説明

車両用モータ駆動装置

【課題】減速機構付きモータによって正逆に駆動されるドライブギヤと、このドライブギヤに噛み合うドリブンギヤを有する車両用モータ駆動装置において、固定ハウジング(だけ)に頼ることなく、回動端におけるドリブンギヤの変形を抑制することができる車両用モータ駆動装置を得る。
【解決手段】一対の支持部材の間に、軸方向移動を規制した状態で、ドライブギヤと一体に回転する金属製の回転プレートを設け、この回転プレートと上記一対の支持部材のいずれか一方とによって、上記ドライブギヤとの噛合部近傍においてドリブンギヤが受ける軸方向力に抗する受け構造を構成した車両用モータ駆動装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用のモータ駆動装置に関し、より詳しくは、減速機構付きモータと、このモータのドライブギヤ(ピニオン)によって駆動されるドリブンギヤを有する車両用モータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両において、この種のモータ駆動装置は、例えば、ウィンドレギュレータ、シートスライド、シートリフター等に広く用いられている。アーム式ウィンドレギュレータを例にとれば、減速機構付きモータのドライブギヤ(モータピニオン)は、ドリブンギヤに噛み合っており、該ドライブギヤを正逆に回転させることでドリブンギヤを正逆に回転させ窓ガラスを昇降させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4025473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなモータ駆動装置では、窓ガラスが上死点に達する(ドリブンギヤが回動端に達する)と、ドリブンギヤにアオリ力(軸方向力)が加わる。ドリブンギヤは、このアオリ力により変形し、最悪の場合には、ドライブギヤとの噛合が外れるおそれがある。このアオリ力に抗するためには、例えば、ドリブンギヤの表裏のドライブギヤとの噛合部近傍に、固定ハウジングの変形抑制部を対向(当接)させればよい。しかし、この構造は、固定ハウジングをドリブンギヤの近くに位置させることができれば可能であるが、固定ハウジングをドリブンギヤの近傍に配置させることが困難な場合には採用することができない。
【0005】
本発明は、以上の問題意識に基づき、減速機構付きモータによって正逆に駆動されるドライブギヤと、このドライブギヤに噛み合うドリブンギヤを有する車両用モータ駆動装置において、固定ハウジング(だけ)に頼ることなく、回動端におけるドリブンギヤの変形を抑制することができる車両用モータ駆動装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、モータ駆動されるドライブギヤと一体に回転プレートを設け、この回転プレートと、ドライブギヤを回転自在に支持する一対の支持部材の一方とによって、ドリブンギヤの変形を抑止すれば、他方の支持部材の位置に無関係にドリブンギヤの変形抑止構造を形成できるという着眼によってなされたものである。回転する回転プレートによって、回転するドリブンギヤの変形を抑制するという発想は、両者の回転方向が反対であることから、一見、異音や摩擦増加の原因になると考えられるが、ドリブンギヤに変形が発生するのは、主に該ドリブンギヤの回動端近傍であり、回動端近傍では、回転プレートの回転も僅かであるから、充分な変形抑止作用を得ることができる。
【0007】
本発明は、金属製の一対の支持部材と、該一対の支持部材の間に回転自在に軸支されたモータ駆動されるドライブギヤと、該ドライブギヤに噛み合うドリブンギヤとを有する車両用モータ駆動装置において、上記一対の支持部材の間に、軸方向移動を規制した状態で、上記ドライブギヤと一体に回転する金属製の回転プレートを設け、この回転プレートと上記一対の支持部材のいずれか一方とによって、上記ドライブギヤとの噛合部近傍においてドリブンギヤが受ける軸方向力に抗する受け構造を構成したことを特徴としている。
【0008】
ドライブギヤと回転プレートは、モータ駆動される原動ギヤによって回転駆動されるヘリカルギヤと同軸一体に設けることができ、この回転体を、上記一対の支持部材に両端を固定した回転中心軸に回転自在に支持することができる。
【0009】
受け構造は、具体的には、ドリブンギヤの表裏に位置する回転プレートと上記一方の支持部材に加え、該回転プレートとドリブンギヤとの間に配設した合成樹脂製の挟着部材を有することが好ましい。そして、一方の支持部材と挟着部材のドリブンギヤ対向面にはそれぞれ、該ドリブンギヤの歯部近傍に当接するギヤ当接凸部を形成する。
【0010】
挟着部材には、ドリブンギヤと回転プレートに当接した状態で、該回転プレートとドリブンギヤとの接触を防止するスペーサの機能を与えることができる。
【0011】
挟着部材は、例えば、ドライブギヤを回転駆動するモータを保持するモータハウジングを用いることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の車両用モータ駆動装置は、金属製の一対の支持部材の間に位置させて、ドライブギヤと一体に回転する金属製の回転プレートを設け、この回転プレートと一対の支持部材のいずれか一方とによって、ドライブギヤとの噛合部近傍においてドリブンギヤが受ける軸方向力に抗する受け構造を構成したので、固定ハウジング(一対の支持部材)だけに頼ることなく、ドリブンギヤの変形を抑制することができる。特に、回転プレートは、該回転プレートと一体のドライブギヤによって回転するドリブンギヤに接近させて配置することができるので、他方の支持部材の配置位置に自由度が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明による車両用モータ駆動装置をアーム式ウィンドレギュレータに適用した一実施形態を示す正面図である。
【図2】同分解斜視図である。
【図3】図1のIII-III線に沿う断面図である。
【図4】減速機構付きモータの一例を示す分解斜視図である。
【図5】図3の一部を拡大して示す断面図である。
【図6】図3の別の一部を拡大して示す断面図である。
【図7】ウォームとヘリカルギヤの噛合部分の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態は、本発明の車両用モータ駆動装置をXアーム式ウィンドレギュレータに適用した実施形態であり、図1は、同ウィンドレギュレータの車両への装着状態を示している。車両ドアの金属製のインナパネル(取付パネル)10には、モータ駆動装置20と水平方向のイコライザアームブラケット11が固定されている。昇降窓ガラス12の下端部には、水平方向のリフトアームブラケット13が固定されており、このリフトアームブラケット13とイコライザアームブラケット11にそれぞれ、イコライザアーム14の上下端部に設けたローラ(転動体、図示せず)が移動自在に嵌まっている。イコライザアーム14には、軸15でリフトアーム16が枢着されており、リフトアーム16の上端部に設けたローラ(転動体、図示せず)が同様に、リフトアームブラケット13に移動自在に嵌まっている。
【0015】
リフトアーム16は、モータ駆動装置20上の回動軸21を中心に回動自在に支持されており、その下端部に、回動軸21を中心とするセクタギヤ17aを有するドリブンギヤ(セクタギヤ部材、回転部材)17が固定されている。セクタギヤ17aは、減速機構付きモータ30のドライブギヤ(ピニオン)31(図2ないし図4)に噛み合っており、ドライブギヤ31が正逆に回転すると、リフトアーム16(ドリブンギヤ17)が回動軸21を中心に正逆に回動し、昇降ガラス12が昇降する。以上のXアーム式ウィンドレギュレータの基本構造(動作)は周知である。
【0016】
モータ駆動装置20は、ドリブンギヤ17に固定されたリフトアーム16、減速機構付きモータ30、ベースプレート(支持部材)40及び取付脚部材50を有し、インナパネル10上に支持される前において、一次的に組み立てられる(サブアッシとされる)。図2は、減速機構付きモータ30、リフトアーム16(ドリブンギヤ17)、ベースプレート40及び取付脚部材50を分解状態で示し、図3は組付後の状態を断面で示している。
【0017】
ドライブギヤ31を有する減速機構付きモータ30は、図4に示すように、合成樹脂材料からなるハウジング32(アッパハウジング32aとロアハウジング32b)内に、金属製のモータホルダ(支持部材)36が位置しており、このモータホルダ36に、一対のモータ37が支持されている。この一対のモータ37は、単一のウォーム(ウォームギヤ、原動ギヤ)39を同一の方向に回転させるように結合されている。また、モータホルダ36には、一対の固定ボルト33と、金属製の回転中心軸部材34が一体に結合されている。この回転中心軸部材34には、金属製のドライブギヤ31と合成樹脂製のヘリカルギヤ38が回転自在に支持されており、ヘリカルギヤ38には一対のモータ37によって回転駆動されるウォーム39が噛み合っている。
【0018】
ドライブギヤ31は、中心部の金属製のギヤ部材31aと、このギヤ部材31aにセレーション31a’と31b’ によって同軸に結合した金属製の回転プレート(ピニオンプレート)31bとを有している。ヘリカルギヤ38には、周方向に間隔をおいて複数の嵌合穴38aが形成されており、回転プレート31bには、これらの複数の嵌合穴38aに遊びなく嵌まる複数の嵌合突起31cが形成されていて、同ドライブギヤ31とヘリカルギヤ38が相対回転不能に結合されている。このドライブギヤ31(ギヤプレート31aと回転プレート31b)は、モータホルダ36とベースプレート40の間において軸方向移動が規制されている。
【0019】
細長い金属板部材のプレス加工品からなるベースプレート40は、その一端部に、減速機構付きモータ30の固定ボルト33を固定する一対の固定穴41を有し、他端部に、リフトアーム16の円形貫通穴16aから突出する円形突出部42を有し、中間部分に、回転中心軸部材34に対応する固定穴43を有している。固定ボルト33には、ベースプレート40からの突出部に固定ナット44が螺合され、回転中心軸部材34には、ベースプレート40からの突出部の固定ねじ部34aに固定ナット45が螺合されて、ベースプレート40と減速機構付きモータ30が結合されている。
【0020】
ベースプレート40とは別部材からなる金属製の取付脚部材50は、ベースプレート40の円形突出部42に溶接固定される円形部51を備えている。すなわち、ベースプレート40の円形突出部42は、リフトアーム16の円形貫通穴16aから突出しており、この円形突出部42に円形部51が溶接固定されている。円形突出部42、円形部51および円形貫通穴16aは、リフトアーム16の回動軸21を構成する。取付脚部材50には、円形部51の両側に位置する一対の固定座52が設けられている。
【0021】
モータホルダ36のヘリカルギヤ対向面(図3、図5の上面)には、ヘリカルギヤ38の周縁部(歯部38b(ウォーム39との噛合部)の内周部)に対応する直線状のギヤ当接凸部36aが突出形成されている。すなわち、このギヤ当接凸部36aは、ヘリカルギヤ38のウォーム39との噛合部近傍において、その周縁部を横切る直線状をなしていて、噛合部に当接する(図7参照)。
【0022】
一方、アッパハウジング32aのヘリカルギヤ対向面(図3、図5の下面)には、同様に、ヘリカルギヤ38の周縁部(歯部38b(ウォーム39との噛合部)の内周部)に対応する円弧状のギヤ当接凸部32cが突出形成され(図7参照)、ベースプレート対向面(図の上面)には、ベースプレート40に当接するスラスト力受け突起32dが突出形成されている(図1、図7参照)。
【0023】
スラスト力受け突起32dは、平面的に見た輪郭内に、ウォーム39とヘリカルギヤ38の噛合部の少なくとも一部を含む円柱状または円筒状をなしている。
【0024】
ベースプレート40には、図3、図6に示すように、ドリブンギヤ17の周縁部(ギヤ17aの内周側の表面(図の上面))に円弧状に接触する円弧状のギヤ当接凸部40aが形成されている。一方、アッパハウジング(挟着部材)32aは、互いに反対方向に回転するドリブンギヤ17と回転プレート31bの間に位置していて、両者の機械的接触を防ぐと同時に、ドリブンギヤ17の変形を防止する作用をする。すなわち、アッパハウジング32aには、ドリブンギヤ17の周縁部(ギヤ17aの内周側の裏面(図の下面))に円弧状に接触する円弧状のギヤ当接凸部32eと、回転プレート31bの表面(図の上面)に接触する円弧状のスペーサ突起32fが形成されている。
【0025】
以上のモータ駆動装置20は、インナパネル10上に固定される。すなわち、取付脚部材50の一対の固定座52をインナパネル10の一対の取付座10aに固定ボルトナット53、54(図2、図3)を介して固定し、減速機構付きモータ30の取付ボルト(取付軸)35(図3)を固定ナット46によりインナパネル10の別の取付座10bに固定する。取付ボルト35は、回転中心軸部材34と同一の軸部材であり、減速機構付きモータ30のハウジング内に固定された金属製のモータホルダ36(図3、図4)に植設(圧入固定)されていて、互いに反対方向に突出している。
【0026】
図6は、ドライブギヤ31と噛み合うドリブンギヤ17回りの構成を拡大して示している。ドライブギヤ31と噛み合うドリブンギヤ17は、上述のように、ベースプレート40とアッパハウジング32aの間に位置している。本実施形態は、このドリブンギヤ17の変形を防止するために、ベースプレート40(ドライブギヤ31を回転自在に支持する一対の支持部材40と36の一方)と回転プレート31bを利用してスラスト力受け構造を構成している。ベースプレート40には、ドリブンギヤ17の周縁部(歯部17bの内周側の表面(図の上面))に円弧状に接触するギヤ当接凸部40aが形成されている。一方、アッパハウジング(挟着部材)32aは、互いに反対方向に回転するドリブンギヤ17と回転プレート31bの間に位置していて、両者の機械的接触を防ぐと同時に、ドリブンギヤ17の変形を防止する作用をする。すなわち、アッパハウジング32aには、ドリブンギヤ17の周縁部(歯部17bの内周側の裏面(図の下面))に円弧状に接触するギヤ当接凸部32eと、回転プレート31bの表面(図の上面)に接触する円弧状のスペーサ突起32fが形成されている。ギヤ当接凸部40aと32eは、円弧状とする他、ドリブンギヤ17の周縁部を横切る直線状に形成してもよい。
【0027】
このように、回転プレート31bとベースプレート40(一対の支持部材40、36のいずれか一方)とによって、ドライブギヤ31との噛合部近傍においてドリブンギヤ17が受ける軸方向力に抗するスラスト力受け構造を構成しているため、ドリブンギヤ17とモータホルダ(他方の支持部材)36が離れていてもスラスト力受け構造を構成できる。ドリブンギヤ17と回転プレート31bは互いに反対方向に回転する部材であるが、ドリブンギヤ委17にアオリが発生するのは、同ギヤ部材17の回動端近傍であり、回転プレート31bもまた殆ど回転していないから、充分に変形を抑止することができる。また、アッパハウジング(挟着部材)32aは、回転プレート31aとドリブンギヤ17との接触を防止するスペーサの機能を有するため、金属どうしの機械的な接触を防止して異音の発生を防止することができる。
【0028】
以上の実施形態は、本発明の車両用モータ駆動装置をアーム式ウィンドレギュレータに適用したものであるが、本発明は、金属製の一対の支持部材と、一対の支持部材の間に回転自在に支持されたモータ駆動されるドライブギヤと、ドライブギヤに噛み合うドリブンギヤとを有する車両用モータ駆動装置であれば、シートスライド、シートリフター等にも適用可能である。
【符号の説明】
【0029】
10 インナパネル(取付パネル)
10a 10b 取付座
11 イコライザアームブラケット
12 昇降ガラス
13 リフトアームブラケット
14 イコライザアーム
15 軸
16 リフトアーム
16a 円形貫通穴
17 ドリブンギヤ(回転部材、ドリブンギヤ)
17a セクタギヤ
17b 歯部
20 モータ駆動装置
21 回動軸
30 減速機構付きモータ
31 ドライブギヤ(ピニオン)
31a ギヤ部材
31b 回転プレート(ピニオンプレート)
31c 嵌合突起
32 ハウジング
32c ギヤ当接凸部
32d スラスト力受け突起
32e ギヤ当接凸部
32f スペーサ突起
33 固定ボルト
34 回転中心軸部材
35 取付ボルト(取付軸)
36 モータホルダ
36a ギヤ当接凸部
37 モータ
38 ヘリカルギヤ
38a 嵌合穴
38b 歯部
39 ウォーム(ウォームギヤ、原動ギヤ)
40 ベースプレート
41 固定穴
42 円形部
43 固定穴
50 取付脚部材
51 円形突起
52 固定座

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の一対の支持部材;
該一対の支持部材の間に回転自在に軸支されたモータ駆動されるドライブギヤ;及び
該ドライブギヤに噛み合うドリブンギヤ;
を有する車両用モータ駆動装置において、
上記一対の支持部材の間に、軸方向移動を規制した状態で、上記ドライブギヤと一体に回転する金属製の回転プレートを設け、
この回転プレートと上記一対の支持部材のいずれか一方とによって、上記ドライブギヤとの噛合部近傍においてドリブンギヤが受ける軸方向力に抗する受け構造を構成したことを特徴とする車両用モータ駆動装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両用モータ駆動装置において、ドライブギヤと回転プレートは、モータ駆動される原動ギヤによって回転駆動されるヘリカルギヤと同軸一体に設けられ、上記一対の支持部材に両端を固定した回転中心軸に回転自在に支持されている車両用モータ駆動装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の車両用モータ駆動装置において、上記受け構造は、上記回転プレートと上記一方の支持部材に加え、該回転プレートとドリブンギヤとの間に配設した合成樹脂製の挟着部材を有し、
上記一方の支持部材と挟着部材のドリブンギヤ対向面にはそれぞれ、該ドリブンギヤの周縁部に当接するギヤ当接凸部が形成されている車両用モータ駆動装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項記載の車両用モータ駆動装置を有する車両用ウィンドレギュレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−226561(P2011−226561A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−97046(P2010−97046)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(590001164)シロキ工業株式会社 (610)
【Fターム(参考)】