説明

透明シートとその製造方法並びに防音方法

【課題】 透明で且つ多数の孔を備え、窓ガラスとの間に空気層を形成するように配置して吸音効果に優れた防音構造を形成可能な不燃性の透明シートを提供する。
【解決手段】 経糸2a、緯糸2bを備えたガラス繊維織物2に硬化性樹脂3を含浸、硬化させ、そのガラス繊維織物の経糸、緯糸で囲まれた目の中に貫通した孔4を形成して透明シート1とする。この透明シートに使用する硬化性樹脂とガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物との屈折率の差を0.02以下として、ガラス繊維織物を視認できなくすると共に透明性を付与し、アッベ数の差を30以下として着色を抑え、見栄えを良くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性及び不燃性に優れ且つ防音構造を形成するのに好適な透明シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の窓部(天窓も含む)における防音効果を増すには、一般に、窓ガラスを二重に配置した二重窓が用いられている。しかしながら、二重窓はコスト高である。そこで、低コストで防音効果を増すために、窓ガラスに、孔のあいたポリカーボネート樹脂シートを、窓ガラスとの間に隙間をあけて設け、孔から入射した音を窓ガラスとの間の空気層で減衰させ、吸音する構造が知られている。しかしながら、従来用いられている多孔シートは単なる樹脂シートであるため、透視性に問題はないが、不燃性に問題がある。
【0003】
一方、窓部に用いるものではないが、屋外用作業シートなどに用いる防音シートとして、防音、採光性(透視性)、難燃性に優れたシートが特開2003−221888号公報に提案されている。この公報に提案の防音シートは、粗目編織物からなる基布とその基布の繊維糸条表面に形成された高比重樹脂層を含んだメッシュシート基布と、そのメッシュシート基布の少なくとも1面上に形成された透明性樹脂層を有するものであり、メッシュシート基布に高比重樹脂層を用いることで防音性能を高め、メッシュシート基布を粗目の編織物に樹脂を含浸させた構造とすることで隙間(空隙)を確保し、採光性(透明性)を高め、難燃化剤を樹脂に添加することで難燃性を確保したものである。この防音シートを、窓部に用いた多孔シートに代えて用いることも考えられるが、窓部に用いるには光透過性が低過ぎ、透視性に劣る。例えば、上記公報に記載の実施例1〜5における光透過率は、12.4〜28.0の範囲内であり、これでは窓部には使用できない。
【特許文献1】特開2003−221888号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はかかる状況に鑑みてなされたもので、透明性、不燃性を備え、窓部の防音施工に有用な透明シート及びその製造方法を提供することを課題とする。また、本発明はその透明シートを用いた防音方法を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決すべくなされた本発明に係る透明シートは、ガラス繊維織物に硬化性樹脂を含浸させた構造とすると共に、その透明シート内における硬化性樹脂のガラス繊維織物に対する重量比(硬化性樹脂/ガラス繊維織物)を1/4〜1/1とし、前記硬化性樹脂の単位面積当たりの質量を20〜150g/m2 とし、前記硬化性樹脂と前記ガラス繊維織物のガラス組成物との屈折率の差を0.02以下、アッベ数の差を30以下とし、更に、前記ガラス繊維織物の経糸、緯糸によって形成される目の総数の70%以上において該目の中に、最大寸法が0.01〜0.5mmの孔を有する構成としたものである。
【0006】
ここで、前記透明シートは、全光線透過率が80%以上で、ヘーズが30%以下としておくことが好ましい。
【0007】
上記構成の透明シートを製造する本発明の製造方法は、連続的に走行している第一キャリアフィルムに未硬化の硬化性樹脂組成物を塗布する工程と、塗布された硬化性樹脂組成物にガラス繊維織物を連続的に接触させてゆく工程と、そのガラス繊維織物の前記第一キャリアフィルム側とは反対側に第二キャリアフィルムを連続的に接触させてゆく工程と、前記第一キャリアフィルム及び第二キャリアフィルムと両者に挟まれたガラス繊維織物及び硬化性樹脂組成物の全体を、ガラス繊維織物の厚さと第一キャリアフィルムの厚さと第二キャリアフィルムの厚さを合わせた全厚さTの0.6〜0.9倍の寸法Xの隙間を通して絞液する工程と、前記第一キャリアフィルムと第二キャリアフィルムでガラス繊維織物及び硬化性樹脂組成物を挟んだ状態で該硬化性樹脂組成物を硬化させる工程を有する構成とし、硬化後の硬化性樹脂とガラス繊維織物のガラス組成物との屈折率の差を0.02以下、アッベ数の差を30以下としたものである。
【0008】
本発明の防音方法は、窓ガラスに、上記した構成の透明シートを、前記窓ガラスとの間に空気層が形成されるように隙間をあけて設けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の透明シートは、ガラス繊維織物に硬化性樹脂を含浸させた構造とすると共に、その透明シート内における硬化性樹脂のガラス繊維織物に対する重量比(硬化性樹脂/ガラス繊維織物)を、1/4〜1/1とし、且つ硬化性樹脂の質量を20〜150g/m2 とし、更にこの透明シートに形成している孔の最大寸法を0.5mm以下としたことにより、建築基準法第2条九号に記載された不燃試験に合格することができ、従って、建築物における不燃材として使用可能である。また、硬化性樹脂と、ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物との屈折率の差を0.02以下としたことで、ガラス繊維織物がほとんど視認されず、シートが透明となり、更に、硬化性樹脂と、ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物とのアッベ数の差を30以下としたことで、硬化性樹脂とガラス繊維織物との界面で、可視光領域の散乱が少なくなり、着色を抑えることができる。このため、この透明シートを窓ガラスに近接して設置しても、窓ガラスの光透過性、透視性、美観等をほとんど損なうことがなく、この透明シートを窓ガラスとの間に空気層が形成されるように隙間をあけて設けることで、透明シートの孔から音が内部の空気層に入り、その空気層で減衰して吸音されるといった特性の、吸音効果に優れた防音構造を形成できる。
【0010】
ここで、透明シートの全光線透過率を80%以上、ヘーズを30%以下としておくと、優れた光透過性を与えることができ、窓部に防音構造を形成するためにその透明シートを窓ガラスに近接して設置した状態での、窓ガラスの光透過性、透視性の低下をきわめて小さく抑えることができる。
【0011】
本発明の製造方法は、第一キャリアフィルム及び第二キャリアフィルムと両者に挟まれたガラス繊維織物及び硬化性樹脂組成物の全体を、ガラス繊維織物の厚さと第一キャリアフィルムの厚さと第二キャリアフィルムの厚さを合わせた全厚さTの0.6〜0.9倍の寸法Xの隙間を通して絞液する工程を設けたことで、ガラス繊維織物の目をふさぐように付着していた未硬化の硬化性樹脂組成物に孔があき、硬化性樹脂組成物を硬化させることで、ガラス繊維織物のほとんどの目に孔があいた構造の透明シートを製造できる。このように、本発明方法は透明シートの成形時に孔を形成できるので、成形後の透明シートに対して後工程で孔あけ加工を施す必要がなく、透明シートを生産性よく製造できる。
【0012】
本発明の防音方法は、窓ガラスに、上記した構成の透明シートを、前記窓ガラスとの間に空気層が形成されるように隙間をあけて設けたことにより、透明シートの孔から音が内部の空気層に入り、その空気層で減衰して吸音されるといった特性の、吸音効果に優れた防音構造を形成でき、窓部における防音効果を大幅に増大させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1(a)、(b)は本発明の透明シートの基本性な構造を説明する概略平面図及び断面図である。透明シート1は、経糸2a、緯糸2bを有するガラス繊維織物2に硬化性樹脂3を含浸、硬化させてシート状に成形し、且つそのガラス繊維織物1の経糸2a、緯糸2bに囲まれた空隙(本明細書では目のいう)を硬化性樹脂3で完全には塞がず、その目の中に、最大寸法が0.01〜0.5mmの孔を有する構成としたものである。なお、本明細書において、孔の最大寸法とは、孔の最も大きい方向の寸法を意味するものであり、例えば、円形の孔では直径を、四角形の孔では対角線方向の寸法を、楕円形の孔では長軸上の寸法を、長い孔ではその長手方向の寸法を示している。
【0014】
ガラス繊維織物2は、透明シート1の基布となる材料である。ガラス繊維織物の素材であるガラス繊維としては、汎用の無アルカリ性ガラス繊維(Eガラス)、耐酸性の含アルカリガラス繊維(Cガラス)、高強度・高弾性率ガラス繊維(Sガラス、Tガラス等)、耐アルカリ性ガラス繊維(ARガラス)等が挙げられるが、汎用性の高い無アルカリ性ガラス繊維の使用が好ましい。ガラス繊維を構成するガラス組成物の屈折率は、含浸に用いる硬化性樹脂の屈折率との差が0.02以下とするものであるが、樹脂側の屈折率を所望のように選定できれば、ガラス組成物としては、どのような屈折率のものを用いてもよい。ガラス組成物としては、例えば、屈折率が1.4〜1.7程度のものが好ましく、1.5〜1.6のものが更に好ましい。無アルカリガラスを材料とするガラス繊維を用いた場合には、屈折率は1.55〜1.57程度となる。
【0015】
ガラス繊維織物2の織り組織としては、平織、朱子織、綾織、斜子織、畦織等が挙げられ、中でも、平織が好ましい。ガラス繊維織物中の隣接する経糸2a、2aの間の隙間及び隣接する緯糸2b、2bの間の隙間は共に、0.5mm以下が好ましく、0.2mm以下であることが更に好ましい。これは、経糸、緯糸によって形成される目の中に形成する孔4の最大寸法を0.5mm以下にするのに好適であるためである。また、隣接する経糸2a、2aの間の隙間或いは緯糸2b、2bの間の隙間を狭くすると、炎がガラス繊維織物を通過し難く利点も得られる。隣接する経糸2a、2aの間の隙間及び隣接する緯糸2b、2bの間の隙間の寸法の下限は、0.01mm以上とすることが好ましい。これよりも小さいと、ガラス繊維織物の目の中に、最大寸法が0.01mm以上の孔を形成することが困難となる。がラス繊維織物を構成するフィラメントの直径は、1〜20μmであることが好ましく、3〜12μmであることが更に好ましい。また、ガラス繊維の番手は、5〜70texが好ましく、10〜35texが更に好ましい。なお、ガラス繊維織物の目の寸法や孔の寸法は、光学顕微鏡で観察し、測定できる。
【0016】
ガラス繊維織物2は、1種類のガラス繊維で織られていてもよいし、2種類以上のガラス繊維で織られていてもよい。例えば、経糸と緯糸はガラス繊維の組成が同じであり、ガラス繊維の番手が異なっていてもよい。
【0017】
ガラス繊維織物2には、ガラス繊維シートの耐久性を向上させる目的で、ガラス繊維処理剤として通常使用されているシランカップリング剤で表面処理しておくことが好ましい。これによって、ガラス繊維織物と硬化した樹脂とを良好に接合させることができる。なお、シランカップリング剤は、各ガラス繊維の表面に少量しか付着していないので、ガラス繊維織物の光透過特性や通気度には実質上影響するものではない。
【0018】
ガラス繊維織物2には、隣接する経糸及び緯糸の隙間の寸法を小さくし過ぎることがない程度に開繊処理を施しておいてもよい。開繊処理によって、ガラス繊維織物を構成しているガラス繊維同士をばらけさせたり、ガラス繊維の断面形状を扁平化させるなどして、ガラス繊維で形成された経糸、緯糸がそれぞれ占める容積、面積範囲を増大または変形させることが可能である。開繊処理によって、ガラス繊維織物の厚さを薄くすることで、全光線透過率を高めることもできる。同時に、開繊処理によって、樹脂の含浸に適した形状に変形させることもできる。
【0019】
ガラス繊維織物に含浸、硬化させる硬化性樹脂3には、熱で硬化する熱硬化型のもの或いは紫外線等の光の照射で硬化する光硬化型のものなどを用いることができる。このような熱或いは光硬化型の樹脂は、ほぼ常温の未硬化の状態で、粘度が低く、ガラス繊維織物に含浸させやすい利点がある。
【0020】
硬化性樹脂3としては、ガラス繊維織物のガラス組成物と屈折率の差が0.02以下であるものを用いる。このように、ガラス繊維織物と硬化性樹脂の屈折率の差を、0.02以下として十分に小さくすることにより、硬化後の樹脂の中でガラス繊維織物が視認できなくなる。よって、透明シートにおいて、ガラス繊維織物と硬化性樹脂で形成された部分を透明にして、透明シートの全光線透過率を十分に高くすることができる。なお、硬化性樹脂の屈折率測定方法は、JIS K 7142の「プラスチックの屈折率測定方法」に従う。
【0021】
更に、硬化性樹脂3としては、ガラス繊維織物2中のガラス繊維を構成するガラス組成物とのアッベ数の差が30以下となるものを用いる。アッベ数の差を30以下に抑えることで、ガラス繊維織物と硬化性樹脂の界面で、可視光領域の散乱を少なくして、当該界面における着色を抑えることができる。なお、アッベ数とは、透明体の色収差を評価するための数値であり、アッベ数V=(nD −1)/(nF −nC )で表される。ここで、nD は、波長が589.2nmの光に対する屈折率であり、nF は、波長が486.1nmの光に対する屈折率であり、nC は、波長が656.3nmの光に対する屈折率である。なお、ガラス組成物のアッベ数は、特に制限がないが、例えば、35〜75の範囲であることが好ましく、50〜70の範囲であることが更に好ましい。
【0022】
硬化性樹脂3の具体例としては、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂などを用いることが好ましく、耐熱性、耐薬品性、機械的強度、硬化特性に優れている点で、ビニルエステル樹脂が更に好ましい。ガラス繊維織物に含浸させる硬化性樹脂には、難燃剤、紫外線吸収剤、充填剤、帯電防止剤などの添加物が含まれていてもよい。難燃剤としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、トリクロロエチルホスフェート、トリアリルホスフェート、ポリリン酸アンモニウム、リン酸エステルなどが挙げられる。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、シリカ、タルクなどが挙げられる。帯電防止剤としては、例えば、界面活性剤が挙げられる。これらの添加物は粒子形状であってもよく、粒子の場合には粒径が10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることが更に好ましい。粒径が小さいと、全光線透過率が低下したり、ヘーズが増加することがないからである。
【0023】
透明シート1内における硬化性樹脂3のガラス繊維織物2に対する重量比(硬化性樹脂/ガラス繊維織物)は、1/4〜1/1とする。硬化性樹脂3のガラス繊維織物2に対する重量比が、1/4未満となると樹脂量が少なくなって、ガラス繊維織物の模様が浮き出てしまう場合があり、また、含浸不良による白化が生じることもあり、更には透明性が低下する。一方、この重量比が1/1を越えると、樹脂量が多くなり、孔4を形成することが困難となり、また不燃性も低下する。
【0024】
透明シート1の単位面積当たりのガラス繊維織物2の質量は、透明シート1の強度、耐久性や樹脂の含浸性を考慮して定めるものであり、例えば、10〜300g/m2 程度とすればよく、更には、20〜150g/m2 とすることが好ましい。ガラス繊維織物の質量を20g/m2 以上とすることで、ガラス繊維シートの強度を十分に高めることができる。また、ガラス繊維織物の質量を150g/m2 以下とすることで、透明シートの単位面積当たりのガラス繊維織物の割合を少なくして、ガラス繊維織物の隙間を十分に増やし、樹脂の含浸不良を防止することができる。
【0025】
透明シート1の単位面積当たりの硬化性樹脂3の質量は、 20〜150g/m2 とする。硬化性樹脂3の質量を20g/m2 以上とすることで、ガラス繊維織物の模様が浮き出てしまったり、含浸不良により樹脂が白化して見えることを防止することができる。また、樹脂の質量を150g/m2 以下とすることで、ガラス繊維織物2の目の中に孔4を形成しやすくなり、また、透明シート1のうち比較的燃えやすい部分である樹脂の量を低く抑えて、透明シートを難燃性に優れたものとすることができる。
【0026】
透明シート1に形成する孔4は、この透明シート1を用いて形成した防音構造において、音をその孔を通して内側の空気層に導くためのものである。孔4の寸法は、音を進入させることができる範囲であれば特に制限されないが、不燃材としての認定を受けることができるよう、孔4の最大寸法が0.5mm以下とするのが良い。また、孔4の最大寸法の下限値としては、確実に孔を形成できるようにするため、0.01mmとするのがよい。孔4はガラス繊維織物の全ての目に形成しておくことが、音の進入量を多くできるので好ましいが、必ずしも全ての目に形成しなくても、目の総数の70%以上に孔があれば、かなりの吸音効果が得られる。従って、孔4はガラス繊維織物の目の総数の70%以上に孔を形成しておけばよい。
【0027】
透明シート1は、全光線透過率が80%以上であり、かつ、ヘーズが30%以下であることが好ましく、全光線透過率が90%以上であり、かつ、ヘーズが20%以下であることが更に好ましく、これらの数値範囲となるように樹脂材料を選定することが好ましい。ここで、全光線透過率及びヘーズは、シートがどの程度透明であるかを数値で示したものであり、全光線透過率が大きいほどまたヘーズが小さいほど透明性が高い。なお、ガラス繊維シートの全光線透過率の測定方法は、JIS K 7105の「プラスチックの光学的特性試験方法」、「5.5 光線透過率及び全光線反射率」に従う。また、ヘーズ測定方法は、JIS K 7105の「プラスチックの光学的特性試験方法」、「6.4 ヘーズ」に従う。
【0028】
次に、上記構成の透明シート1の製造方法を説明する。図2は透明シートの製造工程を概略的に示す工程図である。第一キャリアフィルムロール11から第一キャリアフィルム12が引き出され、ガイドローラ13、13で案内され、連続的に走行している。この走行中の第一キャリアフィルム11の上に未硬化の硬化性樹脂組成物14が塗布される。具体的には、未硬化の硬化性樹脂組成物14が吐出ノズル15から第一キャリアフィルム11の上に供給され、次いで、ドクターブレード16により硬化性樹脂組成物14が一様な厚さの層に成形され、第一キャリアフィルム11表面に塗布された状態となる。ここで、第一キャリアフィルム11の上に供給された未硬化の硬化性樹脂組成物14はドクターブレード16の前で樹脂溜まり17になっていてもよい。
【0029】
次いで、ガラス繊維織物ロール20からガラス繊維織物21が引き出され、ガイドローラ13によって屈曲させられている第一キャリアフィルム11上の未硬化の硬化性樹脂組成物層に重ねるようにして接触させられる。この際、ガラス繊維織物21に加えられる張力により、ガラス繊維織物21は硬化性樹脂組成物層に押し付けられ、そのガラス繊維織物21に未硬化の硬化性樹脂組成物が含浸する。
【0030】
一方、第二キャリアフィルムロール24から第二キャリアフィルム25が連続的に引き出されており、その第二キャリアフィルム25が、ガラス繊維織物21の第一キャリアフィルム側とは反対側に連続的に接触させられる。これにより、硬化性樹脂組成物で含浸されたガラス繊維織物21が第一キャリアフィルム12と第二キャリアフィルム25で挟まれた状態となり、その全体が一対の絞液ローラ26、27の間に通される。この絞液ローラ26、27は、両者の間に形成される隙間の寸法Xが、ガラス繊維織物21の厚さと第一キャリアフィルム12の厚さと第二キャリアフィルム25の厚さを合わせた全厚さTよりも小さく設定されている。このため、第一キャリアフィルム12と第二キャリアフィルム25で挟まれた樹脂含浸ガラス繊維織物21が絞液ローラ26、27を通過する際に、押圧され、未硬化の硬化性樹脂組成物がガラス繊維織物の経糸、緯糸内に確実に浸入すると共に過剰な硬化性樹脂組成物が絞液される。また、ガラス繊維織物21と第二キャリアフィルム25が接触する領域の手前に樹脂溜まり28が形成される。この樹脂溜まり28が存在することで、第一キャリアフィルム12と第二キャリアフィルム25の間に空気の混入することが防止され、含浸樹脂内への気泡の混入が防止される。また、絞液により、ガラス繊維織物21に付着していた硬化性樹脂組成物の一部が除去され、絞液ローラ26、27を通過した後の樹脂含浸ガラス繊維織物21では、その目を塞いでいた硬化性樹脂組成物の一部が無くなり、その部分に孔が形成される。かくして、含浸工程で同時に孔があけられる。
【0031】
ここで、絞液によって、ガラス繊維織物21の目を塞いでいた硬化性樹脂に孔をあけるために、絞液ローラ26、27の間に形成される隙間の寸法Xを、ガラス繊維織物21の厚さと第一キャリアフィルム12の厚さと第二キャリアフィルム25の厚さを合わせた全厚さTよりも小さく設定するが、その際、その寸法Xを、0.6T〜0.9Tの範囲内とするのが良い。この寸法Xが0.9Tを越えると孔の開かないことがあり、一方、0.6T未満ではガラス繊維織物の圧縮量が大き過ぎて、成形が困難となる。なお、ガラス繊維織物21の厚さ、第一キャリアフィルム12、第二キャリアフィルム25の厚さは、JIS R 3420「ガラス繊維一般試験方法」に準じて測定し、その数値を用いる。絞液ローラ26、27としては、金属ローラ、ゴムローラのいずれも用いても良いし、両者を組み合わせて用いても良い。また、絞液のために用いる手段としては、図示したように一対の絞液ローラ26、27を用いる場合に限らず、所望寸法Xの隙間を備えた他の構造のもの、例えばダイ等を用いても良い。
【0032】
絞液した後は、第一キャリアフィルム12と第二キャリアフィルム25で樹脂含浸ガラス繊維織物21を挟んだ状態で、硬化装置30を通過させ、未硬化の硬化性樹脂組成物を硬化させ、透明シートを成形する。ここで、硬化性樹脂組成物として熱硬化型のものを用いる場合には、硬化装置30は通過する樹脂含浸ガラス繊維織物21を加熱することのできる構造のものを用い、通過する未硬化の硬化性樹脂組成物を、硬化させるのに十分な時間、十分な温度に加熱する。この際、硬化装置30内の温度は一定であってもよいし、位置により温度が変化してもよい。例えば、ある一定温度で所望の時間、硬化させ、次いで、その一定温度よりも高い温度で、更に所望の時間、硬化させてもよい。硬化性樹脂組成物として光硬化型のものを用いた場合には、硬化装置30は、通過する樹脂含浸ガラス繊維織物21に紫外線等の光を照射する光照射装置を備えており、光照射によって未硬化の硬化性樹脂を硬化させる。
【0033】
その後、硬化した後の透明シートの両面から、第一キャリアフィルム21と第二キャリアフィルム25を剥がし、透明シートをロール状に巻き取る。以上により、図1に示す構造の透明シート1を連続的に製造できる。この製造方法は連続成形方式であり、しかも、樹脂含浸工程で同時に孔を形成できるので、後工程で孔あけを行う必要がなく、透明シート1をきわめて生産性良く製造できる。なお、以上に、透明シート1を連続成形方式で製造する場合を説明したが、透明シート1の製造方法はこれに限定されるものではなく、連続方式或いはバッチ方式で孔のない透明シートを成形し、その後、孔あけ加工を施しても良い。
【0034】
次に、前記した構成の透明シート1の使用例を説明する。図3(a)は、透明シート1を窓部に配置して防音構造を形成した1例を示すものである。図3(a)において、40は建築物の壁、41は窓ガラス、43は、壁40に取り付けられ、透明シート1を巻いた形態で収納した収納箱、44は透明シート1の先端に取り付けられた連結具、45はその連結具44を連結するための取り付け具であり壁40に固定されている。透明シート1は収納箱43から引き出され、その下端の連結具44を取り付け具45を連結することで、窓ガラス41との間に空気層48が形成されるように隙間をあけて配置されている。なお、透明シート1の下端を壁40に連結する構造は、図示の連結具44及び取り付け具45を用いる場合に限らず、透明シート1の下端に吸着式固定具を設け、その吸着式固定具を壁40又は窓ガラス41に吸着、固定する構成としもよい。収納箱43には、透明シート1を巻き戻す方向に引っ張るばね(図示せず)が設けられており、窓ガラス41に平行に配置された透明シート1を張った状態に保持している。
【0035】
この構成の防音構造では、透明シート1が窓ガラス41を覆うように配置されているが、透明シート1は光透過性に優れているので、窓ガラスの光透過性、透視性、美観等をほとんど損なうことがなく、また、透明シート1は不燃性を備えているので、建築物に支障なく使用できる。更に、この防音構造は多孔構造の透明シート1とその背後の空気層48を備えているので、音が、この透明シート1の孔から内部の空気層48に入り、その空気層48で減衰する。かくして、きわめて効率良く吸音することができ、優れた防音効果を発揮できる。なお、透明シート1は窓ガラス41に対して、防音すべき音源側に配置すればよく、例えば、室内の音が外部に漏れないようにするには、窓ガラス41の内側に透明シート1を配置し、室外からの音を防止したい場合には、窓ガラス41の外側に透明シート1を配置すればよい。
【0036】
図3(b)は、透明シートを用いた防音構造の他の例を示すものである。この例では、防音シート1を枠体50に貼り付け、その枠体50を吸着式固定具51によって窓ガラス41に取り付けることによって、透明シート1を窓ガラス41との間に空気層48が形成されるように隙間をあけて配置している。この構成によっても、窓ガラスの光透過性、透視性、美観等をほとんど損なうことなく、防音性能に優れた防音構造を形成できる。また、透明シート1を枠体50に貼り付けた構造は簡単で且つコンパクトであるので、種々な窓ガラスに容易に対応でき、低コストで防音構造を形成できる。更に、透明シート1は、ガラス繊維織物で補強した樹脂シートであるため寸法安定性に優れ、且つ温度変化による寸法変化が少なく、このため、枠体50に張った状態で貼り付けておくと、使用している間にしわが発生しにくく、しわによる透視性の低下を抑制できるという利点も有している。
【実施例】
【0037】
[実施例1]
以下に示す仕様のガラス繊維織物、熱硬化性樹脂を用いて、図2に示す成形方法によって透明シートを作成した。
【0038】
・ガラス繊維織物
日東紡績株式会社から販売されているガラス繊維織物(商品名 WEA116E)を使用した。
このガラス繊維織物は、日東紡績株式会社から販売されているガラス繊維、ECE225を経糸、緯糸として織ったものである。60本の経糸が25mmに含まれ、58本の緯糸が25mmに含まれる。このガラス繊維織物の質量は、105g/m2 であり、厚さは0.095mm、経糸及び緯糸の隙間の目は、一辺が0.15〜0.2mm程度の四角形である。なお、目の大きさは、光学顕微鏡で観察し測定した。
ガラス繊維、ECE225は、Eガラスからなり、フィラメント直径は約7μmである。Eガラスの屈折率は、1.558であり、アッベ数は58である。
【0039】
・熱硬化性樹脂
ガラス繊維織物に含浸させて樹脂被覆層を形成するための樹脂として、ビニルエステル樹脂を調整した。昭和高分子株式会社から販売されているビニルエステル樹脂、SSP50−C06、100重量部と、化薬アクゾ株式会社から販売されているパーカドックスP16、0.5重量部と、日本油脂株式会社から販売されているパーキュアHO、0.5重量部とをスターラーを用いて約20分攪拌した。そして、得られた混合物を約30分真空下に放置して、脱気し、未硬化の硬化性樹脂組成物を得た。
SSP50−C06の屈折率は1.558であり、アッベ数は50.5である。
【0040】
上記したガラス繊維織物、硬化性樹脂組成物を用いて図2に示す成形方法により次の操業条件で透明シートを作成した。すなわち、厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなる第一キャリアフィルム12を連続的に走行させながら、その上に硬化性樹脂組成物を塗布し、塗布した樹脂組成物上にガラス繊維織物21を重ね、更にそれに、厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなる第二キャリアフィルム25を重ね、全体を一対の絞液ローラ26、27の間に通して絞液し、その後、前段部分を100℃、後段部分を120℃に保持した硬化装置30に通し、100℃で15分間保持し、次いで120℃で10分間保持して樹脂組成物を硬化させ、透明シートを成形した。この時の絞液ローラ26、27の隙間の寸法Xは、0.12mm(=0.83T)とした。なお、Tは、ガラス繊維織物と第一及び第二キャリアフィルムの厚さの合計(=0.145mm)である。
【0041】
[比較例1]
実施例1と同一のガラス繊維織物、同一の硬化性樹脂組成物を用い、絞液ローラ26、27の隙間の寸法Xを、0.17mm(=1.17T)とした以外は実施例1と同一の操業条件で透明シートを作成した。
【0042】
[結果判定]
以上のようにして得た実施例1及び比較例1の透明シートについて、単位面積当たりの硬化樹脂の質量を測定したところ、実施例1では88g/m2 、比較例1では106g/m2 であった。また、この透明シートを、光学顕微鏡で観察し、ガラス繊維織物の目の中に孔があるか否か及びその孔の寸法を検査したところ、実施例1ではほとんどの目にほぼ四角形の孔4が生じていた。その孔の最大寸法は約0.25mmであった。一方、比較例1では、目の中に孔はほとんど生じていなかった。
【0043】
実施例1及び比較例1の樹脂シートについて、ガラス繊維織物が視認できるか否かの視認性を目視検査し、また、柔軟性を外径3cmのロールに巻き付け、巻き具合を目視で観察し、判断した。更に、全光線透過率、ヘーズを以下のようにして測定した。
・全光量透過率
全光線透過率は、JIS K 7105の「プラスチックの光学的特性試験方法」、「5.5 光線透過率及び全光線反射率」に従った。具体的には、積分球式測定装置を用いて全光線透過量を測定し、全光線透過率を求めた。
・ヘーズ
ヘーズ測定方法は、JIS K 7105の「プラスチックの光学的特性試験方法」、「6.4 ヘーズ」に従った。具体的には、積分球式測定装置を用いて拡散透過率及び全光線透過率を測定し、その比によって表した。
【0044】
その結果を表1に示す。表1より明らかように、実施例1、比較例1の透明シートは、いずれもガラス繊維織物が視認されることはなく、きわめて良好な外観を呈しており、しかも、全光線透過率が大きく且つヘーズが小さく、きわめて透明性の高いものであった。また、実施例1、比較例1の透明シートを用いて図3(a)、(b)に示す構造を形成したところ、どちらも適度な柔軟性を備えているため、作業性に優れたものであった。実施例1の透明シートは、ガラス繊維織物の目の中に孔があるため防音効果があったが、比較例1の透明シートは防音効果がほとんどなかった。
【0045】
【表1】

【0046】
以上に本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、本発明はこれらの実施の形態や実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載の範囲内で種々変更可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】(a)は本発明の実施の形態に係る透明シートの概略平面図、(b)はその透明シートの概略断面図
【図2】透明シートの製造工程を概略的に示す工程図
【図3】(a)、(b)はそれぞれ、透明シートを用いて窓部に形成した防音構造の例を示す概略断面図
【符号の説明】
【0048】
1 透明シート
2 ガラス繊維織物
2a 経糸
2b 緯糸
3 硬化性樹脂
4 孔
11 第一キャリアフィルムロール
12 第一キャリアフィルム
13 ガイドローラ
14 硬化性樹脂組成物
15 吐出ノズル
16 ドクターブレード
17 樹脂溜まり
20 ガラス繊維織物ロール
21 ガラス繊維織物
24 第二キャリアフィルムロール
25 第二キャリアフィルム
26、27 絞液ローラ
28 樹脂溜まり
30 硬化装置
40 壁
41 窓ガラス
43 収納箱
44 連結具
45 取り付け具
48 空気層
50 枠体
51 吸着式固定具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維織物に硬化性樹脂を含浸、硬化させて形成したシートであって、硬化性樹脂のガラス繊維織物に対する重量比(硬化性樹脂/ガラス繊維織物)が1/4〜1/1で、前記硬化性樹脂の単位面積当たりの質量が20〜150g/m2 であり、前記硬化性樹脂とガラス繊維織物のガラス組成物との屈折率の差が0.02以下、アッベ数の差が30以下であり、前記ガラス繊維織物の経糸、緯糸によって形成される目の総数の70%以上において該目の中に、最大寸法が0.01〜0.5mmの孔を有していることを特徴とする透明シート。
【請求項2】
全光線透過率が80%以上で、ヘーズが30%以下である請求項1記載の透明シート。
【請求項3】
連続的に走行している第一キャリアフィルムに未硬化の硬化性樹脂組成物を塗布する工程と、塗布された硬化性樹脂組成物にガラス繊維織物を連続的に接触させてゆく工程と、そのガラス繊維織物の前記第一キャリアフィルム側とは反対側に第二キャリアフィルムを連続的に接触させてゆく工程と、前記第一キャリアフィルム及び第二キャリアフィルムと両者に挟まれたガラス繊維織物及び硬化性樹脂組成物の全体を、ガラス繊維織物の厚さと第一キャリアフィルムの厚さと第二キャリアフィルムの厚さを合わせた全厚さTの0.6〜0.9倍の寸法Xの隙間を通して絞液する工程と、前記第一キャリアフィルムと第二キャリアフィルムでガラス繊維織物及び硬化性樹脂組成物を挟んだ状態で該硬化性樹脂組成物を硬化させる工程を有する透明シートの製造方法であって、硬化後の硬化性樹脂とガラス繊維織物のガラス組成物との屈折率の差が0.02以下、アッベ数の差が30以下である透明シートの製造方法。
【請求項4】
窓ガラスに、請求項1又は2記載の透明シートを、前記窓ガラスとの間に空気層が形成されるように隙間をあけて設けることを特徴とする防音方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−131654(P2007−131654A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−323119(P2005−323119)
【出願日】平成17年11月8日(2005.11.8)
【出願人】(000003975)日東紡績株式会社 (251)
【Fターム(参考)】