説明

電動式直動アクチュエータおよび電動式ブレーキ装置

【課題】直線運動する出力部材に横向きのモーメントが作用しても、出力部材の直線運動をスムーズに案内できるようにすることと、回転軸や遊星ローラの外径面と外輪部材の内径面での摩耗を防止することである。
【解決手段】遊星ローラ7を支持するキャリヤ6の軸方向への移動を規制して、ハウジング1の円筒部1aの内径面に軸方向へスライド可能に内嵌された外輪部材5を、連結される被駆動物にキー22で回り止めし、外輪部材5を直線運動する出力部材とするとともに、回転軸4の外径面、遊星ローラ7の螺旋溝7aの部分を含む外径面、および外輪部材5の内径面に周着された螺旋凸条を形成する条部材5bの表面に硬質めっき層を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータの回転運動を直線運動に変換して被駆動物を直線駆動する電動式直動アクチュエータと、電動式直動アクチュエータを用いてブレーキ部材を被制動部材に押圧する電動式ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動モータの回転運動を直線運動に変換して被駆動物を直線駆動する電動式直動アクチュエータには、運動変換機構としてボールねじ機構やボールランプ機構を採用したものが多く、小容量の電動モータで大きな直線駆動力が得られるように、遊星歯車減速機構等の歯車減速機構を組み込んだものが多い(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上述した電動式直動アクチュエータに採用されているボールねじ機構やボールランプ機構は、リードを有するねじ筋や傾斜カム面に沿わせる運動変換機構によって、ある程度の増力機能を有するが、電動式ブレーキ装置等で必要とされるような大きな増力機能は確保できない。このため、これらの運動変換機構を採用した電動式直動アクチュエータでは、遊星歯車減速機構等の別途の減速機構を組み込んで駆動力を増力しているが、このように別途の減速機構を組み込むことは、電動式直動アクチュエータのコンパクトな設計を阻害する。
【0004】
このような問題に対して、本発明者らは、別途の減速機構を組み込むことなく大きな増力機能を確保でき、大推力を必要とする電動式ブレーキ装置にも好適な電動式直動アクチュエータとして、電動モータから回転を伝達される回転軸と、この回転軸の外径側でハウジングの内径面に固定された外輪部材との間に、キャリヤに回転自在に支持された複数の遊星ローラを介在させて、これらの遊星ローラが回転軸の回転に伴って回転軸の周りを自転しながら公転するようにし、外輪部材の内径面に螺旋凸条を設け、遊星ローラの外径面に、螺旋凸条と同一ピッチで螺旋凸条が嵌まり込む周方向溝、または螺旋凸条と同一ピッチでリード角が異なり螺旋凸条が嵌まり込む螺旋溝を設けて、回転軸の周りを自転しながら公転する遊星ローラを支持するキャリヤを軸方向へ相対移動させ、回転軸の回転運動をキャリヤの直線運動に変換して、キャリヤまたはキャリヤに連結される直線駆動部材を被駆動物を直線駆動する出力部材とした機構を先に提案している(特許文献2、3参照)。
【0005】
一方、車両用ブレーキ装置としては油圧式のものが多く採用されてきたが、近年、ABS(Antilock Brake System)等の高度なブレーキ制御の導入に伴い、これらの制御を複雑な油圧回路なしに行うことができる電動式ブレーキ装置が注目されている。電動式ブレーキ装置は、ブレーキペダルの踏み込み信号等で電動モータを作動させ、上述したような電動式直動アクチュエータをキャリパボディに組み込んでブレーキ部材を被制動部材に押圧するものである(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−327190号公報
【特許文献2】特開2007−32717号公報
【特許文献3】特開2007−37305号公報
【特許文献4】特開2003−343620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2、3に記載されたキャリヤまたはキャリヤに連結される直線駆動部材を直線運動する出力部材とした電動式直動アクチュエータは、別途の減速機構を組み込むことなく、コンパクトな設計で大きな増力機能を確保できるが、直線運動するキャリヤや直線駆動部材は軸方向の長さ寸法が比較的短いので、例えば、この電動式直動アクチュエータを用いた電動式ブレーキ装置では、被駆動物とされるブレーキ部材に被制動部材から接線力が作用するが、この接線力の一部がブレーキ部材に連結されるキャリヤや直線駆動部材に横向きのモーメントとして作用し、これらの直線運動のスムーズな案内が困難になる問題がある。外輪部材で案内される直線駆動部材をブレーキ部材に連結する場合は、ブレーキ部材が摩耗したときに、直線駆動部材の外輪部材からの軸方向突出量が大きくなって、その案内長さが短くなるので、直線駆動部材のスムーズな案内がより困難になる。
【0008】
また、前記電動式直動アクチュエータは、繰り返し使用すると、回転軸と遊星ローラの外径面や外輪部材の内径面で摩耗が進行する。これらの摩耗が進行してガタが大きくなると、自転しながら公転する遊星ローラに、半径方向の傾きや円周方向の傾き(スキュー)が生じやすくなる。このように遊星ローラに半径方向や円周方向の傾きが生じると、互いに噛み合う螺旋凸条と周方向溝や螺旋溝との当たりが不均一となって、これらの間で局部的に過大な荷重が発生し、螺旋凸条または周方向溝や螺旋溝が部分的に欠損する恐れがある。さらに、外輪部材の螺旋凸条や遊星ローラの周方向溝または螺旋溝が摩耗した場合は、螺旋凸条の各条筋における周方向溝や螺旋溝との当りが不均一となって、一部の条筋での周方向溝や螺旋溝との接触面圧が過大となり、これらの接触部位で焼付きや欠損等が発生する恐れもある。
【0009】
そこで、本発明の課題は、直線運動する出力部材に横向きのモーメントが作用しても、出力部材の直線運動をスムーズに案内できるようにすることと、回転軸や遊星ローラの外径面と外輪部材の内径面での摩耗を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明は、電動モータから回転を伝達される回転軸と、この回転軸の外径側でハウジングの内径面に内嵌した外輪部材との間に、キャリヤに回転自在に支持された複数の遊星ローラを介在させて、これらの遊星ローラが前記回転軸の回転に伴って回転軸の周りを自転しながら公転するようにし、前記外輪部材の内径面に螺旋凸条を設け、前記遊星ローラの外径面に、前記螺旋凸条と同一ピッチで螺旋凸条が嵌まり込む周方向溝、または螺旋凸条と同一ピッチでリード角が異なり螺旋凸条が嵌まり込む螺旋溝を設けて、前記外輪部材と前記キャリヤとを軸方向へ相対移動させ、前記回転軸の回転運動を出力部材の軸方向への直線運動に変換して、直線運動する出力部材に連結される被駆動物を直線駆動する電動式直動アクチュエータにおいて、前記キャリヤの軸方向への移動を規制し、前記外輪部材を回り止めして、前記ハウジングの内径面に軸方向へスライド可能に内嵌し、前記外輪部材を直線運動する出力部材として、前記回転軸の外径面、前記各遊星ローラの外径面および前記外輪部材の内径面の少なくともいずれかに表面硬化処理を施した構成を採用した。
【0011】
すなわち、キャリヤの軸方向への移動を規制し、外輪部材を回り止めして、ハウジングの内径面に軸方向へスライド可能に内嵌し、外輪部材を直線運動する出力部材とすることにより、出力部材としての外輪部材をハウジングの内径面で軸方向に長い寸法で案内可能とし、直線運動する出力部材に横向きのモーメントが作用しても、出力部材の直線運動をスムーズに案内できるようにするとともに、回転軸の外径面、前記各遊星ローラの外径面および前記外輪部材の内径面の少なくともいずれかに表面硬化処理を施すことにより、回転軸と遊星ローラの外径面や外輪部材の内径面での摩耗を防止できるようにした。
【0012】
前記外輪部材の内径面に設けた螺旋凸条を、外輪部材の内径面に設けた螺旋溝に周着した条部材で形成することにより、螺旋凸条を容易に精度よく形成することができる。
【0013】
前記螺旋溝に周着した条部材で形成した螺旋凸条の上面を案内する案内面を設けることにより、螺旋溝に周着した条部材の脱落を防止することができる。螺旋凸条の上面を案内する案内面は、遊星ローラを支持するキャリヤや、キャリヤに固定した別体の案内部材に設けることができる。
【0014】
前記外輪部材の内径面に設けた螺旋凸条の表面および前記遊星ローラの外径面に設けた周方向溝または螺旋溝の表面の少なくとも一方に表面硬化処理を施すことにより、螺旋凸条や螺旋凸条が嵌まり込む周方向溝または螺旋溝における焼付きや欠損を防止することができる。
【0015】
前記表面硬化処理は硬質めっき処理とすることができる。硬質めっき処理としては、硬質Crめっき、Ni−Bめっき、Ni−Pめっき等を挙げることができる。
【0016】
前記表面硬化処理を施した部材を、炭素含有量0.3質量%以下の低炭素鋼を素材として、浸炭処理を施したものとすることにより、これらの耐摩耗性をより向上させることができる。
【0017】
前記表面硬化処理を施した部材を、炭素含有量0.3質量%を超える中炭素鋼を素材として、焼入れ、焼戻し処理を施したものとすることによっても、これらの耐摩耗性をより向上させることができる。
【0018】
前記外輪部材の内径面に設けた螺旋凸条および前記遊星ローラの外径面に設けた螺旋溝の少なくともいずれかを多条螺旋のものとすることにより、螺旋凸条と螺旋溝のリード角の差を設定する自由度を大きくすることができる。
【0019】
前記螺旋凸条の次の(1)式で表される等価リード角αを0.5°以下、好ましくは0.3°以下とすることにより、軸方向荷重によって外輪部材の螺旋凸条と遊星ローラの周方向溝または螺旋溝との間に滑りが生じて、遊星ローラが逆向きに遊星回転しないように、外輪部材が押し戻されないように荷重保持機能を確保することができる。
【数1】

【0020】
前記等価リード角αを0.5°以下としたのは、実験結果に基づくものであり、螺旋凸条と周方向溝または螺旋溝の間の潤滑状態が良い場合は、0.3°以下とするのが好ましい。
【0021】
前記等価リード角αの正接は、回転軸の外径面の回転変位に対する外輪部材の軸方向移動量Xとして定義され、(2)式で表される。
【数2】

ここに、Dsは回転軸の外径、θsは回転軸の回転角度であり、Ds・θsは回転軸の外径面の回転変位となる。
【0022】
前記外輪部材の軸方向移動量Xは、螺旋凸条のリード角αoと遊星ローラの周方向溝または螺旋溝のリード角αpとの差で生じるので、(3)式で表される。なお、周方向溝の場合は、リード角αpは零となる。
【数3】

ここに、Doは外輪部材の内径、θpは遊星ローラの公転角度である。
【0023】
また、前記遊星ローラの公転角度θpは、(4)式で表される。
【数4】

(4)式は、プラネタリ型遊星減速機における速度伝達比の式と等価なものであり、(3)式と(4)式を(2)式に代入して整理することにより、(1)式が得られる。
【0024】
(1)式は、ねじの回転に伴うねじ軸の軸方向移動量を定義するリード角に相当する。ねじ傾斜面の滑り摩擦で軸方向荷重を保持するねじでは、ねじ傾斜面の潤滑状態等によって異なるが、軸方向荷重を保持できる限界リード角は3〜5°程度であることが知られている。上述した軸方向荷重を保持できるように本発明で限定した等価リード角αは、このねじの限界リード角に較べると1オーダ小さく、ボールねじの限界リード角と近い値になっている。この理由は、直動アクチュエータの遊星ローラが、ボールねじのボールのように、回転軸と外輪部材の間で遊星回転するためと考えられる。
【0025】
また、本発明は、電動モータの回転運動を直線運動に変換してブレーキ部材を直線駆動する電動式直動アクチュエータを備え、前記直線駆動されるブレーキ部材を被制動部材に押圧する電動式ブレーキ装置において、前記電動式直動アクチュエータに上述したいずれかの電動式直動アクチュエータを用いた構成を採用することにより、ブレーキ部材に被制動部材から作用する接線力が、直線運動する出力部材に横向きのモーメントとして作用しても、出力部材の直線運動をスムーズに案内でき、かつ、回転軸と遊星ローラの外径面や外輪部材の内径面での摩耗を防止できるようにした。
【発明の効果】
【0026】
本発明の電動式直動アクチュエータは、遊星ローラを支持するキャリヤの軸方向への移動を規制し、外輪部材を回り止めして、ハウジングの内径面に軸方向へスライド可能に内嵌し、外輪部材を直線運動する出力部材とするとともに、回転軸の外径面、各遊星ローラの外径面および外輪部材の内径面の少なくともいずれかに表面硬化処理を施したので、直線運動する出力部材に横向きのモーメントが作用しても、出力部材の直線運動をスムーズに案内することができ、かつ、回転軸と遊星ローラの外径面や外輪部材の内径面での摩耗を防止して、遊星ローラに半径方向や円周方向の傾きが生じないようにすることができる。
【0027】
また、本発明の電動式ブレーキ装置は、被制動部材に押圧するブレーキ部材を、上述した電動式直動アクチュエータを用いて直線駆動するようにしたので、ブレーキ部材に被制動部材から作用する接線力が、直線運動する出力部材に横向きのモーメントとして作用しても、出力部材の直線運動をスムーズに案内することができ、かつ、回転軸と遊星ローラの外径面や外輪部材の内径面での摩耗を防止して、遊星ローラに半径方向や円周方向の傾きが生じないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】電動式直動アクチュエータの実施形態を示す縦断面図
【図2】図1のII−II線に沿った断面図
【図3】図1のIII−III線に沿った断面図
【図4】(a)、(b)は、それぞれ図1の外輪部材の螺旋凸条と遊星ローラの螺旋溝を示す正面図
【図5】図1の遊星ローラの近傍を拡大して示す断面図
【図6】図5の変形例を示す断面図
【図7】図1の電動式直動アクチュエータを採用した電動式ブレーキ装置を示す縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。この電動式直動アクチュエータは、図1乃至図3に示すように、ハウジング1の円筒部1aの一端側に片側へ張り出すフランジ1bが設けられ、このフランジ1bに電動モータ2が円筒部1aと平行に取り付けられて、電動モータ2のロータ軸2aの回転が歯車3a、3b、3cによって円筒部1aの中心に配設された回転軸4に伝達されるようになっており、回転軸4と円筒部1aの内径面に軸方向へスライド可能に内嵌された外輪部材5との間に、キャリヤ6に回転自在に支持された4個の遊星ローラ7が介在し、各遊星ローラ7が回転軸4の回転に伴って、その周りを自転しながら公転するようになっている。
【0030】
前記ハウジング1のフランジ1bを設けた側には蓋1cが取り付けられ、歯車3a、3b、3cは蓋1cで覆われた空間の軸方向同一断面内で噛み合うように配設されている。また、円筒部1aの蓋1c側には軸支持部材8が内嵌され、歯車3cを取り付けられた回転軸4の基端側が軸支持部材8に玉軸受9で支持されている。軸支持部材8は両側を止め輪10でハウジング1に固定されおり、回転軸4やキャリヤ6の軸方向への移動を規制する役割もする。なお、ロータ軸2aに取り付けられた歯車3aと歯車3cに噛み合う中間歯車3bは、フランジ1bと蓋1cに差し渡された軸ピン11に玉軸受12で支持されている。
【0031】
前記遊星ローラ7と一緒に公転するキャリヤ6は、キャリヤ本体6aが焼結材で形成されたすべり軸受13を介して回転軸4に相対回転可能に外嵌されて、スラストころ軸受14を介して軸支持部材8の端面に当接され、回転軸4の基端側への移動を規制されている。すべり軸受13は、樹脂、セラミックス、もしくはアルミニウム合金、銅合金等の金属、またはこれらの複合材で形成してもよい。また、各遊星ローラ7はキャリヤ6の支持ピン6bに針状ころ軸受15で回転自在に支持されて、キャリヤ本体6aと反対側を、支持ピン6bに止め輪16で固定された押さえ板6cで抜け止めされ、その自転をスラストころ軸受17でキャリヤ本体6aに支持されている。
【0032】
前記回転軸4の先端側には止め輪18が装着され、キャリヤ6の押さえ板6cが焼結材で形成されたすべり軸受19を介して止め輪18に当接され、回転軸4の先端側へのキャリヤ6の移動が規制されている。すべり軸受19も、樹脂、セラミックス、もしくはアルミニウム合金、銅合金等の金属、またはこれらの複合材で形成してもよい。押さえ板6cには遊星ローラ7側へ延びる部分円筒部6dが一体に形成され、この部分円筒部6dの内径側に、遊星ローラ7の外径面に潤滑剤を塗布する扇形状の潤滑剤塗布部材20が保持されている。この部分円筒部6dの外径面は、後述する外輪部材5の条部材5bで形成された螺旋凸条の上面を案内する案内面ともなる。また、外輪部材5の端部内径面には、これらの遊星ローラ7や潤滑剤塗布部材20が配置された内径部を外部と遮断するように、円筒周縁部を有するシール部材21が内嵌されている。シール部材21は薄鋼板のプレス加工で形成されている。シール部材21は、樹脂やゴムで形成することもできる。
【0033】
前記外輪部材5の先端側には被駆動物が連結され、その先端面には被駆動物に回り止めされるキー22が設けられている。したがって、ハウジング1の円筒部1aの内径面に軸方向へスライド可能に内嵌された外輪部材5は、両方向への軸方向移動を規制されたキャリヤ6に対して相対移動して直線運動する出力部材となる。外輪部材5に被駆動物が連結される側の円筒部1aは開口しており、外輪部材5は円筒部1aの内径面で軸方向に長い長さ寸法で案内されて、円筒部1aから突出するように長いストロークでスムーズに直線運動する。
【0034】
図4(a)に示すように、前記各遊星ローラ7が転接する外輪部材5の内径面には2条の螺旋溝5aが設けられ、各螺旋溝5aに周着された別体の条部材5bで、外輪部材5の内径面に2条の螺旋凸条が形成されている。この2条の螺旋凸条は、前記(1)式で定義される等価リード角αが0.3°以下とされ、外輪部材5が押し戻されないように、荷重保持機能を確保できるようになっている。
【0035】
また、図4(b)に示すように、前記遊星ローラ7の外径面には、条部材5bで形成された螺旋凸条が嵌まり込み、螺旋凸条と同一ピッチでリード角の異なる1条の螺旋溝7aが設けられている。これらの螺旋凸条と螺旋溝7aの係合によって、回転軸4の周りを自転しながら公転する遊星ローラ7が、螺旋凸条と螺旋溝7aとのリード角の差によって、外輪部材5と軸方向へ相対移動する。なお、外輪部材5の螺旋凸条を2条の多条螺旋としたのは、遊星ローラ7の螺旋溝7aとのリード角の差の設定自由度を大きくするためであり、螺旋凸条は1条のものとしてもよい。また、遊星ローラ7の螺旋溝7aは、螺旋凸条と同一ピッチの周方向溝とすることもできる。
【0036】
図5に示すように、前記遊星ローラ7の外径面の螺旋溝7aは、溝幅が溝底側から溝縁側へ広がるように両側の側壁が傾斜し、条部材5bで形成された外輪部材5の内径面の螺旋凸条は、基部側から頂部側へ条幅が狭まるように、両側の側面が螺旋溝7aの側壁の傾斜角と等しい角度で傾斜している。したがって、遊星ローラ7が外輪部材5の内径面に転接しながら、外輪部材5の螺旋凸条が遊星ローラ7のリード角が異なる螺旋溝7aに嵌まり込むときに、螺旋凸条の肩部が螺旋溝7aの溝縁部に接触することはない。
【0037】
前記回転軸4、螺旋凸条を形成する条部材5bおよび遊星ローラ7は、炭素含有量0.3質量%以下の低炭素鋼を素材として、浸炭処理を施されており、回転軸4の外径面、条部材5bの表面、および遊星ローラ7の螺旋溝7aの部分を含む外径面には、表面硬化処理としての硬質Crめっきによる硬質めっき層23が形成されている。これらの硬質めっき層23は、Ni−BめっきやNi−Pめっき等の硬質めっき処理によって形成してもよい。
【0038】
図6は、図5の外輪部材5の螺旋凸条の変形例を示す。この変形例では、螺旋凸条が外輪部材5と一体に形成されており、回転軸4、外輪部材5および遊星ローラ7が炭素含有量0.3質量%を超える中炭素鋼を素材として焼入れ、焼戻し処理を施され、回転軸4の外径面、螺旋凸条の表面を含む外輪部材5の内径面、および遊星ローラ7の螺旋溝7aの表面を含む外径面に、硬質Crめっきによる硬質めっき層23が形成されている。
【0039】
図7は、上述した電動式直動アクチュエータを採用した電動式ブレーキ装置を示す。この電動式ブレーキ装置は、キャリパボディ31の内部で被制動部材としてのディスクロータ32の両側に、ブレーキ部材としてのブレーキパッド33を対向配置したディスクブレーキであり、キャリパボディ31に電動式直動アクチュエータのハウジング1が固定され、直線運動する出力部材としての外輪部材5がキー22で被駆動物としてのブレーキパッド33に回り止めされ、ブレーキパッド33をディスクロータ32に押圧するようになっている。なお、この図では、電動式直動アクチュエータが図1で示した断面と直交する断面で示されている。
【0040】
上述した実施形態と変形例では、回転軸の外径面、遊星ローラの外径面および外輪部材の内径面の螺旋凸条の全部に表面硬化処理を施したが、これらの各部材の表面硬化処理の一部を省略することもできる。
【符号の説明】
【0041】
1 ハウジング
1a 円筒部
1b フランジ
1c 蓋
2 電動モータ
2a ロータ軸
3a、3b、3c 歯車
4 回転軸
5 外輪部材
5a 螺旋溝
5b 条部材
6 キャリヤ
6a キャリヤ本体
6b 支持ピン
6c 押さえ板
6d 部分円筒部
7 遊星ローラ
7a 螺旋溝
8 軸支持部材
9 玉軸受
10 止め輪
11 軸ピン
12 玉軸受
13 すべり軸受
14 スラストころ軸受
15 針状ころ軸受
16 止め輪
17 スラストころ軸受
18 止め輪
19 すべり軸受
20 潤滑剤塗布部材
21 シール部材
22 キー
23 硬質めっき層
31 キャリパボディ
32 ディスクロータ
33 ブレーキパッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータから回転を伝達される回転軸と、この回転軸の外径側でハウジングの内径面に内嵌した外輪部材との間に、キャリヤに回転自在に支持された複数の遊星ローラを介在させて、これらの遊星ローラが前記回転軸の回転に伴って回転軸の周りを自転しながら公転するようにし、前記外輪部材の内径面に螺旋凸条を設け、前記遊星ローラの外径面に、前記螺旋凸条と同一ピッチで螺旋凸条が嵌まり込む周方向溝、または螺旋凸条と同一ピッチでリード角が異なり螺旋凸条が嵌まり込む螺旋溝を設けて、前記外輪部材と前記キャリヤとを軸方向へ相対移動させ、前記回転軸の回転運動を出力部材の軸方向への直線運動に変換して、直線運動する出力部材に連結される被駆動物を直線駆動する電動式直動アクチュエータにおいて、前記キャリヤの軸方向への移動を規制し、前記外輪部材を回り止めして、前記ハウジングの内径面に軸方向へスライド可能に内嵌し、前記外輪部材を直線運動する出力部材として、前記回転軸の外径面、前記各遊星ローラの外径面および前記外輪部材の内径面の少なくともいずれかに表面硬化処理を施したことを特徴とする電動式直動アクチュエータ。
【請求項2】
前記外輪部材の内径面に設けた螺旋凸条を、外輪部材の内径面に設けた螺旋溝に周着した条部材で形成した請求項1に記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項3】
前記螺旋溝に周着した条部材で形成した螺旋凸条の上面を案内する案内面を設けた請求項2に記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項4】
前記外輪部材の内径面に設けた螺旋凸条の表面および前記遊星ローラの外径面に設けた周方向溝または螺旋溝の表面の少なくとも一方に表面硬化処理を施した請求項1乃至3のいずれかに記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項5】
前記表面硬化処理が硬質めっき処理である請求項1乃至4のいずれかに記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項6】
前記表面硬化処理を施した部材を、炭素含有量0.3質量%以下の低炭素鋼を素材として、浸炭処理を施したものとした請求項1乃至5のいずれかに記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項7】
前記表面硬化処理を施した部材を、炭素含有量0.3質量%を超える中炭素鋼を素材として、焼入れ、焼戻し処理を施したものとした請求項1乃至5のいずれかに記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項8】
前記外輪部材の内径面に設けた螺旋凸条および前記遊星ローラの外径面に設けた螺旋溝の少なくともいずれかを多条螺旋のものとした請求項1乃至7のいずれかに記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項9】
前記螺旋凸条の次の(1)式で表される等価リード角αを0.5°以下とした請求項1乃至8のいずれかに記載の電動式直動アクチュエータ。
【数1】

【請求項10】
電動モータの回転運動を直線運動に変換してブレーキ部材を直線駆動する電動式直動アクチュエータを備え、前記直線駆動されるブレーキ部材を被制動部材に押圧する電動式ブレーキ装置において、前記電動式直動アクチュエータに請求項1乃至9のいずれかに記載の電動式直動アクチュエータを用いたことを特徴とする電動式ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−172378(P2011−172378A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−33606(P2010−33606)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】