説明

電圧検出装置及びそれを用いた電力変換装置

【課題】コストの増大及び大型化を抑制するともに、サージの影響による装置故障を防止した直流高電圧検出装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る電圧検出装置は、直列に接続された複数の抵抗により構成され、かつ直流電源の正極端子側に接続される正極側分圧回路部と、直列に接続された複数の抵抗により構成され、かつ前記直流電源の負極端子側に接続される負極側分圧回路部と、前記正極側分圧回路部及び前記負極側分圧回路部によって分圧された分圧値に基づいて、直流電源の正極と負極との間の電圧値を演算する演算回路部と、前記正極側分圧回路部を構成する複数の抵抗のうちの隣り合う2つの抵抗の接続点と、前記負極側分圧回路部を構成する複数の抵抗のうちの隣り合う2つの抵抗の接続点との間に接続されるコンデンサと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧検出装置及びそれを用いた電力変換装置に係り、特に直流高電圧を検出する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置は、直流電源から供給された直流電力を回転電機などの交流電気負荷に供給するための交流電力に変換する機能、あるいは回転電機により発電された交流電力を直流電源に供給するための直流電力に変換する電力変換機能を備えている。この電力変換機能を果たすため、電力変換装置はスイッチング素子を有するインバータ回路を有しており、スイッチング素子が導通動作や遮断動作を繰り返すことにより直流電力から交流電力へあるいは交流電力から直流電力への電力変換を行う。
【0003】
電力変換の電力制御を行うために、直流電源側の電圧値を検出する必要があり、一般に電圧値の計測機能が電力変換装置に内蔵される。なお、電力制御の指令は制御対象となる高電圧系とは絶縁された低電圧系の制御回路が演算する。
【0004】
従来の直流高電圧検出方法では、直列多段に分圧器を接続して低圧系の制御回路で計測可能な電圧に変換するようにしている。この分圧器には検出対象となる直流高電圧に見合った部品耐圧が必要となり、直列に接続する分圧器の段数を多数にして分圧器一段当たりの部品耐圧を低くするか、段数を少数にして分圧器一段当たりの部品耐圧を高くする構成が適用される。
【0005】
直流高電圧を検出する方式としては、分圧器として抵抗を使用し、かつ各抵抗に並列にコンデンサを接続して使用電圧の範囲内での過渡的な分圧性能を改善する技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0006】
製造現場や人体からの静電気や雷によるサージ(以下、単純にサージと表する)によって電力変換装置の高電圧端子の正極と負極の間や高電圧端子とケース電位(あるいはアース電位)の間に瞬間的に通常使用電圧を超える電圧が印加されることがある。これに対応して、製品の出荷検査において絶縁強度を確認するための耐電圧試験として、通常使用電圧の2〜8倍程度の電圧を印加する場合がある。このため、抵抗器には使用電圧だけでなく瞬時の最高使用電圧(あるいは過負荷電圧)がサージや耐電圧試験に耐えうる性能が要求される。
【0007】
一般に抵抗器のサージ耐量は抵抗器の段数と抵抗値とサージ電圧値から決定する。例えば多段の抵抗値が全て等しければ、考えうるサージ電圧を段数で除算した値を各抵抗器の最低耐サージ電圧とする。しかし、実際には抵抗器を実装するプリント基板の構造や抵抗器の配置により抵抗器間や各抵抗器とケース電位間には寄生容量が存在し、各抵抗器に印加されるサージ電圧にばらつきが生じる。特に高電圧側に近い抵抗器ほどサージの影響を受けやすく、抵抗器が劣化して装置故障の原因となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−256222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、コストの増大及び大型化を抑制するともに、サージの影響による装置故障を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る電圧検出装置は、上記課題を解決するために、直列に接続された複数の抵抗により構成され、かつ直流電源の正極端子側に接続される正極側分圧回路部と、直列に接続された複数の抵抗により構成され、かつ前記直流電源の負極端子側に接続される負極側分圧回路部と、前記正極側分圧回路部及び前記負極側分圧回路部によって分圧された分圧値に基づいて、直流電源の正極と負極との間の電圧値を演算する演算回路部と、前記正極側分圧回路部を構成する複数の抵抗のうちの隣り合う2つの抵抗の接続点と、前記負極側分圧回路部を構成する複数の抵抗のうちの隣り合う2つの抵抗の接続点との間に接続されるコンデンサと、を備える。
【0011】
これにより、電圧検出装置におけるコストの増大及び大型化を抑制するともに、サージの影響による装置故障を防止することができる。
【0012】
また、本発明に係る電力変換装置は、上記課題を解決するために、直流電源の正極側に接続され、かつ直列に接続された複数の抵抗により構成される正極側分圧回路部と、前記直流電源の負極側に接続され、かつ直列に接続された複数の抵抗により構成される負極側分圧回路部と、前記正極側分圧回路部及び前記負極側分圧回路部によって分圧された分圧値に基づいて、直流電源の正極と負極との間の電圧値を演算する電圧演算回路と、前記正極側分圧回路部及び前記負極側分圧回路部を実装するための絶縁基板と、前記絶縁基板の一方の面側に配置され、かつ前記正極側分圧回路部と接続される正極側パターン配線と、前記絶縁基板における前記正極側パターン配線が配置された面側に配置され、かつ前記負極側分圧回路部と接続される負極側パターン配線と、前記絶縁基板内に層状に設けられた基板内パターン配線と、を有する電圧検出装置を備えた電力変換装置であって、前記基板内パターン配線は、前記正極側パターン配線及び前記負極側パターン配線の主面と対向するように形成され、かつ前記絶縁基板を介して当該基板内パターン配線と当該正極側パターン配線との間に第1寄生容量を保持できるように形成され、また前記絶縁基板を介して当該基板内パターン配線と当該負極側パターン配線との間に第2寄生容量を保持できるように形成され、さらに前記基板内パターン配線はグランドに電気的に接続される。
【0013】
これにより、電力変換装置におけるコストの増大及び大型化を抑制するともに、サージの影響による装置故障を防止することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、コストの増大及び大型化を抑制しするともに、サージの影響による装置故障を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態をなすハイブリッド自動車の制御ブロックを示す図。
【図2】本発明の一実施形態をなす上下アームの直列回路及び制御部を含む車両駆動用電機システムの回路構成を示す図。
【図3】直流高電圧検知装置回路ブロック図。
【図4】図3の分圧抵抗に係る実装形態のうち正極と負極との間に寄生容量を有する構成を示した図。
【図5】図3の分圧抵抗に係る実装形態のうち正極ケース電位間,負極ケース電位間に寄生容量を有する構成を示した図。
【図6】図3の分圧抵抗に係る実装形態のうち寄生容量を低減する構成を示した図。
【図7】本発明の一実施形態をなす正極と負極との間の耐サージ性能を有する直流高電圧検知装置回路を示すブロック図。
【図8】本発明の一実施形態をなす正極負極間の耐サージ性能を有する直流高電圧検知装置回路を示すプロック図。
【図9】本発明の一実施形態をなす正極ケース電位間,負極ケース電位間の耐サージ性能を有する直流高電圧検知装置回路を示すブロック図。
【図10】図9の分圧抵抗に係る実施形態のうち、正極ケース側分圧抵抗のうち正極に最も近い分圧抵抗と、負極ケース側分圧抵抗のうち負極に最も近い分圧抵抗とが、ケース電位との間に寄生容量を有する構成を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を示す。
【実施例1】
【0017】
本発明の実施形態に係る直流高電圧検出装置について、図面を参照しながら以下詳細に説明する。本発明の実施形態に係る直流高電圧検出装置は、電力変換装置に内蔵され、ハイブリッド用の自動車や純粋な電気自動車にも適用可能である。一例として、電力変換装置をハイブリッド自動車に適用した場合の制御構成と、電力変換装置の回路構成について、図1と図2を用いて説明する。
【0018】
図1はハイブリッド自動車の制御ブロックを示す図である。本実施形態で示される電力変換装置200は、自動車に搭載される車載電機システムの車載用電力変換装置、特に、車両駆動用電機システムに用いられる。ここでは、搭載環境や動作的環境などが大変厳しい車両駆動用電機システムに用いられる車両駆動用インバータ装置300を例に挙げて説明する。
【0019】
車両駆動用インバータ装置300は、モータジェネレータ400の駆動を制御する制御装置として車両駆動用電機システムに備えられ、車載電源を構成する直流電源10、或いはモータ402から供給された直流電力を所定の交流電力に変換し、得られた交流電力をモータジェネレータ400に供給してモータジェネレータ400の駆動を制御する。また、モータジェネレータ400は発電機としての機能も有しているので、車両駆動用インバータ装置300は運転モードに応じ、モータジェネレータ400の発生する交流電力を直流電力に変換する機能も有している。変換された直流電力は直流電源10に供給される。
【0020】
なお、本実施形態の構成は、自動車やトラックなどの車両駆動用電力変換装置として最適であるが、これら以外の電力変換装置、例えば電車や船舶,航空機などの電力変換装置、さらに工場の設備を駆動する電動機の制御装置として用いられる産業用電力変換装置、或いは家庭の太陽光発電システムや家庭の電化製品を駆動する電動機の制御装置に用いられたりする家庭用電力変換装置に対しても適用可能である。
【0021】
以下、図2を用いて電力変換装置200の動作を説明する。図2は上下アームの直列回路及び制御部を含むインバータ装置300と、インバータ装置300の直流側に接続されたコンデンサモジュール70を備えた電力変換装置200と、直流電源10と、モータジェネレータ400とを有する車両駆動用電機システムの回路構成を示す図である。
【0022】
電力変換装置200は、図2に示されたようにインバータ装置300とコンデンサモジュール70とを有し、また、インバータ装置300はインバータ回路310と制御部320とを有している。制御部320はインバータ回路310を駆動制御するドライバ回路100と、ドライバ回路100へ信号線80を介して制御信号を供給する制御回路50とを有している。
【0023】
制御回路50はスイッチング素子としての上アーム用IGBT340及び下アーム用IGBT341のスイッチングタイミングを演算処理するためのマイクロコンピュータ(以下、「マイコン」と記述する)を備えている。マイコンには入力情報として、モータジェネレータ400に対して要求される目標トルク値、上下アーム直列回路311からモータジェネレータ400の電機子巻線に供給される電流値、及びモータジェネレータ400の回転子の磁極位置が入力されている。目標トルク値は、不図示の上位の制御装置から出力された指令信号に基づくものである。電流値は、電流センサ330から出力された検出信号に基づいて検出されたものである。磁極位置は、モータジェネレータ400に設けられた回転磁極センサ(不図示)から出力された検出信号に基づいて検出されたものである。本実施形態では3相の電流値を検出する場合を例に挙げて説明するが、2相分の電流値を検出するようにしても構わない。
【0024】
制御回路50内のマイコンは、目標トルク値に基づいてモータジェネレータ400のd,q軸の電流指令値を演算し、この演算されたd,q軸の電流指令値と、検出されたd,q軸の電流値との差分に基づいてd,q軸の電圧指令値を演算し、この演算されたd,q軸の電圧指令値を、検出された磁極位置に基づいてU相,V相,W相の電圧指令値に変換する。そして、マイコンは、U相,V相,W相の電圧指令値に基づく基本波(正弦波)と搬送波(三角波)との比較に基づいてパルス状の変調波を生成し、この生成された変調波をPWM(パルス幅変調)信号としてドライバ回路100に出力する。
【0025】
ドライバ回路100は、下アームを駆動する場合、PWM信号を増幅し、増幅されたPWM信号をドライブ信号として、対応する下アーム用IGBT341のゲート電極に出力する。上アームを駆動する場合は、PWM信号の基準電位のレベルを上アームの基準電位のレベルにシフトしてからPWM信号を増幅し、増幅されたPWM信号をドライブ信号として、対応する上アーム用IGBT340のゲート電極に出力する。これにより、上アーム用IGBT340及び下アーム用IGBT341は、入力されたドライブ信号に基づいてスイッチング動作を行う。
【0026】
また、制御部320は、異常検知(過電流,過電圧,過温度など)を行い、上下アーム直列回路311を保護している。このため、制御部320にはセンシング情報が入力されている。IGBTの印加電圧がIGBT耐圧を超えると、IGBTは直ちに耐圧破壊するおそれがある。この破壊からIGBTを保護するために直流高電圧検出値をもとに過電圧を検知する必要がある。直流電圧の上昇は、モータ回生運転中の直流電源切断や、モータの急激な回転上昇などによって生じる。過電圧が検知された場合には全ての上アーム用IGBT340及び下アーム用IGBT341のスイッチング動作を停止させ、上下アーム直列回路311(引いては、上下アーム直列回路311を含む半導体モジュール)を過電圧から保護する。
【0027】
スイッチング停止方法としては、上下アームすべてのIGBTを非導通状態にする3相オープン動作、上アーム3相分あるいは下アーム3相分を導通状態にしもう一方のアーム3相分を非導通状態にする3相ショート動作がある。どちらの方式を採用するかはモータ特性やIGBT特性,運転条件に合わせて決定する。
【0028】
図3は、直流高電圧検出の構成を表す回路ブロック図である。以下では、本実施形態として直流高電圧の正極12とケース電位14の間、負極13とケース電位14の間の2点を測定する構成にて説明するが、必ずしもこの2点での測定に限定されるものではない。ここで、ケース電位14は、電力変換装置の筐体を介して、車両のアース電位と同電位となる電位のことを指す。
【0029】
図3に示す直流高電圧検出装置1は、図2に示された制御回路50内部に実装される。検出対象となる直流高電圧を入力とし、抵抗21a〜21c,22,24a〜24c,25によって、直流高電圧を制御回路50で演算できる電圧レベルに変換する。分圧の基準電位は制御回路の基準電位と同じケース電位14とする。この変換した電圧をバッファ40,41を通して演算回路42,43,44へ入力し、演算回路42,43,44の演算結果をマイコン45へ信号を出力する。
【0030】
より具体的には、演算回路42は直流高電圧の正極側の分圧電圧60と直流高電圧の負極側の分圧電圧61の差動をとって直流高電圧の正極負極間の分圧電圧62を演算する。演算回路43はケース電位に対して負電圧となっている直流高電圧の負極側の分圧電圧61をケース電位を基準に反転する。演算回路44は予め設定した過電圧しきい値に対して正極負極間の分圧電圧62の過電圧判定を実施し、過電圧検知信号64を出力する。
【0031】
マイコン45に対して、直流高電圧正極側の分圧電圧60を直接A/D変換ポートに入力したり、演算回路42の演算結果つまり正極負極間の分圧電圧62をA/D変換ポートに入力したり、演算回路43の演算結果つまり負極電圧反転検知信号63をA/D変換ポートに入力する。マイコン45は、入力された各演算結果をもとに、モータ制御用のPWM信号を生成し、直流高電圧のケースへのリークを検知する。また、マイコン45に対して演算回路44の演算結果である過電圧検知信号64を汎用デジタルポートに入力し、過電圧と判定された場合にはスイッチング動作を停止するようにマイコン45がPWM信号を制御する。
【0032】
図4と図5と図6は抵抗21a〜21c,24a〜24cのプリント基板での実装形態の例を示している。
【0033】
図4(a)ではプリント基板91の一面に正極側パターン配線15と正極側に設けられる抵抗21a〜21cを有する。また、プリント基板91における正極側パターン配線15と対向する面側に、正極側パターン配線15と平行に配置される負極側パターン配線16と負極側に設けられる抵抗24a〜24cを有する。この構成では、正極側パターン配線15と負極側パターン配線16でプリント基板91の絶縁材を挟み込むことになる。そのため、図4(b)に示されるように、正極側パターン配線15と負極側パターン配線16の間に寄生容量35a〜35cが形成される。
【0034】
これにより、直流高電圧に対して抵抗21aと寄生容量35aと抵抗24aによる電流ループ、抵抗21bと寄生容量35bと抵抗24bによる電流ループ、抵抗21cと寄生容量35cと抵抗24cによる電流ループが形成される。直流高電圧の正極と負極の間にサージが重畳すると、特に抵抗21aと寄生容量35aと抵抗24aの電流ループにサージエネルギーが流入しやすく、抵抗21aと抵抗24aにサージエネルギーが集中する。このサージエネルギーが抵抗21aと抵抗24aの許容できる耐サージ性能を超えていると、抵抗21aと抵抗24aは劣化し、破壊に至る。
【0035】
図5は、プリント基板への他の実装形態を示す。図5(a)ではプリント基板92の一面に正極側パターン配線15と正極側に設けられる抵抗21a〜21cを有する。また、プリント基板91における正極側パターン配線15が配置された面と同一の面に、正極側パターン配線15と平行に配置される負極側パターン配線16及び負極側に設けられる抵抗24a〜24cを有する。
【0036】
そしてプリント基板92は、プリント基板92の正極側パターン配線15と負極側パターン配線16を有する面に対向する面、あるいは内層にケース電位ベタ層17を有する。この構成では、正極側パターン配線15とケース電位ベタ層17でプリント基板92の絶縁材を挟み込むことになり、図5(b)に示されるような、正極側パターン配線15とケース電位ベタ層17の間に寄生容量36a〜36cが形成される。
【0037】
同様に負極側パターン配線16とケース電位ベタ層17の間にも、図5(b)に示されるような、寄生容量37a〜37cが形成される。
【0038】
これにより、直流高電圧の正極とケース電位に対して抵抗21aと寄生容量36aによる電流ループ、抵抗21bと寄生容量36bによる電流ループ、抵抗21cと寄生容量36cによる電流ループが形成される。直流高電圧の正極とケース電位の間にサージが重畳すると、特に抵抗21aと寄生容量36aの電流ループにサージエネルギーが流入しやすく、抵抗21aにサージエネルギーが集中する。このサージエネルギーが抵抗21aの許容できる耐サージ性能を超えていると、抵抗21aは劣化し、破壊に至る。
【0039】
同様に直流高電圧の負極とケース電位に対して、抵抗24aと寄生容量37aによる電流ループ、抵抗24bと寄生容量37bによる電流ループ、抵抗24cと寄生容量37cによる電流ループが形成される。直流高電圧の負極とケース電位の間にサージが重畳すると、特に抵抗24aと寄生容量37aの電流ループにサージエネルギーが流入しやすく、抵抗24aにサージエネルギーが集中する。このサージエネルギーが抵抗24aの許容できる耐サージ性能を超えていると、抵抗24aは劣化し、破壊に至る。
【0040】
図6は、プリント基板への他の実装形態を示す。図6ではプリント基板90の一面に正極側パターン配線15と正極側に設けられる抵抗21a〜21cを有する。また、プリント基板90の正極側パターン配線15と同一の面に正極側パターン配線15と平行に配置される負極側パターン配線16と負極側抵抗24a〜24cを有する。
【0041】
この構成では、正極側パターン配線15と負極側パターン配線16との間において、プリント基板90の厚さ方向の絶縁材を挟み込まないため、図4(a)の実装形態と比較して正極側パターン配線15と負極側パターン配線16の間に寄生容量が形成されにくい。
【0042】
これにより、直流高電圧に対して抵抗21a〜21cと寄生容量と抵抗24a〜24cによる電流ループが形成されにくくなり、直流高電圧の正極と負極の間に重畳されるサージエネルギーが特定の部品に集中しなくなる。
【0043】
また、プリント基板90の正極側パターン配線15と負極側パターン配線16の領域の他層にケース電位が存在しないため、図5(a)のような正極側パターン配線15とケース電位間の寄生容量、負極側パターン配線16とケース電位間の寄生容量は存在しない。この結果、直流高電圧の正極とケース電位間、直流高電圧の負極とケース電位間に重畳されるサージエネルギーが特定の部品に集中しなくなる。
【0044】
本発明を係る実施形態においては、抵抗21a〜21c,24a〜24cの実装形態として、図4から図6のいずれのプリント基板の実装形態を採用することができるが、以下の説明では図6のプリント基板の実装形態を例に採って説明する。
【0045】
図7は本実施例の直流高電圧検出の構成を表す回路ブロック図である。
【0046】
抵抗21a〜21c,22,24a〜24c,25に係る抵抗値と使用電圧と最高使用電圧は、計測に要する分圧比と、正極12と負極13の間の絶縁抵抗と、正極12あるいは負極13とケース電位14の間の絶縁抵抗と、瞬間的でなくある一定の期間に印加されうる最大電圧から決定される。高い測定精度を必要とする場合は抵抗21a〜21c,22,24a〜24c,25を抵抗値のばらつきが小さく(例えば公称値±0.1%)、温度依存性の少ない(例えば、抵抗温度係数が±25ppm/℃)特性をもつ高精度抵抗器とする。高精度抵抗器としては例えば高精度薄膜抵抗があるが、一般に薄膜抵抗はサージに弱い特性をもつ。以下、抵抗21a〜21c及び24a〜24cは、この高精度抵抗器が用いられたものとして説明する。
【0047】
サージ電圧のエネルギーを抵抗21a〜21cや24a〜24cに印加させないようにするため、新たに、コンデンサ30,抵抗20a,20b,抵抗23a,23bを設ける。抵抗20a,20bは直流電源の正極側端子とコンデンサ30との間に設けられ、抵抗23a,23bは、直流電源の負極側端子とコンデンサ30との間に設けられる。
【0048】
これにより、直流高電圧入力に対して抵抗20a,20b,コンデンサ30,抵抗23a,23bからなるループができる。このループにサージエネルギーを吸収する効果を持たせることで、抵抗21a〜21c,24a〜24cにサージエネルギーを印加させないようにする。なお、印加されうるサージの電圧値やパルス幅を元に、サージエネルギーをループで吸収できるように抵抗20a,20b,23a,21bの抵抗値,コンデンサ30の静電容量を決定する。
【0049】
図7では正極側の抵抗20a,20b,負極側の抵抗23a,23bとして、各々2個としたが、2個に限定されるものではない。図8に示すように、正極側の抵抗20,負極側の抵抗23と各々1個としてもループは形成されており、抵抗20,抵抗23の抵抗値とコンデンサ30の静電容量を適切に定めることによって十分なサージ吸収効果を得られる。
【0050】
なお、図8(あるいは図7)の構成とした上で、正極側の抵抗20(20a,20b)と、負極側の抵抗23(23a,23b)は、高精度な抵抗21a〜21c,22,24a〜24c,25よりも高い耐サージ性能を有する抵抗器とする。高い耐サージ性能を有する抵抗器としては例えば厚膜抵抗器がある。本実施例においては、正極側の抵抗20(20a,20b)と負極側の抵抗23(23a,23b)は、この厚膜抵抗器が用いられたものとして説明する。
【0051】
これにより、抵抗20(20a,20b),コンデンサ30,抵抗23(23a,23b)からなるループでサージを吸収するため、高精度な抵抗21a〜21c,22,24a〜24c,25には通常使用範囲および耐電圧試験に耐えうる最大過負荷電圧を有するだけの抵抗器を使用でき、耐サージ性と高精度を兼ね備える特殊な抵抗器の不要な安価なシステムを構成できる。
【0052】
また、抵抗20,23の抵抗値を抵抗21a〜21c,22,24a〜24c,25より十分に小さい値とすることで、抵抗20,23は精度を必要とせず、耐サージ性能だけを考慮した抵抗を選択できる。この結果、高精度かつ耐サージ性能を有する特殊で高価な抵抗を必要とせず、耐サージ性能にも優れた、安価なシステムを構成できる。
【実施例2】
【0053】
実施例1では直流高電圧の正極と負極の間にサージが重畳することを想定し、コンデンサ30を挿入している。一方、直流高電圧の正極とケース電位の間や、負極とケース電位の間にサージが重畳した場合には実施例1のコンデンサ30には効果がない。
【0054】
図9は本実施例の直流高電圧検出の構成を示す回路ブロック図である。
【0055】
図9では、実施例1(図7あるいは図8)のコンデンサ30の代わりに、直列接続した二つのコンデンサ31,32を挿入し、コンデンサ31,32の接続点をケース電位に接続している。この構成では、直流高電圧の正極12とケース電位14に対して抵抗20とコンデンサ31による電流ループが形成される。この結果、直流高電圧の正極12とケース電位14の間に重畳したサージを抵抗20とコンデンサ31による電流ループで吸収することができ、抵抗21a〜21cにサージエネルギーを印加させない。同様に、直流高電圧の負極13とケース電位14に対して抵抗23とコンデンサ32による電流ループが形成される。この結果、直流高電圧の負極13とケース電位14の間に重畳したサージを抵抗23とコンデンサ32による電流ループで吸収することができ、抵抗24a〜24cにサージエネルギーを印加させない。
【0056】
サージを吸収する抵抗20,23、コンデンサ31,32の部品選定は実施例1の抵抗20a,20b,23a,23b、コンデンサ30と同様の手法である。
【実施例3】
【0057】
本実施例では実施例2の直流高電圧検出の構成を示す回路ブロック図(図9)を基本構成とする。図10(a)は本実施例の構成を示す図であり、抵抗20,21a,21b,23,24a,24bのプリント基板での実装形態を示している。
【0058】
図10(a)では、プリント基板93の一面に正極側パターン配線15と正極側抵抗21a〜21cを有する。また、プリント基板93の正極側パターン配線15と同一の面に正極側パターン配線15と平行に配置される負極側パターン配線16と負極側抵抗24a〜24cを有する。
【0059】
そしてプリント基板93は、プリント基板93の抵抗20,23を有する領域であって、正極側パターン配線15と負極側パターン配線16を有する面に対向する面、あるいは内層にケース電位ベタ層17を有する。一方、プリント基板93は、プリント基板93の抵抗21a,21b,24a,24bを有する領域であって、正極側パターン配線15と負極側パターン配線16を有する面に対向する面、あるいは内層にはケース電位ベタ層17を有さない。
【0060】
この構成では、抵抗20とケース電位ベタ層17でプリント基板93の絶縁材を挟み込むことになり、抵抗20とケース電位ベタ層の間に寄生容量38が形成される。一方、抵抗21a,21bと抵抗21a,21bを接続する正極側配線パターンはケース電位ベタ層17との間でプリント基板材を挟み込まないため、抵抗21a,21b、抵抗21a,21bを接続する正極側配線パターンとケース電位ベタ層17の間に寄生容量が形成されにくい。この構成において、抵抗20と接続する配線パターン幅と配線パターン長を適切に定めることによって、寄生容量38の静電容量を調整し、図9に示されたコンデンサ31の代わりとする。
【0061】
同様に、抵抗23とケース電位ベタ層17でプリント基板の絶縁材を挟み込むことになり、抵抗23とケース電位ベタ層の間に寄生容量39が形成される。一方、抵抗24a,24bと抵抗24a,24bを接続する負極側配線パターンはケース電位ベタ層17との間でプリント基板材を挟み込まないため、抵抗24a,24b、抵抗24a,24bを接続する正極側配線パターンとケース電位ベタ層17の間に寄生容量が形成されにくい。この構成において、抵抗23を接続する配線パターン幅と配線パターン長を適切に定めることによって、寄生容量39の静電容量を調整し、図9に示されたコンデンサ32の代わりとする。
【符号の説明】
【0062】
1 直流高電圧検出装置
10 直流電源
11 遮断装置
12 正極
13 負極
14 ケース電位
15 正極側パターン配線
16 負極側パターン配線
17 ケース電位ベタ層
20,21,22,23,24,25 抵抗
26 正極側分圧回路部
27 負極側分圧回路部
30,31,32 コンデンサ
35,36,37,38,39 寄生容量
40,41 バッファ
42,43,44 演算回路
45 マイコン
50 制御回路
60 正極側の分圧電圧
61 負極側の分圧電圧
62 正極負極間の分圧電圧
63 負極電圧反転検知信号
64 過電圧検知信号
70 コンデンサモジュール
80 信号線
90,91,92,93 プリント基板
100 ドライバ回路
200 電力変換装置
300,301 インバータ装置
302 インバータ(パワーモジュール含む補機用)
310 インバータ回路
311 上下アームの直列回路
320 制御部
330 電流センサ
340 上アーム用IGBT
341 下アーム用IGBT
400,401 モータジェネレータ
402 モータ(補機用=エアコン,オイルポンプ,冷却ポンプ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列に接続された複数の抵抗により構成され、かつ直流電源の正極端子側に接続される正極側分圧回路部と、
直列に接続された複数の抵抗により構成され、かつ前記直流電源の負極端子側に接続される負極側分圧回路部と、
前記正極側分圧回路部及び前記負極側分圧回路部によって分圧された分圧値に基づいて、直流電源の正極と負極との間の電圧値を演算する演算回路部と、
前記正極側分圧回路部を構成する複数の抵抗のうちの隣り合う2つの抵抗の接続点と、 前記負極側分圧回路部を構成する複数の抵抗のうちの隣り合う2つの抵抗の接続点との間に接続されるコンデンサと、を備える電圧検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載された電圧検出装置であって、
前記コンデンサは、前記正極側分圧回路部を構成する複数の抵抗のうち直流電源の正極端子に最も近い抵抗と当該抵抗に隣り合う抵抗との接続点と、前記負極側分圧回路部を構成する複数の抵抗のうち直流電源の負極端子に最も近い抵抗と当該抵抗に隣り合う抵抗との接続点と、の間に接続される電圧検出装置。
【請求項3】
請求項2に記載された電圧検出装置であって、
前記正極側分圧回路部を構成する複数の抵抗のうち直流電源(10)の正極端子に最も近い抵抗は、当該正極側分圧回路部を構成する他の抵抗よりも高い耐電圧に設定され、
前記負極側分圧回路部を構成する複数の抵抗のうち直流電源(10)の負極端子に最も近い抵抗は、当該負極側分圧回路部を構成する他の抵抗よりも高い耐電圧に設定される電圧検出装置。
【請求項4】
請求項1ないし3に記載されたいずれかの電圧検出装置であって、
前記正極側分圧回路部の複数の抵抗のうち、前記コンデンサと前記演算回路部との間に接続された抵抗は、抵抗値のばらつきが−0.1%から+0.1%であり、かつ抵抗温度係数が−25ppm/℃から+25ppm/℃である電圧検出装置。
【請求項5】
請求項1ないし4に記載されたいずれかの電圧検出装置であって、
前記正極側分圧回路部,前記負極側分圧回路部、及び前記コンデンサを実装するための絶縁基板と、
前記絶縁基板の一方の面側に配置され、かつ前記正極側分圧回路部と接続される正極側パターン配線と、
前記絶縁基板における前記正極側パターン配線が配置された面側に配置され、かつ前記負極側分圧回路部と接続される負極側パターン配線と、を備える電圧検出装置。
【請求項6】
請求項1に記載された電圧検出装置であって、
前記コンデンサは、第1コンデンサ及び第2コンデンサによって構成され、
前記第1コンデンサと前記第2コンデンサとの接続点は、アースと接続される電圧検出装置。
【請求項7】
直流電源の正極側に接続され、かつ直列に接続された複数の抵抗により構成される正極側分圧回路部と、
前記直流電源の負極側に接続され、かつ直列に接続された複数の抵抗により構成される負極側分圧回路部と、
前記正極側分圧回路部及び前記負極側分圧回路部によって分圧された分圧値に基づいて、直流電源の正極と負極との間の電圧値を演算する電圧演算回路と、
前記正極側分圧回路部及び前記負極側分圧回路部を実装するための絶縁基板と、
前記絶縁基板の一方の面側に配置され、かつ前記正極側分圧回路部と接続される正極側パターン配線と、
前記絶縁基板における前記正極側パターン配線が配置された面側に配置され、かつ前記負極側分圧回路部と接続される負極側パターン配線と、
前記絶縁基板内に層状に設けられた基板内パターン配線と、を有する電圧検出装置を備えた電力変換装置であって、
前記基板内パターン配線は、前記正極側パターン配線及び前記負極側パターン配線の主面と対向するように形成され、かつ前記絶縁基板を介して当該基板内パターン配線と当該正極側パターン配線との間に第1寄生容量を保持できるように形成され、また前記絶縁基板を介して当該基板内パターン配線と当該負極側パターン配線との間に第2寄生容量を保持できるように形成され、さらに前記基板内パターン配線はグランドに電気的に接続される電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−64559(P2011−64559A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−215137(P2009−215137)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】