説明

運転者支援装置

【課題】 前庭感覚への電気刺激を利用してバランス動作により方向を変化する乗物を運手している運転者の誘導をリアルタイムに行うことを可能にする運転者支援装置を提供する。
【解決手段】 電流指令値入力装置が、刺激目標の電流値を指示する電流指令値を運転者に備え付けられた前庭感覚刺激装置の夫々に対して供給し、前庭感覚刺激装置が、皮膚表面電極に供給する電流の基準となる電流を前記電流指令値入力装置から入力される前記電流指令値まで上昇させるときの当該電流の単位時間当たりの電流変化量を皮膚痛覚を刺激しない最大値またはそれを超えない近傍の値に制御する。そして前庭感覚へ電気刺激を与えられた運転者は、その電極の陽極方向へ体を傾けることにより、乗物のバランスを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前庭感覚への電気刺激を利用してバランス動作により方向を変化する乗物を運転する運転者を支援する運転者支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に記載されているように、平衡感覚の受容器である前庭感覚への電気刺激を利用して身体の誘導を行う電気刺激誘導装置が知られている。この電気刺激誘導装置1000の電気刺激による歩行の誘導は次のようなものである。
図9に示すように、装着者1の左耳の後ろに皮膚表面電極1001aを、右耳の後ろに皮膚表面電極1000bを設置し、電気刺激誘導装置1000の本体1002からこれらの電極間に数mA程度の微弱な電流を流すと、陽極側に向かって装着者1の前庭感覚に加速度感を生じさせることができる。すなわち、装着者1の主観的な重力の方向が傾き、電流の向きと強さに応じて装着者1の重心が揺らいで左又は右へ体が泳ぐ。皮膚への刺激が無いので装着者1は自分の体が動いた後で気が付く。
【0003】
このように左右方向への加速度感を生じさせることによって、立体動作の原点である鉛直方向感覚に傾きを生じさせることができ、これによって装着者1の立位姿勢は当人の意図的な応答によらず陽極側に傾く。この傾きを歩行中に生じさせると、図10に示すように装着者1の歩行方向は陽極側に向かって曲がって行くことになる。すなわち、図10に示すように、装着者1の左耳の後ろに設置した皮膚表面電極1001aを陽極、右耳の後ろに設置した皮膚表面電極1001bを陰極として電流を流すと、装着者1は陽極側である左方向に向かって曲がって歩いていく。装着者1の左耳の後ろに設置した皮膚表面電極1001aを陰極、右耳の後ろに設置した皮膚表面電極1001bを陽極として電流を流すと、装着者1は陽極側である右方向に向かって歩いて行く。
【0004】
上記のようにして電気刺激誘導装置1000の装着者1の歩行を誘導した事例を図11に示す。図11のグラフは、図10のz軸の方向に向けて直進しているつもりで歩いている人間の腰の位置を歩行軌跡として上方からプロットしたものである。グラフの横軸は図10のz軸方向すなわち前方への移動量、縦軸は図10のx軸方向すなわち左右方向への移動量を表す。電流量は装着者1の左耳の後ろに設置する皮膚表面電極1001aを陽極、右耳の後ろに設置する皮膚表面電極1001bを陰極とした場合をプラスの値、その逆の場合をマイナスの値で表し、電流量ごとに装着者1の歩行軌跡がプロットされている。各マークは0.5秒毎の位置を表し、電気刺激は横軸0の位置から開始した。
【0005】
図11によると、電流量がプラス側に大きくなるほど左方向への曲がり方が大きく、電流量がマイナス側に大きくなるほど右方向への曲がり方が大きくなっており、電流量に応じて装着者1の左右の加速度感の強さを制御できることを表している。この現象を利用して、装着者1の歩行を強制的な外力無しに再現性高く誘導することができる。
【0006】
上記のような電気刺激において、装着者1の皮膚痛覚が刺激され痛みを感じる場合がある。このような皮膚痛覚刺激を抑制するには高周波の交流成分を抑制すればよいとされ、一般的にはローパスフィルタによって高周波数成分を抑制した刺激信号が用いられていた。以下、図12を参照して、このような電気刺激を行う従来の電気刺激誘導装置2000の構成を説明する。
【0007】
従来の電気刺激誘導装置2000は、電流指令値(アナログ電圧)を出力する電流指令値入力装置10、この電圧に前処理を行って出力する前処理フィルタ部30、前処理フィルタ部30の出力電圧に従って1対の皮膚表面電極44へ電流を出力する定電流発生・制御装置40から構成される。なお、図9の本体1002は、これらから定電流発生・制御装置40に含まれる皮膚表面電極44を除いた部分により構成されている。
【0008】
電流指令値入力装置10は、刺激目標の電流値を指示する電流指令値を前処理フィルタ部30へ出力する。前処理フィルタ部30のローパスフィルタ(LPF)31は、入力された電圧を徐々に増加させる。ゲイン調整器32は、増幅率を調整する可変抵抗器が設けられ、入力された電圧を増幅率に従って増減して出力する。
【0009】
定電流発生・制御装置40の電源41は、一定電流を出力する。電流検出器42は、電源41から電流調整器43へ流れる電流量を検出し、検出した電流量に比例した電圧を比較器45へ出力する。比較器45は、電流検出器42が出力する電圧と前処理フィルタ部30が出力する電圧とを比較し、ハイレベル又はローレベルの電圧を出力する。例えば、電流検出器42の出力する電圧が前処理フィルタ部30の出力する電圧より小さい場合は、ハイレベルの電圧を出力し、そうでない場合はローレベルの電圧を出力する。電流調整器43は、比較器45からハイレベルの電圧が入力されたときは電流量を増加させ、ローレベルの電圧が入力されたときは電流量を減少させる。皮膚表面電極44は、左耳の後ろに設置される皮膚表面電極1001a及び右耳の後ろに設置される皮膚表面電極1001bから構成され、電流調整器43から出力された電流を装着者1に入力する。定電流発生・制御装置40は上記のような構成により、実際に流れる電流量を測定して、前処理フィルタ部30から入力される電圧に対応する電流量を達成するように電流供給を制御する。
【0010】
電気刺激誘導装置が図12に示すように構成される以前は、電流指令値入力装置10が出力する電流指令値に合わせた定電流を定電流発生・制御装置40において発生・制御し、皮膚表面電極44を通じて装着者1に刺激を与える構成であった。これに対し、上記のように構成することにより、装着者1に入力される電流量は徐々に増加して電流指令値が示す電流量に到達するので、皮膚痛覚刺激が抑制される。
【特許文献1】特開2004−254790号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここで、上述のような前庭感覚への電気刺激を利用して人の動作を誘導する、様々な仕組みが考えられるが、自転車や自動二輪車のようなバランス動作により方向を変化する乗物を運転する運転者に利用する装置がなかった。
【0012】
そこで、本発明は、前庭感覚への電気刺激を利用してバランス動作により方向を変化する乗物を運転する運転者の誘導をリアルタイムに行うことを可能にする運転者支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、電流指令値入力装置と、皮膚表面電極を介した電気刺激によって運転者の前庭感覚を刺激する複数の前庭感覚刺激装置とを備え、バランス動作により方向を変化する乗物を運転する運転者を支援する運転者支援装置において、前記電流指令値入力装置が、刺激目標の電流値を指示する電流指令値を前記前庭感覚刺激装置の夫々に対して供給する電流指令値供給手段を備え、各前記前庭感覚刺激装置が、前記皮膚表面電極に供給する電流の基準となる電流を前記電流指令値入力装置から入力される前記電流指令値まで上昇させるときの当該電流の単位時間当たりの電流変化量を皮膚痛覚を刺激しない最大値またはそれを超えない近傍の値に制御する電流変化量制御手段とを備えることを特徴とする運転者支援装置である。
【0014】
また本発明は、前記電流指令値入力装置が、障害物の検出を行う障害物検出手段と、検出された障害物の少なくとも距離と方向とに基づいて、前記障害物を回避する前記電流指令値を生成する電流指令値生成手段と、を備えることを特徴とする。
【0015】
また本発明は、前記電流指令値入力装置が、少なくとも前記乗物の車体の傾き、加速度、角速度の何れか1つまたは複数を検出するセンサ手段と、予め所定の位置における前記車体の少なくとも傾き、加速度、角速度の何れか1つまたは複数からなる規範情報を記憶する規範情報記憶手段と、前記車体の位置を検出する位置検出手段と、前記位置検出手段が検出した前記所定の位置に対応付けられて前記規範情報記憶手段で記憶している少なくとも車体の傾き、加速度、角速度の何れか1つまたは複数を読取る規範情報読取手段と、前記所定の位置において前記センサ手段で検出した情報と、前記読取った規範情報とを比較して、その差異を補正するための前記電流指令値を生成する電流指令値生成手段と、を備えることを特徴とする。
【0016】
また本発明は、前記電流指令値入力装置は、少なくとも前記乗物の車体の傾き、加速度、角速度の何れか1つまたは複数を検出するセンサ手段と、車体の方向転換の指示を受付ける方向転換指示受付手段と、前記方向転換の指示により生成される少なくとも車体の傾き、加速度、角速度何れか1つまたは複数と、前記センサ手段で検出した少なくとも車体の傾き、加速度、角速度の何れか1つまたは複数とをそれぞれ比較して、その差異に基づいて、前記方向転換の指示を受付けた時点の車体のバランスを考慮した前記電流指令値を生成する電流指令値生成手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電流指令値入力装置から同じ電流指令値を各前庭感覚刺激装置に対して入力し、各前記前庭感覚刺激装置は、電流の単位時間当たりの電流変化量を皮膚痛覚を刺激しない最大値またはそれを超えない近傍の値にしているため、誘導対象者に対して刺激を与えることがない。また前庭感覚へ電気刺激を与えることで、二輪車などの運転者へのリアルタイムな操縦方向の誘導を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の各実施の形態において使用する前庭電気刺激装置について図1を参照しつつ説明する。図1は本発明の実施の形態において用いる前庭電気刺激装置の構成を示すブロック図であり、前庭電気刺激装置100は電流変化量制御装置20と定電流発生・制御装置40とから構成されている。図1に示す前庭電気刺激装置100は、図12に示した従来の前庭電気刺激装置とは前処理フィルタ部30に代えて電流変化量制御装置20を設けた点において異なっている。この電流変化量制御装置20は、従来の図12のローパスフィルタ31による処理では刺激提示のタイミングが大きく遅れる問題を、周波数を基準とした処理ではなく、単位時間当たりの電流変化量を皮膚痛覚を刺激しない最大値またはそれを越えない近傍の値に抑える処理によって、皮膚痛覚刺激を生じさせることなく刺激が効果を奏するまでの時間の遅れを小さくするものである。なお、図1に示す電流変化量制御装置20および定電流発生・制御装置40の構成は一例であり、この構成に限定されるものではない。
【0019】
電流変化量制御装置20の定数値出力部21は、一定電圧を出力する。ゲイン調整器22は、増幅率を調整する可変抵抗器が設けられ、入力された電圧を増幅率に従って増減して出力する。この電圧は積分器24において積分され電流量を指示する値として用いられるので、ゲイン調整器22から出力され積分器24に入力される電圧は単位時間当たりの電流変化量を指示する値となる。すなわち、ゲイン調整器22の増幅率を調整することにより電流変化量を制御することができる。図13のグラフにおいて刺激入力開始時刻tにおける立ち上がり波形の電流変化量が皮膚痛覚を刺激しない最も単位時間あたりの電流量の変化の大きい部分であるので、ゲイン調整器22が出力する電圧がこの電流変化量に対応する値となるように、ゲイン調整器22の増幅率を設定する。
【0020】
比較器26は、電流指令値入力装置10が出力する電圧と積分器24が出力する電圧とを比較し、ハイレベル又はローレベルの電圧を出力する。例えば、積分器24の出力する電圧が電流指令値入力装置10の出力する電圧より小さい場合は、比較器26はハイレベルの電圧を出力し、そうでない場合はローレベルの電圧を出力する。スイッチ23は、比較器26からハイレベルの電圧が入力されたときはスイッチ23をオンにしてゲイン調整器22の出力電圧を積分器24へ入力させ、ローレベルの電圧が入力されたときはスイッチ23をオフしてゲイン調整器22の出力電圧を積分器24へ入力させない。積分器24は、ゲイン調整器22が出力する電圧を積分して出力する。すなわち、積分器24の出力電圧は時間に比例して上昇し、電流指令値に等しい値まで上昇すると、以後、その値を維持する。
【0021】
ゲイン調整器25は、増幅率を調整する可変抵抗器が設けられ、入力された電圧を増幅率に従って増減して出力する。電流指令値に等しい値に維持された積分器24の出力電圧がゲイン調整器25の増幅率に従って増減された電圧は定常目標電流量を指示する値として定電流発生・制御装置40に入力される。すなわち、ゲイン調整器25の増幅率を調整することにより定常目標電流量を制御することができる。
【0022】
電流変化量制御装置20は上記のような構成により、定常目標電流量と単位時間あたりの電流変化量を制御する。また、定電流発生・制御装置40は従来と同様に構成され、実際に流れる電流量を測定して、電流変化量制御装置20から入力される定常目標電流量と電流変化量を達成するように電流供給を制御する。
【0023】
上述した前庭電気刺激装置100による電流波形を図2のグラフにおいて破線で示す。図2のグラフは、図13のグラフに破線が追加されたものであり、この破線は前庭電気刺激装置100により装着者1に入力される電流値を示す。電流変化量制御装置20は電流指令値入力装置10が電流指令値として出力する電圧をランプ型時間応答追従特性の電圧に変換し、電流指令値に等しい電圧まで上昇させて、以後、その値を維持する。この電圧はゲイン調整器25の増幅率に従って増減して出力され、この電圧に対応する電流が定電流発生・制御装置40の皮膚表面電極44から装着者1に入力される。
【0024】
なお、電流指令値入力装置10からIより小さい刺激目標の電流値を指示する電流指令値が出力された場合は装着者1には上記より弱い刺激が与えられ、Iにより奏する効果より小さい効果を奏する。
【0025】
従来の電気刺激装置2000のローパスフィルタ31による処理において、皮膚痛覚を刺激しない最も単位時間あたりの電流量の変化の大きい部分は、刺激入力開始時刻tにおける立ち上がり波形である。これよりも急激な電流量の変化、すなわち刺激電流の時間波形をグラフに表したときに図2の斜線部分に含まれる場合には、皮膚痛覚を刺激することとなる。したがって、電流値の時間変化量を一定以下にする必要がある。図1の前庭電気刺激装置100において、ゲイン調整器22を適切に設定することにより、常にこの皮膚痛覚を刺激しない限界値となる最大の変化量で電流を制御することが可能となり、皮膚痛覚を刺激せずに最短時間であるtからtまでの時間で刺激目標の電流値Iに到達することができる。
【0026】
上述した図1の前庭電気刺激装置100を利用すれば、刺激提示してから刺激提示された人物の行動の誘導が開始されるまでの時間が短く、動作している人の誘導を行うことが可能になり、例えば、二輪車の運転時に障害物などの危険物の回避に利用することも可能になる。
【0027】
以下において、自動二輪車(または自転車や一輪車の場合も含む)を運転する操縦者の操縦方向の強い加速度刺激が加わることで、操縦すべき方向に自然に身体を傾ける現象(人間の体に備わった姿勢反射の一種)を利用して、自動二輪車の操縦を制御する手法について説明する。なお本実施形態においては自動二輪車を用いて説明するが、バランス動作により方向を変化する乗物であれば自動二輪車以外であってもよい。
【0028】
以下、本発明の第1の実施の形態における運転者支援装置について図3、図4を参照しつつ説明する。
図3は第1の実施の形態における運転者支援装置の処理概要を示す図である。
また図4は第1の実施の形態における運転者支援装置の構成を示すブロック図である。図3が示すように本実形態における運転者支援装置200は、視認困難な物体や移動中の驚異物などの障害物を避けるよう自動二輪車の操縦者へ指示する処理を行う。
図4に示す運転者支援装置200は、電流指令値入力装置210と前庭電気刺激装置220とから構成される。前庭電気刺激装置220は図1の電流変化量制御装置20と定電流発生・制御装置40とから構成され、前庭電気刺激装置220が備える1対の皮膚表面電極は、夫々、誘導対象の自動二輪車の操縦者230の左耳の後ろ、右耳の後ろに設置されている。
【0029】
また電流指令値入力装置210は、障害物検出センサ211と操縦方向判定部212とを備えている。障害物検出センサ211は自動二輪車の後方または前方に設置され、障害物を検出する。ここで障害物は、障害物検出センサ211が後方に設置されている場合には、自動二輪車の後方の車両などを検出するセンサであり、また前方に設置されている場合には、前方の障害物(例えば車両、二輪車、壁)などを検出するセンサである。この障害物検出センサ211は赤外線、超音波などの探査波を発信させ、その反射によって障害物の距離や方向を検出するものである。また障害物検出センサ211は、自動二輪車の前方または後方の何れか一方または両方に設置されていても良いし、障害物検出行う各方向に別々に設置されるようにしてもよい。
【0030】
そして操縦方向判定部212は、障害物検出センサ211より受付けた、障害物有りを示す情報と、その障害物の方向と、距離などの情報によって、自動二輪車の操縦方向を判定し、その操縦方向の方角に対応する電圧値を示す電流指令値を生成する。例えば右後方に車両が所定の閾値(距離)以上に接近している場合には、操縦方向判定部212は、右後方の障害物を検出する障害物検出センサ211から操縦者の背面垂直方向の角度を0とした場合の、右後方の角度(車両の接近してきた角度)と、車両の距離とを受付ける。そして、操縦方向判定部212は、接近してきた車両の角度と反対方向の角度へ誘導すると判定する。そして操縦方向判定部212は、操縦者が左方向へ体を傾けるように、自動二輪車の操縦者250の左耳の後ろに設置された皮膚表面電極が陽極であることを示す電流指令値を前庭電気刺激装置220へ出力する。
【0031】
前庭電気刺激装置220は、夫々、電流指令値入力装置210から入力される電流指令値に基づいて、図1および図12を用いて説明した動作を行い、操縦者に取り付けられた一対の皮膚表面電極44に電流を流す。これによって、操縦者230の自動二輪車の操縦における左方向または右方向への操縦を誘導する。
【0032】
上述したように、電流指令値入力装置210から前庭電気刺激装置220に対して、操縦者の操縦方向を誘導する電流指令値を出力するので、障害物を回避させるための操縦者の誘導を行うことが可能となる。また、前庭電気刺激装置220は、上述したように単位時間当たりの電流変化量を皮膚痛覚を刺激しない最大値またはそれを越えない近傍の値に設定しているので、皮膚痛覚刺激を生じさせることなく刺激が効果を奏するまでの時間の遅れを小さくすることができる。また、前庭感覚へ電気刺激を与えることで、自動二輪車などのバランス動作により方向を変化する乗物を運転する運転者へのリアルタイムな操縦方向の誘導を行うことができる。
【0033】
以下、本発明の第2の実施の形態における運転者支援装置について図5、図6を参照しつつ説明する。
図5は第2の実施の形態における運転者支援装置の処理概要を示す図である。
また図6は第2の実施の形態における運転者支援装置の構成を示すブロック図である。図5が示すように本実形態における運転者支援装置200は、熟練者が自動二輪車を運転した際の自動二輪車に設置された各種センサが取得したデータに基づいて、訓練者へ自動二輪車の運転における熟練者との差異を通知する処理を行う。
図6に示す運転者支援装置200は、電流指令値入力装置240と前庭電気刺激装置220とから構成される。前庭電気刺激装置220は図1の電流変化量制御装置20と定電流発生・制御装置40とから構成され、前庭電気刺激装置220が備える1対の皮膚表面電極は、夫々、誘導対象の自動二輪車の操縦者230の左耳の後ろ、右耳の後ろに設置されている。
【0034】
また電流指令値入力装置240は、熟練者データベース241、加速度センサ242、ジャイロセンサ243、姿勢センサ244、位置センサ245、操縦方向判定部246、を備えている。ここで、熟練者データベース241は熟練者が自動二輪車を運転した際の各種センサによって取得されたデータを記憶している。例えば、この熟練者データベース241にはレーシングサーキット場を熟練者が自動二輪車で走行した際の各種センサで取得した情報が記憶されている。各種センサとは、上記加速度センサ242、ジャイロセンサ243、姿勢センサ244、位置センサ245であり、これらは自動二輪車に設置されている。
【0035】
また加速度センサ242は、所定のタイミング(例えば位置センサ245が移動距離5mおきに信号を出力するタイミングなど)ごとに自動二輪車の加速度を検出して操縦方向判定部246に通知する。またジャイロセンサ243は、上記所定のタイミングごとに、自動二輪車の角速度(例えば地上に対して垂直方向を0度とする)を検出して操縦方向判定部246に通知する。また姿勢センサ244は例えば、上記所定のタイミングごとに、体の傾きなどを検出する。また位置センサ245は上記所定のタイミングごとに、自動二輪車の位置を検出する。そして、操縦方向判定部246は、上記各種センサによって検出された情報と、熟練者データベース241に記録されている情報とを比較して、操縦者230の自動二輪車の操縦における左方向または右方向への操縦を誘導する。
【0036】
次に熟練者データベースの記憶する情報について説明する。
熟練者データベース241は、予め熟練者が自動二輪車を操縦してレーシングサーキット場を走行した際の、各種センサの検出した情報を記憶している。例えば、位置センサ245は、熟練者の操縦により自動二輪車がレーシングサーキット場を走行すると、そのスタート地点からの移動距離を検出する。例えば、自動二輪車に設置された距離メータから出力されるスタート地点からの距離を検出し、所定の距離ごとに(例えば5メータごとに)信号のクロックを出力する。また、各種センサは位置センサ245が出力したクロック信号に応じて、検出した値を出力する。そして、移動距離ごとに各種センサを記録したデータが熟練者データベース241に格納される。なお、位置センサ245は、例えばGPSから受信した信号に基づいて自動二輪車の位置(座標)検出するようにしても良いし、また、サーキット場の各地点に設置された発信装置から発信される赤外線や音波などの電磁波の信号を受けることにより、その発信装置の位置に到達したことを検出するといった方法により自動二輪車の位置を検出するようにしてもよい。
【0037】
次に、本実施形態により運転者支援装置の処理について説明する。
まず、訓練者が自動二輪車を操縦してレーシングサーキットのスタート位置からスタートすると、そのスタートと同時に位置センサ245は距離メータから出力される移動距離を受信し、5mおきにクロック信号を出力する。加速度センサ245、ジャイロセンサ243、姿勢センサ244のそれぞれのセンサは、位置センサ245からクロック信号を受付けると、そのクロック信号を受付けることを契機に、それぞれが検出した情報(加速度、角速度、体の傾き)を操縦方向判定部246に出力する。
【0038】
操縦方向判定部246は、位置センサ246から出力されるクロック信号を受付けるごとに、移動距離に対応して訓練者データベース241に記録されている各種情報(加速度、角速度、体の傾き)を読み出す。そして、操縦判定部246は、各種センサから受付けた値と、熟練者データベース241から取得した値とを比較して、その差異を算出する。そして、操縦方向判定部246は、加速度、角速度、体の傾きの差の値に応じて、自動二輪車の方向を制御するための電流指令値を生成する。そして、操縦方向判定部246は、自動二輪車の操縦者230の左耳または右耳の後ろに設置されたいずれかの皮膚表面電極が陽極であることを示す電流指令値を前庭電気刺激装置220へ出力する。
【0039】
前庭電気刺激装置220は、夫々、電流指令値入力装置240から入力される電流指令値に基づいて、図1および図12を用いて説明した動作を行い、操縦者(訓練者)に取り付けられた一対の皮膚表面電極44に電流を流す。これによって、操縦者230の自動二輪車の操縦における左方向または右方向への操縦を誘導する。
【0040】
上述したように、電流指令値入力装置240から前庭電気刺激装置220に対して、操縦者(訓練者)230の操縦方向を誘導する電流指令値を出力するので、訓練者は、熟練者のレーシングサーキット場での高速走行時の姿勢や、自動二輪車の車体の加速度や傾きを直感的に体験することができる。またこのような手法により、レーシングサーキット場等における練習に際しての、ライントレース・ライトポジション訓練などを行うことができる。
【0041】
以下、本発明の第3の実施の形態における運転者支援装置について図7、図8を参照しつつ説明する。
図7は第3の実施の形態における運転者支援装置の処理概要を示す図である。
また図8は第3の実施の形態における運転者支援装置の構成を示すブロック図である。図7が示すように本実形態における運転者支援装置200は、カーナビゲーション装置を備えており、自動二輪車の車体の角度やハンドルの角度を考慮して、操縦者の自動二輪車の操縦を誘導する処理を行う。
図8に示す運転者支援装置200は、電流指令値入力装置250と前庭電気刺激装置220とから構成される。前庭電気刺激装置220は図1の電流変化量制御装置20と定電流発生・制御装置40とから構成され、前庭電気刺激装置220が備える1対の皮膚表面電極は、夫々、誘導対象の自動二輪車の操縦者230の左耳の後ろ、右耳の後ろに設置されている。
【0042】
また電流指令値入力装置250は、ナビゲーション装置251、加速度センサ252、ジャイロセンサ253、姿勢センサ254、位置センサ255、操縦方向判定部256、を備えている。ここで、ナビゲーション装置251は、地図データとGPS装置によって取得した自動二輪車の座標とに基づいて、地図上における現在位置特定し、予め設定された道路の走行経路に応じて交差点などに差しかかった際の走行方向を通知する処理を行う。なお上記加速度センサ252、ジャイロセンサ253、姿勢センサ254、位置センサ255は、自動二輪車に設置されている。
【0043】
加速度センサ252は、所定のタイミングごとに自動二輪車の加速度を検出して操縦方向判定部256に通知する。またジャイロセンサ253は、上記所定のタイミングごとに、自動二輪車の角速度(例えば地上に対して垂直方向を0度とする)を検出して操縦方向判定部256に通知する。また姿勢センサ254は例えば、上記所定のタイミングごとに、体の傾きなどを検出する。また位置センサ255は上記所定のタイミングごとに、自動二輪車の位置を検出する。そして、操縦方向判定部256は、ナビゲーション装置251から受付けた情報と、各種センサによって検出された情報を用いて、操縦者230の自動二輪車の操縦における左方向または右方向への操縦を誘導する。
【0044】
次に、本実施形態により運転者支援装置の処理について説明する。
まず、センサ操縦者230が自動二輪車の運転を開始すると、ナビゲーション装置251が、入力された目的地や現在地から地図上の道路における移動経路を検出する。そして、位置センサ255(例えばGPS装置)から受付けた座標に基づいて地図上の現在位置を把握する。次にナビゲーション装置251は、移動経路上において、道路を左折(または右折)する場合には、左折(または右折)の情報(例えば左折前の直進方向を0度とした際の左折の角度)を操縦方向判定部256へ通知する。
【0045】
次に、操縦方向判定部256は、ナビゲーション装置251から通知を受けた情報の各種センサから受付けた情報とを比較する。そして、ナビゲーション装置251から受付けた情報に基づいて算出された車体の加速度、角速度と、体の傾きと、実際にセンサから受け付けた車体の加速度、角速度、体の傾きとの差異を算出し、その差異の分だけ、加速度、角速度、体の傾きを増加または減少させるための電流指令値を生成する。そして、操縦方向判定部256は、自動二輪車の操縦者230の左耳または右耳の後ろに設置されたいずれかの皮膚表面電極が陽極であることを示す電流指令値を前庭電気刺激装置220へ出力する。
【0046】
前庭電気刺激装置220は、夫々、電流指令値入力装置250から入力される電流指令値に基づいて、図1および図12を用いて説明した動作を行い、操縦者に取り付けられた一対の皮膚表面電極44に電流を流す。これによって、操縦者230の自動二輪車の操縦における左方向または右方向への操縦を誘導する。
【0047】
上述したように、電流指令値入力装置250から前庭電気刺激装置220に対して、既に車体が加速度や傾きを増加または減少させている際や、体を傾ける際に、ナビゲーション装置251から出力される情報によって、同一の方向にさらに加速度や傾きを増加または減少させる情報を出力してバランスを失う危険性を減少させる処理を行う。これにより、角に加速度感や傾きの度合が大きく(または小さく)ならないように補正して前庭刺激を行うことで、操縦者のバランスを崩すことなく操縦の誘導をすることができる。
【0048】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更が可能なものである。
【0049】
尚、上述した各処理部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより上記各種処理を行ってもよい。尚、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)を備えたWWWシステムも含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。更に「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0050】
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。更に、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施の形態に用いる前庭電気刺激装置の構成を示すブロック図。
【図2】図1の前庭電気刺激装置による電流波形を示すグラフである。
【図3】第1の実施形態における運転者支援装置の処理概要を示す図である。
【図4】第1の実施形態における運転者支援装置の構成を示すブロック図である。
【図5】第2の実施形態における運転者支援装置の処理概要を示す図である。
【図6】第2の実施形態における運転者支援装置の構成を示すブロック図である。
【図7】第3の実施形態における運転者支援装置の処理概要を示す図である。
【図8】第3の実施形態における運転者支援装置の構成を示すブロック図である。
【図9】従来の電気刺激誘導装置の装着例を示す図。
【図10】図9の電気刺激誘導装置による電流の極性と歩行方向の関係を示す図。
【図11】図9の電気刺激誘導装置を用いた歩行誘導における歩行軌跡を示すグラフ。
【図12】従来の電気刺激誘導装置の構成を示すブロック図。
【図13】図12の電気刺激誘導装置による電流波形を示すグラフ。
【符号の説明】
【0052】
200…運転者支援装置
210、240、250…電流指令値入力装置
220…前庭電気刺激装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流指令値入力装置と、皮膚表面電極を介した電気刺激によって運転者の前庭感覚を刺激する複数の前庭感覚刺激装置とを備え、バランス動作により方向を変化する乗物を運転する運転者を支援する運転者支援装置において、
前記電流指令値入力装置が、
刺激目標の電流値を指示する電流指令値を前記前庭感覚刺激装置の夫々に対して供給する電流指令値供給手段を備え、
各前記前庭感覚刺激装置が、
前記皮膚表面電極に供給する電流の基準となる電流を前記電流指令値入力装置から入力される前記電流指令値まで上昇させるときの当該電流の単位時間当たりの電流変化量を皮膚痛覚を刺激しない最大値またはそれを超えない近傍の値に制御する電流変化量制御手段とを備える
ことを特徴とする運転者支援装置。
【請求項2】
前記電流指令値入力装置は、
障害物の検出を行う障害物検出手段と、
検出された障害物の少なくとも距離と方向とに基づいて、前記障害物を回避する前記電流指令値を生成する電流指令値生成手段と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の運転者支援装置。
【請求項3】
前記電流指令値入力装置は、
少なくとも前記乗物の車体の傾き、加速度、角速度の何れか1つまたは複数を検出するセンサ手段と、
予め所定の位置における前記車体の少なくとも傾き、加速度、角速度の何れか1つまたは複数からなる規範情報を記憶する規範情報記憶手段と、
前記車体の位置を検出する位置検出手段と、
前記位置検出手段が検出した前記所定の位置に対応付けられて前記規範情報記憶手段で記憶している少なくとも車体の傾き、加速度、角速度の何れか1つまたは複数を読取る規範情報読取手段と、
前記所定の位置において前記センサ手段で検出した情報と、前記読取った規範情報とを比較して、その差異を補正するための前記電流指令値を生成する電流指令値生成手段と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の運転者支援装置。
【請求項4】
前記電流指令値入力装置は、
少なくとも前記乗物の車体の傾き、加速度、角速度の何れか1つまたは複数を検出するセンサ手段と、
車体の方向転換の指示を受付ける方向転換指示受付手段と、
前記方向転換の指示により生成される少なくとも車体の傾き、加速度、角速度何れか1つまたは複数と、前記センサ手段で検出した少なくとも車体の傾き、加速度、角速度の何れか1つまたは複数とをそれぞれ比較して、その差異に基づいて、前記方向転換の指示を受付けた時点の車体のバランスを考慮した前記電流指令値を生成する電流指令値生成手段と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の運転者支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−298012(P2006−298012A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−118753(P2005−118753)
【出願日】平成17年4月15日(2005.4.15)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】