説明

電解複合研磨方法

【課題】ディッシングやエロージョンなどの過剰研磨を防止しつつ、コンタクトプラグや配線形成領域以外の導電膜を迅速に除去することができる電解複合研磨方法を提供する。
【解決手段】電圧を高める工程では、接触面圧を0とした状態で、電圧を高めた場合に、電流密度が増加から減少に転じる第1変化点C電圧を閾値電圧とし、バリア膜を露出させた領域における電圧が、閾値電圧を超えるように、電圧を高めることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解複合研磨方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の配線形成プロセスとして、絶縁膜内に設けたトレンチやビアホール等の配線用凹部内に配線金属を埋込むようにした、いわゆるダマシンプロセスが使用されつつある。このダマシンプロセスは、図6に示すように、基板上のいわゆるLow−k材等からなる絶縁膜(層間絶縁膜)62内に、コンタクトプラグや配線形成用の凹部(以下「凹部」という。)63を形成し、次いで凹部63を含む層間絶縁膜62の全表面に窒化チタン等からなるバリアメタル膜(以下「バリア膜」という。)64を形成し、バリア膜64の表面にタングステン等からなる金属導電膜(以下「導電膜」という。)66を形成して凹部63内に金属導電材料を埋込む。なお層間絶縁膜62の凹部63に倣って、導電膜66の表面には凹部67が形成される。その後、凹部63の外側に形成された余分な導電膜66およびバリア膜64を除去することにより一般に行われる。
【0003】
例えばタングステンからなる導電膜66の除去は、化学機械研磨(CMP)で行われる。CMPは、図10に示すように、基板W表面の導電膜にスラリー52を供給しつつ、基板W表面を研磨パッド101に押圧しながら基板Wと研磨パッド101とを相対移動させて、導電膜の表面を研磨するものである(例えば、非特許文献1参照)。スラリー52には砥粒および酸化剤が含まれ、この酸化剤により図6に示す導電膜66の表面にタングステン酸化膜が形成される。導電膜の上段部H(凹部67の外側)に形成されたタングステン酸化膜は研磨パッドとの接触により除去されるので、上段部Hの導電膜66は研磨される。これに対して、導電膜の下段部L(凹部67の内側)に形成されたタングステン酸化膜は研磨パッドと接触しないので除去されず、下段部の導電膜66は研磨されない。これにより、導電膜66の表面の段差(凹部67)が解消されるようになっている。
【非特許文献1】土肥俊郎編著、「詳説 半導体CMP技術」、工業調査会、2000年12月、p277−p284
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したCMPによるタングステン研磨方法では、pH<4の酸性スラリーを使用して相当な厚さのタングステン酸化膜を形成し、このタングステン酸化膜を機械的に研磨するメカニズムを採用しているので、研磨速度が低くなるという問題がある。研磨速度を向上させるためには、高濃度の砥粒を含むスラリーに加えて、高研磨圧力が必要になる。しかしながらこの場合には、導電膜の表面にスクラッチなどのダメージやディッシング(導電膜の過剰研磨)が発生しやすいという問題がある。また、研磨すべきでない層間絶縁膜も研磨してしまうため、エロージョン(絶縁膜の過剰研磨)が発生しやすいという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、上述の事情に鑑みてなされたもので、ディッシングやエロージョンなどの過剰研磨を防止しつつ、コンタクトプラグや配線形成領域以外の導電膜を迅速に除去することができる電解複合研磨方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
pH4〜10の電解液を導電膜に接触させて印加電圧を高めていくと、所定電圧において電流密度が急激に変化する。導電膜への印加電圧を0から高めていくと、電圧に比例して電流密度は増加するが、第1変化点(例えば図8のA点)の第1変化電圧を超えて電圧を高めていくと、電流密度は増加から減少に転じる。さらに第2変化点(例えば図8のB点)の第2変化電圧を超えて電圧を高めていくと、電流密度の減少度合いが低下し、電流密度が減少しなくなって略一定値に転じる。第1変化電圧以下の電圧を印加した場合には、電解液に対して溶解性の保護膜が導電膜の表面に形成されているが、第2変化電圧以上の電圧を印加した場合には、電解液に対して不溶性の保護膜が導電膜の表面に形成されるものと考えられる。
【0007】
本願の発明者は、基板の表面各部の電位を調整することで、基板の各部の研磨速度を制御しうることを見出した。すなわち、基板表面に形成された金属膜、つまり下層の下地膜と上層の導電膜との間には電気抵抗に差があり、この差を利用することで、基板各部の電位を調整する。基板表面には、金属膜の表面に設置された印加点から電圧が印加されており、基板の全面に導電膜が残存している場合には基板の全面がほぼ等しい電圧となる。しかしながら、電圧の印加点近傍の導電膜が除去されて下地膜の一部が露出すると、基板表面で電圧分布が変化する。具体的には、導電膜より電気抵抗の高い下地膜を介して導電膜に印加されることとなるため、印加点からの距離によって導電膜に印加される電圧が低くなる。
【0008】
そこで本発明は、基板表面に形成された金属膜に電解液を接触させて前記金属膜に電圧を印加しつつ、前記基板表面を研磨パッドに所定の接触面圧で押圧しながら前記基板と前記研磨パッドとを相対移動させることにより、前記金属膜の表面を研磨する電解複合研磨方法であって、前記電解液は、pH4〜10であるとともに、前記金属膜は、下層の下地膜及び該下地膜よりも電気抵抗が小さい上層の導電膜からなり、前記電圧の印加点近傍の前記導電膜を先に除去して前記下地膜を露出させる工程と、前記下地膜が露出する直前または露出後に、前記電圧を高める工程と、を有し、前記電圧を高める工程では、前記基板と前記研磨パッドとを相対移動させながら前記接触面圧を0とした状態で、前記電圧を高めた場合に、電流密度が増加から減少に転じる電圧を閾値電圧とし、前記下地膜を露出させた領域における電圧が、前記閾値電圧を超えるように、前記電圧を高める構成とした。
この構成によれば、下地膜の露出領域の電圧が閾値電圧を超えると、電流密度が減少に転じるので、導電膜の研磨速度が低くなる。そのため、下地膜の露出領域に、コンタクトプラグや配線となる導電膜が存在する場合でも、その導電膜の表面にディッシングが入りにくくなる。また電気化学的な溶解作用を利用して研磨を行うため、従来のような高い砥粒濃度のスラリーを用いる必要がなく、また、高い面圧で研磨する必要もないため、機械研磨作用の割合が低下し、エロージョンの発生を防ぐことができる。
一方、下地膜より電気抵抗の小さい導電膜が残存している領域では、下地膜が露出した部分からの距離によって導電膜に印加される電圧が低くなるので、下地膜の露出領域よりも電流密度が高い状態に維持される。したがって、導電膜が残存している領域では、引き続き研磨が進行することとなるため、スクラッチなどのダメージやディッシングを抑制した上で、導電膜を迅速に除去することができる。
【0009】
また本発明は、前記電圧を高める工程では、前記接触面圧を有限値とした状態で、前記電圧を高めた場合に、電流密度が増加後の減少から減少しなくなるように転じる電圧を最大電圧とし、前記下地膜を露出させた領域以外の領域における電圧が、前記閾値電圧を超えて前記最大電圧以下となるように、前記電圧を高める構成とした。
この構成によれば、下地膜を露出させた領域以外の領域、つまり導電膜が残存している領域における電圧を、閾値電圧を超えて前記最大電圧以下に設定することで、導電膜が残存している領域では、コンタクトプラグや配線となる導電膜が存在する場合でも、導電膜が下地膜と同じレベルまで研磨されて平坦化するまで電流密度が高い状態に維持される。したがって、導電膜が残存している領域では、引き続き研磨を進行させ平坦化させることができる。
【0010】
また本発明は、前記下地膜を露出させる工程では、前記印加点近傍の領域における前記基板と前記研磨パッドとの前記接触面圧を、前記印加点近傍の領域以外の領域における前記接触面圧に比べて高める構成とした。
この構成によれば、印加点近傍の領域における接触面圧を、印加点近傍の領域以外の領域における接触面圧よりも高めることで、印加点近傍の領域は印加点近傍の領域以外の領域に比べ、研磨が促進されることとなるため、その領域の導電膜が最先に除去されることとなる。そのため、印加点近傍において金属膜に印加される電圧が最も高くなり、そこからの距離が離れるにつれて電圧が低くなるような電圧分布を得ることができる。したがって、下地膜を露出させた後の電圧を高める工程において、残存している導電膜を精度よく除去することができる。
【0011】
また本発明は、前記下地膜を露出させる工程では、前記基板と対向する対向電極を、同一平面上に同心円状に位置する複数の小電極からなる分割電極とし、前記基板の外方部と対向する頻度が高い順に研磨速度が速くなるように前記分割電極の前記電圧を制御する構成とした。
この構成によれば、基板の外方部と対向する頻度が高い順に研磨速度が速くなるように分割電極の電圧を制御することで、外方部から中心部に向かうにつれ導電膜の残存膜厚が厚くなる状態で研磨が進行し、確実に基板周縁部の下地膜を露出させることができる。
【0012】
また本発明は、前記研磨工程では、渦電流方式により前記導電膜の残存膜厚を測定しながら研磨を行う構成とした。
この構成によれば、導電膜の残存膜厚の測定を渦電流方式により測定することで、高精度な膜厚測定が可能となる。
【0013】
また本発明は、前記導電膜は、タングステン膜である構成とした。
この構成によれば、導電膜としてタングステン膜を用いることで、上述したような研磨速度の調整が容易になる。
【0014】
また本発明は、基板表面に形成された金属膜に電解液を接触させて前記金属膜に電圧を印加しつつ、前記基板表面を研磨パッドに所定の接触面圧で押圧しながら前記基板と前記研磨パッドとを相対移動させることにより、前記金属膜の表面を研磨する電解複合研磨方法であって、前記電解液は、pH4〜10であるとともに、前記金属膜は、下層の下地膜及び該下地膜よりも電気抵抗が小さい上層の導電膜からなり、前記電圧の印加点を前記基板の周縁部に配置して周縁部の前記導電膜を先に除去して前記下地膜を露出させる工程と、該工程の後に前記電圧の印加点を基板の周縁部から中心部へ移動させて前記下地膜を露出させる工程と、を有する構成とした。
この構成によれば、下地膜を露出させた後に、電圧の印加点を基板の周縁部から中心部へ移動させることで、下地膜を露出させた領域の電圧を高い状態に維持することができる。これにより、下地膜の露出領域に、コンタクトプラグや配線となる導電膜が存在する場合でも、その導電膜の表面にディッシングが入りにくくなる。
【0015】
また本発明は、基板表面に形成された金属膜に電解液を接触させて前記金属膜に電圧を印加しつつ、前記基板表面を研磨パッドに所定の接触面圧で押圧しながら前記基板と前記研磨パッドとを相対移動させることにより、前記金属膜の表面を研磨する電解複合研磨方法であって、前記電解液は、pH4〜10であるとともに、前記金属膜は、下層の下地膜及び該下地膜よりも電気抵抗が小さい上層の導電膜からなり、前記電圧の印加点を前記基板の周縁部に配置して該周縁部の前記導電膜を先に除去して前記下地膜を露出させる工程と、該工程の後に前記電圧の印加点を前記基板の周縁部から中心部へ移動させて前記下地膜を露出させる工程と、前記下地膜が露出する直前または露出後に、前記電圧を高める工程と、を有し、前記電圧を高める工程では、前記基板と前記研磨パッドとを相対移動させながら前記接触面圧を0とした状態で、前記電圧を高めた場合に、電流密度が増加から減少に転じる電圧を閾値電圧とし、前記下地膜を露出させた領域における電圧が、前記閾値電圧を超えるように前記電圧を高める構成とした。
この構成によれば、電圧の印加点を基板の周縁部から中心部へ移動させることで、電圧を大幅に上昇させなくても、下地膜を露出させた領域の電圧を閾値電圧以上とすることができる。これにより、下地膜の露出領域に、コンタクトプラグや配線となる導電膜が存在する場合でも、その導電膜の表面にディッシングが入りにくくなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、下地膜の露出領域の電圧が閾値電圧を超えるように設定することで、下地膜の露出領域に、コンタクトプラグや配線となる導電膜が存在する場合でも、その導電膜の表面にディッシングが入りにくくなる。また電気化学的な溶解作用を利用して研磨を行うため、従来のような高い砥粒濃度のスラリーを用いる必要がなく、また、高い面圧で研磨する必要もないため、機械研磨作用の割合が低下し、エロージョンの発生を防ぐことができる。
一方、下地膜より電気抵抗の小さい導電膜が残存している領域では、閾値電圧を超えて前記最大電圧以下となるように設定することで、この領域では下地膜と同じレベルまで研磨されて平坦化するまで電流密度が高い状態に維持される。したがって、コンタクトプラグや配線となる導電膜が存在する場合でも、引き続き研磨が進行することとなるため、スクラッチなどのダメージやディッシングを抑制した上で、導電膜を迅速に除去し平坦化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
(基板処理装置)
図1は、本発明に係る電解複合研磨装置を備えた基板処理装置の配置構成を示す平面図である。この基板処理装置300は、多数の基板Wをストックする基板カセット204を収容するロード・アンロードステージを備えている。ロード・アンロードステージ内の各基板カセット204に到達可能となるように、走行機構200の上に2つのハンドを有した搬送ロボット202が配置されている。走行機構200にはリニアモータからなる走行機構が採用されている。リニアモータからなる走行機構を採用することにより、大口径化し重量が増した基板の高速且つ安定した搬送ができる。走行機構200の延長線上には、研磨前または研磨後に基板上の膜厚測定を行うITM(In−line Thickness Monitor)224が配置されている。
【0018】
搬送ロボット202の走行機構200を挟んで、基板カセット204とは反対側に2台の乾燥ユニット212が配置されている。各乾燥ユニット212は、搬送ロボット202のハンドが到達可能な位置に配置されている。また2台の乾燥ユニット212の間で、搬送ロボット202が到達可能な位置に、4つの基板載置台を備えた基板ステーション206が配置されている。
【0019】
各乾燥ユニット212と基板ステーション206に到達可能な位置に搬送ロボット208が配置されている。乾燥ユニット212と隣接するように、搬送ロボット208のハンドが到達可能な位置に洗浄ユニット214が配置されている。搬送ロボット208のハンドの到達可能な位置にロータリトランスポータ210が配置され、このロータリトランスポータ210と基板受渡し可能な位置に、本実施形態における電解複合研磨装置250が2台配置されている。
【0020】
各電解複合研磨装置250は、基板ヘッド1、研磨テーブル100、研磨パッド101(図2等参照)、研磨パッド101に電解液を供給する電解液供給ノズル(電解液供給部)102、研磨パッド101のドレッシングを行うためのドレッサー218、及びドレッサー218を洗浄するための水槽222を有している。
【0021】
(電解複合研磨装置)
図2は、電解複合研磨装置250の概略構成図である。図2に示すように、基板ヘッド1は、自在継手部10を介してヘッド駆動軸11に接続されており、ヘッド駆動軸11は、揺動アーム110に固定されたヘッド用エアシリンダ111に連結されている。ヘッド用エアシリンダ111によってヘッド駆動軸11は上下動し、基板ヘッド1の全体を昇降させるとともに、ヘッド本体2の下端に固定されたリテーナリング3を研磨テーブル100に押圧する。ヘッド用エアシリンダ111は、レギュレータRE1を介して圧縮空気源120に接続されており、レギュレータRE1によって、ヘッド用エアシリンダ111に供給される加圧空気の空気圧等の流体圧力を調整することができる。これにより、リテーナリング3が研磨パッド101を押圧する押圧力を調整することができる。
【0022】
ヘッド駆動軸11は、キー(図示せず)を介して回転筒112に連結されている。回転筒112は、その外周部にタイミングプーリ113を備えている。揺動アーム110には、回転駆動部としてのヘッド用モータ114が固定されており、タイミングプーリ113 は、タイミングベルト115を介してヘッド用モータ114に設けられたタイミングプーリ116に接続されている。従って、ヘッド用モータ114を回転駆動することによって、タイミングプーリ116、タイミングベルト115及びタイミングプーリ113を介して回転筒112及びヘッド駆動軸11が一体に回転し、基板ヘッド1が回転する。揺動アーム110は、フレーム(図示せず)に固定支持されたシャフト117によって支持されている。
【0023】
(基板ヘッド)
図3は基板ヘッド1を示す断面図であり、図4は図3に示す基板ヘッド1の底面図である。図3に示すように、基板ヘッド1は、内部に収容空間を有する円筒容器状のヘッド本体2と、ヘッド本体2の下端に固定されたリテーナリング3を備えている。ヘッド本体2は、例えば金属やセラミックス等の強度及び剛性が高い材料から形成されている。リテーナリング3は、例えばPPS(ポリフェニレンサルファイド)などの剛性の高い樹脂又はセラミックス等の絶縁材料から形成されている。
【0024】
ヘッド本体2は、円筒容器状のハウジング部2aと、ハウジング部2aの円筒部の内側に嵌合される環状の加圧シート支持部2bと、ハウジング部2aの上面の外周縁部に嵌合された環状のシール部2cとを備えている。ヘッド本体2のハウジング部2aの下面に固定されているリテーナリング3の下部は内方に突出している。なお、リテーナリング3をヘッド本体2と一体的に形成してもよい。
【0025】
ヘッド本体2のハウジング部2aの中央部上方には、上述したヘッド駆動軸11が配設されており、ヘッド本体2とヘッド駆動軸11とは自在継手部10により連結されている。この自在継手部10は、ヘッド本体2及びヘッド駆動軸11を互いに傾動可能とする球面軸受け機構と、ヘッド駆動軸11の回転をヘッド本体2に伝達する回転伝達機構とを備えており、ヘッド本体2のヘッド駆動軸11に対する傾動を許容しつつ、ヘッド駆動軸11の押圧力及び回転力をヘッド本体2に伝達する。
【0026】
球面軸受け機構は、ヘッド駆動軸11の下面の中央に形成された球面状凹部11aと、ハウジング部2aの上面の中央に形成された球面状凹部2dと、両凹部11a,2d間に介装された、セラミックスのような高硬度材料からなるベアリングボール12とから構成されている。回転伝達機構は、ヘッド駆動軸11に固定された駆動ピン(図示せず)とハウジング部2aに固定された被駆動ピン(図示せず)とから構成される。ヘッド本体2が傾いても被駆動ピンと駆動ピンは相対的に上下方向に移動可能であるため、これらは互いの接触点をずらして係合して、回転伝達機構がヘッド駆動軸11の回転トルクをヘッド本体2に確実に伝達する。
【0027】
ヘッド本体2及びヘッド本体2に一体に固定されたリテーナリング3の内部に画成された空間内には、基板ヘッド1によって保持される半導体ウエハ等の基板Wに当接する弾性パッド4と、環状のホルダーリング5と、弾性パッド4を支持する概略円盤状のチャッキングプレート6とが収容されている。弾性パッド4は、その外周部がホルダーリング5と該ホルダーリング5の下端に固定されたチャッキングプレート6との間に挟み込まれており、チャッキングプレート6の下面を覆っている。これにより、弾性パッド4とチャッキングプレート6との間には空間が形成されている。
【0028】
ホルダーリング5とヘッド本体2との間には弾性膜からなる加圧シート7が張設されている。加圧シート7は、例えばエチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリウレタンゴム、シリコンゴムなどの強度及び耐久性に優れたゴム材によって形成されている。加圧シート7は、一端をヘッド本体2のハウジング部2aと加圧シート支持部2bとの間に挟み込み、他端をホルダーリング5の上端部5aとストッパ部5bとの間に挟み込んで固定されている。ヘッド本体2、チャッキングプレート6、ホルダーリング5、及び加圧シート7によって、ヘッド本体2の内部に圧力室21が形成されている。図2に示すように、圧力室21からは、チューブやコネクタ等からなる流体路31が延設されており、圧力室21は、流体路31内に設置されたレギュレータRE2を介して圧縮空気源120に接続されている。
【0029】
なお、図3に示す加圧シート7がゴムなどの弾性体からなり、加圧シート7をリテーナリング3とヘッド本体2との間に挟み込んで固定した場合には、弾性体としての加圧シート7の弾性変形によってリテーナリング3の下面において好ましい平面が得られなくなってしまう。従って、これを防止するため、この例では、別部材として加圧シート支持部2bを設けて、加圧シート7をヘッド本体2のハウジング部2aと加圧シート支持部2bとの間に挟み込んで固定している。
【0030】
弾性パッド4とチャッキングプレート6との間に形成される空間の内部には、弾性パッド4に当接する当接部材としてのセンターバッグ(中心部当接部材)8及びリングチューブ(外側当接部材)9が設けられている。この例においては、図3及び図4に示すように、センターバッグ8は、チャッキングプレート6の下面の中心部に配置され、リングチューブ9は、このセンターバッグ8の周囲を取り囲むようにセンターバッグ8の外側に配置されている。なお弾性パッド4、センターバッグ8及びリングチューブ9は、加圧シート7と同様に、例えばエチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリウレタンゴム、シリコンゴム等の強度及び耐久性に優れたゴム材によって形成されている。
【0031】
図3に示すように、チャッキングプレート6と弾性パッド4との間に形成される空間は、上記センターバッグ8及びリングチューブ9によって複数の空間に区画されており、センターバッグ8とリングチューブ9の間には圧力室22が、リングチューブ9の外側には圧力室23がそれぞれ形成されている。
【0032】
センターバッグ8は、弾性パッド4の上面に当接する弾性膜81と、弾性膜81を着脱可能に保持するセンターバッグホルダー(保持部)82とから構成されている。センターバッグホルダー82にはねじ穴82aが形成されており、このねじ穴82aにねじ55を螺合させることにより、センターバッグ8がチャッキングプレート6の下面の中心部に着脱可能に取り付けられている。センターバッグ8の内部には、弾性膜81とセンターバッグホルダー82とによって中心部圧力室24が形成されている。
【0033】
同様に、リングチューブ9は、弾性パッド4の上面に当接する弾性膜91と、弾性膜91を着脱可能に保持するリングチューブホルダー(保持部)92とから構成されている。リングチューブホルダー92にはねじ穴92aが形成されており、このねじ穴92aにねじ56を螺合させることにより、リングチューブ9がチャッキングプレート6の下面に着脱可能に取り付けられている。リングチューブ9の内部には、弾性膜91とリングチューブホルダー92とによって中間部圧力室25が形成されている。
【0034】
圧力室22,23、中心部圧力室24及び中間部圧力室25には、チューブやコネクタ等からなる流体路33,34,35,36がそれぞれ連通されており、各圧力室22〜25は、それぞれの流体路33〜36内に設置されたレギュレータRE3,RE4,RE5,RE6を介して、供給源としての圧縮空気源120に接続されている。なお、上記流体路31,33〜36は、ヘッド駆動軸11の上端部に設けられたロータリジョイント(図示せず)を介して、各レギュレータRE2〜RE6に接続されている。
【0035】
上述したチャッキングプレート6の上方の圧力室21及び上記圧力室22〜25には、各圧力室に連通される流体路31,33〜36を介して加圧空気等の加圧流体等が供給されるようになっている。図2に示すように、圧力室21〜25の流体路31,33〜36上に配置されたレギュレータRE2〜RE6によって、それぞれの圧力室に供給される加圧流体の圧力を調整することができる。これにより各圧力室21〜25の内部の圧力を各々独立に制御するか、または大気圧や真空にすることができる。
【0036】
このように、レギュレータRE2〜RE6によって各圧力室21〜25の内部の圧力を独立に可変とすることにより、弾性パッドを介して基板Wを研磨パッド101に押圧する押圧力(基板表面への接触面圧)を、基板Wの部分(区画領域)毎に調整することができる。
つまり図4に示すように、各圧力室21〜25は、研磨中に、リテーナリング3が研磨パッド101を押圧する押圧力と、基板Wを研磨パッド101に押圧する押圧力を適宜調整することにより、基板Wの中心部(図4のC1)、中心部から中間部(C2)、外方部(C3)、そして周縁部(C4)、さらには基板Wの外側にあるリテーナリング3の外周部までの各部分における研磨圧力(基板表面への接触面圧)の分布を所望の値とすることができる。
【0037】
このように、基板Wを同心の4つの円及び円環部分(C1〜C4)に区画し、それぞれの部分(押圧領域)を独立した押圧力で押圧することができる。研磨速度は、基板Wの被研磨面に対する押圧力に依存するが、上述したように各部分の押圧力を制御することができるので、基板Wの4つの部分(C1〜C4)の研磨速度を独立して制御することが可能となる。したがって、基板Wの表面の研磨すべき膜に、半径方向における膜厚分布の偏在があっても、基板W全面に亘って研磨の不足や過研磨をなくすことができる。
【0038】
すなわち、基板Wの表面の研磨すべき膜が、基板Wの半径方向の位置によって膜厚が異なっている場合であっても、上記各圧力室22〜25のうち、基板Wの表面の膜厚の厚い部分の上方に位置する圧力室の圧力を他の圧力室の圧力よりも高くすることにより、あるいは、基板Wの表面の膜厚の薄い部分の上方に位置する圧力室の圧力を他の圧力室の圧力よりも低くすることにより、膜厚の厚い部分の被研磨面への押圧力を膜厚の薄い部分の被研磨面への押圧力より大きくすることが可能となり、その部分の研磨速度を選択的に高めることができる。これにより、成膜時の膜厚分布に依存せずに基板Wの全面に亘って過不足のない研磨が可能となる。
【0039】
また図3に示すように、チャッキングプレート6から圧力室22,23に複数の凸部42が立設されている。凸部42の先端は、開口部41を通って弾性パッド4の表面に露出している。また凸部42の先端面から流体路43が延設され、図2に示す真空源121に接続されている。これにより、図3に示す凸部42の先端面で、基板Wを真空吸着しうるようになっている。
【0040】
図2に示すように、電解複合研磨装置250の研磨テーブル100には、基板表面の導電膜等の膜厚を測定する、例えば渦電流センサからなるITM226のセンサコイル228が埋め込まれている。そして、このITM226からの信号は、制御部310に入力され、この制御部310からの出力でレギュレータRE3〜RE6が制御される。
【0041】
(研磨テーブル、研磨パッド)
図5(a)は電解複合研磨装置の要部を概略的に示す縦断面図である。研磨テーブル100の上面には円板状の支持部材254が固定されている。支持部材254は、導電性材料(金属、合金、導電性プラスチックなど)で構成されている。この支持部材254の上面に研磨パッド101が取り付けられており、研磨パッド101の上面が研磨面となっている。研磨テーブル100は図示しない回転機構に連結されており、これにより研磨テーブル100は、支持部材254および研磨パッド101と一体に回転可能となっている。
【0042】
電解液供給ノズル102は、研磨パッド101の半径方向に沿って延びている。電解液供給ノズル102の先端には、電解液の供給口102aが設けられている。この供給口102aは研磨パッド101の中央部の上方に位置しており、図示しない電解液供給源から電解液供給ノズル102を通じて電解液が研磨パッド101の中央部に供給される。研磨パッド101が回転すると、電解液は外側に向かって濡れ広がり、基板ヘッド1と研磨パッド101との間および研磨パッド101の複数の貫通孔101aに充填される。
【0043】
支持部材254は、電源252の負極に接続されており、カソード(対向電極)として機能する。電源252から延びる配線と支持部材(カソード)254との電気接点には、コロ、ブラシなどが用いられる。例えば、図5(a)に示すように、支持部材254の側面に電気接点262を接触させることができる。電気接点262は、比抵抗が小さく軟質な金属、例えば、金、銀、銅、白金、パラジウムなどで形成することが好ましい。
【0044】
研磨パッド101の側方に位置して、電源252の正極に接続された給電電極(印加点)264が配置されている。基板ヘッド1は、基板Wの一部を研磨パッド101の側方にはみ出させた状態で基板Wを研磨面に接触させるようになっており、基板Wの下面における周縁部C4が給電電極264に接触するようになっている。これにより、給電電極264から基板Wの導電膜66に印加される。なお、給電電極264からリテーナリングを介して基板Wの導電膜66に印加することも可能である。そして、カソードとしての支持部材254と、アノードとしての基板W上の導電膜は、研磨パッド101の貫通孔101aに充填された電解液を通して電気的に接続される。
【0045】
図5(b)は、他の電解複合研磨装置の要部を概略的に示す縦断面図である。この電解複合研磨装置250の支持部材254は、円板状のベース254bと、このベース254bの上面を覆う蓋254aとから基本的に構成されている。上述したように、支持部材254はカソードとして機能するため、蓋254aおよびベース254bの少なくとも一方は導電性材料から構成される。
【0046】
支持部材254の蓋254aには、研磨パッド101の上記貫通孔101aと同一位置に複数の連通孔255が形成されている。さらに、蓋254aの下面には、これら連通孔255を互いに連通させる複数の連通溝256が形成されている。なお、ベース254bの上面に連通溝を設けてもよい。研磨パッド101の中央部には、研磨パッド101を上下に貫通する第1の電解液受け口258Aが形成されている。さらに、蓋254aには、第1の電解液受け口258Aと同一位置に第2の電解液受け口258Bが形成されている。第2の電解液受け口258Bは上記複数の連通溝256に連通している。
【0047】
このような構成により、電解液供給ノズル102の供給口102aから供給された電解液は、第1の電解液受け口258A、第2の電解液受け口258B、連通溝256、および連通孔255をこの順に流れて、貫通孔101aに到達する。そして、貫通孔101aの内部には、研磨面に向かう電解液の上向きの流れが形成され、電解液が研磨面に供給されるようになっている。
【0048】
(電解複合研磨方法)
次に、本発明に係る電解複合研磨方法について説明する。
図6は研磨前の基板の説明図である。最初に、本実施形態の研磨対象である基板Wの膜構成について説明する。シリコン等からなる基板Wの表面に、いわゆるLow−k材やSiO、SiOF、SiOC等の絶縁材料からなる層間絶縁膜62が形成されている。層間絶縁膜62の表面には、コンタクトプラグや配線形成用の凹部63が形成されている。この凹部63を含む層間絶縁膜62の表面には、チタン、タンタル、タングステン、ルテニウムおよび/またはそれらの合金等からなるバリア膜64が、厚さ10nm程度に形成されている。バリア膜64は、次述する導電膜66の金属材料が基板Wに拡散するのを防止するため、また導電膜66と層間絶縁膜62との密着性を向上させるために設けられている。バリア膜64の表面には、タングステンからなる導電膜66が、厚さ500〜600nm程度に形成されている。この導電膜66を電解めっき法で形成する場合には、電解めっきの電極となるシード膜(不図示)をバリア膜64の表面に形成しておく。なお層間絶縁膜62の凹部63に倣って、導電膜66の表面には、高さ300nm程度および幅100μm程度の凹部67が形成されている。なお、導電膜66はタングステン以外にアルミニウム、銅、銀、金またはそれらの合金等の導電性金属材料で形成することも可能である。
【0049】
層間絶縁膜62の凹部63に充填された導電膜66のみがコンタクトプラグや金属配線として利用されるため、凹部63の外側に形成された導電膜66は不要である。そこで、余分な導電膜66を電解複合研磨により除去する。
【0050】
ここで、図7は電解複合研磨の説明図である。なお図7では、被研磨面となる導電膜66が下向きに配置されている。
まず図7(a)に示すように、基板W表面の導電膜に電解液50を接触させて導電膜66に電圧を印加しつつ、基板W表面を研磨パッド101に押圧しながら基板Wと研磨パッド101とを相対(回転)移動させて、導電膜66の表面を研磨する。
【0051】
層間絶縁膜62を介して複数の配線を積層するため、余分な導電膜66が除去された状態で、基板Wの表面が平坦化されている必要がある。電解複合研磨では、導電膜66への電圧印加により、導電膜66の表面に電気絶縁性物質からなる保護膜が形成される。導電膜66の上段部H(凹部67の外側)に形成された保護膜は、研磨パッド101との当接により除去される。これにより、上段部Hの導電膜66が電解液50に溶解して除去される。これに対して、下段部L(凹部67の内側)の導電膜は、保護膜に遮蔽されて電解液50に溶解しない。以上により、導電膜の段差が解消される。これにより、導電膜66の表面と、露出したバリア膜64の表面とが同一平面上に配置され、基板Wが平坦化されるようになっている。
【0052】
ところで、CMPによるタングステン研磨方法では、pH<4の酸性スラリーを使用して相当な厚さのタングステン酸化膜を形成し、このタングステン酸化膜を機械的に研磨するメカニズムを採用しているので、研磨速度が低くなるという問題がある。そこで本実施形態に係る電解複合研磨方法では、pH4〜10の電解液を採用して、従来のタングステン酸化膜とは異なる保護膜を形成する。
【0053】
なお本実施形態では、適当な導電率(1mS/cm程度)を備えていれば、基本的にどんな電解液でも使用可能である。電解液に含まれる主電解質としては、適当な導電率を与え、導電膜の表面を荒らさないものであればよい。またタングステンと錯体またはキレートを形成し、タングステンの溶解を促進するものが好ましく、例えば有機酸が含まれていることが好ましい。有機酸としては、グリコール酸、ピロリン酸、リン酸、クエン酸、リンゴ酸、マレイン酸、マロン酸、乳酸、酒石酸、コハク酸、及びこれらの塩の群から選択されるいずれか1種類または複数種類を用いるのが好ましい。pH範囲としては、タングステンが溶解性の化合物である錯体やキレートを生成しやすいpH4〜10が好ましい。電解液に含まれるpH調整成分としては、アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩などが用いられるが、金属汚染を防ぐためにはアンモニウム塩が好ましい。
電解液には電気絶縁性物質を生成する添加剤が含まれていてもよい。電解液に添加する電気絶縁性物質を生成する添加剤としては、1級アミン重合体が利用できる。例えば、アリルアミン重合体(1級アミノ基のみを側鎖に持つポリマー、分子量1000〜60000)、アリルアミン塩酸塩重合体(分子量1000〜60000)、アリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩共重合体(分子量20000〜100000)、アリルアミンアミド硫酸塩重合体(分子量12000)、アリルアミノ酢酸塩・ジアリルアミン酢酸塩共重合体(分子量100000)、アリルアミン・ジメチルアリルアミン共重合体(分子量1000)、部分メトキシカルボニル化アリルアミン重合体(分子量15000)、部分メチルカルボニル化アリルアミン酢酸塩重合体(分子量15000)などである。また1級アミン重合体としてポリエチレンイミン(分子量1000〜70000)でもよい。ポリエチレンイミンは分子中に1級、2級、3級アミンを同時に含む分岐構造を有するポリマーであり、1級アミンが分子内にあることから効果がある。
電気絶縁性物質を生成する添加剤の好ましい濃度は、ポリエチレンイミンの場合には0.01〜5重量%、より好ましくは0.1〜1重量%であり、0.01重量%より濃度が低いと電流抑制効果(電気絶縁性)が低く、一方、5重量%より濃度を高めた場合には、添加量の増加に対する電流抑制効果の増強が低下する傾向があるのでそれ以上高濃度にする必要はない。これを添加することによって、後述するように段差解消性の高い電圧範囲を低くシフトすることができる。また砥粒は、CMPの場合には濃度10%以上必要であったが、本実施形態では濃度1%以下でも十分効果がある。なお、砥粒の分散性を高めるため界面活性剤を添加しても良いが、もともと砥粒の濃度が低いので添加しなくても大きな問題はない。このような電解液の例として、本実施形態ではクエン酸アンモニウム(pH8)を採用する。
【0054】
本願の発明者は、タングステンの研磨速度に関して、以下に説明する方法で実験、評価を行った。
基板の直径40mmに相当する部分のみ研磨できる、電解研磨装置を用いて研磨実験を行った。この装置は基板に成膜された金属膜の電極電位を制御できるようになっており、電圧を印加しつつ、露出した金属膜を回転する研磨テーブルに貼り付けた研磨パッドで研磨することで研磨が進行する。具体例としては、10mA/cm2の電流密度あたり50〜150nm/min程度の研磨速度が得られる。
電極電位の測定には電気化学測定システムHZ−3000(北斗電工株式会社製)を用い、参照電極には銀/塩化銀電極(Ag/AgCl)を用いた。研磨パッドは表面に格子状の溝が設けられた発泡ポリウレタンパッド(X−YGroove溝付きIC1000単層パッド、ニッタ・ハース株式会社製)を用いた。
この装置を用いてアノード分極測定(基板の電極電位を徐々に増加させること)を行い、印加電圧と基板に流れる電流の関係を測定した。
図8は導電膜の電位と電流密度の関係を示すグラフである。図8では、基板上の被研磨面積当たりに流れる電流を電流密度とし、これを縦軸にとっている。電流密度が大きいほど、電解液に対する導電膜の溶解量が多くなり、研磨速度が速くなる関係にある。また、図7では横軸には電極電位をとっているが、実際の研磨装置においては電極電位で制御することは煩雑であるため、被研磨基板と陰極との間の印加電圧で制御するのが一般的であるため、以下の説明では、基板の電極電位制御について、印加電圧という表現を用いることとする。なお、印加電圧は「アノードである基板の電極電位と基板に対向するカソードである支持部材(研磨テーブル)の電極電位と、電解液の電位降下などを含んだアノードとカソードの電位差」を示すものである。
【0055】
pH4〜10の電解液を導電膜に接触させて印加電圧を高めていくと、所定電圧において電流密度が急激に変化する。導電膜への印加電圧を0から高めていくと、電圧に比例して電流密度は増加するが、第1変化点(例えばA点)の第1変化電圧を超えて電圧を増加させると、電流密度は増加から減少に転じる。さらに第2変化点(例えばB点)の第2変化電圧を超えて電圧を高めていくと、電流密度は減少から一定値に転じる。第1変化電圧以下の電圧を印加した場合には、電解液に対して溶解性の保護膜が導電膜の表面に形成されているが、第2変化電圧以上の電圧を印加した場合には、電解液に対して不溶性の保護膜が導電膜の表面に形成されるものと考えられる。
【0056】
本願の発明者は、上述した第1変化電圧および第2変化電圧が、基板Wと研磨パッドとの接触面圧により変化することを見出した。図8において、太い実線は接触面圧が0.5psi(接触面圧が有限値、導電膜表面の段差の上段部での研磨に相当)の場合であり、太い破線は接触面圧が0psi(接触面圧が0、導電膜表面の段差の下段部に相当)の場合である。接触面圧を有限値としたときの第1変化点をA点、研磨時の第2変化点をB点(最大電圧)、接触面圧を0としたときの第1変化点をC点(閾値電圧)、接触面圧を0としたときの第2変化点をD点とする。接触面圧が高いほど、第1および第2変化電圧が大きくなり、電流密度も大きくなる。接触面圧を0としたときの第1変化電圧(C点電圧)および第2変化電圧(D点電圧)は、接触面圧を有限値としたときの第1変化電圧(A点電圧)および第2変化電圧(B点電圧)より、それぞれ0.5V程度低くなっている。
【0057】
ここで、印加電圧が0〜C点電圧の範囲をα領域、C点電圧〜B点電圧の範囲をβ領域、B点電圧以上の範囲をγ領域とする。なおC点電圧〜A点電圧の範囲をδ領域とする。
図9は、導電膜に対して上記各領域の電圧を印加した場合における保護膜形成状態の説明図であり、図9(a)はα領域の場合であり、図9(b)はβ領域の場合であり、図9(c)はγ領域の場合である。
【0058】
α領域の電圧を印加した場合には、図9(a)に示すように、電解液50に対して溶解性の保護膜71が形成される。導電膜の表面に段差がある場合において、研磨パッド101と導電膜66との接触面圧が有限値となる上段部Hでは、この保護膜71が研磨により完全に除去される。
γ領域の電圧を印加した場合には、図9(c)に示すように、電解液50に対して不溶性の保護膜72が形成される。導電膜の表面に段差がある場合において、研磨パッド101と導電膜66との接触面圧が0となる下段部Lでは、この保護膜72が研磨されずに残留する。
【0059】
これに対して、β領域の電圧を印加した場合には、図9(b)に示すように両者の中間的な状態となる。すなわち、研磨パッド101と導電膜66との接触面圧が有限値となる上段部Hには溶解性の保護膜が形成され、その保護膜が研磨により除去される。また、研磨パッド101と導電膜66との接触面圧が0となる下段部Lには不溶性の保護膜72が形成され、その保護膜72が研磨されずに残留する。そこで、印加電圧をβ領域に維持して電解複合研磨を行えば、導電膜66の電解液中への溶解が上段部Hでは促進され、下段部Lでは抑制される。したがって、導電膜66の表面の段差を迅速に解消することができる。
【0060】
またβ領域の電圧を印加した場合には、保護膜72に覆われた下段部Lの研磨速度が極端に遅くなるので、導電膜66にディッシングが入りにくくなる。また、印加電圧を調整することにより上段部Hの研磨速度を制御できるため、研磨パッド101と導電膜66との接触面圧を低く設定することが可能になり、エロージョンを抑制することができる。例えば、従来のCMPの場合に4psi程度であった接触面圧を、本実施形態では2psi程度に設定することが可能である。
【0061】
上述したように、電流密度が大きいほど、研磨速度が速くなる関係にある。
図8に示すように、印加電圧が0〜C点電圧のα領域では、接触面圧を有限値(0.5psi)としたときおよび接触面圧を0(0psi)としたときともに電圧の上昇に伴って電流密度が増加する。これに対して、C点電圧〜A点電圧のδ領域では、接触面圧を有限値としたときの電流密度は増加を続けるが、接触面圧を0としたときの電流密度は減少に転じる。そのため、δ領域における接触面圧を有限値としたときと接触面圧を0としたときとの電流密度の差ΔIδは、α領域における電流密度の差ΔIαより常に大きくなる。接触面圧を有限値としたときと接触面圧を0としたときとの電流密度の差は、実際には導電膜表面の段差の上段部と下段部との研磨速度の差に対応する。したがって、印加電圧をδ領域に維持して研磨を行うことにより、導電膜表面の段差の上段部と下段部との研磨速度の差が大きくなるため、導電膜表面の段差を迅速に解消することができる。
【0062】
ここで本願の発明者は、基板Wの表面各部の電位を調整することで、基板Wの各部の研磨速度を制御しうることを見出した。すなわち、基板W表面に形成された金属膜、つまり図7(a)に示す下層のバリア膜64と上層の導電膜66との間には電気抵抗の差があり、この差を利用することで、基板W各部の電位を調整する。基板Wの周縁部C4には、金属膜の表面に設置された給電電極264から電圧が印加されており、基板Wの全面に導電膜66が残存している場合には基板の全面がほぼ等しい電圧となる。しかしながら、図7(b)に示すように導電膜66が除去されてバリア膜64の一部(例えば、給電電極264付近)が露出すると、基板W表面で電圧分布が変化する。
【0063】
具体的には、基板Wの周縁部C4領域のバリア膜64を露出させた後、基板Wの周縁部C4以外の領域、すなわち基板Wの中心部C1〜C3の領域には、バリア膜64より電気抵抗の小さい導電膜66が残存している。この残存している導電膜66にはバリア膜64を介して印加されることとなるため、給電電極264からの距離によって導電膜66に印加される電圧は低くなる。
【0064】
ここで本実施形態では、図7(b)に示すように、まず基板W上の導電膜66の一部を除去してバリア膜64を露出させる。具体的には、基板Wと研磨パッド101との接触面圧が、基板Wの周縁部C4(図4参照)において最も高くなるように、基板ヘッド1の圧力室22〜25(図3参照)内に供給される加圧流体の流量を制御しながら研磨を行う。なお、基板Wの周縁部C4以外の接触面圧の分布は、基板Wの外方部C3〜中心部C1(図4参照)に至るまで漸次小さくなるように設定されていることが好ましいが、基板Wの中心部C1〜外方部C3まで同等の接触面圧でもよい。
【0065】
このような接触面圧の分布で研磨を行うと、基板Wの周縁部C4の領域、つまり給電電極264付近において研磨が促進されることとなるため、その領域の導電膜が最先に除去される。そして、基板Wの周縁部C4の領域のバリア膜64が露出する。この時、基板WのC4の領域以外の領域、つまり基板Wの外方部C3〜中心部C1の領域には、導電膜66が残存している。特に、基板Wの接触面圧の分布を外方部C3〜中心部C1にかけて漸次小さくなるように設定した場合には、外方部C3〜中心部C1に向かうにつれ導電膜66の残存膜厚が厚くなっている。
【0066】
なお、基板W上の導電膜66の一部を除去してバリア膜64を露出させる方法としては、基板Wと対向するカソード(対向電極)を複数の小カソード(小電極)に分割した、分割カソード(分割電極)を用いる方法もある。このような分割カソードの一例としては、図11に示すような研磨テーブルの中心に対して同心円状に複数に分割されたカソードK1〜3がある。最外周のカソード(図11のカソードK3)と基板Wとの間の印加電圧を、図8に示す第1変化点Aの電圧以下で、かつ他のカソードK1,K2よりも高い電圧にすると、このカソードK3に対向する時間が長い(頻度が高い)、基板Wの周縁部C4の研磨速度が最も速い状態となり、その領域の導電膜66が最先に除去される。この分割カソードで、最外周のカソードK3から中心のカソードK1の順に、徐々に印加電圧が低くなるように電圧を制御(図11でカソードK3>カソードK2>カソードK1)すると、基板Wの外方部C3から中心部C1に向かうにつれ導電膜66の残存膜厚が厚くなる状態で研磨が進行し、基板Wの周縁部C4から徐々にバリア膜64が露出するため、好ましい。
【0067】
バリア膜64を露出させた後、基板Wに作用する接触面圧の分布を逆転させる。具体的には、基板Wの周縁部C4に作用する接触面圧を小さく、もしくは非接触の状態にするとともに、外方部C3〜中心部C1に作用する接触面圧を大きく設定する。あるいは、全面を均一な面圧にしても良い。これにより、バリア膜64が露出した基板Wの周縁部C4において、機械研磨作用によるエロージョンの発生を確実に防ぐことができる。
【0068】
また、本実施形態の電解複合研磨では、導電膜66の残存膜厚を膜厚センサにより測定しながら研磨を行っている。この膜厚センサとしては、渦電流センサが好適に用いられる。渦電流センサとは、各部の膜厚による合成インピーダンスの変化を利用して膜厚を検出するものであり、研磨テーブル100内に埋設された渦電流センサから高周波を導電膜に印加することで膜厚を測定するものである。したがって、導電膜66のような膜厚の厚いものでも高精度な膜厚測定が可能となる。
【0069】
ここで、基板Wの周縁部C4領域のバリア膜64が露出して、基板Wの電圧分布が変化した時点で、給電電極264に印加する電圧を高める。具体的には、基板Wの周縁部C4の領域にかかる電圧がC点電圧以上、好ましくはD点電圧以上(ともに図8参照)の電圧になるように設定する。これにより、バリア膜64が既に露出している領域(基板Wの周縁部C4領域)では、それ以上の研磨が進行しなくなる。したがって、基板Wの周縁部C4領域に配線用の導電膜66が存在しても、その表面にディッシングが入りにくくなる。
【0070】
一方、バリア膜64の表面に導電膜66が残存している基板Wの中心部C1〜外方部C3領域においては、抵抗値の高いバリア膜64を介して印加されることとなるため、電圧が低下する。しかしながら、基板Wの周縁部C4の領域の電圧を高めることで、導電膜66が残存している中心部C1〜外方部C3領域の電圧低下を防止することが可能になり、電流密度が高い状態に維持される。具体的には、中心部C1〜外方部C3領域にかかる電圧が図8のB点電圧以下、好ましくはA点電圧以下、特に好ましくはδ領域の電圧となるように設定する。
【0071】
これにより、基板Wの周縁部C4の領域では、例えば接触面圧を0としたときの第2変化電圧(図8中D点電圧)付近の電流が流れるのに対して、基板Wの中心部C1〜C3の領域には、第1変化電圧(例えば、図8中A点電圧)付近の電流が流れることとなる。つまり、バリア膜64が露出している領域(基板Wの周縁部C4領域)では、それ以上の研磨が進行しなくなる一方、基板Wの中心部C1〜C3の領域では、研磨が促進されることとなる。
その結果、図7(c)に示すように、基板W表面の凹部63以外の領域の導電膜が除去される。
【0072】
このように本実施形態では、バリア膜64の露出領域の電圧が閾値電圧を超えると、電流密度が減少に転じるので、導電膜66の研磨速度が低くなる。そのため、バリア膜64の露出領域に、コンタクトプラグや配線となる導電膜66が存在する場合でも、その導電膜66の表面にディッシングが入りにくくなる。また、電気化学的な溶解作用を利用して研磨を行うため、従来のような高い接触面圧、高い砥粒濃度のスラリーを用いる必要がなく、また、高い接触面圧で研磨する必要もないため、機械研磨作用の割合が低下し、エロージョンの発生を防ぐことができる。さらにバリア膜64の露出領域では、研磨パッド101と導電膜66との接触面圧が低くなるので、機械研磨作用の割合が低下し、ディッシングやエロージョンの発生を防ぐことができる。
【0073】
一方、バリア膜64より電気抵抗の小さい導電膜66が残存している領域では、バリア膜64が露出した部分での電位降下によって電圧が低くなるので、バリア膜64の露出領域よりも電流密度が高い状態に維持される。したがって、導電膜66が残存している領域では、引き続き研磨が進行することとなるため、スクラッチなどのダメージやディッシングを抑制した上で、導電膜を迅速に除去することができる。
【0074】
また、給電電極264付近の領域における接触面圧を、他の領域における接触面圧よりも高めることで、給電電極264付近の領域は他の領域に比べ、研磨が促進されることとなるため、その領域の導電膜66が最先に除去されることとなる。そして、バリア膜64が露出後は、給電電極264付近において金属膜に印加される電圧が最も高くなり、そこからの距離が離れるにつれて電圧が低くなるような電圧分布を得ることができる。したがって、バリア膜64を露出させた後の電圧を高める工程において、残存している導電膜66を精度よく除去することができる。
【0075】
図8において、太線は電解液に電気絶縁性物質を生成する添加剤を含まない場合のグラフであり、細線は電気絶縁性物質を生成する添加剤としてポリエチレンイミンを1重量%添加した場合を表す。なお、実線は研磨パッドと基板との接触面圧が0.5psiの場合であり、破線は接触面圧が0psiの場合である。
電気絶縁性物質を生成する添加剤を含まない(あるいは濃度が低い)場合には、電流密度が高くなることがわかる。その理由は、電気絶縁性物質を生成する添加剤の濃度が高いほど強固な保護膜が形成され、研磨により除去しにくくなるからであると考えられる。したがって、研磨速度を高くしたい場合には、電気絶縁性物質を生成する添加剤の濃度が低い電解液を使用すればよい。逆に、薄い導電膜の研磨や正確な研磨停止を行うため研磨速度を低くしたい場合には、電気絶縁性物質を生成する添加剤濃度が高い電解液を使用すればよい。なお図8から、電気絶縁性物質を生成する添加剤を含まない(あるいは濃度が低い)場合には、第1および第2変化電圧が高くなることがわかる。そのため、電気絶縁性物質を生成する添加剤の濃度に応じて印加電圧を調整することが望ましい。
【0076】
なお、本発明の技術範囲は、上述した実施形態およびその変形例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態等に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態等で挙げた具体的な材料や構成などはほんの一例に過ぎず、適宜変更が可能である。
【0077】
例えば、本実施形態では、給電電極を基板の周縁部に1箇所のみ設置する構成について説明したが、基板上に複数設置してもよい。これにより電圧印加のための接触面積が増加し、接触抵抗を小さくすることができるため、基板に与える電位を正確に制御することができる。この場合、各給電電極は基板の同心円状に設置することが好ましい。
バリア膜が露出した後に電圧を高める構成について説明したが、膜厚センサによりバリア膜が露出する直前を検出して、その時点から電圧を高めても構わない。
【0078】
(研磨パッド)
また、研磨パッドとして以下のものを採用することも可能である。
研磨パッドの種類に関しては、独立発泡ポリウレタンパッドや連続発泡のスウェードパッドが挙げられる。また、砥粒を含まない電解液を使用する場合、砥粒を結合剤によリバインドした固定砥粒パッドを使用しても良い。その砥粒として、酸化セリウム(CeO)、アルミナ(A1)、炭化珪素(SiC)、酸化珪素(SiO)、ジルコニア(Zr0)、酸化鉄(FeO、Fe、Fe)、酸化マンガン(Mn0、Mn)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化バリウム(BaO)、酸化亜鉛(ZnO)、炭酸バリウム(BaCO)、炭酸カルシウム(CaCO)、ダイヤモンド(C)、又はこれらの複合材料を採用することが可能である。また結合剤として、フェノール樹脂、アミノプラスト樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、アクリル化イソシアヌレート樹脂、尿素−ホルムアルデヒド樹脂、イソシアヌレート樹脂、アクリル化ウレタン樹脂、アクリル化エポキシ樹脂等を採用することが可能である。
【0079】
ここで、研磨パッドの溝形状については、1つ以上の(1)同心円溝、(2)偏心溝、(3)多角形溝(格子溝を含む)、(4)らせん溝、(5)放射溝、(6)平行溝、(7)弧状溝やこれらの組合せを形成しても良い。これらの溝形状は電解液の保持・排出に影響する。例えば、同心円溝や偏心溝については、流路が閉じているため電解液が研磨パッド上に保持される効果を有する。これに対して、多角形溝や放射溝は研磨対象への電解液の流入及び研磨パッド外への電解液の排出を促進する効果を有する。なお、基板の被加工表面内への電解液の流入、流出及び保持の効率を高めるために、研磨パッド面内において溝幅や溝ピッチ、溝深さを適宜調整して、研磨パッド内の溝密度分布を調整してもよい。例えば溝幅・溝深さは0.4mm以上、溝ピッチは溝幅の2倍以上が良く、電解液の流れを考慮すれば、溝幅・溝深さは0.6mm以上が好ましい。また、溝間の電解液の流れを活発にすることを目的として、溝間に補助溝(例えば、同心円溝間に形成された複数の細溝や、太い格子溝間に形成された細溝等)を設けても良い。また溝の断面形状については、四角溝や丸溝の他にV溝を採用してもよい。また溝からの電解液の排出を促進させる際は、研磨パッドが装着された研磨テーブルの回転方向を考慮して、回転方向下流に傾斜した順溝を形成してもよい。逆に溝からの電解液の排出を抑制する際は、回転方向上流側に傾斜した逆溝を形成しても良い。さらに電解液の保持を目的として、研磨パッド表面に貫通孔を1つ以上形成しても良い。
【0080】
また、研磨パッドと基板との接触面形状は、電解反応により生成した保護皮膜のメカニカル除去に影響する。接触面でのメカニカル作用を増加させるためには、接触面形状が鋭利なものが良く、円錐形、多角錐形、ピラミッド形、プリズム形が挙げられる。ここで、被研磨物によっては接触面形状が鋭利過ぎるとスクラッチ等の原因となるため、これを回避する策として、円錐台や角錐台のような上面を平坦化した形状が挙げられる。また、接触面でのメカニカル作用をさらに低減させる形状としては、円柱、楕円柱、半球が挙げられる。これらの形状の配置としては、格子や千鳥、三角配置のような規則性の有るものや規則性を消すためにランダム形状にしてもよい。また、これらの形状は研磨パッドの研磨面内において複数以上存在してもよく、またその密度分布を調整しても良い。
【0081】
(膜厚センサ)
また、膜厚センサとして渦電流センサの他に、光学式モニタによる測定、蛍光X線による測定、研磨中の電圧・電流値のモニタリングにより膜厚を測定することも可能である。
光学式モニタによる測定とは、光干渉により反射強度が変化することを利用するものであり、残留膜厚が所定膜厚以下になると、反射光が膜厚に対して変化することを利用する。なお、使用する光の波長により変化開始点が異なるため、波長は、被研磨材料に対して適宜選択する。光学式モニタによる測定方法としては、研磨テーブル内に埋設された光源により研磨パッドの貫通孔を通して測定光を照射する方法や、基板を研磨テーブル外にオーバーハングさせた状態で測定する方法がある。
【0082】
蛍光X線による測定とは、1次X線を測定対象に照射した際に発生する蛍光X線の強度が膜厚に対して変化することを利用するものであり、研磨中において研磨テーブル内に埋設されたX線元から1次X線を導電膜に照射することで測定する。
研磨中の電圧・電流値のモニタリングによる膜厚の測定は、測定対象の導電膜の膜厚に応じて電気抵抗が変化することを利用する。この場合、電圧一定で電流の変化を測定するか、あるいは電流一定で電圧の変化を測定することによって、電気抵抗から膜厚を算出する。
【0083】
また、例えばバリア膜上の導電膜や絶縁膜上のバリア膜を含む導電膜の研磨において、導電膜の研磨が完了した状態(研磨終点)を検出する方法としては、上述した膜厚検出方法以外に、研磨パッド表面温度や基板表面温度の変化を検知する方法、基板と研磨パッド間の摩擦力の変化を検知する方法、表面画像の変化を検知する方法、スラリーや電解液中の成分(副生成物の酸化物濃度、導電膜由来のイオン濃度)の変化を検知する方法等が挙げられる。
研磨パッドの表面温度や基板の表面温度の変化を検知する方法では、放射温度計による研磨パッドの表面温度を計測する方法や、テーブル内に埋設された放射温度計により研磨パッドに設けた穴を介して、基板の表面温度を測定する方法が利用できる。
基板と研磨パッド間の摩擦力の変化を見る方法では、研磨パッドが装着された研磨テーブルや、基板ヘッドの駆動電流の変化を検知する方法、基板ヘッドについては特定周波数の振動振幅の経時変化を測定する方法が利用できる。
基板の表面画像の変化を検知する方法では、研磨テーブル内に埋設された色度センサにより、研磨パッドに設けた穴を介して基板の表面の色調の変化を測定する方法、CCDまたはCMOSを用いる撮像装置によるによる基板表面の2次元画像の変化を測定する方法が利用できる。
また、スラリーや電解液中の成分の変化を検知する方法では、研磨テーブルから排出される研磨液中の導電膜由来のイオン濃度の変化を測定する方法が利用できる。
【0084】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る電解複合研磨方法の第2実施形態について説明する。なお、本実施形態では、図7等を適宜援用し、上述した第1実施形態と同様の構成については同一符号を付し説明は省略する。
給電電極264の位置は一定にして、基板ヘッド1の位置を移動させることによってバリア膜64露出領域と導電膜66残存領域にかかる電圧を制御しても良い。
印加電圧は図8のD点を少し(0.5V程度)超える程度とし、給電電極(引加点)264は研磨テーブル100外周の直近(10mm以内)に配置する。そして、研磨初期は最外周のみが基板Wからオーバーハングした状態で研磨し、最外周のバリア膜64が露出した段階で徐々に基板ヘッド1を研磨テーブル100の中心から離れる方向、すなわち、オーバーハング量が増加する方向に移動させる。このとき、給電電極264には常にバリア膜64が露出した部分が接触するようにし、オーバーハングしていない位置には導電膜66が残留した状態にする。
このように本実施形態によれば、バリア膜64を露出させた段階で徐々に基板ヘッド1を研磨テーブル100の中心から離れる方向に移動させることで、バリア膜64を露出させた領域の電圧を高い状態に維持することができる。これにより、バリア膜64の露出領域に、コンタクトプラグや配線となる導電膜66が存在する場合でも、その導電膜66の表面にディッシングが入りにくくなる。
【0085】
さらに、基板ヘッド1を移動させた後に、バリア膜64を露出させた領域が閾値電圧(図8中C点電圧)以上となるように、給電電極264に印加する電圧を高めるような構成にしてもよい。
この構成によれば、電圧を大幅に上昇させなくても、バリア膜64を露出させた領域の電圧を確実に閾値電圧以上とすることができる。これにより、バリア膜64の露出領域に、コンタクトプラグや配線となる導電膜66が存在する場合でも、その導電膜66の表面にディッシングが入りにくくなる。またバリア膜64が露出した領域において、それ以上の研磨の進行を確実に防ぐことが可能となる。したがって、導電膜66が残存している領域では、引き続き研磨が進行し、バリア膜64が露出した領域では研磨が行われないため、スクラッチなどのダメージやディッシングを抑制した上で、導電膜66を迅速に除去することができる。
【0086】
なお、この例では、給電電極264が基板Wのほぼ全体に接触するため、給電電極264の材料はカーボン樹脂等の軟質材料を用い、また、コロなど、基板Wの回転に伴って回転するなど、基板Wへのキズが付きにくい印加方法を採用するのが好ましい。
また、電圧の給電電極264はかならずしも研磨テーブル100外周の直近にある必要はない。例えば、研磨パッド4内に同心円状に電圧の給電電極を配置しても良い。この場合には、基板Wを徐々に外側に移動させても、基板Wをオーバーハングすることなく、研磨することが可能となる。
上記は給電電極264が研磨テーブル100外周の直近(10mm以内)に配置される場合を説明したが、給電電極のその他の例としては、研磨パッド4に同心円状の導電性パッドを例えば幅1cm程度で埋め込んでもよい。導電性パッドを研磨テーブル100外周から基板Wの半径よりも大きな距離だけ内側に配置すると、導電性パッドが基板の中心まで達しても基板はオーバーハングすることなく安定して研磨できる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】基板処理装置の配置構成を示す平面図である。
【図2】電解複合研磨装置の概略構成図である。
【図3】基板ヘッドの断面図である。
【図4】基板ヘッドの底面図である。
【図5】電解複合研磨装置の要部を概略的に示す縦断面図である。
【図6】研磨前の基板の説明図である。
【図7】電解複合研磨の説明図である。
【図8】導電膜の電位と電流密度との関係を示すグラフである。
【図9】各領域の電圧を印加した場合における保護膜形成状態の説明図である。
【図10】化学機械研磨装置の要部を概略的に示す縦断面図である。
【図11】研磨テーブルの他の構成を示す平面図である。
【符号の説明】
【0088】
A,C…第1変化点
B,D…第2変化点
W…基板
50…電解液
52…スラリー
64…バリア膜(下地膜)
66…導電膜
71,72…保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面に形成された金属膜に電解液を接触させて前記金属膜に電圧を印加しつつ、前記基板表面を研磨パッドに所定の接触面圧で押圧しながら前記基板と前記研磨パッドとを相対移動させることにより、前記金属膜の表面を研磨する電解複合研磨方法であって、
前記電解液は、pH4〜10であるとともに、前記金属膜は、下層の下地膜及び該下地膜よりも電気抵抗が小さい上層の導電膜からなり、
前記電圧の印加点近傍の前記導電膜を先に除去して前記下地膜を露出させる工程と、
前記下地膜が露出する直前または露出後に、前記電圧を高める工程と、
を有し、
前記電圧を高める工程では、
前記基板と前記研磨パッドとを相対移動させながら前記接触面圧を0とした状態で、前記電圧を高めた場合に、電流密度が増加から減少に転じる電圧を閾値電圧とし、
前記下地膜を露出させた領域における電圧が、前記閾値電圧を超えるように、前記電圧を高める
ことを特徴とする電解複合研磨方法。
【請求項2】
前記電圧を高める工程では、
前記接触面圧を有限値とした状態で、前記電圧を高めた場合に、電流密度が増加後の減少から減少しなくなるように転じる電圧を最大電圧とし、
前記下地膜を露出させた領域以外の領域における電圧が、前記閾値電圧を超えて前記最大電圧以下となるように、前記電圧を高めることを特徴とする請求項1記載の電解複合研磨方法。
【請求項3】
前記下地膜を露出させる工程では、前記印加点近傍の領域における前記基板と前記研磨パッドとの前記接触面圧を、前記印加点近傍の領域以外の領域における前記接触面圧に比べて高めることを特徴とする請求項1記載の電解複合研磨方法。
【請求項4】
前記下地膜を露出させる工程では、
前記基板と対向する対向電極を、同一平面上に同心円状に位置する複数の小電極からなる分割電極とし、
前記基板の外方部と対向する頻度が高い順に研磨速度が速くなるように前記分割電極の前記電圧を制御すること
を特徴とする請求項1または2に記載の電解複合研磨方法。
【請求項5】
前記研磨工程では、渦電流方式により前記導電膜の残存膜厚を測定しながら研磨を行うことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の電解複合研磨方法。
【請求項6】
前記導電膜は、タングステン膜であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の電解複合研磨方法。
【請求項7】
基板表面に形成された金属膜に電解液を接触させて前記金属膜に電圧を印加しつつ、前記基板表面を研磨パッドに所定の接触面圧で押圧しながら前記基板と前記研磨パッドとを相対移動させることにより、前記金属膜の表面を研磨する電解複合研磨方法であって、
前記電解液は、pH4〜10であるとともに、前記金属膜は、下層の下地膜及び該下地膜よりも電気抵抗が小さい上層の導電膜からなり、
前記電圧の印加点を前記基板の周縁部に配置して周縁部の前記導電膜を先に除去して前記下地膜を露出させる工程と、
該工程の後に前記電圧の印加点を基板の周縁部から中心部へ移動させて前記下地膜を露出させる工程と、
を有することを特徴とする電解複合研磨方法。
【請求項8】
基板表面に形成された金属膜に電解液を接触させて前記金属膜に電圧を印加しつつ、前記基板表面を研磨パッドに所定の接触面圧で押圧しながら前記基板と前記研磨パッドとを相対移動させることにより、前記金属膜の表面を研磨する電解複合研磨方法であって、
前記電解液は、pH4〜10であるとともに、前記金属膜は、下層の下地膜及び該下地膜よりも電気抵抗が小さい上層の導電膜からなり、
前記電圧の印加点を前記基板の周縁部に配置して該周縁部の前記導電膜を先に除去して前記下地膜を露出させる工程と、
該工程の後に前記電圧の印加点を前記基板の周縁部から中心部へ移動させて前記下地膜を露出させる工程と、
前記下地膜が露出する直前または露出後に、前記電圧を高める工程と、を有し、
前記電圧を高める工程では、
前記基板と前記研磨パッドとを相対移動させながら前記接触面圧を0とした状態で、前記電圧を高めた場合に、電流密度が増加から減少に転じる電圧を閾値電圧とし、前記下地膜を露出させた領域における電圧が、前記閾値電圧を超えるように前記電圧を高めることを特徴とする電解複合研磨方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−102694(P2009−102694A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−275684(P2007−275684)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】