説明

駆動装置

【課題】装置を構成する各部を適切に配置することができ、装置を小型化することができる駆動装置を提供することにある。
【解決手段】内燃機関と、ロータ及びステータを備える電動機と、内燃機関により回転される入力軸と、動力を伝達する出力軸と、入力軸の軸方向において、電動機の内燃機関側とは反対側に配置され、内部に循環流体が流され、入力軸から出力軸へ動力を伝達するトルクコンバータと、入力軸と電動機との係合状態と解放状態とを切り替えるクラッチ機構と、電動機と前記トルクコンバータとの間に設けられ、電動機のステータを支持する支持壁を有し、クラッチ機構は、トルクコンバータ内部に配置され、トルクコンバータ内を流れる循環流体が供給され、かつ、供給される流体の圧力により係合状態と解放状態とを切り替えることで上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達するか否かを切り替える機構を有する駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車としては、駆動源としてエンジンと電動機(電動モータ)とを有するハイブリッド自動車がある。また、このようなハイブリッド自動車では、駆動源となる電動機をスタータとしても使用する自動車がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、エンジンと、モータジェネレータと、エンジンとモータジェネレータとを係合(締結)/解放(開放)を切り替える摩擦クラッチとを有する駆動装置が記載されている。また、摩擦クラッチは、油圧クラッチであり、かつ、クラッチを係合状態となる方向に付勢する圧縮ばねが配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−1165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されているように、ばねでクラッチを係合(連結)状態とし、エンジンのクランク軸と中間出力軸とを連結しておくことで、半クラッチの制御をより簡単にすることができる。しかしながら、特許文献1に記載の装置では、スペースに制約があるため、モータを大型化できない、また、トルクコンバータを配置できないという問題がある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、装置を構成する各部を適切に配置することができ、装置を小型化することができる駆動装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の駆動装置は、内燃機関と、ロータ及びステータを備える電動機と、前記内燃機関により回転される入力軸と、動力を伝達する出力軸と、前記入力軸の軸方向において、前記電動機の前記内燃機関側とは反対側に配置され、内部に循環流体が流され、前記入力軸から前記出力軸へ動力を伝達するトルクコンバータと、前記入力軸と前記電動機との係合状態と解放状態とを切り替えるクラッチ機構と、前記電動機と前記トルクコンバータとの間に設けられ、前記電動機のステータを支持する支持壁を有し、前記クラッチ機構は、前記トルクコンバータ内部に配置され、前記トルクコンバータ内を流れる前記循環流体が供給され、かつ、供給される流体の圧力により係合状態と解放状態とを切り替えることを特徴とする。
【0008】
前記トルクコンバータは、前記入力軸と前記出力軸との係合状態と解放状態を切り替えるロックアップ機構を備え、前記クラッチ機構は、前記入力軸の中心軸に平行な方向において、少なくとも一部が前記ロックアップ機構と重なる位置に配置されていることが好ましい。
【0009】
また、前記トルクコンバータは、前記入力軸と前記出力軸との係合状態と解放状態を切り替えるロックアップ機構を備え、前記クラッチ機構の可動部は、前記入力軸の中心軸に垂直な方向において、前記ロックアップ機構の可動部とは、異なる位置に配置されていることが好ましい。
【0010】
また、前記電動機の前記ロータの内側に配置された、前記内燃機関と前記入力軸とを連結するダンパをさらに備えることが好ましい。
【0011】
また、前記電動機の前記ロータを前記支持壁に対して回転自在な状態で支持するベアリングと、前記ロータと前記支持壁との間で、前記ベアリングよりも内燃機関側に配置されたオイルシールとをさらに有することが好ましい。
【0012】
また、前記クラッチ機構は、作動流体が供給されてない状態で、係合状態となり、前記電動機は、前記ロータの前記内燃機関側に配置されたスタータ用リングギヤを有することが好ましい。
【0013】
さらに、前記内燃機関と前記クラッチ機構との間の動力が伝達される経路に配置されたダンパをさらに有することが好ましい。
【0014】
また、前記クラッチ機構は、前記入力軸に連結された第1摩擦部材、及び、前記ロータに連結され、前記第1摩擦部材と対面して配置された第2摩擦部材を含み、前記第1摩擦部材と前記第2摩擦部材とが接触することで、前記内燃機関と前記ロータとを係合状態とさせる係合部と、前記第1摩擦部材または前記第2摩擦部材と接触可能な接触部を備え、前記接触部が前記第1摩擦部材または前記第2摩擦部材と接触する位置から、前記第1摩擦部材及び前記第2摩擦部材とに接触しない位置まで移動可能な剛体と、前記剛体に対して、前記接触部が前記第1摩擦部材または前記第2摩擦部材と接触する位置に移動する方向の力を加える弾性体と、前記剛体に対して、前記接触部が前記第1摩擦部材または前記第2摩擦部材と接触する位置に移動する方向の液体の圧力を加える第1押圧機構と、前記剛体に対して、前記接触部が前記第1摩擦部材及び前記第2摩擦部材と接触しない位置に移動する方向の液体の圧力を加える第2押圧機構、を備え、前記第1押圧機構と前記第2押圧機構のいずれか一方は、前記トルクコンバータから作動流体が供給されることが好ましい。
【0015】
また、前記剛体は、前記第1摩擦部材と接触し、前記第1摩擦部材と前記第2摩擦部材と接触させる位置に配置されていることが好ましい。
【0016】
また、前記第1摩擦部材は、複数の板状の第1摩擦体で構成され、前記第2摩擦部材は、複数の板状の第2摩擦体で構成され、前記第1摩擦体と前記第2摩擦体とは、交互に配置されていることが好ましい。
【0017】
また、前記第1押圧機構と前記第2押圧機構とは、供給する液体の量及び液体の圧力の少なくとも一方を調整することで、前記剛体に加える力を調整可能であることが好ましい。
【0018】
また、前記第1押圧機構は、前記液体の圧力として、前記トルクコンバータの循環流体が前記剛体に付加する圧力を使用することが好ましい。
【0019】
また、前記第2押圧機構は、前記液体の圧力として、前記トルクコンバータの循環流体が前記剛体に付加する圧力を使用することが好ましい。
【0020】
また、前記係合部、前記剛体及び前記弾性体は、前記トルクコンバータの内部に配置されていることが好ましい。
【0021】
また、前記第1押圧機構は、前記係合部が解放状態の場合は、前記接触部が前記第1摩擦部材または前記第2摩擦部材と接触する位置に移動する方向の液体の圧力を設定された圧力値以下とすることが好ましい。
【0022】
また、前記係合部は、前記弾性体が前記剛体を押す力のみが作用する状態のとき、前記入力軸と前記電動機とが係合状態となることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明にかかる駆動装置は、装置を構成する各部を適切に配置することができ、装置を小型化することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、駆動装置の一例の概略構成を示す模式図である。
【図2】図2は、駆動装置の作動油の循環経路を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、駆動装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。なお、下記で説明する駆動装置は、主に四輪自動車の駆動装置として用いるものであるが、四輪自動車以外の自動車、例えば、二輪自動車の駆動装置としても用いることができる。また、船舶、飛行機の駆動装置等、種々の装置の駆動装置として用いることもできる。
【実施例】
【0026】
図1は、駆動装置の一例の概略構成を示す模式図であり、図2は、駆動装置の作動油の循環経路を示す模式図である。駆動装置1は、エンジン2、モータ3、動力伝達装置4と、支持体5で構成されている。ここで、エンジン2及びモータ3は、駆動源であり、動力伝達装置4は、エンジン2及びモータ3から出力された駆動力を他の部材に伝達する。なお、他の部材としては、変速機構等が例示される。駆動装置1は、エンジン2、モータ3から出力した駆動力を、動力伝達装置4を介して他の部材に伝達し、他の部材を回転、動作させる。これにより、駆動装置1を備える装置は、駆動され、移動可能な状態となったり、出力可能な状態となったりする。
【0027】
エンジン2は、ガソリン、軽油、バイオエタノール等の燃力を燃焼し、熱を機械的動力として出力する。なお、エンジン2としては、内燃機関、外燃機関等の種々の燃焼機関を用いることができる。エンジン2は、動力を動力伝達装置4に伝達する。
【0028】
モータ3は、いわゆるモータジェネレータであり、供給された電力を機械的動力に変換する電動機としての機能と、入力された機械的動力を電力に変換する発電機としての機能と、エンジン2を始動させるスタータとしての機能を備えている。モータ3は、ステータ10と、ステータ10に対して回転自在のロータ12とで構成されている。モータ3は、電力を供給されることで、ロータ12をステータ10に対して回転させる。また、外部の動力により、ロータ12がステータ10に対して回転されることで、この回転により発生する機械的動力を電力として取り出す。モータ3は、ロータ12が動力伝達装置4と連結されている。また、ロータ12のエンジン2側の端部には、リングギヤ13が配置されている。リングギヤ13は、エンジン2の起動時に回転されるスタータ用のリングギヤである。
【0029】
動力伝達装置4は、エンジン2及びモータ3から出力された機械的動力を他の部材に伝達する装置である。動力伝達装置4は、入力軸20と、出力軸22と、トルクコンバータ24と、ダンパ25と、オイルシール26a、26bと、ベアリング27と、クラッチ機構28と、動力伝達装置4の各部の動作を制御するECU(Electronic Control Unit)29と、を有する。また、動力伝達装置4は、必要に応じて、モータ3から出力された機械的動力をエンジン2にも伝達する。動力伝達装置4については、後ほど説明する。
【0030】
支持体5は、駆動装置1を構成する各部を外周側から支持する部材であり、支持壁6を備える。支持体5は、駆動装置1を保持する車両の筐体等に連結されており、エンジン2、モータ3、動力伝達装置4の外周の回転しない部材を支持し、また、回転する部材は、ベアリング等を介し、回転自在に支持している。
【0031】
また、支持壁6は、モータ3と、動力伝達装置4のトルクコンバータ24との間に配置されている。つまり、駆動装置1は、入力軸20の軸方向において、エンジン2側からモータ3、支持壁6、トルクコンバータ24の順で配置されている。また、支持壁6は、入力軸20の軸に垂直な面において、入力軸20の外周の近傍まで延在して配置されている。また、後述するがモータ3のロータ12と、トルクコンバータ24の一部とは、連結されており、一緒に回転する。従って、モータ3のロータ12と、トルクコンバータ24の一方(本実施形態では、ロータ12の一部)は、入力軸20の外周と、支持壁6との間を通って、トルクコンバータ24側まで延在している。
【0032】
次に、動力伝達装置4の各部について詳細に説明する。入力軸20は、エンジン2と連結されており、エンジン2の回転部とともに回転する。
【0033】
出力軸22は、他の部材及びトルクコンバータ24と連結されており、トルクコンバータ24の一部とともに回転し、トルクコンバータ24から伝達された機械的動力を他の部材に伝達する。
【0034】
トルクコンバータ24は、ポンプインペラ30と、タービンランナ32と、ステータ34と、ロックアップクラッチ機構36と、ダンパ38と、循環油供給手段39と、ロックアップ油供給手段40と、フロントカバー49とを有する。なお、トルクコンバータ24の各部は、フロントカバー49で覆われた領域内に配置されている。また、フロントカバー49は、モータ3のロータ12と連結されており、ロータ12とともに回転する。
【0035】
トルクコンバータ24は、ポンプインペラ30からの機械的動力を、トルクを増大させてタービンランナ32に伝達可能な流体伝動機構である。具体的には、トルクコンバータ24は、ポンプインペラ30で受けた機械的動力を、作動流体(循環油、例えば、ATF:自動変速機用フルード)を介してタービンランナ32に伝達する。ポンプインペラ30からタービンランナ32に流れた作動流体は、ステータ34により流動方向を変えられて、再びポンプインペラ30に流入する。これにより、トルクコンバータ24は、ポンプインペラ30からタービンランナ32に伝達されるトルクを増大させつつ(トルクの増大に比例して回転数は減少させつつ)、動力を伝達させる。なお、トルクコンバータ24内を流れる作動流体(循環油)は、循環油供給手段39により供給される。
【0036】
なお、ポンプインペラ30は、フロントカバー49を介して、モータ3のロータ12と連結されており、ロータ12とともに回転する。つまり、ポンプインペラ30とフロントカバー49とロータ12とはともに回転する。また、タービンランナ32は、出力軸22連結されており、出力軸22とともに回転する。
【0037】
ロックアップクラッチ機構36は、フロントカバー49(正確には、フロントカバー49に固定された後述する第1保持部62)に伝達された機械的駆動力をトルクコンバータ24内の作動流体を介さずに直接出力軸22に伝達することを可能にする機構である。ロックアップクラッチ機構36は、摩擦係合部36aと、摩擦係合部36aを支持した支持部36bと、を有する。ここで、支持部36bは、タービンランナ32に対して回転方向に直交する方向に移動可能である。また、支持部36bの壁面とタービンランナ32の壁面の間には油室36cが形成されている。また、ロックアップクラッチ機構36は、図示を省略したが、支持部36bをタービンランナ32側に付勢するばねを設けてもよい。
【0038】
ロックアップクラッチ機構36は、後述するロックアップ油供給手段40により油室36cに作動油(ロックアップ油)が供給され、油室36c内の圧力が一定圧力以上となると、油室36c内の圧力により、支持部36bがタービンランナ32から離れる方向に移動される。これにより、摩擦係合部36aがフロントカバー49または、フロントカバー49とともに回転する部材(後述する第1保持部62)と接触する。
【0039】
ここで、フロントカバー49側の摩擦係合部36aと接触する部分には、摩擦係合部37が配置されている。摩擦係合部37は、摩擦係合部36aと同様の構成である。したがって、摩擦係合部36aが移動されると、摩擦係合部36aと摩擦係合部37とが接触し、一定圧力以上で押し付けられることで、両者が係合し、連結される。なお、この構成は、後述する係合部50の摩擦部材と同様であるので、詳細な説明は係合部50で行う。
【0040】
このように、摩擦係合部36aとフロントカバー49とが直接または、間接で連結されることで、ポンプインペラ30とタービンランナ32と一緒に回転する状態となる。これにより、フロントカバー49に伝達された駆動力は、そのまま、出力軸22に伝達される。
【0041】
また、ロックアップクラッチ機構36は、ロックアップ状態ではない場合は、フロントカバー49と非接触であるため、上述したように、フロントカバー49に伝達された駆動力は、ポンプインペラ30、作動流体、タービンランナ32を介して、出力軸22に伝達される。
【0042】
なお、油室36cに供給される作動油は、トルクコンバータ24のうち、油室36c内にのみ充填され、他の部分には、供給されない。つまり、作動流体(循環油)とは異なる領域に供給される。
【0043】
ダンパ38は、フロントカバー49のロックアップクラッチ機構36の摩擦係合部36aとの連結部に配置されている。より具体的には、フロントカバー49側の摩擦係合部37と、後述する第1保持部62との間に配置されている。また、ダンパ37は、摩擦係合部36a、摩擦係合部37よりも円周方向において内側(つまり、内径側)に配置されている。また、ダンパ38と、摩擦係合部36a、摩擦係合部37とは、軸方向(入力軸20の軸方向、回転軸)において略同一位置に配置されている。つまり、摩擦係合部36a、摩擦係合部37は、軸方向(入力軸の中心軸に平行な方向)において、少なくとも一部がダンパ38と重なる位置に配置されている。すなわち、ダンパ38と、摩擦係合部36a、摩擦係合部37とは、回転軸に垂直な1つ面上に配置されている。
【0044】
ダンパ38は、ロックアップ状態の場合に、フロントカバー49から伝達される動力をロックアップクラッチ機構36に伝達する。また、ダンパ37は、係合時の衝撃を吸収する機構であり、ロックアップ時にフロントカバー49及びロックアップクラッチ機構36に加わる衝撃を低減(吸収)する。ダンパ38は、このように、ロックアップ時に発生する衝撃を低減する。
【0045】
次に、循環油供給手段39は、トルクコンバータ24のフロントカバー49に覆われている内部に作動流体(循環油)を供給する供給装置であり、供給口42と、供給口42と連結された油路44と、油路44に作動流体を供給する循環油供給ポンプ48とを有する。循環油供給手段39は、循環油供給ポンプ48から、油路44、供給口42を介して、トルクコンバータ24のフロントカバー49内に作動流体を供給することで、フロントカバー49内には、作動油が充填された状態となる。なお、フロントカバー49内は、作動流体の供給口42と排出口以外からは、作動流体が出ない構成となっている。循環油供給手段39からトルクコンバータ24のフロントカバー49内に作動流体を供給し続けることで、フロントカバー49内の作動流体を循環させることができる。
【0046】
ロックアップ油供給手段40は、油室36cに作動油(ロックアップ油)を供給する供給装置であり、油室36cと連結した供給口46を有する。また、図示は省略したが、ロックアップ油供給手段40は、供給口46と連結した、油路と、作動油を供給する供給ポンプを備える。
【0047】
次に、ダンパ25は、エンジン2と、入力軸20との間に配置されている。また、ダンパ25は、軸方向(入力軸20の軸方向、回転軸)において、モータ3と略同一位置に配置されている。つまり、ダンパ25は、軸方向(入力軸の中心軸に平行な方向)において、少なくとも一部がモータ3と重なる位置に配置されている。すなわち、ダンパ25と、モータ3とは、回転軸に垂直な1つ面上に配置されている。また、ダンパ25は、モータ3よりも円周方向において内側(つまり、内径側)に配置されている。さらに、ダンパ25は、入力軸20よりに円周方向において外側(つまり、外径側)に配置されている。
【0048】
ダンパ25は、エンジン2から伝達される動力を入力軸20に伝達する。また、逆に、ダンパ25は、入力軸20から伝達される動力をエンジン2に伝達する場合もある。また、ダンパ25は、係合時の衝撃を吸収する機構であり、動力伝達中にエンジン2及び入力軸20に加わる衝撃を低減(吸収)する。つまり、ダンパ25は、エンジン2と入力軸20の回転数に差がある場合は、一方にトルクの変動が発生した場合でも他方に作用するトルクの変動量を低減し、徐々に力を伝達させる。
【0049】
オイルシール26a、26bは、回転要素同士の接続部で流体(作動油、潤滑油)が漏出するのを抑制する部材である。オイルシール26aは、ロータ12と、入力軸20との間に配置されている。また、オイルシール26bは、支持壁6と、ロータ12との間に配置されている。なお、ロータ12のオイルシール26bが設けられている部分は、回転軸方向において、モータ3のステータ10が配置されている位置から、トルクコンバータ24のフロントカバー49との連結部に向かって延在している部分である。
【0050】
ベアリング27は、回転部材を回転自在な状態で支持する部材であり、支持壁6と、ロータ12との間に配置されている。また、ベアリング27は、オイルシール26bよりもトルクコンバータ24側に配置されている。このように、支持壁6は、ベアリング27を介してロータ12を回転自在に支持している。
【0051】
次に、クラッチ機構28は、フロントカバー49と入力軸20との係合、解放とを切り替える切り替え機構である。つまり、クラッチ機構28は、フロントカバー49に連結されているモータ3と、入力軸20に連結されているエンジン2とが、係合されている状態と、係合していない状態とを切り替える機構である。また、入力軸20に連結されているエンジン2と、トルクコンバータ24(フロントカバー49)とが係合されている状態と、係合していない状態とを切り替える機構でもある。クラッチ機構28は、係合部50と、ピストン52と、弾性体54と、作動油供給手段56とを有する。ここで、係合部50と、ピストン52と、弾性体54とは、フロントカバー49の内部に配置されている。
【0052】
係合部50は、第1摩擦部材58と、第2摩擦部材60と、第1保持部62と、第2保持部64と、とを有する。第1摩擦部材58は、複数の第1摩擦板で構成されている。第2摩擦部材60も複数の第2摩擦板で構成されており、第1摩擦部材58と対面して配置されている。具体的には、複数の第1摩擦板と、複数の第2摩擦板とがそれぞれ互い違い、つまり交互に積層されて配置されている。したがって、第1摩擦板の2つ面(板状部材の面積が最も広い2つ面)は、それぞれ第2摩擦板と対面して配置されている。
【0053】
第1保持部62は、第1摩擦部材58、具体的には、第1摩擦板の端部を保持(固定)しており、フロントカバー49に固定されている。これにより、第1保持部62と第1摩擦部材58は、フロントカバー49とともに回転する。第2保持部64は、第2摩擦部材60、具体的には、第2摩擦板の端部を保持(固定)しており、入力軸20に固定されている。なお、第2保持部64は、入力軸20と一体で設けても、別部材を連結して設けてもよい。これにより、第2保持部64と第2摩擦部材60は、入力軸20とともに回転する。係合部50は、外力が作用していない状態では、第1摩擦部材58と、第2摩擦部材60とが非接触、または実質的に非接触となる。この状態では、第1摩擦部材58と第2摩擦部材60との間で力の伝達は生じず、夫々が独立して回転する。これに対して、外力が作用し、具体的には後述するピストン52により第1摩擦部材58が押され、第1摩擦部材58と、第2摩擦部材60とが接触状態となると、第1摩擦部材58と第2摩擦部材60との間で摩擦が発生し、第1摩擦部材58と第2摩擦部材60との間で力の伝達は生じる。このように力の伝達が発生すると、第1摩擦部材58と第2摩擦部材60とがつれまわり、一緒に回転する。なお、外力の大きさによっては、第1摩擦部材58と第2摩擦部材60の間で回転差が生じる場合、いわゆる半クラッチ状態となる場合もある。なお、係合部50は、第1摩擦部材58と第2摩擦部材60とが積層されている部分の、ピストン52と接触する面とは反対側の面は、剛性の高い部材が配置されており、ピストン52によって押された力により、第1摩擦部材58と第2摩擦部材60とがたわむことを抑制している。
【0054】
ピストン52は、剛体で構成されており、一方の端部が第1摩擦部材58の端の第1摩擦板(具体的には、タービンランナ32から最も遠い第1摩擦板の第2摩擦板と対面している面とは反対側の面)と接触し、第1摩擦部材58と接触している側とは反対側の端部(他方の端部)がフロントカバー49に支持されている。ピストン52は、少なくとも第1摩擦部材58と接触している端部が、回転方向に直交する方向に移動可能な状態でフロントカバー49に支持されている。また、ピストン52のタービンランナ32側の面には、フロントカバー49内を流れる作動流体が充填されている。
【0055】
弾性体54は、ピストン52とフロントカバー49との間に配置されており、ピストン52をフロントカバー49から離れる方向に押している。つまり、弾性体54は、ピストン52とフロントカバー49との距離が広がる方向、ピストン52が第1摩擦部材58を押す方向に付勢力を作用させる。弾性体54としては、板ばね、スプリング等種々の弾性部材を用いることができる。
【0056】
また、ピストン52のフロントカバー49側の面と、フロントカバー49と、第1保持部62とで構成される空間は、油室66となる。この油室66は、作動油供給手段56から供給される作動油が充填される。つまり、ピストン52とフロントカバー49と、第1保持部62とで囲われて形成された油室66には、循環油供給手段39から供給された作動流体が入らない。
【0057】
作動油供給手段56は、供給口70と、油路72と、作動油供給ポンプ74とを有する。供給口70は、フロントカバー49に形成された開口であり、油室66と支持壁6に形成されている油路72とを繋げている。また、供給口70と油路72との連結部には、シールリング71が配置されている。これにより、回転するフロントカバー49に形成された供給口70と固定された支持壁6に形成された油路72との間から作動油が漏れることを抑制することができる。油路72は、一方の端部が作動油供給ポンプ74と連結している。また、油路72の他方の端部は、分岐しており、一方の分岐部が供給口70と連結し、他方の分岐部は、栓73で塞がれている。作動油供給手段56は、作動油供給ポンプ74から排出した作動油を、油路72、供給口70を介して油室66に供給する。このように、作動油供給手段56により油室66に作動油を供給することで、油室66を作動油が充填された状態とすることができる。クラッチ機構28の各部は以上のような構成である。
【0058】
クラッチ機構28は、ピストン52とフロントカバー49との間に、作動油供給手段56から供給された作動油が充填し、ピストン52のタービンランナ32側の面に、循環油供給手段39から供給された作動流体(トルクコンバータ24を循環する作動流体)が充填した状態となる。これにより、ピストン52は、作動油供給手段56から供給された作動油により、第1摩擦部材58を押す方向に押され、循環油供給手段39から供給された作動流体により、第1摩擦部材58から離れる方向に押される。また、ピストン52は、弾性体54により、第1摩擦部材58を押す方向に押されている。係合部50は、第1摩擦部材58がピストン52により押されることで、第1摩擦部材58と第2摩擦部材60とが接触し、係合した状態となる。
【0059】
これにより、摩擦板の摩擦係数をμとし、摩擦板の枚数(第1摩擦板と第2摩擦板の総枚数)をNとし、摩擦板の内径をDとし、摩擦板の外径をDとし、弾性体54がピストン52を押す力をFspとし、作動油供給手段56から供給された油室66内の圧力をPとし、循環油供給手段39から供給された作動流体が充填した室内の圧力をPK0とすると、クラッチ機構28で発生するトルク(係合部50が係合されることで発生するトルク)Tは、
T=(2/3)×μ×N×(D−D)/(D−D)×(Fsp+P×A−PK0×A)・・(式1)
と表すことができる。
【0060】
ここで、弾性体54がピストン52を押す力Fspは、設計により決まるため、クラッチ機構28は、作動油供給手段56から供給された油室66内の圧力Pと、循環油供給手段39から供給された作動流体が充填した室内の圧力PK0を調整することで、クラッチ機構28のトルクを制御することができる。例えば、クラッチ機構28は、圧力Pを大きくするか、圧力PK0を小さくすることで、トルクTを大きくすることができる。つまり、作動油供給手段56から供給する作動油の量を多くするまたは供給圧を大きくするか、循環油供給手段39から供給する作動流体の量を少なくまたは供給圧を小さくすることで、トルクTを大きくすることができる。また、クラッチ機構28は、圧力Pを小さくするか、圧力PK0を大きくすることで、トルクTを小さくすることもできる。また、トルクTを0とすることで、上述したように係合部50を非接触状態とすることができ、動力を伝達しない状態とすることができる。
【0061】
また、クラッチ機構28は、弾性体54がピストン52を押す力Fspが作用しているため、作動油が供給されていない状態では、第1摩擦部材58がピストン52により一定の力で押されて、係合状態となり、フロントカバー49と入力軸20との間で動力が伝達する状態となっている。
【0062】
以上のように、駆動装置1は、モータ3を支持壁6よりもエンジン2側に配置することで、つまり、モータ3とトルクコンバータ24との間に支持壁6を配置した構成とすることで、モータ3をより大径化することができる。つまり、入力軸20等の回転軸を支持する支持壁6をモータ3よりも出力(他の機器)側に配置し、モータ3とエンジン2との間に支持体5を設けないことで、支持体5の外周を大きくすることができ、モータ3を大径化することができる。また、モータ3を大径化することで、小型化することができる。つまり、モータ3を大径化できることで、コイル等を効率よく配置することができ、装置の体積を小さくしつつ、必要な出力を得ることができる。
【0063】
また、モータ3とトルクコンバータ24との間に支持壁6を設けることで、支持壁6よりもエンジン2側(フロント側)に作動流体が供給される構成が基本的にない状態にすることができる。これにより、シール構造を簡単にすることができる。また、本実施例では、作動流体、作動油が供給される部分をフロントカバー49の内部に配置しているため、シール構造をより簡単にすることができる。
【0064】
さらに、モータ3とトルクコンバータ24との間に支持壁6を設けることで、駆動時に発熱量が多い、2つの部分を壁で分離することができる。これにより、発熱を低減することができる。また、一方の発熱により他方が加熱されることも抑制することができる。
【0065】
また、駆動装置1、特に動力伝達装置4は、流体の圧力が作用していない状態でも、弾性体54がピストン52を押す力Fspが作用しているため、クラッチ機構28を係合状態とすることができる。これにより、エンジン2の始動時に、各油供給手段を作動させなくても、モータ3から出力した機械的駆動力を、フロントカバー49、クラッチ機構28、入力軸20を介してエンジン2に伝達することができる。これにより、エンジン2を回転させることができ、エンジン2を始動させることができる。
【0066】
また、駆動時は、作動油供給手段56と循環油供給手段39から供給する作動油(または作動流体)を調整することで、クラッチ機構28のトルクを調整することができる。つまり、トルクを大きくすることも小さくすることもできる。これにより、クラッチ機構28のトルク許容量を大きくすることができ、クラッチ機構28で大きなトルクを伝達することができる。
【0067】
また、作動油供給手段56によりクラッチ機構28のトルクを大きくすることができるため、弾性体54の押す力を小さくすることができる。具体的には、スタータ時に必要なトルクを伝達できる程度の押す力とすればよい。このように弾性体54の押す力を小さくできることで、弾性体54を小さくすることができる。また、弾性体54ごとの押す力の誤差が制御に与える影響を小さくすることができる。例えば、Fspを1000N単位とし、P×Aを数万N単位とすることができるため、Fspに10%程度の誤差(弾性体54の性能の差)があっても、クラッチ機構28の係合、解放動作に与える影響を小さくすることができる。これにより、高い精度での制御、つまりクラッチの解放、係合の切り替えによる動力伝達経路の切り替えが可能となる。
【0068】
また、弾性体54を設けることによりノーマリークローズ、つまり、制御信号が無い状態ではクラッチ機構28が係合した状態とすることができる。これにより、上述したように油圧が作用していないスタータ時にモータ3で発生させた動力をエンジン2に伝達することができる。これにより、モータ3をスタータとして利用することができ、別途スタータ用のモータを設ける必要がなくなる。さらに、ノーマリークローズであるため、始動時に油圧系を駆動させる必要がなくなるため、油圧系を駆動させるための電源の省略することができる。また、ノーマリークローズであるため、作動油を供給する手段が故障している時もエンジン2で発生させた動力を入力軸20、トルクコンバータ24を介して出力軸22に伝達することができ、走行可能となる。
【0069】
また、弾性体54が押す力を小さくすることができ、さらに、作動油供給手段56から供給される作動流体の圧力も調整により小さくすることができるため、駆動時にクラッチ機構28を解放するために必要な、循環油供給手段39から供給する循環油(作動油)の圧力を小さくすることができる。つまり、一方の方向の圧力を弾性体54の押す力とし、他方の方向の圧力を作動油の力とした場合は、(式1)の(Fsp+P×A−PK0×A)が(Fsp−PK0×A)となる。ここで、係合するための力は、クラッチ機構28の最大トルクを伝達可能とするため、(Fsp−PK0×A)の構成では、Fspを大きくする必要がある。そのため、クラッチを解放するためのPK0も大きな力とする必要がある。これに対して、本実施例では、(式1)の(Fsp+P×A−PK0×A)に示すように、クラッチを係合する力をPで調整できるため、Fspの力を小さくすることができる。また、クラッチの解放時は、Pを小さくすることで、解放に必要なPK0、つまり、Fsp+P×Aに打ち勝つ力を小さくすることができる。このように、圧力を小さくできることで、ポンプにより発生させる圧力を小さくすることができる。これにより、動力伝達装置4で消費するエネルギを少なくすることができ、駆動装置1で発生させたエネルギや、蓄えられているエネルギを効率よく利用することができる。
【0070】
また、本実施例のようにクラッチ機構28をトルクコンバータ24の内部に設け、循環油供給手段39で供給される作動流体を利用することで、必要な油圧供給手段を少なくすることができる。これにより、装置構成を簡単にすることができる。
【0071】
また、ピストン52を係合部50の第1摩擦部材58と接触させる構成とすることで、ピストン52を回転差なく接触させることができ、ピストン52や第1摩擦部材58の磨耗を抑制することができる。つまり、フロントカバー49と連結され、一緒に回転する部材同士を接触させることで、駆動時に発生する磨耗を少なくすることができる。
【0072】
また、本実施例のように、ロックアップクラッチ機構36の摩擦係合部36a及び摩擦係合部37と、係合部50とを軸方向に平行な方向において少なくとも一部が重なる位置に、つまり、軸方向(回転軸に平行な方向)の位置を重複させることで、駆動装置の軸方向の長さを短くすることができる。これにより、装置を小型化することができる。言い換えると、係合部50を、軸方向に平行な方向において、少なくとも一部が、ロックアップクラッチ機構36の摩擦係合部36a及び摩擦係合部37と重なる位置に配置することで、上記効果を得ることができる。
【0073】
さらに、本実施例のように、ロックアップクラッチ機構36の摩擦係合部36a及び摩擦係合部37と、ダンパ38と、係合部50とを軸方向に垂直な面において同一平面上に配置することで、つまり、軸方向(回転軸に平行な方向)の位置を重複させることで、駆動装置の軸方向の長さをさらに短くすることができる。これにより、装置をより小型化することができる。
【0074】
また、本実施例のように、ロックアップクラッチ機構36の摩擦係合部36a及び摩擦係合部37と、係合部50とを軸方向に垂直な面における位置を異なる位置に配置することで、つまり、回転軸からの距離が異なる距離となる位置、または回転軸方向の角度が異なる角度となる位置に配置すること、言い換えると、クラッチ機構の可動部を、入力軸の中心軸に垂直な方向において、前記ロックアップクラッチ機構の可動部とは、異なる位置に配置することで、より円滑に各部を駆動することができる。具体的には、一方の摩擦係合部(摩擦部材)の移動、つまり、軸方向の移動が、他方の部材の油圧に影響する、油圧をブースト(加圧)することで、トルク容量に干渉することを抑制することができる。つまり、一方の部材の移動により、他方の部材に生じるトルクの変動を少なくすることができる。これにより、各部の係合を円滑に行うことができる。
【0075】
また、本実施例のように、ロータ12の内側にダンパ25を配置することで、装置の軸方向の長さをより短くすることができる。これにより装置のスペースを有効に活用でき、装置を小型化することができる。
【0076】
また、本実施例のように、オイルシール26bをベアリング27よりエンジン2側に設けることで、ベアリング27の潤滑油がエンジン2側に漏れることを抑制できる。これにより、支持壁6よりもエンジン2側を空気室、つまり、作動油、作動流体が進入しない空間とすることができ、装置構成を簡単にすることができる。
【0077】
また、本実施例のように、リングギヤ13をロータ12のエンジン2側に配置することで、装置の全長をより短くすることができる。本実施例のように、支持壁6よりもエンジン2側にモータ3を配置することで、モータ3を大径化することができる。これにより大径化したリングギヤ13をロータ12に取り付けることができ、かつ、ロータ12のエンジン2側に配置することで、モータ3の位置を移動させることなく、効率よくリングギヤ13を配置することができる。これにより、装置の全長を短くすることができる。
【0078】
また、本実施例のように、入力軸20とエンジン2との間にダンパ25を設けることで、エンジン2とクラッチ機構28との間にダンパ25を配置することができる。これにより、クラッチ機構28にエンジン2のトルクの変動が直接入力されることを抑制できる。つまり、ダンパ25により、クラッチ機構28に入力される変動を小さくすることができる。これにより、クラッチ機構28の耐久性を高くすることができる。
【0079】
なお、クラッチ機構28の構成は、上記実施例に限定されず、ピストンが係合部に接触する位置、弾性体の配置位置は、種々の配置位置とすることができる。また、油路の配置方法は特に限定されず、設計により種々の経路とすることができる。なお、油路は、回転部材同士の接続部で流体が漏れないように、シールした構成とすることが好ましい。
【0080】
また、上記実施例のクラッチ機構28は、ピストン52のフロントカバー49側の油室66(ピストン52を第1摩擦部材58に押し付ける方向に力を作用させる側)の面に作動油供給手段56から供給される作動流体を供給し、ピストン52のタービンランナ32側(ピストン52に第1摩擦部材58から離れる方向の力を作用させる側)の面に循環油供給手段39から供給される循環油を供給する構成としたがこれに限定されない。
【0081】
例えば、循環油を供給することによって発生する圧力を、ピストン52を第1摩擦部材58に押し付ける方向の力として作用させるようにしてもよい。つまり、循環油供給手段39が油室66に循環油を供給するようにしてもよい。なお、この場合は、ピストン52のタービンランナ32側(ピストン52に第1摩擦部材58から離れる方向の力を作用させる側)の面に循環油が到達しないように、油室を構成し、その油室に、作動油供給手段56から供給される作動流体を供給すればよい。油室は、ピストン52の弾性体54が配置されている面とは反対側の面に、ピストン52と、フロントカバー49とに支持されている仕切り板となる板状部材を配置すればよい。仕切り板を配置することで、仕切り板のピストン52と対向する面と、フロントカバー49の仕切り板とピストン52との間の部分とで囲われた領域に油室を形成することができる。
【0082】
循環油を供給することによって発生する圧力を、ピストン52を第1摩擦部材58に押し付ける方向の力として作用させることで、係合部50を解放させる場合に、作動油供給手段56から作動油を供給する構成となる。これにより、作動油供給手段56により油圧を供給する機会を少なくすることができ、装置全体のエネルギを効率よく利用することができる。
【0083】
ここで、クラッチ機構は、要求されるトルクに応じて、作動油または作動流体を供給する油圧供給手段の供給量を調整し、ピストンにかかる圧力(油圧)を調整することが好ましい。つまり、要求されるトルクが大きい場合は、ピストンを第1摩擦部材に押し付ける方向の力を作用させる油圧供給手段の供給量を多く、または、ピストンを第1摩擦部材から離す方向の力を作用させる油圧供給手段の供給量を少なくする。また、要求されるトルクが小さい場合は、ピストンを第1摩擦部材に押し付ける方向の力を作用させる油圧供給手段の供給量を少なく、または、ピストンを第1摩擦部材から離す方向の力を作用させる油圧供給手段の供給量をより多くする。これにより、クラッチ機構に必要以上のトルクを与えることを抑制することができ、供給する作動油、作動流体の量を少なくすることができる。これにより、クラッチ機構を駆動させるエネルギを効率よく利用することでき、消費エネルギを少なくすることができる。
【0084】
ここで、クラッチ機構の解放動作時は、ピストンを第1摩擦部材に押し付ける方向の力を作用させる油圧供給手段によって、作動油を供給しない状態または、作動油の供給量を低減することが好ましい。つまり、ピストンを第1摩擦部材に押し付ける方向に押す油圧を0または低減することが好ましく、設定された基準値以下の圧力とすることがより好ましい。具体的には、実施例は、作動油供給手段56から供給する作動油を低減するようにすることが好ましい。これにより、クラッチ機構の解放のために供給する作動油の油圧を小さくすることができ、より小さい力でクラッチ機構を解放状態にすることができる。
【0085】
また、上記実施例では、流体を供給する機構を少なくすることができ、かつ、装置の駆動に必要なエネルギを少なくすることができるため、いずれもトルクコンバータに供給する作動流体をピストンに接触させ、ピストンを一方の方向に移動させる力としたが、これに限定されない。例えば、作動油供給手段を2つ設けた構成とし、それぞれの作動油供給手段から供給する作動油によりピストンを双方向に移動させるようにしてもよい。なお、独立して作動油を供給することで、トルクコンバータとクラッチ機構とを油路で接続する必要がなくなり、クラッチ機構をトルクコンバータから離して配置することが可能となる。
【0086】
また、上記実施例では、上述した各種効果を得ることができるため、クラッチ機構28をフロントカバー49の内部に配置したが、クラッチ機構28を支持壁6よりもエンジン2側に配置してもよい。なお、クラッチ機構28をエンジン2側に配置する場合は、クラッチ機構28をロータ12の内側(内径側)に配置することが好ましい。これにより、装置の軸方向の全長を短くすることができる。
【0087】
また、クラッチ機構28を支持壁6よりもエンジン3側に配置する場合も、クラッチ機構28とエンジン2との間に、ダンパ25を設けることが好ましい。これにより、クラッチ機構の耐久性を高くすることができる。また、クラッチ機構28とダンパ25とを径方向にオフセット、つまり、回転軸に垂直な面における位置を異なる位置(回転軸からの距離を異なる距離)とすることが好ましい。これにより、装置の全長を短くすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
以上のように、本発明にかかる駆動装置は、自動車等の駆動源として用いることに適している。
【符号の説明】
【0089】
1 駆動装置
2 エンジン
3 モータ
4 動力伝達装置
5 支持体
6 支持壁
28 クラッチ機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、
ロータ及びステータを備える電動機と、
前記内燃機関により回転される入力軸と、
動力を伝達する出力軸と、
前記入力軸の軸方向において、前記電動機の前記内燃機関側とは反対側に配置され、内部に循環流体が流され、前記入力軸から前記出力軸へ動力を伝達するトルクコンバータと、
前記入力軸と前記電動機との係合状態と解放状態とを切り替えるクラッチ機構と、
前記電動機と前記トルクコンバータとの間に設けられ、前記電動機のステータを支持する支持壁を有し、
前記クラッチ機構は、前記トルクコンバータ内部に配置され、前記トルクコンバータ内を流れる前記循環流体が供給され、かつ、供給される流体の圧力により係合状態と解放状態とを切り替えることを特徴とする駆動装置。
【請求項2】
前記トルクコンバータは、前記入力軸と前記出力軸との係合状態と解放状態を切り替えるロックアップ機構を備え、
前記クラッチ機構は、前記入力軸の中心軸に平行な方向において、少なくとも一部が前記ロックアップ機構と重なる位置に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の駆動装置。
【請求項3】
前記トルクコンバータは、前記入力軸と前記出力軸との係合状態と解放状態を切り替えるロックアップ機構を備え、
前記クラッチ機構の可動部は、前記入力軸の中心軸に垂直な方向において、前記ロックアップ機構の可動部とは、異なる位置に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の駆動装置。
【請求項4】
前記電動機の前記ロータの内側に配置された、前記内燃機関と前記入力軸とを連結するダンパをさらに備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の駆動装置。
【請求項5】
前記電動機の前記ロータを前記支持壁に対して回転自在な状態で支持するベアリングと、
前記ロータと前記支持壁との間で、前記ベアリングよりも内燃機関側に配置されたオイルシールとをさらに有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の駆動装置。
【請求項6】
前記クラッチ機構は、作動流体が供給されてない状態で、係合状態となり、
前記電動機は、前記ロータの前記内燃機関側に配置されたスタータ用リングギヤを有することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の駆動装置。
【請求項7】
さらに、前記内燃機関と前記クラッチ機構との間の動力が伝達される経路に配置されたダンパをさらに有することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の駆動装置。
【請求項8】
前記クラッチ機構は、
前記入力軸に連結された第1摩擦部材、及び、前記ロータに連結され、前記第1摩擦部材と対面して配置された第2摩擦部材を含み、前記第1摩擦部材と前記第2摩擦部材とが接触することで、前記内燃機関と前記ロータとを係合状態とさせる係合部と、
前記第1摩擦部材または前記第2摩擦部材と接触可能な接触部を備え、前記接触部が前記第1摩擦部材または前記第2摩擦部材と接触する位置から、前記第1摩擦部材及び前記第2摩擦部材とに接触しない位置まで移動可能な剛体と、
前記剛体に対して、前記接触部が前記第1摩擦部材または前記第2摩擦部材と接触する位置に移動する方向の力を加える弾性体と、
前記剛体に対して、前記接触部が前記第1摩擦部材または前記第2摩擦部材と接触する位置に移動する方向の液体の圧力を加える第1押圧機構と、
前記剛体に対して、前記接触部が前記第1摩擦部材及び前記第2摩擦部材と接触しない位置に移動する方向の液体の圧力を加える第2押圧機構、を備え、
前記第1押圧機構と前記第2押圧機構のいずれか一方は、前記トルクコンバータから作動流体が供給されることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の駆動装置。
【請求項9】
前記剛体は、前記第1摩擦部材と接触し、前記第1摩擦部材と前記第2摩擦部材と接触させる位置に配置されていることを特徴とする請求項8に記載の駆動装置。
【請求項10】
前記第1摩擦部材は、複数の板状の第1摩擦体で構成され、
前記第2摩擦部材は、複数の板状の第2摩擦体で構成され、
前記第1摩擦体と前記第2摩擦体とは、交互に配置されていることを特徴とする請求項8または9に記載の駆動装置。
【請求項11】
前記第1押圧機構と前記第2押圧機構とは、供給する液体の量及び液体の圧力の少なくとも一方を調整することで、前記剛体に加える力を調整可能であることを特徴とする請求項8から10のいずれか1項に記載の駆動装置。
【請求項12】
前記第1押圧機構は、前記液体の圧力として、前記トルクコンバータの循環流体が前記剛体に付加する圧力を使用することを特徴とする請求項8から11のいずれか1項に記載の駆動装置。
【請求項13】
前記第2押圧機構は、前記液体の圧力として、前記トルクコンバータの循環流体が前記剛体に付加する圧力を使用することを特徴とする請求項8から11のいずれか1項に記載の駆動装置。
【請求項14】
前記係合部、前記剛体及び前記弾性体は、前記トルクコンバータの内部に配置されていることを特徴とする請求項8から13のいずれか1項に記載の駆動装置。
【請求項15】
前記第1押圧機構は、前記係合部が解放状態の場合は、前記接触部が前記第1摩擦部材または前記第2摩擦部材と接触する位置に移動する方向の液体の圧力を設定された圧力値以下とすることを特徴とする請求項8から14のいずれか1項に記載の駆動装置。
【請求項16】
前記係合部は、前記弾性体が前記剛体を押す力のみが作用する状態のとき、前記入力軸と前記電動機とが係合状態となることを特徴とする請求項8から15のいずれか1項に記載の駆動装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−194942(P2011−194942A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61324(P2010−61324)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】