説明

車両の走行制御装置

【課題】
この発明は、先行車の走行状態を検出することで、予め先方の道路形状を予測検出して、自車の走行状態を制御する車両の走行制御装置において、加減速度の道路勾配に応じた補正のタイミングを適切にすることにより、運転者に違和感又は不安感を感じさせない車両の走行制御装置を提供することを目的とする。
【解決手段】
車両の加減速制御を行う車両の走行制御装置であって、レーダー波を自車Aの前方に発信して、先行車Bからの反射波に基づき、先行車Bとの距離L、相対速度ΔV及び先行車Bの高さHを検出するレーダー1と、前記先行車Bとの距離Lが目標距離となるよう実距離と目標距離との偏差に応じて車両の目標加速度を設定し、当該目標加速度になるように車両の走行装置であるエンジンや自動変速機を制御するコントローラーと、前記先行車Bの高さHの変化に基づき、自車A前方に存在する坂道極点(坂道の勾配開始地点)を算出し、当該坂道極点までの距離がゼロとなった時に、当該坂道の属性に応じて前記目標加速度を補正するコントローラー(加速度補正手段)とを備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
車両の走行制御装置、特に、前方を走行する先行車に追従して自車の走行状態を制御する車両の走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、運転者の運転操作の負担を軽減するために、先行車がある場合には、先行車との車間距離等に応じて加減速制御を行い、追従制御を行う走行制御装置が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1では、こうした走行制御をより安全且つ快適に行うため、先行車の進入している先方の道路勾配を、先行車の走行状態から予め予測検出し、その先方の道路勾配に応じて、車間距離に応じた加減速度の補正制御を行う車両の走行制御装置が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−200751号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
確かに、特許文献1のように、先行車の走行状態から先方の道路勾配を予測検出することにより、より安全且つ快適な車両の走行制御を行うことができる。
【0006】
しかしながら、この特許文献1の走行制御装置による制御では、運転者が違和感又は不安感を感じてしまうおそれがある。
【0007】
すなわち、特許文献1では、「上り坂前での事前の加速、下り坂前での事前の減速が可能」としているが、このような制御を行うと、上り坂に移行する場合、加速度を道路勾配に応じて補正するタイミングが早すぎ、過剰に加速気味となり先行車との距離が近接し、運転者に不安感を与えることになり、また、下り坂に移行する場合には、減速度を道路勾配に応じて補正するタイミングが早すぎ、早期に減速して先行車との距離が離間し、運転者に違和感を与えるという問題が生じるのである。
【0008】
そこで、この発明は、先行車の走行状態を検出することで、予め先方の道路形状を予測検出して、自車の走行状態を制御する車両の走行制御装置において、加減速度の道路勾配に応じた補正タイミングを適切にすることにより、運転者に違和感又は不安感を感じさせない車両の走行制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の車両の走行制御装置は、車両の加減速制御を行う車両の走行制御装置であって、レーダー波を自車の前方に発信して、先行車からの反射波に基づき、先行車との距離、相対速度及び先行車の高さを検出する先行車検出手段と、前記先行車との距離が目標距離となるよう実距離と目標距離との偏差に応じて車両の目標加速度を設定し、当該目標加速度になるように車両の走行装置を制御する制御手段と、前記先行車の高さの変化に基づき、自車前方に存在する坂道の勾配開始地点を算出し、当該勾配開始地点までの距離が所定値以下となった時に、当該坂道の属性に応じて前記目標加速度を補正する加速度補正手段とを備えたものである。
【0010】
上記構成によれば、先行車検出手段により、先行車との距離、相対速度及び先行車の高さを検出し、制御手段により、先行車との距離が目標距離となるように、実距離と目標距離との偏差に応じて車両の目標加速度を設定される。そして、加速度補正手段によって、車両前方に存在する坂道の勾配開始地点を算出し、当該勾配開始地点までの距離が所定値以下となった時に、当該坂道の属性に応じて前記目標加速度が補正される。
【0011】
すなわち、加速度補正手段は、坂道の勾配開始地点(坂道極点)に近接した地点(望ましくはゼロ)で、はじめて、目標加速度を補正することになる。
【0012】
これにより、実際に自車が坂道の勾配開始地点付近に到達した適切なタイミングで、目標加速度を補正した走行制御が行なわれることになる。
【0013】
この発明の一実施態様においては、前記加速度補正手段を、先行車との距離が所定距離以上又は自車速が所定車速以上の場合には、前記勾配開始地点までの距離が所定値以下になるまでの間、前記車両の目標加速度を減少補正するように構成し、先行車との距離が所定距離以下又は自車速が所定車速以下の場合には、前記車両の目標加速度を減少補正しないように構成したものである。
【0014】
上記構成によれば、加速度補正手段は、先行車との距離が所定距離以上又は自車速が所定車速以上の場合、坂道の勾配開始地点までの距離が所定値以下になるまでの間、前記車両の目標加速度を減少補正し、先行車との距離が所定距離以下又は自車速が所定車速以下の場合、前記車両の目標加速度を減少補正しない。
【0015】
すなわち、坂道の勾配開始地点に近づくまでの間、加速度補正手段は、先行車との距離が所定距離以上又は自車速が所定車速以上の場合には、車両の目標加速度を減少補正(なまし補正)することで、先行車の影響を受けにくくし、先行車との距離が所定距離以下又は自車速が所定車速以下の場合には、車両の目標加速度を減少補正(なまし補正)しないことで、先行車の影響を受けやすくしている。
【0016】
これにより、先行車との距離が所定距離以上又は自車速が所定車速以上の場合には、先行車の坂道に進入した際の加減速変化が、自車の目標加速度の設定に対して直接影響を与えにくいため、目視で感じにくい先行車の加減速変化の影響を受けて、自車が頻繁に加減速を繰り返すといったことを無くすことができる。
【0017】
したがって、運転者の意識しない加減速変化によって、運転者に違和感を感じさせることはない。
【0018】
一方、先行車との距離が所定距離以下又は自車速が所定車速以下の場合(例えば、渋滞を走行する場合)には、先行車の坂道に進入した際の加減速変化が、自車の目標加速度の設定に対して直接影響を与えるため、目視で感じることができる先行車の加減速変化の動きに合わせて、自車も加減速されることになる。
【0019】
よって、運転者に自車が確実に先行車に追従していることを認識させることができ、運転者に安心感を与えることができる。
【発明の効果】
【0020】
この発明によれば、加速度補正手段が、坂道の勾配開始地点(坂道極点)に近接した地点(望ましくはゼロ)で、はじめて、目標加速度を補正することになる。これにより、実際に自車が坂道の勾配開始地点付近に到達した適切なタイミングで、目標加速度を補正した走行制御が行なわれることになる。
【0021】
よって、先行車の走行状態を検出することで、予め先方の道路形状を予測検出して、自車の走行状態を制御する車両の走行制御装置において、加速減速の道路勾配に応じた補正タイミングを適切にすることができ、運転者に違和感又は不安感を感じさせないことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面に基づいて、この発明の実施形態を詳述する。
図1は、本願発明の車両の走行制御装置(所謂アダプティブ・クルーズ・コントロール・システム。)を適用した車両A(以下、自車。)と追従対象の車両B(以下、先行車。)とを示す全体説明図で、この図に示すように、この走行制御装置は、先行車Bの自車Aの前部(例えば、バンパー内、フロントグリル内)に装着したレーダー1から前方にレーダー波を発信し、先行車Bの後部に装着したリフレクター2から反射された反射波を受信することで、先行車Bとの距離L及び先行車Bの高さH等を検出、演算し、自車Aの加減速制御を行うように構成している。
【0023】
また、このレーダー1の装着位置は、先行車Bのリフレクター2が検知可能な位置(高さ)に設定されている。これは、下り坂において、勾配検出する場合に先行車Bのみが下り坂を下る際でも、確実に先行車Bの位置を検出できるようにするためである。
【0024】
図2は、車両の走行制御装置のブロック図を示し、入力手段として、先行車Bからの反射波を受けて先行車Bの位置を検出するレーダー1と、自車Aの車両速度を検出する車速センサー3とを備える。なお、レーダー1の種類は特に限定されるものではなく、先行車Bの位置を随時検出できるものであればよい。
【0025】
これら入力手段からの入力信号は、制御手段たるコントローラー4に取り込まれて、車両の走行制御のために用いられる。このコントローラー4には、先行車Bとの間の距離Lを演算する距離演算部4a、先行車Bと自車Aとの間の相対速度を演算する相対速度演算部4b、これらの演算結果等から自車Aの目標加速度を設定する目標加速度設定部4cとを備える。
【0026】
また、出力手段としては、エンジン制御とミッション(自動変速機)制御を行うエンジン/ミッションコントローラー5を備え、前述の目標加速度設定部で設定した目標加速度に自車Aの実加速度がなるよう、エンジン出力と自動変速機の変速比を制御している。
【0027】
このように構成した車両の走行制御装置における制御方法について、図3、図4のフローチャートにより説明する。図3は坂道判定のためのフローチャート、図4は坂道判定時における車両の走行制御のフローチャートである。
【0028】
まず、坂道判定は、図3に示すようにエンジン始動(IGオン)後、所定時間ごとに実行する。すなわち、走行制御装置を作動(ACCオン)していない状態でも、常時坂道判定を行わせているのである。このように常時坂道判定を行うことで、運転者が急に走行制御装置を作動させた場合でも、即座に坂道状態の有無を反映した走行制御を行なうことができる。
【0029】
坂道判定では、初めに、S1でレーダー1からレーダー1受信信号と車速センサー3から車速信号を入力する。次に、S2でその信号を基に先行車Bとの距離L、車両間の相対速度ΔV、先行車Bの高さHを演算する。そして、この先行車Bの高さHの変化状態によって坂道を判定する。
【0030】
この坂道判定では、S3のように今回の高さHと前回の高さHn−1の差が所定値以上といった状態が所定回数(K回)継続した場合には、継続して先行車Bの高さHが上昇しているため、上りと判定する。
【0031】
一方、S4のように前回の高さHn−1と今回の高さHの差が所定値以上といった状態が所定回数(K回)継続した場合には、継続して先行車Bの高さHが降下しているため、下りと判定する。
【0032】
もっとも、いずれにも該当しない場合(S3でNO、S4でもNOの場合)には、先行車Bは平坦路を走行していると考えられるため、S5に移行して上り勾配フラグF1を「0」とし、S6で下り勾配フラグF2も「0」とする。
【0033】
S3で上りと判定された場合(S3でYESの場合)には、S7に移行して所定回数前(K回前)で演算した距離Ln−kを坂道極点(坂道の勾配開始地点)までの距離Lと設定する。すなわち、所定回数前(K回前)の先行車Bの高さ変化が生じた時点での先行車Bとの距離を、そのまま坂道極点までの距離Lとして擬制しているのである。
【0034】
次に、S8で先行車Bの高さ変化から先方の上り坂の勾配の角度を算出し、S9で上り勾配フラグF1を「1」とし、S10で下り勾配フラグF2を「0」とする。
【0035】
一方、S4で下りと判定された場合(S3でNO、S4でYESの場合)にも、S11に移行して所定回数前(K回前)で演算した距離Ln−kを坂道極点までの距離Lと設定する。すなわち、この場合も、所定回数前(K回前)の先行車Bの高さ変化が生じた時点での先行車Bとの距離を、そのまま坂道極点までの距離Lとして擬制しているのである。
【0036】
そして次に、S12で先行車Bの高さ変化から先方の下り坂の勾配の角度を算出し、S13で上り勾配フラグF1を「0」とし、S14で下り勾配フラグF2を「1」とする。
【0037】
以上の制御フローにより坂道判定が行われ、この坂道判定の結果が、次の車両の走行制御に反映される。
【0038】
次に、図4に示す坂道判定時における車両の走行制御について説明する。
まず、ACCスイッチをオンとすることで制御が開始し、初めに、S21でレーダー1受信信号と車速センサー3信号を入力する。この信号に基づきS22で先行車Bありと判断されない場合(NOの場合)には、S23に移行する。すなわち、先行車Bが存在しないため、設定車速による走行制御を行うフローに移行する。
【0039】
S23では、実車速が運転者の設定した設定車速となるように、両者の間の偏差に応じて目標加速度を設定する。例えば、運転者が設定車速を100km/hに設定したのに対し、実車速が80km/hしかない場合には、20km/hの偏差に応じた目標加速度が設定される。
【0040】
次に、S24で、この目標加速度に応じてエンジン出力と自動変速機の変速比を制御する。例えば、前述のように20km/hに応じた目標加速度が設定された場合、加速方向の目標加速度が設定されるため、エンジン出力を高め、変速比をシフトダウンして駆動トルクを高める制御が行われる。
【0041】
以上のステップで、今回の演算サイクルが終了して、次回の演算サイクルに移行する。
一方、S22で先行車Bありと判断された場合(YESの場合)には、S25に移行して、エンジン出力と加速度から路面勾配を検出する。すなわち、自車Aが現在走行している実際の路面勾配を、予め検出しておき、以後の制御に反映させるのである。
【0042】
次に、S26に移行して、自車Aが勾配走行中かを判定する。勾配走行中と判定した場合(YESの場合)には、S27に移行し、目標車間距離と実車間距離との偏差に対する目標加速度の大きさ(例えば、ゲイン)を、算出した勾配角度に応じて補正する。具体的には、上りの場合は、加速側を増大し減速側を減少すると共に、下りの場合には、加速側を減少し減速側を増大する。これにより、坂道における加減速の走行制御が、坂道の勾配角度に応じて適切に行われることになる。
【0043】
そして、S28で、実車間距離が目標車間距離となるように、目標車間距離と実車間距離との偏差に応じて目標加速度を設定する。この設定により、走行制御装置による目標加速度が決定することになる。
【0044】
最後に、S29で、この目標加速度に応じてエンジン出力と自動変速機の変速比を制御する。目標加速度が加速側であれば、エンジン出力を高め、変速比をシフトダウンすることで駆動トルクを高める制御を行い、目標加速度が減速側であれば、エンジン出力を低め、変速比をシフトアップすることで駆動トルクを低める制御を行う。
【0045】
一方、S26で勾配走行中でないと判定した場合(NOの場合)には、S30に移行し、勾配フラグがあるかを判定する。このS30では、上り勾配フラグF1が「1」か、下り勾配フラグF2が「1」か、を判定することで勾配フラグの有無を判断する。
【0046】
S30で、勾配フラグなしと判断した場合(NOの場合)には、S31に移行する。このS30で勾配フラグなしと判断する場合は、先行車Bがあるものの、自車Aも先行車Bも共に坂道を走行していない状態、すなわち、先行車Bも自車Aも平坦路を走行している状態であるため、別途目標加速度の大きさ(ゲイン)を補正する必要がなく、S31では、目標車間距離と実車間距離との偏差に対する目標加速度の大きさ(ゲイン)を通常値に設定又は戻すように構成している。
【0047】
そして、この目標加速度の大きさ(ゲイン)を通常値にして、S28で、実車間距離が目標車間距離となるように、目標車間距離と実車間距離との偏差に応じて目標加速度を設定する。
【0048】
そして最後に、S29で、この目標加速度に応じてエンジンの出力と自動変速機の変速比を制御する。この場合の走行制御は、一般的な通常の追従制御であり、先行車Bの加減速の動きが、直接自車Aの走行制御に反映されることになる。
【0049】
S30で、勾配フラグありと判断した場合(YESの場合)には、S32に移行する。この勾配フラグありと判断する場合は、先行車Bが坂道に進入している場合であり、これにより、自車Aの先方に坂道があることを認識できる。
【0050】
そして、S32で前回も勾配フラグありかが判断される。これは、先行車Bが坂道進入直後か否かを判定するためのステップである。ここで、前回勾配フラグがなかった場合(NOの場合)、すなわち、先行車Bが進入直後であると判断した場合には、S33に移行する。
【0051】
S33では、先行車Bとの距離が所定値以上か否かが判断される。例えば、60mを所定値とした場合には、60m以上離れている場合(YESの場合)にS34に移行する。そして、S34でカウンターCに所定の定数Cを入力することで、カウンターセットを行う。すなわち、所定距離以上先行車Bと離れている場合に、カウンターセットを行うのである。
【0052】
このS32〜S34の流れは、先行車Bとの距離が所定値(60m)以上で、先行車Bが坂道に進入した直後に行われる制御フローであり、この場合のみ、カウンターセットを行う。このカウンターセットは、後述のように所定期間の間、目標加速度の大きさ(ゲイン)を減少補正(なまし補正)するために行う。
【0053】
なお、S33については、車速が所定値以上か否かを判断するように構成してもよい。例えば、40km/hを所定値として40km/h以上の場合(YESの場合)には、S34へ移行するように構成してもよい。すなわち、所定車速以上の場合に、カウンターセットを行うように構成してもよい。
【0054】
また、カウンターCの定数Cは車速に応じて変更してもよく、高速走行の場合には、先行車Bの加減速も生じにくく、また走行距離も長くなるため、目標加速度をなます期間は短くてもよい。よって、Cは小さな値でよい。一方、低速走行の場合には、先行車Bの加減速が生じやすく、また走行距離も短いため、目標加速度をなます期間は長くした方がよい。よって、Cは大きな値がよい。
【0055】
S32で前回勾配フラグがあった場合(YESの場合)やS33で先行車Bとの距離が所定値以下であった場合(NOの場合)には、カウンターセットはされず、直接S35に移行する。
【0056】
S35では坂道極点に到達したかが判断される。すなわち、坂道極点までの距離を走行したかが判断され、現在自車Aが走行している場所が、坂道極点にあるか否かが判断される。まだ坂道極点に到達しておらず平坦路等であると判断された場合(NOの場合)には、S36に移行する。このS36では、前述のカウンターCの値が検討され、C=0でなければS31には移行せず、カウンターCに値がある場合(NOの場合)には、S37に移行する。
【0057】
S37では、目標加速度の大きさを減少補正(なまし補正)するように構成している。これは、カウンターCに値がある場合には、先行車Bとの距離が所定値(60m)以上で、先行車Bが坂道に進入した時から(カウンターセット時から)、さほど時間が経過していないことが推測されるため、先行車Bの坂道進入直後の不安定な加減速状態が、自車Aの加減速制御にできるだけ影響を及ぼさないように構成しているのである。
【0058】
次に、S38でカウンターCの値がディクリメントされて、カウンターCの値が減少する。このS38でカウンターCの値が減少することで、タイマーカウントがなされる。
【0059】
そして、S28で、この場合の目標加速度を設定して、S29でエンジン出力と自動変速機の変速比を制御し、走行制御を行う。
【0060】
この場合の走行制御においては、先行車Bの坂道進入直後の不安定な加減速状態が、自車Aの加減速制御にできるだけ影響を及ぼさないよう、目標加速度の大きさを減少補正しているため、運転者が目視で感じることができない遠く離れた先行車Bの加減速により、運転者の意識しない加減速がいきなり生じることがなく、運転者に違和感を感じさせることはない。
【0061】
この制御を所定回数繰り返すと、カウンターCの値が減少し、「0」になるとS36からS31に移行して、S31で目標加速度の大きさ(ゲイン)を通常値に戻すことになる。所定期間経過後は、先行車Bの坂道進入直後の不安定な加減速状態がなくなるため、通常の追従制御に戻すことで、制御感度を高めているのである。
【0062】
S35で、自車Aが坂道極点に到達したと判断した場合(YESの場合)には、S39に移行してカウンターCの値を「0」にする。坂道極点に到達した場合には、目標加速度をなます必要がなく、タイマーカウントの必要がなくなるからである。
【0063】
そして、S40に移行して勾配フラグの状態を判定する。上り勾配フラグF1が「1」の場合(YESの場合)には、上りと判定しているため、S41に移行する。このS41では、目標加速度の大きさ(ゲイン)を、上り勾配の勾配角度に応じて補正する。具体的には、加速側を増大補正し、減速側を減少補正するように構成している。
【0064】
一方、S40でF1が「1」でない場合(NOの場合)には、下りと判定しているため、S42に移行する。このS42では、目標加速度の大きさ(ゲイン)を、下り勾配の勾配角度に応じて補正する。具体的には、加速側を減少補正し、減速側を増大補正するように構成している。
【0065】
このように、自車Aが坂道極点に到達してから、坂道判定の際に設定した勾配フラグ等を利用して目標加速度の大きさ(ゲイン)を補正するように構成することで、適切なタイミングで、坂道における目標加速度に切り替えることが可能となる。
【0066】
そして、目標加速度の大きさ(ゲイン)を補正した後に、S28に移行して、坂道における目標加速度を設定し、S29で、坂道における目標加速度に応じてエンジンの出力と自動変速機の変速比を制御する。
【0067】
このように、自車Aが坂道極点に到達してから、はじめて、坂道判定による補正制御を行うため、加速減速のタイミングを適切にすることができ、運転者に違和感又は不安感を感じさせることはない。
【0068】
図5〜図8は、本実施態様の車両の走行制御装置による制御が、車両の走行状況に応じて如何に変化していくかを説明する状態説明図である。
【0069】
図5は、自車Aも先行車Bも共に平坦路を走行している状態である。この状態は、図4のフローチャートでいうと、S31で目標加速度の大きさ(ゲイン)を通常値で制御している状態である。すなわち、通常の追従制御を行っている状況であり、先行車Bの加減速の影響がそのまま、車両の走行制御に反映される制御状態である。
【0070】
図6は、自車Aが平坦路であるが、先行車Bが坂道極点を走行している状態である。この状態は、図4のフローチャートでいうと、S37で目標加速度の大きさ(ゲイン)を減少補正(なまし補正)して制御している状態である。すなわち、先行車Bの加減速の変動の影響を受けないように、加速側、減速側ともに目標加速度の大きさ(ゲイン)を減少して制御している状況であり、先行車Bの不安定な加減速の影響ができるだけ、車両の走行制御に及ばないようにした制御状態である。
【0071】
この制御は、渋滞時には発生しないようにするため、先行車Bとの距離が所定値以上又は所定車速以上の場合に生じるように構成している。
【0072】
また、この制御の期間は、所定時間のみ、すなわち、カウンターCの値が0となるまでの期間として、先行車Bの加減速状態が安定した後には、通常の追従制御に戻る。
【0073】
図7は、自車Aが坂道極点で、先行車Bが坂道を走行している状態である。この状態は、図4のフローチャートでいうと、S41で目標加速度の大きさ(ゲイン)を上り勾配の角度に応じて補正制御している状態である。この上り勾配は、先行車Bの高さ変化に基づく勾配であり、演算して求めたモデル値である。前述したように、このタイミングで、はじめて、目標加速度の大きさ(ゲイン)の補正がなされるため、運転者に不安感や違和感を感じさせることがない。
【0074】
図8は、自車Aも先行車Bも共に坂道を走行している状態である。この状態は、図4のフローチャートでいうと、S27で目標加速度の大きさ(ゲイン)を算出した上り勾配角度に応じて補正制御している状態である。この上り勾配は、自車Aのエンジン出力と加速度から求めた値であり、前述のモデル値の場合よりも、より具体的な値として勾配角度を検出できるため、車両の追従制御をより確実に行うことができる。
【0075】
以上のように、本実施態様の車両の走行制御装置の制御状況は、車両の走行状態に応じて、変化していくように構成している。
【0076】
次に、以上のように構成した本実施態様の作用及び効果について詳述する。
【0077】
この実施態様の車両の走行制御装置は、車両の加減速制御を行う車両の走行制御装置であって、レーダー波を自車Aの前方に発信して、先行車Bからの反射波に基づき、先行車Bとの距離L、相対速度ΔV及び先行車Bの高さHを検出するレーダー1と、前記先行車Bとの距離Lが目標距離となるよう実距離と目標距離との偏差に応じて車両の目標加速度を設定し、当該目標加速度になるように車両の走行装置であるエンジンや自動変速機を制御するコントローラー4と、前記先行車Bの高さHの変化に基づき、自車A前方に存在する坂道極点(坂道の勾配開始地点)を算出し、当該坂道極点までの距離がゼロとなった時に、当該坂道の属性に応じて前記目標加速度を補正するコントローラー4(加速度補正手段)とを備えたものである。
【0078】
上記構成によれば、レーダー1により、先行車Bとの距離L、相対速度ΔV及び先行車Bの高さHを検出し、コントローラー4により、先行車Bとの距離が目標距離となるように、実距離と目標距離との偏差に応じて車両の目標加速度を設定される。そして、コントローラー4(加速度補正手段)によって、車両前方に存在する坂道極点を算出し、当該勾配開始地点までの距離がゼロとなった時に、当該坂道の属性に応じて前記目標加速度が補正される。
【0079】
すなわち、コントローラー4(加速度補正手段)は、坂道極点に到達して、はじめて、目標加速度を補正することになる。
【0080】
これにより、実際に自車Aが坂道極点付近に到達した適切なタイミングで、目標加速度を補正した走行制御が行なわれることになる。
【0081】
よって、先行車Bの走行状態を検出することで、予め先方の道路形状を予測検出して、自車Aの走行状態を制御する車両の走行制御装置において、加速減速の道路勾配に応じた補正タイミングを適切にすることができ、運転者に違和感又は不安感を感じさせないことができる。
【0082】
なお、先行車Bの高さは、本実施態様のように自車Aのレーダー1と先行車Bのリフレクター2との間の相対的な高さHであってもよいし、路面からの絶対的な高さを検出するようにしてもよい。
【0083】
また、この実施態様では、前記コントローラー4(加速度補正手段)を、先行車Bとの距離が所定距離(60m)以上又は自車速が所定車速(40km/h)以上の場合には、前記坂道極点に到達するまでの間、前記車両の目標加速度を減少補正するように構成し、先行車Bとの距離が所定距離(60m)以下又は自車速が所定車速(40km/h)以下の場合には、前記車両の目標加速度を減少補正しないように構成したものである。
【0084】
上記構成によれば、コントローラー4(加速度補正手段)は、先行車Bとの距離が所定距離(60m)以上又は自車速が所定車速(40km/h)以上の場合、坂道極点に達するまでの間、前記車両の目標加速度を減少補正し、先行車Bとの距離が所定距離(60m)以下又は自車速が所定車速(40km/h)以下の場合、前記車両の目標加速度を減少補正しない。
【0085】
すなわち、坂道極点に近づくまでの間、加速度補正手段は、先行車Bとの距離が所定距離(60m)以上又は自車速が所定車速(40km/h)以上の場合には、車両の目標加速度を減少補正(なまし補正)することで、先行車Bの影響を受けにくくし、先行車Bとの距離が所定距離(60m)以下又は自車速が所定車速(40km/h)以下の場合には、車両の目標加速度を減少補正(なまし補正)しないことで、先行車Bの影響を受けやすくしている。
【0086】
これにより、先行車Bとの距離が所定距離(60m)以上又は自車速が所定車速(40km/h)以上の場合には、先行車Bの坂道に進入した際の加減速変化が、自車Aの目標加速度の設定に対して直接影響を与えにくいため、目視で感じにくい先行車Bの加減速変化の影響を受けて、自車Aが頻繁に加減速を繰り返すといったことを無くすことができる。
【0087】
したがって、運転者の意識しない加減速変化によって、運転者に違和感を感じさせることはない。
【0088】
一方、先行車Bとの距離が所定距離(60m)以下又は自車速が所定車速(40km/h)以下の場合(例えば、渋滞を走行している場合)には、先行車Bの坂道に進入した際の加減速変化が、自車Aの目標加速度の設定に対して直接影響を与えるため、目視で感じることができる先行車Bの加減速変化の動きに合わせて、自車Aも加減速されることになる。
【0089】
よって、運転者に自車Aが確実に先行車Bに追従していることを認識させることができ、運転者に安心感を与えることができる。
【0090】
なお、この所定距離と所定車速については、渋滞状態でないことが判定できる値であれば、60mや40km/hという数値に限定するものではない。
【0091】
以上、この発明の構成と、前述の実施態様との対応において、
この発明の先行車検出手段は、実施態様のレーダー1に対応し、
以下、同様に
制御手段は、コントローラー4に対応し
加速度補正手段は、コントローラー4に対応するも、
この発明は、前述の実施態様の構成のみに限定されるものではなく、様々な車両の走行制御装置の実施態様を含むものである。例えば、目標加速度の大きさとして「ゲイン」を補正するもので本実施態様を説明したが、目標加速度の大きさを補正するものであれば、「マップ」を切り替えるような実施形態で構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明を適用した車両と追従対象の車両とを示す全体説明図。
【図2】車両の走行制御装置のブロック図。
【図3】坂道判定のためのフローチャート。
【図4】坂道判定時における車両の走行制御のフローチャート。
【図5】自車も先行車も共に平坦路を走行している状態説明図。
【図6】自車が平坦路、先行車が坂道極点を走行している状態説明図。
【図7】自車が坂道極点、先行車が坂道を走行している状態説明図。
【図8】自車も先行車も共に坂道を走行している状態説明図。
【符号の説明】
【0093】
A…自車
B…先行車
1…レーダー(先行車検出手段)
2…リフレクター
4…コントローラー(制御手段、加速度補正手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の加減速制御を行う車両の走行制御装置であって、
レーダー波を自車の前方に発信して、先行車からの反射波に基づき、先行車との距離、相対速度及び先行車の高さを検出する先行車検出手段と、
前記先行車との距離が目標距離となるよう実距離と目標距離との偏差に応じて車両の目標加速度を設定し、当該目標加速度になるように車両の走行装置を制御する制御手段と、
前記先行車の高さの変化に基づき、自車前方に存在する坂道の勾配開始地点を算出し、当該勾配開始地点までの距離が所定値以下となった時に、当該坂道の属性に応じて前記目標加速度を補正する加速度補正手段とを備えた
車両の走行制御装置。
【請求項2】
前記加速度補正手段を、先行車との距離が所定距離以上又は自車速が所定車速以上の場合には、前記勾配開始地点までの距離が所定値以下になるまでの間、前記車両の目標加速度を減少補正するように構成し、
先行車との距離が所定距離以下又は自車速が所定車速以下の場合には、前記車両の目標加速度を減少補正しないように構成した
請求項1記載の車両の走行制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−36159(P2006−36159A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−223109(P2004−223109)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】