電気車制御装置
【課題】粘着限界値に近いトルクを発生させて粘着力の有効利用を図ることができる電気機関車の電気車制御装置を提供すること。
【解決手段】速度ゼロから切換速度に達するまでは速度センサ付ベクトル制御器CAによって加速制御を行い、これと併行して速度ゼロから速度センサレスベクトル制御器CBも動作させて主電動機1の電圧・電流から推定速度を演算する。この推定速度と速度センサ2から得た速度とから空転検知用速度演算器5により空転検知に用いる速度を演算し、この速度を各動輪速度とみなし、その最小値を基準速度に設定して各動輪速度の差速度によって空転検知器6により空転検知を行いながら加速制御を行う。この加速制御中の平均加速度と機関車の平均牽引力から牽引質量推定器9で牽引質量を推定し、閾値演算器8において空転検知の閾値を設定する。列車速度が切換速度以上になった後は、この閾値を用いて軸加速度による空転検知を行う。
【解決手段】速度ゼロから切換速度に達するまでは速度センサ付ベクトル制御器CAによって加速制御を行い、これと併行して速度ゼロから速度センサレスベクトル制御器CBも動作させて主電動機1の電圧・電流から推定速度を演算する。この推定速度と速度センサ2から得た速度とから空転検知用速度演算器5により空転検知に用いる速度を演算し、この速度を各動輪速度とみなし、その最小値を基準速度に設定して各動輪速度の差速度によって空転検知器6により空転検知を行いながら加速制御を行う。この加速制御中の平均加速度と機関車の平均牽引力から牽引質量推定器9で牽引質量を推定し、閾値演算器8において空転検知の閾値を設定する。列車速度が切換速度以上になった後は、この閾値を用いて軸加速度による空転検知を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ制御電気機関車について、粘着力の有効利用を図った再粘着制御を実現するための電気車制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気車、例えば電車は、車輪・レール間の接線力(粘着力ともいう)によって加減速を行っているが、この接線力は、一般にすべり速度に対して図18に示すような特性を有している。図18はすべり速度に対する接線力(接線力係数)を示したものであり、横軸はすべり速度、縦軸は接線力(接線力係数)であり、実線はレール面湿潤時、破線はレール面乾燥時を示している。なお、接線力を軸重(車軸1軸当たりのレールに加わる垂直荷重)で割ったものを接線力係数、接線力係数の最大値を粘着係数という。
図示の如く、接線力の最大値を超えないトルクを主電動機で発生している場合は、空転・滑走は発生せず、接線力の最大値より左側の微小なすべり速度の粘着領域で電気車は走行する。もし最大値より大きなトルクを発生するとすべり速度は増大し、接線力が低下するので、ますます、すべり速度が増大する空転・滑走状態になるが、車輪およびレールが乾燥状態では主電動機で発生するトルクは接線力の最大値を超えないように車両の性能が設定されるので、空転・滑走は発生しない。
【0003】
しかし、実線で示すように、レール面が雨などによって湿潤状態にある場合は粘着係数が低下して、接線力の最大値が車両の設定性能に対応した主電動機の発生トルクより小さくなる。
この場合、すべり速度が増大して空転・滑走状態になり、そのまま放置するとこれに対応して接線力が低下し、車両の加速・減速に必要な加減速力がますます低下してしまうので、迅速に空転・滑走を検出し、主電動機が発生するトルクを低減して再粘着させることが必要になる。このようにトルクの制御を行って再粘着させる場合、小さなすべり速度に維持しつつ、主電動機の発生トルクが極力接線力の最大値近傍の値になるように制御すること、すなわち極力粘着力の有効利用を図ることが、電気車の加減速性能を高める上で必要である。
【0004】
このような再粘着制御の実現を目的とした方法として、主電動機の回転速度を主電動機に印加される電圧・電流から推定し、この推定速度情報と主電動機発生トルクの演算値を入力情報として、最小次元外乱オブザーバを用いて車輪・レール間の接線力に対応した主電動機トルクを制御周期毎に推定して、空転・滑走検知時の推定トルクを用いて主電動機の発生トルクを制御する方式が、提案されている(特許文献1、非特許文献1参照)。
この制御方式によって、良好な乗り心地を保ちつつ、主電動機の発生トルクを極力接線力の最大値近傍に、すなわち粘着限界値に近い値に維持することができつつある。
【0005】
しかしながら、上記の制御が実現しているのは、旅客の乗車率が変動しても車両の加減速度がほぼ一定に保たれるため、動輪軸の演算加速度によって迅速に空転検知が可能な電車についてである。
これに対して、牽引質量を極力大きくすることの必要性が高い、すなわち粘着力の有効利用が電車以上に必要な電気機関車については、インバータ制御電気機関車のように1台の主電動機を1台のインバータで独立制御できる主回路構成であっても、速度センサから演算した動輪速度をもとに1両の電気機関車内の動輪速度の最小値を基準速度に設定してこの基準速度と動輪速度との速度差によって空転検知する方式が一般的に用いられているため空転検知が遅れることになる。したがって、トルク応答性の高い速度センサ付ベクトル制御を用いた場合でも、空転している動輪の接線力がすべり速度が少し大きくなると急速に低下するすべり速度・接線力係数特性を有していることから(電気機関車では電車に比して粘着係数が高いため、空転が発生した場合、電車と同じすべり速度の場合の接線力係数の粘着係数からの低下量が大きいため)、主電動機で発生するトルクを規定するトルク指令値を大きく低下させないと動輪を再粘着させることができない。この点から、粘着力の有効利用ができていないという問題点をまず挙げることができる。さらに、再粘着した時点以降、粘着力の有効利用の観点から空転直前の粘着力相当のトルクに主電動機のトルク指令値を急速に増大させる制御が一般的に行われることが多いが、この場合各動輪の牽引力(粘着力)の急激な変動に伴って、同一台車内の軸重の動的変動や台車間の軸重の動的変動が発生するため、各動輪の粘着係数相当の牽引力を発生することが難しくなることの理由からも、粘着力の有効利用が図られていないという問題点を有している。
【0006】
このような現状を改善するために、前述の特許文献1(または非特許文献1)に記載されている、主電動機の回転速度を主電動機に印加される電圧・電流から推定し、この推定速度情報と主電動機発生トルクの演算値を入力情報として、最小次元外乱オブザーバを用いて車輪・レール間の接線力に対応した主電動機トルクを制御周期毎に推定して、空転・滑走検知時の推定トルクを用いて主電動機の発生トルクを制御する方式(速度センサレスベクトル制御方式・外乱オブザーバによる接線力推定を併用した再粘着制御方式)をインバータ制御電気機関車にそのまま適用しようとした場合、次のような問題が発生する。
上記の速度センサレスベクトル制御を用いた場合、動輪の推定軸加速度の推定遅れは小さいので閾値が適正に設定できれば動輪軸加速度によって迅速に空転検知が可能であり、したがって小さなすべり速度のうちに再粘着させることができるため粘着力の有効利用が可能となる。しかしながら、電車の場合とは違って、電気機関車で貨物列車を牽引する場合、牽引質量は列車によって大きく異なり、機関車1両で運転する場合から最大牽引質量の貨物列車を牽引する場合まであるため、機関車で同じ牽引力を発生している場合でも、列車の加速度が大きく変化する。この牽引質量が機関車の走行開始前に分かっていれば、軸加速度による空転検知の閾値を適正に設定することが可能になるが、実際には牽引質量を機関車の走行開始前に知る手段がないため、このままでは、適正な閾値の設定ができない。
また、機関車牽引の貨物列車の場合、種々の運転条件が想定されることから、電車の場合よりも列車の起動加速度が極端に小さくなる場合が考えられることから、速度ゼロから速度センサレスベクトル制御で列車を安定に加速させるにはかなり困難が伴うと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−252716号公報
【特許文献2】特開昭58−215992号公報
【特許文献3】特開平8−196100号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】門脇悟志、畑正、廣瀬寛、大石潔、飯田哲史、高木正志、佐野孝、保川忍:「速度センサレスベクトル制御・外乱オブザーバによる空転再粘着制御の実車両への適用とその評価−205系5000番代電車における実例−」、電気学会論文誌D、124巻、平成16年9月号、pp909−915
【非特許文献2】奥山、藤本、松井、久保田:「誘導電動機の速度・電圧センサレス・ベクトル制御法」、電気学会論文誌D、107巻、昭和62(1987)年2月号、pp191−198
【非特許文献3】近藤、結城:「誘導電動機速度センサレスベクトル制御の鉄道車両駆動への適用検討」、電気学会論文誌D、125巻、平成17年(2005)1月号、pp1−8
【非特許文献4】金原、小山:「低速・回生領域を含む誘導電動機の速度センサレスベクトル制御法」、電気学会論文誌D、120巻、平成12年(2002)2月号、pp223−229
【非特許文献5】佐野:「交通用センサレス速度制御システム」、東洋電機技報、第109号、2003(平成15年)−11、pp14−23
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、電気機関車牽引列車の場合においても、電車で実現されている粘着力の有効利用を、電車の場合同様に速度センサレスベクトル制御方式・外乱オブザーバによる接線力推定を併用した再粘着制御方式を用いて、実現することが望まれる。
しかし、現状では前述のように、動輪軸加速度による空転検知の閾値を適正に設定する手段が見出されていないことである。
【0010】
本発明は上述した点に鑑み創案されたもので、その目的とするところは、電気機関車牽引列車がヤードから発車して列車を加速制御する状態に移行したときに、機関車が発生する牽引力と列車の加速度データから牽引質量の推定を行い、この推定牽引質量をもとに適正な(動輪軸加速度による)空転検知の閾値を設定する手段を提供することにある。そして、列車の起動時には速度センサ付ベクトル制御によって安定に起動し、切換速度以上に列車速度がなった時点以降において、列車の起動時から主電動機の電圧電流をもとに速度センサ付ベクトル制御と同様に制御動作を開始した速度センサレスベクトル制御に移行し、このように設定した動輪軸加速度による空転検知の閾値を用いて、速度センサレスベクトル制御方式・外乱オブザーバによる接線力推定を併用した再粘着制御を行うことによって、粘着力の有効利用を図った電気機関車牽引列車の加速制御を行うことのできる電気車制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するため、本発明は、インバータ制御電気機関車の主電動機に取り付けられた速度センサからの速度情報をもとに前記主電動機をベクトル制御する速度センサ付ベクトル制御器と、前記主電動機の電圧電流から演算した推定速度をもとに前記主電動機をベクトル制御する速度センサレスベクトル制御器を有し、
車両の停止状態から起動するときに前記主電動機の速度情報をもとに前記速度センサ付ベクトル制御器によって起動・加速するとともに、前記速度センサ付ベクトル制御器によって前記インバータ制御電気機関車が起動・加速するのと同時に前記速度センサレスベクトル制御器も動作させ、
前記インバータ制御電気機関車の速度が切換速度に達した後は、前記速度センサレスベクトル制御器によって前記主電動機を加速制御する電気車制御装置であって、
前記切換速度に達するまでの間、速度センサレスベクトル制御器により推定された前記主電動機の推定速度と前記速度センサからの速度情報とから空転検知に用いる速度を演算する空転検知用速度演算器と、
前記インバータ制御電気機関車が速度ゼロから起動加速制御に移行した後の予め定められた期間中における前記インバータ制御電気機関車の平均加速度と平均牽引力とから推定牽引質量を演算する牽引質量推定器と、
推定した推定牽引質量から、前記速度センサレスベクトル制御機能によって前記主電動機を加速制御する場合の動輪軸加速度を用いた空転検知の閾値を設定する閾値演算器と
前記空転検知に用いる速度を各動輪速度とみなし、前記動輪速度のうちの最小値を基準速度に設定してこの基準速度に対する各動輪速度の差速度と、上記閾値演算器により求めた閾値に基づき空転検知を行う空転検知器とを備え速度センサ付ベクトル制御機能と速度センサレスベクトル制御機能を有するインバータ制御電気機関車について、速度ゼロから切換速度に達するまでは速度センサ付ベクトル制御によって加速制御を行い、これと併行して、速度ゼロから速度センサレスベクトル制御機能も動作させて主電動機の電圧・電流から推定速度を演算し、速度センサから得た速度と推定速度とから差速度による空転検知に用いる速度を演算し、この空転検知に用いる速度を各動輪速度とみなし、上記切換速度に達するまでは、この動輪速度のうちの最小値を基準速度に設定してこの基準速度に対する各動輪速度の差速度と、差速度による空転検知閾値とにより空転を検知しながら加速制御を行い、この加速制御中のある期間中の平均加速度と機関車の平均牽引力から牽引質量を推定し、この推定牽引質量をもとに動輪軸加速度による空転検知の閾値を設定し、列車速度が切換速度以上になって速度センサレスベクトル制御に移行した後は、この設定した空転検知の閾値と上記速度センサレスベクトル制御器によって演算された動輪軸加速度とによって空転検知を行うようにして、すべり速度の小さいうちに迅速に再粘着制御を行い、粘着力の有効利用を図るようにしている。
【0012】
すなわち、本発明においては、次のようにして上記課題を解決する。
速度センサ付ベクトル制御機能と速度センサレスベクトル制御機能を有するインバータ制御電気機関車について、速度ゼロから切換速度に達するまでは前記速度センサ付ベクトル制御によって加速制御を行い、これと併行して、速度ゼロから前記速度センサレスベクトル制御機能も動作させて主電動機の電圧・電流から推定速度を演算し、速度センサから得た速度と推定速度とから差速度による空転検知に用いる速度を演算し、この空転検知に用いる速度を各動輪速度とみなし、この動輪速度のうちの最小値を基準速度に設定してこの基準速度に対する各動輪速度の差速度によって空転検知を行うようにしながら加速制御を行う。
そして、前記主電動機の加速制御中に以下の(1)〜(4)のいずれかの方法によって牽引質量の推定を行い、この推定牽引質量をもとに動輪軸加速度検知による空転検知の閾値を設定し、列車速度が切換速度に達した後は、速度センサレスベクトル制御に移行し、このように設定した閾値と、上記速度センサレスベクトル制御器によって演算された動輪軸加速度とによって空転検知を行い、速度センサレスベクトル制御方式に外乱オブザーバによる接線力推定を併用した再粘着制御を行いながら列車の加速制御を行う。
(1)インバータ制御電気機関車が速度ゼロから起動加速制御に移行した後、予め設定した時刻から過去のある期間中におけるインバータ制御電気機関車の平均加速度と平均牽引力とからインバータ制御電気機関車の牽引質量を推定する。
(2)各動輪において最初の空転を検知した場合に、最初の空転検知時点からある一定時間遡った期間中におけるインバータ機関車の平均加速度と平均牽引力とから牽引質量を推定する。
(3)インバータ制御電気機関車の各動輪が空転することのない範囲でできるだけ大きなある設定したトルク指令値τcを指令して起動加速を始めた時点以降、予め設定した時刻から過去のある期間中におけるインバータ制御電気機関車の平均加速度とトルク指令値τcとからインバータ制御電気機関車の牽引質量を推定する。
(4)インバータ制御電気機関車で想定される最大牽引質量を牽引する場合の編成列車全体の出発抵抗よりも大きい牽引力をインバータ制御電気機関車で発生して起動した後、インバータ制御電気機関車の各動輪速度から演算されるインバータ制御電気機関車の加速度の時間変化がある設定したレベル以下になった時点以降において、上記(1)、(2)または(3)に記載の方法によってインバータ制御電気機関車の牽引質量を推定する。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、上記したように、速度ゼロからの列車の起動加速は速度センサ付ベクトル制御器によって行い、速度センサ付ベクトル制御器による起動の開始と同時に速度センサレスベクトル制御器も動作させ、主電動機の電圧・電流から速度センサレスベクトル制御器によって推定速度を演算し、速度センサから得た速度と推定速度とから差速度による空転検知に用いる速度を演算し、この空転検知に用いる速度を各動輪速度とみなし、動輪速度のうちの最小値を基準速度に設定してこの基準速度に対する各動輪速度の差速度と、差速度による空転検知閾値とにより空転を検知しながら加速制御を行い、切換速度に列車速度が達するまでのある定めた期間中にインバータ制御電気機関車の平均牽引力と平均加速度から牽引質量を牽引質量推定器によって推定して、この推定質量をもとに動輪軸加速度による空転検知の閾値を設定し、列車速度が切換速度以上になった後は、速度センサレスベクトル制御器による速度センサレスベクトル制御に移行し、設定された空転検知の閾値を用いて動輪軸加速度による空転検知を行っているので以下の効果を得ることができる。
【0014】
(1)列車速度が切換速度以下の場合、速度センサから得た速度と速度センサレスベクトル制御により得た推定速度とから空転検知に用いる速度を演算し、この空転検知に用いる速度を各動輪速度とみなし、この動輪速度のうちの最小値を基準速度に設定してこの基準速度に対する各動輪速度の差速度によって空転検知を行うようにしながら加速制御を行っている。
このように、列車速度が切り替え速度以下の場合、速度センサレスベクトル制御により推定速度を演算しており、この推定速度は、速度センサから得られる速度の計測遅れよりはるかに小さい推定遅れの速度情報であるので、速度センサからの速度のみを用いて差速度により空転検知するよりも迅速に空転検知ができる。
特に、上記推定速度の、空転検知に用いる速度に対する影響が、速度の増加とともに大きくなるようにすることで、速度センサからの速度のみを用いて差速度により空転検知するよりも迅速に空転検知ができ、空転検知時の動輪のすべり速度が小さくなるので、その分粘着力の有効利用が可能となる。
【0015】
(2)列車速度が切換速度以上となった場合には、速度センサレスベクトル制御に移行し、前記のように推定質量をもとに求めた動輪軸加速度による空転検知の閾値を用いて動輪軸加速度による空転検知を行うので、迅速な空転検知と外乱オブザーバによって推定する接線力係数に対応した電動機トルクを小さな推定遅れで推定でき、この推定トルクを用いて、非特許文献1に記載のように再粘着制御が可能であることから、高い粘着力の利用率を実現できる。
また、この推定トルクを用いて、空転検知後の再粘着制御を行うことにより、非特許文献1に記載されるように、トルク指令値の大きな変動が発生せず、したがってトルク指令値の制御に伴う同一台車内や台車間の動的な軸重変動がほとんど発生しない。このため各動軸の粘着係数に近い粘着力を発生することができ、この点からも粘着力の有効利用ができる。
(3)電気機関車の平均牽引力あるいはトルク指令値と、平均加速度から牽引質量を推定することで、牽引質量を適正に推定することができ、この推定質量をもとに、動輪軸加速度による空転検知の閾値を適切な値に設定することができる。
(4)本発明においては速度センサ付ベクトル制御機能と、速度センサレスベクトル制御機能の2種類の制御機能を用いているが、速度センサ付ベクトル制御機能は、速度センサレスベクトル制御機能を実現するソフトウェアを一部変更/追加することで実現できる。したがって、共通の制御装置で、速度センサ付ベクトル制御機能と、速度センサレスベクトル制御機能の2種類の制御機能を実現することが可能であり、従来のものに比べ装置構成を格別複雑にすることなく、本発明を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施例における牽引質量推定方法を示す図である。
【図2】本発明の第2の実施例における牽引質量推定方法を示す図である。
【図3】本発明の第3の実施例における牽引質量推定方法を示す図である。
【図4】本発明の第4の実施例における牽引質量推定方法を示す図である。
【図5】本発明の電気車制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【図6】空転検知用速度演算器の動作を示すブロック図である。
【図7】空転検知に用いる速度演算用係数を示す図である。
【図8】本発明の第1の実施例における牽引質量推定器(A)の動作を表すフローチャート(1)である。
【図9】本発明の第1の実施例における牽引質量推定器(A)の動作を表すフローチャート(2)である。
【図10】本発明の第2の実施例における牽引質量推定器(B)の動作を表すフローチャートである。
【図11】本発明の第3の実施例における牽引質量推定器(C)の動作を表すフローチャートである。
【図12】本発明の第4の実施例における牽引質量推定器(D)の動作を表すフローチャートである。
【図13】動輪軸加速度による空転検知の閾値演算器の動作を示すブロック図である。
【図14】基準速度演算器の動作を示すブロック図である。
【図15】空転検知器の動作を表すフローチャートである。
【図16】推定牽引質量から演算した動輪軸加速度による空転検知の閾値を示す図である。
【図17】速度センサレスベクトル制御方式・外乱オブザーバによる接線力推定を併用した粘着制御におけるトルク指令値の制御方法を示す図である。
【図18】接線力係数(あるいは接線力)のすべり速度に対する一般的な特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、インバータ制御電気機関車の電気車制御装置に、速度センサ付ベクトル制御器と速度センサレスベクトル制御器を有していて、速度ゼロから切換速度に達するまでは速度センサ付ベクトル制御器によって加速制御を行い、これと併行して、速度ゼロから速度センサレスベクトル制御器も動作させて主電動機の電圧・電流から推定速度を演算し、速度センサから得た速度と推定速度とから差速度による空転検知に用いる速度を演算し、この空転検知に用いる速度を各動輪速度とみなし、この動輪速度のうちの最小値を基準速度に設定してこの基準速度に対する各動輪速度の差速度によって空転検知を行うようにしながら加速制御を行い、この加速制御中のある期間中の平均加速度と機関車の平均牽引力から牽引質量を推定し、この推定牽引質量をもとに動輪軸加速度による空転検知の閾値を設定して、列車速度が切換速度以上になって速度センサレスベクトル制御に移行した後は、この設定した空転検知の閾値を用いて動輪軸加速度による空転検知を行うようにして、すべり速度の小さいうちに迅速に再粘着制御を行い粘着力の有効利用を図るようにするものである。
【0018】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、以下の説明では、各記号を以下の意味で使用する。
Fav1〜Fav4:動輪第1軸〜第4軸の平均牽引力、
Slip1〜Slip4:動輪第1軸〜第4軸の空転検知信号、
Ta1:平均牽引力計算開始時刻(実施例1)、
Tb1:平均牽引力計算終了時刻(実施例1)、
Favj:最初に空転検知した動輪jの空転検知時刻T02から時間δT遡った時点からさらに遡った期間ΔT1における平均牽引力、
Slipj:動輪jの空転検知信号、
δT:動輪jが空転を開始したと思われる時刻(設定値)
ΔT1:平均牽引力計算期間(実施例1)、αb1:機関車の平均加速度
Va1:時刻Ta1における機関車の速度、Vb1:時刻Tb1における機関車の速度、
V(t):機関車の速度、α(t):機関車の加速度、
Ta2:平均牽引力計算開始時刻(実施例2)、Tb2:平均牽引力計算終了時刻(実施例2)、
ΔT2:平均牽引力計算期間(実施例2)、
αb2:平均牽引力に対応した機関車の平均加速度、
Va2:時刻Ta2における機関車の速度、Vb2:時刻Tb2における機関車の速度、
Tend:牽引質量推定動作上限時刻、Ta3:牽引質量推定のための運転モード開始時刻、
Tb3:牽引質量推定のための運転モード終了時刻、
ΔT3:牽引質量推定のための運転モードの期間、
αb3:牽引質量推定のための運転モードの期間に対応した機関車の平均加速度、
Va3:時刻Ta3における機関車の速度、Vb3:時刻Tb3における機関車の速度、
Tz:想定される最大牽引質量を牽引する場合の編成列車全体の出発抵抗よりも大きい牽引力を指令し続ける最終時刻、
PG:速度センサ、Puls:速度パルス、Slipz:空転検知信号、
Vref :基準速度、Vpg:速度センサ付ベクトル制御器CAで速度パルスをもとに演算した速度
Vcmbj:空転検知用速度、Vest:推定速度、Vch:切換速度
α^d:推定動輪軸加速度、
αslip:動輪軸加速度による空転検知の閾値
ΔVslip:差速度による空転検知の閾値
V*:3相電圧指令、Vu:u相電圧、Vv:v相電圧、iu:u相電流、iv:v相電流
Vcmbj:他の動輪速度、Tcmdi:他の動輪のトルク指令値、Mestj:推定牽引質量、
kest:速度ゼロにおいて値はゼロであり、速度の増大とともに1次関数状に増大し、切換速度Vchに達したときにその値が1となる係数、
kpg:速度ゼロにおいて値は1であり、速度の増大とともに1次関数状に減少し、切換速度Vchに達したときにその値がゼロとなる係数、
αz:機関車が最大牽引力を発揮したときの推定牽引質量の列車の加速度、
δτ:空転検知した後のトルク指令値の引き下げ量、
τest:空転検知時の接線力に対応した推定トルク、
τa:動輪を再粘着させるためのトルク指令値の最小値で、確実に再粘着させることのできる範囲で極力大きな値となるように選定される、
T1:τaを指令する期間、T2:τcを指令する期間、
τc:再粘着後に指令するトルク、
v: 電圧、i1:1次電流、R1:1次抵抗、t:時間、
L1:1次自己インダクタンス、L2:2次自己インダクタンス、M:相互インダクタンス
ω^s:すべり角速度、ω^:2次磁束角速度、ω^m:電動機角速度
Ψ2v:電圧モデル2次磁束、Ψ2vα:電圧モデル2次磁束のα成分、
Ψ2vβ:電圧モデル2次磁束のβ成分、
i1α:1次電流のα成分、i1β:1次電流のβ成分
【実施例1】
【0019】
図1は本発明の第1の実施例における牽引質量推定方法を示す図、図5は本発明の電気車制御装置の概略構成を示すブロック図、図6は空転検知用速度演算器の動作を示す図、図7は空転検知に用いる速度演算用係数を示す図、図8、図9は本発明の第1の実施例における牽引質量推定器(A)の動作を示すフローチャートである。
また、図13は動輪軸加速度による空転検知の閾値演算器の動作を示すブロック図、図14は基準速度演算器の動作を示すブロック図、図15は空転検知器の動作を示すフローチャートである。
図16は推定牽引質量から演算した動輪軸加速度による空転検知の閾値を示す図であり、横軸は速度、縦軸は、機関車の最大牽引力特性、推定牽引質量より求められた軸加速度による空転検知の閾値(A,B)、機関車が最大牽引力を発揮したときの推定牽引質量の列車の加速度を示している。
図17は速度センサレスベクトル制御方式に外乱オブザーバによる接線力推定を併用した粘着制御におけるトルク指令値の制御方法を示す図である。横軸は時間であり、同図(a)はトルク指令値を示し、空転検知時の接線力に対応した推定トルクτestから、再粘着させることのできる範囲でτaが最大となるように、また、再粘着後に指令するトルクτcを推定トルクτestに極力近づけるようにトルク指令値を設定することを示している。また、同図(b)は動輪速度を示し、(c)は空転検知信号を示す。
【0020】
以下において、図1、図5、図6、図7、図8、図9、図13〜図17に基づいて、実施例1の説明をする。
図1は本発明の第1の実施例における牽引力推定方法を示す図であり、同図の横軸は時間であり、同図(a)(b)は第1〜第4軸動輪の牽引力、第1軸〜第4軸の平均牽引力、第1軸〜第4軸の空転検知信号を示し、(c)(d)は第1軸〜第4軸の動輪のすべり速度を示し、(e)は機関車の速度、(f)は機関車の加速度と平均加速度を示す。
図5は、本発明の電気車制御装置の概略構成を示す図である。
図5において、1は電気車を駆動する主電動機、2は主電動機の速度を検出する速度センサ、3は、主電動機1を駆動するPWMインバータであり、本実施例の電気車制御装置は、同図に示すように、上記PWMインバータを制御する速度センサ付ベクトル制御器CAと速度センサレスベクトル制御器CBを有している。
また、図5において、4はノッチ指令に対応してトルク指令値を発生するトルク指令値発生器、5は速度センサ付ベクトル制御器CAで演算された速度VPGと、速度センサレスベクトル制御器CBで推定された推定速度Vestとから、j軸動輪の空転検知用速度Vcmbjを演算する空転検知用速度演算器、6は空転検知用速度Vcmbj、基準速度Vref、動輪軸加速度による空転検知の閾値αslipを受信して空転検知信号Slipzを出力する空転検知器、7は入力される他の動輪速度Vcmbiと空転検知用速度Vcmbjの中で最も低い速度のものを演算して基準速度Vrefとして出力する基準速度演算器、8は推定牽引質量を受信し動輪軸加速度による空転検知の閾値αslipを演算して出力する軸加速度による空転検知の閾値を演算する演算器、9は機関車が牽引する牽引質量を推定して推定牽引質量Mestjとして出力する牽引質量推定器である。
【0021】
速度センサ付ベクトル制御器CAでは、例えば、公知の特許文献2に記載の方式を用いて主電動機1を制御する。主電動機制御に用いることのできる時間的変動成分の十分小さな速度情報を速度センサ2から得るには、例えば、時間間隔25(ms)程度は必要であり、空転検知に用いる速度としては検出遅れが大きいが、登り勾配区間に停止した状態で列車を起動する場合に、時として列車が低速度で後退した状態から起動する状況となることがあるが、その場合でも安定した勾配起動が実現できる。
一方、速度センサレスベクトル制御器CBで用いる速度センサレスベクトル制御方式としては、非特許文献2〜非特許文献4に記載の方式および、非特許文献1(あるいは非特許文献5あるいは特許文献3)に記載の方式が考えられる。
【0022】
これらの中で、非特許文献2に記載の方式の場合、速度指令値(ωr*)に推定速度(ω^r)が追随するように比例・積分制御を用いた速度調節器(ASR)で制御され、その結果得られるq軸電流値〔トルク分電流〕指令値(i1q*)にq軸電流(i1q)が追随するように比例・積分制御を用いた電流調節器(ACR1)で制御される。この過程において推定速度(ω^r)が演算されるようになっている。すなわち、推定速度(ω^r)演算過程において積分制御が用いられているため、速度の推定が積分制御の分だけ遅れることになる。
また、非特許文献3に記載の方式の場合、推定速度の演算式に積分制御が用いられており、やはり速度推定が積分制御の分だけ遅れることになる。
さらに、非特許文献4に記載の方式の場合、適応磁束オブザーバを用いた速度の推定が行われているが、その中に積分制御が用いられており、同様に速度推定に遅れが発生する。
【0023】
このように非特許文献2〜非特許文献4に記載のいずれの方式においても、速度の推定に遅れが発生することが明らかである。このように、速度の推定に遅れが発生する方式では、再粘着制御のように空転・滑走速度が急速に増大するとか空転・滑走している動輪が急速に再粘着する事象が頻繁に発生する可能性がある応用例においては、推定速度の追従が遅れるために発生トルクにも追従遅れが生じて、速度センサレスベクトル制御を用いることによる再粘着制御性能の向上が望めない可能性が高い。
これに対して、非特許文献1(あるいは非特許文献5あるいは特許文献3)に記載の方式では、速度推定遅れが1制御周期(100μs程度以下)しかない。
【0024】
その理由は以下のとおりである。
非特許文献1(あるいは非特許文献5あるいは特許文献3)に記載の速度センサレスベクトル制御では、誘導電動機の入力電圧vと電流iから、以下の(1)−(4)式に従って誘導電動機の速度ω^mを推定する。
【0025】
・・・・・・・(1)
・・・・・・・(2)
・・・・・・・(3)
・・・・・・・(4)
【0026】
ここに、
Ψ2v :電圧モデル2次磁束、v:電圧、i1:1次電流、R1:1次抵抗、t:時間、L1、L2、M:1次自己インダクタンス、2次自己インダクタンス、相互インダクタンス、ω^s:すべり角速度、
ω^:2次磁束角速度、ω^m:電動機角速度、Ψ2vα、Ψ2vβ:電圧モデル2次磁束のα成分、β成分、i1α、・i1α:1次電流のα成分、β成分
【0027】
すなわち、(1)式で電圧モデル2次磁束を、(2)式からすべり角速度ω^s を演算する。また、(3)式に示すように電圧モデル2次磁束Ψ2vの位相角を時間微分して2次磁束角速度ω^sを求める。そして、(4)式によって2次磁束角速度ω^からすべり角速度ω^sを減算して電動機角速度ω^mを求める。なお、(2)式で求まるすべり角速度ω^s は制御上の種々の誤差を含む可能性が高いので、実際には一義的に定まるすべり角速度指令値ωs*を用いる。
【0028】
これらの式から了解できるように、電流の瞬時値から速度の推定ができるため、速度の推定遅れは1制御周期(100μs程度以下)しかなく、時間的な変動成分の十分小さな速度情報がほぼ無視できる程小さい遅れで得ることができる。
すなわち、本実施例で使用される速度センサレスベクトル制御では、電圧モデル2次磁束のα成分、β成分から2次磁束角速度回転ω^を求め、また、すべり角速度指令値ωs*をすべり角速度ω^sとして、2次磁束角速度回転ω^からすべり角速度ω^sを減算して電動機角速度ω^mを求めており、このようにして電動機角速度ω^mを求めることにより、小さな遅れで推定速度を得ることができる。
そのため、再粘着制御時において空転・滑走速度が急速に増大するとか空転・滑走している動輪が急速に再粘着する事象が発生しても推定速度の追従が遅れることがないために発生トルクの高速の応答特性が維持できる。したがって、速度センサ付ベクトル制御を用いるよりも再粘着制御性能の向上が期待できる。
また、速度の差分として得られる動輪軸加速度についても、時間的な変動成分の十分小さな安定な加速度情報が、速度センサを用いて安定な速度情報を得るための検出遅れより短い遅れで得ることができる。前述の非特許文献1に記載の速度センサレスベクトル制御・外乱オブザーバによる空転再粘着制御において良好な制御性能が得られているのは、この推定遅れの極めて小さい動輪軸加速度を用いて空転を迅速に検出できていることと空転検知時の推定遅れの小さい接線力の推定値を用いて適正なトルク制御ができることによるものである。したがって、電気機関車牽引の貨物列車の場合でも、牽引質量が適正に推定できれば動輪軸加速度による空転検知の閾値が妥当な値に設定でき、迅速な空転検知による粘着力の利用率の高い再粘着制御性能が得られる可能性がある。
【0029】
以上に示した理由によって、速度センサレスベクトル制御器CBでは、上記の非特許文献1(あるいは非特許文献5あるいは特許文献3)に記載の速度センサレスベクトル制御を用いて主電動機を制御する。
速度センサレスベクトル制御では、前述のように列車が低速度で後退した状態から起動する状況では、インバータ周波数の制御中に周波数が一旦ゼロとなる場合が発生する可能性がある。制御原理的にインバータ周波数がゼロすなわち直流となったときには主電動機の回転子からの速度に関する情報が得られなくなるので、予測制御的な手法を用いてゼロ周波数を切り抜けて加速させる必要があり、起動加速度が極端に低くなる可能性がある貨物列車を牽引する場合、速度センサレスベクトル制御だけで安定に列車を加速するのにはかなりの困難を伴うことが考えられる。
そのため、極低速度域では速度センサ付ベクトル制御を用いて主電動機を制御し、極低速度域を切り抜けた後は、非特許文献1(あるいは非特許文献5あるいは特許文献3)に記載の速度センサレスベクトル制御に移行する制御を行えば、迅速な空転検知による粘着力の利用率の高い再粘着制御性能が得られる可能性が高くなる。
【0030】
なお、図5においては速度センサ付ベクトル制御器CAと速度センサレスベクトル制御器CBを別々に持つ構成例を示したが、電動機角速度ω^mとして速度センサからの情報をもとに演算した速度を用い、上記(4)式の関係から2次磁束角速度ω^を求める速度センサ付ベクトル制御の構成を適用すれば、速度センサレスベクトル制御機能を中心にして速度センサ付ベクトル制御の機能を組み込むことができるので、ベクトル制御のためのソフトウェアの量を圧縮でき、速度センサ付ベクトル制御器CAと速度センサレスベクトル制御器CBの機能を単一のベクトル制御器で構成する構成例も考えることができる。
本発明における速度センサ付ベクトル制御器CAと速度センサレスベクトル制御器CBについては以上に述べたとおりである。
【0031】
図5において、機関士の操作する図示していない主幹制御器から出されるノッチ指令がトルク指令値発生器4に入力される。トルク指令値発生器4ではこのノッチ指令に対応してトルク指令値を発生して、速度センサ付ベクトル制御器CAと速度センサレスベクトル制御器CBに出力する。また、他の電気車制御装置における牽引質量推定に必要になるので、ノッチ指令に対応したトルク指令値を他の電気車制御装置に対して送信する。PWMインバータ3からは、2相分の電圧(図5ではu相電圧、v相電圧)、電流(u相電流、v相電流)が、速度センサレスベクトル制御器CBに入力されるほか、速度センサ付ベクトル制御器CAには主電動機1に取り付けられた速度センサ2からの速度パルスが入力される。
【0032】
速度センサ付ベクトル制御器CAでは、速度センサ2からの速度パルスPulsをもとに速度Vpgを演算し、入力されたトルク指令値どおりのトルクを発生すべく3相電圧指令V*を発生してPWMインバータに出力する。3相電圧指令V*を入力したPWMインバータ3では、電圧指令どおりの電圧を発生してこれを主電動機1に印加してトルク指令値どおりのトルクを発生して主電動機1を回転させ、これにより機関車が加速を始める。速度センサ付ベクトル制御器CAの動作により機関車が加速を始めるのと同時に、トルク指令値発生器4からのトルク指令値が入力されている速度センサレスベクトル制御器CBも動作を開始し、主電動機1の電圧・電流から速度を推定演算して、この推定速度Vestをもとにトルク指令値どおりのトルクを発生すべく速度センサ付ベクトル制御器CAと同様に3相電圧指令を発生する。ただし、機関車の速度が切換速度Vch以下である場合は、速度センサレスベクトル制御器CBからの出力であるベクトル制御切換指令がオフのままであるため電圧指令切換器SW1,SW2は同図に示すようにSW1がオン、SW2がオフであり、速度センサレスベクトル制御器CBが発生した3相電圧指令は、PWMインバータ3に入力されることはない。
【0033】
したがって、切換速度Vchに達するまでは、速度センサ付ベクトル制御器CAの制御によって機関車は加速することになる。なお、速度センサレスベクトル制御器CBで演算した推定速度Vestが切換速度Vch以上となった場合は、速度センサレスベクトル制御器CBはベクトル制御切換指令をオンにして電圧指令切換器SW1,SW2をSW1をオフ、SW2をオンに切換えて、それまでPWMインバータ3に入力されていた速度センサ付ベクトル制御器CAからの3相電圧指令を開放して、速度センサレスベクトル制御器CBからの3相電圧指令がPWMインバータ3に入力されるようにする。そしてそれ以降、速度センサレスベクトル制御器CBにおいて、PWMインバータ3の出力電圧・電流から推定速度Vestを演算して、この速度を用いて入力されたトルク指令値どおりのトルクを発生すべく3相電圧指令V*を発生してPWMインバータ3に出力する。また、速度センサレスベクトル制御器CBにおいて、推定速度Vestをもとに演算した推定動輪軸加速度α^dを空転検知器6に対して出力する。
【0034】
速度センサ付ベクトル制御器CAで演算した速度VPGと速度センサレスベクトル制御器CBで演算した推定速度Vestは、ともに空転検知用速度演算器5に入力される。この空転検知用速度Vcmb演算器5では、入力された速度VPGと推定速度Vestとから、以下の(5)式に従って、当該j軸動輪の空転検知用速度Vcmbjを演算する。
【0035】
Vcmbj=Vest×kest+Vpg×kpg ・・・・・(5)
この空転検知用速度演算器5の構成を図6に示す。同図に示すように、空転検知用速度演算器5は、係数kpgを出力する第1の関数発生器21と、係数kestを出力する第2の関数発生器22と、第1、第2の乗算器Mp1,Mp2と、加算器A1から構成される。そして、入力された速度センサ付ベクトル制御器CAで演算した速度VPGと係数kpgとを乗算器Mp1で乗算するとともに、入力された推定速度Vestと係数kestとを乗算器Mp1で乗算し、加算器A1でその和を求めて、空転検知用速度Vcmbjとして出力する。
ここに、係数kestは、図7に示すように、速度ゼロにおいて値はゼロであり、速度の増大とともに1次関数状に増大し、切換速度Vchに達したときにその値が1となる。また、kpgは同じく図7に示すように、速度ゼロにおいて値は1であり、速度の増大とともに1次関数状に減少し切換速度Vchに達したときにその値がゼロとなる。
したがって、速度ゼロ付近では速度Vpgが支配的であるため空転検知用速度Vcmbの演算のための遅れは大きいが、速度の増大とともに空転検知用速度Vcmbjの演算に及ぼす速度Vpgの影響度は低下し、推定遅れの小さい推定速度Vestの影響が支配的となって、空転検知用速度Vcmbjの演算遅れは小さくなっていき、切換速度Vchに達したときには、空転検知用速度Vcmbの演算遅れは推定速度Vestと同じになり、小さな演算遅れで空転検知用速度Vcmbjが演算されることになる。
【0036】
このようにして演算された空転検知用速度Vcmbjは、空転検知器6、基準速度演算器7および牽引質量推定器9に対して出力される。また、他の電気車制御装置においても牽引質量を推定するために当該j軸動輪の空転検知用速度Vcmbjが必要であるため、他の電気車制御装置に対しても出力される。
牽引質量推定器9ではこの空転検知用速度Vcmbjを用いて後述の方法によって機関車が牽引する牽引質量を推定して、これを推定牽引質量Mestjとして動輪軸加速度による空転検知の閾値演算器に対して出力する。推定牽引質量を受信した動輪軸加速度による空転検知の閾値演算器では、後述の方法によって動輪軸加速度による空転検知の閾値αslipを演算して、これを空転検知器6に対して出力する。
また、空転検知用速度Vcmbjを受信した基準速度演算器7では、図14に示すように、この他に入力される他の動輪速度Vcmbi(ここにiは1から動輪数Ndまでの値をとるが、i≠jである)とこの空転検知用速度Vcmbjの中で最も低い速度のものを最小値演算器24において演算してこれを基準速度Vrefとして空転検知器6に対して出力する。
【0037】
空転検知用速度Vcmbj、基準速度Vref、動輪軸加速度による空転検知の閾値αslipを受信した空転検知器6では、図15にフローチャートで示すような動作をする。まず、ステップS101で空転検知用速度Vcmbjと切換速度Vchとの大小比較を行い、Vcmbj<Vchの場合には速度センサ付ベクトル制御中であるのでステップS102に行き、ステップS102において、空転検知用速度Vcmbjと基準速度Vrefとの差速度を演算する。そして、この差速度が、差速度による空転検知の閾値ΔVslipに対して、差速度≧ΔVslipとなった場合には、差速度による空転検知状態であるのでステップS103に行き、空転検知信号Slipzをオンにしてトルク指令値発生器4に対して出力する。
一方、差速度<ΔVslipの場合にはステップS104に行き、空転検知信号Slipzをオフにしてトルク指令値発生器4に対して出力する。
また、ステップS101において、Vcmbj≧Vchである場合は速度センサレスベクトル制御中であるのでステップS105に行き、推定動輪軸加速度α^dと、動輪軸加速度による空転検知の閾値αslipとの大小比較を行い、α^d≧αslipの場合は動輪軸加速度による空転検知状態であるので、ステップS103に行き、空転検知信号Slipzをオンにしてトルク指令値発生器に対して出力する。α^d<αslipである場合は、動輪軸加速度による空転検知状態ではないので、ステップS104に行き、空転検知信号Slipzをオフにしてトルク指令値発生器4に対して出力する。
【0038】
トルク指令値発生器4では、空転検知信号Slipzがオフである場合は、ノッチ指令に対応したトルク指令値を出力する。空転検知信号Slipzがオンになって空転の発生を検知した場合は、図17のようにトルク指令値を制御して、空転している動輪を再粘着させるようにする。
すなわち、常時車輪・レール間の接線力に対応した主電動機軸上のトルクを、前記特許文献1、非特許文献1に記載されるように、最小次元外乱オブザーバによって推定していて、空転検知した場合には空転検知時の接線力に対応した推定トルクτestから、再粘着させることのできる範囲でトルク引き下げ量δτ(=τest−τa)が極力小さくなるように再粘着期間中に指令するトルク指令値τaを設定する。そして、このトルク指令値τaをある期間T1だけ指令して動輪を再粘着させ、期間T1が経過した時点で、空転検知時の接線力に対応した推定トルクτestより僅かに小さいトルクτcを短時間のうちに指令し、このトルク指令値を期間T2だけ保持する。このように推定トルクτestより僅かに小さいトルクτcを指令するのは、τcを指令した時点ですぐに再空転が発生するのを回避するためである。そして、期間T2だけトルクτcを指令しても再空転がなければトルク指令値を徐々に増大させる。やがて再空転が発生すると、上記の空転検知時のトルク指令値制御と同様の制御を繰り返す。
【0039】
以上に述べたように動作する図5に示した電気車制御装置において、実施例1における牽引質量の推定は図1および図8、図9に示すようにして行われる。
なお、図1は動輪の数Ndが4軸のインバータ機関車の例を示しているが、動輪の数はこの4軸に限定されるものではなく、6軸、8軸なども想定される。
図1に示してあるように、予め設定した時刻Ta1から時刻Tb1までの期間ΔT1について、各動輪のトルク指令値から各動輪の平均牽引力Faviを求める。ここに、i=1〜4である。
図1の場合は、期間ΔT1の間に各動輪に空転が発生しているので、トルク指令値から求めた平均牽引力Faviは、車輪・レール間の接線力を厳密に反映している訳ではないので、実際の平均牽引力とは異なるが、微小な空転のうちに再粘着させることができていれば、トルク指令値から平均牽引力を算定しても大きな誤差を含むことはないと考えられる。
制御動作の詳細を図8、図9を中心にして述べる。図8において、ステップS101において機関車が加速制御開始直後かの判定を行い、制御開始直後である場合にはステップS102へ行き、すべての動輪の平均牽引力Favkをリセットする(k=1,・・,j,・・Nd)。また、当該j軸で演算する推定牽引質量Mestjもリセットする。
【0040】
次にステップS103において、当該動輪j軸の平均加速度αb1(t)、平均値演算用カウンタ(平均加速度演算に用いる加速度データの数を表す)をリセットする。そして、ステップS104に行く。なお、ステップS101においての判定結果で機関車が加速制御開始直後でない場合は、直接ステップS104に行く。
ステップS104では、空転検知用速度Vcmb演算器から入力されたVcmbjを機関車の速度V(t)に設定する。次にステップS105において、1制御周期(δTc)前の機関車の速度V-1(t)と今回の機関車の速度V(t)から、機関車の加速度α(t)を{V(t)−V-1(t)}/δTcによって演算する。
そして、ステップS106において、制御開始からの経過時間tが図1に示してある第1の設定時刻Ta1以上であるか否かの判定を行い、まだ第1の設定時刻Ta1に達していない場合はリターンして、次の制御周期を待つ。
【0041】
第1の設定時刻Ta1以上である場合には、ステップS107において第1の設定時刻Ta1になったばかりか否かの判定を行い、なったばかりである場合は、ステップS108において機関車の速度V(t)をVa1に設定する。ここにVa1は図1に示すように、速度データから機関車の平均加速度を演算するための第1の速度データである。そしてステップS109に移行して、すべての動輪の平均牽引力Favkについて(k=1,・・,j,・・Nd)、トルク指令値Tcmdkを、牽引力に換算して加算する。また、平均加速度αb1(t)に機関車の加速度α(t)を加算する。次いで、ステップS110において平均値演算用カウンタMcountに1を加算してリターンして、次の制御周期を待つ。
ステップS107の判定において第1の設定時刻Ta1になったばかりではないとの判定結果である場合は、ステップS111の条件判定に行き、制御開始からの経過時間tが図1に示す第2の設定時刻Ta2以上ではない場合は、上記のステップS109へ行く。経過時間tが第2の設定時刻Ta2以上である場合はステップS112に行き、経過時間tが第2の設定時刻Ta2になった直後でない場合(既に推定牽引質量Mestjが得られている)はリターンして次の制御周期を待ち、経過時間tが第2の設定時刻Ta2になった直後である場合にはステップS113に行き、機関車の速度V(t)をVa2に設定する。
【0042】
そしてステップS114において、平均加速度αb1(t)をそのデータの個数を表しているMcountで割ったものを平均加速度αb1(t)に設定する。あるいは、速度データVa1、Va2を用いて、(Va1−Va2)/ΔT1を平均加速度αb1(t)に設定する。そして図9のステップS115において、各動輪のFavkをMcountで割ったものを平均牽引力Favkに設定する。そしてステップS116において、このように求めた平均牽引力Favkを用いて、期間ΔT1の間の機関車の平均牽引力FLは、以下の(6)式で求める。
そしてステップS117において、期間ΔT1の間の機関車の平均加速度をαb1として、推定牽引質量Mestjを(7)式から求める(列車の走行抵抗は無視している)。
なお、(7)式において、期間ΔT1の間の機関車の平均加速度αb1を用いる代わりに、時刻Ta1、Tb1における機関車の速度Va1、Va1から114において求めた(8)式で表される平均加速度αavを用いてもよい。
【0043】
・・・・・・・(6)
・・・・・・・(7)
・・・・・・(8)
【0044】
以上に述べた方法で推定牽引質量Mestjが求められると、図13に示してあるように、動輪軸加速度による空転検知の閾値演算器に入力された推定牽引質量Mestjと、機関車の最大牽引力特性から、演算器23により、推定牽引質量Mestjの機関車が最大牽引力を発揮して加速する場合の列車の速度・加速度αZ特性を求める。そして、加算器A2で、このαZに軸加速度による空転検知閾値設定用定数Δαmarを加算して、動輪軸加速度による空転検知の閾値αslipとして求めて、空転検知器に対して出力される。
ここに、空転検知閾値設定用定数Δαmarは、機関車が走行する線区の最大勾配による重力成分によって列車加速度の変化が発生しても空転の誤検知が発生しないように、閾値にマージンを持たせるために用いられる定数である。このようにして求められた閾値αslipは、図16に示されている空転検知の閾値(A)を表している。この動輪軸加速度による空転検知の閾値(A)は、速度に応じて連続的に変化する速度域がある。しかし、現実には僅かな速度変化で閾値を実際には変える必要がないので、図16に示してある閾値(B)のように、幾つかの速度帯毎に閾値を変える方法も考えられる。
【実施例2】
【0045】
前述のように動作する電気車制御装置において、実施例2における牽引質量の推定は図2に示すようにして行われる。なお詳細な推定動作のフローチャートは、図10に示されている。
図2は本実施例の牽引質量の推定方法を示す図であり、横軸は時間、同図(a)は最初に空転検知した動輪jの牽引力と空転検知信号を示し、(b)は動輪のすべり速度を示し、(c)は機関車の速度、(d)は機関車の加速度と平均加速度を示す。
図2において、時刻T02に最初に動輪jが空転検知して再粘着制御に移行したとする。時刻T02からδTだけ遡った時刻Tb2からさらに遡った期間ΔT2の間の動輪jの発生した平均牽引力をFavjとする。そして、空転していない動輪の平均牽引力をFavjとする。ただし、i≠jである(i=1〜Nd、Nd:機関車の動輪数)。
また、期間ΔT2の間の機関車の平均加速度をαb2とする。そうすると、期間ΔT2の間の機関車の平均牽引力FLは、前記(6)式で与えられるので、推定牽引質量Mestjは(7)式のαb1をαb2に置き換えた式から求めることができる(列車の走行抵抗は無視している)。
なお、平均牽引力を計算する期間を、δTだけ遡った時刻Tb2を起点にするのは、期間δTの間は動輪が空転状態にあって動輪で発生する牽引力が図2に示す牽引力より小さくなる(空転中の接線力が正確には把握できない期間)ので、この期間を回避した方が、より正確な牽引力を把握することができるからである。
【0046】
次に詳細な推定動作を、図10を用いて説明する。まずステップS101において機関車の加速制御直後かの判定を行う。起動開始時はこの条件が成立するので、ステップS102において当該j軸動輪の平均牽引力Favjと、j軸以外の動輪の平均牽引力Faviをリセットする(i=1,・・,Ndでありまたi≠j)。そして、ステップS103において、空転検知用速度Vcmbjを機関車の速度V(t)に設定する。
なお、ステップS101において加速制御直後でない判定となった場合は、直接ステップS103に移行する。次いで、ステップS104において、1制御周期(δTc)前の機関車の速度V-1(t)と今回の機関車の速度V(t)から、機関車の加速度α(t)を{V(t)−V-1(t)}/δTcによって演算する。そして、105において、空転検知器出力から入力された空転検知信号Slipzすなわち当該j軸動輪の空転検知信号Slipjがオンか否かの判定を行う。
空転検知信号Slipjがオンでない、すなわち空転が発生していない場合は、ステップS107の条件判定に行き、起動からの経過時間が図2に示した牽引質量推定動作上限時刻Tend以上になっているか否かを調べる。推定動作上限時刻Tendに達していない場合は、ステップS108において、当該j軸動輪のトルク指令値Tcmdj、j軸以外のi軸動輪のトルク指令値TcmdiをデータセーブエリアSaveTcmdj、SaveTcmdiにセーブする。また、同様に機関車の速度V(t)と加速度α(t)をセーブエリアSaveV、SaveAに格納する。
【0047】
ステップS107の判定で牽引質量推定動作上限時刻Tend以上になっている場合は、ステップS109の条件判定に行き、推定牽引質量Mestjがリセット状態か調べる。
リセット状態である場合、すなわちまだMestjの推定演算が完了していない場合には、ステップS110以降のMestjの推定演算処理を行う。ステップS107、ステップS109の条件判定を経てステップS110の処理に来るのは、一回も空転検知することなく牽引質量推定動作上限時刻Tendが経過した場合である。
ステップS110においては、現在時刻からδT+ΔT2遡った時刻Ta2からδT遡った時刻Tb2までのセーブエリアSaveTcmdj、SaveTcmdiから、図8、図9で述べたのと同様の方法によって、各動輪の平均牽引力Faviを演算する(i=1,・・・Nd)。そして、(6)式によって機関車の平均牽引力FLを演算する。次にステップS111において、セーブエリアSaveAのデータから機関車の平均加速度αb2を演算する。また時刻Ta2の機関車速度Va2と時刻Tb2の機関車速度Vb2を用いて(9)式で平均加速度αavを演算する。そしてステップS112において、(7)式中のαb1の代わりに平均加速度αb2またはαavを用いて、推定牽引質量Mestjを演算する。
【0048】
ステップS105において空転検知信号Slipjがオンすなわち空転検知した場合は、ステップS106の判定で始めての空転検知である場合は、先述のステップS110へ移行して牽引質量の推定動作を行う。初めての空転検知でない場合は、既に推定牽引質量Mestjがセットされているので、何もせずリターンする。
【0049】
・・・・・・(9)
【0050】
以上に述べた方法で推定牽引質量Mestjが求められると、実施例1について図13と図16を用いて説明したのと同じ方法によって、軸加速度による空転検知の閾値(A)あるいは軸加速度による空転検知の閾値(B)を求めることができる。
【実施例3】
【0051】
前述のように動作する図5に示した電気車制御装置において、実施例3における牽引質量の推定は図3に示すようにして行われる。
図3は本実施例の牽引質量の推定方法を示す図であり、本実施例は、同図に示すように、牽引質量を推定するため、空転を発生しない範囲で極力大きなトルク発生する運転モードで運転し、その後、トルク指令値と機関車の平均加速度から牽引質量を推定する動作を行うものであり、横軸は時間、同図(a)は動輪の牽引力(トルク指令値)と空転検知信号を示し、(b)は動輪のすべり速度を示し、(c)は機関車の速度、(d)は機関車の加速度と平均加速度を示す。また詳細な推定動作のフローチャートを図11に示す。
図3に示すように、起動してから時刻Ta3において、空転を発生しない範囲で極力大きなトルクτcを期間ΔT3の間発生するようにして牽引質量が推定できる状態を作り(すなわち、牽引質量が推定できる運転モードを挿入する)、その後は通常のトルク指令値を指令する運転モードに移行する。
そして、この牽引質量が推定できる運転モードの期間ΔT3中のトルク指令値τcと機関車の平均加速度αb3とから、(10)式によって推定牽引質量Mestjを求める(機関車の動輪数はNd)。ここに、kfはトルクを牽引力に換算するための定数である。
【0052】
・・・・・・・(10)
【0053】
このようにして推定牽引質量Mestjを求めた後は、実施例1において述べた方法によって軸加速度による空転検知の閾値を求めることができる。
上記の詳細な推定動作を図11に示している。図11において、ステップS101で加速制御開始直後かの判定を行い、起動開始時はこの条件が成立するので、ステップS102に行き当該j軸動輪の平均牽引力Favjおよび推定牽引質量Mestjをリセットする。そしてステップS103に移行する。起動開始時でない場合は、直接ステップS103に移行する。ステップS103では空転検知用速度Vcmbjを機関車速度V(t)に設定する。
そしてステップS104において、1制御周期(δTc)前の機関車の速度V-1(t)と今回の機関車の速度V(t)から、機関車の加速度α(t)を{V(t)−V-1(t)}/δTcによって演算する。
【0054】
次にステップS105の条件判定では、起動からの経過時間が牽引質量推定動作開始時刻Ta3以上かの判定を行う。経過時間が牽引質量推定動作開始時刻Ta3に達していない場合は、リターンしこの時刻が経過するのを待つことになる。Ta3以上の場合は、ステップS106において経過時間が牽引質量推定動作終了時刻Tb3以上かの判定を行い、まだ終了時刻Tb3に達していない場合は、ステップS107において、機関車の速度V(t)、機関車の加速度α(t)をそれぞれセーブエリアSaveV、SaveAに格納する。
動作終了時刻Tb3以上になった場合はステップS108に行き、Mestjがリセット状態か否かの判定を行い、リセット状態である場合は、まだ推定牽引質量が計算されていないので、ステップS109に移行し、SaveAの機関車加速度データで、時刻Ta3から時刻Tb3までのデータから機関車の平均加速度αb3を演算し、またセーブエリアSaveVデータ中の時刻Ta3のデータVa3と時刻Tb3のデータVb3から、(9)式Va2の代わりにVa3を、Vb2の代わりにVb3を用いて機関車のもう一つの平均加速度αav3を演算する。そして、ステップS110において、(10)式から、あるいは(10)式のαb3の代わりにαav3を用いて推定牽引質量Mestjを演算する。
以上に述べた方法で推定牽引質量Mestjが求められると、実施例1について図13と図16を用いて説明したのと同じ方法によって、軸加速度による空転検知の閾値(A)あるいは軸加速度による空転検知の閾値(B)を求めることができる。
【実施例4】
【0055】
前述のように動作する図5に示した電気車制御装置において、実施例4における牽引質量の推定は図4に示すようにして行われる。
図4は本実施例の牽引質量の推定方法を示す図であり、本実施例は、同図に示すように、推定される最大牽引質量を牽引する場合の編成列車全体の出発抵抗より大きい牽引力を時刻Tzまで
指令して、連結器遊間による機関車加速度の変動が収まるようにした後、牽引質量の推定動作を行うものであり、横軸は時間、同図(a)動輪の牽引力(トルク指令値)と空転検知信号を示し、(b)は動輪のすべり速度を示し、(c)は機関車の速度、(d)は機関車の加速度と平均加速度を示す。また詳細な推定動作のフローチャートを図12に示す。
【0056】
一般に貨物列車を機関車によって牽引する場合、機関車と貨車の間の自動連結器や貨車同士の間の自動連結器の遊間がある状態で停止していた貨物列車が機関車で牽引力を発生して起動加速を始めるときに、図4に示すように、機関車と貨車、貨車同士の微小な相対運動によって、機関車の加速度が大きく振動することがある(機関車と貨車の間の自動連結器や貨車同士の間の自動連結器の遊間がない、いわば列車全体が棒状になった状態で停止している場合は、機関車の加速度が振動することはないが、そのような事象の発生確率は高くはない)。このような加速度の振動によって機関車の平均加速度の演算精度が低下することがないようにする必要がある。
そのため、図4に示すように、当該機関車で想定される最大牽引質量を牽引する場合の出発抵抗よりも大きい牽引力を時刻Tzまで指令して、連結器遊間による機関車加速度の変動が十分に収まるようにする。そしてその後から、機関士の操作した主幹制御器からのノッチ指令に対応したトルクを発生すべく、トルク指令値の増大が行われるので、この時点以降において、実施例1あるいは実施例2あるいは実施例3の方法によって、牽引質量の推定動作を行う。なお、図4は時刻Tz以降、実施例2の方法によって牽引質量の推定を行う場合を示している。
【0057】
実施例4の推定動作の概要を図12のフローチャートに示す。
図12において、ステップS101で起動からの経過時間が図4に示すTz以下である場合は、まだ推定動作を開始する時刻になっていないので、リターンして時間が経過するのを待つ。経過時間がTz以上である場合は推定動作を行う条件が整っているので、牽引質量推定器(A)の場合は、図1および図8、図9に示す牽引質量推定器(A)の動作によって牽引質量を推定する。牽引質量推定器(B)の場合は、図2および図10に示す牽引質量推定器(B)の動作によって牽引質量を推定する。牽引質量推定器(C)の場合は、図3および図11に示す牽引質量推定器(C)の動作によって牽引質量を推定する。
以上に述べた方法で推定牽引質量Mestjが求められると、実施例1について図13と図16を用いて説明したのと同じ方法によって、軸加速度による空転検知の閾値(A)あるいは軸加速度による空転検知の閾値(B)を求めることができる。
【符号の説明】
【0058】
1 主電動機
2 速度センサ(PG)
3 PWMインバータ
4 トルク指令値発生器
5 空転検知用速度演算器
6 空転検知器
7 基準速度演算器
8 軸加速度による空転検知の閾値を演算する演算器
9 牽引質量推定器
21,22 関数発生器
23 演算器
24 最小値演算器
CA 速度センサ付ベクトル制御器
CB 速度センサレスベクトル制御器
SW1,SW2 電圧指令切換器
Mp1,Mp2 乗算器
A1,A2 加算器
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ制御電気機関車について、粘着力の有効利用を図った再粘着制御を実現するための電気車制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気車、例えば電車は、車輪・レール間の接線力(粘着力ともいう)によって加減速を行っているが、この接線力は、一般にすべり速度に対して図18に示すような特性を有している。図18はすべり速度に対する接線力(接線力係数)を示したものであり、横軸はすべり速度、縦軸は接線力(接線力係数)であり、実線はレール面湿潤時、破線はレール面乾燥時を示している。なお、接線力を軸重(車軸1軸当たりのレールに加わる垂直荷重)で割ったものを接線力係数、接線力係数の最大値を粘着係数という。
図示の如く、接線力の最大値を超えないトルクを主電動機で発生している場合は、空転・滑走は発生せず、接線力の最大値より左側の微小なすべり速度の粘着領域で電気車は走行する。もし最大値より大きなトルクを発生するとすべり速度は増大し、接線力が低下するので、ますます、すべり速度が増大する空転・滑走状態になるが、車輪およびレールが乾燥状態では主電動機で発生するトルクは接線力の最大値を超えないように車両の性能が設定されるので、空転・滑走は発生しない。
【0003】
しかし、実線で示すように、レール面が雨などによって湿潤状態にある場合は粘着係数が低下して、接線力の最大値が車両の設定性能に対応した主電動機の発生トルクより小さくなる。
この場合、すべり速度が増大して空転・滑走状態になり、そのまま放置するとこれに対応して接線力が低下し、車両の加速・減速に必要な加減速力がますます低下してしまうので、迅速に空転・滑走を検出し、主電動機が発生するトルクを低減して再粘着させることが必要になる。このようにトルクの制御を行って再粘着させる場合、小さなすべり速度に維持しつつ、主電動機の発生トルクが極力接線力の最大値近傍の値になるように制御すること、すなわち極力粘着力の有効利用を図ることが、電気車の加減速性能を高める上で必要である。
【0004】
このような再粘着制御の実現を目的とした方法として、主電動機の回転速度を主電動機に印加される電圧・電流から推定し、この推定速度情報と主電動機発生トルクの演算値を入力情報として、最小次元外乱オブザーバを用いて車輪・レール間の接線力に対応した主電動機トルクを制御周期毎に推定して、空転・滑走検知時の推定トルクを用いて主電動機の発生トルクを制御する方式が、提案されている(特許文献1、非特許文献1参照)。
この制御方式によって、良好な乗り心地を保ちつつ、主電動機の発生トルクを極力接線力の最大値近傍に、すなわち粘着限界値に近い値に維持することができつつある。
【0005】
しかしながら、上記の制御が実現しているのは、旅客の乗車率が変動しても車両の加減速度がほぼ一定に保たれるため、動輪軸の演算加速度によって迅速に空転検知が可能な電車についてである。
これに対して、牽引質量を極力大きくすることの必要性が高い、すなわち粘着力の有効利用が電車以上に必要な電気機関車については、インバータ制御電気機関車のように1台の主電動機を1台のインバータで独立制御できる主回路構成であっても、速度センサから演算した動輪速度をもとに1両の電気機関車内の動輪速度の最小値を基準速度に設定してこの基準速度と動輪速度との速度差によって空転検知する方式が一般的に用いられているため空転検知が遅れることになる。したがって、トルク応答性の高い速度センサ付ベクトル制御を用いた場合でも、空転している動輪の接線力がすべり速度が少し大きくなると急速に低下するすべり速度・接線力係数特性を有していることから(電気機関車では電車に比して粘着係数が高いため、空転が発生した場合、電車と同じすべり速度の場合の接線力係数の粘着係数からの低下量が大きいため)、主電動機で発生するトルクを規定するトルク指令値を大きく低下させないと動輪を再粘着させることができない。この点から、粘着力の有効利用ができていないという問題点をまず挙げることができる。さらに、再粘着した時点以降、粘着力の有効利用の観点から空転直前の粘着力相当のトルクに主電動機のトルク指令値を急速に増大させる制御が一般的に行われることが多いが、この場合各動輪の牽引力(粘着力)の急激な変動に伴って、同一台車内の軸重の動的変動や台車間の軸重の動的変動が発生するため、各動輪の粘着係数相当の牽引力を発生することが難しくなることの理由からも、粘着力の有効利用が図られていないという問題点を有している。
【0006】
このような現状を改善するために、前述の特許文献1(または非特許文献1)に記載されている、主電動機の回転速度を主電動機に印加される電圧・電流から推定し、この推定速度情報と主電動機発生トルクの演算値を入力情報として、最小次元外乱オブザーバを用いて車輪・レール間の接線力に対応した主電動機トルクを制御周期毎に推定して、空転・滑走検知時の推定トルクを用いて主電動機の発生トルクを制御する方式(速度センサレスベクトル制御方式・外乱オブザーバによる接線力推定を併用した再粘着制御方式)をインバータ制御電気機関車にそのまま適用しようとした場合、次のような問題が発生する。
上記の速度センサレスベクトル制御を用いた場合、動輪の推定軸加速度の推定遅れは小さいので閾値が適正に設定できれば動輪軸加速度によって迅速に空転検知が可能であり、したがって小さなすべり速度のうちに再粘着させることができるため粘着力の有効利用が可能となる。しかしながら、電車の場合とは違って、電気機関車で貨物列車を牽引する場合、牽引質量は列車によって大きく異なり、機関車1両で運転する場合から最大牽引質量の貨物列車を牽引する場合まであるため、機関車で同じ牽引力を発生している場合でも、列車の加速度が大きく変化する。この牽引質量が機関車の走行開始前に分かっていれば、軸加速度による空転検知の閾値を適正に設定することが可能になるが、実際には牽引質量を機関車の走行開始前に知る手段がないため、このままでは、適正な閾値の設定ができない。
また、機関車牽引の貨物列車の場合、種々の運転条件が想定されることから、電車の場合よりも列車の起動加速度が極端に小さくなる場合が考えられることから、速度ゼロから速度センサレスベクトル制御で列車を安定に加速させるにはかなり困難が伴うと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−252716号公報
【特許文献2】特開昭58−215992号公報
【特許文献3】特開平8−196100号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】門脇悟志、畑正、廣瀬寛、大石潔、飯田哲史、高木正志、佐野孝、保川忍:「速度センサレスベクトル制御・外乱オブザーバによる空転再粘着制御の実車両への適用とその評価−205系5000番代電車における実例−」、電気学会論文誌D、124巻、平成16年9月号、pp909−915
【非特許文献2】奥山、藤本、松井、久保田:「誘導電動機の速度・電圧センサレス・ベクトル制御法」、電気学会論文誌D、107巻、昭和62(1987)年2月号、pp191−198
【非特許文献3】近藤、結城:「誘導電動機速度センサレスベクトル制御の鉄道車両駆動への適用検討」、電気学会論文誌D、125巻、平成17年(2005)1月号、pp1−8
【非特許文献4】金原、小山:「低速・回生領域を含む誘導電動機の速度センサレスベクトル制御法」、電気学会論文誌D、120巻、平成12年(2002)2月号、pp223−229
【非特許文献5】佐野:「交通用センサレス速度制御システム」、東洋電機技報、第109号、2003(平成15年)−11、pp14−23
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、電気機関車牽引列車の場合においても、電車で実現されている粘着力の有効利用を、電車の場合同様に速度センサレスベクトル制御方式・外乱オブザーバによる接線力推定を併用した再粘着制御方式を用いて、実現することが望まれる。
しかし、現状では前述のように、動輪軸加速度による空転検知の閾値を適正に設定する手段が見出されていないことである。
【0010】
本発明は上述した点に鑑み創案されたもので、その目的とするところは、電気機関車牽引列車がヤードから発車して列車を加速制御する状態に移行したときに、機関車が発生する牽引力と列車の加速度データから牽引質量の推定を行い、この推定牽引質量をもとに適正な(動輪軸加速度による)空転検知の閾値を設定する手段を提供することにある。そして、列車の起動時には速度センサ付ベクトル制御によって安定に起動し、切換速度以上に列車速度がなった時点以降において、列車の起動時から主電動機の電圧電流をもとに速度センサ付ベクトル制御と同様に制御動作を開始した速度センサレスベクトル制御に移行し、このように設定した動輪軸加速度による空転検知の閾値を用いて、速度センサレスベクトル制御方式・外乱オブザーバによる接線力推定を併用した再粘着制御を行うことによって、粘着力の有効利用を図った電気機関車牽引列車の加速制御を行うことのできる電気車制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するため、本発明は、インバータ制御電気機関車の主電動機に取り付けられた速度センサからの速度情報をもとに前記主電動機をベクトル制御する速度センサ付ベクトル制御器と、前記主電動機の電圧電流から演算した推定速度をもとに前記主電動機をベクトル制御する速度センサレスベクトル制御器を有し、
車両の停止状態から起動するときに前記主電動機の速度情報をもとに前記速度センサ付ベクトル制御器によって起動・加速するとともに、前記速度センサ付ベクトル制御器によって前記インバータ制御電気機関車が起動・加速するのと同時に前記速度センサレスベクトル制御器も動作させ、
前記インバータ制御電気機関車の速度が切換速度に達した後は、前記速度センサレスベクトル制御器によって前記主電動機を加速制御する電気車制御装置であって、
前記切換速度に達するまでの間、速度センサレスベクトル制御器により推定された前記主電動機の推定速度と前記速度センサからの速度情報とから空転検知に用いる速度を演算する空転検知用速度演算器と、
前記インバータ制御電気機関車が速度ゼロから起動加速制御に移行した後の予め定められた期間中における前記インバータ制御電気機関車の平均加速度と平均牽引力とから推定牽引質量を演算する牽引質量推定器と、
推定した推定牽引質量から、前記速度センサレスベクトル制御機能によって前記主電動機を加速制御する場合の動輪軸加速度を用いた空転検知の閾値を設定する閾値演算器と
前記空転検知に用いる速度を各動輪速度とみなし、前記動輪速度のうちの最小値を基準速度に設定してこの基準速度に対する各動輪速度の差速度と、上記閾値演算器により求めた閾値に基づき空転検知を行う空転検知器とを備え速度センサ付ベクトル制御機能と速度センサレスベクトル制御機能を有するインバータ制御電気機関車について、速度ゼロから切換速度に達するまでは速度センサ付ベクトル制御によって加速制御を行い、これと併行して、速度ゼロから速度センサレスベクトル制御機能も動作させて主電動機の電圧・電流から推定速度を演算し、速度センサから得た速度と推定速度とから差速度による空転検知に用いる速度を演算し、この空転検知に用いる速度を各動輪速度とみなし、上記切換速度に達するまでは、この動輪速度のうちの最小値を基準速度に設定してこの基準速度に対する各動輪速度の差速度と、差速度による空転検知閾値とにより空転を検知しながら加速制御を行い、この加速制御中のある期間中の平均加速度と機関車の平均牽引力から牽引質量を推定し、この推定牽引質量をもとに動輪軸加速度による空転検知の閾値を設定し、列車速度が切換速度以上になって速度センサレスベクトル制御に移行した後は、この設定した空転検知の閾値と上記速度センサレスベクトル制御器によって演算された動輪軸加速度とによって空転検知を行うようにして、すべり速度の小さいうちに迅速に再粘着制御を行い、粘着力の有効利用を図るようにしている。
【0012】
すなわち、本発明においては、次のようにして上記課題を解決する。
速度センサ付ベクトル制御機能と速度センサレスベクトル制御機能を有するインバータ制御電気機関車について、速度ゼロから切換速度に達するまでは前記速度センサ付ベクトル制御によって加速制御を行い、これと併行して、速度ゼロから前記速度センサレスベクトル制御機能も動作させて主電動機の電圧・電流から推定速度を演算し、速度センサから得た速度と推定速度とから差速度による空転検知に用いる速度を演算し、この空転検知に用いる速度を各動輪速度とみなし、この動輪速度のうちの最小値を基準速度に設定してこの基準速度に対する各動輪速度の差速度によって空転検知を行うようにしながら加速制御を行う。
そして、前記主電動機の加速制御中に以下の(1)〜(4)のいずれかの方法によって牽引質量の推定を行い、この推定牽引質量をもとに動輪軸加速度検知による空転検知の閾値を設定し、列車速度が切換速度に達した後は、速度センサレスベクトル制御に移行し、このように設定した閾値と、上記速度センサレスベクトル制御器によって演算された動輪軸加速度とによって空転検知を行い、速度センサレスベクトル制御方式に外乱オブザーバによる接線力推定を併用した再粘着制御を行いながら列車の加速制御を行う。
(1)インバータ制御電気機関車が速度ゼロから起動加速制御に移行した後、予め設定した時刻から過去のある期間中におけるインバータ制御電気機関車の平均加速度と平均牽引力とからインバータ制御電気機関車の牽引質量を推定する。
(2)各動輪において最初の空転を検知した場合に、最初の空転検知時点からある一定時間遡った期間中におけるインバータ機関車の平均加速度と平均牽引力とから牽引質量を推定する。
(3)インバータ制御電気機関車の各動輪が空転することのない範囲でできるだけ大きなある設定したトルク指令値τcを指令して起動加速を始めた時点以降、予め設定した時刻から過去のある期間中におけるインバータ制御電気機関車の平均加速度とトルク指令値τcとからインバータ制御電気機関車の牽引質量を推定する。
(4)インバータ制御電気機関車で想定される最大牽引質量を牽引する場合の編成列車全体の出発抵抗よりも大きい牽引力をインバータ制御電気機関車で発生して起動した後、インバータ制御電気機関車の各動輪速度から演算されるインバータ制御電気機関車の加速度の時間変化がある設定したレベル以下になった時点以降において、上記(1)、(2)または(3)に記載の方法によってインバータ制御電気機関車の牽引質量を推定する。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、上記したように、速度ゼロからの列車の起動加速は速度センサ付ベクトル制御器によって行い、速度センサ付ベクトル制御器による起動の開始と同時に速度センサレスベクトル制御器も動作させ、主電動機の電圧・電流から速度センサレスベクトル制御器によって推定速度を演算し、速度センサから得た速度と推定速度とから差速度による空転検知に用いる速度を演算し、この空転検知に用いる速度を各動輪速度とみなし、動輪速度のうちの最小値を基準速度に設定してこの基準速度に対する各動輪速度の差速度と、差速度による空転検知閾値とにより空転を検知しながら加速制御を行い、切換速度に列車速度が達するまでのある定めた期間中にインバータ制御電気機関車の平均牽引力と平均加速度から牽引質量を牽引質量推定器によって推定して、この推定質量をもとに動輪軸加速度による空転検知の閾値を設定し、列車速度が切換速度以上になった後は、速度センサレスベクトル制御器による速度センサレスベクトル制御に移行し、設定された空転検知の閾値を用いて動輪軸加速度による空転検知を行っているので以下の効果を得ることができる。
【0014】
(1)列車速度が切換速度以下の場合、速度センサから得た速度と速度センサレスベクトル制御により得た推定速度とから空転検知に用いる速度を演算し、この空転検知に用いる速度を各動輪速度とみなし、この動輪速度のうちの最小値を基準速度に設定してこの基準速度に対する各動輪速度の差速度によって空転検知を行うようにしながら加速制御を行っている。
このように、列車速度が切り替え速度以下の場合、速度センサレスベクトル制御により推定速度を演算しており、この推定速度は、速度センサから得られる速度の計測遅れよりはるかに小さい推定遅れの速度情報であるので、速度センサからの速度のみを用いて差速度により空転検知するよりも迅速に空転検知ができる。
特に、上記推定速度の、空転検知に用いる速度に対する影響が、速度の増加とともに大きくなるようにすることで、速度センサからの速度のみを用いて差速度により空転検知するよりも迅速に空転検知ができ、空転検知時の動輪のすべり速度が小さくなるので、その分粘着力の有効利用が可能となる。
【0015】
(2)列車速度が切換速度以上となった場合には、速度センサレスベクトル制御に移行し、前記のように推定質量をもとに求めた動輪軸加速度による空転検知の閾値を用いて動輪軸加速度による空転検知を行うので、迅速な空転検知と外乱オブザーバによって推定する接線力係数に対応した電動機トルクを小さな推定遅れで推定でき、この推定トルクを用いて、非特許文献1に記載のように再粘着制御が可能であることから、高い粘着力の利用率を実現できる。
また、この推定トルクを用いて、空転検知後の再粘着制御を行うことにより、非特許文献1に記載されるように、トルク指令値の大きな変動が発生せず、したがってトルク指令値の制御に伴う同一台車内や台車間の動的な軸重変動がほとんど発生しない。このため各動軸の粘着係数に近い粘着力を発生することができ、この点からも粘着力の有効利用ができる。
(3)電気機関車の平均牽引力あるいはトルク指令値と、平均加速度から牽引質量を推定することで、牽引質量を適正に推定することができ、この推定質量をもとに、動輪軸加速度による空転検知の閾値を適切な値に設定することができる。
(4)本発明においては速度センサ付ベクトル制御機能と、速度センサレスベクトル制御機能の2種類の制御機能を用いているが、速度センサ付ベクトル制御機能は、速度センサレスベクトル制御機能を実現するソフトウェアを一部変更/追加することで実現できる。したがって、共通の制御装置で、速度センサ付ベクトル制御機能と、速度センサレスベクトル制御機能の2種類の制御機能を実現することが可能であり、従来のものに比べ装置構成を格別複雑にすることなく、本発明を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施例における牽引質量推定方法を示す図である。
【図2】本発明の第2の実施例における牽引質量推定方法を示す図である。
【図3】本発明の第3の実施例における牽引質量推定方法を示す図である。
【図4】本発明の第4の実施例における牽引質量推定方法を示す図である。
【図5】本発明の電気車制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【図6】空転検知用速度演算器の動作を示すブロック図である。
【図7】空転検知に用いる速度演算用係数を示す図である。
【図8】本発明の第1の実施例における牽引質量推定器(A)の動作を表すフローチャート(1)である。
【図9】本発明の第1の実施例における牽引質量推定器(A)の動作を表すフローチャート(2)である。
【図10】本発明の第2の実施例における牽引質量推定器(B)の動作を表すフローチャートである。
【図11】本発明の第3の実施例における牽引質量推定器(C)の動作を表すフローチャートである。
【図12】本発明の第4の実施例における牽引質量推定器(D)の動作を表すフローチャートである。
【図13】動輪軸加速度による空転検知の閾値演算器の動作を示すブロック図である。
【図14】基準速度演算器の動作を示すブロック図である。
【図15】空転検知器の動作を表すフローチャートである。
【図16】推定牽引質量から演算した動輪軸加速度による空転検知の閾値を示す図である。
【図17】速度センサレスベクトル制御方式・外乱オブザーバによる接線力推定を併用した粘着制御におけるトルク指令値の制御方法を示す図である。
【図18】接線力係数(あるいは接線力)のすべり速度に対する一般的な特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、インバータ制御電気機関車の電気車制御装置に、速度センサ付ベクトル制御器と速度センサレスベクトル制御器を有していて、速度ゼロから切換速度に達するまでは速度センサ付ベクトル制御器によって加速制御を行い、これと併行して、速度ゼロから速度センサレスベクトル制御器も動作させて主電動機の電圧・電流から推定速度を演算し、速度センサから得た速度と推定速度とから差速度による空転検知に用いる速度を演算し、この空転検知に用いる速度を各動輪速度とみなし、この動輪速度のうちの最小値を基準速度に設定してこの基準速度に対する各動輪速度の差速度によって空転検知を行うようにしながら加速制御を行い、この加速制御中のある期間中の平均加速度と機関車の平均牽引力から牽引質量を推定し、この推定牽引質量をもとに動輪軸加速度による空転検知の閾値を設定して、列車速度が切換速度以上になって速度センサレスベクトル制御に移行した後は、この設定した空転検知の閾値を用いて動輪軸加速度による空転検知を行うようにして、すべり速度の小さいうちに迅速に再粘着制御を行い粘着力の有効利用を図るようにするものである。
【0018】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、以下の説明では、各記号を以下の意味で使用する。
Fav1〜Fav4:動輪第1軸〜第4軸の平均牽引力、
Slip1〜Slip4:動輪第1軸〜第4軸の空転検知信号、
Ta1:平均牽引力計算開始時刻(実施例1)、
Tb1:平均牽引力計算終了時刻(実施例1)、
Favj:最初に空転検知した動輪jの空転検知時刻T02から時間δT遡った時点からさらに遡った期間ΔT1における平均牽引力、
Slipj:動輪jの空転検知信号、
δT:動輪jが空転を開始したと思われる時刻(設定値)
ΔT1:平均牽引力計算期間(実施例1)、αb1:機関車の平均加速度
Va1:時刻Ta1における機関車の速度、Vb1:時刻Tb1における機関車の速度、
V(t):機関車の速度、α(t):機関車の加速度、
Ta2:平均牽引力計算開始時刻(実施例2)、Tb2:平均牽引力計算終了時刻(実施例2)、
ΔT2:平均牽引力計算期間(実施例2)、
αb2:平均牽引力に対応した機関車の平均加速度、
Va2:時刻Ta2における機関車の速度、Vb2:時刻Tb2における機関車の速度、
Tend:牽引質量推定動作上限時刻、Ta3:牽引質量推定のための運転モード開始時刻、
Tb3:牽引質量推定のための運転モード終了時刻、
ΔT3:牽引質量推定のための運転モードの期間、
αb3:牽引質量推定のための運転モードの期間に対応した機関車の平均加速度、
Va3:時刻Ta3における機関車の速度、Vb3:時刻Tb3における機関車の速度、
Tz:想定される最大牽引質量を牽引する場合の編成列車全体の出発抵抗よりも大きい牽引力を指令し続ける最終時刻、
PG:速度センサ、Puls:速度パルス、Slipz:空転検知信号、
Vref :基準速度、Vpg:速度センサ付ベクトル制御器CAで速度パルスをもとに演算した速度
Vcmbj:空転検知用速度、Vest:推定速度、Vch:切換速度
α^d:推定動輪軸加速度、
αslip:動輪軸加速度による空転検知の閾値
ΔVslip:差速度による空転検知の閾値
V*:3相電圧指令、Vu:u相電圧、Vv:v相電圧、iu:u相電流、iv:v相電流
Vcmbj:他の動輪速度、Tcmdi:他の動輪のトルク指令値、Mestj:推定牽引質量、
kest:速度ゼロにおいて値はゼロであり、速度の増大とともに1次関数状に増大し、切換速度Vchに達したときにその値が1となる係数、
kpg:速度ゼロにおいて値は1であり、速度の増大とともに1次関数状に減少し、切換速度Vchに達したときにその値がゼロとなる係数、
αz:機関車が最大牽引力を発揮したときの推定牽引質量の列車の加速度、
δτ:空転検知した後のトルク指令値の引き下げ量、
τest:空転検知時の接線力に対応した推定トルク、
τa:動輪を再粘着させるためのトルク指令値の最小値で、確実に再粘着させることのできる範囲で極力大きな値となるように選定される、
T1:τaを指令する期間、T2:τcを指令する期間、
τc:再粘着後に指令するトルク、
v: 電圧、i1:1次電流、R1:1次抵抗、t:時間、
L1:1次自己インダクタンス、L2:2次自己インダクタンス、M:相互インダクタンス
ω^s:すべり角速度、ω^:2次磁束角速度、ω^m:電動機角速度
Ψ2v:電圧モデル2次磁束、Ψ2vα:電圧モデル2次磁束のα成分、
Ψ2vβ:電圧モデル2次磁束のβ成分、
i1α:1次電流のα成分、i1β:1次電流のβ成分
【実施例1】
【0019】
図1は本発明の第1の実施例における牽引質量推定方法を示す図、図5は本発明の電気車制御装置の概略構成を示すブロック図、図6は空転検知用速度演算器の動作を示す図、図7は空転検知に用いる速度演算用係数を示す図、図8、図9は本発明の第1の実施例における牽引質量推定器(A)の動作を示すフローチャートである。
また、図13は動輪軸加速度による空転検知の閾値演算器の動作を示すブロック図、図14は基準速度演算器の動作を示すブロック図、図15は空転検知器の動作を示すフローチャートである。
図16は推定牽引質量から演算した動輪軸加速度による空転検知の閾値を示す図であり、横軸は速度、縦軸は、機関車の最大牽引力特性、推定牽引質量より求められた軸加速度による空転検知の閾値(A,B)、機関車が最大牽引力を発揮したときの推定牽引質量の列車の加速度を示している。
図17は速度センサレスベクトル制御方式に外乱オブザーバによる接線力推定を併用した粘着制御におけるトルク指令値の制御方法を示す図である。横軸は時間であり、同図(a)はトルク指令値を示し、空転検知時の接線力に対応した推定トルクτestから、再粘着させることのできる範囲でτaが最大となるように、また、再粘着後に指令するトルクτcを推定トルクτestに極力近づけるようにトルク指令値を設定することを示している。また、同図(b)は動輪速度を示し、(c)は空転検知信号を示す。
【0020】
以下において、図1、図5、図6、図7、図8、図9、図13〜図17に基づいて、実施例1の説明をする。
図1は本発明の第1の実施例における牽引力推定方法を示す図であり、同図の横軸は時間であり、同図(a)(b)は第1〜第4軸動輪の牽引力、第1軸〜第4軸の平均牽引力、第1軸〜第4軸の空転検知信号を示し、(c)(d)は第1軸〜第4軸の動輪のすべり速度を示し、(e)は機関車の速度、(f)は機関車の加速度と平均加速度を示す。
図5は、本発明の電気車制御装置の概略構成を示す図である。
図5において、1は電気車を駆動する主電動機、2は主電動機の速度を検出する速度センサ、3は、主電動機1を駆動するPWMインバータであり、本実施例の電気車制御装置は、同図に示すように、上記PWMインバータを制御する速度センサ付ベクトル制御器CAと速度センサレスベクトル制御器CBを有している。
また、図5において、4はノッチ指令に対応してトルク指令値を発生するトルク指令値発生器、5は速度センサ付ベクトル制御器CAで演算された速度VPGと、速度センサレスベクトル制御器CBで推定された推定速度Vestとから、j軸動輪の空転検知用速度Vcmbjを演算する空転検知用速度演算器、6は空転検知用速度Vcmbj、基準速度Vref、動輪軸加速度による空転検知の閾値αslipを受信して空転検知信号Slipzを出力する空転検知器、7は入力される他の動輪速度Vcmbiと空転検知用速度Vcmbjの中で最も低い速度のものを演算して基準速度Vrefとして出力する基準速度演算器、8は推定牽引質量を受信し動輪軸加速度による空転検知の閾値αslipを演算して出力する軸加速度による空転検知の閾値を演算する演算器、9は機関車が牽引する牽引質量を推定して推定牽引質量Mestjとして出力する牽引質量推定器である。
【0021】
速度センサ付ベクトル制御器CAでは、例えば、公知の特許文献2に記載の方式を用いて主電動機1を制御する。主電動機制御に用いることのできる時間的変動成分の十分小さな速度情報を速度センサ2から得るには、例えば、時間間隔25(ms)程度は必要であり、空転検知に用いる速度としては検出遅れが大きいが、登り勾配区間に停止した状態で列車を起動する場合に、時として列車が低速度で後退した状態から起動する状況となることがあるが、その場合でも安定した勾配起動が実現できる。
一方、速度センサレスベクトル制御器CBで用いる速度センサレスベクトル制御方式としては、非特許文献2〜非特許文献4に記載の方式および、非特許文献1(あるいは非特許文献5あるいは特許文献3)に記載の方式が考えられる。
【0022】
これらの中で、非特許文献2に記載の方式の場合、速度指令値(ωr*)に推定速度(ω^r)が追随するように比例・積分制御を用いた速度調節器(ASR)で制御され、その結果得られるq軸電流値〔トルク分電流〕指令値(i1q*)にq軸電流(i1q)が追随するように比例・積分制御を用いた電流調節器(ACR1)で制御される。この過程において推定速度(ω^r)が演算されるようになっている。すなわち、推定速度(ω^r)演算過程において積分制御が用いられているため、速度の推定が積分制御の分だけ遅れることになる。
また、非特許文献3に記載の方式の場合、推定速度の演算式に積分制御が用いられており、やはり速度推定が積分制御の分だけ遅れることになる。
さらに、非特許文献4に記載の方式の場合、適応磁束オブザーバを用いた速度の推定が行われているが、その中に積分制御が用いられており、同様に速度推定に遅れが発生する。
【0023】
このように非特許文献2〜非特許文献4に記載のいずれの方式においても、速度の推定に遅れが発生することが明らかである。このように、速度の推定に遅れが発生する方式では、再粘着制御のように空転・滑走速度が急速に増大するとか空転・滑走している動輪が急速に再粘着する事象が頻繁に発生する可能性がある応用例においては、推定速度の追従が遅れるために発生トルクにも追従遅れが生じて、速度センサレスベクトル制御を用いることによる再粘着制御性能の向上が望めない可能性が高い。
これに対して、非特許文献1(あるいは非特許文献5あるいは特許文献3)に記載の方式では、速度推定遅れが1制御周期(100μs程度以下)しかない。
【0024】
その理由は以下のとおりである。
非特許文献1(あるいは非特許文献5あるいは特許文献3)に記載の速度センサレスベクトル制御では、誘導電動機の入力電圧vと電流iから、以下の(1)−(4)式に従って誘導電動機の速度ω^mを推定する。
【0025】
・・・・・・・(1)
・・・・・・・(2)
・・・・・・・(3)
・・・・・・・(4)
【0026】
ここに、
Ψ2v :電圧モデル2次磁束、v:電圧、i1:1次電流、R1:1次抵抗、t:時間、L1、L2、M:1次自己インダクタンス、2次自己インダクタンス、相互インダクタンス、ω^s:すべり角速度、
ω^:2次磁束角速度、ω^m:電動機角速度、Ψ2vα、Ψ2vβ:電圧モデル2次磁束のα成分、β成分、i1α、・i1α:1次電流のα成分、β成分
【0027】
すなわち、(1)式で電圧モデル2次磁束を、(2)式からすべり角速度ω^s を演算する。また、(3)式に示すように電圧モデル2次磁束Ψ2vの位相角を時間微分して2次磁束角速度ω^sを求める。そして、(4)式によって2次磁束角速度ω^からすべり角速度ω^sを減算して電動機角速度ω^mを求める。なお、(2)式で求まるすべり角速度ω^s は制御上の種々の誤差を含む可能性が高いので、実際には一義的に定まるすべり角速度指令値ωs*を用いる。
【0028】
これらの式から了解できるように、電流の瞬時値から速度の推定ができるため、速度の推定遅れは1制御周期(100μs程度以下)しかなく、時間的な変動成分の十分小さな速度情報がほぼ無視できる程小さい遅れで得ることができる。
すなわち、本実施例で使用される速度センサレスベクトル制御では、電圧モデル2次磁束のα成分、β成分から2次磁束角速度回転ω^を求め、また、すべり角速度指令値ωs*をすべり角速度ω^sとして、2次磁束角速度回転ω^からすべり角速度ω^sを減算して電動機角速度ω^mを求めており、このようにして電動機角速度ω^mを求めることにより、小さな遅れで推定速度を得ることができる。
そのため、再粘着制御時において空転・滑走速度が急速に増大するとか空転・滑走している動輪が急速に再粘着する事象が発生しても推定速度の追従が遅れることがないために発生トルクの高速の応答特性が維持できる。したがって、速度センサ付ベクトル制御を用いるよりも再粘着制御性能の向上が期待できる。
また、速度の差分として得られる動輪軸加速度についても、時間的な変動成分の十分小さな安定な加速度情報が、速度センサを用いて安定な速度情報を得るための検出遅れより短い遅れで得ることができる。前述の非特許文献1に記載の速度センサレスベクトル制御・外乱オブザーバによる空転再粘着制御において良好な制御性能が得られているのは、この推定遅れの極めて小さい動輪軸加速度を用いて空転を迅速に検出できていることと空転検知時の推定遅れの小さい接線力の推定値を用いて適正なトルク制御ができることによるものである。したがって、電気機関車牽引の貨物列車の場合でも、牽引質量が適正に推定できれば動輪軸加速度による空転検知の閾値が妥当な値に設定でき、迅速な空転検知による粘着力の利用率の高い再粘着制御性能が得られる可能性がある。
【0029】
以上に示した理由によって、速度センサレスベクトル制御器CBでは、上記の非特許文献1(あるいは非特許文献5あるいは特許文献3)に記載の速度センサレスベクトル制御を用いて主電動機を制御する。
速度センサレスベクトル制御では、前述のように列車が低速度で後退した状態から起動する状況では、インバータ周波数の制御中に周波数が一旦ゼロとなる場合が発生する可能性がある。制御原理的にインバータ周波数がゼロすなわち直流となったときには主電動機の回転子からの速度に関する情報が得られなくなるので、予測制御的な手法を用いてゼロ周波数を切り抜けて加速させる必要があり、起動加速度が極端に低くなる可能性がある貨物列車を牽引する場合、速度センサレスベクトル制御だけで安定に列車を加速するのにはかなりの困難を伴うことが考えられる。
そのため、極低速度域では速度センサ付ベクトル制御を用いて主電動機を制御し、極低速度域を切り抜けた後は、非特許文献1(あるいは非特許文献5あるいは特許文献3)に記載の速度センサレスベクトル制御に移行する制御を行えば、迅速な空転検知による粘着力の利用率の高い再粘着制御性能が得られる可能性が高くなる。
【0030】
なお、図5においては速度センサ付ベクトル制御器CAと速度センサレスベクトル制御器CBを別々に持つ構成例を示したが、電動機角速度ω^mとして速度センサからの情報をもとに演算した速度を用い、上記(4)式の関係から2次磁束角速度ω^を求める速度センサ付ベクトル制御の構成を適用すれば、速度センサレスベクトル制御機能を中心にして速度センサ付ベクトル制御の機能を組み込むことができるので、ベクトル制御のためのソフトウェアの量を圧縮でき、速度センサ付ベクトル制御器CAと速度センサレスベクトル制御器CBの機能を単一のベクトル制御器で構成する構成例も考えることができる。
本発明における速度センサ付ベクトル制御器CAと速度センサレスベクトル制御器CBについては以上に述べたとおりである。
【0031】
図5において、機関士の操作する図示していない主幹制御器から出されるノッチ指令がトルク指令値発生器4に入力される。トルク指令値発生器4ではこのノッチ指令に対応してトルク指令値を発生して、速度センサ付ベクトル制御器CAと速度センサレスベクトル制御器CBに出力する。また、他の電気車制御装置における牽引質量推定に必要になるので、ノッチ指令に対応したトルク指令値を他の電気車制御装置に対して送信する。PWMインバータ3からは、2相分の電圧(図5ではu相電圧、v相電圧)、電流(u相電流、v相電流)が、速度センサレスベクトル制御器CBに入力されるほか、速度センサ付ベクトル制御器CAには主電動機1に取り付けられた速度センサ2からの速度パルスが入力される。
【0032】
速度センサ付ベクトル制御器CAでは、速度センサ2からの速度パルスPulsをもとに速度Vpgを演算し、入力されたトルク指令値どおりのトルクを発生すべく3相電圧指令V*を発生してPWMインバータに出力する。3相電圧指令V*を入力したPWMインバータ3では、電圧指令どおりの電圧を発生してこれを主電動機1に印加してトルク指令値どおりのトルクを発生して主電動機1を回転させ、これにより機関車が加速を始める。速度センサ付ベクトル制御器CAの動作により機関車が加速を始めるのと同時に、トルク指令値発生器4からのトルク指令値が入力されている速度センサレスベクトル制御器CBも動作を開始し、主電動機1の電圧・電流から速度を推定演算して、この推定速度Vestをもとにトルク指令値どおりのトルクを発生すべく速度センサ付ベクトル制御器CAと同様に3相電圧指令を発生する。ただし、機関車の速度が切換速度Vch以下である場合は、速度センサレスベクトル制御器CBからの出力であるベクトル制御切換指令がオフのままであるため電圧指令切換器SW1,SW2は同図に示すようにSW1がオン、SW2がオフであり、速度センサレスベクトル制御器CBが発生した3相電圧指令は、PWMインバータ3に入力されることはない。
【0033】
したがって、切換速度Vchに達するまでは、速度センサ付ベクトル制御器CAの制御によって機関車は加速することになる。なお、速度センサレスベクトル制御器CBで演算した推定速度Vestが切換速度Vch以上となった場合は、速度センサレスベクトル制御器CBはベクトル制御切換指令をオンにして電圧指令切換器SW1,SW2をSW1をオフ、SW2をオンに切換えて、それまでPWMインバータ3に入力されていた速度センサ付ベクトル制御器CAからの3相電圧指令を開放して、速度センサレスベクトル制御器CBからの3相電圧指令がPWMインバータ3に入力されるようにする。そしてそれ以降、速度センサレスベクトル制御器CBにおいて、PWMインバータ3の出力電圧・電流から推定速度Vestを演算して、この速度を用いて入力されたトルク指令値どおりのトルクを発生すべく3相電圧指令V*を発生してPWMインバータ3に出力する。また、速度センサレスベクトル制御器CBにおいて、推定速度Vestをもとに演算した推定動輪軸加速度α^dを空転検知器6に対して出力する。
【0034】
速度センサ付ベクトル制御器CAで演算した速度VPGと速度センサレスベクトル制御器CBで演算した推定速度Vestは、ともに空転検知用速度演算器5に入力される。この空転検知用速度Vcmb演算器5では、入力された速度VPGと推定速度Vestとから、以下の(5)式に従って、当該j軸動輪の空転検知用速度Vcmbjを演算する。
【0035】
Vcmbj=Vest×kest+Vpg×kpg ・・・・・(5)
この空転検知用速度演算器5の構成を図6に示す。同図に示すように、空転検知用速度演算器5は、係数kpgを出力する第1の関数発生器21と、係数kestを出力する第2の関数発生器22と、第1、第2の乗算器Mp1,Mp2と、加算器A1から構成される。そして、入力された速度センサ付ベクトル制御器CAで演算した速度VPGと係数kpgとを乗算器Mp1で乗算するとともに、入力された推定速度Vestと係数kestとを乗算器Mp1で乗算し、加算器A1でその和を求めて、空転検知用速度Vcmbjとして出力する。
ここに、係数kestは、図7に示すように、速度ゼロにおいて値はゼロであり、速度の増大とともに1次関数状に増大し、切換速度Vchに達したときにその値が1となる。また、kpgは同じく図7に示すように、速度ゼロにおいて値は1であり、速度の増大とともに1次関数状に減少し切換速度Vchに達したときにその値がゼロとなる。
したがって、速度ゼロ付近では速度Vpgが支配的であるため空転検知用速度Vcmbの演算のための遅れは大きいが、速度の増大とともに空転検知用速度Vcmbjの演算に及ぼす速度Vpgの影響度は低下し、推定遅れの小さい推定速度Vestの影響が支配的となって、空転検知用速度Vcmbjの演算遅れは小さくなっていき、切換速度Vchに達したときには、空転検知用速度Vcmbの演算遅れは推定速度Vestと同じになり、小さな演算遅れで空転検知用速度Vcmbjが演算されることになる。
【0036】
このようにして演算された空転検知用速度Vcmbjは、空転検知器6、基準速度演算器7および牽引質量推定器9に対して出力される。また、他の電気車制御装置においても牽引質量を推定するために当該j軸動輪の空転検知用速度Vcmbjが必要であるため、他の電気車制御装置に対しても出力される。
牽引質量推定器9ではこの空転検知用速度Vcmbjを用いて後述の方法によって機関車が牽引する牽引質量を推定して、これを推定牽引質量Mestjとして動輪軸加速度による空転検知の閾値演算器に対して出力する。推定牽引質量を受信した動輪軸加速度による空転検知の閾値演算器では、後述の方法によって動輪軸加速度による空転検知の閾値αslipを演算して、これを空転検知器6に対して出力する。
また、空転検知用速度Vcmbjを受信した基準速度演算器7では、図14に示すように、この他に入力される他の動輪速度Vcmbi(ここにiは1から動輪数Ndまでの値をとるが、i≠jである)とこの空転検知用速度Vcmbjの中で最も低い速度のものを最小値演算器24において演算してこれを基準速度Vrefとして空転検知器6に対して出力する。
【0037】
空転検知用速度Vcmbj、基準速度Vref、動輪軸加速度による空転検知の閾値αslipを受信した空転検知器6では、図15にフローチャートで示すような動作をする。まず、ステップS101で空転検知用速度Vcmbjと切換速度Vchとの大小比較を行い、Vcmbj<Vchの場合には速度センサ付ベクトル制御中であるのでステップS102に行き、ステップS102において、空転検知用速度Vcmbjと基準速度Vrefとの差速度を演算する。そして、この差速度が、差速度による空転検知の閾値ΔVslipに対して、差速度≧ΔVslipとなった場合には、差速度による空転検知状態であるのでステップS103に行き、空転検知信号Slipzをオンにしてトルク指令値発生器4に対して出力する。
一方、差速度<ΔVslipの場合にはステップS104に行き、空転検知信号Slipzをオフにしてトルク指令値発生器4に対して出力する。
また、ステップS101において、Vcmbj≧Vchである場合は速度センサレスベクトル制御中であるのでステップS105に行き、推定動輪軸加速度α^dと、動輪軸加速度による空転検知の閾値αslipとの大小比較を行い、α^d≧αslipの場合は動輪軸加速度による空転検知状態であるので、ステップS103に行き、空転検知信号Slipzをオンにしてトルク指令値発生器に対して出力する。α^d<αslipである場合は、動輪軸加速度による空転検知状態ではないので、ステップS104に行き、空転検知信号Slipzをオフにしてトルク指令値発生器4に対して出力する。
【0038】
トルク指令値発生器4では、空転検知信号Slipzがオフである場合は、ノッチ指令に対応したトルク指令値を出力する。空転検知信号Slipzがオンになって空転の発生を検知した場合は、図17のようにトルク指令値を制御して、空転している動輪を再粘着させるようにする。
すなわち、常時車輪・レール間の接線力に対応した主電動機軸上のトルクを、前記特許文献1、非特許文献1に記載されるように、最小次元外乱オブザーバによって推定していて、空転検知した場合には空転検知時の接線力に対応した推定トルクτestから、再粘着させることのできる範囲でトルク引き下げ量δτ(=τest−τa)が極力小さくなるように再粘着期間中に指令するトルク指令値τaを設定する。そして、このトルク指令値τaをある期間T1だけ指令して動輪を再粘着させ、期間T1が経過した時点で、空転検知時の接線力に対応した推定トルクτestより僅かに小さいトルクτcを短時間のうちに指令し、このトルク指令値を期間T2だけ保持する。このように推定トルクτestより僅かに小さいトルクτcを指令するのは、τcを指令した時点ですぐに再空転が発生するのを回避するためである。そして、期間T2だけトルクτcを指令しても再空転がなければトルク指令値を徐々に増大させる。やがて再空転が発生すると、上記の空転検知時のトルク指令値制御と同様の制御を繰り返す。
【0039】
以上に述べたように動作する図5に示した電気車制御装置において、実施例1における牽引質量の推定は図1および図8、図9に示すようにして行われる。
なお、図1は動輪の数Ndが4軸のインバータ機関車の例を示しているが、動輪の数はこの4軸に限定されるものではなく、6軸、8軸なども想定される。
図1に示してあるように、予め設定した時刻Ta1から時刻Tb1までの期間ΔT1について、各動輪のトルク指令値から各動輪の平均牽引力Faviを求める。ここに、i=1〜4である。
図1の場合は、期間ΔT1の間に各動輪に空転が発生しているので、トルク指令値から求めた平均牽引力Faviは、車輪・レール間の接線力を厳密に反映している訳ではないので、実際の平均牽引力とは異なるが、微小な空転のうちに再粘着させることができていれば、トルク指令値から平均牽引力を算定しても大きな誤差を含むことはないと考えられる。
制御動作の詳細を図8、図9を中心にして述べる。図8において、ステップS101において機関車が加速制御開始直後かの判定を行い、制御開始直後である場合にはステップS102へ行き、すべての動輪の平均牽引力Favkをリセットする(k=1,・・,j,・・Nd)。また、当該j軸で演算する推定牽引質量Mestjもリセットする。
【0040】
次にステップS103において、当該動輪j軸の平均加速度αb1(t)、平均値演算用カウンタ(平均加速度演算に用いる加速度データの数を表す)をリセットする。そして、ステップS104に行く。なお、ステップS101においての判定結果で機関車が加速制御開始直後でない場合は、直接ステップS104に行く。
ステップS104では、空転検知用速度Vcmb演算器から入力されたVcmbjを機関車の速度V(t)に設定する。次にステップS105において、1制御周期(δTc)前の機関車の速度V-1(t)と今回の機関車の速度V(t)から、機関車の加速度α(t)を{V(t)−V-1(t)}/δTcによって演算する。
そして、ステップS106において、制御開始からの経過時間tが図1に示してある第1の設定時刻Ta1以上であるか否かの判定を行い、まだ第1の設定時刻Ta1に達していない場合はリターンして、次の制御周期を待つ。
【0041】
第1の設定時刻Ta1以上である場合には、ステップS107において第1の設定時刻Ta1になったばかりか否かの判定を行い、なったばかりである場合は、ステップS108において機関車の速度V(t)をVa1に設定する。ここにVa1は図1に示すように、速度データから機関車の平均加速度を演算するための第1の速度データである。そしてステップS109に移行して、すべての動輪の平均牽引力Favkについて(k=1,・・,j,・・Nd)、トルク指令値Tcmdkを、牽引力に換算して加算する。また、平均加速度αb1(t)に機関車の加速度α(t)を加算する。次いで、ステップS110において平均値演算用カウンタMcountに1を加算してリターンして、次の制御周期を待つ。
ステップS107の判定において第1の設定時刻Ta1になったばかりではないとの判定結果である場合は、ステップS111の条件判定に行き、制御開始からの経過時間tが図1に示す第2の設定時刻Ta2以上ではない場合は、上記のステップS109へ行く。経過時間tが第2の設定時刻Ta2以上である場合はステップS112に行き、経過時間tが第2の設定時刻Ta2になった直後でない場合(既に推定牽引質量Mestjが得られている)はリターンして次の制御周期を待ち、経過時間tが第2の設定時刻Ta2になった直後である場合にはステップS113に行き、機関車の速度V(t)をVa2に設定する。
【0042】
そしてステップS114において、平均加速度αb1(t)をそのデータの個数を表しているMcountで割ったものを平均加速度αb1(t)に設定する。あるいは、速度データVa1、Va2を用いて、(Va1−Va2)/ΔT1を平均加速度αb1(t)に設定する。そして図9のステップS115において、各動輪のFavkをMcountで割ったものを平均牽引力Favkに設定する。そしてステップS116において、このように求めた平均牽引力Favkを用いて、期間ΔT1の間の機関車の平均牽引力FLは、以下の(6)式で求める。
そしてステップS117において、期間ΔT1の間の機関車の平均加速度をαb1として、推定牽引質量Mestjを(7)式から求める(列車の走行抵抗は無視している)。
なお、(7)式において、期間ΔT1の間の機関車の平均加速度αb1を用いる代わりに、時刻Ta1、Tb1における機関車の速度Va1、Va1から114において求めた(8)式で表される平均加速度αavを用いてもよい。
【0043】
・・・・・・・(6)
・・・・・・・(7)
・・・・・・(8)
【0044】
以上に述べた方法で推定牽引質量Mestjが求められると、図13に示してあるように、動輪軸加速度による空転検知の閾値演算器に入力された推定牽引質量Mestjと、機関車の最大牽引力特性から、演算器23により、推定牽引質量Mestjの機関車が最大牽引力を発揮して加速する場合の列車の速度・加速度αZ特性を求める。そして、加算器A2で、このαZに軸加速度による空転検知閾値設定用定数Δαmarを加算して、動輪軸加速度による空転検知の閾値αslipとして求めて、空転検知器に対して出力される。
ここに、空転検知閾値設定用定数Δαmarは、機関車が走行する線区の最大勾配による重力成分によって列車加速度の変化が発生しても空転の誤検知が発生しないように、閾値にマージンを持たせるために用いられる定数である。このようにして求められた閾値αslipは、図16に示されている空転検知の閾値(A)を表している。この動輪軸加速度による空転検知の閾値(A)は、速度に応じて連続的に変化する速度域がある。しかし、現実には僅かな速度変化で閾値を実際には変える必要がないので、図16に示してある閾値(B)のように、幾つかの速度帯毎に閾値を変える方法も考えられる。
【実施例2】
【0045】
前述のように動作する電気車制御装置において、実施例2における牽引質量の推定は図2に示すようにして行われる。なお詳細な推定動作のフローチャートは、図10に示されている。
図2は本実施例の牽引質量の推定方法を示す図であり、横軸は時間、同図(a)は最初に空転検知した動輪jの牽引力と空転検知信号を示し、(b)は動輪のすべり速度を示し、(c)は機関車の速度、(d)は機関車の加速度と平均加速度を示す。
図2において、時刻T02に最初に動輪jが空転検知して再粘着制御に移行したとする。時刻T02からδTだけ遡った時刻Tb2からさらに遡った期間ΔT2の間の動輪jの発生した平均牽引力をFavjとする。そして、空転していない動輪の平均牽引力をFavjとする。ただし、i≠jである(i=1〜Nd、Nd:機関車の動輪数)。
また、期間ΔT2の間の機関車の平均加速度をαb2とする。そうすると、期間ΔT2の間の機関車の平均牽引力FLは、前記(6)式で与えられるので、推定牽引質量Mestjは(7)式のαb1をαb2に置き換えた式から求めることができる(列車の走行抵抗は無視している)。
なお、平均牽引力を計算する期間を、δTだけ遡った時刻Tb2を起点にするのは、期間δTの間は動輪が空転状態にあって動輪で発生する牽引力が図2に示す牽引力より小さくなる(空転中の接線力が正確には把握できない期間)ので、この期間を回避した方が、より正確な牽引力を把握することができるからである。
【0046】
次に詳細な推定動作を、図10を用いて説明する。まずステップS101において機関車の加速制御直後かの判定を行う。起動開始時はこの条件が成立するので、ステップS102において当該j軸動輪の平均牽引力Favjと、j軸以外の動輪の平均牽引力Faviをリセットする(i=1,・・,Ndでありまたi≠j)。そして、ステップS103において、空転検知用速度Vcmbjを機関車の速度V(t)に設定する。
なお、ステップS101において加速制御直後でない判定となった場合は、直接ステップS103に移行する。次いで、ステップS104において、1制御周期(δTc)前の機関車の速度V-1(t)と今回の機関車の速度V(t)から、機関車の加速度α(t)を{V(t)−V-1(t)}/δTcによって演算する。そして、105において、空転検知器出力から入力された空転検知信号Slipzすなわち当該j軸動輪の空転検知信号Slipjがオンか否かの判定を行う。
空転検知信号Slipjがオンでない、すなわち空転が発生していない場合は、ステップS107の条件判定に行き、起動からの経過時間が図2に示した牽引質量推定動作上限時刻Tend以上になっているか否かを調べる。推定動作上限時刻Tendに達していない場合は、ステップS108において、当該j軸動輪のトルク指令値Tcmdj、j軸以外のi軸動輪のトルク指令値TcmdiをデータセーブエリアSaveTcmdj、SaveTcmdiにセーブする。また、同様に機関車の速度V(t)と加速度α(t)をセーブエリアSaveV、SaveAに格納する。
【0047】
ステップS107の判定で牽引質量推定動作上限時刻Tend以上になっている場合は、ステップS109の条件判定に行き、推定牽引質量Mestjがリセット状態か調べる。
リセット状態である場合、すなわちまだMestjの推定演算が完了していない場合には、ステップS110以降のMestjの推定演算処理を行う。ステップS107、ステップS109の条件判定を経てステップS110の処理に来るのは、一回も空転検知することなく牽引質量推定動作上限時刻Tendが経過した場合である。
ステップS110においては、現在時刻からδT+ΔT2遡った時刻Ta2からδT遡った時刻Tb2までのセーブエリアSaveTcmdj、SaveTcmdiから、図8、図9で述べたのと同様の方法によって、各動輪の平均牽引力Faviを演算する(i=1,・・・Nd)。そして、(6)式によって機関車の平均牽引力FLを演算する。次にステップS111において、セーブエリアSaveAのデータから機関車の平均加速度αb2を演算する。また時刻Ta2の機関車速度Va2と時刻Tb2の機関車速度Vb2を用いて(9)式で平均加速度αavを演算する。そしてステップS112において、(7)式中のαb1の代わりに平均加速度αb2またはαavを用いて、推定牽引質量Mestjを演算する。
【0048】
ステップS105において空転検知信号Slipjがオンすなわち空転検知した場合は、ステップS106の判定で始めての空転検知である場合は、先述のステップS110へ移行して牽引質量の推定動作を行う。初めての空転検知でない場合は、既に推定牽引質量Mestjがセットされているので、何もせずリターンする。
【0049】
・・・・・・(9)
【0050】
以上に述べた方法で推定牽引質量Mestjが求められると、実施例1について図13と図16を用いて説明したのと同じ方法によって、軸加速度による空転検知の閾値(A)あるいは軸加速度による空転検知の閾値(B)を求めることができる。
【実施例3】
【0051】
前述のように動作する図5に示した電気車制御装置において、実施例3における牽引質量の推定は図3に示すようにして行われる。
図3は本実施例の牽引質量の推定方法を示す図であり、本実施例は、同図に示すように、牽引質量を推定するため、空転を発生しない範囲で極力大きなトルク発生する運転モードで運転し、その後、トルク指令値と機関車の平均加速度から牽引質量を推定する動作を行うものであり、横軸は時間、同図(a)は動輪の牽引力(トルク指令値)と空転検知信号を示し、(b)は動輪のすべり速度を示し、(c)は機関車の速度、(d)は機関車の加速度と平均加速度を示す。また詳細な推定動作のフローチャートを図11に示す。
図3に示すように、起動してから時刻Ta3において、空転を発生しない範囲で極力大きなトルクτcを期間ΔT3の間発生するようにして牽引質量が推定できる状態を作り(すなわち、牽引質量が推定できる運転モードを挿入する)、その後は通常のトルク指令値を指令する運転モードに移行する。
そして、この牽引質量が推定できる運転モードの期間ΔT3中のトルク指令値τcと機関車の平均加速度αb3とから、(10)式によって推定牽引質量Mestjを求める(機関車の動輪数はNd)。ここに、kfはトルクを牽引力に換算するための定数である。
【0052】
・・・・・・・(10)
【0053】
このようにして推定牽引質量Mestjを求めた後は、実施例1において述べた方法によって軸加速度による空転検知の閾値を求めることができる。
上記の詳細な推定動作を図11に示している。図11において、ステップS101で加速制御開始直後かの判定を行い、起動開始時はこの条件が成立するので、ステップS102に行き当該j軸動輪の平均牽引力Favjおよび推定牽引質量Mestjをリセットする。そしてステップS103に移行する。起動開始時でない場合は、直接ステップS103に移行する。ステップS103では空転検知用速度Vcmbjを機関車速度V(t)に設定する。
そしてステップS104において、1制御周期(δTc)前の機関車の速度V-1(t)と今回の機関車の速度V(t)から、機関車の加速度α(t)を{V(t)−V-1(t)}/δTcによって演算する。
【0054】
次にステップS105の条件判定では、起動からの経過時間が牽引質量推定動作開始時刻Ta3以上かの判定を行う。経過時間が牽引質量推定動作開始時刻Ta3に達していない場合は、リターンしこの時刻が経過するのを待つことになる。Ta3以上の場合は、ステップS106において経過時間が牽引質量推定動作終了時刻Tb3以上かの判定を行い、まだ終了時刻Tb3に達していない場合は、ステップS107において、機関車の速度V(t)、機関車の加速度α(t)をそれぞれセーブエリアSaveV、SaveAに格納する。
動作終了時刻Tb3以上になった場合はステップS108に行き、Mestjがリセット状態か否かの判定を行い、リセット状態である場合は、まだ推定牽引質量が計算されていないので、ステップS109に移行し、SaveAの機関車加速度データで、時刻Ta3から時刻Tb3までのデータから機関車の平均加速度αb3を演算し、またセーブエリアSaveVデータ中の時刻Ta3のデータVa3と時刻Tb3のデータVb3から、(9)式Va2の代わりにVa3を、Vb2の代わりにVb3を用いて機関車のもう一つの平均加速度αav3を演算する。そして、ステップS110において、(10)式から、あるいは(10)式のαb3の代わりにαav3を用いて推定牽引質量Mestjを演算する。
以上に述べた方法で推定牽引質量Mestjが求められると、実施例1について図13と図16を用いて説明したのと同じ方法によって、軸加速度による空転検知の閾値(A)あるいは軸加速度による空転検知の閾値(B)を求めることができる。
【実施例4】
【0055】
前述のように動作する図5に示した電気車制御装置において、実施例4における牽引質量の推定は図4に示すようにして行われる。
図4は本実施例の牽引質量の推定方法を示す図であり、本実施例は、同図に示すように、推定される最大牽引質量を牽引する場合の編成列車全体の出発抵抗より大きい牽引力を時刻Tzまで
指令して、連結器遊間による機関車加速度の変動が収まるようにした後、牽引質量の推定動作を行うものであり、横軸は時間、同図(a)動輪の牽引力(トルク指令値)と空転検知信号を示し、(b)は動輪のすべり速度を示し、(c)は機関車の速度、(d)は機関車の加速度と平均加速度を示す。また詳細な推定動作のフローチャートを図12に示す。
【0056】
一般に貨物列車を機関車によって牽引する場合、機関車と貨車の間の自動連結器や貨車同士の間の自動連結器の遊間がある状態で停止していた貨物列車が機関車で牽引力を発生して起動加速を始めるときに、図4に示すように、機関車と貨車、貨車同士の微小な相対運動によって、機関車の加速度が大きく振動することがある(機関車と貨車の間の自動連結器や貨車同士の間の自動連結器の遊間がない、いわば列車全体が棒状になった状態で停止している場合は、機関車の加速度が振動することはないが、そのような事象の発生確率は高くはない)。このような加速度の振動によって機関車の平均加速度の演算精度が低下することがないようにする必要がある。
そのため、図4に示すように、当該機関車で想定される最大牽引質量を牽引する場合の出発抵抗よりも大きい牽引力を時刻Tzまで指令して、連結器遊間による機関車加速度の変動が十分に収まるようにする。そしてその後から、機関士の操作した主幹制御器からのノッチ指令に対応したトルクを発生すべく、トルク指令値の増大が行われるので、この時点以降において、実施例1あるいは実施例2あるいは実施例3の方法によって、牽引質量の推定動作を行う。なお、図4は時刻Tz以降、実施例2の方法によって牽引質量の推定を行う場合を示している。
【0057】
実施例4の推定動作の概要を図12のフローチャートに示す。
図12において、ステップS101で起動からの経過時間が図4に示すTz以下である場合は、まだ推定動作を開始する時刻になっていないので、リターンして時間が経過するのを待つ。経過時間がTz以上である場合は推定動作を行う条件が整っているので、牽引質量推定器(A)の場合は、図1および図8、図9に示す牽引質量推定器(A)の動作によって牽引質量を推定する。牽引質量推定器(B)の場合は、図2および図10に示す牽引質量推定器(B)の動作によって牽引質量を推定する。牽引質量推定器(C)の場合は、図3および図11に示す牽引質量推定器(C)の動作によって牽引質量を推定する。
以上に述べた方法で推定牽引質量Mestjが求められると、実施例1について図13と図16を用いて説明したのと同じ方法によって、軸加速度による空転検知の閾値(A)あるいは軸加速度による空転検知の閾値(B)を求めることができる。
【符号の説明】
【0058】
1 主電動機
2 速度センサ(PG)
3 PWMインバータ
4 トルク指令値発生器
5 空転検知用速度演算器
6 空転検知器
7 基準速度演算器
8 軸加速度による空転検知の閾値を演算する演算器
9 牽引質量推定器
21,22 関数発生器
23 演算器
24 最小値演算器
CA 速度センサ付ベクトル制御器
CB 速度センサレスベクトル制御器
SW1,SW2 電圧指令切換器
Mp1,Mp2 乗算器
A1,A2 加算器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータ制御電気機関車の主電動機に取り付けられた速度センサからの速度情報をもとに前記主電動機をベクトル制御する速度センサ付ベクトル制御器と、
前記主電動機の電圧電流から演算した推定速度をもとに前記主電動機をベクトル制御する速度センサレスベクトル制御器を有し、
車両の停止状態から起動するときに前記主電動機の速度情報をもとに前記速度センサ付ベクトル制御器によって起動・加速するとともに、前記速度センサ付ベクトル制御器によって前記インバータ制御電気機関車が起動・加速するのと同時に前記速度センサレスベクトル制御器も動作させ、
前記インバータ制御電気機関車の速度が切換速度に達した後は、前記速度センサレスベクトル制御器によって前記主電動機を加速制御する電気車制御装置であって、
前記切換速度に達するまでの間、速度センサレスベクトル制御器により推定された前記主電動機の推定速度と前記速度センサからの速度情報とから空転検知に用いる速度を演算する空転検知用速度演算器と、
前記インバータ制御電気機関車が速度ゼロから起動加速制御に移行した後の予め定められた期間中における前記インバータ制御電気機関車の平均加速度と平均牽引力とから推定牽引質量を演算する牽引質量推定器と、
推定した推定牽引質量から、前記速度センサレスベクトル制御器によって前記主電動機を加速制御する場合の動輪軸加速度を用いた空転検知の閾値を設定する閾値演算器と
前記空転検知に用いる速度を各動輪速度とみなし、上記切換速度に達するまでは、前記動輪速度のうちの最小値を基準速度に設定してこの基準速度に対する各動輪速度の差速度と、差速度による空転検知閾値とにより空転を検知し、上記切換速度に達した後は、上記速度センサレスベクトル制御器によって演算された動輪軸加速度と上記閾値演算器により求めた閾値に基づき空転検知を行う空転検知器とを備えた
ことを特徴とする電気車制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の牽引質量推定器が、
前記インバータ制御電気機関車が速度ゼロから起動加速制御に移行した後、前記インバータ制御電気機関車の各動輪において最初の空転を検知した場合に、前記最初の空転検知時点からある一定時間遡った期間中における前記インバータ制御電気機関車の平均加速度と平均牽引力とから牽引質量を演算する牽引質量推定器である
ことを特徴とする電気車制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の牽引質量推定器が、
前記インバータ制御電気機関車の各動輪が空転することのない範囲でできるだけ大きなある設定したトルク指令値τcを指令して起動加速を始めた時点以降、予め設定した時刻T0からδTだけ過去の期間中における前記インバータ制御電気機関車の平均加速度と前記トルク指令値τcとから前記インバータ制御電気機関車の牽引質量を演算する牽引質量推定器である
ことを特徴とする電気車制御装置。
【請求項4】
請求項1,2または請求項3に記載の牽引質量推定器が、
前記インバータ制御電気機関車で想定される最大牽引質量を牽引する場合の編成列車全体の出発抵抗よりも大きい牽引力を前記インバータ制御電気機関車で発生して起動した後動作することを特徴とする電気車制御装置。
【請求項1】
インバータ制御電気機関車の主電動機に取り付けられた速度センサからの速度情報をもとに前記主電動機をベクトル制御する速度センサ付ベクトル制御器と、
前記主電動機の電圧電流から演算した推定速度をもとに前記主電動機をベクトル制御する速度センサレスベクトル制御器を有し、
車両の停止状態から起動するときに前記主電動機の速度情報をもとに前記速度センサ付ベクトル制御器によって起動・加速するとともに、前記速度センサ付ベクトル制御器によって前記インバータ制御電気機関車が起動・加速するのと同時に前記速度センサレスベクトル制御器も動作させ、
前記インバータ制御電気機関車の速度が切換速度に達した後は、前記速度センサレスベクトル制御器によって前記主電動機を加速制御する電気車制御装置であって、
前記切換速度に達するまでの間、速度センサレスベクトル制御器により推定された前記主電動機の推定速度と前記速度センサからの速度情報とから空転検知に用いる速度を演算する空転検知用速度演算器と、
前記インバータ制御電気機関車が速度ゼロから起動加速制御に移行した後の予め定められた期間中における前記インバータ制御電気機関車の平均加速度と平均牽引力とから推定牽引質量を演算する牽引質量推定器と、
推定した推定牽引質量から、前記速度センサレスベクトル制御器によって前記主電動機を加速制御する場合の動輪軸加速度を用いた空転検知の閾値を設定する閾値演算器と
前記空転検知に用いる速度を各動輪速度とみなし、上記切換速度に達するまでは、前記動輪速度のうちの最小値を基準速度に設定してこの基準速度に対する各動輪速度の差速度と、差速度による空転検知閾値とにより空転を検知し、上記切換速度に達した後は、上記速度センサレスベクトル制御器によって演算された動輪軸加速度と上記閾値演算器により求めた閾値に基づき空転検知を行う空転検知器とを備えた
ことを特徴とする電気車制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の牽引質量推定器が、
前記インバータ制御電気機関車が速度ゼロから起動加速制御に移行した後、前記インバータ制御電気機関車の各動輪において最初の空転を検知した場合に、前記最初の空転検知時点からある一定時間遡った期間中における前記インバータ制御電気機関車の平均加速度と平均牽引力とから牽引質量を演算する牽引質量推定器である
ことを特徴とする電気車制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の牽引質量推定器が、
前記インバータ制御電気機関車の各動輪が空転することのない範囲でできるだけ大きなある設定したトルク指令値τcを指令して起動加速を始めた時点以降、予め設定した時刻T0からδTだけ過去の期間中における前記インバータ制御電気機関車の平均加速度と前記トルク指令値τcとから前記インバータ制御電気機関車の牽引質量を演算する牽引質量推定器である
ことを特徴とする電気車制御装置。
【請求項4】
請求項1,2または請求項3に記載の牽引質量推定器が、
前記インバータ制御電気機関車で想定される最大牽引質量を牽引する場合の編成列車全体の出発抵抗よりも大きい牽引力を前記インバータ制御電気機関車で発生して起動した後動作することを特徴とする電気車制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2012−151958(P2012−151958A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7772(P2011−7772)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名 平成22年電気学会産業応用部門大会 主催者名 社団法人電気学会産業応用部門大会委員会 開催日 平成22年8月24日〜8月26日
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【出願人】(000003115)東洋電機製造株式会社 (380)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名 平成22年電気学会産業応用部門大会 主催者名 社団法人電気学会産業応用部門大会委員会 開催日 平成22年8月24日〜8月26日
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【出願人】(000003115)東洋電機製造株式会社 (380)
【Fターム(参考)】
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