車両盗難防止制御装置
【課題】車外からの指令に基づいて安全に車両を停止させられる車両盗難防止制御装置を提供する。
【解決手段】車外からの外部停車要求が出されると、それに基づいて車両を停止させる。そして、車両を停止させる際に、所定の減速度、具体的には一定の基準減速度で停止させるようにする。このように、一定の基準減速度で車両を停止することで、急停車させたりすることなく安全に車両を停止させることが可能となる。
【解決手段】車外からの外部停車要求が出されると、それに基づいて車両を停止させる。そして、車両を停止させる際に、所定の減速度、具体的には一定の基準減速度で停止させるようにする。このように、一定の基準減速度で車両を停止することで、急停車させたりすることなく安全に車両を停止させることが可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車外からの指令に基づいて車両を停止させる車両盗難防止制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、エンジン始動時に正規のキー(鍵)が使用されているか否かを判定し、使用されていないときにエンジンが始動できないようにするイモビライザ装置などがある。しかしながら、このようなイモビライザ装置では、正規のキーが使用されている状態で車両が盗難にあった場合には、エンジンが正常に始動させられた状態になっているため、盗難された車両を停止させることができない。例えば、ゴッツン盗と呼ばれる犯人が故意に盗難したい車両にぶつかり、ぶつけられた運転手が車外に出たところで車両を盗むような場合や、バタバタ盗と呼ばれるタイヤにテープなどを貼り付け、走行中に異物に気付いた運転手が車外に出たところで車両を盗むような場合には、イモビライザ装置では対応できない。
【0003】
このため、特許文献1において、車両盗難時に、車外からの指令により、車間制御処理を使って前車に衝突することなく車両を安全に停止させるようにした車両停止制御システムが提案されている。このように、車外からの指令によって車両を停止させられるようにすることで、正規のキー(鍵)が認証されて正常にエンジン始動が行われたような場合にも、車両を停止させることが可能となり、盗難を防止することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−118550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1では、具体的な車両の停止方法については示されておらず、また、前方車が居ない状態で信号などによって急減速が必要な場合の安全や、道路上で停止した後の自車両や周辺車両の安全の確保については何ら示されていない。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、車外からの指令に基づいて安全に車両を停止させられる車両盗難防止制御装置を提供することを第1の目的とする。また、自車両や周辺車両の安全の確保と盗難の防止を両立する車両盗難防止制御装置を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、車両の外部から該車両の停止の指示が出された外部停車要求ありの状態を判定する外部停車要求判定手段(1a)と、外部停車要求判定手段(1a)にて外部停車要求ありの状態と判定されたときにブレーキシステムを用いて車両を停止させる車両停止制御手段(1b〜1f)と、を有し、外部停車要求判定手段(1a)は、外部停車要求を受信する外部信号受信手段を有し、外部信号受信手段が外部停車要求を受信した場合に外部停車要求ありの状態であると判定し、車両停止制御手段(1b〜1f)は、外部停車要求ありの状態となったときには、予め定められた減速制御にしたがってブレーキシステムによって車両に制動力を発生させることを特徴としている。
【0008】
このように、車外からの外部停車要求が出されると、それに基づいて車両を停止させるようにしている。そして、車両を停止させる際に、予め定められた減速制御にしたがって車両を停止させるようにしているため、急停車させたりすることなく、自車両の安全性が確保されるとともに後続車の追突を防止し、安全に車両を停止させることが可能となる。
【0009】
例えば、請求項2に記載したように、車両停止制御手段(1b〜1f)により、減速制御として車両を所定の減速度である基準減速度で減速させるようにすることができる。このように、一定の減速度によって車両を停止させると好ましい。
【0010】
請求項3に記載の発明では、車両停止制御手段(1b〜1f)は、車両に駆動力を発生させられる状態であるか否かを判定する作動中判定手段(S100)を有し、ブレーキシステムとして常用ブレーキと駐車ブレーキを制御することにより車両を停止させるようにしており、外部停車要求ありの状態になってから作動中判定手段(S100)にて車両に駆動力を発生させられる状態であると判定されると、常用ブレーキと駐車ブレーキの少なくとも一方を用いて車両を停止させるための制動力を発生させ、車両に駆動力を発生させられる状態ではないと判定されると、駐車ブレーキのみによって車両を停止させるための制動力を発生させることを特徴としている。
【0011】
駐車ブレーキによる制動力は駐車ブレーキを駆動するために用いるモータ(17)を停止した後にも維持できることから、電流を消費し続けなくても車両の停止を維持できる。したがって、車両に駆動力を発生させられる状態ではなくなったときには、駐車ブレーキのみによって車両を停止させるための制動力を発生させることで、電力消費の低減を図ることが可能になる。また、車両停止後に盗難車のドライバが車両を盗むことを諦め、仮に坂路等に車両を放置した場合であっても、駐車ブレーキによって長時間にわたり車両の停止を維持することができる。
【0012】
請求項4に記載の発明では、車両停止制御手段(1b〜1f)は、車両に発生しているモーメント力を抑制する目標ブレーキモーメント力を算出する抑制モーメント演算手段(1b)を有し、車両を減速させるための目標制動力に対して、抑制モーメント演算手段(1b)にて算出された目標ブレーキモーメント力を加味した制動力を発生させることを特徴としている。
【0013】
このように、モーメント力を抑制するように制動力を加えているため、できるだけ直進状態で車両を停止させることが可能となる。このため、自車両や周辺車両の安全をより確保しつつ車両を停止させることが可能となる。
【0014】
請求項5に記載の発明では、車両停止制御手段(1b〜1f)は、車両を所定の減速度で減速させるための基準制動力に対して、ドライバのアクセル操作に基づくドライバ要求エンジントルクとブレーキ操作に基づくドライバ要求ブレーキトルクを加味した値を目標制動力とすることを特徴としている。
【0015】
これにより、ドライバがアクセル操作量を増加したとしても所定の減速度で減速させつつ、ブレーキ操作を行って減速度をより大きくしたい場合には制動力を増加してより安全に車両を停止させられるようにすることが可能となる。具体的には、請求項6に記載したように、車両停止制御手段(1b〜1f)は、基準制動力からドライバ要求ブレーキトルクを差し引きドライバ要求エンジントルクを加算した値を目標制動力とすることができる。また、ドライバがアクセルを深く踏み込み、ブレーキ出力の上限以上にエンジンの駆動力を発生させることで、車両の移動を行うことができる。これにより、仮に道路の中央で車両が停止させられそうになったとしても車両を安全な位置まで移動させることができる。一方、移動中はエンジンの駆動力とブレーキの制動力が同時に作用し、車両の駆動系等に強い負荷が掛かる為、車両に通常走行時には発生しないような音や振動が発生し、盗難車のドライバに自由に移動できないという違和感を与えて、長距離の移動を防止することができる。
【0016】
請求項7に記載の発明では、車両のアクセル操作量を検出し、外部停車要求判定手段(1a)にて外部停車要求ありの状態と判定されたときに、エンジントルクをアクセル操作量と対応するアクセル操作量よりも小さくすることでエンジン抑制を行うエンジン抑制処置手段(1g)を有していることを特徴としている。
【0017】
このように、エンジン抑制処置を施すことで、盗難車のドライバに自由に運転できないという違和感を与え、車両を盗むことを諦めさせるようにすることも可能となる。
【0018】
請求項8に記載の発明では、車両のステアリング操作量を検出し、外部停車要求判定手段(1a)にて外部停車要求ありの状態と判定されたときに、電動パワーステアリングにおけるアシスト力をステアリング操作量と対応するアシスト力よりも小さくすることでステアリング抑制を行うステアリング抑制処置手段(1h)を有していることを特徴としている。
【0019】
このように、エンジン抑制処置やステアリング抑制処置を施すことで、盗難車のドライバに自由に運転できないという違和感を与え、車両を盗むことを諦めさせるようにすることも可能となる。この場合、ステアリング抑制処置を行いつつも、ステアリング操作が行えないようにはしていないため、仮に道路の中央で車両が停止させられそうになったとしても、車両を安全な位置まで移動させることが可能となる。
【0020】
請求項9に記載の発明では、外部停車要求判定手段(1a)にて外部停車要求ありの状態と判定されたときに、車両のトランクルームをロックするトランクロックと、ドアをロックするドアロックと、車両外部への通報および車室内の撮影の少なくとも1つを行う手段(1i)を有していることを特徴としている。
【0021】
このように、トランクロックやドアロック、さらには警察等への連絡や車室内カメラでの撮影などを行うことで、トランクルームからの盗難を防止したり、犯人逮捕のサポートを行うことが可能となる。
【0022】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる車両盗難防止制御装置が適用された車両盗難防止制御システムの全体構成を示したブロック図である。
【図2】盗難防止のための処置に用いられるブレーキシステムの全体概要を示した模式図である。
【図3】アクチュエータ16の詳細構造を示したブレーキシステムの油圧回路図である。
【図4】外部停車制御処置部1が実行する処理全体のフローチャートである。
【図5】外部停車制御処置の詳細を示したフローチャートである。
【図6】目標制動力演算処理の詳細を示したフローチャートである。
【図7】(a)、(b)は、リア側で目標ブレーキモーメント力を100%実現できる場合と50%のみ実現できる場合を表した図である。
【図8】リア側で目標ブレーキモーメント力を100%実現する場合を表した図である。
【図9】常用ブレーキと駐車ブレーキの調停処理の詳細を示したフローチャートである。
【図10】常用ブレーキ出力演算処理の詳細を示したフローチャートである。
【図11】駐車ブレーキ出力演算処理の詳細を示したフローチャートである。
【図12】エンジン抑制処置処理の詳細を示したフローチャートである。
【図13】ステアリング抑制処置処理の詳細を示したフローチャートである。
【図14】ボデー関連処置処理の詳細を示したフローチャートである。
【図15】車外からキー2を用いて外部停車要求を行ったときに常用ブレーキと駐車ブレーキの双方を用いて制動を行う場合の様子を示したタイミングチャートである。
【図16】車外からキー2を用いて外部停車要求を行ったときに駐車ブレーキのみで制動を行う場合の様子を示したタイミングチャートである。
【図17】走行中に車外からキー2を用いて外部停車要求を行ったときの様子を示したタイミングチャートである。
【図18】走行中にステアリング操作に基づくヨーレートが発生した場合にブレーキによって抑制するときの様子を示したタイミングチャートである。
【図19】エンジン抑制処置を行うときの様子を示したタイミングチャートである。
【図20】ステアリング抑制処置を行うときの様子を示したタイミングチャートである。
【図21】外部停車要求が出された時のボデー関連の制御の様子を示したタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0025】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。図1は、本実施形態にかかる車両盗難防止制御装置が適用された車両盗難防止制御システムの全体構成を示したブロック図である。以下、この図を参照して車両盗難防止制御システムについて説明する。なお、本実施形態では、駐車ブレーキ機構がリア輪にのみ設けられている場合を例に挙げて説明するが、勿論、他の車輪に備えられていても良い。
【0026】
図1に示すように、車両盗難防止制御システムは、外部停車制御処置部1、キー2、パワトレ制御装置(以下、PT(Power Train)−ECUという)3、加速度センサ(以下、Gセンサという)4、ステアリングセンサ5、ヨーレートセンサ6、横滑り防止装置(以下、ESC(Electronic Stability Control)−ECUという)7、電気駐車ブレーキ制御装置(以下、EPB(Electric Parking brake)−ECUという)8、電動パワーステアリング制御装置(以下、EPS(Electric Power Steering)−ECUという)9およびボデー制御装置(以下、BODY−ECUという)10を有した構成とされている。なお、図1中では、信号の入出力の関係を明確にすべく、PT−ECU3やESC−ECU7およびEPB−ECU8については複数記載してあるが、これらはそれぞれ同一のものである。
【0027】
外部停車制御処置部1は、車両盗難防止制御装置を構成するものであり、キー2からの指令に基づいて、走行中の車両を停止させたり停止中の車両が動かないように停止させたままにするなど、盗難防止にかかる処置を行う部分である。例えば、外部停車制御処置部1は、キー2の操作によって車両を停止させる指令が出されると、それを図示しない受信アンテナなどの外部信号受信手段にて受信する。そして、PT−ECU3やESC−ECU7からの情報や各種センサ4〜6の検出信号に基づいて、常用ブレーキや駐車ブレーキで発生させる制動力に対応する物理量を演算したり、エンジンやステアリングおよびボデー関連で行うべき処置を決定し、それを実現すべく、各種ECU3、7〜10に対して信号を伝える。これにより、車両の盗難防止にかかる処置が実行されるようになっている。この外部停車制御処置部1は、独立したECUによって構成されていても良いし、ESC−ECU7やEPB−ECU8などのECU内において機能的に備えられたものであっても良い。
【0028】
具体的には、外部停車制御処置部1には、外部要求判定部1a、抑制モーメント演算部1b、目標制動力演算減速度フィードバック部1c、ブレーキ調停部1d、常用ブレーキ出力演算部1e、駐車ブレーキ出力演算部1f、エンジン抑制処置部1g、ステアリング抑制処置部1h、ボデー関連処置部1iが備えられている。
【0029】
外部要求判定部1aは、本発明の外部停車判定手段を構成するもので、キー2の操作に基づいて外部要求、つまり車両を停止させる指令である外部停車要求が出されているか否かの判定や、停止を解除する指令である外部停車解除要求が出されているか否かの判定を行っている。この外部要求判定部1aでの判定結果は、目標制動力演算減速度フィードバック部1c、エンジン抑制処置部1g、ステアリング抑制処置部1hおよびボデー関連処置部1iに入力される。
【0030】
抑制モーメント演算部1bは、車両をできる限り直進状態で停車させるために、モーメント抑制に必要な制動力を演算するものである。例えば、抑制モーメント演算部1bは、各種車両緒元や車速、ヨーレート、タイヤ角などを用い、車両に発生している横方向運動の運動方程式や重心周りの回転角速度の運動方程式に基づいて目標ブレーキモーメント力を算出し、これに基づいて目標ブレーキモーメント力を発生させるために必要なフロント輪のモーメント分フロント輪トルクとリア輪それぞれのモーメント分リア輪トルクを演算している。
【0031】
目標制動力演算減速度フィードバック部1cは、目標制動力を演算すると共にそれを前後配分した目標制動トルクを演算し、目標とする減速度に制御できているかをフィードバックして、目標制動トルクをフィードバック項が加味された値に補正している。本実施形態では、走行中の車両を停止させるときには、できるだけ安全に停止させられるように、所定の減速度(例えば0.3G)で停止させるようにする。この減速度を基準減速度として、基準減速度を得るために必要な制動力を目標制動力として演算し、さらに、この目標制動力を得るために必要なブレーキトルクを前後配分した値として、前後配分用フロント目標制動トルクおよび前後配分用リア目標制動トルクを演算している。そして、Gセンサ4の検出信号から実際に発生させられている減速度をモニタし、実際に発生させられている減速度が目標としている基準減速度に近づくようにフィードバック制御を行い、前後配分用フロント目標制動トルクおよび前後配分用リア目標制動トルクを補正している。
【0032】
さらに、目標制動力演算減速度フィードバック部1cは、フィードバック制御による補正の前後配分用フロント目標制動トルクおよび前後配分用リア目標制動トルクに対して、抑制モーメント演算部1bで演算されたモーメント分リア輪トルクを加味し、右リア輪要求トルクと左リア輪要求トルクを演算している。これが、目標制動力に対して抑制モーメント力分の左右制動力を調停したときの左右それぞれの車輪の要求トルクとなる。
【0033】
ブレーキ調停部1dは、常用ブレーキと駐車ブレーキとの調停を行う。具体的には、常用ブレーキを構成する油圧システムが有り、かつ、それが許可状態になっているか否かや、駐車ブレーキを構成するEPBシステムが有り、かつ、それが許可状態になっているか否かなどに基づいて、油圧システムとEPBシステムのどれを用いて良いかを決定する。
【0034】
常用ブレーキ出力演算部1eは、ブレーキ調停部1dで決定されたシステムに基づいて、常用ブレーキにて発生させるブレーキトルクに対応するブレーキ油圧を演算する。例えば、ブレーキ調停部1dで油圧システムのみを用いると決定された場合には、常用ブレーキ出力演算部1eは、目標制動力演算減速度フィードバック部1cで演算された左右それぞれの目標要求トルクに対応したブレーキ油圧を演算する。また、ブレーキ調停部1dで油圧システムと駐車システムの双方を用いると決定された場合には、常用ブレーキ出力演算部1eは、目標制動力演算減速度フィードバック部1cで演算された左右それぞれの目標要求トルクに対応したブレーキ油圧を演算しつつ、常用ブレーキのみでは実現できない不足トルクを駐車ブレーキ出力演算部1fに伝える。さらに、ブレーキ調停部1dで駐車システムのみを用いると決定された場合には、常用ブレーキ出力演算部1eは、常用ブレーキの要求トルクを0に設定すると共に、目標制動力演算減速度フィードバック部1cで演算された左右それぞれの目標要求トルクを不足トルクとして駐車ブレーキ出力演算部1fに伝える。
【0035】
そして、常用ブレーキ出力演算部1eは、常用ブレーキを構成する油圧システムによって発生させるブレーキ油圧を演算すると、それをESC−ECU7に伝える。これにより、ESC−ECU7は、後述する油圧システムを駆動してそのブレーキトルクを発生させる。
【0036】
駐車ブレーキ出力演算部1fでは、ブレーキ調停部1dで決定されたシステムに基づいて、駐車ブレーキを構成するEPBシステムで発生させるブレーキトルクに対応する軸力を演算する。本実施形態の場合、常用ブレーキ出力演算部1eを介して、駐車ブレーキ出力演算部1fに対して駐車ブレーキにて発生させる不足トルクが伝えられるため、駐車ブレーキ出力演算部1fではその伝えられたブレーキトルクに対応する軸力を演算している。
【0037】
そして、駐車ブレーキ出力演算部1fは、駐車ブレーキを構成するEPBシステムによって発生させる軸力を演算すると、それをEPB−ECU8に伝える。これにより、EPB−ECU8は、EPBシステムを駆動してそのブレーキトルクを発生させる。
【0038】
エンジン抑制処置部1gは、外部停車要求に基づいてエンジン制御を行い、盗難車のドライバに対して運転の違和感を与える。例えば、外部停車要求があったときには、通常時に発生させられる駆動力を抑制することで、車両を動かせるものの自由には動かせないという状況を作り出す。具体的には、エンジン抑制処置部1gは、PT−ECU3で取り扱われているアクセル開度に基づいてエンジン要求トルクを演算している。アクセル操作量に対応して要求されるエンジントルクがドライバ要求エンジントルクだとすると、通常時にはドライバ要求エンジントルクをエンジン要求トルクとするが、外部停車要求があったときには、ドライバ要求エンジントルクに対してエンジン要求トルクが小さな値となるようにする。そして、このように通常時よりも抑制されたエンジン要求トルクをPT−ECU3に伝えるようにしている。このように、外部停車要求があったときにはエンジン制御も行うことで、盗難車のドライバに対して自由に運転できない車両であるということを印象付けるようにしている。
【0039】
ステアリング抑制処置部1hは、外部停車要求に基づいてステアリング制御を行い、盗難車のドライバに対して運転の違和感を与える。例えば、外部停車要求があったときには、通常時に発生させられるEPSのアシストトルク(アシスト力)を抑制することで、操舵できるものの自由には動かせないという状況を作り出す。具体的には、ステアリング抑制処置部1hは、ステアリングセンサ5が検出するステアリング操作量、具体的は操舵角に基づいてアシストトルクを演算すると共に、このアシストトルクを発生させるために必要なアシスト電流値を演算している。通常時にステアリング操作に対応して要求されるアシストトルクと比較して、外部停車要求があったときのアシストトルクが小さな値となるようにする。そして、このように通常時よりも抑制されたアシストトルクを発生させるために必要なアシスト電流値をEPS−ECU9に伝えるようにしている。このように、外部停車要求があったときにはステアリング制御も行うことで、盗難車のドライバに対して自由に操舵できない車両であるということを印象付けるようにしている。
【0040】
ボデー関連処置部1iは、外部停車要求に基づいてボデーECU10に各種指令を出し、ボデーECU10によって制御できる各種制御を行う。例えば、外部停車要求があったときにはトランクロックを施すことでトランクルームからの荷物の盗難を防止したり、ドアロック(チャイルドロック)を行うことで盗難車のドライバが車外に逃げ出せないようにしたり、警察等へ連絡を入れたり、車室内に設置されたカメラ(図示せず)によって盗難車のドライバを撮影したりする。
【0041】
このようにして車両盗難防止制御システムが構成されており、車両盗難防止制御システムに備えられた外部停車制御処置部1によって盗難防止にかかる処置が行われるようになっている。このような車両盗難防止制御システムでは、キー2からの要求があったときに、ESC−ECU7およびEPB−ECU8によって油圧システムやEPBシステムを構成する車両用のブレーキシステムを用いて所定の基準減速度で車両を停止させるようにしている。このブレーキシステムの構成について説明する。なお、本実施形態では、後輪系にディスクブレーキタイプのEPBを適用しているX配管の車両用ブレーキシステムを例に挙げて説明する。
【0042】
図2は、本実施形態にかかる盗難防止のための処置に用いられるブレーキシステムの全体概要を示した模式図である。また、図3は、アクチュエータ16の詳細構造を示したブレーキシステムの油圧回路図である。以下、これらの図を参照して説明する。
【0043】
図2に示すように、ブレーキシステムは、ドライバの踏力に基づいて制動力を発生させる油圧システム(サービスブレーキ)11と駐車時に車両の移動を規制するためのEPBシステム12とが備えられている。
【0044】
油圧システム11は、ドライバによるブレーキペダル13の踏み込みに応じた踏力を倍力装置14にて倍力したのち、この倍力された踏力に応じたブレーキ油圧をマスタシリンダ(以下、M/Cという)15内に発生させ、このブレーキ油圧を各車輪のブレーキ機構に備えられた各W/C31、32、41、42に伝えることで制動力を発生させる。また、M/C15とW/C31、32、41、42との間にブレーキ油圧調整を行うアクチュエータ16が備えられており、油圧システム11により発生させる制動力を調整し、車両の安全性を向上させるための各種制御(例えば、アンチスキッド制御等)を行える構造とされている。
【0045】
アクチュエータ16を用いた各種制御は、ESC−ECU7にて実行される。例えば、ESC−ECU7からアクチュエータ16に備えられる各種制御弁やポンプ駆動用のモータを制御するための制御電流を出力することにより、アクチュエータ16に備えられる油圧回路を制御し、W/C31、32、41、42に伝えられるW/C圧を制御する。このアクチュエータ16の詳細構成に関しては後述する。
【0046】
一方、EPBシステム12は、EPB−ECU8によって制御され、EPB−ECU8によってモータ17を駆動し、ブレーキ機構を制御することで制動力を発生させる。具体的には、駐車ブレーキを掛けるときにはモータ17を正回転させることで制動力を発生させ、駐車ブレーキを解除するときにはモータ17を逆回転させることで制動力を解除する。また、EPBシステム12は、駐車ブレーキ(以下、PKB(Parking brake)という)操作スイッチ20の操作に基づいて駐車ブレーキによる制動力を発生させ、駐車ブレーキが掛けられているロック状態と駐車ブレーキが掛けられていないリリース状態とをロック/リリース表示ランプ21によって表示している。EPBシステム12は、通常時はPKB操作スイッチ20の操作に基づいて作動させられるが、本実施形態では、車両停止要求時に、必要に応じてEPBシステム12の制動力を用いて車両を停止させるようにしている。
【0047】
ブレーキ機構は、本実施形態のブレーキシステムにおいて制動力を発生させる機械的構造であり、前輪系のブレーキ機構は油圧システム11の操作によって制動力を発生させる構造とされているが、後輪系のブレーキ機構は、油圧システム11の操作とEPBシステム12の操作の双方に対して制動力を発生させる共用の構造とされている。すなわち、後輪系のブレーキ機構では、油圧システム11を作動させたときだけでなくEPBシステム12を作動させたときにも、摩擦材であるブレーキパッド18を押圧し、ブレーキパッド18によって被摩擦材であるブレーキディスク19を挟み込むことにより、ブレーキパッド18とブレーキディスク19との間に摩擦力を発生させ、制動力を発生させる。具体的には、油圧システム11を作動させたときには、W/C圧によってブレーキパッド18を押し出すピストン(図示せず)が押圧されることで制動力を発生させる。また、EPBシステム12を作動させたときには、モータ17の回転に基づいてピストンを押し出す推進軸(図示せず)が駆動されることでブレーキパッド18が押し出され、制動力を発生させる。このときの推進軸がピストンを押し出す軸力により、ブレーキパッド18がブレーキディスク19を挟み込んで制動力を発生させることになるため、その軸力が発生させられる制動力(制動トルク)に対応した物理量となる。このように、EPBシステム12の加圧機構と油圧システム11のW/C32、42とが一体型とされた駐車ブレーキ一体型加圧機構とされている。
【0048】
なお、EPBシステム12では、モータ17の回転軸と推進軸とがギア機構を介して結合されているため、モータ17の回転を停止すると、ギア機構の噛合いの摩擦力によって推進軸がその位置で停止する。このため、ブレーキパッド18がブレーキディスク19に押圧された状態でモータ17の回転を停止すれば、所定の制動力を発生させた状態を維持できる。
【0049】
続いて、図3にアクチュエータ16の詳細構造を示したブレーキシステムの油圧回路図を示し、この図を参照してアクチュエータ16の詳細構造について説明する。
【0050】
図3に示されるように、アクチュエータ16内には、M/C15のプライマリ室およびセカンダリ室それぞれに対して連通させられた第1、第2配管系統30、40が構成されている。第1配管系統30は、左前輪FLと右後輪RRに加えられるブレーキ油圧を制御し、第2配管系統40は、右前輪FRと左後輪RLに加えられるブレーキ油圧を制御する。つまり、X配管の配管構成とされている。
【0051】
常用ブレーキ、つまり油圧システム11によって制動力を発生させる際にM/C15に発生させられるM/C圧は、第1配管系統30と第2配管系統40を通じて各W/C31、32、41、42に伝えられる。第1配管系統30には、M/C15のプライマリ室とW/C31、32とを接続する管路Aが備えられていると共に、第2配管系統40には、M/C15のセカンダリ室とW/C41、42とを接続する管路Eが備えられ、これら各管路A、Eを通じてM/C圧がW/C31、32、41、42に伝えられる。
【0052】
また、管路A、Eは、連通状態と差圧状態に制御できる差圧制御弁33、43を備えている。差圧制御弁33、43は、ドライバがブレーキペダル13の操作を行う常用ブレーキ時には連通状態となるように弁位置が調整されており、差圧制御弁33、43に備えられるソレノイドコイルに電流が流されると、この電流値が大きいほど大きな差圧状態となるように弁位置が調整される。
【0053】
この差圧制御弁33、43が差圧状態のときには、W/C31、32、41、42側のブレーキ油圧がM/C圧よりも所定以上高くなった際にのみ、W/C31、32、41、42側からM/C15側へのみブレーキ液の流動が許容される。このため、常時W/C31、32、41、42側がM/C15側よりも所定圧力高い状態が維持される。
【0054】
そして、管路A、E、差圧制御弁33、43よりも下流になるW/C31、32、41、42側において、2つの管路A1、A2、E1、E2に分岐する。管路A1、E1にはW/C31、41へのブレーキ油圧の増圧を制御する第1増圧制御弁34、44が備えられ、管路A2、E2にはW/C32、42へのブレーキ油圧の増圧を制御する第2増圧制御弁35、45が備えられている。
【0055】
これら第1、第2増圧制御弁34、35、44、45は、連通・遮断状態を制御できる2位置電磁弁により構成されている。第1、第2増圧制御弁34、35、44、45は、第1、第2増圧制御弁34、35、44、45に備えられるソレノイドコイルへの制御電流がゼロとされる時(非通電時)には連通状態となり、ソレノイドコイルに制御電流が流される時(通電時)に遮断状態に制御されるノーマルオープン型となっている。
【0056】
管路A、Eにおける第1、第2増圧制御弁34、35、44、45及び各W/C31、32、41、42の間は、減圧管路としての管路B、Fを通じて調圧リザーバ36、46に接続されている。管路B、Fには、連通・遮断状態を制御できる2位置電磁弁により構成される第1、第2減圧制御弁37、38、47、48がそれぞれ配設されている。そして、これら第1、第2減圧制御弁37、38、47、48は、第1、第2減圧制御弁37、38、47、48に備えられるソレノイドコイルへの制御電流がゼロとされる時(非通電時)には遮断状態となり、ソレノイドコイルに制御電流が流される時(通電時)に連通状態に制御されるノーマルクローズ型となっている。
【0057】
調圧リザーバ36、46と主管路である管路A、Eとの間には還流管路となる管路C、Gが配設されている。管路C、Gには調圧リザーバ36、46からM/C15側あるいはW/C31、32、41、42側に向けてブレーキ液を吸入吐出するモータ50によって駆動される自吸式のポンプ39、49が設けられている。モータ50は図示しないモータリレーに対する通電が制御されることで駆動される。
【0058】
そして、調圧リザーバ36、46とM/C15の間には補助管路となる管路D、Hが設けられている。管路D、Hを通じ、ポンプ39、49にてM/C15からブレーキ液を吸入し、管路A、Eに吐出することで、W/C31、32、41、42側にブレーキ液を供給する。
【0059】
このようにしてアクチュエータ16が構成されており、ESC−ECU7が各種制御弁33〜35、37、38、43〜45、47、48やポンプ駆動用のモータ50を制御するための制御電流を出力することにより、アクチュエータ16に備えられる油圧回路を制御する。これにより、アンチスキッド制御として、制動時の車輪スリップ時にW/C圧の減圧、保持、増圧を行うことで車輪ロックを防止したり、横滑り防止制御として、制御対象輪のW/C圧を自動加圧することで横滑り傾向(アンダーステア傾向もしくはオーバステア傾向)を抑制して理想的軌跡での旋回が行えるようにすることができる。また、盗難防止にかかる処置として、各車輪のW/C圧を自動加圧することで制動力を発生させ、所望の減速度で盗難車を停止させることもできる。
【0060】
なお、図示しないが、ESC−ECU7には車両の車輪毎に備えられた車輪速度センサからの検出信号が入力されるようになっており、この車輪速度センサの検出信号に基づいて、各車輪速度や推定車体速度およびスリップ率などを演算している。ESC−ECU7は、これらの演算結果に基づいてアンチスキッド制御などを実行している。
【0061】
以上のような構造により、油圧システム11およびEPBシステム12が備えられたブレーキシステムが構成されている。
【0062】
次に、本実施形態の車両盗難防止制御システムを用いた盗難防止にかかる処置の詳細について説明する。
【0063】
図4は、車両盗難防止制御システムに備えられた外部停車制御処置部1が実行する処理全体のフローチャートである。この図に示される処理は、バッテリからの電力供給に基づいて所定の制御周期毎に実行される。
【0064】
まず、ステップ100では、イグニッションスイッチ(以下、IGという)がオンしているか否か、つまり車両に駆動力を発生させられる状態であるか否かを判定する。この判定は、PT−ECU3からIGの状態を示す情報を入手することにより行われる。ここでは内燃機関のみによって駆動力を発生させる車両を想定しているため、IGがONの状態が車両に駆動力を発生させられる状態としているが、ハイブリッド車両や電気自動車であれば作動スイッチがONされている状態が車両に駆動力を発生させられる状態であると判定される。ここで肯定判定されると、ステップ105に進んでIGがOFFされた後の処置(以下、IG−OFF後処置という)についての要求は無いとして、その要求が有る場合にセットされるフラグをリセットしてステップ110に進む。
【0065】
後述するように、本実施形態では前回IG−ONされていたときに、盗難車のドライバがIGをOFFし、再度IG−ONしたとしても外部停車要求が継続するように、EEPROM(メモリ)に外部停車要求があったことを記憶するようにしている。ステップ110では、このような状況であるか判定している。このような状況である場合は、IG−ON直後で、まだ、外部定停車要求実施中であることを示すフラグがセットされていない状況でもある。このため、ステップ115に進み、そのフラグをセットしてからステップ120に進む。また、ステップ110で否定判定された場合には、そのままステップ120に進む。
【0066】
ステップ120では、外部停車要求実施中であるか否かを判定する。ここで肯定判定されるのは、ステップ115でフラグがセットされて、IG−ON後にEEPROMに外部停車要求が記憶されていた場合か、もしくは、前の制御周期において既に外部停車要求実施中であった場合である。外部停車要求が無い場合、もしくは、IG−ON後に初めて外部停車要求が出された場合には否定判定される。
【0067】
このため、ステップ120で否定判定された場合にはステップ125に進み、外部停車要求があったか否かを判定する。そして、ここでも否定判定された場合には通常通りIG−ONしたときと想定されるため、ここまま後述するステップ170に進み、肯定判定された場合にはステップ130に進む。その後、ステップ130で外部停車要求ありであったことをEEPROMに記憶した後、ステップ135に進み、外部停車要求実施中を示すフラグをセットし、後述するステップ170に進む。
【0068】
また、ステップ120で肯定判定された場合にはステップ140に進み、外部停車解除要求があるか否かを判定する。ここで、否定判定された場合には、外部停車要求実施を継続することになり、後述するステップ170に進む。また、肯定判定された場合には、車両を停止させる必要がなくなるため、ステップ145に進んで外部停車要求なしになったことを記憶すべく、EEPROMの記憶内容を外部停車要求なしとする。そして、ステップ150に進んで外部停車要求実施中を示すフラグをリセットしてステップ170に進む。
【0069】
一方、ステップ100において否定判定された場合にはステップ155に進み、外部停車要求実施中、かつ、前回IG−ONであったか否かを判定する。つまり、外部停車要求実施中、かつ、前回の制御周期のときにIG−ONであったときには、外部停車制御を実施中にIGがOFFにされたことを示している。このような場合には、車両の停止状態を維持するなどのIG−OFF後処置を行うことが必要になる。したがって、ここで肯定判定されたときにはステップ160に進んでIG−OFF後処置要求ありを設定し、否定判定されたときにはステップ165に進んでIG−OFF後処置要求なしを設定する。そして、ステップ170に進む。
【0070】
ステップ170では、外部停車制御処置の処理を実行する。図5は、外部停車制御処置の詳細を示したフローチャートである。この図に示すように、外部停車制御処置の処理では、ステップ200の目標制動力演算処理、ステップ300の常用ブレーキと駐車ブレーキの調停処理、ステップ400の常用ブレーキ出力演算処理、ステップ500の駐車ブレーキ出力演算処理、ステップ600のエンジン抑制処置処理、ステップ700のステアリング抑制処置処理、ステップ800のボデー関連処置処理を順に実行することで、車両を停止させたり、停止させた車両の停止を維持するなどの処理を行う。以下、これらステップ200〜ステップ800の各種処理の詳細について、順に説明する。
【0071】
図6は、ステップ200に示す目標制動力演算処理の詳細を示したフローチャートである。本処理は、抑制モーメント演算部1bや目標制動力演算減速度フィードバック部1cによって実行される。この図に示すように、目標制動力演算処理では、ステップ205の目標ブレーキモーメント力算出、ステップ210で左右制動トルク配分演算、ステップ215で目標制動力算出、ステップ220で減速度フィードバック補正、ステップ225で目標制動力と左右制動力調停演算を行う。
【0072】
ステップ205の目標ブレーキモーメント力算出では、車両をできる限り直進状態で停車させるために、モーメント抑制に必要な制動力を演算する。具体的には、車両に発生している横方向運動の運動方程式や重心周りの回転角速度の運動方程式に基づいて、発生しているモーメントを抑制するために必要な目標ブレーキモーメント力を算出している。横方向運動の運動方程式や重心周りの回転角速度の運動方程式は、それぞれ数式1、2で表される。
【0073】
【数1】
【0074】
【数2】
上記数式1、2中において、mは車両重量(kg)、Vは車速(m/s)、γは車両ヨーレート(rad/s)、Cfはフロント側のコーナリングパワー、Crはリア側のコーナリングパワー、δはタイヤ角(rad)、βは車体スリップ角(rad)、Lfは重心からフロント軸までの距離(m)、Lrは重心からリア軸までの距離(m)、Ibrkは目標ブレーキモーメント力(Nm)である。車両諸元以外の数値、例えば車速についてはESC−ECU7より取得しており、車両ヨーレートについてはヨーレートセンサ6の検出信号、タイヤ角についてはステアリングセンサ5の検出信号より検出している。そして、これら数式1、2より、目標ブレーキモーメント力Ibrkを導出している。なお、目標ブレーキモーメント力Ibrkに、ブレーキシステムの耐久性確保やステアリング操作により発生するヨーレートの抑制などの目的に応じた上限値を設定しても良い。
【0075】
ステップ210の左右制動トルク配分演算では、ステップ205で演算した目標ブレーキモーメント力に対応する左右輪でのトルク配分について演算する。例えばモーメント力が車両の回転中心の対して反時計回りに発生していれば、左車輪にてモーメント力に対応する制動トルクを発生させることになる。そして、必要に応じて、この左右輪に配分された制動トルクを更にフロントとリアで配分する。例えば、目標ブレーキモーメント力に対応する制動トルクのうちフロント側に配分される分をモーメント分フロント輪制動トルク、リア側に配分される分をモーメント分リア輪制動トルクとすると、これらは数式3、4により演算される。
【0076】
【数3】
【0077】
【数4】
ここで、フロント側要求モーメントとリア側要求モーメントは、目標ブレーキモーメント力をフロント側とリア側とで配分した値を示している。例えば、リア側によって優先的にモーメントを抑制できるように、目標ブレーキモーメント力に対応するモーメント分リア輪制動トルクを演算し、それがリア輪で発生させられるブレーキトルクであるリア輪トルクの上限値を超えていれば、その超えている分をフロント側に配分するという形態としている。この例について、図7を参照して説明する。
【0078】
図7(a)、(b)は、目標ブレーキモーメント力が2000Nm、フロントトレッドが1.525m、リアトレッドが1.467m、タイヤ径が0.319mの場合を想定して、リア側で目標ブレーキモーメント力を100%実現できる場合と50%のみ実現できる場合を表した図である。この図に示すように、目標ブレーキモーメント力が2000Nmの場合において、それを100%リア側で実現できる場合には、モーメント分リア輪制動トルクが869Nmとなる。一方、リア側で発生させられる上限値が435Nmの場合には、目標ブレーキモーメント力のうちの50%しかリア側で実現できないことから、目標ブレーキモーメント力の残りの50%分をフロント側で発生させることとする。この場合、モーメント分リア輪制動トルクが435Nmとなり、モーメント分フロント輪制動トルクが418Nmとなる。このようにして、前後制動トルク配分を演算している。
【0079】
ステップ215の目標制動力演算では、基準減速度で車両を停止させるために必要なブレーキトルクを演算すると共に、この目標制動力を得るために必要なブレーキトルクを前後配分した値として、前後配分用フロント目標制動トルクおよび前後配分用リア目標制動トルクを演算している。
【0080】
基準減速度を得るために必要な制動力を基準制動力とすると、数式5のように基準減速度に対してトルク換算係数を掛けることで基準制動力が求められる。また、数式6のように、この基準制動力に対して、ドライバのブレーキペダル操作によって要求しているブレーキトルクであるドライバ要求ブレーキトルクを差し引くと共に、ドライバのアクセル操作によって要求しているエンジントルクであるドライバ要求エンジントルクを足すことによって、目標制動力を演算している。すなわち、ドライバ要求エンジントルクが増加した場合には、それに応じて目標制動力を増加させることでドライバ要求エンジントルクの増加分を相殺して基準減速度を維持できるようにし、ドライバ要求ブレーキトルクが増加した場合にはより大きな制動力を発生させたい状況と想定されるため、基準減速度以上の減速度が得られるようにドライバ要求ブレーキトルク分を増加させるようにしている。これにより、ドライバがアクセル操作量を増加したとしても基準減速度を維持でき、ブレーキ操作を行って減速度をより大きくしたい場合には制動力を増加してより安全に車両を停止させられるようにすることが可能となる。
【0081】
そして、数式7、8のように、これを所望の前後配分比とすることで、前後配分用フロント目標制動トルクおよび前後配分用リア目標制動トルクを演算している。この場合、予め決められた前後配分比を用いることもできるが、例えばリア側によって優先的に目標制動トルクを発生させられるように、目標制動力をリア側に優先的に配分し、前後配分用目標制動トルクがリア側の上限値を超えた分をフロント側に回すという形態にすると好ましい。
【0082】
【数5】
【0083】
【数6】
【0084】
【数7】
【0085】
【数8】
ステップ220の減速度フィードバック補正では、Gセンサ4の検出信号に基づいて得られる減速度(以下、実減速度という)をフィードバックし、実減速度が基準減速度に近づくように目標制動力、もしくは前後配分用フロント目標制動トルクおよび前後配分用リア目標制動トルクを補正する。これは、フィードバック制御において行われている一般的な手法によって行われ、例えばPID制御等により行われる。
【0086】
ステップ225の目標制動力と左右制動力協調演算では、ステップ215で演算した目標制動力(実際にはステップ220での補正後のもの)とステップ210で演算した左右制動力との協調演算を行う。具体的には、目標制動力として前後配分された前後配分用フロント目標制動トルクおよび前後配分用リア目標制動トルクと、左右制動力がさらに前後配分されたモーメント分フロント輪制動トルクおよびモーメント分リア輪制動トルクに基づいて、各輪の要求トルクを演算する。この例について、図8を参照して説明する。
【0087】
図8は、目標ブレーキモーメント力が2000Nm、フロントトレッドが1.525m、リアトレッドが1.467m、タイヤ径が0.319mの場合を想定して、リア側で目標ブレーキモーメント力を100%実現する場合を表した図である。この場合、モーメント分リア輪制動トルクが869Nmとなる。さらに、この場合において、目標制動トルクが1000Nmであったとすると、両リア輪の要求トルクは、数式9、10で求められる。このようにして、各輪の要求トルクを演算している。
【0088】
【数9】
【0089】
【数10】
以上のようにして、図6に示す目標制動力演算処理が終了すると、図5のステップ300で示した常用ブレーキと駐車ブレーキの調停処理を実行する。図9は、この常用ブレーキと駐車ブレーキの調停処理の詳細を示したフローチャートである。本処理は、ブレーキ調停部1dによって実行されるものであり、常用ブレーキと駐車ブレーキのいずれを用いて車両の停止のための制動力を発生させるかを決定している。
【0090】
まず、ステップ305では、油圧システム11ありで当該システムが許可状態であり、かつ、EPBシステム12ありで当該システムが許可状態であるか否かを判定する。油圧システム11ありやEPBシステム12ありとは、当該システムが車両に組み込まれていることを示している。また、システムが許可状態とは、油圧システム11やEPBシステム12が稼動できる状態であることを示している。システムが車両に組み込まれているか否かについては、車両毎に予め決まっていることであるため、予め外部停車制御処置部1の図示しないメモリに記憶しておき、その記憶内容に基づいて判定しても良いし、ESC−ECU7やEPB−ECU8からの情報の有無に基づいて判定するようにしても良い。また、システムが許可状態であるか否かについては、ESC−ECU7やEPB−ECU8で把握しているため、これらから情報を得て判定すればよい。
【0091】
ここで肯定判定されればステップ310に進み、油圧システム11とEPBシステム12の両方共に使用許可として処理を終了する。この場合、油圧システム11とEPBシステム12のいずれを用いて制動力を発生させても良い状態になる。一方、ここで否定判定されるとステップ315に進み、EPBシステム12ありで当該システムが許可状態であるか否かを判定する。ここで肯定判定された場合は、つまり油圧システム11が無い場合もしくは油圧システム11が許可状態では無い場合であることから、EPBシステム12のみが使用できる状態になっていることを示している。したがって、ステップ320に進み、油圧システム11を使用禁止とし、EPBシステム12のみを使用許可として処理を終了する。
【0092】
さらに、ステップ315で否定判定されるとステップ325に進み、油圧システム11ありで当該システムが許可状態であるか否かを判定する。ここで肯定判定された場合は、つまりEPBシステム12が無い場合もしくはEPBシステム12が許可状態では無い場合であることから、油圧システム11のみが使用できる状態になっていることを示している。したがって、ステップ330に進み、油圧システム11のみを使用許可とし、EPBシステム12を使用禁止として処理を終了する。そして、ここで否定判定された場合には、油圧システム11もEPBシステム12も共に使用できない状態であることから、ステップ335に進み、油圧システム11とEPBシステム12を両方共に使用禁止として処理を終了する。
【0093】
以上のようにして、図9に示す常用ブレーキと駐車ブレーキの調停処理が終了すると、図5のステップ400で示した常用ブレーキ出力演算処理を実行する。図10は、この常用ブレーキ出力演算処理の詳細を示したフローチャートである。本処理は、常用ブレーキ出力演算部1eによって実行されるものであり、各リア輪について油圧システム11で発生させる油圧を演算すると共に、油圧システム11での不足トルクをEPBシステム12で発生させる制動トルクとして駐車ブレーキ出力演算部1fに伝えている。
【0094】
まず、ステップ405では、油圧システム11が使用許可であり、駐車ブレーキ制御実施中でなく、かつ、IG−OFF後処置要求なしの状況であるか否かを判定する。油圧システム11が使用許可とされていなければ、油圧システム11によって制動力を発生させられない。また、IG−OFF後要求処置があると、常用ブレーキから駐車ブレーキへ切替え、つまり油圧システム11の制動力をEPBシステム12の制動力に切替えるため、油圧システム11では制動力を発生させない状況とする。このため、ここで肯定判定された場合にのみステップ406に進み、油圧ブレーキ制御中として、ステップ410に進む。
【0095】
ステップ410では、車両固定値として決まっている右リア輪常用ブレーキトルク最大値、つまり常用ブレーキにより右リア輪で出力できる制動トルクの上限値の方が右リア輪要求トルクを超えているか否かを判定する。これにより、常用ブレーキのみによって右リア輪要求トルクを実現できるか否かを判定している。ここで肯定判定されるような場合には、油圧システム11のみによって右リア輪要求トルクを実現でき、否定判定されるような場合には、右リア輪要求トルクが大きすぎて油圧システム11のみでは実現できないことを表している。したがって、肯定判定されれば、ステップ415に進んで右リア輪要求トルクをそのまま右リア輪常用ブレーキ要求トルクとし、不足トルクはないため、右リア輪不足トルクは0とする。逆に、否定判定されれば、ステップ420に進んで右リア輪常用ブレーキトルク最大値を右リア輪常用ブレーキ要求トルクに設定し、右リア輪不足トルクとして、右リア輪要求トルクから右リア輪常用ブレーキトルク最大値を差し引いた値を設定する。この後、ステップ425に進み、左リア輪についてもステップ410と同様の判定を行う。そして、左リア輪要求トルクを油圧システム11のみで実現できるか否かに応じて、ステップ430もしくはステップ435に進み、右リア輪と同様の処理を行う。
【0096】
このようにして、油圧システム11を用いてリア輪に制動力を発生させるときの各輪の常用ブレーキ要求トルクが設定される。なお、上記ステップ405で否定判定された場合には、油圧システム11を用いてリア輪に制動力を発生させることはないため、ステップ407で油圧ブレーキ制御中でないとして、ステップ440に進み、右リア輪常用ブレーキ要求トルクおよび左リア輪常用ブレーキ要求トルクを0とし、右リア輪不足トルクを右リア輪要求トルクに設定すると共に、左リア輪不足トルクを左リア輪要求トルクに設定することで、これらをPKBシステム12に要求する不足トルクとする。
【0097】
そして、ステップ445に進み、演算された右リア輪常用ブレーキ要求トルクおよび左リア輪常用ブレーキ要求トルクを油圧換算する。例えば、各リア輪常用ブレーキ要求トルクをブレーキパッド18の摩擦係数μ[%]とシリンダ径[m]の2乗とπ/4と制動有効半径[m]を掛けた値で割り、さらにそれを106で割ることで左右のリア輪常用ブレーキ油圧[MPa]を演算している。
【0098】
以上のようにして、図10に示す常用ブレーキ出力演算処理が終了すると、図5のステップ500で示した駐車ブレーキ出力演算処理を実行する。図11は、この駐車ブレーキ出力演算処理の詳細を示したフローチャートである。本処理は、駐車ブレーキ出力演算部1fによって実行されるものであり、常用ブレーキ出力演算部1eから伝えられる油圧システム11での不足トルクからEPBシステム12で発生させる軸力を演算する。
【0099】
まず、ステップ505では、EPBシステム12が使用許可であるか否かを判定する。EPBシステム12が使用許可とされていなければ、EPBシステム12によって制動力を発生させられない。このため、ここで肯定判定された場合にのみステップ506に進む。ステップ506では油圧ブレーキ実施中でなければステップ510に進み、駐車ブレーキ制御実施中であることを示すフラグをセットしたのち、ステップ515に進む。一方、油圧ブレーキ実施中であればステップ506から直接ステップ515へと進む。
【0100】
ステップ515では、車両固定値として決まっている右リア輪駐車ブレーキトルク最大値、つまり駐車ブレーキにより右リア輪で出力できる制動トルクの上限値の方が右リア輪不足トルクを超えているか否かを判定する。これにより、駐車ブレーキによって右リア輪不足トルクを実現できるか否かを判定している。ここで肯定判定されるような場合には、EPBシステム12によって右リア輪不足トルクを実現でき、否定判定されるような場合には、右リア輪不足トルクが大きすぎてEPBシステム12では実現できないことを表している。したがって、肯定判定されれば、ステップ520に進んで右リア輪不足トルクをそのまま右リア輪駐車ブレーキ要求トルクとする。逆に、否定判定されれば、ステップ525に進んで右リア輪駐車ブレーキトルク最大値を右リア輪駐車ブレーキ要求トルクに設定する。この場合、EPBシステム12によってすべての右リア輪不足トルクを出力できないが、EPBシステム12で可能な分だけ右リア輪不足トルクを補うことになる。この後、ステップ530に進み、左リア輪についてもステップ515と同様の判定を行う。そして、左リア輪要求トルクをEPBシステム12で実現できるか否かに応じて、ステップ535もしくはステップ540に進み、右リア輪と同様の処理を行う。
【0101】
このようにして、EPBシステム12を用いてリア輪に制動力を発生させるときの各輪の駐車ブレーキ要求トルクが設定される。なお、上記ステップ505で否定判定された場合には、EPBシステム12を用いてリア輪に制動力を発生させることはないため、ステップ545に進み、駐車ブレーキ制御実施中を示すフラグをリセットするなどによって駐車ブレーキ制御実施中ではないことを表したのち、ステップ550に進んで両リア輪ブレーキ要求トルクを0に設定する。
【0102】
そして、ステップ555に進み、演算された右リア輪駐車ブレーキ要求トルクおよび左リア輪駐車ブレーキ要求トルクを軸力換算する。例えば、各リア輪常用ブレーキ要求トルクをブレーキパッド18の摩擦係数μ[%]と制動有効半径[m]を掛けた値で割り、さらにそれを103で割ることで左右のリア輪駐車ブレーキ油圧[kN]を演算している。
【0103】
以上のようにして、図11に示す駐車ブレーキ出力演算処理が終了すると、図5のステップ600で示したエンジン抑制処置処理を実行する。図12は、このエンジン抑制処置処理の詳細を示したフローチャートである。本処理は、エンジン抑制処置部1gによって実行されるものであり、外部停車要求に基づいてエンジン制御を行い、盗難車のドライバに対して運転の違和感を与えるようにする。
【0104】
まず、ステップ605では、外部停車要求ありであるか否かを判定する。ここで肯定判定されるとステップ610に進み、まずはPT−ECU3からアクセル開度に関する情報を取得し、このアクセル開度に対応するドライバ要求エンジントルクを求める。例えば、アクセル開度に対応するドライバ要求エンジントルクの関係については予め求めておくことができるため、それをマップ化するなどしておき、そのマップから読み出すことによって取得したアクセル開度に対応するドライバ要求エンジントルクを求めることできる。そして、ステップ615に進み、ドライバ要求エンジントルクに対して例えば固定値で設定されたエンジン抑制係数を掛けることでエンジン要求トルクを演算する。すなわち、ドライバ要求エンジントルクに対してエンジン抑制係数を掛けることで、通常時に発生させられる駆動力を抑制し、車両を動かせるものの自由には動かせないという状況を作り出す。このように、外部停車要求があったときにドライバ要求エンジントルクを抑制したエンジン要求トルクとすることで、盗難車のドライバに対して自由に運転できない車両であるということを印象付けるようにしている。
【0105】
一方、ステップ605で肯定判定された場合には、ステップ620に進んで、ステップ610と同様の手法によってドライバ要求エンジントルクを求める。その後、ステップ625に進み、ドライバ要求エンジントルクをそのままエンジン要求トルクに設定する。すなわち、外部停車要求がない時には、ドライバの要求するエンジントルクをそのまま出力させれば良いため、ドライバ要求エンジントルクをそのままエンジン要求トルクに設定するようにしている。
【0106】
以上のようにして、図12に示すエンジン抑制処置処理が終了すると、図5のステップ700で示したステアリング抑制処置処理を実行する。図13は、このステアリング抑制処置処理の詳細を示したフローチャートである。本処理は、ステアリング抑制処置部1hによって実行されるものであり、外部停車要求に基づいてステアリング制御を行い、盗難車のドライバに対して運転の違和感を与えるようにする。
【0107】
まず、ステップ705では、外部停車要求ありであるか否かを判定する。ここで肯定判定されるとステップ710に進んでアシストトルク抑制要求を指示する。これにより、アシストトルク抑制要求の指示がEPS−ECU9に出力され、EPS−ECU9に盗難防止にかかる処置としてステアリング制御を実行することが伝えられる。そして、ステップ715に進み、EPS−ECU9が取り扱っているアシストトルクに関する情報を取得し、このアシストトルクに対してステアリング抑制係数を掛けることで、抑制後のアシストトルク(以下、アシストトルク抑制後)を演算する。すなわち、アシストトルクに対してステアリング抑制係数を掛けることで、通常時に発生させられるアシストトルクを抑制する。そして、ステップ720に進み、アシストトルク抑制後に対して電流変換値を掛けることで電流変換したアシスト電流値を演算する。このように、外部停車要求があったときに、通常時に発生させられるアシストトルクを抑制することで、ステアリング操作によって操舵できるものの自由には動かせないという状況を作り出す。これにより、盗難車のドライバに対して自由に操舵できない車両であるということを印象付けるようにしている。なお、ステップ705で否定判定された場合には、ステアリング抑制処置を行う必要がないため、そのまま処理を終了する。
【0108】
以上のようにして、図13に示すステアリング抑制処置処理が終了すると、図5のステップ800で示したボデー関連処置処理を実行する。図14は、このボデー関連処置処理の詳細を示したフローチャートである。本処理は、ボデー関連処置部1iによって実行されるものであり、外部停車要求に基づいてボデーECU10によって制御できる各種制御を行う。
【0109】
まず、ステップ805では、外部停車要求ありであるか否かを判定する。ここで肯定判定されるとステップ810に進んでトランクロックを実施したのち、ステップ815に進んでドアロック(チャイルドロック)を実施し、さらに、ステップ820に進んで警察等への連絡を行った後、車室内カメラでの撮影をボデーECU10に指示する。これにより、トランクやドアに備えられた図示しないアクチュエータを駆動することでトランクロックやドアロックを施したり、例えば路車間通信などを用いて警察等への連絡を行ったり、盗難車のドライバを撮影したりする。
【0110】
このように、外部停車要求があったときに、ボデーECU10によって各種制御を行うことで、トランクルームからの荷物の盗難を防止したり、ドアロック(チャイルドロック)を行うことで盗難車のドライバが車外に逃げ出せないようにしている。また、警察等へ連絡を入れたり、車室内に設置されたカメラによって盗難車のドライバを撮影したりすることで、犯人逮捕をサポートしている。
【0111】
以上が本実施形態の車両盗難防止制御システムを用いた盗難防止にかかる処置の詳細である。続いて、このような処置を行ったときの動作について、図15〜図21に示すタイミングチャートを参照して説明する。
【0112】
図15は、車外からキー2を用いて外部停車要求を行ったときに常用ブレーキと駐車ブレーキの双方を用いて制動を行う場合の様子を示したタイミングチャートである。なお、この図ではモーメントが発生していない場合を想定したタイミングチャートとしてある。
【0113】
この図に示すように、時点T1において外部停車要求が出されると、それと同時に外部停車要求実施中を示すフラグがセットされ(ステップ115参照)、EEPROMにも外部停車要求があったことが記憶される(ステップ130参照)。そして、常用ブレーキもしくは駐車ブレーキにより、目標制動力が発生させられる。ここでは常用ブレーキのみによって目標制動力が発生させられる場合について図示しているが、常用ブレーキのみでは不足トルクが生じる場合には、駐車ブレーキでも制動力を発生させることになる。また、車両停止後に盗難車のドライバが車両を盗むことを諦め、仮に坂路等に車両を放置した場合であっても、駐車ブレーキによって長時間にわたり車両の停止を維持することができる。
【0114】
そして、時点T2において盗難車のドライバがIGをOFFしてエンジン作動を停止すると、それと同時に外部停車要求実施中のフラグがリセットされ、IG−OFF後処置が要求されることになる(ステップ160参照)。これにより、常用ブレーキから駐車ブレーキへ切替えが行われ、駐車ブレーキによって目標制動力が発生させられると共に、駐車ブレーキ制御実施中を示すフラグがセットされる。このように、IG−OFF後に目標制動力を発生させるのに常用ブレーキから駐車ブレーキに切替えた場合、駐車ブレーキによる制動力はモータ17を停止した後にも維持できることから、電流を消費し続けなくても車両の停止を維持できる。したがって、電力消費の低減を図ることが可能になる。
【0115】
その後、時点T3においてIGが再びONされたとしても、EEPROMに外部停車要求があったことが記憶されているため、目標制動力が発生させられた状態が維持され、車両の停止が維持される。そして、時点T4において正規の車両所有者がキー2の操作によって外部停車解除要求を出すと、これに伴って制動力が解除され、外部停車要求実施中のフラグがリセットされると共にEEPROMの記憶内容を外部停車要求なしにする(ステップ145参照)。
【0116】
図16は、車外からキー2を用いて外部停車要求を行ったときに駐車ブレーキのみで制動を行う場合の様子を示したタイミングチャートである。なお、この図でもモーメントが発生していない場合を想定したタイミングチャートとしてある。
【0117】
この図に示すように、駐車ブレーキのみで制動を行う場合も、基本的には図15の場合と同様の動作を行うが、常用ブレーキの代わりにはじめから駐車ブレーキによって目標制動力を発生させることになる。このように、駐車ブレーキを用いて車両を停止させるようにすることもできる。
【0118】
図17は、走行中に車外からキー2を用いて外部停車要求を行ったときの様子を示したタイミングチャートである。
【0119】
この図に示すように、時点T1において走行中に外部停止要求が出されたとする。この場合にも、基本的には図15と同様の動作が行われることになる。ただし、走行中にはドライバのアクセル操作やブレーキペダル操作に応じたドライバ要求エンジントルクやドライバ要求ブレーキトルクが発生する。このため、これらを加味して目標制動力が設定される。そして、ドライバ要求エンジントルクが大きくなったときには、それが抑えられるように目標制動力が高められ、一定の基準減速度が得られるようにしている。さらに、ドライバ要求ブレーキトルクが大きくなったときには、その要求に応じて目標制動力が小さくされ、この場合にも一定の基準減速度が得られるようにしている。なお、ドライバ要求ブレーキトルクが基準減速度以上の減速度を発生させられる値になったときには、その要求に合わせた減速度が発生させられるようにしている。これにより、より大きな減速度を発生させたい場合にも、それに対応することが可能となる。
【0120】
また、時点T2において、外部停車解除要求が出されると、これに伴って制動力が解除される。このため、例えばキー2の誤操作によって外部停車要求が出されたとしても、それを解除して通常走行に戻ることが可能となる。
【0121】
図18は、走行中にステアリング操作に基づくヨーレートが発生した場合にブレーキによって抑制するときの様子を示したタイミングチャートである。
【0122】
この図に示すように、外部停車要求が出された場合には、ステアリング操作が行われても、ステアリング操作に応じて理論的に発生させられるヨーレートが抑制されるように、左右輪に制動力を発生させるようにしている(ステップ205、210参照)。このように、モーメント力を抑制することが可能となり、走行中の車両を停止させる場合に、できるだけ直進状態で停止させることができる。
【0123】
さらに、ブレーキシステムが発生できるヨーレート抑制力を上回る大きな操舵を行うことで、運転者は車両の針路を変更することができる。この図の実施例では、目標ブレーキモーメント力に上限値を設けることで、ヨーレート抑制を行う左右の制動力差に上限を設けている。これにより、図に示すように、運転者の操舵量の小さい時は直進が維持される一方、運転者がヨーレート抑制の上限を上回るように大きく操舵することで、車両の進路を変更することが可能となり、仮に道路の中央で車両が停止させられそうになったとしても、車両を安全な位置に向けて進路を変更することが可能となる。例えば、目標ブレーキモーメント力の上限値は運転者がハンドルを持ち替えずに操舵可能な所定の操舵角度(例えば75°)で発生するモーメントを基準に決めるようにしてもよい。こうすることで、運転者はハンドル操作を行なった際に大きく操舵すれば進路変更が許容されることに容易に気付くことができる。
【0124】
図19は、エンジン抑制処置を行うときの様子を示したタイミングチャートである。この図に示すように、時点T1において外部停車要求が出されると、ドライバ要求エンジントルクに対して所定のエンジン抑制係数を掛けることでエンジン要求トルクを低下させる。このようにすることで、外部停車要求に基づいてエンジン制御を行い、通常時に発生させられる駆動力を抑制することで、盗難車のドライバに対して自由に運転できない車両であるという運転の違和感を与えることが可能となる。
【0125】
このときにも、時点T2において、外部停車解除要求が出されると、これに伴ってエンジン抑制処置が解除される。このため、例えばキー2の誤操作によって外部停車要求が出されたとしても、それを解除して通常走行に戻ることが可能となる。
【0126】
図20は、ステアリング抑制処置を行うときの様子を示したタイミングチャートである。この図に示すように、時点T1において外部停車要求が出されると、ステアリング操作に応じたアシストトルクに対してステアリング抑制係数を掛けることでアシストトルクを低下させたアシストトルク抑制後を演算する。このようにすることで、外部停車要求に基づいてステアリング制御を行い、通常時に発生させられるアシストトルクを抑制することで、盗難車のドライバに対して自由に操舵できない車両であるという運転の違和感を与えることが可能となる。
【0127】
このときにも、時点T2において、外部停車解除要求が出されると、これに伴ってステアリング抑制処置が解除される。このため、例えばキー2の誤操作によって外部停車要求が出されたとしても、それを解除して通常走行に戻ることが可能となる。
【0128】
図21は、外部停車要求が出された時のボデー関連の制御の様子を示したタイミングチャートである。この図に示すように、時点T1において外部停車要求が出されたら、トランクロックを施すことでトランクルームからの荷物の盗難を防止したり、ドアロックを行うことで盗難車のドライバが車外に逃げ出せないようにしたり、警察等へ連絡を入れたり、車室内に設置されたカメラによって盗難車のドライバを撮影したりする。
【0129】
なお、時点T2において外部停車要求が解除されると、トランクロックなどを解除することもできる。この場合において、ドアロックについては解除しないようにし、内部からは解除不可のドアロック状態を維持することで、犯人が車外に逃げられないようにすると好ましい。
【0130】
以上説明したように、本実施形態の車両盗難防止制御システムによれば、車外からの外部停車要求が出されると、それに基づいて車両を停止させるようにしている。そして、車両を停止させる際に、所定の減速度、本実施形態の場合には基準減速度で停止させるようにしているため、急停車させたりすることなく安全に車両を停止させることが可能となる。
【0131】
また、モーメント力を抑制するように制動力を加えているため、できるだけ直進状態で車両を停止させることが可能となる。このため、自車両や周辺車両の安全をより確保しつつ車両を停止させることが可能となる。
【0132】
さらに、エンジン抑制処置やステアリング抑制処置を施すことで、盗難車のドライバに自由に運転できないという違和感を与え、車両を盗むことを諦めさせるようにすることも可能となる。この場合、ステアリング抑制処置を行いつつも、ステアリング操作が行えないようにはしていないため、仮に道路の中央で車両が停止させられそうになったとしても、車両を安全な位置まで移動させることが可能となる。
【0133】
また、トランクロックやドアロック、さらには警察等への連絡や車室内カメラでの撮影などを行うことで、トランクルームからの盗難を防止したり、犯人逮捕のサポートを行うことが可能となる。
【0134】
(他の実施形態)
上記実施形態では、車両を停止させる際に一定の減速度とするような減速制御を例に挙げて説明したが、減速度を必ずしも一定にしなくても良い。例えば、車速に応じて発生させる減速度を変化させるような減速制御を行っても良い。
【0135】
上記実施形態では、外部停車要求や外部停車解除要求を専用のキー2で出す場合について説明したが、キー2に限るものではなく、携帯電話などの他の外部停止指示装置を用いて上記要求を出すようにしても良い。
【0136】
また、上記実施形態では、各種制御を実施できる例を挙げて説明したが、少なくとも車両を所定の減速度(基準減速度)で停止させられれば良く、他の制御のいずれかを実施しない形態としても良い。
【0137】
なお、各図中に示した各部およびステップは、各種処理を実行する手段に対応するものである。例えば、外部要求判定部1aは外部停車要求判定手段、抑制モーメント演算部1b〜駐車ブレーキ出力演算部1fは車両停止制御手段(抑制モーメント演算部1bは抑制モーメント演算手段)、エンジン抑制処置部1gはエンジン抑制処置手段、ステアリング抑制処置部1hはステアリング抑制処置手段、ステップ100の処理を実行する部分は作動中判定手段に相当する。
【符号の説明】
【0138】
1…外部停車制御処置部、1a…外部要求判定部、1b…抑制モーメント演算部、1b〜1f…前記車両停止制御手段、1c…目標制動力演算減速度フィードバック部、1d…ブレーキ調停部、1e…常用ブレーキ出力演算部、1f…駐車ブレーキ出力演算部、1g…エンジン抑制処置部、1h…ステアリング抑制処置部、1i…ボデー関連処置部、2…キー、3…PT−ECU、4…Gセンサ、5…ステアリングセンサ、6…ヨーレートセンサ、7…ESC−ECU、8…EPBC−ECU、9…EPS−ECU、10…BODY−ECU、11…油圧システム、12…EPBシステム
【技術分野】
【0001】
本発明は、車外からの指令に基づいて車両を停止させる車両盗難防止制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、エンジン始動時に正規のキー(鍵)が使用されているか否かを判定し、使用されていないときにエンジンが始動できないようにするイモビライザ装置などがある。しかしながら、このようなイモビライザ装置では、正規のキーが使用されている状態で車両が盗難にあった場合には、エンジンが正常に始動させられた状態になっているため、盗難された車両を停止させることができない。例えば、ゴッツン盗と呼ばれる犯人が故意に盗難したい車両にぶつかり、ぶつけられた運転手が車外に出たところで車両を盗むような場合や、バタバタ盗と呼ばれるタイヤにテープなどを貼り付け、走行中に異物に気付いた運転手が車外に出たところで車両を盗むような場合には、イモビライザ装置では対応できない。
【0003】
このため、特許文献1において、車両盗難時に、車外からの指令により、車間制御処理を使って前車に衝突することなく車両を安全に停止させるようにした車両停止制御システムが提案されている。このように、車外からの指令によって車両を停止させられるようにすることで、正規のキー(鍵)が認証されて正常にエンジン始動が行われたような場合にも、車両を停止させることが可能となり、盗難を防止することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−118550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1では、具体的な車両の停止方法については示されておらず、また、前方車が居ない状態で信号などによって急減速が必要な場合の安全や、道路上で停止した後の自車両や周辺車両の安全の確保については何ら示されていない。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、車外からの指令に基づいて安全に車両を停止させられる車両盗難防止制御装置を提供することを第1の目的とする。また、自車両や周辺車両の安全の確保と盗難の防止を両立する車両盗難防止制御装置を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、車両の外部から該車両の停止の指示が出された外部停車要求ありの状態を判定する外部停車要求判定手段(1a)と、外部停車要求判定手段(1a)にて外部停車要求ありの状態と判定されたときにブレーキシステムを用いて車両を停止させる車両停止制御手段(1b〜1f)と、を有し、外部停車要求判定手段(1a)は、外部停車要求を受信する外部信号受信手段を有し、外部信号受信手段が外部停車要求を受信した場合に外部停車要求ありの状態であると判定し、車両停止制御手段(1b〜1f)は、外部停車要求ありの状態となったときには、予め定められた減速制御にしたがってブレーキシステムによって車両に制動力を発生させることを特徴としている。
【0008】
このように、車外からの外部停車要求が出されると、それに基づいて車両を停止させるようにしている。そして、車両を停止させる際に、予め定められた減速制御にしたがって車両を停止させるようにしているため、急停車させたりすることなく、自車両の安全性が確保されるとともに後続車の追突を防止し、安全に車両を停止させることが可能となる。
【0009】
例えば、請求項2に記載したように、車両停止制御手段(1b〜1f)により、減速制御として車両を所定の減速度である基準減速度で減速させるようにすることができる。このように、一定の減速度によって車両を停止させると好ましい。
【0010】
請求項3に記載の発明では、車両停止制御手段(1b〜1f)は、車両に駆動力を発生させられる状態であるか否かを判定する作動中判定手段(S100)を有し、ブレーキシステムとして常用ブレーキと駐車ブレーキを制御することにより車両を停止させるようにしており、外部停車要求ありの状態になってから作動中判定手段(S100)にて車両に駆動力を発生させられる状態であると判定されると、常用ブレーキと駐車ブレーキの少なくとも一方を用いて車両を停止させるための制動力を発生させ、車両に駆動力を発生させられる状態ではないと判定されると、駐車ブレーキのみによって車両を停止させるための制動力を発生させることを特徴としている。
【0011】
駐車ブレーキによる制動力は駐車ブレーキを駆動するために用いるモータ(17)を停止した後にも維持できることから、電流を消費し続けなくても車両の停止を維持できる。したがって、車両に駆動力を発生させられる状態ではなくなったときには、駐車ブレーキのみによって車両を停止させるための制動力を発生させることで、電力消費の低減を図ることが可能になる。また、車両停止後に盗難車のドライバが車両を盗むことを諦め、仮に坂路等に車両を放置した場合であっても、駐車ブレーキによって長時間にわたり車両の停止を維持することができる。
【0012】
請求項4に記載の発明では、車両停止制御手段(1b〜1f)は、車両に発生しているモーメント力を抑制する目標ブレーキモーメント力を算出する抑制モーメント演算手段(1b)を有し、車両を減速させるための目標制動力に対して、抑制モーメント演算手段(1b)にて算出された目標ブレーキモーメント力を加味した制動力を発生させることを特徴としている。
【0013】
このように、モーメント力を抑制するように制動力を加えているため、できるだけ直進状態で車両を停止させることが可能となる。このため、自車両や周辺車両の安全をより確保しつつ車両を停止させることが可能となる。
【0014】
請求項5に記載の発明では、車両停止制御手段(1b〜1f)は、車両を所定の減速度で減速させるための基準制動力に対して、ドライバのアクセル操作に基づくドライバ要求エンジントルクとブレーキ操作に基づくドライバ要求ブレーキトルクを加味した値を目標制動力とすることを特徴としている。
【0015】
これにより、ドライバがアクセル操作量を増加したとしても所定の減速度で減速させつつ、ブレーキ操作を行って減速度をより大きくしたい場合には制動力を増加してより安全に車両を停止させられるようにすることが可能となる。具体的には、請求項6に記載したように、車両停止制御手段(1b〜1f)は、基準制動力からドライバ要求ブレーキトルクを差し引きドライバ要求エンジントルクを加算した値を目標制動力とすることができる。また、ドライバがアクセルを深く踏み込み、ブレーキ出力の上限以上にエンジンの駆動力を発生させることで、車両の移動を行うことができる。これにより、仮に道路の中央で車両が停止させられそうになったとしても車両を安全な位置まで移動させることができる。一方、移動中はエンジンの駆動力とブレーキの制動力が同時に作用し、車両の駆動系等に強い負荷が掛かる為、車両に通常走行時には発生しないような音や振動が発生し、盗難車のドライバに自由に移動できないという違和感を与えて、長距離の移動を防止することができる。
【0016】
請求項7に記載の発明では、車両のアクセル操作量を検出し、外部停車要求判定手段(1a)にて外部停車要求ありの状態と判定されたときに、エンジントルクをアクセル操作量と対応するアクセル操作量よりも小さくすることでエンジン抑制を行うエンジン抑制処置手段(1g)を有していることを特徴としている。
【0017】
このように、エンジン抑制処置を施すことで、盗難車のドライバに自由に運転できないという違和感を与え、車両を盗むことを諦めさせるようにすることも可能となる。
【0018】
請求項8に記載の発明では、車両のステアリング操作量を検出し、外部停車要求判定手段(1a)にて外部停車要求ありの状態と判定されたときに、電動パワーステアリングにおけるアシスト力をステアリング操作量と対応するアシスト力よりも小さくすることでステアリング抑制を行うステアリング抑制処置手段(1h)を有していることを特徴としている。
【0019】
このように、エンジン抑制処置やステアリング抑制処置を施すことで、盗難車のドライバに自由に運転できないという違和感を与え、車両を盗むことを諦めさせるようにすることも可能となる。この場合、ステアリング抑制処置を行いつつも、ステアリング操作が行えないようにはしていないため、仮に道路の中央で車両が停止させられそうになったとしても、車両を安全な位置まで移動させることが可能となる。
【0020】
請求項9に記載の発明では、外部停車要求判定手段(1a)にて外部停車要求ありの状態と判定されたときに、車両のトランクルームをロックするトランクロックと、ドアをロックするドアロックと、車両外部への通報および車室内の撮影の少なくとも1つを行う手段(1i)を有していることを特徴としている。
【0021】
このように、トランクロックやドアロック、さらには警察等への連絡や車室内カメラでの撮影などを行うことで、トランクルームからの盗難を防止したり、犯人逮捕のサポートを行うことが可能となる。
【0022】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる車両盗難防止制御装置が適用された車両盗難防止制御システムの全体構成を示したブロック図である。
【図2】盗難防止のための処置に用いられるブレーキシステムの全体概要を示した模式図である。
【図3】アクチュエータ16の詳細構造を示したブレーキシステムの油圧回路図である。
【図4】外部停車制御処置部1が実行する処理全体のフローチャートである。
【図5】外部停車制御処置の詳細を示したフローチャートである。
【図6】目標制動力演算処理の詳細を示したフローチャートである。
【図7】(a)、(b)は、リア側で目標ブレーキモーメント力を100%実現できる場合と50%のみ実現できる場合を表した図である。
【図8】リア側で目標ブレーキモーメント力を100%実現する場合を表した図である。
【図9】常用ブレーキと駐車ブレーキの調停処理の詳細を示したフローチャートである。
【図10】常用ブレーキ出力演算処理の詳細を示したフローチャートである。
【図11】駐車ブレーキ出力演算処理の詳細を示したフローチャートである。
【図12】エンジン抑制処置処理の詳細を示したフローチャートである。
【図13】ステアリング抑制処置処理の詳細を示したフローチャートである。
【図14】ボデー関連処置処理の詳細を示したフローチャートである。
【図15】車外からキー2を用いて外部停車要求を行ったときに常用ブレーキと駐車ブレーキの双方を用いて制動を行う場合の様子を示したタイミングチャートである。
【図16】車外からキー2を用いて外部停車要求を行ったときに駐車ブレーキのみで制動を行う場合の様子を示したタイミングチャートである。
【図17】走行中に車外からキー2を用いて外部停車要求を行ったときの様子を示したタイミングチャートである。
【図18】走行中にステアリング操作に基づくヨーレートが発生した場合にブレーキによって抑制するときの様子を示したタイミングチャートである。
【図19】エンジン抑制処置を行うときの様子を示したタイミングチャートである。
【図20】ステアリング抑制処置を行うときの様子を示したタイミングチャートである。
【図21】外部停車要求が出された時のボデー関連の制御の様子を示したタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0025】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。図1は、本実施形態にかかる車両盗難防止制御装置が適用された車両盗難防止制御システムの全体構成を示したブロック図である。以下、この図を参照して車両盗難防止制御システムについて説明する。なお、本実施形態では、駐車ブレーキ機構がリア輪にのみ設けられている場合を例に挙げて説明するが、勿論、他の車輪に備えられていても良い。
【0026】
図1に示すように、車両盗難防止制御システムは、外部停車制御処置部1、キー2、パワトレ制御装置(以下、PT(Power Train)−ECUという)3、加速度センサ(以下、Gセンサという)4、ステアリングセンサ5、ヨーレートセンサ6、横滑り防止装置(以下、ESC(Electronic Stability Control)−ECUという)7、電気駐車ブレーキ制御装置(以下、EPB(Electric Parking brake)−ECUという)8、電動パワーステアリング制御装置(以下、EPS(Electric Power Steering)−ECUという)9およびボデー制御装置(以下、BODY−ECUという)10を有した構成とされている。なお、図1中では、信号の入出力の関係を明確にすべく、PT−ECU3やESC−ECU7およびEPB−ECU8については複数記載してあるが、これらはそれぞれ同一のものである。
【0027】
外部停車制御処置部1は、車両盗難防止制御装置を構成するものであり、キー2からの指令に基づいて、走行中の車両を停止させたり停止中の車両が動かないように停止させたままにするなど、盗難防止にかかる処置を行う部分である。例えば、外部停車制御処置部1は、キー2の操作によって車両を停止させる指令が出されると、それを図示しない受信アンテナなどの外部信号受信手段にて受信する。そして、PT−ECU3やESC−ECU7からの情報や各種センサ4〜6の検出信号に基づいて、常用ブレーキや駐車ブレーキで発生させる制動力に対応する物理量を演算したり、エンジンやステアリングおよびボデー関連で行うべき処置を決定し、それを実現すべく、各種ECU3、7〜10に対して信号を伝える。これにより、車両の盗難防止にかかる処置が実行されるようになっている。この外部停車制御処置部1は、独立したECUによって構成されていても良いし、ESC−ECU7やEPB−ECU8などのECU内において機能的に備えられたものであっても良い。
【0028】
具体的には、外部停車制御処置部1には、外部要求判定部1a、抑制モーメント演算部1b、目標制動力演算減速度フィードバック部1c、ブレーキ調停部1d、常用ブレーキ出力演算部1e、駐車ブレーキ出力演算部1f、エンジン抑制処置部1g、ステアリング抑制処置部1h、ボデー関連処置部1iが備えられている。
【0029】
外部要求判定部1aは、本発明の外部停車判定手段を構成するもので、キー2の操作に基づいて外部要求、つまり車両を停止させる指令である外部停車要求が出されているか否かの判定や、停止を解除する指令である外部停車解除要求が出されているか否かの判定を行っている。この外部要求判定部1aでの判定結果は、目標制動力演算減速度フィードバック部1c、エンジン抑制処置部1g、ステアリング抑制処置部1hおよびボデー関連処置部1iに入力される。
【0030】
抑制モーメント演算部1bは、車両をできる限り直進状態で停車させるために、モーメント抑制に必要な制動力を演算するものである。例えば、抑制モーメント演算部1bは、各種車両緒元や車速、ヨーレート、タイヤ角などを用い、車両に発生している横方向運動の運動方程式や重心周りの回転角速度の運動方程式に基づいて目標ブレーキモーメント力を算出し、これに基づいて目標ブレーキモーメント力を発生させるために必要なフロント輪のモーメント分フロント輪トルクとリア輪それぞれのモーメント分リア輪トルクを演算している。
【0031】
目標制動力演算減速度フィードバック部1cは、目標制動力を演算すると共にそれを前後配分した目標制動トルクを演算し、目標とする減速度に制御できているかをフィードバックして、目標制動トルクをフィードバック項が加味された値に補正している。本実施形態では、走行中の車両を停止させるときには、できるだけ安全に停止させられるように、所定の減速度(例えば0.3G)で停止させるようにする。この減速度を基準減速度として、基準減速度を得るために必要な制動力を目標制動力として演算し、さらに、この目標制動力を得るために必要なブレーキトルクを前後配分した値として、前後配分用フロント目標制動トルクおよび前後配分用リア目標制動トルクを演算している。そして、Gセンサ4の検出信号から実際に発生させられている減速度をモニタし、実際に発生させられている減速度が目標としている基準減速度に近づくようにフィードバック制御を行い、前後配分用フロント目標制動トルクおよび前後配分用リア目標制動トルクを補正している。
【0032】
さらに、目標制動力演算減速度フィードバック部1cは、フィードバック制御による補正の前後配分用フロント目標制動トルクおよび前後配分用リア目標制動トルクに対して、抑制モーメント演算部1bで演算されたモーメント分リア輪トルクを加味し、右リア輪要求トルクと左リア輪要求トルクを演算している。これが、目標制動力に対して抑制モーメント力分の左右制動力を調停したときの左右それぞれの車輪の要求トルクとなる。
【0033】
ブレーキ調停部1dは、常用ブレーキと駐車ブレーキとの調停を行う。具体的には、常用ブレーキを構成する油圧システムが有り、かつ、それが許可状態になっているか否かや、駐車ブレーキを構成するEPBシステムが有り、かつ、それが許可状態になっているか否かなどに基づいて、油圧システムとEPBシステムのどれを用いて良いかを決定する。
【0034】
常用ブレーキ出力演算部1eは、ブレーキ調停部1dで決定されたシステムに基づいて、常用ブレーキにて発生させるブレーキトルクに対応するブレーキ油圧を演算する。例えば、ブレーキ調停部1dで油圧システムのみを用いると決定された場合には、常用ブレーキ出力演算部1eは、目標制動力演算減速度フィードバック部1cで演算された左右それぞれの目標要求トルクに対応したブレーキ油圧を演算する。また、ブレーキ調停部1dで油圧システムと駐車システムの双方を用いると決定された場合には、常用ブレーキ出力演算部1eは、目標制動力演算減速度フィードバック部1cで演算された左右それぞれの目標要求トルクに対応したブレーキ油圧を演算しつつ、常用ブレーキのみでは実現できない不足トルクを駐車ブレーキ出力演算部1fに伝える。さらに、ブレーキ調停部1dで駐車システムのみを用いると決定された場合には、常用ブレーキ出力演算部1eは、常用ブレーキの要求トルクを0に設定すると共に、目標制動力演算減速度フィードバック部1cで演算された左右それぞれの目標要求トルクを不足トルクとして駐車ブレーキ出力演算部1fに伝える。
【0035】
そして、常用ブレーキ出力演算部1eは、常用ブレーキを構成する油圧システムによって発生させるブレーキ油圧を演算すると、それをESC−ECU7に伝える。これにより、ESC−ECU7は、後述する油圧システムを駆動してそのブレーキトルクを発生させる。
【0036】
駐車ブレーキ出力演算部1fでは、ブレーキ調停部1dで決定されたシステムに基づいて、駐車ブレーキを構成するEPBシステムで発生させるブレーキトルクに対応する軸力を演算する。本実施形態の場合、常用ブレーキ出力演算部1eを介して、駐車ブレーキ出力演算部1fに対して駐車ブレーキにて発生させる不足トルクが伝えられるため、駐車ブレーキ出力演算部1fではその伝えられたブレーキトルクに対応する軸力を演算している。
【0037】
そして、駐車ブレーキ出力演算部1fは、駐車ブレーキを構成するEPBシステムによって発生させる軸力を演算すると、それをEPB−ECU8に伝える。これにより、EPB−ECU8は、EPBシステムを駆動してそのブレーキトルクを発生させる。
【0038】
エンジン抑制処置部1gは、外部停車要求に基づいてエンジン制御を行い、盗難車のドライバに対して運転の違和感を与える。例えば、外部停車要求があったときには、通常時に発生させられる駆動力を抑制することで、車両を動かせるものの自由には動かせないという状況を作り出す。具体的には、エンジン抑制処置部1gは、PT−ECU3で取り扱われているアクセル開度に基づいてエンジン要求トルクを演算している。アクセル操作量に対応して要求されるエンジントルクがドライバ要求エンジントルクだとすると、通常時にはドライバ要求エンジントルクをエンジン要求トルクとするが、外部停車要求があったときには、ドライバ要求エンジントルクに対してエンジン要求トルクが小さな値となるようにする。そして、このように通常時よりも抑制されたエンジン要求トルクをPT−ECU3に伝えるようにしている。このように、外部停車要求があったときにはエンジン制御も行うことで、盗難車のドライバに対して自由に運転できない車両であるということを印象付けるようにしている。
【0039】
ステアリング抑制処置部1hは、外部停車要求に基づいてステアリング制御を行い、盗難車のドライバに対して運転の違和感を与える。例えば、外部停車要求があったときには、通常時に発生させられるEPSのアシストトルク(アシスト力)を抑制することで、操舵できるものの自由には動かせないという状況を作り出す。具体的には、ステアリング抑制処置部1hは、ステアリングセンサ5が検出するステアリング操作量、具体的は操舵角に基づいてアシストトルクを演算すると共に、このアシストトルクを発生させるために必要なアシスト電流値を演算している。通常時にステアリング操作に対応して要求されるアシストトルクと比較して、外部停車要求があったときのアシストトルクが小さな値となるようにする。そして、このように通常時よりも抑制されたアシストトルクを発生させるために必要なアシスト電流値をEPS−ECU9に伝えるようにしている。このように、外部停車要求があったときにはステアリング制御も行うことで、盗難車のドライバに対して自由に操舵できない車両であるということを印象付けるようにしている。
【0040】
ボデー関連処置部1iは、外部停車要求に基づいてボデーECU10に各種指令を出し、ボデーECU10によって制御できる各種制御を行う。例えば、外部停車要求があったときにはトランクロックを施すことでトランクルームからの荷物の盗難を防止したり、ドアロック(チャイルドロック)を行うことで盗難車のドライバが車外に逃げ出せないようにしたり、警察等へ連絡を入れたり、車室内に設置されたカメラ(図示せず)によって盗難車のドライバを撮影したりする。
【0041】
このようにして車両盗難防止制御システムが構成されており、車両盗難防止制御システムに備えられた外部停車制御処置部1によって盗難防止にかかる処置が行われるようになっている。このような車両盗難防止制御システムでは、キー2からの要求があったときに、ESC−ECU7およびEPB−ECU8によって油圧システムやEPBシステムを構成する車両用のブレーキシステムを用いて所定の基準減速度で車両を停止させるようにしている。このブレーキシステムの構成について説明する。なお、本実施形態では、後輪系にディスクブレーキタイプのEPBを適用しているX配管の車両用ブレーキシステムを例に挙げて説明する。
【0042】
図2は、本実施形態にかかる盗難防止のための処置に用いられるブレーキシステムの全体概要を示した模式図である。また、図3は、アクチュエータ16の詳細構造を示したブレーキシステムの油圧回路図である。以下、これらの図を参照して説明する。
【0043】
図2に示すように、ブレーキシステムは、ドライバの踏力に基づいて制動力を発生させる油圧システム(サービスブレーキ)11と駐車時に車両の移動を規制するためのEPBシステム12とが備えられている。
【0044】
油圧システム11は、ドライバによるブレーキペダル13の踏み込みに応じた踏力を倍力装置14にて倍力したのち、この倍力された踏力に応じたブレーキ油圧をマスタシリンダ(以下、M/Cという)15内に発生させ、このブレーキ油圧を各車輪のブレーキ機構に備えられた各W/C31、32、41、42に伝えることで制動力を発生させる。また、M/C15とW/C31、32、41、42との間にブレーキ油圧調整を行うアクチュエータ16が備えられており、油圧システム11により発生させる制動力を調整し、車両の安全性を向上させるための各種制御(例えば、アンチスキッド制御等)を行える構造とされている。
【0045】
アクチュエータ16を用いた各種制御は、ESC−ECU7にて実行される。例えば、ESC−ECU7からアクチュエータ16に備えられる各種制御弁やポンプ駆動用のモータを制御するための制御電流を出力することにより、アクチュエータ16に備えられる油圧回路を制御し、W/C31、32、41、42に伝えられるW/C圧を制御する。このアクチュエータ16の詳細構成に関しては後述する。
【0046】
一方、EPBシステム12は、EPB−ECU8によって制御され、EPB−ECU8によってモータ17を駆動し、ブレーキ機構を制御することで制動力を発生させる。具体的には、駐車ブレーキを掛けるときにはモータ17を正回転させることで制動力を発生させ、駐車ブレーキを解除するときにはモータ17を逆回転させることで制動力を解除する。また、EPBシステム12は、駐車ブレーキ(以下、PKB(Parking brake)という)操作スイッチ20の操作に基づいて駐車ブレーキによる制動力を発生させ、駐車ブレーキが掛けられているロック状態と駐車ブレーキが掛けられていないリリース状態とをロック/リリース表示ランプ21によって表示している。EPBシステム12は、通常時はPKB操作スイッチ20の操作に基づいて作動させられるが、本実施形態では、車両停止要求時に、必要に応じてEPBシステム12の制動力を用いて車両を停止させるようにしている。
【0047】
ブレーキ機構は、本実施形態のブレーキシステムにおいて制動力を発生させる機械的構造であり、前輪系のブレーキ機構は油圧システム11の操作によって制動力を発生させる構造とされているが、後輪系のブレーキ機構は、油圧システム11の操作とEPBシステム12の操作の双方に対して制動力を発生させる共用の構造とされている。すなわち、後輪系のブレーキ機構では、油圧システム11を作動させたときだけでなくEPBシステム12を作動させたときにも、摩擦材であるブレーキパッド18を押圧し、ブレーキパッド18によって被摩擦材であるブレーキディスク19を挟み込むことにより、ブレーキパッド18とブレーキディスク19との間に摩擦力を発生させ、制動力を発生させる。具体的には、油圧システム11を作動させたときには、W/C圧によってブレーキパッド18を押し出すピストン(図示せず)が押圧されることで制動力を発生させる。また、EPBシステム12を作動させたときには、モータ17の回転に基づいてピストンを押し出す推進軸(図示せず)が駆動されることでブレーキパッド18が押し出され、制動力を発生させる。このときの推進軸がピストンを押し出す軸力により、ブレーキパッド18がブレーキディスク19を挟み込んで制動力を発生させることになるため、その軸力が発生させられる制動力(制動トルク)に対応した物理量となる。このように、EPBシステム12の加圧機構と油圧システム11のW/C32、42とが一体型とされた駐車ブレーキ一体型加圧機構とされている。
【0048】
なお、EPBシステム12では、モータ17の回転軸と推進軸とがギア機構を介して結合されているため、モータ17の回転を停止すると、ギア機構の噛合いの摩擦力によって推進軸がその位置で停止する。このため、ブレーキパッド18がブレーキディスク19に押圧された状態でモータ17の回転を停止すれば、所定の制動力を発生させた状態を維持できる。
【0049】
続いて、図3にアクチュエータ16の詳細構造を示したブレーキシステムの油圧回路図を示し、この図を参照してアクチュエータ16の詳細構造について説明する。
【0050】
図3に示されるように、アクチュエータ16内には、M/C15のプライマリ室およびセカンダリ室それぞれに対して連通させられた第1、第2配管系統30、40が構成されている。第1配管系統30は、左前輪FLと右後輪RRに加えられるブレーキ油圧を制御し、第2配管系統40は、右前輪FRと左後輪RLに加えられるブレーキ油圧を制御する。つまり、X配管の配管構成とされている。
【0051】
常用ブレーキ、つまり油圧システム11によって制動力を発生させる際にM/C15に発生させられるM/C圧は、第1配管系統30と第2配管系統40を通じて各W/C31、32、41、42に伝えられる。第1配管系統30には、M/C15のプライマリ室とW/C31、32とを接続する管路Aが備えられていると共に、第2配管系統40には、M/C15のセカンダリ室とW/C41、42とを接続する管路Eが備えられ、これら各管路A、Eを通じてM/C圧がW/C31、32、41、42に伝えられる。
【0052】
また、管路A、Eは、連通状態と差圧状態に制御できる差圧制御弁33、43を備えている。差圧制御弁33、43は、ドライバがブレーキペダル13の操作を行う常用ブレーキ時には連通状態となるように弁位置が調整されており、差圧制御弁33、43に備えられるソレノイドコイルに電流が流されると、この電流値が大きいほど大きな差圧状態となるように弁位置が調整される。
【0053】
この差圧制御弁33、43が差圧状態のときには、W/C31、32、41、42側のブレーキ油圧がM/C圧よりも所定以上高くなった際にのみ、W/C31、32、41、42側からM/C15側へのみブレーキ液の流動が許容される。このため、常時W/C31、32、41、42側がM/C15側よりも所定圧力高い状態が維持される。
【0054】
そして、管路A、E、差圧制御弁33、43よりも下流になるW/C31、32、41、42側において、2つの管路A1、A2、E1、E2に分岐する。管路A1、E1にはW/C31、41へのブレーキ油圧の増圧を制御する第1増圧制御弁34、44が備えられ、管路A2、E2にはW/C32、42へのブレーキ油圧の増圧を制御する第2増圧制御弁35、45が備えられている。
【0055】
これら第1、第2増圧制御弁34、35、44、45は、連通・遮断状態を制御できる2位置電磁弁により構成されている。第1、第2増圧制御弁34、35、44、45は、第1、第2増圧制御弁34、35、44、45に備えられるソレノイドコイルへの制御電流がゼロとされる時(非通電時)には連通状態となり、ソレノイドコイルに制御電流が流される時(通電時)に遮断状態に制御されるノーマルオープン型となっている。
【0056】
管路A、Eにおける第1、第2増圧制御弁34、35、44、45及び各W/C31、32、41、42の間は、減圧管路としての管路B、Fを通じて調圧リザーバ36、46に接続されている。管路B、Fには、連通・遮断状態を制御できる2位置電磁弁により構成される第1、第2減圧制御弁37、38、47、48がそれぞれ配設されている。そして、これら第1、第2減圧制御弁37、38、47、48は、第1、第2減圧制御弁37、38、47、48に備えられるソレノイドコイルへの制御電流がゼロとされる時(非通電時)には遮断状態となり、ソレノイドコイルに制御電流が流される時(通電時)に連通状態に制御されるノーマルクローズ型となっている。
【0057】
調圧リザーバ36、46と主管路である管路A、Eとの間には還流管路となる管路C、Gが配設されている。管路C、Gには調圧リザーバ36、46からM/C15側あるいはW/C31、32、41、42側に向けてブレーキ液を吸入吐出するモータ50によって駆動される自吸式のポンプ39、49が設けられている。モータ50は図示しないモータリレーに対する通電が制御されることで駆動される。
【0058】
そして、調圧リザーバ36、46とM/C15の間には補助管路となる管路D、Hが設けられている。管路D、Hを通じ、ポンプ39、49にてM/C15からブレーキ液を吸入し、管路A、Eに吐出することで、W/C31、32、41、42側にブレーキ液を供給する。
【0059】
このようにしてアクチュエータ16が構成されており、ESC−ECU7が各種制御弁33〜35、37、38、43〜45、47、48やポンプ駆動用のモータ50を制御するための制御電流を出力することにより、アクチュエータ16に備えられる油圧回路を制御する。これにより、アンチスキッド制御として、制動時の車輪スリップ時にW/C圧の減圧、保持、増圧を行うことで車輪ロックを防止したり、横滑り防止制御として、制御対象輪のW/C圧を自動加圧することで横滑り傾向(アンダーステア傾向もしくはオーバステア傾向)を抑制して理想的軌跡での旋回が行えるようにすることができる。また、盗難防止にかかる処置として、各車輪のW/C圧を自動加圧することで制動力を発生させ、所望の減速度で盗難車を停止させることもできる。
【0060】
なお、図示しないが、ESC−ECU7には車両の車輪毎に備えられた車輪速度センサからの検出信号が入力されるようになっており、この車輪速度センサの検出信号に基づいて、各車輪速度や推定車体速度およびスリップ率などを演算している。ESC−ECU7は、これらの演算結果に基づいてアンチスキッド制御などを実行している。
【0061】
以上のような構造により、油圧システム11およびEPBシステム12が備えられたブレーキシステムが構成されている。
【0062】
次に、本実施形態の車両盗難防止制御システムを用いた盗難防止にかかる処置の詳細について説明する。
【0063】
図4は、車両盗難防止制御システムに備えられた外部停車制御処置部1が実行する処理全体のフローチャートである。この図に示される処理は、バッテリからの電力供給に基づいて所定の制御周期毎に実行される。
【0064】
まず、ステップ100では、イグニッションスイッチ(以下、IGという)がオンしているか否か、つまり車両に駆動力を発生させられる状態であるか否かを判定する。この判定は、PT−ECU3からIGの状態を示す情報を入手することにより行われる。ここでは内燃機関のみによって駆動力を発生させる車両を想定しているため、IGがONの状態が車両に駆動力を発生させられる状態としているが、ハイブリッド車両や電気自動車であれば作動スイッチがONされている状態が車両に駆動力を発生させられる状態であると判定される。ここで肯定判定されると、ステップ105に進んでIGがOFFされた後の処置(以下、IG−OFF後処置という)についての要求は無いとして、その要求が有る場合にセットされるフラグをリセットしてステップ110に進む。
【0065】
後述するように、本実施形態では前回IG−ONされていたときに、盗難車のドライバがIGをOFFし、再度IG−ONしたとしても外部停車要求が継続するように、EEPROM(メモリ)に外部停車要求があったことを記憶するようにしている。ステップ110では、このような状況であるか判定している。このような状況である場合は、IG−ON直後で、まだ、外部定停車要求実施中であることを示すフラグがセットされていない状況でもある。このため、ステップ115に進み、そのフラグをセットしてからステップ120に進む。また、ステップ110で否定判定された場合には、そのままステップ120に進む。
【0066】
ステップ120では、外部停車要求実施中であるか否かを判定する。ここで肯定判定されるのは、ステップ115でフラグがセットされて、IG−ON後にEEPROMに外部停車要求が記憶されていた場合か、もしくは、前の制御周期において既に外部停車要求実施中であった場合である。外部停車要求が無い場合、もしくは、IG−ON後に初めて外部停車要求が出された場合には否定判定される。
【0067】
このため、ステップ120で否定判定された場合にはステップ125に進み、外部停車要求があったか否かを判定する。そして、ここでも否定判定された場合には通常通りIG−ONしたときと想定されるため、ここまま後述するステップ170に進み、肯定判定された場合にはステップ130に進む。その後、ステップ130で外部停車要求ありであったことをEEPROMに記憶した後、ステップ135に進み、外部停車要求実施中を示すフラグをセットし、後述するステップ170に進む。
【0068】
また、ステップ120で肯定判定された場合にはステップ140に進み、外部停車解除要求があるか否かを判定する。ここで、否定判定された場合には、外部停車要求実施を継続することになり、後述するステップ170に進む。また、肯定判定された場合には、車両を停止させる必要がなくなるため、ステップ145に進んで外部停車要求なしになったことを記憶すべく、EEPROMの記憶内容を外部停車要求なしとする。そして、ステップ150に進んで外部停車要求実施中を示すフラグをリセットしてステップ170に進む。
【0069】
一方、ステップ100において否定判定された場合にはステップ155に進み、外部停車要求実施中、かつ、前回IG−ONであったか否かを判定する。つまり、外部停車要求実施中、かつ、前回の制御周期のときにIG−ONであったときには、外部停車制御を実施中にIGがOFFにされたことを示している。このような場合には、車両の停止状態を維持するなどのIG−OFF後処置を行うことが必要になる。したがって、ここで肯定判定されたときにはステップ160に進んでIG−OFF後処置要求ありを設定し、否定判定されたときにはステップ165に進んでIG−OFF後処置要求なしを設定する。そして、ステップ170に進む。
【0070】
ステップ170では、外部停車制御処置の処理を実行する。図5は、外部停車制御処置の詳細を示したフローチャートである。この図に示すように、外部停車制御処置の処理では、ステップ200の目標制動力演算処理、ステップ300の常用ブレーキと駐車ブレーキの調停処理、ステップ400の常用ブレーキ出力演算処理、ステップ500の駐車ブレーキ出力演算処理、ステップ600のエンジン抑制処置処理、ステップ700のステアリング抑制処置処理、ステップ800のボデー関連処置処理を順に実行することで、車両を停止させたり、停止させた車両の停止を維持するなどの処理を行う。以下、これらステップ200〜ステップ800の各種処理の詳細について、順に説明する。
【0071】
図6は、ステップ200に示す目標制動力演算処理の詳細を示したフローチャートである。本処理は、抑制モーメント演算部1bや目標制動力演算減速度フィードバック部1cによって実行される。この図に示すように、目標制動力演算処理では、ステップ205の目標ブレーキモーメント力算出、ステップ210で左右制動トルク配分演算、ステップ215で目標制動力算出、ステップ220で減速度フィードバック補正、ステップ225で目標制動力と左右制動力調停演算を行う。
【0072】
ステップ205の目標ブレーキモーメント力算出では、車両をできる限り直進状態で停車させるために、モーメント抑制に必要な制動力を演算する。具体的には、車両に発生している横方向運動の運動方程式や重心周りの回転角速度の運動方程式に基づいて、発生しているモーメントを抑制するために必要な目標ブレーキモーメント力を算出している。横方向運動の運動方程式や重心周りの回転角速度の運動方程式は、それぞれ数式1、2で表される。
【0073】
【数1】
【0074】
【数2】
上記数式1、2中において、mは車両重量(kg)、Vは車速(m/s)、γは車両ヨーレート(rad/s)、Cfはフロント側のコーナリングパワー、Crはリア側のコーナリングパワー、δはタイヤ角(rad)、βは車体スリップ角(rad)、Lfは重心からフロント軸までの距離(m)、Lrは重心からリア軸までの距離(m)、Ibrkは目標ブレーキモーメント力(Nm)である。車両諸元以外の数値、例えば車速についてはESC−ECU7より取得しており、車両ヨーレートについてはヨーレートセンサ6の検出信号、タイヤ角についてはステアリングセンサ5の検出信号より検出している。そして、これら数式1、2より、目標ブレーキモーメント力Ibrkを導出している。なお、目標ブレーキモーメント力Ibrkに、ブレーキシステムの耐久性確保やステアリング操作により発生するヨーレートの抑制などの目的に応じた上限値を設定しても良い。
【0075】
ステップ210の左右制動トルク配分演算では、ステップ205で演算した目標ブレーキモーメント力に対応する左右輪でのトルク配分について演算する。例えばモーメント力が車両の回転中心の対して反時計回りに発生していれば、左車輪にてモーメント力に対応する制動トルクを発生させることになる。そして、必要に応じて、この左右輪に配分された制動トルクを更にフロントとリアで配分する。例えば、目標ブレーキモーメント力に対応する制動トルクのうちフロント側に配分される分をモーメント分フロント輪制動トルク、リア側に配分される分をモーメント分リア輪制動トルクとすると、これらは数式3、4により演算される。
【0076】
【数3】
【0077】
【数4】
ここで、フロント側要求モーメントとリア側要求モーメントは、目標ブレーキモーメント力をフロント側とリア側とで配分した値を示している。例えば、リア側によって優先的にモーメントを抑制できるように、目標ブレーキモーメント力に対応するモーメント分リア輪制動トルクを演算し、それがリア輪で発生させられるブレーキトルクであるリア輪トルクの上限値を超えていれば、その超えている分をフロント側に配分するという形態としている。この例について、図7を参照して説明する。
【0078】
図7(a)、(b)は、目標ブレーキモーメント力が2000Nm、フロントトレッドが1.525m、リアトレッドが1.467m、タイヤ径が0.319mの場合を想定して、リア側で目標ブレーキモーメント力を100%実現できる場合と50%のみ実現できる場合を表した図である。この図に示すように、目標ブレーキモーメント力が2000Nmの場合において、それを100%リア側で実現できる場合には、モーメント分リア輪制動トルクが869Nmとなる。一方、リア側で発生させられる上限値が435Nmの場合には、目標ブレーキモーメント力のうちの50%しかリア側で実現できないことから、目標ブレーキモーメント力の残りの50%分をフロント側で発生させることとする。この場合、モーメント分リア輪制動トルクが435Nmとなり、モーメント分フロント輪制動トルクが418Nmとなる。このようにして、前後制動トルク配分を演算している。
【0079】
ステップ215の目標制動力演算では、基準減速度で車両を停止させるために必要なブレーキトルクを演算すると共に、この目標制動力を得るために必要なブレーキトルクを前後配分した値として、前後配分用フロント目標制動トルクおよび前後配分用リア目標制動トルクを演算している。
【0080】
基準減速度を得るために必要な制動力を基準制動力とすると、数式5のように基準減速度に対してトルク換算係数を掛けることで基準制動力が求められる。また、数式6のように、この基準制動力に対して、ドライバのブレーキペダル操作によって要求しているブレーキトルクであるドライバ要求ブレーキトルクを差し引くと共に、ドライバのアクセル操作によって要求しているエンジントルクであるドライバ要求エンジントルクを足すことによって、目標制動力を演算している。すなわち、ドライバ要求エンジントルクが増加した場合には、それに応じて目標制動力を増加させることでドライバ要求エンジントルクの増加分を相殺して基準減速度を維持できるようにし、ドライバ要求ブレーキトルクが増加した場合にはより大きな制動力を発生させたい状況と想定されるため、基準減速度以上の減速度が得られるようにドライバ要求ブレーキトルク分を増加させるようにしている。これにより、ドライバがアクセル操作量を増加したとしても基準減速度を維持でき、ブレーキ操作を行って減速度をより大きくしたい場合には制動力を増加してより安全に車両を停止させられるようにすることが可能となる。
【0081】
そして、数式7、8のように、これを所望の前後配分比とすることで、前後配分用フロント目標制動トルクおよび前後配分用リア目標制動トルクを演算している。この場合、予め決められた前後配分比を用いることもできるが、例えばリア側によって優先的に目標制動トルクを発生させられるように、目標制動力をリア側に優先的に配分し、前後配分用目標制動トルクがリア側の上限値を超えた分をフロント側に回すという形態にすると好ましい。
【0082】
【数5】
【0083】
【数6】
【0084】
【数7】
【0085】
【数8】
ステップ220の減速度フィードバック補正では、Gセンサ4の検出信号に基づいて得られる減速度(以下、実減速度という)をフィードバックし、実減速度が基準減速度に近づくように目標制動力、もしくは前後配分用フロント目標制動トルクおよび前後配分用リア目標制動トルクを補正する。これは、フィードバック制御において行われている一般的な手法によって行われ、例えばPID制御等により行われる。
【0086】
ステップ225の目標制動力と左右制動力協調演算では、ステップ215で演算した目標制動力(実際にはステップ220での補正後のもの)とステップ210で演算した左右制動力との協調演算を行う。具体的には、目標制動力として前後配分された前後配分用フロント目標制動トルクおよび前後配分用リア目標制動トルクと、左右制動力がさらに前後配分されたモーメント分フロント輪制動トルクおよびモーメント分リア輪制動トルクに基づいて、各輪の要求トルクを演算する。この例について、図8を参照して説明する。
【0087】
図8は、目標ブレーキモーメント力が2000Nm、フロントトレッドが1.525m、リアトレッドが1.467m、タイヤ径が0.319mの場合を想定して、リア側で目標ブレーキモーメント力を100%実現する場合を表した図である。この場合、モーメント分リア輪制動トルクが869Nmとなる。さらに、この場合において、目標制動トルクが1000Nmであったとすると、両リア輪の要求トルクは、数式9、10で求められる。このようにして、各輪の要求トルクを演算している。
【0088】
【数9】
【0089】
【数10】
以上のようにして、図6に示す目標制動力演算処理が終了すると、図5のステップ300で示した常用ブレーキと駐車ブレーキの調停処理を実行する。図9は、この常用ブレーキと駐車ブレーキの調停処理の詳細を示したフローチャートである。本処理は、ブレーキ調停部1dによって実行されるものであり、常用ブレーキと駐車ブレーキのいずれを用いて車両の停止のための制動力を発生させるかを決定している。
【0090】
まず、ステップ305では、油圧システム11ありで当該システムが許可状態であり、かつ、EPBシステム12ありで当該システムが許可状態であるか否かを判定する。油圧システム11ありやEPBシステム12ありとは、当該システムが車両に組み込まれていることを示している。また、システムが許可状態とは、油圧システム11やEPBシステム12が稼動できる状態であることを示している。システムが車両に組み込まれているか否かについては、車両毎に予め決まっていることであるため、予め外部停車制御処置部1の図示しないメモリに記憶しておき、その記憶内容に基づいて判定しても良いし、ESC−ECU7やEPB−ECU8からの情報の有無に基づいて判定するようにしても良い。また、システムが許可状態であるか否かについては、ESC−ECU7やEPB−ECU8で把握しているため、これらから情報を得て判定すればよい。
【0091】
ここで肯定判定されればステップ310に進み、油圧システム11とEPBシステム12の両方共に使用許可として処理を終了する。この場合、油圧システム11とEPBシステム12のいずれを用いて制動力を発生させても良い状態になる。一方、ここで否定判定されるとステップ315に進み、EPBシステム12ありで当該システムが許可状態であるか否かを判定する。ここで肯定判定された場合は、つまり油圧システム11が無い場合もしくは油圧システム11が許可状態では無い場合であることから、EPBシステム12のみが使用できる状態になっていることを示している。したがって、ステップ320に進み、油圧システム11を使用禁止とし、EPBシステム12のみを使用許可として処理を終了する。
【0092】
さらに、ステップ315で否定判定されるとステップ325に進み、油圧システム11ありで当該システムが許可状態であるか否かを判定する。ここで肯定判定された場合は、つまりEPBシステム12が無い場合もしくはEPBシステム12が許可状態では無い場合であることから、油圧システム11のみが使用できる状態になっていることを示している。したがって、ステップ330に進み、油圧システム11のみを使用許可とし、EPBシステム12を使用禁止として処理を終了する。そして、ここで否定判定された場合には、油圧システム11もEPBシステム12も共に使用できない状態であることから、ステップ335に進み、油圧システム11とEPBシステム12を両方共に使用禁止として処理を終了する。
【0093】
以上のようにして、図9に示す常用ブレーキと駐車ブレーキの調停処理が終了すると、図5のステップ400で示した常用ブレーキ出力演算処理を実行する。図10は、この常用ブレーキ出力演算処理の詳細を示したフローチャートである。本処理は、常用ブレーキ出力演算部1eによって実行されるものであり、各リア輪について油圧システム11で発生させる油圧を演算すると共に、油圧システム11での不足トルクをEPBシステム12で発生させる制動トルクとして駐車ブレーキ出力演算部1fに伝えている。
【0094】
まず、ステップ405では、油圧システム11が使用許可であり、駐車ブレーキ制御実施中でなく、かつ、IG−OFF後処置要求なしの状況であるか否かを判定する。油圧システム11が使用許可とされていなければ、油圧システム11によって制動力を発生させられない。また、IG−OFF後要求処置があると、常用ブレーキから駐車ブレーキへ切替え、つまり油圧システム11の制動力をEPBシステム12の制動力に切替えるため、油圧システム11では制動力を発生させない状況とする。このため、ここで肯定判定された場合にのみステップ406に進み、油圧ブレーキ制御中として、ステップ410に進む。
【0095】
ステップ410では、車両固定値として決まっている右リア輪常用ブレーキトルク最大値、つまり常用ブレーキにより右リア輪で出力できる制動トルクの上限値の方が右リア輪要求トルクを超えているか否かを判定する。これにより、常用ブレーキのみによって右リア輪要求トルクを実現できるか否かを判定している。ここで肯定判定されるような場合には、油圧システム11のみによって右リア輪要求トルクを実現でき、否定判定されるような場合には、右リア輪要求トルクが大きすぎて油圧システム11のみでは実現できないことを表している。したがって、肯定判定されれば、ステップ415に進んで右リア輪要求トルクをそのまま右リア輪常用ブレーキ要求トルクとし、不足トルクはないため、右リア輪不足トルクは0とする。逆に、否定判定されれば、ステップ420に進んで右リア輪常用ブレーキトルク最大値を右リア輪常用ブレーキ要求トルクに設定し、右リア輪不足トルクとして、右リア輪要求トルクから右リア輪常用ブレーキトルク最大値を差し引いた値を設定する。この後、ステップ425に進み、左リア輪についてもステップ410と同様の判定を行う。そして、左リア輪要求トルクを油圧システム11のみで実現できるか否かに応じて、ステップ430もしくはステップ435に進み、右リア輪と同様の処理を行う。
【0096】
このようにして、油圧システム11を用いてリア輪に制動力を発生させるときの各輪の常用ブレーキ要求トルクが設定される。なお、上記ステップ405で否定判定された場合には、油圧システム11を用いてリア輪に制動力を発生させることはないため、ステップ407で油圧ブレーキ制御中でないとして、ステップ440に進み、右リア輪常用ブレーキ要求トルクおよび左リア輪常用ブレーキ要求トルクを0とし、右リア輪不足トルクを右リア輪要求トルクに設定すると共に、左リア輪不足トルクを左リア輪要求トルクに設定することで、これらをPKBシステム12に要求する不足トルクとする。
【0097】
そして、ステップ445に進み、演算された右リア輪常用ブレーキ要求トルクおよび左リア輪常用ブレーキ要求トルクを油圧換算する。例えば、各リア輪常用ブレーキ要求トルクをブレーキパッド18の摩擦係数μ[%]とシリンダ径[m]の2乗とπ/4と制動有効半径[m]を掛けた値で割り、さらにそれを106で割ることで左右のリア輪常用ブレーキ油圧[MPa]を演算している。
【0098】
以上のようにして、図10に示す常用ブレーキ出力演算処理が終了すると、図5のステップ500で示した駐車ブレーキ出力演算処理を実行する。図11は、この駐車ブレーキ出力演算処理の詳細を示したフローチャートである。本処理は、駐車ブレーキ出力演算部1fによって実行されるものであり、常用ブレーキ出力演算部1eから伝えられる油圧システム11での不足トルクからEPBシステム12で発生させる軸力を演算する。
【0099】
まず、ステップ505では、EPBシステム12が使用許可であるか否かを判定する。EPBシステム12が使用許可とされていなければ、EPBシステム12によって制動力を発生させられない。このため、ここで肯定判定された場合にのみステップ506に進む。ステップ506では油圧ブレーキ実施中でなければステップ510に進み、駐車ブレーキ制御実施中であることを示すフラグをセットしたのち、ステップ515に進む。一方、油圧ブレーキ実施中であればステップ506から直接ステップ515へと進む。
【0100】
ステップ515では、車両固定値として決まっている右リア輪駐車ブレーキトルク最大値、つまり駐車ブレーキにより右リア輪で出力できる制動トルクの上限値の方が右リア輪不足トルクを超えているか否かを判定する。これにより、駐車ブレーキによって右リア輪不足トルクを実現できるか否かを判定している。ここで肯定判定されるような場合には、EPBシステム12によって右リア輪不足トルクを実現でき、否定判定されるような場合には、右リア輪不足トルクが大きすぎてEPBシステム12では実現できないことを表している。したがって、肯定判定されれば、ステップ520に進んで右リア輪不足トルクをそのまま右リア輪駐車ブレーキ要求トルクとする。逆に、否定判定されれば、ステップ525に進んで右リア輪駐車ブレーキトルク最大値を右リア輪駐車ブレーキ要求トルクに設定する。この場合、EPBシステム12によってすべての右リア輪不足トルクを出力できないが、EPBシステム12で可能な分だけ右リア輪不足トルクを補うことになる。この後、ステップ530に進み、左リア輪についてもステップ515と同様の判定を行う。そして、左リア輪要求トルクをEPBシステム12で実現できるか否かに応じて、ステップ535もしくはステップ540に進み、右リア輪と同様の処理を行う。
【0101】
このようにして、EPBシステム12を用いてリア輪に制動力を発生させるときの各輪の駐車ブレーキ要求トルクが設定される。なお、上記ステップ505で否定判定された場合には、EPBシステム12を用いてリア輪に制動力を発生させることはないため、ステップ545に進み、駐車ブレーキ制御実施中を示すフラグをリセットするなどによって駐車ブレーキ制御実施中ではないことを表したのち、ステップ550に進んで両リア輪ブレーキ要求トルクを0に設定する。
【0102】
そして、ステップ555に進み、演算された右リア輪駐車ブレーキ要求トルクおよび左リア輪駐車ブレーキ要求トルクを軸力換算する。例えば、各リア輪常用ブレーキ要求トルクをブレーキパッド18の摩擦係数μ[%]と制動有効半径[m]を掛けた値で割り、さらにそれを103で割ることで左右のリア輪駐車ブレーキ油圧[kN]を演算している。
【0103】
以上のようにして、図11に示す駐車ブレーキ出力演算処理が終了すると、図5のステップ600で示したエンジン抑制処置処理を実行する。図12は、このエンジン抑制処置処理の詳細を示したフローチャートである。本処理は、エンジン抑制処置部1gによって実行されるものであり、外部停車要求に基づいてエンジン制御を行い、盗難車のドライバに対して運転の違和感を与えるようにする。
【0104】
まず、ステップ605では、外部停車要求ありであるか否かを判定する。ここで肯定判定されるとステップ610に進み、まずはPT−ECU3からアクセル開度に関する情報を取得し、このアクセル開度に対応するドライバ要求エンジントルクを求める。例えば、アクセル開度に対応するドライバ要求エンジントルクの関係については予め求めておくことができるため、それをマップ化するなどしておき、そのマップから読み出すことによって取得したアクセル開度に対応するドライバ要求エンジントルクを求めることできる。そして、ステップ615に進み、ドライバ要求エンジントルクに対して例えば固定値で設定されたエンジン抑制係数を掛けることでエンジン要求トルクを演算する。すなわち、ドライバ要求エンジントルクに対してエンジン抑制係数を掛けることで、通常時に発生させられる駆動力を抑制し、車両を動かせるものの自由には動かせないという状況を作り出す。このように、外部停車要求があったときにドライバ要求エンジントルクを抑制したエンジン要求トルクとすることで、盗難車のドライバに対して自由に運転できない車両であるということを印象付けるようにしている。
【0105】
一方、ステップ605で肯定判定された場合には、ステップ620に進んで、ステップ610と同様の手法によってドライバ要求エンジントルクを求める。その後、ステップ625に進み、ドライバ要求エンジントルクをそのままエンジン要求トルクに設定する。すなわち、外部停車要求がない時には、ドライバの要求するエンジントルクをそのまま出力させれば良いため、ドライバ要求エンジントルクをそのままエンジン要求トルクに設定するようにしている。
【0106】
以上のようにして、図12に示すエンジン抑制処置処理が終了すると、図5のステップ700で示したステアリング抑制処置処理を実行する。図13は、このステアリング抑制処置処理の詳細を示したフローチャートである。本処理は、ステアリング抑制処置部1hによって実行されるものであり、外部停車要求に基づいてステアリング制御を行い、盗難車のドライバに対して運転の違和感を与えるようにする。
【0107】
まず、ステップ705では、外部停車要求ありであるか否かを判定する。ここで肯定判定されるとステップ710に進んでアシストトルク抑制要求を指示する。これにより、アシストトルク抑制要求の指示がEPS−ECU9に出力され、EPS−ECU9に盗難防止にかかる処置としてステアリング制御を実行することが伝えられる。そして、ステップ715に進み、EPS−ECU9が取り扱っているアシストトルクに関する情報を取得し、このアシストトルクに対してステアリング抑制係数を掛けることで、抑制後のアシストトルク(以下、アシストトルク抑制後)を演算する。すなわち、アシストトルクに対してステアリング抑制係数を掛けることで、通常時に発生させられるアシストトルクを抑制する。そして、ステップ720に進み、アシストトルク抑制後に対して電流変換値を掛けることで電流変換したアシスト電流値を演算する。このように、外部停車要求があったときに、通常時に発生させられるアシストトルクを抑制することで、ステアリング操作によって操舵できるものの自由には動かせないという状況を作り出す。これにより、盗難車のドライバに対して自由に操舵できない車両であるということを印象付けるようにしている。なお、ステップ705で否定判定された場合には、ステアリング抑制処置を行う必要がないため、そのまま処理を終了する。
【0108】
以上のようにして、図13に示すステアリング抑制処置処理が終了すると、図5のステップ800で示したボデー関連処置処理を実行する。図14は、このボデー関連処置処理の詳細を示したフローチャートである。本処理は、ボデー関連処置部1iによって実行されるものであり、外部停車要求に基づいてボデーECU10によって制御できる各種制御を行う。
【0109】
まず、ステップ805では、外部停車要求ありであるか否かを判定する。ここで肯定判定されるとステップ810に進んでトランクロックを実施したのち、ステップ815に進んでドアロック(チャイルドロック)を実施し、さらに、ステップ820に進んで警察等への連絡を行った後、車室内カメラでの撮影をボデーECU10に指示する。これにより、トランクやドアに備えられた図示しないアクチュエータを駆動することでトランクロックやドアロックを施したり、例えば路車間通信などを用いて警察等への連絡を行ったり、盗難車のドライバを撮影したりする。
【0110】
このように、外部停車要求があったときに、ボデーECU10によって各種制御を行うことで、トランクルームからの荷物の盗難を防止したり、ドアロック(チャイルドロック)を行うことで盗難車のドライバが車外に逃げ出せないようにしている。また、警察等へ連絡を入れたり、車室内に設置されたカメラによって盗難車のドライバを撮影したりすることで、犯人逮捕をサポートしている。
【0111】
以上が本実施形態の車両盗難防止制御システムを用いた盗難防止にかかる処置の詳細である。続いて、このような処置を行ったときの動作について、図15〜図21に示すタイミングチャートを参照して説明する。
【0112】
図15は、車外からキー2を用いて外部停車要求を行ったときに常用ブレーキと駐車ブレーキの双方を用いて制動を行う場合の様子を示したタイミングチャートである。なお、この図ではモーメントが発生していない場合を想定したタイミングチャートとしてある。
【0113】
この図に示すように、時点T1において外部停車要求が出されると、それと同時に外部停車要求実施中を示すフラグがセットされ(ステップ115参照)、EEPROMにも外部停車要求があったことが記憶される(ステップ130参照)。そして、常用ブレーキもしくは駐車ブレーキにより、目標制動力が発生させられる。ここでは常用ブレーキのみによって目標制動力が発生させられる場合について図示しているが、常用ブレーキのみでは不足トルクが生じる場合には、駐車ブレーキでも制動力を発生させることになる。また、車両停止後に盗難車のドライバが車両を盗むことを諦め、仮に坂路等に車両を放置した場合であっても、駐車ブレーキによって長時間にわたり車両の停止を維持することができる。
【0114】
そして、時点T2において盗難車のドライバがIGをOFFしてエンジン作動を停止すると、それと同時に外部停車要求実施中のフラグがリセットされ、IG−OFF後処置が要求されることになる(ステップ160参照)。これにより、常用ブレーキから駐車ブレーキへ切替えが行われ、駐車ブレーキによって目標制動力が発生させられると共に、駐車ブレーキ制御実施中を示すフラグがセットされる。このように、IG−OFF後に目標制動力を発生させるのに常用ブレーキから駐車ブレーキに切替えた場合、駐車ブレーキによる制動力はモータ17を停止した後にも維持できることから、電流を消費し続けなくても車両の停止を維持できる。したがって、電力消費の低減を図ることが可能になる。
【0115】
その後、時点T3においてIGが再びONされたとしても、EEPROMに外部停車要求があったことが記憶されているため、目標制動力が発生させられた状態が維持され、車両の停止が維持される。そして、時点T4において正規の車両所有者がキー2の操作によって外部停車解除要求を出すと、これに伴って制動力が解除され、外部停車要求実施中のフラグがリセットされると共にEEPROMの記憶内容を外部停車要求なしにする(ステップ145参照)。
【0116】
図16は、車外からキー2を用いて外部停車要求を行ったときに駐車ブレーキのみで制動を行う場合の様子を示したタイミングチャートである。なお、この図でもモーメントが発生していない場合を想定したタイミングチャートとしてある。
【0117】
この図に示すように、駐車ブレーキのみで制動を行う場合も、基本的には図15の場合と同様の動作を行うが、常用ブレーキの代わりにはじめから駐車ブレーキによって目標制動力を発生させることになる。このように、駐車ブレーキを用いて車両を停止させるようにすることもできる。
【0118】
図17は、走行中に車外からキー2を用いて外部停車要求を行ったときの様子を示したタイミングチャートである。
【0119】
この図に示すように、時点T1において走行中に外部停止要求が出されたとする。この場合にも、基本的には図15と同様の動作が行われることになる。ただし、走行中にはドライバのアクセル操作やブレーキペダル操作に応じたドライバ要求エンジントルクやドライバ要求ブレーキトルクが発生する。このため、これらを加味して目標制動力が設定される。そして、ドライバ要求エンジントルクが大きくなったときには、それが抑えられるように目標制動力が高められ、一定の基準減速度が得られるようにしている。さらに、ドライバ要求ブレーキトルクが大きくなったときには、その要求に応じて目標制動力が小さくされ、この場合にも一定の基準減速度が得られるようにしている。なお、ドライバ要求ブレーキトルクが基準減速度以上の減速度を発生させられる値になったときには、その要求に合わせた減速度が発生させられるようにしている。これにより、より大きな減速度を発生させたい場合にも、それに対応することが可能となる。
【0120】
また、時点T2において、外部停車解除要求が出されると、これに伴って制動力が解除される。このため、例えばキー2の誤操作によって外部停車要求が出されたとしても、それを解除して通常走行に戻ることが可能となる。
【0121】
図18は、走行中にステアリング操作に基づくヨーレートが発生した場合にブレーキによって抑制するときの様子を示したタイミングチャートである。
【0122】
この図に示すように、外部停車要求が出された場合には、ステアリング操作が行われても、ステアリング操作に応じて理論的に発生させられるヨーレートが抑制されるように、左右輪に制動力を発生させるようにしている(ステップ205、210参照)。このように、モーメント力を抑制することが可能となり、走行中の車両を停止させる場合に、できるだけ直進状態で停止させることができる。
【0123】
さらに、ブレーキシステムが発生できるヨーレート抑制力を上回る大きな操舵を行うことで、運転者は車両の針路を変更することができる。この図の実施例では、目標ブレーキモーメント力に上限値を設けることで、ヨーレート抑制を行う左右の制動力差に上限を設けている。これにより、図に示すように、運転者の操舵量の小さい時は直進が維持される一方、運転者がヨーレート抑制の上限を上回るように大きく操舵することで、車両の進路を変更することが可能となり、仮に道路の中央で車両が停止させられそうになったとしても、車両を安全な位置に向けて進路を変更することが可能となる。例えば、目標ブレーキモーメント力の上限値は運転者がハンドルを持ち替えずに操舵可能な所定の操舵角度(例えば75°)で発生するモーメントを基準に決めるようにしてもよい。こうすることで、運転者はハンドル操作を行なった際に大きく操舵すれば進路変更が許容されることに容易に気付くことができる。
【0124】
図19は、エンジン抑制処置を行うときの様子を示したタイミングチャートである。この図に示すように、時点T1において外部停車要求が出されると、ドライバ要求エンジントルクに対して所定のエンジン抑制係数を掛けることでエンジン要求トルクを低下させる。このようにすることで、外部停車要求に基づいてエンジン制御を行い、通常時に発生させられる駆動力を抑制することで、盗難車のドライバに対して自由に運転できない車両であるという運転の違和感を与えることが可能となる。
【0125】
このときにも、時点T2において、外部停車解除要求が出されると、これに伴ってエンジン抑制処置が解除される。このため、例えばキー2の誤操作によって外部停車要求が出されたとしても、それを解除して通常走行に戻ることが可能となる。
【0126】
図20は、ステアリング抑制処置を行うときの様子を示したタイミングチャートである。この図に示すように、時点T1において外部停車要求が出されると、ステアリング操作に応じたアシストトルクに対してステアリング抑制係数を掛けることでアシストトルクを低下させたアシストトルク抑制後を演算する。このようにすることで、外部停車要求に基づいてステアリング制御を行い、通常時に発生させられるアシストトルクを抑制することで、盗難車のドライバに対して自由に操舵できない車両であるという運転の違和感を与えることが可能となる。
【0127】
このときにも、時点T2において、外部停車解除要求が出されると、これに伴ってステアリング抑制処置が解除される。このため、例えばキー2の誤操作によって外部停車要求が出されたとしても、それを解除して通常走行に戻ることが可能となる。
【0128】
図21は、外部停車要求が出された時のボデー関連の制御の様子を示したタイミングチャートである。この図に示すように、時点T1において外部停車要求が出されたら、トランクロックを施すことでトランクルームからの荷物の盗難を防止したり、ドアロックを行うことで盗難車のドライバが車外に逃げ出せないようにしたり、警察等へ連絡を入れたり、車室内に設置されたカメラによって盗難車のドライバを撮影したりする。
【0129】
なお、時点T2において外部停車要求が解除されると、トランクロックなどを解除することもできる。この場合において、ドアロックについては解除しないようにし、内部からは解除不可のドアロック状態を維持することで、犯人が車外に逃げられないようにすると好ましい。
【0130】
以上説明したように、本実施形態の車両盗難防止制御システムによれば、車外からの外部停車要求が出されると、それに基づいて車両を停止させるようにしている。そして、車両を停止させる際に、所定の減速度、本実施形態の場合には基準減速度で停止させるようにしているため、急停車させたりすることなく安全に車両を停止させることが可能となる。
【0131】
また、モーメント力を抑制するように制動力を加えているため、できるだけ直進状態で車両を停止させることが可能となる。このため、自車両や周辺車両の安全をより確保しつつ車両を停止させることが可能となる。
【0132】
さらに、エンジン抑制処置やステアリング抑制処置を施すことで、盗難車のドライバに自由に運転できないという違和感を与え、車両を盗むことを諦めさせるようにすることも可能となる。この場合、ステアリング抑制処置を行いつつも、ステアリング操作が行えないようにはしていないため、仮に道路の中央で車両が停止させられそうになったとしても、車両を安全な位置まで移動させることが可能となる。
【0133】
また、トランクロックやドアロック、さらには警察等への連絡や車室内カメラでの撮影などを行うことで、トランクルームからの盗難を防止したり、犯人逮捕のサポートを行うことが可能となる。
【0134】
(他の実施形態)
上記実施形態では、車両を停止させる際に一定の減速度とするような減速制御を例に挙げて説明したが、減速度を必ずしも一定にしなくても良い。例えば、車速に応じて発生させる減速度を変化させるような減速制御を行っても良い。
【0135】
上記実施形態では、外部停車要求や外部停車解除要求を専用のキー2で出す場合について説明したが、キー2に限るものではなく、携帯電話などの他の外部停止指示装置を用いて上記要求を出すようにしても良い。
【0136】
また、上記実施形態では、各種制御を実施できる例を挙げて説明したが、少なくとも車両を所定の減速度(基準減速度)で停止させられれば良く、他の制御のいずれかを実施しない形態としても良い。
【0137】
なお、各図中に示した各部およびステップは、各種処理を実行する手段に対応するものである。例えば、外部要求判定部1aは外部停車要求判定手段、抑制モーメント演算部1b〜駐車ブレーキ出力演算部1fは車両停止制御手段(抑制モーメント演算部1bは抑制モーメント演算手段)、エンジン抑制処置部1gはエンジン抑制処置手段、ステアリング抑制処置部1hはステアリング抑制処置手段、ステップ100の処理を実行する部分は作動中判定手段に相当する。
【符号の説明】
【0138】
1…外部停車制御処置部、1a…外部要求判定部、1b…抑制モーメント演算部、1b〜1f…前記車両停止制御手段、1c…目標制動力演算減速度フィードバック部、1d…ブレーキ調停部、1e…常用ブレーキ出力演算部、1f…駐車ブレーキ出力演算部、1g…エンジン抑制処置部、1h…ステアリング抑制処置部、1i…ボデー関連処置部、2…キー、3…PT−ECU、4…Gセンサ、5…ステアリングセンサ、6…ヨーレートセンサ、7…ESC−ECU、8…EPBC−ECU、9…EPS−ECU、10…BODY−ECU、11…油圧システム、12…EPBシステム
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバの操作にかかわらず作動可能なブレーキシステムを有する車両に適用され、前記車両の外部からの指令により、ドライバの操作にかかわらず前記車両を停止する車両盗難防止制御装置であって、
前記車両の外部から該車両の停止の指示が出された外部停車要求ありの状態を判定する外部停車要求判定手段(1a)と、
前記外部停車要求判定手段(1a)にて外部停車要求ありの状態と判定されたときに前記ブレーキシステムを用いて前記車両を停止させる車両停止制御手段(1b〜1f)と、を有し、
前記外部停車要求判定手段(1a)は、前記外部停車要求を受信する外部信号受信手段を有し、前記外部信号受信手段が前記外部停車要求を受信した場合に前記外部停車要求ありの状態であると判定し、
前記車両停止制御手段(1b〜1f)は、前記外部停車要求ありの状態となったときには、予め定めされた減速制御にしたがって前記ブレーキシステムによって前記車両に制動力を発生させることを特徴とする車両盗難防止制御装置。
【請求項2】
前記車両停止制御手段(1b〜1f)は、前記減速制御として前記車両を所定の減速度である基準減速度で減速させることを特徴とする請求項1に記載の車両盗難防止制御装置。
【請求項3】
前記車両停止制御手段(1b〜1f)は、前記車両に駆動力を発生させられる状態であるか否かを判定する作動中判定手段(S100)を有し、前記ブレーキシステムとして常用ブレーキと駐車ブレーキを制御することにより前記車両を停止させるようにしており、前記外部停車要求ありの状態になってから前記作動中判定手段(S100)にて前記車両に駆動力を発生させられる状態であると判定されると、前記常用ブレーキと前記駐車ブレーキの少なくとも一方を用いて前記車両を停止させるための制動力を発生させ、前記車両に駆動力を発生させられる状態ではないと判定されると、前記駐車ブレーキのみによって前記車両を停止させるための制動力を発生させることを特徴とする請求項1または2に記載の車両盗難防止制御装置。
【請求項4】
前記車両停止制御手段(1b〜1f)は、前記車両に発生しているモーメント力を抑制する目標ブレーキモーメント力を算出する抑制モーメント演算手段(1b)を有し、前記車両を減速させるための目標制動力に対して、前記抑制モーメント演算手段(1b)にて算出された前記目標ブレーキモーメント力を加味した制動力を発生させることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の車両盗難防止制御装置。
【請求項5】
前記車両停止制御手段(1b〜1f)は、前記車両を所定の減速度で減速させるための基準制動力に対して、ドライバのアクセル操作に基づくドライバ要求エンジントルクとブレーキ操作に基づくドライバ要求ブレーキトルクを加味した値を前記目標制動力とすることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の車両盗難防止制御装置。
【請求項6】
前記車両停止制御手段(1b〜1f)は、前記基準制動力から前記ドライバ要求ブレーキトルクを差し引き前記ドライバ要求エンジントルクを加算した値を前記目標制動力とすることを特徴とする請求項5に記載の車両盗難防止制御装置。
【請求項7】
前記車両のアクセル操作量を検出し、前記外部停車要求判定手段(1a)にて外部停車要求ありの状態と判定されたときに、エンジントルクを前記アクセル操作量と対応するアクセル操作量よりも小さくすることでエンジン抑制を行うエンジン抑制処置手段(1g)を有していることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載の車両盗難防止制御装置。
【請求項8】
前記車両のステアリング操作量を検出し、前記外部停車要求判定手段(1a)にて外部停車要求ありの状態と判定されたときに、電動パワーステアリングにおけるアシスト力を前記ステアリング操作量と対応するアシスト力よりも小さくすることでステアリング抑制を行うステアリング抑制処置手段(1h)を有していることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1つに記載の車両盗難防止制御装置。
【請求項9】
前記外部停車要求判定手段(1a)にて外部停車要求ありの状態と判定されたときに、前記車両のトランクルームをロックするトランクロックと、ドアをロックするドアロックと、前記車両外部への通報および車室内の撮影の少なくとも1つを行う手段(1i)を有していることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1つに記載の車両盗難防止制御装置。
【請求項1】
ドライバの操作にかかわらず作動可能なブレーキシステムを有する車両に適用され、前記車両の外部からの指令により、ドライバの操作にかかわらず前記車両を停止する車両盗難防止制御装置であって、
前記車両の外部から該車両の停止の指示が出された外部停車要求ありの状態を判定する外部停車要求判定手段(1a)と、
前記外部停車要求判定手段(1a)にて外部停車要求ありの状態と判定されたときに前記ブレーキシステムを用いて前記車両を停止させる車両停止制御手段(1b〜1f)と、を有し、
前記外部停車要求判定手段(1a)は、前記外部停車要求を受信する外部信号受信手段を有し、前記外部信号受信手段が前記外部停車要求を受信した場合に前記外部停車要求ありの状態であると判定し、
前記車両停止制御手段(1b〜1f)は、前記外部停車要求ありの状態となったときには、予め定めされた減速制御にしたがって前記ブレーキシステムによって前記車両に制動力を発生させることを特徴とする車両盗難防止制御装置。
【請求項2】
前記車両停止制御手段(1b〜1f)は、前記減速制御として前記車両を所定の減速度である基準減速度で減速させることを特徴とする請求項1に記載の車両盗難防止制御装置。
【請求項3】
前記車両停止制御手段(1b〜1f)は、前記車両に駆動力を発生させられる状態であるか否かを判定する作動中判定手段(S100)を有し、前記ブレーキシステムとして常用ブレーキと駐車ブレーキを制御することにより前記車両を停止させるようにしており、前記外部停車要求ありの状態になってから前記作動中判定手段(S100)にて前記車両に駆動力を発生させられる状態であると判定されると、前記常用ブレーキと前記駐車ブレーキの少なくとも一方を用いて前記車両を停止させるための制動力を発生させ、前記車両に駆動力を発生させられる状態ではないと判定されると、前記駐車ブレーキのみによって前記車両を停止させるための制動力を発生させることを特徴とする請求項1または2に記載の車両盗難防止制御装置。
【請求項4】
前記車両停止制御手段(1b〜1f)は、前記車両に発生しているモーメント力を抑制する目標ブレーキモーメント力を算出する抑制モーメント演算手段(1b)を有し、前記車両を減速させるための目標制動力に対して、前記抑制モーメント演算手段(1b)にて算出された前記目標ブレーキモーメント力を加味した制動力を発生させることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の車両盗難防止制御装置。
【請求項5】
前記車両停止制御手段(1b〜1f)は、前記車両を所定の減速度で減速させるための基準制動力に対して、ドライバのアクセル操作に基づくドライバ要求エンジントルクとブレーキ操作に基づくドライバ要求ブレーキトルクを加味した値を前記目標制動力とすることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の車両盗難防止制御装置。
【請求項6】
前記車両停止制御手段(1b〜1f)は、前記基準制動力から前記ドライバ要求ブレーキトルクを差し引き前記ドライバ要求エンジントルクを加算した値を前記目標制動力とすることを特徴とする請求項5に記載の車両盗難防止制御装置。
【請求項7】
前記車両のアクセル操作量を検出し、前記外部停車要求判定手段(1a)にて外部停車要求ありの状態と判定されたときに、エンジントルクを前記アクセル操作量と対応するアクセル操作量よりも小さくすることでエンジン抑制を行うエンジン抑制処置手段(1g)を有していることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載の車両盗難防止制御装置。
【請求項8】
前記車両のステアリング操作量を検出し、前記外部停車要求判定手段(1a)にて外部停車要求ありの状態と判定されたときに、電動パワーステアリングにおけるアシスト力を前記ステアリング操作量と対応するアシスト力よりも小さくすることでステアリング抑制を行うステアリング抑制処置手段(1h)を有していることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1つに記載の車両盗難防止制御装置。
【請求項9】
前記外部停車要求判定手段(1a)にて外部停車要求ありの状態と判定されたときに、前記車両のトランクルームをロックするトランクロックと、ドアをロックするドアロックと、前記車両外部への通報および車室内の撮影の少なくとも1つを行う手段(1i)を有していることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1つに記載の車両盗難防止制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2013−75542(P2013−75542A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214930(P2011−214930)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]