説明

駆動力制御装置

【課題】加速時にドライバビリティを悪化させることなく、燃費を向上させることが可能な駆動力制御装置を提供することを目的とする。
【解決手段】駆動力制御装置10は、アクセル開度と車速から目標駆動力を設定すると共に、目標駆動力を達成すべく、エンジン回転速度、エンジントルク、および無段変速機2の変速比を制御し、加速重視モードである場合には、燃費最適線に従って制御する一方、加速重視モードでない場合、すなわち、通常運転モードの場合には、燃費最適線よりもエンジントルクが低くなるように設定された目標動作線に従って制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動力制御装置に関し、特に、内燃機関および無段変速機が搭載された車両の駆動力を制御する車両用駆動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無段変速機は、無段階に変速比を変化させることが可能に構成されている。このため、無段変速機が搭載された車両の駆動力を制御する場合に、無段変速機の変速比を無段階に調節することにより、運転者の加速要求等に応じて比例的に駆動力を変化させることができる。無段変速機の変速制御において、エンジンの最も燃費率の良い動作点に合わせて目標回転速度を制御する技術として、例えば、特許文献1が提案されている。
【0003】
特許文献1では、急加速が求められたときには、加速中のイナーシャトルク損失を抑制しながらも、実駆動力をできる限り目標駆動力に近づけるために、目標動作点範囲のうちエンジントルクが高い側の目標動作線と、目標駆動力に相当する等駆動力線との交点に於けるエンジン回転速度を最低目標エンジン回転速度とし、前記目標動作点範囲のうちエンジントルクが低い側の目標動作線と、目標駆動力に相当する等駆動力線との交点に於けるエンジン回転速度を最高目標エンジン回転速度として、これら最低目標エンジン回転速度と最高目標エンジン回転速度の間の内分点(tNin)を目標エンジン回転速度として演算する際に、この内分点(tNin)を車両の加速状態に応じて内分比率を変化させる技術が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1では、上下限を同じ燃費悪化率として決定していたが、等燃費領域が広い場合等は、上下限範囲が広くなりすぎるという問題がある。また、内分比を算出して急加速時等加速条件により内分比を変更させると、内分比の値により変速速度が異なってくるため、様々な加速条件が続く実際の走行条件に対して、エンジン回転速度が安定しないという問題がある。
【0005】
【特許文献1】特開2001−354051号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、加速時にドライバビリティを悪化させることなく、燃費を向上させることが可能な駆動力制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、内燃機関と、当該内燃機関の出力が伝達される無段変速機とが搭載された車両の駆動力を制御する駆動力制御装置であって、アクセル開度と車速とに基づいて目標駆動力を設定する目標駆動力設定手段と、
前記目標駆動力設定手段で設定された目標駆動力を達成すべく、内燃機関回転速度、内燃機関トルク、および前記無段変速機の変速比を制御する駆動力制御手段と、加速重視モードか否かを判断する判断手段と、を備え、前記駆動力制御手段は、前記判断手段により加速重視モードであると判断された場合には、燃費最適線に従って制御する一方、前記加速重視モードでない場合には、前記燃費最適線よりも前記内燃機関トルクが低くなるように設定された目標動作線に従って制御することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の好ましい態様によれば、前記判断手段は、アクセル開度または目標パワーが閾値以上の場合に、加速重視モードであると判断することが望ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、内燃機関と、当該内燃機関の出力が伝達される無段変速機とが搭載された車両の駆動力を制御する駆動力制御装置であって、アクセル開度と車速とに基づいて目標駆動力を設定する目標駆動力設定手段と、前記目標駆動力設定手段で設定された目標駆動力を達成すべく、内燃機関回転速度、内燃機関トルク、および前記無段変速機の変速比を制御する駆動力制御手段と、加速重視モードか否かを判断する判断手段と、を備え、前記駆動力制御手段は、前記判断手段により加速重視モードであると判断された場合には、燃費最適線に従って制御する一方、前記加速重視モードでない場合には、前記燃費最適線よりも前記内燃機関トルクが低くなるように設定された目標動作線に従って制御することとしたので、加速時にドライバビリティを悪化させることなく、燃費を向上させることが可能な駆動力制御装置を提供することが可能になるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施の形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものまたは実質的に同一のものが含まれる。
【0011】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る駆動力制御装置を適用した車両の駆動系の概略構成を示す図である。同図において、エンジン1の出力トルクは、無段変速機2へ伝達される。無段変速機2は、変速比を無段階(連続的)に制御するものであり、エンジン1の出力を図示しない駆動軸へ伝達する。エンジン1の出力軸(図示せず)は、無段変速機2の入力軸(図示せず)と連結可能に構成されており、無段変速機2の入力回転数(入力軸回転数)は、エンジン1の回転数(出力軸回転数)と対応している。
【0012】
エンジン1および無段変速機2が搭載された車両(図示せず)には、車両の駆動力を制御する駆動力制御装置10が設けられている。駆動力制御装置10は、目標駆動力算出部11と、目標出力算出部12と、目標制御量算出部13と、制御部14とを備えている。駆動力制御装置10は、周知のマイクロコンピュータによって構成され、図示しないCPU、RAM、ROM、入力ポート、出力ポート、及びコモンバスを備えている。
【0013】
目標駆動力算出部11は、アクセル開度(アクセル操作量)accpおよび車速spdに基づいて、目標駆動力Ftag[N]を算出する。目標駆動力算出部11には、アクセル開度検出手段3、および車速検出手段4が接続されている。アクセル開度検出手段3は、図示しないアクセルに対する運転者の操作量であるアクセル操作量を検出する。なお、アクセルとは、所謂アクセルペダルに限らず、運転者が要求する加速度(駆動力)を車両に指示する操作機器のことである。アクセル操作に基づいて、運転者の加速要求の大きさが検出(推定)される。アクセル開度検出手段3は、アクセルが全開とされた場合のアクセル開度を100%とするアクセル開度accpを検出し、検出結果に対応する信号を目標駆動力算出部11に出力する。目標駆動力算出部11は、アクセル開度検出手段3から取得した信号に基づいてアクセル開度accpを検出する。
【0014】
車速検出手段4は、車両の速度である車速spdを検出するものである。車速検出手段4は、例えば、車速spdに比例する無段変速機2の出力軸の回転数を検出し、検出結果に対応する信号を目標駆動力算出部11に出力する。目標駆動力算出部11は、車速検出手段4から取得した信号に基づいて車速spdを検出する。
【0015】
目標駆動力算出部11は、検出されたアクセル開度accpおよび車速spdに基づいて、図2に示すマップを参照して目標駆動力Ftag(N)を算出する。図2において、横軸は車速spd、縦軸は駆動力forceをそれぞれ示す。符号accp1、accp2、およびaccp3は、アクセル開度accpの大きさに応じた車速spdと目標駆動力Ftag(N)との関係を示す曲線である。accp1からaccp3の順でアクセル開度accpが大きな値となっている。図2に示すように、所定の車速spdに対して、アクセル開度accpが大きな値となるほど、目標駆動力Ftag(N)が大きな値として算出される。目標駆動力算出部11は、算出された目標駆動力Ftag(N)、および車速spdを目標出力算出部12に出力する。
【0016】
目標出力算出部12は、目標駆動力算出部11から取得した目標駆動力Ftagおよび車速spdに基づいて、エンジン1の目標パワー(目標出力)P(kW)を算出する。目標出力算出部12は、目標駆動力Ftagと車速spdの乗算により目標パワーP(kW)を算出する。
【0017】
目標制御量算出部13は、目標出力算出部12で算出された目標パワーP(kW)に基づいて、目標制御量を算出する。ここで、目標制御量は、エンジン1の回転速度Neの目標値である目標エンジン回転速度Netag、および、エンジン1の出力トルクTeの目標値である目標エンジントルクTetagである。目標制御量算出部13は、目標パワーPに基づいて、図3に示すマップを参照して目標制御量(目標エンジン回転速度Netag、目標エンジントルクTetag)を算出する。
【0018】
図3において、横軸はエンジン回転速度Ne、縦軸はエンジン1の出力トルクTeをそれぞれ示す。符号P1,P2,およびP3は、エンジン1の出力(パワー)が等しくなる等パワー線を示す。エンジン1の動作点(エンジン回転速度Neと出力トルクTeの組み合わせ)が同一の等パワー線上にある場合には、エンジン1の出力(パワー)が等しくなる。符号P1で示す等パワー線から符号P3で示す等パワー線の順でエンジン1の出力が大きな値となる。符号E1、E2、E3は、燃費が等しくなる等燃費線を示しており、エンジン1の動作点が同一の等燃費線上にある場合には、エンジン1の燃費が等しくなる。符号E1で示す等パワー線から符号E3で示す等パワー線の順でエンジン1の燃料消費率が小さくなる。
【0019】
燃費最適線は、エンジン1を最適な燃費で(効率良く)運転できる運転領域を示しており、等燃費線のうち最も燃費率が良い点で、等パワー線と交差する点を結んだものである。下限目標動作線は、燃費最適線に対して、エンジントルクが低くなるように設定されたものである。通常運転モードの場合には、燃費最適線よりもエンジントルクが低くなるように設定された下限目標動作線に従って、目標の動作点を設定する。他方、加速重視モードの場合には、燃費最適線に従って、目標の動作点を設定する。
【0020】
すなわち、通常動作モードでは、必要なパワー(目標パワーP)と下限目標動作線とから目標エンジン回転速度Netagおよび目標エンジントルクTetagを算出する制御を基本とする。例えば、目標パワーPに対応する等パワー線が符号P2で示す等パワー線である場合について説明すると、等パワー線P2と下限目標動作線との交点(動作点)X1を求める。符号X1で示す動作点と現在の動作点との関係に基づいて、動作点X1を目標の動作点として設定可能である場合には、動作点X1に対応するエンジン回転速度Ne1および出力トルクTe1が、目標エンジン回転速度Netagおよび目標エンジントルクTetagとしてそれぞれ設定される。
【0021】
また、加速重視モードでは、必要なパワー(目標パワーP)と燃費最適線とから目標エンジン回転速度Netagおよび目標エンジントルクTetagを算出する制御を基本とする。例えば、目標パワーPに対応する等パワー線が符号P2で示す等パワー線である場合について説明すると、等パワー線P2と燃費最適線との交点(動作点)X2を求める。符号X2で示す動作点と現在の動作点との関係に基づいて、動作点X2を目標の動作点として設定可能である場合には、動作点X2に対応するエンジン回転速度Ne2および出力トルクTe2が、目標エンジン回転速度Netagおよび目標エンジントルクTetagとしてそれぞれ設定される。
【0022】
図1に示すように、算出された目標エンジン回転速度Netagおよび目標エンジントルクTetagは、目標制御量算出部13から制御部14へ出力される。制御部14は、エンジン1に接続されており、制御部14からエンジン1へ、エンジン1の運転状態を制御するための指令値が出力される。制御部14は、目標エンジン回転速度Netagおよび目標エンジントルクTetagを実現するようにエンジン1を制御する。また、制御部14は、無段変速機2に接続されており、制御部14から無段変速機2へ変速比の目標値を示す信号が出力される。制御部14は、エンジン回転速度Ne(無段変速機2の入力回転数)を目標エンジン回転速度Netagとするように無段変速機2の変速比の目標値を決定する。無段変速機2は、制御部14から取得した変速比の目標値に従って変速を実行する。
【0023】
図4〜図8を参照して、上記駆動力制御装置10の駆動力制御を詳細に説明する。図4は、通常運転モードの駆動力制御を説明するための説明図である。図5は、通常運転モードのタイムチャートの一例を示す図であり、(A)はアクセル開度、(B)は加速重視モードのON/OFF、(C)はエンジントルク、(D)はエンジン回転速度の推移の一例を示している。図4および図5において、符号A1〜A4は対応している。
【0024】
図4および図5では、アクセルが踏み込まれ、目標出力をP3とした場合を例示して説明する。図4および図5において、通常運転モード(加速要求がない定常的な状態あるいは加速要求が小さい準定常的な状態)では、動作点が下限目標動作線上に位置するように、エンジントルクおよびエンジン回転速度(変速比)が制御される。出力要求量が増大する以前の状態、すなわち加速要求前の初期状態はA1点で示され、この状態でアクセルが踏み込まれ(但し、アクセル開度<加速重視モード閾値)、所定値以上の出力要求があると、エンジントルクを急峻に増大させると共に、エンジン回転速度(変速比)を増大させて達成された運転点がA2点である。さらに、エンジントルク、エンジン回転速度(変速比)を増大させると、目標出力P3に一致する(A3点)。その後、下限目標動作線を目標とする動作点(A4点)に向けてエンジン1の運転状態が変更される。
【0025】
一般的な走行条件においては、交通環境に合わせてアクセル開度を連続的に変化、すなわち、要求出力を連続的に変化させて運転されているため、エンジンの最も燃費率の良い動作点に対して、エンジントルクが高めに運転される傾向にあるが、下限目標動作点を基本目標動作点とすることで、結果的にエンジンの最も燃費率の良い動作点を運転する頻度が高くなる。
【0026】
図6は、加速重視モードの駆動力制御を説明するための説明図である。図7は、加速重視モードのタイムチャートの一例を示す図であり、(A)はアクセル開度、(B)は加速重視モードのON/OFF、(C)はエンジントルク、(D)はエンジン回転速度の推移の一例を示している。図6および図7において、符号A5およびA6は対応している。
【0027】
図6および図7では、アクセルが踏み込まれ、目標出力をP3とした場合を例示して説明する。図6および図7において、アクセルが踏み込まれ、アクセル開度が加速重視モード閾値以上となった場合には、加速重視モードがONとなり、燃費最適線を目標とする動作点(A5)に向けてエンジン1の運転状態が変更される。この後、エンジン回転速度抑制制御が行われ、燃費最適線の動作点(A5点)から燃費最適線に従って、出力要求量になるように、エンジントルク(エンジン負荷)およびエンジン回転速度(変速比)が制御され、要求出力P3が達成される(A6点)。
【0028】
加速重視モード走行条件においては、もともとエンジン回転速度上昇を抑制した状態となるため、エンジンの最も燃費率の良い動作点を忠実に運転する方が効率が良く、上記実施の形態1により、通常走行状態と加速重視モード走行状態の両条件において、燃費が向上する。
【0029】
図8は、図1の駆動力制御装置10の駆動力制御を説明するためのフローチャートである。図8に示すフローは、駆動力制御装置10により繰り返し実行される。同図において、まず、目標駆動力算出部11は、検出されたアクセル開度accpおよび車速spdに基づいて、図2に示すマップを参照して目標駆動力Ftagを算出して、目標出力算出部12に出力する(ステップS1)。目標出力算出部12は、目標駆動力算出部11から取得した目標駆動力Ftagおよび車速spdに基づいて、エンジン1の目標パワー(目標出力)P(kW)を算出する(ステップS2)。つぎに、目標制御量算出部13は、加速重視モードであるか否かを判断する(ステップS3)。加速重視モードであるか否かの判断は、例えば、アクセル開度で判断することができ、アクセル開度が閾値以上の場合に、加速重視モードと判断することができる。また、加速重視モードの判断は、目標パワーPに基づいて判断してもよく、さらに、アクセル開度と目標パワーPとに基づいて判断することにしてもよい。
【0030】
目標制御量算出部13は、加速重視モードである場合には(ステップS3の「Yes」)、変速速度抑制制御(エンジン回転変化抑制制御)を実行し(ステップS4)、目標パワーPと燃費最適線から目標エンジン回転速度Netagを算出する(ステップS5)。他方、加速重視モードでない場合(ステップS3の「No」)、すなわち、通常モードの場合には、変速速度抑制制御(エンジン回転変化抑制制御)を実行しないで、目標パワーPと下限目標動作線から目標エンジン回転速度Netagを算出する(ステップS6)。
【0031】
以上説明したように、実施の形態1によれば、駆動力制御装置10は、アクセル開度と車速から目標駆動力を設定すると共に、目標駆動力を達成すべく、エンジン回転速度、エンジントルク、および無段変速機2の変速比を制御し、加速重視モードである場合には、燃費最適線に従って制御する一方、加速重視モードでない場合、すなわち、通常運転モードの場合には、燃費最適線よりもエンジントルクが低くなるように設定された目標動作線に従って制御することとしたので、加速を重視する運転モードにおいて、ドライバビリティを悪化させることなく、燃費を向上できる。
【0032】
(実施の形態2)
実施の形態2では、駆動力制御装置10は、燃費最適線に対してエンジントルクが低くなるように設定された下限目標動作点を基本目標動作点とする。また、燃費最適線に対してエンジントルクが高くなるように、設定された上限目標動作線に対して、要求される目標出力が、下限目標動作点と上限目標動作点の範囲内にある場合、当該上限目標動作線に従ってエンジン回転速度の変化を抑制しながらエンジン回転速度を制御する。
【0033】
図9〜図11を参照して、実施の形態2に係る駆動力制御装置10の駆動力制御を詳細に説明する。図1の目標制御量算出部13は、目標パワーPに基づいて、図9に示すマップを参照して目標制御量(目標エンジン回転速度Netag、目標エンジントルクTetag)を算出する。図9において、上限目標動作線は、燃費最適線よりもエンジントルクが高くなるように設定されたものである。
【0034】
図10は、実施の形態2に係るタイムチャートの一例を示す図であり、(A)はアクセル開度、(B)はエンジンパワー、(C)はエンジントルク、(D)はエンジン回転速度の推移の一例を示している。図9および図10において、符号B1〜B4は対応している。
【0035】
図9および図10では、アクセルが踏み込まれ、目標出力をP3とした場合を例示して説明する。図9および図10において、加速要求がない定常的な状態あるいは加速要求が小さい準定常的な状態では、動作点が下限目標動作線上に位置するように、エンジントルクおよびエンジン回転速度(変速比)が制御される。出力要求量が増大する以前の状態、すなわち加速要求前の初期状態はB1点で示され、この状態でアクセルが踏み込まれ、所定値以上の出力要求があり、目標エンジントルクTetag(目標パワーPと現在エンジン回転速度Neinに基づいて算出)<上限エンジントルクThigh(現在エンジン回転速度Neinと上限目標動作線に基づいて算出)である場合には、上限目標動作線を目標とする動作点(B2点)に向けて、エンジントルクを急峻に増大させると共に、エンジン回転速度(変速比)を増大させる。この後、エンジン回転変化抑制制御が行われ、上限目標動作線の動作点(B2点)から上限目標動作線に従って、目標出力P3になるように、エンジントルクおよびエンジン回転速度(変速比)が制御され、目標出力が達成される(B3点)。その後、下限目標動作線を目標とする動作点(B4点)に向けてエンジン1の運転状態が変更される。
【0036】
一般に、エンジン目標回転速度を制御する変速機構には、応答遅れが存在する。目標出力は、その変速応答遅れを補償するように、エンジントルクを高めて出力の応答遅れを抑制している。一般的な走行条件においては、交通環境に合わせてアクセル開度を連続的に変化、すなわち、要求出力を連続的に変化させて運転されているため、エンジンの最も燃費率の良い動作点に対して、エンジントルクが高めに運転される傾向にあるが、下限目標動作点を基本目標動作点とすることで、結果的にエンジンの最も燃費率の良い動作点を運転する頻度が高くなる。また、要求される目標出力が下限目標動作点と上限目標動作点の範囲内にある場合にのみ変速速度を抑制するため、範囲内にある時はイナーシャトルク損失が抑制され、エンジンの最も燃費率の良い状態を継続しようとする場合よりも、燃費が向上して、さらに、ドライバビリティも向上する。また、範囲外にある時、すなわち、目標駆動力が大きく変化した時は、変速速度を抑制しないため、変速速度抑制に伴う動力性能悪化を防ぐことが可能となる。
【0037】
図11は、図1の駆動力制御装置10の駆動力制御を説明するためのフローチャートである。図11に示すフローは、駆動力制御装置10により繰り返し実行される。同図において、まず、目標駆動力算出部11は、検出されたアクセル開度accpおよび車速spdに基づいて、図2に示すマップを参照して目標駆動力Ftagを算出して、目標出力算出部12に出力する(ステップS11)。目標出力算出部12は、目標駆動力算出部11から取得した目標駆動力Ftagおよび車速spdに基づいて、エンジン1の目標パワー(目標出力)P(kW)を算出する(ステップS12)。つぎに、目標制御量算出部13は、目標パワーP)と現在エンジン回転速度Neinとに基づいて、目標エンジントルクTetagを算出する(ステップS13)。また、目標制御量算出部13は、現在エンジン回転速度Neinと上限目標動作線とに基づいて上限エンジントルクThighを算出する(ステップS14)。目標制御量算出部13は、目標エンジントルクTetag<上限エンジントルクThighであるか否かを判定する(ステップS15)。目標制御量算出部13は、目標エンジントルクTetag<上限エンジントルクThighである場合には(ステップS15の「Yes」)、変速速度抑制制御(エンジン回転変化抑制制御)を実行する(ステップS16)。
【0038】
以上説明したように、実施の形態2によれば、駆動力制御装置10は、燃費最適線に対してエンジントルクが低くなるように設定された下限目標動作線に従って駆動力制御を行い、また、燃費最適線に対してエンジントルクが高くなるように設定された上限目標動作線に対して、要求される目標出力が、下限目標動作点と上限目標動作点の範囲内にある場合、当該上限目標動作線に従ってエンジン回転変化を抑制しながらエンジン回転速度を制御することとしたので、加速時および定常走行時の燃費を向上させることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明に係る駆動力制御装置は、加速時のドライバビリティを悪化させることなく、燃費を向上させる場合に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施の形態1に係る駆動力制御装置を適用した車両の駆動系の概略構成を示す図である。
【図2】アクセル開度および車速と目標駆動力との対応関係を示す図である。
【図3】目標パワーと目標制御量との対応関係を示す図である。
【図4】通常運転モードの駆動力制御を説明するための説明図である。
【図5】通常運転モードのタイムチャートの一例を示す図である。
【図6】加速重視モードの駆動力制御を説明するための説明図である。
【図7】加速重視モードのタイムチャートの一例を示す図である。
【図8】図1の駆動力制御装置の駆動力制御を説明するためのフローチャートである。
【図9】目標パワーと目標制御量との対応関係を示す図である。
【図10】実施の形態2に係るタイムチャートの一例を示す図である。
【図11】図1の駆動力制御装置の実施の形態2に係る駆動力制御を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0041】
1 エンジン
2 無段変速機
3 アクセル開度検出手段
4 車速検出手段
10 駆動力制御装置
11 目標駆動力算出部
12 目標出力算出部
13 目標制御量算出部
14 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、当該内燃機関の出力が伝達される無段変速機とが搭載された車両の駆動力を制御する駆動力制御装置であって、
アクセル開度と車速とに基づいて目標駆動力を設定する目標駆動力設定手段と、
前記目標駆動力設定手段で設定された目標駆動力を達成すべく、内燃機関回転速度、内燃機関トルク、および前記無段変速機の変速比を制御する駆動力制御手段と、
加速重視モードか否かを判断する判断手段と、
を備え、
前記駆動力制御手段は、前記判断手段により加速重視モードであると判断された場合には、燃費最適線に従って制御する一方、前記加速重視モードでない場合には、前記燃費最適線よりも前記内燃機関トルクが低くなるように設定された目標動作線に従って制御することを特徴とする駆動力制御装置。
【請求項2】
前記判断手段は、アクセル開度または目標パワーが閾値以上の場合に、加速重視モードであると判断することを特徴とする請求項1に記載の駆動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−47127(P2010−47127A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−213333(P2008−213333)
【出願日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】