説明

電動アクチュエータ

【課題】部品点数を削減した簡易な構造を有し、手動操作で所望の開度へ容易に調整でき、かつ全閉位置でシーティングフォースを印加し続けることができる電動アクチュエータを提供する。
【解決手段】電動モータ3の回転力を出力ねじ軸4に伝達する動力伝達機構又は指針レバー27の回転力を出力ねじ軸4に伝達する減速歯車機構を介して所定の荷重を超える回転力が出力ねじ軸4へ伝達されるのを規制する、キャリア14の当接部14a,14b、トルク抵抗部28及びマイクロスイッチ31からなるトルク制限手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動モータの回転を駆動対象物に伝達して駆動させる電動アクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
リニア型バルブには、ねじを切ったアクチュエータの出力軸(以下、出力ねじ軸と称す)の軸方向の移動に応じてバルブプラグが弁開口部を開閉して弁開度が制御されるものがある。このようなリニア型バルブでは、バルブの全閉状態を維持する場合、バルブプラグを全閉位置に移動させた後、内部リークを防ぐために一定荷重でバルブプラグを弁開口部に押圧し続ける必要がある(シーティングフォース印加)。
【0003】
モータ駆動時に全閉位置で通常駆動時よりも高いトルクで駆動させてシーティングフォースを印加する従来の技術としては、例えば特許文献1に開示されるものがある。この特許文献1の流量制御弁では、弁の閉止位置領域を判定し、弁が閉止した後一定時間ごとに信号をステッピングモータに入力することで、全閉位置でシーティングフォースを印加している。
【0004】
また、特許文献2には、モータ駆動時及び手動時にそれぞれ過トルクを検知するトルクリミッタを利用したトルク検知機構を備えたバルブ用アクチュエータが開示されている。特許文献2のアクチュエータでは、出力軸に動力を伝達する動力伝達機構を構成する歯車と、この歯車を取り付け設置する動力伝達軸との間にトルクリミッタ機構を介在させることにより、動力伝達機構に過負荷防止機能を持たせている。
【0005】
【特許文献1】特開平8−247323号公報
【特許文献2】特開2004−19938号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示される流量制御弁では、全閉位置をその都度判断してシーティングフォースを印加するため、ボール弁のように全閉位置の経年変化が比較的少ない弁形式では有効である。しかしながら、リニア型バルブのように弁開口部にバルブプラグを接触させて弁開度を制御する場合、バルブプラグの接触や流体の圧力によってシートリングが損耗することがある。
【0007】
このため、特許文献1のように全閉位置を検知する構成では、シートリングの損耗により全閉位置が顕著に経年変化した場合、高トルク駆動させる位置がずれてしまうという課題があった。この場合、位置判別手段に対して全閉位置を再設定しなければならず、調整作業が煩わしい。
【0008】
一方、特許文献2に開示される従来のアクチュエータでは、モータ駆動時用のトルク検知機構と手動操作用のトルク検知機構とを別個に設ける必要があり、部品点数が増加するという課題がある。
【0009】
また、特許文献1、2では、施工や調整、停電時等における作業で一般的に行われる弁開度の手動調整が考慮されておらず、手動操作によって全閉位置で適切なシーティングフォースを印加する構成は開示されていない。
【0010】
なお、手動操作において、アクチュエータ内の減速機構の前段(シーティングフォースを与えるトルク検知機構より電動モータ側)の歯車を手動で回転させて調整する場合、例えば全開位置から全閉位置まで調節するには数十回も回転させる必要があり操作性が悪くなる。
【0011】
これに対し、減速機構の最終段の歯車を手動で回転させて弁開度を調整する場合、少ない回転回数でよく、操作の手間は少ない。また、駆動源である電動モータと減速機構との連結を切断するクラッチ機構を設ければ、工具を用いずとも容易に手動操作を行うことが可能である。
【0012】
しかしながら、減速機構の最終段の歯車を手動で回転させて調整する構成では、全閉位置で閉じきった状態を維持する一定荷重を印加し続けることができない。また、減速機構の前段側でのバックラッシュにより隙間が空き、内部リークが発生する可能性がある。
【0013】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、部品点数を削減した簡易な構造を有し、手動操作で所望の開度へ容易に調整でき、かつ全閉位置でシーティングフォースを印加し続けることができる電動アクチュエータを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明に係る電動アクチュエータは、駆動対象物に連結される出力軸と、電動モータの回転力を出力軸に伝達する第1の減速歯車列と、手動操作レバーの回転力を出力軸に伝達する第2の減速歯車列と、第1の減速歯車列又は第2の減速歯車列を介して出力軸に伝達される回転力が所定値を超えると、出力軸への回転力の伝達を規制するトルク制限手段とを備えるものである。
【0015】
この発明に係る電動アクチュエータは、トルク制限手段が、第1の減速歯車列と第2の減速歯車列との間に介在し、出力軸に伝達される回転力により回動する回動部と、出力軸に伝達される回転力が所定値以下のとき回動部の回動を規制し、出力軸に伝達される回転力が所定値を超えたとき回動部の回動を許容するトルク抵抗手段と、回動部の回動を検知して電動モータへの通電を遮断する通電遮断手段とを備えるものである。
【0016】
この発明に係る電動アクチュエータは、第1の減速歯車列と電動モータとの連結を切断する電動/手動切替クラッチを備えるものである。
【0017】
この発明に係る電動アクチュエータは、手動操作レバーが、第1の減速歯車列及び第2の減速歯車列を介して伝達された電動モータの回転力により回動するものである。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、電動モータの回転力を出力軸に伝達する第1の減速歯車列又は手動操作レバーの回転力を出力軸に伝達する第2の減速歯車列を介して所定値を超える回転力の出力軸への伝達を規制するトルク制限手段を備えるので、電動操作と手動操作とで共通のトルク制限手段を有することから、本発明を適用するのに必要な部品点数を削減することができるという効果がある。
【0019】
この発明によれば、第1の減速歯車列と電動モータとの連結を切断する電動/手動切替クラッチを備えるので、手動操作時に電動モータとの連結を遮断することにより、手動操作レバーの回転に対して電動モータから負荷が加わることなく、手動操作を容易に行うことができるという効果がある。
【0020】
例えば、バルブの全閉位置まで手動操作で出力軸を動作させた後、シーティングフォースに相当する所定値を超える回転力が出力軸に加わるのをトルク制限手段で規制し、前記所定値の回転力に相当する荷重を加えた状態で電動モータと第1の減速歯車列との連結を復帰させることによりシーティングフォースが印加された状態を維持することができる。
【0021】
この発明によれば、手動操作レバーが第1の減速歯車列及び第2の減速歯車列を介して伝達された電動モータの回転力により回動するので、手動で出力軸を駆動させる手動操作レバーと出力軸の駆動に伴う駆動対象物の動作量(例えば、弁開度)を示す指針とを共通化することができ、本発明を適用するのに必要な部品点数を削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1による電動アクチュエータの構成を示す図であり、内部構成を説明するために電動アクチュエータの出力ねじ軸の軸方向に沿った断面を示している。また、図2は、図1中のA−A線に沿った断面矢視図であり、図3は、図1中のB−B線に沿った断面矢視図である。なお、図の例は、本発明の電動アクチュエータをリニア型バルブの駆動に適用した場合を示している。
【0023】
実施の形態1による電動アクチュエータ1は、ケーシング内に収納された支持プレート2、支持プレート2上に配置された電動モータ3、図1の下方側の一端に不図示のリニア型バルブの弁軸が連結される出力ねじ軸4、電動モータ3の回転を出力ねじ軸4に伝達する動力伝達機構、及びこの動力伝達機構と軸芯を共通にして構成された遊星歯車機構を備える。
【0024】
電動モータ3の回転軸3aに取り付けられた伝達ギア5は、大径の伝達ギア部6aと噛み合う。伝達ギア部6aは、小径の伝達ギア部6bと同軸に形成されており、伝達ギア部6a,6bは固定軸7を中心として一体に回転する。また、伝達ギア部6a,6bには、図1中に矢印で示すように固定軸7の軸方向に沿って伝達ギア部6a,6bの位置を変更することにより、電動モータ3側と出力ねじ軸4側との連結を切断するクラッチ機構が設けられる。
【0025】
このクラッチ機構では、電動操作において、固定軸7に設けたバネ7aにより軸方向に伝達ギア部6a,6bを付勢し、伝達ギア部6bと伝達ギア部8aとの噛み合い位置を維持する。また、手動操作においては、クラッチレバー7bの操作により、バネ7aの付勢力に反して固定軸7に沿って伝達ギア部6a,6bを支持プレート2側に移動させ、伝達ギア部6bと伝達ギア部8aとの噛み合いを解除することができる。
【0026】
また、伝達ギア部6bは大径の伝達ギア部8aと噛み合っている。伝達ギア部8aは、同軸に小径の伝達ギア部8bが一体に形成されており、伝達ギア部8a,8bは出力ねじ軸4を中心として一体に回転自在に取り付けられる。
【0027】
出力ねじ軸4の外周面には、出力歯車12の内ねじ12aと螺合するねじ部4aが形成されている。また、出力ねじ軸4の図1の下方一端には、図示しないリニア型バルブの弁軸が同軸に連結されており、出力ねじ軸4の軸方向の移動に応じてリニア型バルブ内で弁軸の一端に設けたバルブプラグが弁開口部を開閉して弁開度が調整される。
【0028】
伝達ギア部8bの周囲には、図1,2に示すように遊星歯車9が配置される(図示の例では、4つの遊星歯車9)。これら遊星歯車9は、キャリア11に設けた固定軸10を中心として回転自在に取り付けられており、太陽歯車となる伝達ギア部8bと、キャリア14上に形成された内歯車13と噛み合っている。これにより、遊星歯車9は、伝達ギア部8bを介して伝達された電動モータ3からの回転トルクによって固定軸10を中心として回転しながら伝達ギア部8b周りを公転する。
【0029】
また、キャリア11には、図1に示すように出力歯車12が形成される。この出力歯車12に形成された内ねじ12aは、出力ねじ軸4のねじ部4aと螺合している。これにより、電動モータ3から伝達された回転トルクによって出力歯車12が回転すると、図1中に矢印で示すように、出力ねじ軸4が軸方向に移動する。
【0030】
なお、上述した動力伝達機構(第1の減速歯車列)は、電動モータ3の回転軸3aに取り付けた伝達ギア5、伝達ギア部6a,6b、伝達ギア部8a,8b、遊星歯車9、キャリア11に形成した出力歯車12及び内歯車13から構成される。この動力伝達機構は、伝達ギア部6a,6bや伝達ギア部8a,8bを適切なギア径で構成することによって、所望の減速比で電動モータ3の回転を出力ねじ軸4に伝達する減速歯車機構として機能する。
【0031】
図2に示すように、キャリア14には、その外縁部から径方向外側に張り出すように当接部14a,14bが設けられる。また、当接部14a側には、キャリア14が出力ねじ軸4周りに回動することを一定の回転トルクまで抑制するトルク抵抗部28が設けられており、当接部14b側には、キャリア14が出力ねじ軸4周りに回動すると、スイッチ部が押下されてオン状態(又はオフ状態)に切替わるマイクロスイッチ(通電遮断手段)31が設けられる。
【0032】
トルク抵抗部28は、開口部が形成されたケース28aと、ケース28a内に設けたバネ30と、一端がバネ30により付勢され、他端がケース28aの開口部に挿通されてケースの外側に突出する伝達部材29とから構成される。このトルク抵抗部28は、図2に示すように、キャリア14の出力ねじ軸4周りの回動方向に沿って当接部14aを挟むように2基対向して配置される。2個の伝達部材29は各々が同時に当接部14aに当接しない程度に当接部14aに近接しており、当接した方の伝達部材29を介してバネ30から一定の付勢力が当接部14aに伝達される。これにより、バネ30の付勢力を超える回転トルクが加わるまでキャリア14の回動が規制される。
【0033】
マイクロスイッチ31も、図2に示すように、キャリア14の出力ねじ軸4周りの回動方向に沿って当接部14bを挟むように2個対向して配置される。バネ30の付勢力を超える回転トルクが加わってキャリア14が出力ねじ軸4周りを所定角度以上回動すると、当接部14bがスイッチ部32aを押下し、電動モータ3の通電が遮断される。このように、電動モータ3への通電を遮断することにより、所定値以上の過剰な回転トルクが出力ねじ軸4側に伝達されないようにしている。
【0034】
固定軸15は、キャリア14の内歯車13を設けた面の裏面に設けられ、遊星歯車16が固定軸15を中心として回転自在に取り付けられる。遊星歯車16は、出力歯車12の外歯車部12bと、プレート18上に形成した内歯車17とに噛み合っており、出力歯車12の回転によって固定軸15を中心として回転する。図3の例では、3つの遊星歯車16が、出力歯車12の外歯車部12b周りに配置されている。
【0035】
外歯車19は、プレート18の内歯車17を設けた面の裏面に設けられる。また、固定軸21はキャリア22に設けられ、遊星歯車20が固定軸21を中心に回転自在に取り付けられる。ベース24には、ベース24側の外輪25a、出力歯車12側の内輪25b及び外輪25aと内輪25bに狭持されるベアリングボール26からなるベアリングによって出力歯車12が回転自在に保持される。
【0036】
また、ベース24上には内歯車23が設けられており、遊星歯車20が、内歯車23とプレート18の外歯車19との双方に噛み合っている。これにより、遊星歯車20は、電動モータ3からの回転力が伝達されると、固定軸21を中心として回転しながら外歯車19周りを公転する。
【0037】
キャリア22の固定軸21を設けた面の裏面には指針取り付け軸22aが設けられる。
図4は、図1中のC−C線の断面矢視図である。図4に示すように、ベース24には、出力ねじ軸4を軸心とした円弧状の長孔部24aが形成されており、指針取り付け軸22aが長孔部24aに挿通される。また、長孔部24aを介してベース24の裏面側に突出した指針取り付け軸22aの端部には、指針レバー27が取り付けられる。指針レバー27は、基部となる一端が指針取り付け軸22aに取り付けられ、図4に示すように、出力ねじ軸4の軸芯からの放射線上に延びた形状を有している。
【0038】
ベース24の裏面には、長孔部24aに沿って弁開度に対応する目盛り(%)が記載されており、指針レバー27がどの目盛りに位置するかによって弁開度を視認することができる。図4の例では、弁開度が0%の状態(全閉状態)を示し、遊星歯車減速機構で電動モータ3の回転が減速されて指針レバー27に伝達されることにより指針レバー27が全開から全閉までにおよそ90°回動する。
【0039】
上述した遊星歯車機構(第2の減速歯車列)は、出力歯車12の外歯車部12b、プレート18に設けた内歯車17,外歯車19、外歯車部12bと内歯車17に噛み合う遊星歯車16、ベース24に設けた内歯車23、及びキャリア22に設けられて外歯車19、内歯車23にそれぞれ噛み合う遊星歯車20から構成される。この遊星歯車機構のキャリア22には弁開度の指針レバー27が取り付けられ、遊星歯車と内歯車の歯数等の組み合わせを適切に構成することにより、所望の動作量でかつ所望の動作速度で指針レバー27を出力ねじ軸4の軸方向の移動量に応じて動作させることができる。
【0040】
次に動作について説明する。
(1)電動操作(開方向、閉方向の動作)
電動操作における電動モータ3の回転トルクは、図1中に白抜きの矢印で示す経路で伝達される。先ず、電動モータ3の回転は、回転軸3aに取り付けた伝達ギア5からこれと噛み合う伝達ギア部6aに伝達される。これにより、伝達ギア部6a,6bが固定軸7を中心として一体に回転する。
【0041】
伝達ギア部6bが回転すると、これと噛み合う伝達ギア部8aが伝達ギア部8bと共に出力ねじ軸4を中心として回転する。伝達ギア部8bの回転は、遊星歯車9に伝達され、この遊星歯車9を介して出力歯車12に伝達される。これにより、出力歯車12が出力ねじ軸4周りを回転し、遊星歯車9が、固定軸10を中心として回転しながら伝達ギア部8b周りを公転する。
【0042】
出力歯車12が回転すると、出力歯車12の内ねじ12aとねじ部4aが螺合する出力ねじ軸4に出力歯車12の回転が伝達され、ねじ運動により出力ねじ軸4が軸方向に移動する。同時に出力歯車12の回転は、外歯車部12bを介して遊星歯車16に伝達され、遊星歯車16を介して内歯車17に伝達される。
【0043】
ここで、遊星歯車16を保持するキャリア14は、伝達された回転トルクがバネ30の付勢力より小さいと出力ねじ軸4周りを回転することはなく、遊星歯車16は固定軸15を中心として回転するのみである。この遊星歯車16の回転に伴って、内歯車17に回転トルクが伝達され、内歯車17を設けたプレート18が出力ねじ軸4周りに回転する。
【0044】
プレート18が出力ねじ軸4周りを回転すると、外歯車19を介して遊星歯車20に回転トルクが伝達される。これにより、遊星歯車20が、固定軸21を中心として回転しながら外歯車19を太陽歯車として公転し、その結果、キャリア22が出力ねじ軸4周りを回転する。このとき、指針レバー27は、キャリア22の回転に伴って出力ねじ軸4の軸方向の移動量に応じた弁開度を指し示す。
【0045】
なお、上述したように、図4の例では、バルブが全開から全閉になるまでに指針レバー27が出力ねじ軸4周りにおよそ90°回動する。このように、本発明では、指針レバー27の回転角が小さいため、指針が回転し過ぎてどの開度を示しているかわからなくなるようなことがない。また、指針レバー27を長くして回転半径を大きくすることにより、手動操作時における操作力を小さくすることも可能である。これにより、結果として操作角又は操作力の小さい使いやすい手動操作用レバーとして指針レバー27を兼用することができる。
【0046】
(2)電動操作における全閉時の動作
バルブの閉方向への出力ねじ軸4の移動が進み、リニア型バルブ内でバルブプラグが弁開口部に当接して全閉状態になると、出力ねじ軸4の軸方向の移動が規制され、出力歯車12の回転も規制される。この状態から電動モータ3の回転トルクが伝達ギア部8a,8bにさらに加わると、この回転トルクに比例した荷重で伝達ギア部8a,8bが出力ねじ軸4周りに回転し、回転トルクが遊星歯車9に伝達される。
【0047】
ここで、遊星歯車9を保持するキャリア11は出力歯車12と一体に形成されており、出力歯車12の回転が規制されていることから、遊星歯車9に加わった回転トルクは、内歯車13を介してキャリア14に伝達される。上述したように、キャリア14の外縁部には当接部14a,14bが設けられており、キャリア14に回転トルクが加わると、当接部14aからトルク抵抗部28の伝達部材29に伝達される。
【0048】
この後、電動モータ3からの回転トルクが、全閉時のシーティングフォースに相当するバネ30の付勢力を超えると、当接部14aが伝達部材29をバネ30の付勢力に反する方向に押圧しながら、キャリア14が出力ねじ軸4周りを回動する。このとき、キャリア14の当接部14bが、マイクロスイッチ31のスイッチ部32aを押下し、電動モータ3への電源供給が遮断される。これにより、全閉状態において、内部リークのない適切な荷重(シーティングフォース)でバルブプラグが弁開口部に押し付けられる。
【0049】
(3)手動操作(開方向、閉方向の動作)
本実施の形態1では、指針レバー27を手動操作時の回転レバーとして利用する。指針レバー27を手動で回転させて発生した回転トルクは、図1中に黒塗りの矢印で示す経路で伝達される。
【0050】
先ず、クラッチレバー7bを操作して伝達ギア部6bと伝達ギア部8aとの噛み合いを解除して、電動モータ3側と出力ねじ軸4側との連結を遮断する。この後、指針レバー27を手動で回転させると、これに伴いキャリア22が出力ねじ軸4周りに回転し、この回転が遊星歯車20を介して外歯車19に伝達される。
【0051】
指針レバー27の手動操作による回転トルクが、外歯車19を介してプレート18に伝達されると、プレート18は出力ねじ軸4周りに回転する。プレート18が出力ねじ軸4周りに回転すると、プレート18に設けた内歯車17を介して遊星歯車16に回転トルクが伝達される。
【0052】
上述したように、遊星歯車16を保持するキャリア14は、回転トルクが所定値以下である間、出力ねじ軸4周りに回動しない。このとき、遊星歯車16は、内歯車17を介して伝達された回転トルクによって固定軸15を中心に回転し、この回転トルクを外歯車部12bに伝達する。
【0053】
遊星歯車16を介して外歯車部12bに回転トルクが伝達されると、出力歯車12が出力ねじ軸4を中心に回転し、遊星歯車9が伝達ギア部8b周りを公転する。これにより、出力ねじ軸4が軸方向に移動し、手動により弁開度が操作される。
【0054】
(4)手動操作時における全閉時の動作
手動操作によりバルブの閉方向への出力ねじ軸4の移動が進み、リニア型バルブ内でバルブプラグが弁開口部に当接して全閉状態になると、出力ねじ軸4の軸方向の移動が規制され、出力歯車12の回転も規制される。これにより、手動で指針レバー27を回転させる荷重が大きくなり、操作者が全閉状態になったことを認識できる。
【0055】
この状態から指針レバー27をさらに回転させると、この回転トルクに比例した荷重でキャリア22が出力ねじ軸4周りに回動し、遊星歯車20を介して回転トルクが外歯車19に伝達される。外歯車19に回転トルクが伝達されると、これに伴いプレート18が出力ねじ軸4周りを回転し、内歯車17を介して遊星歯車16に回転トルクが伝達される。
【0056】
ここで、出力歯車12の回転は規制されているので、この状態で遊星歯車16に回転トルクが伝達されると、この回転トルクは遊星歯車16の公転力を介してキャリア14に回転トルクとして伝達される。上述したように、キャリア14の外縁部には当接部14a,14bが設けられており、キャリア14に回転トルクが加わると、この回転トルクは当接部14aを介してトルク抵抗部28の伝達部材29に伝達される。
【0057】
このようにして、指針レバー27の手動操作による回転トルクが、全閉時のシーティングフォースに相当するバネ30の付勢力を超えると、当接部14aにより伝達部材29をバネ30の付勢力に反する方向に押圧しながら、キャリア14が出力ねじ軸4周りを回転する。この状態でクラッチレバー7bを操作して伝達ギア部6bと伝達ギア部8aとの噛み合う状態に復帰させることにより、内部リークのない適切な荷重でバルブプラグが弁開口部に押し付けられた全閉状態が維持される。
【0058】
なお、上述したクラッチ機構を設けず、電動モータ3側と連結しながら指針レバー27を手動で回転させても、内部リークのない適切な荷重でバルブプラグを弁開口部に押し付けることができる。この場合、指針レバー27の手動操作によって電動モータ3の回転軸3aも回転させなければならず、手動操作の荷重が大きい。
【0059】
また、所定のシーティングフォースを超える過剰な回転トルクが掛かっても伝達部材29が所定位置以上に押圧されないようにトルク抵抗部28を調整しておき、指針レバー27を手動操作してキャリア14の当接部14aにより伝達部材29が一杯に押圧された位置で所定のシーティングフォースが与えられるように構成してもよい。例えば、図4に示すように、ベース24に設けた長孔部24aを全閉位置から指針取り付け軸22aが所定位置以上閉方向へ移動しないように構成する。これにより、キャリア14が所定角度以上回転しない。
【0060】
以上のように、この実施の形態1によれば、電動モータ3の回転力を出力ねじ軸4に伝達する動力伝達機構又は指針レバー27の回転力を出力ねじ軸4に伝達する遊星歯車機構を介して所定の荷重を超える回転力が出力ねじ軸4へ伝達されるのを規制する、キャリア14の当接部14a,14b、トルク抵抗部28及びマイクロスイッチ(通電遮断手段)31からなるトルク規制手段を備えたので、電動操作と手動操作とで共通のトルク制限手段を有することから、本発明を適用するのに必要な部品点数を削減することができる。
【0061】
また、この実施の形態1によれば、動力伝達機構と電動モータ3との連結を切断する、バネ7aやクラッチレバー7bからなるクラッチ機構を備えるので、手動操作時に電動モータ3との連結を遮断することにより、指針レバー27の回転に対して電動モータ3から負荷が加わることなく、手動操作を容易に行うことができる。
【0062】
例えば、指針レバー27の手動操作によりバルブプラグが弁開口部を閉め切った位置でさらに押圧力を加えるとトルク制限手段が作動し、この状態で電動モータ3側との連結を復帰させることでシーティングフォースを維持することができる。
【0063】
さらに、この実施の形態1によれば、出力ねじ軸4を移動させる出力歯車12に対し、電動モータ3の回転力を出力ねじ軸4に伝達する減速歯車機構とは別に軸芯を共通にして指針レバー27の回転力を出力ねじ軸4に伝達する遊星歯車機構を構成し、この遊星歯車機構において遊星歯車が噛み合うように減速していき、回転トルクが伝達される最終段のキャリア22と一体に動作する指針レバー27を連結したので、指針レバー27を回転系の動作量又は動作速度が大きく視認し易い開度指針とすることができる。
【0064】
上記実施の形態1による電動アクチュエータ1では、指針レバー27の回転角が小さいため、指針が回転し過ぎてどの開度を示しているかわからなくなるようなことがない。また、指針レバー27に対して回転トルクを伝達する歯車をトルクリミッタ機構よりも出力側に設けることで、指針レバー27の操作量を低減することができる。この他、指針レバー27の長さを長くしてその回転の半径を大きくすることにより、手動操作時における操作力を小さくすることも可能である。これにより、結果として操作角又は操作力の小さい使いやすい手動操作用レバーとして指針レバー27を兼用することができる。従って、本発明を適用するのに必要な部品点数を削減できる。
【0065】
なお、上記実施の形態1では、図3に示すように、3つの遊星歯車16が外歯車部12bを太陽歯車として配置される構成を示したが、これに限定されるものではない。例えば、遊び歯車を介して遊星歯車と内歯車とを連結するように構成してもよいし、通常の1段歯車や2段歯車で構成してもよい。
【0066】
なお、上記実施の形態1では、出力歯車12の回転により出力ねじ軸4が軸方向に移動して弁開度が制御されるリニア型バルブに本発明を適用した例を示したが、これに限定されるものではない。
【0067】
例えば、出力軸と出力歯車を一体に形成し、出力軸をねじ軸としてリニア型バルブの弁開度を制御するように構成してもよい。さらに、出力ねじ軸が軸方向に移動しないが、出力歯車が軸方向に移動することにより弁開度を制御するアクチュエータを構成しても良い。
【0068】
図5は、実施の形態1による電動アクチュエータの他の構成を示す図であり、内部構成を説明するために電動アクチュエータの出力ねじ軸の軸方向に沿った断面を示している。なお、図5において図1と同一構成要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。図5の例では、遊星歯車20Bがベース24に設けられ、固定軸21Bを中心として自転する。遊星歯車20Bと噛み合う内歯車23Bを設けた基台22Bは、出力ねじ軸4周りを回転可能に設けられる。また、この基台22Bには、指針取り付け軸22bを介して指針レバー27を連結し、内歯車23の回転に伴い指針レバー27が出力ねじ軸4周りを回動する。
【0069】
遊星歯車16が外歯車部12b周りを回転すると、プレート18に設けた内歯車17,19を介して遊星歯車20Bに回転トルクが伝達される。これにより、遊星歯車20Bがベース24に設けた固定軸21Bを中心として回転し、その結果、内歯車23Bを介して基台22Bが出力ねじ軸4周りを回転する。このとき、指針レバー27は、基台22Bの回転に伴って出力ねじ軸4の軸方向の移動量に応じた弁開度を指し示す。このように構成することによっても、上記実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】実施の形態1による電動アクチュエータの構成を示す図である。
【図2】図1中のA−A線に沿った断面矢視図である。
【図3】図1中のB−B線に沿った断面矢視図である。
【図4】図1中のC−C線に沿った断面矢視図である。
【図5】実施の形態1による電動アクチュエータの他の構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0071】
1 電動アクチュエータ
2 支持プレート
3 電動モータ
3a 回転軸
4 出力ねじ軸
4a ねじ部
5 伝達ギア
6a,6b,8a,8b,16b 伝達ギア部
7,10,15,15a,21,21B 固定軸
7a バネ
7b クラッチレバー
9,16,16a,20,20B 遊星歯車
11,14,22 キャリア
22B 基台
12 出力歯車
12a 内ねじ
12b 外歯車部
13,17,23,23B 内歯車
14a,14b 当接部
18 プレート
19 外歯車
22a,22b 指針取り付け軸
24 ベース
24a 長孔部
25a 外輪
25b 内輪
26 ベアリングボール
27 指針レバー
28 トルク抵抗部
28a ケース
29 伝達部材
30 バネ
31 マイクロスイッチ(通電遮断手段)
32a スイッチ部
33 遊び歯車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動対象物に連結される出力軸と、
電動モータの回転力を前記出力軸に伝達する第1の減速歯車列と、
手動操作レバーの回転力を前記出力軸に伝達する第2の減速歯車列と、
前記第1の減速歯車列又は前記第2の減速歯車列を介して所定値を超える回転力の前記出力軸への伝達を規制するトルク制限手段とを備えた電動アクチュエータ。
【請求項2】
トルク制限手段は、
第1の減速歯車列と第2の減速歯車列との間に介在し、出力軸に伝達される回転力により回動する回動部と、
前記出力軸に伝達される回転力が所定値以下のとき前記回動部の回動を規制し、前記出力軸に伝達される回転力が前記所定値を超えたとき前記回動部の回動を許容するトルク抵抗手段と、
前記回動部の回動を検知して電動モータへの通電を遮断する通電遮断手段とを備えたことを特徴とする請求項1記載の電動アクチュエータ。
【請求項3】
第1の減速歯車列と電動モータとの連結を切断する電動/手動切替クラッチを備えたことを特徴とする請求項1記載の電動アクチュエータ。
【請求項4】
手動操作レバーは、第1の減速歯車列及び第2の減速歯車列を介して伝達された電動モータの回転力により回動することを特徴とする請求項1記載の電動アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−38946(P2009−38946A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−203441(P2007−203441)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(000006666)株式会社山武 (1,808)
【Fターム(参考)】