説明

非化学量論的粒子を有するマトリックス及び層組織

先行技術による保護層は、保護する酸化物層を形成し又は犠牲材料として消費される特定元素を減少させることによって、その保護機能を達成する。この材料が消費されてしまうと、保護機能はもはや維持することができない。本発明によれば、消費される材料を徐々に放出する貯蔵庫を含有する粒子(1)が使用される。これは、この材料が超化学量論的に存在することによって達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子(1)を有する、部材(10、120、130、138、155)用又は層(16)用のマトリックスであって、少なくとも1つの金属元素(Me)を含有するマトリックス材料からなるマトリックスにおいて、粒子(1)がマトリックス材料の前記金属元素(Me)と少なくとも1つの非金属、特に窒素、酸素、炭素、ホウ素又はそれらの混合物、とから成る1つの化合物を含有して成り、前記金属元素(Me)が前記化合物中に非化学量論的部分を有し、特に粒子(1)がこの化合物から成るマトリックス、並びに、基材(13)及び/又はこの基材(13)上に配置される少なくとも1つの層(16、19)と本発明のマトリックスとを有して成る層組織に関する。
【背景技術】
【0002】
高温での使用のための部材、例えばガスタービンのタービン翼及び燃焼室壁は、酸化及び腐食に備えた保護層を有する。このような層は、例えばMCrAlX型の、合金から成り、これを保護する酸化アルミニウム層がこのMCrAlX層上に形成される。MCrAlX合金のアルミニウムがMCrAlX層の表面に拡散し、MCrAlX合金ではアルミニウム元素が減少する。しかし、減少に対抗するためにMCrAlX合金内のアルミニウムの割合を最初から予防的に過剰に高めると、MCrAlX層の機械的性質が劣化する。
【0003】
更に、腐食及び侵食に対する保護層を備えた圧縮機翼が知られている。これらの圧縮機翼は、製造時、金属を含有する無機結合剤を有し、この金属はガルバニック犠牲元素として役立ち、それ故に部材の基材と導電結合されている。このような保護層の好適な組成が欧州特許第0142418号明細書により公知である。そこでも、金属が時間と共に消耗し、保護機能がもはや果たされないことに問題がある。
【0004】
米国特許第6635362号明細書により、Alから成る被覆された粉末粒子が公知である。
【0005】
欧州特許第0933448号明細書は、アルミナイドから成る層内の酸化物粒子を開示している。
【0006】
国際公開第2002/066706号パンフレットは、化学量論的合金から成る被覆された粒子を有するマトリックスを示している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明の課題は、長期的保護効果を有するマトリックス及び層組織を明示することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は、粒子(1)を有する、部材(10、120、130、138、155)用又は層(16)用のマトリックスであって、少なくとも1つの金属元素(Me)を含有するマトリックス材料からなるマトリックスにおいて、粒子(1)がマトリックス材料の前記金属元素(Me)と少なくとも1つの非金属、特に窒素、酸素、炭素、ホウ素又はそれらの混合物、とから成る1つの化合物を含有して成り、前記金属元素(Me)が前記化合物中に非化学量論的部分を有し、特に粒子(1)がこの化合物から成るマトリックス、並びに、基材(13)及び/又はこの基材(13)上に配置される少なくとも1つの層(16、19)と本発明のマトリックスとを有して成る層組織によって解決される。
【0009】
各従属請求項に列挙されたその他の有利な措置は、有利な仕方で、互いに任意に組合せることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
化合物は少なくとも2つ以上の化学元素から成り、特定の化学量論比を有する。合金(金属化合物)は少なくとも2つの金属元素から成る。粒子1(図1、図2、図3)は化合物で構成され、この化合物は、層16(図1、図2)又は基材13(図3)のマトリックスの少なくとも1つの金属Meを、非化学量論的割合で含有する。金属Meと共に前記化合物を形成する少なくとも1つの他の化学元素Zは、マトリックス材料の1成分であってもよく、マトリックス材料に含まれていない1つの化学元素であってもよい。前記化合物、つまり粒子1の材料、は特に前記金属Meと1つの非金属との化合物であり、つまり、セラミック(非酸化物セラミック若しくは酸化物セラミック、酸窒化物、窒化物、ホウ化物又は炭化物)であり、有利には酸化物、有利には酸化アルミニウム及び/又は酸化クロムである。粒子1は有利には窒化物をも含有する。有利には、粒子1は金属酸化物及び/又は金属窒化物から成る。
【0011】
粒子1は、複数の種類の化合物、つまり、酸化物、酸窒化物、窒化物、ホウ化物又は炭化物を含有することもできる。
【0012】
有利には、超化学量論的化合物Meab-y(y>0)、Mea+xb(x>0)又はMea+xb-y(x>0、y>0)がMeabの代わりに利用され、つまり、例えば、Z=窒素Nの場合、AlN1-y(y>0)、Al1+xN(x>0)又はAl1+x1-y(x>0、Y>0)がAlNの代わりに利用される。
【0013】
同様に粒子1用の化合物は、非化学量論的組成を有する合金で構成することができる。例えば、NiAlの代わりに、合金Ni1-yAl(y>0)又はNiAl1+x(x>0)が使用される。
【0014】
亜化学量論的化合物も有利な場合がある。
【0015】
有利には、粒子1が唯1つの金属元素Meを含有する。有利には、粒子1が2つの金属元素Meを含有する。化合物内、合金内又はケイ素鎖内の金属元素Meは、特にアルミニウム(Al)である。同様に、金属元素はクロム(Cr)とすることができる。更に、粒子1用化合物を製造するためにクロム−アルミニウム合金(Al−Cr)を使用することができる。
【0016】
同様に、例えばSi−Me−O−C材料(ケイ素鎖)等の有機材料R−Me−C−Rを粒子1用に使用することができる(Me=Al、C=炭素、R=炭素鎖)。R−Me−C−R材料は、特にポリシロキサン樹脂から製造される。ポリシロキサン樹脂は、少なくとも1つの金属元素を有する構造式R−SiO1.5のポリマー−セラミック前駆体であり得る。ここで、R=−CH3、−CH、−CH2、−C68等とすることができる。この材料は熱架橋され、無機成分(Si−O−Si鎖)と、主としてRから成る有機側鎖とが、並んで存在する。引き続き、この前駆体は、温度600℃〜1,200℃のAr、N2、空気又は真空雰囲気中での温度処理により、セラミック化される。ポリマー網状組織が分解され、無定形相から結晶相に至る熱的中間段階を経て新たに構造化され、ポリシロキサン前駆体から出発してSi−Al(=Me)−O−C網状組織が発生する。同様に、ポリシラン(Si−Si)型、ポリカルボシラン(Si−C)型、ポリシラザン(Si−N)型又はポリボロシラザン(Si−B−C−N)型の、金属元素Meを含有する前駆体も使用することができる。ここでは、金属元素Meが非化学量論的割合で存在している必要はなく、金属元素Meが化合物から容易に溶出し得るという化合物の能力で間に合う。
【0017】
粒子1は焼結粉末粒子又は粒子粉とすることができる。粒子1の直径はマイクロメートル、サブマイクロメートル(<1μm)又はナノ領域(≦500nm)内とすることができる。多面体の最大横長も直径として理解することができる。
【0018】
有利には、粒子1は別の材料から成る被覆を有していない。
【0019】
図1は本発明に係る層16のマトリックスを示す。この層16は基材13から成る部材10又は層組織10の一部であり、この基材上に層16が配置されている。基材13は、例えば、例えば蒸気タービン又はガスタービン100(図5)におけるような、高温用部材であり、ニッケル基、コバルト基又は鉄基超合金から成る。
【0020】
このような層組織10が使用されるのはタービン翼120、130(図4、図5)、遮熱要素155(図6)又はケーシング部品138(図4)においてである。層16はマトリックス材料から成るマトリックスを有し、このマトリックス内で粒子1は、均一に又は局所的に異なって(例えば勾配をもって)、分散している。つまり、粒子1はマトリックス(層、基材)内において、二次相を形成している。層16の内部に又は基材13の内部にも、粒子1の局所的濃度勾配を設けておくことができる。粒子1の濃度は、例えば、基材13の表面31から出発して、層16の表面34の方向に向かって、増加する。複数の層16及び19を製造し利用することもでき、このとき、粒子1は1つ又は複数の層内に存在する。
【0021】
層16のマトリックスは有利には金属に基づく。例えば、層16はMCrAlX型の合金であり、粒子1はアルミニウム化合物から成る。粒子1は、層16全体に分布させておくことができ、又は層16の外側表面22の近傍に局所的に集中させて配置しておくことができる(図2)。
【0022】
延長された保護効果の作用様式をMCrAlX層に基づいて例示的に説明する。既に上述したように、MCrAlX合金の保護機能は、アルミニウムが酸化アルミニウムを形成することによって生じるが、しかしながら、そのことによってマトリックス材料内でアルミニウムが減少する。高い温度ではアルミニウムが粒子1からゆっくりと層16のマトリックス内に拡散し、こうして酸化によって消費されるアルミニウムをマトリックス材料内に再び充填し、MCrAlX合金の原組成は粒子1内にアルミニウムが最早存在しなくなるまで殆ど又は全く変化しない。こうして、保護層16の寿命が著しく延長される。
【0023】
粒子1は、2種類の仕方で、マトリックス内に拡散溶解する。これらの粒子がマトリックス材料の原子で貫通される(ニッケル基素材の場合、ガンマ相の原子である)か、又はセラミックを形成する非金属結合パートナーが内向きに粒子内に拡散し、マトリックス内で金属元素が溶解するかのいずれかである。
【0024】
ニッケル基素材の場合、金属元素、有利にはアルミニウム、がガンマ相内で溶解する。後者の場合、相応するセラミック組成の化学量論的核が残存し、粒子硬化によってγ’相に対し持続的に凝固作用することになろう。
【0025】
同様に、これらの粒子1は超合金を強化するのに使用することができる。粒子1の寸法は、有利には、超合金のγ’相の最適寸法に一致している。その場合、溶融しなかった粒子1は、有利には、既に溶融体内に存在しており、一緒に流し込まれる。超合金内の二次相の配置様式及び作用様式に関しては先行技術を参照されたい。その場合、粒子1は以下の機能−機械的性質の改善と非常動作特性の達成−を有する。
【0026】
超化学量論的部分が、層16のマトリックス材料の結晶構造内での拡散によって、ゆっくりと溶解し、場合によっては、マトリックス材料内に析出物を形成し、一定時間後に始めて直接マトリックス内への粒子1の材料の拡散が可能となるように、化学量論比を選択しておくこともできる。というのも、この時点に至るまで、例えばMCrAlX層の、保護機能は、なお、存在するからである。
【0027】
基材13上に存在する層16内にも粒子1が配置されているか否かにかかわりなく、基材13内に粒子1が存在する場合、他の保護機能が生じる。層組織10の利用中、領域37内で層16(MCrAlX、又はMCrAlX+外側セラミック層)が剥げ落ち、基材13の表面31の一部が保護されなくなることが起きることがある(図3)。しかし、有利なことに、表面近傍部分では粒子1が高濃度で配置されている(図2)。長時間tに亘って高い温度Tで層組織10が更に使用されることによって、領域37内で基材13の表面31が腐食し、これにより粒子1が遊離される。粒子1の材料の反応によって基材13の領域37内で保護機能が生じる。ガスタービン翼用に使用される超合金の場合、粒子1がアルミニウムを含有し、粒子1のアルミニウムの酸化によって生成した酸化アルミニウムの保護層40が得られる。
【0028】
粒子1は、層16(MCrAlX)内にのみ設けてもよく、基材13内にのみ設けてもよい。同様に、粒子を、層16内にも基材13内にも配置しておくことが可能である。
【0029】
同様に、層16は圧縮機翼の腐食及び/又は侵食に対する保護層とすることができる。層16内の粒子1が、有利には特許欧州特許第0142418B1号明細書による、化学組成を有すると、かなりの長期間にわたって十分に消費犠牲材料が提供されることになり、こうして所望する保護機能が得られる。このとき、アルミニウム含有化合物が粒子用に使用される。
【0030】
圧縮機内で空気を圧縮すると水が発生することがあり、この水は状況によっては、空気中に含まれた別の元素と化合して電解液を形成し、この電解液は圧縮機翼に腐食及び侵食をもたらすことがある。
【0031】
それゆえに、腐食及び/又は侵食を防止するために、圧縮機翼は一般に被覆を備える。その際、特に考慮に値する被覆16は、例えばリン酸塩結合基本マトリックスと、その中に分散分布した、例えばアルミニウム粒子等の、金属粒子とを含む。このような被覆の保護効果は、基本被覆に埋め込まれた金属粒子が、圧縮機翼の(一層貴な)金属及び電解液と一緒にガルバニ電池を、形成し、このガルバニ電池内で金属粒子がいわゆる犠牲陽極を形成することにある。その場合、酸化即ち腐食は、犠牲陽極内、即ち金属粒子内で起き、圧縮機翼の金属内で起きるのではない。
【0032】
被覆のリン酸塩結合基本マトリックスは、ガラスセラミック特性を有し、熱的に安定であり、同様に耐食性であり、機械的作用、例えば摩耗や侵食、に対して保護的である。
【0033】
被覆は、金属粒子の他に、別の粒子を充填材として含有することができる。ここでは例示的に顔料粒子を挙げておく。
【0034】
リン酸塩結合被覆の他に別の種類の被覆16も考慮に値する。欧州特許第0142418B1号明細書、欧州特許第0905279A1号明細書及び欧州特許第0995816A1号明細書には、クロム酸塩/リン酸塩系の被覆が記載されている。欧州特許第1096040A2号明細書には、リン酸塩/ホウ酸塩系の被覆16が記載され、欧州特許第0933446B1号明細書には、リン酸塩/過マンガン酸塩系の被覆が記載されている。これらの層も、本発明に係るマトリックスを有することができる。
【0035】
粒子1は、ほぼあらゆる被覆法で、つまり、熱プラズマ溶射法(APS、VPS、LPPS)、冷ガス溶射法、HVOF又は電解被覆法によって、一緒に被着することができる。
【0036】
図2は本発明に係る層16の他の応用例を示す。層組織10は、基材13と、本発明に係る層16と、層16のマトリックス上の他の層19とから成る。これは、例えば高温での使用のための、層組織10であり、基材13は、やはり、上記の如き超合金であり、層16は、MCrAlX型のマトリックスを有する。このとき、層19はセラミック断熱層であり、これを保護する酸化アルミニウム層(TGO)が層16と層19との間に形成される。本発明に係る粒子1は、例えば層16と層19との間の、境界面近傍に集中している。
【0037】
同様に、粒子1を有する材料から成る部材を考えることができる。即ち、粒子は、被覆内ではなく中実材料内に、設けられている。
【0038】
図4は、例示的に、ガスタービン100を縦部分断面図で示す。ガスタービン100は、内部に、軸101を備えて回転軸線102の周りで回転可能に支承されるロータ103を有し、このロータはタービンロータとも称される。ロータ103に沿って、順に、吸込ケーシング104、圧縮機105、同軸に配置される複数のバーナ107を備えた、例えば円環体状の、燃焼室110、特に環状燃焼室、タービン108、そして排気ケーシング109が続く。環状燃焼室110は、例えば環状の、高温ガス通路111と連通している。そこでは、例えば、前後に接続される、4つのタービン段112がタービン108を形成する。各タービン段112は、例えば2つの翼輪で、形成されている。作動媒体113の流れ方向に見て、高温ガス通路111内で、静翼列115に動翼120で形成される列125が続く。
【0039】
静翼130がステータ143の内部ケーシング138に固定されているのに対して、列125の動翼120は、例えばタービンディスク133によって、ロータ103に取付けられている。ロータ103に発電機又は作業機械(図示せず)が連結されている。
【0040】
ガスタービン100の運転中、圧縮機105によって吸込ケーシング104を通して、空気135が吸い込まれて圧縮される。圧縮機105のタービン側末端で用意される圧縮空気は、バーナ107へと送られ、そこで燃料と混合される。次にこの混合気は、燃焼室110内で燃焼させられて作動媒体113を形成する。そこから、作動媒体113は、高温ガス通路111に沿って静翼130及び動翼120を通流する。動翼120で作動媒体113が膨張して衝撃を伝達し、動翼120がロータ103を駆動し、ロータはロータに連結された作業機械を駆動する。
【0041】
高温作動媒体113に曝される部材は、ガスタービン100の運転中、熱負荷を受ける。作動媒体113の流れ方向に見て第1タービン段112の静翼130及び動翼120は、環状燃焼室110に内張りされる遮熱要素とともに、最も強く熱負荷を受ける。そこに存在する温度に耐えるために、翼は冷却材によって冷却することができる。同様に、部材の基材は配向構造を有することができる。即ち、基材は単結晶(SX構造)であるか、又は縦配向粒子(DS構造)のみから成る。部材用、特にタービン翼120、130及び燃焼室110の部材用の材料として、例えば鉄基、ニッケル基又はコバルト基超合金が使用される。そのような超合金は、例えば、欧州特許第1204776B1号明細書、欧州特許第1306454号明細書、欧州特許第1319729A1号明細書、国際公開第99/67435号パンフレット又は国際公開第00/44949国際公開第により、公知である。これらの文献は、合金の化学組成に関して、本発明の開示の一部を構成する。
【0042】
静翼130は、タービン108の内部ケーシング138に向き合う静翼付根(ここには図示せず)と、静翼付根とは反対側の静翼端とを、有する。静翼端はロータ103に向き合い、静翼付根はステータ143の固定リング140に固定されている。
【0043】
図5は、縦軸線121に沿って延びた流体機械の動翼120又は静翼130を斜視図で示す。
【0044】
この流体機械は、発電のための発電所の又は飛行機の、ガスタービンガスタービン、蒸気タービン又は圧縮機であり得る。
【0045】
翼120、130は、長手軸線121に沿って、順に、固定部400、これに隣接する翼プラットホーム403、翼板406、そして翼端415を有する。翼130は、静翼130として、その翼端415に他のプラットホーム(図示せず)を有することができる。
【0046】
固定部400に形成された翼付根183は、動翼120、130を軸又はディスクに固定するのに役立つ(図示せず)。翼付根183は、例えばT字形に、形成されている。他に、クリスマスツリー形又はダブテール形付根としての形成が可能である。翼120、130は、翼板406を通流する媒体用に前縁409と後縁412とを有する。
【0047】
従来の翼120、130では、翼120、130の全ての部分400、403、406において、例えば中実金属素材、特に超合金が使用される。そのような超合金が、例えば欧州特許第1204776B1号明細書、欧州特許第1306454号明細書、欧州特許第1319729A1号明細書、国際公開第99/67435号パンフレット又は国際公開第00/44949号パンフレットにより公知である。これらの明細書は、合金の化学組成に関して、本開示の一部である。その際、翼120、130は鋳造法によって、また、方向性凝固によって、鍛造法によって、フライス加工法によって、又はそれらの組合せによって作製することができる。
【0048】
単数又は複数の単結晶構造を有する工作物は、運転時に高い機械的、熱的及び/又は化学的負荷に曝される機械用の部材として利用される。このような単結晶工作物の作製は、溶融体から、例えば方向性凝固によって行われる。この鋳造法では、液状金属合金が単結晶構造へと、即ち単結晶工作物へと凝固され、又は方向性凝固される。樹枝状結晶が熱流に沿って整列し、柱状結晶質粒状構造(柱状。即ち、工作物の全長に亘って延びる粒子。ここでは、一般的用語法に従って「方向性凝固」という。)又は単結晶構造のいずれかを形成する。即ち、工作物全体が単一の結晶から成る。この方法では、球状(多結晶)凝固への移行を避けねばならない。というのも、非方向性成長によって不可避的に横方向及び縦方向粒界が生じ、これが、方向性凝固部材又は単結晶部材の良好な特性を無にするからである。
【0049】
一般に方向性凝固組織とは、粒界を有しないか又はせいぜい小角粒界を有する単結晶を意味し、また縦方向に延びる粒界を有するが横方向粒界を持たない柱状結晶構造も意味している。第二に指摘したこの結晶構造は、方向性凝固組織(directionally solidified structures)とも称される。このような方法が米国特許明細書第6024792号、欧州特許第0892090A1号明細書により公知である。これらの明細書は、凝固法に関して、本開示の一部を構成する。
【0050】
同様に、翼120、130は腐食又は酸化に備えた被覆を有することができる(例えば、MCrAlX:Mは鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)の群のうち少なくとも1つの元素;Xは活性元素、イットリウム(Y)及び/又はケイ素及び/若しくは少なくとも1つの希土類元素、又はハフニウム(Hf)である)。このような合金は、欧州特許第0486489B1号明細書、欧州特許第0786017B1号明細書、欧州特許第0412397B1号明細書又は欧州特許第1306454A1号明細書により、公知であり、これらは合金の化学組成に関して、本開示の一部となるものである。その密度は、有利には、理論密度の95%である。保護的酸化アルミニウム層(TGO=熱成長酸化物層)がMCrAlX層上に(中間層として又は最外層として)生成する。
【0051】
MCrAlX上に更に断熱層を設けておくことができ、この断熱層は有利には最外層であり、例えばZrO2、Y23−ZrO2から成る。即ち、この断熱層は、酸化イットリウム及び/又は酸化カルシウム及び/又は酸化マグネシウムによって、部分的にも又は完全にも安定化されていない。この断熱層がMCrAlX層全体を覆う。例えば電子ビーム蒸着(EB−PVD)等の好適な被覆法によって、断熱層内に柱状粒子が生成される。別の被覆法、例えば大気プラズマ溶射(APS)、LPPS、VPS又はCVDが考えられる。断熱層は、耐熱衝撃性を改善するために、多孔質、マイクロクラック又はマクロクラックのある粒子を含有することができる。つまり、断熱層は、有利には、MCrAlX層よりも多孔質である。
【0052】
翼120、130は中空又は中実に実施しておくことができる。翼120、130が冷却されねばならない場合、翼は中空であり、場合によってはなお膜冷却孔418(破線で示唆)を有する。
【0053】
図6はガスタービン100の燃焼室110を示す。燃焼室110は、例えば、いわゆる環状燃焼室として形成されており、周方向で回転軸線102の周りに配置される多数のバーナ107が共通の燃焼室空間154に通じて火炎156を生成する。このため燃焼室110は、全体として、回転軸線102の周りに配置されて環状構造体として形成されている。
【0054】
相対的に高い効率を達成するために、燃焼室110は、作動媒体Mの比較的高温、約1,000℃〜1,600℃の温度、用に設計されている。材料にとって不都合なこれらの動作パラメータの場合でも比較的長い運転時間を可能とするために、燃焼室壁153は、作動媒体Mに向き合うその側に、遮熱要素155で形成される内張りを備えている。
【0055】
それに加えて、燃焼室110の内部の高い温度のゆえに、遮熱要素155用又は、その保持要素用に冷却システムを設けておくことができる。その場合、遮熱要素155は、例えば中空であり、場合によっては、燃焼室空間154に開口する冷却孔(図示せず)を、なお有する。
【0056】
合金製の各遮熱要素155は、作動媒体側に特別耐熱性の保護層(MCrAlX層及び/又はセラミック被覆)を装備しており、又は耐熱材料(中実セラミック煉瓦)から作製されている。これらの保護層はタービン翼と類似させることができ、つまり、例えばMCrAlXを意味する:Mは鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)の群のうち少なくとも1つの元素、Xは活性元素、イットリウム(Y)及び/若しくはケイ素及び/若しくは少なくとも1つの希土類元素、又はハフニウム(Hf)である。このような合金は、欧州特許第0486489B1号明細書、欧州特許第0786017B1号明細書、欧州特許第0412397B1号明細書又は欧州特許第1306454A1号明細書により公知であり、これらは、合金の化学組成に関して、本開示の一部となるものである。
【0057】
MCrAlX上に、例えば、セラミック断熱層を、なお設けておくことができる。このセラミック断熱層は、例えばZrO2、Y23−ZrO2から成る。即ち、この断熱層は、酸化イットリウム及び/又は酸化カルシウム及び/又は酸化マグネシウムによって、部分的にも又は完全にも安定化されていない。例えば、電子ビーム蒸着(EB−PVD)等の好適な被覆法によって、断熱層内に柱状粒子が生成される。別の被覆法、例えば大気プラズマ溶射(APS)、LPPS、VPS又はCVDが考えられる。断熱層は、耐熱衝撃性を改善するために多孔質、マイクロクラック又はマクロクラックを有する粒子を含有することができる。
【0058】
再処理(磨き直し)とは、タービン翼120、130、遮熱要素155が、それらの利用後に、場合によっては、保護層を(例えばサンドブラストによって)取り除かれねばならないことを意味する。その後、腐食層及び/若しくは酸化層又は腐食生成物及び/若しくは酸化生成物の除去が行われる。場合によっては、なおタービン翼120、130又は遮熱要素155のクラックも修理される。その後、タービン翼120、130、遮熱要素155の再被覆と、タービン翼120、130又は遮熱要素155の再利用とが行われる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係る層又は基材を示す。
【図2】本発明に係る層又は基材を示す。
【図3】本発明に係る層又は基材を示す。
【図4】ガスタービンを示す。
【図5】タービン翼を斜視図で示す。
【図6】燃焼室を斜視図で示す。
【符号の説明】
【0060】
1 粒子
10 部材、層組織
13 基材
16 層
19 層
100 ガスタービン
120、130 タービン翼
138 ケーシング部品
155 遮熱要素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子(1)を含有する、部材(10、120、130、138、155)用又は層(16)用のマトリックスであって、少なくとも1つの金属元素(Me)を含有するマトリックス材料からなるマトリックスにおいて、粒子(1)がマトリックス材料の前記金属元素(Me)と少なくとも1つの非金属、特に窒素、酸素、炭素、ホウ素又はそれらの混合物、とから成る1つの化合物を含有して成り、前記金属元素(Me)が前記化合物中に非化学量論的部分を有し、特に粒子(1)がこの化合物から成るマトリックス。
【請求項2】
少なくとも1つの金属元素(Me)が化合物中に超化学量論的部分を有する請求項1記載のマトリックス。
【請求項3】
粒子(1)が唯1つの金属元素(Me)を含有する請求項1又は2記載のマトリックス。
【請求項4】
粒子(1)が唯2つの金属元素(Me)を含有する請求項1又は2記載のマトリックス。
【請求項5】
金属元素(Me)がアルミニウム(Al)である請求項1、2、3又は4記載のマトリックス。
【請求項6】
金属元素(Me)がクロム(Cr)である請求項1、2、3又は4記載のマトリックス。
【請求項7】
粒子(1)がアルミニウム(Al)とクロム(Cr)とを含有する請求項1、2又は4記載のマトリックス。
【請求項8】
粒子(1)が酸化物(Me−O)を含有する請求項1、2、3、4、5、6又は7記載のマトリックス。
【請求項9】
粒子(1)が窒化物(Me−N)を含有する請求項1、2、3、4、5、6又は7記載のマトリックス。
【請求項10】
粒子(1)がホウ化物(Me−B)を含有する請求項1〜9のいずれか1つ又は複数に記載のマトリックス。
【請求項11】
粒子(1)が炭化物(Me−C)を含有する請求項1〜10のいずれか1つ又は複数に記載のマトリックス。
【請求項12】
粒子(1)が窒化アルミニウム(Al−N)を含有する請求項9記載のマトリックス。
【請求項13】
粒子(1)が酸窒化アルミニウム(Al−N−O)を含有する請求項1、8又は9記載のマトリックス。
【請求項14】
粒子(1)が酸化アルミニウム及び/又は酸化クロムを含有する請求項1〜8のいずれか1つ又は複数に記載のマトリックス。
【請求項15】
粒子(1)の化合物が有機金属化合物(R−C−Me−R)、特にSi−O−C−Me化合物、を含有する請求項1〜14のいずれか1つ又は複数に記載のマトリックス。
【請求項16】
粒子(1)が粒状に形成されている請求項1〜15のいずれか1つ又は複数に記載のマトリックス。
【請求項17】
粒子(1)の直径が≦1μm、特に≦500nm、である請求項1又は16記載のマトリックス。
【請求項18】
前記他の元素(Z)がマトリックス材料の成分ではない請求項1〜17のいずれか1つ又は複数に記載のマトリックス。
【請求項19】
前記他の元素(Z)がマトリックス材料の成分である請求項1〜17のいずれか1つ又は複数に記載のマトリックス。
【請求項20】
化合物が合金を含有する請求項1〜19のいずれか1つ又は複数に記載のマトリックス。
【請求項21】
粒子(1)が別の材料から成る被覆を有していない請求項1〜20のいずれか1つ又は複数に記載のマトリックス。
【請求項22】
基材(13)及び/又はこの基材(13)上に配置される少なくとも1つの層(16、19)と、請求項1〜21のいずれか1つ又は複数に記載されたマトリックスとを有して成る層組織。
【請求項23】
層(16)の上に他の層(19)が配置されている請求項22記載の層組織。
【請求項24】
層(16)が金属である請求項22又は23記載の層組織。
【請求項25】
層(16)がMCrAlX型の合金である請求項23又は24記載の層組織。
【請求項26】
層(16)がセラミック又はガラスセラミックであり、基材(13)が金属である、請求項22又は23記載の層組織。
【請求項27】
層(16)及び/又は基材(13)の内部に粒子(1)の濃度勾配が存在する請求項22、23、24、25又は26記載の層組織。
【請求項28】
基材(13)のみが請求項1〜21のいずれか1つ又は複数に記載のマトリックスを有する請求項22、23、24、25、26又は27記載の層組織。
【請求項29】
層(16)のみが請求項1〜21のいずれか1つ又は複数に記載のマトリックスを有する請求項22、23、24、25、26又は27記載の層組織。
【請求項30】
基材(13)がニッケルに基づくものである請求項22、26、27又は28記載の層組織。
【請求項31】
層(16)がニッケルに基づくものである請求項22、23、24、25、27又は29記載の層組織。
【請求項32】
基材(13)がコバルト基、ニッケル基又は鉄基超合金であり、この超合金上に、特にMCrAlXから成るマトリックスを有する層(16)が被着されており、この層上に、特にセラミック断熱層、特に酸化ジルコニアから成るもの、が設けられている請求項1〜32のいずれか1つ又は複数に記載の層組織。
【請求項33】
層組織(10)が部材用、特にタービンの、特にガスタービン(100)又は蒸気タービンの、タービン翼(120、130)、遮熱要素(155)又はケーシング部品(138)用、に使用される請求項22又は32記載の層組織。
【請求項34】
層組織(10)が、特にガスタービン(100)の、圧縮機翼用に使用される請求項22又は32記載の層組織。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−531543(P2009−531543A)
【公表日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−501992(P2009−501992)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際出願番号】PCT/EP2007/051929
【国際公開番号】WO2007/110295
【国際公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(390039413)シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト (2,104)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Wittelsbacherplatz 2, D−80333 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】