説明

2軸式ガスタービンシステムの制御装置

【課題】
負荷遮断時におけるタービンの回転数上昇を抑制しつつ、ガスタービンシステム全体の安定性を確保可能な2軸式ガスタービンシステムの制御装置および方式を提供する。
【解決手段】
空気を圧縮する入口案内翼を有する圧縮機2と、圧縮機2で圧縮された圧縮空気26と燃料21とを燃焼させる燃焼器と、燃焼器で生成された燃焼ガス23により圧縮機2と同軸で回転駆動する高圧側タービン1と、高圧側タービンを回転駆動した燃焼ガスにより圧縮機2と別軸で回転駆動する低圧側タービン3と、燃焼器に供給される圧縮空気26の流量を調整可能な抽気手段とを備えた2軸式ガスタービンの制御装置であって、負荷遮断運転時に抽気手段により抽気された空気量に基づいて入口案内翼を制御するよう構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2軸式ガスタービンシステムの制御装置、特に、負荷遮断時におけるタービンの過回転を抑止するガスタービンシステムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンシステムを用いたプラントにおいて、異常発生した際の負荷遮断時には、タービン回転数の過回転を抑制する運転が必要となる。例えば特開2003−148173号公報には、圧縮機入口に設置した入口案内翼を負荷遮断運転時に開き、圧縮機への吸気量を増加することにより圧縮機の負荷を高めてガスタービンの回転数上昇を抑制する技術が開示されている。また、特開昭61−218794号公報には、圧縮機中間段に設置した抽気弁を負荷遮断運転時に開き、圧縮機吐出の空気圧力を減少させるとともに、タービンへ供給する燃焼空気流量を減少させてガスタービンの回転数上昇を抑制する技術が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−148173号公報
【特許文献2】特開昭61−218794号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特開2003−148173号公報に開示された入口案内翼を開いてガスタービンの回転数上昇を抑制する方法では、負荷遮断運転時において空気流量の増加を伴うことから、タービンに流入する燃焼用空気の流量はむしろ増加する。燃焼用空気流量の増加と、燃料流量の急速な降下により燃空比は低下し、燃焼安定性が損なわれる可能性がある。さらに、2軸式ガスタービンの場合には圧縮機負荷の上昇により高圧側タービンの回転数上昇は抑制されるが、燃焼用空気流量の増加により低圧側タービンへと流入する燃焼ガス量は相対的に増加するため、低圧側タービンの回転数上昇に対しては充分な抑制効果が得られない。
【0005】
一方、特開昭61−218794号公報に開示された抽気弁を開いてガスタービンの回転数上昇を抑制する方法では、圧縮機出口における空気圧力、高圧側タービン入口および低圧側タービン入口における燃焼ガス圧力の低下に効果があることから、高圧側・低圧側双方のタービン回転数の上昇を抑制する効果があると考えられる。しかしながら、低圧側タービンの回転数上昇を充分に抑制するためには、抽気空気の流量を充分に確保する必要があり、圧縮機出口および高圧側タービン入口において過度な圧力低下をもたらす。高圧側タービン入口圧力の過度な低下は高圧側タービンの過度な回転数低下の原因となるほか、高圧側タービンおよび低圧側タービンの回転数がそれぞれに大きく変動して、負荷遮断運転後のシステム全体の安定性が損なわれる。
【0006】
本発明の目的は、負荷遮断時におけるタービンの回転数上昇を抑制しつつ、ガスタービンシステム全体の安定性を確保可能な2軸式ガスタービンシステムの制御装置および方式を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の2軸式ガスタービンシステムの制御装置は、空気を圧縮する入口案内翼を有する圧縮機と、前記圧縮機で圧縮された圧縮空気と燃料とを燃焼させる燃焼器と、前記燃焼器で生成された燃焼ガスにより前記圧縮機と同軸で回転駆動する高圧タービンと、前記高圧タービンを回転駆動した燃焼ガスにより前記圧縮機と別軸で回転駆動する低圧タービンと、前記燃焼器に供給される圧縮空気の流量を調整可能な抽気手段とを備えた2軸式ガスタービンの制御装置であって、負荷遮断運転時に前記抽気手段により抽気された空気量に基づいて前記入口案内翼を制御するよう構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、負荷遮断時におけるタービンの回転数上昇を抑制しつつ、ガスタービンシステム全体の安定性を確保可能な2軸式ガスタービンシステムの制御装置および方式を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
発電所において送電系統に異常が発生した場合、送電系統の保護を目的に発電機を系統から遮断するとともに、発電機を駆動するガスタービンの燃料流量を無負荷・定格回転数の燃料設定にまで急速に降下させる負荷遮断運転を実施する。負荷遮断運転では、発電機遮断から燃料流量降下開始までの時間差,バルブ開閉速度に起因する燃料流量の応答遅れ,燃料流量調整弁から燃焼器までの配管に残留する燃料の燃焼等の影響によってガスタービンおよび発電機の回転数(タービン回転数)に一時的な上昇がみられる。タービン回転数の過度な上昇は駆動軸やタービン翼にダメージを与え、寿命低下の原因となることから、タービン回転数の過回転を防止する運転が必要となる。
【0010】
また、負荷遮断運転後のガスタービンは無負荷・定格回転数の状態で運転を継続し、送電系統の異常が解消した場合にはすみやかにタービン回転数を系統周波数に同期・併入して系統に復帰する必要がある。そのため、ガスタービン発電システムにおいては負荷遮断後のシステム変動を最小限とし、すみやかにシステム全体を安定化させるための最適運転も望まれている。
【0011】
以上に挙げた2点の課題は、圧縮機を駆動する高圧側タービンと発電機を駆動する低圧側タービンとで構成され、高圧側・低圧側の双方のタービンが独立して回転する2軸式ガスタービンにおいて特に重要な課題となる。これは、2軸式ガスタービンで負荷遮断運転が発生した場合、駆動軸に圧縮機などの負荷を持たない低圧側タービンが完全に無負荷状態となるためであり、1軸式ガスタービンにおける負荷遮断運転時に比べて低圧側タービンの回転数上昇が著しい。低圧側タービンの回転数上昇を抑制するには1軸式ガスタービンと比べて高圧側タービンの燃料流量をさらに下げる必要があるが、そうすると高圧側タービンの回転数変動および燃焼器における燃焼安定性の低下によりシステム全体の安定性が損なわれる可能性がある。
【0012】
以下説明する本発明の各実施例の2軸式ガスタービンシステムによれば、負荷遮断運転時においては、高圧側タービンの入口に設置した燃料流量調整弁を最低燃料流量相当となる開度へと切り換えるとともに、放風弁の開度および圧縮機入口案内翼の角度を増加することにより圧縮機を通過する空気流量を増加させる。負荷遮断運転時には燃料流量の低下によりタービン出力を降下させるとともに、圧縮機を通過する空気流量の増加によって圧縮機負荷を上昇させるので、高圧側タービンの出力をより速やかに無負荷・定格回転数の状態にまで降下させることができる。
【0013】
また、燃料流量の低下によって高圧側タービンの出力を降下させると同時に、圧縮機を通過する空気流量の増加によって圧縮機負荷を上昇させることにより、圧縮機出口における空気圧力、高圧側タービン入口燃焼ガス圧力および低圧側タービン入口燃焼ガス圧力のそれぞれを速やかに降下させ、かつ高圧側タービンから低圧側タービンへと流入する燃焼ガスの流量を速やかに降下させるので、低圧側タービンの回転数上昇をより効果的に抑制することができる。
【0014】
さらにまた、圧縮機制御装置において空気放風量から圧縮機入口案内翼の角度を制御するので、高圧側タービン入口における空気圧力の過度な低下・空気流量の過度な低下などに起因する燃空比の変動を抑制して燃焼用空気流量の過多による火炎の喪失(失火),空気流量の寡少による燃焼配管への逆火といったトラブルの発生を抑制することができる。
【0015】
さらにまた、高圧側タービンから低圧側タービンへと流入する燃焼ガスのエネルギー量の速やかな降下により、低圧側タービンの回転数変動を抑制するので、負荷遮断後の燃料流量による低圧側および高圧側双方のタービン回転数の変動を最小としてタービン全体を無負荷・定格回転数の安定状態へとより早期に移行することが可能となり、再送電までの時間を最短とすることができる。
【実施例1】
【0016】
図1を用いて、本発明の第1の実施例について説明する。図1は本発明の実施例1である2軸式ガスタービンおよびその制御装置の概略図を示す。
【0017】
実施例1である2軸式ガスタービンシステムは、燃料21の燃焼エネルギーを用いて駆動する高圧側タービン1と、高圧側タービン1の駆動力を圧縮機2へと伝達する高圧側駆動軸10と、空気20を吸気・加圧して燃焼用空気26を得る圧縮機2と、高圧側タービン1からの燃焼ガス23を用いて駆動する低圧側タービン3と、低圧側タービン3の駆動力を発電機4へと伝達する低圧側駆動軸11と、低圧側タービン3の駆動力を用いて発電する発電機4とで構成される。発電機4で得られた電力は遮断機5,変圧器6を経て送電系統25から電力系統へと送電する。電力系統に何らかのトラブルが発生した場合には、遮断機5において発電機4を送電系統25から遮断する。
【0018】
また、本実施例の2軸式ガスタービンシステムは、圧縮機2へ吸気する空気20の流量を制御する入口案内翼9と、高圧側タービン1への燃料空気26の流量を制御する放風弁8と、電力系統を統括する中央給電指令所からの負荷指令に応じて燃料21の流量を制御する燃料流量調整弁7とを備える。また、発電機4における発電出力MWを計測する電力計31と、低圧側タービン回転数NLPを計測する回転数計30と、放風弁8を通過する空気放風量GBLWを計測する流量計32とを備え、発電出力MWと、低圧側タービン回転数NLPと、空気放風量GBLWおよび中央給電指令所からの負荷指令MWDとから燃料流量調整弁7の開度指令CGCV,放風弁8の開度指令CBLW,入口案内翼9の角度指令AIGVを計算するタービン制御装置100を備える。本実施例の2軸式ガスタービンシステムのタービン制御装置100は、燃料流量制御装置101と圧縮機制御装置102とから構成されるる。燃料流量制御装置101はガスタービンの起動停止運転,負荷運転,負荷遮断運転等ガスタービンの諸運転における燃料流量調整弁7の開度指令CGCVを計算する。圧縮機制御装置102は一般のガスタービン制御装置に用いられる単純な入口案内翼9の制御に加え、負荷遮断運転時における入口案内翼および放風弁の協調制御を担当し、負荷遮断信号SCB,発電指令MWD,空気放風量GBLWから入口案内翼角度指令AIGVおよび放風弁開度指令CBLWを計算する。
【0019】
図2は、本発明の実施例1である2軸式ガスタービンの燃料流量制御装置101の概略図を示す。燃料流量制御装置101は、一般のガスタービン制御装置と同等の機能をも有するが、ここでは特に2軸式ガスタービンシステムにおける燃料流量制御の考え方についてその概略を示す。
【0020】
制御器110は、発電出力MWと負荷指令MWDとの値を比較し、MWとMWDが一致するよう低圧側タービン回転数指令NLP1を計算する。次に信号切換器111において、負荷遮断信号SCBの状態に応じて前記低圧側タービン回転数指令NLP1および負荷遮断時低圧側タービン回転数指令NLP0(通常は定格回転数に相当)のいずれかを選択し、切換後低圧側タービン回転数指令NLP2として出力する。具体的には負荷遮断運転時には信号NLP2の値として信号NLP0が選択され、それ以外の場合には信号NLP2の値として信号NLP1が選択される。
【0021】
制御器112では、前記切換後低圧側タービン回転数指令NLP2と低圧側タービン回転数NLPとからNLP2とNLPが一致するよう速度負荷燃料指令Gfldを計算する。Gfldは無負荷・定格回転数から、定格負荷・定格回転数までのガスタービン発電システムの運転制御、すなわち、一定負荷運転,負荷変化運転あるいは負荷遮断運転における燃料流量の制御を担当する。
【0022】
なお、負荷遮断運転時には信号切換器111において、低圧側タービン回転数指令値NLP2をNLP1からNLP0に切り換えることにより低圧側タービン回転数NLPが負荷遮断時低圧側タービン回転数指令(定格回転数)に一致するよう制御するが、負荷遮断運転時には先に述べた諸要因によって低圧タービン回転数が上昇する。そこで、負荷遮断時にGfldとは別に最低燃料流量指令Gfminを設定することにより、タービン回転数の上昇を先行的に抑えている。図2に示した燃料流量制御装置101では、信号切換器113において、負荷遮断信号SCBの状態に応じて最大燃料流量GfMAXと無負荷定格時燃料流量GfFSNLを切り換え、変化率制限器114を通して最低燃料流量Gfminを得る。
【0023】
なお、燃料流量制御装置101では、先に示したGfld,Gfminのほかにも起動燃料指令Gfsu,停止燃料指令Gfsd,排気温度制御指令Gftxなどを別途計算し、低値選択115にてこれら指令値の最小の値を燃料流量指令Gf0とする。ただし、負荷運転時および負荷遮断運転時にはGfsu,Gfsdは最大燃料流量GfMAXを指示するよう設定される。この場合GfldまたはGfminの信号が低値選択115に選択されることになる。
【0024】
負荷遮断時には燃料流量指令Gf0は負荷遮断直後にGfminまで下げられる。その後、燃料流量指令Gf0としてはGfldが選択され、低圧側タービン回転数を定格回転数に一致するよう制御される。
【0025】
制御器116では、燃料流量指令Gf0から燃料流量弁開度指令CGCVが計算され、この開度指令をもって燃料流量調整弁7が制御される。
【0026】
図3は、本発明の実施例1である2軸式ガスタービンの圧縮機制御装置102の概略図を示す。
【0027】
圧縮機制御装置102は、負荷遮断運転開始から一定時間までの入口案内翼角度指令AIGVおよび放風弁開度指令CBLWを制御するよう動作する。図3で示した圧縮機制御装置102では、負荷遮断信号SCBを入力し、このSCB信号を信号発生器121によって一定時間持続させることによりその動作時間を決定する構成とした。すなわち、負荷遮断信号SCBがセットされた(例えばブール値で0から1に変化した)場合、信号発生器121はSCBのセット状態(以下負荷遮断信号発生中と称する)を一定時間維持した信号を発生させる。以下、負荷遮断信号発生中の動作について述べる。
【0028】
負荷遮断信号発生により、信号切換手段124によって放風弁の目標開度を0からCBLWBへと切り換えるとともに、変化率制限器125を通して放風弁開度指令CBLWを得る。放風弁の開度を0からCBLWBへと切り換え圧縮機出口の燃焼用空気をタービン系外(例えば低圧側タービン排気側や煙突)へと放風することで、圧縮機出口の空気圧力および高圧側タービン入口の燃焼ガス圧力を低下させる。
【0029】
一方、減算器128は、現在の入口案内翼開角度AIGVと入口案内翼角度基準値AIGVRとから、入口案内翼角度偏差ΔAIGVを計算し、関数127において入口案内翼角度偏差ΔAIGVに応じた圧縮機入口空気流量修正値ΔGCIを求める。圧縮機入口空気流量修正値ΔGCIは、入口案内翼角度の変化に対して圧縮機入口で増減する空気流量に相当する。制御器122は、前記圧縮機入口空気流量修正値ΔGCIと放風弁を通過する空気の流量GBLWを比較し、ΔGCIとGBLWとが一致するよう制御器122を用いて入口案内翼角度バイアス指令AIGV1を計算する。なお、本実施例では放風弁流量GBLWの計測遅れおよび入口案内翼角度AIGVの制御遅れを考慮し、関数129において切換前放風弁開度指令CBLW1から入口案内翼角度基準値AIGVFを求め、これを先行信号と制御器122に入力する。入口案内翼角度バイアス指令AIGV1は変化率制限器123で変化速度が制限された後、案内翼角度バイアスAIGVBとなる。
【0030】
さらに、加算器126では一般的なガスタービン制御における入口案内翼角度指令AIGV0と、入口案内翼バイアスAIGVBの和を入口案内翼角度AIGVとする。
【0031】
なお、本実施例では空気放風量GBLWに対して圧縮機入口における空気流量の増加・減少分ΔGCIを関数127にて静的に決定したが、圧縮機入口に流量計を設け、基準流量からの増減を直接計測しても良い。
【0032】
次に、負荷遮断運転時の2軸式ガスタービンシステムの運転特性を図4を用いて説明する。図4は、本発明の実施例1である2軸式ガスタービンの負荷遮断時のタービン運転特性を示す。図中、縦軸はガスタービンシステムの操作量・状態量の相対値、横軸は経過時間を表す。
【0033】
時刻t0に負荷遮断信号が発生した場合、燃料流量制御装置101は燃料流量Gfを最低燃料流量Gfminまで下げたのち、低圧側タービン回転数NLPを定格回転数に一致させるよう制御する。また、圧縮機制御装置102は放風弁開度CBLWを一定変化率で開き、圧縮機出口の燃焼用空気をタービン外へと放風する。同時に入口案内翼開度AIGVを空気放風量GBLWおよび切換前放風弁開度指令CBLW1に従い一定変化率で増加させ、圧縮機入口の空気流量を増加させる。負荷遮断運転後、入口案内翼開度は無負荷・定格回転数時の設定開度となる。
【0034】
燃料流量の減少によるタービン駆動力の低下と、放風弁開度CBLWおよび入口案内翼角度AIGVの過渡的な増加による圧縮機負荷の増加により高圧側タービンの出力が急速に低下し、高圧側タービン回転数NHPおよび圧縮機吐出圧力PCが低下する。また、回転数NHPおよび圧力PCの低下により、燃焼空気流量GHPも小幅ながら減少する。燃料流量Gfの低下に伴う燃焼ガス温度の低下、圧縮機負荷増加による燃焼空気流量GHPの減少および圧縮機吐出圧力PCの低下により低圧側タービンへの燃焼ガス熱量及び燃焼ガス圧力が低下し、低圧側タービン回転数はNLPMAX1まで上昇したのち低下する。低圧側タービン回転数NLPは燃料流量Gfによって制御することから、低圧側タービン回転数NLPは緩やかに変動しつつts1秒後に安定する。
【0035】
次に、比較例を用いて、上述した制御の一部を行わない場合のタービン運転特性につき説明する。図5は、比較例である2軸式ガスタービンの負荷遮断時のタービン運転特性を示す。図4と同じく時刻t0に負荷遮断信号が発生した場合、燃料流量制御装置は燃料流量Gfを最低燃料流量Gfminまで下げたのち、低圧側タービン回転数NLPを定格回転数に一致するよう制御する。入口案内翼角度指令AIGVは無負荷・定格回転数時の設定開度となる。
【0036】
燃料流量の減少によるタービン駆動力の低下により高圧側タービンの出力は低下するが、一方で入口案内翼角度指令AIGVの低下により圧縮機負荷も低下することから高圧側タービン回転数NHPは緩やかに推移する。実施例1で説明した制御に比べて燃焼空気流量GHP,圧縮機吐出圧力PCの変化もまた緩やかであることから、低圧側タービン回転数NLPは実施例1で説明した制御における回転数NLPMAX1に比べてより高い値であるNLPMAX2まで上昇する。また、低圧側タービン回転数NLPは燃料流量Gfで制御することから、低圧側タービン回転数NLPは大きく振動しながらts2秒後に定格回転数へと収束・安定する。これは、燃料流量Gfの変動により高圧タービン回転数NHPの変動が燃焼空気流量GHP,圧縮機吐出圧力PCへと波及し、結果的に低圧側タービン回転数NLPの変動したためである。
【0037】
実施例1で説明した制御の特徴は、放風弁および入口案内翼の制御によって負荷遮断運転時の高圧側タービンの出力を速やかに低下させるとともに、高圧側タービンおよび低圧側タービンへと流入する燃焼空気流量を抑制し、低圧側タービンの回転数上昇を抑制する点にある。低圧側タービンの回転数上昇の抑制は、負荷遮断運転後の燃料流量低下を抑制することから、負荷遮断運転時における燃焼安定性向上にも効果がある。
【0038】
図6は、本発明の実施例1である2軸式ガスタービンシステムにおける負荷遮断運転時の燃空比特性を示す。図6において、縦軸は高圧側タービンに流入する燃焼空気流量、横軸は燃空比を表す。点Pは定格負荷における2軸式ガスタービンシステムの運転点、点Qは負荷遮断後の無負荷・定格回転数運転時における運転点を表す。領域A1は燃空比低による失火領域、領域A2は燃空比高による燃焼不安定領域を表す。燃焼器においてはそれぞれ失火ラインL1,燃焼不安定ラインL2の内側の領域で燃料流量を制御する必要がある。
【0039】
実施例1で説明した制御装置において負荷遮断を実施した場合、燃料流量Gfは点Pから経路(a)を経て最低燃料流量Gfminまで低下し、そののち経路(b)を経て点Qへと到達する。燃空比の一時的な低下により経路(a)の終端で一時的に失火ラインL1へと接近するが、その後は失火ラインL1から離れつつ点Qへと到達しており負荷遮断後も燃料が安定に制御されていると考えられる。
【0040】
図7に、比較例の2軸式ガスタービンシステムにおける負荷遮断時の燃空比特性を示す。点P,点Qの位置および負荷遮断時の燃料低下による燃空比低下(経路(a))は図6と同様である。しかし低圧側タービン回転数の変動にともない燃料流量が変動することから、経路(b−1)のある区間においてたびたび失火ラインL1へと接近しており、燃焼器の失火などのリスクが高まる。
【0041】
実施例1の2軸式ガスタービンシステムでは、このような負荷遮断時における燃焼器失火のリスクを低減し、より安全に、また早期にガスタービンを無負荷状態に移行させることができる。
【実施例2】
【0042】
図8を用いて、本発明の別の実施例について説明する。図8は本発明の実施例2である2軸式ガスタービンおよびその制御装置の概略図を示す。
【0043】
実施例2の2軸式ガスタービンシステムは、圧縮機2の中間圧縮段より圧縮空気を抽気し、抽気空気の一部を高圧側タービン1の冷却空気として用いる一方、抽気空気の一部を排気ガスへと放風するよう放風弁8が設置され、圧縮機からの抽気空気量GCLAを計測する流量計32とを備えている点で、実施例1の二軸式ガスタービンと異なる。また、空気放風量GBLWの代わりに抽気空気量GCLAに基づいた制御を行う点で実施例1と異なる。
【0044】
図8に示す実施例2の2軸式ガスタービンでは、負荷遮断運転時に放風弁8を開いて抽気空気の一部を低圧側タービン3の排気側に放風する。これと同時に、入口案内翼9の角度を増加させて圧縮機入口における吸気空気量を増やし負荷遮断運転時における圧縮機負荷を高める。これにより負荷遮断時には高圧側ガスタービンの出力を急速降下させて、低圧側ガスタービンの回転数上昇を抑制する。通常運転時においては放風弁8を全閉とすることにより、抽気空気を全量高圧側タービンの冷却空気として用いることができる。
【0045】
図9を用いて、実施例2における放風弁開度CBLW及び入口案内翼角度AIGVの制御方法を示す。図9は、本発明の実施例2である2軸式ガスタービンの圧縮機制御装置102の概略図を示す。負荷遮断運転時において放風弁を開いた際の空気放風量と同量の空気を入口案内翼制御で吸気する方式は実施例1で説明した方式と同様である。ただし、本実施例において圧縮機から抽気した空気の一部を高圧側タービンの冷却空気として利用することから、減算器130において抽気空気量GCLAから冷却空気流量GCAL0を減じた値を空気放風量GBLWとして入口案内翼角度AIGV制御に用いる。
【0046】
以上説明した実施例の2軸式ガスタービンは、空気を圧縮する入口案内翼を有する圧縮機と、前記圧縮機で圧縮された圧縮空気と燃料とを燃焼させる燃焼器と、前記燃焼器で生成された燃焼ガスにより前記圧縮機と同軸で回転駆動する高圧タービンと、前記高圧タービンを回転駆動した燃焼ガスにより前記圧縮機と別軸で回転駆動する低圧タービンと、前記燃焼器に供給される圧縮空気の流量を調整可能な抽気手段とを備え、負荷遮断運転時に前記抽気手段により抽気された空気量に基づいて前記入口案内翼を制御するよう構成されている。
【0047】
燃焼器に供給される圧縮空気を抽気する手段を備えることで、負荷遮断の際に高圧タービン及び低圧タービンの回転数が上昇するのを抑制することができる。また、入口案内翼を制御することで、高圧側タービンの出力を速やかに降下させることができる。さらに、燃焼器に供給される圧縮空気の流量に基づいて入口案内翼を制御するよう構成することで、燃焼用空気の流量を調整して燃空比の変動を適切に管理することができるため、失火や逆火などのトラブルの発生を抑制することができ、システム全体の安定性を確保することができる。
【0048】
また、負荷遮断運転時に燃焼器に供給する燃料流量を減少させることで、負荷遮断時のタービンの回転数変動を抑制することができる。速やかな燃料減少制御は、特に圧縮機と別軸に接続されている低圧タービンの回転数変動の抑制に効果がある。タービンの回転数変動の抑制は、ガスタービンシステムを早期に無負荷・定格回転数の安定状態へと移行させることにつながり、ガスタービンシステム全体の安定性の確保につながる。
【0049】
望ましくは、負荷遮断の際、燃料流量を定格回転数で運転する際の最低燃料流量まで減少させるのが望ましい。タービン回転数の上昇を先行的に抑えることで、より早期にガスタービンシステムを無負荷・定格回転数の安定状態へと移行させることができるからである。また、抽気手段により抽気された空気量の計測遅れや入口案内翼の制御遅れを考慮した関数を用いた制御を行えば、より適切な制御が可能となる。抽気された空気の一部を、高圧タービンの翼などの高温部材に供給するよう構成すれば、システム全体の効率や安定性を向上させることができる。
【0050】
各実施例においては、燃焼器に供給される圧縮空気の流量を調整可能な抽気手段として、圧縮機2の吐出吸気を放出する系統及び放風弁8、または、圧縮機2の中間段から抽気した空気の一部を排気ガスへと放風する系統及び放風弁8を用いているが、別の方式で抽気しても同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施例1である2軸式ガスタービンおよびその制御装置の概略図を示す。
【図2】本発明の実施例1である2軸式ガスタービンの燃料流量制御装置101の概略図を示す。
【図3】本発明の実施例1である2軸式ガスタービンの圧縮機制御装置102の概略図を示す。
【図4】本発明の実施例1である2軸式ガスタービンの負荷遮断時のタービン運転特性を示す。
【図5】比較例である2軸式ガスタービンの負荷遮断時のタービン運転特性を示す。
【図6】本発明の実施例1である2軸式ガスタービンにおける負荷遮断時燃空比特性を示す。
【図7】比較例の2軸式ガスタービンにおける負荷遮断時燃空比特性を示す。
【図8】本発明の実施例2である2軸式ガスタービンおよびその制御装置の概略図を示す。
【図9】本発明の実施例2である2軸式ガスタービンの圧縮機制御装置102の概略図を示す。
【符号の説明】
【0052】
1 高圧側タービン
2 圧縮機
3 低圧側タービン
4 発電機
5 遮断機
6 変圧器
7 燃料流量調整弁
8 放風弁
9 圧縮機入口案内翼
10 高圧側駆動軸
11 低圧側駆動軸
20,26 空気
21 燃料
22 放風空気
23 燃焼ガス
24 排気ガス
25 送電系統
30 回転数計
31 電力計
32 流量計
33 抽気配管
100 タービン制御装置
101 燃料流量制御装置
102 圧縮機制御装置
110,112,116,122 制御器
111,113 信号切換器
114,123,125 変化率制限器
115 低値選択
121 信号発生器
124 信号切換手段
126 加算器
127,129 関数
128,130 減算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気を圧縮する入口案内翼を有する圧縮機と、前記圧縮機で圧縮された圧縮空気と燃料とを燃焼させる燃焼器と、前記燃焼器で生成された燃焼ガスにより前記圧縮機と同軸で回転駆動する高圧タービンと、前記高圧タービンを回転駆動した燃焼ガスにより前記圧縮機と別軸で回転駆動する低圧タービンと、前記燃焼器に供給される圧縮空気の流量を調整可能な抽気手段とを備えた2軸式ガスタービンの制御装置であって、
負荷遮断運転時に前記抽気手段により抽気された空気量に基づいて前記入口案内翼を制御するよう構成されたことを特徴とする2軸式ガスタービンの制御装置。
【請求項2】
空気を圧縮する圧縮機と、前記圧縮機で圧縮された圧縮空気と燃料とを燃焼させる燃焼器と、前記燃焼器で生成された燃焼ガスにより回転駆動する高圧タービンと、前記高圧タービンを回転駆動した燃焼ガスにより回転駆動する低圧タービンとを備え、
前記燃焼器に供給される圧縮空気の流量を調整可能な抽気手段とを有し、前記圧縮機は入口案内翼を有する、前記高圧タービンと前記低圧タービンとが別軸に接続された2軸式ガスタービンの制御装置であって、
負荷遮断運転時に、前記燃焼器に供給する燃料流量を減少させ、前記抽気手段により前記燃焼器に供給される圧縮空気の流量を調整し、前記抽気手段により抽気された空気量に基づいて前記入口案内翼を制御するよう構成されたことを特徴とする2軸式ガスタービンの制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の2軸式ガスタービンの制御装置であって、
前記燃焼器に供給する燃料流量は、負荷遮断信号が発生した際に最低燃料流量まで減少させたのちに、前記低圧タービンの回転数が定格回転数になるように制御するよう構成されたことを特徴とする2軸式ガスタービンの制御装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の2軸式ガスタービンの制御装置であって、
前記抽気手段により抽気された空気量の計測遅れ、または前記入口案内翼の制御遅れの少なくとも一方を考慮した関数を用いることを特徴とする2軸式ガスタービンの制御装置。
【請求項5】
請求項1または2に記載の2軸式ガスタービンの制御装置であって、
前記抽気手段により抽気された空気の一部を前記高圧タービンに冷却空気として供給する系統を備えたことを特徴とする2軸式ガスタービンの制御装置。
【請求項6】
空気を圧縮する入口案内翼を有する圧縮機と、前記圧縮機で圧縮された圧縮空気と燃料とを燃焼させる燃焼器と、前記燃焼器で生成された燃焼ガスにより前記圧縮機と同軸で回転駆動する高圧タービンと、前記高圧タービンを回転駆動した燃焼ガスにより前記圧縮機と別軸で回転駆動する低圧タービンと、前記燃焼器に供給される圧縮空気の流量を調整可能な抽気手段とを備えた2軸式ガスタービンの制御方法であって、
負荷遮断運転を開始した際、前記圧縮機に吸入される空気流量を増やすように前記入口案内翼を制御し、前記抽気手段により圧縮空気の一部を抽気し、その後、前記抽気手段により抽気された圧縮空気の流量に応じて前記入口案内翼の開度を制御することを特徴とする2軸式ガスタービンの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−25069(P2010−25069A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−190392(P2008−190392)
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】