説明

車両用速度制御システム

本発明は、予め設定された目標速度域内で燃費を指向しながら車速を制御するための、燃費指向の速度制御モードを起動するための操作ユニットと、前記燃費指向の速度制御が起動状態にあるときに、予め設定された最大エネルギ消費値に配慮しながら、前記予め設定された目標速度域内で車速を制御するようになっている、制御ユニットとを備えた、車両用の速度制御システムに関する。その際に車速は、前記予め設定された目標速度域内に位置する車速に調整することが可能である限りは、前記予め設定された最大エネルギ消費値を上回ることがないように、前記予め設定された最大エネルギ消費値に配慮しながら制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ありとあらゆる種類の車両(例えば、エンジン、またはハイブリッド駆動装置、または電気駆動装置、またはソーラー式駆動装置等を搭載した自動車、または軌条車両、または貨物自動車、または軍用車両、またはカタピラ車、または二輪車)を対象に、燃費を指向して予め設定された目標速度域内で車速を制御するための、速度制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
速度制御システムを車両に具備することは、かねてより知られている。現在入手可能な速度制御システムの大半は、目標速度を設定することにより、車両の速度を制御している。これらのシステムは、中でも特に交通密度が低い交通路を走行する場合に適したものとなっているが、なぜならそこでは、定速走行が所望されることが多いからである。
【0003】
これらの速度制御装置とならび、今日では既にメーカー数社から、車間距離制御機能を追加した、拡張型の速度制御システムも入手できるようになっている。そこでは原則的に、広く一般に知られている、指定の目標速度が予め設定されるようになっている速度制御モードを、これに車間距離制御機能を追加して拡張することによって、交通量の多い高速道や幹線道においても、そのような「車間距離に関連付けた」速度制御モードを導入できるようにしている。このいわゆる「車間距離に関連付けた速度制御モード」により、自車の走行車線がフリーである場合は、予め設定された所望の速度が維持される。自動車に取り付けられた、特にレーダ方式に基づき作動可能な車間距離センサにより、自車線上の先行目的物ないしは先行車両(先行車)が検出されると、自車の速度が、例えば適切な制動トルクを誘発することによって、先行車の速度に対して適合化される。そのようなシステムにより、一部では、同じ速度で追走する場合は、停止状態となるまで、制御が可能となる。
【0004】
これらの従来型の速度制御システムとならび、予め設定された目標速度に車速を調整するのではなくて、むしろ有利な燃費が得られるように、予め設定された速度域内で車速を変化させるようにした、速度制御システムも知られている。例えば特許文献1には、駆動ユニットの自動的な閉ループまたは開ループ制御を通じて、速度を設定された目標値に制御する装置が開示されるが、そこではこの目標値に対して、目標値を含む一つの数値範囲が割り当てられている。もっともこの装置では、車速がこの数値範囲外となったときに初めて制御介入が行われるようになっている。その結果、例えば登坂走行では、車速がこの数値範囲内で急速に低下することになる、即ち、追従制御は、一切行われないようになっている。この数値範囲の下限値に達すると、初めて加速が行われる。速度制御システムをそのように構成することにより、燃料を節減することができる。しかしながらこのシステムは、この数値範囲の両限界値に達したときに初めて制御介入が行われるために、車両は、下限値に初めて達した後には、この速度に維持されることになる。
【0005】
特許文献2からは、速度を予め設定された目標値に制御するための速度制御システム、および、燃費を予め設定された燃費値または最大燃費値に制御するための燃料制御システムが知られているが、そこでは燃費制御の方により高い優先順位が与えられている。例えば、予め設定された(最大)燃費値に配慮しながら、予め設定された目標速度を維持すること、またはこれに達することが不可能である場合は、速度制御が無効にされるか、または別の目標速度が設定されるようになっている。そのようなシステムでは、目標速度の維持がもはや不可能なる事態を、あっという間に生じかねない点―その場合は、速度制御が不動化されることになる―が短所となっている。それにより自動的な速度制御は、ほとんど不可能となるか、可能であったとしもごく短時間だけに限られることになる。また、燃費値を超えることは許されないために、全ての上り坂で、車両は、のろのろとしか進めないことになる―事と次第によっては、燃費値の遵守がもはや不可能となるために、車両がなんと停止することもある。それにより、危険な交通状況を来たす怖れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】ドイツ特許出願公開第10205226号明細書
【特許文献2】ドイツ特許出願公開第102005017965号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、交通の障害となることなく、一方では最適省燃費を、他方ではそれと同時に快適な走行を可能とする、燃費指向の速度制御を行うための、改良型速度制御システムを提示することにある。また、例えばクルーズ・コントロール(アダプティブ・クルーズ・コントロール:ACC)、またはブレーキへの制御介入が行われるクルーズ・コントロール(アダプティブ・シャシー・コントロール:DCC)への統合が実現されるようにする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は、請求項1に記載の速度制御システムにより解決される。有利な展開構成例は、従属クレームから明らかにされる。
本発明は、車速が、燃費指向の制御を行うために、目標速度にではなく、むしろ予め設定された目標速度域内に制御される、車両用速度制御システムを前提技術として成されたものである。この速度制御システムは、燃費指向の速度制御モードを起動するための少なくとも一つの操作ユニットと、燃費指向の速度制御モードが起動状態にあるときに、駆動ユニットの制御を通じて、車速を予め設定された目標速度域内に制御するようになっている、一つの制御ユニットとを有している。本発明によれば、車速は、燃費指向の速度制御の枠内では、エネルギ消費値に配慮しながら、予め設定された目標速度域内に位置する車速に調整することが可能である限りは、予め設定された最大エネルギ消費値を上回ることがないように、この予め定められた最大エネルギ消費値に配慮しながら制御される、換言すれば、この目標速度域内にあるときには、駆動ユニットに供給されるエネルギが、ある一つの最大エネルギ消費値に低減されるようにしている。速度を、この予め設定された速度域内にある速度に調整することがもはや不可能となる場合は、速度制御を行うために、この予め設定されたエネルギ消費値が無視されるようにするとよい、即ち、この速度制御モードには、予め設定された最大エネルギ消費値への配慮よりも、高い優先順位が与えられている。
【0009】
この最大エネルギ消費値ないしは低減後のエネルギ供給量は、例えば既知の、もしくは算出される原動機(エンジン/モータ)固有の平均燃費値に従属して、特に、EEC指令93/116に規定される欧州走行サイクルに基づく特にエンジン固有の平均燃費に従属して、設定されるようになっている。このエネルギ消費値は、車両にどの駆動ユニット(例えばエンジン、電動モータ、ハイブリッド駆動装置、ソーラー式駆動装置等)が組み付けられているのかにより、燃費値、および/または、駆動装置のための当該エネルギの消費量を表している、エネルギ消費値である。
【0010】
目標速度域は、第1の選択肢においては、特定の走行モード(例えば市街地走行モード、幹線道走行モード、または高速道走行モード)に関して、運転者にとり快適な速度への調整が行われるように、システム側で設定されるようになっている。例えば、ドイツ国内における幹線道走行モードについては、85km/hから100km/hまでの間の目標速度域が考えられ、また高速道走行モードについては、115km/hから135km/hまでの間の目標速度域が考えられる。高速道走行モードにおいては、目標速度域の上限値をこれよりも(大幅に)高く設定することは、必ずしも賢明とはいえない。なぜなら一方では、目標速度域は、これが広くなり過ぎないように、設定することが求められるからであり、他方では、運転者は通例、高速を希望する場合は、燃費を気にしないからである。それとは関係なく、高速モードを備えることも可能である。実際には、どのような目標速度域であれ、実現することができる。
【0011】
少なくとも一つの目標速度域の限界値は、例えば、規定されている、道路またはエリアに固有の制限速度に従属して適合化されるとよいが、これらの制限速度もまた、その国その国に固有のものであってもかまわない。
【0012】
特定の走行モードにおける運転者の運転スタイルに目標速度域をより良好に合わせられるようにするために、運転者により、システム側で設定されるこの目標速度域に、一定の限界範囲内で影響を与えることができるようにすると理想的である。この場合は、国固有の法定最高速度および/またはほかにも最低速度に配慮することが推奨される。
【0013】
この第1の選択肢においては、燃費指向の速度制御モードを、当該操作ユニットが操作される際には(例えば、クルーズ・コントロール・レバーの長押しにより)、この操作ユニットの操作の時点に、実際の車速が予め設定された目標速度域内に位置する場合に限り、起動できるようにすると有利である。そうでない場合は、例えば従来方式のクルーズ・コントロールのスイッチがオンにされるようになっている。
【0014】
例えばさまざまな走行モードを対象として、重なり合ってはいないと有利である複数の目標速度域がシステム側で設定されている場合は、当該操作ユニットが操作されると、これらの目標速度域の内、実際の速度が含まれている目標速度域を、基礎として用いるようになっている。実際の速度が、予め設定された目標速度域のいずれの域内にも位置していない場合は、燃費指向の速度制御モードが起動されることはない。その代わりに、従来方式の、実際の速度を目標速度として、この速度への制御を行う速度制御モード、または別の新たに設定される目標速度へ制御を行う速度制御モードを起動できるようにすると有利である。
【0015】
第2の選択肢においては、車両に例えば「ECO」ボタンが備えられ、運転者は、燃費指向の速度制御モードを利用する前には、このボタンを押してECOモードを起動しなければならないことを前提としている―車両は、実際には「ECO」ボタンを押してECOモードを起動することによって、燃費指向の走行状態に移行するようになっている。「ECO」ボタンが押されずECOモードが起動されない場合は、従来方式のクルーズ・コントロールのみが機能することになる。運転者が当該操作ユニット(例えば「ECO」ボタン)を押してECOモードを再び不動化するまでは、この燃費指向で走行する走行状態を維持することができる。以下に記載されるこの第2選択肢のそれぞれの実施形態では、この「ECO」ボタンが押されてECOモードが起動されており、車両が燃費指向の走行状態にあることを前提としている。
【0016】
この第2の選択肢においては、目標速度域ないしは目標速度域の限界値を、燃費指向の速度制御モードの起動要望(起動用操作ユニットの操作)が検出された際に、実際の車速に従属して設定できるようになっている。換言すれば運転者は、ほとんど全ての実際の車速で、燃費指向の速度制御モードを起動可能であって、またその際には目標速度域が実際の車速に基づいて設定されることになる。
【0017】
燃費指向の速度制御モードを起動するための操作ユニットが操作されると、この目標速度域の上限値として、実際の車速が設定されるようにすると理想的である。この場合は、この目標速度域の下限値として、実際の車速ないしはこの上限値に従属して、それよりも低い速度が設定される。これは例えば、目標速度域の下限値が、上限値よりも所定の百分率(例えば20%)分だけ、または所定の(速度に従属した)絶対速度値分だけ、低くなるように設定されることが企図されるとよい。例えば実際の車速が100km/hであるときに、燃費指向の速度制御モードを起動するための操作ユニットが操作された場合は、目標速度域の上限値として100km/hが設定され、下限値として80km/h([上限速度]−20%)が設定される。同様に150km/h時に起動された場合は、目標速度域の上限値として150km/hが設定され、下限値として120km/hが設定される。50km/h時に起動された場合は、目標速度域が40km/hから50km/hまでとなる。
【0018】
目標速度域の設定方式に関する上述の選択肢の長所は、運転者が、速度を問わずに燃費指向の速度制御モードを起動可能であり、しかも目標速度域の設定範囲が、運転者にとり直感的に納得できるものとなる点に見出される。したがって運転者は、走行することになる最高速度を、身をもって体験できるように、自ら定義することになる。
【0019】
従来型のシステムにおいては、いつでもアクセルペダルを踏み込むことにより、燃費指向の速度制御モードに優先して、一時的に加速を行うことができる。この加速工程が完了した後には、車速が目標速度域内に戻ったときに初めて、燃費指向の速度制御が再開される。車両は、実際には唐突に減速されることはなく、車速が再び目標速度域内に戻るまで惰走する。燃費指向の速度制御モードは、ブレーキペダルを踏み込むことにより、どんな場合にも直ちに不動化されるようになっている。
【0020】
一構成例においては、予め設定された目標速度域内で行われる燃費指向の速度制御の間は、最大エネルギ消費値に配慮しながら、可能な限り高い速度に調整されるように、車両の速度が制御されるようになっている。
【0021】
あるいはその代わりに、別の構成例においては、予め設定された目標速度域内で行われる燃費指向の速度制御の間に、最大エネルギ消費値に配慮しながら、可能な限り低い速度に調整されるように、車両の速度が制御されるようになっている。
【0022】
燃費指向の速度制御に際して、最大エネルギ消費値に配慮するせいで、車速を目標速度域内に維持することが不可能となる事態を生じることがある。目標速度域に再び到達できるようにする、またはこれを維持できるようにするためには、予め設定された目標速度域の下限値に達したとき、またはこれを下回った場合は、予め設定された最大エネルギ消費値にはもはや配慮せずに、むしろこれとは関係なく、目標速度域のこの下限値に再び達することができるように、またはこれを維持できるように、車速制御が行われるように、速度制御システムが構成されると有利である。それにより、車両が交通の障害となる事態が回避される。上り坂では、決まってそのような運転状態を生じている。特にこの場合は、エネルギ消費値とは関係なく、少なくとも目標速度域の下限値と等しいか、またはそれよりも高い車速への調整が行われるようにするとよい。
【0023】
予め設定された最大エネルギ消費値への配慮を再開し、これに配慮しながら、目標速度域の下限値に調整することができる、または少なくともこれを維持することができると予想される場合は、速度制御が再び、この予め設定された最大エネルギ消費値に配慮しながら行われるようになっている。そこでは、有利なことにも、エネルギ消費値とは無関係で行われる速度制御モードがアクティブ状態となるのは、目標速度域内にある、予め設定された第1の最低速度に達するまでの間、または、この予め設定された第1の最低速度に達して、さらに、少なくとも予め設定された最大エネルギ消費値以下のエネルギ消費値を投入することにより、この第1の最低速度が所定の第1の時間長にわたり維持されていた間に限られている。この予め設定される第1の最低速度値は、例えば目標速度域の下限値であるか、またはこの下限値を上回るものであるとよい。
【0024】
さらにより多くのエネルギを節減できるようにするためには、自動的に作動可能なクラッチが備えられた車両においては、降坂走行が検出されると、クラッチを切り離すことにより、駆動ユニットと変速機ユニットないしは各駆動輪との間のトラクション(動力伝達)が中断されるとともに、駆動ユニットへのエネルギ供給量がゼロ付近となるまで低減されるようにするとよい。第1の選択肢においては、惰行運転が存在しており(即ち、エネルギ消費値がゼロに近付いており)、且つ車速が目標速度域内で一定に維持されるか、または上昇している場合に、このトラクション中断とエネルギ供給量の低減を実行できるようになっている。この条件が、制御ユニットにより検出される、または相応の信号により表示されると、制御ユニットは、車両の駆動ユニットと変速ユニットないしは各駆動輪間のトラクションを中断するために、トラクション中断信号を送出する。
【0025】
あるいはその代わりに、制御ユニットは、目標速度域の上限値に達するか、またはこれを上回ると初めて、車両の駆動ユニットと変速ユニットないしは各駆動輪間のトラクションを中断するために、トラクション中断信号を送出する。それにより、エネルギ供給を相応に行うことによって、車両が可能な限り速やかに目標速度域の上限値に達することを保証するとともに、それにもかかわらず速度が(例えば惰行運転のせいで)なおも上昇する場合に初めて、クラッチが切断されることを保証することができる。目標速度域内で行われる燃費指向の速度制御の間には、ブレーキへの自動的な制御介入が行われないために、例えば惰行運転のせいで、目標速度域の上限値を最小限だけ上回ることがある。
【0026】
予め設定された目標速度域を維持することができる、またはこれに達することができるようにするために、(いずれの選択肢においても)目標速度域の上限値に当該する、最高許容車速への調整が行われるように、ブレーキへの制御介入が開始されるようになっている。
【0027】
クラッチが切り離された状態で、目標速度域内にある、予め設定された第2の最低速度に、ブレーキへの制御介入を不要として達すると、またはブレーキの制御介入を不要として、この第2の最低速度が維持される(即ち、降坂走行時の重力加速度がもはや存在せず、車速が低下する)場合は、制御ユニットが、駆動ユニットと変速ユニットもしくは各駆動輪間のトラクションを復旧するための、トラクション再開信号を送出する。これを受けてトラクションは復旧され、速度制御は再び、予め設定された最大エネルギ消費値に配慮しながら、この最大エネルギ消費値を超過しないように行われる。第2の最低速度としては、目標速度域の上限値、または目標速度域の下限値、または目標速度域内にある任意の速度が設定されるとよい。
それでは、本発明を幾つかの実施例に基づき詳しく説明することにする。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】車速の燃費指向の速度制御を行うための速度制御システムを示す図である。
【図2】燃費指向の速度制御モードの本発明にしたがった第1の選択肢を示す第1のフローチャートである。
【図3】燃費指向の速度制御モードの本発明にしたがった第2の選択肢を示す第2のフローチャートである。
【図4】燃費指向の速度制御モードの本発明にしたがった第3の選択肢を示す第3のフローチャートである。
【図5】燃費指向の速度制御モードの本発明にしたがった第4の選択肢を示す第4のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1には、予め設定された目標速度域内で燃費指向の速度制御を行うための、車両用速度制御システムGSが示されている。このシステムGSは、燃費指向の速度制御モードを起動するための操作ユニットBE、および、燃費指向の速度制御モードが起動状態にあるときに、予め設定された最大エネルギ消費値に配慮しながら、車速を予め設定された目標速度域内で制御するようになっている制御ユニットSGから成っている。操作ユニットBEは、例えば従来型の速度制御システムで知られるようなレバーまたはスイッチ配列であるとよい。操作ユニットBEは、所定の方式で操作されると、制御ユニットSGに向け、運転者が消費指向の速度制御モードを求めていることを制御ユニットSGに表示する、相応の作動信号beを送信する。
【0030】
制御ユニットSGは、この作動信号beのほかにも、燃費指向の速度制御のために必要なさらに別の信号を多数受け取るようになっている。例えば制御ユニットSGは、実際の車速に関する信号vist、ならびに、実際のエネルギ消費値に関する信号eistを受け取るようになっている。同様に、ここには図示されないものの、制御ユニットは、少なくとも一つの予め設定された目標速度域の、自動的に、または運転者により変更された限界値を受け取るようにしてもよい。これらの限界値は、制御ユニットに内蔵されたメモリ内に保存されたものであってもよい。
【0031】
予め設定された最大エネルギ消費値に配慮しながら、車速を制御できるようにするために、制御ユニットは、必要に応じて駆動ユニットを適宜動作制御するために、動作制御ユニットに向けて少なくとも一つの駆動信号aを送信するほか、必要に応じてブレーキ系統を適宜動作制御するために、ブレーキ系統に向けてブレーキ信号bを送信する。原則的にブレーキ信号bは、これが目標速度域の上限値を維持したり、これに達したりするために必要である場合に限り、送出されるようになっている。そうでない場合は、ブレーキへの制御介入は一切行われない。速度が燃費を指向して制御されることになる車両が、駆動ユニットから各駆動輪への動力伝達を中断するための、自動的に作動可能なクラッチを備えた車両である場合は、制御ユニットが、クラッチの動作制御を行うことができるユニットに向けて、トラクション中断信号「K auf」およびトラクション再開信号「K zu」を送信するように構成される。
【0032】
さて、ここで次の図2および図3を両方とも参照すると、そこには、予め設定された目標速度域内で燃費指向の速度制御が行われる速度制御システムの二通りの選択肢が簡素化して示されている。原則的にいずれの選択肢においても、既存のクルーズ・コントロール・レバーBEの、定義された向きへの長押しによる、燃費指向の速度制御モードの起動、アクセルペダルの踏み込みによる、(既述のような)燃費指向の速度制御モードに優先して行われる加速、および、ブレーキペダルの踏み込みによる、燃費指向の速度制御モードの不動化が可能となっている。燃費指向の速度制御を行うために、ほかにもシステム側で、幹線道走行モードを対象とする、85km/hの下限値Vminおよび100km/hの上限値Vmaxにより定義される目標速度域が備えられている。さらにそれに追加して、高速道走行モードを対象とする、115km/hから135km/hまでの間の、第2の目標速度域が備えられるようにしてもよいが、この第2の目標速度域は、図示の例においては顧慮されていない。
【0033】
いずれのフローチャートとも、プログラムのスタート時に、燃費指向の速度制御モードを起動するための既存の操作ユニットBEが所定の方式で操作されたかどうかが調べられるようになっている。クルーズ・コントロール・レバーBEの当該する長押しが行われた場合は、次のステップにおいて、実際の速度vistが、下限値Vminと上限値Vmaxにより定義される所定の目標速度域内に位置するるかどうかが調べられる。
【0034】
実際の速度が、下限値Vminと上限値Vmaxとの間には位置していない場合は、燃費指向の速度制御モードの代わりに、車両に備えられている、従来方式の、この実際の車速を目標速度として速度制御を行うDCCが起動される。しかし実際の車速が下限値Vminと上限値Vmaxとの間に位置する場合は、燃費指向の速度制御モードREGvが起動される。そこでは、予め設定された最大エネルギ消費値E_red(これは、この例においては燃費値である)に配慮しながら、駆動ユニットの相応の動作制御を通じて、予め設定されたVminとVmax間の目標速度域内に位置する車速に調整することが可能である限りは、この予め設定された最大エネルギ消費値を上回ることがないように、速度の制御が、この予め設定された目標速度域内で、この予め設定された最大エネルギ消費値E_redに配慮しながら行われるようになっている。それにより、駆動ユニットへの最大エネルギ供給量が、この駆動ユニットもしくはこのエンジン/モータに固有の平均消費値を例えば60%下回っている最大エネルギ消費値に低減されることになる。
【0035】
燃費指向の速度制御モードREGvが実行されるのは、実際の車速vistが、VminとVmax間の目標速度域内にある間に限られている。実際の車速vistがもはやVminとVmax間の目標速度域内にはないと判定されると、次のステップにおいて、実際の車速vistが目標速度域の下限値Vminを下回るか否かが照会される。これが起こり得るのは、例えば上り坂においてであるが、なぜならこのときには、予め設定されたVminとVmax間の目標速度域内に速度を維持するためには、上述の最大エネルギ消費値では足りないからである。このケースに当該する場合は、目標速度域の下限値Vminに達するために、エネルギ消費制限が取り払われて、速度制御は、無制限のエネルギ消費値E_normを用いて行われるようになっている。この燃費とは無関係の速度制御モードは、目標速度域の下限値Vminに再び達するまで、場合によってはさらに、少なくとも目標速度域の下限値Vminを維持するためのエネルギ消費値が、予め設定された最大エネルギ消費値E_redを上回っている時間である、所定の時間長ΔT1が経過するまで、行われるようになっている。要求されるエネルギ消費値E_normを用いて実行される燃費とは無関係の速度制御モードから、燃費指向の速度制御モードREGvへの切換えを行う限界速度として、この下限値Vminの代わりに、ほかにもVminとVmax間の目標速度域内にある別の最低速度を、予め設定される低減後の最大エネルギ消費値E_redに配慮した上で、基礎として用いるようにしてもよい。
【0036】
実際の車速vistがVminとVmax間の目標速度域内にはもはや位置しておらず、且つ、実際の車速vistがこの目標速度域の下限値Vminを下回ってはいないのであれば、この実際の車速vistは、この目標速度域の上限値Vmaxを上回るか、それと等しくなっている。このケースが起こり得るのは、例えば勾配があるせいで、または例えば強い追い風によって、車速が上昇する場合であることから、また、VminとVmax間で行なわれる燃費指向の速度制御の間には、ブレーキへの自動的な制御介入が一切実行されないことから、このときには車両が惰行運転状態にあると想定される。これを受けて、制御ユニットは、トラクション中断信号K aufをクラッチ制御ユニットに向けて送信し、クラッチ制御ユニットは、これを受けてクラッチを切り離して、駆動ユニットと各駆動輪間のトラクションを中断する。ほかにも、駆動ユニットへのエネルギ供給量も、ゼロ付近に低減される(または、エネルギ供給量は、車両の惰行運転の間には、いずれにせよゼロに近付くことから、ゼロ付近に維持される)が、これは、トラクションが中断されているために、いずれにせよ駆動が不可能であると同時に意味を成さないからである。引き続いて、実際の車速vistが上限速度Vmaxを依然として上回るかどうかが(再度)照会される。
【0037】
依然として上回る場合は、図3に示される実施例にしたがって、自動的なブレーキ制御介入Bが(可能であれば同時にエネルギ回生を行いながら)開始される。このブレーキ制御介入Bは、少なくとも予め設定された目標速度域の上限値Vmaxに再び達するまで、(上記と同様に)場合によってはさらに、目標速度域の上限値Vmaxに達するか、これを維持するためのブレーキ制御介入が一切実行されない時間である所定の第2の時間長ΔT2が経過するまで、実行されるようになっている。この条件が満たされると、クラッチは再びつなげられて、燃費指向の速度制御モードREGvが、予め定められる低減後の最大エネルギ消費値E_redに配慮しながら、再び実行される。
【0038】
予め設定された最大の低減後のエネルギ消費値E_redに配慮した燃費指向の速度制御モードREGvに切り換えるための限界速度として、上限値Vmaxの代わりに、ほかにもVminとVmax間の目標速度域内にある別の第2の最低速度を基礎として用いることができる。そのような例は、図3から明らかである。確かにそこでも同様に、上限値Vmaxに達するとブレーキ制御介入は撤回されるが、しかしクラッチは、目標速度域の下限値Vminを下回るときに初めてつなげられるようになっている。それにより、車両の運動エネルギおよび位置エネルギ(または車両に入力されるその他のエネルギ)が、下限値Vminに達するまでは、なおも利用し尽くされることになる。
【0039】
図2および3に記載される両プロセスに代わり、(図4および図5に補足して示すように)燃費指向の速度制御モードの起動時には、目標速度域が実際の速度に従属して設定されるようにするとよいが、その際には、目標速度域の上限値として実際の速度が設定され、下限値としてこの実際の速度よりも所定の百分率(例えば20%)の分だけ低い速度が設定されると理想的である。
【0040】
図4および図5のいずれにおいても、燃費指向の速度制御モードを起動するための操作ユニットBEが操作されると、車両が燃費指向のモードにあるかどうかが検査される、即ち、「ECO」モードがアクティブであるかどうかが検査される。運転者は、この燃費指向のモードを、例えばECOボタンを利用して、起動することができる。このECOモードがアクティブであるときだけに、燃費指向の速度制御モードを開始することができる。ECOモードがアクティブである場合は、次のステップにおいて、燃費指向の速度制御のための目標速度域が設定される。上限値Vmaxとして、操作ユニットBEの操作時点の実際の速度vistが設定され、下限値Vminとして、例えばこの上限値Vmaxの80%が設定される。目標速度域の設定後は、図4においては、図2に示される燃費指向の速度制御プロセスと同様に、図5においては、図3に示される燃費指向の速度制御プロセスと同様に、プログラムが進行する。
【0041】
しかし、燃費指向の速度制御モードを起動するための操作ユニットBEの操作時に、車両がいわゆるECOモードにはない場合は、燃費指向の速度制御モードの代わりに、従来方式の、実際の速度への速度制御が行われるDCCが起動される。
【0042】
以上のように、本発明にしたがった速度制御システムにより、予め設定された目標速度域内で燃費指向の速度制御が行われるという長所がもたらされる。上り坂のせいで車両の速度が低下した場合は、再び目標速度域内の速度での走行が、低減されたエネルギ消費量で可能となるまで、燃費指向の速度制御モードが中断される。例えば下り坂のせいで速度が目標速度域の予め設定された上限値を超過した場合は、このときには、速度を維持するために、燃料もしくはエネルギが一切不要であることから、駆動ユニットと各駆動輪間のトラクションが中断されるとともに、駆動ユニットへのエネルギの供給が断たれるようになっている。場合によっては、目標速度域の上限値に達するまで、ブレーキへの制御介入が(備えられている場合は、エネルギ回生と抱き合わせて)実行される。
【符号の説明】
【0043】
a 駆動信号
b ブレーキ信号
B ブレーキ制御介入
BE 操作ユニット/クルーズ・コントロール・レバー
be 作動信号
DCC アダプティブ・シャシー・コントロール
ΔT1 第1時間長
ΔT2 第2時間長
eist 実エネルギ消費値
E_norm 無制限のエネルギ消費値
E_red 最大エネルギ消費値
GS 速度制御システム
K auf トラクション中断
K zu トラクション再開
REGv 燃費指向の速度制御モード
SG 制御ユニット
vist 実車速
vist 操作ユニット操作時点の実車速
Vmax 上限値
Vmin 下限値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設定された目標速度域(Vmin;Vmax)内で、燃費を指向して車速(vist)を制御するための、車両用の速度制御システム(GS)であって、燃費指向の速度制御モード(REGv)を起動するための操作ユニット(BE)と、前記燃費指向の速度制御モード(REGv)が起動状態にあるときに、予め設定された最大エネルギ消費値(E_red)に配慮しながら、前記予め設定された目標速度域(Vmin;Vmax)内に位置する車速(vist)に調整することが可能である限りは、前記予め設定された最大エネルギ消費値(E_red)を上回ることがないように、前記予め設定された目標速度域(Vmin;Vmax)内で車速(vist)を制御するようになっている制御ユニット(SG)とを備えた、速度制御システム。
【請求項2】
予め設定されたエネルギ消費値(E_red)が、所定の、または算出される原動機固有の平均エネルギ消費値を下回ることを特徴とする、請求項1に記載の速度制御システム。
【請求項3】
前記予め設定された目標速度域の下限値(Vmin)に達するか下回ると、車速(vist)を、前記予め設定されたエネルギ消費値(E_red)とは関係なく、前記予め設定された目標速度域の下限値(Vmin)を上回るか、またはこれと等しい速度に調整可能であることを特徴とする、請求項1または2に記載の速度制御システム。
【請求項4】
予め設定された第1の最低速度(Vmin)に達するまで、または予め設定された第1の最低速度(Vmin)に達し、且つこの速度が、特に前記予め設定された最大エネルギ消費値(E_red)以下のエネルギ消費値(E_norm)で、所定の第1の時間長(ΔT1)にわたって維持されるまで、前記予め設定されたエネルギ消費値(E_red)とは無関係の車速制御モードがアクティブ状態となることを特徴とする、請求項3に記載の速度制御システム。
【請求項5】
車両の惰行運転、および、前記予め設定された目標速度域(Vmin;Vmax)内で一定または上昇する車速(vist)を検出すると、前記制御ユニット(SG)が、車両の駆動ユニットと各駆動輪間のトラクションを中断するために、トラクション中断信号(K auf)を送出することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の速度制御システム。
【請求項6】
前記目標速度域の上限値(Vmax)に達するか、またはこれを上回ると、前記制御ユニット(SG)が、車両の駆動ユニットと各駆動輪間のトラクションを中断するために、トラクション中断信号(K auf)を送出することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の速度制御システム。
【請求項7】
前記目標速度域(Vmin;Vmax)内で、予め設定された第2の最低速度(Vmax)に達するか、これを下回ると、前記制御ユニット(SG)が、駆動ユニットと各駆動輪間のトラクションを復旧するために、トラクション再開信号(K zu)を送出することを特徴とする、請求項5または6に記載の速度制御システム。
【請求項8】
前記目標速度域の上限値(Vmax)を上回ると、前記制御ユニット(SG)が、ブレーキ制御介入(B)を開始するために、ブレーキ信号(b)を送出することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の速度制御システム。
【請求項9】
前記操作ユニット(BE)が操作される際には、実際の車速(vist)が前記予め設定された目標速度域(Vmin;Vmax)内に位置する場合に限り、前記予め設定された目標速度域(Vmin;Vmax)内で車速の制御が行われる前記燃費指向の速度制御モード(REGv)を起動可能であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の速度制御システム。
【請求項10】
少なくとも二つの目標速度域が設定されることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の速度制御システム。
【請求項11】
前記操作ユニット(BE)が操作されると、実際の車速(vist)が含まれている目標速度域の域内で、車速の制御が行われる速度制御モードを起動可能であることを特徴とする、請求項10に記載の速度制御システム。
【請求項12】
予め設定された目標速度域内で行われる速度制御モードを起動するために前記操作ユニット(BE)が操作されると、前記目標速度域を、実際の速度(vist)に従属して設定可能であること、理想的には、前記実際の速度(vist)が前記目標速度域の上限値(Vmax)として設定され、前記実際の速度(vist)に従属した、それよりも低い速度が前記目標速度域の下限値(Vmin)として設定されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の速度制御システム。
【請求項13】
前記燃費指向の速度制御モードを起動するために前記操作ユニット(BE)が操作されると、運転者が相応の操作ユニットを使用して起動できるようにすると有利である燃費指向モード(ECO)に、車両がある場合に限り、前記燃費指向の速度制御モードが起動されることを特徴とする、請求項12に記載の速度制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−500742(P2012−500742A)
【公表日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−523341(P2011−523341)
【出願日】平成21年8月14日(2009.8.14)
【国際出願番号】PCT/EP2009/005918
【国際公開番号】WO2010/022865
【国際公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(391009671)バイエリッシェ モートーレン ウエルケ アクチエンゲゼルシャフト (194)
【氏名又は名称原語表記】BAYERISCHE MOTOREN WERKE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】