説明

電子内視鏡システム

【課題】通常観察用の光源とPDT用の光源とを同一の装置内に配置することができ、かつ、これら2つの光源以外の第3の光源を設ける場合に適切なシステムを提供すること。
【解決手段】内視鏡挿入部1aの先端には、対物レンズ11と、この対物レンズ11により形成される対象物の像を撮像する撮像素子12とが設けられている。光源プロセッサ装置1bには、白色光源31、PDTに用いられる治療用光源32、体腔内の組織を励起させるための紫外線を発生する励起光源33と、可視域のマーカー用の光を発するマーカー用光源34とを備えている。内視鏡挿入部1aには、白色光源からの光束を先端に導いて配光レンズ21を介して体腔内の組織に照射させるライトガイド22と、治療用光源または励起光源、マーカー用光源からの光を導いて切替レンズ23を介して照射させる治療用プローブ24とが引き通されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体腔内等の対象部位の画像を撮像素子により電子的に撮影して表示させる電子内視鏡システムに関し、特に、光線力学治療(以下、PDTとする)が可能なシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
電子内視鏡システムは、光源装置から発する白色光により対象物を照明し、内視鏡挿入部の先端に配置された対物レンズにより形成される対象物の像を撮像素子により撮像し、この撮像素子から出力される映像信号を画像処理装置により処理して外部のモニター画面に表示する。操作者は、モニター画面に動画、または静止画として表示される画像を観察して撮影対象部位の状態を把握する。
【0003】
また、早期肺癌、表在性食道癌、表在性早期胃癌等の早期癌の治療法として内視鏡的PDTが広く用いられている。これは、患者に光感受性物質のフォトフリンが癌細胞に特異的に集積する性質を利用し、フォトフリンを静脈注射で投与し、所定時間後に、腫瘍部位に長波長(例えば680nm)の比較的高強度のレーザーを照射し、腫瘍内に取り込まれた光感受性物質を励起し、癌細胞を壊死させる技術である。
【0004】
特許文献1には、内視鏡用照明装置からの白色光を照明用のファイババンドルを介して内視鏡先端に導くと共に、光線力学診断(以下、PDDという)及びPDT用の特定の波長を発する光線力学的診断・治療用光線装置からの光束を鉗子チャンネルに引き通したライトガイドを介して内視鏡先端に導く内視鏡装置が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2001−299940号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示される内視鏡装置は、内視鏡用照明装置と光線力学的診断・治療用光線装置とがそれぞれ独立した装置として設けられているため、システム全体をコンパクトに構成することができないという問題がある。また、特許文献1に開示される内視鏡装置は2つの光源装置を備えているが、例えば自家蛍光を観察するための励起光源等の第3の光源を設ける場合の構成については示唆がない。
【0007】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、通常観察用の光源とPDT用の光源とを同一の装置内に配置することができ、かつ、これら2つの光源以外の第3の光源を設ける場合に適切なシステムを提供することを目的(課題)とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために案出された本発明の電子内視鏡システムは、内視鏡挿入部の先端に配置された対物レンズにより形成される体腔内の組織の像を撮像素子により撮像する撮像光学系と、照明用の白色光を発する第1光源と、光線力学治療に用いられる治療光を発する第2光源と、第1,第2光源とは異なる目的で光を発する第3光源と、これらの第1,第2,第3光源を内蔵する単体の光源装置と、第1光源からの光束を内視鏡挿入部の先端に導いて体腔内の組織に照射させるライトガイドと、第2光源または第3光源からの光束を導いて体腔内の組織に照射させる治療用プローブと、治療用プローブに第2光源からの治療光と第3光源からの光のいずれを入射させるかを選択する第1の光路選択手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
第3光源は、体腔内の組織を励起させる励起光を発する励起光源として構成することができる。この場合には、励起光をライトガイドと治療用プローブとのいずれに入射させるかを選択する第2の光路選択手段を備えることが望ましい。また、治療用プローブと第3光源との間に配置され、治療用プローブを介して戻る光を励起光の光路から分離する光路分離手段と、分離された光を受光してそのスペクトルを分析する分光器とをさらに備えることが望ましい。
【0010】
一方、第3光源としては、上記の励起光源に代えて、あるいは、上記の励起光源に加えて、可視域のマーカー用の光を発するマーカー用光源を設けることもできる。
【0011】
第3光源を励起光源として用いる際にも、マーカー用光源として用いる際にも、治療用プローブの先端に、この治療用プローブを介して照射される光の照射範囲を切り替える照射範囲切替光学系を設けることが望ましい。照射範囲切替光学系は、第2光源からの治療光を照射する際には照射範囲を広くし、第3光源からの光を照射する際には照射範囲を狭くするよう制御されることが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電子内視鏡システムによれば、白色光を発する第1光源と、PDT用の治療光を発する第2光源とを同一の光源装置内に設けることができるため、それぞれの光源について独立した光源装置を用いる場合と比較して、システム全体の構成をコンパクトにすることができる。また、光源装置に第3光源を含ませる場合にも、PDT用の治療光を照射する治療用プローブを第3光源からの光を伝達するのに兼用することにより、徒にライトガイドの数を増やすことなく、適切なシステムを構築することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、添付図面に基づいて、本発明を実施するための形態を説明する。図1は、実施形態の電子内視鏡システムの概略構成を示すブロック図である。
【0014】
図1に示されるように、この電子内視鏡システム1は、体腔内に挿入されるために細長く形成された内視鏡挿入部1aと、この挿入部に接続された光源プロセッサ装置1bとから構成されている。図1は、内視鏡挿入部1aの先端部分の構成と、光源プロセッサ装置1b内の各回路の接続関係とを示している。
【0015】
内視鏡挿入部1aの先端には、対物レンズ11と、この対物レンズ11により形成される対象物の像を撮像するCCDイメージセンサ等の電荷蓄積型の撮像素子12とから構成される撮像光学系10が設けられている。光源プロセッサ装置(光源装置)1bには、後述する第1,第2,第3光源が設けられており、内視鏡挿入部1aには、第1光源からの光束を先端に導いて配光レンズ21を介して体腔内の組織に照射させるライトガイド22と、第2光源または第3光源からの光束を導いて切替レンズ23を介して体腔内の組織に照射させる治療用プローブ24とが引き通されている。
【0016】
第1光源は、照明用の白色光を発するキセノンランプ等の白色光源31である。第2光源は、PDTに用いられる波長630nmの治療光を発する半導体レーザー等の治療用光源32である。また、第3光源は、第1,第2光源とは異なる目的で光を発するものであり、この例では、体腔内の組織を励起させるための波長320nm〜400nm程度の紫外線を発生する半導体レーザー等の励起光源33と、可視域(例えば波長660nm)のマーカー用の光を発するマーカー用光源34とを備えている。これらの光源は同一の光源プロセッサ装置1b内に配置されているため、独立した光源装置を用いる場合と比較して、システム全体の構成をコンパクトにすることができる。
【0017】
励起光源33は、体腔内の組織の自家蛍光を発生させて蛍光撮影するための励起光を発する光源として使用されると共に、事前に生体に投与された光感受性物質を励起して光線力学診断(PDD)を行うためのPDD用光源としても利用される。
【0018】
対物レンズ11と撮像素子12との間には、励起光源33から発する励起光に相当する波長成分を除去するための励起光カットフィルタ13が組み込まれている。励起光カットフィルタは、図2に示すように、励起光を遮断し、励起光より長い波長の光を透過させる特性を有しており、これにより、蛍光撮影時に撮像素子12に励起光が入射するのを防ぎ、蛍光画像のみの撮影が可能となる。
【0019】
白色光源31とライトガイド22とを結ぶ直線的な光路上には、回転により白色光を断続的に透過させるロータリーシャッタ35、白色光の光量を調整するための絞り36、第1ハーフミラー37、集光レンズ38が光源側から順に配置されている。
【0020】
第1ロータリーシャッタ35は、図3に平面形状を示すように、中心角約180°の扇形の開口35aが形成された円板であり、集光レンズ38の光軸に対して直交し且つオフセットした状態で、第1モータ51の回転軸に固定されている。開口35aの径方向のサイズは、白色光の径より大きく設定されており、第1モータ51を駆動してロータリーシャッタ35を回転させることにより、撮影時に画像信号のフレームやフィールドの切り替えに同期して白色光がオン/オフされる。ロータリーシャッタ35を透過した白色光源31からの白色光の一部は、第1ハーフミラー37を透過して集光レンズ38により集光されてライトガイド22に入射する。
【0021】
ロータリーシャッタ35は、第1モータ51と共にスライド台39に取り付けられており、第2モータ52を駆動することにより、ロータリーシャッタ35を図1に示す光路中の設定位置と、図中上側に光路からから外れた待避位置との間で切り替えられる。絞り36は、第3モータ53により駆動され、その開口径を変化させる。
【0022】
光源プロセッサ装置1b内には、治療用プローブ24の端部に対向する位置に配置可能な第1光路切替ユニット40が設けられている。第1光路切替ユニット40は、ミラー及び集光レンズを備え、第4モータ54により駆動され、治療用プローブ24の中心軸に対して垂直な方向に敷設されたレール41に沿って、治療用プローブ24の中心軸上に位置する光路中の設定位置と、図1に示されるように光路から下側に外れた待避位置との間で切り替えられる。
【0023】
励起光源33とマーカー用光源34とは、共通の光源ユニット内に並列して設けられており、それぞれの光源から発したレーザー光は、入射側が二股に分岐して射出側が統合された光ファイバ束42により共通の光路にまとめられ、第2光路切替ユニット43に入射する。第2光路切替ユニット43は、光ファイバ束42から射出される発散光を幅広の平行光に変換して第1ハーフミラー37に入射させるレンズ系43aと、光ファイバ束42から射出される発散光を収束させてから反射させて治療用プローブ24に入射させるミラー系43bとを備えている。第2光路切替ユニット43は、第5モータ55により駆動され、治療用プローブ24の中心軸の方向に敷設されたレール43cに沿って、励起光源33またはマーカー用光源34からのレーザー光を第1ハーフミラー37を介してライトガイド22に入射させる図1に示す第1の位置と、図中右側に移動してレーザー光をミラー系43bで治療用プローブ24側に反射させる第2の位置との間で切り替えられる。
【0024】
白色光源31から発する白色光は、絞り36が開いており、ロータリーシャッター35が待避位置にある場合には連続的にライトガイド22に入射し、ロータリーシャッター35が光路内の設定位置にあって回転している際には断続的にライトガイド22に入射する。治療用光源32から発する治療光は、第1光路切替ユニット40が光路中の設定位置にある場合には治療用プローブ24に入射する。励起光源33から発する励起光は、第2光路切替ユニット43が第1の位置にある場合にはライトガイド22に入射し、第1光路切替ユニット40が待避位置にあって第2の光路切替ユニット43が第2の位置にある場合には治療用プローブ24に入射する。マーカー用光源34から発するマーカー用光束は、第1光路切替ユニット40が待避位置にあって第2の光路切替ユニット43が第2の位置にある場合に治療用プローブ24に入射する。
【0025】
すなわち、白色光は、ライトガイド22のみに入射し、治療光、マーカー光は治療用プローブ24のみに入射し、励起光は、ライトガイド22または治療用プローブ24に入射する。第1光路切替ユニット40は、治療用プローブ24に対して、治療用光源32からの治療光と、励起光源33またはマーカー用光源34からのレーザー光とのいずれを入射させるかを選択する第1の光路選択手段としての機能を有する。また、第2光路切替ユニットは、励起光をライトガイド22と治療用プローブ24とのいずれに入射させるかを選択する第2の光路選択手段としての機能を有している。
【0026】
第1光路切替ユニット40の設定位置と第2光路切替ユニット43との間の光路中には、第2ハーフミラー44が配置されている。第2ハーフミラー44は、励起光を照射することより励起した組織から発する蛍光のスペクトルを測定する際に、治療用プローブ24を介して戻る光(蛍光)を励起光の光路から分離する光路分離手段として機能する。分離された光は、ミラー45、励起光カットフィルタ46を介して分光器47に入射する。
【0027】
なお、治療用プローブ24の先端側に配置された切替レンズ23は、図4に拡大して示したように、治療用プローブ24を介して導かれた光束を細いビームとして体腔内の組織に局所的に照射させるビーム照射用レンズ23aと、光束をビームよりは広いが配光レンズ21を介した白色光の照明範囲よりは狭い領域に照射させる狭角照射用レンズ23bとを備えている。これらのレンズは23a,23bは、一体に磁性体を有するレンズ枠25に収納され、レンズ枠25の両側に一対設けられた磁気コイル26a,26bの一方に電流を流すことにより、いずれか一方が光路中に配置される。具体的には、治療用プローブ24に励起光あるいはマーカー光を入射させる場合には、ビーム照射用レンズ23aが光路中に配置され、治療光を入射させる場合には、狭角照射用レンズ23bが光路中に配置される。切替レンズ23は、治療用プローブ24を介して照射される光の照射範囲を切り替える照射範囲切替光学系としての機能を果たしている。
【0028】
治療用プローブ24を介して導かれる励起光は、ビーム照射用レンズ23aが選択されている場合、体腔内の組織の局所的な部分に照射され、その部分を励起させる。そして、励起した部分から発した蛍光と反射した励起光とがビーム照射用レンズ23a及び治療用プローブ24を戻り、第2ハーフミラー44で反射され、ミラー45で反射され、励起光カットフィルター46により励起光がカットされ、蛍光のみが分光器47に入射する。分光器47は蛍光のスペクトル分布を数値化して画像処理回路69へ出力する。自家蛍光を発する物質はNADH、コラーゲン、フラビンなどがあり、それぞれ発光するスペクトルが異なるため、分光測定によりスペクトル分布がわかると、その部分の物質を特定することができる。
【0029】
一方、治療用プローブ24を介して導かれるマーカー光は、ビーム照射用レンズ23aが選択されている場合、励起光が照射されるのと同一の部分に照射され、その部分を赤く表示する。したがって、白色光で照明してカラー画像を撮像する際にマーカー光を照射すると、分光測定の対象となる部位をカラー画像内で特定することができる。術者は、マーカー光を測定したい部位に合わせることにより、その部位の蛍光の分光測定をすることができる。
【0030】
図5及び図6は、切替レンズの他の例を示したものである。この例の切替レンズ23Aは、光軸方向に並ぶ2つのレンズを備え、一方を治療用プローブ24の端部に隣接した固定レンズ23cとし、他方を永久磁石が設けられたレンズ枠25Aに収納された移動レンズ23dとしている。固定レンズ23cの周囲に配置された磁気コイル26への通電方向を切り替えることにより、永久磁石に対して吸着力、反発力を作用させ、移動レンズ23dを光軸方向に移動させる。図5に示すように、移動レンズ23dが固定レンズ23cから離れた位置にある場合には、光束を細いビームとして照射させ、図6に示すように、移動レンズ23dが固定レンズ23cに近接した位置にある場合には、光束をビームよりは広いが配光レンズ21を介した白色光の照明範囲よりは狭い領域に照射させる。
【0031】
次に、撮像光学系10により撮像された画像信号を処理し、各光源31〜34や各モータ51〜55を制御する電気系統の構成について説明する。電子内視鏡システム1の電気系統は、全体の制御を司るシステムコントローラ60を中心に、第1〜第5モータ51〜55をそれぞれ駆動する第1〜第5ドライバ61〜65、撮影時に画像信号のフレームやフィールドの切り替える同期信号を出力するタイミングコントローラ66、このタイミングコントローラ66からの信号に同期して撮像素子12を駆動する駆動信号を出力するCCDドライバ67を備えている。ロータリーシャッタ35用の第1モータ51、治療用光源32、励起光源33及びマーカー用光源34は、タイミングコントローラ66からの同期信号により制御され、他のモータ用のドライバはシステムコントローラ60により制御される。
【0032】
また、画像信号の処理系として、撮像素子12から出力される映像信号を処理する前段信号処理回路68、この前段信号処理回路68で処理され出力されたデジタルの映像信号を演算処理する画像処理回路69、この画像処理回路69で演算された映像信号をモニター71に表示するための規格化映像信号に変換して出力する後段信号処理回路70を備える。
【0033】
画像処理回路69は、図7に示すように、前段映像信号処理回路68からの画像データをフィールド毎に一時記憶する第1、第2画像メモリ69a,69bと、タイミングコントローラ66からの同期信号に基づいて、これらの画像メモリ69a,69bへのデータの読み書きを制御するメモリコントローラ69cと、画像メモリ69a,69bから読み出したデータによりモニター71に表示すべき画像を形成するスキャンコンバータ69dとを備えている。なお、分光器47の出力は、レジスタ47aを介して第2画像メモリ69bに入力される。
【0034】
さらに、内視鏡挿入部に接続される操作部には、動作モードを通常観察モード、蛍光観察モード、通常観察/分光測定モード、蛍光観察/PDTモードとの間で切り替えるためのモード切替スイッチ72が設けられている。このスイッチは、内視鏡による観察、治療時に操作者(術者)により操作される。
【0035】
次に、上記のように構成された電子内視鏡システム1の動作を説明する。システムの電源が投入されると、システムコントローラ60が起動し、白色光源31が点灯する。システムコントローラ60は、モード切替スイッチ71の設定を読み込み、各観察モードに合わせて各部を制御する。以下、通常観察モード、蛍光観察モード、通常観察/分光測定モード、蛍光観察/PDTモードの順に動作を図8に示すタイミングチャートを参照して説明する。
【0036】
通常観察モードが選択されている場合には、システムコントローラ60は、第2ドライバ62を介して第2モータ52を制御してロータリーシャッター35を光路外に待避させ、第3ドライバ63を介して第3モータ53を制御して絞り36を開く。これにより、白色光源21から発した照明光が連続的にライトガイド22を介して内視鏡先端部に届き、配光レンズ21を介して体腔内の組織を照明する。白色光により照明された組織からの反射光は、撮像光学系10に取り込まれて組織のカラー画像を形成する。通常観察モードにおける撮像素子12による撮像のタイミングは図8のAに示されている。NTSCのインターレース方式に準拠し、1秒間に30フレーム、60フィールド分の画像を撮像し、次のフィールドの撮像中に前のフィールドのデータを転送する。画像データは、フィールド毎に画像メモリ69a、69bに順次記憶され、1フィールド分のデータが揃った時点でスキャンコンバータ69dにより合成されて1フレーム分の画像データとして出力される。この結果、通常撮影モードでは、体腔内の組織のカラー映像がモニター71上に動画で表示される。
【0037】
蛍光観察モードが選択されている場合には、システムコントローラ60は、第2ドライバ62を介して第2モータ52を制御してロータリーシャッター35を光路中に設定し、第3ドライバ63を介して第3モータ53を制御して絞り36を開き、第5ドライバ65を介して第5モータを制御して第2光路切替ユニット43を図1に示す第1の位置に設定する。また、タイミングコントローラ66からの同期信号により、第1ドライバ61を介して第1モータ51を駆動してロータリーシャッター35を回転させ、白色光が第1ロータリーシャッタ35を透過する間は励起光源33を消灯させ、白色光が第1ロータリーシャッタ35により遮断される間は励起光源33を発光させる。これにより、白色光源31から発した白色光と、励起光源33から発した励起光とが交互にライトガイド22に入射する。
【0038】
励起光が照射されている期間は励起された組織からの蛍光が励起光と共に撮像光学系10に入射するが、励起光は励起光カットフィルタ13により遮断されるため、蛍光のみが撮像素子12に到達し、蛍光画像の信号が得られる。なお、蛍光画像には、生体組織の励起による緑色の自家蛍光と、PDDにより癌細胞に滞留した光感受性物質から発生する赤色の蛍光とが含まれる。PDDを実施する場合には、検査を始める前に光感受性物質(フォトフィリン)を体内に静脈注射投与しておく。フォトフィリンは、一定時間後には正常細胞からは流れ出すが、腫瘍部には滞留する。このため、短波長の励起光を照射してフォトフィリンを励起すると、赤色の蛍光が発生し、腫瘍部の特定が容易となる。
【0039】
一方、白色光が照射されている期間は、組織からの反射光が撮像素子12に到達する。撮像素子12は、図8Bに示すようなタイミングでフィールド毎に通常画像(カラー画像)の撮像と、蛍光画像の撮像及びPDDとを繰り返す。これにより、フィールド毎に通常画像のデータと蛍光画像及びPDDのデータとが画像メモリ69a、69bに記憶されるが、これらは通常の画像データのようにインターレースの処理をせず、それぞれ独立した画面を表示するように1フィールド分の画像データで公知の補間処理を行って1フレームの画面データを生成する。
【0040】
モニター71には、図9に示すように、通常画像(カラー画像)と蛍光画像とが並べて表示される。図7の蛍光画像では、中央の濃度が濃い部分がフォトフィリンによる赤色の蛍光、その周囲が緑色の自家蛍光を示している。
【0041】
通常観察/分光測定モードが選択されている場合には、システムコントローラ60は、第2ドライバ62を介して第2モータ52を制御してロータリーシャッター35を光路中に設定し、第4ドライバ64を介して第4モータ54を制御して第1光路切替ユニット40を待避位置に設定し、第5ドライバ65を介して第5モータを制御して第2光路切替ユニット43を第2の位置に設定する。また、図示せぬドライバを介して磁気コイル26aに通電することによりビーム照射用レンズ23aを光路中に設定する。さらに、図8Cに示すように、タイミングコントローラ66からの同期信号により、第1ドライバ61を介して第1モータ51を駆動してロータリーシャッター35を回転させ、白色光が第1ロータリーシャッタ35を透過する間はマーカー用光源34を発光、励起光源33を消灯させ、白色光が第1ロータリーシャッタ35により遮断される間は励起光源33を発光、マーカー用光源34を消灯させる。
【0042】
これにより、白色光源31から発した白色光がライトガイド22及び配光レンズ21を介して体腔内の組織を照明している期間には、マーカー用光源34から発したマーカー光が治療用プローブ24及びビーム照射用レンズ23aを介して組織の一部を照射する。白色光が遮断されている期間には、励起光源33から発した励起光が治療用プローブ24及びビーム照射用レンズ23aを介して組織の一部を照射し、この部分の組織を励起する。そして、励起された部位から発した蛍光が、治療用プローブ24、第2ハーフミラー44、ミラー45、励起光カットフィルタ46を介して分光器47に入射する。
【0043】
撮像素子12は、図8Cに示すようなタイミングで1フレーム内の一方のフィールドでのみ通常画像(カラー画像)を撮像する。他方のフィールドでは、分光器47により測定されたスペクトル分布のデータがレジスタ47aを介して出力される。これにより、フィールド毎に通常画像のデータが第1画像メモリ69aに記憶され、スペクトル分布のデータが第2画像メモリ69bに記憶される。通常画像のデータは、インターレースの処理をせず、1フィールド分の画像データで公知の補間処理を行って1フレームの画面データを生成する。また、スペクトル分布のデータは、図10に示すようなグラフデータに変換される。
【0044】
モニター71には、図11に示すように、マーカー光による赤色のポイントを含む通常画像(カラー画像)とスペクトル分布(分光特性)のグラフとが並べて表示される。
【0045】
蛍光観察/PDTモードが選択されている場合には、システムコントローラ60は、第3ドライバ63を介して第3モータ53を制御して絞り36を閉じて白色光を遮断し、第4ドライバ64を介して第4モータ54を制御して第1光路切替ユニット40を光路中に設定し、第5ドライバ65を介して第5モータを制御して第2光路切替ユニット42を図1に示した第1の位置に設定する。また、図示せぬドライバを介して磁気コイル26bに通電することにより狭角照射用レンズ23bを光路中に設定する。さらに、タイミングコントローラ66からの同期信号により、フィールド毎に治療用光源32と励起光源33とを交互に発光させる。
【0046】
これにより、治療用光源32は、図8Dに示すタイミングでフィールド毎にオンオフを繰り返し、治療光が治療用プローブ24及び狭角照射用レンズ23bを介して体腔内の組織に高出力で照射され、治療用光束が照射されない期間には励起光源32から発した励起光がライトガイド22及び配光レンズ21を介して組織を照射する。
【0047】
このように、フィールド毎に治療光と励起光とのオンオフを切り換え、励起光が照射される期間に撮像する。PDTの治療用光束が高出力で照射されている間は、撮像光学系10に入射する反射光量が極めて大きく、撮像素子12の出力は飽和するため、この期間は撮像素子12の電荷は蓄積せずに捨てる。この間、生体組織の癌細胞に滞留しているフォトフィリンが照射された治療用光束の光エネルギーを吸収し、癌細胞を壊死させる。
【0048】
励起光が照射されている期間は、励起された組織からの蛍光と励起光とが撮像光学系10に入射する。ただし、励起光は励起光カットフィルタ13により遮断されるため、蛍光のみが撮像素子12に到達し、蛍光画像の信号が得られる。これにより、1フィールドおきに蛍光画像のデータが画像メモリ69aに記憶される。そして、1フィールド分の画像データで公知の補間処理を行って1フレームの画面データを生成する。
【0049】
モニター71には、PDTの開始時には、図12に示すような画像が表示される。中心にはPDDによる赤色の蛍光、その周囲には自家蛍光による緑色の蛍光画像が表示される。治療が進み、癌細胞が壊死すると、図13に示すように、その部分の蛍光が弱くなり、黒く表示される。したがって、このモードでは、術者は治療部位の状態を観察しながら治療を行うことができる。なお、蛍光観察/PDTモードでは、画面の右上にPDTの高出力の治療用レーザ光が照射されていることを術者が確実に認識できるように表示する。
【0050】
一方、PDTの実行中に治療光が照射する範囲を知りたい場合には、図8Eに示すように、蛍光撮影のタイミングに合わせて治療用光源32からの治療光を十分に低い強度で照射する。これにより、モニター上には、図14に示すように中心部に治療光の照射範囲が赤く表示され、その周囲に緑色の自家蛍光の画像が表示される。ただし、この場合にはPDDによる赤色の蛍光が識別しにくくなる。
【0051】
以上説明したように、上記の実施形態によれば、PDT用の光源を通常の白色光源や励起光源と同一の光源装置内に格納することができ、システムのサイズをコンパクトにすることができる。また、治療光を照射するための治療用プローブを、分光測定のための励起光の照射と反射光の受光、マーカー光の照射にも利用することができるため、徒にライトガイドの数を増やすことなく、適切なシステムを構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施形態による電子内視鏡システムの内部構成を示すブロック図である。
【図2】図1の電子内視鏡システムに含まれる励起光カットフィルタの特性を示すグラフである。
【図3】図1の電子内視鏡システムに含まれるロータリーシャッタの平面図である。
【図4】図1の電子内視鏡システムに含まれる切替レンズの構成を示す断面図である。
【図5】図4に示した切替レンズの他の例を示す断面図である。
【図6】図5に示した切替レンズの他の状態を示す断面図である。
【図7】図1の電子内視鏡システムに含まれる画像処理装置の詳細を示すブロックズである。
【図8】図1の電子内視鏡システムにおける撮像タイミングを示すタイミングチャートである。
【図9】図1の電子内視鏡システムの蛍光観察モードにおいてモニター上に表示される画面例を示す説明図である。
【図10】図1の電子内視鏡システムの分光器の出力を示すグラフである。
【図11】図1の電子内視鏡システムの通常観察/分光測定モードにおいてモニター上に表示される画面例を示す説明図である。
【図12】図1の電子内視鏡システムの蛍光観察/PDTモードにおいて治療開始時にモニター上に表示される画面例を示す説明図である。
【図13】図1の電子内視鏡システムの蛍光観察/PDTモードにおいて治療終了時にモニター上に表示される画面例を示す説明図である。
【図14】図1の電子内視鏡システムの蛍光観察/PDTモードにおいて治療光の照射範囲を確認する場合にモニター上に表示される画面例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0053】
1 電子内視鏡システム
1a 内視鏡挿入部
1b 光源プロセッサ装置
10 撮像光学系
11 対物レンズ
12 撮像素子
13 励起光カットフィルタ
22 ライトガイド
23 切替レンズ
24 治療用プローブ
31 白色光源
32 治療用光源
33 励起光源
34 マーカー用光源
35 ロータリーシャッタ
37 ハーフミラー
38 集束レンズ
40 第1光路切替ユニット
43 第2光路切替ユニット
51〜55 第1〜第5モータ
60 システムコントローラ
61〜65 第1〜第5ドライバ
66 タイミングコントローラ
68 前段映像信号処理回路
69 画像処理回路
70 後段映像信号処理回路
71 モニター
72 モード切換スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内視鏡挿入部の先端に配置された対物レンズにより形成される体腔内の組織の像を撮像素子により撮像する撮像光学系と、
照明用の白色光を発する第1光源と、
光線力学治療に用いられる治療光を発する第2光源と、
前記第1,第2光源とは異なる目的で光を発する第3光源と、
前記第1,第2,第3光源を内蔵する単体の光源装置と、
前記第1光源からの光束を前記内視鏡挿入部の先端に導いて体腔内の組織に照射させるライトガイドと、
前記第2光源または前記第3光源からの光束を導いて体腔内の組織に照射させる治療用プローブと、
前記治療用プローブに前記第2光源からの治療光と前記第3光源からの光のいずれを入射させるかを選択する第1の光路選択手段とを備えることを特徴とする電子内視鏡システム。
【請求項2】
前記第3光源は、体腔内の組織を励起させる励起光を発することを特徴とする請求項1に記載の電子内視鏡システム。
【請求項3】
前記励起光を前記ライトガイドと前記治療用プローブとのいずれに入射させるかを選択する第2の光路選択手段を備えることを特徴とする請求項2に記載の電子内視鏡システム。
【請求項4】
前記治療用プローブと前記第3光源との間に配置され、前記治療用プローブを介して戻る光を励起光の光路から分離する光路分離手段と、分離された光を受光してそのスペクトルを分析する分光器とをさらに備えることを特徴とする請求項2に記載の電子内視鏡システム。
【請求項5】
前記第3光源は、可視域のマーカー用の光を発することを特徴とする請求項1に記載の電子内視鏡システム。
【請求項6】
前記治療用プローブの先端には、当該治療用プローブを介して照射される光の照射範囲を切り替える照射範囲切替光学系が設けられ、該照射範囲切替光学系は、前記第2光源からの治療光を照射する際には照射範囲を広くし、前記第3光源からの光を照射する際には照射範囲を狭くするよう制御されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の電子内視鏡システム。
【請求項7】
内視鏡挿入部の先端に配置された対物レンズにより形成される体腔内の組織の像を撮像素子により撮像する撮像光学系と、
照明用の白色光を発する白色光源と、
体腔内の組織を励起させる励起光を発する励起光源と、
光線力学治療に用いられる治療光を発する治療用光源と、
前記白色光源または前記励起光源からの光束を前記内視鏡挿入部の先端に導いて体腔内の組織に照射させるライトガイドと、
前記励起光源または前記治療用光源からの光束を前記内視鏡挿入部の先端に導いて体腔内の組織に照射させる治療用プローブと、
前記治療用プローブに前記励起光源からの励起光と前記治療用光源からの治療光のいずれを入射させるかを選択する第1の光路選択手段と、
前記励起光を前記ライトガイドと前記治療用プローブとのいずれに入射させるかを選択する第2の光路選択手段と、
前記励起光源からの励起光が前記治療用プローブに入射するよう前記第1,第2の光路選択手段が設定された際に、体腔内の組織から発して前記治療用プローブを介して戻る蛍光を受光してそのスペクトルを分析する分光器とを備えることを特徴とする電子内視鏡システム。
【請求項8】
可視域のマーカー用の光を発するマーカー用光源を備え、該マーカー用光源から発した光を前記第1の光路選択手段に導いて選択的に前記治療用プローブに入射させることを特徴とする請求項7に記載の電子内視鏡システム。
【請求項9】
前記治療用プローブの先端には、当該治療用プローブを介して照射される光の照射範囲を切り替える照射範囲切替光学系が設けられ、該照射範囲切替光学系は、前記治療用光源からの治療光を照射する際には照射範囲を広くし、前記励起光源または前記マーカー用光源からの光を照射する際には照射範囲を狭くするよう制御されることを特徴とする請求項7または8に記載の電子内視鏡システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2009−22653(P2009−22653A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−190911(P2007−190911)
【出願日】平成19年7月23日(2007.7.23)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】