説明

電動車両の制御装置

【課題】回生制御中において変速制御中または変速制御終了時にブレーキ踏み込み操作があっても、スリップ締結に伴う変速ショックの発生を防止することができる電動車両の制御装置を提供する。
【解決手段】統合コントローラは、モータ/ジェネレータの回生制御中において自動変速機が変速制御中であるか否かを判断する(ステップSA1)。ステップSA1の判断結果がYESの場合にはブレーキ踏力が増加しているか否か、つまり、ブレーキ踏み込み操作があるか否かを判断する(ステップSA2)。ステップSA2の判断結果がYES、つまり、ブレーキ踏み込み操作があると判断した場合には、モータ/ジェネレータの回生トルクの増加を制限してブレーキ制動を行う(ステップSA3)。具体的には、各輪のブレーキユニット(メカブレーキ)を駆動して、各輪の機械制動を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車や電気自動車のような電動車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハイブリッド車や電気自動車のような電動車両は、複数の締結要素の締結・解放により複数の変速段を達成する自動変速機と、該自動変速機の入力側に設けられたモータ/ジェネレータとを備えている。
【0003】
この電動車両に設けられる制御装置としては、例えば特許文献1に記載されている制御装置が提案されている。この制御装置は、ブレーキ踏み込み操作がある場合、つまりブレーキ踏力が増加したときに回生協調ブレーキ制御を行う。回生協調ブレーキ制御とは、回生ブレーキをメインにしてメカブレーキを補助的に使うブレーキ制御である。一方、制御装置は、モータ/ジェネレータの回生制御中において自動変速機の変速制御中は、モータ/ジェネレータから発生する回生トルクを制限している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−94332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、回生制御中において変速制御中または変速制御終了時にブレーキ踏み込み操作がある場合に回生協調ブレーキ制御を行う、つまり回生トルクを増加させると、変速制御開始時にモータ/ジェネレータから自動変速機の入力軸に入力された駆動トルクが減少してしまう。そのため、自動変速機において締結クラッチトルク容量(伝達トルク容量)が不足し、スリップ締結時に変速ショックが発生してしまう。
【0006】
本発明は、かかる従来の課題に鑑みてなされたものであり、回生制御中において変速制御中または変速制御終了時にブレーキ踏み込み操作があっても、スリップ締結に伴う変速ショックの発生を防止することができる電動車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために本発明では、回生制御中において変速制御中または変速制御終了時にブレーキ踏み込み操作がある場合には、メカブレーキのみを用いてブレーキ制動を行うようにした。
【発明の効果】
【0008】
つまり、ブレーキ踏力が増加したときには回生トルクを増加させないようにしたので、変速制御開始時にモータ/ジェネレータから自動変速機の入力軸に入力された駆動トルクが減少することはなく、これに伴い締結クラッチトルク容量も不足することはない。よって、スリップ締結に伴う変速ショックの発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1の制御装置が適用された後輪駆動によるFRハイブリッド車両(ハイブリッド車両の一例)を示す全体システム図である。
【図2】実施例1のATコントローラ7に設定されている自動変速機ATのシフトマップの一例を示す図である。
【図3】実施例1の統合コントローラ10のモード選択部に設定されているEV−HEV選択マップの一例を示す図である。
【図4】実施例1の制御装置が適用されたFRハイブリッド車両に搭載された自動変速機ATの一例を示すスケルトン図である。
【図5】実施例1の制御装置が適用されたFRハイブリッド車両に搭載された自動変速機ATでの変速段ごとの各摩擦要素の締結状態を示す締結作動表である。
【図6】実施例1において、回生制御中で変速制御中のブレーキ制動の制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】図6の制御処理を行っているときのNEXTGP・CURGP・SIP・モータ回転・モータトルク・解放油圧・締結油圧・メカブレーキ分トルク・回生トルク・制動力の各特性を示すタイムチャートである。
【図8】実施例1において、回生制御中で変速制御終了時のブレーキ制動の制御処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図にしたがって説明する。
【0011】
以下、本発明の電動車両の制御装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は、実施例1の制御装置が適用された後輪駆動によるハイブリッド車両を示す全体システム図である。
【0013】
実施例1におけるFRハイブリッド車両の駆動系は、図1に示すように、エンジンEngと、フライホイールFWと、第1クラッチCL1(モード切り替え手段)と、モータ/ジェネレータMG(モータ)と、第2クラッチCL2と、自動変速機ATと、変速機入力軸INと、メカオイルポンプM−O/Pと、サブオイルポンプS−O/Pと、プロペラシャフトPSと、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左後輪RL(駆動輪)と、右後輪RR(駆動輪)と、を有する。なお、FLは左前輪、FRは右前輪である。
【0014】
前記エンジンEngは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンであり、エンジンコントローラ1からのエンジン制御指令に基づいて、エンジン始動制御やエンジン停止制御やスロットルバルブのバルブ開度制御やフューエルカット制御等が行われる。なお、エンジン出力軸には、フライホイールFWが設けられている。
【0015】
前記第1クラッチCL1は、前記エンジンEngとモータ/ジェネレータMGの間に介装されたクラッチであり、第1クラッチコントローラ5からの第1クラッチ制御指令に基づき第1クラッチ油圧ユニット6により作り出された第1クラッチ制御油圧により、締結・半締結状態・解放が制御される。この第1クラッチCL1としては、例えば、ダイアフラムスプリングによる付勢力にて完全締結を保ち、ピストン14aを有する油圧アクチュエータ14を用いたストローク制御により、完全締結〜スリップ締結〜完全解放までが制御されるノーマルクローズの乾式単板クラッチが用いられる。
【0016】
前記モータ/ジェネレータMGは、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータ/ジェネレータであり、モータコントローラ2からの制御指令に基づいて、インバータ3により作り出された三相交流を印加することにより制御される。このモータ/ジェネレータMGは、バッテリ4からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することもできるし(力行)、ロータがエンジンEngや駆動輪から回転エネルギーを受ける場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能し、バッテリ4を充電することもできる(回生)。なお、このモータ/ジェネレータMGのロータは、自動変速機ATの変速機入力軸INに連結されている。
【0017】
前記第2クラッチCL2は、前記モータ/ジェネレータMGと左右後輪RL,RRの間に介装されたクラッチであり、ATコントローラ7からの第2クラッチ制御指令に基づき第2クラッチ油圧ユニット8により作り出された制御油圧により、締結・スリップ締結・解放が制御される。この第2クラッチCL2としては、例えば、比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できるノーマルオープンの湿式多板クラッチや湿式多板ブレーキが用いられる。なお、第1クラッチ油圧ユニット6と第2クラッチ油圧ユニット8は、自動変速機ATに付設される油圧コントロールバルブユニットCVUに内蔵している。
【0018】
前記自動変速機ATは、有段階の変速段を車速やアクセル開度等に応じて自動的に切り替える有段変速機であり、実施例1では前進7速/後退1速の変速段を持つ有段変速機としている。そして、実施例1では、前記第2クラッチCL2として、自動変速機ATとは独立の専用クラッチとして新たに追加したものではなく、自動変速機ATの各変速段にて締結される複数の摩擦要素のうち、所定の条件に適合する摩擦要素(クラッチやブレーキ)を選択している。
【0019】
前記自動変速機ATの変速機入力軸IN(=モータ軸)には、変速機入力軸INにより駆動されるメカオイルポンプM−O/Pが設けられている。そして、車両停止時等でメカオイルポンプM−O/Pからの吐出圧が不足するとき、油圧低下を抑えるために電動モータにより駆動されるサブオイルポンプS−O/Pが、モータハウジング等に設けられている。なお、サブオイルポンプS−O/Pの駆動制御は、後述するATコントローラ7により行われる。
【0020】
前記自動変速機ATの変速機出力軸Outには、プロペラシャフトPSが連結されている。そして、このプロペラシャフトPSは、ディファレンシャルDF、左ドライブシャフトDSL、右ドライブシャフトDSRを介して左右後輪RL,RRに連結されている。
【0021】
このFRハイブリッド車両は、駆動形態の違いによる走行モードとして、電気自動車モード(以下、「EVモード」という。)と、ハイブリッド車モード(以下、「HEVモード」という。)と、駆動トルクコントロールモード(以下、「WSCモード」という。)と、を有する。
【0022】
前記「EVモード」は、第1クラッチCL1を解放状態とし、モータ/ジェネレータMGの駆動力のみで走行するモードであり、モータ走行モード・回生走行モードを有する。この「EVモード」は、要求駆動力が低く、バッテリSOCが確保されているときに選択される。
【0023】
前記「HEVモード」は、第1クラッチCL1を締結状態として走行するモードであり、モータアシスト走行モード・発電走行モード・エンジン走行モードを有し、何れかのモードにより走行する。この「HEVモード」は、要求駆動力が高いとき、あるいは、バッテリSOCが不足するようなときに選択される。
【0024】
前記「WSCモード」は、モータ/ジェネレータMGの回転数制御により、第2クラッチCL2をスリップ締結状態に維持し、第2クラッチCL2を経過するクラッチ伝達トルクが、車両状態や運転者操作に応じて決まる要求駆動トルクとなるようにクラッチトルク容量をコントロールしながら走行するモードである。この「WSCモード」は、「HEVモード」の選択状態での停車時・発進時・減速時等のように、エンジン回転数がアイドル回転数を下回るような走行領域において選択される。
【0025】
次に、FRハイブリッド車両の制御系を説明する。実施例1におけるFRハイブリッド車両の制御系は、図1に示すように、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、インバータ3と、バッテリ4と、第1クラッチコントローラ5と、第1クラッチ油圧ユニット6と、ATコントローラ7と、第2クラッチ油圧ユニット8と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10と、を有して構成されている。なお、各コントローラ1,2,5,7,9と、統合コントローラ10とは、情報交換が互いに可能なCAN通信線11を介して接続されている。
【0026】
前記エンジンコントローラ1は、エンジン回転数センサ12からのエンジン回転数情報と、統合コントローラ10からの目標エンジントルク指令と、他の必要情報を入力する。そして、エンジン動作点(Ne,Te)を制御する指令を、エンジンEngのスロットルバルブアクチュエータ等へ出力する。
【0027】
前記モータコントローラ2は、モータ/ジェネレータMGのロータ回転位置を検出するレゾルバ13からの情報と、統合コントローラ10からの目標MGトルク指令および目標MG回転数指令と、他の必要情報を入力する。そして、モータ/ジェネレータMGのモータ動作点(Nm,Tm)を制御する指令をインバータ3へ出力する。なお、このモータコントローラ2では、バッテリ4の充電容量をあらわすバッテリSOCを監視していて、このバッテリSOC情報を、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
【0028】
前記第1クラッチコントローラ5は、油圧アクチュエータ14のピストン14aのストローク位置を検出する第1クラッチストロークセンサ15からのセンサ情報と、統合コントローラ10からの目標CL1トルク指令と、他の必要情報を入力する。そして、第1クラッチCL1の締結・半締結・解放を制御する指令を油圧コントロールバルブユニットCVU内の第1クラッチ油圧ユニット6に出力する。
【0029】
前記ATコントローラ7は、アクセル開度センサ16と、車速センサ17と、他のセンサ類18等からの情報を入力する。そして、Dレンジを選択しての走行時、アクセル開度APOと車速VSPにより決まる運転点が、図2に示すシフトマップ上で存在する位置により最適な変速段を検索し、検索された変速段を得る制御指令を油圧コントロールバルブユニットCVUに出力する。前記シフトマップとは、図2に示すように、アクセル開度APOと車速VSPに応じてアップ変速線とダウン変速線を書き込んだマップをいう。この変速制御に加えて、統合コントローラ10から目標CL2トルク指令を入力した場合、第2クラッチCL2のスリップ締結を制御する指令を油圧コントロールバルブユニットCVU内の第2クラッチ油圧ユニット8に出力する第2クラッチ制御を行う。
【0030】
前記ブレーキコントローラ9は、4輪の各車輪速を検出する車輪速センサ19と、ブレーキストロークセンサ20からのセンサ情報と、統合コントローラ10からの回生協調制御指令と、他の必要情報を入力する。そして、例えば、ブレーキ踏み込み制動時、ブレーキストロークBSから求められる要求制動力に対し回生制動力だけでは不足する場合、その不足分を機械制動力(液圧制動力やモータ制動力)で補うように、回生協調ブレーキ制御を行う。
【0031】
前記統合コントローラ10は、車両全体の消費エネルギーを管理し、最高効率で車両を走らせるための機能を担うもので、モータ回転数Nmを検出するモータ回転数センサ21や他のセンサ・スイッチ類22からの必要情報およびCAN通信線11を介して情報を入力する。そして、エンジンコントローラ1へ目標エンジントルク指令、モータコントローラ2へ目標MGトルク指令および目標MG回転数指令、第1クラッチコントローラ5へ目標CL1トルク指令、ATコントローラ7へ目標CL2トルク指令、ブレーキコントローラ9へ回生協調制御指令を出力する。
【0032】
この統合コントローラ10には、アクセル開度APOと車速VSPにより決まる運転点が、図3に示すEV−HEV選択マップ上で存在する位置により最適な走行モードを検索し、検索した走行モードを目標走行モードとして選択するモード選択部を有する。このEV−HEV選択マップには、EV領域に存在する運転点(APO,VSP)が横切ると「EVモード」から「HEVモード」へと切り替えるEV⇒HEV切替線と、HEV領域に存在する運転点(APO,VSP)が横切ると「HEVモード」から「EVモード」へと切り替えるHEV⇒EV切替線と、「HEVモード」の選択時に運転点(APO,VSP)がWSC領域に入ると「WSCモード」へと切り替えるHEV⇒WSC切替線と、が設定されている。前記HEV⇒EV切替線と前記HEV⇒EV切替線は、EV領域とHEV領域を分ける線としてヒステリシス量を持たせて設定されている。前記HEV⇒WSC切替線は、自動変速機ATが1速段のときに、エンジンEngがアイドル回転数を維持する第1設定車速VSP1に沿って設定されている。但し、「EVモード」の選択中、バッテリSOCが所定値以下になると、強制的に「HEVモード」を目標走行モードとする。
【0033】
図4は、実施例1の制御装置が適用されたFRハイブリッド車両に搭載された自動変速機ATの一例を示すスケルトン図である。
【0034】
前記自動変速機ATは、前進7速後退1速の有段式自動変速機であり、エンジンEngとモータ/ジェネレータMGのうち、少なくとも一方からの駆動力が変速機入力軸INから入力され、4つの遊星ギアと7つの摩擦要素とによって回転速度が変速されて変速機出力軸Outから出力される。
【0035】
変速ギア機構は、変速機入力軸IN側から変速機出力軸Out側までの軸上に、順に第1遊星ギアG1と第2遊星ギアG2による第1遊星ギアセットGS1及び第3遊星ギアG3と第4遊星ギアG4による第2遊星ギアセットGS2が配置されている。また、摩擦要素として第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3及び第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3、第4ブレーキB4が配置されている。また、第1ワンウェイクラッチF1と第2ワンウェイクラッチF2が配置されている。
【0036】
前記第1遊星ギアG1は、第1サンギアS1と、第1リングギアR1と、第1ピニオンP1と、第1キャリアPC1と、を有するシングルピニオン型遊星ギアである。前記第2遊星ギアG2は、第2サンギアS2と、第2リングギアR2と、第2ピニオンP2と、第2キャリアPC2と、を有するシングルピニオン型遊星ギアである。前記第3遊星ギアG3は、第3サンギアS3と、第3リングギアR3と、第3ピニオンP3と、第3キャリアPC3と、を有するシングルピニオン型遊星ギアである。前記第4遊星ギアG4は、第4サンギアS4と、第4リングギアR4と、第4ピニオンP4と、第4キャリアPC4と、を有するシングルピニオン型遊星ギアである。
【0037】
前記変速機入力軸INは、第2リングギアR2に連結され、エンジンEngとモータージェネレータMGの少なくとも一方からの回転駆動力を入力する。前記変速機出力軸Outは、第3キャリアPC3に連結され、出力回転駆動力を、ファイナルギア等を介して駆動輪(左右後輪RL,RR)に伝達する。
【0038】
前記第1リングギアR1と第2キャリアPC2と第4リングギアR4とは、第1連結メンバM1により一体的に連結される。前記第3リングギアR3と第4キャリアPC4とは、第2連結メンバM2により一体的に連結される。前記第1サンギアS1と第2サンギアS2とは、第3連結メンバM3により一体的に連結される。
【0039】
前記第1クラッチC1(=インプットクラッチI/C)は、変速機入力軸INと第2連結メンバM2とを選択的に断接するクラッチである。前記第2クラッチC2(=ダイレクトクラッチD/C)は、第4サンギアS4と第4キャリアPC4とを選択的に断接するクラッチである。前記第3クラッチC3(=H&LRクラッチH&LR/C)は、第3サンギアS3と第4サンギアS4とを選択的に断接するクラッチである。前記第2ワンウェイクラッチF2(=1&2速ワンウェイクラッチ1&2OWC)は、第3サンギアS3と第4サンギアS4の間に配置されている。前記第1ブレーキB1(=フロントブレーキFr/B)は、第1キャリアPC1の回転をトランスミッションケースCaseに対し選択的に停止させるブレーキである。前記第1ワンウェイクラッチF1(=1速ワンウェイクラッチ1stOWC)は、第1ブレーキB1と並列に配置されている。前記第2ブレーキB2(=ローブレーキLOW/B)は、第3サンギアS3の回転をトランスミッションケースCaseに対し選択的に停止させるブレーキである。前記第3ブレーキB3(=2346ブレーキ2346/B)は、第1サンギアS1及び第2サンギアS2を連結する第3連結メンバM3の回転をトランスミッションケースCaseに対し選択的に停止させるブレーキである。前記第4ブレーキB4(=リバースブレーキR/B)は、第4キャリアPC4の回転をトランスミッションケースCaseに対し選択的に停止させるブレーキである。
【0040】
図5は、実施例1の制御装置が適用されたFRハイブリッド車両に搭載された自動変速機ATでの変速段ごとの各摩擦要素の締結状態を示す締結作動表である。尚、図5において、○印はドライブ状態で当該摩擦要素が油圧締結であることを示し、(○)印はコースト状態で当該摩擦要素が油圧締結(ドライブ状態ではワンウェイクラッチ作動)であることを示し、無印は当該摩擦要素が解放状態であることを示す。
【0041】
上記のように構成された変速ギア機構に設けられた各摩擦要素のうち、締結していた1つの摩擦要素を解放し、解放していた1つの摩擦要素を締結するという架け替え変速を行うことで、下記のように、前進7速で後退1速の変速段を実現することができる。
【0042】
すなわち、「1速段」では、第2ブレーキB2のみが締結状態となり、これにより第1ワンウェイクラッチF1及び第2ワンウェイクラッチF2が係合する。「2速段」では、第2ブレーキB2及び第3ブレーキB3が締結状態となり、第2ワンウェイクラッチF2が係合する。「3速段」では、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3及び第2クラッチC2が締結状態となり、第1ワンウェイクラッチF1及び第2ワンウェイクラッチF2はいずれも係合しない。「4速段」では、第3ブレーキB3、第2クラッチC2及び第3クラッチC3が締結状態となる。「5速段」では、第1クラッチC1、第2クラッチC2及び第3クラッチC3が締結状態となる。「6速段」では、第3ブレーキB3、第1クラッチC1及び第3クラッチC3が締結状態となる。「7速段」では、第1ブレーキB1、第1クラッチC1及び第3クラッチC3が締結状態となり、第1ワンウェイクラッチF1が係合する。「後退速段」では、第4ブレーキB4、第1ブレーキB1及び第3クラッチC3が締結状態となる。
【0043】
図6は、モータ/ジェネレータMGの回生制御中において自動変速機ATの変速制御中におけるブレーキ制動の制御処理の流れを示すフローチャートである。なお、変速制御中のモータ/ジェネレータMGの回生制御について図1を用いて簡単に説明しておく。統合コントローラ10は、発電下限トルク、変速中のトルク比等を考慮して回生トルク(P/Sトルク)を算出し、この回生トルクをモータコントローラ2とインバータ3とを介してモータ/ジェネレータMGに送り、モータ/ジェネレータMGの回生制御を行っている。以下に、図6と図1を用いてブレーキ制動の制御処理の内容を説明する。
【0044】
(ステップSA1)
統合コントローラ10(制御装置)は、ATコントローラ7から自動変速機ATが変速制御中であるか否かを判断する。具体的に説明すると、統合コントローラ10は、自動変速機ATが変速制御中であり、さらにモータコントローラ2からモータ/ジェネレータMGの実回転が変化中であるか否か(回転制御を行っているか否か)を判断する。
【0045】
(ステップSA2)
統合コントローラ10は、ステップSA1の判断結果がYESの場合には、ブレーキコントローラ9からブレーキ踏力が増加しているか否かを判断する。つまり、統合コントローラ10は、回生制御中において変速制御中にブレーキ踏み込み操作があるか否かを判断する。
【0046】
(ステップSA3)
統合コントローラ10は、ステップSA2の判断結果がYES、つまり、ブレーキ踏み込み操作があると判断した場合には、モータ/ジェネレータMGの回生トルクの増加を制限してブレーキ制動を行う。具体的に説明すると、統合コントローラ10は、ブレーキコントローラ9を介して各輪のブレーキユニット(メカブレーキ)を駆動し、各輪の機械制動を行う。
【0047】
なお、統合コントローラ10は、ステップSA1の判断結果やステップSA2の判断結果がNOの場合には、ステップSA3の処理(ブレーキ制動)を行わずに制御処理を終了する。
【0048】
図7は、図6の制御処理を行っているときのNEXTGP・CURGP・SIP・モータ回転(モータ/ジェネレータMGの回転)・モータトルク(モータ/ジェネレータMGのトルク)・第2クラッチCL2の解放油圧・第2クラッチCL2の締結油圧・メカブレーキ分トルク・回生トルク(P/Sトルク)・制動力の各特性を示すタイムチャートである。
【0049】
図7において「NEXTGP」は制御ギヤ比であり、各変速制御の開始時に出力される。「CURGP」は現在ギヤ比であり、各変速制御の終了時に出力される。「SIP」はイナーシャフェーズフラグであり、変速動作の進行により変速比(入力回転数)が変化するイナーシャフェーズ中にSIP≠0が出力される。以下に、この図7を用いて、図6で説明したブレーキ制動の制御処理を詳しく説明する。なお、図7の点線で示した部分(モータトルク、解放油圧、メカブレーキ分トルク、回生トルク、制動力)は、図6で説明したブレーキ制動の制御処理に関係する部分である。
【0050】
統合コントローラ10は、時刻t2〜t5で変速制御を行っているときに、時刻t2〜t3の間は、回生トルクと第2クラッチCL2の締結クラッチトルク(伝達トルク)との架け替えを行って制動力を一定にしている。続いて、時刻t3〜t5の間はモータ/ジェネレータMGの回転数の制御を行っている。図示しないが、この制御中にブレーキ踏み込み操作がない場合は、締結クラッチトルクで制動力を一定にしている。
【0051】
統合コントローラ10は、モータ/ジェネレータMGの回転数の制御中に(回転数が変化しているときに)ブレーキの踏み込み操作がある場合には、メカブレーキ分トルクを増加させて回生トルクを増加させない処理を行う。つまり、メカブレーキのみでブレーキ制動を行う。また、回生トルクが変化しないことからモータトルクは減少しない。そのため、変速制御開始時にモータ/ジェネレータMGから自動変速機ATの入力軸INに入力された駆動トルクが減少しない。また、締結油圧量も変化しないため、第2クラッチCL2の締結クラッチトルク容量が変速制御開始時から減少せずにそのまま維持される。
【0052】
したがって、実線で示すように、従来は回生トルクの増加により締結油圧量が増加して第2クラッチCL2の締結応答が遅れ、ドライバの意図した制動力が得られない問題があったが、実施例1では、回生トルクを増加させずにメカブレーキのみで対応するようにしたので、第2クラッチCL2の締結応答が遅れるという現象は生じず、ドライバの意図した制動力を得ることが可能となる。
【0053】
そして、統合コントローラ10は、変速制御終了時(t5)から所定時間経過後(t6)に回生トルクを増加させてメカブレーキ分トルクを減少させる。つまり、ブレーキ制動を回生ブレーキとメカブレーキとに架け替えて行う。
【0054】
図8は、モータ/ジェネレータMGの回生制御中において自動変速機ATの変速制御終了時におけるブレーキ制動の制御処理の流れを示すフローチャートである。以下に、図8と図1を用いてブレーキ制動の制御処理の内容を説明する。
【0055】
(ステップSB1)
統合コントローラ10は、ATコントローラ7から自動変速機ATの変速制御が終了したか否かを判断する。具体的に説明すると、統合コントローラ10は、自動変速機ATの変速制御が終了し、さらにモータコントローラ2からモータ/ジェネレータMGの実回転が変化していないか否か(回転制御を行っていないか否か)を判断する。
【0056】
(ステップSB2)
統合コントローラ10は、ステップSB1の判断結果がYESの場合には、ブレーキコントローラ9からブレーキ踏力が増加しているか否かを判断する。つまり、統合コントローラ10は、回生制御中において変速制御終了時にブレーキ踏み込み操作があるか否かを判断する。
【0057】
(ステップSB3)
統合コントローラ10は、ステップSB2の判断結果がYES、つまり、ブレーキ踏み込み操作があると判断した場合には、内臓されているタイマを用いて変速制御終了時から所定時間経過しているか否かを判断する。
【0058】
(ステップSB4)
統合コントローラ10は、ステップSB3でYES、つまり、変速制御終了時から所定時間経過したと判断した場合には、モータ/ジェネレータMGの回生トルクの増加を制限してブレーキ制動を行う。具体的に説明すると、統合コントローラ10は、ブレーキコントローラ9を介して各輪のブレーキユニット(メカブレーキ)を駆動し、各輪の機械制動を行う。
【0059】
なお、統合コントローラ10は、ステップSB1〜SB3の各判断結果がNOの場合には、ステップSB4の処理(ブレーキ制動)を行わずに制御処理を終了する。
【0060】
以上説明してきたように実施例1の制御装置(統合コントローラ10)では、回生制御中において変速制御中または変速制御終了時にブレーキ踏み込み操作がある場合には、メカブレーキのみを用いてブレーキ制動を行うようにした。つまり、ブレーキ踏力が増加しても従来のように回生トルクを増加させないようにした。このため、変速制御開始時にモータ/ジェネレータMGから自動変速機ATの入力軸INに入力された駆動トルクが減少することはない。これに伴い、第2クラッチCL2の締結クラッチトルク容量も不足することはない。よって、実施例1の制御装置は、回生制御中において変速制御中または変速制御終了時にブレーキ踏み込み操作があっても、スリップ締結に伴う変速ショックの発生を防止することができる。
【0061】
また、実施例1の制御装置では、変速制御終了時にブレーキ踏み込み操作がある場合には、変速制御終了時から所定時間経過後にメカブレーキのみを用いてブレーキ制動を行うようにし、回生トルクを増加させないようにした。したがって、変速制御開始時にモータ/ジェネレータMGから自動変速機ATの入力軸INに入力された駆動トルクが変速制御終了時に減少するのを確実に防ぐことが可能になり、これによって第2クラッチCL2の締結クラッチトルク容量不足も確実に防ぐことが可能になる。よって、実施例1の制御装置は、回生制御中において変速制御終了時にブレーキ踏み込み操作があっても、スリップ締結に伴う変速ショックの発生を確実に防止することができる。
【0062】
また、実施例1の制御装置では、エンジン始動時や一時停止時等で自動変速機ATのシフトレンジがNレンジから走行レンジに切り替わってからの所定時間内にブレーキ踏み込み操作がある場合にも、メカブレーキのみを用いてブレーキ制動を行うようにしても良い。これにより、シフトレンジの切り替えに伴って自動変速機ATの入力軸INに入力された駆動トルクが減少するのを確実に防ぐことが可能になり、これによって第2クラッチCL2の締結クラッチトルク容量不足も確実に防ぐことが可能になる。よって、実施例1の制御装置は、シフトレンジがNレンジから走行レンジに切り替わった後にブレーキ踏み込み操作があっても、スリップ締結に伴う変速ショックの発生を確実に防止することができる。
【0063】
以上、本発明にかかる実施例を例示したが、この実施例は本発明の内容を限定するものではない。また、本発明の請求項の範囲を逸脱しない範囲であれば、各種の変更等は可能である。
【0064】
例えば、実施例1では、図1に示したように、第2クラッチCL2を自動変速機ATの内部に設けたが、自動変速機ATの外部(自動変速機ATの入力軸INや出力軸Out)に設けても良い。
【符号の説明】
【0065】
Eng エンジン
CL1 第1クラッチ
MG モータ/ジェネレータ(モータ)
CL2 第2クラッチ
AT 自動変速機
IN 変速機入力軸
M−O/P メカオイルポンプ
S−O/P サブオイルポンプ
RL 左後輪(駆動輪)
RR 右後輪(駆動輪)
1 エンジンコントローラ
2 モータコントローラ
3 インバータ
4 バッテリ
5 第1クラッチコントローラ
6 第1クラッチ油圧ユニット
7 ATコントローラ
8 第2クラッチ油圧ユニット
9 ブレーキコントローラ
10 統合コントローラ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の締結要素の締結・解放により複数の変速段を達成する自動変速機と、
該自動変速機の入力側に設けられたモータ/ジェネレータと、
を備える電動車両の制御装置において、
前記モータ/ジェネレータの回生制御中で、且つ、前記自動変速機の変速制御中または変速制御終了時にブレーキ踏み込み操作がある場合には、メカブレーキのみを用いてブレーキ制動を行うことを特徴とする電動車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動車両の制御装置において、
前記自動変速機の変速制御終了時にブレーキ踏み込み操作がある場合には、変速制御終了時から所定時間経過後に前記ブレーキ制動を行うことを特徴とする電動車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電動車両の制御装置において、
前記自動変速機のシフトレンジがNレンジから走行レンジに切り替わってからの所定時間内にブレーキ踏み込み操作がある場合にも、前記ブレーキ制動を行うことを特徴とする電動車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−86751(P2012−86751A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236688(P2010−236688)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】