説明

車線逸脱防止装置及びその方法

【課題】車線区分線を推定する場合でも、適切なヨーモーメントの大きさにする。
【解決手段】車線逸脱防止装置は、車線区分線検出手段により車線区分線の検出精度が低下している場合、推定した車線区分線を基に、走行車線に対する自車両の逸脱を防止する車線逸脱防止制御を行い(ステップS11、ステップS12)、車線区分線の検出精度が低下している時間に応じて、車線逸脱防止制御の制御量を小さくする補正をする(ステップS3〜ステップS5)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車両が走行車線から逸脱しそうになったときに、その逸脱を防止する車線逸脱防止装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車線逸脱防止装置として、自車両が走行車線を逸脱する可能性がある場合に、自車両にヨーモーメントを付与することで、自車両が走行車線から逸脱するのを防止するものがある(例えば特許文献1参照)。さらに、従来の車線逸脱防止装置として、白線やセンターライン等の車線区分線(境界線)が検出できなくなった場合に、その車線区分線を推定して、車線逸脱防止制御を実施するものもある。例えば、破線形態の白線になっており、その白線を検出できない区間、推定した白線を基に、車線逸脱防止制御を実施する。
【特許文献1】特開2000−33860号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、従来の車線逸脱防止装置では、推定した車線区分線を基に、ヨーモーメントを算出してしまうと、そのヨーモーメントが必要以上に大きくなってしまうおそれがあるという課題がある。
本発明の課題は、車線区分線を推定する場合でも、適切なヨーモーメントの大きさにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するために、本発明は、車線区分線検出手段により車線区分線の検出精度が低下している場合、推定した車線区分線を基に、走行車線に対する自車両の逸脱を防止する車線逸脱防止制御を行っている。そして、車線区分線の検出精度が低下している時間に応じて、車線逸脱防止制御の制御量を小さくする補正をしている。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、車線区分線の検出精度が低下している時間に応じて、車線逸脱防止制御の制御量を小さくする補正をする。この結果、車線区分線の検出精度の低下に起因して車線区分線を推定する場合でも、車線逸脱防止制御の制御量を適切な大きさにできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明を実施するための最良の形態(以下、実施形態という。)を図面を参照しながら詳細に説明する。
(構成)
本実施形態は、本発明に係る車線逸脱防止装置を搭載した車両である。この車両は後輪駆動車両である。そして、この車両は、自動変速機とディファレンシャルギヤとを搭載し、前後輪とも左右輪の制動力を独立制御可能な制動装置を搭載している。
図1は、本実施形態を示す概略構成図である。図中の符号1はブレーキペダル、2はブースタ、3はマスタシリンダ、4はリザーバである。通常は、運転者によるブレーキペダル1の踏込み量に応じて、マスタシリンダ3で昇圧された制動流体圧を各車輪5FL〜5RRの各ホイールシリンダ6FL〜6RRに供給する。また、マスタシリンダ3と各ホイールシリンダ6FL〜6RRとの間には制動流体圧制御部7を介装している。
【0007】
制動流体圧制御部7は、例えばアンチスキッド制御やトラクション制御に用いられる制動流体圧制御部を利用したものである。制動流体圧制御部7は、各ホイールシリンダ6FL〜6RRの制動流体圧を個別に制御する。そして、制動流体圧制御部7は、単独でその制動流体圧を制御できる。また、制動流体圧制御部7は、後述する制駆動力コントロールユニット8から制動流体圧指令値が入力された場合には、その制動流体圧指令値に応じて制動流体圧を制御することもできる。例えば、液圧供給系にアクチュエータを含んで制動流体圧制御部7を構成している。アクチュエータとしては、各ホイールシリンダ液圧を任意の制動液圧に制御可能な比例ソレノイド弁が挙げられる。
【0008】
また、この車両は、駆動トルクコントロールユニット12を搭載している。駆動トルクコントロールユニット12は、エンジン9の運転状態、自動変速機10の選択変速比及びスロットルバルブ11のスロットル開度を制御することにより、駆動輪である後輪5RL,5RRへの駆動トルクを制御する。駆動トルクコントロールユニット12は、燃料噴射量や点火時期を制御したり、同時にスロットル開度を制御したりすることで、エンジン9の運転状態を制御する。駆動トルクコントロールユニット12は、単独で後輪5RL,5RRの駆動トルクを制御することもできる。また、駆動トルクコントロールユニット12は、制駆動力コントロールユニット8から駆動トルク指令値が入力された場合には、その駆動トルク指令値に応じて駆動輪トルクを制御することもできる。駆動トルクコントロールユニット12は、制御に使用した駆動トルクTwの値を制駆動力コントロールユニット8に出力する。
【0009】
また、この車両は、画像処理機能付きの撮像部13を搭載している。撮像部13は、走行車線内における自車両の位置を検出する。例えば、CCD(ChargeCoupled Device)カメラからなる単眼カメラで撮像するように撮像部13を構成している。車両前部に撮像部13を設置している。撮像部13は、自車両前方の撮像画像から例えば白線(レーンマーカ)又はセンターライン等の車線区分線(境界線)を検出する。撮像部13は、検出した車線区分線を基に、各種値を算出する。具体的には、撮像部13は、自車両の走行車線と自車両の前後方向軸とのなす角(ヨー角)φr、走行車線中央からの横位置X及び走行車線曲率β等を算出する。撮像部13は、算出したこれらヨー角(検出ヨー角)φr、横位置(検出横位置)X及び走行車線曲率β等を制駆動力コントロールユニット8に出力する。
【0010】
また、この車両は、ナビゲーション装置14を搭載している。ナビゲーション装置14は、自車両に発生する前後加速度Yg及び横加速度Xg、並びに自車両に発生するヨーレイトφ´(=dφr/dt)を検出する。ナビゲーション装置14は、検出した前後加速度Yg、横加速度Xg及びヨーレイトφ´を、道路情報とともに、制駆動力コントロールユニット8に出力する。道路情報としては、車線数、一般道路又は高速道路等の道路種別を示す道路種別情報がある。なお、専用のセンサにより各値を検出することもできる。すなわち、加速度センサにより前後加速度Yg及び横加速度Xgを検出する。また、ヨーレイトセンサによりヨーレイトφ´を検出する。
【0011】
また、この車両は、各種センサを搭載している。具体的には、この車両は、マスタシリンダ3の出力圧、すなわちマスタシリンダ液圧Pm(Pmf)を検出するマスタシリンダ圧センサ17を搭載している。また、この車両は、アクセルペダルの踏込み量、すなわちアクセル開度θtを検出するアクセル開度センサ18を搭載している。また、この車両は、ステアリングホイール21の操舵角(ステアリング舵角)δを検出する操舵角センサ19を搭載している。また、この車両は、運転者による方向指示器(ターンシグナルスイッチ)の操作を検出する方向指示スイッチ20、及び各車輪5FL〜5RRの回転速度、いわゆる車輪速度Vwi(i=fl,fr,rl,rr)を検出する車輪速度センサ22FL〜22RRを搭載している。そして、これらセンサ等は、検出した検出信号を制駆動力コントロールユニット8に出力する。
【0012】
次に、制駆動力コントロールユニット8で行う演算処理を説明する。図2は、制駆動力コントロールユニット8で行う演算処理手順を示す。例えば10msec.毎の所定サンプリング時間ΔT毎にタイマ割込によって演算処理を実行する。なお、演算処理によって得た情報を随時記憶装置に更新記憶すると共に、必要な情報を随時記憶装置から読み出す。
図2に示すように、処理を開始すると、先ずステップS1において、前記各センサやコントローラ、コントロールユニットから各種データを読み込む。具体的には、ナビゲーション装置14が得た前後加速度Yg、横加速度Xg、ヨーレイトφ´及び道路情報を読み込む。また、各センサが検出した、各車輪速度Vwi、操舵角δ、アクセル開度θt、マスタシリンダ液圧Pm及び方向スイッチ信号を読み込む。また、駆動トルクコントロールユニット12から駆動トルクTw、撮像部13からヨー角φr、横位置X及び走行車線曲率βを読み込む。
【0013】
続いてステップS2において、車速Vを算出する。具体的には、前記ステップS1で読み込んだ車輪速度Vwiを基に、下記(1)式により車速Vを算出する。
前輪駆動の場合
V=(Vwrl+Vwrr)/2
後輪駆動の場合
V=(Vwfl+Vwfr)/2
・・・(1)
ここで、Vwfl,Vwfrは左右前輪それぞれの車輪速度である。また、Vwrl,Vwrrは左右後輪それぞれの車輪速度である。すなわち、この(1)式では、従動輪の車輪速の平均値として車速Vを算出している。なお、本実施形態では、後輪駆動車両なので、後者の式、すなわち前輪の車輪速度により車速Vを算出する。
【0014】
また、このように算出した車速Vは好ましくは通常走行時に用いる。例えば、ABS(Anti-lock Brake System)制御等が作動している場合、そのABS制御内で推定している推定車体速度を前記車速Vとして用いるようにする。また、ナビゲーション装置14でナビゲーション情報に利用している値を車速Vとして用いることもできる。また、AT軸出力を基に、車速を算出することもできる。この場合、下記(2)式により車速Vを算出する。
V=(2π・R)・W・(60/1000) ・・・(2)
ここで、Rは、車輪半径とデフギアの比(車輪半径/デフギア)である。Wは、AT出力軸回転数(rpm)である。
【0015】
続いてステップS3において、車線間推定時間tを算出する。具体的には、撮像部13が車線区分線の検出精度が低下しているときに車線間推定フラグFlineをONにする(Fline=ON)。そして、車線間推定フラグがONになっている継続時間を、車線間推定時間tとして算出する。この車線間推定時間tは、車線区分線の検出精度が低下している時間となる。この車線間推定時間tは、車線区分線を推定しているときの時間、又は自車両と車線区分線との間を推定している時間であるとも言える。また、例えば、車線区分線が破線形態である場合に、車線区分線の検出精度が低下する。また、検出横位置Xがばらつく場合に、車線区分線の検出精度が低下していると判断することもできる。
【0016】
続いてステップS4において、推定横位置を算出する。図3は、その算出処理の一例を示す。図3に示すように、先ずステップS21において、車線間推定フラグFlineがONか否かを判定する。ここで、車線間推定フラグFlineがONの場合(Fline=ON)、ステップS22に進む。また、そうでない場合(Fline=OFF)、ステップS22をスキップして、ステップS23に進む。
【0017】
ステップS22では、前記ステップS3で算出した車線間推定時間tが所定のしきい値(所定時間)T以下か否かを判定する。所定のしきい値Tは、実験値、経験値又は理論値である。この所定のしきい値Tを走行状態に応じて変化させている。具体的には、自車速Vに応じて所定のしきい値Tを連続的(リニア)に変化させている。図4は、自車速Vと所定のしきい値Tとの関係の一例を示す。図4に示すように、自車速Vが大きくなるほど、所定のしきい値Tが小さくなる。このステップS22では、車線間推定時間tが所定のしきい値T以下の場合(t≦T)、ステップS23に進む。また、車線間推定時間tが所定のしきい値Tよりも大きい場合(t>T)、ステップS24に進む。
【0018】
ステップS23では、前記ステップS1で読込んだ横位置(検出横位置、横位置の現在値)Xを基に、推定横位置(横位置の推定値)Xe及び横位置保持値tempXeを設定する。具体的には、下記(3)式及び(4)式により推定横位置Xe及び横位置保持値tempXeを設定する。
Xe=X ・・・(3)
tempXe=X ・・・(4)
ここで、車線間推定フラグFlineがONの場合(前記ステップS21の判定で“Yes”の場合)に進んだステップS23では、検出精度が低下している検出横変位Xにより推定横位置Xe及び横位置保持値tempXeを設定することもできる。また、所定の演算で推定した検出横変位Xにより推定横位置Xe及び横位置保持値tempXeを設定することもできる。また、精度が低下していない状況で直前に検出できている検出横位置Xにより推定横位置Xe及び横位置保持値tempXeを設定することもできる。
【0019】
このような設定をした後、該図3の処理を終了する(前記ステップS21から再び処理を開始する)。
ステップS24では、横位置Xが横位置保持値tempXeよりも大きいか否かを判定する。ここで、横位置Xが横位置保持値tempXeよりも大きい場合(X>tempXe)、ステップS25に進む。また、横位置Xが横位置保持値tempXe以下の場合(X≦tempXe)、前記ステップS23に進む。
ステップS25では、推定横位置Xeを横位置保持値tempXeに設定する(Xe=tempXe)。そして、該図3の処理を終了する(前記ステップS21から再び処理を開始する)。
【0020】
ステップS4では、以上のようにして推定横位置Xeを算出する。
続いてステップS4において、推定ヨー角を算出する。図5は、その算出処理の一例を示す。図5に示すように、先ずステップS41において、車線間推定フラグFlineがONか否かを判定する。ここで、車線間推定フラグFlineがONの場合(Fline=ON)、ステップS42に進む。また、そうでない場合(Fline=OFF)、ステップS42をスキップして、ステップS43に進む。
【0021】
ステップS42では、前記ステップS3で算出した車線間推定時間tが所定のしきい値T以下か否かを判定する。ここで、車線間推定時間tが所定のしきい値T以下の場合(t≦T)、ステップS43に進む。また、車線間推定時間tが所定のしきい値Tよりも大きい場合(t>T)、ステップS44に進む。
ステップS43では、前記ステップS1で読込んだヨー角(検出ヨー角、ヨー角の現在値)φrを基に、推定ヨー角(ヨー角の推定値)φe及びヨー角保持値tempφeを設定する。具体的には、下記(5)式及び(6)式により推定ヨー角φe及びヨー角保持値tempφeを設定する。
φe=φr ・・・(5)
tempφe=φr ・・・(6)
【0022】
ここで、車線間推定フラグFlineがONの場合(前記ステップS41の判定で“Yes”の場合)に進んだステップS43では、検出精度が低下している検出横変位Xにより設定することもできる。すなわち、検出精度が低下している検出横変位Xに基づいて得られる検出ヨー角φrにより推定ヨー角φe及びヨー角保持値tempφeを設定することもできる。また、所定の演算で推定した検出ヨー角φrにより推定横位置Xe及び横位置保持値tempXeを設定することもできる。また、精度が低下していない状況で直前に検出できている検出ヨー角φrにより推定横位置Xe及び横位置保持値tempXeを設定することもできる。
【0023】
このような設定をした後、該図5の処理を終了する(前記ステップS41から再び処理を開始する)。
ステップS44では、ヨー角φrがヨー角保持値tempφeよりも大きいか否かを判定する。ここで、ヨー角φrがヨー角保持値tempφeよりも大きい場合(φr>tempφe)、ステップS45に進む。また、ヨー角φrがヨー角保持値tempφe以下の場合(φr≦tempφe)、前記ステップS43に進む。
【0024】
ステップS45では、推定ヨー角φeをヨー角保持値tempφeに設定する(φe=tempφe)。そして、該図5の処理を終了する(前記ステップS41から再び処理を開始する)。
ステップS5では、以上のようにして推定ヨー角φeを算出する。
続いてステップS6において、車線逸脱傾向を判定する。図6は、この判定処理の処理手順の一例を示す。また、図7には、この処理で用いる値の定義を示している。
【0025】
図6に示すように、先ずステップS61において、所定時間T後の車両重心横位置の推定横変位Xsを算出する。具体的には、前記ステップS1で得たヨー角φr、走行車線曲率β及び横位置(検出横位置)X、及び前記ステップS2で得た車速Vを用いて、下記(7)式により推定横変位Xsを算出する。
Xs=Tt・V・(φr+Tt・V・β)+X ・・・(7)
ここで、Ttは前方注視距離算出用の車頭時間である。この車頭時間Ttに自車速Vを乗じると前方注視点距離になる。また、車頭時間Tt後の走行車線中央からの横変位推定値が将来の推定横変位(前方注視点推定横変位)Xsとなる。この(7)式によれば、例えばヨー角φrが大きくなるほど、推定横変位Xsは大きくなる。
【0026】
続いてステップS62において、逸脱判定をする。具体的には、推定横変位Xsと所定の逸脱傾向判定用しきい値Xとを比較する。ここで、逸脱傾向判定用しきい値Xは、一般的に車両が車線逸脱傾向にあると把握できる値である。逸脱傾向判定用しきい値Xは、例えば実験値等である。また、走行路の境界線の位置を示す値として、下記(8)式により逸脱傾向判定用しきい値Xを算出できる。
=(L−H)/2 ・・・(8)
ここで、Lは車線幅である(図7参照)。Hは車両の幅である(図7参照)。撮像部13が撮像画像を処理して車線幅Lを得ている。また、ナビゲーション装置14から車両の位置を得たり、ナビゲーション装置14の地図データから車線幅Lを得たりすることもできる。
【0027】
このステップS62において、推定横変位Xsが逸脱傾向判定用しきい値X以上の場合(|Xs|≧X)、車線逸脱傾向ありと判定する。また、推定横変位Xsが逸脱傾向判定用しきい値X未満の場合(|Xs|<X)、車線逸脱傾向なしと判定する。
続いてステップS63において、逸脱判断フラグFoutを設定する。すなわち、前記ステップS62において、車線逸脱傾向ありと判定した場合(|Xs|≧X)、逸脱判断フラグFoutをONにする(Fout=ON)。また、前記ステップS62において、車線逸脱傾向なしと判定した場合(|Xs|<X)、逸脱判断フラグFoutをOFFにする(Fout=OFF)。
【0028】
このステップS62及びステップS63の処理により、例えば自車両が車線中央から離れていき、推定横変位Xsが逸脱傾向判定用しきい値X以上になったとき(|Xs|≧X)、逸脱判断フラグFoutがONになる(Fout=ON)。また、自車両(Fout=ONの状態の自車両)が車線中央側に復帰していき、推定横変位Xsが逸脱傾向判定用しきい値X未満になったとき(|Xs|<X)、逸脱判断フラグFoutがOFFになる(Fout=OFF)。例えば、車線逸脱傾向がある場合に、後述する逸脱防止のための制動制御を実施したり、運転者自身が車線逸脱を回避する操作をしたりすれば、逸脱判断フラグFoutがONからOFFになる。
【0029】
続いてステップS64において、横位置Xを基に逸脱方向Doutを判定する。具体的には、車線中央から左方向に横変位している場合、その方向を逸脱方向Doutにする(Dout=left)。また、車線中央から右方向に横変位している場合、その方向を逸脱方向Doutにする(Dout=right)。
ステップS6では、以上のように車線逸脱傾向を判定する。
【0030】
続いてステップS7において、逸脱推定値として制御推定横変位を算出する。具体的には、前記ステップS4で得た推定横位置Xe、前記ステップS5で得た推定ヨー角φe、前記ステップS1で得た走行車線曲率β、及び前記ステップS2で得た車速Vを用いて、下記(9)式により制御推定横変位Xfを算出する。
Xf=Tt・V・(φe+Tt・V・β)+Xe ・・・(9)
ここで、Ttは前方注視距離算出用の車頭時間である。この(9)式において、推定ヨー角φeは、車線逸脱防止制御(減速制御)の制御ゲイン(比例ゲイン)をなしている。この(9)式によれば、推定ヨー角φeが大きくなるほど、制御推定横変位Xfは大きくなる。また、推定横位置Xeが大きくなるほど、制御推定横変位Xfは大きくなる。
【0031】
続いてステップS8において、運転者の車線変更の意思を判定する。具体的には、前記ステップS1で得た方向スイッチ信号及び操舵角δを基に、次のように運転者の車線変更の意思を判定する。
方向スイッチ信号が示す方向(ウインカ点灯側)と、前記ステップS6で得た逸脱方向Doutが示す方向とが同じ場合、運転者が意識的に車線変更していると判定する。そして、逸脱判断フラグFoutをOFFに変更する(Fout=OFF)。すなわち、車線逸脱傾向なしとの判定結果に変更する。また、方向スイッチ信号が示す方向(ウインカ点灯側)と、前記ステップS6で得た逸脱方向Doutが示す方向とが異なる場合、逸脱判断フラグFoutを維持する。この場合、逸脱判断フラグFoutをONのままにする(Fout=ON)。すなわち、車線逸脱傾向ありとの判定結果を維持する。
【0032】
また、方向指示スイッチ20が操作されていない場合には、操舵角δを基に運転者の車線変更の意思を判定する。具体的には、運転者が逸脱方向に操舵している場合において、その操舵角δとその操舵角の変化量(単位時間当たりの変化量)Δδとの両方が設定値以上のときには、運転者が意識的に車線変更していると判定する。そして、逸脱判断フラグFoutをOFFに変更する(Fout=OFF)。なお、操舵トルクを基に運転者の意思を判定することもできる。
【0033】
このように、逸脱判断フラグFoutがONである場合において運転者が意識的に車線変更していないときには、逸脱判断フラグFoutをONに維持している。
続いてステップS9において、前記ステップS8で設定(維持)した逸脱判断フラグFoutがONの場合、車線逸脱回避のための警報として、音出力又は表示出力をする。なお、後述するように、逸脱判断フラグFoutがONの場合、車線逸脱防止制御として自車両へのヨーモーメント付与を開始している。そのため、自車両へのヨーモーメント付与と同時に該警報出力する。しかし、警報の出力タイミングは、これに限定されるものではなく、例えば自車両へのヨーモーメント付与の開始タイミングよりも早くすることもできる。
【0034】
続いてステップS10において、車線逸脱防止制御として自車両の減速制御を行うか否かを判定する。本実施形態の車線逸脱防止制御では、自車両が車線逸脱してしまうのを防止する目的で、減速制御により自車両を減速させている。このステップS10では、その減速制御を行うか否かを判定する。具体的には、前記ステップS6で算出した推定横変位Xsから横変位限界距離Xを減じて得た減算値(|Xs|−X)が減速制御判定用しきい値Xβ以上か否かを判定する。
【0035】
ここで、減速制御判定用しきい値Xβは、走行車線曲率βに応じて設定される値である。図8は、走行車線曲率βと減速制御判定用しきい値Xβとの関係の一例を示す。図8に示すように、走行車線曲率βが小さい場合、減速制御判定用しきい値Xβはある一定の大きい値となる。また、走行車線曲率βがある値より大きくなると、走行車線曲率βが増加するのに対して減速制御判定用しきい値Xβは減少する。そして、走行車線曲率βがさらに大きくなると、減速制御判定用しきい値Xβはある一定の小さい値となる。また、車速Vが大きくなるほど、減速制御判定用しきい値Xβを小さくすることもできる。
【0036】
このステップS10では、前記減算値(|Xs|−X)が減速制御判定用しきい値Xβ以上の場合(|Xs|−X≧Xβ)、減速制御を行うと決定する。そして、減速制御作動判断フラグFgsをONに設定する(Fgs=ON)。また、前記減算値(|Xs|−X)が減速制御判定用しきい値Xβ未満の場合(|Xs|−X<Xβ)、減速制御を行わない決定をする。そして、減速制御作動判断フラグFgsをOFFに設定する(Fgs=OFF)。
【0037】
なお、前記ステップS6において推定横変位Xsが逸脱傾向判定用しきい値X以上の場合(|Xs|≧X)、逸脱判断フラグFoutをONに設定している。さらに、このステップS10では、減算値(|Xs|−X)が減速制御判定用しきい値Xβ以上の場合、減速制御作動判断フラグFgsをONに設定している。これらの関係から、逸脱判断フラグFoutをONに設定するとしても、その設定は、減速制御作動判断フラグFgsをONに設定した後になる。すなわち、後述する逸脱判断フラグFoutがONになった場合に実施する自車両へのヨーモーメント付与との関係では、自車両の減速制御を実施した後、自車両にヨーモーメントを付与するようになる。
【0038】
続いてステップS11において、車線逸脱防止制御として自車両に付与する目標ヨーモーメントMsを算出する。目標ヨーモーメントMsは、自車両が車線逸脱してしまうのを十分に防止できるヨーモーメントである。具体的には、前記ステップS4で得た推定横位置Xeを用いて、下記(10)式により目標ヨーモーメントMsを算出する。
Ms=K1・K2・(|Xe|−X) ・・・(10)
【0039】
ここで、K1は車両諸元から決まる比例ゲインである。K2は車速Vに応じて変動するゲインである。また、この(10)式において、推定横位置Xeは、車線逸脱防止制御(ヨーモーメント制御)の制御ゲイン(比例ゲイン)をなしている。図9はゲインK2の例を示す。図9に示すように、低速域では、ゲインK2は、ある一定の大きい値となる。また、車速Vがある値よりも大きくなると、車速Vの増加に対してゲインK2は減少する。そして、その後ある車速Vに達すると、ゲインK2は、ある一定の小さい値となる。
【0040】
この(10)式によれば、推定横位置Xe(絶対値)が大きくなるほど、推定横位置Xe(絶対値)と横変位限界距離Xとの差分値が大きくなるため、目標ヨーモーメントMsは大きくなる。また、逸脱判断フラグFoutがONの場合に目標ヨーモーメントMsを算出する。また、逸脱判断フラグFoutがOFFの場合、目標ヨーモーメントMsを零に設定する。
【0041】
続いてステップS12において、車線逸脱防止制御として実施する減速制御の減速度を算出する。このステップS12では、その減速度を実現するために左右両輪で発生させる制動力を算出する。具体的には、そのような制動力を左右両輪に発生させるための目標制動液圧Pgf,Pgrを算出する。前輪用の目標制動液圧Pgfについては、前記ステップS7で算出した制御推定横変位Xfを用いて、下記(11)式により算出する。
Pgf=Kgv・Kgx・(|Xf|−X−Xβ) ・・・(11)
【0042】
ここで、Kgv,Kgxはそれぞれ、車速V及び横変化量dxを基に設定する換算係数である。さらに、Kgv,Kgxはそれぞれ、制動力を制動液圧に換算するための換算係数でもある。図10はその換算係数Kgvの例を示す。図10に示すように、低速域では、換算係数Kgvは、ある一定の小さい値になる。また、車速Vがある値よりも大きくなると、車速Vが増加すると換算係数Kgvも増加する。その後ある車速Vに達すると、換算係数Kgvは、ある一定の大きい値になる。そして、前輪用の目標制動液圧Pgfを基に、前後配分を考慮した後輪用の目標制動液圧Pgrを算出する。
【0043】
この(11)式によれば、制御推定横変位Xf(絶対値)が大きくなるほど、目標制動液圧は大きくなる。また、前記(9)式との関係から、推定ヨー角φeが大きくなるほど、目標制動液圧は大きくなる。また、推定横位置Xeが大きくなるほど、目標制動液圧は大きくなる。
続いてステップS13において、各車輪の目標制動液圧を算出する。すなわち、車線逸脱防止の制動制御の有無に基づいて最終的な制動液圧を算出する。具体的には次のように算出する。
【0044】
逸脱判断フラグFoutがOFFの場合、すなわち車線逸脱傾向がないとの判定結果を得た場合、下記(12)式及び(13)式に示すように、各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl,fr,rl,rr)を制動液圧Pmf,Pmrにする。
Psfl=Psfr=Pmf ・・・(12)
Psrl=Psrr=Pmr ・・・(13)
ここで、Pmfは前輪用の制動液圧である。また、Pmrは後輪用の制動液圧であり、前後配分を考慮して前輪用の制動液圧Pmf(Pm)に基づいて算出した値になる。例えば、運転者がブレーキ操作をしていれば、制動液圧Pmf,Pmrはそのブレーキ操作の操作量に応じた値になる。
【0045】
一方、逸脱判断フラグFoutがONの場合、すなわち車線逸脱傾向があるとの判定結果を得た場合、先ず目標ヨーモーメントMsに基づいて、前輪目標制動液圧差ΔPsf及び後輪目標制動液圧差ΔPsrを算出する。具体的には、下記(14)式〜(17)式により目標制動液圧差ΔPsf,ΔPsrを算出する。
|Ms|<Ms1の場合
ΔPsf=0 ・・・(14)
ΔPsr=Kbr・Ms/T ・・・(15)
|Ms|≧Ms1の場合
ΔPsf=Kbf・(Ms/|Ms|)・(|Ms|−Ms1)/T ・・・(16)
ΔPsr=Kbr・(Ms/|Ms|)・Ms1/T ・・・(17)
ここで、Ms1は設定用しきい値を示す。Tはトレッドを示す。なお、トレッドTは、便宜上前後で同じ値にする。また、Kbf,Kbrは、制動力を制動液圧に換算する場合の前輪及び後輪についての換算係数であり、ブレーキ諸元により定まる。
【0046】
このように、目標ヨーモーメントMsの大きさに応じて車輪に発生させる制動力を配分している。そして、目標ヨーモーメントMsが設定用しきい値Ms1未満のときには、前輪目標制動液圧差ΔPsfを零として、後輪目標制動液圧差ΔPsrに所定値を与えて、左右後輪で制動力差を発生させる。また、目標ヨーモーメントMsが設定用しきい値Ms1以上のときには、各目標制動液圧差ΔPsr,ΔPsrに所定値を与え、前後左右輪で制動力差を発生させる。
【0047】
そして、以上のように算出した目標制動液圧差ΔPsf,ΔPsr及び減速用の目標制動液圧Pgf,Pgrを用いて最終的な各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl,fr,rl,rr)を算出する。具体的には、前記ステップS10で得た減速制御作動判断フラグFgsをも参照して、最終的な各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl,fr,rl,rr)を算出する。
【0048】
すなわち、逸脱判断フラグFoutがON、かつ減速制御作動判断フラグFgsがOFFの場合、つまり、車線逸脱傾向があるとの判定結果を得ているが、車両へのヨーモーメント付与だけを行う場合、下記(18)式により各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl,fr,rl,rr)を算出する。
Psfl=Pmf
Psfr=Pmf+ΔPsf
Psrl=Pmr
Psrr=Pmr+ΔPsr
・・・(18)
【0049】
また、逸脱判断フラグFoutがONであり、かつ減速制御作動判断フラグFgsがONの場合、すなわち車両にヨーモーメントを付与しつつも、車両を減速させる場合、下記(19)式により各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl,fr,rl,rr)を算出する。
Psfl=Pmf+Pgf/2
Psfr=Pmf+ΔPsf+Pgf/2
Psrl=Pmr+Pgr/2
Psrr=Pmr+ΔPsr+Pgr/2
・・・(19)
【0050】
また、この(18)式及び(19)式が示すように、運転者によるブレーキ操作、すなわち制動液圧Pmf,Pmrを考慮して各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl,fr,rl,rr)を算出している。そして、制駆動力コントロールユニット8は、このようにして算出した各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl,fr,rl,rr)を制動流体圧指令値として、制動流体圧制御部7に出力する。
【0051】
なお、前記(18)式、(19)式に示した各車輪の目標制動液圧は、逸脱方向Doutがleftの場合(Dout=left)、すなわち左側車線に対して車線逸脱傾向がある場合のものである。例えば、逸脱方向Doutがrightの場合の、前記(18)式に対応する各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl,fr,rl,rr)を、下記(20)式により算出できる。
Psfl=Pmf+ΔPsf
Psfr=Pmf
Psrl=Pmr+ΔPsr
Psrr=Pmr
・・・(20)
【0052】
(動作及び作用)
車両走行中、各種データを読み込むとともに(前記ステップS1)、車速Vを算出する(前記ステップS2)。続いて、車線間推定時間tを算出する(前記ステップS3)。そして、算出した車線間推定時間tを基に、推定横位置Xe及び推定ヨー角φeを算出する(前記ステップS4、ステップS5、図3、図5)。さらに、算出した推定横位置Xe及び推定ヨー角φeを基に、制御推定横変位Xfを算出する(前記ステップS7)。
【0053】
一方、推定横変位Xsを基に、逸脱判断フラグFoutを設定(車線逸脱傾向を判定)する(前記ステップS6)。そして、運転者の車線変更の意思に応じて、その判定結果を変更する(前記ステップS8)。また、推定横変位Xsを基に、減速制御作動判断フラグFgを設定(減速制御判定を判定)する(前記ステップS10)。そして、先に算出している推定横位置Xeを基に、目標ヨーモーメントMsを算出する(前記ステップS11)。さらに、先に算出している制御推定横変位Xfを基に、減速制御の減速度を算出する(前記ステップS12)。
【0054】
そして、逸脱判断フラグFoutを基に、警報出力する(前記ステップS9)。さらに、逸脱判断フラグFout及び減速制御作動判断フラグFgsを基に、各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl,fr,rl,rr)を算出する(前記ステップS13)。そして、算出した各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl,fr,rl,rr)を制動流体圧制御部7に出力する(前記ステップS13)。これにより、自車両の車線逸脱傾向に応じて、警報出力し、自車両にヨーモーメントを付与する。さらに、場合により、自車両を減速させる。
【0055】
さらに、車線逸脱防止制御の制御内容は具体的には次のようになっている。
車線区分線(境界線)を検出できている場合には、その検出した車線区分線を基準にした検出横位置X(Xe)を基に(前記ステップS21→ステップS23)、目標ヨーモーメントMsを算出している(前記ステップS11)。さらに、検出した車線区分線を基準にした検出横位置X(Xe)及び検出ヨー角φr(φe)を基に(前記ステップS21→ステップS23、ステップS41→ステップS43)、減速度(目標制動液圧)を算出している(前記ステップS7、ステップS12)。
【0056】
また、破線形態の白線等であるために車線区分線の検出精度が低下している場合には、推定横位置Xeを基に(前記ステップS21→ステップS22→ステップS23)、目標ヨーモーメントMsを算出している(前記ステップS11)。さらに、推定横位置Xe及び推定ヨー角φeを基に(前記ステップS21→ステップS22→ステップS23、ステップS41→ステップS42→ステップS43)、減速度(目標制動液圧)を算出している(前記ステップS7、ステップS12)。
本実施形態では、以上のように、推定横位置Xe及び推定ヨー角φeを得ている、すなわち、車線区分線に対する自車両の横位置及びヨー角を推定している。このような推定は、車線区分線自体を推定していることと等しい。
【0057】
また、車線区分線の検出精度が低下している場合に、推定値(推定横位置Xe、推定ヨー角φe)を用いている時間、すなわち車線区分線の推定時間が所定時間経過すると、推定横位置Xeを横位置保持値tempXeに設定している(前記ステップS25)。さらに、推定ヨー角φeをヨー角保持値tempφeに設定している(前記ステップS45)。そして、その推定横位置Xe(横位置保持値tempXe)を基に、目標ヨーモーメントMsを算出している(前記ステップS11)。すなわち、一定値となる横位置保持値tempXeを基に、目標ヨーモーメントMsを算出している(前記ステップS11)。さらに、その推定横位置Xe(横位置保持値tempXe)及び推定ヨー角φe(ヨー角保持値tempφe)を基に、減速度(目標制動液圧)を算出している(前記ステップS7、ステップS12)。すなわち、一定値となる横位置保持値tempXe及びヨー角保持値tempφeを基に、減速度(目標制動液圧)を算出している(前記ステップS7、ステップS12)。これにより、車線区分線の推定期間でも、推定横位置Xeや推定ヨー角φeが変化しなくなる(制限される)。そのため、推定値(推定横位置Xe、推定ヨー角φe)又は推定した車線区分線に起因して、目標ヨーモーメントMs及び減速度(目標制動液圧)が必要以上に大きくなってしまうのを防止できる。
【0058】
また、横位置保持値tempXeやヨー角保持値tempφeよりも検出横位置Xや検出ヨー角φr(推車線区分線の検出精度が低下しているときの値)の方が大きくなっていることを条件に、それら横位置保持値tempXe等を基に、目標ヨーモーメントMs等を算出している(前記ステップS24、ステップS44)。これにより、目標ヨーモーメントMs及び減速度の算出のための値をセレクトローしている。その結果として、目標ヨーモーメントMs及び減速度(目標制動液圧)が必要以上に大きくなってしまうのを防止している。
【0059】
以上のような車線逸脱防止制御を実施している。そして、その車線逸脱防止制御を介入する判定(車線逸脱傾向の判定、減速制御判定)では、車線逸脱防止制御の制御量(目標ヨーモーメント、減速度)を算出する場合と異なり、常に検出値(検出横位置X、検出ヨー角φr)を用いている(前記ステップS6、(7)式)。すなわち、車線逸脱防止制御の介入判定と車線逸脱防止制御の制御量の算出とを異なる値を用いて行っている。具体的には、車線逸脱防止制御の介入判定を、撮像部13によるカメラ検出線を用いて行っている。これにより、推定値を用いることで車線逸脱防止制御が終了しなくなってしまうのを防止している。
【0060】
(本実施形態の変形例)
(1)この実施形態では、車線間推定時間tが所定のしきい値Tよりも大きい場合(t>T)、横位置保持値tempXeやヨー角保持値tempφeを基に目標ヨーモーメントMs及び減速度(目標制動液圧)を算出している。これに対して、所定のしきい値Tを用いることなく、車線間推定時間tに応じて、目標ヨーモーメントMs及び減速度(目標制動液圧)を算出することもできる。例えば、車線間推定時間tが長くなるほど、推定値(推定横位置Xe、推定ヨー角φe)に基づく制御量(ヨーモーメント、減速度)を小さくしていく(連続的に小さくしていく)。
【0061】
(2)車線逸脱防止制御の制御量となる目標ヨーモーメントMsや減速度(目標制動液圧)に直接制御ゲインを掛けて、その制御ゲインを補正することで、目標ヨーモーメントMsや減速度(目標制動液圧)を補正することもできる。
なお、この実施形態では、撮像部13は、車線区分線を検出する車線区分線検出手段を実現している。また、制駆動力コントロールユニット8のステップS6及びステップS10の処理は、前記車線区分線検出手段が検出した車線区分線を基に、走行車線に対する自車両の逸脱傾向を判定する車線逸脱傾向判定手段を実現している。また、制駆動力コントロールユニット8のステップS13の処理は、前記車線逸脱傾向判定手段が逸脱傾向が発生していると判定した場合、前記車線区分線検出手段が検出した車線区分線を基に、走行車線に対する自車両の逸脱を防止する車線逸脱防止制御を行う逸脱防止制御手段を実現している。また、制駆動力コントロールユニット8のステップS3〜ステップS5及びステップS7の処理は、前記車線区分線検出手段により前記車線区分線の検出精度が低下している場合、推定した車線区分線を基に、走行車線に対する自車両の逸脱を防止する車線逸脱防止制御を行う逸脱防止制御手段、及び車線区分線の検出精度が低下している時間に応じて、前記車線逸脱防止制御の制御量を小さくする補正をする制御量補正手段を実現している。
【0062】
また、この実施形態では、車線区分線検出手段が検出した車線区分線を基に、走行車線に対する自車両の逸脱傾向を判定する車線逸脱傾向判定ステップと、前記車線逸脱傾向判定ステップで逸脱傾向が発生していると判定した場合、前記車線区分線検出手段が検出した車線区分線を基に、走行車線に対する自車両の逸脱を防止する車線逸脱防止制御を行い、前記車線区分線検出手段により前記車線区分線の検出精度が低下しているときには、推定した車線区分線を基に、走行車線に対する自車両の逸脱を防止する車線逸脱防止制御する車線逸脱防止制御ステップと、前記車線区分線の検出精度が低下している時間に応じて、前記車線逸脱防止制御の制御量を小さくする補正をする制御量補正ステップと、を有する車線逸脱防止方法を実現している。
【0063】
(本実施形態における効果)
(1)逸脱防止制御手段が、車線区分線検出手段により車線区分線の検出精度が低下している場合、推定した車線区分線を基に、走行車線に対する自車両の逸脱を防止する車線逸脱防止制御を行っている。そして、制御量補正手段が、車線区分線の検出精度が低下している時間に応じて、車線逸脱防止制御の制御量を小さくする補正をしている。具体的には、車線区分線の検出精度が低下している時間が長くなるほど、車線逸脱防止制御の制御量を小さくする補正をしている。
【0064】
これにより、車線区分線の検出精度の低下に起因して車線区分線を推定する場合でも、車線逸脱防止制御の制御量(ヨーモーメント、減速度)を適切な大きさにできる。例えば、車線区分線の検出精度が低下している時間(車線区分線の推定時間)が長くなると、実際の車線区分線との間で誤差が大きくなる。例えば、自車両がカーブ路を走行している場合が挙げられる。例えば、カーブ路の内側に逸脱傾向がある場合に、車線区分線を推定するようなシーンが挙げられる。
このように実際の車線区分線との間の誤差が大きくなると、必要以上に制御量が大きくなってしまう場合がある。これに対して、車線区分線の検出精度が低下している時間に応じて、車線逸脱防止制御の制御量を小さくする補正をすることで、車線逸脱防止制御の制御量を適切な大きさにできる。
【0065】
(2)車線区分線の検出精度が低下している時間が所定時間経過した場合、車線逸脱防止制御の制御量を小さくする補正をしている。
車線区分線の検出精度が低下している時間がある程度経過した場合に、車線逸脱防止制御の制御量を小さくする補正をすることで、不用意に補正をしてしまうのを防止できる。
(3)所定時間を自車速に応じて変化させている。これにより、車両挙動に対応させて、車線逸脱防止制御の制御量を小さくできる。この結果、車両挙動に対応させて、車線逸脱防止制御の制御量を適切な大きさにできる。
【0066】
(4)自車速が大きくなるほど、所定時間を小さくしている。これにより、自車両が大きくなるほど、早期に車線逸脱防止制御の制御量を小さくできる。この結果、車両挙動に対応させて、車線逸脱防止制御の制御量を適切な大きさにできる。
(5)逸脱防止制御手段が、車線区分線検出手段が検出した車線区分線に対する自車両の走行状態の検出値を基に、走行車線に対する自車両の逸脱を防止する車線逸脱防止制御を行っている。このような場合に、制御量補正手段が、車線区分線に対する自車両の走行状態の検出値を補正することで、車線逸脱防止制御の制御量を小さくする補正をしている。
これにより、自車両の走行状態に対応させて、車線逸脱防止制御の制御量を適切な大きさにできる。
【0067】
(6)制御量補正手段が、車線区分線に対する自車両の走行状態の検出値の変化を制限することで、車線逸脱防止制御の制御量を小さくする補正をしている。
これにより、車線区分線に対する自車両の走行状態の検出値を基準に、車線逸脱防止制御の制御量を小さくする補正ができる。この結果、自車両の走行状態に対応させて最適な車線逸脱防止制御の制御量にできる。
また、逸脱防止制御手段が、車線区分線検出手段が検出した車線区分線に対する自車両の走行状態の検出値を基に、走行車線に対する自車両の逸脱を防止する車線逸脱防止制御を行っている。このような構成を前提として、その車線区分線に対する自車両の走行状態の検出値の変化を制限し、車線逸脱防止制御の制御量を小さくする補正をしている。すなわち、車線逸脱防止制御に用いている検出値を補正して、車線逸脱防止制御の制御量を補正している。
【0068】
ここで、逸脱傾向の判定をするために用いている検出値を補正し、その結果として、車線逸脱防止制御の制御量を補正することも可能である。しかし、逸脱傾向の判定をするための検出値を補正してしまうと車線逸脱防止制御が終了しなくなってしまう可能性もある。そのため、逸脱傾向の判定をするために用いている検出値を補正することなく、車線逸脱防止制御するために用いている検出値を補正することで、そのように車線逸脱防止制御が終了しなくなってしまうのを防止できる。
【0069】
(7)車線区分線に対する自車両の走行状態の検出値が、車線区分線に対する自車両の横位置及び車線区分線に対する自車両のヨー角の少なくとも何れかである。
これにより、車線区分線に対する自車両の横位置や車線区分線に対する自車両のヨー角を基準に、車線逸脱防止制御の制御量を小さくする補正ができる。この結果、自車両の横位置やヨー角に対応させて最適な車線逸脱防止制御の制御量にできる。
(8)制御量補正手段は、車線逸脱防止制御の制御ゲインを補正することで、車線逸脱防止制御の制御量を小さくする補正をしている。
これにより、車線逸脱防止制御の制御量を簡単に適切な大きさにできる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の車線逸脱防止装置を搭載した車両の実施形態を示す概略構成図である。
【図2】前記車線逸脱防止装置を構成するコントロールユニットの処理内容を示すフローチャートである。
【図3】前記コントロールユニットによる推定横位置の算出処理内容を示すフローチャートである。
【図4】自車速Vと車線間推定時間tとの関係を示す特性図である。
【図5】前記コントロールユニットによる推定ヨー角の算出処理内容を示すフローチャートである。
【図6】前記コントロールユニットによる車線逸脱傾向の判定の処理内容を示すフローチャートである。
【図7】推定横変位Xsや逸脱判定用しきい値Xの説明に使用した図である。
【図8】走行車線曲率βと減速制御判定用しきい値Xβとの関係を示す特性図である。
【図9】車速VとゲインK2との関係を示す特性図である。
【図10】車速VとゲインKgvとの関係を示す特性図である。
【符号の説明】
【0071】
6FL〜6RR ホイールシリンダ、7 制動流体圧制御部、8 制駆動力コントロールユニット、9 エンジン、12 駆動トルクコントロールユニット、13 撮像部、14 ナビゲーション装置、17 マスタシリンダ圧センサ、18 アクセル開度センサ、19 操舵角センサ、22FL〜22RR 車輪速度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車線区分線を検出する車線区分線検出手段と、
前記車線区分線検出手段が検出した車線区分線を基に、走行車線に対する自車両の逸脱傾向を判定する車線逸脱傾向判定手段と、
前記車線逸脱傾向判定手段が逸脱傾向が発生していると判定した場合、前記車線区分線検出手段が検出した車線区分線を基に、走行車線に対する自車両の逸脱を防止する車線逸脱防止制御を行う逸脱防止制御手段と、
を備え、
前記逸脱防止制御手段は、前記車線区分線検出手段により前記車線区分線の検出精度が低下している場合、推定した車線区分線を基に、走行車線に対する自車両の逸脱を防止する車線逸脱防止制御を行っており、
前記車線区分線の検出精度が低下している時間に応じて、前記車線逸脱防止制御の制御量を小さくする補正をする制御量補正手段をさらに備えることを特徴とする車線逸脱防止装置。
【請求項2】
前記車線区分線の検出精度が低下している時間が所定時間経過した場合、前記車線逸脱防止制御の制御量を小さくする補正をすることを特徴とする請求項1に記載の車線逸脱防止装置。
【請求項3】
前記所定時間は、自車速に応じて変化することを特徴とする請求項2に記載の車線逸脱防止装置。
【請求項4】
前記自車速が大きくなるほど、前記所定時間が小さくなることを特徴する請求項3に記載の車線逸脱防止装置。
【請求項5】
前記逸脱防止制御手段は、前記車線区分線検出手段が検出した車線区分線に対する自車両の走行状態の検出値を基に、前記走行車線に対する自車両の逸脱を防止する車線逸脱防止制御を行っており、
前記制御量補正手段は、前記車線区分線に対する自車両の走行状態の検出値を補正することで、前記車線逸脱防止制御の制御量を小さくする補正をすることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の車線逸脱防止装置。
【請求項6】
前記制御量補正手段は、前記車線区分線に対する自車両の走行状態の検出値の変化を制限することで、前記車線逸脱防止制御の制御量を小さくする補正をすることを特徴とする請求項5に記載の車線逸脱防止装置。
【請求項7】
前記車線区分線に対する自車両の走行状態の検出値は、前記車線区分線に対する自車両の横位置及び前記車線区分線に対する自車両のヨー角の少なくとも何れかであることを特徴とする請求項5又は6に記載の車線逸脱防止装置。
【請求項8】
前記制御量補正手段は、前記車線逸脱防止制御の制御ゲインを補正することで、前記車線逸脱防止制御の制御量を小さくする補正をすることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の車線逸脱防止装置。
【請求項9】
車線区分線検出手段が検出した車線区分線を基に、走行車線に対する自車両の逸脱傾向を判定する車線逸脱傾向判定ステップと、
前記車線逸脱傾向判定ステップで逸脱傾向が発生していると判定した場合、前記車線区分線検出手段が検出した車線区分線を基に、走行車線に対する自車両の逸脱を防止する車線逸脱防止制御を行い、前記車線区分線検出手段により前記車線区分線の検出精度が低下しているときには、推定した車線区分線を基に、走行車線に対する自車両の逸脱を防止する車線逸脱防止制御する車線逸脱防止制御ステップと、
前記車線区分線の検出精度が低下している時間に応じて、前記車線逸脱防止制御の制御量を小さくする補正をする制御量補正ステップと、
を有することを特徴とする車線逸脱防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−47214(P2010−47214A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−215295(P2008−215295)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】