説明

透明導電膜つき粘土膜

【課題】フラットパネルディスプレイ、太陽電池などの電子デバイス用のフレキシブル基板材として有用な、熱安定性が高く、しかも、柔軟性及びガスバリア性に優れた透明導電膜つき粘土薄膜基板、その製造方法及び有機EL素子などを提供する。
【解決手段】透明導電膜が粘土膜上に形成されたフレキシブルな導電性フィルムであって、350℃までの耐熱性、導電性、500nmにおける光透過度が80%以上の透明性及び柔軟性を有する導電性フィルム、該導電性フィルムからなる電子デバイス用材料及び該材料を含む有機EL素子。
【効果】優れた耐熱性、ガスバリア性、透明性、フレキシブル性を有する粘土薄膜上に、高温、例えば、250℃以上で透明導電膜を形成することを可能とする透明導電膜つき粘土膜及びその製品を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電膜が粘土膜上に形成された導電性フィルム、その製造方法及び有機EL素子等に関するものであり、更に詳しくは、自立膜として利用可能な機械的強度を有し、耐熱性を有し、ガスバリア性を有した透明な粘土膜上に透明導電膜を形成したフレキシブルな導電性フィルム、その製造方法及び有機EL素子等に関するものである。
【0002】
本発明は、例えば、フラットパネルディスプレイ、太陽電池などの電子デバイス用のフレキシブル基板材の技術分野において、従来、非常にガス遮蔽性が高く、透明で、柔軟で、しかも高温条件下で用いることが可能な材料を得ることは困難であり、その開発が強く要請されていたことを踏まえて開発されたものであって、熱安定性が高く、しかも、柔軟性及びガスバリア性に優れた透明導電膜つき粘土薄膜基板、電子デバイス用材料及び有機EL素子等を提供するものである。
【背景技術】
【0003】
透明導電膜は、可視光領域での高い透明性と高い電気伝導性を併せ持つ材料であり、例えば、フラットパネルディスプレイ、太陽電池などの電子デバイスにおいて欠かすことのできない重要な部材となっている。従来、液晶ディスプレイなどの電子デバイスは、柔軟性がなく、割れやすく、また、重量が重いガラス基板上に形成されている。
【0004】
しかし、近年の電子デバイスの軽量化、薄膜化、フレキシブル化への要求から、ガラスと同等の耐熱性、透明性、ガスバリア性、線膨張係数などを有するフレキシブル基板材料上への透明導電膜の作製が強く望まれている。特に、電子デバイスの柔軟性及び軽量化の実現のために、フィルムを極力薄くすることが望まれており、また、フレキシブル基板に対しては、表面平滑性、耐薬品性、及び寸法安定性などが求められる。
【0005】
一般に、透明導電膜としては、酸化インジウム(In)、酸化スズ(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ガリウム(Ga)系の酸化物薄膜が用いられているが、その中でもスズを数パーセント添加した酸化インジウム(ITO)は、その高い電気伝導性、高い透明性及び優れたエッチング特性から広範囲に用いられている。該透明導電膜は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、ゾルゲル法あるいはCVD法などの各種の成膜方法により作製されている。
【0006】
その中でも、高周波及び直流電源を用いたマグネトロンスパッタリング法は、装置の簡便さ、成膜範囲の大面積化に優位であり、最も量産性の高い透明導電膜の成膜法である。マグネトロンスパッタリング法により特性の優れた透明導電膜を作製するためには、透明導電膜の結晶を十分に成長させるために、基板温度を250℃以上に加熱して成膜する必要がある。即ち、フレキシブル基板材料は、これらのスパッタリング条件下に耐え得る耐熱性を有することが求められている。
【0007】
フレキシブル基板としては、現在のところ、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリイミドなどの樹脂で形成された基板や、特殊なガラスエポキシ基板が用いられている。ところが、これらのプラスチック基板は、加熱により構造が変化して、弾性率、屈折率、拡散係数、誘電率などの機械的特性や電気的特性が変わるという問題が生じる。
【0008】
また、プラスチック基板は、ガラスなどの無機材料基板に比べて熱膨張係数が大きいために、成膜する透明導電膜にクラックが生じたり、基板から剥離したりといった不具合が生じる。更に、プラスチック基板は、150℃以上に加熱すると、有機物が分解して生成されるガス、有機物に吸着している水分などが放出されることから、基板温度を十分に上げられないために、特性の優れた透明導電膜が得られない。
【0009】
一方、粘土膜は、優れたフレキシビリティーを有し、粘土粒子が層状に緻密に積層している構造を有しているので、気体バリア性に優れた材料である(特許文献1参照)。また、該粘土膜は、大部分が無機物で構成されているために、高い耐熱性を有する。該粘土膜を製造するには、例えば、特に、透明性の高い無機層状化合物と、少量の透明性の高い水可溶性の高分子を、水あるいは水を主成分とする液に分散させ、ダマを含まない均一な分散液を得た後、この分散液を、表面が平坦で、表面が撥水性の支持体に塗布し、無機層状化合物粒子を沈積させる。
【0010】
次に、分散媒である液体を種々の固液分離方法、例えば、遠心分離、ろ過、真空乾燥、凍結真空乾燥又は加熱蒸発法などで分離し、膜状に成形した後、これを必要に応じ、乾燥・加熱・冷却するなどの方法により支持体から剥離することにより、無機層状化合物粒子が配向し、透明性が高く、柔軟性に優れ、ガスバリア性に優れ、耐熱性も高い無機層状化合物膜が得られる(特許文献2参照)。加えて、一般的な透明樹脂の線膨張係数は、50−70ppm K−1程度であるのに対し、粘土膜は、粘土を主成分とするため、線膨張係数が非常に小さいことが特徴である。
【0011】
【特許文献1】特開2005−104133号公報
【特許文献2】特開2005−313604号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、ガラス基板上に作製した透明導電膜と同等の特性を有し、透明で、柔軟で、しかも高温条件下で用いることが可能な導電性フィルムを開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、上記したような、優れた耐熱性、ガスバリア性、透明性、フレキシブル性を有する粘土薄膜を用いることにより、フラットパネルディスプレイ、太陽電池などの電子デバイス用のフレキシブル基板として、ガラス基板上に作製した透明導電膜と同等の特性を有する透明導電膜つき粘土膜を作製することに成功し、本発明を完成するに至った。本発明は、粘土薄膜にこれらの特性を付与し、フラットパネルディスプレイ、太陽電池などの電子デバイス用のフレキシブル基板として利用が可能な透明導電膜つき粘土薄膜基板、該電子デバイス用材料を含む有機EL素子などを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)透明導電膜が粘土膜上に形成されたフレキシブルな導電性フィルムであって、350℃までの耐熱性、導電性、500nmにおける光透過度が少なくとも80%の透明性及び柔軟性を有することを特徴とする導電性フィルム。
(2)透明導電膜が、スズドープ酸化インジウム、酸化亜鉛、又はアルミニウムドープ酸化亜鉛膜である、前記(1)に記載の導電性フィルム。
(3)スズドープ酸化インジウムの化学組成が、In1.95Sn0.05である、前記(2)に記載の導電性フィルム。
(4)透明導電膜の厚さが、100nmから1000nmである、前記(1)に記載の導電性フィルム。
(5)粘土膜が、粘土のみを含む、あるいは粘土及び添加物を含む、前記(1)に記載の導電性フィルム。
(6)粘土が、マイカ、サポナイト、モンモリロナイト、スティーブンサイト、バーミキュライト、バイデライト、又はヘクトライトである、前記(5)に記載の導電性フィルム。
(7)粘土が、水分散性あるいは有機溶剤分散性である、前記(5)に記載の導電性フィルム。
(8)添加物が、ポリアクリル酸ナトリウム、エポキシ樹脂、ポリイミド、又はポリアミドである、前記(5)に記載の導電性フィルム。
(9)粘土含有量が、少なくとも70重量パーセントである、前記(5)に記載の導電性フィルム。
(10)粘土膜の厚みが、20μmから200μmの間である、前記(1)に記載の導電性フィルム。
(11)導電性フィルムの特性として、電気抵抗率が高くても1×10−3Ωcmであり、500nmにおける光透過度が少なくとも80%であり、線膨張係数が大きくても1×10−5−1以下であり、平均表面粗さが大きくても10nm以下であり、350℃で3時間加熱後の電気抵抗率が高くても1×10−2Ωcmであり、350℃で3時間加熱後の500nmにおける光透過度が少なくとも80%である、前記(1)に記載の導電性フィルム。
(12)透明導電膜が、高周波マグネトロンスパッタリング法で形成されたものである、前記(1)に記載の導電性フィルム。
(13)前記(1)から(12)のいずれかに記載の導電性フィルムからなることを特徴とする電子デバイス用材料。
(14)前記(13)に記載の材料を含むタッチパネル。
(15)前記(13)に記載の材料を含む有機EL素子。
(16)直径32mmの曲率での繰り返し曲げが可能である、前記(15)に記載の有機EL素子。
(17)厚みが300μm以下、20μm以上である、前記(15)に記載の有機EL素子。
(18)粘土を主成分とする膜でガス封止が行われた、前記(15)に記載の有機EL素子。
【0014】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、透明導電膜が粘土膜状に形成された導電性フィルムであって、耐熱性、導電性、透明性及び柔軟性を有することを特徴とするものである。また、本発明は、上記導電性フィルムの特性として、電気抵抗率が高くても1×10−3Ωcmであり、500nmにおける光透過度が少なくとも80%であり、線膨張係数が大きくても1×10−5−1以下であり、平均表面粗さが大きくても10nmであり、350℃で3時間加熱後の電気抵抗率が高くても1×10−2Ωcmであり、350℃で3時間加熱後の500nmにおける光透過度が少なくとも80%であることを特徴とするものである。
【0015】
本発明でいう粘土薄膜とは、粘土粒子が配向して積層した構造を有する膜厚10〜200μmの膜状物であって、層間に陽イオンを含む主成分の粘土の割合が全体の50〜100重量%である、ガスバリア性に優れた、フレキシブル性を持ち合わせたものを意味する。この粘土薄膜は、公知の方法によって作製することができる。
【0016】
例えば、次のような方法によって得ることができる。(1)粘土又は粘土と添加剤を、水、有機溶剤、又は水と有機溶剤との混合溶媒よりなる分散媒に分散させ、均一な粘土分散液を調製する、(2)この分散液を静置し、粘土粒子を沈積させるとともに、分散媒である液体成分を固液分離手段で分離して粘土薄膜を形成する、(3)更に、任意に、60〜300℃の温度条件下で乾燥し、自立膜として得る。
【0017】
粘土としては、天然あるいは合成物、好適には、例えば、雲母、マイカ、バーミキュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スティーブンサイト及びノントライトのうち1種以上、更に好適には、天然スメクタイト及び合成スメクタイトの何れか、又はそれらの混合物が例示される。また、粘土を有機化して疎水性にすることができる。粘土を有機化する方法としては、イオン交換により、粘土鉱物の層間に有機化剤を導入する方法があげられる。
【0018】
例えば、有機化剤として、ジメリルジステアリルアンモニウム塩やトリメチルステアリルアンモニウム塩などの第4級アンモニウム塩や、ベンジル基やポリオキシエチレン基を有するアンモニウム塩を用いたり、フォスフォニウム塩やイミダゾリウム塩を用い、粘土のイオン交換性、例えば、モンモリロナイトの陽イオン交換性を利用して有機化することができる。
【0019】
添加剤としては、特に限定されるものではないが、好適には、例えば、イプシロンカプロラクタム、デキストリン、澱粉、セルロース系樹脂、ゼラチン、寒天、小麦粉、グルテン、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニル樹脂、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアマイド、ポリエチレンオキサイド、タンパク質、デオキシリボヌクレイン酸、リボヌクレイン酸、ポリアミノ酸、多価フェノール、安息香酸類などがあげられる。
【0020】
粘土は、水分散性あるいは有機溶剤分散性である。上記粘土分散液は、水性分散液でも良いが、粘土を有機化して疎水性にし、その有機化された粘土を有機溶剤に分散した有機溶剤系粘土分散液としても好適に用いることができる。この有機化により、粘土の有機溶剤への分散が容易になる。粘土薄膜の厚さは、粘土分散液の固液比や粘土粒子を沈積させる条件等によって、任意の厚さに制御できる。本発明で用いる粘土の粘土含有量は、70重量%以上が好適である。
【0021】
本発明の粘土薄膜基板に用いる粘土薄膜は、膜厚10〜2000μmの範囲のものである。10μmより薄いと膜の強度が弱くなり、安定した自立膜を得ることが困難となる。また、2000μmを超えると膜が曲がりにくくなり、十分なフレキシブル性を発揮できなくなる。特に好ましい膜厚は25〜200μmである。粘土薄膜基板をディスプレイに用いるためには、透明性も重要な特性の1つである。透明性を向上させるためには、不純物の少ない合成粘土鉱物を用いて粘土薄膜を形成することが望ましい。
【0022】
本発明では、上記粘土薄膜基板の片面に、更に、透明導電層を作製して電子デバイス用の透明導電膜つき粘土膜を作製することができる。具体的には、上記した粘土薄膜基板上に、酸化インジウム(In)、酸化スズ(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)、AZO(酸化亜鉛と酸化アルミニウム)やIZO(酸化インジウムと酸化亜鉛)のうち少なくとも一つを含む酸化物を主成分とする透明導電性物質を、CVD、スパッタリング法あるいはゾルゲル法などを用いて成膜する。
【0023】
それにより、基板の粘土薄膜上に透明導電層を形成して、フレキシブル性、高い透明性、ハイガスバリア性、平坦性、耐熱性、難燃性、を有するフラットパネルディスプレイ、太陽電池などの電子デバイス用の透明導電膜つき粘土膜基板を提供することができる。
【0024】
透明導電層としては、酸化インジウム(In)又はこれに酸化スズ(SnO)を3〜15重量%混合したITOの単独層とすることが好適である。その厚さは、例えば、100〜1000nmが好ましく、この範囲以内であれば電気抵抗率を1×10−3Ωcm、更には5×10−4Ωcm以下、可視光領域での光学透過率を80%以上にすることができる。この範囲を越えると、可視光透過性が低下したり、この範囲未満では、導電性等の特性が不十分となる。
【0025】
透明導電層形成は、1回の成膜であっても、複数回に分けて積層して構成しても構わない。好ましくは、単独層とすることにより、多層構造に比べて、エッチング性が向上し、高精細な回路とすることができ、更に、層間での剥離も発生しにくい。更に、粘土薄膜基板からのアルカリイオンの拡散を防ぐために、まず、粘土薄膜基板上にSiO等の薄膜を形成した後、前述した方法と同様の方法で透明導電膜を形成しても良い。
【0026】
透明導電層の作製法としては、高周波電源を用いたマグネトロンスパッタリング法を用いるのが好適である。本発明の導電性フィルムは、その導電性フィルムの特性として、電気抵抗率が高くても1×10−3Ωcmであり、500nmにおける光透過度が少なくとも80%であり、線膨張係数が大きくても1×10−5−1であり、平均表面粗さが大きくても10nm以下であり、350℃で3時間加熱後の電気抵抗率が高くても1×10−2Ωcmであり、350℃で3時間加熱後の500nmにおける光透過度が少なくとも80%であることにより特徴付けられる。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、次のような効果が奏でられる。
(1)本発明により、優れた耐熱性、導電性、透明性、フレキシブル性を有する透明導電膜つき粘土薄膜を提供することができる。
(2)本発明の透明導電膜つき粘土薄膜は、例えば、250℃を超える高温においても高い導電性及び透明性を保つ、柔軟な電子デバイス用基板などとして用いることができる
(3)本発明により、優れた耐熱性、ガスバリア性、導電性、透明性、フレキシブル性、表面平坦性を有する透明導電膜つき粘土薄膜を提供することができる。
(4)本発明の透明導電膜つき粘土薄膜は、例えば、250℃を超える高温においても高い導電性、透明性、ガスバリア性、表面平坦性を保つ、柔軟な電子デバイス用材料などとして用いることができる。
(5)上記導電性フィルムからなる電子デバイス用材料を含む直径32mmの曲率での繰り返し曲げが可能な有機EL素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
(1)粘土薄膜の製造
粘土として、0.8グラムの合成サポナイトである「スメクトン」(クニミネ工業株式会社製)を、100cmの蒸留水に加え、プラスチック製密封容器に、テフロン(登録商標)回転子とともに入れ、25℃で2時間激しく振とうし、均一な分散液を得た。この分散液に、添加物として、市販のポリアクリル酸ナトリウム塩を0.2グラム加え、激しく振とうし、合成サポナイト及びポリアクリル酸ナトリウム塩を含む均一な分散液を得た。
【0030】
次に、真空脱泡装置により、この粘土ペーストの脱気を行った。次に、この粘土ペーストを、表面が平坦なポリプロピレン製トレイに塗布した。塗布には、ステンレス製地べらを用いた。スペーサーをガイドとして利用し、均一厚の粘土ペースト膜を成型した。このトレイを強制送風式オーブン中において、60℃の温度条件下で1時間乾燥することにより、厚さ約10マイクロメートルの均一な添加物複合粘土薄膜を得た。生成した粘土膜をトレイから剥離して、透明度の高い、自立した、フレキシビリティーに優れた膜を得た。
【0031】
(2)透明導電膜の形成
透明導電膜の作製には、高周波マグネトロンスパッタリング装置を用いた。ターゲット材料には、レアメタリック社製のSnOを5wt%含むInセラミックプレートを使用した。20mm角に切り出した上記の粘土膜(厚さ100μm)を基板支持ホルダーを用いて、真空チャンバー内の基板ホルダーに設置した。
【0032】
その際に、粘土膜と基板ホルダーの間の密着性を保つために、粘土膜と基板ホルダーの間にアルミニウム及び銅の薄板を挟んだ。次に、真空チャンバー内の圧力が約5×10−4Paに達するまで、真空排気装置で排気した。また、粘土膜を基板ホルダーの背後に配置したヒーターにより約350℃に加熱した。排気後、マスフローコントローラーを用いて、流量を制御(10sccm)した放電用の酸素を3%含むアルゴンガスを真空チャンバー内に導入した。
【0033】
次に、真空チャンバー内の圧力を0.9Paに調整した後、40Wの高周波電力を印加し、約20分間ターゲット表面に吸着した水分や不純物を取り除くために、プレスパッタを行った。プレスパッタ後、ターゲットと粘土膜基板間に設置されたシャッターを開け、約15分間スパッタすることで、粘土膜基板上に透明導電膜を形成した。
【0034】
(3)透明導電膜の特性評価
作製した粘土膜及び表面に透明導電膜を形成した粘土膜のX線回折チャートを、図1に示す。これらのX線回折チャートにおいて、粘土の(001)、(002)、(020)、(004)、(006)、(060)及び(006)ピークが観測された。この結果から、粘土膜基板において、粘土層状結晶が配向して積層していることが分かる。
【0035】
更に、透明導電膜つき粘土膜におけるX線回折チャートにおいては、粘土のピークの他に、ITOの(222)ピークが観測された。このことから、粘土薄膜の表面に(111)方向に優先配向したITO結晶が成長していることが分かった。
【0036】
作製した粘土膜及び透明導電膜つき粘土膜の原子間力顕微鏡(AFM)による表面形態及び表面粗さの調査を行った。図2に、粘土膜及び透明導電膜つき粘土膜のAFMイメージを示す。透明導電膜つき粘土膜のAFMイメージにおいて、粒径が約30nmのITO粒子が顆粒状に均一に堆積している様子が観測され、表面の平均粗さは、約7nmであることが分かった。尚、堆積温度が低い場合、粘土膜の表面の平均粗さは、約3.7nmであった。ITO薄膜の表面の平均粗さは、堆積温度が上昇すると増加した。ITO薄膜を約350℃で堆積すると、表面の平均粗さは、約5.3nmから約7.7nmまで増加した。
【0037】
ITO/粘土フィルムの深さ方向の組成をXPSで調べた。エッチング率及びエッチング時間から、粘土膜上に約36nmのITO層が均一に堆積していることが分かった。この均一な層により、粘土膜上に形成したITO薄膜は、ガラス基板上に作製したそれと同等の電気抵抗率を示した。
【0038】
次に、作製した粘土膜及び表面に透明導電膜を形成した粘土膜の可視光領域における光学透過率スペクトルを図3に示す。粘土膜及び透明導電膜つき粘土膜の可視光領域における平均光学透過率は、約90%であった。また、このとき、透明導電膜つき粘土膜は、約4×10−4Ωcmの電気抵抗率を示すことが分かった。
【0039】
図4に、可視光領域における光学的透過率及び粘土薄膜の光学バンドギャップを示す。得られたフィルムは、優れたフレキシビリティー及び可視光領域での光透過性を有していることが分かる。このフィルムは、真空中350℃まで熱に安定で、高い光透過性を有しており、高温での加工を可能にしている。フィルムの線膨張係数は、ガラス基板の約3−7×10−6−1と比べて、同じように低く、約3×10−6−1である。20μm粘土薄膜フィルムの酸素ガス透過性は0.1cc/day/m/atmの測定限界より低い。
【0040】
図5に、フィルム堆積温度におけるITO薄膜の電気抵抗率と、同様にガラス基板上に形成した薄膜の電気抵抗率を比較として示す。図に示されるように、低い堆積温度で堆積したフィルムは、良好な電気伝導性を示すことができなかった。堆積温度を300℃以上に上げたときは、ITO薄膜の電気抵抗率は最小値の約4.2×10−4Ωcmまで低下した。堆積温度を上昇させると、ITOは結晶化し、インジウムイオンに置換したスズイオンによるドーピング効果が明らかになり、伝導性が向上した。このように、粘土膜の耐熱性が増えれば、より高い伝導性を有するITO薄膜を得ることができる。
【0041】
ITO薄膜の曲げ効果を調べた。ITO/粘土膜を32mmの表面曲げ半径(R)で曲げた(図6(a)の写真)。ITO薄膜は、曲げている間に、約4×10−4Ωcmの低い電気抵抗率を維持し、性能は曲げによってほとんど影響を受けなかった。図6(a)に、各種堆積温度で作製したフィルムの可視光領域における透過スペクトルを示す。堆積温度の上昇は、フィルムの透過率を促進した。室温で堆積したフィルムの平均透過率は、可視光領域の全域(400−800nm)において約80%であり、150℃以上の温度で堆積した全てのフィルムは90%以上に増加した。約350℃で堆積したフィルムの透過率は、350nmにおいてさえ比較的高い値(約60%)であった。
【0042】
図6(b)に、光子エネルギーhvの関数として、各種温度で堆積したフィルムの(αhv)プロットを示す。これらのプロットから光学バンドギャップを見積もった。一般に、ポリエチレンナフタレート(PEN)のような有機高分子フィルムからなるフレキシブル基板に堆積したITO薄膜の正確なバンドギャップを見積もることは、基板自体の光学バンドギャップがITO薄膜のバンドギャップ(3.1−3.5eV)よりも小さいので困難である。
【0043】
しかし、本発明では、粘土フィルムのバンドギャップは約5.52eVと大きいので、ITO薄膜の正確な光学バンドギャップを見積もることが可能である。350℃で形成したフィルムから3.71eVの最大の光学バンドギャップが見出された。低い電気抵抗率(約4.2×10−4Ωcm)で、高い可視光透過性(約90%、バンドギャップ:3.71eV)のITO薄膜が粘土フィルム上に達成された。
【実施例2】
【0044】
(1)粘土薄膜上への有機EL素子の作製
実施例1の方法によって得られたITO/粘土フィルムを用いて有機EL素子の作製を行った。図7に、有機EL素子の構造を示す。ここで、図7の上図において、1は粘土膜、2はITOからなる陽極、3はトリフェニルジアミン誘導体N’−diphenyl−N,N’−bis(3−methylphenyl)−1,1’−biphenyl−4,4’−diamine(TPD)からなるホール輸送層、4はアルミキノリノール錯体tri−8−hydroxyquinoline aluminium salt(Alq)からなる発光層を兼ねた電子輸送層、5はアルミニウム(Al)からなる陰極である。図7の左図及び右図は、有機EL素子にガスバリア膜を形成した例を示す。6は粘土を主成分とするガスバリア膜である。
【0045】
図7の上図に示した有機EL素子の作製方法は、以下の通りである。300℃の堆積温度で作製したITO/粘土フィルムに、TPD、Alq、Alをそれぞれ順に真空熱蒸着し、TPD及びAlqの有機薄膜をITOとAl電極で挟んだ素子を作製した。発光面積は1.2mm×1mmであった。それぞれの膜厚は、ITOが120nm、TPDが50nm、Alqが40nm、Alが200nmであった。
【0046】
(2)有機EL素子の特性評価
作製した有機EL素子には、ITO電極に正の電圧を、Al電極に負の電圧を印加したときのみ電流の出力及び発光が観測された。図8は、作製した有機EL素子の電流密度−電圧−輝度特性を示す図であり、典型的なダイオード特性を示していることが分かる。約7Vの電圧を印加することで有機EL素子の発光が観測され、約11.2Vの電圧で発光輝度が100cd/mに達した。このときの発光効率は2.6cd/Aであった。
【0047】
また、図9には、作製した有機EL素子の発光スペクトルを示す。発光スペクトルは、530nm付近に最大ピークを持ち、緑色の発光を示していることが分かった。発光スペクトルのピークの半値幅は、約85nmであった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上詳述したように、本発明は、透明導電膜つき粘土膜に係るものであり、本発明により、優れた耐熱性、導電性、透明性、フレキシブル性を有する透明導電膜つき粘土薄膜を提供することができる。本発明の透明導電膜つき粘土薄膜は、例えば、250℃を超える高温においても高い導電性及び透明性を保つ、柔軟な電子デバイス用基板などとして用いることができる。本発明は、ガラス基板上に作製した透明導電膜と同等の特性を有し、透明で、柔軟で、しかも高温条件下で用いることが可能で、フラットパネルディスプレイ、タッチパネル、太陽電池などの電子デバイス用材料として有用な導電性フィルムを提供するものとして高い技術的意義を有する。更に、本発明の透明導電膜つき粘土フィルムを用いて有機EL素子の作製を行ったところ、有機EL素子からの発光が観測され、電子デバイスへの応用が可能であることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】粘土膜及び粘土膜上に透明導電膜を形成した透明導電膜つきフィルムのX線回折チャートを示す図である。
【図2】粘土膜及び複粘土膜上に透明導電膜を形成した透明導電膜つきフィルムの可視光光学透過率スペクトルを示す図である。
【図3】粘土膜及び複粘土膜上に透明導電膜を形成した透明導電膜つきフィルムの原子間力顕微鏡イメージを示す図である。
【図4】可視光領域における光学的透過率及び粘土薄膜の光学バンドギャップを示す。
【図5】粘土膜上に堆積したITO薄膜の堆積温度による電気抵抗率を示す。
【図6】可視光領域における光学透過率(a)及び粘土膜上に堆積したITO薄膜の堆積温度による光学バンドギャップ(b)を示す。(a)中の写真は、D=32mmで曲げたフレキシブルITO/粘土フィルムを示す。
【図7】作製した有機EL素子の構造を示す。
【図8】作製した有機EL素子の電流密度−電圧−輝度特性を示す。
【図9】作製した有機EL素子の発光スペクルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明導電膜が粘土膜上に形成されたフレキシブルな導電性フィルムであって、350℃までの耐熱性、導電性、500nmにおける光透過度が少なくとも80%の透明性及び柔軟性を有することを特徴とする導電性フィルム。
【請求項2】
透明導電膜が、スズドープ酸化インジウム、酸化亜鉛、又はアルミニウムドープ酸化亜鉛膜である、請求項1に記載の導電性フィルム。
【請求項3】
スズドープ酸化インジウムの化学組成が、In1.95Sn0.05である、請求項2に記載の導電性フィルム。
【請求項4】
透明導電膜の厚さが、100nmから1000nmである、請求項1に記載の導電性フィルム。
【請求項5】
粘土膜が、粘土のみを含む、あるいは粘土及び添加物を含む、請求項1に記載の導電性フィルム。
【請求項6】
粘土が、マイカ、サポナイト、モンモリロナイト、スティーブンサイト、バーミキュライト、バイデライト、又はヘクトライトである、請求項5に記載の導電性フィルム。
【請求項7】
粘土が、水分散性あるいは有機溶剤分散性である、請求項5に記載の導電性フィルム。
【請求項8】
添加物が、ポリアクリル酸ナトリウム、エポキシ樹脂、ポリイミド、又はポリアミドである、請求項5に記載の導電性フィルム。
【請求項9】
粘土含有量が、少なくとも70重量パーセントである、請求項5に記載の導電性フィルム。
【請求項10】
粘土膜の厚みが、20μmから200μmの間である、請求項1に記載の導電性フィルム。
【請求項11】
導電性フィルムの特性として、電気抵抗率が高くても1×10−3Ωcmであり、500nmにおける光透過度が少なくとも80%であり、線膨張係数が大きくても1×10−5−1以下であり、平均表面粗さが大きくても10nm以下であり、350℃で3時間加熱後の電気抵抗率が高くても1×10−2Ωcmであり、350℃で3時間加熱後の500nmにおける光透過度が少なくとも80%である、請求項1に記載の導電性フィルム。
【請求項12】
透明導電膜が、高周波マグネトロンスパッタリング法で形成されたものである、請求項1に記載の導電性フィルム。
【請求項13】
請求項1から12のいずれかに記載の導電性フィルムからなることを特徴とする電子デバイス用材料。
【請求項14】
請求項13に記載の材料を含むタッチパネル。
【請求項15】
請求項13に記載の材料を含む有機EL素子。
【請求項16】
直径32mmの曲率での繰り返し曲げが可能である、請求項15に記載の有機EL素子。
【請求項17】
厚みが300μm以下、20μm以上である、請求項15に記載の有機EL素子。
【請求項18】
粘土を主成分とする膜でガス封止が行われた、請求項15に記載の有機EL素子。

【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−235238(P2008−235238A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−160781(P2007−160781)
【出願日】平成19年6月18日(2007.6.18)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】