説明

重合膜の成膜方法および成膜装置

【課題】蒸着により重合膜を成膜する際に、原料を加熱して供給する際の上記不都合が生じない重合膜の成膜方法および成膜装置を提供すること。
【解決手段】原料形成面に重合膜を形成するための複数の原料を所定パターンで形成した第1の基板16と、重合膜を形成すべき成膜面を有する第2の基板15とを、原料形成面と成膜面とが向き合うように処理容器2内に対向して設け、処理容器2内を真空雰囲気とし、第1の基板16を前記複数の原料17,18が蒸発する第1の温度に加熱して蒸発させるとともに、第2の基板15を複数の原料が重合反応を生ずる第2の温度に加熱し、第1の基板16から蒸発した複数の原料17,18を第2の基板15の成膜面で反応させ、成膜面に所定の重合膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド等の重合膜を蒸着法で成膜する重合膜の成膜方法および成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の高性能化および小型化を実現する技術として、一つの半導体パッケージの中に複数の半導体チップを搭載するシステムインパッケージ(System in Package;SiP)が重要となってきている。この技術において、従来は、半導体チップを平面的に並べて使用する二次元実装が主流であったが、近時、電子機器の一層の小型化の観点から、半導体チップを垂直方向に積層して実装する三次元実装が注目されている(例えば非特許文献1)。
【0003】
三次元実装は半導体チップを高密度に積層する観点から、半導体チップ間の絶縁技術が重要となる。この種の絶縁技術にはポリイミドに代表される重合膜を用いることが考えられる。
【0004】
しかしながら、このようなチップ間の絶縁には極めて高い絶縁性が要求されるが、一般的な重合膜形成方法である溶媒を用いて塗布する方法で形成された重合膜の場合には、溶媒が抜けるパスがリークポートとなり、絶縁性が不十分である。また、溶媒が抜けるパスは水分侵入のパスともなり、耐水性も不十分である。
【0005】
このような問題が生じない高性能の重合膜を形成する技術として、2種以上の原料モノマーをそれぞれ別個の容器に充填し、これを加熱して蒸発させ、ガス状の原料モノマーを真空に保持されたチャンバに供給して基板上に重合膜を蒸着する技術が提案されている(特許文献1、非特許文献2等)。
【0006】
このような技術では、原料モノマーを貯留した容器を加熱して蒸発させ、ガス状態を保ったまま配管を通してチャンバまで供給する必要があるため、配管をヒーターにより温度制御しつつ高温マスフローコントローラにより流量制御して原料モノマーの供給を行う。
【0007】
しかしながら、原料によっては配管温度を200℃付近に保持する必要があり、配管やバルブの耐熱性が不十分であるという問題がある。また、ヒーターによる加熱の際に温度むらが発生して、原料の供給が不安定になる。
【特許文献1】特開平5−171415号公報
【非特許文献1】Eric Beyne, Proceedingsof the International Interconnect Technology Conference 2006, pp.1-5
【非特許文献2】High Perform. Polym.5(1993) 229-237
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、蒸着により重合膜を成膜する際に、原料を加熱して供給する際の上記不都合が生じない重合膜の成膜方法および成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の第1の観点では、原料形成面に重合膜を形成するための複数の原料を所定パターンで固体状に形成した第1の基板と、重合膜を形成すべき成膜面を有する第2の基板とを、前記原料形成面と前記成膜面とが向き合うように処理容器内に対向して設け、前記処理容器内を真空雰囲気とし、前記第1の基板を前記複数の原料が蒸発する第1の温度に加熱して蒸発させるとともに、前記第2の基板を前記複数の原料が重合反応を生ずる第2の温度に加熱し、前記第1の基板から蒸発した複数の原料を前記第2の基板の前記成膜面で反応させ、前記成膜面に所定の重合膜を形成することを特徴とする重合膜の成膜方法を提供する。
【0010】
上記第1の観点の成膜方法において、前記複数の原料は、前記第1の基板の前記原料形成面に塗布、印刷、フォトリソグラフィのいずれかにより形成することができる。また、前記複数の原料は、前記重合膜を得るための化学量論組成で蒸発するように、前記第1の基板の前記原料形成面に形成することができる。さらに、前記複数の原料は、第1の原料および第2の原料からなるものとすることができ、この場合に、前記第1の原料および前記第2の原料を、前記第1の基板の原料形成面に市松模様状に形成することができる。
【0011】
前記第1の基板および前記第2の基板は、それぞれ異なる加熱機構を用いて加熱することが好ましく、前記加熱機構としては、誘導加熱コイルを有するものを用いることが好ましい。
【0012】
前記第1の基板は、前記第1の温度に加熱された際に各原料が最適温度になるように熱伝導を調節するための熱伝導調節部材を介して各原料が形成されている構成とすることができる。
【0013】
上記第1の観点の成膜方法の典型例として、前記複数の原料として、ピロメリット酸無水物(PMDA)および4,4′−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)を用い、重合膜としてポリイミド膜を成膜することを挙げることができる。この場合に、前記第1の温度は200〜260℃であり、前記第2の温度は180〜230℃である。
【0014】
本発明の第2の観点では、内部が真空に保持可能な処理容器と、前記処理容器内を所定の真空雰囲気とするための排気機構と、原料形成面に重合膜を形成するための複数の原料を所定パターンで固体状に形成した第1の基板と、重合膜を形成すべき成膜面を有する第2の基板とを、前記原料形成面と前記成膜面とが向き合うように対向して支持する基板支持手段と、前記第1の基板を前記複数の原料が蒸発する第1の温度に加熱する第1の加熱機構と、前記第2の基板を前記第2の基板を前記複数の原料が重合反応を生ずる第2の温度に加熱する第2の加熱機構とを具備し、前記第1の基板から蒸発した複数の原料を前記第2の基板の前記成膜面で反応させ、前記成膜面に所定の重合膜を形成することを特徴とする重合膜の成膜装置を提供する。
【0015】
上記第2の観点の成膜装置において、前記第1および第2の加熱機構は、それぞれ前記第1の基板、前記第2の基板を独立して急速加熱するものとすることができ、具体的には前記第1および第2の加熱機構として、誘導加熱コイルを有するものを用いることが好ましい。この場合に、前記基板支持手段は、前記第1の基板および前記第2の基板をそれぞれ支持するとともに、誘導加熱による熱をそれぞれ前記第1の基板および前記第2の基板に伝熱する一対の熱伝達部材を有するものとすることができる。
【0016】
上記第2の観点の成膜装置において、前記複数の原料は、前記第1の基板の前記原料形成面に塗布、印刷、フォトリソグラフィのいずれかにより形成されたものとすることができる。また、前記複数の原料は、前記重合膜を得るための化学量論組成で蒸発するように、前記第1の基板の前記原料形成面に形成することができる。
【0017】
前記第1の基板は、前記第1の温度に加熱された際に各原料が最適温度になるように熱伝導を調節するための熱伝導調節部材を介して各原料が形成されている構成とすることができる。
【0018】
前記基板支持手段は、第1の基板と第2の基板の対を複数対支持し、前記第1の加熱機構および前記第2の加熱機構により、各対の第1の基板および第2の基板をそれぞれ第1の温度および第2の温度に加熱するようにする構成とすることができる。
【0019】
本発明の第3の観点では、コンピュータ上で動作し、成膜装置を制御するためのプログラムが記憶された記憶媒体であって、前記プログラムは、実行時に、上記第1の観点の成膜方法が実施されるようにコンピュータに成膜装置を制御させることを特徴とする記憶媒体を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、原料形成面に重合膜を形成するための複数の原料を所定パターンで固体状に形成した第1の基板と、重合膜を形成すべき成膜面を有する第2の基板とを、前記原料形成面と前記成膜面とが向き合うように処理容器内に対向して設け、前記第1の基板および前記第2の基板を、それぞれ独立して所望の温度になるように加熱し、前記第1の基板から蒸発した複数の原料を前記第2の基板の前記成膜面で反応させ、前記成膜面に所定の重合膜を形成するので、原料を加熱して形成された高温のガスを配管に供給する際の耐熱性の問題や、ヒーターによる加熱の際に温度むらによる原料供給の不安定性の問題を生じさせずに、極めて簡便な方法で安定して重合膜を成膜することができる。また、原料形成基板と被成膜基板とを誘導加熱のような急熱急冷可能な加熱機構により独立の温度で加熱することにより、所望の温度以外の温度で原料が供給される危険や、重合温度が制限される危険を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る重合膜の成膜装置を示す断面図である。
【0022】
この成膜装置1は、チャンバ2を有しており、チャンバ2の側壁には搬入出ポート3および排気ポート4が設けられている。搬入出ポート3はゲートバルブ5によって開閉可能となっている。また排気ポート4には排気管6が接続されており、排気管6には圧力調整バルブ8および真空ポンプ7が接続され、真空ポンプ7を作動しつつ圧力調整バルブ8の開度を制御することによりチャンバ2内を所定の真空度に調整するようになっている。また、図示しないガス供給系からチャンバ2内にArガス等の不活性ガスを導入することによりチャンバ2内の圧力を調整することができるようになっている。なお、チャンバ2内をクリーニングのためのクリーニングガスを供給するクリーニングガス供給系が設けられていてもよい。
【0023】
チャンバ2の上壁および底壁には、それぞれ誘導加熱コイル9aおよび9bが設けられている。誘導加熱コイル9aおよび9bは、図2に示すように渦巻き状をなしており、それぞれコイル電源10aおよび10bが接続されている。これらコイル電源10aおよび10bは制御部11に接続され、この制御部11により制御されるようになっている。そして、制御部11によりコイル電源10aおよび10bの出力を制御することにより、誘導加熱コイル9aおよび9bによる加熱温度を制御するようになっている。また、チャンバ壁には、図示しないウォールヒーターが設けられており、チャンバ壁の温度を所定の温度に制御することが可能となっている。
【0024】
誘導加熱コイル9aの下方および誘導加熱コイル9bの上方には、これらを遮蔽する遮蔽部材12aおよび12bが設けられており、遮蔽部材12aおよび12bは、取り付け部材13によりチャンバ2に取り付けられている。
【0025】
チャンバ2の内部には、遮蔽部材12aを介して誘導加熱コイル9aに対向するように上部熱伝達板14aが設けられており、また遮蔽部材12bを介して誘導加熱コイル9bに対向するように下部熱伝達板14bが設けられている。
【0026】
上部熱伝達板14aには重合膜を成膜すべき被成膜基板15が適宜の支持手段により成膜面を下向きにして支持され、下部熱伝達板14bには重合膜を成膜するための原料が上面に形成された原料形成基板16が載置される。
【0027】
原料形成基板16には、重合膜を形成するための第1の原料17および第2の原料18が、塗布、印刷、フォトリソグラフィなどにより、所定パターン、例えば市松模様等に形成されている。第1および第2の原料17および18は、重合膜を形成するためのモノマー原料であり、得ようとする重合膜がポリイミドの場合、これら原料としてピロメリット酸無水物(PMDA)および4,4′−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)を挙げることができる。
【0028】
そして、誘導加熱コイル9bに通電することにより下部熱伝達板14bが誘導加熱され、その伝熱で原料形成基板16が第1の温度に加熱されることにより、第1の原料17および第2の原料18が蒸発する。また、誘導加熱コイル9aに通電することにより上部熱伝達板14aが誘導加熱され、その伝熱で被成膜基板15が第2の温度に加熱され、被成膜基板15の表面で蒸発した第1の原料17および第2の原料18が被成膜基板15表面で反応し、重合膜が成膜される。すなわち、誘導加熱コイル9bが原料を蒸発させる第1の加熱機構として機能し、誘導加熱コイル9aが重合反応を生じさせる第2の加熱機構として機能する。
【0029】
制御部11は、誘導加熱コイル9a,9bへの通電制御の他、排気の制御、ガス供給制御、ゲートバルブの開閉制御、基板の搬送制御等を行うようになっており、実制御を行うコントローラ(コンピュータ)と、オペレータが制御のための入力操作を行うキーボードやディスプレイ等からなるユーザーインターフェースと、処理レシピ等の制御のための情報が記憶された記憶媒体がセット可能な記憶部とを有している。
【0030】
次に、このように構成される成膜装置1により、重合膜を成膜する方法について図3のフローチャートを参照して説明する。以下の方法は、制御部11の記憶部内にセットされた記憶媒体に記憶されている処理レシピに従って行われる。
まず、ゲートバルブ5を開いて被成膜基板15および原料形成基板16を搬入出ポート3からチャンバ2内に搬入し、被成膜基板15を上部熱伝達板14aに、原料形成基板16を下部熱伝達板14bにセットする(ステップ1)。
【0031】
次に、ゲートバルブ5を閉じてチャンバ2内を密閉空間とし、真空ポンプ7によりチャンバ2内を真空引きし、必要に応じて図示しないガス導入機構から不活性ガスをチャンバ2内に導入することにより、チャンバ2内を所定の真空度に調整する(ステップ2)。
【0032】
この状態で、誘導加熱コイル9bに通電して下部熱伝達板14bを誘導加熱し、その伝熱で原料形成基板16を第1の温度に加熱するとともに、誘導加熱コイル9aに通電して上部熱伝達板14aを誘導加熱し、その伝熱で被成膜基板15を第2の温度に加熱する(ステップ3)。
【0033】
第1の温度は、原料形成基板16に形成された第1の原料17および第2の原料18を蒸発させるのに適した温度に設定され、第2の温度は、被成膜基板15上で第1の原料17および第2の原料18が重合するのに適した温度に設定される。このため、図4に示すように、第1の温度Tに加熱された原料形成基板16から第1の原料17、例えばPMDA、および第2の原料18、例えばODAが蒸発し、第2の温度Tに加熱された被成膜基板15の表面でこれら第1の原料17および第2の原料18が重合反応を生じる。したがって、このような加熱を所定時間継続することにより、被成膜基板15の表面に所定厚さの重合膜20、例えばポリイミド膜が形成される(ステップ4)。
【0034】
なお、原料としてPMDAおよびODAを用いて重合膜としてポリイミド膜を成膜する場合には、第1の温度を200〜260℃、第2の温度を180〜230℃とすることができる。
【0035】
原料形成基板16上に形成する第1の原料17および第2の原料18の比率を、これらが第1の温度で蒸発した際に得ようとする重合膜の化学量論組成が得られるような比率にしておくことにより、所望の組成の重合膜20を得ることができる。また、第1の原料17および第2の原料18を所望の膜厚の重合膜が得られる量で形成しておき、原料を全て蒸発させた時点で処理を停止するようにしてもよい。原料形成基板16は、成膜後に第1および第2の原料17,18を再度形成することもできる。
【0036】
このようにして重合膜20を形成した後、誘導加熱コイル9a,9bへの通電を遮断して加熱を停止し(ステップ5)、ゲートバルブ5を開けて重合膜20が形成された被成膜基板15および原料が蒸発した後の原料形成基板16を搬出する(ステップ6)。
【0037】
所定回数の成膜が終了したら、チャンバ2の壁面をウォールヒーター(図示せず)により加熱しつつ、クリーニングガスにより、チャンバ2内のクリーニングを行ってもよい。
【0038】
本実施形態によれば、原料形成基板16上に、重合膜を形成するための第1の原料17および第2の原料18を、塗布、印刷、フォトリソグラフィなどにより、所定パターンで固体状に形成しておき、この原料形成基板16を誘導加熱により第1の温度に加熱してこれら原料を蒸発させ、誘導加熱により重合反応が生じる第2の温度に加熱された被成膜基板15表面に蒸着させ、そこで重合反応を生じさせるので、原料を加熱して形成された高温のガスを配管に供給する際の耐熱性の問題や、ヒーターによる加熱の際に温度むらによる原料供給の不安定性の問題を生じさせずに、極めて簡便な方法で安定して重合膜を成膜することができる。また、原料形成基板16と被成膜基板15とを誘導加熱により独立の温度に急熱急冷することができるので、所望の温度以外の温度で原料が供給される危険や、重合温度が制限される危険を回避することができる。
【0039】
次に、本実施形態における具体的な実施例について説明する。
図1に示した成膜装置において、誘導加熱コイル9a,9bとしてパンケーキ型のものを用い、上部熱伝達板14aおよび下部熱伝達板14bとして直径210mm、厚さ2mmのグラファイト板を用い、図示しないArガス供給系、クリーニングガス供給系、ウォールヒーターを設けた。
【0040】
被成膜基板15としては200mmSiウエハを用い、原料形成基板16としては、200mmSiウエハの表面に、印刷方式で、第1の原料17としてPMDAを、第2の原料18としてODAを、それぞれ5μm角で1μmのスペースを空けて、市松模様に形成したものを用いた。
【0041】
以上のような成膜装置を用いて、以下のフローで成膜した。
まず、誘導加熱コイル9a,9bに通電しない状態で、被成膜基板15を上部熱伝達板14aに、原料形成基板16を下部熱伝達板14bにセットする。次いで、チャンバ2内を真空排気した後、チャンバ2内の圧力を133Paに調整する。
【0042】
その状態で、制御部11により、誘導加熱コイル9bへの通電を制御しつつ下部熱伝達板14bを誘導加熱し、原料形成基板16の温度を220℃に制御するとともに、誘導加熱コイル9aへの通電を制御しつつ上部熱伝達板14aを誘導加熱し、被成膜基板15の温度を200℃に制御する。これにより、原料形成基板16からPMDAおよびODAが蒸発し、被成膜基板15の表面において重合反応が生じ、ポリイミド膜が成膜される。
【0043】
ここでは、上記温度での加熱を5分間継続させることにより、厚さ1000nmのポリイミド膜が得られた。
【0044】
このようにして、重合膜であるポリイミド膜を成膜した後、誘導加熱コイル9a,9bへの通電を停止し、チャンバ2内をArガスでパージして大気圧に戻した後、ポリイミド膜が成膜された被成膜基板15および原料形成基板16をチャンバ2から搬出する。
【0045】
所定回数の成膜後、ウォールヒーターにより、チャンバ2壁部の温度を500℃に制御し、クリーニングガス供給系からクリーニングガスとしてO、O、NOなどの酸素源をチャンバ2内に供給してチャンバ2内のクリーニングを行う。このときチャンバ2内にグラファイト板(上部および下部熱伝達板14a,14b)を配置したままであるとグラファイト板が燃焼分解してしまうので、チャンバ2内からグラファイト板を取り外しておく。
【0046】
なお、上記第1の実施形態では、誘導加熱コイル9a,9bをチャンバ2内の処理空間の外部に存在させたが、これに限らず処理空間の内部に存在させてもよい。
【0047】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
ここでは、複数枚の基板に対して成膜処理を行うバッチ式の装置について説明する。図5は、本発明の第2の実施形態に係る重合膜の成膜装置を示す断面図である。
【0048】
この成膜装置31は、チャンバ32を有しており、チャンバ32の側壁には複数の搬入出ポート(図示せず)と、1つの排気ポート34とを有している。搬入出ポートは複数の基板をそれぞれ搬入出するためのものであり、ゲートバルブ(図示せず)により開閉可能となっている。また、排気ポート34には排気管36が接続されており、排気管36には圧力調整バルブ38および真空ポンプ37が接続され、真空ポンプ37を作動しつつ圧力調整バルブ38の開度を制御することによりチャンバ32内を所定の真空度に調整するようになっている。また、図示しないガス供給系からチャンバ32内にArガス等の不活性ガスを導入することによりチャンバ32内の圧力を調整することができるようになっている。なお、チャンバ32内をクリーニングのためのクリーニングガスを供給するクリーニングガス供給系が設けられていてもよい。
【0049】
チャンバ32内には、5枚の熱伝達板44a,44b,44c,44d,44eが水平にかつ鉛直方向に積み重ねられるように設けられている。これら熱伝達板の外周には、それぞれ誘導加熱コイル39a,39b,39c,39d,39eが設けられている。誘導加熱コイル39a,39b,39c,39d,39eには、それぞれコイル電源40a,40b,40c,40d,40eが接続されており、これらコイル電源40a,40b,40c,40d,40eは制御部41に接続され、この制御部41により制御されるようになっている。そして、制御部41によりコイル電源40a,40b,40c,40d,40eの出力を制御することにより、誘導加熱コイル39a,39b,39c,39d,39eによる加熱温度を制御するようになっている。また、チャンバ壁には、図示しないウォールヒーターが設けられており、チャンバ壁の温度を所定の温度に制御することが可能となっている。なお、制御部41は第1の実施形態11と同様に構成され、同様の制御を行えるようになっている。
【0050】
なお、誘導加熱コイル39aは、図6に示すように、熱伝達板44aの外周を巻回するように設けられている。また、誘導加熱コイル39b,39c,39d,39eも誘導加熱コイル39aと同様に構成されている。
【0051】
最上部の熱伝達板44aの下面には成膜面を下向きにして重合膜を成膜すべき被成膜基板15が支持される。その下の熱伝達板44bには、その上下面にそれぞれ重合膜を成膜するための原料が形成された原料形成基板16が支持される。また、その下の熱伝達板44cには、その上下面にそれぞれ重合膜を成膜すべき被成膜基板15が支持される。さらに、その下の熱伝達板44dには、その上下面にそれぞれ重合膜を成膜するための原料が形成された原料形成基板16が支持される。さらにまた、最下部の熱伝達板44eの上面には成膜面を上向きにして重合膜を成膜すべき被成膜基板15が支持される。なお、原料形成基板16には、上述したように、重合膜を形成するための第1の原料17および第2の原料18が、塗布、印刷、フォトリソグラフィなどにより、所定パターン、例えば市松模様等に形成されている。
【0052】
以上のように被成膜基板15および原料形成基板16を配置することにより、熱伝達板44aと44bとの間、熱伝達板44bと44cとの間、熱伝達板44cと44dとの間、熱伝達板44dと44eとの間に、被成膜基板15および原料形成基板16を、成膜面と原料形成面とが対向するように設けることができる。したがって、誘電加熱コイル39b,39dに通電して熱伝達板44bおよび44dを誘導加熱することにより、その伝熱で原料形成基板16を第1の温度に加熱し、誘電加熱コイル39a,39c,39eに通電して熱伝達板44a,44c,44eを誘導加熱することにより、その伝熱で被成膜基板15を第2の温度に加熱することにより、原料形成基板16から蒸発した第1の原料17および第2の原料18を対向する被成膜基板15の成膜面に到達させ、成膜面においてこれら原料が反応して重合膜を成膜することができる。すなわち、誘導加熱コイル39b,39dが原料を蒸発させる第1の加熱機構として機能し、誘導加熱コイル39a,39c,39eが重合反応を生じさせる第2の加熱機構として機能する。
【0053】
第1の実施形態と同様、第1の原料17および第2の原料は、重合膜を形成するためのモノマー原料であり、得ようとする重合膜がポリイミドの場合、これら原料としてピロメリット酸無水物(PMDA)および4,4′−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)を挙げることができる。
【0054】
この第2の実施形態では、基本的に第1の実施形態と同様にして重合膜を成膜することができるが、1度に4枚の被成膜基板15に対して重合膜を成膜することができるので、第1の実施形態よりも高効率である。
【0055】
この実施形態においても、具体的な実施例として、熱伝達板44a〜44eとして直径210mm、厚さ2mmのグラファイト板を用い、図示しないArガス供給系、クリーニングガス供給系、ウォールヒーターを設け、被成膜基板15としては200mmSiウエハを用い、原料形成基板16としては、200mmSiウエハの表面に、印刷方式で、第1の原料17としてPMDAを、第2の原料18としてODAを、それぞれ5μm角で1μmのスペースを空けて、市松模様に形成したものを用いて成膜を行った。その際のチャンバ32内の圧力は133Paに調整し、原料基板16の温度を220℃に制御するとともに、被成膜基板15の温度を200℃に制御する。このような加熱を5分間継続させることにより、厚さ5nmのポリイミド膜が得られた。
【0056】
なお、上記第2の実施形態では、誘導加熱コイル39a〜39eをチャンバ32の処理空間内に存在させたが、チャンバ32の外部に存在させてもよい。また、一度に4枚の被成膜基板15に対して重合膜を成膜する例を示したが、これに限らず、熱伝達板の枚数を適宜調整することにより、任意の枚数の被成膜基板15に対して重合膜を成膜することができる。
【0057】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々変形可能である。例えば、成膜装置は上記第1および第2の実施形態で用いたものに限らず、他の装置構成であっても構わない。また、被成膜基板と原料形成基板とをそれぞれ独立して加熱するために、局部的に急熱急冷が可能な誘導加熱コイルを用いたが、これに限らずランプ加熱等、他の加熱手段を用いてもよい。
【0058】
さらに、上記実施形態では、第1の原料と第2の原料を用いて重合膜を成膜する例を示したが、3つ以上の原料を用いて重合膜を成膜してもよい。また、上記実施形態では、原料モノマーとしてPMDAおよびODAを用いてポリイミド膜を成膜する例を示したが、これに限らず、ペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)および2,3−ジアミノナフタレン(DAN)を用いたポリイミド膜の成膜、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)および4,4′−メチレンジアニリン(MDA)を用いたポリ尿素(PU)膜の成膜、2,3−ジアミノナフタレン(DAN)およびα−ブロモシンナムアルデヒド(BCA)を用いたΠ共役導電性高分子であるポリアゾメチン膜の成膜等、複数のモノマー原料から重合膜を形成する種々の場合に適用可能である。
【0059】
さらに、上記実施形態では第1の原料および第2の原料を同じ温度に加熱した場合について示したが、これに限らず、例えば、図7に示すように、原料形成基板16上にセラミックス等の断熱性の比較的大きい熱伝導調整治具51を設け、その上に第1の原料17および第2の原料18を形成するようにし、第1の原料17および第2の原料18で熱伝導調整治具51の高さをそれぞれhおよびhに調整して熱伝導を調整することにより、第1の原料および第2の原料の加熱温度を異ならせるようにすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に係る重合膜の成膜方法は、半導体分野に用いられる三次元実装の絶縁膜等に用いられる高性能の重合膜の成膜に好適に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る重合膜の成膜装置を示す断面図。
【図2】図1の装置に用いた誘導加熱コイルを示す平面図。
【図3】本発明の重合膜の成膜方法を実施する際の工程を説明するためのフローチャート。
【図4】本発明の方法に従って重合膜を形成する際の状態を説明するための模式図。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る重合膜の成膜装置を示す断面図。
【図6】図5の装置に用いた誘導加熱コイルを示す側面図。
【図7】原料形成基板上の第1の原料および第2の原料の加熱温度を異ならせるための手法を説明するための図。
【符号の説明】
【0062】
1,31;成膜装置
2,32;チャンバ
3;搬入出ポート
4,34;排気ポート
5;ゲートバルブ
6,36;排気管
7,37;真空ポンプ
8,38;圧力調整バルブ
9a,9b,39a〜39e;誘導加熱コイル
10a,10b,40a〜40e;コイル電源
11,41;制御部
14a;上部熱伝達板
14b;下部熱伝達板
15;被成膜基板
16;原料形成基板
17;第1の原料
18;第2の原料
20;重合膜
44a〜44e;熱伝達板
51;熱伝導調整治具


【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料形成面に重合膜を形成するための複数の原料を所定パターンで固体状に形成した第1の基板と、重合膜を形成すべき成膜面を有する第2の基板とを、前記原料形成面と前記成膜面とが向き合うように処理容器内に対向して設け、
前記処理容器内を真空雰囲気とし、
前記第1の基板を前記複数の原料が蒸発する第1の温度に加熱して蒸発させるとともに、前記第2の基板を前記複数の原料が重合反応を生ずる第2の温度に加熱し、
前記第1の基板から蒸発した複数の原料を前記第2の基板の前記成膜面で反応させ、前記成膜面に所定の重合膜を形成することを特徴とする重合膜の成膜方法。
【請求項2】
前記複数の原料は、前記第1の基板の前記原料形成面に塗布、印刷、フォトリソグラフィのいずれかにより形成されていることを特徴とする請求項1に記載の重合膜の成膜方法。
【請求項3】
前記複数の原料は、前記重合膜を得るための化学量論組成で蒸発するように、前記第1の基板の前記原料形成面に形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の重合膜の成膜方法。
【請求項4】
前記複数の原料は、第1の原料および第2の原料からなることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の重合膜の成膜方法。
【請求項5】
前記第1の原料および前記第2の原料は、前記第1の基板の原料形成面に市松模様状に形成されていることを特徴とする請求項4に記載の重合膜の成膜方法。
【請求項6】
前記第1の基板および前記第2の基板は、それぞれ異なる加熱機構を用いて加熱することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の重合膜の成膜方法。
【請求項7】
前記加熱機構は、誘導加熱コイルを有することを特徴とする請求項6に記載の重合膜の成膜方法。
【請求項8】
前記第1の基板は、前記第1の温度に加熱された際に各原料が最適温度になるように熱伝導を調節するための熱伝導調節部材を介して各原料が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の重合膜の成膜方法。
【請求項9】
前記複数の原料として、ピロメリット酸無水物(PMDA)および4,4′−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)を用い、重合膜としてポリイミド膜を成膜することを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の重合膜の成膜方法。
【請求項10】
前記第1の温度は200〜260℃であり、前記第2の温度は180〜230℃であることを特徴とする請求項9に記載の重合膜の成膜方法。
【請求項11】
内部が真空に保持可能な処理容器と、
前記処理容器内を所定の真空雰囲気とするための排気機構と、
原料形成面に重合膜を形成するための複数の原料を所定パターンで固体状に形成した第1の基板と、重合膜を形成すべき成膜面を有する第2の基板とを、前記原料形成面と前記成膜面とが向き合うように対向して支持する基板支持手段と、
前記第1の基板を前記複数の原料が蒸発する第1の温度に加熱する第1の加熱機構と、
前記第2の基板を前記第2の基板を前記複数の原料が重合反応を生ずる第2の温度に加熱する第2の加熱機構と
を具備し、
前記第1の基板から蒸発した複数の原料を前記第2の基板の前記成膜面で反応させ、前記成膜面に所定の重合膜を形成することを特徴とする重合膜の成膜装置。
【請求項12】
前記第1および第2の加熱機構は、それぞれ前記第1の基板、前記第2の基板を独立して急速加熱することを特徴とする請求項11に記載の重合膜の成膜装置。
【請求項13】
前記第1および第2の加熱機構は、誘導加熱コイルを有することを特徴とする請求項12に記載の重合膜の成膜装置。
【請求項14】
前記基板支持手段は、前記第1の基板および前記第2の基板をそれぞれ支持するとともに、誘導加熱による熱をそれぞれ前記第1の基板および前記第2の基板に伝熱する一対の熱伝達部材を有することを特徴とする請求項13に記載の重合膜の成膜装置。
【請求項15】
前記複数の原料は、前記第1の基板の前記原料形成面に塗布、印刷、フォトリソグラフィのいずれかにより形成されていることを特徴とする請求項11から請求項14のいずれか1項に記載の重合膜の成膜装置。
【請求項16】
前記複数の原料は、前記重合膜を得るための化学量論組成で蒸発するように、前記第1の基板の前記原料形成面に形成されていることを特徴とする請求項11から請求項15のいずれか1項に記載の重合膜の成膜装置。
【請求項17】
前記第1の基板は、前記第1の温度に加熱された際に各原料が最適温度になるように熱伝導を調節するための熱伝導調節部材を介して各原料が形成されていることを特徴とする請求項11から請求項16のいずれか1項に記載の重合膜の成膜装置。
【請求項18】
前記基板支持手段は、第1の基板と第2の基板の対を複数対支持し、前記第1の加熱機構および前記第2の加熱機構により、各対の第1の基板および第2の基板をそれぞれ第1の温度および第2の温度に加熱するようにすることがを特徴とする請求項11から請求項17に記載の重合膜の成膜装置。
【請求項19】
コンピュータ上で動作し、成膜装置を制御するためのプログラムが記憶された記憶媒体であって、前記プログラムは、実行時に、請求項1から請求項10のいずれかの成膜方法が実施されるようにコンピュータに成膜装置を制御させることを特徴とする記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−73743(P2010−73743A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−236819(P2008−236819)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】