説明

酸化マグネシウム薄膜の製造方法

【課題】結晶性に優れたMgO薄膜の製造方法を提供すること。
【解決手段】MgO薄膜の製造方法は、加熱工程と堆積工程からなる、強磁性体上へのMgO薄膜の製造方法であり、前記加熱工程は、200℃以上の温度において実施され、前記堆積工程は、MgOとMgFからなるターゲットをスパッタリングすることにより実施され、前記ターゲットにおいて、前記MgOに対する前記MgFの概算仕込み量が、2.3原子パーセント以上、7.0原子パーセント以下であることを特徴とする。本構成により、(100)配向かつ結晶性に優れたMgO薄膜を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル磁気抵抗素子のバリア膜として用いられる結晶性に優れた酸化マグネシウム薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ランダムアクセスメモリーの記憶素子や磁気ヘッドの高感度センサとしてトンネル磁気抵抗(Tunnel Magneto−Resistance:以下、TMR)素子が注目されている。TMR素子は、二つの強磁性体層によって極薄のトンネルバリア層が挟まれた構造となっており、二つの強磁性体層の磁化の方向により、素子の抵抗値が大きく変化する。このとき、二つの強磁性体層の磁化の方向が半平行状態の時の抵抗値をRa、平行状態の時の抵抗値をRpと規定すると、その変化率(Ra−Rp)/Rpは、磁気抵抗比(以下、MR比)と呼ばれる。TMR素子の性能はこのMR比で決定され、様々なデバイス応用に向け、MR比の向上が求められている。
【0003】
TMR素子のMR比は、トンネルバリア層の材料に大きく依存する。現在トンネルバリア層には、主に(100)配向した酸化マグネシウム(以下、MgO)薄膜が用いられており、CoFeBなどの強磁性体薄膜上にスパッタリング法を用いて形成されている。
【0004】
(100)配向した単結晶MgOを用いたTMR素子は、理論計算において1000%以上の大きなMR比を得られることが予測されている。しかし前記のスパッタリング法により形成されたMgO薄膜は、多結晶体であり結晶粒界等の影響が大きいために、これを用いたTMR素子では上記のような大きなMR比は得られていない。より大きなMR比を持つTMR素子を実現するためには、結晶粒界の数を減らすためにドメインサイズが大きくし、かつ結晶中に不純物の少ない結晶性に優れたMgO薄膜の実現が求められていた。
【0005】
従来の結晶性に優れたMgO薄膜の製造方法としては、酸化性ガスに対するゲッタリング効果がMgOをよりも高い金属を、MgO成膜前に成膜室内部の構成部材に付着させ、その後MgOを成膜するものがあった(例えば、特許文献1および非特許文献1参照)。特許文献1および非特許文献1では、ゲッタリング効果が高い金属により酸素や水などの酸化性ガスを除去し、MgO薄膜の成膜を残留ガスが少ない状態において実施することにより、MgO薄膜の結晶性を向上させることができるとしている。
【0006】
また、結晶性に優れたMgO薄膜の別の製造方法としては、成膜前に成膜室を高温でベーキングし、その後MgOを成膜するものがあった(非特許文献2参照)。成膜室を100℃以上の温度において長時間ベーキングすると、成膜室内の壁面に付着している水分を減少させることができ、したがってMgOの成膜中に取り込まれる水分も減り、MgO薄膜の結晶性を向上させることができるとしている。
【0007】
また、マグネシウム(以下、Mg)を酸化してMgO薄膜を形成する際に、フッ素を含む雰囲気中で酸化することにより、MgO薄膜の特性改善を試みているものがあった(非特許文献3参照)。非特許文献3では、Mg薄膜を酸素プラズマを用いて酸化させる際に、プラズマ中にテフロン(登録商標)リングを挿入することによりフッ素を発生させ、そのフッ素によりMgO薄膜のバリア特性の改善を試みている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−266584号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Yoshinori Nagamine他、“Ultralow resistance−area product of 0.4 Ωcm2 and high magnetroresistance above 50% inCoFeB/MgO/CoFeB magnetic tunnel junctions”、Applied Physics Letters、Vol.89、2006、p.1625071−1625073
【非特許文献2】Se Young O他、“X−ray Diffraction study of the Optimization of MgO growth conditions for magnetic tunnel junctions”、Journal of Applied Physics、Vol.103、2008、pp.07A920−07A923
【非特許文献3】Jun Hyung Kwon他、“Effect of F−inclusion in nm−thick MgO barrier”、Current Applied Physics、Vol.9、2009、pp.788−791
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1、非特許文献1および非特許文献2に示されているMgO薄膜の製造方法は、MgO成膜中に取り込まれる不純物を減らす効果はあるが、MgO結晶成長そのものを促進するものではない。そのため、これらの従来例に記載されているMgO薄膜の製造方法を用いても、製造できるMgOの結晶性には限界があった。実際、上記の方法を用いて50nmの厚さのMgO薄膜を製造したところ、得られたMgO薄膜は、X線回折(X−Ray Diffraction、以下XRD)におけるMgO(200)面のピーク高さは128カウント毎秒(以下、cps)、半値幅は2、44°程度であり、結晶性として十分なものではなかった。
【0011】
また、非特許文献3に示されているMgO薄膜の製造方法では、フッ素を添加することにより酸化のプロセスが変化しているが、得られたMgO結晶の特性を改善する効果は得られない。実際に、非特許文献3では、フッ素を含む雰囲気で酸化を実施しても、フッ素を含まないときと比較してバリア高さはほとんど変化していない。MgO薄膜の結晶性については記載されていないが、上記の結果から考えると、ほとんど変化していないものと推測される。
【0012】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、ドメインサイズが大きく、結晶性に優れたMgO薄膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記従来の課題を解決するために、本発明のMgO薄膜の製造方法は、加熱工程と堆積工程からなる、強磁性体上へのMgO薄膜の製造方法であり、前記加熱工程は、200℃以上の温度において実施され、前記堆積工程は、MgOとMgFからなるターゲットをスパッタリングすることにより実施され、前記ターゲットにおいて、前記MgOに対する前記MgFの概算仕込み量が、2.3原子パーセント以上、7.0原子パーセント以下であることを特徴とする。本構成により、(100)配向かつ結晶性に優れたMgO薄膜を製造することができる。
【0014】
また、前記強磁性体が、Co、Fe、Bを主成分とする非晶質構造の強磁性体であることを特徴とする、MgO薄膜の製造方法でも良い。本構成により、TMR素子のバリア膜として使用可能な結晶性に優れたMgO薄膜を実現することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のMgO薄膜の製造方法では、MgO薄膜中に微量のフッ素を添加することができ、そのフッ素の効果により、ドメインサイズが大きく結晶性に優れたMgO薄膜を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態1におけるMgO薄膜の製造工程のフローチャート
【図2】本発明の実施の形態1におけるMgO薄膜の堆積工程の一例を示す図
【図3】本発明の実施の形態1における製造されたMgO薄膜中に含有されるフッ素量の、概算MgF仕込み量依存性を示す図
【図4】本発明の実施例1におけるMgO薄膜のXRDピーク高さと半値幅の、概算MgF仕込み量依存性を示す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0018】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1におけるMgO薄膜の製造方法のフローチャートである。図1に示すように、本実施の形態1のMgO薄膜の製造方法は、下地となる「強磁性体膜の成膜工程」と、「基板の加熱工程」および「MgO薄膜の堆積工程」からなり、全工程が大気にさらすことなく連続して実施される。上記工程により、強磁性体膜上に従来よりも結晶性に優れたMgO薄膜を製造することができる。以下、上述の各工程について詳細を述べる。
【0019】
始めに強磁性体膜の成膜工程について述べる。強磁性体膜の成膜手法としては、スパッタリング法を用いることができる。このとき強磁性体膜の組成は特に限定されないが、TMR素子を実現する上ではアモルファス構造であるCoFeBが望ましい。また強磁性体膜を成膜するための基板としては、Si、SiO、SiNなど、一般的な基板を使用することが可能である。
【0020】
次に基板の加熱工程について述べる。基板の加熱工程は、下地が成膜された基板を、直接的あるいは間接的な手法を用いてMgOの堆積温度まで上昇させる工程である。本実施の形態1における基板加熱を行うためのヒーターは、ランプヒーターや抵抗線による加熱など、外部からの制御により一定温度を保つことが可能な方法であれば、どのようなヒーターを用いてもよい。
【0021】
このとき、加熱温度は200度以上にすることが必要である。200度以下の場合には、フッ素を添加してもMgOの結晶性を向上させる効果は得られない。また加熱温度は200度以上なら良いが、CoFeBを結晶化せずアモルファス状態のまま維持するためには、温度を上げすぎないことが望ましく、具体的には350度以下にすることが望ましい。
【0022】
次にMgO薄膜の堆積工程について述べる。図2は、本実施の形態1におけるMgO薄膜の堆積方法を示した図である。図2に示すように、ヒーター12を用いて加熱された基板11に対し、MgOを主成分とする第一のターゲット13とMgO中にフッ化マグネシウム(以下。MgF)を含有する第二のターゲット14を同時にスパッタリングすることにより、フッ素を含有したMgO膜を基板上に堆積している。
【0023】
このとき、第一のターゲット13としては、単結晶MgOターゲットや焼結体MgOターゲットなどを使用することが可能である。また、第二のターゲットとしては、MgOとMgFの粉体を混合して焼結したターゲットやMgO上にMgFのチップを貼り付けたターゲットなどを使用することが可能である。
【0024】
このとき、第二のターゲット中のMgFの仕込み量を制御することにより、MgO薄膜中に含有させるフッ素量を制御することが可能である。また、第一ターゲットと第二のターゲットの成膜レート比を制御することにより、概算MgF仕込み量を制御することが可能である。
【0025】
ここで概算仕込み量とは、同時にスパッタされている二つのターゲットを、一つのターゲットと仮定した時の、目的とする成分の仕込み量の概算値のことである。この概算仕込み量は、それぞれのターゲットの組成と成膜レート比から概算することができる。本実施の形態1では、第二のターゲットにおけるMgFの仕込み量と、同時スパッタリング時の成膜レートに対する第二のターゲット単体での成膜レートの割合を掛けることにより、概算MgF仕込み量を計算している。
【0026】
このとき、概算MgF仕込み量と、実際のMgO薄膜中に含有されているフッ素の量は図3に示すような線形関係にあり、この概算MgF仕込み量を制御することにより、MgO薄膜中のフッ素含有量を制御することが可能である。
【0027】
なお、本実施の形態1において得られたMgO薄膜中のフッ素含有量は、二次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectrometry、以下SIMS)を用いることで定量することができる。フッ素を含有していないMgO薄膜にフッ素イオンビームを規定量打ち込んだものをリファレンス試料とし、このリファレンス試料と製造したMgO薄膜のSIMS測定結果を比較することにより、フッ素の添加量を定量することが可能である。
【0028】
通常、MgOなどの薄膜形成時にフッ素などの異物を混入させると、混入した分だけ結晶性は低下する。しかしながら我々は鋭意検討を進めた結果、基板を加熱したうえで、概算MgF仕込み量が2.3原子パーセント(以下、at.%)以上、6.9at.%以下の範囲となるターゲットを用いてスパッタリングした場合において、MgO薄膜中に極微量のフッ素が含有され、通常とは逆に結晶性が向上することを見出した。概算MgF仕込み量の最適な範囲の導出については、後述の実施例の中で記載する。
【0029】
本実施の形態1に示したMgO薄膜の製造方法において、フッ素を添加することによりMgO薄膜の結晶性が向上する理由については、詳細は不明であるが、「フッ素により、磁性体表面の塗れ性が変化し、MgO結晶の核形成確率や成長モードが変化したこと」や「フッ素により、結晶成長の阻害要因となっていた物質、例えば水酸化マグネシウムが分解・除去されたこと」などが結晶性向上に繋がったのではないかと推測される。
【0030】
また、フッ素添加時においてもMgO薄膜は高い結晶性が得られていることから、フッ素はMgO結晶中に含有されているのではなく、結晶粒界においてMgFとなって残留しているものと推察される。MgFはMgOよりもバンドギャップが大きいことから、TMR素子のリーク要因とはならず、TMR素子のMR比を低下させる要因にはならないものと考えられる。
【0031】
なお、本実施の形態1のスパッタリング法において、放電の際に用いられるガス種としては、アルゴン、ヘリウム、キセノンなどのマグネシウムと化合物を形成しないものであれば、問題なく使用することができる。
【0032】
(実施例1)
以下、実施例を用いて、本実施の形態1を詳しく説明する。
【0033】
始めに実施例1−1として、概算MgF仕込み量を2.3at.%としたときの、MgO薄膜の製造について述べる。
【0034】
本実施例1−1では、基板として(100)配向したSiウェハの表面に酸化膜を形成したものを用いた。基板の大きさは30mm角、厚さは0.5mmであった。また、基板の表面の酸化膜は、熱酸化法により形成され、その厚さは約100nmであった。
【0035】
前記基板に対しDC/RFスパッタリング装置(アルバック社製)を用いてCoFeBを成膜した。成膜条件を表1に条件(1)として記載する。ターゲットとして使用したCoFeBの組成は、Co:40at.%、Fe:40at.%、B:20at.%であった。上記組成のCoFeBを使用して基板上に得られた膜はアモルファス構造であった。またCoFeBの成膜前には、非特許文献2で示されているように、水分を除去するのに十分な高温(120℃)で50時間のベーキングを実施し、成膜室内の水成分を除去している。
【0036】
【表1】

【0037】
表1(1)の成膜条件において約30秒間成膜を行い、基板上に3.0nmのアモルファスCoFeB膜を形成した。
【0038】
次に基板の加熱を実施した。基板の加熱は5×10−6Pa以下の真空中において、ランプヒーターを用いて実施し、基板表面の温度を200℃まで上昇させた。
【0039】
基板を加熱した後、連続してMgO薄膜の成膜を行った。なお、MgO薄膜の成膜前には特許文献1で示されているように、AlもしくはBを含む物質を成膜室内の部材に付着させ、ゲッタリングによる酸化性ガスの除去を実施した。このとき四重極型質量分析計を用いて、ゲッタリング前後の気相中の残留ガスの成分を観測したところ、水や酸素由来の成分が減少していることが確認できた。
【0040】
MgO薄膜の成膜は、図2に示した方法により実施した。このとき、第一のターゲットには、単結晶MgOターゲット(タテホ化学工業株式会社製)を、第二のターゲットには、焼結体MgOターゲット(株式会社高純度化学研究所製)の表面上にMgF焼結体(株式会社高純度化学研究所製)を固定したものを用いた。このとき第二のターゲットでは、焼結体MgOターゲットの表面積に対して、15%覆うようにMgFが固定されていた。
【0041】
成膜条件の詳細を、表1中に(2)として示す。表1の(2)の条件において成膜を行うと、第一のターゲットの成膜レートが、0.151Å/秒、第二のターゲットの成膜レートが0.028Å/秒であった。このレート比から、全ターゲットにおけるMgFの概算仕込み量を計算すると、2.3at.%であった。
【0042】
表1(2)の条件において約2790秒間スパッタリングを実施することにより、CoFeB上に約50nmのMgO薄膜を堆積した。堆積したMgO薄膜に対してXRDを実施したところ、2θ=42.9°付近にピークを確認することができた。これはMgO結晶の(200)面のピークと一致している。このとき2θ=36.9°、62.3°など他の配向のピークは確認できておらず、基板上に(100)配向したMgO薄膜を堆積できていることが確認された。
【0043】
またXRD測定結果から、MgO(200)面のピーク(2θ=42.9°)を、Voigt関数を用いてフィッテングすることにより、ピーク高さと半値幅を導出した。ピーク高さは502.9cps、半値幅は1.07°であった。
【0044】
さらに製造したMgO膜中に含有されているフッ素の量を測定した。SIMSにより実施例1のMgO薄膜中のフッ素量を同定したところ、0.04at.%含有していることが確認できた。
【0045】
(基板加熱とフッ素添加の効果)
次に基板加熱およびフッ素添加の効果を明確にするための検討を実施した。比較例1−1は、実施例1−1の条件から「基板加熱」と「フッ素添加」を取り除いてMgO薄膜製造を実施したものである。また、比較例1−2は、実施例1−1から「基板加熱」のみを取り除いて、さらに比較例1−3は、実施例1−1から「フッ素の添加」のみを取り除いて、MgO薄膜をそれぞれ製造したものである。比較例1−1から1−3の、基板温度およびターゲットへの入力パワーの条件を表2として示す。なお、表2に示した条件以外は、実施例1−1と全く同様の条件で成膜を実施した。また、製造手順も実施例1−1と同様の手順で実施した。
【0046】
【表2】

【0047】
表2の条件においてMgO薄膜の製造を実施し、得られた薄膜のXRDを測定した。測定結果からピーク高さと半値幅を抽出した結果を表3に示す。
【0048】
【表3】

【0049】
表3に示すように、実施例1−1のみピーク高さが大きく、半値幅も狭くなっていた。半値幅はドメインサイズに反比例することが知られており、実施例1−1の条件において、ドメインサイズが増加し、結晶性が向上していることが確認できた。このとき、比較例1−1、比較例1−2、比較例1−3のいずれの条件においても、従来例において示されている結晶性を向上させる方法を実施しており、本実施の形態1の製造方法は、従来例として示した方法よりも効果が大きいことが確認できた。
【0050】
(フッ素添加量による変化)
次に概算MgF仕込み量の最適な範囲について検討を実施した。表4に示すように、実施例1−2、実施例1−3、比較例1−4として、概算MgF仕込み量を増加させながら、MgO薄膜の堆積を実施した。なお、表4に示した条件以外は、実施例1−1と全く同様の条件で成膜を実施した。
【0051】
【表4】

【0052】
製造したMgO薄膜に対してXRDを測定し、測定結果から(200)面のピーク高さと半値幅を抽出した。結果を表5に示す。また図4は、製造したMgO薄膜のXRDピーク高さおよび半値幅の、概算MgF仕込み量依存性を示した図である。
【0053】
【表5】

【0054】
表5および図4に示すように、概算MgF仕込み量が、2.3から7.0at.%の範囲においてXRDピーク高さが著しく増加し、かつ半値幅も大きく減少しており、2.3から7.0at.%の範囲においてMgO薄膜中のドメインサイズが大きくなっていることが確認できた。
【0055】
また、実施例1−4として示した概算MgF仕込み量が15.0at.%の場合には、半値幅は比較例1−3よりも狭くなっているが、ピーク高さが減少している。これは、概算MgF仕込み量が15.0at.%以上では、ドメインサイズが増加した代わりに、フッ素量が多すぎるためにアモルファス構造もしくは(100)以外の結晶構造となった部分も多く、単位体積辺りの(100)MgO結晶の数が著しく減少したものと推測される。このようなMgO薄膜では、大きなMR比は期待できない。従って、本実施の形態1における概算MgF仕込み量の最適範囲は、2.3at.%以上、7.0at.%以下である。
【0056】
なお、本実施例1では、Co:40at.%、Fe:40at.%、B:20at.%の組成のCoFeBを強磁性体として用いたが、Co:20at.%、Fe:60at.%、B:20at.%の組成の強磁性体を用いた場合にも、同様の効果を得られることが確認できた。したがって、本実施の形態1におけるMgO薄膜の製造方法は様々な組成の強磁性体上に用いることが可能である。
【0057】
以上のことから、本実施の形態1に示したMgO薄膜作成工程を実施することにより、強磁性体上に結晶性に優れたMgO薄膜を形成することが可能であること確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明にかかるMgO薄膜の製造方法は、結晶性に優れたMgO薄膜を製造することができることから、TMR素子等のトンネルバリア膜の形成方法として有用である。
【符号の説明】
【0059】
11 基板
12 ヒーター
13 第一のターゲット
14 第二のターゲット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱工程と堆積工程からなる、強磁性体上への酸化マグネシウム薄膜の製造方法であり、
前記加熱工程は、200℃以上の温度において実施され、
前記堆積工程は、酸化マグネシウムとフッ化マグネシウムからなるターゲットをスパッタリングすることにより実施され、
前記ターゲットにおいて、前記酸化マグネシウムに対する前記フッ化マグネシウムの概算仕込み量が、2.3原子パーセント以上、7.0原子パーセント以下である
ことを特徴とした酸化マグネシウム薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記強磁性体が、Co、Fe、Bを主成分とする非晶質構造の強磁性体である
ことを特徴とした、請求項1に記載の酸化マグネシウム薄膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−41580(P2012−41580A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182029(P2010−182029)
【出願日】平成22年8月17日(2010.8.17)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】