説明

車両用制御装置

【課題】車輪のキャンバ角を調整するキャンバ角調整装置を備えた車両に用いられる車両用制御装置に関し、キャンバ角の変更に伴う車両の挙動特性の変化を報知し得る車両用制御装置を提供する。
【解決手段】車両用制御装置100は、車両の状態に応じてキャンバ角調整装置44を制御し、車両の後輪のキャンバ角を調整する。車両用制御装置100は、ヨーレートセンサ装置81で検出されたヨーレートYを、ステアリングセンサ装置63Aで検出されたステア角Sで除算し、単位ヨーレートゲインを算出する。車両用制御装置100は、算出対象期間TP内の単位ヨーレートゲインに基づく期間内平均値を算出し、右操舵時及び左操舵時の期間内平均値を平均し表示用ヨーレートゲインを算出する。車両用制御装置100は、ヨーレートゲインモニタ画面85に表示することで、第1キャンバ状態及び第2キャンバ状態の表示用ヨーレートゲインの差を報知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪のキャンバ角を調整するキャンバ角調整装置を備えた車両に用いられる車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用制御装置は、キャンバ角調整装置を備えた車両に搭載され、当該車両における車輪のキャンバ角を調整している。このような車両用制御装置は、車輪のキャンバ角を調整することにより、当該車両の走行安定性を確保する。
【0003】
このような車両用制御装置に関する発明として、特許文献1記載の発明が知られている。当該特許文献1において、車両用制御装置は、車両の走行速度に応じて、当該車両に配設された車輪のキャンバ角を変更する。具体的には、当該特許文献1記載の車両用制御装置は、車速センサにより車両の走行速度を検出し、所定の走行速度を超えると、車輪のキャンバ角を負側に設定し、ネガティブキャンバを付与する。更に、当該車両用制御装置は、車両の走行速度が高いほど、車輪のキャンバ角を負側に大きく設定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−193781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1記載の車両用制御装置のように車輪のキャンバ角を変更すると、車両の挙動特性(例えば、アンダーステア特性、オーバーステア特性)は、当該キャンバ角に伴い変化する。この車両の挙動特性の変化は、車両1に乗車している者(例えば、運転者等)の感覚によって把握される。ここで、挙動特性の変化を感じる感覚の鋭敏性は人によって相違するため、実際に挙動特性が変化した場合であっても、当該挙動特性の変化を把握しえない者も存在する。
【0006】
本発明は、車輪のキャンバ角を調整するキャンバ角調整装置を備えた車両に用いられる車両用制御装置に関し、キャンバ角の変更に伴う車両の挙動特性の変化を報知し得る車両用制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に係る車両用制御装置は、車輪と前記車輪のキャンバ角を調整するキャンバ角調整装置と、を備えた車両に用いられる車両用制御装置であって、車両の状態に基づく付与基準に応じて、前記キャンバ角調整装置により、前記車輪のキャンバ角を第1角度に調整した状態と、前記車輪のキャンバ角を、前記第1角度と異なる第2角度に調整した状態と、に調整するキャンバ角調整手段と、車両移動時における車両の操舵角を取得する操舵角検出手段と、車両移動時における車両のヨーレートを取得するヨーレート検出手段と、前記ヨーレート検出手段により取得されたヨーレートを、前記操舵角検出手段によって、当該ヨーレートと同時期に取得された操舵角で除算した指標値を算出する指標値算出手段と、前記車両のキャンバ角が前記第1角度に調整されている状態について前記指標値算出手段により算出された指標値と、前記車両のキャンバ角が前記第2角度に調整されている状態について前記指標値算出手段により算出された指標値との差を表示する表示手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
そして、請求項2記載の車両用制御装置は、請求項1記載の車両用制御装置であって、前記操舵角検出手段により取得された操舵角の変化量が0を示す算出基準時に基づく算出対象時期を特定する対象時期特定手段と、を備え、前記指標値算出手段は、前記対象時期特定手段により特定された算出対象時期において、前記ヨーレート検出手段により検出されたヨーレートを、前記算出対象時期において前記操舵角検出手段により検出された操舵角で除算した指標値を算出することを特徴とする。
【0009】
又、請求項3記載の車両用制御装置は、請求項2記載の車両用制御装置であって、前記対象時期特定手段は、前記算出基準時を含み、前記操舵角検出手段により取得された操舵角の変化量の絶対値が所定値以下である期間を、前記算出対象時期に特定することを特徴とする。
【0010】
そして、請求項4記載の車両用制御装置は、請求項1乃至請求項3の何れかに記載の車両用制御装置であって、前記指標値算出手段は、車両直進移動における操舵角を示す基準角を基準として、所定の第1方向に操舵した場合の操舵角により、当該第1方向に操舵した場合におけるヨーレートを除算した第1算出結果と、前記基準角を基準として、前記第1方向と逆向きの第2方向に操舵した場合の操舵角により、当該第2方向に操舵した場合におけるヨーレートを除算した第2算出結果と、を平均することにより、前記指標値を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の車両用制御装置は、車輪と、キャンバ角調整装置と、を備えた車両に用いられ、キャンバ角調整手段と、操舵角検出手段と、ヨーレート検出手段と、指標値算出手段と、表示手段と、を有している。当該車両用制御装置は、キャンバ角調整手段でキャンバ角調整装置を制御することによって車輪のキャンバ角を、第1角度と第2角度の何れかに調整し得る。又、当該車両用制御装置は、指標値算出手段によって、ヨーレート検出手段で取得されたヨーレートを、操舵角検出手段により取得された操舵角で除算して、指標値を算出し得る。この指標値は、操舵角の操作に対する車両のヨーレートの変化を示し、車両の挙動特性(アンダーステア、オーバーステア特性の程度)を示す。従って、当該指標値は、車輪のキャンバ角が第1角度であるか第2角度であるかに応じて異なる値を示す。そして、当該車両用制御装置は、表示手段により、車輪のキャンバ角が第1角度に調整されている場合の指標値と、前記車両のキャンバ角が第2角度に調整されている場合の指標値の差を表示する。従って、当該車両用制御装置は、表示手段の表示により、自己の感覚で挙動特性の変化を感知しえない者に対しても、キャンバ角の調整に伴う車両の挙動特性の変化を報知し得る。
【0012】
請求項2記載の車両用制御装置は、対象時期特定手段により、算出基準時に基づく算出対象時期を特定する。そして、当該車両用制御装置は、指標値算出手段により、当該算出対象時期におけるヨーレートと、当該算出対象時期における操舵角に基づいて、指標値を算出し得る。ここで、算出基準時は、操舵角の変化量が0を示す時点を意味する。従って、算出対象時期において、操舵角は一定の値を示し、ヨーレートの値も大きく変動することはない。従って、当該車両用制御装置は、特異な操作が行われた場合の値(例えば、急ハンドル時の値等)の影響を受けず、車両自体の挙動特性を示す指標値を算出し得る。この結果、当該車両用制御装置は、表示手段により、キャンバ角の調整に起因する車両自体の挙動特性の変化を報知し得る。
【0013】
請求項3記載の車両用制御装置は、算出基準時を含み、操舵角の変化量の絶対値が所定値以下である期間を、前記算出対象時期に特定する。これにより、算出対象時期における操舵角は、確実に略一定の値を示し、ヨーレートも略一定の値を示す。従って、当該車両用制御装置は、急ハンドル等に伴う特異な値を指標値の算出に用いることはない。即ち、当該車両用制御装置は、確実に、キャンバ角の調整に伴う車両自体の挙動特性を示す指標値を算出し得る。この結果、当該車両用制御装置は、表示手段により、高い精度をもった指標値に基づいて、キャンバ角の調整に起因する車両自体の挙動特性の変化を報知し得る。
【0014】
請求項4記載の車両用制御装置は、第1方向に操舵した場合における第1算出結果と、第2方向に操舵した場合における第2算出結果を平均することで指標値を算出する。一般に、運転者は、車両の運転(例えば、操舵等)に関して、当該運転者固有の癖を有している。当該車両用制御装置は、第1算出結果と、第2算出結果とを平均することにより、運転者固有の癖の影響を緩和することができる。即ち、当該車両用制御装置は、表示手段の表示に用いられる指標値に関し、運転者固有の癖の影響を緩和することができ、より確実に、車両自体の挙動特性を示す指標値を算出することができる。この結果、当該車両用制御装置は、表示手段により、運転者の癖等の影響を緩和した指標値に基づいて、キャンバ角の調整に起因する車両自体の挙動特性の変化を報知し得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係る車両用制御装置が搭載される車両を示す模式図である。
【図2】本実施形態に係る懸架装置の正面図である。
【図3】本実施形態に係る車両用制御装置の制御系を示すブロック図である。
【図4】本実施形態に係る車両用制御装置のメイン制御プログラムを示すフローチャートである。
【図5】本実施形態に係る操作状態判断処理プログラムのフローチャートである。
【図6】本実施形態に係る車両状態判断処理プログラムのフローチャートである。
【図7】本実施形態に係る安定状態判断処理プログラムのフローチャートである。
【図8】本実施形態に係るヨーレートゲインモニタ表示処理プログラムのフローチャートである。
【図9】本実施形態におけるステア角、ヨーレート、ヨーレートゲイン等の経時的な変化を示す説明図である。
【図10】本実施形態に係るヨーレートゲインモニタの表示例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る車両用制御装置を、車両1に搭載された車両用制御装置100に具体化した一実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。尚、以下の説明において参照する図面において、矢印U−Dは、車両1の上下方向を示し、矢印L−Rは車両1の左右方向、矢印F−Bは車両1の前後方向を示す。
【0017】
先ず、本実施形態に係る車両1の概略構成について、図1を参照しつつ詳細に説明する。図1に示すように、車両1は、車体フレームBFを備え、当該車体フレームBFには、複数(本実施形態では4輪)の車輪2が配設されている。又、車両1は、車輪駆動装置3と、懸架装置4と、操舵装置5と、を備えている。車輪駆動装置3は、車輪2の一部(後述する左前輪2FL、右前輪2FR)を回転駆動する。懸架装置4は、各車輪2を車体フレームBFに懸架する。懸架装置4の詳細については、図面を参照しつつ詳細に説明する。そして、操舵装置5は、車輪2の内の一部(後述する左前輪2FL、右前輪2FR)を操舵する。
【0018】
図1に示すように、車輪2は、左前輪2FL、右前輪2FR、左後輪2RL、右後輪2RRを含む。左前輪2FL、右前輪2FRは、車両1の前方側(矢印F方向側)の左右に位置する。左後輪2RL、右後輪2RRは、車両1の後方側(矢印B方向側)の左右に位置する。
【0019】
尚、本実施形態においては、左前輪2FL及び右前輪2FRは、車輪駆動装置3により回転駆動される駆動輪として構成される。そして、左後輪2RL及び右後輪2RRは、車両1の走行に伴って従動される従動輪として構成される。更に、図1に示すように、本実施形態における車輪2は、左前輪2FL、右前輪2FR、左後輪2RL、右後輪2RRが全て同じ形状および特性に構成されている。又、各車輪2におけるトレッド幅(図1左右方向の寸法)も同一の幅に構成されている。
【0020】
上述したように、車輪駆動装置3は、左前輪2FL、右前輪2FRを回転駆動するための装置である。後述するように、車輪駆動装置3は、電動モータ3Aにより構成される(図3参照)。当該電動モータ3Aは、デファレンシャルギヤ(図示せず)及び一対のドライブシャフト31を介して、左前輪2FL、右前輪2FRに夫々接続されている(図1参照)。
【0021】
運転者がアクセルペダル61を操作した場合、車輪駆動装置3は、左前輪2FL、右前輪2FRに対して、回転駆動力を付与する。これにより、左前輪2FL、右前輪2FRは、アクセルペダル61の操作量に応じて回転駆動する。尚、左前輪2FLと右前輪2FRの回転差は、デファレンシャルギヤにより吸収される。
【0022】
そして、懸架装置4は、所謂、サスペンションとして機能し、路面から車輪2を介して車体フレームBFに伝わる振動を緩和する。各懸架装置4は、夫々、伸縮可能に構成されており、各車輪2に対応して配設されている(図1参照)。又、本実施形態においては、左後輪2RL及び右後輪2RRに配設された懸架装置4は、左後輪2RL、右後輪2RRのキャンバ角を調整するキャンバ角調整機構として機能する。尚、懸架装置4の具体的構成については、後に図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0023】
操舵装置5は、所謂、ラック&ピニオン式のステアリングギヤとして構成されている。当該操舵装置5は、運転者によるステアリング63の操作を、左前輪2FL、右前輪2FRに伝えて操舵する。
【0024】
当該操舵装置5において、運転者によるステアリング63の操作(回転)は、まず、ステアリングコラム51を介してユニバーサルジョイント52に伝達される。その後、ステアリング63の操作は、ユニバーサルジョイント52により角度を変えられつつ、ステアリングボックス53のピニオン53Aに回転運動として伝達される。そして、ピニオン53Aに伝達された回転運動は、ラック53Bの直線運動に変換される。ここで、ラック53Bの両端には、タイロッド54が接続されている。従って、タイロッド54は、ラック53Bの直線運動に伴って移動し、ナックル55を押し引きする。従って、車両1は、右前輪2FR及び左前輪2FLに対して、ステアリング63の操作に応じた所定の舵角を付与し得る。
【0025】
そして、車両1は、アクセルペダル61、ブレーキペダル62、ステアリング63を有している。アクセルペダル61、ブレーキペダル62、ステアリング63は、運転者により操作される操作部材である。アクセルペダル61、ブレーキペダル62は、当該アクセルペダル61、ブレーキペダル62の操作状態(踏み込み量、踏み込み速度等)に応じて、車両1の走行速度や制動力等を決定する。そして、車輪駆動装置3は、アクセルペダル61等の操作状態により決定された走行速度等に応じて駆動制御される。ステアリング63は、当該ステアリング63の操作状態(ステア角、ステア角速度等)に応じて、車両1の操舵角等を決定する。操舵装置5は、ステアリング63の操作状態に応じて、左前輪2FL、右前輪2FRを操舵する。
【0026】
車両用制御装置100は、上述したように構成される車両1の各部を制御するための装置であり、例えば、アクセルペダル61、ブレーキペダル62やステアリング63の操作状態に応じてキャンバ角調整装置44(図3参照)を作動制御する。
【0027】
続いて、本実施形態に係る懸架装置4の構成について、図面を参照しつつ詳細に説明する。上述したように、左後輪2RL及び右後輪2RRに対応する懸架装置4は、サスペンションとして機能すると共に、キャンバ角調整機構としても機能する。一方、左前輪2FL及び右前輪2FRに対応する懸架装置4は、サスペンションとしてのみ機能する。
【0028】
ここで、懸架装置4において、サスペンションとして機能する構成については、周知の構成と同様であるので、その説明を省略し、キャンバ角調整機構として機能する構成のみについて説明する。即ち、左後輪2RL及び右後輪2RRに係る懸架装置4の構成について、右後輪2RRに対応する懸架装置4を例示して説明する。尚、左後輪2RLに対応する懸架装置4は、右後輪2RRの懸架装置と同様の構成である。
【0029】
図2は、車両1前方側から後方側を見た場合の右後輪2RRに対応する懸架装置4を示している。図2に示すように、懸架装置4は、ナックル43と、右後輪モータ44RRと、ウォームホイール45及びアーム46と、可動プレート47とを有している。ナックル43は、ストラット41及びロアアーム42を介して車体フレームBFに支持されている。右後輪モータ44RRは、右後輪2RRのキャンバ角の調整に要する駆動力を発生する。ウォームホイール45及びアーム46は、右後輪モータ44RRに生じた駆動力を伝達する。可動プレート47は、ナックル43に対して揺動可能に取り付けられており、ウォームホイール45及びアーム46から伝達された右後輪モータ44RRの駆動力により、揺動駆動される。
【0030】
ナックル43は、車輪2を操舵可能に支持している。図2に示すように、ナックル43の上端(図2中、上側)は、ストラット41と連結されており、ナックル43の下端(図2中、下側)は、ボールジョイントを介して、ロアアーム42と連結されている。
【0031】
右後輪モータ44RRは、DCモータにより構成され、可動プレート47を揺動駆動するための駆動力を付与する。当該右後輪モータ44RRの出力軸44Aにはウォーム(図示せず)が形成されている。
【0032】
ウォームホイール45は、右後輪モータ44RRの出力軸44Aに形成されたウォームと噛み合い、当該ウォームと共に食い違い軸歯車対を構成している。当該ウォームホイール45は、右後輪モータ44RRの駆動力をアーム46に伝達する。
【0033】
アーム46は、ウォームホイール45から伝達される右後輪モータ44RRの駆動力を可動プレート47に伝達する。図2に示すように、当該アーム46の一端(図2中、右側)は、第1連結軸48を介して、ウォームホイール45の回転軸45Aから偏心した位置に連結されている。一方、当該アーム46の他端(図2中、左側)は、第2連結軸49を介して、可動プレート47の上端に連結されている。
【0034】
可動プレート47は、車輪2を回転可能に支持する。上述したように、可動プレート47の上端(図2中、上側)は、アーム46に連結されており、可動プレート47の下端(図2中、下側)は、キャンバ軸50を介して、ナックル43に揺動可能に軸支されている。
【0035】
当該懸架装置4において、ウォームホイール45は、右後輪モータ44RRの駆動に伴って回転する。そして、ウォームホイール45の回転運動は、アーム46の直線運動に変換される。アーム46が直線運動することにより、可動プレート47は、キャンバ軸50を揺動軸として揺動駆動する。この結果、右後輪2RRのキャンバ角は、右後輪モータ44RRの駆動に伴って、所望の角度に調整される。
【0036】
本実施形態においては、右後輪2RRの懸架装置4は、ウォームホイール45を回転させ、第1連結軸48、第2連結軸49及びウォームホイール45の回転軸45Aの位置関係を変更することで、右後輪2RRのキャンバ角を所定の状態(第1キャンバ状態及び第2キャンバ状態)に調整し得る。
【0037】
第1キャンバ状態は、車体フレームBFから車輪2に向かう方向(矢印R方向)に向かって、第1連結軸48、回転軸45A、第2連結軸49の順に一直線上に並んで位置する状態をいう。当該第1キャンバ状態では、車輪2(例えば、右後輪2RR)のキャンバ角は、マイナス方向の所定の角度(本実施形態では−4.5°)に調整される。ここで、第1キャンバ状態におけるキャンバ角を「第1キャンバ角」といい、第1キャンバ状態を「キャンバがオン」という。
【0038】
そして、第2キャンバ状態は、車両1が通常状態(即ち、通常走行時)にある場合の車輪2に対するキャンバ付与の状態をいう。本実施形態において、第2キャンバ状態は、車体フレームBFから車輪2に向かう方向(矢印R方向)に向かって、回転軸45A、第1連結軸48、第2連結軸49の順に略一直線上に並んで位置する状態をいう。この場合、図2に示すように、車輪2(例えば、右後輪2RR)のキャンバ角は、0°に調整される。即ち、第1キャンバ状態は、第2キャンバ状態に対して、マイナス方向に所定角度のキャンバ(即ち、ネガティブキャンバ)が付与された状態となる。ここで、第2キャンバ状態におけるキャンバ角を「第2キャンバ角」といい、第2キャンバ状態を「キャンバがオフ」という。
【0039】
この点、本実施形態においては、第2キャンバ角を0°としていたが、この態様に限定されるものではない。即ち、車両1が通常状態にある場合に、第1キャンバ角よりも小さなキャンバ角で、ネガティブキャンバが付与されていれば、この状態が第2キャンバ状態に相当し、この時のキャンバ角が第2キャンバ角となることはもちろんである。
【0040】
尚、本実施形態に係る車両1において、左後輪2RLに係る懸架装置4は、右後輪モータ44RRが左後輪モータ44RLである点、左後輪2RLのキャンバ角を調整する点を除き、上述した右後輪2RRに係る懸架装置4と同様の構成である。従って、当該車両1は、右後輪2RR及び左後輪2RLの懸架装置4を制御することで、右後輪2RR及び左後輪2RLを、第1キャンバ状態及び第2キャンバ状態に調整し得る。即ち、当該車両1は、後輪(即ち、右後輪2RR、左後輪2RL)に対して、ネガティブキャンバを付与し得る。
【0041】
次に、車両1に搭載される車両用制御装置100について、図面を参照しつつ詳細に説明する。図3に示すように、車両用制御装置100は、CPU71、ROM72及びRAM73を備えている。CPU71、ROM72、RAM73は、バスライン74を介して、入出力ポート75に接続されている。また、入出力ポート75は、各種周辺装置(例えば、車輪駆動装置3、キャンバ角調整装置44等)と接続されている。
【0042】
CPU71は、車両用制御装置100による制御の中枢を担う中央演算処理装置である。当該CPU71は、ROM72に格納されている制御プログラム(例えば、図4〜図8参照)を実行することにより、バスライン74等を介して接続された各種周辺装置を制御する。
【0043】
ROM72は、制御プログラム(例えば、図4〜図8参照)や固定値データ等を記憶する書き換え不能な不揮発性のメモリである。又、ROM72は、限界キャンバ付与基準データ72A、安定キャンバ付与基準データ72Bを記憶している。
【0044】
限界キャンバ付与基準データ72Aは、左後輪2RL、右後輪2RRに対して、後述する限界キャンバを付与するか否かを決定する際の基準を示す。当該限界キャンバ付与基準データ72Aは、後述する各種センサ(例えば、アクセルペダルセンサ装置61Aやヨーレートセンサ装置81)の数値により構成され、走行する車両1が挙動限界にあることを意味する。当該限界キャンバ付与基準データ72Aは、アクセルペダルセンサ装置61A、ブレーキペダルセンサ装置62A、ステアリングセンサ装置63A、ヨーレートセンサ装置81の値に係る基準値を含んでいる。尚、本実施形態において、限界キャンバは、車両1の挙動限界における走行安定性を高めるためのキャンバを意味する。
【0045】
安定キャンバ付与基準データ72Bは、左後輪2RL、右後輪2RRに対して、後述する安定キャンバを付与するか否かを決定する際の基準を示す。当該安定キャンバ付与基準データ72Bは、車両1の走行速度、各種センサ(例えば、ステアリングセンサ装置63A等)の数値により構成され、当該車両1が所定速度以上で略直進している状態であることを意味する。尚、本実施形態において、安定キャンバは、車両1が所定速度以上で略直進している場合における快適性を高めるためのキャンバを意味する。
【0046】
そして、安定キャンバ付与基準データ72Bは、車両1の走行速度、ステアリング63の操作量を、基準として含んでいる。当該安定キャンバ付与基準データ72Bは、後述する安定状態判断処理(S7)において、安定キャンバを付与するか否かを判断する際に参照される。
【0047】
そして、RAM73は、書き換え可能なメモリであり、制御プログラムの実行時に各種演算結果を一時的に記憶する。又、RAM73は、ヨーレートセンサ装置81により検出されたヨーレート、ステアリングセンサ装置63Aにより検出されたステア角等を、所定期間分随時記憶している(図7参照)。更に、RAM73は、後述するヨーレートゲインモニタ表示処理プログラム(図8参照)に基づく演算結果を格納する。
【0048】
更に、当該RAM73には、キャンバフラグ73A、操作状態フラグ73B、車両状態フラグ73C、安定状態フラグ73Dが設けられている。これらの各フラグは、後述する制御プログラムを実行する際に適宜参照される。キャンバフラグ73Aは、車輪2(左後輪2RL及び右後輪2RR)が第1キャンバ状態にあるか否かを示すフラグである。キャンバフラグ73Aがセットされている場合に、CPU71は、後輪(左後輪2RL及び右後輪2RR)のキャンバ角が第1キャンバ角に調整され、ネガティブキャンバが付与された状態(即ち、キャンバがオンの状態)にすべき指示がなされていると判断する。
【0049】
操作状態フラグ73Bは、車両1に対する操作が所定の条件を満たすか否かを示すフラグであり、後述する操作状態判断処理(図5参照)の実行時に切り替えられる。尚、操作状態フラグ73Bは、アクセルペダル61、ブレーキペダル62及びステアリング63の操作量の内の少なくとも一の操作量が所定の操作量以上である場合にセットされる。
【0050】
車両状態フラグ73Cは、走行中における車両1の状態が挙動限界にあるか否かを示すフラグであり、後述する車両状態判断処理(図6参照)の実行時に切り替えられる。尚、車両状態フラグ73Cは、ヨーレートが所定の基準値以上である場合にセットされる。
【0051】
安定状態フラグ73Dは、車両1の走行状態が所定の直進状態であるか否かを示すフラグであり、後述する安定状態判断処理(図7参照)の実行時に切り替えられる。安定状態フラグ73Dは、車両1の走行速度が所定の走行速度以上であり、且つ、ステアリング63の操作量が所定の操作量以下である場合にセットされる。
【0052】
車輪駆動装置3は、入出力ポート75に接続されており、左前輪2FL、右前輪2FR(図1参照)を回転駆動する。当該車輪駆動装置3は、電動モータ3Aと、駆動制御回路(図示せず)とを有している。電動モータ3Aは、左前輪2FL、右前輪2FRに回転駆動力を付与する駆動源である。駆動制御回路は、CPU71からの指示に基づいて、電動モータ3Aを駆動制御する。
【0053】
尚、本発明に係る車輪駆動装置3の駆動源は、電動モータ3Aに限定されるものではなく、他の駆動源を採用することも可能である。例えば、他の駆動源として、油圧モータやエンジン等を用いることも可能である。
【0054】
キャンバ角調整装置44は、入出力ポート75に接続されており、車輪2(左後輪2RL及び右後輪2RR)のキャンバ角を調整する。キャンバ角調整装置44は、左後輪モータ44RL、右後輪モータ44RR、駆動制御回路(図示せず)を有している。上述したように、右後輪モータ44RRは、右後輪2RRに係る懸架装置4の可動プレート47(図2参照)を揺動させる駆動力を付与する。そして、左後輪モータ44RLは、左後輪2RLに係る懸架装置4の可動プレート47を揺動させる駆動力を付与する。そして、駆動制御回路は、CPU71からの指示に基づいて、左後輪モータ44RL、右後輪モータ44RRを駆動制御する。
【0055】
ヨーレートセンサ装置81は、入出力ポート75に接続されており、車両1のヨーレートYを検出し、当該検出結果をCPU71に出力する。ヨーレートセンサ装置81は、ヨーレートセンサ81Aと、出力回路(図示せず)を有している。ヨーレートセンサ81Aは、車両1の重心を通る鉛直軸(図1中、矢印U−D方向軸)回りの車両1の回転角速度を経時的(所定時間単位で連続的)に検出する。そして、出力回路は、ヨーレートセンサ81Aの検出結果を処理し、RAM73に格納する(例えば、図9中の第1ヨーレートYA、第2ヨーレートYB参照)。本実施形態において、ヨーレートセンサ81Aは、光学式ジャイロセンサにより構成されている。そして、ヨーレートセンサ81Aは、サニャック効果により回転角速度及び回転角を検出する。
【0056】
この点、本発明においては、ヨーレートセンサ81Aとして、他の種類のジャイロセンサを採用してもよい。例えば、ヨーレートセンサ81Aは、機械式ジャイロセンサや流体式ジャイロセンサ等のジャイロセンサを用いて構成することもできる。
【0057】
アクセルペダルセンサ装置61Aは、入出力ポート75に接続されており、アクセルペダル61の操作量を検出し、検出結果をCPU71に出力する。アクセルペダルセンサ装置61Aは、角度センサ(図示せず)と、出力回路(図示せず)とを有している。角度センサは、アクセルペダル61の踏み込み量を検出する。出力回路は、角度センサの検出結果を処理し、CPU71に出力する。
【0058】
ブレーキペダルセンサ装置62Aは、入出力ポート75に接続されており、ブレーキペダル62の操作量を検出し、検出結果をCPU71に出力する。ブレーキペダルセンサ装置62Aは、角度センサ(図示せず)と、出力回路(図示せず)とを有している。角度センサは、ブレーキペダル62の踏み込み量を検出する。出力回路は、角度センサの検出結果を処理し、CPU71に出力する。
【0059】
ステアリングセンサ装置63Aは、入出力ポート75に接続されており、ステアリング63の操作量を検出し、検出結果をCPU71に出力する。ステアリングセンサ装置63Aは、角度センサ(図示せず)と、出力回路(図示せず)とを有している。角度センサは、ステアリング63のステア角Sを経時的(所定時間単位で連続的)に検出する。出力回路は、角度センサの検出結果(即ち、ステア角S)を処理し、RAM73に格納する(例えば、図9中のステア角S参照)。
【0060】
尚、本実施形態では、各角度センサは、電気抵抗を利用した接触型のポテンショメータにより構成されている。又、CPU71は、アクセルペダルセンサ装置61A、ブレーキペダルセンサ装置62A、ステアリングセンサ装置63Aから入力された各角度センサの検出結果(操作量)を時間微分することで、アクセルペダル61、ブレーキペダル62の踏み込み速度及びステアリング63のステア角速度を取得する。更に、CPU71は、取得したステアリング63のステア角速度を時間微分することで、ステアリング63のステア角加速度を取得する。
【0061】
表示ディスプレイ80は、入出力ポート75に接続されており、CPU71の制御に基づいて、種々の情報を表示する。例えば、本実施形態においては、表示ディスプレイ80は、後述するヨーレートゲインモニタ表示処理プログラム(図8参照)に基づいて、ヨーレートゲインモニタ画面85(図10参照)を表示する。
【0062】
図3に示すように、入出力ポート75には、他の入出力装置90が接続されている。当該他の入出力装置90としては、ナビゲーション装置等が例示される。ナビゲーション装置は、GPSを利用して車両1の現在位置を取得し、その取得した車両1の現在位置を、道路に関する情報が記憶された地図データに対応付け、上述の表示ディスプレイ80における表示を行うことで、車両1の運行に関するナビゲーション等を行う。
【0063】
次に、本実施形態に係る車両用制御装置100により実行されるメイン制御プログラムについて、図面を参照しつつ説明する。図4に示すように、先ず、CPU71は、図3に示す各種センサ(アクセルペダルセンサ装置61A等)から検出結果を取得し、RAM73に格納する。各種センサの検出結果をRAM73に格納すると、CPU71は、S2に処理を移行する。
【0064】
S2では、CPU71は、操作状態判断処理を実行する。操作状態判断処理(S2)では、CPU71は、後述する操作状態判断処理プログラム(図5参照)を実行することにより、車両1に対する操作に基づいて、当該車両1が挙動限界にあるか否かを判断し、操作状態フラグ73Bを切り替える。操作状態判断処理(S2)の詳細については、後に図面を参照しつつ説明する。操作状態判断処理を終了すると、CPU71は、S3に処理を移行する。
【0065】
S3においては、CPU71は、車両状態判断処理を実行する。車両状態判断処理(S3)では、CPU71は、後述する車両状態判断処理プログラム(図6参照)を実行することにより、ヨーレートYに基づいて、当該車両1が挙動限界にあるか否かを判断し、車両状態フラグ73Cを切り替える。車両状態判断処理(S3)の詳細については、後に図面を参照しつつ説明する。車両状態判断処理(S3)を終了すると、CPU71は、S4に処理を移行する。
【0066】
S4に移行すると、CPU71は、CPU71は、操作状態フラグ73B、車両状態フラグ73Cの状態に基づいて、限界キャンバが必要であるか否かを判断する。即ち、CPU71は、操作状態フラグ73B、車両状態フラグ73Cの状態に基づいて、当該車両1が挙動限界にあるか否かを判断する。具体的には、CPU71は、操作状態フラグ73B、車両状態フラグ73Cの何れか一方がセットされていれば、限界キャンバの付与が必要であると判断する。限界キャンバが必要である場合(S4:YES)、CPU71は、S5に処理を移行する。一方、限界キャンバが不要である場合(S4:NO)、CPU71は、S7に処理を移行する。
【0067】
S5では、CPU71は、キャンバフラグ73Aに基づいて、左後輪2RL及び右後輪2RRにネガティブキャンバが付与されているか(即ち、キャンバがオンであるか)否かを判断する。キャンバフラグ73Aがセットされ、ネガティブキャンバが付与されている場合(S5:YES)、CPU71は、そのまま、当該メイン制御プログラムを終了する。一方、キャンバフラグ73Aがクリアされており、第2キャンバ状態(キャンバ角が0度)である場合(S5:NO)、CPU71は、S7に処理を移行する。
【0068】
S6では、CPU71は、キャンバ角調整装置44を制御し、左後輪2RL及び右後輪2RRにネガティブキャンバ(即ち、限界キャンバ)を付与する。即ち、CPU71は、左後輪2RL及び右後輪2RRを、第2キャンバ状態から第1キャンバ状態に変更する。この時、CPU71は、キャンバフラグ73Aをセットする。ネガティブキャンバを付与した後、CPU71は、当該メイン制御プログラムを終了する。
【0069】
S7に移行すると、CPU71は、安定状態判断処理を行う。安定状態判断処理(S7)では、CPU71は、走行速度、ステアリング63の操作量と、安定キャンバ付与基準データ72Bを比較し、安定キャンバが必要な走行状態であるか否かを判断し、安定状態フラグ73Dを切り替える。当該安定状態判断処理では、CPU71は、後述する安定状態判断処理プログラム(図7参照)を実行する。安定状態判断処理の詳細については、後に図面を参照しつつ説明する。安定状態判断処理(S7)を終了すると、CPU71は、S8に処理を移行する。
【0070】
S8においては、CPU71は、安定状態フラグ73Dの状態に基づいて、安定キャンバが必要であるか否かを判断する。即ち、CPU71は、安定状態フラグ73Dの状態に基づいて、当該車両1が所定速度以上で略直進走行しているか否かを判断する。具体的には、CPU71は、安定状態フラグ73Dがセットされていれば、安定キャンバの付与が必要であると判断する。安定キャンバが必要である場合(S8:YES)、CPU71は、S9に処理を移行する。一方、安定キャンバが不要である場合(S8:NO)、CPU71は、S10に処理を移行する。
【0071】
S9では、CPU71は、キャンバ角調整装置44を制御し、左後輪2RL及び右後輪2RRにネガティブキャンバ(即ち、限界キャンバ)を付与する。即ち、CPU71は、キャンバ角調整装置44を制御し、左後輪2RL及び右後輪2RRを第2キャンバ状態から第1キャンバ状態に変更する。この時、CPU71は、キャンバフラグ73Aをセットする。ネガティブキャンバを付与した後、CPU71は、当該メイン制御プログラムを終了する。
【0072】
S10では、CPU71は、S5と同様に、キャンバフラグ73Aに基づいて、左後輪2RL及び右後輪2RRにネガティブキャンバが付与されているか否かを判断する。ネガティブキャンバが付与されている場合(S10:YES)、CPU71は、S11に処理を移行する。一方、第2キャンバ状態(キャンバ角が0度)である場合(S10:NO)、CPU71は、そのまま、当該メイン制御プログラムを終了する。
【0073】
S11においては、CPU71は、キャンバ角調整装置44を制御し、左後輪2RL及び右後輪2RRを、第1キャンバ状態から第2キャンバ状態に変更する。この時、CPU71は、キャンバフラグ73Aをクリアする。左後輪2RL及び右後輪2RRのキャンバ角を0度に調整した後、CPU71は、当該メイン制御プログラムを終了する。
【0074】
続いて、操作状態判断処理(S2)で実行される操作状態判断処理プログラムについて、図5を参照しつつ詳細に説明する。操作状態判断処理(S2)に移行すると、CPU71は、先ず、アクセルペダルセンサ装置61Aにより検出されたアクセルペダル61の操作量を、RAM73から取得する(S21)。
【0075】
その後、S22において、CPU71は、ブレーキペダルセンサ装置62Aにより検出されたブレーキペダル62の操作量を取得する。続くS23では、CPU71は、ステアリングセンサ装置63Aにより検出されたステアリング63の操作量を取得する。アクセルペダル61、ブレーキペダル62、ステアリング63の操作量を取得した後、CPU71は、S24に処理を移行する。
【0076】
S24では、CPU71は、S21〜S23で取得したアクセルペダル61、ブレーキペダル62、ステアリング63の操作量と、限界キャンバ付与基準データ72Aを構成するアクセルペダル61、ブレーキペダル62、ステアリング63の操作量に関する基準値を比較する。そして、CPU71は、アクセルペダル61、ブレーキペダル62、ステアリング63の操作量の内、少なくとも一の操作量が基準値を超えているか否かを判断する。基準値を超える操作量が存在する場合(S24:YES)、CPU71は、S25に処理を移行する。一方、基準値を超える操作量が存在しない場合(S24:NO)、CPU71は、S26に処理を移行する。
【0077】
S25においては、CPU71は、基準値を超える操作量に係る操作によって、車両1が挙動限界にあると判断し、操作状態フラグ73Bをセットする。操作状態フラグ73Bをセットした後、CPU71は、操作状態判断処理プログラムを終了し、メイン制御プログラムのS3に処理を移行する。
【0078】
S26では、CPU71は、操作状態フラグ73Bをクリアする。操作状態フラグ73Bをクリアした後、CPU71は、操作状態判断処理プログラムを終了し、メイン制御プログラムのS3に処理を移行する。
【0079】
次に、車両状態判断処理(S3)で実行される車両状態判断処理プログラムについて、図6を参照しつつ詳細に説明する。車両状態判断処理(S3)に移行すると、CPU71は、ヨーレートセンサ装置81により検出されたヨーレートYを、RAM73から取得する(S31)。ヨーレートYを取得した後、CPU71は、S32に処理を移行する。
【0080】
S32では、CPU71は、取得したヨーレートYと、限界キャンバ付与基準データ72Aを構成するヨーレートYに関する基準値を比較する。そして、CPU71は、ヨーレートYが基準値以上であるか否かを判断する。取得したヨーレートYが基準値以上である場合(S32:YES)、CPU71は、車両1の鉛直軸回りの回転角速度が基準を超え、挙動限界にあると判断し、S34に処理を移行する。一方、取得したヨーレートYが基準値未満である場合(S32:NO)、CPU71は、S33に処理を移行する。
【0081】
S33に移行すると、CPU71は、ヨーレートが基準値未満であることに基づいて、当該車両1が挙動限界にないと判断し、車両状態フラグ73Cをクリアする。車両状態フラグ73Cをクリアした後、CPU71は、車両状態判断処理プログラムを終了し、メイン制御プログラムのS4に処理を移行する。
【0082】
S34では、CPU71は、基準値を超えるヨーレートに基づいて、車両1の挙動限界にあると判断し、車両状態フラグ73Cをセットする。車両状態フラグ73Cをセットした後、CPU71は、車両状態判断処理プログラムを終了し、メイン制御プログラムのS4に処理を移行する。
【0083】
続いて、安定状態判断処理(S7)で実行される安定状態判断処理プログラムについて、図面を参照しつつ詳細に説明する。安定状態判断処理(S7)に移行すると、CPU71は、先ず、車両1の走行速度を、RAM73から取得する(S41)。走行速度を取得した後、CPU71は、S42に処理を移行する。
【0084】
S42においては、CPU71は、取得した走行速度が安定キャンバ付与基準データ72Bを構成する走行速度の基準値以上であるか否かを判断する。取得した走行速度が基準値以上である場合(S42:YES)、CPU71は、S43に処理を移行する。一方、取得した走行速度が基準値未満である場合(S42:NO)、CPU71は、S46に処理を移行する。
【0085】
S43では、CPU71は、ステアリングセンサ装置63Aにより検出されたステアリング63の操作量を、RAM73から取得する。ステアリング63の操作量を取得した後、CPU71は、S44に処理を移行する。
【0086】
S44に移行すると、CPU71は、取得したステアリング63の操作量が安定キャンバ付与基準データ72Bを構成するステアリング63の操作量に係る基準値以下であるか否かを判断する。取得したステアリング63の操作量が基準値以下である場合(S44:YES)、CPU71は、S45に処理を移行する。一方、取得したステアリング63の操作量が基準値よりも大きい場合(S44:NO)、CPU71は、S46に処理を移行する。
【0087】
S45においては、CPU71は、車両1が所定以上の走行速度で略直進走行を行っており、安定キャンバが必要な状態であると判断し、安定状態フラグ73Dをセットする。安定状態フラグ73Dをセットした後、CPU71は、安定状態判断処理プログラムを終了し、メイン制御プログラムのS8に処理を移行する。
【0088】
S46に移行すると、CPU71は、安定状態フラグ73Dをクリアする。安定状態フラグ73Dをクリアした後、CPU71は、安定状態判断処理プログラムを終了し、メイン制御プログラムのS8に処理を移行する。
【0089】
ここで、車両1の挙動特性を示す指標値であるヨーレートゲインGについて、図9を参照しつつ説明する。ヨーレートゲインGは、ステアリングセンサ装置63Aにより検出されたステア角Sと、ヨーレートセンサ装置81により検出されるヨーレートYに基づいて算出される。
【0090】
本実施形態において、ステア角Sは、車両1直進走行時を基準(即ち、ステア角S=0)としたステアリング63の角度を示し、左操舵時のステア角Sを正、右操舵時のステア角Sを負とする。そして、ヨーレートYは、旋回移動する車両1を上から見た場合における車両1の旋回方向への回転角の変化速度を示し、左旋回方向へのヨーレートYを正とし、右旋回方向へのヨーレートYを負とする。
【0091】
ヨーレートゲインGは、ヨーレートセンサ81Aによって取得したヨーレートYを、当該ヨーレートYと同一タイミングにおけるステア角Sで除算することによって算出される。即ち、ヨーレートゲインGは、ステア角Sが1°当たりのヨーレートYの大きさを示し、車両1の挙動安定性の度合いを示す。
【0092】
上述したように、本実施形態に係る車両1は、図4〜図7の制御プログラムに基づきキャンバ角調整装置44を制御することにより、右後輪2RR、左後輪2RLのキャンバ角を、所定角度のネガティブキャンバが付与された第1キャンバ状態と、第1キャンバ状態よりも小さなキャンバ角(本実施形態においては0°)が付与された第2キャンバ状態の何れかに切替制御する。
【0093】
一般に、後輪(即ち、右後輪2RR及び左後輪2RL)にネガティブキャンバを付与すると、後輪のグリップが上がるため、車両1の挙動は、よりアンダーステア特性を示す。即ち、第1キャンバ状態の車両1は、第2キャンバ状態における車両1よりも強いアンダーステア特性を示す。従って、同一速度、同一のステアリング63操作を行った場合に、第1キャンバ状態(キャンバがオンの状態)におけるヨーレートY(以下、第1ヨーレートYA)は、第2キャンバ状態(キャンバがオフの状態)におけるヨーレートY(以下、第2ヨーレートYB)よりも、絶対値の小さな値を示す(図9参照)。
【0094】
そして、第1キャンバ状態におけるヨーレートゲインG(以下、第1ヨーレートゲインGA)は、第1ヨーレートYAをステア角Sで除算することで算出される。又、第2キャンバ状態におけるヨーレートゲインG(以下、第2ヨーレートゲインGB)は、第2ヨーレートYBをステア角Sで除算することで算出される。図9に示すように、第1ヨーレートYAと、第2ヨーレートYBの間に差が生じているので、第1ヨーレートゲインGAは、第2ヨーレートゲインGBよりも小さな値を示す。従って、第1ヨーレートゲインGAは、第1キャンバ状態における車両1の挙動が第2キャンバ状態よりも安定していることを示す。
【0095】
続いて、本実施形態に係るヨーレートゲインモニタ表示処理プログラムについて、図面を参照しつつ詳細に説明する。ステアリングセンサ装置63A、ヨーレートセンサ装置81の検出結果に基づいて、車両1の挙動特性を示す指標値(ヨーレートゲインG)を算出し、算出した指標値をヨーレートゲインモニタ画面85として表示ディスプレイ80に表示する際に実行される。ヨーレートゲインモニタ画面85を表示ディスプレイ80に表示することにより、車両用制御装置100は、キャンバのオン・オフに基づく車両1の挙動特性の相違を利用者に報知し得る。
【0096】
先ず、S51では、CPU71は、RAM73のキャンバフラグ73Aを参照して、キャンバフラグ73Aがセットされているか否かを確認する。上述したように、キャンバフラグ73Aのセットは、キャンバ角調整装置44が第1キャンバ状態にあることを示し、キャンバフラグ73Aのクリアは、キャンバ角調整装置44が第2キャンバ状態にあることを示す。キャンバフラグ73Aの状態を確認した後、CPU71は、S52に処理を移行する。
【0097】
S52においては、CPU71は、ステアリングセンサ装置63A及びヨーレートセンサ装置81における現在の検出結果(即ち、ステア角S、ヨーレートY)を取得する。現在のステア角S及びヨーレートYを取得した後、CPU71は、S53に処理を移行する。
【0098】
S53に移行すると、CPU71は、S52で取得したステア角Sと、ヨーレートYに基づいて、単位ヨーレートゲインを算出する。単位ヨーレートゲインは、或る単位時間(例えば、0.1秒間)におけるヨーレートゲインGであり、S52で取得したヨーレートYを、S52で取得したステア角Sで除算することにより算出される。その後、CPU71は、算出した単位ヨーレートゲインに対して、S51で取得したキャンバの状態を示すキャンバ状態情報(即ち、その時点で第1キャンバ状態であるか第2キャンバ状態であるかを示す情報)と、S52で取得したステア角Sに基づく右操舵、左操舵の別を示す操舵内容情報を付加して、RAM73に格納する。単位ヨーレートゲインをRAM73に格納した後、CPU71は、S54に処理を移行する。
【0099】
S54では、CPU71は、ステア角変化量SVを算出する。具体的には、CPU71は、当該単位ヨーレートゲインに係る単位時間(例えば、0.1秒間)の経過前後のステア角Sの差を算出することで、ステア角変化量SVを算出する。ステア角変化量SVを算出した後、CPU71は、S55に処理を移行する。尚、算出されたステア角変化量SVは、ステア角S、ヨーレートYと同様に、RAM73に経時的に格納される。
【0100】
S55においては、CPU71は、算出対象期間TPが終了しているか否かを判断する。算出対象期間TPは、ステア角変化量SVが0を示す算出基準時を基準として、ステア角変化量SVが閾値Pと、−Pの間で変化する期間をいう。具体的にS55では、CPU71は、先ず、S54で算出されたステア角変化量SVに基づいて、当該ステア角変化量SVがOである時点(即ち、算出基準時)を特定する。その後、CPU71は、RAM73に格納されているステア角変化量SVを参照して、算出基準時の直前にステア角変化量SVの絶対値が閾値Pである時点(即ち、ステア角変化量SVが閾値P又は−Pである時点)を特定する(図9参照)。これにより、CPU71は、算出対象期間TPの始期を特定し得る。
【0101】
その後、CPU71は、S54で算出したステア角変化量SVの値が、算出対象期間TPの始期に係るステア角変化量SVに対応する閾値であるか否かを判断することにより、算出対象期間TPの終期を判断する。ここで、算出対象期間TPの始期に係る閾値に対応する値とは、算出対象期間TPの始期に係るステア角変化量SVが「P」である場合、「−P」を意味し、算出対象期間TPの始期に係るステア角変化量SVが「−P」である場合、「P」を意味する。算出対象期間TPを終了した場合(S55:YES)、CPU71は、S56に処理を移行する。一方、算出対象期間TPを終了していない場合(S55:NO)、CPU71は、S51に処理を戻し、S51〜S54の処理を繰り返す。尚、算出対象期間TPを終了していない場合は、現時点が算出対象期間TP外である場合と、現時点が算出対象期間TP中である場合の両者を含む。
【0102】
S56に移行すると、CPU71は、期間内平均値を算出する。期間内平均値は、算出対象期間TP内における単位ヨーレートゲインの平均値を意味する。従って、CPU71は、RAM73に格納されている算出対象期間TP内に属する全ての単位ヨーレートゲインを参照し、期間内平均値を算出する。又、CPU71は、算出対象期間TP内の単位ヨーレートゲインの操舵内容情報及びキャンバ状態情報に基づいて、期間内平均値における操舵内容情報及びキャンバ状態情報を付加する。算出した期間内平均値をRAM73に格納した後、CPU71は、S57に処理を移行する。
【0103】
上述したように、期間内平均値は、ステア角変化量SVが「0」である算出基準時を基準とする算出対象期間TP内の単位ヨーレートゲインを平均して算出される。ここで、算出対象期間TPにおけるステア角変化量SVは、「0」を含む閾値Pと−Pの間の値となるため、当該算出対象期間TPにおけるステア角Sは、或る程度、一定の値を示し、当該算出対象期間TPにおけるヨーレートYの発生量も略一定の値を示す。即ち、算出対象期間TP内における単位ヨーレートゲインも略一定の値を示すことになり、これに基づいて算出される期間内平均値は、急ハンドル等の影響を受けず、車両1自体の挙動特性(挙動安定性)を示す。
【0104】
S57では、CPU71は、RAM73を参照して、右操舵時(即ち、ステア角Sが負)の期間内平均値と、左操舵時(即ち、ステア角Sが正)の期間内平均値が存在するか否かを判断する。具体的には、CPU71は、RAM73に格納されている各期間内平均値の操舵内容情報、キャンバ状態情報に基づいて、同一のキャンバ状態における右操舵時の期間内平均値と、左操舵時の期間内平均値の両者が存在するか否かを判断する。同一のキャンバ状態における右操舵時の期間内平均値と、左操舵時の期間内平均値の両者が存在する場合(S57:YES)、CPU71は、S58に処理を移行する。一方、同一のキャンバ状態における右操舵時の期間内平均値と左操舵時の期間内平均値が存在しない場合(S57:NO)、CPU71は、S51に処理を戻す。
【0105】
S58においては、CPU71は、同一のキャンバ状態(即ち、第1キャンバ状態又は第2キャンバ状態)における右操舵時の期間内平均値と、左操舵時の期間内平均値とに基づいて、表示用ヨーレートゲインを算出する。表示用ヨーレートゲインは、同一のキャンバ状態における右操舵時の期間内平均値と、左操舵時の期間内平均値の平均をとることで算出される。当該表示用ヨーレートゲインは、後述するヨーレートゲインモニタ画面85における第1ヨーレートゲイングラフ86A又は第2ヨーレートゲイングラフ86Bの表示に用いられる。又、CPU71は、各期間内平均値に係るキャンバ状態情報に基づいて、算出した表示ヨーレートゲインに対して、当該表示用ヨーレートゲインに係るキャンバ状態情報を付加する。表示用ヨーレートゲインを格納した後、CPU71は、S59に処理を移行する。
【0106】
ここで、車両1に生じるヨーレートYの発生量は、運転者の利き腕や運転者のステアリング63操作の癖等に起因して、右旋回時と左旋回時で異なる傾向を示す場合が多い。又、ヨーレートゲインG(単位ヨーレートゲイン)も、当該ヨーレートYに基づいて算出されるため、右操舵時と左操舵時で、運転者の癖等に起因して異なる値を示す。更に、S56で算出される期間内平均値も、運転者の癖等の影響を受け、右操舵時と左操舵時で異なる値を示す。この点、S58で算出される表示用ヨーレートゲインは、右操舵時の期間内平均値と、左操舵時の期間内平均値の平均化したものである。従って、表示用ヨーレートゲインは、右操舵時と左操舵時における運転者の癖の影響を緩和し、車両1自体が有する挙動特性(挙動安定性)を示す指標値となる。
【0107】
S59に移行すると、CPU71は、RAM73を参照し、キャンバがオンされている場合(即ち、第1キャンバ状態)の表示用ヨーレートゲインのデータ数が所定数(本実施形態においては、10個)以上であるか否かを判断する。具体的には、CPU71は、RAM73に格納されている各表示用ヨーレートゲインのキャンバ状態情報を参照し、第1キャンバ状態における表示用ヨーレートゲインの数を特定し、S59における判断処理を行う。第1キャンバ状態における表示用ヨーレートゲインのデータ数が所定数以上である場合(S59:YES)、CPU71は、S60に処理を移行する。一方、第1キャンバ状態における表示用ヨーレートゲインのデータ数が所定数未満である場合(S59:NO)、CPU71は、S61に処理を移行する。
【0108】
S60では、CPU71は、第1キャンバ状態平均値を算出する。第1キャンバ状態平均値は、RAM73に格納されている所定数分の第1キャンバ状態に係る表示用ヨーレートゲインの値を平均して算出される。当該第1キャンバ状態平均値は、後述するヨーレートゲインモニタ画面85における第1平均ヨーレートゲイン表示部88の表示に用いられる。第1キャンバ状態平均値をRAM73に格納した後、CPU71は、S61に処理を移行する。
【0109】
S61においては、CPU71は、RAM73を参照し、キャンバがオフされている場合(即ち、第2キャンバ状態)の表示用ヨーレートゲインのデータ数が所定数(本実施形態においては、10個)以上であるか否かを判断する。具体的には、CPU71は、RAM73に格納されている各表示用ヨーレートゲインのキャンバ状態情報を参照し、第2キャンバ状態における表示用ヨーレートゲインの数を特定し、S61における判断処理を行う。第2キャンバ状態における表示用ヨーレートゲインのデータ数が所定数以上である場合(S61:YES)、CPU71は、S62に処理を移行する。一方、第2キャンバ状態における表示用ヨーレートゲインのデータ数が所定数未満である場合(S61:NO)、CPU71は、S63に処理を移行する。
【0110】
S62に移行すると、CPU71は、第2キャンバ状態平均値を算出する。第2キャンバ状態平均値は、RAM73に格納されている所定数分の第2キャンバ状態に係る表示用ヨーレートゲインの値を平均して算出される。当該第2キャンバ状態平均値は、後述するヨーレートゲインモニタ画面85における第2平均ヨーレートゲイン表示部89の表示に用いられる。第2キャンバ状態平均値をRAM73に格納した後、CPU71は、S63に処理を移行する。
【0111】
S63では、CPU71は、モニタ表示内容更新処理を実行する。具体的には、CPU71は、表示ディスプレイ80にヨーレートゲインモニタ画面85を表示する。又、CPU71は、S58で算出した表示用ヨーレートゲイン、S60で算出した第1キャンバ状態平均値、S62で算出した第2キャンバ状態平均値等に基づいて、ヨーレートゲインモニタ画面85の表示内容を更新する。その後、CPU71は、S51に処理を戻す。
【0112】
ここで、モニタ表示内容更新処理(S63)により、表示ディスプレイ80上に表示されるヨーレートゲインモニタ画面85について、図10を参照しつつ詳細に説明する。図10に示すように、ヨーレートゲインモニタ画面85は、グラフ表示部86と、ステア角表示部87と、第1平均ヨーレートゲイン表示部88と、第2平均ヨーレートゲイン表示部89を有している。
【0113】
グラフ表示部86は、第1ヨーレートゲイングラフ86Aと、第2ヨーレートゲイングラフ86Bを表示し得る。第1ヨーレートゲイングラフ86Aは、S58で算出された第1キャンバ状態に係る表示用ヨーレートゲインの数値を示す棒グラフである。尚、一の第1ヨーレートゲイングラフ86Aは、一の第1キャンバ状態に係る表示用ヨーレートゲインの数値に対応する。第2ヨーレートゲイングラフ86Bは、S58で算出された第2キャンバ状態に係る表示用ヨーレートゲインの数値を示す棒グラフであり、第1ヨーレートゲイングラフ86Aと異なる色で表示される。尚、一の第2ヨーレートゲイングラフ86Bは、一の第2キャンバ状態に係る表示用ヨーレートゲインの数値に対応する。そして、グラフ表示部86の表示内容は、S58で表示用ヨーレートゲインが算出される毎に更新され、第1ヨーレートゲイングラフ86A又は第2ヨーレートゲイングラフ86Bが、算出された表示用ヨーレートゲインに応じて、グラフ表示部86に新たに表示される。
【0114】
ステア角表示部87は、現在のステア角Sを表示する表示部である。当該ステア角表示部87の表示内容は、S52でステア角Sを取得する毎に、取得したステア角Sを示す数値に更新される。
【0115】
第1平均ヨーレートゲイン表示部88は、第1キャンバ状態における表示用ヨーレートゲインの平均値(即ち、第1キャンバ状態平均値)を表示する表示部である。第1平均ヨーレートゲイン表示部88の表示内容は、S59で第1キャンバ状態平均値を算出する毎に、算出した第1キャンバ状態平均値の値に更新される。
【0116】
第2平均ヨーレートゲイン表示部89は、第2キャンバ状態における表示用ヨーレートゲインの平均値(即ち、第2キャンバ状態平均値)を表示する表示部である。第2平均ヨーレートゲイン表示部89の表示内容は、S61で第2キャンバ状態平均値を算出する毎に、算出した第1キャンバ状態平均値の値に更新される。
【0117】
モニタ表示内容更新処理(S63)でヨーレートゲインモニタ画面85を表示ディスプレイ80に表示し、その表示内容を更新することにより、車両用制御装置100は、運転者等に対して、キャンバ状態の変化に伴う車両1の挙動特性(挙動安定性)の相違を報知し得る(図10参照)。又、当該車両用制御装置100は、ヨーレートゲインモニタ画面85で車両1の挙動特性(挙動安定性)を報知することにより、運転者等に当該車両1の挙動特性に応じた運転を促すことができる。
【0118】
以上、説明したように、本実施形態に係る車両用制御装置100は、所定の条件(限界キャンバ付与基準データ72A、安定キャンバ付与基準データ72Bに規定される条件)を満たした場合に、左後輪2RL及び右後輪2RRの懸架装置4を制御することにより、左後輪2RL及び右後輪2RRのキャンバ角を、所定角度のネガティブキャンバが付与された第1キャンバ状態、又は、キャンバ角が0度に調整された第2キャンバ状態に切り替える。従って、当該車両用制御装置100は、所定の条件を満たした場合に、第1キャンバ状態に調整することで、車両1に走行安定性を付与し得る。
【0119】
そして、当該車両用制御装置100は、ヨーレートゲインモニタ表示処理プログラム(図8参照)に従って、ヨーレートYとステア角Sに基づく単位ヨーレートゲインを算出する(S53)。ヨーレートゲインGは、ヨーレートYをステア角Sで除算することで算出され、当該車両1の挙動特性(アンダーステア、オーバーステア特性)を示す指標値である。
【0120】
又、当該車両用制御装置100は、ステア角変化量SVが0を示す算出基準時に基づいて算出対象期間TPを特定し、当該算出対象期間TP内の単位ヨーレートゲインを平均した期間内平均値を算出する(S56)。ここで、算出基準時及び算出対象期間TP内におけるステア角変化量SVは、−PからPの間(0を含む)の値をとる。従って、算出対象期間TP内におけるステア角Sは、略一定の値をとり、算出対象期間TP内におけるヨーレートYも略一定の値をとなる。これにより、算出対象期間TP内の単位ヨーレートゲインは、略一定の値を取ることとなり、期間内平均値は、急ハンドル操作等に起因する特異な値の影響を受けることはない。この結果、当該車両用制御装置100は、車両1自体の挙動特性を示す期間内平均値を算出し得る。
【0121】
更に、当該車両用制御装置100は、同一のキャンバ状態(即ち、第1キャンバ状態又は第2キャンバ状態)における右操舵時の期間内平均値と左操舵時の期間内平均値に基づいて、表示用ヨーレートゲインを算出する(S58)。一般に、運転者は、車両1の運転(例えば、ステアリング63の操作等)に関して、当該運転者の利き腕等の影響により当該運転者固有の癖を有している。当該車両用制御装置100は、右操舵時の期間内平均値と左操舵時の期間内平均値を平均することにより、車両1の挙動特性を示す表示用ヨーレートゲインに対する運転者固有の癖の影響を緩和することができる。即ち、当該車両用制御装置100は、より確実に、車両1自体の挙動特性を示す指標(表示用ヨーレートゲイン)を算出し得る。
【0122】
そして、当該車両用制御装置100は、算出した表示用ヨーレートゲインを用いて、ヨーレートゲインモニタ画面85を、表示ディスプレイ80に表示する(S63)。ヨーレートゲインモニタ画面85において、グラフ表示部86は、第1キャンバ状態における表示用ヨーレートゲインに基づく第1ヨーレートゲイングラフ86Aと、第2キャンバ状態における表示用ヨーレートゲインに基づく第2ヨーレートゲイングラフ86Bを表示し得る。これにより、車両用制御装置100は、第1キャンバ状態における表示用ヨーレートゲインと、第2キャンバ状態における表示用ヨーレートゲインの差を、運転者等に報知し得る。又、当該ヨーレートゲインモニタ画面85において、第1平均ヨーレートゲイン表示部88は、第1キャンバ状態に係る表示用ヨーレートゲインを平均した第1キャンバ状態平均値の数値を表示し、第2平均ヨーレートゲイン表示部89は、第2キャンバ状態に係る表示用ヨーレートゲインを平均した第2キャンバ状態平均値の数値を表示する。従って、当該車両用制御装置100は、第1平均ヨーレートゲイン表示部88及び第2平均ヨーレートゲイン表示部89により、第1キャンバ状態における表示用ヨーレートゲインと、第2キャンバ状態における表示用ヨーレートゲインの差を、運転者等に報知し得る。この結果、当該車両用制御装置100は、表示ディスプレイ80におけるヨーレートゲインモニタ画面85の表示により、自己の感覚で車両1の挙動特性(アンダーステア、オーバーステア特性)の変化を感知しえない者に対しても、キャンバ角の調整に伴う車両1の挙動特性の変化を報知し得る。
【0123】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。
例えば、本実施形態においては、図10に示す態様のヨーレートゲインモニタ画面85を表示ディスプレイ80に表示するように構成しているが、ヨーレートゲインモニタ画面85の態様は図10に示す構成に限定されるものではない。第1キャンバ状態におけるヨーレートゲインGに基づく指標値と、第2キャンバ状態におけるヨーレートゲインGに基づく指標値の差を報知することができれば、種々の画面構成を採用し得る。
【0124】
又、本実施形態においては、単位ヨーレートゲインに基づいて、期間内平均値を算出し、右操舵時及び左操舵時の期間内平均値により表示用ヨーレートゲイン(即ち、指標値)を算出するように構成していたが、この態様に限定されるものではない。例えば、右操舵時及び左操舵時の平均をとることなく、期間内平均値によって、車両1の挙動特性の変化を報知しても良い。又、期間内平均値を算出することなく、右操舵時における単位ヨーレートゲインと左操舵時における単位ヨーレートゲインを平均した指標を用いて、車両1の挙動特性の変化を報知しても良い。
【0125】
更に、本実施形態においては、ステア角変化量SVが0を示す算出基準時を基準として算出対象期間TPを特定し、当該算出対象期間TPにおける全ての単位ヨーレートゲインを対象として期間内平均値を算出しているが、この態様に限定するものではない。例えば、算出基準時における単位ヨーレートゲインを、期間内平均値に係る算出対象から除外して、期間内平均値を算出することも可能である。
【符号の説明】
【0126】
1 車両
2 車輪
4 懸架装置
44 キャンバ角調整装置
63A ステアリングセンサ装置
71 CPU
72 ROM
73 RAM
80 表示ディスプレイ
81 ヨーレートセンサ装置
85 ヨーレートゲインモニタ画面
86 グラフ表示部
88 第1平均ヨーレートゲイン表示部
89 第2平均ヨーレートゲイン表示部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と前記車輪のキャンバ角を調整するキャンバ角調整装置と、を備えた車両に用いられる車両用制御装置であって、
車両の状態に基づく付与基準に応じて、前記キャンバ角調整装置により、前記車輪のキャンバ角を第1角度に調整した状態と、前記車輪のキャンバ角を、前記第1角度と異なる第2角度に調整した状態と、に調整するキャンバ角調整手段と、
車両移動時における車両の操舵角を取得する操舵角検出手段と、
車両移動時における車両のヨーレートを取得するヨーレート検出手段と、
前記ヨーレート検出手段により取得されたヨーレートを、前記操舵角検出手段によって、当該ヨーレートと同時期に取得された操舵角で除算した指標値を算出する指標値算出手段と、
前記車両のキャンバ角が前記第1角度に調整されている状態について前記指標値算出手段により算出された指標値と、前記車両のキャンバ角が前記第2角度に調整されている状態について前記指標値算出手段により算出された指標値との差を表示する表示手段と、
を備えることを特徴とする車両用制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両用制御装置であって、
前記操舵角検出手段により取得された操舵角の変化量が0を示す算出基準時に基づく算出対象時期を特定する対象時期特定手段と、を備え、
前記指標値算出手段は、
前記対象時期特定手段により特定された算出対象時期において、前記ヨーレート検出手段により検出されたヨーレートを、前記算出対象時期において前記操舵角検出手段により検出された操舵角で除算した指標値を算出する
ことを特徴とする車両用制御装置。
【請求項3】
請求項2記載の車両用制御装置であって、
前記対象時期特定手段は、
前記算出基準時を含み、前記操舵角検出手段により取得された操舵角の変化量の絶対値が所定値以下である期間を、前記算出対象時期に特定する
ことを特徴とする車両用制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の車両用制御装置であって、
前記指標値算出手段は、
車両直進移動における操舵角を示す基準角を基準として、所定の第1方向に操舵した場合の操舵角により、当該第1方向に操舵した場合におけるヨーレートを除算した第1算出結果と、
前記基準角を基準として、前記第1方向と逆向きの第2方向に操舵した場合の操舵角により、当該第2方向に操舵した場合におけるヨーレートを除算した第2算出結果と、を平均することにより、前記指標値を算出する
ことを特徴とする車両用制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−201359(P2011−201359A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68671(P2010−68671)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】