説明

車両の駆動装置

【課題】機械要素の部品点数の増加を抑えつつ、カム部材の接触に伴う衝撃を緩和できる車両の駆動装置を提供する。
【解決手段】駆動装置2は、内燃機関3及び第1モータ・ジェネレータ4が駆動源として動力伝達経路内に設けられるとともに、第1モータ・ジェネレータ4のトルクが伝達され得る連結部材21をケース17に対して係合させる係合状態と、その係合を解放する解放状態との間で切り替え可能な係合機構30を備え、解放状態のときに内燃機関3を停止すべき場合、係合機構30のカム部材を滑らせつつ内燃機関3の回転数が0に至るように駆動部32を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カム機構を利用した係合機構を備えた車両の駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カム機構を有するクラッチとして、相対回転により押し付け力を発生させる互いに組み合わされた第1カム部材と第2カム部材とを有し、クラッチがオフの非係合時に第1カム部材と第2カム部材との相対回転を周方向に配置された複数の弾性部材にて規制するものが知られている(特許文献1)。その他、本発明に関連する先行技術文献として特許文献2が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−89047号公報
【特許文献2】特開2009−63120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のクラッチは、一対のカム部材が非係合時に相対回転して一方のカム部材が他部材に接触することを弾性部材にて規制し、その接触に伴う引き摺りトルクを低減している。非係合時にカム部材が他部材に接触する場合、その程度によっては衝撃が発生して衝突音や引き摺りトルクの増加をもたらす。特許文献1のクラッチは、一対のカム部材の相対回転を規制するために複数の弾性部材を設けているので、機械要素の部品点数が増加するおそれがある。
【0005】
このようなクラッチ等の係合機構を内燃機関の他にモータ・ジェネレータ等の回転電機を駆動源とする車両の駆動装置に適用した場合、車両走行中に内燃機関が停止すると動力分割機構への入力トルクが反転する。そのため、動力分割機構に連結された他要素にトルク変動が生じて動力伝達経路内の係合機構へ影響を与え、非係合時に一対のカム部材が相対回転して他部材に衝突する上記の問題が発生する。
【0006】
そこで、本発明は、機械要素の部品点数の増加を抑えつつ、カム部材の接触に伴う衝撃を緩和できる車両の駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の車両の駆動装置は、内燃機関及び回転電機が駆動源として動力伝達経路内に設けられるとともに、前記回転電機のトルクが伝達され得る第1部材を固定部材である第2部材に対して係合させる係合状態と、その係合を解放する解放状態との間で切り替え可能な係合機構を備えた車両の駆動装置において、前記係合機構には、軸線の回りに前記第1部材と一体回転する第1カム部材と、前記第1カム部材と前記第2部材との間に配置されて、前記第1カム部材と相対回転可能な状態で前記第1カム部材と組み合わされた第2カム部材と有し、前記相対回転が生じた場合に前記軸線方向に前記第2カム部材を移動させて前記第2部材に設けられた摩擦部に押し付けることにより前記解放状態から前記係合状態へ切り替え可能なカム機構と、前記解放状態の場合に電磁力を利用して前記第2カム部材を前記軸線方向に移動させて前記相対回転を促すことができ、かつ前記第2カム部材が前記摩擦部に押し付けられる押し付け力を調整可能な電磁駆動手段と、が設けられており、前記解放状態のときに前記内燃機関を停止する場合、前記第2カム部材を前記摩擦部に対して滑らせつつ前記内燃機関の回転数が0に至るように前記電磁駆動手段を制御する衝撃緩和制御手段を更に備えたものである(請求項1)。
【0008】
この駆動装置によれば、一対のカム部材に相対回転が起こり得る内燃機関の停止に先立って電磁駆動手段を制御することにより第2カム部材を摩擦部(第2部材)に接触させる。そのため、内燃機関の停止に伴って生じるカム部材間の相対回転によって第2カム部材が摩擦部に衝突することが回避又はその衝突が緩和される。従って、機械要素の部品点数の増加を抑えつつカム部材の接触に伴う衝突を緩和できる。しかも、第2カム部材を摩擦部に対して滑らせつつ内燃機関の回転数が0に至るように摩擦部に対する第2カム部材の押し付け力が制御されるので制御過程で衝撃を発生させずに内燃機関の回転数を0にすることが可能となる。
【0009】
本発明の駆動装置の一態様において、前記衝撃緩和制御手段は、前記第2カム部材の回転数が0に近づく方向に変化する場合の前記押し付け力が前記第2カム部材の回転数が0から離れる方向に変化する場合の前記押し付け力に比べて大きくなるように前記電磁駆動手段を制御してもよい(請求項2)。この態様によれば、第2カム部材の回転数が0に近づく方向に変化する場合には大きな押し付け力によって短時間に内燃機関の回転数を0に向かって変化させることができるので、車両の振動が増幅される内燃機関の回転数範囲である共振帯への滞在時間を短くできる。また、第2カム部材の回転数が0から離れる方向に変化する場合には小さな押し付け力とするので、電磁駆動手段の電力消費を低減できる。
【0010】
この態様においては、前記衝突緩和制御手段は、前記第2カム部材を前記摩擦部に対して滑らせつつ前記内燃機関の回転数が0に至るように前記電磁駆動手段を制御する際に、前記押し付け力が増加する方向に前記第1カム部材へトルクが作用するように前記回転電機を制御するとともに、前記第2カム部材の回転数が0に近づく方向に変化する場合の前記回転電機の出力トルクが前記第2カム部材の回転数が0から離れる方向に変化する場合の前記回転電機の出力トルクに比べて小さくなるように前記回転電機を制御してもよい(請求項3)。この場合は、内燃機関の回転数が0に至る過程で第2カム部材の回転数が0を跨いで変化する際に、電磁駆動手段が発生する電磁力の変化に見合ったトルクが回転電機にて補われる。そのため、第2カム部材の回転数が0を跨ぐ場合にその0を境界とした押し付け力の過大な低下を防止できるので、その低下に伴うショックを低減できる。
【0011】
本発明の駆動装置の一態様において、前記衝突緩和制御手段は、前記解放状態のときに前記車両の故障を原因として前記内燃機関を停止すべき場合であって前記回転電機を動作すべきでない場合、前記第2カム部材を前記摩擦部に対して滑らせつつ前記内燃機関の回転数が0に至るように前記電磁駆動手段を制御してもよい(請求項4)。この態様によれば、車両の故障時に回転電機を利用して内燃機関の回転数を0にできない場合でも、電気駆動手段を制御することにより衝撃を発生させることなく内燃機関の回転数を0にすることができる。
【0012】
なお、本発明において、回転電機とは、電動機、発電機及びこれらの機能を兼備するモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念である。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明の駆動装置によれば、内燃機関の停止に先立って第2カム部材を摩擦部に接触させて第2カム部材が摩擦部に衝突することを回避又はその衝突を緩和できるので、機械要素の部品点数の増加を抑えつつカム部材の接触に伴う衝撃を緩和することができる。また、第2カム部材を摩擦部に対して滑らせつつ内燃機関の回転数が0に至るように摩擦部材に対する第2カム部材の押し付け力が制御されるので制御過程で衝撃を発生させずに内燃機関の回転数を0にすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一形態に係る駆動装置が組み込まれた車両の全体構成を概略的に示した図。
【図2】係合機構の詳細を示した図であって解放状態を示した図。
【図3】係合機構の詳細を示した図であって係合状態を示した図。
【図4】係合機構の第1カム部材を軸線方向から見た状態を示した図。
【図5】各カム部材を半径方向から見た状態を示した図であって、各カム部材の位相が一致している状態を示した図。
【図6】各カム部材を半径方向から見た状態を示した図であって、各カム部材が相対回転してこれらの位相がずれている状態を示した図。
【図7】本発明の一形態に係る衝撃緩和制御の制御ルーチンの一例を示したフローチャート。
【図8】図7のステップS9の制御内容を説明する共線図。
【図9】図7のステップS11の制御内容を説明する共線図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は本発明の一形態に係る駆動装置が組み込まれた車両の全体構成を概略的に示している。車両1はいわゆるハイブリッド車両として構成されている。周知のようにハイブリッド車両は、内燃機関を走行用の駆動力源として備えるとともに、電動機を他の走行用の駆動力源として備えた車両である。車両1は、駆動輪と内燃機関とが車両前部に位置するFFレイアウトの車両として構成されている。
【0016】
駆動装置2は、内燃機関3と、回転電機としての第1モータ・ジェネレータ4と、内燃機関3及び第1モータ・ジェネレータ4がそれぞれ連結された動力分割機構5と、車両1の駆動輪10に動力を出力するための出力部材としての出力ギア6とを備えている。内燃機関3及び第1モータ・ジェネレータ4は駆動源として駆動装置2の動力伝達経路内に設けられている。また、駆動装置2には減速機構7を介して出力ギア6に連結された第2モータ・ジェネレータ8が設けられている。出力ギア6の動力は中間ギア9及び差動装置11を介して左右の駆動輪10に伝達される。
【0017】
内燃機関3は、火花点火型の多気筒内燃機関として構成されており、その動力は軸線Axの方向に延びる入力軸15を介して動力分割機構5に伝達される。入力軸15と内燃機関3との間には不図示のダンパが介在しており、そのダンパにて内燃機関3のトルク変動が吸収される。第1モータ・ジェネレータ4と第2モータ・ジェネレータ8とは同様の構成を持っていて、電動機としての機能と発電機としての機能とを兼ね備えている。第1モータ・ジェネレータ4は、固定部材であるケース17に固定されたステータ4aと、そのステータ4aの内周側に同軸に配置されたロータ4bとを備えている。第2モータ・ジェネレータ8も同様に、ケース17に固定されたステータ8aと、そのステータ8aの内周側に同軸に配置されたロータ8bとを備えている。
【0018】
動力分割機構5は、相互に差動回転可能な3つの回転要素を持つシングルピニオン型の遊星歯車機構として構成されており、外歯歯車であるサンギアSu1と、そのサンギアSu1に対して同軸的に配置された内歯歯車であるリングギアRi1と、これらのギアSu1、Ri1に噛み合うピニオン20を自転かつ公転自在に保持するキャリアCr1とを備えている。この形態では、入力軸15がキャリアCr1に、第1モータ・ジェネレータ4が連結部材21を介してサンギアSu1に、出力ギア6がリングギアRi1にそれぞれ連結されている。
【0019】
減速機構7は、第2モータ・ジェネレータ8の回転を減速して出力ギア6に伝達するための機構であり、相互に差動回転可能な3つの要素を持つシングルピニオン型の遊星歯車機構として構成されている。減速機構7は外歯歯車であるサンギアSu2と、そのサンギアSu2に対して同軸的に配置された内歯歯車であるリングギアRi2と、これらのギアSu2、Ri2に噛み合うピニオン25を自転かつ公転自在に保持するキャリアCr2とを備えている。本形態では、サンギアSu2が第2モータ・ジェネレータ8に、リングギアRi2が出力ギア6にそれぞれ連結されており、キャリアCr2はケース17に固定されている。これにより、第2モータ・ジェネレータ8の回転が減速されて出力ギア6に伝達されるとともに、第2モータ・ジェネレータ8の動力が増幅されて出力ギア6に伝達される。つまり、第2モータ・ジェネレータ8は減速機構7を介して出力ギア6に連結されている。
【0020】
駆動装置2には、駆動モードを変更する係合機構30が設けられている。この係合機構30を操作することにより、第1モータ・ジェネレータ4を使用した電気的な無段変速を実現する無段変速比モードと、第1モータ・ジェネレータ4を使用せずに動力分割機構5の持つ変速比にて変速する固定変速比モードとを選択的に実行できる。係合機構30は、第1モータ・ジェネレータ4(サンギアSu1)と一体回転可能な連結部材21に接続された機構部31と、その機構部31とケース17との間に介在するようにしてケース17に固定された駆動部32とを備えている。係合機構30は第1部材としての連結部材21を第2部材としてのケース17に対して係合させて第1モータ・ジェネレータ4をロックする係合状態と、そのロックを解放する解放状態との間で切り替えることができる。
【0021】
図2及び図3は係合機構30の詳細を示した図であり、図2は解放状態を、図3は係合状態をそれぞれ示している。機構部31は本発明に係るカム機構に相当するものであって、互いに相対回転可能な状態で同軸に組み合わされた第1カム部材35及び第2カム部材36を有している。第1カム部材35と第2カム部材36との間には球状の介在部材37が介在している。各カム部材35、36は円板状に構成されていて、各カム部材35、36の対向面には介在部材37を保持するV字溝38、39が形成されている。
【0022】
図4は第1カム部材35を軸線方向から見た状態を示しており、図5及び図6は各カム部材35、36を半径方向から見た状態を示している。図5は各カム部材35、36の位相が一致している状態を、図6は各カム部材35、36が相対回転してこれらの位相がずれている状態をそれぞれ示している。図4から明らかなように、第1カム部材35に設けられたV字溝38は、周方向に等間隔に6個並べられている。第2カム部材36に形成された他方のV字溝39も同様に周方向に等間隔に6個並べられている。各V字溝38、39は、第1カム部材35の中心線を含む断面で切断した場合には断面半円形をなしている(図2及び図3参照)。また、図4に示すように、第1カム部材35を軸線方向から見ると、各V字溝38、39は、第1カム部材35の中心寄りの内側縁部と中心から離れた外側縁部とが同心の円弧をなすように湾曲している。更に、図5及び図6に示すように、第1カム部材35を半径方向から見ると、各V字溝38、39はV字状に形成されていて、回転方向(図の上又は下方向)に関して深さが徐々に浅くなっている。
【0023】
図2に示すように、係合機構30が解放状態の場合、機構部31の第2カム部材36と駆動部32との間には所定の隙間Gが形成されている。第2カム部材36と駆動部32との間には、駆動部32から離れる方向に、換言すれば第1カム部材35に接近する方向に第2カム部材36を付勢する付勢手段としてのリターンスプリング40が設けられている。そのため、解放状態においては、第2カム部材36が第1カム部材35に接近する方向に押し付けられた状態で第1カム部材35と第2カム部材36とが供回りしてこれらの相対回転の発生が抑えられている。
【0024】
駆動部32には第2カム部材36と接触し得る摩擦部41と、摩擦部41に組み込まれた電磁石42とが設けられている。摩擦部41はケース17に対して静止している。第2カム部材36は磁性金属で構成されているため、図2の状態で駆動部32が電磁石42を励磁すると、第2カム部材36はリターンスプリング40の弾性力(付勢力)に抗して駆動部32側に引き寄せられて軸線方向に移動する。そして、電磁石42の磁力により第2カム部材36が摩擦部41に接触した場合には、第2カム部材36と摩擦部41との間に摩擦力が生じるとともに、図6に示すように、第1カム部材35に負荷されたトルクTによって、各カム部材35、36が相対回転することで位相がずれて、介在部材37がV字溝38、39内の浅い位置に移動して、第2カム部材36を摩擦部41に押し付ける力Fが発生する。これにより、第2カム部材36が摩擦部41に押し付けられて固定された状態となるので、第1カム部材35はトルクTの方向に回転できなくなり固定される。このようにして、機構部31は係合機構30を解放状態から係合状態へ切り替える。駆動部32は電磁力によって摩擦部41に接触するように第2カム部材36を軸線方向に移動させることによりカム部材35、36間の相対回転を促すことができる。従って、駆動部32は本発明に係る電磁駆動手段として機能する。
【0025】
解放状態においては、カム部材35、36間の相対回転は原則としてリターンスプリング40にて抑制されているが、大きな角加速度が第1カム部材35に入力された場合には慣性等の諸要因によってリターンスプリング40の弾性力に逆らってカム部材35、36間に相対回転が生じ、解放状態であるにも拘わらず第2カム部材36が摩擦部41に接触して衝撃が発生するおそれがある。そこで、本形態の駆動装置には、こうした衝撃を緩和する衝撃緩和制御を係合機構31に対して行う制御装置45が設けられている。制御装置45は駆動装置2の各部を制御するコンピュータとして構成されており、衝撃緩和制御の他に、内燃機関3の出力制御、係合機構30の操作による駆動モードの切り替え制御、車両走行時の各モータ・ジェネレータ4、8の出力制御等の種々の制御を実行できる。
【0026】
制御装置45にはこれらの制御を行うため車両1の運転状態を取得する各種のセンサが接続されている。例えば、各モータ・ジェネレータ4、8の回転速度を検出する2つのレゾルバ43、44が設けられている。また、本発明に関連するセンサとしては、車両1の車速に応じた信号を出力する車速センサ46、不図示のブレーキペダルの踏み込み量に応じた信号を出力するブレーキセンサ47、車両1の走行路面の凹凸を反映する不図示のサスペンションのストロークに応じた信号を出力するストロークセンサ48が制御装置45に対して電気的に接続されている。また、制御装置45には車両1の走行路面のμ(摩擦係数)を、スリップしていない車輪速度から推定される推定車速と駆動輪10の車輪速度との差に基づいて判別可能なμ検出装置49からの信号が入力される。なお、以下においては、本発明に関連する制御を主に説明し、その他の制御については説明を省略ないし簡略化する。
【0027】
図7は、制御装置45が行う衝撃緩和制御の制御ルーチンの一例を示したフローチャートである。このルーチンのプログラムは制御装置45に設けられた不図示の記憶装置に保持されており適時に読み出されて所定間隔で繰り返し実行される。まず、ステップS1では係合機構30が解放状態か否かを判定する。解放状態である場合はステップS2に進み、そうでない場合は以後の処理をスキップして今回のルーチンを終える。
【0028】
ステップS2〜ステップS6は、上述したカム部材35、36間の相対回転が生じ得る角加速度が第1カム部材35に入力されることを予測するための予測処理である。各ステップS2〜S6のうちのいずれか一つにおいて肯定判定された場合には上記角加速度が第1カム部材35に入力されるものと予測される。
【0029】
ステップS2では内燃機関3を始動するためのクランキングトルクが入力されているか否かを判定する。本形態では第1モータ・ジェネレータ4にて内燃機関3のクランキングを行うため、第1モータ・ジェネレータ4の出力トルクに基づいてクランキングトルクの入力の有無を判定している。ステップS3では内燃機関3に対する停止要求に応じてON/OFFされる機関停止フラグがONされているか否かを判定する。内燃機関3が停止した場合にはトルクが反転して第1カム部材35に大きな角加速度が入力されるためである。ステップS4では急制動操作が行われたか否かを判定する。この判定はブレーキセンサ47からの信号を参照して行われる。ステップS5では、車両1の走行路が波状路又は低μ路であるか否かを判定する。波状路走行か否かはストロークセンサ48からの信号に基づいて、低μ路走行か否かはμ検出装置49からの信号に基づいてそれぞれ判定される。ステップS6では車両1の故障による内燃機関3の停止要求に応じてON/OFFされる機関停止フラグがONされているか否かを判定する。
【0030】
上述した、各ステップS2〜S6のうち、内燃機関3の停止に関わるステップS3及びステップS6に関しては、第2カム部材36の回転数変化の方向に応じて制御内容を変えるためステップS7に進む。その他のステップS2、ステップS4及びステップS5に関しては、これらの一つにおいて肯定判定された場合はステップS10に進む。
【0031】
ステップS8においては、内燃機関3の燃焼が停止してその回転数が0に至る過程で、第2カム部材36の回転数が0に近づく方向に変化するか否かを判定する。この判定はレゾルバ43の出力信号を参照して判定する。第2カム部材36の回転数が0に近づく方向に変化すると判定した場合はステップS8に進み、係合機構30に設けられた駆動部32の電磁石42に通電して、第2カム部材36が摩擦部41に接触するように第2カム部材36を移動させて、上記角加速度の入力に先だって第2カム部材36を摩擦部41に接触させる。これにより、上記角加速度の入力に先だって第2カム部材36が摩擦部41に接触するため、角加速度の入力に伴うカム部材35、36間の相対回転によって第2カム部材36が摩擦部41に衝突することが回避又はその衝突が緩和される。
【0032】
続くステップS9においては、第2カム部材36を摩擦部41に対して滑らせながら内燃機関3の回転数が0に至るように駆動部32を制御する。同時に、第1モータ・ジェネレータ4の出力トルクも制御する。摩擦部41に対する第2カム部材36の押し付け力は第1モータ・ジェネレータ4の出力トルクに影響を受ける。ここでは、押し付け力が増加する方向に第1カム部材35へトルクが作用するように第1モータ・ジェネレータ4を制御する。これによって、駆動部32が発生させる電磁力を補うことができる。第2カム部材36の押し付け力に対する駆動部32の寄与分をトルク容量と定義すると、この処理においては第2カム部材36の滑りを許容しかつ速やかに内燃機関3の回転数を0にすることが可能な大きさのトルク容量Aに設定されるように電磁石42への通電量を制御する。
【0033】
図8はステップS9の制御内容を説明する共線図である。なお、図中のMG1は第1モータ・ジェネレータ4を、Engは内燃機関3を、OUTは出力ギア6を、MG2は第2モータ・ジェネレータ8をそれぞれ意味する(以下同じ)。図示のケースは出力ギア6が負回転する車両の後退走行時において内燃機関3の停止要求が生じたケースである。このケースでは、内燃機関3の停止開始前の状態ST1から内燃機関3の回転数が0となる停止完了時の状態ST2へ移行させる際に第2カム部材36の回転数が0に近づく方向に変化するので、トルク容量Aを実現するように駆動部32を制御するとともに、第1カム部材35にトルクTが作用するように第1モータ・ジェネレータ4を制御する。これにより、状態ST1から状態ST2へ変化する間に共振帯を通過するが、第2カム部材36を滑らせることで衝撃の発生を抑えつつその共振帯への滞在時間を短くできる。なお、内燃機関3の回転数が0に至った場合は内燃機関3の負回転を防止するため本制御を終了する。
【0034】
一方、ステップS7で第2カム部材36の回転数が0から離れる方向に変化すると判定した場合は、ステップS2、ステップS4又はステップS5のいずれかで肯定判定された場合と同様にステップS10に進む。ステップS10においては、ステップS8と同様に係合機構30に設けられた駆動部32の電磁石42に通電して、第2カム部材36が摩擦部41に接触するように第2カム部材36を移動させる。
【0035】
続くステップS11では、第2カム部材36の押し付け力がリターンスプリング40の弾性力に打ち勝つことができる限度まで低減するように電磁石42への通電量を低減し、上述したトルク容量Aよりも小さいトルク容量Bに設定する。この処理においても、同時に第1モータ・ジェネレータ4の出力トルクを制御する。但し、ここではトルク容量Aを設定した場合よりも第1カム部材35に作用するトルクが大きくなるように第1モータ・ジェネレータ4が制御される。
【0036】
図9はステップS11の制御内容を説明する共線図である。図示のケースは出力ギア6が正回転する車両の前進走行時において内燃機関3の停止要求が生じたケースである。このケースでは、内燃機関3の停止開始前の状態STaから内燃機関3の回転数が0となる停止完了時の状態STcへ移行する過程で第2カム部材36の回転数が0となる状態STbを経由する。状態STaから状態STbまでの制御は上述したステップS9に基づいて行われる。状態STbから状態STcへ移行する過程では第2カム部材36の回転数が0から離れる方向に変化するので、トルク容量Bを実現するように駆動部32を制御するとともに、第1カム部材35にトルクTbが作用するように第1モータ・ジェネレータ4を制御する。トルクTbは状態STaから状態STbへ移行する過程におけるトルクTaよりも大きい。つまり、このことは、第2カム部材36の回転数が0を跨いで変化する際に、トルク容量Aからトルク容量Bへ低下するが、その低下分を第1モータ・ジェネレータ4の出力トルクで補っていることを意味する。従って、トルク容量Aからトルク容量Bへ低下させることで駆動部32の電力消費を低減できるとともに、第2カム部材36の回転数が0を跨ぐ場合にその0を境界とした押し付け力の過大な低下を防止でき、その低下に伴うショックを低減できる。
【0037】
なお、ステップS6で車両の故障を原因として機関停止フラグがONされてステップS7に進み、かつ第1モータ・ジェネレータ4を動作すべきでない場合は、ステップS9及びステップS11で第1モータ・ジェネレータ4のトルク制御を行わずに、駆動部32を上記の通りに制御して内燃機関3の回転数を0にする。これにより車両の故障時に第1モータ・ジェネレータ4を利用して内燃機関3の回転数を0にできない場合でも、駆動部32を制御することにより衝撃を発生させることなく内燃機関3の回転数を0にできる。
【0038】
本形態によれば、上述した衝撃を機械要素を追加することなく制御装置45にて緩和できるため、機械要素の部品点数の増加を抑えつつカム部材36の接触に伴う衝撃を緩和することができる。また、内燃機関3が停止に至る過程で、第2カム部材36の回転数が0に近づく方向に変化する場合には大きな押し付け力によって短時間に内燃機関の回転数を0に向かって変化させることができるので共振帯への滞在時間を短くできる。一方、第2カム部材36の回転数が0から離れる方向に変化する場合には小さな押し付け力とするので電磁駆動手段の電力消費を低減できる。制御装置45は、図7のステップS7〜S11を実行することにより本発明に係る衝撃緩和制御手段として機能する。
【0039】
但し、本発明は上記形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内において種々の形態にて実施できる。図1に示した駆動装置2は一例であり、図1の駆動装置のギアトレーンを適宜変更して本発明を実施することができる。例えば、第2モータ・ジェネレータ8を搭載しない形態で本発明を実施することも可能である。また、衝撃緩和制御を実行する際に第1モータ・ジェネレータ4の出力トルクを制御する代わりに第2モータ・ジェネレータ8の出力トルクを制御することも可能である。この場合には、第2モータ・ジェネレータ8が本発明に係る回転電機に相当する。
【符号の説明】
【0040】
1 車両
2 駆動装置
3 内燃機関
4 第1モータ・ジェネレータ(回転電機)
17 ケース(第2部材)
21 連結部材(第1部材)
30 係合機構
31 機構部(カム機構)
32 駆動部(電磁駆動手段)
35 第1カム部材
36 第2カム部材
41 摩擦部
45 制御装置(衝撃緩和制御手段)
Ax 軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関及び回転電機が駆動源として動力伝達経路内に設けられるとともに、前記回転電機のトルクが伝達され得る第1部材を固定部材である第2部材に対して係合させる係合状態と、その係合を解放する解放状態との間で切り替え可能な係合機構を備えた車両の駆動装置において、
前記係合機構には、軸線の回りに前記第1部材と一体回転する第1カム部材と、前記第1カム部材と前記第2部材との間に配置されて、前記第1カム部材と相対回転可能な状態で前記第1カム部材と組み合わされた第2カム部材と有し、前記相対回転が生じた場合に前記軸線方向に前記第2カム部材を移動させて前記第2部材に設けられた摩擦部に押し付けることにより前記解放状態から前記係合状態へ切り替え可能なカム機構と、前記解放状態の場合に電磁力を利用して前記第2カム部材を前記軸線方向に移動させて前記相対回転を促すことができ、かつ前記第2カム部材が前記摩擦部に押し付けられる押し付け力を調整可能な電磁駆動手段と、が設けられており、
前記解放状態のときに前記内燃機関を停止する場合、前記第2カム部材を前記摩擦部に対して滑らせつつ前記内燃機関の回転数が0に至るように前記電磁駆動手段を制御する衝撃緩和制御手段を更に備えた車両の駆動装置。
【請求項2】
前記衝撃緩和制御手段は、前記第2カム部材の回転数が0に近づく方向に変化する場合の前記押し付け力が前記第2カム部材の回転数が0から離れる方向に変化する場合の前記押し付け力に比べて大きくなるように前記電磁駆動手段を制御する請求項1に記載の駆動装置。
【請求項3】
前記衝突緩和制御手段は、前記第2カム部材を前記摩擦部に対して滑らせつつ前記内燃機関の回転数が0に至るように前記電磁駆動手段を制御する際に、前記押し付け力が増加する方向に前記第1カム部材へトルクが作用するように前記回転電機を制御するとともに、前記第2カム部材の回転数が0に近づく方向に変化する場合に前記第1カム部材へ作用するトルクが前記第2カム部材の回転数が0から離れる方向に変化する場合に前記第1カム部材へ作用するトルクに比べて小さくなるように前記回転電機を制御する請求項2に記載の駆動装置。
【請求項4】
前記衝突緩和制御手段は、前記解放状態のときに前記車両の故障を原因として前記内燃機関を停止すべき場合であって前記回転電機を動作すべきでない場合、前記第2カム部材を前記摩擦部に対して滑らせつつ前記内燃機関の回転数が0に至るように前記電磁駆動手段を制御する請求項1に記載の駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−246055(P2011−246055A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−123161(P2010−123161)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】