説明

車両駆動装置

【課題】車両駆動用のモータが回転制限状態となったときに、電力変換部が過熱状態となることを回避すると共に、モータのトルクの増加が許容される状態を形成することを目的とする。
【解決手段】車両駆動装置のコントロールユニットは、トルク指令値とモータジェネレータの回転数とに基づいて、モータジェネレータが回転制限状態にあるか否かを判定する。モータジェネレータが回転制限状態にある旨の判定をした場合、コントロールユニットは、車両が傾斜面に位置するか否かを判定する。車両が傾斜面に位置する旨の判定をしたときは、コントロールユニットは、モータジェネレータの位相検出値に基づいて目標位相を求めた後、モータジェネレータが発生するトルクを減少させて、走行面の傾斜等によって車両を下り方向に移動させることで車輪を回転させ、モータジェネレータの回転位相を目標位相に合わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータによって車両を駆動する車両駆動装置に関し、特に、モータの回転位相に応じてモータを制御する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンおよびモータを用いて走行するハイブリッド自動車、モータを用いて走行する電気自動車等、モータによって駆動される車両が広く用いられている。このような車両は、モータに供給する電力を調整してモータの回転状態を制御するモータ駆動回路、およびモータ駆動回路を制御するコントロールユニットを備える。
【0003】
モータ駆動回路は、電池の電圧を昇圧するDCDCコンバータ、および、DCDCコンバータから出力された直流電力を交流電力に変換し、その交流電力をモータに供給するインバータを備える。モータは、モータ駆動回路から供給された交流電力によってトルクを発生し車両を駆動する。コントロールユニットは、モータが車両の走行状態および運転操作に応じたトルクを発生するよう、DCDCコンバータおよびインバータを制御する。
【0004】
一般に、車両に用いられるモータは、そのシャフトを軸として回転する回転子、および、回転子の周りに回転磁界を発生する界磁巻線を備える。回転子の回転に応じた回転磁界を発生するため、界磁巻線には、回転子の回転位相に同期した電流が供給される。そこで、コントロールユニットは、インバータからモータの界磁巻線に至る電力供給線に流れる交流電流が、回転子の回転位相に同期するようインバータを制御する。
【0005】
複数のスイッチング素子を備え、PWM(Pulse Width Modulation)制御を行う一般的なインバータでは、このような同期制御を行った場合には、モータの回転が妨げられモータが停止すると、特定のスイッチング素子に電流が集中し、そのスイッチング素子の温度が上昇する。
【0006】
なお、以下の特許文献1〜3には、車両駆動用のモータを駆動するインバータおよびその制御方法が記載されている。特許文献1に記載の制御方法では、モータがロック状態となったときには、モータを正方向と逆方向に交互に回転させることで、インバータのスイッチング素子の過熱状態が回避される。また、特許文献2および3に記載の制御方法では、モータがロック状態となったときには、モータが発生するトルクを制限することでインバータのスイッチング素子の過熱状態が回避される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−238560号公報
【特許文献2】特開2004−350442号公報
【特許文献3】特開平11−122703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
車両が急な坂道に進入したり、縁石等の障害物に乗り上がろうとしたりした場合、車輪およびモータがロックした状態となることがある。これによって、インバータが備える特定のスイッチング素子に電流が集中し、そのスイッチング素子が過熱状態となることがある。このような場合、従来技術では、モータが発生するトルクを制限等することでスイッチング素子の過熱状態を回避していた。しかし、この制御は、モータのトルクの増加を許容し、トルクの増加によってロック状態を解消するものではない。
【0009】
本発明は、車両駆動用のモータが回転制限状態となったときに、インバータ等の電力変換部が過熱状態となることを回避すると共に、モータのトルクの増加が許容される状態を形成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、スイッチングにより直流電力を交流電力に変換する電力変換部と、前記電力変換部から供給された交流電力によって車両を駆動するモータと、前記モータの回転位相に応じて前記電力変換部のスイッチングを行い、前記モータを制御するコントロールユニットと、を備え、前記コントロールユニットは、前記モータが回転制限状態となったときに、そのときの前記電力変換部のスイッチング状態に応じた目標位相に前記モータの回転位相が達するよう前記モータを制御する、ことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る車両駆動装置は、望ましくは、前記電力変換部は、直流電力を3相の交流電力に変換し、前記コントロールユニットは、前記電力変換部と前記モータとの間を流れる3相の交流電流が前記モータの回転位相に同期するよう、前記電力変換部のスイッチングを行い、前記目標位相は、前記3相の交流電流のうちの2相の交流電流であって、前記モータが前記回転制限状態であるときに前記電力変換部を過熱状態に至らしめる条件が成立する2相の交流電流、のうち少なくとも一方が低減される位相である。
【0012】
また、本発明に係る車両駆動装置は、望ましくは、前記電力変換部は、直列接続された2つのスイッチング素子をそれぞれが備える3対のスイッチング素子対を備え、各スイッチング素子対がなす直列接続経路の両端に直流電力が供給され、各スイッチング素子対の直列接続点から前記モータに交流電力を供給する。
【0013】
また、本発明に係る車両駆動装置は、望ましくは、前記コントロールユニットは、前記モータに対するトルク指令値を前記車両の運転操作に応じて決定するトルク指令値決定手段を備え、前記トルク指定値に応じて前記電力変換部のスイッチングを行い、前記トルク指令値決定手段は、前記モータが前記回転制限状態となったときにおける前記コントロールユニットの制御により、前記モータの回転位相が前記目標位相に達したときに、前記モータが前記回転制限状態でないときの上限値よりも大きい値を上限値として前記トルク指令値を決定する。
【0014】
また、本発明に係る車両駆動装置は、望ましくは、前記コントロールユニットは、前記電力変換部に含まれる素子の温度に基づいて当該素子が過熱状態にあるか否かを判定する手段を備え、前記トルク指令値決定手段は、前記モータが前記回転制限状態となったときにおける前記コントロールユニットの制御の後に、前記素子が前記過熱状態にない旨の判定がなされたときに、前記モータが前記回転制限状態でないときの上限値よりも大きい値を上限値として前記トルク指令値を決定する。
【0015】
また、本発明に係る車両駆動装置は、望ましくは、前記コントロールユニットは、前記電力変換部に含まれる素子の温度に基づいて当該素子が温度上昇状態にあるか否かを判定する手段を備え、前記モータが回転制限状態となり、かつ、前記素子が前記温度上昇状態にある旨の判定がなされたときに、前記目標位相に前記モータの回転位相が達するよう前記モータを制御する。
【0016】
また、本発明に係る車両駆動装置は、望ましくは、前記コントロールユニットは、前記モータが前記回転制限状態となったときに、前記モータが発生するトルクを減少させ、走行面における高低差による前記車両の移動に基づいて前記モータを回転させる。
【0017】
また、本発明に係る車両駆動装置は、望ましくは、前記車両の走行面の傾斜角を検出する傾斜センサを備え、前記コントロールユニットは、前記傾斜センサによる検出値に基づいて前記車両が傾斜面に位置するか否かを判定する手段を備え、前記モータが前記回転制限状態となり、かつ、前記車両が傾斜面に位置する旨の判定がなされたときに、前記モータが発生するトルクを減少させ、走行面の傾斜による前記車両の移動に基づいて前記モータを回転させる。
【0018】
また、本発明に係る車両駆動装置は、望ましくは、前記コントロールユニットは、前記モータが前記回転制限状態となったときに、前記モータが発生するトルクを増加させ、当該トルクの増加による前記車両の移動に基づいて前記モータを回転させる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、車両駆動用のモータが回転制限状態となったときに、インバータ等の電力変換部が過熱状態となることを回避すると共に、モータのトルクの増加が許容される状態を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】電気自動車駆動装置の構成を示す図である。
【図2】位相検出値と3相交流電流との関係の例を示す図である。
【図3】トルク指令値に対する上限値の時間特性、およびトルク指令値の時間特性を示す図である。
【図4】回転制限解消制御のフローチャートである。
【図5】目標位相取得テーブルの例を示す図である。
【図6】傾斜面を利用する回転制限解消制御のフローチャートである。
【図7】応用例に係る回転制限解消制御のフローチャートである。
【図8】傾斜面を利用する回転制限解消制御のフローチャートである。
【図9】変形例に係る回転制限解消制御のフローチャートである。
【図10】目標位相取得テーブルの例を示す図である。
【図11】ハイブリッド自動車駆動装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に本発明の実施形態に係る電気自動車駆動装置の構成を示す。図1に示されるDCDCコンバータ12およびインバータ14は、上述したモータ駆動回路に相当する。電気自動車駆動装置は、電池10から供給される電力に基づいてモータジェネレータ18にトルクを発生させ、そのトルクで車両を加速すると共に、モータジェネレータ18による回生制動に基づく発電電力によって電池10を充電する。
【0022】
運転操作部24は、アクセルペダル、ブレーキペダル等を含み、ユーザの操作に基づいてコントロールユニット26に指令を与える。コントロールユニット26は、運転操作部24による指令、車両の速度等に基づいてDCDCコンバータ12およびインバータ14を制御し、車両の加速または回生制動を行う。
【0023】
車両の加速時においては、DCDCコンバータ12は、電池10の出力電圧を昇圧し、昇圧された電圧をインバータ14に出力する。インバータ14は、DCDCコンバータ12から出力された直流電力を交流電力に変換し、その交流電力をモータジェネレータ18に出力する。モータジェネレータ18は、インバータ14から出力された交流電力によってトルクを発生し、そのトルクを動力伝達機構20に与える。動力伝達機構20は、モータジェネレータ18から与えられたトルクを車輪22に伝達する。これによって、電池10から供給される電力に基づいて車両が加速する。
【0024】
回生制動時においては、モータジェネレータ18は、回生制動発電に基づく交流電力をインバータ14に出力する。インバータ14は、モータジェネレータ18から出力された交流電力を直流電力に変換し、その直流電力をDCDCコンバータ12に出力する。DCDCコンバータ12は、インバータ14から出力された電圧を降圧し、降圧された電圧を電池10に印加する。これによって、モータジェネレータ18が発電した電力に基づいて電池10が充電される。
【0025】
インバータ14およびモータジェネレータ18の具体的な構成および動作について説明する。インバータ14は、3対のスイッチング素子対16u、16vおよび16wを備える。ここで、スイッチング素子対は、一方のエミッタ端子が他方のコレクタ端子に接続された2つのIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)からなる。回路図上側のIGBT16−1および回路図下側のIGBT16−2のそれぞれのコレクタ端子とエミッタ端子との間には、エミッタ端子にアノード端子が接続されるようダイオード16−3が接続されている。
【0026】
インバータ14が備えるスイッチング素子対16u、16vおよび16wの回路図上側のIGBT16−1のコレクタ端子は共通に接続され、その共通接続端は、DCDCコンバータ12の昇圧出力側の正極端子に接続されている。そして、スイッチング素子対16u、16vおよび16wの回路図下側のIGBT16−2のエミッタ端子もまた共通に接続され、その共通接続端は、DCDCコンバータ12の昇圧出力側の負極端子に接続されている。
【0027】
スイッチング素子対16u、16vおよび16wは、モータジェネレータ18に至る3相の電力伝送線U、VおよびWに対応する。すなわち、各スイッチング素子対における上側のIGBT16−1と下側のIGBT16−2の接続点には、対応する相の電力伝送線が接続されている。
【0028】
各スイッチング素子対のIGBTは、コントロールユニット26によってスイッチングされる。これによって、インバータ14は、DCDCコンバータ12とモータジェネレータ18との間で直流交流変換を行う。すなわち、インバータ14は、DCDCコンバータ12の昇圧側の電圧と、電力伝送線U、VおよびWの相互間の電圧の大小関係に応じて、DCDCコンバータ12から出力された直流電力を3相交流電力に変換し、その3相交流電力をモータジェネレータ18に出力する。また、インバータ14は、DCDCコンバータ12の昇圧側の電圧と、電力伝送線U、VおよびWの相互間の電圧の大小関係に応じて、モータジェネレータ18の発電に基づく3相交流電力を直流電力に変換し、その直流電力をDCDCコンバータ12に出力する。
【0029】
なお、ここでは、スイッチング素子対16u、16vおよび16wのそれぞれをなすスイッチング素子としてIGBTを用いた例を示しているが、スイッチング素子には、サイリスタ、トライアック、バイポーラトランジスタ、電界効果トランジスタ等のその他の半導体素子を用いてもよい。
【0030】
モータジェネレータ18は、そのシャフトを軸として回転する回転子、および、回転子の周りに回転磁界を発生する3相の界磁巻線を備える。電力伝送線U、VおよびWは、3相の界磁巻線に接続されている。また、モータジェネレータ18は、その回転位相を検出するレゾルバ28を備える。レゾルバ28は、回転位相の検出値を位相検出値としてコントロールユニット26に出力する。位相検出値は0°〜360°の範囲で定義される。位相検出値は、モータジェネレータ18の回転と共に0°から360°まで増加し、360°に達すると共に再び0°から360°まで増加するという変化を繰り返す。また、モータジェネレータ18が逆回転する場合には、位相検出値は、モータジェネレータ18の回転と共に360°から0°まで減少し、0°に達すると共に再び360°から0°まで減少するという変化を繰り返す。
【0031】
コントロールユニット26は、運転操作部24による指令、車両の速度等に基づいてトルク指令値を求める。コントロールユニット26は、トルク指令値および位相検出値を用いて3対のスイッチング素子に対してPWM制御を行い、電力伝送線U、VおよびWに、それぞれ、位相検出値と同期した3相交流電流Iu、IvおよびIwを流す。
【0032】
図2には、位相検出値と3相交流電流Iu、IvおよびIwとの関係が例示されている。図2において横軸は位相検出値を示し、縦軸は3相交流電流Iu、IvおよびIwを示す。ここで、モータジェネレータ18の回転位相は、車両が後退すると共に増加するよう定義されているものとする。3相交流電流Iu、IvおよびIwの極性は、インバータ14からモータジェネレータ18に向かう方向を正とする。3相交流電流Iu、IvおよびIwは、位相検出値の変化に対し正弦波状に変化する。また、3相交流電流Iu、IvおよびIwの相互の位相差は120°である。3相交流電流Iu、IvおよびIwの最大値Imはトルク指令値に応じた値を有する。
【0033】
このような制御によれば、モータジェネレータ18の回転位相に同期した3相交流電流が、モータジェネレータ18に流れる。これによって、モータジェネレータ18がその回転位相に応じて同期駆動される。モータジェネレータ18に流れる電流はトルク指令値に応じた大きさとなり、モータジェネレータ18はトルク指令値に応じたトルクを発生する。
【0034】
コントロールユニット26が、トルク指令値を設定する処理について説明する。コントロールユニット26には、トルク指令値に対する上限値の時間特性が記憶されている。図3(a)にはトルク指令値に対する上限値の時間特性が例示されている。この時間特性は、アクセルペダルが踏み込まれた時を基準とし、その後の上限値の時間変化を規定したものである。時刻0から時刻t1までの間は、上限値は時間経過と共に増加し、時刻t1においてトルク最大値Mに達する。時刻t1から時刻t2までの間、上限値はトルク最大値Mを維持し、時刻t2から時刻t3間での間、上限値はトルク最大値Mから連続出力可能値Tまで減少する。時刻t3以降において上限値は連続出力可能値Tとなる。
【0035】
トルク指令値は、上限値を超えないという条件の下で、アクセルペダルの踏み込み量が大きい程、大きい値に設定される。例えば、図3(b)に示すように、時刻0から時間の経過と共にアクセルペダルの踏み込み量を増加させた場合には、時刻t1と時刻t2との間の時刻τ1にトルク指令値が上限値に達してトルク最大値Mとなり、その後、トルク指令値は上限値と同一の値となって変化する。
【0036】
このようなトルク指令値の上限値の時間特性によれば、トルク指令値がトルク最大値Mとなる時間が時間t2−t1以下に制限される。これによって、インバータ14のIGBTに過大な電流が流れ、そのIGBTが過熱状態となることが回避される。
【0037】
しかし、このような制御では、次のような問題点が生じることがある。例えば、車両の急な坂道への進入、障害物への乗り上がり、走行面陥没部への車輪22の嵌り込み等により、車輪22およびモータジェネレータ18がロックすることがある。このとき、トルク指令値がトルク最大値Mとなる時間は時間t2−t1以下に制限されものの、依然として6個のIGBTのうち特定のものに電流が集中するため、そのIGBTは過熱状態となり易い傾向にある。
【0038】
また、ユーザによるアクセルペダルの踏み込み量が十分でない場合、例えば、図3(c)に示すように、時刻t3以降の時刻τ2にトルク指令値が連続出力可能値Tに達した場合には、トルク指令値が連続出力可能値Tより大きくなることはない。この場合、モータジェネレータ18が十分なトルクを発生することができず、モータジェネレータ18がロックした状態を回避することが困難となる場合がある。
【0039】
本実施形態に係る電気自動車駆動装置は、このような問題点に鑑み、次に説明する回転制限解消制御を実行する。回転制限解消制御によれば、インバータ14のスイッチング素子が過熱状態となることが回避されると共に、モータジェネレータ18のトルクを増加させることが可能となる。
【0040】
図4には回転制限解消制御においてコントロールユニット26が実行する処理のフローチャートが示されている。コントロールユニット26は、レゾルバ28が出力する位相検出値の時間変化に基づいて、モータジェネレータ18の回転数を求める(S101)。そして、モータジェネレータ18の回転数とトルク指令値とに基づいて、モータジェネレータ18が回転制限状態にあるか否かを判定する(S102)。ここで回転制限状態とは、車輪22およびモータジェネレータ18がロックして停止している状態の他、わずかに回転している場合、すなわち、トルク指令値が所定のトルク閾値を超えているにも関わらず、モータジェネレータ18の回転数が所定の回転数閾値以下である状態を含む。モータジェネレータ18が回転制限状態であるか否かの判定は、トルク指令値がトルク閾値を超えているという条件の下、回転数が回転数閾値以下であるか否かに基づいて行われる。
【0041】
コントロールユニット26は、モータジェネレータ18が回転制限状態にある旨の判定をしたときは、レゾルバ28から読み込まれた位相検出値に基づいて目標位相を求める(S103)。ここで、目標位相とは、IGBTの電気的負担が軽減され、IGBTの過熱状態が回避されるモータジェネレータ18の回転位相をいう。コントロールユニット26は、位相検出値の数値範囲と目標位相との対応関係を表す目標位相取得テーブルを記憶しており、ステップS103においては目標位相取得テーブルを参照して位相検出値に対応する目標位相を求める。後述するように、コントロールユニット26は、走行面の傾斜等を利用した車両の移動によってモータジェネレータ18の回転位相を目標位相に合わせる制御を実行し、インバータ14のIGBTの過熱状態を回避する。
【0042】
図5には、位相検出値と3相交流電流Iu、IvおよびIwとの間に図2に示されるような関係がある場合の目標位相取得テーブルが例示されている。この目標位相取得テーブルでは、60°の角度範囲で位相検出値が区分され、各区分の角度範囲の中央の値に120°を加えた角度が目標位相とされている。
【0043】
図2から明らかなように、この目標位相取得テーブルの各区分の角度範囲内では、3相交流電流Iu、IvおよびIwのうち特定の2相の電流の大きさが0.5Im以上となる。例えば、0°以上60°未満の範囲では、W相の電流の大きさが0.5Im以上となり、U相の電流の大きさが0.5Imを超える。また、60°以上120°未満の範囲では、V相の電流の大きさが0.5Im以上となり、W相の電流の大きさが0.5Imを超える。そして、120°以上180°未満の範囲では、U相の電流の大きさが0.5Im以上となり、V相の電流の大きさが0.5Imを超える。このように、3相交流電流Iu、IvおよびIwのうち特定の2相の電流の大きさが0.5Im以上となる場合、その2相の電流を流すIGBTは過熱状態となり易い。
【0044】
すなわち、U相電流Iuが0.5Im以上となり、V相電流Ivが−0.5Im以下となるときは、スイッチング素子対16uの上側のIGBT16−1およびスイッチング素子対16vの下側のIGBT16−2がオンとなる時間が他のIGBTがオンとなる時間よりも長くなり、これらのIGBTに電流が集中する。
【0045】
同様に、V相電流Ivが0.5Im以上となり、W相電流Iwが−0.5Im以下となるときは、スイッチング素子対16vの上側のIGBT16−1およびスイッチング素子対16wの下側のIGBT16−2に電流が集中する。そして、W相電流Iwが0.5Im以上となり、U相電流Iuが−0.5Im以下となるときは、スイッチング素子対16wの上側のIGBT16−1およびスイッチング素子対16uの下側のIGBT16−2に電流が集中する。さらに、特定のIGBTに電流が集中するこれらの状態に対し、電流が流れる方向が逆であるときは、電流が集中するIGBTの上下が入れ替わる。
【0046】
ここで、各区分の角度範囲の中央の値に120°を加えた角度を目標位相とすることでIGBTの過熱状態が回避される原理について図2を参照して説明する。例えば、位相検出値として検出される回転位相が60°以上120°未満の範囲Dでは、V相電流Ivが閾値0.5Im以上の値を有し、W相電流が閾値−0.5Im未満の値を有する。したがって、スイッチング素子対16vの上側のIGBT16−1およびスイッチング素子対16wの下側のIGBT16−2に電流が集中する。
【0047】
これに対し、回転位相が範囲Dの中央の値+120°、すなわち210°の場合には、スイッチング素子対16wの上側のIGBT16−1およびスイッチング素子対16uの下側のIGBT16−2に電流が集中する。また、V相電流は0となり、スイッチング素子対16vの2つのIGBTには電流が流れない。
【0048】
したがって、モータジェネレータ18が回転制限状態にあり、位相検出値が範囲Dにある場合に、回転位相を210°に合わせることで電流が集中するIGBTが変更される。同様に、位相検出値が目標位相取得テーブルに列挙された他の角度範囲内にある場合に、それぞれの目標位相に回転位相を合わせることで、電流が集中するIGBTが変更される。これによって、モータジェネレータ18が回転制限状態になったときに電流が集中していたIGBTの過熱状態を回避することができる。
【0049】
このような原理の下、コントロールユニット26は、モータジェネレータ18が発生するトルクを減少させて、走行面の傾斜、障害物、走行面陥没部等によって形成される高低差によって車両を移動させることで車輪22を回転させ、モータジェネレータ18の回転位相を目標位相に合わせる(S104およびS105)。
【0050】
より具体的には、コントロールユニット26は、所定の減少分だけトルク指令値を減少させて、モータジェネレータ18が発生するトルクを減少させ(S104)、位相検出値が目標位相に達したか否かを判定する(S105)。コントロールユニット26は、位相検出値が目標位相に達していないときは、ステップS104に戻り更にトルク指令値を減少させる。一方、位相検出値が目標位相に達したときは、コントロールユニット26は、トルク指令値を連続出力可能値Tより大きい回転制限解消トルク値とし、モータジェネレータ18に回転制限解消トルク値のトルクを発生させる(S106)。この回転制限解消トルク値は、例えば、図3(a)に示されるトルク最大値Mとされる。
【0051】
他方、コントロールユニット26は、ステップS102においてモータジェネレータ18が回転制限状態にない旨の判定をした場合には、図3(a)に例示されるような予め定められた上限値の時間特性に従ってトルク指令値を設定する通常制御を実行する(S107)。
【0052】
このような制御によれば、モータジェネレータ18が回転制限状態となった場合には、モータジェネレータ18の回転位相が目標位相に合わせられる。これによって、特定のスイッチング素子が過熱状態になることが回避されると共に、回転制限状態を解消するためのより大きいトルクをモータジェネレータ18に発生させることができる。
【0053】
なお、ここでは、図4のステップS104およびS105のように、モータジェネレータ18が発生するトルクを減少させて、走行面の傾斜等によって形成される高低差によって車両を移動させ、モータジェネレータ18の回転位相を目標位相に合わせる制御について説明した。このような制御の他、モータジェネレータ18が発生するトルクを増加させて、車両を高低差の上り方向に移動させ、モータジェネレータ18の回転位相を目標位相に合わせる制御を実行してもよい。
【0054】
図4のフローチャートに示される回転制限解消制御は、走行面の傾斜等によって形成される高低差による車両の移動を利用している。このような制御は、坂道等の傾斜面に車両が位置している場合に積極的に行われることが好ましい。そこで、図6のフローチャートに示されるように、車両が傾斜面に位置するか否かの判定を行い、車両が傾斜面に位置する旨の判定が行われたときに傾斜面を利用する処理を実行してもよい。ここでは、図4に示すフローチャートの処理と同一の処理については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0055】
コントロールユニット26は、ステップS102においてモータジェネレータ18が回転制限状態にある旨の判定をした場合、水平面に対する走行面の傾斜角度を検出する傾斜センサ30から傾斜角度検出値を読み込む。そして、傾斜角度検出値と所定の角度閾値との比較に基づいて、車両が傾斜面に位置するか否かを判定する(SA101)。すなわち、コントロールユニット26は、傾斜角度検出値が所定の角度閾値を超える場合には、車両が傾斜面に位置するものと判定し、傾斜角度検出値が角度閾値以下である場合には、車両が傾斜面に位置しないものと判定する。この角度閾値は、車両が重力によって傾斜の下り方向に移動可能となる角度範囲に基づいて予め定められる。
【0056】
コントロールユニット26は、車両が傾斜面に位置するものと判定したときは、レゾルバ28から読み込まれた位相検出値に基づいて目標位相を求め(S103)、ステップS104以降の処理を実行する。他方、車両が傾斜面に位置しない旨の判定をした場合には、コントロールユニット26は通常制御を実行する(S107)。
【0057】
このような処理によれば、車両が傾斜面に位置する場合に、傾斜面を利用した車両の移動によってモータジェネレータ18の回転位相を目標位相に合わせる制御が実行される。他方、車両が傾斜面に位置しない場合には通常制御が実行される。これによって、傾斜面を利用する処理を確実に実行することができる。
【0058】
次に、図4に示される回転制限解消制御にIGBTの温度検出に基づく制御を加えた応用例について説明する。図7には、そのような回転制限解消制御においてコントロールユニット26が実行する処理のフローチャートが示されている。図4に示すフローチャートの処理と同一の処理については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0059】
コントロールユニット26は、ステップS102においてモータジェネレータ18が回転制限状態にある旨の判定をした場合には、各IGBTの温度推定値を求める(SA201)。この温度推定値は、冷媒温度センサ34および電流センサ32のそれぞれの検出値に基づいて求められる。冷媒温度センサ34は、インバータ14の筐体に設けられた冷媒管を流通する冷媒の温度を検出するセンサである。電流センサ32は、3相交流電流Iu、IvおよびIwを検出するセンサである。
【0060】
コントロールユニット26は、最も温度推定値の大きいIGBTについて、その温度推定値(以下、最大温度推定値とする。)が規定値を超えるか否かを判定する(SA202)。コントロールユニット26は、最大温度推定値が規定値以下である場合には、通常制御を実行しつつ(SA203)、ステップS101に戻る。他方、最大温度推定値が規定値を超えた場合にはステップS103に移行する。
【0061】
ステップSA201〜SA203によれば、最も温度の高いIGBTの温度推定値が規定値を超えるまでの間は通常制御が実行される。他方、最も温度の高いIGBTの温度推定値が規定値を超え、そのIGBTが過熱状態に至る可能性のある温度上昇状態にあるときは、モータジェネレータ18の回転位相を目標位相に合わせるステップS103以降の処理が実行される。これによって、コントロールユニット26は、通常制御によって回転制限状態を解消できる可能性がある場合には、ステップS103以降の処理を実行することなく通常制御を続行する。
【0062】
また、コントロールユニット26は、ステップS105においてモータジェネレータ18の回転位相が目標位相に達した後(S105)、最大温度推定値が規定値を超えるか否かを判定する(SA204)。そして、最大温度推定値が規定値以下であるときは、トルク指令値を回転制限解消トルク値とし、モータジェネレータ18に回転制限解消トルク値のトルクを発生させる(S106)。他方、温度推定値が規定値を超えるときは、コントロールユニット26は通常制御を実行する。このような処理によれば、モータジェネレータ18の回転位相を目標位相に合わせたものの、過熱状態のIGBTがある場合には通常制御が実行される。これによってIGBTの保護が確実となる。
【0063】
なお、ここでは、図7のステップS104およびS105のように、モータジェネレータ18が発生するトルクを減少させて、走行面の傾斜によって車両を下り方向に移動させ、モータジェネレータ18の回転位相を目標位相に合わせる制御について説明した。このような制御の他、モータジェネレータ18が発生するトルクを増加させて、車両を高低差の上り方向に移動させ、モータジェネレータ18の回転位相を目標位相に合わせる制御を実行してもよい。この場合、図7のフローチャートのステップSA202における規定値は、トルクを減少させる制御を実行する場合よりも小さくすることが好ましい。
【0064】
また、車両が傾斜面に位置するか否かの判定を行い、車両が傾斜面に位置する旨の判定が行われたときに傾斜面を利用する処理を実行してもよい。この場合、図8のフローチャートに示されるように、ステップS102とステップSA201との間には、車両が傾斜面に位置するか否かの判定を行うステップSA101が挿入される。ここでは、図7に示すフローチャートの処理と同一の処理については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0065】
コントロールユニット26は、ステップS102においてモータジェネレータ18が回転制限状態にある旨の判定をした場合、水平面に対する走行面の傾斜角度を検出する傾斜センサ30から傾斜角度検出値を読み込む。そして、傾斜角度検出値と所定の角度閾値との比較に基づいて、車両が傾斜面に位置するか否かを判定する(SA101)。コントロールユニット26は、車両が傾斜面に位置するものと判定したときは、各IGBTの温度推定値を求め(SA201)、ステップSA202以降の処理を実行する。他方、車両が傾斜面に位置しない旨の判定をした場合には、コントロールユニット26は通常制御を実行する(S107)。
【0066】
また、ここでは、各区分の角度範囲の中央の値に120°を加えた角度を目標位相とした目標位相取得テーブルについて採り上げた。このような目標位相取得テーブルに代えて、各区分の角度範囲の中央の値から120°を減じた角度を目標位相とした目標位相取得テーブルを用いてもよい。
【0067】
さらに、コントロールユニット26は、目標位相取得テーブルを用いる代わりに、角度検出値を独立変数とし、目標位相を従属変数とする関数演算アルゴリズムを実行してもよい。この関数演算アルゴリズムは、目標位置取得テーブルに基づき予めプログラムされる。
【0068】
次に、変形例に係る回転制限解消制御ついて説明する。図9には変形例に係る回転制限解消制御においてコントロールユニット26が実行する処理のフローチャートが示されている。図4に示すフローチャートと同様の処理については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0069】
この回転制限解消制御は、モータジェネレータ18の回転位相が電流ピーク範囲内にあるときに回転制限状態を解消する制御を実行するものである。ここで、電流ピーク範囲とは、3相交流電流Iu、Iv、およびIwのうち1つが極大値となる回転位相を中央の値とする角度範囲をいう。位相検出値と3相交流電流Iu、IvおよびIwとの間に図2に示されるような関係がある場合、電流ピーク制御範囲は、0°、60°、120°、180°、240°および360°のそれぞれを中央の値とし、それぞれから±Δ離れるまでの範囲となる。ここでΔは、設計に応じて定められる角度範囲であり、例えば20°である。
【0070】
コントロールユニット26は、ステップS102において、モータジェネレータ18が回転制限状態にある旨の判定をした場合、位相検出値が電流ピーク範囲内にあるか否かを判定する(SA301)。そして、位相検出値が電流ピーク範囲内にない旨の判定をしたときは、通常制御を実行する(S107)。他方、位相検出値が電流ピーク範囲内にある旨の判定をしたときは、コントロールユニット26はステップS103に移行する。
【0071】
図10にはステップS103で用いられる目標位相取得テーブルが例示されている。この目標位相取得テーブルでは、0°以上360°未満の位相検出値の範囲において電流ピーク範囲に位相検出値が定義され、各電流ピーク範囲の中央の値に90°を加えた角度が目標位相とされている。
【0072】
各電流ピーク範囲の中央の値に90°を加えた角度を目標位相とすることでIGBTの過熱状態が回避される原理について説明する。3相交流電流Iu、Iv、およびIwが正の極大値となる場合、それぞれ、スイッチング素子対16u、16vおよび16wの上側のIGBT16−1に電流が集中する。また、3相交流電流Iu、Iv、およびIwが負の極大値となる場合、それぞれ、スイッチング素子対16u、16vおよび16wの下側のIGBT16−2に電流が集中する。これらの状態においてモータジェネレータ18の回転位相を90°変化させると、それまで極大値であった電流は0となる。例えば、図2から明らかなように、3相交流電流Iu、Iv、およびIwは、位相検出値として検出される回転位相がそれぞれ、0°、120°および240°の時に極大値となるが、それぞれの回転位相に90°が加えられた回転位相では0となる。したがって、極大値の電流を流していたスイッチング素子対への電流の集中が回避される。
【0073】
なお、ここで述べた回転制限解消制御についても、図6および図8のフローチャートで示される回転制限解消制御と同様、ステップSA301とステップS103との間に、車両が傾斜面に位置するか否かの判定を行うこととしてもよい。この場合、車両が傾斜面に位置する旨の判定がされた場合に、傾斜面を利用した車両の移動によってモータジェネレータ18の回転位相を目標位相に合わせる制御が実行される。他方、車両が傾斜面に位置しない旨の判定がされた場合には通常制御が実行される。
【0074】
また、図7および図8のフローチャートで示される回転制限解消制御と同様、ステップSA301とステップS103との間に、最も温度推定値の大きいIGBTの温度推定値を最大温度推定値として求める処理を実行し、さらに、最大温度推定値が既定値を超えたときは通常制御を実行し、最大温度推定値が既定値以下であるときは、ステップS103以降の処理を実行してもよい。
【0075】
また、図7および図8のフローチャートで示される回転制限解消制御と同様、モータジェネレータ18の回転位相が目標位相に達した後(S105)、最大温度推定値に応じて、トルク指令値を回転制限解消トルク値とする制御(S106)、または、通常制御(S107)を選択的に実行することとしてもよい。
【0076】
また、上記では、各電流ピーク範囲の中央の値に90°を加えた角度を目標位相とした目標位相取得テーブルについて採り上げた。このような目標位相取得テーブルに代えて、各電流ピーク範囲の中央の値から90°を減じた角度を目標位相とした目標位相取得テーブルを用いてもよい。
【0077】
上記では、本発明の実施形態として電気自動車駆動装置について説明した。本発明は、ハイブリッド自動車駆動装置に用いてもよい。図11にハイブリッド自動車駆動装置の構成を示す。図1に示す電気自動車駆動装置の構成要素と同一の構成要素については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0078】
このハイブリッド自動車駆動装置におけるモータジェネレータMG2は、車両を加速すると共に回生制動を行う。また、MG2用インバータ36は、DCDCコンバータ12とモータジェネレータMG2との間で直流交流変換を行う。MG2用インバータ36およびモータジェネレータMG2は、それぞれ、図1に示す電気自動車駆動装置におけるインバータ14およびモータジェネレータ18と同様の構成および機能を有する。
【0079】
ハイブリッド自動車駆動装置は、さらに、エンジン40を始動すると共に、エンジン40の駆動力によって発電を行うモータジェネレータMG1、および、DCDCコンバータ12とモータジェネレータMG1との間で直流交流変換を行うMG1用インバータ38を備える。MG1用インバータ38およびモータジェネレータMG1もまた、それぞれ、図1に示す電気自動車駆動装置におけるインバータ14およびモータジェネレータ18と同様の構成および機能を有する。
【0080】
エンジン40、モータジェネレータMG1およびMG2の各シャフトは、トルク分割機構42に取り付けられる。トルク分割機構42はこれらの相互間でトルクを作用させる。トルク分割機構42には、例えば、サンギア、リングギアおよびプラネタリギアによって構成されるプラネタリギアユニットが用いられる。さらに、モータジェネレータMG2のシャフトには、動力伝達機構20が取り付けられる。動力伝達機構20には、例えば、モータジェネレータMG2のシャフトの回転速度に対し、車輪22の回転速度を減少させるデファレンシャルギアが用いられる。
【0081】
トルク分割機構42は、エンジン40、モータジェネレータMG1およびモータジェネレータMG2の各回転状態が調整されることで、エンジン40およびモータジェネレータMG2の少なくともいずれかによるトルクを動力伝達機構20に伝える。また、エンジン40およびモータジェネレータMG1の相互間でトルクを伝達する。
【0082】
DCDCコンバータ12、MG2用インバータ36およびモータジェネレータMG2は、図1に示されるDCDCコンバータ12、インバータ14およびモータジェネレータ18の動作と同様の動作により、電池10から供給される電力に基づいてモータジェネレータMG2にトルクを発生させ、そのトルクで車両を加速すると共に、モータジェネレータMG2による回生制動に基づく発電電力によって電池10を充電する。
【0083】
ハイブリッド自動車駆動装置においては、図1に示す電気自動車駆動装置と同様、モータジェネレータMG2が回転制限状態となった場合に、図4、図6、図7、図8または図9に示す回転制限解消制御が実行される。これによって、MG2用インバータ36が備える特定のスイッチング素子が過熱状態になることが回避されると共に、回転制限状態を解消するためのより大きいトルクをモータジェネレータMG2に発生させることができる。
【符号の説明】
【0084】
10 電池、12 DCDCコンバータ、14 インバータ、16u,16v,16w スイッチング素子対、16−1,16−2 IGBT、16−3 ダイオード、18 モータジェネレータ、20 動力伝達機構、22 車輪、24 運転操作部、26 コントロールユニット、28 レゾルバ、30 傾斜センサ、32 電流センサ、34 冷媒温度センサ、36 MG2用インバータ、38 MG1用インバータ、40 エンジン、42 トルク分割機構。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチングにより直流電力を交流電力に変換する電力変換部と、
前記電力変換部から供給された交流電力によって車両を駆動するモータと、
前記モータの回転位相に応じて前記電力変換部のスイッチングを行い、前記モータを制御するコントロールユニットと、を備え、
前記コントロールユニットは、
前記モータが回転制限状態となったときに、そのときの前記電力変換部のスイッチング状態に応じた目標位相に前記モータの回転位相が達するよう前記モータを制御する、
ことを特徴とする車両駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両駆動装置において、
前記電力変換部は、直流電力を3相の交流電力に変換し、
前記コントロールユニットは、
前記電力変換部と前記モータとの間を流れる3相の交流電流が前記モータの回転位相に同期するよう、前記電力変換部のスイッチングを行い、
前記目標位相は、前記3相の交流電流のうちの2相の交流電流であって、前記モータが前記回転制限状態であるときに前記電力変換部を過熱状態に至らしめる条件が成立する2相の交流電流、のうち少なくとも一方が低減される位相であること、
を特徴とする車両駆動装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両駆動装置において、
前記電力変換部は、直列接続された2つのスイッチング素子をそれぞれが備える3対のスイッチング素子対を備え、
各スイッチング素子対がなす直列接続経路の両端に直流電力が供給され、
各スイッチング素子対の直列接続点から前記モータに交流電力を供給する、
ことを特徴とする車両駆動装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の車両駆動装置において、
前記コントロールユニットは、
前記モータに対するトルク指令値を前記車両の運転操作に応じて決定するトルク指令値決定手段を備え、
前記トルク指令値に応じて前記電力変換部のスイッチングを行い、
前記トルク指令値決定手段は、
前記モータが前記回転制限状態となったときにおける前記コントロールユニットの制御により、前記モータの回転位相が前記目標位相に達したときに、前記モータが前記回転制限状態でないときの上限値よりも大きい値を上限値として前記トルク指令値を決定する、
ことを特徴とする車両駆動装置。
【請求項5】
請求項4に記載の車両駆動装置において、
前記コントロールユニットは、
前記電力変換部に含まれる素子の温度に基づいて当該素子が過熱状態にあるか否かを判定する手段を備え、
前記トルク指令値決定手段は、
前記モータが前記回転制限状態となったときにおける前記コントロールユニットの制御の後に、前記素子が前記過熱状態にない旨の判定がなされたときに、前記モータが前記回転制限状態でないときの上限値よりも大きい値を上限値として前記トルク指令値を決定する、
ことを特徴とする車両駆動装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の車両駆動装置において、
前記コントロールユニットは、
前記電力変換部に含まれる素子の温度に基づいて当該素子が温度上昇状態にあるか否かを判定する手段を備え、
前記モータが回転制限状態となり、かつ、前記素子が前記温度上昇状態にある旨の判定がなされたときに、前記目標位相に前記モータの回転位相が達するよう前記モータを制御する、
ことを特徴とする車両駆動装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の車両駆動装置において、
前記コントロールユニットは、
前記モータが前記回転制限状態となったときに、前記モータが発生するトルクを減少させ、走行面における高低差による前記車両の移動に基づいて前記モータを回転させる、
ことを特徴とする車両駆動装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の車両駆動装置において、
前記車両の走行面の傾斜角を検出する傾斜センサを備え、
前記コントロールユニットは、
前記傾斜センサによる検出値に基づいて前記車両が傾斜面に位置するか否かを判定する手段を備え、
前記モータが前記回転制限状態となり、かつ、前記車両が傾斜面に位置する旨の判定がなされたときに、前記モータが発生するトルクを減少させ、走行面の傾斜による前記車両の移動に基づいて前記モータを回転させる、
ことを特徴とする車両駆動装置。
【請求項9】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の車両駆動装置において、
前記コントロールユニットは、
前記モータが前記回転制限状態となったときに、前記モータが発生するトルクを増加させ、当該トルクの増加による前記車両の移動に基づいて前記モータを回転させる、
ことを特徴とする車両駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−130226(P2012−130226A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282026(P2010−282026)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】