説明

高度不飽和脂肪酸、その塩、またはそのエステルを含有する外用組成物

高度不飽和脂肪酸、その塩、またはそのエステルにゴマの抗酸化成分およびアスコルビン酸またはアスコルビン酸脂肪酸エステルを添加する。PV3.0以下、AV1.0以下であり、かつ、官能的に無臭の高度不飽和脂肪酸、その塩、またはそのエステル、またはそれらを含有する油脂に、ゴマの抗酸化成分、アスコルビン酸またはアスコルビン酸脂肪酸エステル、および外用基剤を酸素の混入を抑えた環境下または酸素の混入を抑えた方法で混合し、速やかに密封容器に注入する。上記方法によれば、酸化安定性が向上され、高度不飽和脂肪酸の酸化により生じる特有の臭いの発生が抑制され、過酸化物の生成も抑制された高度不飽和脂肪酸、その塩、またはそのエステルを含有する外用組成物を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、酸化安定性が向上され、高度不飽和脂肪酸の酸化により生じる特有の臭いの発生が抑制され、過酸化物の生成も抑制された高度不飽和脂肪酸、その塩、またはそのエステルを含有する外用組成物に関する。詳細には、本発明は高度不飽和脂肪酸、その塩、またはそのエステルにゴマの抗酸化成分およびアスコルビン酸またはアスコルビン酸脂肪酸エステルを添加して得られる酸化安定性が向上した、皮膚に適用した場合に臭いなどの酸化による問題が発生しない外用組成物に関する。また、本発明は皮膚の炎症性疾患の治療のための外用組成物に関する。
本発明において高度不飽和脂肪酸とは、二重結合を3個以上有する脂肪酸である。
本発明において外用組成物とは外用医薬品、外用医薬部外品、化粧品などの皮膚に適用する組成物を意味する。
「外用」とは、皮膚に適用することを意味する。
「医薬品」とは、人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされているものであり、「化粧品」とは、人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌を変え、又は皮膚若しくは毛髪をすこやかに保つために、身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用されることが目的とされている物で、人体に対する作用が緩和なものをいう。「医薬部外品」はこれらの中間に位置するもので、化粧品より効能が明確で、副作用を起こすことなく肌トラブルを予防するものである。このような定義が使用されない国においてはこれらに準ずるものを対象とする。
【背景技術】
近年、生活環境の変化や複雑化、あるいは食生活の変化に伴い、アレルギー性皮膚疾患が急増している。このアレルギー性皮膚疾患には、アトピー性皮膚炎、乾せん症、接触皮膚炎等がある。これらアレルギー性皮膚疾患に対しては、従来より各種の治療法、例えば生活環境の改善や食餌療法によるアレルゲンの回避、抗アレルギー剤やステロイド剤の投与などが行われている。しかし、アレルギー性皮膚疾患に対する決定的な治療法は未だ確立されていないのが現状であり、副作用を発現せず、安全でかつ十分な治療効果を挙げ得る治療薬が要望されている。
エイコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸は主として魚油に含まれる高度不飽和脂肪酸であるが、これらが高血圧の予防、皮膚の老化防止等の種々の作用を有することが見出され、健康増進のための食品素材、医薬品として利用されている。これらの脂肪酸にはアレルギー性疾患に対する治療効果が期待され、事実、エイコサペンタエン酸の内服投与、あるいは皮膚に塗布することによってアトピー性皮膚炎の改善が認められたとの報告がある(Brit Respir J 1987 117:463−469,The Journal of Medical Investigation 1999 46:173−177)。
エイコサペンタエン酸(EPA)が各種のアレルギー疾患に対して効果を示す作用は、抗炎症作用と免疫抑制作用によると考えられている。炎症細胞や免疫細胞の膜上の脂肪酸組成は、食事によって大きく影響を受けることが知られている。特に高度不飽和脂肪酸の構成要因は、食事由来の脂肪酸によって変化することから、炎症と免疫に関連すると考えられてきた。アラキドン酸(AA)は、プロスタグランジンやロイコトリエンの前駆体であり、結果的に、炎症や免疫の制御に重要な役割を果たす。魚油はEPAを含有し、魚油の摂取は細胞膜上のAAとEPAの交換を引き起こす。このことは、AA由来のメディエーターの産生を減少させる。また、EPAは、サイクロオキシゲナーゼ及びリポキシゲナーゼの基質となり、EPA由来の代謝物は、AA由来の代謝物とは、異なる生理学的作用を有することが知られる。EPAが種々のアレルギー疾患への効果が期待される最も大きな作用は、AA由来メディエーターに対するこの相反する作用である。さらに、EPAの免疫系細胞に対する抑制効果が種々報告されている。EPAは、強力ではないが、適度の免疫調節作用を有していると推測され、副作用も殆どないことから、長期投与が可能であり、慢性の免疫疾患への基礎治療薬としての応用が期待される。
高度不飽和脂肪酸、特にエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)は種々の生理活性を有することから、医薬品、食品などに広く利用されているが、高度不飽和脂肪酸を含有する油脂類は酸化安定性が非常に低い為に、医薬品ではカプセルにして経口投与されており、食品では、各種抗酸化剤、マスキング剤などの工夫がされている。しかし、まだ完全な方法はなく、その使用、例えば製品の種類、流通温度、添加量、保存方法等には自ずと制限があった。外用剤としての使用に耐える、十分な酸化安定性を有する製剤が要望されている。
EPA等を抗アレルギー剤として使用することについて種々検討され特許出願もされている。しかし、いずれも実用化に至っていない(特開平2−290812号公報、特開平6−62795号公報)。また、EPA等を外用剤として使用する工夫(特開平3−90046号公報、特開平8−109128号公報、特開平6−298642号公報、特開平7−112913号公報)もされているが、それらも実用化にいたっていない。特開平5−58902号公報にはEPA等とゴマ油からなるアレルギー予防油脂組成物が記載されているがカプセル剤として内服するものであり、やはり、外用に耐える抗酸化作用を有するものではない。
油脂の酸化安定性を向上させるために各種の抗酸化剤が使用されてきた。複数の抗酸化剤を組み合わせたり、抗酸化剤とリン酸、クエン酸、アスコルビン酸のようなシネルギストとを添加することで抗酸化性が向上することも知られている。植物油程度(脂肪酸の二重結合が3つ以下)であれば、それらで十分に実用性があるが、魚油のように非常に酸化安定性の悪い油脂(脂肪酸の二重結合が4つ以上のものを多く含む)の場合では、一般に考えられる抗酸化剤、シネルギストの組み合わせだけでは酸化安定性の向上に限界があった。
ゴマ油は酸化に対して比較的安定であることから、ゴマには抗酸化成分が含有されていることは古くから知られており、セサモールをはじめ各種リグナン類等を含有することが知られている(特開昭58−132076号公報、食の科学、225(11)p.40−48(1996)、同、225(11)p.32−36(1996))。
セサモールは食品添加物として認められている油脂類および油脂を含む食品用の酸化防止剤であるが、魚油のように非常に酸化安定性の悪い油脂では効果が無いと報告されており(日本油脂株式会社、DHA高度精製抽出技術開発事業 平成4−8年度 結果概要(DHA高度精製抽出技術研究組合)P74−79(2002))、魚油の酸化安定性向上のためには使用されていない。
また、アスコルビン酸またはアスコルビン酸誘導体は食品添加物として認められている油脂類および油脂を含む食品用の酸化防止剤であるが、魚油のように非常に酸化安定性の悪い油脂では単独では効果が無く、トコフェロールと組合せてもなお、その効果は充分でない。
油脂の酸化防止のために、種々の抗酸化剤を組み合わせて使用することが試みられている。例えば、特開2002−142673号公報には没食子酸、水溶性抗酸化剤および油溶性抗酸化剤を親油性乳化剤で油中水型に乳化してなる親油性酸化防止剤が記載されている。水溶性抗酸化剤としてビタミンC、クエン酸、クロロゲン酸およびその誘導体、糖アミノ反応物、プロアントシアニジン、フラボン誘導体、茶抽出物、ブドウ種子抽出物およびルチンが、また、油溶性抗酸化剤としてトコフェロール、アスコルビン酸パルミテート、セサモール、γ−オリザノールが例示されている。
日本栄養・食糧学会誌、44(6)p.493−498(1991)、同45(3)p.291−295(1992)、同45(3)p.285−290(1992)には植物油脂中のトコフェロールの熱分解に対する各種抗酸化剤の効果が比較検討されている。その各種抗酸化剤中に、セサモールとアスコルビン酸エステルを併用したものも含まれているが、他の抗酸化剤と比較して特に優れた効果が認められているわけではない。高度不飽和脂肪酸(不飽和結合が3つ以上)の室温等に保存したときに発生する酸化とは異なり、本文献では植物油(不飽和結合が3つ以下)の高温加熱時の油脂の酸化における効果を対象としており、対象物あるいは条件が異なっているためセサモールとアスコルビン酸エステルの併用による優れた効果を見出せなかったものと考えられる。また、抗酸化剤自体の熱安定性の影響も考えられる。
以上のようにセサモール、アスコルビン酸またはそのエステルはいずれも公知の抗酸化剤であるにもかかわらず、それらの組合せが他の抗酸化剤またはそれらの組合せに比較して格段の抗酸化作用を有することは知られていなかった。
外用剤は、皮膚表面に薄く塗布するため、酸素と接する面積が広く、非常に酸化を受けやすい状態であり、かつ、そのまま長時間保持されるものであるから、内服薬以上に酸化安定性を付与しなければ実用性がない。また、衣服に付いたEPA等は通常の洗濯では落ちず、いつまでも臭うものであり、薬として効果があったとしても、実際に使用する場合には、薬剤としての忍容性に問題が残る。また、酸化により過酸化物が生成すると生体に対して有害な作用を有することが一般に知られており、過酸化物の生成を抑制することも重要な課題である。
従来の外用剤には、合成抗酸化剤として、t−ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、t−ブチルヒドロキノン(TBHQ)、エトキシキン等が使用されている。
【発明の開示】
本発明は、酸化安定性が格段に向上した高度不飽和脂肪酸、その塩、またはそのエステルを含有する外用組成物を提供することを課題とする。すなわち、皮膚に適用した場合においても酸化による臭い、過酸化物の生成等が抑制されたEPA等の高度不飽和脂肪酸を含有する外用組成物を提供することを課題とする。
本発明者らは、油脂(高度不飽和脂肪酸を多く含む油脂、例えば、魚油等の水産動物油)の酸化安定性を向上させるために種々検討を重ねた結果、セサモール等のゴマの抗酸化成分とアスコルビン酸またはアスコルビン酸脂肪酸エステル、さらにトコフェロールを組み合わせて添加する事により、油脂の酸化安定性を格段に向上させることができることを見出し、本発明を完成させた。
本発明は、以下の(1)〜(15)に記載された外用組成物およびその製造方法を要旨とする。
(1)抗酸化剤としてゴマの抗酸化成分およびアスコルビン酸またはアスコルビン酸脂肪酸エステルを添加した、高度不飽和脂肪酸、その塩、またはそのエステル、および外用基剤を含有する、酸化安定性を有する外用組成物。
(2)抗酸化剤として、電気化学検出器を用いた高速液体クロマトグラフで検出される、溶出時間が2.66,3.40,3.84,4.57,4.98,5.82,7.00,8.67,9.84,11.24,12.29,12.49,13.36,14.04,14.32,14.74,15.22,15.60,15.82,16.34,16.98,18.10,18.43,34.91分付近にピークを示すゴマの抗酸化成分の少なくとも一つ以上およびアスコルビン酸またはアスコルビン酸脂肪酸エステルを添加した、高度不飽和脂肪酸、その塩、またはそのエステル、および外用基剤を含有する、酸化安定性を有する外用組成物。
(3)抗酸化剤として、ゴマ、ゴマ油またはゴマ粕の溶媒、脂質、または、乳化剤のいずれか単独または混合溶媒による抽出物であるゴマの抗酸化成分およびアスコルビン酸またはアスコルビン酸脂肪酸エステルを添加した、高度不飽和脂肪酸、その塩、またはそのエステル、および外用基剤を含有する、酸化安定性を有する外用組成物。
(4)抗酸化剤として、セサモール、セサミノール、エピセサミノール、ピルジノール、エピヒノレジノール、シリンガレジノール、サミン、セサモリノール、2,3−ジ(4’−ヒドロキシ 3’−メトキシベンジル)−2−ブテン−4−オライド(2,3−di(4’−hydroxy−3’−methoxybenzyl)−2−buten−4−olide)から選ばれる少なくとも一つ以上を含有するゴマの抗酸化成分およびアスコルビン酸またはアスコルビン酸脂肪酸エステルを添加した、高度不飽和脂肪酸、その塩、またはそのエステル、および外用基剤を含有する、酸化安定性を有する外用組成物。
(5)アスコルビン酸脂肪酸エステルとしてアスコルビン酸パルミテートまたはアスコルビン酸ステアレートを添加した(1)〜(4)の外用組成物。
(6)アスコルビン酸またはアスコルビン酸脂肪酸エステルを高度不飽和脂肪酸、その塩、またはそのエステルに対する可溶量以上の過剰量を添加した、(1)〜(4)の外用組成物。
(7)アスコルビン酸またはアスコルビン酸脂肪酸エステルを高度不飽和脂肪酸、その塩、またはそのエステルに対する可溶量以上の過剰量を粉末または固形物として添加した、(1)〜(4)の外用組成物。
(8)高度不飽和脂肪酸がエイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸のいずれか1種以上を含有する脂肪酸である、(1)〜(7)の外用組成物。
(9)高度不飽和脂肪酸のエステルが高度不飽和脂肪酸を構成成分として含有するトリグリセライドまたは高度不飽和脂肪酸の低級アルコールエステルである、(1)〜(8)の外用組成物。
(10)高度不飽和脂肪酸のエステルが精製魚油として含有される、(1)〜(8)の外用組成物。
(11)さらに、トコフェロールを含有する(1)〜(10)の外用組成物。
(12)皮膚の炎症性疾患に用いられる(1)〜(11)の外用組成物。
(13)外用基剤として、白色軟膏、白色ワセリン、亜鉛華軟膏等の油脂性基剤、親水軟膏、精製ラノリン、吸水軟膏、尿素クリーム等の乳剤性基剤(クリーム剤)のいずれかを用いたものである(1)ないし(12)いずれかの外用組成物。
(14)外用基剤として、白色軟膏、白色ワセリン、尿素クリーム、亜鉛華軟膏のいずれかを用いたものである(13)の外用組成物。
(15)過酸化物価(PV)3.0meq/kg以下、酸化(AV)1.0以下であり、かつ、官能的に無臭の高度不飽和脂肪酸、その塩、またはそのエステル、またはそれらを含有する油脂、ゴマの抗酸化成分、アスコルビン酸またはアスコルビン酸脂肪酸エステル、および外用基剤を酸素の混入を抑えた環境下で混合し、速やかに密封容器に注入する、酸化安定性を有する、高度不飽和脂肪酸、その塩、またはそのエステルを含有する外用組成物の製造方法。
(16)酸素の混入を抑えた環境下が不活性ガス置換環境下である(15)の製造方法。
本発明により、従来の高度不飽和脂肪酸等を含有する外用組成物より格段に酸化安定性にすぐれた外用組成物を提供することができる。従来、有効性が知られながら酸化による臭いのために外用剤としての実用化が遅れていたEPA等の高度不飽和脂肪酸等を含有する外用医薬品、外用医薬部外品、化粧品を提供することができる。本発明の組成物は酸化安定性が優れているので、高度不飽和脂肪酸の利用に際し、容易に製造、保存することができ、また、添加する高度不飽和脂肪酸の添加量を増やすことができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、試験例1の油脂の酸素吸収量を示した図である。
図2は、試験例2の油脂の酸素吸収量を示した図である。
図3は、試験例3の油脂の酸素吸収量を示した図である。
図4は、試験例4の油脂の酸素吸収量を示した図である。
図5は、試験例5の油脂の酸素吸収量を示した図である。
図6は、試験例6のゴマ粕抽出物1の電気化学検出器を用いた高速液体クロマトグラフのチャートである。
図7は、試験例6のサンプルの酸素吸収量の推移を示した図である。
図8は、試験例7のサンプルのマロンジアルデヒド濃度の推移を示した図である。
図9は、試験例7のサンプルのアルケナール類濃度の推移を示した図である。
図10は、試験例8のサンプル(セサモール0.5%)の酸素吸収量と抗酸化剤の残存量の推移を示した図である。
図11は、試験例8のサンプル(セサモール1.0%)の酸素吸収量と抗酸化剤の残存量の推移を示した図である。
図12は、試験例8の4日後にアスコルビン酸パルミテートを追加した場合のサンプルの酸素吸収量と抗酸化剤の残存量の推移を示した図である。
図13は、試験例9のサンプルのPVの推移を示した図である。
図14は、図13ののサンプルの酸素吸収量の推移を示した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明で対象にする高度不飽和脂肪酸、その塩、またはそのエステルは、高度不飽和脂肪酸、高度不飽和脂肪酸の低級アルコールエステル、高度不飽和脂肪酸を構成成分として含有するトリグリセライド等である。具体的には、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸などを多く含有する魚油等の水産動物油や、それをエステル化したエイコサペンタエン酸エチルエステル、ドコサヘキサエン酸エチルエステル等が例示される。また、高度不飽和脂肪酸とは不飽和度3以上の脂肪酸を意味する。不飽和度3以上の高度不飽和脂肪酸としては、α−リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸などが例示される。また、本発明の高度不飽和脂肪酸類は、それら脂肪酸のメチルエステル、エチルエステル、トリグリセライド、ジグリセライド、モノグリセライド等のエステル型誘導体を含む。
エイコサペンタエン酸は、炭素数20で二重結合5個をもつ不飽和脂肪酸の総称であるが、天然物としては二重結合の位置が5,8,11,14,17で、すべてシス形の直鎖5価不飽和n−3系脂肪酸を指す。ドコサヘキサエン酸は、4,7,10,13,16,19位にシス二重結合をもつ炭素数22の直鎖ヘキサエン酸である。これらの天然物由来のEPA、DHAは、天然油脂、特にマグロ、カツオ、サバ、イワシ、タラ等の水産物油脂中にそれ自体として、あるいはそのグリセライド等の誘導体として含まれている。
本発明は、上記不飽和度3以上の高度不飽和脂肪酸を含む油脂の原料であれば何でも使用できる。高度不飽和脂肪酸を含む油脂の原料とは、イワシ、サバ、サンマ、マグロ、カツオ等の海産魚、微生物由来の脂質、オキアミ、エビ等の甲殻類、魚油、動植物油、遺伝子組替え体植物油等を原料とすることができる。
上記不飽和度3以上の高度不飽和脂肪酸を含む油脂を、ウィンタリング処理、酵素処理等で高度不飽和脂肪酸を濃縮する事ができる。または、上記不飽和度3以上の高度不飽和脂肪酸を含む油脂を脂肪酸またはアルコールとのエステル体とし、蒸留処理、尿素付加処理、カラム処理、酵素処理、超臨界二酸化炭素処理等を行い、高度不飽和脂肪酸を濃縮する事ができる。
本発明の抗酸化剤はすでに酸化したものを還元するものではないので、抗酸化剤を添加する前に、使用する高度不飽和脂肪酸、その塩、またはそのエステルは脱ガム、脱酸、脱色、脱臭等の処理をして酸化物が除去された状態で使用する必要がある。精製の程度はPVが3.0meq/kg以下、AVが1.0以下であり、かつ、官能的に無臭であるものが好ましい。
本発明の外用剤に含有される高度不飽和脂肪酸を構成成分とする油脂類の酸敗にはその加水分解によるものと、酸化によるものとがある。酸化によってヒドロペルオキシドの分解生成物、たとえば大豆油の酸化からプロピオンアルデヒド、2−ペンテナール、カプロンアルデヒド、アセトアルデヒド、クロトンアルデヒドなどが生じる。魚油が不快臭を有するのはこの高度不飽和脂肪酸の酸化によるもので、特有ななまぐさいにおいを発する。不飽和脂肪酸を含有する魚油、大豆油、アマニ油、ナタネ油などの精製油においては、酸化のごく初期においても不快臭を生じたり、色の劣化が生じることがある。この現象はモドリと呼ばれている。脱色植物精製油の色相のモドリはビタミンEの酸化生成物、クロマン−5,6−キノンによるものといわれる。本発明は高度不飽和脂肪酸のこれらの酸化を抑制するものであり、酸化安定性の低い動物油において特に顕著な効果が認められる。
本発明で用いるゴマの抗酸化成分としては、ゴマに含まれるフェノールタイプの各種抗酸化物質を使用することができる。具体的には、セサモール、セサミノール、エピセサミノール、ピルジノール、エピヒノレジノール、シリンガレジノール、サミン、セサモリノール、2,3−ジ(4’−ヒドロキシ3’−メトキシベンジル)−2−ブテン−4−オライド(2,3−di(4’−hydroxy−3’−methoxybenzyl)−2−buten−4−olide)等が例示される。図6のHPLCのチャートのピークは電気化学検出器を用いて検出されたピークなのでそれぞれが抗酸化成分を表している。このようにゴマには多くの抗酸化成分が含まれている。セサモール等の成分は単独で用いて十分な効果を示すが、これらを混合物として用いるとさらに強い抗酸化作用が認められる。これらのゴマの抗酸化成分は単独で用いても、いくつかを組み合わせて使用しても構わない。
したがって、本発明で用いるゴマの抗酸化成分はゴマより高度に精製したものでも、軽度に精製したセサモールをはじめとする抗酸化成分と共にゴマ由来物質、ゴマリグナン類、トコフェロール類等を含有した物でもかまわない。または、化学的に合成された物でも良い。さらには、ゴマ油そのままでも、ゴマ油特有の匂いがすることに問題がなければ、使用することができる。
具体的には、ゴマ種子、ゴマ油あるいはゴマ油を絞った後のゴマ脱脂粕から上記抗酸化成分を抽出することができる。ゴマ油の脱臭時に蒸留された成分であるスカムから得ることもできる。抗酸化成分が増加していることから、焙煎ゴマが好ましいが、焙煎していないゴマにも一定の抗酸化成分が含まれているので使用することができる。ゴマ種子から抽出する場合は、主成分である中性脂質を圧搾、もしくはヘキサン等の非極性溶媒で除去するのが好ましい。ゴマ油そのままでも使用できるが、中性脂質の絶対量が多く、抗酸化成分の割合が少なくなるため用途が制限される。
本発明のゴマの抽出物としては、図6のHPLSのピークで示されるような抗酸化成分を抽出できる方法であれば、どのような溶媒、脂質、乳化剤によって抽出したものでも使用できる。具体的には、ゴマ、ゴマ油またはゴマ粕を亜酸化窒素、アセトン、エタノール、エチルメチルケトン、グリセリン、酢酸エチル、酢酸メチル、ジエチルエーテル、シクロヘキサン、ジクロロメタン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,2−トリクルルエテン、二酸化炭素、1−ブタノール、2−ブタノール、ブタン、1−プロパノール、2−プロパノール、プロパン、プロピレングリコール、ヘキサン、メタノール等の有機溶媒やトリグリセライド、ジグリセライド、モノグリセライド等の脂質、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等の乳化剤によって抽出して得ることができる。さらに、溶媒留去後、再度有機溶媒等に溶解し、水との分配により水溶性成分を除く、濾過により不溶性成分を除くなどの操作をすることにより抗酸化成分を濃縮することができる。
本発明において、抗酸化剤の添加量は、用いられる基剤や保存条件、保存期間により増減することができる。ゴマの抗酸化剤の添加量は、セサモールの場合、高度不飽和脂肪酸に対して0.5%以上添加すると効果がある。アスコルビン酸脂肪酸エステルの高度不飽和脂肪酸に対する可溶量は0.1%程度が限度であるが、過剰に添加することで抗酸化作用の持続性が高まるので目的に応じて、適宜増加することができる。例えば、セサモール1.0%とアスコルビン酸パルミテート0.5%を添加した高度不飽和脂肪酸5%含有の外用組成物であれば、常温で1年間保存可能な製品が得られる。
本発明で用いるアスコルビン酸またはアスコルビン酸脂肪酸エステルは、アスコルビン酸、アスコルビン酸パルミテート、アスコルビン酸ステアレート等のアスコルビン酸脂肪酸エステルを用いる事ができる。これらの他、アスコルビン酸の塩等も使用することができるが、脂質に対する溶解性が高いものが好ましい。
通常、油脂に抗酸化剤を添加する場合は、可溶量添加する。過剰に加えて不溶物があると製品としては異物混入の不良品と見なされること、また、機能としても過剰に入れても溶解していなければ意味がないと考えられていたからである。
しかし、本発明者らは、併用するゴマの抗酸化成分とアスコルビン酸またはアスコルビン酸脂肪酸エステルの量の関係について、試験例11〜12において示したように、ゴマの抗酸化成分、セサモール、は同量であっても過剰なアスコルビン酸脂肪酸エステルが存在すると、その抗酸化作用は持続するということを見出した。その過剰量のアスコルビン酸またはアスコルビン酸脂肪酸エステルは粉末として混合されていても、固体として混合されていても有効である。但し、粘度の高い基剤を使用する場合、自動的な拡散が遅いので、微粉末にして均一に混合する必要がある。外用剤としての使用感に影響する粗い粉末などが好ましくないのはいうまでもない。
本発明のゴマの抗酸化成分及びアスコルビン酸またはアスコルビン酸脂肪酸エステルを添加することにより酸化安定性を向上させた油脂は単独でも十分に酸化安定性に優れているが、他の抗酸化剤を併用しても構わない。また、酸化安定性に優れた油脂(植物油脂等)と混合して使用することもできる。
本発明においてはゴマの抗酸化成分とアスコルビン酸またはアスコルビン酸脂肪酸エステルに加えてトコフェロールを併用しても良い。トコフェロールはα、β、γ、δ−トコフェロール、あるいはこれらのうち2以上を混合したトコフェロールのいずれでもよいが、δ−トコフェロールが好ましい。精製魚油をはじめとする高度不飽和脂肪酸またはその塩またはエステル等は製造の段階でトコフェロールを添加したものが多く市販されている。それらを原料とすればおのずとトコフェロールを含有することになる。トコフェロールの有無はゴマの抗酸化成分とアスコルビン酸またはアスコルビン酸脂肪酸エステルの相乗効果に影響を与えない。
本発明の外用組成物中のドコサヘキサエン酸及びエイコサペンタエン酸、並びにこれらのエステル誘導体の含有量は特に制限されるものではない。使用目的に応じて必要量を使用することができる。したがって、下限は有効性を示す最低量である。また、上限は、選択した基剤に混合可能な量であればよい。具体的には、外用剤中に0.01〜20%の範囲の含量が標準的である。
本発明が提供する外用医薬品、外用医薬部外品、化粧品の形態としては、皮膚の局所表面に有効成分を直接投与できる剤形であれば特に限定されない。油脂性軟膏、乳剤性軟膏(クリーム剤)、水溶性軟膏等の軟膏剤、ゲル剤、ローション剤、テープ剤、貼付剤、スプレー、ゲル、リザーバー型パッチ等が例示される。
本発明の外用組成物には、必要に応じて外用組成物に通常用いられる基剤、吸収促進剤、保湿剤、増粘剤、乳化剤、着色剤、芳香剤、抗酸化剤、安定化剤、殺菌剤、防腐剤等を使用することができる。
外用基剤としては例えば白色ワセリン、セタノール、ステアリルアルコール、ステアリン酸、サラシミツロウ、流動パラフィン、ラウロマクロゴール、スクワラン、スクワレン、ラノリン、ミリスチン酸イソブチル、中鎖脂肪酸トリグリセリド等が挙げられる。高度不飽和脂肪酸またはその塩またはエステルは油性なので、油性の基剤には簡単に均一に混ぜることができる。水を含む基剤であっても乳化物であればW/O型、O/W型いずれでも、油の方に混ぜることで容易に混合することができる。
吸収促進剤としては例えば尿素、クロタミトン、セバシン酸ジエチル、アジピン酸ジイソプロピル等が挙げられる。
保湿剤としてはグリセリン、ソルビトール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、ピロリドンカルボン酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム等の多価アルコール類が挙げられる。
増粘剤としてはアラビアガム、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム、ポリアクリル酸塩類、ポリアクリル酸エステル類、天然ラテックス、酢酸ビニル樹脂エマルジョン、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられる。
乳化剤としてはグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル(シュガーエステル)、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム等が挙げられる。
芳香剤としてはユーカリ油、ラベンダー油、メントール、ハッカ油、ローズ油、オレンジ油、チェリーフレーバー、フルーツフレーバー、バニリン、バニラフレーバー等が挙げられる。
抗酸化剤としてはL−アスコルビン酸、アスコルビン酸ステアレート、アスコルビン酸パルミテート、アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、クエン酸イソプロピル、dl−α−トコフェロール、dl−δ−トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)等が挙げらるが、中でもアスコルビン酸パルミテート、アスコルビン酸ステアレート、L−アスコルビン酸、dl−α−トコフェロール、dl−δ−トコフェロール等、またはこれらの組み合わせが好ましい。
安定化剤としてはポリソルベート、ポリエチレングリコール、エタノール、アセトン、軽質無水ケイ酸、EDTA等が挙げられる。
防腐剤としてはパラオキシ安息香酸エステル類、塩化ベンザルコニウム、ソルビン酸、フェノール、クロロブタノール、クロロクレゾール、ベンジルアルコール等を挙げることができる。
また、本発明の外用組成物には、従来から皮膚炎、アレルギー性皮膚疾患治療のために用いられている薬剤、例えばステロイド剤、抗アレルギー剤、免疫抑制剤、抗炎症薬剤等の薬効成分を同時に含有させることができる。
本発明の外用組成物は、高度不飽和脂肪酸が有効であることが示されている皮膚炎、アレルギー性皮膚疾患に有用である。具体的にはアトピー性皮膚炎、乾癬などの患部に直接、適用することができる。
本発明の外用組成物の使用は症状、発症部位の面積、年齢、体重、薬剤の投与形態等に応じて広い範囲にわたり変えることができるが、一般に1日当たり0.1〜5gの範囲内の用量が標準的であり、通常これを1日1回または数回に分けて患部へ直接塗布する。
本発明の外用組成物は、酸化安定性に優れているが、製造途中で高度不飽和脂肪酸が酸化してしまうことや、過度に酸化しやすい環境におくことは避けなければ、その効果が十分に生かされない。
抗酸化剤は、あらかじめ高度不飽和脂肪酸またはその塩またはエステルに添加しておいてから基剤と混合してもよいし、3者を同時に混合してもよい。いずれの場合も高度不飽和脂肪酸の酸化をできるかぎり少なくする工夫が必要である。具体的には窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスで置換した環境下ですべての操作を完了させるのが好ましい。あるいは、空気が混入しないタイプの混合装置を用いて混合することができる。
本発明の外用組成物の処方例として以下のようなものが例示される。
(1)油脂性基剤
[白色軟膏]

[白色ワセリン]

(2)乳剤性基剤
[親水軟膏]

[精製ラノリン]

[吸水軟膏]

(3)亜鉛華軟膏

(4)尿素クリーム

【実施例】
以下に本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
本実施例において、精製魚油、セサモール、アスコルビン酸パルミテート、アスコルビン酸、δ−トコフェロール、エイコサペンタエン酸エチルエステル、外用基剤等は以下のものを使用した。
精製魚油(δ−トコフェロール0.5重量%含有):日本水産株式会社製 DDオイルタイプ3(マグロ油を原料とし、脱ガム、脱酸、脱臭等の精製を行い、過酸化物価5meq/Kg以下、酸価1以下、色相ガードナー3以下まで精製を行った精製魚油。EPA8重量%、DHA22重量%含有)。
精製魚油(δ−トコフェロールを含有しない):日本水産株式会社製 DDオイルタイプ3の製造行程中、δ−トコフェロールを添加する前にサンプリングしたもの。
精製魚油(イワシ油):日本水産株式会社製 DDオイルタイプ2(イワシ油を原料とし、脱ガム、脱酸、脱臭等の精製を行い、過酸化物価5meq/Kg以下、酸価1以下、色相ガードナー3以下まで精製を行った精製魚油。EPA28重量%、DHA12重量%含有。δ−トコフェロール0.5重量%含有)。
セサモール:ナカライテスク株式会社製 セサモール(純度98%)
アスコルビン酸パルミテート:三共フーヅ株式会社製 アスコルビン酸パルミテート(純度95%以上)
アスコルビン酸:ナカライテスク株式会社製 L(+)−アスコルビン酸(純度99.5%)
δ−トコフェロール:和光純薬工業株式会社製 D−δ−トコフェロール(純度90%)
エイコサペンタエン酸エチルエステル:イワシ油を原料とし、金属ナトリウムを触媒としたエタノールとのエステル交換反応によりイワシ油エチルエステルとし、その後、精密蒸留、HPLCを用いて純度99%に精製した。
α−トコフェロール:和光純薬工業株式会社製 (±)−α−トコフェロール(純度98%)
外用基剤またはその成分:サラシミツロウ(小林化工)、セスキオレイン酸ソルビタン(和光純薬工業株式会社)、白色ワセリン(和光純薬工業株式会社)、白色ワセリン(和光純薬工業株式会社)、親水軟膏(日興製薬株式会社)、精製ラノリン(日興製薬株式会社)、吸水軟膏(日興製薬株式会社)、酸化亜鉛(和光純薬工業株式会社)、流動パラフィン(純正化学株式会社)、尿素(純正化学株式会社)、セチルアルコール(株式会社共和テクノス)、モノステアリン酸グリセリン(東京化成工業株式会社)、流動パラフィン、(純正化学株式会社)、グリセリン(和光純薬工業株式会社)、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル(和光純薬工業株式会社)、メチルポリシロキサン(東京化成工業株式会社)、パラオキシ安息香酸メチル(東京化成工業株式会社)、エデト酸4ナトリウム(株式会社同仁化学研究所)、クエン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社)
【実施例1〜7】
<各種外用組成物の調整>
表8に示した各種外用基剤に精製魚油および抗酸化剤を添加した外用組成物を調製した。実施例1〜7の各組成物の処方は表1〜7に示したとおりである。調製した各基剤95gに対して本発明の抗酸化処方(セサモール1.0%+アスコルビン酸パルミテート0.5%)を加えた精製魚油(イワシ油)(δ−トコフェロール0.5重量%含有)5gを窒素気流下にて少量ずつ基剤に加えながら、ガラス乳鉢を用いて練合した。練合した試料は窒素気流下で速やかにアルミチューブに保存した。比較例として、それぞれの基剤に精製魚油(イワシ油)(δ−トコフェロール0.5重量%含有)のみを添加したものを調整した。

<外用組成物の抗酸化効果の確認>
上記の要領で調製した各外用組成物の保存性を確認した。
各外用組成物はアルミチューブに充填した後、40℃にて保存した。保存した外用組成物についての評価は2週間後、1ヶ月後、2ヶ月後、3ヶ月後に、官能による魚臭程度の評価ならびに化学的な外用組成物の酸化分析により行った。
[官能評価方法]
魚臭専門パネル3名の手腕皮膚に各外用組成物を一定量塗り、塗布直後および0〜3時間後の魚臭程度を評価基準(表9)に従って評価した。

結果
官能評価の結果を表10(塗布直後)、表11(40℃にて2ヶ月保存したサンプル、塗布後0〜3時間)に示す。


白色ワセリンを基剤として用いた場合、比較例1は40℃、2ヶ月後で魚臭を認め、40℃、3ヶ月後においては更に強い魚臭を認めた。対して実施例1は40℃、3ヶ月後においても魚臭をほぼ完全に抑制し得た。
白色軟膏を基剤として用いた場合、比較例2は40℃、2ヶ月後においては魚臭を認められなかったが、40℃、3ヶ月後において魚臭を認めた。対して実施例2は40℃、3ヶ月後においても魚臭をほぼ完全に抑制し得た。表11では塗布後の比較例2において2時間後には魚臭を認めていたのに対して、実施例2では塗布後3時間後まで魚臭を全く認めなかった。
亜鉛華軟膏を基剤として用いた場合、比較例3は40℃、1ヶ月までは若干の魚臭が認められたが、その後は魚臭を認めなかった。また、実施例3は40℃、3ヶ月後においても魚臭をほぼ完全に抑制し得た。ただし、表11に示した塗布後経過を比較すると比較例3では0.5時間後には魚臭を認め、以後経時的に魚臭を強めた。対して実施例3においては塗布後3時間にわたり、魚臭をほとんど認めなかった。
精製ラノリンを基剤として用いた比較例4、実施例4に関しては魚臭を認めなかった。
親水軟膏を基剤として用いた場合、比較例5は40℃、2週間後で強い魚臭を認め、その後も強い魚臭を認めた。対して実施例5ただし、同条件の保存を得た比較例5に比して魚臭は弱いものだった。
尿素クリームを基剤として用いた場合、比較例6は40℃、2週間後で強い魚臭を認め、3ヶ月後まで経時的に魚臭が強くなった。対して、実施例6は40℃、3ヶ月後においても魚臭をほぼ完全に抑制し得た。
吸水軟膏を基剤として用いた比較例7、実施例7に関しては魚臭を認めなかった。
白色ワセリン、白色軟膏、亜鉛華軟膏、親水軟膏、尿素クリームにおいて本発明の抗酸化処方による魚臭の抑制が確認された。精製ラノリンと吸水軟膏は基剤自体に強い臭いがあり、その臭いによるマスキング効果のため、官能検査では差が認められなかった。
具体的には、親水軟膏を除くいずれの基剤においても本発明の抗酸化剤を使用した場合、40℃で3ヶ月間保存しても官能的に酸化による臭いは発生しなかった。40℃3ヶ月間の保存は常温で1年間保存に値する。親水軟膏の場合も比較例に比べれば良い結果であった。
[酸化分析方法]
各外用組成物の酸化についてSaftestキット(米国のSaftest Inc.製の脂質の抽出から酸化分析を一貫して行うキット)により過酸化物価(PV)、マロンジアルデヒド量、アルケナール量を評価した。
試料軟膏1gを採取し、Preparation reagent(Saftet Inc.)3mLを加えた。55℃にて5分間加温後、激しく振とうし、更に55℃にて15分間加温した。その後、遠心分離(3000rpm×5分)を行い、上清をMembrane Sparation Unit(Saftest Inc.)によりろ過して得られたろ液を試料液とした。
▲1▼PV測定
調製した試料液50uLを試験管に分注し、更にPeroxysafe reagent A,B,C(Saftet Inc.)をそれぞれ加えて混合、15分間常温(18〜25℃)に静置した。静置後、SaftestTM Analyzer(Saftest Inc.)により吸光度を分析してPVを得た。
▲2▼マロンジアルデヒド量測定
調製した試料液150uLを試験管に分注し、Aldesafe reagent A,B(Saftet Inc.)をそれぞれ加えて混合、40℃で90分静置した。静置後、SaftestTM Analyzer(Saftest Inc.)により吸光度を分析してマロンジアルデヒド量を得た。
▲3▼アルケナール量測定
調製した試料液200uLを試験管に分注し、Alkalsafe reagent A,B(Saftet Inc.)をそれぞれ加えて混合、常温(18〜25℃)にて20分静置した。静置後、SaftestTM Analyzer(Saftest Inc.)により吸光度を分析してアルケナール量を得た。
結果
表12にPV、表13にマロンジアルデヒド、表14にアルケナールの測定結果を示した。基剤によりバックグラウンドの値が異なるので、保存2ヶ月後における実施例と比較例の差として表示した。PV(表12)では尿素クリーム以外では比較例より実施例でPV上昇を抑制した。マロンジアルデヒド(表13)ではすべての基剤において比較例より実施例でマロシジアルデヒド生成を抑制した。また、アルケナール(表14)でもすべての基剤において比較例より実施例でアルケナール生成を抑制した。以上の結果より、官能検査だけでなく、化学的にも本発明の抗酸化剤の抗酸化効果が確認された。
精製ラノリンと吸水軟膏については基剤自体のバックグラウンドが大きく、適切に測定ができなかった。



試験例
以下に、上記の実施例にて効果を示したセサモールとアスコルビン酸パルミテートの組合せ以外についても同様の効果を有することを示す試験例を示す。
試験例1
<セサモール+アスコルビン酸パルミテート+δ−トコフェロールの効果の確認>
精製魚油(δ−トコフェロール0.5重量%含有)にそれぞれ以下の抗酸化剤を添加したサンプルを調製した。
・セサモール(1.0重量%)+アスコルビン酸パルミテート(0.01重量%)
・セサモール(1.0重量%)のみ
・アスコルビン酸パルミテート(0.01重量%)のみ
これらのサンプル3mLを30mL褐色瓶にいれセプタムにて密栓後、60℃にて保存を行い、2日後のヘッドスペースの酸素濃度をガスクロマトグラフィーにて測定し、油脂が吸収した(油脂と反応した)酸素量を算出した。結果を図1に示した。精製魚油にセサモールとアスコルビン酸パルミテートを併用することにより酸素の吸収量が抑制されており、セサモール、または、アスコルビン酸パルミテートを単独で添加したものに比べて、精製魚油の酸化安定性を大きく向上させていることがわかる。
試験例2
<セサモール+アスコルビン酸+δ−トコフェロールの効果の確認>
精製魚油(δ−トコフェロール0.5重量%含有)にそれぞれ以下の抗酸化剤を添加したサンプルを調製した。
・セサモール(1.0重量%)+アスコルビン酸(0.01重量%)
・アスコルビン酸(0.01重量%)のみ
これらのサンプル4mLを30mL褐色びんにいれ、試験例1と同様の保存試験を行った。結果を図2に示した。精製魚油にセサモールとアスコルビン酸を併用することにより酸素の吸収量が抑制されており、アスコルビン酸を単独で添加したものに比べて、精製魚油の酸化安定性を大きく向上させていることがわかる。
試験例3
<セサモール、アスコルビン酸パルミテートの用量依存性>
精製魚油(δ−トコフェロール0.5重量%含有)に抗酸化剤としてδ−トコフェロール:セサモール:アスコルビン酸パルミテートをそれぞれ以下の比率で添加したサンプルを調製した。
・0.5%:0.5%:0.05%
・0.5%:0.5%:0.1%
・0.5%:1.0%:0.05%
・0.5%:1.0%:0.1%
これらのサンプルについて試験例2と同様の保存試験を11日間行った。結果を図3に示した。この結果から、精製魚油に添加するセサモール、アスコルビン酸パルミテート量を増加する事によって酸素の吸収量が抑制されており、用量依存的に精製魚油の酸化安定性を向上させることがわかる。
試験例4
<セサモール+アスコルビン酸パルミテートの効果の確認>
精製魚油(δ−トコフェロールを含有しない)に抗酸化剤としてセサモール(1.0重量%)+アスコルビン酸パルミテート(0.01重量%)を添加し、サンプルを調製した。このサンプルについて試験例1と同様の保存試験を行った。結果を図4に示した。トコフェロール無しでも、セサモールおよびアスコルビン酸パルミテートの併用により酸素の吸収が抑制され、精製魚油の酸化安定性を大きく向上させることがわかる。
試験例5
<ゴマ油抽出物+アスコルビン酸パルミテート(0.1重量%)+δ−トコフェロールの効果の確認>
濃口ゴマ油8.23gにメタノール100mlを添加し、激しく攪拌後、メタノール層からメタノールを留去し0.28gのメタノール抽出物を得た。このメタノール抽出物にはセサモールが含まれている事を、薄層クロマトグラフにて確認した(薄層;Merck社Kiesolgel 60 F254 0.25mm、展開溶媒;ヘキサン:ジエチルエーテル:酢酸=70:30:1、発色試薬;1,1−Diphenyl−2−picrylhydrazyl,Free Radical)。
精製魚油(δ−トコフェロール0.5重量%含有)にそれぞれ以下の抗酸化剤を添加したサンプルを調製した。
・上記ゴマ油メタノール抽出物(2.0重量%)+アスコルビン酸パルミテート(0.1重量%)
・上記ゴマ油メタノール抽出物(2.0重量%)のみ
・アスコルビン酸パルミテート(0.1重量%)のみ
これらのサンプルについて試験例2と同様の保存試験を行った。結果を図5に示した。ゴマ油メタノール抽出物もセサモール同様に単独で添加しても効果は無く、アスコルビン酸パルミテートと併用することにより酸素の吸収量を抑制し、精製魚油の酸化安定性を向上させることがわかる。
試験例6
<焙煎ゴマ粕抽出物+アスコルビン酸パルミテート+δ−トコフェロールの効果の確認>
(1)焙煎ゴマ粕抽出物1
焙煎ごま粕1.0kgに95%エタノール2.0kgを添加し40℃で2時間激しく攪拌し、その後、焙煎ごま粕を濾過して抽出液を得た。濾過した焙煎ごま粕に再度95%エタノール1.5kgを添加し40℃で1時間激しく攪拌、濾過し、抽出液を得た。得られた2回分の抽出液を濃縮後、酢酸エチル240g、水80gを加え45℃にて1時間激しく攪拌した。攪拌後、水層を除去し、酢酸エチル層にプロピレングリコールモノオレート40gを加え、酢酸エチルを留去し、焙煎ゴマ粕抽出物1を58g(プロピレングリコールモノオレート40gを含むので実質焙煎ゴマ粕抽出物は18g)を得た。
(2)焙煎ゴマ粕抽出物2
焙煎ごま粕1.0kgに95%エタノール2.0kgを添加し40℃で2時間激しく攪拌し、その後、焙煎ごま粕を濾過して抽出液を得た。濾過した焙煎ごま粕に再度95%エタノール1.5kgを添加し40℃で1時間激しく攪拌、濾過し、抽出液を得た。得られた2回分の抽出液にプロピレングリコールモノオレート40gを加え、95%エタノールを留去し、焙煎ゴマ粕抽出物を50g(プロピレングリコールモノオレート40gを含むので実質焙煎ゴマ粕抽出物は10g)得た。
(3)焙煎ゴマ粕抽出物3
焙煎ごま粕200gに95%エタノール300mlを添加し40℃で2時間激しく攪拌し、その後、焙煎ごま粕を濾過して抽出液を得た。濾過した焙煎ごま粕に再度95%エタノール300mlを添加し40℃で2時間激しく攪拌、濾過し、抽出液を得た。得られた2回分の抽出液を濃縮後、酢酸エチル150ml、水50mlを加え室温にて1時間激しく攪拌した。攪拌後水層を除去し、さらに酢酸エチルを留去し、焙煎ゴマ粕抽出物を9.0g得た。
焙煎ゴマ粕抽出物1について電気化学検出器を用いた高速液体クロマトグラフを測定した。測定条件は以下のとおりである。チャートを図6に示す。電気化学検出器のピークなので、すべてのピークが抗酸化作用を有するものである。セサモール、ピノレシノールをはじめとして数多くの抗酸化成分が含まれていることが示された。
測定条件
カラム:TSK−gel ODS−80Ts 4.6×150mm
溶離液:
0−5min.メタノール:水(2%1M酢酸アンモニウム緩衝液,pH4.4含)=40:60
10−17min.メタノール:水(2%1M酢酸アンモニウム緩衝液,pH4.4含)=70:30
22−40min.メタノール:水(2%1M酢酸アンモニウム緩衝液,pH4.4含)=100:0
流速:1.0mIL/min.
カラム温度:35℃
サンプル濃度:10−12mg/mL
サンプル溶解液:メタノール:エタノール:ヘキサン=5:4:1
注入量:10μL
電極1(還元電位):−1V
電極2(酸化電位):500mV
レンジ:20μA
精製魚油(δ−トコフェロール0.5重量%含有)にそれぞれ以下の抗酸化剤を添加したサンプルを調製した。
・上記焙煎ゴマ粕抽出物1(1.0重量%)+アスコルビン酸パルミテート(0.05重量%)
・上記焙煎ゴマ粕抽出物1(1.0重量%)+アスコルビン酸パルミテート(0.1重量%)
・上記焙煎ゴマ粕抽出物1(1.0重量%)のみ
・アスコルビン酸パルミテート(0.1重量%)のみ
・上記焙煎ゴマ粕抽出物2(1.0重量%)+アスコルビン酸パルミテート(0.1重量%)
・上記焙煎ゴマ粕抽出物3(1.0重量%)、アスコルビン酸パルミテート(0.1重量%)
これらのサンプルについて試験例2と同様の保存試験を行った。結果を図7に示した。これら焙煎ゴマ粕抽出物もセサモール同様にアスコルビン酸パルミテートと併用することにより酸素の吸収量を抑制し、精製魚油の酸化安定性を向上させることがわかる。
試験例7
<焙煎ゴマ粕抽出物+アスコルビン酸パルミテート+δ−トコフェロールの効果の確認>
試験例6の焙煎ゴマ粕抽出物1(1.0重量%)+アスコルビン酸パルミテート(0.1重量%)を添加したサンプル、および、焙煎ゴマ粕抽出物2(1.0重量%)+アスコルビン酸パルミテート(0.1重量%)を添加したサンプルについて、各10mlを20ml褐色びんに入れ60℃にて開放保存を行い、保存中のマロンジアルデヒド、アルケナール類濃度の変化をSaftest,Inc.社のSafTestを用いて測定した。結果を図8、9に示した。精製魚油に焙煎ゴマ粕抽出物およびアスコルビン酸パルミテートを添加することにより、魚油の酸化分解物であり、さらに劣化魚油の臭気物質であるマロンジアルデヒド、アルケナール類の生成が高度に抑制されており、魚油が安定化されていることがわかる。
試験例8
実施例1のセサモールの代わりに焙煎ごま粕抽出物3からシリカゲルオープンカラム、ODS−HPLCにて得られたセサミノールを用いたところ、同様の効果を得た。
試験例9
実施例1のセサモールの代わりに焙煎ごま粕抽出物3からシリカゲルオープンカラム、ODS−HPLCにて得られたピノレジノールを用いたところ、同様の効果を得た。
試験例10
実施例1のセサモールの代わりに焙煎ごま粕抽出物3からシリカゲルオープンカラム、ODS−HPLCにて得られた2,3−ジ(4’−ヒドロキシ−3’−メトキシベンジル)−2−ブテン−4−オライドを用いたところ、同様の効果を得た。
試験例11
<過剰量のアスコルビン酸エステルの効果の確認>
精製魚油(δ−トコフェロール0.5重量%含有)にそれぞれ以下の抗酸化剤を添加したサンプルを調製した。
・セサモール(0.5%)+アスコルビン酸パルミテート(0.1%))
・セサモール(1.0%)+アスコルビン酸パルミテート(0.1%))
各サンプル4mLを30mL褐色びんに入れ、セプタムにて密栓後、60℃にて保存を行い、保存中の酸素濃度をガスクロマトグラフィーにて測定し、油脂と反応した(吸収した)酸素量を算出した。また、各抗酸化剤の残存量を電気化学検出器を用いたHPLCにて分析した。
それぞれの結果を図10、11に示した。いずれの場合も、先ずアスコルビン酸パルミテートが消費(酸化)され、アスコルビン酸パルミテートが無くなると精製魚油、δ−トコフェロール、セサモールが同時に酸化し始めることが示された。したがって、抗酸化剤としてδ−トコフェロール+セサモール+アスコルビン酸パルミテートが存在している場合、アスコルビン酸パルミテートが残存している事が重要であると考えられた。このことを確認するために、図11と同様の系において、4日目にアスコルビン酸パルミテートをさらに0.1%追加した場合の結果を図12に示した。図11ではアスコルビン酸パルミテートが無くなると油脂の酸化がはじまる(10日目あたり)が、同じ系で4日目にアスコルビン酸パルミテートを追加した図12では油脂の酸化が10日目以降も抑制された。
これらの結果より、したがって、本発明の抗酸化の系においては、アスコルビン酸パルミテートが残存していることが重要であることが示された。
試験例12
<本発明のエイコサペンタエン酸エチルエステルに対する効果、および、過剰量のアスコルビン酸パルミテートの効果の確認>
純度99%のエイコサペンタエン酸エチルエステル(α−トコフェロール0.2%含有)にそれぞれ以下の抗酸化剤を添加したサンプルを調製した。
・セサモール1.0%+アスコルビン酸パルミテート0.1%
・セサモール1.0%+アスコルビン酸パルミテート0.5%
これらのサンプルを60℃で保存し、過酸化物値(PV)を測定した。
結果を図13に示した。溶解量のアスコルビン酸パルミテート(0.1%)を添加した場合に比べ、過剰量のアスコルビン酸パルミテート(0.5%)を添加した場合に抗酸化作用が持続した。
試験例13
<外用剤で一般的に用いられる抗酸化剤(t−ブチルヒドロキシトルエン(BHT))との比較>
▲1▼パルク精製油脂における効果の比較
外用剤で一般的に用いられている抗酸化剤としてt−ブチルヒドロキシトルエン(BHT)と本発明の抗酸化処方を比較した。精製魚油(イワシ油)(δ−トコフェロール0.5%含有)に対してBHT0.5%、1.5%、10.0%、またはセサモール1.0%、アスコルビン酸パルミテート0.5%を添加した。各サンプルの油脂4mLを30mL褐色びんに入れセプタムにて密栓後、37℃において保存し、経時的にヘッドスペースの酸素濃度をガスクロマトグラフィーにて測定し、油脂と反応した(吸収した)酸素量を算出した。
結果
パルク油脂におけるBHTおよび本発明の抗酸化処方の抗酸化効果の比較を図14に示した。本発明の抗酸化処方に含まれる抗酸化剤量の総和と同量(1.5%)のBHT添加試料より、また、圧倒的多量(10.0%)のBHT添加試料よりも本抗酸化処方の抗酸化効果が高いことが示された。
▲2▼外用剤に添加した効果の比較
BHTは精製魚油に対して0.5%、1.5%、10.0%でそれぞれ添加した。白色ワセリンを基剤として実施例1と同様に、BHT添加魚油から外用剤を調製し、保存試験(40℃)を行い、上述と同様に官能評価(n=3)を行った。
結果
0.5%、1.5%、10.0%のいずれのBHT濃度においても保存2週間で魚臭を発生させた。表15に示したように本発明の抗酸化処方を使用した試料では保存1ヶ月においても魚臭を認めていない。従って、本発明の抗酸化処方はBHTよりも優れた魚臭抑制効果、抗酸化効果をもつといえる。

【産業上の利用可能性】
高度不飽和脂肪酸、その塩、またはそのエステルを含有するにもかかわらず、酸化安定性のある外用組成物を提供することができる。従来、酸化による臭いのために使用方法、使用量などが制限されていたEPA等の高度不飽和脂肪酸等を含有する外用医薬品、外用医薬部外品、化粧品を提供することができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗酸化剤としてゴマの抗酸化成分およびアスコルビン酸またはアスコルビン酸脂肪酸エステルを添加した、高度不飽和脂肪酸、その塩、またはそのエステル、および外用基剤を含有する、酸化安定性を有する外用組成物。
【請求項2】
ゴマの抗酸化成分が電気化学検出器を用いた高速液体クロマトグラフで検出される、溶出時間が2.66,3.40,3.84,4.57,4.98,5.82,7.00,8.67,9.84,11.24,12.29,12.49,13.36,14.04,14.32,14.74,15.22,15.60,15.82,16.34,16.98,18.10,18.43,34.91分付近にピークを示す成分の少なくとも一つ以上を含むものである請求項1の外用組成物。
【請求項3】
ゴマの抗酸化成分がゴマ、ゴマ油またはゴマ粕の溶媒、脂質、または、乳化剤のいずれか単独または混合溶媒による抽出物である請求項1の外用組成物。
【請求項4】
ゴマの抗酸化成分が、セサモール、セサミノール、エピセサミノール、ピノレジノール、エピヒノレジノール、シリンガレジノール、サミン、セサモリノール、2,3−ジ(4’−ヒドロキシ3’−メトキシベンジル)−2−ブテン−4−オライド(2,3−di(4’−hydroxy−3’−methoxybenzyl)−2−buten−4−olide)から選ばれる少なくとも一つ以上を含有するものである請求項1の外用組成物。
【請求項5】
アスコルビン酸脂肪酸エステルがアスコルビン酸パルミテートまたはアスコルビン酸ステアレートを含有するものである請求項1ないし4のいずれかの外用組成物。
【請求項6】
アスコルビン酸またはアスコルビン酸脂肪酸エステルを高度不飽和脂肪酸、その塩、またはそのエステルに対する可溶量以上の過剰量を添加したものである請求項1ないし5のいずれかの外用組成物。
【請求項7】
過剰量のアスコルビン酸またはアスコルビン酸脂肪酸エステルを粉末または固形物として添加した請求項6の外用組成物。
【請求項8】
高度不飽和脂肪酸がエイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸のいずれか1種以上を含有する脂肪酸である請求項1ないし7いずれかの外用組成物。
【請求項9】
高度不飽和脂肪酸のエステルが高度不飽和脂肪酸を構成成分として含有するトリグリセライドまたは高度不飽和脂肪酸の低級アルコールエステルである請求項1ないし8いずれかの外用組成物。
【請求項10】
高度不飽和脂肪酸のエステルが精製魚油として含有される請求項1ないし8のいずれかの外用組成物。
【請求項11】
さらに、トコフェロールを含有する請求項1ないし10のいずれかの外用組成物。
【請求項12】
皮膚の炎症性疾患に用いられる請求項1ないし11のいずれかの外用組成物。
【請求項13】
外用基剤として、白色軟膏、白色ワセリン、亜鉛華軟膏等の油脂性基剤、親水軟膏、精製ラノリン、吸水軟膏、尿素クリーム等の乳剤性基剤(クリーム剤)のいずれかを用いたものである請求項1ないし12のいずれかの外用組成物。
【請求項14】
外用基剤として、白色軟膏、白色ワセリン、尿素クリーム、亜鉛華軟膏のいずれかを用いたものである請求項13の外用組成物。
【請求項15】
過酸化物価(PV)3.0meq/kg以下、酸化(AV)1.0以下であり、かつ、官能的に無臭の高度不飽和脂肪酸、その塩、またはそのエステル、またはそれらを含有する油脂に、ゴマの抗酸化成分、アスコルビン酸またはアスコルビン酸脂肪酸エステル、および外用基剤を酸素の混入を抑えた環境下で混合し、速やかに密封容器に注入することを特徴とする、酸化安定性を有する、高度不飽和脂肪酸、その塩、またはそのエステルを含有する外用組成物の製造方法。
【請求項16】
酸素の混入を抑えた環境下が不活性ガス置換環境下である請求項15の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/048497
【国際公開日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【発行日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−555005(P2004−555005)
【国際出願番号】PCT/JP2003/014905
【国際出願日】平成15年11月21日(2003.11.21)
【出願人】(000004189)日本水産株式会社 (119)
【Fターム(参考)】