説明

車両フレーム部材の溶接方法および車両フレーム部材

【課題】高い接合強度を有し、亜鉛めっきによる強度低下を防止し、さらに熱歪み変形を防止することのできる車両フレーム部材の溶接方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る車両フレーム部材の溶接方法は、幅方向の断面が略ハット状のフレーム部材1と、このフレーム部材1のフランジ部11と接合することにより閉断面を形成するパネル部材2とを溶接する車両フレーム部材3の溶接方法であって、前記パネル部材2と接触する前記フランジ部11の接触端部12から前記フランジ部11外側方向をマイナス(−)とし、前記接触端部12から屈曲して立ち上がる壁部13側方向をプラス(+)としたときに、溶接位置Pを、前記接触端部12を中心として±0mm≦P<+1.5mmの範囲内とし、前記壁部13に沿って連続溶接することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車用ボディ部品などの衝突時のエネルギーを吸収して乗員を保護する車両フレーム部材の溶接方法および車両フレーム部材に関する。
【背景技術】
【0002】
フロントサイドフレームなどの車両フレーム部材には衝突時の衝撃から乗員を保護するために、衝突の衝撃を和らげる必要があり、そのためその衝撃時のエネルギーをできるだけ吸収する性能が求められている。
従来、車両フレーム部材の接合には、複数のハット状のフレーム部材をスポット溶接(またはリベット、クリンチ)等のいわゆる点溶接・点接合が用いられている。このような技術としては、例えば、特許文献1がある。
【0003】
この特許文献1には、高密度エネルギビームを用いて、幅方向の断面が略ハット状のフレーム部材と、このフレーム部材のフランジ部と接合することにより閉断面を形成するパネルとを溶接する車両フレーム部材のビーム溶接方法であって、上記フランジ部の幅方向の側縁部とパネルとを断続的に溶接することを特徴とする車両フレーム部材のビーム溶接方法が記載されている。
【0004】
しかしながら、衝突時のエネルギーを多く吸収して欲しいという要望が強いため車両フレーム部材の板厚を厚くしたり、より高強度な材料を用いたりしてこれに対応している。
また、規則正しく圧潰が進む様にハット状のフレーム部材の断面形状を工夫したり、ハット状のフレーム部材中にテーパを設けたりして、フレーム部材の構造を改良することによって対応している。
【0005】
このような高強度な材料への変更はコスト増加を招くとともに加工性の低下に繋がり生産性が落ちる。また、板厚の増加もコストの増加を招くとともに、車体重量の増加に繋がる。
そのため、衝突時のエネルギーを多く吸収させたい場合の対策手法として、材料や板厚、構造の適正化の他にレーザ溶接などにより接合を「点」から「連続」にすることによって衝突時のエネルギー吸収量を増加させる技術が開発されている。このような技術としては、例えば、特許文献2がある。
【0006】
この特許文献2には、閉断面構造の衝撃吸収部材を構成するハット断面形状の鋼板とフラット形状の鋼板またはハット断面形状の鋼板とを、前記ハット断面形状の鋼板のフランジ部でレーザ溶接する方法において、前記フランジ部の重ね合わせ面での溶融幅Wが板厚tの1.4倍以上、3.0倍以下となるように連続溶接することを特徴とする軸圧潰時の衝撃吸収に優れた衝撃吸収部材のレーザ溶接方法が記載されている。また、この特許文献2には、前記ハット断面形状の鋼板およびフラット形状の鋼板の板厚をtとした場合に、前記フランジの縦壁部からフランジの幅方向に距離d=12t0.5の範囲内でレーザにより連続溶接するのがよい旨の記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−170568号公報
【特許文献2】特開2002−79388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、前記したように衝突時のエネルギーを多く吸収して欲しいという要望に十分に応えられないことがある。
また、特許文献2のようにスポットに代えてレーザ溶接などにより接合を「点」から「連続」で行う場合には次のような問題がある。
(1)現行のスポット溶接部位を単純にレーザ溶接に置き換えた場合、レーザによる接合線が非常に細いため接合強度の確保ができず、衝突時のエネルギー吸収量も10〜15%しか向上しない。
(2)フロントサイドフレームなどの車両フレーム部材には防蝕のため亜鉛めっき鋼板が用いられているが、同重ね板組みの部位をレーザ溶接すると蒸気化した亜鉛がブローホールとして接合部内部に残留し、著しい強度低下を招く。
(3)従来のスポット溶接が「点」の接合であるのに対し、「連続」接合であるレーザ溶接を適用するとその入熱量が大きいため、著しい熱歪み変形が発生する。
【0009】
前記したように、特許文献2には、ハット断面形状の鋼板およびフラット形状の鋼板の板厚をtとした場合に、フランジの縦壁部からフランジの幅方向に距離d=12t0.5の範囲内でレーザによって連続溶接する旨が記載されているが、その溶接位置が適切化されていないため、フランジ部の壁部から離れてフランジ部の中央部分となったり、よりフランジ部外側方向となったりする場合がある。このような溶接位置でレーザによる連続溶接を行うと、前記した(2)および(3)の問題が顕著となる。
【0010】
本発明は前記問題を解決するためになされたものであり、その目的は、高い接合強度を有し、亜鉛めっき鋼板を用いている場合は亜鉛のブローホールによる強度低下を防止し、さらに熱歪み変形を防止することのできる車両フレーム部材の溶接方法および車両フレーム部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、本発明に係る車両フレーム部材の溶接方法は、幅方向の断面が略ハット状のフレーム部材と、このフレーム部材のフランジ部と接合することにより閉断面を形成するパネル部材とを溶接する車両フレーム部材の溶接方法であって、前記パネル部材と接触する前記フランジ部の接触端部から前記フランジ部外側方向をマイナス(−)とし、前記接触端部から屈曲して立ち上がる壁部側方向をプラス(+)としたときに、溶接位置Pを、前記接触端部を中心として±0mm≦P<+1.5mmの範囲内とし、前記壁部に沿って連続溶接することを特徴としている。
【0012】
このように、本発明に係る車両フレーム部材の溶接方法は、幅方向の断面が略ハット状のフレーム部材とパネル部材とを連続溶接するため、高い接合強度を有することができる。そのため、衝突時のエネルギー吸収量を増大させることができる。また、その溶接位置を前記した特定の範囲に規定したため、亜鉛めっき鋼板を用いた場合であっても連続溶接の際に亜鉛めっきから発生する亜鉛の蒸気が接触端部とパネル部材との間から大気に放出することができるのでブローホールの形成を防止することができる。そのため、接合不良がなくなり、接合強度の低下を防止することができる。さらに、溶接位置を前記した特定の範囲に規定したため、略ハット状のフレーム部材とパネル部材とを溶接して固定されると、連続溶接によって大きな入熱があってもフレーム部材の壁部がリブ効果を発揮し、当該壁部の剛性により熱収縮にともなう歪み変形を抑えることができるため、熱歪み変形量を小さく抑えることができる。
【0013】
また、本発明に係る車両フレーム部材は、幅方向の断面が略ハット状のフレーム部材と、このフレーム部材のフランジ部と接合することにより閉断面を形成するパネル部材とを溶接した車両フレーム部材であって、前記パネル部材と接触する前記フランジ部の接触端部から前記フランジ部外側方向をマイナス(−)とし、前記接触端部から屈曲して立ち上がる壁部側方向をプラス(+)としたときに、溶接位置Pが、前記接触端部を中心として±0mm≦P<+1.5mmの範囲内であり、前記壁部に沿って連続溶接されていることを特徴としている。
【0014】
このように、本発明に係る車両フレーム部材は、幅方向の断面が略ハット状のフレーム部材とパネル部材とを連続溶接しているため、高い接合強度を有することができる。また、その溶接位置を前記した特定の範囲に規定しているため、亜鉛めっき鋼板を用いている場合であっても連続溶接の際に亜鉛めっきから発生する亜鉛の蒸気が接触端部とパネル部材との間から大気に放出されているのでブローホールが形成されていない。そのため、接合強度が低下しない。さらに、溶接位置を前記した特定の範囲に規定して略ハット状のフレーム部材とパネル部材とを溶接して固定しているので、連続溶接によって大きな入熱があってもフレーム部材の壁部がリブ効果を発揮し、当該壁部の剛性により熱収縮にともなう熱歪み変形が抑えられているため、熱歪み変形量が小さく抑えられている。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る車両フレーム部材の溶接方法によれば、溶接位置を最適化したため、高い接合強度を有することができ、また、亜鉛めっき鋼板を用いる場合であっても亜鉛のブローホールの形成を防止することによって強度低下を防止することができ、さらに熱歪み変形を防止することができる。つまり、最適位置への接合幅を確保した連続溶接施工が可能になり、衝突吸収エネルギー量を大幅(約35〜40%)に向上させることが可能となる。
【0016】
本発明に係る車両フレーム部材によれば、溶接位置を最適化したため、高い接合強度を有することができ、また、亜鉛めっき鋼板を用いている場合であっても亜鉛のブローホールの形成を防止しているので強度低下を防止することができ、さらに熱歪み変形を防止することができる。つまり、最適位置への接合幅を確保した連続溶接施工により、衝突吸収エネルギー量が大幅(約35〜40%)に向上している。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(a)は、本発明に係る車両フレーム部材の溶接方法の概略を示す概略図であって、(b)は、(a)の要部拡大図であり、(c)は、(b)のさらなる要部拡大図である。
【図2】本発明の溶接対象となる車両フレーム部材の一例を示す斜視図である。
【図3】(a)〜(c)は、試験材の形状および寸法を説明する図である。
【図4】比較例と実施例の衝突時のエネルギー吸収量を示すグラフである。
【図5】(a)〜(d)は、熱歪み変形量の結果を示すグラフである。
【図6】ブローホールと溶落ちの発生を確認した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の要旨は、レーザとアークを複合した溶接技術などにより連続溶接を行うことで重ね溶接に必要な貫通性能と接合幅の確保を両立するとともに、ハット状のフレーム部材のフランジ部と、パネル部材とが接触するフランジ部の接触端部近傍、つまり、当該フレーム部材のフランジ部の丸みを帯びた角部(R部ともいう)近傍で連続溶接することにより、(1)部材形状がより拘束され、衝突エネルギー吸収量を大幅に向上させ、(2)亜鉛めっき鋼板を用いた場合はこれを溶接する際の溶接施工時に気化した亜鉛をR部から放出させてブローホールの形成を抑制し、(3)溶接施工時の入熱による部材形状の熱歪み変形を、ハット状のフレーム部材の壁部にリブ効果を発揮させることによって抑制する点にある。
【0019】
以下、本発明に係る車両フレーム部材の溶接方法および車両フレーム部材について図面を参照して詳細に説明する。
はじめに、本発明に係る車両フレーム部材の溶接方法について説明する。
本発明に係る車両フレーム部材の溶接方法は、図1に示すように、幅方向の断面が略ハット状のフレーム部材1と、このフレーム部材1のフランジ部11と接合することにより閉断面を形成するパネル部材2とを溶接する車両フレーム部材3の溶接方法であって、前記パネル部材2と接触する前記フランジ部11の接触端部12から前記フランジ部11外側方向をマイナス(−)とし、前記接触端部12から屈曲して立ち上がる壁部13側方向をプラス(+)としたときに、溶接位置Pを、前記接触端部12を中心として±0mm≦P<+1.5mmの範囲内とし、前記壁部13に沿って連続溶接するものである。
【0020】
なお、本発明の溶接対象となる車両フレーム部材3としては、例えば、図2に示すフロントバルクヘッド30のフロントサイドフレーム31のほか、フロントバンパビームエクステンション、ロアリアフレームなどを挙げることができるがこれに限定されるものではなく、衝突時の衝撃エネルギーを吸収するための部材であればどのような部材にも適用することができる。
【0021】
フレーム部材1およびパネル部材2は、例えば、亜鉛めっき鋼板を用いることができるが、本発明に係る車両フレーム部材の溶接方法が適用できる材質のものであればどのようなものでも用いることができる。
【0022】
本発明における溶接手法は、連続溶接できるものであって、重ね溶接に必要な貫通性能と接合強度を確保することができればよい。例えば、レーザとアークの複合溶接(ハイブリッド溶接)を好適に適用できる。また例えば、溶接幅を広くするためにレーザを複数平行して施工する溶接手法なども好適に適用できる。レーザ溶接に使用するレーザ光線は、炭酸ガスレーザ、YAGレーザ、気体レーザ、固体レーザ、半導体レーザ、液体レーザのいずれも使用することができる。レーザ溶接は貫通性能が優れているので部材間のギャップ制御が不要であるというメリットがある。アーク溶接は、ティグ溶接、ミグ溶接、マグ溶接、炭酸ガスアーク溶接のいずれでも使用することができる。
【0023】
溶接位置Pが±0mmを超えてマイナス(−)寄り(つまり、溶接位置Pが接触端部12から±0mmを超えてフレーム部材1のフランジ部11外側方向寄り)であると、亜鉛めっき鋼板を用いて連続溶接した際に発生する亜鉛の蒸気が排出されないので溶融した金属内にブローホールが形成される結果、接合強度が低下してしまうおそれがある。
また、溶接位置Pが+1.5mmを含んでプラス(+)寄り(つまり、溶接位置Pが接触端部12から+1.5mmを含んでフレーム部材1の接触端部12から屈曲して立ち上がる壁部13側方向寄り)であると、連続溶接した際に、フレーム部材1およびパネル部材2のうちの少なくとも一方が溶落ちてしまうおそれがある。
したがって、パネル部材2と接触するフランジ部11の接触端部12からフランジ部11外側方向をマイナス(−)とし、接触端部12から屈曲して立ち上がる壁部13側方向をプラス(+)としたときに、溶接位置Pを、接触端部12を中心として±0mm≦P<+1.5mmの範囲内、より確実には±0mm≦P≦+1.0mmの範囲内で壁部13に沿って連続溶接することとしている。
【0024】
このような溶接位置Pで溶接すると、連続溶接であるため従来のスポット溶接などと比較して接合強度を高くすることができ、衝突時のエネルギー吸収量を増大させることができる。また、亜鉛めっき鋼板を用いて連続溶接した際に発生する亜鉛の蒸気を接触端部12とパネル部材2との間から大気に放出させることができるのでブローホールの形成を防止することができる。さらに、略ハット状のフレーム部材1とパネル部材2とを溶接して固定されると、連続溶接によって大きな入熱があってもフレーム部材1の壁部13がリブ効果を発揮し、当該壁部13の剛性により熱収縮にともなう熱歪み変形を抑えることができるため、熱歪み変形量を小さく抑えることができる。
【0025】
連続溶接する溶接機は、従来公知の溶接機を用いることができる。例えば、6軸多間接ロボットのアームの先端に取り付けられた溶接ヘッドを有する溶接機や、手動で溶接する手動溶接機を用いることができる。
このような溶接機による連続溶接は、フレーム部材1側およびパネル部材2側のいずれから行ってもよいが、部材の立体形状に邪魔されないのでパネル部材2側から溶接した方が容易である。かかる連続溶接は、例えば、壁部13に当接して壁部13の形状に倣って溶接を行う所謂倣い溶接で行うことができる。また、溶接を行わないマスターワークを用意し、これをティーチング作業に用いる溶接で行うことができる。さらに、ロボットアームの動作を予めプログラミングしておき、プログラミングしたプログラムを実行することによって溶接を行うことでも可能である。
【0026】
亜鉛めっき鋼板で作製された車両フレーム部材3を前記した溶接機で連続溶接すると、フレーム部材1とパネル部材2に使用されている亜鉛めっきが蒸発することになるが、本発明の溶接方法ではフレーム部材1とパネル部材2が接触する接触端部12近傍で溶接するため、そのような場合であっても亜鉛めっきの蒸気が接触端部12とパネル部材2との間から大気に放出することができ、ブローホールの形成を防止することが可能である。そのため、接合強度が低下してしまうのを防止することができる。
【0027】
したがって、このようにして溶接された本発明に係る車両フレーム部材3は、幅方向の断面が略ハット状のフレーム部材1と、このフレーム部材1のフランジ部11と接合することにより閉断面を形成するパネル部材2とを溶接した車両フレーム部材であって、前記パネル部材2と接触する前記フランジ部11の接触端部12から前記フランジ部11外側方向をマイナス(−)とし、前記接触端部12から屈曲して立ち上がる壁部13側方向をプラス(+)としたときに、溶接位置Pが、前記接触端部12を中心として±0mm≦P<+1.5mmの範囲内であり、前記壁部13に沿って連続溶接された構造を有することとなる。
【0028】
そのため、本発明に係る車両フレーム部材3は、前記したように、連続溶接されているため従来のスポット溶接などと比較して接合強度を高くすることができ、衝突時のエネルギー吸収量が増大している。また、亜鉛めっき鋼板を用いた場合でも連続溶接の際に亜鉛めっきから発生する亜鉛の蒸気が接触端部12とパネル部材2との間から大気に放出されているためブローホールが形成されておらず、接合強度が低下しない。さらに、略ハット状のフレーム部材1とパネル部材2とを溶接して固定されると、連続溶接によって大きな入熱があってもフレーム部材1の壁部13がリブ効果を発揮し、当該壁部13の剛性により熱収縮にともなう熱歪み変形を抑えることができる。そのため、例えば、スポット溶接のみの場合と比べると衝突吸収エネルギー量を約35〜40%向上させることが可能である。
【実施例】
【0029】
次に、本発明に係る車両フレーム部材の溶接方法および本発明に係る車両フレームの実施例を比較例と対比して説明する。
〔1〕試験材の作製
まず、図3(a)〜(c)に示す形状および寸法を有する試験材を作製した。試験材には板厚1.4mmのJSC590Rを使用した。その形状は、幅方向の断面が略ハット状のフレーム部材1で幅方向の最大寸法は115mmであり、長さは300mmであり、ハット状を呈する上部の幅寸法は70mm、高さは70mmであった。また、フレーム部材1の接触端部12をはじめとする角部には丸み(所謂アール)が設けられており、いずれもR3mmで形成した。なお、接触端部12から立ち上がる壁部13(図1参照)は3°の傾斜が付けられている。つまりフランジ部11(図1参照)と壁部13の形成する角度は93°となる。フレーム部材1とパネル部材2の溶接は、スポット溶接の場合は、図3(c)に示すように、30mmピッチで10箇所溶接し、連続溶接の場合は、一端部から他端部までを一繋がりとなるように連続して溶接した。このようにして形成した車両フレーム部材3の試験材の両端に、後記する測定内容に応じて、適宜衝撃時のエネルギー吸収量をはかるための板材(170mm×125mm)などを取り付けた。
【0030】
〔2〕衝撃時のエネルギー吸収量の測定
前記した板材を取り付けた試験材に対して落錘試験を実施して、衝突時のエネルギー吸収量(%)の測定を行った。落錘試験は、時速50km/h吸収ストローク150mmという設定で算出した。図4にその結果を示す。ここで、図4の(a)は、スポット溶接単独で溶接したものであり、(b)は、フランジ部11の端部をマグ溶接とレーザ溶接の複合溶接にて連続溶接したものであり、(c)は、フランジ部11の中央をマグ溶接とレーザ溶接の複合溶接にて連続溶接したものであり、(d)は、接触端部12をマグ溶接とレーザ溶接の複合溶接にて連続溶接したものであり、(e)は、接触端部12をレーザ溶接単独で連続溶接したものである。なお、図4の縦軸は衝突時のエネルギー吸収量(%)を示す。
【0031】
図4に示すように、従来例である(a)の衝突時のエネルギー吸収量を100%とした場合、比較例に相当する(b)は115%、同じく比較例に相当する(c)は124.1%であったのに対し、実施例に相当する(d)は138.5%であった。なお、比較例に相当する(e)は122.0%であったが、落錘試験のばらつきが大きかったため参考値扱いとした。
図4を見てわかるように、実施例に相当する(d)は、スポット溶接と比較して38.5%も衝突時のエネルギー吸収量が増大していた。
【0032】
〔3〕熱歪み変形量の測定
熱歪みの変形量の測定は、図5(a)に示すように、はじめにスポット溶接で4箇所仮止めした試験材(JSC590R、板厚1.4mm)のフランジ部11の中央(ギャップ0mm)をマグ溶接(アーク電流150A)とレーザ溶接(レーザ出力3.3kW)の複合溶接にて溶接速度170cm/minで連続溶接した場合と、図5(b)に示すように、はじめにスポット溶接で4箇所仮止めした試験材(JSC590R、板厚1.4mm)のフランジ部11の接触端部12(ギャップ0mm)をマグ溶接(アーク電流250A)とレーザ溶接(レーザ出力3.5kW)の複合溶接にて溶接速度250cm/minで連続溶接した場合とを、東京貿易株式会社製の非接触式3次元測定器 VECTORON VAR200Lで測定することにより行った。結果を図5に示す。
【0033】
比較例に相当するフランジ部11の中央で連続溶接した場合の変形量[mm]は、フランジ部11近傍で最大1.27mm(図5(a)、(c)参照)となり、パネル部材2の一般部では最大1.43mm(図5(a)、(d)参照)となった。
一方、実施例に相当するフランジ部11の接触端部12で連続溶接した場合の変形量[mm]は、フランジ部11近傍で最大0.73mm(図5(b)、(c)参照)となり、パネル部材2の一般部では最大0.53mm(図5(b)、(d)参照)となった。
実施例に相当する接触端部12近傍で連続溶接した場合、比較例に相当するフランジ部11の中央で連続溶接した場合と比較すると、フランジ部11近傍での変形量は−42%となり、一般部での変形量は−63%となった。
【0034】
〔4〕ブローホールの発生率
図6に示すように、パネル部材2と接触するフランジ部11の接触端部12からフランジ部11外側方向をマイナス(−)とし、接触端部12から屈曲して立ち上がる壁部13側方向をプラス(+)としたときに、+1.5mm、+1.0mm、+0.5mm、±0mm、−0.5mm、−1.0mm、−1.5mmの7箇所を狙い位置として溶接位置Pを設定し、図6の紙面奥行き方向に向かって、図5(b)に示す条件と同様の条件、すなわち、マグ溶接(アーク電流250A)とレーザ溶接(レーザ出力3.5kW)の複合溶接にて連続溶接した(溶接速度250cm/min)。なお、フレーム部材1およびパネル部材2はJSC590Rで作製した。各溶接位置Pで溶接した様子を同図中にその溶接位置とともに示す。なお、図6の溶接の様子を示す写真は横向きになっているが、これは図6の紙面奥行き方向に向かって溶接したものを横向きに掲載したものである。ブローホールの発生率は、破断面を写真撮影してブローホールの面積率を算出することによって算出した。
【0035】
その結果、図6に示すように、+1.5mmの溶接位置ではブローホールの発生率は0%であり、HAZ破断であったものの、フレーム部材1に微量ではあるが溶落ちが見られた。
+1.0mmの溶接位置ではブローホールの発生率は0%であり、HAZ破断であった。+0.5mmの溶接位置ではブローホールの発生率は6.3%であり、HAZ破断であった。±0mmの溶接位置ではブローホールの発生率は15.4%であり、HAZ破断であった。これらは、ブローホールは発生しないか、発生しても非常に少なかったため接合強度を低下させるほどではなかった。
一方、−0.5mmの溶接位置ではブローホールの発生率は39.7%であり、シャー破断であった。−1.0mmの溶接位置ではブローホールの発生率は60.9%であり、HAZ破断であった。−1.5mmの溶接位置ではブローホールの発生率は55.6%であり、シャー破断であった。これらは、ブローホールが多く発生したため、接合強度が低下していることがわかった。
【0036】
破断形態、溶落ち、およびブローホールの発生率についての結果を表1にまとめた。ブローホールの発生率は28%以下であれば良好な接合強度を確保できると判断し、28%以下を合格、28%を超えるものを不合格とした。また、溶落ちについては、溶落ちがあったものを「有り」、溶落ちがなかったものを「無し」として示した。
表1に示すように、パネル部材2と接触するフランジ部11の接触端部12からフランジ部11外側方向をマイナス(−)とし、接触端部12から屈曲して立ち上がる壁部13側方向をプラス(+)としたときにおける溶接位置Pが、接触端部12を中心として±0mm≦P<+1.5mmの範囲内、より確実には±0mm≦P≦+1.0mmの範囲内であれば、表1の判定の欄に示すように“○”すなわち合格(実施例)となり、溶接位置Pが前記した範囲を外れると“×”すなわち不合格(比較例)となった。
【0037】
以上に説明したように、溶接位置Pが、接触端部12を中心として±0mm≦P<+1.5mmの範囲内であれば高い接合強度を有し、亜鉛めっきによる強度低下を防止し、さらに熱歪み変形を防止することのできる車両フレーム部材の溶接方法および車両フレーム部材を提供するという本発明の所望する効果を奏することがわかった。
【0038】
【表1】

【符号の説明】
【0039】
1 フレーム部材
11 フランジ部
12 接触端部
13 壁部
2 パネル部材
3 車両フレーム部材
30 フロントバルクヘッド
31 フロントサイドフレーム
P 溶接位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅方向の断面が略ハット状のフレーム部材と、このフレーム部材のフランジ部と接合することにより閉断面を形成するパネル部材とを溶接する車両フレーム部材の溶接方法であって、
前記パネル部材と接触する前記フランジ部の接触端部から前記フランジ部外側方向をマイナス(−)とし、前記接触端部から屈曲して立ち上がる壁部側方向をプラス(+)としたときに、溶接位置Pを、前記接触端部を中心として±0mm≦P<+1.5mmの範囲内とし、前記壁部に沿って連続溶接することを特徴とする車両フレーム部材の溶接方法。
【請求項2】
幅方向の断面が略ハット状のフレーム部材と、このフレーム部材のフランジ部と接合することにより閉断面を形成するパネル部材とを溶接した車両フレーム部材であって、
前記パネル部材と接触する前記フランジ部の接触端部から前記フランジ部外側方向をマイナス(−)とし、前記接触端部から屈曲して立ち上がる壁部側方向をプラス(+)としたときに、溶接位置Pが、前記接触端部を中心として±0mm≦P<+1.5mmの範囲内であり、前記壁部に沿って連続溶接されていることを特徴とする車両フレーム部材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−253545(P2010−253545A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110118(P2009−110118)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】