開度、吸気管圧、エンジン軸トルク、変速比、前後Gの変化を模式的に示すタイムチャートである。
【図14】フューエルカット復帰の際に空気の追い出しを促進するべくスロットル開度をアイドル判定可能な開度にまで絞る制御例を説明するためのフローチャートである。
【図15】図14に示す制御を行った場合のスロットル開度および吸気管圧の変化を模式的に示すタイムチャートである。
【図16】図14に示す制御を行った場合のロックアップ、フューエルカット、アクセル開度、アイドルスイッチ、車速、スロットル開度、吸気管圧、エンジン軸トルク、変速比、前後Gの変化を模式的に示すタイムチャートである。
【図17】フューエルカット復帰を吸気管圧の低下あるいはガード時間で制御するように構成した例を説明するためのフローチャートである。
【図18】そのガード時間を説明するための線図である。
【図19】図17に示す制御例でのフューエルカット復帰のタイミングの一例を説明するための線図である。
【図20】図17に示す制御を行った場合のロックアップ、フューエルカット、車速、スロットル開度、吸気管圧、エンジン軸トルク、変速比、前後Gの変化を模式的に示すタイムチャートである。
【図21】ポンピングロスの低減制御を行っている際に駆動要求があった場合にロックアップクラッチを優先して解放するように構成した制御例を説明するためのフローチャートである。
【図22】図21に示す制御を行った場合のロックアップ、フューエルカット、アクセル開度、アイドルスイッチ、車速、スロットル開度、吸気管圧、エンジン軸トルク、変速比、前後Gの変化を模式的に示すタイムチャートである。
【図23】フューエルカット復帰の際に行う遅角制御の一例を説明するためのフローチャートである。
【図24】その制御による点火時期とベーストルクとの変化を模式的に示す線図である。
【図25】図23に示す制御を行った場合のロックアップ、フューエルカット、車速、スロットル開度、吸気管圧、点火時期、エンジン軸トルク、変速比、前後Gの変化を模式的に示すタイムチャートである。
【図26】ロックアップクラッチを係合したフューエルカット制御中に低μ路判定が成立した場合にロックアップクラッチを解放する制御の一例を説明するためのフローチャートである。
【図27】図26に示す制御を行った場合の低μ路判定、ロックアップ、フューエルカット、車速、変速比、前後Gの変化を模式的に示すタイムチャートである。
【図28】この発明で対象とする車両の駆動系統の一例を模式的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
つぎにこの発明をより具体的に説明する。先ず、この発明で対象とする車両について説明すると、この発明で対象とする車両は、いわゆるフューエルカット制御の可能なエンジンを搭載した車両である。そのフューエルカット制御とは、前述したように、車両の有する走行慣性力によってエンジンが強制的に回転させられている状態でエンジンに対する燃料の供給を停止し、また燃料の供給を再開することにより、自律回転に復帰させる制御である。また、そのエンジンは、燃料の供給を停止した状態で回転している場合に、吸入空気量を増大させることにより動力損失(主としてポンピングロス)が低下する特性のあるエンジンである。このようなエンジンには、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関が相当するが、ガソリンエンジンが典型的な例である。
【0038】
図28に、エンジン1の一例を模式的に示してあり、吸気管2の途中には、スロットルバルブ3が設けられ、その開度に応じた吸気量に制御するように構成されている。そのスロットルバルブ3は電気的に制御されるスロットルアクチュエータ4によって開閉させられるように構成されており、またその開度を検出して信号を出力するスロットルセンサ5が設けられている。この種のスロットルバルブ3は、電子スロットルバルブと称される従来知られているバルブである。さらに、吸気管2にはその内部を流れる空気量を検出して信号を出力する空気量センサ6が設けられている。この空気量センサ6は、図28ではスロットルバルブ3より上流側に配置されているが、スロットルバルブ3の下流側に配置されていてもよい。さらに、排気管7には、排気を浄化するための三元触媒(触媒コンバータ)8が設けられている。
【0039】
なお、図28には燃料の供給のための機構が記載されていないが、この発明で対象とするエンジン1は、吸気に拘わらず燃料の供給およびその停止を行うことができるエンジンであればよい。したがって、この発明で対象とするエンジン1は、吸気ポートもしくはシリンダ(燃焼室)内に燃料を噴射するように構成された従来知られているエンジンであってよい。
【0040】
この発明で対象とする車両は、エンジン1が出力したトルクを変速機9を介して駆動輪(図示せず)に伝達して走行するように構成されている。その変速機9は、入力回転数と出力回転数との比率を適宜に変化させることのできる伝動機構であればよく、従来知られている無段変速機や有段変速機であってよい。前記エンジン1の動力損失(ポンピングロス)が吸入空気量に応じて変化し、その吸入空気量が連続的に変化することを考慮すると、変速機9は変速比を連続的に変化させることのできる無段変速機によって構成されていることが好ましい。
【0041】
その無段変速機としては、ベルト式無段変速機やトロイダル型無段変速機を採用することができ、図28にはベルト式無段変速機の例を示してある。図28に示す変速機9は、溝幅を変更できる可変プーリによって駆動プーリ(プライマリプーリ)10および従動プーリ(セカンダリプーリ)11が構成されており、これらのプーリ10,11にベルト12が巻き掛けられ、各プーリ10,11の溝幅を変化させてベルト12を巻き掛けている実効半径を変化させることにより、各プーリ10,11の回転数の比率すなわち変速比を変化させるように構成されている。
【0042】
変速機9の入力要素にエンジン1からトルクを伝達するように構成されている。この発明で対象とする車両においても、エンジン1から変速機9に対して直接トルクを伝達せずに、ダンパーやトルクコンバータあるいはクラッチなどの適宜の伝動機構を介してトルクを伝達するように構成されている。図28に示す例では、前後進切替機構13とトルクコンバータ14とを介して、エンジン1から変速機9にトルクを伝達するように構成されている。
【0043】
前後進切替機構13は入力されたトルクの方向を反転して出力する機構であり、遊星歯車機構や遊星ローラ機構あるいは常時噛み合っている複数の歯車からなる機構など従来知られている適宜の機構を採用することができる。なお、トルクの方向を反転させるだけでなく、固定された変速比でトルクを増減するように構成されていてもよい。前記エンジン1の出力軸であるクランク軸15が前後進切替機構13の入力部材に連結されている。そのクランク軸15の回転数をエンジン回転数として検出して信号を出力するエンジン回転センサ16が設けられている。
【0044】
上記の前後進切替機構13における出力部材がトルクコンバータ14における入力側の部材すなわちポンプインペラーに連結されている。図28に示すトルクコンバータ14はロックアップクラッチ17を備えた従来知られているものと同様の構造のものであり、出力部材であるタービンランナーと上記のポンプインペラーとをロックアップクラッチ17によって直接連結できるように構成されている。なお、ロックアップクラッチ17は完全係合状態とトルクを伝達しない完全解放状態との二つの状態以外に滑りを伴ってトルクを伝達するスリップ状態にも設定できるように構成されている。なお、トルクコンバータ14はトルクの増幅作用のない流体継手に置き換えることもでき、その場合であってもロックアップクラッチ17を備えていることが好ましい。
【0045】
そして、トルクコンバータ14における出力部材であるタービンランナーが変速機9の入力軸18に連結されている。この入力軸18は、前述したプライマリプーリ10と一体となって回転する軸であり、その回転数を変速機9の入力回転数として検出しかつ信号を出力する入力回転数センサ19が設けられている。なお、変速機9におけるセカンダリプーリ11には出力軸20が一体となって回転するように設けられており、その出力軸20の回転数を変速機9の出力回転数として検出しかつ信号を出力する出力回転数センサ21が設けられている。
【0046】
図28に示す例では、上述したスロットルバルブ3の開度の制御、ロックアップクラッチ17の係合・解放の制御、前後進の切り替え制御、変速制御などの制御を電気的に行うように構成されており、そのための電子制御装置(ECU)22が設けられている。この電子制御装置22はいわゆるマイクロコンピュータを主体として構成され、前述した各センサから入力される信号(すなわちデータ)や他のセンサから入力される信号、さらにはエンジン1に対する燃料の供給停止を制御するフューエルカット装置23から伝送されるデータなどに基づいて演算を行い、その演算結果を制御信号として前記スロットルアクチュエータ4やトルクコンバータ14、変速機9などに出力するように構成されている。なお、電子制御装置22に検出信号を伝送する他のセンサの例を挙げると、ブレーキペダル24の踏み込み量(すなわちブレーキストローク)を検出して信号を出力するブレーキストロークセンサ25、アクセルペダル26の踏み込み量(すなわちアクセル開度)を検出して信号を出力するブレーキストロークセンサ27、ブレーキ踏力を油圧に変換するマスターシリンダ28の油圧を検出して信号を出力するブレーキマスター圧センサ29などである。なお、図28に記載してある符号30はブレーキブースタを示す。
【0047】
また、上記のフューエルカット装置23について説明すると、このフューエルカット装置23は所定の条件が成立することにより、エンジン1に対する燃料の供給を停止する指令信号を出力するように構成された装置である。そのフューエルカットを行うための条件は、前提条件と実行条件に分けることができ、その前提条件は、エンジン1の暖機が終了していること、三元触媒8の温度が予め定めた活性温度に達していること、センサ類に異常がないことなどである。また、実行条件は、アクセル開度がほぼゼロであること、あるいは予め定めた基準値より小さいこと、もしくは車速を設定車速に維持するクルーズコントロールシステム(図示せず)からの駆動要求信号がないなど、駆動要求量が予め定めた所定値以下であること、エンジン回転数が予め定めた復帰回転数以上であることなどである。したがって、エンジン回転数が復帰回転数にまで低下すると、フューエルカットが中止され、エンジン1に対する燃料の供給が再開される。
【0048】
上述した車両では、上記の所定の条件が成立することによって、エンジン1に対する燃料の供給が停止させられ、そのいわゆるフューエルカット制御は、吸入空気量の制御および変速比の制御ならびにロックアップクラッチ17の制御と連携して実行される。そのフューエルカットの一般的もしくは通常の制御は、前述した前提条件が成立し、かつアクセルペダル26が踏み込まれていないなど駆動要求量が予め定めた値以下であり、またエンジン回転数が復帰回転数として予め設定した回転数以上であることにより実行される。その場合、車速が相対的に高車速であれば、ロックアップクラッチ17が係合させられる。なお、ロックアップクラッチ17を係合させる車速は、車体に伝播する振動や騒音などが違和感とならないように予めマップとして設定しておくことができる。
【0049】
また、変速機9がベルト式無段変速機やトロイダル型無段変速機などのいわゆる機械式無段変速機によって構成されている場合には、走行中でなければ変速比を変化させることが困難であるから、減速中に変速比が次第にロー側に増大させられる。これは、無段変速機における通常の制御であり、したがってフューエルカットを伴う減速中であっても同様に実行される。変速比が増大すると、エンジン1での動力損失を利用した減速力(もしくは制動力)が変速比に応じて増大する。なお、その動力損失は、エンジン1が空気を吸入しかつ圧縮して押し出すことによるポンピングロスが主な損失であり、これに摩擦損失や補機類の負荷などを加えたものである。
【0050】
そこで、この発明に係る制御装置は、変速比の増大に伴う減速力の増大を抑制し、あるいは減速力を一定に維持するために、フューエルカット中の変速比の増大に合わせてエンジン1のポンピングロスを低減する制御を実行する。その制御は、具体的には、吸入空気量を次第に増大させる制御であり、その一例は前述したスロットルバルブ3の開度を増大させる制御である。なお、メインスロットルバルブと並列にアイドルスピードコントロールバルブを設けてあるエンジンにおいては、そのアイドルスピードコントロールバルブの開度を増大させて吸入空気量を増大させてもよく、またメインスロットルバルブとアイドルスピードコントロールバルブとの両方の開度を次第に増大させて吸入空気量を増大させてもよい。さらに、エンジンに設けられている吸気バルブの開閉タイミングを変化させることができる場合には、その吸気バルブの開時間を長くして吸入空気量を増大させる制御を併用してもよい。
【0051】
このように変速比の増大に合わせて吸入空気量を増大させる制御は、吸入空気量を増大させてフューエルカット制御を実行し、その状態でのフューエルカット制御を終了したと仮定した場合の終了時点の車両加速度(もしくは車両減速度)と、吸入空気量を増大させずにフューエルカット制御を実行したと仮定した場合の車両加速度(もしくは車両減速度)とに基づいて定まる時点に開始し、その吸入空気量は車両加速度の変化および車両加速度の変化率の変化が可及的に小さくなるように制御する。
【0052】
その制御の一例を図1にフローチャートで示してある。図1に示すルーチンは、車両が走行している場合に所定の短い時間毎に実行される。先ず、ロックアップクラッチ17が係合しているか否か、すなわちロックアップ・オンか否かが判断される(ステップS1)。ロックアップクラッチ17は、前述したように、トルクコンバータ14の入力部材と出力部材とを直接連結するクラッチであるから、これが係合すると、エンジン1のトルク変動に起因する振動や騒音が前後進切替機構13や変速機9などに伝達される。そのため、エンジン負荷が大きい場合やエンジン回転数が相対的に低回転数の場合には、搭乗者が感じる振動や騒音が顕著になり、乗り心地を損なう要因になる。そこで、ロックアップクラッチ17を係合させる運転領域を車速やエンジン負荷(アクセル開度やスロットル開度など)によってマップの形で予め定めており、所定の車速以下および所定のエンジン負荷以上の領域では、ロックアップクラッチ17を解放することとしている。このような制御は、従来知られているロックアップクラッチの制御と同様である。
【0053】
したがって、ステップS1の判断は、車速およびエンジン負荷に基づいて行うことができ、あるいは前述した電子制御装置22からトルクコンバータ14に出力されている指令信号の内容に基づいて判断することができる。ロックアップクラッチ17が係合していることによりステップS1で肯定的に判断された場合には、フューエルカット制御が実行されているか否かが判断される(ステップS2)。すなわち、フューエルカット・オンか否かが判断される。フューエルカットは、前述したように、前提条件および実行条件が成立することにより実行されるから、これらの条件が成立している場合にステップS2で肯定的に判断される。また、これらの条件が成立すると、フューエルカット装置23がエンジン1に対する燃料の供給を停止させる信号を出力し、その状態が前記電子制御装置22に伝送されるので、その伝送されるデータに基づいてステップS2の判断を行うことができる。
【0054】
フューエルカット制御が実行されていてステップS2で肯定的に判断された場合には、アイドルスイッチがオンか否か、あるいはアクセル開度が予め定めた所定値α以下か否かが判断される(ステップS3)。このステップS3は、フューエルカット制御を実行している際にその制御を中止する条件が成立したか否かを判断するためのものである。ここでアイドルスイッチとは、アクセルペダル26が踏み込まれていないことによりオンとなって、エンジン1をアイドリング状態に制御するための信号を出力するスイッチであり、エンジンを搭載している車両に通常設けられているスイッチである。また、アクセル開度を判定するための上記の所定値αは、要は、アクセルペダル26が踏み込まれていないことを判定するためのものであり、したがって所定値αはゼロもしくはゼロに近い値である。なお、上記のステップS1ないしステップS3の判断の順序は任意であって、図1に示す順序でなくてもよい。
【0055】
ステップS3で肯定的に判断された場合には、吸入空気量を変速比の増大に応じて増大させる制御の開始しきい値が算出される(ステップS4)。このステップS4で算出する制御開始しきい値は、吸入空気量の増大開始からフューエルカット制御の中止すなわち復帰までの間における減速力(車両加速度もしくは車両減速度)が可及的に一定となるように、すなわち吸入空気量を増大させてから終了するまでの間における車両加速度の変化の偏差および変化率の変化が相対的に小さくなるように、吸入空気量の増大開始のタイミングを設定するためのものである。したがって、エンジン1のポンピングロスを低減するように吸入空気量を増大させた状態、すなわち燃料の供給を停止しかつ吸入空気量を前記車両に対する駆動要求量が予め定めた値以下であることによって該値に基づいて決まる量より多い量に維持して減速したと仮定した状態でフューエルカット復帰制御を行った場合の車両加速度と、吸入空気量を増大させる際、すなわち燃料の供給を停止しかつ吸入空気量を前記車両に対する駆動要求量が予め定めた値以下であることによって該値に基づいて決まる量に維持して減速した際の車両加速度とに基づき、これらの差および車両加速度の変化率の変化が可及的に小さくなるように、吸入空気量増大タイミングを設定するようにしきい値が求められる。なお、フューエルカット復帰の時点(タイミング)は、エンジン回転数が復帰回転数に達すること、あるいはそれに先行してロックアップクラッチ17が解放させられることに基づいて検出することができる。また、算出に用いるこれらの車両加速度は、検出のタイミングのズレや何らかの外乱などによって実際の車両加速度とは必ずしも一致しない場合があるので、設計上決めることのできる車両加速度を補正するなどして当該車両加速度に基づいて求まる他の車両加速度であってもよい。
【0056】
ステップS4での制御内容を更に具体的に説明すると、制御開始しきい値は、予め用意した特性マップを用いて行うことができ、例えば減速力の増大を抑制できる効果が生じる範囲内で吸入空気量を増大させるとした場合に、車両加速度変化量ジャーク(減速度の増大量もしくは増大幅)が一定かつ最小となる変速比のしきい値γ1がステップS4で算出される。図2はその算出の手法を説明するための図であって、フューエルカット制御中における無段変速機の変速比γの変化およびそれに伴う車両加速度の変化が示されている。
【0057】
前述したように、無段変速機によって構成されている変速機9の変速比(CVT変速比)γは、車両が停止した際には最大変速比に戻っている必要があるので、車速の低下(時間の経過)に伴って次第に増大させられる。変速比γの増大に伴って車両加速度は次第に低下する(減速度もしくは減速力が次第に増大する)。図2において、車両加速度を示す線LISCは、エンジン1に対する吸入空気量を、駆動要求量が予め定めた値以下であることに基づいて決まる量に維持してフューエルカットを行ったと仮定した場合の車両加速度の変化を示している。すなわち、線LISCはエンジン1をアイドリング状態に維持するようにスロットル開度を維持した場合の車両加速度の変化を示す曲線である。また、図2において、車両加速度を示す線LOPNは、フューエルカットを実行して減速している際の吸入空気量を、上記のアイドル状態を維持する吸入空気量より多くかつポンピングロスの低減効果のある範囲内での吸入空気量に維持したと仮定した場合の車両加速度の変化を示している。したがって、線LOPNで示している車両加速度は、吸入空気量をアイドリング状態を維持する量とした場合の車両加速度よりも大きくなる(減速力が小さくなる)。
【0058】
フューエルカットを行って減速していれば、いずれは車速がロックアップ領域の下限車速にまで低下してロックアップクラッチ17を解放(ロックアップ・オフ:L/U−OFF)することになる。また、車速の低下に伴って変速比γを増大させてもいずれはエンジン回転数がフューエルカット復帰回転数にまで低下し、あるいはロックアップ・オフによってエンジン回転数が低下する。フューエルカットを行って減速している際にロックアップクラッチ17を解放する制御を実行すると、その指令信号の出力の直後にロックアップクラッチ17が解放するとともにエンジン回転数が低下し、その結果、エンジン回転数が復帰回転数になると燃料の供給が再開される。したがって、設計上知り得るロックアップ・オフの時点をフューエルカットの終了(復帰)の時点として設定する。
【0059】
このフューエルカット復帰時点では、その過程で吸入空気量が増大させられることにより、車両加速度は、アイドリング状態を維持する吸入空気量の場合より大きくなっている。したがって、前記線LOPNは通常のフューエルカット制御における復帰時に到達する吸入空気量での車両加速度を示す線として設定しておき、その線LOPNとロックアップ・オフの時点(この発明における第1の所定時点に相当する)を示す直線との交点(図2のA点)で示される車両加速度がフューエルカット制御中に到達する車両加速度となる。
【0060】
車両の走行中にアクセルペダル26を戻して減速状態に入り、それに伴ってフューエルカットが開始されるから、フューエルカット開始した後、最終的には上記のA点で示される車両加速度に到達する過程での車両加速度の変化およびその変化率の変化を可及的に小さくするためには、いわゆるアイドル開度での車両加速度を示す前記線LISC上のいずれかの点と前記A点とを結ぶ線がアイドル開度の線LISCに滑らかに連続していることが好ましい。そこで、図2に示す例では、上記のA点からアイドル開度の線LISCに接線Ltを引き、その接線Ltとアイドル開度の線LISCとの交点Bを求める。そして、この交点Bで示される時点を吸入空気量の増大開始時点(この発明における第2の所定時点)とする。なお、この交点Bは設計上求めることのできる点であるが、実際の車両では変速比や車両加速度に設計値とのズレがある場合があるから、上記の交点Bで定まる時点に基づいて求めた他の時点、すなわち交点Bで求まる時点を、上記のズレなどのデータで適宜補正した時点を、吸入空気量の増大開始時点としてもよい。
【0061】
そして、こうして求められた吸入空気量の増大制御開始の時点における変速比をしきい値γ1とする。変速比は、車速や駆動要求量に基づいて算出されるから、上記の吸入空気量の増大開始時点の変速比すなわちしきい値γ1は車速や駆動要求量(もしくはアクセル開度)などに基づいて算出することができる。
【0062】
以上のようにして吸入空気量の増大開始時点もしくは吸入空気量を増大させる制御を開始する変速比のしきい値γ1を求めた後、その開始状態もしくは開始時点に達したか否かが判断される(ステップS5)。図1に示す制御例では、変速比γがしきい値γ1以上か否かが判断される。すなわち、フューエルカットを伴う減速の際にエンジン回転数を復帰回転数以上に維持するべく変速比γを次第に増大させるので、その変速比γがしきい値γ1まで増大したか否かが判断される。このステップS5で肯定的に判断された場合には、吸入空気量を増大させることになるので、その吸入空気量が算出される(ステップS6)。図1に示す制御例では、設定するべきスロットル開度(目標スロットル開度)が求められる。
【0063】
前述したように、吸入空気量の増大開始時点におけるスロットル開度はいわゆるアイドル開度である。これに対してロックアップ・オフの時点のスロットル開度は、エンジン1のポンピングロスを低減するべく吸入空気量を増大させる開度として予め設定されている開度である。そして、その時点(A点)での変速比γ2は車速に応じて定まる既知の値である。したがって、変速比γを上記の「γ1」から「γ2」に増大させる間にスロットル開度をいわゆるアイドル開度から前記線LOPNで示される開度に増大させればよいのであるから、スロットル開度は変速比γに比例して増大するように制御する。その例を図3に示してあり、変速比γとスロットル開度とによる直交座標に、しきい値γ1とアイドル開度TAISCとで定まる点、およびロックアップ・オフの時点の変速比γ2と前記線LOPNに対応するスロットル開度TAOPNとで定まる点を設定し、これらの点を結んだ直線で表されるスロットル開度を、フューエルカット制御中の各変速比γに対応するスロットル開度とする。なお、スロットル開度の変化と実際の吸入空気量の変化とには不可避的な時間のズレが生じるから、そのようなズレを考慮して、スロットル開度の制御開始時点(B点)や終了時点(A点)あるいはそれらの近傍でのスロットル開度の変化を直線的な変化とせずに適宜に補正した変化としてもよい。また、スロットル開度の制御は、直線で表される変化勾配とする以外に、車両の特性あるいは要求される特性などに応じて、曲線で表される変化傾向となるように行ってもよい。なお、前記B点をスロットル開度の制御開始時点とし、前記線Ltに沿ってスロットル開度を変化させるとすれば、前記LISCのB点での勾配が線Ltの勾配に一致するから、吸入空気量を増大し始めることに伴う車両加速度の変化率の変化が最も小さくなる。
【0064】
このようにステップS6でフューエルカット制御中の変速比の増大に伴って増大させる吸入空気量の制御量あるいはスロットル開度の制御量(具体的に開度)を求めた後、これを目標スロットル開度として制御指令信号が出力される(ステップS7)。
【0065】
なお、フューエルカット中の減速度は上記のように変速比と、ポンピングロスに関係する吸入空気量とに応じて変化するのであるから、吸入空気量をスロットル開度以外の手段で変化させることができるように構成されたエンジンであれば、目標スロットル開度を求めることに替えて、目標吸入空気量を求めることとしてもよい。その目標吸入空気量は、一例として、上述のようにして求めた目標スロットル開度を吸入空気量に換算して求めることができる。
【0066】
上述した各判断ステップS1,S2,S3,S5のいずれかで否定的に判断された場合、すなわちロックアップクラッチ17が解放されている場合、フューエルカット制御が実行されていない場合、アイドルスイッチがオフであったり、あるいはアクセル開度が所定値αより大きい場合、変速比γが前述したしきい値γ1より小さい場合のいずれかの場合には、通常の制御による目標スロットル開度が算出される(ステップS8)。ここで、通常の制御とは、アクセルペダル26が踏み込まれていてそのアクセル開度に応じたスロットル開度を設定する制御や、アクセルペダル26が踏み込まれていずに戻されているもののフューエルカット制御が実行されていないことにより、エンジン1のアイドル状態を維持するようにアクセル開度を設定する制御である。前者のアクセル開度に応じてスロットル開度を設定する制御では、両者の関係を規定するマップあるいは特性曲線を予め用意し、そのマップもしくは特性曲線に基づいてスロットル開度が設定される。また、後者のアイドル状態を維持する制御では、エンジン水温や補機類の負荷などに応じてアイドル回転数やスロットル開度を決めておき、そのスロットル開度を目標スロットル開度とした制御が行われる。こうして求められた目標スロットル開度は、前述したステップS7において制御指令信号として出力される。
【0067】
上述した図1に示す制御を行った場合の車両加速度(前後G)やスロットル開度、吸気管圧などの変化を図4に示してある。なお、図4の実線が上記の図1に示す制御を行った場合の例を示し、破線は吸入空気量を増大させなかった場合の例を示している。ロックアップクラッチ17を係合させ、かつフューエルカットを実行している減速中には、車速の低下に伴って変速比γがハイギヤ側からローギヤ側に次第に増大させられる。この状態では、エンジンの軸トルク(ENG軸トルク)は負の値となっており、前後Gが次第に低下する(減速力が次第に増大する)。この過程で変速比γが前述したしきい値γ1に達すると(t1時点)、スロットル開度が変速比の増大に応じて次第に増大させられ、それに応じて吸気管圧が次第に高くなる。エンジン1に対する吸入空気量が増大すると、そのポンピングロスが低減され、その結果、エンジン軸トルクがポンピングロスの低減分、増大する(負トルクが小さくなる)。また、前後Gの負側への増大(減速力の増大)が緩和される。
【0068】
車速が低下してロックアップ領域の下限車速に達すると、ロックアップクラッチ17が解放させられる(t2時点)。これと同時にスロットル開度が、エンジン1をアイドリング状態に維持するいわゆるアイドル開度(アイドルスピードコントロール(ISC)分の開度)に絞られる。したがって、吸気管圧やエンジン軸トルクが次第に低下する。なお、前後Gは、吸入空気量もしくは吸気管圧が急激に低下するわけではないから、直ちに低下することはない。
【0069】
ロックアップクラッチ17を解放させる指令信号が出力された直後に、エンジン1を強制的に回転させるようにエンジン1に作用するトルクが低下するので、エンジン1の回転数が復帰回転数にまで低下し、それに伴ってフューエルカット制御が中止される(t3時点)。すなわち燃料の供給が再開される。燃料の供給を再開することによってエンジン1がベーストルクを出力するので、前後Gはベーストルクに応じて大きくなる(減速力が低下する)。しかし、未だ車両が減速していてエンジン1は車両の慣性力によって強制的に回転させられ、いわゆるエンジンブレーキ力を発生しているので、前後Gは負の値となっている。そして、図4に実線で示す制御例では、前後Gあるいは減速力が過度に大きくなることがないうえに、スロットル開度や吸気管圧が急激に変化することがないので、前後Gの変化が滑らかであり、違和感のないフューエルカット制御および復帰制御を行うことができる。これに対して、図4に破線で示すように吸入空気量を増大させない比較例では、変速比の増大に応じて前後Gあるいは減速力が大きくなるので、運転者に違和感を与える可能性がある。
【0070】
さらに、上述した制御を行う制御装置によれば、フューエルカット中に吸入空気量を増大させる制御の開始時点を、ロックアップ・オフなどにより減速力が低減する時点の車両加速度(減速力)に基づいて規定できるから、減速時における変速比の増大の全過程に亘って吸入空気量を増大させる場合に比較して、吸入空気量を増大させる期間もしくは時間を相対的に短くすることができる。エンジン1が回転している状態での吸入空気量は、吸気管負圧を変化させ、また吸気管負圧はブレーキブースター30の負圧に影響を及ぼすから、上記のように吸入空気量を増大させる制御の実行時間が短いことにより、ブレーキブースター30の負圧が低下する期間あるいは時間を短くすることができる効果がある。
【0071】
なお、上述した図1のルーチンは、マイクロコンピュータを主体とする前記電子制御装置22によって実行されるから、前述したステップS1はロックアップ判断手段、ステップS2は燃料供給停止判断手段、ステップS3は被駆動状態判断手段、ステップS4は吸気増大開始時算出手段、ステップS5は吸気増大開始判断手段、ステップS6は目標吸気量算出手段、ステップS7は吸気増大指令手段と言うことができる。したがって、上記の制御装置は、「燃料が供給されずに回転している状態における吸入空気量の増大に応じて動力損失が低減するエンジンの出力側に変速比が連続的に変化する変速機が連結され、減速時のエンジン回転数が予め定めた復帰回転数以上の場合に前記エンジンに対する燃料の供給を停止し、かつ燃料の供給を停止している減速時の車速の低下に伴って前記変速比を増大させ、その変速比の増大に応じて前記吸入空気量を増大させる車両の制御装置において、前記燃料の供給を停止しかつ吸入空気量を前記車両に対する駆動要求量が予め定めた値以下であることによって該値に基づいて決まる量より多い量に維持して減速したと仮定した場合の、前記エンジン回転数が前記復帰回転数にまで低下した時点に基づいて定められた第1の所定時点における前記吸入空気量に応じた車両加速度もしくは該車両加速度に基づいて求められた他の車両加速度と、前記燃料の供給を停止しかつ吸入空気量を前記車両に対する駆動要求量が予め定めた値以下であることによって該値に基づいて決まる量に維持して減速した場合の車両加速度もしくは該車両加速度に基づいて求められた更に他の車両加速度とに基づいて定められた前記車両の減速中の第2の所定時点を、前記変速比の増大に伴う吸入空気量の増大の開始時点として求める吸気増大開始時算出手段を備えていることを特徴とする装置」と言うことができる。
【0072】
また、その装置は、「前記減速中における前記エンジンの吸入空気量を、前記第2の所定時点における前記値に基づいて決まる前記吸入空気量もしくは該吸入空気量を補正した量から前記第1の所定時点の前記吸入空気量もしくは該吸入空気量を補正した量にまで連続的に変化させる目標吸気量算出手段を更に備えていることを特徴とする装置」と言うことができる。
【0073】
ところで、フューエルカット制御中に変速比の増大に伴って吸入空気量を、アイドル状態を維持する量よりも多くすると、フューエルカット復帰に伴って燃料の供給を再開した時点のエンジン軸トルクが、アイドル状態を維持する際のトルクより大きくなる。例えばガソリンエンジンでは、吸入空気量に応じて燃料を供給し、したがって軸トルクが吸入空気量に応じて増大するからである。このようにフューエルカット復帰時にエンジン軸トルクが大きくなると、ショックが発生する可能性があり、これが乗り心地やドライバビリティなどの悪化の要因となることが考えられるので、フューエルカット復帰時のエンジン軸トルクの増大を抑制もしくは防止することが望ましい。
【0074】
フューエルカット復帰時におけるエンジン軸トルクの増大を防止もしくは抑制するためには、エンジン1内の空気量を減少させればよく、その制御は、スロットルバルブ3の開度を絞る制御のタイミングや絞り量を通常時とは異ならせて行うことができる。この発明に係る制御装置はそのようなフューエルカット復帰時に吸入空気量を減少させる制御を実行するように構成されており、その制御例を以下に説明する。図5に示す制御例は、スロットルバルブ3をいわゆるアイドル開度まで絞る指令信号を出力した時点から過剰な空気を実際に追い出すまでの時間と、スロットルバルブ3をいわゆるアイドル開度まで絞る指令信号を出力した時点からフューエルカット復帰予定までの時間とから不足時間ΔTneedを求め、スロットルバルブ3を絞るタイミングをその不足時間ΔTneed分、前出しするように構成されている。
【0075】
具体的に説明すると、図5に示す制御例では、先ず、エンジン1のポンピングロスを低減するための制御として吸入空気量を増大させる制御が実行されているか否かが判断される(ステップS11)。吸入空気量をスロットルバルブ3のみによって制御するように構成された車両では、スロットルバルブ3の開き制御中か否かが判断される。このステップS11で否定的に判断された場合、すなわちフューエルカット中における吸入空気量の増大制御が実行されていない場合には、特に制御を行うことなく図5のルーチンを一旦終了する。
【0076】
これに対して、フューエルカット中における吸入空気量の増大制御が実行されていることによりステップS11で肯定的に判断された場合には、ロックアップクラッチ17が係合している(ロックアップ・オン)か否かが判断される(ステップS12)。このステップS12で肯定的に判断された場合すなわちロックアップクラッチ17が係合していれば、フューエルカットを終了して燃料の供給を再開する場合、先ず、ロックアップクラッチ17を解放し、その後にエンジン回転数が復帰回転数にまで低下して燃料の供給が再開されることになる。したがって、フューエルカット制御の終了に伴ってスロットルバルブ3を閉じた場合に吸入空気量が、その時点の駆動要求量に即した量に減少するまでの時間、およびその時間に対する不足時間ΔTneedが求められる(ステップS13)。なお、ここで不足時間ΔTneedは、スロットルバルブ3を閉じた時点(もしくはロックアップ・オフの時点)から燃料の供給を再開する時点までの時間と、フューエルカット制御の終了に伴ってスロットルバルブ3を閉じた場合に吸入空気量がその時点の駆動要求量に即した量に減少するまでの時間との差である。これは、要は、ロックアップ・オフと同時に吸入空気量の増大制御を終了するのに対して、吸入空気量の増大制御を終了する時点をいわゆる前出しする時間を求める制御、あるいはエンジン1の燃焼室からいわゆる過剰もしくは不要な空気を排出する制御の実行タイミングを求めるための制御である。
【0077】
このステップS13での制御をより具体的に説明すると、スロットル開度を減じた後、そのスロットル開度に応じた吸気管圧となるまでの時間は、エンジン1の大きさや吸気管の構造などによって異なり、エンジン1毎に特性マップとして求めておくことができる。したがって、ロックアップ・オフからフューエルカット復帰までの時間と、上記の特性マップとから前述した不足時間ΔTneedが求められる。図6に特性マップの一例を示してあり、前述した図1に示す制御例におけるように、ロックアップ・オフと同時に、あるいはロックアップ・オフに連動して吸入空気量を減少させ、あるいはスロットル開度を絞ると、その後にエンジン回転数が復帰回転数にまで低下して燃料の供給が再開される。したがって、このロックアップ・オフからフューエルカット復帰予定までの時間が、吸入空気量を減少させる時間、すなわち吸気管圧を低下させる時間として確保されている。この時間を仮に確保時間とする。
【0078】
これに対して吸入空気量を減少させる制御を実行してから実際の吸入空気量が目標とする量に減少するまでの時間は特性マップから求まるから、その吸入空気量を減少させる制御(具体的にはスロットル開度を絞る制御)のタイミングをロックアップ・オフのタイミングに一致させると、図6に示すように、不足時間ΔTneedが求まる。なお、図6には吸入空気量を吸気管圧に置き換えて示してある。また、図6において、符号POPENはロックアップ・オフ時点もしくはスロットルバルブ3の開度を絞る直前の吸気管圧を示し、符号PISCは駆動要求量(具体的にはアクセル開度)に応じた吸気管圧(具体的にアイドル状態での吸気管圧)を示す。
【0079】
このように、ロックアップ・オフと同時に、もしくはロックアップ・オフに連動して吸入空気量を減少させる制御を実行したのでは、フューエルカット復帰の時点では未だ空気量が過剰もしくは余分になる事態が生じることがある。そこで、ステップS13に続くステップS14では、増大させていた吸入空気量を減少させる制御あるいはスロットル開度を絞る制御をいわゆる前出しして実行する時点が算出される。このステップS14では、その前出し時点を車速によって決めており、したがって上記の不足時間ΔTneedと車両の現在の加速度(減速度)ACCとから、前記不足時間ΔTneedの間での車速の変化量を求め、その変化量(絶対値)をロックアップ・オフ時点の車速SPDLUOFFに加算してスロットルバルブ3を閉じる時点の車速SPDCLOSEを求める。これが、スロットルバルブ3を閉じるタイミングを決めるしきい値となる。
【0080】
こうして求めたしきい値SPDCLOSEと車速SPDとを比較し(ステップS15)、現在時点の車速SPDがしきい値SPDCLOSE以上の場合(ステップS15で肯定的に判断された場合)には特に制御を行うことなくこのルーチンを一旦終了する。これに対して現在時点の車速SPDがしきい値SPDCLOSEを下回ったことによりステップS15で否定的に判断された場合には、通常の目標スロットル開度が算出される(ステップS16)。すなわち、その時点のアクセル開度などの駆動要求量に基づいて定まるスロットル開度が目標値として算出される。そして、その目標スロットル開度が制御指令信号として出力される(ステップS17)。これらステップS16およびステップS17の制御は、前述した図1に示すステップS8およびステップS7での制御と同様の制御である。すなわち、変速比の増大に応じて増大させた吸入空気量を増大前の量に戻す制御が、ロックアップ・オフの制御に先行して開始される。そして、そのいわゆる前出し量が、前述した不足時間ΔTneedに相当する時間であるから、フューエルカット復帰によって燃料の供給を再開した時点の空気量が、駆動要求量に応じた量になっており、その結果、フューエルカット復帰に伴ってエンジン1の軸トルクが相対的に大きくなる事態を未然に回避することができる。
【0081】
一方、ロックアップクラッチ17が解放されていることによりステップS12で否定的に判断された場合には、ステップS16に進み、通常の制御によって目標スロットル開度を算出し、その目標スロットル開度が制御指令信号として出力される(ステップS17)。すなわち、前述した図1に示す制御例と同様に、ロックアップクラッチ17が解放させられていてフューエルカット復帰が実行されていないので、アクセル開度などの駆動要求量に応じたスロットル開度の制御が実行される。
【0082】
上述した図5に示す制御を行った場合の車両加速度(前後G)やスロットル開度、吸気管圧などの変化を図7に示してある。なお、図7の実線が図5に示す制御を行った場合の例を示し、破線は吸入空気量を増大させなかった場合の例を示している。ロックアップクラッチ17を係合させ、かつフューエルカットを実行している減速中には、車速の低下に伴って変速比γがハイギヤ側からローギヤ側に次第に増大させられる。この状態では、エンジンの軸トルク(ENG軸トルク)は負の値となっており、前後Gが次第に低下する(減速力が次第に増大する)。この過程で変速比γが前述した図1を参照して説明した制御例でのしきい値γ1に達すると(t11時点)、スロットル開度が変速比の増大に応じて次第に増大させられ、それに応じて吸気管圧が次第に高くなる。エンジン1に対する吸入空気量が増大すると、そのポンピングロスが低減され、その結果、エンジン軸トルクがポンピングロスの低減分、増大する(負トルクが小さくなる)。また、前後Gの負側への増大(減速力の増大)が緩和される。
【0083】
車速が次第に低下して、前述したしきい値SPDCLOSEに達すると(t12時点)、スロットル開度が、エンジン1をアイドリング状態に維持するいわゆるアイドル開度(アイドルスピードコントロール(ISC)分の開度)に絞られる。したがって、吸気管圧やエンジン軸トルクが次第に低下する。なお、前後Gは、吸入空気量もしくは吸気管圧が急激に低下するわけではないから、直ちに低下することはない。その後、車速が更に低下してロックアップ領域の下限車速に達すると、ロックアップクラッチ17が解放させられる(t13時点)。
【0084】
ロックアップクラッチ17を解放させる指令信号が出力された直後に、エンジン1を強制的に回転させるように作用するトルクが低下するので、エンジン1の回転数が復帰回転数にまで低下し、それに伴ってフューエルカット制御が中止される(t14時点)。すなわち燃料の供給が再開される。燃料の供給を再開することによってエンジン1がベーストルクを出力するので、前後Gはベーストルクに応じて大きくなる(減速力が低下する)。しかし、未だ車両が減速していてエンジン1は車両の慣性力によって強制的に回転させられ、いわゆるエンジンブレーキ力を発生しているので、前後Gは負の値となっている。
【0085】
そして、燃料の供給を再開する時点における吸気管圧あるいは吸入空気量は、スロットル開度を絞る制御の開始を上記のt12時点に前出ししたことにより、いわゆるアイドル開度に対応した圧力もしくは量に低下している。したがって燃料の供給を再開してエンジン1が出力するトルクは、アクセル開度に応じたトルクとなる。すなわち、フューエルカット復帰に伴ってエンジン1が駆動要求量を超えた大きいトルクを出力する事態を未然に防止もしくは抑制することができる。
【0086】
なお、図5に示す制御例では、吸入空気量もしくはスロットル開度を増大させる制御の開始タイミングを車速によって規定もしくは判断するように構成されているが、前述したように、ロックアップ・オフのタイミングやその後の燃料の供給開始予定のタイミングならびにスロットル開度を絞った後、その開度に応じた吸入空気量もしくは吸気管圧になるまでの時間を予め知ることができるので、吸入空気量もしくはスロットル開度を増大させる制御の開始タイミングを車速によらずに、直接、時間によって規定もしくは判断してもよい。
【0087】
上述した図5に示すルーチンは、マイクロコンピュータを主体とする前記電子制御装置22によって実行されるから、前述したステップS11はポンピングロス低減制御判断手段、ステップS12はロックアップ判断手段、ステップS13は吸入空気量減少時間算出手段、ステップS14およびステップS15は吸入空気量減少開始判断手段、ステップS17は吸入空気量減少指令手段と言うことができる。したがって、図5に示す制御を実行するこの発明の制御装置は、「燃料が供給されずに回転している状態における吸入空気量の増大に応じて動力損失が低減するエンジンの出力側に変速比が連続的に変化する変速機が連結され、減速時のエンジン回転数が予め定めた復帰回転数以上の場合に前記エンジンに対する燃料の供給を停止し、かつ燃料の供給を停止している減速時の車速の低下に伴って前記変速比を増大させ、その変速比の増大に応じて前記吸入空気量を増大させる車両の制御装置において、前記エンジンに対する燃料の供給を再開する場合に、前記増大させた吸入空気量を減少させる制御を行う吸入空気量減少指令手段を備えていることを特徴とする車両の制御装置。」と言うことができる。
【0088】
また、その装置は、「吸入空気量を減少させる制御の開始から指令した吸入空気量になるまでの時間を算出する吸入空気量減少時間算出手段と、その吸入空気量減少時間算出手段で算出された前記時間に基づいて吸入空気量を減少させる制御の開始時点を判断する吸入空気量減少開始判断手段と、その判断された開始時点に吸入空気量を減少させる制御を開始するよう指令信号を出力する吸入空気量減少指令手段とを備えていることを特徴とする車両の制御装置。」と言うことができる。
【0089】
前述したように、フューエルカット制御は駆動要求量が所定値以下であるなど、実質的にゼロである減速時で、かつエンジン回転数が所定の復帰回転数以上の場合に実行されるから、フューエルカット制御中にアクセルペダルが踏み込まれるなど駆動要求量が増大した場合にはフューエルカット復帰制御が実行される。このような復帰制御を行う際に前述した吸入空気量の増大制御が実行されていた場合、駆動力を目標駆動力に滑らかに移行させるように吸入空気量あるいはスロットル開度を制御することが好ましい。そのような制御は、吸入空気量もしくはスロットル開度をフューエルカット時の制御量から駆動要求量に応じた制御量に変化させる過程で、その変化を滑らかにする過渡制御を介在させることにより行われる。その過渡制御は、駆動要求量として表されている運転者の意図を反映した内容とする。
【0090】
この発明に係る制御装置で実行されるその制御の一例を図8にフローチャートで示してある。図8において、先ず、エンジン1のポンピングロスを低減するための制御として吸入空気量を増大させる制御が実行されているか否かが判断される(ステップS21)。これは、前述した図5に示す制御例におけるステップS11と同様の制御である。したがって、このステップS21で否定的に判断された場合には、特に制御を行うことなく、一旦、このルーチンを終了する。
【0091】
これに対してフューエルカット制御で吸入空気量の増大制御が実行されていることによりステップS21で肯定的に判断された場合には、駆動力を増大させる駆動要求もしくは加速要求があったか否かが判断される(ステップS22)。これは、アイドルスイッチやアクセル開度に基づいて行うことができ、したがってステップS22では、例えばアイドルスイッチがオンか否か、あるいはアクセル開度が所定値α以下か否かが判断される。駆動要求もしくは加速要求があれば、アイドルスイッチがオフになり、またアクセル開度が所定値αより大きくなるから、ステップS22で否定的に判断される。駆動要求があってフューエルカット制御の実行条件が成立しなくなり、その結果、ステップS22で否定的に判断されれば、極短い一定時間フューエルカットを継続した後、中止判断(フューエルカット・オフ)がなされる(ステップS23)。そして、被駆動状態から駆動状態に切り替わる過渡期の目標スロットル開度が算出される(ステップS24)。
【0092】
この過渡期の目標スロットル開度(言い換えれば、目標吸入空気量)は、アクセル開度などで表される駆動要求量に対応するスロットル開度(もしくは吸入空気量)を補正して算出される。その補正は、運転者の加速意図を反映するように行われ、例えば予め定めた係数を用いて補正する。その係数の一例を図9に示してあり、ここに示す係数は、アクセル開度に応じたスロットル開度TAAPEDALを補正するドライバー要求反映係数KDRIVERであり、予め定めた時間内に「0」から「1」に次第に変化するように定めた係数である。なお、その変化の傾向やその傾向を表す線は、車両に要求される特性や設計の意図、あるいはシミュレーションもしくは実際に行った運転のデータなどに基づいて適宜に設定すればよい。また、この過渡制御を行う時間の長さは、各種のデータに基づいて適宜に設定すればよく、予め設定した一定時間や、車速もしくはアクセル開度に応じて設定した時間であってよい。したがって、図8に示す制御例では、過渡期の目標スロットル開度TAREFは、
TAREF=TAAPEDAL×KDRIVER
である。
【0093】
駆動要求がある場合には、上記のようにして算出された目標開度が指令信号として出力される(ステップS25)。一方、駆動要求がないことによりステップS22で肯定的に判断された場合には、特に制御を行うことなく図8のルーチンを一旦終了する。
【0094】
フューエルカットおよびロックアップを行って減速している際に駆動要求があり、それに伴って図8に示す制御を行った場合の車両加速度(前後G)やスロットル開度、吸気管圧などの変化を図10に示してある。なお、図10の実線が図8に示す制御を行った場合の例を示し、破線は吸入空気量を増大させなかった場合の例を示している。ロックアップクラッチ17を係合させ、かつフューエルカットを実行している減速中には、車速の低下に伴って変速比γがハイギヤ側からローギヤ側に次第に増大させられる。この状態では、エンジン軸トルク(ENG軸トルク)は負の値となっており、前後Gが次第に低下する(減速力が次第に増大する)。この過程で変速比γが前述したしきい値γ1に達すると(t21時点)、スロットル開度が変速比の増大に応じて次第に増大させられ、それに応じて吸気管圧が次第に高くなる。エンジン1に対する吸入空気量が増大すると、そのポンピングロスが低減され、その結果、エンジン軸トルクがポンピングロスの低減分、増大する(負トルクが小さくなる)。また、前後Gの負側への増大(減速力の増大)が緩和される。
【0095】
その過程でアクセルペダル26が踏み込まれてアクセル開度が増大すると、アイドルスイッチがオンからオフに切り替わる(t22時点)。この時点に前述したステップS22での否定的な判断が成立する。それに伴って前述した過渡制御が開始され、例えば図9に示すマップもしくは線図に基づいて係数KDRIVERが求められる。図9に示す例では、係数KDRIVERは当初、「0」である。したがって、このt22時点では駆動要求あるいはアクセルペダル26を踏み込むことに伴うスロットル開度が「0」になり、いわゆるアイドル開度までスロットル開度が低下する。その後、時間の経過に伴って係数KDRIVERが次第に増大するので、スロットル開度がアクセル開度に基づいて定まる開度に向けて次第に増大させられる。
【0096】
上記のt22時点の直後では未だフューエルカットが継続されているから、その状態を極短い一定時間継続した後、フューエルカット制御が中止される(t23時点)。すなわち燃料の供給が再開される。その時点のスロットル開度(すなわち吸入空気量)は、前記の係数KDRIVERによって制限された相対的に小さい開度になっているから、燃料を供給することにより発生するエンジン軸トルクは小さく、その後に時間の経過に伴う前記係数KDRIVERの増大に応じてエンジン軸トルクが増大する。そして、係数KDRIVERが「1」になることにより、スロットル開度(吸入空気量)が駆動要求量(アクセル開度)に応じて定まる開度になり、またエンジン軸トルクが駆動要求量に応じたトルクに達する(t24時点)。これにより図8に示すルーチンは終了する。
【0097】
したがって、図8に示す制御を行うように構成した場合には、フューエルカット中にエンジン1のポンピングロスを低減するべく吸入空気量を増大させている際に、アクセルペダルが踏み込まれた場合、スロットル開度をその増大したアクセル開度に応じた開度に変化させずに、一旦、フューエルカット制御開始時の開度に低下させ、その後、駆動要求に即した係数KDRIVERによって補正したスロットル開度となるように制御するので、車両の前後Gの低下から増大への変化を滑らかにすることができるとともに、駆動要求量が大きい場合には、そもそも吸入空気量を増大させる制御を行わない場合(図10に破線で示す例の場合)に対して前後Gを迅速に増大させることができる。すなわち、減速時のトルクと加速時のトルクを滑らかに連続させることができ、ショックがなく、また加速感の良好な制御を行うことができる。これに対して上記の過渡制御を行わずに駆動要求量に応じてスロットル開度を増大させた場合、特には図示しないが、既に吸入空気量が多くなっている状態でスロットル開度を駆動要求量に合わせて増大させるから、燃料の供給の再開によってエンジン軸トルクが急激に変化し、ショックが発生する可能性がある。
【0098】
なお、図8に示す制御は、明らかな駆動要求がある場合、あるいは駆動要求量が大きい場合に実行することとしてもよい。そのためには、アクセル開度の変化量もしくは変化率が予め定めた基準値より大きいことを最初に判断し、その判断が成立した場合に上述したステップS21以降の制御に進むように構成すればよい。
【0099】
上述した図8に示すルーチンは、マイクロコンピュータを主体とする前記電子制御装置22によって実行されるから、前述したステップS21はポンピングロス低減制御判断手段、ステップS22は駆動要求判断手段、ステップS23はフューエルカット継続・解除指令手段、ステップS24は過渡吸入空気量算出手段、ステップS25は過渡吸入空気量指令手段と言うことができる。したがって、図8に示す制御を実行するこの発明に係る制御装置は、フューエルカット制御中に変速比の変化に応じて吸入空気量を変化させる制御装置であって、「加速要求があることを判断する駆動要求判断手段と、駆動要求があることに伴ってフューエルカット復帰する場合に、スロットル開度を前記加速要求に応じた開度より小さい開度に一旦絞る過渡吸入空気量算出手段とを備えていることを特徴とする車両の制御装置。」と言うことができる。
【0100】
また、その装置は、「過渡吸入空気量算出手段は、時間の経過によって次第に変化する予め用意した係数と、前記加速要求に応じたスロットル開度とに基づいて、前記一旦絞った後のスロットル開度を算出する手段を含むことを特徴とする車両の制御装置。」と言うことができる。
【0101】
エンジン1に対する吸入空気量の制御は、図28に示す例では、スロットルバルブ3によって行うように構成されている。したがって、そのスロットルバルブ3の開度は、基本的には、アクセルペダル26の踏み込み量あるいは駆動要求量に対応させてスロットル開度を設定した特性曲線などに基づいて制御される。そして、駆動要求がない場合、すなわちアクセルペダル26が踏み込まれていない場合には、エンジン1をアイドリング状態に維持する開度に設定される。このように、図28に示す構成では、アクセルペダル26が踏み込まれていない場合であってもスロットル開度が所定の開いた角度に設定される。言い換えれば、機構上は、アクセル開度が実質的に「0」であっても、スロットル開度は更に減少させることができる。スロットルバルブ3のこのような機能を利用して、フューエルカット復帰時の空気の追い出しを促進することができる。この発明の制御装置で実行されるその制御例を図11にフローチャートで示してある。
【0102】
図11に示す制御例は、フューエルカット制御中にエンジン1のポンピングロスを低減するべく増大させた空気をフューエルカット復帰の際に迅速にエンジン1の燃焼室から追い出すようにスロットルバルブ3を制御する例であり、先ず、エンジン1のポンピングロスを低減するための制御として吸入空気量を増大させる制御が実行されているか否かが判断される(ステップS31)。これは、前述した図5に示す制御例におけるステップS11や図8に示す制御例におけるステップS21と同様の制御である。したがって、このステップS31で否定的に判断された場合には、特に制御を行うことなく、一旦、このルーチンを終了する。
【0103】
これに対してフューエルカット制御中に吸入空気量の増大制御が実行されていることによりステップS31で肯定的に判断された場合には、ロックアップクラッチ17を解放する(ロックアップ・オフ)要求があるか否か、あるいはスロットルバルブ3をロックアップクラッチ17の解放に先立って閉じるいわゆる早閉じ要求(早いタイミングで閉じる要求)があるか否かが判断される(ステップS32)。そのロックアップ・オフの要求の有無は、ロックアップクラッチ17を制御する信号に基づいて判断でき、あるいはロックアップ領域を定めたマップと車速とに基づいて判断することができる。また、スロットルバルブ3の早閉じとは、スロットル開度を、エンジン1のアイドリング状態を維持する開度にまで、ロックアップクラッチ17の解放に先立って閉じる制御である。すなわち、前述の図5を参照して説明したようにスロットルバルブ3を閉じるタイミングを前出しする制御である。ロックアップクラッチ17の係合を維持する場合やスロットルバルブ3の早閉じ要求がないなどのことによりステップS32で否定的に判断された場合には、特に制御を行うことなく、一旦、図11のルーチンを終了する。
【0104】
これとは反対にロックアップクラッチ17を解放する場合やスロットルバルブ3の早閉じ要求がある場合にはステップS32で肯定的に判断され、吸入空気量を減少させるための過渡制御における目標値が算出される(ステップS33)。この場合、ロックアップクラッチ17が解放されることにより、あるいはブレーキ操作されて車速が低下することにより、フューエルカット制御中の吸入空気量の増大制御を中止したのであるから、これに続く燃料供給の再開のために空気を可及的迅速に追い出す必要がある。そこで、上記のステップS32で肯定的に判断された時点の目標スロットル開度は、スロットルバルブ3の機構上可能な最小の開度TAMINに設定される。これは、いわゆるアイドル開度TAISCより小さい開度であり、その結果、エンジン1に対する空気の吸入が最大限、抑制される。
【0105】
目標スロットル開度を最小開度TAMINに設定した直後、もしくはその最小開度TAMINに設計上定めた所定時間維持した後、アクセル開度に応じて定められているいわゆるアイドル開度TAISCにまで次第に増大するように目標スロットル開度が設定される。その過程での目標スロットル開度は、吸気管圧の目標値を設定し、その目標吸気管圧に追従するようにフィードバック制御して設定してもよい。あるいは目標スロットル開度の変化勾配や変化曲線を予め設定し、その勾配もしくは曲線に沿って目標スロットル開度を変化させることとしてもよい。こうして算出された目標スロットル開度が制御指令信号として出力される(ステップS34)。
【0106】
その状況を図12にスロットル開度および吸気管圧の変化として示してある。フューエルカット制御を行っている状態でスロットルバルブ3を閉じる条件が成立すると、目標スロットル開度は最小開度TAMINに設定される。その結果、空気の吸入が大きく制限されるので吸気管圧が、ポンピングロス低減のために吸気を行っていた際の圧力POPENからアイドリング時の圧力PISCに向けて急速に低下する。すなわち、エンジン1の燃焼室から空気が急速に追い出される。その過程で、目標スロットル開度がいわゆるアイドル開度TAISCに向けて徐々に増大させられ、それに応じて吸気管圧がアイドリング時の圧力PISCに次第に収束する。このようにして目標スロットル開度もしくはスロットル開度がアイドル開度TAISCに収束することによりスロットルバルブ3の過渡制御が終了する。
【0107】
上述した図11に示す制御を行った場合の車両加速度(前後G)やスロットル開度、吸気管圧などの変化を図13に示してある。なお、図13の実線が図11に示す制御を行った場合の例であってスロットル開度を絞る制御をロックアップ・オフよりも前出しして行う例を示し、破線は吸入空気量を増大させなかった場合の例を示している。ロックアップクラッチ17を係合させ、かつフューエルカットを実行している減速中には、車速の低下に伴って変速比γがハイギヤ側からローギヤ側に次第に増大させられる。この状態では、エンジンの軸トルク(ENG軸トルク)は負の値となっており、前後Gが次第に低下する(減速力が次第に増大する)。この過程で変速比γが前述した図1を参照して説明した制御例でのしきい値γ1に達すると(t31時点)、スロットル開度が変速比の増大に応じて次第に増大させられ、それに応じて吸気管圧が次第に高くなる。エンジン1に対する吸入空気量が増大すると、そのポンピングロスが低減され、その結果、エンジン軸トルクがポンピングロスの低減分、増大する(負トルクが小さくなる)。また、前後Gの負側への増大(減速力の増大)が緩和される。
【0108】
車速が次第に低下して、前述した図5に示す制御でのしきい値SPDCLOSEに達すると(t32時点)、スロットル開度が、機構上可能な最小開度TAMINに絞られる。なお、この最小開度TAMINは、要は、いわゆるアイドル開度より低開度であればよく、機構上可能な最も小さい開度より大きい開度であって、任意に設定した開度であってもよい。その後、スロットル開度がアイドル開度に向けて徐々に増大させられる。したがって、吸気管圧やエンジン軸トルクが次第に低下する。なお、前後Gは、車両の慣性力が大きいので、直ちに低下することはない。その後、車速が更に低下してロックアップ領域の下限車速に達すると、ロックアップクラッチ17が解放させられる(t33時点)。
【0109】
ロックアップクラッチ17を解放させる指令信号が出力された直後に、エンジン1を強制的に回転させるように作用するトルクが低下するので、エンジン1の回転数が復帰回転数にまで低下し、それに伴ってフューエルカット制御が中止される(t34時点)。すなわち燃料の供給が再開される。燃料の供給を再開することによってエンジン1がベーストルクを出力するので、前後Gはベーストルクに応じて大きくなる(減速力が低下する)。しかし、未だ車両が減速していてエンジン1は車両の慣性力によって強制的に回転させられ、いわゆるエンジンブレーキ力を発生しているので、前後Gは負の値となっている。
【0110】
そして、燃料の供給を再開する時点における空気量は、スロットル開度をアイドル開度TAISCを超えて大きく減少させたので、いわゆるアイドル開度に対応した量程度に低下している。したがって燃料の供給を再開してエンジン1が出力するトルクは、アクセル開度に応じたトルクとなる。すなわち、フューエルカット復帰に伴ってエンジン1が駆動要求量を超えた大きいトルクを出力する事態を未然に防止もしくは抑制することができる。
【0111】
なお、図11に示す制御例では、アイドルスピードをスロットルバルブ3の開度によって制御するように構成した車両を対象とするものであるが、メインスロットルバルブと並列にアイドルスピードコントロールバルブ(ISCV)が設けられている車両を対象とする場合には、メインスロットルバルブを閉じるとともに、ISCVを閉じて空気の吸入を制限し、その後にISCVの開度を目標開度に向けて次第に増大させても、上記の制御例と同様の作用・効果を得ることができる。
【0112】
上述した図11に示すルーチンは、マイクロコンピュータを主体とする前記電子制御装置22によって実行されるから、前述したステップS31はポンピングロス低減制御判断手段、ステップS32は吸気制限要求判断手段、ステップS33は目標スロットル開度算出手段、ステップS34はスロットル開度指令手段と言うことができる。したがって、図11に示す制御を実行するこの発明に係る制御装置は、フューエルカット制御中に変速比の変化に応じて吸入空気量を変化させる制御装置であって、「増大させたスロットル開度を、燃料の供給の再開に先行して一旦閉じ側に制御するスロットル開度指令手段を備えていることを特徴とする車両の制御装置。」と言うことができる。
【0113】
また、その装置は、「スロットルバルブを一旦閉じ側に制御する際の目標開度として、いわゆるアイドリング開度より小さい開度を算出する目標スロットル開度算出手段を備えていることを特徴とする車両の制御装置。」と言うことができる。
【0114】
フューエルカット制御中のポンピングロスを低減するために増大していた吸入空気量をフューエルカット復帰に伴って減少させる場合、前述した図8に示す制御例ではスロットル開度をいわゆるアイドル開度にまで一旦絞り、また図11に示す制御例では機構上可能な最小開度TAMINにまで一旦絞るように構成したが、フューエルカット制御中に駆動要求の発生によってフューエルカット復帰を行うとともに吸入空気量を一旦絞る場合には、スロットル開度を上記の各制御例とは異なるように制御してもよい。すなわち、車両の構造によってはアクセル開度によらずにスロットルセンサ5の検出値に基づいてアイドリング状態を判定するように構成されており、この種の車両では、スロットル開度がいわゆるアイドル開度TAISCを大きく下回るとアイドル判定を行うことができなくなる。このような場合、燃料の供給の再開に先行して空気を追い出すために絞るスロットル開度は、アイドル判定可能な最小開度とする。
【0115】
その制御例を図14にフローチャートで示してあり、先ず、エンジン1のポンピングロスを低減するための制御として吸入空気量を増大させる制御が実行されているか否かが判断される(ステップS41)。これは、前述した図5に示す制御例におけるステップS11や図8に示す制御例におけるステップS21あるいは図11に示す制御例におけるステップS31と同様の制御である。したがって、このステップS41で否定的に判断された場合には、特に制御を行うことなく、一旦、このルーチンを終了する。
【0116】
これに対してフューエルカット制御で吸入空気量の増大制御が実行されていることによりステップS41で肯定的に判断された場合には、ロックアップクラッチ17を解放する(ロックアップ・オフ)要求があるか否か、あるいはスロットル開度が所定値αを超えているか否かが判断される(ステップS42)。要は、フューエルカットおよびロックアップ・オンを伴う減速中に、アクセルペダル26が踏み込まれるなどの駆動要求が発生したか否かが判断される。フューエルカット制御を継続する状態であることによりステップS42で否定的に判断された場合には、特に制御を行うことなく、一旦、図14のルーチンを終了する。
【0117】
これとは反対に駆動要求が発生してステップS42で肯定的に判断されると、吸入空気量を減少させるための過渡制御における目標値が算出される(ステップS43)。この場合、駆動要求が発生することによりフューエルカット制御中の吸入空気量の増大制御を中止したのであるから、これに続く燃料供給の再開のために空気を可及的迅速に追い出す必要がある。そこで、上記のステップS42で肯定的に判断された時点の目標スロットル開度は、アイドル判定可能な最小開度TAIDLMINに設定される。これは、いわゆるアイドル開度TAISCより小さい開度であり、かつアイドル判定の可能な最小開度である。なお、このようなアイドル判定可能な最小開度は、エンジン1の仕様もしくは形式、容量、スロットルバルブ3やスロットルセンサ5の形式あるいは構造などによって決まり、したがって予め求めておくことができる。
【0118】
目標スロットル開度をアイドル判定可能な最小開度TAIDLMINに設定した直後、もしくはその最小開度TAIDLMINに設計上定めた所定時間維持した後、アクセル開度に応じて定められているスロットル開度TAAPEDALにまで次第に増大するように目標スロットル開度が設定される。その過程での目標スロットル開度は、吸気管圧の目標値を設定し、その目標吸気管圧に追従するようにフィードバック制御して設定してもよい。あるいは目標スロットル開度の変化勾配や変化曲線を予め設定し、その勾配もしくは曲線に沿って目標スロットル開度を変化させることとしてもよい。こうして算出された目標スロットル開度が制御指令信号として出力される(ステップS44)。
【0119】
その状況を図15にスロットル開度および吸気管圧の変化として示してある。フューエルカット制御を行っている状態で駆動要求の発生などによってスロットルバルブ3を閉じる条件が成立すると、目標スロットル開度は前記の最小開度TAIDLMINに設定される。その結果、空気の吸入が大きく制限されるので吸気管圧が、ポンピングロス低減のために吸気を行っていた際の圧力POPENからアイドリング時の圧力PISCに向けて急速に低下する。すなわち、エンジン1の燃焼室から空気が急速に追い出される。その過程で、目標スロットル開度がアクセル開度に応じて定められているスロットル開度TAAPEDALに向けて徐々に増大させられ、それに応じて吸気管圧がアクセル開度に応じた圧力PAPEDALに次第に収束する。このようにして目標スロットル開度もしくはスロットル開度がアクセル開度に応じて定まるスロットル開度TAAPEDALに収束することによりスロットルバルブ3の過渡制御が終了する。なお、図15の破線は、アクセル開度に対応させてスロットル開度を制御した場合のスロットル開度の変化および目標吸気管圧の変化を示している。この図15における破線と実線とを比較して判るように、目標スロットル開度を一旦、アイドル判定可能な最小開度TAIDLMINに設定することにより、吸気管圧が大きく低下し、空気を迅速に追い出し、いわゆる過剰もしくは余分な空気をエンジン1から排出することができる。また、当然、アイドル判定に支障を来すことはない。
【0120】
上述した図14に示す制御を行った場合の車両加速度(前後G)やスロットル開度、吸気管圧などの変化を図16に示してある。なお、図16の実線が図14に示す制御を行った場合の例であってアイドルスイッチがオフになることに伴ってロックアップクラッチ17を解放する例を示し、破線は吸入空気量を増大させなかった場合の例を示している。ロックアップクラッチ17を係合させ、かつフューエルカットを実行している減速中には、車速の低下に伴って変速比γがハイギヤ側からローギヤ側に次第に増大させられる。この状態では、エンジンの軸トルク(ENG軸トルク)は負の値となっており、前後Gが次第に低下する(減速力が次第に増大する)。この過程で変速比γが前述したしきい値γ1に達すると(t41時点)、スロットル開度が変速比の増大に応じて次第に増大させられ、それに応じて吸気管圧が次第に高くなる。エンジン1に対する吸入空気量が増大すると、そのポンピングロスが低減され、その結果、エンジン軸トルクがポンピングロスの低減分、増大する(負トルクが小さくなる)。また、前後Gの負側への増大(減速力の増大)が緩和される。
【0121】
その過程でアクセルペダル26が踏み込まれてアクセル開度が増大すると、アイドルスイッチがオンからオフに切り替わる(t42時点)。この時点に前述したステップS42での肯定的な判断が成立する。それに伴って前述したステップS43での制御が開始され、先ず、目標スロットル開度がアイドル判定可能な最小開度TAIDLMINに設定され、スロットル開度が大きく絞られる。その後、時間の経過に伴って目標スロットル開度が次第に増大するので、スロットル開度がアクセル開度に基づいて定まる開度に向けて次第に増大させられる。
【0122】
上記のt42時点の直後では未だフューエルカットが継続されているから、エンジン軸トルクが増大することはなく、ロックアップクラッチ17を解放させる指令信号が出力された直後に、エンジン1を強制的に回転させるように作用するトルクが低下するので、エンジン1の回転数が復帰回転数にまで低下し、それに伴ってフューエルカット制御が中止される(t43時点)。すなわち燃料の供給が再開される。その時点のスロットル開度(すなわち吸入空気量)は、上述したように小さい開度になっているから、燃料を供給することにより発生するエンジン軸トルクは小さく、その後に時間の経過に伴う目標スロットル開度の増大に応じてエンジン軸トルクが増大する。そして、スロットル開度(吸入空気量)が駆動要求量(アクセル開度)に応じて定まる開度になり、またエンジン軸トルクが駆動要求量に応じたトルクに達する(t44時点)。
【0123】
上述した図14に示すルーチンは、マイクロコンピュータを主体とする前記電子制御装置22によって実行されるから、前述したステップS41はポンピングロス低減制御判断手段、ステップS42は駆動要求判断手段、ステップS43は目標スロットル開度算出手段、ステップS44はスロットル開度指令手段と言うことができる。したがって、図14に示す制御を実行するこの発明に係る制御装置は、フューエルカット制御中に変速比の変化に応じて吸入空気量を変化させる制御装置であって、「加速要求があることを判断する駆動要求判断手段と、駆動要求があることに伴ってフューエルカット復帰する場合に、スロットル開度を前記加速要求に応じた開度より小さい開度に一旦絞り、かつその場合の目標開度をアイドリング判定を行うことが可能な開度とする目標スロットル開度算出手段を備えていることを特徴とする車両の制御装置。」と言うことができる。
【0124】
エンジン1のポンピングロスを低減するために吸入空気量を増大させていたフューエルカット制御から復帰するにあたり、燃料の供給時の空気量を可及的に少なくするには、上述した空気を積極的に追い出す方法以外に、空気を追い出す時間を可及的に長くする方法がある。空気を追い出す時間を長くする制御は、例えば吸気管圧が、アクセル開度に基づいて定まる圧力以下に低下するまで、フューエルカット復帰を遅延させることにより行うことができる。図17にはその制御例をフローチャートによって示してある。
【0125】
図17に示す制御例では、先ず、エンジン1のポンピングロスを低減するための制御として吸入空気量を増大させる制御が実行されているか否かが判断される(ステップS51)。これは、前述した図5に示す制御例におけるステップS11や図8に示す制御例におけるステップS21あるいは図11に示す制御例におけるステップS31さらには図14に示す制御例におけるステップS41と同様の制御である。したがって、このステップS51で否定的に判断された場合には、特に制御を行うことなく、一旦、このルーチンを終了する。
【0126】
これに対してフューエルカット制御で吸入空気量の増大制御が実行されていることによりステップS51で肯定的に判断された場合には、ロックアップクラッチ17を解放し、かつフューエルカットをオン(フューエルカット実行)にする条件が成立しているか否かが判断される(ステップS52)。ロックアップ・オフの判断はロックアップ制御用マップと車速とに基づいて行うことができ、またフューエルカット・オンの判断は前述したフューエルカット実行条件が成立しているか否かによって行うことができる。このステップS52で否定的に判断された場合には、特に制御を行うことなく、一旦、このルーチンを終了する。
【0127】
図17に示す制御例では、燃料の供給の再開を実質的に遅延させることになるので、その間にエンジン回転数が低下する。そこで、このようにして生じるエンジン回転数の低下が支障にならないように、ガード時間TGRDが設定される(ステップS53)。エンジン回転数の低下が支障となる場合は、エンジンストールに到るほどエンジン回転数が低下した場合や、車体の騒音や振動(NV)が顕著になるほどエンジン回転数が低下した場合などであり、そのエンジン回転数は設計上、予め決めることができる。また、フューエルカットを行い、かつロックアップクラッチ17を解放した減速時におけるエンジン回転数の低下の程度、あるいは上記の設計上決められた回転数に到るまでの時間は、実験やシミュレーションなどで予め求めておくことができる。このようなエンジン回転数の低下許容値およびロックアップ・オフ後その低下許容値にまでエンジン回転数が低下する時間を各車種ごとの車速ごと、あるいは道路勾配などに応じて求めてマップなどのデータとして用意しておく。その一例を図18に示してある。こうして求めることのできるロックアップ・オフから上記の低下許容値にエンジン回転数が低下するまでの時間がガード時間TGRDとして算出される。
【0128】
ついで、フューエルカット復帰要求を出力するタイミングが求められる(ステップS54)。具体的には、吸気管圧Pを検出し、その圧力が、アクセル開度が「0」など駆動要求がない場合の吸気管圧PISC以下となる時点が求められる。これは、単にこれらの圧力を比較し、実際の吸気管圧Pがアイドル開度での吸気管圧PISC以下となった時点を検出することにより行ってもよい。あるいはロックアップ・オフ後の吸気管圧の低下の傾向に基づいてアイドル開度での吸気管圧PISC以下となる時点を推定することにより行ってもよい。
【0129】
このようにして求められた時点、すなわち吸気管圧Pがアイドル開度での吸気管圧PISC以下となる時点(すなわちフューエルカット復帰の時点)までの、ロックアップ・オフからの経過時間と上記のガード時間TGRDとが比較される。そして、ロックアップ・オフからフューエルカット復帰までの経過がガード時間TGRDより短い場合には、吸気管圧Pがアイドル開度での吸気管圧PISC以下となる時点をフューエルカット復帰(燃料の供給再開)の時点とする。これとは反対にロックアップ・オフからフューエルカット復帰までの経過がガード時間TGRD以上の場合には、ガード時間TGRDが経過した時点をフューエルカット復帰の時点とする。そして、こうして求められた時点にフューエルカット復帰要求が制御指令信号として出力される(ステップS55)。
【0130】
このようにして求まるフューエルカット復帰のタイミングの一例を図19に示してある。従来通常の制御では、ロックアップ・オフの後、エンジン回転数が復帰回転数に達する時点もしくはそのように予測された時点がフューエルカット復帰時点とされるのに対して、上記の制御例では、吸気管圧Pが駆動要求量で定まる吸気管圧PISC以下となる時点までフューエルカット復帰が遅延させられる。そのため、エンジン1から空気が十分追い出された際に燃料の供給を再開することになる。そのため、フューエルカット復帰によってエンジン1が出力するトルクがアイドリング時のトルクあるいは駆動要求量に応じたトルクを大きく上回ることがない。また、フューエルカット復帰を相対的に遅延させるとしても、上記のガード時間TGRDを超えて遅延させることがないので、エンジンストールに到ったり、騒音・振動が悪化したりすることを未然に回避することができる。
【0131】
上述した図17に示す制御を行った場合の車両加速度(前後G)やスロットル開度、吸気管圧などの変化を図20に示してある。なお、図20の実線が図17に示す制御を行った場合の例であってスロットル開度を絞る制御をロックアップ・オフよりも前出しして行う例を示し、破線は吸入空気量を増大させなかった場合の例を示している。ロックアップクラッチ17を係合させ、かつフューエルカットを実行している減速中には、車速の低下に伴って変速比γがハイギヤ側からローギヤ側に次第に増大させられる。この状態では、エンジンの軸トルク(ENG軸トルク)は負の値となっており、前後Gが次第に低下する(減速力が次第に増大する)。この過程で変速比γが前述した図1を参照して説明した制御例でのしきい値γ1に達すると(t51時点)、スロットル開度が変速比の増大に応じて次第に増大させられ、それに応じて吸気管圧が次第に高くなる。エンジン1に対する吸入空気量が増大すると、そのポンピングロスが低減され、その結果、エンジン軸トルクがポンピングロスの低減分、増大する(負トルクが小さくなる)。また、前後Gの負側への増大(減速力の増大)が緩和される。
【0132】
車速が次第に低下して、前述した図5に示す制御でのしきい値SPDCLOSEに達すると(t52時点)、スロットル開度が、機構上可能な最小開度TAMIN、あるいはアイドル判定可能な最小開度TAIDLMINに絞られる。その後、スロットル開度がアイドル開度またはアクセル開度に応じて定められるスロットル開度に向けて徐々に増大させられる。したがって、吸気管圧やエンジン軸トルクが次第に低下する。なお、前後Gは、車両の慣性力が大きいので、直ちに低下することはない。その後、車速が更に低下してロックアップ領域の下限車速に達すると、ロックアップクラッチ17が解放させられる(t53時点)。
【0133】
ロックアップクラッチ17を解放する制御が開始されると、その後の経過時間がカウントされ、その経過時間が前述したガード時間TGRDに達したか否かが判断される。また、ロックアップ・オフ後の吸気管圧Pがアイドル開度に対応した吸気管圧PISCにまで低下したか否かがモニターされる。そして、経過時間がガード時間TGRDに達することなく吸気管圧Pがアイドル開度に対応した吸気管圧PISCにまで低下した時点(t54時点)にフューエルカット復帰が実行される。すなわち、燃料の供給が再開される。燃料の供給を再開することによってエンジン1がベーストルクを出力するので、前後Gはベーストルクに応じて大きくなる(減速力が低下する)。しかし、未だ車両が減速していてエンジン1は車両の慣性力によって強制的に回転させられ、いわゆるエンジンブレーキ力を発生しているので、前後Gは負の値となっている。
【0134】
そして、燃料の供給を再開する時点における空気量は、フューエルカット復帰を上記のように遅延させたので、いわゆるアイドル開度に対応した量に十分低下している。したがって燃料の供給を再開してエンジン1が出力するトルクは、アクセル開度に応じたトルクとなる。すなわち、フューエルカット復帰に伴ってエンジン1が駆動要求量を超えた大きいトルクを出力する事態を未然に防止もしくは抑制することができる。
【0135】
上述した図17に示すルーチンは、マイクロコンピュータを主体とする前記電子制御装置22によって実行されるから、前述したステップS51はポンピングロス低減制御判断手段、ステップS52はフューエルカット復帰要求判断手段、ステップS53はガード時間算出手段、ステップS54はフューエルカット復帰タイミング設定手段、ステップS55はフューエルカット復帰指令手段と言うことができる。したがって、図17に示す制御を実行する制御装置は、フューエルカット制御中に変速比の変化に応じて吸入空気量を変化させる制御装置であって、「フューエルカット復帰要求があったエンジン回転数が低下し始めてからの経過時間の許容値を算出するガード時間算出手段と、フューエルカット復帰要求であってスロットルバルブが閉じ制御され、それに伴う吸気管圧が閉じ制御に達成すべき圧力にまで低下した時点をフューエルカット復帰タイミングとするフューエルカット復帰タイミング設定手段と、前記許容値の経過と前記フューエルカット復帰タイミングの到来とのうちの早い時点にフューエルカット復帰指令を出力するフューエルカット復帰指令手段とを備えていることを特徴とする車両の制御装置。」と言うことができる。
【0136】
また、その装置は、「吸気管圧が所定の圧力に低下するまで、フューエルカット復帰を遅延する手段を備えていることを特徴とする車両の制御装置。」と言うことができる。
【0137】
エンジン1によるポンピングロスを低減するためにフューエルカット制御中に吸入空気量を増大させると、フューエルカット復帰時にエンジン軸トルクが大きくなる可能性があり、これを防止もしくは回避するために、前述したように、空気を十分に追い出した後に燃料の供給を再開することが好ましい。これに加えて、トルクコンバータ14やこれに替わる流体継手を備えている車両では、その入力側の部材と出力側の部材との相対回転(すなわち滑り)を有効に利用してショックを吸収もしくは低減することが好ましい。そのためには、フューエルカット制御中に係合させていたロックアップクラッチ17を、フューエルカット復帰に先立って解放する。
【0138】
この発明に係る制御装置で実行されるその制御の一例を図21にフローチャートで示してある。図21に示す制御例では、先ず、エンジン1のポンピングロスを低減するための制御として吸入空気量を増大させる制御が実行されているか否かが判断される(ステップS61)。これは、前述した図5に示す制御例におけるステップS11や図8に示す制御例におけるステップS21あるいは図11に示す制御例におけるステップS31さらには図14に示す制御例におけるステップS41などと同様の制御である。したがって、このステップS61で否定的に判断された場合には、特に制御を行うことなく、一旦、このルーチンを終了する。
【0139】
これに対してフューエルカット制御で吸入空気量の増大制御が実行されていることによりステップS61で肯定的に判断された場合には、ロックアップクラッチ17を係合(ロックアップ・オン)させ、かつフューエルカットを継続(フューエルカット・オン)する条件が成立しているか否かが判断される(ステップS62)。ロックアップ・オンの判断はロックアップ制御用マップと車速とに基づいて行うことができ、またフューエルカット・オンの判断は前述したフューエルカット実行条件が成立しているか否かによって行うことができる。このステップS62で否定的に判断された場合には、特に制御を行うことなく、一旦、このルーチンを終了する。
【0140】
さらに、アイドルスイッチ(アイドルSW)がオフか否か、あるいはアクセルペダル26が踏み込まれてその開度が所定値αより大きくなっているか否かが判断される(ステップS63)。すなわち、駆動要求があって、フューエルカット制御の実行条件が成立しなくなったか否かが判断される。このステップS63で否定的に判断された場合には、それまでに実行されているフューエルカット制御を継続するべく、特に制御を行うことなくこのルーチンを一旦終了する。これに対して、駆動要求があってステップS63で肯定的に判断された場合には、ロックアップ・オフの要求信号(制御指令信号)が出力される(ステップS64)。すなわち、ポンピングロスの低減のためのスロットル開度の制御を伴うフューエルカット制御中に駆動要求があった場合、フューエルカット復帰に先立って、先ず、ロックアップクラッチ17を解放する制御が実行される。
【0141】
このように制御した場合の車両加速度(前後G)やスロットル開度、吸気管圧などの変化を図22に示してある。なお、図22の実線が図21に示す制御を行った場合の例であり、破線は吸入空気量を増大させなかった場合の例を示している。ロックアップクラッチ17を係合させ、かつフューエルカットを実行している減速中には、車速の低下に伴って変速比γがハイギヤ側からローギヤ側に次第に増大させられる。この状態では、エンジンの軸トルク(ENG軸トルク)は負の値となっており、前後Gが次第に低下する(減速力が次第に増大する)。この過程で変速比γが前述した図1を参照して説明した制御例でのしきい値γ1に達すると(t61時点)、スロットル開度が変速比の増大に応じて次第に増大させられ、それに応じて吸気管圧が次第に高くなる。エンジン1に対する吸入空気量が増大すると、そのポンピングロスが低減され、その結果、エンジン軸トルクがポンピングロスの低減分、増大する(負トルクが小さくなる)。また、前後Gの負側への増大(減速力の増大)が緩和される。
【0142】
ポンピングロスを低減するようにスロットル開度が制御されている過程で、アクセルペダル26が踏み込まれると、これとほぼ同時にロックアップクラッチ17を解放する制御が実行され、ロックアップクラッチ17が解放する(t62時点)。また、スロットル開度が、機構上可能な最小開度TAMIN、あるいはアイドル判定可能な最小開度TAIDLMINに絞られる。その後、スロットル開度がアイドル開度またはアクセル開度に応じて定められるスロットル開度に向けて徐々に増大させられる。したがって、吸気管圧やエンジン軸トルクが次第に低下する。なお、前後Gは、車両の慣性力が大きいので、直ちに低下することはない。
【0143】
他方、アクセルペダル26が踏み込まれてスロットル開度が大きくなることによりアイドルスイッチがオフに切り替わる。その後、エンジン回転数が復帰回転数にまで低下することにより、あるいは吸気管圧がアイドル開度に対応する圧力にまで低下することにより、燃料の供給が再開(フューエルカット復帰)される(t63時点)。
【0144】
フューエルカット復帰によってエンジン1の軸トルクが増大して車両は被駆動状態から駆動状態に切り替わるが、エンジン1から変速機9に伝達されるトルクの変化は、ロックアップクラッチ17が解放されていてトルクコンバータ14で滑りが生じることにより緩和される。そのため、図22に示すように、前後Gは滑らかに増大する。これに対して図22に破線で示すように、アクセルペダル26が踏み込まれてロックアップ・オン(係合状態)のまま、これと相前後してスロットル開度を増大させ、かつフューエルカット復帰を行うと、エンジン軸トルクが急激に増大し、その変化がロックアップクラッチ17を介して駆動系統に伝達されるので、駆動系のガタや捻りなどによって前後Gの脈動が生じる場合がある。なお、図21に示す制御を行う場合、ロックアップ・オフの要求は、少なくともアイドルスイッチがオフになるまでに出力する。
【0145】
上述した図21に示すルーチンは、マイクロコンピュータを主体とする前記電子制御装置22によって実行されるから、前述したステップS61はポンピングロス低減制御判断手段、ステップS62はフューエルカット判断手段、ステップS63はロックアップ継続判断手段、ステップS64はロックアップ・オフ手段と言うことができる。したがって、図21に示す制御を実行する制御装置は、「直結クラッチを係合させてフューエルカット制御を行っている場合に駆動要求があった場合に、フューエルカット復帰に先行して直結クラッチを解放させるロックアップ・オフ手段を備えていることを特徴とする車両の制御装置。」と言うことができる。
【0146】
ところで、ガソリンエンジンの軸トルクは、吸入空気量によって変化させることができるだけでなく、点火時期によっても変化させることができる。例えば、フューエルカット復帰に伴って増大するエンジン軸トルクの変化を点火時期によって緩和することができる。すなわち、フューエルカット制御中にポンピングロスを低減するために吸入空気量を変速比の増大に合わせて増大させていると、駆動要求あるいはそれに伴うロックアップ・オフなどによって燃料の供給を再開した場合、エンジン1が出力するトルクが急速に増大することがある。このような場合、点火時期を遅角させて軸トルクの増大を抑制し、ショックや違和感を抑制する。この発明係る制御装置で実行されるその制御の一例を図23にフローチャートで示してある。
【0147】
点火時期の遅角制御は、吸入空気量を増大させてエンジン1のポンピングロスを低減している場合に実行することが好ましく、そこで図23に示す例では、先ず、エンジン1のポンピングロスを低減するための制御として吸入空気量を増大させる制御が実行されているか否かが判断される(ステップS71)。これは、前述した図5に示す制御例におけるステップS11や図8に示す制御例におけるステップS21などと同様の制御である。したがって、このステップS71で否定的に判断された場合には、特に制御を行うことなく、一旦、このルーチンを終了する。
【0148】
これに対してステップS71で肯定的に判断された場合には、ロックアップクラッチ17を解放(ロックアップ・オフ)し、かつ燃料の供給を再開(フューエルカット・オフ)する状態が成立したか否かが判断される(ステップS72)。これは、前述した図21に示すステップS62の判断とは反対の判断を行うステップであり、したがってロックアップ・オフの判断はロックアップ制御用マップと車速とに基づいて行うことができ、またフューエルカット・オフの判断は前述したフューエルカット実行条件が成立しているか否かによって行うことができる。このステップS72で否定的に判断された場合には、特に制御を行うことなく、一旦、このルーチンを終了する。
【0149】
フューエルカット制御中に駆動要求が発生するなどのことによってステップS72で肯定的に判断された場合には、トルク抑制制御が完了したか否かが判断される(ステップS73)。このトルク抑制制御は、つぎのステップS74で実行される点火時期遅角によるエンジン軸トルクの低下制御であり、その制御は、予め定めた所定時間の間継続され、あるいはアクセル開度もしくはスロットル開度から求まる軸トルクと実際の軸トルクとの偏差が設計上定めた所定のしきい値以下となるまで継続されるから、時間の経過や軸トルクの偏差などに基づいてステップS73の判断が行われる。
【0150】
このステップS73で否定的に判断された場合にはステップS74に進んで、フューエルカット復帰に伴う点火時期の遅角制御が実行される。その制御は、フューエルカット復帰と同時に、もしくはその判断が成立することにより、点火時期の遅角量を、予め定めた値まで増大させることにより行われる。その遅角量は、フューエルカット復帰に伴うエンジン軸トルクの急速な増大を抑制する効果があるように予め実験やシミュレーションなどによって決めることができる。その後、時間の経過に伴って遅角量が漸減される。より具体的には、点火回数の積算値の増大に対して遅角量の減少が遅れるように、遅角量が漸減される。
【0151】
このようにして定めた遅角量の変化およびベーストルクの変化を図24に模式的に示してある。ここに示す例では、フューエルカット復帰の判断が成立することにより、あるいはその判断に伴って燃料の供給が再開されると同時に、点火時期CAが予め定めた値AMINに遅角させられる。その後、遅角量が次第に減少させられ、通常の制御による遅角量(もしくは進角量)に戻されるが、遅角量の減少幅もしくは減少割合(戻し量)は、当初、小さく、次第に大きくなる。したがって、図24に示すように、点火時期の遅角量を示す線は、横軸に点火回数を採ると、いわゆる下に凸となった曲線となる。したがって、燃料の供給によってエンジン軸トルクが増大する(立ち上がる)が、そのトルクは、点火時期の遅角によって制限されたトルクとなる。より具体的には、エンジン軸トルクは、当初、燃料の供給によって立ち上がるものの、スロットル開度に応じたトルクを超えることがなく、その後、トルクの増大率が小さくなって次第にスロットル開度に応じたトルクに収束する。こうしてベーストルクの偏差が前記の所定のしきい値以下となることにより、トルク抑制制御が完了する。
【0152】
上記のステップS74に続くステップS75では、上述したようにして求められる点火時期が制御指令信号として出力される。なお、トルク抑制制御が完了していてステップS73で肯定的に判断された場合には、通常の点火時期制御が実行される(ステップS76)。ここで、通常の点火時期制御とは、従来知られている制御であって、エンジン回転数やエンジン負荷に基づいて点火時期を進角もしくは遅角する制御である。このステップS76で求められた点火時期は、ステップS75で制御指令信号として出力される。
【0153】
ロックアップクラッチ17を解放することに伴ってフューエルカット復帰を行う場合に上記の図23に示す制御を実行した場合の点火時期や車両加速度(前後G)、スロットル開度、吸気管圧などの変化を図25に示してある。なお、図25の実線が図23に示す制御を行った場合の例であってスロットル開度を絞る制御をロックアップ・オフよりも前出しして行う例を示し、破線は吸入空気量を増大させなかった場合の例を示している。ロックアップクラッチ17を係合させ、かつフューエルカットを実行している減速中には、車速の低下に伴って変速比γがハイギヤ側からローギヤ側に次第に増大させられる。この状態では、エンジンの軸トルク(ENG軸トルク)は負の値となっており、前後Gが次第に低下する(減速力が次第に増大する)。この過程で変速比γが前述した図1を参照して説明した制御例でのしきい値γ1に達すると(t71時点)、スロットル開度が変速比の増大に応じて次第に増大させられ、それに応じて吸気管圧が次第に高くなる。エンジン1に対する吸入空気量が増大すると、そのポンピングロスが低減され、その結果、エンジン軸トルクがポンピングロスの低減分、増大する(負トルクが小さくなる)。また、前後Gの負側への増大(減速力の増大)が緩和される。
【0154】
車速が次第に低下して、前述した図5に示す制御でのしきい値SPDCLOSEに達すると(t72時点)、スロットル開度が、機構上可能な最小開度TAMIN、あるいはアイドル判定可能な最小開度TAIDLMINに絞られる。その後、スロットル開度がアイドル開度またはアクセル開度に応じて定められるスロットル開度に向けて徐々に増大させられる。したがって、吸気管圧やエンジン軸トルクが次第に低下する。なお、前後Gは、車両の慣性力が大きいので、直ちに低下することはない。その後、車速が更に低下してロックアップ領域の下限車速に達すると、ロックアップクラッチ17が解放させられる(t73時点)。
【0155】
ロックアップクラッチ17を解放する制御が開始されると、その後の経過時間がカウントされ、その経過時間が前述したガード時間TGRDに達したか否かが判断される。また、ロックアップ・オフ後の吸気管圧Pがアイドル開度に対応した吸気管圧PISCにまで低下したか否かがモニターされる。そして、経過時間がガード時間TGRDに達することなく吸気管圧Pがアイドル開度に対応した吸気管圧PISCにまで低下した時点(t74時点)にフューエルカット復帰が実行される。すなわち、燃料の供給が再開される。
【0156】
これと同時に点火時期の遅角制御が実行され、点火時期CAが予め定めた量だけ遅角され、その後、遅角量が次第に減少させられる。したがって、ベーストルクの立ち上がりが制限されるので、エンジン軸トルクが増大方向にオーバーシュートすることが防止もしくは抑制される。こうして燃料の供給を再開することによってエンジン1がベーストルクを出力するので、前後Gはベーストルクに応じて大きくなる(減速力が低下する)。しかし、未だ車両が減速していてエンジン1は車両の慣性力によって強制的に回転させられ、いわゆるエンジンブレーキ力を発生しているので、前後Gは負の値となっている。
【0157】
上述した図23に示すルーチンは、マイクロコンピュータを主体とする前記電子制御装置22によって実行されるから、前述したステップS71はポンピングロス低減制御判断手段、ステップS72はフューエルカット復帰要求判断手段、ステップS73はトルク抑制完了判断手段、ステップS74は遅角量算出手段、ステップS75は遅角指令手段と言うことができる。したがって、図23に示す制御を実行するこの発明に係る制御装置は、「フューエルカット制御を行って減速している車両のエンジンに対して燃料の供給を再開する場合に、エンジンの点火時期を遅角させてトルクを相対的に低下させる遅角指令手段を備えていることを特徴とする車両の制御装置。」と言うことができる。
【0158】
また、その装置は、「前記遅角指令手段は、前記燃料の供給再開の直後の遅角量が最も大きく、その後に遅角量を次第に減少させ、かつその遅角減少割合が、当初小さく、その後に相対的に大きくなるように遅角量を指令する手段を含むことを特徴とする車両の制御装置。」と言うことができる。
【0159】
上述したように、フューエルカットを伴う減速中には、エンジン回転数を復帰回転数以上の回転数に維持するためにロックアップクラッチ17を係合状態に維持している。これは、車軸からの回転もしくはトルクが変速機9などの駆動系統を介してエンジン1に可及的に確実に伝達するようにするためである。言い換えれば、ロックアップ・オンおよびフューエルカット・オンでの減速中の制動トルクもしくは減速力が、変速機9での変速比の増大に伴って増大する。特に、変速機9の出力回転数や車輪(図示せず)の回転数に基づいて車速を判断している場合には、路面摩擦係数(路面μ)が低下して出力回転数あるいは車輪回転数が低下した場合には、無段変速機からなる変速機9の回転数が急速に増大し、いわゆるエンジンブレーキ力が増大する。このような場合、車両の制動力を確保するために、以下の制御を行うことが好ましい。
【0160】
図26はこの発明に係る制御装置で実行されるその制御の一例を説明するためのフローチャートであって、ここに示す例は、路面摩擦係数が低下した場合に、ロックアップクラッチ17を解放するように構成した例である。具体的に説明すると、ロックアップクラッチ17を係合させ、かつフューエルカットを行っている減速状態で、ロックアップクラッチ17を係合させる状態およびフューエルカットを行う状態が継続しているか否かが判断される(ステップS81)。このステップS81で否定的に判断された場合には、フューエルカット制御を中止し、ロックアップクラッチ17を解放する状態が成立していることになるので、この場合は、フューエルカット復帰制御が実行されるので、図26に示すルーチンは、一旦、終了される。
【0161】
これに対してステップS81で肯定的に判断された場合には、路面摩擦係数の低い路面すなわち低μ路を走行中か否かが判断される(ステップS82)。この判断は、従来知られているナビゲーションシステムによって得られる道路情報に基づいて行うことができ、あるいはいわゆるアンチ・ロックブレーキ・システム(ABS)による車体速度と車輪速度とに基づいて判断することができる。したがって、ステップS82では、駆動輪の路面に対するスリップ率あるいはスリップの有無を判定していることになる。このステップS82で否定的に判断された場合には、通常の制御を実行すればよいので、図26に示すルーチンは、一旦、終了される。これとは反対にステップS82で肯定的に判断された場合には、ロックアップクラッチ17を解放(リリース)するための要求信号が出力される(ステップS83)。すなわち、ロックアップクラッチ17を解放する制御が実行される。
【0162】
この図26に示す制御を行った場合の路面摩擦係数やロックアップクラッチ17の係合・解放の状態、車速、変速比などの変化を図27に模式的に示してある。ロックアップクラッチ17を係合させ、かつフューエルカットを行っている減速走行中に路面摩擦係数μが予め定めたしきい値以下に低下すると、いわゆる低μ路の判断が成立する(t81時点)。その判断の成立に伴ってロックアップクラッチ17を解放する制御指令信号が出力される。減速状態でロックアップクラッチ17が解放させられると、エンジン1を強制的に回転させるようにエンジン1に作用する外力が低下するので、エンジン1の回転数が急速に低下し、その結果、エンジン回転数が復帰回転数に達した時点(t82時点)にフューエルカット復帰の制御指令信号が出力される。こうして燃料の供給が再開されると、エンジン1はいわゆるアイドリング状態でのトルクを出力するから、車速の低下に伴って変速比が大きくなっていても、車両の前後Gすなわち制動力もしくは減速力が小さくなる。そのため、路面μが小さい状態であっても、車両の挙動の安定性を確保でき、あるいは挙動安定性の低下を防止もしくは抑制することができる。
【0163】
これに対して図27に破線で示すように、車速がロックアップ領域の下限車速に低下するまでロックアップクラッチ17を係合し続け(t83時点)、その後にエンジン回転数が復帰回転数に低下した際にフューエルカット復帰を行う(t84時点)とすると、車両の前後Gあるいは制動力もしくは減速力が大きくなるので、低μ路でにおける車両の挙動安定性を維持することが難しくなる可能性がある。
【0164】
上述した図26に示すルーチンは、マイクロコンピュータを主体とする前記電子制御装置22によって実行されるから、前述したステップS81はフューエルカット制御継続判断手段、ステップS82は低摩擦係数路判断手段、ステップS83はロックアップ解放指示手段と言うことができる。したがって、図26に示す制御を実行するこの発明に係る制御装置は、「駆動輪のスリップ率もしくはスリップの有無を判定する低摩擦係数路判断手段と、スリップ率が大きいこともしくはスリップが生じていることが判定された場合に直結クラッチを解放するロックアップ解放指示手段とを備えていることを特徴とする車両の制御装置。」と言うことができる。
【0165】
なお、上述した図1、図5、図8、図11、図14、図17、図21、図23、図26に示す各制御はそれぞれ適宜に組み合わせて実行してもよい。例えば図1、図8、図11、図17、図21、図23、図26に示す制御を組み合わせて実行し、あるいはその図11に示す制御を図14に示す制御に置き換えてもよく、さらにいずれか二つもしくはそれ以上の適宜の数の制御を組み合わせて実行するように構成してもよい。
【符号の説明】
【0166】
1…エンジン、 2…吸気管、 3…スロットルバルブ、 4…スロットルアクチュエータ、 5…スロットルセンサ、 6…空気量センサ、 9…変速機、 14…トルクコンバータ、 16…エンジン回転センサ、 17…ロックアップクラッチ、 18…入力軸、 19…入力回転数センサ、 20…出力軸、 21…出力回転数センサ、 22…電子制御装置(ECU)、 23…フューエルカット装置、 24…ブレーキペダル、 25…ブレーキストロークセンサ、 26…アクセルペダル、 27…アクセルストロークセンサ、 28…マスターシリンダ、 29…ブレーキマスター圧センサ、 30…ブレーキブースタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料が供給されずに回転している状態における吸入空気量の増大に応じて動力損失が低減するエンジンの出力側に変速比が連続的に変化する変速機が連結され、前記エンジンおよび変速機を搭載した車両の走行中に予め定めた所定の条件が成立することにより前記エンジンに対する燃料の供給を停止し、その燃料の供給停止中に前記吸入空気量を増大させる車両の制御装置において、
前記エンジンに対する燃料の供給を再開する場合に、前記増大させた吸入空気量を減少させる制御を行うように構成されていることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記増大させた吸入空気量を減少させる制御は、前記燃料供給の再開に先行して行うように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記エンジンは、前記吸入空気量を制御するためのスロットルバルブを備え、
前記増大させた吸入空気量を減少させる制御は、前記スロットルバルブの開度を減少させる制御を含み、かつ前記吸入空気量が前記減少させたスロットルバルブの開度に対応した量になった際に燃料の供給が再開されるようにスロットルバルブの開度の減少を指示する制御を含む
ことを特徴とする請求項1または2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記エンジンは、前記吸入空気量を制御するためのスロットルバルブを備え、
前記増大させた吸入空気量を減少させる制御は、前記スロットルバルブを一旦閉じ側に動作させる制御を含む
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記スロットルバルブを一旦閉じ側に制御した後、前記エンジンの吸気管圧が予め定めた圧力まで低下した場合、あるいは予め設定したガード時間が経過した場合に、前記燃料の供給を再開するように構成されていることを特徴とする請求項4に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記スロットルバルブは、エンジン回転数をアイドリング回転数に維持するアイドル開度および該アイドル開度より小さい開度に設定可能なスロットルバルブを含み、
前記スロットルバルブを一旦閉じ側に動作させる制御は、前記スロットルバルブの開度を前記アイドル開度より小さい開度に絞った後に前記アイドル開度に設定する制御を含む
ことを特徴とする請求項4に記載の車両の制御装置。
【請求項7】
前記アイドル開度より小さい開度は、前記エンジンのアイドリング状態を判定可能な開度であることを特徴とする請求項6に記載の車両の制御装置。
【請求項8】
前記エンジンに対する燃料の供給を停止している際に前記スロットルバルブを開いて前記吸入空気量を増大させている状態で前記スロットルバルブを開く加速要求があることにより前記燃料の供給を再開する場合、前記スロットルバルブを前記加速要求になる開度より小さい開度に一旦動作させる制御を行うように構成されていることを特徴とする請求項4に記載の車両の制御装置。
【請求項9】
前記スロットルバルブを前記加速要求になる開度より小さい開度に一旦動作させる制御に続けて前記スロットルバルブの開度を加速要求に応じた開度に向けて増大させる制御を行うように構成されていることを特徴とする請求項8に記載の車両の制御装置。
【請求項10】
前記エンジンは、点火時期を遅角することにより出力トルクが低下するエンジンを含み、
そのエンジンに対する燃料の供給を再開する際に前記点火時期を遅角する制御を実行するように構成されていることを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項11】
前記点火時期の遅角量を少なくする遅角減少割合は、前記エンジンに対する燃料の供給再開直後で相違的に小さく、その後に相対的に大きくすることを特徴とする請求項10に記載の車両の制御装置。
【請求項12】
前記変速機は、流体継手と、その流体継手における入力側の部材と出力側の部材とを直接連結する直結クラッチとを備え、
前記エンジンに対する燃料の供給を停止している際に前記スロットルバルブを開いて前記吸入空気量を増大させかつ前記直結クラッチを係合させている状態で前記車両の加速要求があった場合に、前記直結クラッチを解放させるように構成されていることを特徴とする請求項1ないし11のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項13】
前記エンジンに対する燃料の供給を停止している際に前記スロットルバルブを開いて前記吸入空気量を増大させかつ前記直結クラッチを係合させている状態で前記車両の駆動輪の路面に対するスリップ率が大きいことが判定された場合に、前記直結クラッチを解放させるように構成されていることを特徴とする請求項12に記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2011−43110(P2011−43110A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192128(P2009−192128)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】