説明

車両用動力伝達装置

【課題】オイルポンプの駆動トルクを十分に低減することができる車両用動力伝達装置を提供する。
【解決手段】第1高圧吐出油路110および第2高圧吐出油路114からの高圧ポート吐出量Q1は、車両の定常走行状態において、エンジン回転速度Nが、無段変速機18の変速制御の予め定められた最低目標入力軸回転速度NINT_Lに対応する所定エンジン回転速度N2以上となる場合に、相対的に高油圧の作動油の消費量が高圧ポート吐出量Q1により充足されるように予め設定される。車両の定常走行状態においては、無段変速機18の変速状態に拘わらず上記高油圧の作動油の消費量が高圧ポート吐出量Q1により充足され、第1低圧吐出油路112および第2低圧吐出油路116からの作動油が低油圧に維持されるので、ポンプ駆動トルクを十分に低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧吐出油路および低圧吐出油路を有する内接歯車型のオイルポンプを含む車両用動力伝達装置に関し、特に、オイルポンプの駆動トルクを低減するための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
外周歯を有し、エンジンによって一軸心まわりに回転駆動されるドライブギヤと、そのドライブギヤの外周歯に噛み合わされた内周歯を有して前記一軸心から偏心した偏心軸心まわりに回転可能に設けられ、前記ドライブギヤにより回転駆動される円環状のドリブンギヤと、そのドリブンギヤおよび前記ドライブギヤが収容させられたポンプ室と、そのポンプ室内から油を吐出するためにそのポンプ室の側面に周方向の所定の間隔を隔ててそれぞれ開口させられ、前記内周歯と外周歯との噛合隙間によって周方向に形成された複数の油圧室が前記ドライブギヤおよびドリブンギヤの回転に伴って所定の回転方向に移動させられるときにおいて、その油圧室の容積が減少させられる過程で順次連通させられる高圧吐出油路および低圧吐出油路を有するハウジングとを備え、相対的に高油圧の作動油の消費量が前記高圧吐出油路からの吐出量だけで充足される場合には、前記低圧吐出油路からの油圧が前記高圧吐出油路の油圧よりも所定圧低い低油圧に維持されて用いられる内接歯車型のオイルポンプが知られている。たとえば、特許文献1および2に記載されたものがそれである。これによれば、低圧吐出油路の油圧が上記低油圧に維持されることでポンプ駆動トルクが低減し、車両燃費が向上される。
【0003】
また、前記特許文献2のオイルポンプは、所定の油圧室が前記高圧吐出油路と低圧吐出油路との間に位置させられてそれら吐出油路と連通していないときに、その油圧室と低圧吐出油路とを連通させるために、ポンプ室の側面に形成された油逃がし溝を備えている。これによれば、上記油圧室が高圧吐出油路と低圧吐出油路との間の閉じ込み位置を通過するときに昇圧しようとするその油圧室内の作動油が、上記油逃がし溝を通じて低圧吐出油路へ逃がされるので、閉じ込み状態とされた油圧室内の油圧が急激に上昇することを抑制し、その油圧室内の油圧上昇に起因してポンプ駆動トルクが増大することを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−068473号公報
【特許文献2】特開2009−127569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記従来のオイルポンプでは、低圧吐出油路の油圧が前記低油圧に維持されている場合において、所定の油圧室が高圧吐出油路と低圧吐出油路との間の閉じ込み位置を通過するときには、その所定の油圧室内の作動油が油逃がし溝を通じて低圧吐出油路へ逃がされるため、上記所定の油圧室内の油圧値が上記低油圧に近い状態まで低下させられる。そのため、上記所定の油圧室内の油圧値と、その油圧室に隣接し且つ高圧吐出油路に連通された油圧室内の油圧値との圧力差が拡大することに起因して、内周歯と外周歯との間の僅かな隙間(チップクリアランス)を通じて高圧吐出油路から上記所定の油圧室へ油が洩れて、高圧吐出油路の吐出量が減少する。
【0006】
したがって、上記従来のオイルポンプと、前記相対的に高油圧の作動油の少なくとも一部が供給されることで作動させられる無段変速機とを備える車両用動力伝達装置においては、上記高圧吐出油路の吐出量の減少に伴って、前記相対的に高油圧の作動油の消費量を高圧吐出油路からの吐出量だけで充足させる無段変速機の入力軸回転速度域の下限値が高回転側にあってその入力軸回転速度域が十分に大きく得られない。そのため、上記車両用動力伝達装置においては、低圧吐出油路の油圧を前記低油圧に維持できる無段変速機の入力軸回転速度域が十分に大きく得られず、ポンプ駆動トルクを十分に低減させることができないという問題があった。
【0007】
これに対して、未公知ながらも、所定の油圧室が高圧吐出油路と低圧吐出油路との間に位置させられてそれら吐出油路と連通していないときに、その油圧室を高圧吐出油路に連通させる油逃がし溝を設けることでその油圧室内の作動油を高圧吐出油路へ逃がすように構成し、高圧吐出油路から上記所定の油圧室への油洩れを抑制することが考えられる。しかし、これによっても、車両の定常走行状態において前記高油圧の作動油の消費量が高圧吐出油路からの吐出量だけで充足されず、低圧吐出油路の油圧が前記低油圧に維持されない場合があるため、オイルポンプの駆動トルクを十分に低減することができないという問題があった。
【0008】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、オイルポンプの駆動トルクを十分に低減することができる車両用動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するための請求項1にかかる発明の要旨とするところは、(a-1) 外周歯を有し、エンジンによって一軸心まわりに回転駆動されるドライブギヤと、(a-2) そのドライブギヤの外周歯に噛み合わされた内周歯を有して前記一軸心から偏心した偏心軸心まわりに回転可能に設けられ、前記ドライブギヤにより回転駆動される円環状のドリブンギヤと、(a-3) そのドリブンギヤおよび前記ドライブギヤが収容させられたポンプ室と、そのポンプ室内から油を吐出するためにそのポンプ室の側面に周方向の所定の間隔を隔ててそれぞれ開口させられ、前記内周歯と外周歯との噛合隙間によって周方向に形成された複数の油圧室が前記ドライブギヤおよびドリブンギヤの回転に伴って所定の回転方向に移動させられるときにおいて、その油圧室の容積が減少させられる過程で順次連通させられる高圧吐出油路および低圧吐出油路とを有するハウジングとを備え、(a-4) 相対的に高油圧の作動油の消費量が前記高圧吐出油路からの吐出量だけで充足される場合には、前記低圧吐出油路からの油圧が前記高圧吐出油路の油圧よりも所定圧低い低油圧に維持される内接歯車型のオイルポンプと、(b) 前記相対的に高油圧の作動油の少なくとも一部が供給されることで作動させられる無段変速機とを、備える車両用動力伝達装置であって、(c) 前記高圧吐出油路の吐出量は、車両の定常走行状態において、前記無段変速機の入力軸回転速度がその無段変速機の変速制御の予め定められた最低目標回転速度以上の回転域において、前記相対的に高油圧の作動油の消費量が前記高圧吐出油路からの吐出量により充足されるように予め設定されていることにある。
【0010】
また、請求項2にかかる発明の要旨とするところは、請求項1にかかる発明において、前記高圧吐出油路の吐出量は、その高圧吐出油路および前記低圧吐出油路の合計吐出量に対して、1/2よりも多くなるように予め設定されていることにある。
【0011】
また、請求項3にかかる発明の要旨とするところは、請求項1または2にかかる発明において、前記無段変速機は、互いに平行に設けられた入力軸および出力軸と、その入力軸および出力軸に設けられた一対の溝幅可変プーリと、その一対の溝幅可変プーリのV溝にそれぞれ巻き掛けられた伝動ベルトと、前記一対の溝幅可変プーリの前記伝動ベルトに対する挟圧力をそれぞれ付与する一対の油圧シリンダとを備え、その一対の油圧シリンダに前記高油圧が供給されることでその一対の油圧シリンダがそれぞれ作動させられて、前記伝動ベルトの前記一対の溝幅可変プーリに対する掛かり径が変化させられることにより、変速比を無段階に変化させるベルト式無段変速機であることにある。
【発明の効果】
【0012】
請求項1にかかる発明の車両用動力伝達装置によれば、オイルポンプの高圧吐出油路の吐出量は、車両の定常走行状態において、無段変速機の入力軸回転速度がその無段変速機の変速制御の予め定められた最低目標回転速度以上の回転域において、相対的に高油圧の作動油の消費量が前記高圧吐出油路からの吐出量により充足されるように予め設定されていることから、車両の定常走行状態においては、無段変速機の変速状態に拘わらず前記高油圧の作動油の消費量が常に高圧吐出油路からの吐出量により充足され、低圧吐出油路の油圧が前記低油圧に維持されるので、オイルポンプの駆動トルクを十分に低減することができる。
【0013】
また、請求項2にかかる発明の車両用動力伝達装置によれば、前記高圧吐出油路の吐出量は、その高圧吐出油路および前記低圧吐出油路の合計吐出量に対して、1/2よりも多くなるように予め設定されていることから、例えば、高圧吐出油路の吐出量が、高圧吐出油路および低圧吐出油路の合計吐出量に対して1/2またはそれ以下となるように設定される場合と比べて、前記高油圧の作動油の消費量が高圧吐出油路からの吐出量だけで充足される無段変速機の入力軸回転速度域の下限値が、低回転側となり、低圧吐出油路の油圧が前記低油圧に維持されるための無段変速機の入力軸回転速度域が十分に大きく得られるので、ポンプ駆動トルクを十分に低減することができる。
【0014】
また、請求項3にかかる発明の車両用動力伝達装置によれば、前記無段変速機は、互いに平行に設けられた入力軸および出力軸と、その入力軸および出力軸に設けられた一対の溝幅可変プーリと、その一対の溝幅可変プーリのV溝にそれぞれ巻き掛けられた伝動ベルトと、前記一対の溝幅可変プーリの前記伝動ベルトに対する挟圧力をそれぞれ付与する一対の油圧シリンダとを備え、その一対の油圧シリンダに前記高油圧が供給されることでその一対の油圧シリンダがそれぞれ作動させられて、前記伝動ベルトの前記一対の溝幅可変プーリに対する掛かり径が変化させられることにより、変速比を無段階に変化させるベルト式無段変速機であることから、車両の定常走行状態においては、そのベルト式無段変速機の変速状態に拘わらず上記一対の油圧シリンダに供給される前記高油圧の作動油の消費量が高圧吐出油路からの吐出量により充足され、低圧吐出油路の油圧が前記低油圧に維持されるので、オイルポンプの駆動トルクを十分に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明が適用された車両用動力伝達装置の構成を説明する骨子図である。
【図2】図1の車両用動力伝達装置を制御するために車両に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。
【図3】運転者の出力要求量を表すアクセル開度と、車速と、目標入力軸回転速度との予め定められて記憶された関係すなわち変速マップを示す図である。
【図4】オイルポンプを示す断面図である。
【図5】図4のV-V矢視部断面を示す断面図であり、
【図6】図4のVI-VI矢視部断面を示す断面図である。
【図7】オイルポンプの油圧室の軸心まわりの回転角度と、その油圧室の容積との関係を示す図である。
【図8】オイルポンプおよび油圧制御回路の構成の一部を模式的に例示した図である。
【図9】オイルポンプの吐出量およびポート油圧値と、エンジン回転速度との関係を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0017】
図1は、本発明が適用された車両用動力伝達装置10の構成を説明する骨子図である。この車両用動力伝達装置10は、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に好適に採用されるものであり、走行用の動力源としてのエンジン12に連結されている。内燃機関にて構成されているエンジン12の出力は、そのエンジン12のクランク軸から流体式伝動装置としてのトルクコンバータ14、前後進切替装置16、ベルト式の無段変速機(CVT)18、減速歯車装置20を介して差動歯車装置22に伝達され、左右の駆動輪24L、24Rへ分配される。
【0018】
トルクコンバータ14は、エンジン12のクランク軸に連結されたポンプ翼車14pと、トルクコンバータ14の出力側部材に相当するタービン軸34を介して前後進切換装置16に連結されたタービン翼車14tとを備えており、それら翼車の間で流体(作動油)を介して動力伝達を行うようになっている。また、ポンプ翼車14pとタービン翼車14tとの間にはロックアップクラッチ26が設けられている。このロックアップクラッチ26は、後述の図2に示す油圧制御回路76内に設けられる図示しないロックアップコントロールバルブによってそのロックアップクラッチ26の係合側油室および開放側油室に供給される作動油が調圧制御されることにより、係合または開放されるようになっており、完全係合させられることによってポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tが一体回転させられるようになっている。また、ポンプ翼車14pには、無段変速機18の変速制御やベルト挟圧力制御、およびロックアップクラッチ26の係合開放制御等を実施するための油圧を発生させる機械式のオイルポンプ28が連結されている。このオイルポンプ28は、エンジン12の回転と連動して作動させられる。
【0019】
このように構成されたトルクコンバータ14では、車両の運転状態が所定の運転領域になったときに、例えば、ロックアップクラッチ28を完全係合させてポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tを直結状態とするロックアップ制御や、ロックアップクラッチ28を半係合(スリップ)させてポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tを半直結状態とするフレックスロックアップ制御等が行われる。上記ロックアップ制御およびフレックスロックアップ制御が実施される運転領域は、例えばアクセル開度と車速との関係として予め設定されている。
【0020】
前後進切替装置16は、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1とダブルピニオン型の遊星歯車装置16pとを主体として構成されている。上記遊星歯車装置16pのサンギヤ16sは、トルクコンバータ14のタービン軸34に一体的に連結され、キャリア16cは、無段変速機18の入力軸36に一体的に連結されている。そして、キャリア16cおよびサンギヤ16sは、前進用クラッチC1を介して選択的に連結され、リングギヤ16rは、後進用ブレーキB1を介してトランスミッションケースに選択的に固定されるようになっている。上記前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1は、何れも油圧シリンダ等の油圧アクチュエータによって摩擦係合させられる油圧式摩擦係合装置である。これら前進用クラッチC1および後退用ブレーキB1は、後述の図2に示す油圧制御回路76内に設けられる図示しないマニュアルバルブによってそれら前進用クラッチC1および後退用ブレーキB1に供給される作動油が調圧制御されることにより、係合または解放されるようになっている。
【0021】
このように構成された前進後退切換装置16では、前進用クラッチC1が係合させられるとともに後進用ブレーキB1が開放されると、前後進切換装置16は一体回転させられてタービン軸34が入力軸36に直結され、前進用動力伝達経路が成立させられて、前進方向の駆動力が駆動輪24Rおよび24Lに伝達される。また、後進用ブレーキB1が係合させられるとともに前進用クラッチC1が開放されると、入力軸36はタービン軸34に対して逆回転させられ、後進方向の駆動力が駆動輪24Rおよび24Lに伝達される。また、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1が共に開放されると、前後進切換装置16は動力伝達を遮断するニュートラル状態(動力伝達遮断状態)になる。
【0022】
無段変速機18は、互いに平行に且つ各軸心まわりに回転可能に設けられた入力軸36および出力軸40と、入力軸36に設けられた駆動側溝幅可変プーリ42と、出力軸40に設けられた従動側溝幅可変プーリ46と、それら溝幅可変プーリ42および46のV溝にそれぞれ巻き掛けられてそれら溝幅可変プーリ42および46との間の摩擦力により動力伝達を行う伝動ベルト48と、上記各溝幅可変プーリ42および46のV溝幅を変更する推力を付与するとともにそれら溝幅可変プーリ42および46の伝動ベルト48に対する挟圧力をそれぞれ付与する駆動側油圧シリンダ50および従動側油圧シリンダ52とを備えている。上記溝幅可変プーリ42および46は、入力軸36および出力軸40にそれぞれ固定された固定シーブ42aおよび46aと、入力軸36および出力軸40に対して軸心まわりの相対回転不能かつ軸心方向の移動可能に設けられた可動シーブ42bおよび46bとを備えて構成されている。これら溝幅可変プーリ42および46は、後述の図2に示す油圧制御回路76内に設けられる図示しない変速制御用ソレノイドバルブによって上記駆動側油圧シリンダ50に供給される作動油が調圧制御されることにより、固定シーブ42aおよび46aと可動シーブ42bおよび46bとの間のV溝幅がそれぞれ変更されるようになっている。また、溝幅可変プーリ42および46では、後述の図2に示す油圧制御回路76内に設けられる図示しない挟圧力制御用ソレノイドバルブによって上記従動側油圧シリンダ52に供給される作動油が調圧制御されることにより、溝幅可変プーリ42および46の伝動ベルト48に対する挟圧力がそれぞれ調節されるようになっている。
【0023】
このように構成された無段変速機18では、車両の走行状態に応じて駆動側溝幅可変プーリ42および従動側溝幅可変プーリ46の溝幅がそれぞれ変化させられて、それら溝幅可変プーリ42および46に対する伝動ベルト48の掛かり径(有効径)が変更されることにより、変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が連続的に変化させられるようになっている。また、それら溝幅可変プーリ42および46の伝動ベルト48に対する挟圧力がそれぞれ調節されることにより、伝動ベルト48の滑りが抑制されるようになっている。
【0024】
図2は、図1の車両用動力伝達装置10などを制御するために車両に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。図2において、電子制御装置54は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン12の出力制御、無段変速機18の変速制御およびベルト挟圧力制御、およびロックアップクラッチ26の係合開放制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用や無段変速機18およびロックアップクラッチ26の油圧制御用等に分けて構成される。
【0025】
電子制御装置54には、エンジン回転速度センサ56により検出されたエンジン12の回転速度すなわちエンジン回転速度Nを表す信号、タービン回転速度センサ58により検出されたタービン軸34の回転速度すなわちタービン回転速度Nを表す信号、入力軸回転速度センサ60により検出された入力軸36の回転速度すなわち入力軸回転速度NINを表す信号、出力軸回転速度センサ62により検出された出力軸40の回転速度すなわち出力軸回転速度NOUTを表す信号、車速センサ64により検出された車速Veを表す信号、およびアクセル開度センサ66により検出されたアクセルペダルの操作量すなわちアクセル開度Accを表す信号などが供給される。
【0026】
電子制御装置54からは、エンジン12の出力制御のためのエンジン出力制御指令信号として、例えば、電子スロットル弁68の開閉を制御するためにスロットルアクチュエータ70を駆動するためのスロットル信号STH、燃料噴射装置72から噴射される燃料の量を制御するための燃料噴射信号S、および点火装置74によるエンジン12の点火時期を制御するための点火時期信号Sなどがそれぞれ出力される。また、電子制御装置54からは、駆動側油圧シリンダ50を駆動して無段変速機18の変速比γを制御するための変速制御指令信号S、従動側油圧シリンダ52を駆動して伝動ベルト48の挟圧力を制御するための挟圧力制御指令信号S、およびロックアップクラッチ26の係合、開放、スリップ量を制御するためのロックアップ制御指令信号SL/Uなどが油圧制御回路76へそれぞれ出力される。
【0027】
ここで、電子制御装置54の備える制御機能のうちの変速制御手段78およびベルト挟圧力制御手段80について詳述する。
【0028】
上記変速制御手段78は、例えば、図3に示すように、運転者の出力要求量を表すアクセル開度Accと、車速Veと、目標入力軸回転速度NINTとの予め定められて記憶された関係すなわち変速マップから、アクセル開度Accおよび車速Veに基づいて目標入力軸回転速度NINTを算出し、実際の入力軸回転速度NINが上記目標入力軸回転速度NINTと一致するように、それらの偏差に応じて無段変速機18の変速比γを変更する変速制御を行う。具体的には、変速制御手段78は、前記変速制御用ソレノイドバルブをフィードバック制御するなどして駆動側油圧シリンダ50へ供給される作動油の流量を制御することにより、駆動側溝幅可変プーリ42および従動側溝幅可変プーリ46のV溝幅を変更して伝動ベルト48の掛かり径(有効径)を変更し、変速比γを連続的に変化させる。図3の変速マップは変速条件に相当するもので、車速Veが小さくアクセル操作量Accが大きい程大きな変速比γとなるように、目標入力軸回転速度NINTが設定されるようになっている。なお、図3に示す最低目標入力軸回転速度NINT_Lは、変速制御手段78による変速制御において目標とされる入力軸回転速度NINの最低値であって、例えば900〜1000[rpm]程度に予め設定されている。無段変速機18は、上記最低目標入力軸回転速度NINT_L以上の回転速度域で入力軸回転速度NINが制御される。
【0029】
図2に戻って、ベルト挟圧力制御手段80は、アクセル開度Accと、変速比γと、目標ベルト挟圧力Fとの予め定められて記憶された関係すなわち挟圧力マップから、アクセル開度Accおよび変速比γに基づいて目標ベルト挟圧力Fを算出し、実際のベルト挟圧力Fが上記目標ベルト挟圧力Fに一致するようにベルト挟圧力Fを調節するベルト挟圧力制御を行う。具体的には、ベルト挟圧力制御手段80は、前記挟圧力制御用ソレノイドバルブをフィードバック制御するなどして従動側油圧シリンダ52へ供給される作動油の流量を制御することにより、ベルト挟圧力Fを調節する。上記挟圧力マップは、伝動ベルト48が滑りを生じないようなベルト挟圧力Fとアクセル開度Accと変速比γとの関係として予め実験的に求められて記憶されている。
【0030】
以下、本発明の一実施例のオイルポンプ28について詳しく説明する。図4は、本実施例のオイルポンプ28を示す断面図である。図5は、図4のV-V矢視部断面を示す断面図であり、図6は、図4のVI-VI矢視部断面を示す断面図である。図4乃至図6に示すように、オイルポンプ28は、トルクコンバータ14と前後進切替装置16との間において図示しないトランスミッションケースに固設されたハウジング82と、11個の外周歯84を有し、ポンプ翼車14pの内周端部から軸心(一軸心)C1方向に突設された円筒状のポンプ軸86の先端部の複数の爪部86aに係合され、上記ポンプ軸86と共に軸心C1まわりに回転可能にハウジング82内に収容されたドライブギヤ88と、上記外周歯84に噛み合わされた12個の内周歯90と円筒状外周面92とを有して、軸心C1から偏心した偏心軸心C2まわりに回転可能にハウジング82内に収容され、上記ドライブギヤ88により回転駆動される円環状のドリブンギヤ94とを、備える所謂内接歯車型のものである。
【0031】
上記ドライブギヤ88およびドリブンギヤ94は、図5に示すように、外周歯84および内周歯90が下方で互いに噛み合わされている。そして、ドライブギヤ88は、ポンプ軸86により軸心C1まわりの図5に矢印aで示す回転方向に回転駆動され、ドリブンギヤ94は、ドライブギヤ88により偏心軸心C2まわりの図5に矢印aで示す回転方向に回転駆動されるようになっている。外周歯84は、上記ドライブギヤ88およびドリブンギヤ94の回転に伴って、前記回転方向の前方に隣接する内周歯90に対して摺接するか又は所定の微少隙間を隔てた状態で、その内周歯90よりも速く前記回転方向へ移動させられる。そして、図5に示す下方で所定の内周歯90に噛み合わされた外周歯84は、軸心C1まわりに1回転させられると、上記所定の内周歯90に対して前記回転方向の前方に隣接する内周歯90と噛み合わされるようになっている。
【0032】
図5および図6において、外周歯84と内周歯90との噛合隙間によって周方向に形成された複数個(本実施例では11個)の油圧室96は、ドライブギヤ88およびドリブンギヤ94の回転に伴って前記回転方向へ移動させられる。図7は、上記油圧室96の軸心C1まわりの回転角度θとその油圧室96の容積Voとの関係を示す図である。図7において、横軸に示す油圧室96の回転角度θの0°(360°)は、図5の下方に位置する外周歯84と内周歯90とが噛み合う周方向位置を表している。図7に示すように、油圧室容積Voは、油圧室96が回転角度θ=0°の周方向位置から前記回転方向に移動させられるに従って増加し、油圧室96が回転角度θ=180°の周方向位置に位置させられたときに最大となる。そして、油圧室容積Voは、油圧室96が回転角度θ=180°の周方向位置から前記回転方向に移動させられるに従って減少し、油圧室96が回転角度θ=360°の周方向位置に位置させられたときに最小となる。
【0033】
前記ハウジング82は、上記ドリブンギヤ94およびドライブギヤ88を収容し、ドリブンギヤ94の円筒状外周面92が嵌め入れられた円筒状内周面98を有するポンプ室100と、そのポンプ室100内に油を吸入するために、ポンプ室100のトルクコンバータ14側の側面102(図5参照)およびポンプ室100の前後進切替装置16側の側面104(図6参照)にそれぞれ開口させられた第1吸入油路106および第2吸入油路108と、上記ポンプ室100内から油を吐出するために図5に示すようにポンプ室100の側面102に周方向の所定の間隔を隔ててそれぞれ開口させられた第1高圧吐出油路110および第1低圧吐出油路112と、上記ポンプ室100内から油を吐出するために図6に示すようにポンプ室100の側面104に周方向の所定の間隔を隔ててそれぞれ開口させられた第2高圧吐出油路114および第2低圧吐出油路116とを、備えている。図5および図6にそれら油路の開口縁が実線又は破線で示されている。
【0034】
上記第1吸入油路106および第2吸入油路108は、前記油圧室96が前記回転方向に移動させられるに従ってその油圧室96の容積Voが増加する周方向範囲、すなわち図7に示すように油圧室96の回転角度θが0°〜180°である吸入区間のうち、例えば回転角度θが12°〜178°である所定の吸入区間でポンプ室100に開口させられている。これにより、油圧室96がドライブギヤ88およびドリブンギヤ94の回転に伴って前記回転方向へ移動させられるときにおいて、上記油圧室96の容積Voが増加させられる過程でその油圧室96が第1吸入油路106および第2吸入油路108に連通させられるようになっている。
【0035】
前記第1高圧吐出油路110および第2高圧吐出油路114は、前記油圧室96が前記回転方向に移動させられるに従ってその油圧室96の容積Voが減少する周方向範囲、すなわち図7に示すように油圧室96の回転角度θが180°〜360°である吐出区間のうち、例えば回転角度θが205°〜252°である第1吐出区間でポンプ室100に開口させられている。これにより、油圧室96がドライブギヤ88およびドリブンギヤ94の回転に伴って前記回転方向へ移動させられるときにおいて、上記油圧室96の容積Voが減少させられる過程の前半でその油圧室96が第1高圧吐出油路110および第2高圧吐出油路114に連通させられるようになっている。
【0036】
前記第1低圧吐出油路112および第2低圧吐出油路116は、前記油圧室96が前記回転方向に移動させられるに従ってその油圧室96の容積Voが減少する周方向範囲、すなわち図7に示すように油圧室96の回転角度θが180°〜360°である吐出区間のうち、例えば回転角度θが285°〜347°である第2吐出区間でポンプ室100に開口させられている。これにより、油圧室96がドライブギヤ88およびドリブンギヤ94の回転に伴って前記回転方向へ移動させられるときにおいて、上記油圧室96の容積Voが減少させられる過程の後半でその油圧室96が第1低圧吐出油路112および第2低圧吐出油路116に連通させられるようになっている。
【0037】
前記第1高圧吐出油路110および第2高圧吐出油路114は、上記第1低圧吐出油路112および第2低圧吐出油路116に対して前記回転方向の後方側に設けられている。ここで、第1高圧吐出油路110および第1低圧吐出油路112は、高圧吐出側の容積効率の低下を防止するために、互いに連通しないように設けられている。具体的には、第1高圧吐出油路110および第1低圧吐出油路112は、油圧室96が前記回転方向へ移動させられる際に、油圧室96と第1高圧吐出油路110とが連通させられた状態から、油圧室96と第1高圧吐出油路110および第1低圧吐出油路112とがそれぞれ遮断させられた状態を経て、油圧室96と第1低圧吐出油路112とが連通させられた状態に至るように、設けられている。上記のことは、第2高圧吐出油路114および第2低圧吐出油路116についても同様である。
【0038】
また、ハウジング82は、図5および図6に示すように、前記複数の油圧室96のうちの所定の油圧室96aの全体が、第1高圧吐出油路110の開口および第2高圧吐出油路114の開口と、第1低圧吐出油路112の開口および第2低圧吐出油路116の開口との間に位置させられて、それらと連通していないときに、所定の油圧室96aと第1高圧吐出油路110および第2高圧吐出油路114との間がそれぞれ連通させられるための、ポンプ室100の側面102および側面104にそれぞれ形成された第1油逃がし油路118および第2油逃がし油路120を備えている。上記所定の油圧室96aは、複数の油圧室96のうち、第1高圧吐出油路110の開口と第1低圧吐出油路112の開口との間の壁面122(図5参照)と、第2高圧吐出油路114の開口と第2低圧吐出油路116の開口との間の壁面124(図6参照)とによって軸心C1方向から挟まれて油密とされた瞬間のものを指す。
【0039】
図5に示すように、上記第1油逃がし油路118は、上記所定の油圧室96aの全体が第1高圧吐出油路110と第1低圧吐出油路112との間の閉じ込み位置に位置させられるときにおいて、第1高圧吐出油路110の前記回転方向の前方側端面110aのうちの内周歯90と外周歯84との間の最近接点或いは接触点である噛合位置Xの軌跡Kよりも径方向外側から、前記回転方向の前方側へ周方向に延設されて、先端部が所定の油圧室96aに連通させられる第1外側周方向溝126と、前方側端面110aのうちの内周歯90と外周歯84との噛合位置Xの軌跡Kよりも径方向内側から、前記回転方向の前方側へ周方向に延設されて、先端部が所定の油圧室96aに連通させられる第1内側周方向溝128とにより、構成されている。
【0040】
図6に示すように、前記第2油逃がし油路120は、上記所定の油圧室96aの全体が第2高圧吐出油路114と第2低圧吐出油路116との間の閉じ込み位置に位置させられるときにおいて、第2高圧吐出油路114の前記回転方向の前方側端面114aのうちの内周歯90と外周歯84との間の最近接点或いは接触点である噛合位置Xの軌跡Kよりも径方向外側から、前記回転方向の前方側へ周方向に延設されて、先端部が所定の油圧室96aに連通させられる第2外側周方向溝130と、前方側端面114aのうちの内周歯90と外周歯84との噛合位置Xの軌跡Kよりも径方向内側から、前記回転方向の前方側へ周方向に延設されて、先端部が所定の油圧室96aに連通させられる第2内側周方向溝132とにより構成されている。
【0041】
ここで、ハウジング82は、図4に示すように、円板状のポンプボデー134と、そのポンプボデー134の前後進切替装置16側の端面に比較的大径に且つ浅く形成された嵌合穴136内に嵌合された状態で複数のボルト138により固定されたポンプカバー140とが組み合わされて構成されている。前記円筒状内周面98は、上記嵌合穴136の底面に形成された有底円筒孔の内周面である。そして、前記ポンプ室100の側面102は、上記有底円筒孔の底面であり、側面104は、上記ポンプカバー140のポンプボデー134側の端面である。ポンプ室100は、上記有底円筒孔と上記ポンプカバー140のポンプボデー134側の端面とによって囲まれた空間により形成されている。そして、ポンプカバー140の内周面には、一端部がトルクコンバータ14のステータ翼車14sに連結された円筒状のステータシャフト142の他端部が、一体的に嵌め着けられている。そのステータシャフト142の内周側には、タービン軸34が貫通させられている。第1吸入油路106、第1高圧吐出油路110、および第1低圧吐出油路112は、図5および図6に示すように、ポンプボデー134に形成されている。また、第2吸入油路108、第2高圧吐出油路114、および第2低圧吐出油路116は、ポンプカバー140に形成されている。
【0042】
図8は、オイルポンプ28および油圧制御回路76の構成の一部を模式的に例示した図である。オイルポンプ28の第1吸入油路106および第2吸入油路108は、互いに接続され、例えば前記トランスミッションケースに形成された第1油路144とストレーナ146とをそれぞれ介して、上記トランスミッションケースの下部に固定されたオイルパン148内の油貯溜空間に連通されている。また、オイルポンプ28の第1高圧吐出油路110および第2高圧吐出油路114は、互いに接続され、例えば前記トランスミッションケースに形成された第2油路150を介して、油圧制御回路76内に設けられた例えば良く知られたリリーフ形のレギュレータ152の第1入力ポート154に接続されると共に、例えば前記マニュアルバルブ、前記変速制御用ソレノイドバルブ、および前記挟圧力制御用ソレノイドバルブ等を含むバルブ装置156に接続されている。また、オイルポンプ28の第1低圧吐出油路112および第2低圧吐出油路116は、互いに接続され、例えば前記トランスミッションケースに形成された第3油路158を介して油圧制御回路76のレギュレータ152の第2入力ポート160に接続されている。
【0043】
上記バルブ装置156に供給される作動油は、レギュレータ152によってそのレギュレータ152からのリリーフ量が調節されることでその油圧値が調圧されるようになっている。具体的には、上記バルブ装置156に供給される作動油は、図9の下段に示すように、車両の定常走行状態において、エンジン回転速度NEが予め定められた所定エンジン回転速度NE1以下であって、各高圧吐出油路から吐出される作動油の油圧値すなわち高圧ポート油圧値Pp1が予め定められた所定の高油圧値Pphigh以下である場合には、そのままの油圧値で用いられる。また、エンジン回転速度NEが上記所定エンジン回転速度NE1を超えるときであって高圧ポート油圧値Pp1が上記所定の高油圧値Pphighを超えようとする場合には、レギュレータ152により所定の高油圧値Pphighに調圧されて用いられる。ここで、図9の上段に示すのは、オイルポンプ28の各吐出油路からの作動油の吐出量Qである。第1高圧吐出油路110および第2高圧吐出油路114からの作動油の吐出量すなわち高圧ポート吐出量Q1、および第1低圧吐出油路112および第2低圧吐出油路116からの作動油の吐出量すなわち低圧ポート吐出量Q2は、エンジン回転速度NEにそれぞれ正比例する。
【0044】
ここで、第1高圧吐出油路110および第2高圧吐出油路114からの高圧ポート吐出量Q1は、車両の定常走行状態において、無段変速機18の入力軸回転速度NINが前記変速制御手段78による変速制御の最低目標入力軸回転速度NINT_L以上の回転域にある場合であって、エンジン回転速度Nが上記最低目標入力軸回転速度NINT_Lに対応する所定エンジン回転速度N2以上となる場合に、バルブ装置156に供給される相対的に高油圧(高油圧値Pphigh)の作動油の消費量Q’が、第1高圧吐出油路110および第2高圧吐出油路114からの高圧ポート吐出量Q1だけで充足されるように予め設定されている。具体的には、車両の平坦路且つ定速の定常走行状態において、エンジン回転速度Nが所定エンジン回転速度N2以上となる場合に上記相対的に高油圧の作動油の消費量Q’が、高圧ポート吐出量Q1だけで充足されるように、第1高圧吐出油路110および第2高圧吐出油路114の周方向の開口角度範囲(周方向長さ)、および第1低圧吐出油路112および第2低圧吐出油路116の周方向の開口角度範囲(周方向長さ)がそれぞれ予め実験的に求められて設定されている。なお、本実施例の高圧ポート吐出量Q1は、高圧ポート吐出量Q1および低圧ポート吐出量Q2の合計吐出量に対して1/2よりも多くなるように設定されている。すなわち、図9に示すように、所定のエンジン回転速度たとえば所定エンジン回転速度N2において、高圧ポート吐出量Q1(N2)が、合計吐出量Q1(N2)+Q2(N2)の1/2よりも大きくなるように設定されている。
【0045】
そして、前記第1低圧吐出油路112および第2低圧吐出油路116から第3油路158に供給される作動油は、車両の定常走行状態において、入力軸回転速度NINが前記最低目標入力軸回転速度NINT_Lを下回り、図9の下段に示すように、エンジン回転速度Nが所定エンジン回転速度N2を下回る場合には、レギュレータ152の第2入力ポート160が塞がれることで昇圧させられて第2油路150内の油圧値よりも大きくなることにより、第3油路158と第2油路150との間に設けられた一方向弁162を介して第2油路150へ流出させられるようになっている。
【0046】
また、第1低圧吐出油路112および第2低圧吐出油路116から第3油路158に供給される作動油は、車両の定常走行状態において、入力軸回転速度NINが前記最低目標入力軸回転速度NINT_L以上の場合であって、図9の下段に示すように、エンジン回転速度Nが所定エンジン回転速度N2以上となる場合には、所定の低油圧値Pplowに調圧する図示しない調圧バルブとつながる為、所定の低油圧値Pplowに維持される。したがって、本実施例のオイルポンプ28は、バルブ装置156に供給される前記相対的に高油圧の作動油の消費量Q’が、第1高圧吐出油路110および第2高圧吐出油路114からの高圧ポート吐出量Q1だけで充足される場合には、第1低圧吐出油路112および第2低圧吐出油路116から吐出される油圧の油圧値(低圧ポート油圧値Pp2)が、第1高圧吐出油路110および第2高圧吐出油路114から吐出される油圧の油圧値(高圧ポート油圧値Pp1)よりも所定圧△Pp低い低油圧(低油圧値Pplow)に維持されるようになっている。
【0047】
以上のように構成されたオイルポンプ28では、ドライブギヤ88およびドリブンギヤ94が前記回転方向に回転させられると、容量Vが増加する周方向範囲を移動させられる油圧室96には、オイルパン148に貯溜された油がストレーナ146および第1油路144を通じて吸入される。そして、容量Vが減少する周方向範囲のうちの第1高圧吐出油路110および第2高圧吐出油路114が開口する周方向範囲を移動させられる油圧室96からは、上記吸入されて加圧された油が第2油路150を通じて油圧制御回路76へ圧送される。そして、容量Vが減少する周方向範囲のうちの第1低圧吐出油路112および第2低圧吐出油路116が開口する周方向範囲を移動させられる油圧室96からは、上記吸入されて加圧された油が第3油路158を通じて油圧制御回路76へ圧送される。
【0048】
ここで、車両の定常走行状態においては、無段変速機18の変速状態に拘わらず、入力軸回転速度NINが最低目標入力軸回転速度NINT_L以上となってエンジン回転速度Nが所定エンジン回転速度N2を超え、バルブ装置156に供給される相対的に高油圧の作動油の消費量が第1高圧吐出油路110および第2高圧吐出油路114からの高圧ポート吐出量Q1だけで充足されるため、第1低圧吐出油路112および第2低圧吐出油路116から吐出される油圧の油圧値(低圧ポート油圧値Pp2)が所定の低油圧に維持される。
【0049】
因みに、従来のオイルポンプは、図9の上段において破線で示すように、高圧ポート吐出量Q3および低圧ポート吐出量Q4の合計吐出量に対して高圧ポート吐出量Q3の割合(流量配分)が、1/2以下となるように設定される。そして、車両の定常走行状態においては、エンジン回転速度Nが、所定エンジン回転速度N2よりも大きい所定エンジン回転速度N3以上となる場合に、バルブ装置156に供給される相対的に高油圧の作動油の消費量Q’が、高圧ポート吐出量Q3だけで充足されるようになっている。したがって、無段変速機18の変速状態によっては、エンジン回転速度Nが所定エンジン回転速度N3を下回って、バルブ装置156に供給される相対的に高油圧の作動油の消費量Q’が、高圧ポート吐出量Q3だけで充足されず、第1低圧吐出油路112および第2低圧吐出油路116から吐出される作動油の油圧値(ポート油圧値Pp3)が所定の低油圧に維持されない場合がある。そのため、オイルポンプの駆動トルクを十分に低減することができないという問題があった。
【0050】
上述のように、本実施例のオイルポンプ28によれば、第1高圧吐出油路110および第2高圧吐出油路114からの吐出量(高圧ポート吐出量Q1)は、車両の定常走行状態において、無段変速機18の入力軸回転速度NINが、その無段変速機18の変速制御の予め定められた最低目標入力軸回転速度NINT_L以上の回転域にある場合であって、エンジン回転速度Nが上記最低目標入力軸回転速度NINT_Lに対応する所定エンジン回転速度N2以上となる場合に、相対的に高油圧の作動油の消費量Q’が高圧ポート吐出量Q1により充足されるように予め設定されていることから、車両の定常走行状態においては、無段変速機18の変速状態に拘わらず前記高油圧の作動油の消費量が常に高圧ポート吐出量Q1により充足され、第1低圧吐出油路112および第2低圧吐出油路116から吐出される作動油の油圧値(低圧ポート油圧値Pp2)が所定の低油圧に維持されるので、オイルポンプ28の駆動トルクを十分に低減することができる。
【0051】
また、本実施例のオイルポンプ28によれば、高圧ポート吐出量Q1は、高圧ポート吐出量Q1および低圧ポート吐出量Q2の合計吐出量に対して1/2よりも多くなるように設定されていることから、例えば、高圧ポート吐出量Q1が高圧ポート吐出量Q1および低圧ポート吐出量Q2の合計吐出量に対して1/2またはそれ以下となるように設定される場合と比べて、前記高油圧の作動油の消費量Q’が高圧ポート吐出量Q1だけで充足される無段変速機18の入力軸回転速度域の下限値が、低回転側となり、第1低圧吐出油路112および第2低圧吐出油路116から吐出される作動油が所定の低油圧に維持されるための無段変速機18の入力軸回転速度域が十分に大きく得られるので、ポンプ駆動トルクを十分に低減することができる。
【0052】
また、本実施例のオイルポンプ28によれば、互いに平行に設けられた入力軸36および出力軸40と、その入力軸36に設けられた駆動側溝幅可変プーリ42と、出力軸40に設けられた従動側溝幅可変プーリ46と、その一対の溝幅可変プーリ42および46のV溝にそれぞれ巻き掛けられた伝動ベルト48と、上記一対の溝幅可変プーリ42および46の伝動ベルト48に対するベルト挟圧力をそれぞれ付与する駆動側油圧シリンダ50および従動側油圧シリンダ52とを備え、その一対の油圧シリンダ50および52に前記高油圧が供給されることでその一対の油圧シリンダ50および52がそれぞれ作動させられて、伝動ベルト48の一対の溝幅可変プーリ42および46に対する掛かり径が変化させられることにより、変速比γを無段階に変化させるベルト式の無段変速機18を備えることから、車両の定常走行状態においては、無段変速機18の変速状態に拘わらず上記一対の油圧シリンダ50および52に供給される前記高油圧の作動油の消費量Q’が第1高圧吐出油路110および第2高圧吐出油路114からの高圧ポート吐出量Q1により充足され、第1低圧吐出油路112および第2低圧吐出油路116から吐出される作動油が所定の低油圧に維持されるので、オイルポンプ28の駆動トルクを十分に低減することができる。
【0053】
以上、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、別の態様でも実施され得る。
【0054】
たとえば、第1高圧吐出油路110および第2高圧吐出油路114は、少なくとも一方が設けられればよい。
【0055】
また、第1低圧吐出油路112および第2低圧吐出油路116は、少なくとも一方が設けられればよい。
【0056】
また、第1油逃がし油路118および第2油逃がし油路120は、必ずしも設けられなくてもよい。
【0057】
また、オイルポンプ28は、ベルト式の無段変速機18を含む車両用動力伝達装置10に設けられていたが、その他の型式の無段変速機を含む車両用動力伝達装置に設けられてもよい。
【0058】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、その他一々例示はしないが、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0059】
10:車両用動力伝達装置
12:エンジン
18:無段変速機
28:オイルポンプ
36:入力軸
40:出力軸
42:駆動側溝幅可変プーリ(溝幅可変プーリ)
46:従動側溝幅可変プーリ(溝幅可変プーリ)
48:伝動ベルト
50:駆動側油圧シリンダ(油圧シリンダ)
52:従動側油圧シリンダ(油圧シリンダ)
82:ハウジング
84:外周歯
88:ドライブギヤ
90:内周歯
94:ドリブンギヤ
96:油圧室
100:ポンプ室
102:側面
104:側面
110:第1高圧吐出油路(高圧吐出油路)
112:第1低圧吐出油路(低圧吐出油路)
114:第2高圧吐出油路(高圧吐出油路)
116:第2低圧吐出油路(低圧吐出油路)
C1:軸心(一軸心)
C2:偏心軸心
IN:入力軸回転速度
INT_L:最低目標入力軸回転速度(最低目標回転速度)
Q1:高圧ポート吐出量(高圧吐出油路からの吐出量)
Q1(N2)+Q2(N2):合計吐出量
Vo:油圧室の容積
a:回転方向
γ:変速比
△Pp:所定圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周歯を有し、エンジンによって一軸心まわりに回転駆動されるドライブギヤと、該ドライブギヤの外周歯に噛み合わされた内周歯を有して前記一軸心から偏心した偏心軸心まわりに回転可能に設けられ、該ドライブギヤにより回転駆動される円環状のドリブンギヤと、該ドリブンギヤおよびドライブギヤが収容させられたポンプ室と、該ポンプ室内から油を吐出するために該ポンプ室の側面に周方向の所定の間隔を隔ててそれぞれ開口させられ、前記内周歯と外周歯との噛合隙間によって周方向に形成された複数の油圧室が前記ドライブギヤおよびドリブンギヤの回転に伴って所定の回転方向に移動させられるときにおいて、該油圧室の容積が減少させられる過程で順次連通させられる高圧吐出油路および低圧吐出油路とを有するハウジングとを備え、相対的に高油圧の作動油の消費量が該高圧吐出油路からの吐出量だけで充足される場合には、該低圧吐出油路からの油圧が前記高圧吐出油路の油圧よりも所定圧低い低油圧に維持される内接歯車型のオイルポンプと、
前記相対的に高油圧の作動油の少なくとも一部が供給されることで作動させられる無段変速機と
を、備える車両用動力伝達装置であって、
前記高圧吐出油路の吐出量は、車両の定常走行状態において、前記無段変速機の入力軸回転速度が該無段変速機の変速制御の予め定められた最低目標回転速度以上の回転域において、前記相対的に高油圧の作動油の消費量が前記高圧吐出油路からの吐出量により充足されるように予め設定されていることを特徴とする車両用動力伝達装置。
【請求項2】
前記高圧吐出油路の吐出量は、該高圧吐出油路および前記低圧吐出油路の合計吐出量に対して、1/2よりも多くなるように予め設定されていることを特徴とする請求項1の車両用動力伝達装置。
【請求項3】
前記無段変速機は、互いに平行に設けられた入力軸および出力軸と、該入力軸および出力軸に設けられた一対の溝幅可変プーリと、該一対の溝幅可変プーリのV溝にそれぞれ巻き掛けられた伝動ベルトと、該一対の溝幅可変プーリの該伝動ベルトに対する挟圧力をそれぞれ付与する一対の油圧シリンダとを備え、該一対の油圧シリンダに前記高油圧が供給されることで該一対の油圧シリンダがそれぞれ作動させられて、前記伝動ベルトの前記一対の溝幅可変プーリに対する掛かり径が変化させられることにより、変速比を無段階に変化させるベルト式無段変速機であることを特徴とする請求項1または2の車両用動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−17802(P2012−17802A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155179(P2010−155179)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【出願人】(000241267)豊興工業株式会社 (63)
【Fターム(参考)】