説明

車両用エンジンマウント構造

【課題】簡単な操作でエンジン側部材の支持高さを回復させて異音等の発生を防止することができる車両用エンジンマウント構造を提供する。
【解決手段】エンジンAに固定されたエンジン側部材1と、車体に固定された防振部材Cと、エンジン側部材と防振部材との間に摺動移動可能に装着された高さ調整部材6と、エンジン側部材を、高さ調整部材を挟んで、防振部材の上面側に固定可能な固定ボルト7とを備え、高さ調整部材を摺動移動可能な操作ボルト11が高さ調整部材に貫通形成してあるボルト挿通孔12に挿通されて、エンジン側部材の雌ネジ孔13に螺進操作自在に螺合され、高さ調整部材のエンジン側部材に接触するエンジン側摺動部14aと、高さ調整部材の防振部材Cに接触する防振部材側摺動部15aとが、操作ボルト11による高さ調整部材の摺動移動方向上手側ほど上下方向に互いに離間させて設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに固定されたエンジン側部材と、車体に固定された防振部材と、前記エンジン側部材を前記防振部材の上面側に固定可能な固定ボルトとを備えた車両用エンジンマウント構造に関する。
【背景技術】
【0002】
上記車両用エンジンマウント構造は、エンジン重量をエンジン側部材と防振部材とを介して車体に受け止めるので、防振部材の熱履歴などによる防振ゴムの経年変化でエンジン側部材の車体に対する支持高さが低くなるおそれがある。
エンジン側部材の支持高さが低くなると、例えばエンジンのアイドリング運転時にエンジン側部材が車体側の部材に接触して異音等が発生するおそれがある。
上記車両用エンジンマウント構造では、従来、エンジン側部材の支持高さが低くなった時には、防振ゴムやエンジンマウントを交換しなければ、その支持高さを回復させることができない(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−326523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このため、エンジン側部材の車体に対する支持高さを回復するためには、多大な手間と労力を必要とするおそれがある。
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、防振ゴムやエンジンマウントを交換することなく、簡単な操作でエンジン側部材の車体に対する支持高さを回復させて異音等の発生を防止することができる車両用エンジンマウント構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の特徴構成は、エンジンに固定されたエンジン側部材と、車体に固定された防振部材と、前記エンジン側部材と前記防振部材との間に摺動移動可能に装着された高さ調整部材と、前記エンジン側部材を、前記高さ調整部材を挟んで、前記防振部材の上面側に固定可能な固定ボルトとを備え、前記高さ調整部材を摺動移動可能な操作ボルトが、前記高さ調整部材に貫通形成してあるボルト挿通孔に挿通されて、前記エンジン側部材に形成した雌ネジ孔に螺進操作自在に螺合され、前記高さ調整部材における前記エンジン側部材に接触するエンジン側摺動部と、前記高さ調整部材における前記防振部材に接触する防振部材側摺動部とが、前記操作ボルトによる前記高さ調整部材の摺動移動方向上手側ほど上下方向に互いに離間させて設けられている点にある。
【0006】
本構成の車両用エンジンマウント構造は、エンジン側部材と防振部材との間に摺動移動可能に装着された高さ調整部材と、エンジン側部材を、高さ調整部材を挟んで、防振部材の上面側に固定可能な固定ボルトとを備え、高さ調整部材を摺動移動可能な操作ボルトが、高さ調整部材に貫通形成してあるボルト挿通孔に挿通されて、エンジン側部材に形成した雌ネジ孔に螺進操作自在に螺合されている。
このため、固定ボルトによるエンジン側部材の防振部材に対する固定を緩めて、操作ボルトをエンジン側部材に形成した雌ネジ孔に締め込むことにより、高さ調整部材をエンジン側部材と防振部材とに対して摺動移動させることができる。
【0007】
また、本構成の車両用エンジンマウント構造は、高さ調整部材におけるエンジン側部材に接触するエンジン側摺動部と、高さ調整部材における防振部材に接触する防振部材側摺動部とが、操作ボルトによる高さ調整部材の摺動移動方向上手側ほど上下方向に互いに離間させて設けられている。
このため、高さ調整部材をエンジン側部材と防振部材とに対して摺動移動させるに伴って、エンジン側部材が押し上げられる。
したがって、本構成の車両用エンジンマウント構造であれば、エンジン側部材の車体に対する支持高さが低くなっても、防振ゴムやエンジンマウントを交換することなく、固定ボルトを緩めて、操作ボルトを締め込むという簡単な操作で、その支持高さを回復させて異音等の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】エンジンの支持構造を示す正面図である。
【図2】エンジンの支持構造を示す平面図である。
【図3】本発明の車両用エンジンマウント構造を示し、(a)は平面図、(b)は図3 (a)におけるIIIb−IIIb線断面図、(c)は図3(a)におけるIIIc−IIIc線断面図である。
【図4】(a)は高さ調整部材を示す側面図、(b)は高さ調整部材とエンジン側部材 (ブラケット)とを示す分解斜視図である。
【図5】エンジン側部材(ブラケット)の車体に対する支持高さが低くなった状態を示す断面側面図である。
【図6】エンジン側部材(ブラケット)の車体に対する支持高さを回復する方法を示す断面側面図である。
【図7】エンジン側部材(ブラケット)の車体に対する支持高さを回復した状態を示し、(a)は平面図、(b)は図7(a)におけるVIIb−VIIb線断面図、(c)は図7(a)におけるVIIc−VIIc線断面図である。
【図8】第2実施形態の車両用エンジンマウント構造を示す側面図である。
【図9】第2実施形態におけるエンジン側部材(ブラケット)の上昇移動を説明する側面図である。
【図10】第3実施形態の車両用エンジンマウント構造を示す断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
〔第1実施形態〕
図1,図2は、横置きのFF型式の乗用車のエンジンAの支持構造を示し、エンジンAにはトルクコンバータA1とミッションケースA2とが一体に連結されている。
【0010】
エンジンAの横側部とミッションケースA2の横側部の夫々が、車体Bに固定されたエンジンマウントC,Dを介して、車体Bの一部であるサブフレームB1に支持されている。
エンジンA(トルクコンバータA1)の下部とフロントサスペンションメンバーB2とに亘ってトルクロッドB3が接続されている。
【0011】
エンジンAの横側部を支持するエンジンマウントCは、図3,図4に示すように、本発明による車両用エンジンマウント構造でエンジンAから横外側方に向けて水平に延設して固定した板状のブラケット(エンジン側部材の一例)1を防振支持している。
【0012】
エンジンマウントCは、ブラケット1が固定されるエンジン側取付金具2と、サブフレームB1に固定されるフレーム側取付金具3と、エンジン側取付金具2とフレーム側取付金具3との間に装着された防振ゴム4とを備えた防振部材で構成してある。
【0013】
エンジン側取付金具2は、防振部材(エンジンマウント)Cの上面を形成する略水平な固定面5を備えた円柱状の取付軸部2aと、防振ゴム4に埋設して接着固定された下向き円錐台状の固定軸部2bとを同芯状に備えている。
【0014】
フレーム側取付金具3は、円形の底板3aと円筒部材3bとを一体に備えた有底筒状に形成され、底板3aがサブフレームB1に固定されている。
防振ゴム4は、外周側ほど内周側よりも低くなるように傾斜する肉厚の断面形状を有していて、平面視で円形環状に形成され、その外周側が円筒部材3bの内側に接着固定され、防振ゴム4と底板3aとの間には緩衝液体4aが封入されている。
【0015】
ブラケット1と防振部材Cとの間、具体的には、ブラケット1とエンジン側取付金具2の固定面5との間には、側面視で楔状の金属製高さ調整部材6がエンジンAに近接する側に向けて摺動移動操作可能に装着され、ブラケット1を、高さ調整部材6を挟んで、防振部材Cの上面側に固定可能な固定ボルト7を設けてある。
【0016】
固定ボルト7は、ブラケット1に貫通形成した固定ボルト挿通孔8に挿通して、取付軸部2aに同芯状に形成してある固定ボルト用の雌ネジ孔9に締め込むことにより、ブラケット1を固定面5に固定している。
固定ボルト7は、固定ボルト挿通孔8の内周面に嵌合する嵌合軸部7aを備えているので、ブラケット1に対するボルト径方向の移動が確実に規制されている。
【0017】
円筒部材3bの上端部には、防振部材Cによる車体に対する支持高さが低くなったブラケット1との接当により、当該ブラケット1の下降移動を規制するストッパー面10aを備えたストッパー10を設けてある。
【0018】
ブラケット1には、高さ調整部材6をエンジンAに近接する側に向けて摺動移動操作可能な一対の操作ボルト11が螺合されている。
操作ボルト11は、高さ調整部材6に貫通形成してある操作ボルト挿通孔12に挿通されて、ブラケット1に形成した操作ボルト用の雌ネジ孔13に螺進操作自在に螺合されている。
【0019】
高さ調整部材6とブラケット1とが互いに摺動する摺動部は、操作ボルト11のねじ込み操作による高さ調整部材6の矢印fで示す摺動移動方向(エンジンAに近接する側への摺動移動方向)の上手側ほど固定面5から離間する扁平な傾斜摺動部14a,14bを、高さ調整部材6とブラケット1との夫々に形成して設けてある。
【0020】
高さ調整部材6と防振部材Cとが互いに摺動する摺動部は、操作ボルト11のねじ込み操作による高さ調整部材6の摺動移動方向fと平行な面、つまり、高さ調整部材6の下面15aと、防振部材Cの固定面5(15b)とが互いに摺動するように設けてある。
【0021】
したがって、高さ調整部材6におけるブラケット1に接触するエンジン側摺動部(傾斜摺動部)14aと、高さ調整部材6における防振部材Cに接触する防振部材側摺動部(高さ調整部材6の下面)15aとが、操作ボルト11の雌ネジ孔13に対するねじ込み操作による高さ調整部材6の摺動移動方向fの上手側ほど上下方向に互いに離間させて設けられている。
【0022】
高さ調整部材6には、高さ調整部材6の摺動移動方向fに沿って長い長孔状の固定ボルト挿通用長孔16と、左右一対の操作ボルト挿通孔12とが貫通形成されている。
操作ボルト挿通孔12は、固定ボルト7の軸芯方向に長い長孔状で水平方向に貫通形成され、固定ボルト挿通用長孔16から左右に離して配置されている。
【0023】
図3は、ブラケット1が車体に対して所定の支持高さで支持されている状態を示し、高さ調整部材6は摺動移動代を残してブラケット1と防振部材Cとの間に装着されている。
このため、固定ボルト7は、固定ボルト挿通用長孔16のエンジンAに近い側に挿通して、取付軸部2aの雌ネジ孔9に螺合させてあり、操作ボルト11は、操作ボルト挿通孔12の取付軸部2aに近い側に挿通して、ブラケット1の雌ネジ孔13に螺合させてある。
【0024】
図5は、防振ゴム4の経年変化でブラケット1の車体に対する支持高さが低くなった状態を示し、この状態から支持高さを回復させる手順を説明する。
図6に示すようにブラケット1の上昇移動を許容するように固定ボルト7を緩めた後、操作ボルト11を雌ネジ孔13に対して締め込む側に螺進させると、ブラケット1が高さ調整部材6に押し上げられて上昇移動する。
【0025】
図7に示すように、操作ボルト11を操作ボルト挿通孔12の上方側周面に接当するまで締め込むことによりブラケット1を所定高さまで上昇移動させて、固定ボルト7を締め込むことにより、ブラケット1の車体に対する支持高さが回復される。
【0026】
なお、この第1実施形態では、傾斜摺動部14a,14bが扁平な傾斜面に形成されているので、防振ゴム4の経年変化によるブラケット1の車体に対する支持高さが異なる場合でも、無段階で支持高さを回復させることができる。
【0027】
〔第2実施形態〕
図8,図9は、本発明の別実施形態を示す。
本実施形態では、高さ調整部材6とブラケット1との夫々に形成してある傾斜摺動部14a,14bに、操作ボルト11のねじ込み操作による高さ調整部材6の摺動移動に伴って、ラチェット式に互いに係止する複数の係止爪17a,17b(図9参照)を階段状に設けてある。
【0028】
したがって、第1実施形態と同様にブラケット1の上昇移動を許容するように固定ボルト7を緩めた後、操作ボルト11を雌ネジ孔13に対して締め込む側に螺進させるに伴って、図9に示すように、高さ調整部材6に形成してある係止爪17aが、ブラケット1に形成してある係止爪17bを乗り越えながら、高さ調整部材6がエンジンAに近接する側に移動して、ブラケット1が段階的に上昇移動する。
【0029】
本実施形態によれば、高さ調整部材6のエンジンAから離間する側への移動が、係止爪17a,17bどうしの係止により阻止されているので、傾斜摺動部14a,14bどうしの滑りによるブラケット1の下降移動を確実に防止することができる。
その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0030】
〔第3実施形態〕
図10は、本発明の別実施形態を示す。
本実施形態では、高さ調整部材6とブラケット1とが互いに摺動する摺動部を、操作ボルト11のねじ込み操作による高さ調整部材6の摺動移動方向fと平行な面、つまり、高さ調整部材6の上面18aと、板状のブラケット1の下面18bとが互いに摺動するように設けてある。
【0031】
また、高さ調整部材6と防振部材Cとが互いに摺動する摺動部は、操作ボルト11のねじ込み操作による高さ調整部材6の摺動移動方向(エンジンAに近接する側への摺動移動方向)fの上手側ほど高さ調整部材6の上面18aから離間する扁平な傾斜摺動部19a,19bを、高さ調整部材6の下面と防振部材Cのエンジン側取付金具2の上面(固定面5)との夫々に形成して設けてある。
【0032】
したがって、高さ調整部材6におけるブラケット1に接触するエンジン側摺動部(高さ調整部材6の上面)18aと、高さ調整部材6における防振部材Cに接触する防振部材側摺動部(高さ調整部材6の下面)19aとが、操作ボルト11の雌ネジ孔13に対するねじ込み操作による高さ調整部材6の摺動移動方向fの上手側ほど上下方向に互いに離間させて設けられている。
【0033】
高さ調整部材6には、ブラケット1の端部に対向する鍔部20を延設してあり、この鍔部20に形成した左右一対の操作ボルト挿通孔12に操作ボルト11を挿通して、ブラケット1に形成した雌ネジ孔13に螺合させてある。
【0034】
本実施形態によれば、操作ボルト11のねじ込み操作に伴って、高さ調整部材6とブラケット1とが一体に上昇移動するので、操作ボルト挿通孔12は長孔状に形成されておらず、操作ボルト挿通孔12の形成が容易になる。
その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0035】
〔その他の実施形態〕
1.本発明による車両用エンジンマウント構造は、エンジンと一体に連結されたミッションケースなどを支持するために設けられるものであってもよい。
2.本発明による車両用エンジンマウント構造は、高さ調整部材が車両前後方向に摺動移動可能に装着されていても、車両幅方向に摺動移動可能に装着されていてもよい。
3.本発明による車両用エンジンマウント構造は、高さ調整部材を摺動移動可能な単一の操作ボルトが設けられていてもよい。
4.本発明による車両用エンジンマウント構造は、エンジン側部材を、高さ調整部材を挟んで、防振部材の上面側に固定可能な複数の固定ボルトが設けられていてもよい。
5.本発明による車両用エンジンマウント構造は、操作ボルトが螺合される雌ネジ孔がエンジン側部材に貫通形成されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、乗用車や作業車などの車両用エンジンマウント構造に利用可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 エンジン側部材
6 高さ調整部材
7 固定ボルト
11 操作ボルト
12 ボルト挿通孔
13 エンジン側部材に形成した雌ネジ孔
14a,18a エンジン側摺動部
15a,19a 防振部材側摺動部
A エンジン
B 車体
C 防振部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに固定されたエンジン側部材と、車体に固定された防振部材と、前記エンジン側部材と前記防振部材との間に摺動移動可能に装着された高さ調整部材と、前記エンジン側部材を、前記高さ調整部材を挟んで、前記防振部材の上面側に固定可能な固定ボルトとを備え、
前記高さ調整部材を摺動移動可能な操作ボルトが、前記高さ調整部材に貫通形成してあるボルト挿通孔に挿通されて、前記エンジン側部材に形成した雌ネジ孔に螺進操作自在に螺合され、
前記高さ調整部材における前記エンジン側部材に接触するエンジン側摺動部と、前記高さ調整部材における前記防振部材に接触する防振部材側摺動部とが、前記操作ボルトによる前記高さ調整部材の摺動移動方向上手側ほど上下方向に互いに離間させて設けられている車両用エンジンマウント構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−153195(P2012−153195A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12190(P2011−12190)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】