説明

電動車両の発進時ずり下がり防止制御装置

【課題】充電制限により回生制動が得られなくても、車両のずり下がりを確実に防止し得る装置を提供する。
【解決手段】充電制限中のDレンジ停車状態で瞬時t1以降、アクセル開度APO(モータトルクTTMA0)を増大させて行う発進操作中(当初はモータトルク指令値TTMA=TTMA0)、車両速度VSP≦-0.5km/hが0.1sec継続するt2に、ずり下がり防止制御を開始(flag_RSAON=1)。一方でTTMAを一定変化率β1で低下させt3に0となし、他方でブレーキトルク指令値TTBRK(ブレーキ液圧指令値TPMC)を一定変化率α1で、TTMA0と同じトルク値となるよう増大させ、摩擦制動により、ずり下がりを防止する。VSP=0が0.1sec継続する、ずり下がり防止完了時t5より、TTMAを一定変化率β2でTTMA0に復帰させ、TTBRK(TPMC)を一定変化率α2(=-β2)で0へ低下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータのみを動力源とする電気自動車や、エンジンおよび電動モータからのエネルギーを用いて走行するハイブリッド車両のような電動車両に関し、
特に、電動車両が登坂路などで前向き発進したり、後ろ向き発進する時、路面勾配などに起因して、発進方向とは逆の方向へずり下がるのを防止する発進時ずり下がり防止制御技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動車両は、モータ/ジェネレータの駆動力を車輪に伝えて走行可能であり、該モータ/ジェネレータへの発電負荷による回生制動と、所要に応じた油圧式ブレーキユニットなどによる摩擦制動とで車輪を制動可能である。
回生制動によりモータ/ジェネレータが発電した電力はバッテリに蓄電しておき、モータ駆動時の電気エネルギーとして利用する。
【0003】
ところで、回生制動と摩擦制動とにより車輪を制動するに当たっては、エネルギー回収率の観点から回生制動を優先的に利用し、回生制動だけでは、運転者が要求する目標制動トルクを実現し得ない場合に、不足分を摩擦制動で補うことにより目標制動トルクを実現するという協調制御方式を採用するのが一般的である。
【0004】
そのため、電動車両を登坂路などで、ブレーキペダルの釈放およびアクセルペダルの踏み込みにより発進させようとする時、路面勾配などに起因して電動車両が、発進方向とは逆の方向へずり下がるのを防止する発進時ずり下がり防止制御に当たっては、例えば特許文献1に記載のごとく、回生制動により車輪を制動して車両のずり下がりを防止することとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−203975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、電源バッテリが満充電状態やこれに近い状態であるとか、極低温であるために充電を制限されている間は、モータ/ジェネレータの発電も制限されて車輪の回生制動を行うことができない。
【0007】
この場合、モータ/ジェネレータが発電機として作用していて駆動力を出力し得ないことから、運転者がブレーキペダルの釈放およびアクセルペダルの踏み込みにより発進させようとしているのに、電動車両が運転者の希望する発進方向とは逆方向へ継続的にずり下がり、運転者に違和感を与えるという問題を生ずる。
【0008】
本発明は、上記のように充電制限により回生制動が得られなくて電動車両がずり下がる状況である場合、車輪を回生制動に代えて摩擦制動することにより電動車両のずり下がりを防止し、もって上記の問題を解消し得るようにした電動車両の発進時ずり下がり防止制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的のため、本発明による電動車両の発進時ずり下がり防止制御装置は、以下のごとくにこれを構成する。
先ず、本発明の前提となる電動車両を説明するに、これは、
回転電機からの駆動力を車輪に伝えて走行可能であり、該回転電機への発電負荷による回生制動と、所要に応じた摩擦制動とにより上記車輪を制動可能なものである。
【0010】
本発明の発進時ずり下がり防止制御装置は、かかる電動車両に対し、以下のような充電制限検知手段、発進操作検知手段、車両ずり下がり検知手段、および摩擦制動制御手段をそれぞれ設ける。
充電制限検知手段は、上記回転電機の電源に対する充電が制限されているのを検知するもので、
発進操作検知手段は、運転者による車両の発進操作を検知し、
車両ずり下がり検知手段は、発進操作検知手段で発進操作が検知された時に車両が、発進の方向とは逆方向へずり下がったのを検知するものである。
【0011】
摩擦制動制御手段は、上記の発進操作検知手段および車両ずり下がり検知手段で発進操作時の車両のずり下がりが検知され、且つ、上記の充電制限検知手段で電源の充電制限が検知されるとき、前記の摩擦制動を生起させるものである。
【発明の効果】
【0012】
かかる本発明の発進時ずり下がり防止制御装置によれば、発進操作時に車両のずり下がりが発生して、このずり下がりを防止するために車輪の制動が必要な場合に、電源が充電を制限されていれば、摩擦制動により車輪を制動するようにしたため、
充電制限により回生制動が得られない場合は、これに代えて摩擦制動により車輪を制動して発進操作時のずり下がりを防止し得ることとなり、充電制限中も発進操作時のずり下がりを防止し得なくなることがない。
【0013】
また、充電制限中なのに回生制動が行われて回生電力が電源を過充電させるような事態も回避し得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施例になる発進時ずり下がり防止制御装置を具えた電動車両の制駆動制御システムを、車両の上方から見て示す概略系統図である。
【図2】図1における統合コントローラが実行する、発進時ずり下がり防止用のモータトルク制御を含むモータトルク制御プログラムを示すフローチャートである。
【図3】図1における液圧ブレーキコントローラが実行する、発進時ずり下がり防止用のブレーキ液圧制御を含むブレーキ液圧制御プログラムを示すフローチャートである。
【図4】図3に示すブレーキ液圧制御プログラム中におけるブレーキ踏み込み判定処理に関した制御プログラムを示すフローチャートである。
【図5】図2に示すモータトルク制御プログラム中におけるアクセル踏み込み判定処理に関した制御プログラムを示すフローチャートである。
【図6】図2に示すモータトルク制御プログラム中におけるロールバック判定処理に関した制御プログラムを示すフローチャートである。
【図7】図2に示すモータトルク制御プログラム中における車両停止判定処理に関した制御プログラムを示すフローチャートである。
【図8】図2に示すモータトルク制御プログラム中における発進時ずり下がり防止制御実行判定処理に関した制御プログラムを示すフローチャートである。
【図9】車両速度およびアクセル開度をパラメータとする目標モータトルク基本値の変化特性を示す特性線図である。
【図10】ブレーキペダルストロークに関するブレーキ液圧基本値の変化特性を示す特性線図である。
【図11】図1〜10に示す第1実施例になる発進時ずり下がり防止制御装置の動作タイムチャートである。
【図12】第2実施例になる発進時ずり下がり防止制御装置が、図11と同じ条件のもとで動作した場合の動作タイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
<第1実施例の構成>
図1は、本発明の第1実施例になる発進時ずり下がり防止制御装置を具えた電動車両の制駆動制御システムを、車両の上方から見て示す概略系統図である。
図1において、1L,1Rはそれぞれ左右前輪を示し、また2L,2Rはそれぞれ左右後輪を示す。
【0016】
図1における電動車両は、回転電機としてのモータ(モータ/ジェネレータ)3により、ディファレンシャルギヤ装置を含む減速機4を介し左右後輪2L,2Rを駆動することで走行可能な電気自動車とする。
モータ3の制御に際しては、モータコントローラ5が、バッテリ(電源)6の電力をインバータ7により直流−交流変換して、またこの交流電力をインバータ7による制御下でモータ3へ供給することで、モータ3のトルクが統合コントローラ8からのモータトルク指令値TTMAに一致するよう、当該モータ3の制御を行うものとする。
【0017】
なお、統合コントローラ8からのモータトルク指令値TTMAが、モータ3に回生制動作用を要求する負極性のものである場合、モータコントローラ5はインバータ7を介し、バッテリ6が過充電とならないような発電負荷をモータ3に与え、
この時モータ3が回生制動作用により発電した電力を、インバータ7により交流−直流変換してバッテリ6に充電する。
【0018】
図1における電気自動車は、上記の回生制動のほかに、以下の摩擦制動によっても制動可能とし、回生制動システムおよび摩擦制動システムの双方を併設した複合ブレーキを搭載する。
摩擦制動システムは、以下のような周知の液圧式ディスクブレーキ装置とし、以下にその概略を説明する。
【0019】
このディスクブレーキ装置は、左右前輪1L,1Rと共に回転するブレーキディスク10L,10R、および、左右後輪2L,2Rと共に回転するブレーキディスク9L,9Rを具え、これらブレーキディスク10L,10Rおよび9L,9Rをそれぞれ、個々の液圧ブレーキユニット(キャリパ)11L,11Rおよび12L,12Rにより軸線方向両側から挟圧することで、左右前輪1L,1Rおよび左右後輪2L,2Rを個々に摩擦制動可能なものとする。
【0020】
ブレーキユニット11L,11Rおよび12L,12Rは、ブレーキ液圧制御装置13からのブレーキ液圧により上記の作動を行う。
ブレーキ液圧の制御に際しては、液圧ブレーキコントローラ14が、ブレーキペダルストロークBRKSTRKを検出するブレーキペダルストロークセンサ21からの信号と、統合コントローラ8からの後述する発進時ずり下がり防止用ブレーキトルク指令値TTBRKとに応動し、
車両全体の摩擦制動トルクが、ブレーキペダルの踏み込みによる制動操作時はブレーキペダルストロークBRKSTRKに応じた運転者要求ブレーキトルクに一致するよう、またアクセルペダルの踏み込みによる発進操作時は発進時ずり下がり防止用ブレーキトルク指令値TTBRKに一致するようブレーキユニット11L,11Rおよび12L,12Rへのブレーキ液圧指令値(目標マスターシリンダ液圧)TPMCを決定し、このように決定したブレーキ液圧指令値(目標マスターシリンダ液圧)TPMCがブレーキユニット11L,11Rおよび12L,12Rに供給されるようブレーキ液圧制御装置13を作動させる。
【0021】
統合コントローラ8は図示せざる各種入力情報を基に、車両全体の消費エネルギーを管理し、最高効率で車両を走らせるための機能を担うもので、この目的に叶うよう、上記した液圧ブレーキコントローラ14へのブレーキトルク指令値TTBRK、および、前記したモータコントローラ5へのモータトルク指令値TTMA(負極性が回生制動トルク)を決定する。
【0022】
<発進時ずり下がり防止制御>
統合コントローラ8および液圧ブレーキコントローラ14はそれぞれ、図2のモータトルク制御プログラムおよび図3のブレーキ液圧制御プログラムを、例えば10msec毎の定時割り込みにより繰り返し実行しつつ、相互に演算データを通信により送受信し合って、本発明が狙いとする発進時ずり下がり防止制御を以下のごとくに行う。
【0023】
そのため統合コントローラ8には、バッテリ6の蓄電状態や温度などから判定されたバッテリ充電可能電力PINと、運転者が車両の走行形態(前進走行用のDレンジ、後進走行用のRレンジ、駐停車用のP,Nレンジ)を指令する時に操作するシフタ22からの信号と、アクセルペダル踏み込み量であるアクセル開度APOを検出するアクセル開度センサ23からの信号とを入力し、
一方で液圧ブレーキコントローラ14には、前記したセンサ21からのブレーキペダルストロークBRKSTRKに関した信号を入力する。
【0024】
液圧ブレーキコントローラ14が実行する図3のブレーキ液圧制御プログラムでは、先ずステップSB-01において、センサ21からのブレーキペダルストロークBRKSTRKに関した信号を含む入力パラメータの検出および該検出データの演算を行う。
次のステップSB-02においては、図4に示す処理によりブレーキ踏み込み判定フラグ(flag_BRK)を演算する。
【0025】
図4でブレーキ踏み込み判定フラグ(flag_BRK)を演算するに当たっては、先ずステップS11においてブレーキペダルストロークBRKSTRKが、ブレーキペダルの踏み込みによる制動操作が行われているか否かを判定するための設定値(図4では10mm)以上か否かをチェックする。
【0026】
ブレーキペダルストロークBRKSTRKが設定値(10mm)以上であれば、ブレーキペダルの踏み込みによる制動操作が行われていると判定し、ステップS12において、制動操作中であることを示すようにブレーキ踏み込み判定フラグ(flag_BRK)を1にセットする。
しかしブレーキペダルストロークBRKSTRKが設定値(10mm)未満であれば、ブレーキペダルの踏み込みによる制動操作が行われてないと判定し、ステップS13において、制動操作中でないことを示すようにブレーキ踏み込み判定フラグ(flag_BRK)を0にリセットする。
【0027】
図3の次のステップSB-03で液圧ブレーキコントローラ14は、上記のように求めたブレーキ踏み込み判定フラグ(flag_BRK)を統合コントローラ8へ送信するデータ送信処理を行う。
【0028】
統合コントローラ8が実行する図2のモータトルク制御プログラムでは、先ずステップSV-01において、センサ23からのアクセル開度(APO)に関した信号、およびシフタ22からのシフト位置(D,R,P,Nレンジ)に関した信号を含む入力パラメータを検出して読み込む。
【0029】
次のステップSV-02において統合コントローラ8は、液圧ブレーキコントローラ14が図3のステップSB-02およびステップSB-02で前記のごとくに求めて送信したブレーキ踏み込み判定フラグ(flag_BRK)を受け取るほか、モータコントローラ5から図1のごとく送信されるモータ3の回転数Nmに関した情報、およびバッテリ6からバッテリ充電可能電力(PIN)に関した情報を受け取るデータ受信処理を行う。
【0030】
次のステップSV-03において統合コントローラ8は、図5に示す処理により以下のごとくにアクセル踏み込み判定フラグ(flag_APO)を演算する。
【0031】
図5では、先ずステップS21においてアクセル開度APOが、アクセルペダルの踏み込みによる発進操作を含む加速操作が行われたか否かを判定するための設定値(図5では5deg)以上か否かをチェックする。
【0032】
アクセル開度APOが設定値(5deg)以上であれば、アクセルペダルの踏み込みによる発進操作を含む加速操作が行われていると判定し、ステップS22において、アクセルペダルの踏み込み状態であることを示すようにアクセル踏み込み判定フラグ(flag_APO)を1にセットする。
しかしアクセル開度APOが設定値(5deg)未満であれば、アクセルペダルの踏み込み状態でないと判定し、ステップS23において、このことを示すようにアクセル踏み込み判定フラグ(flag_APO)を0にリセットする。
【0033】
図2の次のステップSV-04において統合コントローラ8は、モータ回転数Nmを基に車両速度(VSP)を演算する。
更に統合コントローラ8は、ステップSV-05(本発明における車両ずり下がり検知手段に相当)において、図6の制御プログラムを実行することにより、車両が発進操作時に路面勾配などのため発進方向とは逆の方向へずり下がっているロールバック状態か否かを判定し、
車両が発進時ずり下がりを生じているロールバック状態であれば、このことを示すようにロールバック判定フラグ(flag_ROLLBACK)を1にセットし、ロールバック状態でなければ、このことを示すようにロールバック判定フラグ(flag_ROLLBACK)を0にリセットする。
【0034】
つまり、先ず図6のステップS31およびステップS32において、運転者がシフタ22により選択したシフト位置が前進走行用のDレンジか、後進走行用のRレンジか、それとも非走行用のPレンジまたはNレンジかを判定する。
【0035】
ステップS31でDレンジと判定する場合ステップS33において、車両速度VSPがロールバック判定車速(図6では-0.5km/h)以下である状態が設定時間(図6では0.1sec)続いたか否かにより、車両が発進方向(Dレンジ故に前発進)とは逆の方向(後方)へずり下がっているロールバック状態か否かを判定する。
ロールバック状態と判定するとき、ステップS34において、このことを示すようにロールバック判定フラグ(flag_ROLLBACK)を1にセットし、ロールバック状態でないと判定するとき、ステップS35において、このことを示すようにロールバック判定フラグ(flag_ROLLBACK)を0にリセットする。
【0036】
ステップS32でRレンジと判定する場合ステップS36において、車両速度VSPがロールバック判定車速(図6では0.5km/h)以上の状態が設定時間(図6では0.1sec)続いたか否かにより、車両が発進方向(Rレンジ故に後発進)とは逆の方向(前方)へずり下がっているロールバック状態か否かを判定する。
ロールバック状態と判定するとき、ステップS37において、このことを示すようにロールバック判定フラグ(flag_ROLLBACK)を1にセットし、ロールバック状態でないと判定するとき、ステップS38において、このことを示すようにロールバック判定フラグ(flag_ROLLBACK)を0にリセットする。
【0037】
なおステップS31およびステップS32で非走行用のPレンジまたはNレンジと判定する場合、これらが発進で用いる走行レンジでないためロールバックの判定が不要であることから、ステップS38においてロールバック判定フラグ(flag_ROLLBACK)を0にリセットする。
【0038】
統合コントローラ8は次に、図3のステップSV-06(本発明における停車検知手段に相当)において図7の制御プログラムを実行することにより、車両がロールバックしなくなった停車状態(または発進状態)か否かを判定し、
ロールバックしなくなった停車状態(または発進状態)であれば、このことを示すように車両停止判定フラグ(flag_VEL0)を1にセットし、未だロールバックしていて停車状態(または発進状態)になっていなければ、このことを示すように車両停止判定フラグ(flag_VEL0)を0にリセットする。
【0039】
つまり、先ず図7のステップS41およびステップS42において、シフタ2により選択したシフト位置が前進走行用のDレンジか、後進走行用のRレンジか、それとも非走行用のPレンジまたはNレンジかを判定する。
【0040】
ステップS41でDレンジと判定する場合ステップS43において、車両速度VSPが0(停車)または正値(前進)である状態が設定時間(図7では0.1sec)続いたか否かにより、車両がロールバックしなくなって停車状態または発進方向(Dレンジ故に前発進)と同じ方向(前方)へ移動している発進状態か否かを判定する。
車両がロールバックしなくなって停車状態または発進状態になったと判定するとき、ステップS44において、このことを示すように車両停止判定フラグ(flag_VEL0)を1にセットし、
車両が未だ停車状態または発進状態になっていないと判定するとき、ステップS45において、このことを示すように車両停止判定フラグ(flag_VEL0)を0にリセットする。
【0041】
ステップS42でRレンジと判定する場合ステップS46において、車両速度VSPが0(停車)または負値(後進)である状態が設定時間(図7では0.1sec)続いたか否かにより、車両がロールバックしなくなって停車状態または発進方向(Rレンジ故に後発進)と同じ方向(後方)へ移動している発進状態か否かを判定する。
車両がロールバックしなくなって停車状態または発進状態になったと判定するとき、ステップS47において、このことを示すように車両停止判定フラグ(flag_VEL0)を1にセットし、
車両が未だ停車状態または発進状態になっていないと判定するとき、ステップS48において、このことを示すように車両停止判定フラグ(flag_VEL0)を0にリセットする。
【0042】
なおステップS41およびステップS42で非走行用のPレンジまたはNレンジと判定する場合、これらが発進で用いる走行レンジでないため上記の車両停止判定が不要であることから、ステップS48において車両停止判定フラグ(flag_VEL0)を0にリセットする。
【0043】
統合コントローラ8は次に、図3のステップSV-07において図8の制御プログラムを実行することにより、本発明が狙いとする発進時ずり下がり防止制御を実行すべきか否かを判定し、
発進時ずり下がり防止制御実行条件が揃って発進時ずり下がり防止制御を実行すべきであれば、このことを示すように発進時ずり下がり防止制御実行フラグ(flag_RSAON)を1にセットし、
発進時ずり下がり防止制御実行条件が未だ揃っておらず発進時ずり下がり防止制御を実行すべきでなければ、このことを示すように発進時ずり下がり防止制御実行フラグ(flag_RSAON)を0にリセットする。
【0044】
つまり、先ず図8のステップS51において、シフタ2により選択したシフト位置がDレンジまたはRレンジの走行レンジで、且つ、バッテリ6の充電可能電力PINが5kW以下の充電制限中か否かをチェックする。
従ってステップS51は、本発明における充電制限検知手段に相当する。
【0045】
ステップS51において、充電制限中に走行レンジが選択されたと判定する場合は、ステップS52において、ブレーキ踏み込み判定フラグ(flag_BRK)が0(ブレーキペダルが踏み込まれていない非制動状態)で、且つアクセル踏み込み判定フラグ(flag_APO)が1(アクセルペダルが踏み込まれた加速状態)か否かにより、発進操作が有ったか否かをチェックする。
従ってステップS52は、本発明における発進操作検知手段に相当する。
【0046】
ステップS51でP,Nレンジの非走行レンジと判定したり、バッテリ6の充電可能電力PINが5kWを超えていて充電制限中でないと判定するときは、本発明が狙いとする発進時ずり下がり防止制御が不要であることから、ステップS53において、このことを示すように発進時ずり下がり防止制御実行フラグ(flag_RSAON)を0にリセットする。
【0047】
また、ステップS51で充電制限中にD,Rレンジ(走行レンジ)が選択されたと判定しても、ステップS52でブレーキペダルが踏み込まれている制動状態(flag_BRK=1)と判定したり、アクセルペダルが踏み込まれていない非加速状態(flag_APO=0)と判定する場合も、発進意図(発進操作)がないことから、本発明が狙いとする発進時ずり下がり防止制御が不要であるため、ステップS53において、このことを示すように発進時ずり下がり防止制御実行フラグ(flag_RSAON)を0にリセットする。
【0048】
ステップS51で充電制限中に走行レンジが選択されたと判定し、更にステップS52で(flag_BRK)=0(ブレーキペダルが踏み込まれていない非制動状態)、且つ(flag_APO)=1(アクセルペダルが踏み込まれた加速状態)と判定するとき、つまり発進操作が有ったと判定するとき、
ステップS54において、発進時ずり下がり防止制御実行フラグ(flag_RSAON)の前回値が0か否かにより、発進時ずり下がり防止制御が非実行(OFF)中か否かをチェックする。
【0049】
発進時ずり下がり防止制御が非実行(OFF)中であれば、ステップS55においてロールバック判定フラグ(flag_ROLLBACK)が1か否かにより、車両が発進操作時のずり下がりを生じているか否かをチェックする。
従ってステップS55は、本発明における車両ずり下がり検知手段に相当する。
【0050】
ステップS55で(flag_ROLLBACK)=0(発進操作時のずり下がりが発生していない)と判定する場合、発進時ずり下がり防止制御が不要であることから、ステップS56において発進時ずり下がり防止制御実行フラグ(flag_RSAON)を、ステップS54でチェックした前回値「0」のままに保持する。
ステップS55で(flag_ROLLBACK)=1(発進操作時のずり下がりが発生している)と判定する場合、これを防止する発進時ずり下がり防止制御が必要であることから、ステップS57において、発進時ずり下がり防止制御実行フラグ(flag_RSAON)を1にセットする。
【0051】
ステップS54で発進時ずり下がり防止制御実行フラグ(flag_RSAON)の前回値が1であると判定する場合、つまり発進時ずり下がり防止制御が実行(ON)中であると判定する場合、
ステップS58において、車両停止判定フラグ(flag_VEL0)が1か否かにより、車両がずり下がり防止の完了でロールバック(ずり下がり)しなくなった停車状態(または発進状態)か否かをチェックする。
従ってステップS58は、本発明における停車検知手段に相当する。
【0052】
ステップS58において車両停止判定フラグ(flag_VEL0)が1でないと判定する間は、つまり車両の発進時ずり下がり防止が完了しておらず、未だロールバック(ずり下がり)が発生している間は、ステップS59において発進時ずり下がり防止制御実行フラグ(flag_RSAON)を、ステップS54でチェックした前回値「1」のままに保持する。
ステップS58において車両停止判定フラグ(flag_VEL0)が1であると判定した時、つまり車両がずり下がり防止の完了でロールバック(ずり下がり)しなくなり、停車状態(または発進状態)になったと判定する時、ステップS60において発進時ずり下がり防止制御実行フラグ(flag_RSAON)を0にリセットする。
【0053】
図2のステップSV-08において統合コントローラ8は、図9に例示する予定の目標モータトルク基本値マップを基に、アクセル開度APOおよび車両速度VSPから、現在の運転状態で運転者が要求している目標モータトルク基本値TTMA0を演算する。
【0054】
統合コントローラ8は次のステップSV-09(本発明における回転電機制御手段および発進準備手段に相当)において、図1のごとくモータコントローラ5へ指令するモータトルク指令値(TTMA)を以下のように演算する。
つまり、発進時ずり下がり防止制御実行フラグ(flag_RSAON)が0である場合は、モータトルク指令値(TTMA)を上記の目標モータトルク基本値(TTMA0)と同じ値とし(TTMA=TTMA0)、これにより通常のモータトルク制御を行う。
【0055】
発進時ずり下がり防止制御実行フラグ(flag_RSAON)が0から1に切り替わるときは、モータトルク指令値(TTMA)を当該切り替わり時における値(目標モータトルク基本値TTMA0と同じ値)から一定の変化率で0に向かわせる。
発進時ずり下がり防止制御実行フラグ(flag_RSAON)が逆に1から0に切り替わるときは、モータトルク指令値(TTMA)を当該切り替わり時における0から一定の変化率で目標モータトルク基本値TTMA0に復帰させ、TTMA=TTMA0となる復帰完了時に通常のモータトルク制御に戻る。
【0056】
図2のステップSV-10(本発明における摩擦制動制御手段および摩擦制動力復帰手段に相当)において統合コントローラ8は、図1のごとく液圧ブレーキコントローラ14へ指令する発進時ずり下がり防止用ブレーキトルク指令値(TTBRK)を、以下のごとくに演算する。
つまり、発進時ずり下がり防止制御実行フラグ(flag_RSAON)が0である場合は、発進時ずり下がり防止制御が実行されないことから、発進時ずり下がり防止用ブレーキトルク指令値(TTBRK)を、TTBRK =0とする。
【0057】
発進時ずり下がり防止制御実行フラグ(flag_RSAON)が0から1に切り替わるときは、発進時ずり下がり防止用ブレーキトルク指令値(TTBRK)を当該切り替わり時における0から一定の変化率で、目標モータトルク基本値TTMA0と同じトルク値となるよう増大させる。
【0058】
発進時ずり下がり防止制御実行フラグ(flag_RSAON)が逆に1から0に切り替わるときは、発進時ずり下がり防止用ブレーキトルク指令値(TTBRK)を当該切り替わり時における値(目標モータトルク基本値TTMA0と同じトルク値)から一定の変化率で低下させ、最終的にTTBRK =0となす。
なお本実施例では、当該低下中における発進時ずり下がり防止用ブレーキトルク指令値(TTBRK)の低下速度は、ステップSV-09で(flag_RSAON)の1→0切り替わりに呼応して行われるモータトルク指令値(TTMA)の0から目標モータトルク基本値TTMA0への増大速度と同じにする。
【0059】
図2のステップSV-11において統合コントローラ8は、ステップSV-10で求めた発進時ずり下がり防止用ブレーキトルク指令値(TTBRK)を図1に示すごとく液圧ブレーキコントローラ14へ送信し、またステップSV-09で求めたモータトルク指令値(TTMA)を図1に示すごとくモータコントローラ5へ送信するデータ送信処理を行う。
【0060】
液圧ブレーキコントローラ14は、図3のステップSB-04において、図10に例示するブレーキ液圧特性に対応したマップを基にブレーキペダルストロークBRKSTRKから、運転者が要求しているブレーキトルクに対応するブレーキ液圧基本値(TPMC0)を演算する。
次のステップSB-05において液圧ブレーキコントローラ14は、統合コントローラ8が図2のステップSV-11で送信した発進時ずり下がり防止用ブレーキトルク指令値(TTBRK)を図1に示すごとく受け取るデータ受信処理を行う。
【0061】
次いで液圧ブレーキコントローラ14は、本発明における摩擦制動制御手段に相当する図3のステップSB-06において、図1のごとくブレーキ液圧制御装置13へ指令するブレーキ液圧指令値(TPMC)を演算する。
このブレーキ液圧指令値(TPMC)は、車両全体の摩擦制動トルクが、ブレーキペダルの踏み込みによる制動操作時はブレーキペダルストロークBRKSTRKに応じた運転者要求ブレーキトルクに一致するよう、またアクセルペダルの踏み込みによる発進操作時は発進時ずり下がり防止用ブレーキトルク指令値TTBRKに一致するようブレーキユニット11L,11Rおよび12L,12Rを作動させるためのブレーキ液圧指令値(目標マスターシリンダ液圧)である。
【0062】
従ってブレーキ液圧指令値(TPMC)は、ステップSB-04で求めたブレーキ液圧基本値TPMC0と、ステップSB-05において受信した発進時ずり下がり防止用ブレーキトルク指令値TTBRKを実現するのに必要な発進時ずり下がり防止用ブレーキ液圧との大きい方を選択するセレクトハイにより決定する。
【0063】
<発進時ずり下がり防止作用の例示>
上記した第1実施例になる発進時ずり下がり防止制御装置の作用を、図11に示すごとく充電制限中のDレンジ停車(車両速度VSP=0)状態で瞬時t1よりアクセル開度APOを図示のように増大させて行う発進時について以下に説明する。
【0064】
当該アクセル開度APOの増大による発進操作に呼応して目標モータトルク基本値TTMA0は破線で示すように増大する。
発進操作開始時t1の当初は、発進時ずり下がり防止制御実行フラグflag_RSAONが0で発進時ずり下がり防止制御が実行されないことから、モータトルク指令値TTMAは図11に示すとおり目標モータトルク基本値TTMA0と同じにされる。
【0065】
ところで、かかるモータトルク指令値TTMA(=TTMA0)によっても車両が、路面勾配などにより発進方向と逆の方向へずり下がりを生じ、車両速度VSPがロールバック判定速度-0.5km/h以下である状態が設定時間0.1sec以上に亘って続くと(図6のステップS33)、この瞬時t2にロールバック判定フラグflag_ROLLBACKが0から1に切り替わることよって(図6のステップS34)、発進時ずり下がり防止制御実行フラグflag_RSAONが0から1に切り替わり(図8のステップS57)、以下のように発進時ずり下がり防止制御が実行される。
【0066】
瞬時t2に発進時ずり下がり防止制御実行フラグ(flag_RSAON)が0から1に切り替わると、発進時ずり下がり防止用ブレーキトルク指令値(TTBRK)が当該切り替わり瞬時t2における0から一定の変化率α1で、目標モータトルク基本値TTMA0と同じトルク値となるよう増大される(図2のステップSV-10)。
そして、かかる発進時ずり下がり防止用ブレーキトルク指令値(TTBRK)の増大に呼応して、これを達成するための発進時ずり下がり防止用ブレーキ液圧も上昇する。
【0067】
ところで、図1のブレーキ液圧制御装置13へ向かわせるブレーキ液圧指令値TPMCは、図3のステップSB-06につき前述した通り、発進時ずり下がり防止用ブレーキトルク指令値(TTBRK)を達成するための発進時ずり下がり防止用ブレーキ液圧と、ステップSB-04で求めたブレーキ液圧基本値TPMC0との大きい方(セレクトハイの値)である。
しかるに発進操作時は、ブレーキペダルの釈放によりストロークBRKSTRKが0であるためブレーキ液圧基本値TPMC0も0である。
従ってブレーキ液圧指令値TPMCは、発進時ずり下がり防止用ブレーキ液圧と同じ値となり、図11のように上昇する(図11では便宜上、発進時ずり下がり防止用ブレーキトルク指令値TTBRKと同じ線により示した)。
【0068】
他方で、発進時ずり下がり防止制御実行フラグ(flag_RSAON)が0から1に切り替わる瞬時t2以降、モータトルク指令値(TTMA)は当該切り替わり瞬時t2における値(目標モータトルク基本値TTMA0と同じ値)から一定の変化率β1で低下され、瞬時t3に遂に0となる(図2のステップSV-09)。
【0069】
かかるモータトルク指令値(TTMA)の瞬時t2以降における低下、および瞬時t3以降における0保持と、上記した発進時ずり下がり防止用ブレーキトルク指令値TTBRK(ブレーキ液圧指令値TPMC)の増大とで、車両はその速度VSPの経時変化から明らかなように、ロールバック(ずり下がり)を防止される。
図11の瞬時t4に車両のロールバック(ずり下がり)防止が完了して車両速度VSPが0になると、この状態が設定時間0.1sec継続したか否かにより車両停止判定がなされ(図7のステップS43)、VSP=0の状態が0.1sec継続した瞬時t5に車両停止判定フラグflab_VEL0が0から1にされる(図7のステップS44)。
【0070】
かかる車両停止判定フラグflab_VEL0の0→1切り替えに呼応して、瞬時t5に発進時ずり下がり防止制御実行フラグ(flag_RSAON)が1から0に切り替わる(図8のステップS58およびステップS60)。
瞬時t5に発進時ずり下がり防止制御実行フラグ(flag_RSAON)が1から0に切り替わると、モータトルク指令値(TTMA)は当該切り替わり瞬時t5における0から一定の変化率β2で目標モータトルク基本値TTMA0に復帰され(図2のステップSV-09)、TTMA=TTMA0となる復帰完了瞬時t6に通常のモータトルク制御に戻る。
【0071】
発進時ずり下がり防止制御実行フラグ(flag_RSAON)が1から0に切り替わる瞬時t5以降は更に、発進時ずり下がり防止用ブレーキトルク指令値(TTBRK)が当該切り替わり瞬時t5における値(目標モータトルク基本値TTMA0と同じトルク値)から一定の変化率α2(モータトルク増大速度β2と同じ速度)で低下され、瞬時t6にTTBRK =0となる(図2のステップSV-10)。
なお、発進時ずり下がり防止用ブレーキトルク指令値(TTBRK)の低下に応じてブレーキ液圧指令値(TPMC)も低下されるのは勿論である(図3のステップSB-06)。
【0072】
かかる発進時ずり下がり防止用ブレーキトルク指令値TTBRK(ブレーキ液圧指令値TPMC)の低下α2と、上記モータトルク指令値(TTMA)の目標モータトルク基本値TTMA0への復帰β2とにより、車両速度VSP≧0から明らかなごとく車両を発進させることができる。
そして、発進時ずり下がり防止用ブレーキトルク指令値TTBRK(ブレーキ液圧指令値TPMC)の低下速度α2と、モータトルク指令値(TTMA)の目標モータトルク基本値TTMA0への復帰速度β2とが同じ(α2=-β2)であることにより、これら両者が同じ瞬時t6に完了し、この瞬時t6以降モータトルク制御およびブレーキ制御を通常制御に戻すことができる。
【0073】
<第1実施例の効果>
ところで第1実施例においては、発進操作時に車両のずり下がりが発生して、このずり下がりを防止するために車輪の制動が必要な場合に、バッテリ6が充電を制限されていれば、発進時ずり下がり防止用ブレーキトルク指令値TTBRK(ブレーキ液圧指令値TPMC)に基づき車輪を摩擦制動することとなる。
このため、充電制限により回生制動が得られない場合は、これに代えて摩擦制動(TTBRK)により車輪を制動して発進操作時のずり下がりを防止し得ることとなり、充電制限中も発進操作時のずり下がりを防止し得なくなる不都合を回避することができる。
【0074】
また、充電制限中なのに回生制動が行われて、回生電力がバッテリ6を過充電させるような事態も回避し得る
【0075】
そして、発進時ずり下がり防止用ブレーキトルク指令値TTBRK(ブレーキ液圧指令値TPMC)に基づき車輪を摩擦制動している間は、モータトルク指令値(TTMA)を0にするため、
摩擦制動により発進時のずり下がりが防止されているのに、アクセル開度APO対応のモータトルク指令値(TTMA=TTMA0)によりモータ3が回生トルクを出力することがなく、確実に過充電を防止することができる。
【0076】
更に、発進時ずり下がり防止用ブレーキトルク指令値TTBRK(ブレーキ液圧指令値TPMC)に基づく車輪の摩擦制動により車両のずり下がりが無くなって停車状態になったのを停車判定フラグflag_VEL0=1により判定したら、
発進時ずり下がり防止用ブレーキトルク指令値TTBRK(ブレーキ液圧指令値TPMC)に基づく車輪の摩擦制動を中止すると共に、モータトルク指令値(TTMA)を0から目標モータトルク基本値TTMA0に復帰させるようにしたため、
未だ車両のずり下がりが無くなっていないうちに回生制動が開始されるようなことがなく、充電制限中にもかかわらず回生電力が発生する不都合を回避することができる。
【0077】
また、発進時ずり下がり防止用ブレーキトルク指令値TTBRKを、アクセル開度APOに応じた目標モータトルク基本値TTMA0と同等なトルク値としたため、
発進時ずり下がり防止用ブレーキトルク指令値TTBRK(ブレーキ液圧指令値TPMC)に基づく車輪の摩擦制動力の増減が運転者によるアクセル操作に応じたものとなって、
回生制動による発進時ずり下がり防止制御と同様な感覚の摩擦制動力制御が行われ、違和感のない発進時ずり下がり防止制御を実現することができる。
【0078】
更に、発進時のずり下がり防止が完了して車両が停止した時に行うべき、発進時ずり下がり防止用ブレーキトルク指令値TTBRK(ブレーキ液圧指令値TPMC)の低下(速度α2)と、モータトルク指令値(TTMA)の目標モータトルク基本値TTMA0への復帰(速度β2)とを、同じ速度で行わせるようにしたため、
前者の発進時ずり下がり防止用ブレーキトルク指令値TTBRK(ブレーキ液圧指令値TPMC)の低下と、後者のモータトルク指令値(TTMA)の目標モータトルク基本値TTMA0への復帰とが同じ瞬時(図11のt6)に完了して通常制御に戻ることとなり、
両者の完了タイミングが異なって、ブレーキの引っかかり感などが発生し、滑らかな発進を行い得なくなる不都合を回避することができる。
【0079】
また、発進時ずり下がり防止用ブレーキトルク指令値TTBRK(ブレーキ液圧指令値TPMC)に基づく車輪の摩擦制動による車両のずり下がり防止制御中にアクセルペダルの釈放により発進操作が解除された場合は、
図8のステップS52が制御をステップS53へ進めて発進時ずり下がり防止制御実行フラグflag_RSAONを0にすることにより、車輪の摩擦制動による車両のずり下がり防止制御を中止して(TTBRK=0にして)、図3のステップSB-06で求めるブレーキ液圧指令値TPMCを、同図のステップSB-04で求めたブレーキ液圧基本値TPMC0と同じ値にしたため、
車輪の摩擦制動による車両のずり下がり防止制御中に発進操作を止めてブレーキペダルを踏み込んだ場合も、ブレーキ液圧指令値TPMCがブレーキペダルストロークBRKSTRK(運転者の制動操作)に応じたものであることにより、制動力が違和感のあるものになることがなく、通常制御への復帰を違和感なしに行わせることができる。
【0080】
<第2実施例>
図12は、本発明の第2実施例になる発進時ずり下がり防止制御の動作タイムチャートで、本実施例においては、発進時ずり下がり防止制御実行フラグ(flag_RSAON)が1から0に切り替わるときに図2のステップSV-10で低下させるべき発進時ずり下がり防止用ブレーキトルク指令値(TTBRK)の低下要領を、図12につき以下に説明するようなものとし、それ以外は第1実施例におけると同様なものとする。
【0081】
図12は、図11と同じ条件での動作タイムチャートを示し、本実施例においては、発進時ずり下がり防止制御実行フラグ(flag_RSAON)が1から0に切り替わる瞬時t5より、モータトルク指令値TTMAは第1実施例と同じように0から変化率β2で目標モータトルク基本値TTMA0へ向け増大させるが(図2のステップSV-09)、
発進時ずり下がり防止用ブレーキトルク指令値(TTBRK)は図2のステップSV-10において、当該切り替わり瞬時t5における値δ(モータトルク基本値TTMA0と同じトルク値)から以下のごとくに低下させて、最終的にTTBRK =0となす。
【0082】
つまり、変化率β2で0から目標モータトルク基本値TTMA0へ向け増大中のモータトルク指令値TTMAが、上記の切り替わり瞬時t5における発進時ずり下がり防止用ブレーキトルク指令値(TTBRK)と同じ値δとなる瞬時t7を挟んで、
この瞬時t7までは発進時ずり下がり防止用ブレーキトルク指令値(TTBRK)を瞬時t5における値δに保持し、瞬時t7より発進時ずり下がり防止用ブレーキトルク指令値(TTBRK)を保持値δから一定の変化率α3で低下させ、瞬時t8にTTBRK=0となして通常制御に戻す。
【0083】
なお、発進時ずり下がり防止用ブレーキトルク指令値(TTBRK)を保持値δから0に戻し始めるタイミングは、上記のごとく必ずしもモータトルク指令値TTMAが瞬時t5における発進時ずり下がり防止用ブレーキトルク指令値(TTBRK)と同じ値δとなる瞬時t7でなくてもよく、
例えばモータトルク指令値TTMAが上記δの何割に達したときから、発進時ずり下がり防止用ブレーキトルク指令値(TTBRK)を保持値δから0に戻し始めるようにしてもよい。
【0084】
<第2実施例の効果>
かかる第2実施例の発進時ずり下がり防止制御装置においては、発進時ずり下がり防止制御実行フラグ(flag_RSAON)が1から0に切り替わる瞬時t5に直ちに発進時ずり下がり防止用ブレーキトルク指令値(TTBRK)の低下を開始させず、
この発進時ずり下がり防止用ブレーキトルク指令値(TTBRK)を瞬時t5から所定時間中(図12では瞬時t7まで)、瞬時t5の時の値δに保持しておき、その後に0へ向け低下させるため、
摩擦制動による車両のずり下がりを確実なものにして、回生制動が行われることのないようにし、充電制限中にもかかわらず回生電力が発生してしまう不都合を確実に回避することができる。
【0085】
<その他の実施例>
なお、図示の実施例では電動車両が、動力源として電動モータ3のみを搭載された電気自動車である場合につき説明したが、本発明は、エンジンおよび電動モータからのエネルギーを用いて走行するハイブリッド車両にも提供して、同様な作用効果を奏し得ること勿論である。
【符号の説明】
【0086】
1L,1R 左右前輪
2L,2R 左右後輪
3 モータ(回転電機)
4 減速機
5 モータコントローラ
6 バッテリ(電源)
7 インバータ
8 統合コントローラ
9L,9R,10L,10R ブレーキディスク
11L,11R,12L,12R ブレーキユニット
13 ブレーキ液圧制御装置
14 液圧ブレーキコントローラ
21 ブレーキペダルストロークセンサ
22 シフタ
23 アクセル開度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機からの駆動力を車輪に伝えて走行可能であり、該回転電機への発電負荷による回生制動と、所要に応じた摩擦制動とにより前記車輪を制動可能な電動車両において、
前記回転電機の電源に対する充電が制限されているのを検知する充電制限検知手段と、
運転者による車両の発進操作を検知する発進操作検知手段と、
該手段で発進操作が検知された時に車両が、発進の方向とは逆方向へずり下がったのを検知する車両ずり下がり検知手段と、
これら発進操作検知手段および車両ずり下がり検知手段で発進操作時の車両のずり下がりが検知され、且つ、前記充電制限検知手段で前記電源の充電制限が検知されるとき、前記摩擦制動を生起させる摩擦制動制御手段とを具備して成ることを特徴とする電動車両の発進時ずり下がり防止制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された電動車両の発進時ずり下がり防止制御装置において、
前記摩擦制動制御手段が摩擦制動を生起させている間、前記回転電機の出力トルクを0にする回転電機制御手段を設けたことを特徴とする電動車両の発進時ずり下がり防止制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載された電動車両の発進時ずり下がり防止制御装置において、
前記車両のずり下がりが無くなって停車状態になったのを検知する停車検知手段と、
該手段による停車状態の検知時に、前記摩擦制動制御手段による前記摩擦制動の生起を中止させると共に、前記回転電機制御手段により0にされていた前記回転電機の出力トルクを前記発進操作対応の出力トルク目標値へ復帰させる発進準備手段とを設けたことを特徴とする電動車両の発進時ずり下がり防止制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載された電動車両の発進時ずり下がり防止制御装置において、
前記摩擦制動制御手段が生起させる摩擦制動の制動力は、前記発進操作に応じた前記回転電機の出力トルク目標値と同等なトルク値であることを特徴とする電動車両の発進時ずり下がり防止制御装置。
【請求項5】
請求項3または4に記載された電動車両の発進時ずり下がり防止制御装置において、
前記発進準備手段は、前記摩擦制動制御手段による前記摩擦制動の生起を中止させる時の制動力低下速度と、前記回転電機の出力トルクを0から前記発進操作対応の出力トルク目標値へ復帰させる時の回転電機出力トルク復帰速度とを一致させるものであることを特徴とする電動車両の発進時ずり下がり防止制御装置。
【請求項6】
請求項3または4に記載された電動車両の発進時ずり下がり防止制御装置において、
前記発進準備手段は、前記摩擦制動制御手段による前記摩擦制動の生起を中止させる時の制動力低下に当たり、前記0からの復帰中における回転電機の出力トルクが、該低下の開始時における摩擦制動力と同等なトルク値となる瞬時を挟んで、該瞬時の前では摩擦制動力を、前記低下の開始時における摩擦制動力と同じトルク値に保持し、前記瞬時より摩擦制動力の低下を行うものであることを特徴とする電動車両の発進時ずり下がり防止制御装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載された電動車両の発進時ずり下がり防止制御装置において、
前記発進操作検知手段が運転者による車両の発進操作を検知しなくなった時、前記摩擦制動制御手段による前記摩擦制動の生起を中止させて摩擦制動力を運転者による制動操作に応じたトルク値となす摩擦制動力復帰手段を設けたことを特徴とする電動車両の発進時ずり下がり防止制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−105386(P2012−105386A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249341(P2010−249341)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】