説明

電動式4輪駆動車の駆動制御装置

【課題】ディファレンシャル装置を介して前輪を駆動する駆動源と、ディファレンシャル装置を介して後輪を駆動する駆動源とのうち少なくとも一方が車輪駆動用モータである電動式4輪駆動車において、駆動制御時の一瞬の遅れがなく、突然の車輪のスリップによる駆動力の抜けやトラクション不足を防止することができる電動式4輪駆動車の駆動制御装置を提供する。
【解決手段】前輪側のディファレンシャル装置と後輪側のディファレンシャル装置との間に、前輪側及び後輪側のうち、回転の速い側から回転の遅い側へトルク移動する2組のヘリカルギヤ対311、312、321、322を用いた駆動制御装置30が介在することで、前輪回転数と後輪回転数とで回転数差がある、車輪スリップ発生時や、コーナリング時にあっては、トルク伝達がタイムラグ無しに働く4輪駆動となり、突然の車輪のスリップによる駆動力の抜けやトラクション不足を防止することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動式4輪駆動車の駆動制御装置に関し、さらに詳しくは、前輪側及び後輪側の双方または一方に車輪駆動用モータを有する4輪駆動車の駆動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、前輪側及び後輪側の双方または一方に車輪駆動用モータを有する4輪駆動車が知られている。
【0003】
特許文献1には、前輪側及び後輪側の双方に車輪駆動用モータを有する電動式4輪駆動車の4輪の何れかの車輪がスリップし、スリップ制御要求がなされたときには、アクセルペダルポジション、ブレーキペダルポジション、車速をマップデータに入力して駆動軸要求トルクを求め、この駆動軸要求トルクに基づいて配分されるトルクよりスリップ輪のトルクを小さく設定し、また、非スリップ輪のトルクを駆動軸要求トルクが出力されるよう設定する。さらに、スリップ輪のトルク及び非スリップ輪のトルクを用いて前後輪トルク比を算出し、この前後輪トルク比と駆動軸要求トルクとに基づいて前輪駆動用モータ及び後輪駆動用モータをフィードバック制御することが提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−67723号公報(段落0028、0029、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載されている駆動制御では、駆動制御ルーチンの実行に伴うスリップ制御時の一瞬の遅れが、一般的な穏やかな走りをする電動式4輪駆動車では特に問題にはならないが、高出力のスポーティカーや走り重視の車、競技車両等では、突然の車輪のスリップによる駆動力の抜けやトラクションの不足として車両挙動にでてしまう。
【0006】
本発明は上記背景により、駆動制御時の一瞬の遅れがなく、突然の車輪のスリップによる駆動力の抜けやトラクション不足を防止することができる電動式4輪駆動車の駆動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1、もしくは請求項2に記載の電動式4輪駆動車の駆動制御装置は、
ディファレンシャル装置を介して前輪を駆動する駆動源と、ディファレンシャル装置を介して後輪を駆動する駆動源とのうち少なくとも一方が車輪駆動用モータである電動式4輪駆動車において、
前記前輪側のディファレンシャル装置と前記後輪側のディファレンシャル装置との間に、双方に連係する駆動制御装置が介在し、前記駆動制御装置は、前記前輪側のディファレンシャル装置から後輪側に向かって延設され、前記前輪側の駆動源に連動して回転する第1の回転軸により回転する第1の回転体と、前記後輪側のディファレンシャル装置から前輪側に向かって延設され、前記後輪側の駆動源に連動して回転する第2の回転軸により回転する第2の回転体とが互いに押し付け自在に配され、
前記第1の回転体と前記第2の回転体の間に摩擦力を発生させる摩擦部材が配され、前記第1の回転体と前記第2の回転体との間で前記摩擦部材を介してトルク移動することを構成要件とする場合と(請求項1)、
前進時に、前記第1の回転軸と前記第2の回転軸との間に回転数差がない場合には、前記前輪側の駆動源の発生トルクと前記後輪側の駆動源の発生トルクとに応じて前輪及び後輪が駆動され、前記第1の回転軸と前記第2の回転軸との間に回転数差がある場合には、前記第1の回転体と前記第2の回転体のうちどちらか一方の回転の速い側から回転の遅い側へトルク移動することを構成要件とする場合とがある(請求項2)。
【0008】
ディファレンシャル装置を介して前輪を駆動する駆動源と、ディファレンシャル装置を介して後輪を駆動する駆動源とのうち少なくとも一方が車輪駆動用モータである電動式4輪駆動車とは、前輪側及び後輪側のうちどちらか一方にエンジンを搭載し、他方に車輪駆動用モータを搭載する場合と、前輪側及び後輪側の双方に車輪駆動用モータを搭載する場合とがある。前輪側及び後輪側の双方に車輪駆動用モータを搭載する場合、双方の車輪駆動用モータの回転数が同じであっても出力トルクが異なる場合と、ほぼ同一回転数で出力トルクもほぼ同一の場合とがある。また、車輪駆動用モータは、モータにも発電機にもなるモータジェネレータの場合と、専用発電機を有するバッテリレスのモータの場合とがある。
【0009】
前輪側のディファレンシャル装置と後輪側のディファレンシャル装置との間に、双方に連係する駆動制御装置が介在するとは、前輪側のディファレンシャル装置から後輪側のディファレンシャル装置に至るまでの間に駆動制御装置が介在することであり、前輪側のディファレンシャル装置から後輪側のディファレンシャル装置に至るまでの間であれば、駆動制御装置を前輪側のディファレンシャル装置に寄せて配置しても、後輪側のディファレンシャル装置に寄せて配置しても、双方の中間に配置してもよく、駆動制御装置の配置は、任意である。
【0010】
前輪側のディファレンシャル装置から後輪側に向かって延設され、前輪側の駆動源に連動して回転する第1の回転軸は、前輪側のディファレンシャル装置と第1の回転軸との間に、前輪側のディファレンシャル装置の最終減速歯車装置の出力ギヤの回転方向を90度曲げて第1の回転軸に伝達する直交軸ギヤ対を介在させることにより可能となる。また、この前輪側のディファレンシャル装置の最終減速歯車装置の出力ギヤには、前輪側の駆動源に接続された入力軸の回転方向を90度曲げる直交軸ギヤ対を介して、前輪側の駆動源からの駆動力が伝達される。
この第1の回転軸の回転により回転する第1の回転体とは、第1の回転軸に設けられた駆動ギヤに噛み合う従動ギヤのことである(請求項3)。
【0011】
後輪側のディファレンシャル装置から前輪側に向かって延設され、後輪側の駆動源に連動して回転する第2の回転軸は、後輪側のディファレンシャル装置と第2の回転軸との間に、後輪側のディファレンシャル装置の最終減速歯車装置の出力ギヤの回転方向を90度曲げて第2の回転軸に伝達する直交軸ギヤを介在させることにより可能となる。また、この後輪側のディファレンシャル装置の最終減速歯車装置の出力ギヤには、後輪側の駆動源に接続された入力軸の回転方向を90度曲げる直交軸ギヤ対を介して、後輪側の駆動源からの駆動力が伝達される。
この第2の回転軸の回転により回転する第2の回転体とは、第2の回転軸に設けられた駆動ギヤに噛み合う従動ギヤのことである(請求項3)。
【0012】
第1の回転軸により回転する第1の回転体と、第2の回転軸により回転する第2の回転体とが互いに押し付け自在に配されとは、具体的には、前輪側の駆動ギヤ及び従動ギヤと、後輪側の駆動ギヤ及び従動ギヤとが、噛み合い時にお互いの位置が軸方向でずれる力が発生するヘリカルギヤ対(はすば歯車対)であることにより実現する(請求項4)。
すなわち、前輪側の駆動ギヤに噛み合って軸方向に移動する前輪側の従動ギヤ(第1の回転体)と、後輪側の駆動ギヤに噛み合って軸方向に移動する後輪側の従動ギヤ(第2の回転体)とを同軸上に互いに押し付け自在に配する。この配置によれば、第1の回転体と第2の回転体とが、それぞれのディファレンシャル装置の最終減速装置の出力ギヤの駆動力、すなわち駆動源の駆動力により、それら周面の捻れ角の分力でお互いを押し付け合う方向に力が働くこととなる。これら第1の回転体と第2の回転体の間に摩擦部材を配する場合がある(請求項1)。摩擦部材には、第1の回転体と第2の回転体との間でトルク移動自在とする、例えば、メタル、セラメタ、メタルグラスファイバー等を用いたフェーシング材が用いられる。これにより、駆動源の出力トルクの高い方に比例したトルク伝達がタイムラグ無しに、そして高い再現性で常に働く4輪駆動となるので、安定感のある、先読みの出来る車両挙動が実現する。また、コーナリング時にあっては、前輪が後輪よりも速く回転するため、前輪側から後輪側にトルク移動するので、前輪の縦方向のグリップが減り、その縦方向のグリップが減った分、横方向のグリップの限界が高まるのでコーナリング性が向上する。
【0013】
また、前進時に、第1の回転軸と第2の回転軸との間に回転数差がない場合には、前輪側の駆動源の発生トルクと後輪側の駆動源の発生トルクとに応じて前輪及び後輪が駆動される(請求項2)。これは、第1の回転軸と第2の回転軸との間に回転数差がない走行時、例えば、一定速での直進走行時にあっては、前輪と後輪との間でトルク移動がないということである。前輪と後輪との間でトルク移動がないということは、第1の回転体と第2の回転体が同期回転し前輪側の駆動源の発生トルクと後輪側の駆動源の発生トルクとに応じた4輪駆動となる。
【0014】
また、前進時に、第1の回転軸と第2の回転軸との間に回転数差がある場合には、回転の速い側から回転の遅い側へトルク移動するとは(請求項2)、前輪回転数と後輪回転数との間に回転数差がある走行時、例えば、車輪スリップ時、コーナリング時にあっては、前輪側と後輪側のトルクが高い方に応じたトルクが回転数の高い側から低い側へ移動する。これにより、駆動源の出力トルクの高い方に比例したトルク伝達がタイムラグ無しに、そして高い再現性で常に働く4輪駆動となるので、安定感のある、先読みの出来る車両挙動が実現する。また、コーナリング時にあっては、前輪が後輪よりも速く回転するため、前輪側から後輪側にトルク移動するので、前輪の縦方向のグリップが減り、その縦方向のグリップが減った分、横方向のグリップの限界が高まるのでコーナリング性が向上する。
なお、ヘリカルギヤの捻れ角に応じて、初期時の互いの押し付け力が設定されるため、トルク移動量がチューニング自在とされるので、ヘリカルギヤの捻れ角は、任意である。
また、トルク移動量のチューニングは、ヘリカルギヤの捻れ角のみに限定されるものではなく、第1の回転体と第2の回転体の間に配する摩擦部材の材質(摩擦係数)を変更することによっても可能である。
【発明の効果】
【0015】
前輪側のディファレンシャル装置と後輪側のディファレンシャル装置との間に、前輪側及び後輪側のうち、回転の速い側から回転の遅い側へトルク移動する駆動制御装置が介在することで、前輪回転数と後輪回転数とで回転数差がある走行時、例えば、車輪スリップ発生時や、コーナリング時にあっては、出力トルクの高い側から出力トルクの低い側へトルク移動がなされるので、駆動源の出力トルクの高い方に比例したトルク伝達がタイムラグ無しに、そして高い再現性で常に働く4輪駆動となる。従って、安定感のある、先読みの出来る車両挙動が実現する。その結果、駆動制御時の一瞬の遅れがなく、突然の車輪のスリップによる駆動力の抜けやトラクション不足を防止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0017】
図1は、ディファレンシャル装置14を介して前輪12a、12bを駆動する駆動源と、ディファレンシャル装置24を介して後輪22a、22bを駆動する駆動源とのうち少なくとも一方が車輪駆動用モータである電動式4輪駆動車1において、
前輪側のディファレンシャル装置14と後輪側のディファレンシャル装置24との間に、双方に連係する駆動制御装置30が介在した概要を示す。
【0018】
初めに電動式4輪駆動車1の前輪駆動系10及び後輪駆動系20の説明を行う。図2に示すように、電動式4輪駆動車1は、前輪側及び後輪側の双方に、駆動源として、発電機にもなる車輪駆動用モータ(モータジェネレータ)11、21を有している。
【0019】
車輪駆動用モータ11、21は、ロータの表面に磁石が貼り合わされたSPMモータが用いられる場合と、ロータの内部に磁石が埋め込まれたIPMモータが用いられる場合とがあり、車速、アクセル開度、ブレーキ開度等に基づいて前輪12a、12b及び後輪22a、22bに出力すべきトルクが得られるようにモータ用電子制御ユニット(ECU)2により駆動制御される。前進時にあっては車輪駆動用モータ11、21は一方向に回転し、後退時にあっては車輪駆動用モータ11、21は他方向に回転する。ここでの一方向とは、後述する第1の回転体としての第1のヘリカルドリブンギヤ312と、第2の回転体としての第2のヘリカルドリブンギヤ322とが互いに押し付け合う方向に移動(力を発生)する回転方向のことである。
【0020】
また、これら車輪駆動用モータ11、21は、減速、制動時の回生ブレーキでは発電機として働き、充電を行う。車輪駆動用モータ11、21が発電した電力はバッテリ3に蓄えられると共に、バッテリ3に蓄えられた電力によって車輪駆動用モータ11、21が駆動する。バッテリ3には、例えば、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池等の充放電可能なバッテリが用いられる。このバッテリ3の直流は、バッテリ3と車輪駆動用モータ11、21との間に配されたインバータ内蔵のコントロールユニット4により、モータ駆動のための交流に変換される。また、このコントロールユニット4によりモータ駆動用の電圧が昇圧される。なお、バッテリ3及びコントロールユニット4は、モータ用電子制御ユニット2の制御下にある。
【0021】
前輪側の車輪駆動用モータ11の駆動力は、車輪駆動用モータ11後部に連設された減速機構部13にてモータ回転数が減速されてトルクが増加されたのちディファレンシャル装置14に伝達される。
【0022】
前輪側のディファレンシャル装置14は、車輪駆動用モータ11に接続された入力軸142の回転方向を、車体幅方向に伸びた左右駆動軸143a、143bの回転方向に変換する最終減速歯車装置(ファイナルギヤ装置)140と、ファイナルギヤ装置140を経た駆動力を左右駆動軸143a、143bに均等に配分しながら、車両旋回時には左右駆動軸143a、143bを異なる回転数で回転させる差動歯車装置(ディファレンシャルギヤ装置)141とにより、減速機構部13からの駆動力を前輪12a、12bに伝達する。
【0023】
すなわち、ファイナルギヤ装置140に伝達された駆動力は、入力軸142に設けられたベベルピニオンギヤ(入力ギヤ)144にベベルリングギヤ(出力ギヤ)145が噛み合うことによって、入力軸142の回転方向が90度曲げられて左右駆動軸143a、143bの回転方向に変換される。回転方向が変換された駆動力は、このベベルリングギヤ145に接続されたディファレンシャルケース146から、ディファレンシャルケース146と一体回転する一対のディファレンシャルベベルピニオン147に噛み合う一対のディファレンシャルベベルギヤ148を経て左右駆動軸143a、143bに伝達される。
【0024】
また、後輪側の車輪駆動用モータ21の駆動力は、車輪駆動用モータ21前部に連設された減速機構部23にてモータ回転数が減速されてトルクが増加されたのちディファレンシャル装置24に伝達される。
【0025】
後輪側のディファレンシャル装置24は、車輪駆動用モータ21に接続された入力軸242の回転方向を、車体幅方向に伸びた左右駆動軸243a、243bの回転方向に変換する最終減速歯車装置(ファイナルギヤ装置)240と、ファイナルギヤ装置240を経た駆動力を左右駆動軸243a、243bに均等に配分しながら、車両旋回時には左右駆動軸243a、243bを異なる回転数で回転させる差動歯車装置(ディファレンシャルギヤ装置)241とにより、減速機構部23からの駆動力を左右車輪243a、243bに伝達する。
【0026】
すなわち、ファイナルギヤ装置240に伝達された駆動力は、入力軸242に設けられたベベルピニオンギヤ(入力ギヤ)244にベベルリングギヤ(出力ギヤ)245が噛み合うことによって、入力軸の回転方向が90度曲げられて左右駆動軸243a、243bの回転方向に変換される。回転方向が変換された駆動力は、このベベルリングギヤ245に接続されたディファレンシャルケース246から、ディファレンシャルケース246と一体回転する一対のディファレンシャルベベルピニオン247に噛み合う一対のディファレンシャルベベルギヤ248を経て左右駆動軸243a、243bに伝達される。
【0027】
これら前輪側のディファレンシャル装置14と後輪側のディファレンシャル装置24との間のほぼ中間位置に駆動制御装置30が介在する。
【0028】
図1に示すように、駆動制御装置30は、前輪側のディファレンシャル装置14のベベルリングギヤ145に噛み合うベベルピニオンギヤ310を一端部に有し(図2参照)、後輪側のディファレンシャル装置24に向かって回転自在に延設された第1の回転軸としての第1のプロペラシャフト31と、この第1のプロペラシャフト31の他軸端に設けられた第1のヘリカルドライブギヤ(駆動ギヤ)311と、第1のヘリカルドライブギヤ311の半径方向に回転自在に配され、第1のヘリカルドライブギヤ311と噛み合う第1の回転体としての第1のヘリカルドリブンギヤ(従動ギヤ)312と、後輪側のディファレンシャル装置24のベベルリングギヤ245に噛み合うベベルピニオンギヤ320を一端部に有し(図2参照)、前輪側のディファレンシャル装置14に向かって回転自在に延設された第2の回転軸としての第2のプロペラシャフト32と、この第2のプロペラシャフト32の他端部に設けられた第2のヘリカルドライブギヤ(駆動ギヤ)321と、第2のヘリカルドライブギヤ321の半径方向に回転自在に配され、第2のヘリカルドライブギヤ321と噛み合う第2の回転体としての第2のヘリカルドリブンギヤ(従動ギヤ)322とを備える。
【0029】
第1のプロペラシャフト31と第2のプロペラシャフト32とは同軸上に配される。また、第1のヘリカルドリブンギヤ312及び第2のヘリカルドリブンギヤ322は、両端がケース33に支持された中間シャフト34の軸上に、第1のヘリカルドリブンギヤ312の後面と第2のヘリカルドリブンギヤ322の前面とが互いに摺接した状態で互いに相対回転自在に配される。
なお、第1のヘリカルドリブンギヤ312及び第2のヘリカルドリブンギヤ322が同軸上にあれば、第1のプロペラシャフト31と第2のプロペラシャフト32は必ずしも同軸上になくてもよい。
【0030】
第1のヘリカルドライブギヤ311は右ねじれ、第1のヘリカルドリブンギヤ312は左ねじれとされ、第2のヘリカルドライブギヤ321は左ねじれ、第2のヘリカルドリブンギヤ322は右ねじれとされており、前進時における車輪駆動用モータ11、21の一方向への回転により、第1のヘリカルドリブンギヤ312と第2のヘリカルドリブンギヤ322とが、それぞれの車輪駆動用モータ11、21の駆動力に応じて互いに押し付け合う方向に移動する。
【0031】
なお、第1のヘリカルドライブギヤ311、第1のヘリカルドリブンギヤ312、第2のヘリカルドライブギヤ321、第2のヘリカルドリブンギヤ322のねじれ方向は、前進時における車輪駆動用モータ11、21の回転方向に応じて左ねじれか右ねじれかが設定されるため、任意である。但し、第1のヘリカルドライブギヤ311と第1のヘリカルドリブンギヤ312とのねじれ方向は互いに異なり、また、第2のヘリカルドライブギヤ321と第2のヘリカルドリブンギヤ322とのねじれ方向も互いに異なる。
【0032】
従って、第1のヘリカルドリブンギヤ312と第2のヘリカルドリブンギヤ322とは、第1のプロペラシャフト31(すなわち前輪)と第2のプロペラシャフト32(すなわち後輪)との間に回転数差がない場合には、前輪側の車輪駆動用モータ11の発生トルクと後輪側の車輪駆動用モータ21の発生トルクとに応じて発生するヘリカルギヤの捻れ角の分力により互いに押し付け合うのみであり、前輪12a、12b及び後輪22a、22b間でのトルク移動は発生せず、前輪側の駆動源の発生トルクと後輪側の駆動源の発生トルクとに応じた4輪駆動となる。
また、第1のヘリカルドリブンギヤ312と第2のヘリカルドリブンギヤ322とは、第1のプロペラシャフト31(前輪)と第2のプロペラシャフト32(後輪)との間に回転数差がある場合には、第1のヘリカルドリブンギヤ312と第2のヘリカルドリブンギヤ322とのうち回転の速い側から回転の遅い側へトルク移動する。
なお、前輪12a、12b及び後輪22a、22bのトルク移動量は、ヘリカルギヤの捻れ角および摩擦部材、具体的には、フェーシング材(メタル、セラメタ、メタルグラスファイバー等)の変更)よりチューニング自在とされる。
【0033】
前記した構成により、第1のプロペラシャフト31と第2のプロペラシャフト32との間に回転数差がない、一定速での直進走行時にあっては、前輪12a、12bと後輪22a、22bとの間ではトルク移動は無いが、回転同期が働いており、前輪側の車輪駆動用モータ11の発生トルクと後輪側の車輪駆動用モータ21の発生トルクとに応じた4輪駆動となる。
また、第1のプロペラシャフト31と第2のプロペラシャフト32との間に回転数差がある、車輪スリップ時、コーナリング時にあっては、回転数の高い側から低い側へトルク移動がタイムラグなしになされるので、前輪12a、12b及び後輪22a、22bの間でトルク伝達が生じる。これにより、車輪駆動用モータ11、21のうち何れかの出力トルクの高い方に比例した前後トルク伝達がタイムラグ無しに、そして高い再現性で常に働く4輪駆動となるので、安定感のある、先読みの出来る車両挙動が実現する。また、コーナリング時にあっては、前輪12a、12bが後輪22a、22bよりも速く回転するため、前輪側から後輪側にトルク移動するので、前輪12a、12bの縦方向のグリップが減り、その縦方向のグリップが減った分、横方向のグリップの限界が高まるのでコーナリング性が向上する。それらの結果、駆動制御時の一瞬の遅れがなく、突然の車輪のスリップによる駆動力の抜けやトラクション不足を防止することが可能となる。
【0034】
なお、本発明にあっては、車輪駆動用モータ14と駆動制御装置30とを連係する第1のプロペラシャフト31と、車輪駆動用モータ24と駆動制御装置30とを連係する第2のプロペラシャフト32とが必要となるが、高出力な1モータと、センタディファレンシャル装置との組合せとするよりは、小出力な2モータと、第1のプロペラシャフト31及び第2のプロペラシャフト32との組合せの方がスペース効率上、有利である。これは、第1のプロペラシャフト31及び第2のプロペラシャフト32は駆動力を伝達するものではなく、前輪及び後輪のトルク伝達を可能とする最小限の強度を有すればよいためである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の駆動制御装置を説明するための説明図である。
【図2】駆動制御装置を前輪側のディファレンシャル装置と後輪側のディファレンシャル装置との中間位置に配置した電動式4輪駆動車の前輪駆動系及び後輪駆動系を説明するための概略図である。
【符号の説明】
【0036】
1…駆動制御装置、2…モータ用電子制御ユニット(ECU)、3…バッテリ、4…コントロールユニット

10…前輪駆動系、11…車輪駆動用モータ(駆動源)、12a…前輪(左前輪)、12b…前輪(右前輪)、13…減速機構部、14…ディファレンシャル装置、140…最終減速歯車装置、141…差動歯車装置、142…入力軸、143a…左駆動軸、143b…右駆動軸、144…ベベルピニオンギヤ、145…ベベルリングギヤ、146…ディファレンシャルケース、147…ディファレンシャルベベルピニオン、148…ディファレンシャルベベルギヤ

20…前輪駆動系、21…車輪駆動用モータ(駆動源)、22a…後輪(左後輪)、22b…後輪(右後輪)、23…減速機構部、24…ディファレンシャル装置、240…最終減速歯車装置、241…差動歯車装置、242…入力軸、243a…左駆動軸、243b…右駆動軸、244…ベベルピニオンギヤ、245…ベベルリングギヤ、246…ディファレンシャルケース、247…ディファレンシャルベベルピニオン、248…ディファレンシャルベベルギヤ

30…駆動制御装置、31…第1のプロペラシャフト(第1の回転体)、310…ベベルピニオンギヤ、311…ヘリカルドライブギヤ(駆動ギヤ)、312…ヘリカルドリブンギヤ(従動ギヤ、第1の回転体)、32…第2のプロペラシャフト(第2の回転体)、320…ベベルピニオンギヤ、321…ヘリカルドライブギヤ(駆動ギヤ)、322…ヘリカルドリブンギヤ(従動ギヤ、第2の回転体)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディファレンシャル装置を介して前輪を駆動する駆動源と、ディファレンシャル装置を介して後輪を駆動する駆動源とのうち少なくとも一方が車輪駆動用モータである電動式4輪駆動車において、
前記前輪側のディファレンシャル装置と前記後輪側のディファレンシャル装置との間に、双方に連係する駆動制御装置が介在し、
前記駆動制御装置は、
前記前輪側のディファレンシャル装置から後輪側に向かって延設され、前記前輪側の駆動源に連動して回転する第1の回転軸により回転する第1の回転体と、
前記後輪側のディファレンシャル装置から前輪側に向かって延設され、前記後輪側の駆動源に連動して回転する第2の回転軸により回転する第2の回転体とが互いに押し付け自在に配され、
前記第1の回転体と前記第2の回転体の間に摩擦力を発生させる摩擦部材が配され、前記第1の回転体と前記第2の回転体との間で前記摩擦部材を介してトルク移動することを特徴とする電動式4輪駆動車の駆動制御装置。
【請求項2】
ディファレンシャル装置を介して前輪を駆動する駆動源と、ディファレンシャル装置を介して後輪を駆動する駆動源とのうち少なくとも一方が車輪駆動用モータである電動式4輪駆動車において、
前記前輪側のディファレンシャル装置と前記後輪側のディファレンシャル装置との間に、双方に連係する駆動制御装置が介在し、
前記駆動制御装置は、
前記前輪側のディファレンシャル装置から後輪側に向かって延設され、前記前輪側の駆動源に連動して回転する第1の回転軸により回転する第1の回転体と、
前記後輪側のディファレンシャル装置から前輪側に向かって延設され、前記後輪側の駆動源に連動して回転する第2の回転軸により回転する第2の回転体とが互いに押し付け自在に配され、
前進時に、前記第1の回転軸と前記第2の回転軸との間に回転数差がない場合には、前記前輪側の駆動源の発生トルクと前記後輪側の駆動源の発生トルクとに応じて前輪及び後輪が駆動され、前記第1の回転軸と前記第2の回転軸との間に回転数差がある場合には、前記第1の回転体と前記第2の回転体のうちどちらか一方の回転の速い側から回転の遅い側へトルク移動することを特徴とする電動式4輪駆動車の駆動制御装置。
【請求項3】
前記第1の回転体は、前記第1の回転軸に設けられた駆動ギヤに噛み合う従動ギヤであり、前記第2の回転体は、前記第2の回転軸に設けられた駆動ギヤに噛み合う従動ギヤであることを特徴とする請求項1、もしくは請求項2に記載の電動式4輪駆動車の駆動制御装置。
【請求項4】
前記前輪側の駆動ギヤ及び従動ギヤと、前記後輪側の駆動ギヤ及び従動ギヤとがヘリカルギヤ対であることを特徴とする請求項3に記載の電動式4輪駆動車の駆動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−149811(P2010−149811A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332874(P2008−332874)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】