説明

車両状態量推定装置

【課題】車両の挙動制御時における挙動の急変を抑制することのできる車両状態量推定装置を提供すること。
【解決手段】車両1の挙動制御に用いる目標横加速度Gytを車両1の走行時における横加速度実測値Gysと横加速度推定値Gyeとに基づいて推定する車両状態量推定装置2において、横加速度実測値Gysと横加速度推定値Gyeとに基づいて目標横加速度Gytを推定する場合には、車両1の横滑りの状態に応じて横加速度実測値Gysと横加速度推定値Gyeとに重み付けを行うことにより推定すると共に、横滑りが所定値以上になった場合には横滑りの状態に関わらず横加速度実測値Gysの重み付けが大きい状態を維持し、横加速度実測値Gysと横加速度推定値Gyeとの差が所定値以下の状態が所定時間継続した場合に、横加速度実測値Gysの重み付けが大きい状態を解除する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両状態量推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の走行時に、走行状態に応じて車両の運動量を制御する車両では、車両の状態量を検出したり推定したりしながら、車両の走行状態を制御可能な各装置を制御することにより、所望の運動制御を行う。例えば、特許文献1に記載された車両用アクティブサスペンションでは、横Gセンサから検出される実横加速度に応じた制御量と、操舵角センサ及び車速センサの出力に基づいて予測した計算横加速度に応じた制御量と、に基づいて車両の姿勢制御を行っている。
【0003】
また、この車両用アクティブサスペンションは、車両が横滑り状態にあることを検出した場合には、計算横加速度の使用を中止することにより、横滑り発生時に実際の車体挙動とは掛け離れた計算横加速度を用いて姿勢制御を行う状態になることを抑制することができる。さらに、計算横加速度と実横加速度との差が所定値以上ではないと判定された場合には、所定の時間経過後に再び計算横加速度と実横加速度との差の判別を繰り返す。これにより、不所望なロールが発生することを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−16633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、横加速度の推定値と、横加速度の検出値とを用いる車両の運動制御時に、制御に用いる横加速度の値を車両の走行状態に応じて切り替える場合、制御時における目標横加速度が急変することになる。この場合、車両の挙動の急変にもつながるため、車両の挙動制御時における車両の状態量の推定には改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、車両の挙動制御時における挙動の急変を抑制することのできる車両状態量推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、この発明に係る車両状態量推定装置は、車両の挙動制御に用いる状態量を前記車両の走行時における実状態量と推定状態量とに基づいて推定する車両状態量推定装置において、前記実状態量と前記推定状態量とに基づいて前記状態量を推定する場合には、前記車両の横滑りの状態に応じて前記実状態量と前記推定状態量とに重み付けを行うことにより推定すると共に、前記横滑りが所定値以上になった場合には前記横滑りの状態に関わらず前記実状態量の重み付けが大きい状態を維持し、前記実状態量と前記推定状態量との差が所定値以下の状態が所定時間継続した場合に、前記実状態量の重み付けが大きい状態を解除することを特徴とする。
【0008】
また、上記車両状態量推定装置において、前記実状態量の重み付けが大きい状態の解除は、前記実状態量と前記推定状態量との差が前記所定値以下で、且つ、前記横滑りが所定値以下の状態が、前記所定時間継続した場合に行うことが好ましい。
【0009】
また、上記車両状態量推定装置において、前記横滑りが前記所定値以上になった場合には、前記推定状態量の重み付けを制限することにより、前記実状態量の重み付けが大きい状態を維持することが好ましい。
【0010】
また、上記車両状態量推定装置において、前記実状態量の重み付けが大きい状態を維持する場合には、前記横滑りの状態に応じて前記実状態量の重み付けを大きくすることは許容することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る車両状態量推定装置は、車両の挙動制御に用いる状態量を実状態量と推定状態量とに基づいて推定すると共に、車両の横滑りが所定値以上になった場合には、横滑りの状態に関わらず実状態量の重み付けが大きい状態を維持して推定し、実状態量と推定状態量との差が所定値以下の状態が所定時間継続した場合に、実状態量の重み付けが大きい状態を解除することにより、車両の挙動制御時における挙動の急変を抑制することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、実施形態に係る車両状態量推定装置を備える車両の概略図である。
【図2】図2は、図1に示す車両状態量推定装置の要部構成図である。
【図3】図3は、ヨーレートとドリフトバリューとの関係を示す説明図である。
【図4】図4は、ドリフトバリューと重み付けゲインとの関係を示す説明図である。
【図5】図5は、車両の状態量の実測値と推定値とに重み付けを行って挙動制御を行う場合の説明図である。
【図6】図6は、実施形態に係る車両状態量推定装置の処理手順の概略を示すフロー図である。
【図7】図7は、状態量の重み付けゲインの変化量制限を含めて挙動制御を行う場合の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係る車両状態量推定装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【0014】
〔実施形態〕
図1は、実施形態に係る車両状態量推定装置を備える車両の概略図である。実施形態に係る車両状態量推定装置2を備える車両1は、内燃機関であるエンジン12が動力源として搭載され、エンジン12の動力によって走行可能になっている。このエンジン12には変速装置の一例である自動変速機15が接続されており、エンジン12が発生した動力は、自動変速機15に伝達可能になっている。この自動変速機15は、変速比が異なるギア段を複数有しており、自動変速機15で変速した動力は動力伝達経路を介して、車両1が有する車輪5のうち駆動輪として設けられる左右の前輪6へ駆動力として伝達されることにより、車両1は走行可能になっている。これらのように、エンジン12や自動変速機15等、駆動輪である前輪6に駆動力を伝達可能な装置は、駆動装置10として設けられている。また、駆動装置10を構成する自動変速機15には、当該自動変速機15の出力軸(図示省略)の回転速度を検出することを介して車速を検出可能な車速検出手段である車速センサ16が設けられている。
【0015】
また、当該車両1には、運転者が運転操作をする際に用いるアクセルペダル20及びブレーキペダル25が備えられており、さらに、これらのペダルの操作量を検出するアクセル開度センサ21及びブレーキセンサ26が設けられている。
【0016】
なお、本実施形態に係る車両状態量推定装置2を備える車両1は、エンジン12で発生した動力が前輪6に伝達され、前輪6で駆動力を発生する、いわゆる前輪駆動車となっているが、車両1は、後輪7で駆動力を発生する後輪駆動や、全ての車輪5で駆動力を発生する四輪駆動など、前輪駆動以外の駆動形式であってもよい。また、エンジン12は、レシプロ式の火花点火内燃機関であってもよく、レシプロ式の圧縮点火内燃機関であってもよい。また、駆動装置10は、動力源として内燃機関以外を使用してもよく、動力源として電動機を用いる電気式の駆動装置10や、エンジン12と電動機との双方を用いるハイブリッド式の駆動装置10であってもよい。
【0017】
前輪6は駆動輪として設けられると同時に操舵輪としても設けられており、このため前輪6は、運転者が運転操作を行う際に用いるハンドル30によって操舵可能に設けられている。このハンドル30は、電動パワーステアリング装置であるEPS(Electric Power Steering)装置35に接続されており、EPS装置35を介して、前輪6を操舵可能に設けられている。また、このように設けられるEPS装置35には、ハンドル30の回転角度である舵角を検出する舵角検出手段である舵角センサ36が設けられている。
【0018】
また、各車輪5の近傍には、油圧によって作動するホイールシリンダ51と、このホイールシリンダ51と組みになって設けられると共に車輪5の回転時には車輪5と一体となって回転するブレーキディスク52とが設けられている。さらに、車両1には、ホイールシリンダ51と油圧経路53によって接続され、ブレーキ操作時に、ホイールシリンダ51に作用させる油圧を制御するブレーキ油圧制御装置50が設けられている。このブレーキ油圧制御装置50は、各車輪5の近傍に設けられる各ホイールシリンダ51に対して、それぞれ独立して油圧の制御が可能に設けられている。これによりブレーキ油圧制御装置50は、複数の車輪5の制動力をそれぞれ独立して制御可能に設けられている。
【0019】
また、各車輪5は、サスペンションユニットによって支持されているが、車両1の幅方向における左右のサスペンションユニットは、スタビライザー40によって接続されている。即ち、スタビライザー40は、両端部がそれぞれ左右のサスペンションユニットに接続されており、左右のサスペンションユニットは、このスタビライザー40を介して左右のサスペンションユニット同士が接続されている。このように設けられるスタビライザー40は、サスペンションユニットによって支持される左右の車輪5間で、車輪5の上下方向の動きを他方の車輪5に対して伝達可能になっている。さらに、スタビライザー40には、車輪5の上下方向の動きを他方の車輪5に伝達する際における伝達率を調節可能なスタビライザーアクチュエータ45が設けられている。
【0020】
また、車両1には、少なくとも車両1の幅方向の加速度を検出可能なGセンサ62と、車両1の走行時のヨーレートを検出可能なヨーレート検出手段であるヨーレートセンサ60とが設けられている。これらの車速センサ16、アクセル開度センサ21、ブレーキセンサ26、舵角センサ36、ヨーレートセンサ60、Gセンサ62、EPS装置35、スタビライザーアクチュエータ45、ブレーキ油圧制御装置50、エンジン12及び自動変速機15は、車両1の各部を制御するECU(Electronic Control Unit)70に接続されており、ECU70によって制御可能に設けられている。
【0021】
図2は、図1に示す車両状態量推定装置の要部構成図である。ECU70には、CPU(Central Processing Unit)等を有する処理部71や、RAM(Random Access Memory)等の記憶部80、さらに入出力部81が設けられており、これらは互いに接続され、互いに信号の受け渡しが可能になっている。また、ECU70に接続されている車速センサ16、アクセル開度センサ21、ブレーキセンサ26、舵角センサ36、ヨーレートセンサ60、Gセンサ62等のセンサ類や、EPS装置35、スタビライザーアクチュエータ45、ブレーキ油圧制御装置50、エンジン12、自動変速機15等の各装置は、入出力部81に接続されており、入出力部81は、これらのセンサ類や各装置との間で信号の入出力を行う。また、記憶部80には、車両1を制御するコンピュータプログラムが格納されている。
【0022】
また、このように設けられるECU70の処理部71は、車両1の走行状態や運転者の運転操作の状態を取得する走行状態取得部72と、車両1の走行制御を行う走行制御部73と、車両1の走行制御に用いる各種の制御値の演算を行う制御値演算部74と、車両1の走行制御時における各判定を行う制御判定部75と、車両1の走行制御時に用いるフラグの切り替えを行うフラグ切替部76と、を有している。
【0023】
ECU70によって車両1の制御を行う場合には、例えば、アクセル開度センサ21等の検出結果に基づいて、処理部71が上記コンピュータプログラムを当該処理部71に組み込まれたメモリに読み込んで演算し、演算の結果に応じてエンジン12や自動変速機15等を制御することにより、車両1の運転制御を行う。その際に処理部71は、適宜記憶部80へ演算途中の数値を格納し、また格納した数値を取り出して演算を実行する。
【0024】
この実施形態に係る車両状態量推定装置2は、以上のごとき構成からなり、以下、その作用について説明する。車両状態量推定装置2を備える車両1の走行時には、アクセルペダル20の操作量等の運転者による運転操作状態を、アクセル開度センサ21等の検出手段で検出し、この検出結果を、ECU70の処理部71が有する走行状態取得部72で取得する。走行状態取得部72で取得した運転操作の状態等は、ECU70の処理部71が有する走行制御部73に伝達される。
【0025】
走行制御部73は、走行状態取得部72で取得した運転操作の状態等に基づいて、車両1の走行制御を行う。車両1の走行制御を行う場合には、走行状態取得部72から伝達された走行状態等に応じて、エンジン12の燃料噴射制御や点火制御等を行うことにより、所望の動力をエンジン12に発生させたり、自動変速機15の変速段を、所望の駆動力を発生させることのできる変速段に変速したりする。これらのように各装置を制御し、エンジン12で発生した動力が自動変速機15等の動力伝達経路を介して、駆動輪として設けられている前輪6に伝達されることにより、前輪6で駆動力を発生する。
【0026】
また、車両1の走行時には、駆動力を発生させるのみでなく、制動力も発生させて車速を調節するが、車両1に制動力を発生させる場合には、運転者はブレーキペダル25を操作する。ブレーキペダル25を操作した際における操作力は、ブレーキ油圧制御装置50や油圧経路53を介して、油圧としてホイールシリンダ51に付与される。ホイールシリンダ51は、この油圧によって作動し、車輪5と一体となって回転するブレーキディスク52の回転速度を、摩擦力によって低減させる。これにより、車輪5の回転速度も低下するため、車輪5は路面に対して制動力を発生し、車両1は減速する。
【0027】
また、ブレーキ油圧制御装置50は、ブレーキペダル25への操作に基づいて、またはブレーキペダル25の操作状態に関わらず作動して油圧を発生させることが可能になっている。また、ブレーキ油圧制御装置50は、ECU70の走行制御部73で制御可能になっているため、走行制御部73は、ブレーキ油圧制御装置50を制御することにより、ブレーキペダル25の操作状態に関わらず、制動力を発生させることができる。
【0028】
また、車両1を旋回させるなど車両1の進行方向を変化させる場合には、ハンドル30を回転させ、ハンドル操作をする。このようにハンドル30を回転させた場合、その回転トルクはEPS装置35に伝達される。EPS装置35は、ハンドル30から伝達される回転トルクに応じて作動し、EPS装置35と前輪6との間に設けられるタイロッドに対して押力、または引張り力を出力する。これにより前輪6は回動するので、前輪6の回転方向は車両1の前後方向とは異なる方向になり、車両1は進行方向が変化して旋回等を行う。
【0029】
これらのように、車両1はハンドル30を操作することにより旋回するが、ハンドル30を操作することにより変化する舵角は、EPS装置35に設けられる舵角センサ36で検出する。舵角センサ36で検出した舵角は、ECU70の処理部71が有する走行状態取得部72に伝達され、走行状態取得部72で取得する。
【0030】
車両1が旋回する場合には、車両1には、車両1の鉛直軸周りの回転力であるヨーモーメントが発生する。このように、車両1にヨーモーメントが発生した場合、ヨーレートセンサ60は、ヨーモーメントが発生して車両1が鉛直軸周りに回転した場合におけるヨー角速度であるヨーレートを検出する。ヨーレートセンサ60で検出したヨーレートは、ECU70の処理部71が有する走行状態取得部72に伝達され、走行状態取得部72で取得する。
【0031】
また、車両1が旋回した場合には、車両1には遠心力が発生するため、遠心力によって車両1の幅方向の加速度、即ち横方向の加速度である横加速度が発生する。このように車両1の旋回中に発生する横加速度は、Gセンサ62で検出し、検出結果をECU70の処理部71が有する走行状態取得部72で取得する。
【0032】
車両1の走行時には、このようにヨーレートセンサ60やGセンサ62での検出結果より、走行中におけるヨーレートや横加速度を取得するが、本実施形態に係る車両状態量推定装置2は、さらに、これらの実測値とは別に、運転者の運転操作に基づいてヨーレートや横加速度の推定を行う。
【0033】
これらのヨーレートや横加速度を推定する場合は、運転者がハンドル30を操作する際における舵角を検出する舵角センサ36での検出結果と、車両1の走行時における車速を検出する車速センサ16での検出結果と、を走行状態取得部72で取得し、この取得した舵角と車速とに基づいて、ECU70の処理部71が有する制御値演算部74で推定する。制御値演算部74で、ヨーレートや横加速度を推定する場合は、走行状態取得部72で取得した舵角と車速と、さらに車両1の特性を示す定数とを用いて、状態量を算出する際に通常用いられる数式を使用して算出することによって推定する。
【0034】
車両1の旋回中には、これらのヨーレートや横加速度の実測値や推定値、即ち、車両1の状態量の実測値である実状態量と、状態量の推定値である推定状態量とに基づいて、車両1の挙動制御を行う。つまり、実状態量や推定状態量が、車両1の走行状態は横滑り等の不安定な走行状態になっていることを示している場合には、不安定さを低減する制御を行う。例えば、走行制御部73でスタビライザーアクチュエータ45を制御することによって車両1のロール量を制御したり、ブレーキ油圧制御装置50を制御することによって所定の車輪5に制動力を発生させることにより横滑りを抑える制御を行ったりする。
【0035】
車両1の挙動制御を行う場合には、このように車両1の実状態量と推定状態量とに基づいて行うが、この実状態量と推定状態量とは、車両1の走行状態によって、双方の値の差の大きさが変化する。具体的には、車両1の走行状態が不安定な状態になるに従って、実状態量と推定状態量とは乖離し易くなっている。例えば、実状態量や推定状態量の一例であるヨーレートの実測値と推定値とは、車両1が旋回している場合には、車両1の横滑りの大きさを示すドリフトバリューが大きくなるに従って乖離し易くなっている。
【0036】
図3は、ヨーレートとドリフトバリューとの関係を示す説明図である。なお、図3に示すヨーレートとドリフトバリューは、共に図中の上下方向が、車両1の左右方向におけるそれぞれの値の大きさを示している。車両1を旋回させた場合、ヨーレートや横加速度が発生するが、横加速度が比較的小さい場合など、車両1の走行状態が安定している場合には、車両1は左右のいずれの方向にも横滑りが発生しないため、ドリフトバリューSdrは中立状態になる(図3、状態A)。また、このように車両1の走行状態が安定している場合には、ヨーレートセンサ60によるヨーレートの検出値であり、実状態量の一例であるヨーレート実測値Yrsと、舵角や車速に基づいて推定したヨーレートの推定値であり、推定状態量の一例であるヨーレート推定値Yreとは、ほぼ同じ大きさになっている(図3、状態A)。
【0037】
このように、車両1が旋回している状態で横滑りが発生し始めた場合、ドリフトバリューSdrの絶対値が大きくなり始める(図3、状態B)。この場合、車両1の挙動は、運転者の運転操作とは異なる挙動を示し始める。このため、車両1の実際の状態量を示すヨーレート実測値Yrsと、運転者の運転操作に基づいて推定する状態量であるヨーレート推定値Yreとは、乖離し始める(図3、状態B)。
【0038】
また、車両1の挙動が大きくなり、横滑りが大きくなった場合、運転者は横滑りを止めるために、ハンドル30を旋回方向の反対方向に操舵する、いわゆるカウンターステアの操作を行う場合がある。この場合、運転者による操舵の方向は、車両1の実際の挙動の方向に対して反対方向になるため、ヨーレート推定値Yreは、ヨーレート実測値Yrsに対して反対方向になる(図3、状態C)。このため、ヨーレート推定値Yreは、ヨーレート実測値Yrsに対して大きく乖離する。また、カウンターステアは、横滑りが大きい状態の場合に行うため、ドリフトバリューSdrも大きくなる(図3、状態C)。
【0039】
このように、横滑りが大きくなった際に、カウンターステアを行うことによって横滑りを止める運転操作を行った場合において、横滑りが止まった際にハンドル30を戻すのが遅れた場合、車両1には反対方向のヨーモーメントが発生する。つまり、ハンドル30の操舵方向を、カウンターステアを行っている状態から、車両1の実際の走行状態に適した操舵方向に戻すのに遅れた場合、車両1にはカウンターステアの操舵方向のヨーモーメントが発生する。
【0040】
このヨーモーメントは、車両1の挙動の急激な変化と操舵状態との相乗効果により、大きなヨーモーメントになり易く、車両1には、カウンターステアによって止めた横滑りの方向の反対方向の横滑りが、このヨーモーメントによって発生する場合がある。この場合、ドリフトバリューSdrは反対方向になり、ヨーレート推定値Yreとヨーレート実測値Yrsとも、ヨーレートの方向がそれぞれ反対方向になりつつ、互いのヨーレートの方向も反対方向になり、ヨーレート推定値Yreとヨーレート実測値Yrsとは、双方が乖離した状態になる(図3、状態D)。
【0041】
車両1の走行時に、大きな横滑りが発生して挙動が大きく乱れた場合には、このように運転者がカウンターステアの操作を行うことにより、ヨーレートは徐々に小さくなるため、ヨーレート推定値Yreとヨーレート実測値Yrsとは共に小さくなり、ドリフトバリューSdrも小さくなる(図3、状態E)。その後、横滑りが収まり、ドリフトバリューSdrが中立状態になった場合には、車両1の旋回方向と運転者の操舵の方向とは同じ方向になるため、ヨーレート推定値Yreとヨーレート実測値Yrsとは、ほぼ同じ大きさになる(図3、状態F)。これにより、車両1の走行状態は、挙動が安定した状態になる。
【0042】
車両1の挙動制御を行う場合には、上記のように変化する車両1の実状態量と推定状態量とに基づいて行うが、具体的には、挙動制御を行う際の基準になる状態量を、現在の車両1の状態量に基づいて目標状態量として求め、車両1に目標状態量の大きさの挙動が発生している場合に、挙動が安定するように制御を行う。
【0043】
車両1の挙動制御に用いる状態量である目標状態量は、このように車両1の走行時における実状態量と推定状態量とに基づいて推定することによって求めるが、実状態量と推定状態量とは、車両1の走行状態によっては、上記のように乖離する場合がある。このため、目標状態量を求める場合には、車両1の状態に応じて実状態量と推定状態量とに重み付けを行い、この重み付けを行った実状態量と推定状態量とから求める。車両1の挙動制御は、このように車両1の状態に応じて重み付けを行った実状態量と推定状態量とから求めた目標状態量に基づいて制御を行う。
【0044】
次に、車両1の実状態量と推定状態量に重み付けを行って目標状態量を求めて、車両1の挙動制御を行う場合について説明する。図4は、ドリフトバリューと重み付けゲインとの関係を示す説明図である。車両1の実状態量と推定状態量との重み付けを行う場合には、ドリフトバリューSdrに応じて重み付けのゲインを変化させることによって行う。つまり、車両1の実状態量と推定状態量との重み付けを行う場合に用いるゲインとして重み付けゲインαk1を設定し、この重み付けゲインαk1を、ドリフトバリューSdrに応じて変化させる。
【0045】
詳しくは、重み付けゲインαk1は、0から1の範囲内で変化し、重み付けゲインαk1が0の場合は、実状態量のみを用いて目標状態量を求め、重み付けゲインαk1が1の場合は、推定状態量のみを用いて目標状態量を求める。また、重み付けゲインαk1が0と1との間の場合は、その大きさに応じて、目標状態量を求める際における実状態量と推定状態量との重み付けが変化し、1から0になるに従って、実状態量の重み付けが大きくなる。
【0046】
これに対し、ドリフトバリューSdrは、車両1の横滑りの大きさを示す値であるため、横滑りが発生していない場合には中立状態になり、横滑りが大きくなるに従って左右方向に大きくなる。このように設定されるドリフトバリューSdrに対して、重み付けゲインαk1は、ドリフトバリューSdrが、左右方向における中立状態を示している場合には、1になるように設定する。また、重み付けゲインαk1は、ドリフトバリューSdrが完全に中立状態の場合のみでなく、ドリフトバリューSdrの値が、中立状態を中心とする左右方向の所定の範囲内の場合も1になるようにする。
【0047】
また、重み付けゲインαk1は、ドリフトバリューSdrの値が左右方向に大きくなり、中立状態を中心とする左右方向の所定の範囲を超えた場合には、ドリフトバリューSdrが左右方向に大きくなるに従って、重み付けゲインαk1が小さくなるようにする。さらに、ドリフトバリューSdrが左右方向における所定の大きさになったら、重み付けゲインαk1を0にする。つまり、重み付けゲインαk1は、ドリフトバリューSdrが中立付近の場合には推定状態量の重み付けを大きくし、ドリフトバリューSdrが中立付近から離れるに従って、実状態量の重み付けを大きくするように設定する。実状態量と推定状態量とに基づいて目標状態量を推定して求める場合には、このようにドリフトバリューSdrに応じて、即ち、車両1の横滑りの状態に応じて実状態量と推定状態量とに重み付けを行うことにより推定する。
【0048】
車両1の挙動制御を行う場合には、ドリフトバリューSdrに応じて車両1の実状態量と推定状態量との重み付けを変化させて制御するが、車両1の走行状態が不安定になった場合には、実状態量と推定状態量とは、上述したように乖離し易くなる。このため、車両1の走行状態が不安定になることにより、実状態量と推定状態量とが乖離した場合、挙動制御時における目標状態量は、重み付けが大きい方の状態量に基づいて求められることになるが、車両1の走行状態が不安定な場合は、ドリフトバリューSdrも変化し易くなる。これにより、車両1の状態量の重み付けも変化し易くなり、目標状態量が安定しない場合がある。次に、このように車両1の走行状態が不安定になることにより、目標状態量が不安定になる走行状態について説明する。
【0049】
図5は、車両の状態量の実測値と推定値とに重み付けを行って挙動制御を行う場合の説明図である。なお、図5は、図3に示す走行状態と同様の走行状態の場合における挙動制御について示しており、挙動制御時における目標状態量として横加速度を用いる場合についての説明図になっている。車両1の旋回時には、車両1にはヨーレートと共に横加速度も発生するが、横滑りが発生していない場合は、走行状態が安定している場合には、車両1の走行時における状態量の一例である横加速度は、実測値と推定値とが、ほぼ同じ大きさになる。つまり、横滑りが発生していない場合は、Gセンサ62による横加速度の検出値であり、実状態量の一例である横加速度実測値Gysと、舵角や車速に基づいて推定した横加速度の推定値であり、推定状態量の一例である横加速度推定値Gyeとは、ほぼ同じ大きさになっている(図5、状態A)。
【0050】
また、車両1の走行時における走行状態が安定し、横滑りが発生していない場合は、ドリフトバリューSdrは、ほぼ中立状態が維持される。この場合、重み付けゲインαk1は1になるため、目標状態量を求める場合には、車両1の推定状態量のみを用いて求める。このため、車両1の挙動制御時における目標状態量として、例えば、横加速度を用いる場合には、目標状態量となる横加速度である目標横加速度Gytは、横加速度推定値Gyeのみを用いて求める。
【0051】
具体的には、横加速度推定値Gyeと横加速度実測値Gysとに、重み付けゲインαk1を用いた重み付けを行うことによって求める目標横加速度Gytは、下記の式(1)によって求める。従って、重み付けゲインαk1が1の場合は、目標横加速度Gytは、横加速度推定値Gyeとほぼ同じ大きさになる(図5、状態A)。
目標横加速度Gyt=(Gye×αk1)+{Gys×(1−αk1)}・・・(1)
【0052】
また、車両1の走行状態が不安定になり始めて横滑りが発生し始めた場合、ドリフトバリューSdrは、絶対値が大きくなり始める。このため、ドリフトバリューSdrに応じて変化する重み付けゲインαk1は、ドリフトバリューSdrの大きさに応じて値が小さくなる(図5、状態B)。
【0053】
また、車両1に横滑りが発生し始めた場合には、横加速度実測値Gysと横加速度推定値Gyeとは、ヨーレート実測値Yrs及びヨーレート推定値Yreと同様に乖離し始めるが、ドリフトバリューSdrが1よりも小さくなった場合、実状態量の重み付けが大きくなる。即ち、横加速度実測値Gysの重み付けが大きくなる。このため、目標横加速度Gytは、重み付けゲインαk1によって定められる横加速度実測値Gysと横加速度推定値Gyeとの重み付けに応じて、横加速度実測値Gysと横加速度推定値Gyeとの双方の横加速度の値から求められる(図5、状態B)。つまり、目標横加速度Gytは、横加速度実測値Gysと横加速度推定値Gyeとの間の大きさになる。
【0054】
また、車両1の横滑りを止めるために、運転者がカウンターステアの操作を行った場合、操舵の方向は、横滑りの方向に対して反対方向になるため、横加速度推定値Gyeは、横加速度実測値Gysに対して反対方向になって乖離した状態になる。しかし、カウンターステアを行った初期段階は、ドリフトバリューSdrの左右の方向が切り替わる段階であり、中立位置を通過する状態であるため、ドリフトバリューSdrが中立付近に位置している間は、重み付けゲインαk1は1になる。このため、この間は、目標横加速度Gytは、横加速度推定値Gyeとほぼ同じ大きさになる(図5、状態C)。
【0055】
その後、横加速度推定値Gyeが横加速度実測値Gysに対して大きく乖離し続け、ドリフトバリューSdrの絶対値が大きくなり続けた場合、重み付けゲインαk1が小さくなって0になり、目標横加速度Gytは、横加速度実測値Gysとほぼ同じ大きさになる(図5、状態C)。つまり、この場合、目標横加速度Gytは、横加速度推定値Gyeと同じ大きさから、横加速度推定値Gyeに対して乖離している横加速度実測値Gysと同じ大きさに急変する。
【0056】
さらに、カウンターステアを維持し続けることにより横滑りが小さくなり始めた場合、車両1の挙動と運転操作とが近くなるため、ドリフトバリューSdrが小さくなる。この場合、重み付けゲインαk1が大きくなって1になり、目標横加速度Gytは、横加速度推定値Gyeとほぼ同じ大きさになる。このため、目標横加速度Gytは、横加速度実測値Gysと同じ大きさから、再び横加速度推定値Gyeとほぼ同じ大きさに急変する(図5、状態C)。
【0057】
車両1の走行中に横滑りが発生した場合に、運転者がカウンターステアによって横滑りを抑える運転操作を行った場合には、これらのように、ドリフトバリューSdrの左右方向が切り替わる際に、重み付けゲインαk1が変化する。これにより、車両1の挙動が安定するまで、目標横加速度Gytは、横加速度実測値Gysと横加速度推定値Gyeとの間を急変し続ける(図5、状態D、E)。
【0058】
車両1の挙動制御を行う場合において、ドリフトバリューSdrに応じて車両1の実状態量と推定状態量との重み付けを変化させて制御する場合、走行状態が不安定な場合には変化し易いドリフトバリューSdrに応じて、目標状態量も上述したように急変し易くなる。このため、挙動制御時の走行状態が急変し易くなるため、本実施形態に係る車両状態量推定装置2では、挙動制御時における車両1の実状態量と推定状態量との重み付けの適正化を図っている。つまり、ドリフトバリューSdrに応じて変化する重み付けゲインαk1の変化量を制限し、また、重み付けゲインαk1の変化量の制限は、所定の条件が成立した場合に終了させることにより、目標状態量が実状態量と推定状態量との間で急変することを抑制する。
【0059】
図6は、実施形態に係る車両状態量推定装置の処理手順の概略を示すフロー図である。次に、本実施形態に係る車両状態量推定装置2で車両1の挙動制御を行う場合における処理手順の概略について説明する。なお、以下の処理は、車両1の走行時に各部を制御する際に、所定の期間ごとに呼び出されて実行する。車両1の走行時における挙動制御を行う場合には、まず、車両1の実状態量と推定状態量とを取得する(ステップST101)。このうち、実状態量は、ヨーレートセンサ60やGセンサ62での検出結果をECU70の処理部71が有する走行状態取得部72で取得することによりヨーレートや横加速度の実測値を取得する。また、推定状態量は、車速センサ16や舵角センサ36での検出結果を走行状態取得部72で取得することにより車速や舵角を取得し、これらの車速や舵角を用いて、ECU70の処理部71が有する制御値演算部74によって所定の数式の演算を行うことにより状態量を推定する。これにより、制御値演算部74で推定状態量を取得する。
【0060】
次に、ドリフトバリューSdrを導出する(ステップST102)。このドリフトバリューSdrは、実状態量と推定状態量とを比較することにより導出する。つまり、ドリフトバリューSdrは、車両1の横滑りの大きさを示す値であるが、車両1の横滑りは、運転者の運転操作と、車両1の実際の挙動とが異なっている状態であるため、実状態量と推定状態量とを比較し、双方の状態量の差に基づいて、ドリフトバリューSdrを導出する。
【0061】
次に、重み付けゲインαk1を導出する(ステップST103)。この導出は、制御値演算部74で、ECU70の記憶部80に記憶されているマップを用いて行う。この場合に用いるマップは、図4に示すようにドリフトバリューSdrと重み付けゲインαk1との関係を示すマップとして予め設定され、記憶部80に記憶されている。制御値演算部74は、このマップにドリフトバリューSdrを当てはめることにより、重み付けゲインαk1を導出する。なお、ドリフトバリューSdrに基づいて重み付けゲインαk1を導出する場合は、マップ以外を用いて導出してもよく、例えば、所定の数式を用いて導出してもよい。
【0062】
次に、ドリフトアウトフラグFdrift=ONであるか否かを判定する(ステップST104)。このドリフトアウトフラグFdriftは、車両1に横滑りが発生しているか否かを示すフラグとして設定されており、車両1に横滑りが発生している場合にはONに切り替えられ、横滑りが発生していない場合にはOFFに切り替えられる。このように切り替えられるドリフトアウトフラグFdriftがONであるか否かの判定は、ECU70の処理部71が有する制御判定部75で行う。
【0063】
この判定により、ドリフトアウトフラグFdrift=ONではないと判定された場合(ステップST104、No判定)、即ち、ドリフトアウトフラグFdrift=OFFであると判定された場合には、次に、αk1変化量制限開始条件が成立しているか否かを判定する(ステップST105)。このαk1変化量制限開始条件は、車両1の挙動制御を行う場合に用いる重み付けゲインαk1の変化量を制限する制御を開始する際における条件となっている。
【0064】
具体的には、αk1変化量制限開始条件は、ドリフトバリューSdrの大きさによって変化する重み付けゲインαk1が、当該重み付けゲインαk1の変化量の制限を開始するか否かの判断に用いる閾値であるドリフトアウト閾値THout以下であることが、αk1変化量制限の開始条件になっている。このため、この条件が成立しているかを判定する場合には、ECU70の処理部71が有する制御判定部75で、重み付けゲインαk1とドリフトアウト閾値THoutとを比較し、αk1≦THoutが成立しているか否かを判定する。
【0065】
制御判定部75は、この判定により、αk1≦THoutが成立している場合には、αk1変化量制限開始条件が成立していると判定し、αk1≦THoutが成立していない場合には、αk1変化量制限開始条件は成立していないと判定する。なお、この判定を行う場合に用いるドリフトアウト閾値THoutは、αk1変化量制限開始条件が成立しているか否かの判定を、重み付けゲインαk1の値に基づいて行う場合における重み付けゲインαk1の閾値として予め設定され、ECU70の記憶部80に記憶されている。
【0066】
また、重み付けゲインαk1は、車両1の横滑りの状態を示すドリフトバリューSdrに応じて変化するため、重み付けゲインαk1の閾値であるドリフトアウト閾値THoutは、換言すると、重み付けゲインαk1を介して車両1の横滑りの状態を判断可能な横滑りの閾値になっている。このため、αk1変化量制限開始条件である{αk1≦THout}が成立した場合は、横滑りが所定値以上になったことを示しており、横滑りが所定値以上になった場合は、αk1変化量制限開始条件は成立していると判断する。
【0067】
制御判定部75での判定により、αk1変化量制限開始条件が成立していると判定された場合(ステップST105、Yes判定)、つまり、αk1≦THoutが成立していると判定された場合には、次に、ドリフトアウトフラグFdrift=ONを実行する(ステップST106)。このドリフトアウトフラグFdriftは、ECU70の処理部71が有するフラグ切替部76で切り替え可能になっており、フラグ切替部76は、OFFの状態になっているドリフトアウトフラグFdriftをONに切り替える。
【0068】
このように、フラグ切替部76でドリフトアウトフラグFdriftをONに切り替えた場合、または、制御判定部75での判定により、αk1≦THoutは成立しておらず、αk1変化量制限開始条件は成立していないと判定された場合(ステップST105、No判定)、または、制御判定部75での判定により、ドリフトアウトフラグFdrift=ONであると判定された場合(ステップST104、Yes判定)には、次に、Fdrift=ONで、且つ、αk1>αk1_lim_pであるか否かを判定する(ステップST107)。この判定を行う場合に用いるαk1_lim_pは、変数であるαk1_limの前回値になっており、このαk1_limは、重み付けゲインαk1の変化量制限の制御を行う場合における変数になっている。この判定を行う場合には、ドリフトアウトフラグFdriftがONに切り替えられており、且つ、現在の重み付けゲインαk1は、αk1_lim_pより大きいか否かを、制御判定部75で判定する。
【0069】
ここで、重み付けゲインαk1の変化量制限の制御について説明すると、重み付けゲインαk1は、ドリフトバリューSdrに応じて変化するが重み付けゲインαk1の変化量制限は、この重み付けゲインαk1の値が大きくならないように制御する。つまり、ドリフトバリューSdrに応じて重み付けゲインαk1が変化する際に、αk1の値が小さくなる方向への変化は許容するが、αk1の値が大きくなる方向への変化は規制する。この重み付けゲインαk1は、実状態量と推定状態量との重み付けのゲインであるため、換言すると、重み付けゲインαk1の変化量制限は、実状態量の重み付けが大きくなる方向への変化は許容し、推定状態量の重み付けが大きくなる方向への変化は規制する制御になっている。このため、重み付けゲインαk1の変化量制限の制御は、推定状態量の重み付けを制限し、横滑りの状態に応じて実状態量の重み付けを大きくすることは許容することにより、横滑りの状態に関わらず実状態量の重み付けが大きい状態を維持する制御になっている。
【0070】
重み付けゲインαk1の変化量制限は、このような制御であるため、αk1_lim_pは、ドリフトアウトフラグFdriftがONに切り替わっている間の一連の制御中に重み付けゲインαk1が変化した場合における、重み付けゲインαk1の最小値になっている。つまり、αk1_lim_pは、重み付けゲインαk1の最小値が更新される度に書き換えられる。なお、αk1_lim_pは、ドリフトアウトフラグFdriftがOFFからONに切り替えられた場合における初期値は1になっている。制御判定部75は、このαk1_lim_pと、現在の重み付けゲインαk1とを比較することにより、αk1>αk1_lim_pであるか否かを判定し、また、ドリフトアウトフラグFdriftがONであるか否かの判定も行う。
【0071】
この判定により、Fdrift=ONで、且つ、αk1>αk1_lim_pであると判定された場合(ステップST107、Yes判定)には、αk1_lim=αk1_lim_pを実行する(ステップST108)。つまり、制御値演算部74で、αk1_limの値を、αk1_limの前回値であるαk1_lim_pにすることにより、αk1_limの大きさを維持する。
【0072】
これに対し、Fdrift=ONで、且つ、αk1>αk1_lim_pではないと判定された場合(ステップST107、No判定)、つまり、ドリフトアウトフラグFdriftがOFFであると判定された場合、または、現在の重み付けゲインαk1はαk1_lim_p以下であると判定された場合には、αk1_lim=αk1を実行する(ステップST109)。現在の重み付けゲインαk1はαk1_lim以下であると判定された場合には、制御値演算部74でαk1_lim=αk1を演算することにより、αk1_limの値を、最小値を更新した重み付けゲインαk1の値に書き換える。
【0073】
αk1_limの値を維持したり(ステップST108)、αk1_limの値を書き換えたりすることにより(ステップST109)、重み付けゲインαk1の変化量制限処理を行ったら、次に、αk1_lim_p=αk1_limを実行する(ステップST110)。即ち、次回の制御ルーチンにおいてαk1_limの前回値として用いるαk1_lim_pに、αk1_limの今回値を代入する。これにより、次回の制御ルーチンでαk1_lim_pを用いる場合には、αk1_limの前回値として用いることが可能になる。
【0074】
次に、目標状態量を算出する(ステップST111)。例えば、目標状態量の一例として目標横加速度Gytを算出する場合、走行状態取得部72や制御値演算部74で取得した横加速度実測値Gysと横加速度推定値Gyeとに対して、重み付けゲインαk1で重み付けを行うことにより、目標横加速度Gytを算出する。即ち、制御値演算部74で、上述した式(1)を演算することにより、目標横加速度Gytを算出する。
【0075】
ここで、本実施形態に係る車両状態量推定装置2では、重み付けゲインαk1の変化量制限をする制御を行う場合は、重み付けゲインαk1の最小値としてαk1_limを算出している。このため、横加速度実測値Gysと横加速度推定値Gyeとに対して重み付けを行う場合には、αk1_limを使用して行う。目標横加速度Gytは、このようにαk1_limで重み付けを行った横加速度実測値Gysと横加速度推定値Gyeとより算出する。
【0076】
目標状態量を算出したら、次に、目標状態量に基づいて挙動制御を行う(ステップST112)。つまり、車両1の挙動制御を行う場合に制御する各装置を、制御値演算部74で算出した目標横加速度Gyt等の目標状態量に基づいて、ECU70の処理部71が有する走行制御部73で制御する。例えば、走行制御部73で、スタビライザーアクチュエータ45を制御することによって車両1のロール量を調節したり、ブレーキ油圧制御装置50を制御することにより一部の車輪5に制動力を発生させ、所望のヨーモーメントを発生させたりすることによって、挙動制御を行う。
【0077】
このように車両1の挙動制御を行ったら、次に、αk1変化量制限終了条件は成立しているか否かを判定する(ステップST113)。このαk1変化量制限終了条件は、重み付けゲインαk1の変化量制限の制御を終了する際における条件になっている。このαk1変化量制限終了条件は、横滑りが低減している状態が所定の時間以上続いていることが、αk1変化量制限の終了条件になっている。つまり、実状態量と推定状態量との差が所定値以下の状態が所定時間継続することが、αk1変化量制限の終了条件になっており、この条件が成立した場合に、実状態量の重み付けが大きい状態を解除する。
【0078】
具体的には、ドリフトバリューSdrの絶対値が、ドリフトバリューSdrが中立付近に位置していることを示す閾値であるドリフトバリュー安定閾値THsdrs以下で、且つ、車両1の実状態量と推定状態量との差が所定の閾値以下である状態が、所定の時間以上継続していることが、αk1変化量制限の終了条件になっている。つまり、ドリフトバリューSdrとドリフトバリュー安定閾値THsdrsとは、下記の式(2)が成立しているか否かを判定する。また、実状態量と推定状態量との差が所定の閾値以下であるか否かは、例えば、横加速度実測値Gys及び横加速度推定値Gyeと、これらの差に基づいて横滑りが低減している状態を判断する際における閾値であるGy安定閾値THgysとの関係が下記の式(3)が成立しているか否かを判定する。
|Sdr|≦THsdrs・・・(2)
|Gye−Gys|≦THgys・・・(3)
【0079】
αk1変化量制限の終了条件は、式(2)と式(3)とが共に成立している状態が、ドリフトバリュー安定化時間閾値THtmsdrs以上継続していることが条件になっている。つまり、実状態量の重み付けが大きい状態の解除は、実状態量と推定状態量との差が、制御の終了の判定に用いる所定値であるGy安定閾値THgys以下で、且つ、横滑りが所定値以下の状態が、所定の時間であるドリフトバリュー安定化時間閾値THtmsdrsの間継続した場合に行う。なお、この判定に用いるドリフトバリュー安定化時間閾値THtmsdrsは、αk1変化量制限の終了条件の1つとして予め設定され、ECU70の記憶部80に記憶されている。αk1変化量制限終了条件は成立しているか否かを判定する場合には、制御判定部75で、各条件が成立しているか否かを判断することによって判定する。
【0080】
この判定により、αk1変化量制限終了条件は成立していないと判定された場合(ステップSST113、No判定)には、ドリフトアウトフラグFdriftがONの状態を維持したまま、この処理手順を抜け出る。
【0081】
これに対し、αk1変化量制限終了条件は成立していると判定された場合(ステップST113、Yes判定)には、ドリフトアウトフラグFdrift=OFFを実行する(ステップST114)。つまり、ONの状態になっているドリフトアウトフラグFdriftを、フラグ切替部76でOFFに切り替える。ドリフトアウトフラグFdriftをOFFに切り替えたら、この処理手順を抜け出る。車両1の挙動制御を行う場合には、この処理手順で制御を行うことにより、走行状態が急変することを抑制する。
【0082】
図7は、状態量の重み付けゲインの変化量制限を含めて挙動制御を行う場合の説明図である。なお、図7は、挙動制御時における目標状態量として図5と同様に横加速度を用いる場合についての説明図になっており、図5に示す走行状態の場合に重み付けゲインの変化量制限を含めた場合についての説明図である。車両1の旋回時に横滑りが発生しておらず、走行状態が安定している場合には、横加速度実測値Gysと横加速度推定値Gyeとは、ほぼ同じ大きさになる(図7、状態A)。また、横滑りが発生していない場合は、ドリフトバリューSdrは、ほぼ中立状態が維持されることにより重み付けゲインαk1は1になるため、目標横加速度Gytは、横加速度推定値Gyeとほぼ同じ大きさになる(図7、状態A)。
【0083】
また、このように重み付けゲインαk1が1の場合は、αk1変化量制限の開始条件である{重み付けゲインαk1≦ドリフトアウト閾値THout}は成立しないため、ドリフトアウトフラグFdriftはOFFの状態が維持される(図7、状態A)。
【0084】
また、車両1に横滑りが発生し始め、ドリフトバリューSdrの絶対値が大きくなり始めた場合、重み付けゲインαk1は、ドリフトバリューSdrの大きさに応じて値が小さくなる(図7、状態B)。また、車両1に横滑りが発生し始め、横加速度実測値Gysと横加速度推定値Gyeが乖離し始めた場合には、目標横加速度Gytは、重み付けゲインαk1によって定められる横加速度実測値Gysと横加速度推定値Gyeとの重み付けに応じて、横加速度実測値Gysと横加速度推定値Gyeとから求められる(図7、状態B)。
【0085】
また、ドリフトバリューSdrの大きさに応じて重み付けゲインαk1が小さくなった場合でも、重み付けゲインαk1がドリフトアウト閾値THoutより大きい場合には、ドリフトアウトフラグFdriftはOFFの状態が維持される(図7、状態B)。
【0086】
また、車両1の横滑りを止めるために、運転者がカウンターステアの操作を行った場合には、横加速度推定値Gyeは、横加速度実測値Gysに対して乖離した状態になるが、カウンターステアを行った初期段階では、ドリフトバリューSdrが中立付近に位置し、重み付けゲインαk1は1になる。つまり、このドリフトアウトフラグFdriftがOFFになっているため、αk1変化量制限の制御が開始されておらず、重み付けゲインαk1はドリフトバリューSdrに応じて変化可能な状態になっているため、重み付けゲインαk1は1になる。このため、この間は、目標横加速度Gytは、横加速度推定値Gyeとほぼ同じ大きさになる(図7、状態C)。
【0087】
その後、横加速度推定値Gyeが横加速度実測値Gysに対して大きく乖離してドリフトバリューSdrの絶対値が大きくなり、重み付けゲインαk1が小さくなって0になった場合には、目標横加速度Gytは、横加速度実測値Gysとほぼ同じ大きさになる(図7、状態C)。ここで、このように重み付けゲインαk1が0になった場合は、{重み付けゲインαk1≦ドリフトアウト閾値THout}が成立するため、ドリフトアウトフラグFdriftはONに切り替えられる(図7、状態C)。これにより、αk1変化量制限の制御が開始される。
【0088】
さらに、カウンターステアを維持し続けることにより横滑りが小さくなり始めた場合には、ドリフトバリューSdrが小さくなるが、ドリフトアウトフラグFdriftがONであるため、重み付けゲインαk1は変化量が制限されている。つまり、重み付けゲインαk1は、値が小さくなる方向への変化のみ許容されており、値が大きくなる方向への変化は規制されている。このため、重み付けゲインαk1は0の状態が維持される。換言すると、重み付けゲインαk1は、重み付けゲインαk1の値がドリフトアウト閾値THout以下になった場合には、値が小さくなる方向、即ち、横加速度実測値Gysの重み付けが大きくなる方向のヒステリシスが設けられる。従って、目標横加速度Gytは、横加速度実測値Gysと同じ大きさの状態が維持される(図7、状態C)。
【0089】
また、ドリフトアウトフラグFdriftがONであることによりαk1変化量制限の制御が行われている間は、重み付けゲインαk1は値が大きくならずに0の状態が維持される。このため、運転者がカウンターステアによって横滑りを抑える運転操作を行い、横加速度実測値Gysと横加速度推定値Gyeとが乖離した状態で変化を繰り返した場合でも、目標横加速度Gytは、横加速度実測値Gysと同じ大きさの状態が維持される(図7、状態D、E)。
【0090】
このように、カウンターステアの運転操作を行うことにより、横滑りが小さくなってきた場合には、ドリフトバリューSdrは中立状態に近付き、また、横加速度実測値Gysと横加速度推定値Gyeとは、双方の乖離が小さくなってくる。ドリフトバリューSdrや、横加速度実測値Gys及び横加速度推定値Gyeがこのように変化することにより、αk1変化量制限の制御を終了する条件を満たした場合には、αk1変化量制限の制御を終了する。
【0091】
つまり、{|ドリフトバリューSdr|≦ドリフトバリュー安定閾値THsdrs}と{|横加速度推定値Gye−横加速度実測値Gys|≦Gy安定閾値THgys}とが成立する状態がドリフトバリュー安定化時間閾値THtmsdrs以上継続した場合には、ドリフトアウトフラグFdriftがONからOFFに切り替えられる(図7、状態F)。これにより、αk1変化量制限の制御が終了するため、重み付けゲインαk1はドリフトバリューSdrに応じて変化し、目標横加速度Gytは、重み付けゲインαk1によって重み付けされた横加速度実測値Gysと横加速度推定値Gyeとより求められる。
【0092】
以上の車両状態量推定装置2は、車両1の挙動制御に用いる状態量の一例である目標横加速度Gytを、横加速度実測値Gysと横加速度推定値Gyeとに基づいて推定し、ドリフトバリューSdrに応じて変化する重み付けゲインαk1がドリフトアウト閾値THout以下になった場合には、重み付けゲインαk1の変化量制限の制御を行う。つまり、横滑りが発生している場合は、横加速度実測値Gysと横加速度推定値Gyeとが乖離するが、重み付けゲインαk1に基づいて横滑りが大きくなっていると判断することができ、横加速度実測値Gysと横加速度推定値Gyeとが乖離していると判断することができる場合には、重み付けゲインαk1の変化量制限の制御を行う。この重み付けゲインαk1の変化量制限の制御は、車両1のドリフトバリューSdrの状態に関わらず、重み付けゲインαk1による横加速度実測値Gysの重み付けが大きい状態を維持する。これにより、ドリフトバリューSdrが変化する場合でも、目標横加速度Gytを求める際における重み付けが横加速度実測値Gysと横加速度推定値Gyeとの間で変化することを抑制することができ、横加速度実測値Gysと横加速度推定値Gyeとが乖離した状態で重み付けゲインαk1が変化することに起因する目標横加速度Gytの急変を抑制することができる。
【0093】
また、重み付けゲインαk1の変化量制限の制御は、横加速度実測値Gysと横加速度推定値Gyeとの差がGy安定閾値THgys以下の状態がドリフトバリュー安定化時間閾値THtmsdrs以上継続した場合に終了し、横加速度実測値Gysの重み付けが大きい状態を解除する。これにより、乖離した状態の横加速度実測値Gysと横加速度推定値Gyeとの差が小さくなってから、重み付けゲインαk1の変化量制限の制御を終了し、重み付けゲインαk1を横滑りに応じて変化させる制御に戻すため、横加速度実測値Gysと横加速度推定値Gyeとが乖離している状態で重み付けゲインαk1が変化することを、より確実に抑制することができ、目標横加速度Gytの急変を抑制することができる。これらの結果、車両1の挙動制御時における挙動の急変を抑制することができる。
【0094】
また、重み付けゲインαk1の変化量制限を行うことにより、横滑り発生時や高G走行時など、横加速度実測値Gysと横加速度推定値Gyeとが乖離したり、乖離方向が変化したりする場合における目標横加速度Gytの精度を向上させることができる。この結果、車両1の走行状態が不安定になり易い状態での走行時における走行安定性を向上させることができる。
【0095】
また、重み付けゲインαk1の変化量制限は、横加速度実測値Gysと横加速度推定値Gyeとの差がGy安定閾値THgys以下で、且つ、ドリフトバリューSdrがドリフトバリュー安定閾値THsdrs以下の状態がドリフトバリュー安定化時間閾値THtmsdrs以上継続した場合に終了させる。重み付けゲインαk1の変化量制限は、このようにドリフトバリューSdrがドリフトバリュー安定閾値THsdrs以下の状態になってから終了させるため、横滑りが、より確実に小さくなってから終了させることができ、目標横加速度Gytの急変を、より確実に抑制することができる。この結果、車両1の挙動制御時における挙動の急変を、より確実に抑制することができる。
【0096】
また、重み付けゲインαk1がドリフトアウト閾値THout以下になった場合には、横加速度推定値Gyeの重み付けを制限することにより、横加速度実測値Gysの重み付けが大きい状態を維持するため、重み付けが横加速度実測値Gysと横加速度推定値Gyeとの間で変化することを、より確実に抑制することができる。この結果、横加速度実測値Gysと横加速度推定値Gyeとが乖離した状態で重み付けゲインαk1が変化することを、より確実に抑制することができ、車両1の挙動制御時における挙動の急変を、より確実に抑制することができる。
【0097】
また、横加速度実測値Gysの重み付けが大きい状態を維持する場合には、ドリフトバリューSdrに応じて横加速度実測値Gysの重み付けを大きくすることは許容するため、重み付けゲインαk1の変化量制限を行う場合に、横加速度実測値Gysの重み付けが大きい状態を、より確実に維持することができる。この結果、横加速度実測値Gysと横加速度推定値Gyeとが乖離している場合に、重み付けが横加速度実測値Gysと横加速度推定値Gyeとの間で変化することを、より確実に抑制することができ、車両1の挙動制御時における挙動の急変を、より確実に抑制することができる。
【0098】
また、横加速度実測値Gysと横加速度推定値Gyeとが乖離している場合には、横加速度実測値Gysの重み付けを大きくするので、走行状態が不安定な状態における目標横加速度Gytを、車両1の実際の状態量に近付けることができる。つまり、運転操作に基づいて車両1の状態量を推定する横加速度推定値Gye等の推定状態量は、車両1の走行状態が不安定な場合、例えば、大きな横滑りが発生した場合に、カウンターステアを行うことによって横滑りを止める場合、運転操作の方向が実際の車両1の挙動の方向と異なるので、実際の状態量に対して大きく乖離することになる。このため、横加速度実測値Gysと横加速度推定値Gyeとが乖離していることにより重み付けゲインαk1の変化量制限を行う場合は、横加速度実測値Gysの重み付けを大きくすることにより、目標横加速度Gytを、実際の車両1の状態量に近付けて挙動制御を行うことができる。この結果、より適切な挙動制御を行うことができる。
【0099】
なお、上述した車両状態量推定装置2では、目標状態量に基づいて挙動制御を行う場合には、スタビライザーアクチュエータ45やブレーキ油圧制御装置50を制御することによって挙動制御を行うものとして説明しているが、挙動制御に用いるアクチュエータは、これら以外のものでもよい。目標状態量に基づいて挙動制御を行う際に用いるアクチュエータは、目標状態量に基づいて制御することにより、車両1の走行状態を安定させることができるものであれば、その形態や制御方法は上述したものにとらわれない。
【0100】
また、上述した車両状態量推定装置2では、重み付けゲインαk1で重み付けを行う状態量として横加速度を用いており、重み付けゲインαk1の変化量制限を行う場合には、横加速度実測値Gysと横加速度推定値Gyeとの重み付けの変化量を制限して目標横加速度Gytを推定しているが、重み付けゲインαk1で重み付けを行う状態量は横加速度以外でもよい。重み付けゲインαk1で重み付けを行う状態量は、例えばヨーレートを用いるなど、車両1の挙動制御に用いる状態量を推定可能な実状態量と推定状態量とであれば横加速度以外の状態量でもよい。
【符号の説明】
【0101】
1 車両
2 車両状態量推定装置
5 車輪
10 駆動装置
12 エンジン
15 自動変速機
16 車速センサ
20 アクセルペダル
25 ブレーキペダル
30 ハンドル
35 EPS装置
36 舵角センサ
40 スタビライザー
45 スタビライザーアクチュエータ
50 ブレーキ油圧制御装置
60 ヨーレートセンサ
62 Gセンサ
70 ECU
71 処理部
72 走行状態取得部
73 走行制御部
74 制御値演算部
75 制御判定部
76 フラグ切替部
80 記憶部
81 入出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の挙動制御に用いる状態量を前記車両の走行時における実状態量と推定状態量とに基づいて推定する車両状態量推定装置において、
前記実状態量と前記推定状態量とに基づいて前記状態量を推定する場合には、前記車両の横滑りの状態に応じて前記実状態量と前記推定状態量とに重み付けを行うことにより推定すると共に、前記横滑りが所定値以上になった場合には前記横滑りの状態に関わらず前記実状態量の重み付けが大きい状態を維持し、前記実状態量と前記推定状態量との差が所定値以下の状態が所定時間継続した場合に、前記実状態量の重み付けが大きい状態を解除することを特徴とする車両状態量推定装置。
【請求項2】
前記実状態量の重み付けが大きい状態の解除は、前記実状態量と前記推定状態量との差が前記所定値以下で、且つ、前記横滑りが所定値以下の状態が、前記所定時間継続した場合に行うことを特徴とする請求項1に記載の車両状態量推定装置。
【請求項3】
前記横滑りが前記所定値以上になった場合には、前記推定状態量の重み付けを制限することにより、前記実状態量の重み付けが大きい状態を維持することを特徴とする請求項1または2に記載の車両状態量推定装置。
【請求項4】
前記実状態量の重み付けが大きい状態を維持する場合には、前記横滑りの状態に応じて前記実状態量の重み付けを大きくすることは許容することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両状態量推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−171376(P2012−171376A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32125(P2011−32125)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】