説明

金型装置およびこれを用いた成形体の製造方法

【課題】 金型の急速加熱および急速冷却が可能であり、ハイサイクル化、品質改善が達成され、射出成形、プレス成形などにより成形体を製造するのに適した金型装置および成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】 上金型11および下金型12を備え、両金型による加圧によって成形体を得る金型装置10において、両金型11,12は、ヒータ17,18を備えたキャビティプレート13,14と、冷却管19,20を備えたベースプレート15,16から構成され、キャビティプレート13,14は、ベースプレート15,16と分離および接触が可能であり、キャビティプレート13,14の加熱の際には両者は分離し、冷却の際には両者は接触し、両金型の加圧時は、両者が接触するとともにキャビティプレート13,14が成形体を賦形し、ベースプレートが加圧に対する金型強度を保つ金型装置10と、これを用いた成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型装置およびこれを用いた成形体の製造方法に関するものであり、詳しくは、金型の急速加熱および急速冷却が可能であり、ハイサイクル化、品質改善が達成され、射出成形、プレス成形などにより成形体を製造するのに極めて適した金型装置およびこれを用いた成形体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
DNAチップ、タンパクチップなどのバイオチップ、マイクロリアクター、マイクロ分析チップ、微生物検出チップ、診断チップ等のマイクロ化学チップは、表面に数nmから数百μmの微細パターンを有している。このようなマイクロ化学チップは、例えば表面に微細パターンを有する下金型に溶融樹脂を塗布し、金型を閉じて加圧し、冷却し、溶融樹脂を固化させ、微細パターンを転写することにより製造することができる。
前記製造工程では、溶融樹脂を塗布する際に金型温度を例えば150℃程度に設定し、続く冷却時は金型温度を90℃まで冷却する必要がある。そして転写成形品が得られた後は、再び金型を150℃まで加熱し、溶融樹脂が塗布される。したがって、金型の加熱および冷却を迅速に行わないと成形サイクル時間が長くなり、生産性が悪化するという問題がある。
【0003】
金型を急速に加熱および冷却し成形体を得る従来技術を図11〜13を参照して説明する。まず、図11において金型の加熱時、上金型121および下金型122にそれぞれ設けられた熱交換用配管123および124に、あらかじめ加熱しておいた加熱用媒体(例えば熱水または熱油)を流し、上金型121および下金型122を所望の温度まで昇温する。続いて、表面に微細パターンを有する下金型122上に溶融樹脂を塗布し、図12に示すように上金型121および下金型122を閉じて加圧し、同時にあらかじめ冷却しておいた冷却用媒体を熱交換用配管123および124に流し、金型の冷却を行う。最後に、図13に示すように上金型121および下金型122を開放して成形体125を取り出す。
このような金型の加熱および冷却システムについては、例えば特許文献1に開示されている。
【0004】
【特許文献1】2003−145599号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記のような金型では、金型の加熱および冷却を迅速に行うことができず、成形サイクル時間が長くなり、生産性が悪化するという問題点がある。
また、一般的に金型の熱容量は大きく、金型の加熱および冷却を迅速に、かつ誤差の少ない温度制御を行おうとすると、大容量かつ大規模な加熱用媒体および冷却用媒体の供給装置が必要となる。
したがって本発明の目的は、金型の急速加熱および急速冷却が可能であり、ハイサイクル化、品質改善が達成され、射出成形、プレス成形などにより成形体を製造するのに極めて適した金型装置およびこれを用いた成形体の製造方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のとおりである。
1.対向して配置される一対の金型を備え、両金型による加圧によって成形体を得る金型装置において、
前記金型の少なくともいずれか一方は、加熱手段を備えたキャビティプレートと、それを支える冷却手段を備えたベースプレートとから構成され、
前記キャビティプレートは、前記ベースプレートと分離および接触が可能であり、
前記キャビティプレートを加熱する際、前記キャビティプレートは前記ベースプレートと分離し、
前記キャビティプレートを冷却する際、前記キャビティプレートは前記ベースプレートと接触し、
前記両金型の加圧時は、前記キャビティプレートおよびベースプレートが接触し、前記キャビティプレートが成形体を賦形し、前記ベースプレートが加圧に対する金型強度を保つように構成したことを特徴とする金型装置。
【0007】
2.前記キャビティプレートおよびベースプレートの分離および接触を行う駆動手段をさらに備えてなることを特徴とする前記1.に記載の金型装置。
【0008】
3.前記キャビティプレートおよびベースプレートの接触する面に真空吸着用溝を設けるとともに、前記キャビティプレートおよびベースプレートの接触時は、真空吸着用溝内の空気を真空装置により排出することを特徴とする1.または2.に記載の金型装置。
【0009】
4.前記キャビティプレートの加熱手段がキャビティプレート内部に設けられたヒータであり、前記ベースプレートの冷却手段がベースプレート内部に設けられるとともに冷却用媒体を流す冷却管であることを特徴とする前記1.〜3.のいずれかに記載の金型装置。
【0010】
5.前記キャビティプレートが、その加熱または冷却を可能にする温度調整手段をさらに有することを特徴とする前記1.〜4.のいずれかに記載の金型装置。
【0011】
6.前記キャビティプレートの温度調整手段が、キャビティプレート内部に設けられるとともに加熱用または冷却用媒体を流す熱交換用配管であることを特徴とする前記5.に記載の金型装置。
【0012】
7.前記1.〜6.のいずれかに記載の金型装置を用いる成形体の製造方法であって、
(1)前記ベースプレートを冷却手段によって冷却する工程と、
(2)前記キャビティプレートとベースプレートとを分離する工程と、
(3)分離した前記キャビティプレートを加熱手段によって加熱する工程と、
(4)前記(1)、(2)および(3)工程終了後、前記キャビティプレートとベースプレートとを接触させ、両金型による加圧によって成形体を得る工程と、
(5)得られた成形体を金型装置から取り出す工程と
を有することを特徴とする成形体の製造方法。
【0013】
8.前記キャビティプレートおよびベースプレートの分離および接触が、駆動手段によって行われることを特徴とする前記7.に記載の成形体の製造方法。
【0014】
9.前記(4)工程において、前記キャビティプレートおよびベースプレートの接触する面に真空吸着用溝を設け、前記前記キャビティプレートおよびベースプレートの接触時は、真空吸着用溝内の空気を真空装置により排出することを特徴とする前記7.または8.に記載の成形体の製造方法。
【0015】
10.前記(3)工程において、キャビティプレートの加熱をキャビティプレート内部に設けられたヒータによって行い、前記(1)工程において、前記ベースプレートの冷却をベースプレート内部に設けられた冷却管に冷却用媒体を流すことによって行うことを特徴とする前記7.〜9.のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【0016】
11.前記キャビティプレートに、その加熱または冷却を可能にする温度調整手段をさらに設け、前記温度調整手段が、キャビティプレート内部に設けられるとともに加熱用または冷却用媒体を流す熱交換用配管であることを特徴とする前記7.〜10.のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【0017】
12.前記(3)工程において、キャビティプレートの加熱を前記ヒータの稼動と前記熱交換用配管に加熱用媒体を流すことにより行うことを特徴とする前記11.に記載の成形体の製造方法。
【0018】
13.前記(4)工程において、前記キャビティプレートとベースプレートとの接触時は、前記熱交換用配管に冷却用媒体を流すことを特徴とする前記11.に記載の成形体の製造方法。
【0019】
14.前記ベースプレート内部に設けられた冷却管に、冷却用媒体を常に流しておくことを特徴とする前記7.〜13.のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【0020】
15.前記(4)工程において、前記金型の少なくとも一方が表面に微細な凹凸部を有する金型であり、前記微細な凹凸部上に溶融樹脂を塗布し、両金型を閉じて加圧し、両金型間で形成される閉空間の形状に前記溶融樹脂の形状を整え、その後、冷却された前記ベースプレートとキャビティプレートとの熱交換によって前記キャビィテプレートを急速冷却し、前記溶融樹脂を固化した後、前記(5)工程において、得られた成形体を金型装置から取り出すことを特徴とする請求項7〜14のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、金型の急速加熱および急速冷却が可能であり、ハイサイクル化、品質改善が達成され、射出成形、プレス成形などにより成形体を製造するのに極めて適した金型装置およびこれを用いた成形体の製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
図1は、本発明の金型装置の一実施形態を説明するための断面図である。
本発明の金型装置10は、対向して配置される一対の上金型11および下金型12を備え、両金型による加圧によって成形体を得る装置である。本実施形態において、上金型11は、キャビティプレート13とそれを支えるベースプレート15とから構成されている。また下金型12は、キャビティプレート14と、それを支えるベースプレート16とから構成されている。また、キャビティプレート13および14は、成形体を賦形する役割を担うとともに、加熱手段としてのヒータ17および18をそれぞれ備えてなる。さらにベースプレート15および16は、加圧に対する金型強度を保つ役割を担うとともに、冷却手段として、その内部に冷却管19および20がそれぞれ設けられている。
【0023】
また金型装置10における上金型11および下金型12のそれぞれには、空圧アクチュエータなどの駆動手段21および22が設けられ、この駆動手段21,22によって、キャビティプレート13とベースプレート15、さらにキャビティプレート14とベースプレート16の分離および接触が可能となる。本発明の金型装置10において、キャビティプレート13を加熱する際には、キャビティプレート13とベースプレート15とを分離する。同様に、キャビティプレート14を加熱する際には、キャビティプレート14とベースプレート16とを分離する。
【0024】
図2は、本発明の金型装置10において、キャビティプレート13とベースプレート15、さらにキャビティプレート14とベースプレート16が分離した状態を示す断面図である。空圧アクチュエータなどの駆動手段21,22によって、上金型11ではキャビティプレート13が下方向に、下金型12ではキャビティプレート14が上方向に移動することにより、それぞれベースプレート15,16から分離している。前述のように、キャビティプレート13,14を加熱する際には、キャビティプレート13,14とベースプレート15,16を分離する。逆に、キャビティプレート13,14を冷却する際には、図1に示したようにキャビティプレート13,14をベースプレート15,16と接触させる。
【0025】
図3は、本発明の好ましい一実施形態を説明するための断面図である。図2の金型装置は、図1とほぼ同様であるが、キャビティプレート13,14と、ベースプレート15,16との接触面に真空吸着用溝23が設けられている。キャビティプレート13とベースプレート15、キャビティプレート14とベースプレート16の接触時は、真空吸着用溝23を、外部に設けられた真空装置(図示せず)と接続し、真空吸着用溝23内の空気を排出することにより、キャビティプレート13,14と、ベースプレート15,16との接触面が真空状態となり、両者が緊密に接触・固定される。これにより、キャビティプレート13,14と、ベースプレート15,16との熱交換が一層良好となる。
【0026】
次に、図1および2で示した金型装置を用いて成形体を製造する方法について説明する。本発明の成形体の製造方法は、(1)ベースプレート15,16を冷却手段によって冷却する工程と、(2)キャビティプレート13,14とベースプレート15,16とを分離する工程と、(3)分離したキャビティプレート13,14を加熱手段によって加熱する工程と、(4)前記(1)、(2)および(3)工程終了後、キャビティプレート13,14とベースプレート15,16とを接触させ、両金型による加圧によって成形体を得る工程と、(5)得られた成形体を金型装置から取り出す工程とを有する。
【0027】
まず、(1)工程において、ベースプレート15,16を冷却手段によって冷却する。この冷却は、ベースプレート15,16の内部に設けられた冷却管19,20に、冷水のような冷却用媒体を流すことによって行うことができる。本発明では、冷却管19,20に冷却用媒体を常に流し、ベースプレート15,16を低温域に保つことで、キャビティプレートおよびベースプレートの接触時、両者間の熱交換がより効率化され、短時間でキャビティプレートの熱を奪い急速冷却が達成される。
【0028】
続いて(2)工程において、図2に示したように、キャビティプレート13,14とベースプレート15,16とを空圧アクチュエータなどの駆動手段21,22によって分離し、(3)工程において、分離したキャビティプレート13,14をヒータ17,18のような加熱手段を用いて加熱する。なお、ヒータによるキャビティプレート13,14の温度制御は、PID制御などにより行うことができる。キャビティプレート13,14が、冷却されているベースプレート15,16と分離した状態、すなわち熱移動が遮蔽(断熱)された状態で加熱されるので、キャビティプレート13,14の急速な加熱が達成される。なお、ベースプレート15,16の冷却管19,20には、このときも冷却用媒体を流しておくのが前述したように好ましい形態である。
【0029】
前記(1)、(2)および(3)工程終了後、すなわち分離したキャビティプレート13,14の加熱完了後、(4)工程として、空圧アクチュエータなどの駆動手段21,22によって分離しているキャビティプレート13,14をベースプレート15,16に接触させ(図1に示す状態)、例えば表面に微細な凹凸部を有するキャビティプレート14上に溶融樹脂を塗布し、図4に示すように上金型11および下金型12を閉じて加圧し、両金型11,12間で形成される閉空間の形状に溶融樹脂の形状を整え、その後、キャビティプレート13,14のヒータ17,18をオフにし、同時にあらかじめ冷却しておいたベースプレート15,16との熱交換により、キャビティプレート13,14の急速冷却を行い、溶融樹脂を固化する。ベースプレート15,16の冷却管19,20には、このときも冷却用媒体を流しておくのが前述したように好ましい。
【0030】
成形体を得るのに十分な加圧および冷却状態が得られた後、図5に示すように、上金型11および下金型12を開放し、成形体23を金型装置から取り出し((5)工程)、製造工程が完了する。
【0031】
前記のように本発明によれば、金型を加熱すべき部位(キャビティ周辺部)とそれ以外の部位とを分離可能に構成したことで、当該部位の熱容量が低減し、金型の急速加熱および急速冷却が実現する。また、キャビティプレートの急速加熱にヒータを用いることで、比較的、簡単・簡易にキャビティプレートを加熱できるとともに、ヒータ特有の高温域(150℃以上)までの昇温特性や任意の温度への迅速な制御性を確保することができる。
【0032】
なお本発明におけるキャビティプレートとベースプレートの厚みの比率は、適宜決定すればよいが、キャビティプレートが成形体を賦形し、ベースプレートが加圧に対する金型強度を保つ役割を担っていることを考慮すると、キャビティプレートとベースプレートが同じ材質である場合、キャビティプレートの厚さのサイズを1としたとき、ベースプレートは1.5〜3であるのが好ましい。とくに、前記の形態のように、表面に微細な凹凸部を有するキャビティプレート14上に溶融樹脂を塗布し、上金型11および下金型12を閉じて加圧し、両金型11,12間で形成される閉空間の形状に溶融樹脂の形状を整え、その後、溶融樹脂を固化して成形体を得る製造工程では、10MPa以下という低圧で成形体を得ることができるため、金型の厚さをさらに薄くすることができ、金型の優れた急速加熱および冷却が達成される。
【0033】
次に、本発明でとくに好適な金型装置およびこれを用いた成形体の製造方法の形態について説明する。
図6は、本発明の好適な金型装置の一実施形態を説明するための断面図である。
図6に示す金型装置60は、図1に示す金型装置10とほぼ同様であるが、キャビティプレート13,14に、その加熱または冷却を可能にする温度調整手段をさらに有していることに特徴を有する。図6に示す形態における当該温度調整手段は、キャビティプレート13,14の内部にそれぞれ設けられるとともに加熱用または冷却用媒体を流す熱交換用配管61,62である。
【0034】
金型装置60は、図1に示す金型装置10と同様に、対向して配置される一対の上金型11および下金型12;両金型を構成するキャビティプレート13,14、ベースプレート15,16;キャビティプレートの加熱手段としてのヒータ17および18;ベースプレートの冷却手段としての冷却管19および20;駆動手段21および22を有する。
そして金型装置60は、キャビティプレート13,14の内部にそれぞれ、加熱用または冷却用媒体を流す熱交換用配管61,62を備える。
【0035】
図6で示した金型装置60を用いて成形体を製造する方法について説明する。
まず、(1)工程において、ベースプレート15,16を冷却手段によって冷却する。この冷却は、ベースプレート15,16の内部に設けられた冷却管19,20に、冷水のような冷却用媒体を流すことによって行うことができる。本発明では、冷却管19,20に冷却用媒体を常に流しておくのが好ましいことは、図1の金型装置10と同様である。
【0036】
続いて(2)工程において、図7に示したように、キャビティプレート13,14とベースプレート15,16とを空圧アクチュエータなどの駆動手段21,22によって分離する。
【0037】
次に、(3)工程において、分離したキャビティプレート13,14をヒータ17,18のような加熱手段を用いて加熱する。これと同時に、熱交換用配管61,62に加熱用媒体(例えば熱水または熱油)を流し、キャビティプレート13,14を急速加熱する。熱交換用配管61,62に加熱用媒体を流すことにより、ヒータ17,18の昇温応答遅れ分を助成することができ、キャビティプレート13,14をさらに迅速に加熱することができる。キャビティプレート13,14の加熱が完了した時点、または、ヒータ17,18の昇温応答遅れ分が助成された時点(例えばキャビティプレートの温度が80〜90℃に達した時点)で、熱交換用配管61,62に残存する加熱用媒体は、圧縮空気等を用いて除去することが望ましい。
【0038】
前記(1)、(2)および(3)工程終了後、すなわち分離したキャビティプレート13,14の加熱完了後、(4)工程として、空圧アクチュエータなどの駆動手段21,22によって分離しているキャビティプレート13,14をベースプレート15,16に接触させ(図6に示す状態)、例えば表面に微細な凹凸部を有するキャビティプレート14上に溶融樹脂を塗布し、図8に示すように上金型11および下金型12を閉じて加圧し、両金型11,12間で形成される閉空間の形状に溶融樹脂の形状を整え、その後、キャビティプレート13,14のヒータ17,18をオフにするとともに、熱交換用配管61,62に今度は冷却用媒体(例えば冷水)を流し、あらかじめ冷却しておいたベースプレート15,16との熱交換により、キャビティプレート13,14の急速冷却を行い、溶融樹脂を固化する。この形態によれば、キャビティプレート13,14の冷却が、ベースプレート15,16との熱交換に加え、熱交換用配管61,62に流入した冷却用媒体よっても行われるため、金型の一層の急速冷却が達成される。
【0039】
成形体を得るのに十分な加圧および冷却状態が得られた後、図9に示すように、上金型11および下金型12を開放し、成形体23を金型装置から取り出し((5)工程)、製造工程が完了する。なお、前記(1)〜(5)工程を繰り返す際は、キャビティプレート13,14の加熱工程((3)工程)に入る前に、熱交換用配管61,62に残存する冷却用媒体を、圧縮空気等を用いて除去することが望ましい。
【0040】
また、前記図3と同様に、金型装置60におけるキャビティプレート13,14と、ベースプレート15,16との接触面に真空吸着用溝23を設け、両プレートの接触時は、真空吸着用溝23を外部に設けられた真空装置(図示せず)と接続し、真空吸着用溝23内の空気を排出し、両者を緊密に接触・固定することが好ましい。
【0041】
図10は、本発明の金型装置60の急速加熱冷却回路を説明するための図である。
冷却装置71から冷却用媒体(例えば冷水)が流路7101,7102によってベースプレート15に、流路7101,7103によってベースプレート16の冷却管にそれぞれ供給され、再び冷却装置71に循環している。
また冷却装置71からの冷却用媒体は、流路7104から冷却用媒体の通過および遮断を可能にする弁81を経て流路7105,7106によってキャビティプレート13の熱交換用配管に、流路7105,7107によってキャビティプレート14の熱交換用配管にそれぞれ供給され、弁82を経て再び冷却装置71に循環している。
また、エアーコンプレッサー72から圧縮空気が流路7201から弁83を経て流路7105,7106によってキャビティプレート13の熱交換用配管に、流路7105,7107によってキャビティプレート14の熱交換用配管にそれぞれ供給される。
さらに、熱媒装置73から加熱用媒体(例えば熱水)が流路7301から弁84を経て流路7105,7106によってキャビティプレート13の熱交換用配管に、流路7105,7107によってキャビティプレート14の熱交換用配管にそれぞれ供給され、弁85を経て再び熱媒装置73に循環している。
キャビティプレート13,14のヒータは、図示しない制御装置により所望の温度となるようにオンオフが制御される。
【0042】
ベースプレート15,16の冷却は、前記したようにベースプレート15,16の冷却管に冷却用媒体を常に流し、冷却装置71に循環させておく。
分離したキャビティプレート13,14の加熱時は、ヒータを稼動させるとともに、弁84および85を開放し、キャビティプレート13,14の熱交換用配管に加熱用媒体を流し、熱媒装置73に循環させる。このとき、加熱用媒体が冷却装置71に到達しないように、弁81,82を閉じておく。キャビティプレート13,14の加熱が完了した時点、または、ヒータ17,18の昇温応答遅れ分が助成された時点(例えばキャビティプレートの温度が80〜90℃に達した時点)で、弁84を閉じ、弁83を開放してエアーコンプレッサー72からの圧縮空気によって熱交換用配管に残存する加熱用媒体を除去する。このとき弁85を閉じるとともに弁86を開放して除去した加熱用媒体を排水槽74内に廃棄してもよい。
キャビティプレート13,14の冷却時は、ヒータをオフにするとともに、弁81および82を開放し、キャビティプレート13,14の熱交換用配管に冷却用媒体を流し、冷却装置71に循環させる。このとき、冷却用媒体が熱媒装置73に到達しないように、弁84,85を閉じておく。成形体の製造が完了した時点で、弁81を閉じ、弁83を開放してエアーコンプレッサー72からの圧縮空気によって熱交換用配管に残存する冷却用媒体を除去する。このとき弁82を閉じるとともに弁86を開放して除去した冷却用媒体を排水槽74内に廃棄してもよい。
このようにして、金型装置60の急速加熱冷却が達成される。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、金型の急速加熱および急速冷却が可能であり、ハイサイクル化、品質改善が達成され、射出成形、プレス成形などにより成形体を製造するのに極めて適した金型装置およびこれを用いた成形体の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の金型装置の一実施形態を説明するための断面図である。
【図2】本発明の金型装置において、キャビティプレートとベースプレートが分離した状態を示す断面図である。
【図3】本発明の好ましい一実施形態を説明するための断面図である。
【図4】上金型および下金型を閉じて加圧した状態を説明するための断面図である。
【図5】上金型および下金型を開放し、成形体を金型装置から取り出す工程を説明するための断面図である。
【図6】本発明の好適な金型装置の一実施形態を説明するための断面図である。
【図7】本発明の好適な金型装置において、キャビティプレートとベースプレートが分離した状態を示す断面図である。
【図8】本発明の好適な金型装置において、上金型および下金型を閉じて加圧した状態を説明するための断面図である。
【図9】本発明の好適な金型装置において、上金型および下金型を開放し、成形体を金型装置から取り出す工程を説明するための断面図である。
【図10】本発明の金型装置の急速加熱冷却回路を説明するための図である。
【図11】金型を急速に加熱および冷却し成形体を得る従来技術を説明するための金型の断面図である。
【図12】金型を急速に加熱および冷却し成形体を得る従来技術を説明するための金型の断面図である。
【図13】金型を急速に加熱および冷却し成形体を得る従来技術を説明するための金型の断面図である。
【符号の説明】
【0045】
10,60 金型装置
11 上金型
12 下金型
13,14 キャビティプレート
15,16 ベースプレート
17,18 ヒータ
19,20 冷却管
21,22 駆動手段
23 真空吸着用溝
61,62 熱交換用配管
71 冷却装置
72 エアーコンプレッサー
73 熱媒装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向して配置される一対の金型を備え、両金型による加圧によって成形体を得る金型装置において、
前記金型の少なくともいずれか一方は、加熱手段を備えたキャビティプレートと、それを支える冷却手段を備えたベースプレートとから構成され、
前記キャビティプレートは、前記ベースプレートと分離および接触が可能であり、
前記キャビティプレートを加熱する際、前記キャビティプレートは前記ベースプレートと分離し、
前記キャビティプレートを冷却する際、前記キャビティプレートは前記ベースプレートと接触し、
前記両金型の加圧時は、前記キャビティプレートおよびベースプレートが接触し、前記キャビティプレートが成形体を賦形し、前記ベースプレートが加圧に対する金型強度を保つように構成したことを特徴とする金型装置。
【請求項2】
前記キャビティプレートおよびベースプレートの分離および接触を行う駆動手段をさらに備えてなることを特徴とする請求項1に記載の金型装置。
【請求項3】
前記キャビティプレートおよびベースプレートの接触する面に真空吸着用溝を設けるとともに、前記キャビティプレートおよびベースプレートの接触時は、真空吸着用溝内の空気を真空装置により排出することを特徴とする請求項1または2に記載の金型装置。
【請求項4】
前記キャビティプレートの加熱手段がキャビティプレート内部に設けられたヒータであり、前記ベースプレートの冷却手段がベースプレート内部に設けられるとともに冷却用媒体を流す冷却管であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の金型装置。
【請求項5】
前記キャビティプレートが、その加熱または冷却を可能にする温度調整手段をさらに有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の金型装置。
【請求項6】
前記キャビティプレートの温度調整手段が、キャビティプレート内部に設けられるとともに加熱用または冷却用媒体を流す熱交換用配管であることを特徴とする請求項5に記載の金型装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の金型装置を用いる成形体の製造方法であって、
(1)前記ベースプレートを冷却手段によって冷却する工程と、
(2)前記キャビティプレートとベースプレートとを分離する工程と、
(3)分離した前記キャビティプレートを加熱手段によって加熱する工程と、
(4)前記(1)、(2)および(3)工程終了後、前記キャビティプレートとベースプレートとを接触させ、両金型による加圧によって成形体を得る工程と、
(5)得られた成形体を金型装置から取り出す工程と
を有することを特徴とする成形体の製造方法。
【請求項8】
前記キャビティプレートおよびベースプレートの分離および接触が、駆動手段によって行われることを特徴とする請求項7に記載の成形体の製造方法。
【請求項9】
前記(4)工程において、前記キャビティプレートおよびベースプレートの接触する面に真空吸着用溝を設け、前記前記キャビティプレートおよびベースプレートの接触時は、真空吸着用溝内の空気を真空装置により排出することを特徴とする請求項7または8に記載の成形体の製造方法。
【請求項10】
前記(3)工程において、キャビティプレートの加熱をキャビティプレート内部に設けられたヒータによって行い、前記(1)工程において、前記ベースプレートの冷却をベースプレート内部に設けられた冷却管に冷却用媒体を流すことによって行うことを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【請求項11】
前記キャビティプレートに、その加熱または冷却を可能にする温度調整手段をさらに設け、前記温度調整手段が、キャビティプレート内部に設けられるとともに加熱用または冷却用媒体を流す熱交換用配管であることを特徴とする請求項7〜10のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【請求項12】
前記(3)工程において、キャビティプレートの加熱を前記ヒータの稼動と前記熱交換用配管に加熱用媒体を流すことにより行うことを特徴とする請求項11に記載の成形体の製造方法。
【請求項13】
前記(4)工程において、前記キャビティプレートとベースプレートとの接触時は、前記熱交換用配管に冷却用媒体を流すことを特徴とする請求項11に記載の成形体の製造方法。
【請求項14】
前記ベースプレート内部に設けられた冷却管に、冷却用媒体を常に流しておくことを特徴とする請求項7〜13のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【請求項15】
前記(4)工程において、前記金型の少なくとも一方が表面に微細な凹凸部を有する金型であり、前記微細な凹凸部上に溶融樹脂を塗布し、両金型を閉じて加圧し、両金型間で形成される閉空間の形状に前記溶融樹脂の形状を整え、その後、冷却された前記ベースプレートとキャビティプレートとの熱交換によって前記キャビィテプレートを急速冷却し、前記溶融樹脂を固化した後、前記(5)工程において、得られた成形体を金型装置から取り出すことを特徴とする請求項7〜14のいずれかに記載の成形体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2007−30432(P2007−30432A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−219893(P2005−219893)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】